菅新政権発足”世代交代”へ布石 閣僚・党人事

7年8か月続いた安倍長期政権が幕を閉じ、菅新政権が発足した。自民党の菅義偉・新総裁は16日午後、衆参両院本会議で、第99代の首相に選出された。この後、直ちに組閣作業に着手し、新しい内閣を発足スタートさせた。

菅首相は新しい内閣で、麻生副総理兼財務相など8閣僚を再任する一方、内閣の要の官房長官に加藤厚労相、行革・規制改革担当相に河野防衛相を起用した。

自民党役員人事については、二階幹事長を再任するとともに、総務会長や政調会長など主要ポストを、支援を受けた5つの派閥に均等に割り振った。

菅首相は16日夜、新内閣発足後の最初の記者会見で「新内閣は、安倍政権の政策の継承と前進が使命だ。最優先課題はコロナ対策だ」と強調した。

今回の人事をどう見るか。「派閥均衡人事で、菅カラーが見えない」などの批判も聞かれる。様々な見方ができるが、私は”隠れたねらい”として、菅首相は「次の時代の新しいリーダー候補」を起用することで、世代交代を促進、自らの求心力を高める戦略ではないかとの見方をしている。

以下、その理由や背景などを説明したい。

 ”目玉人事”、加藤氏、河野氏抜擢

今回の閣僚人事では、”内閣の要”官房長官ポストが焦点になった。複数の候補者の名前が挙がっていたが、最終的には、官房副長官の経験があり、政策にも詳しい加藤厚労相に落ち着いた。

菅首相は官房長官時代、副長官の加藤氏と3年近く仕事をしたこと。竹下派だが安倍前首相と近いことも、起用につながったとみられる。但し、厚労大臣としてのコロナ対応で、調整力や実行力に疑問があるとの見方もある。

また、行政改革・規制改革担当相に河野防衛相が起用された。菅首相は組閣後の記者会見で「私自身、規制改革を新政権のど真ん中に置いている。河野太郎が一番ふさわしい閣僚と判断して任命した」と強い期待感を表明した。

その河野氏についても個人プレーが目立ち、閣僚としての手腕を危ぶむ声も出されている。しかし、菅氏は、河野氏や加藤氏の力量を高く評価し、将来の有力なリーダー候補として経験を積ませるねらいがあるとみられる。

 ニュー・リーダーの競い合いへ

菅氏は今回の人事で、茂木外相、萩生田文科相、西村経済再生担当相、小泉環境相を再任した。また、党の三役人事で、政調会長に下村博文氏を抜擢した。

こうした人材は、加藤官房長官、河野規制改革相とともに、次の時代を背負うニュー・リーダーとして強い意欲を持っている。

非世襲で無派閥の菅首相は党内基盤が弱いため、二階・麻生の両重鎮の力を借りつつ、派閥の動向にも目を配りながら、政権運営に当たらざるをえない。その際、ニュー・リーダーとの関係を通じて、派閥の協力を取り付け、政策の実現や政権運営の主導権を確保する戦略だとみられる。

 石破氏、岸田氏は外す

一方、菅首相は、総裁選で争った石破氏と岸田氏については、どちらも主要ポストで処遇しなかった。

自民党関係者に話を聞くと、菅首相は「石破氏や岸田氏が登場する総裁選に終止符を打ち、新しいリーダー候補が競い合う時代にしたいと考え」との見方。

これに対し、岸田氏は先の総裁選で一定の支持を確保し、次の総裁選の挑戦権は得ているとの判断だ。

石破氏も地方票で30%を獲得し、総裁選への足かがりは残していると考えている。

短期リリーフか、本格政権ねらいか

それでは、菅首相は自らの政権をどのように位置づけているだろうか。政界では、来年9月までの暫定政権・短期リリーフ役との見方と、本格的な政権をめざしているとの見方に分かれている。

今回の人事では、ニューリーダーを起用、自らは短期リリーフで区切りをつけ、後継者の後ろ盾に回るようにも見える。一方で、石破・岸田両ライバルを退け、派閥均衡人事で、本格政権への環境整備を進めているようにも見える。

いずれにしても、ニュー・リーダーが競い合って成果を上げれば、政権の実績になり、短期リリーフ、本格政権いずれの選択肢も手にすることができる。

逆にニュー・リーダーが失敗すると政権失速につながる。ニュー・リーダーの成否は、政権の先行きに大きな影響を及ぼす。

このため、菅政権や今後の政局の行方を判断していく上では、ニュー・リーダーの実績と世代交代の進み具合が大きなポイントになる。

 長期政権後、コロナ激変時代の政治

これまで自民党の歴史を振り返ると、佐藤政権、中曽根政権、小泉政権といった長期政権の後は、短命政権が続いてきた。憲政史上最長、安倍1強を誇った安倍政権後の今回は、どうなるのだろうか。

加えて、今回は新型コロナ・パンデミックで、日本経済は戦後最大の落ち込みになっている。安倍首相の退陣は直接的には持病の悪化だが、コロナ対策が後手に回った影響が大きい。それだけに菅新政権にとっても、コロナ危機乗り切りが大きなハードルになる。

政界では、立憲民主党と国民民主党などとが合流、新「立憲民主党」という150人規模の野党第1党が結成され、菅政権と対峙する構えだ。

衆議院議員の任期は来年10月まで、いつの時点で衆院解散・総選挙が行われるのか。また、コロナ感染の収束と、国民生活や経済の立て直しに向けて、政権与党と野党側はどのような具体策を打ち出すのか。コロナ激変時代、日本政治は国民の判断で大きく変わることになる。