”年内解散先送り”の公算 コロナ対策優先 

安倍首相の辞任を受けて登場した菅政権は発足から30日で、2週間になる。安倍政権の継承を表明する一方、デジタル庁の創設など独自色を打ち出し、世論調査でも高い支持率を得て、順調な滑り出しを見せている。

一方、今後の大きな焦点になっている衆議院解散・総選挙はどうなるのか。さまざまな見方があるが、菅首相はコロナ対策と経済再生優先で、”年内解散先送り”の公算が大きいるとみる。以下、その理由・背景を説明したい。

 秋口解散なし 首相誕生日投票説も

衆議院の解散・総選挙について、政界の一部では「9月末解散・10月12日公示・25日投票説」が有力との見方が流されてきた。菅内閣と自民党の支持率が高いことから、早期解散必至との見方だった。しかし、この秋口解散はなしの情勢だ。

代わりに今、流れているのが「11月解散・12月投票」説。この中には「12月6日投票」説も。この日は、菅首相の誕生日という漫画のような話も聞く。さらに「年明け通常国会冒頭の解散」説もある。

このように政界の解散情報は、ゴールポストが次々に、後ろにずれていくのが特徴だ。予想が外れた場合の解説もほとんどなされたことがない。

 臨時国会や皇室日程 固まる

それでは、解散・総選挙の時期をどう見たらいいのか。衆議院の解散は、解散詔書が国会に伝達されて決まるので、国会が開かれていることが前提になる。

その臨時国会は、自民党幹部によると10月下旬、23日か26日召集の見通しだ。この国会に政府は、◇日本とイギリスのEPA=経済連携協定の承認を求める議案や、◇新型コロナウイルスのワクチン確保などの法案の提出を検討している。

政府が臨時国会冒頭の解散に踏み切らない限り、◇菅首相の所信表明演説と◇各党の代表質問が行われる。続いて◇内閣が交代したので、新首相の所信を質す予算委員会が衆参両院で開かれる。その上で、◇個別の法案審議に入っていくので、協定の承認や法案の成立までには、通常1か月程度はかかる。

さらに政府内では、秋篠宮さまが皇位継承順位1位の「皇嗣」になられたことを内外に伝える「立皇嗣の礼」について、新型コロナウイルスの感染状況次第では11月中旬以降に行う見方が出ており、具体的な日程の検討が進んでいる。

このように10月から11月一杯は、国会日程や皇室の重要日程で固まりつつあり、衆院解散・総選挙の日程を設定するのは困難とみられる。

 菅首相の判断基準 コロナ優先

衆議院の解散・総選挙を断行するか否かは、最終的には首相の判断になる。菅首相はどう考えているのか。

自民党総裁選への立候補の表明から、新総裁就任、さらには新首相の就任までの一連の発言を聞いてみても、菅首相の考え方はほぼ一貫している。

菅首相は、9月16日新内閣発足後最初の記者会見では、次のようにのべている。「新しい内閣に国民が期待していることは、新型コロナ感染を早く収束させ、経済を立て直すことだ。その上で、時間的制約も視野に入れて考える」。

要は「感染収束と経済再生」という判断基準を明確にしている。早期解散を期待する自民党議員にとっては、高いハードルだ。

解散問題については、自民党の野田聖子幹事長代行と、山口選挙対策委員長が「コロナ対策と菅内閣の政策実現が最優先だ。国民から評価された時点で、菅総理が判断されると思う」と早期解散説の火消しを始めた点も注目している。

野田氏は二階幹事長と相談していると思われるし、山口氏は菅首相と当選同期で抜擢された関係にあり、首相の意向を確認した上での発言だと思う。

 政権の実績重ね、信を問う戦略

菅首相の政権運営は、安倍政権の路線を継承しながら、携帯電話料金の値下げやデジタル庁の創設などの独自色を打ち出そうとしているのが特徴だ。

特に看板政策のデジタル庁は、全閣僚をメンバーとする会議を開き、年末には基本方針を決定、年明けの通常国会に必要な法案を提出する考えを打ち出した。

新内閣の顔ぶれも新入閣を少なく抑え、再任や閣僚経験者を各派から幅広く起用することで、仕事の実績を上げようとするねらいが読み取れる。

さらには、来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックについては、IOC=国際オリンピック委員会のバッハ会長と電話会談し「歴史的な大会」になるよう緊密に協力していくことを確認した。バッハ会長は、大会開催に強い意欲を示しており、10月下旬に来日、菅首相と会談する見通しだ。

このように菅政権は、総裁任期1年を念頭に急ピッチで、政権の実績を積み重ねるとともに、東京五輪も成功させ、自民党総裁選と衆議院選挙を乗り切るのを基本戦略にしているとみられる。

このため、衆院解散・総選挙は、年末解散や年明け解散ではなく、来年秋の任期満了に近い時期までを視野に入れての対応を考えていると推察している。

 解散・世論慎重、自民に早期解散論

こうした菅首相の考え方は、世論の受け止め方と基本的に一致している。NHKの9月世論調査で、解散・総選挙の時期については◇年内は15%、◇来年前半が14%、◇来年10月の任期満了かそれに近い時期が58%で圧倒的多数だ。

これに対して、自民党内では、若手議員を中心に早期解散に期待する声が強い。今後、自民党内の主要派閥から、早期解散を求める圧力が強まるかどうかを見極める必要がある。自民党独自の選挙情勢調査で、自民優勢となれば、解散・総選挙に一気に動く可能性も残っているからだ。

自民党のベテランに解散風の見通しを聞いてみた。「次の解散・総選挙は、コロナ感染に十分すぎるほど気を配る必要がある。一部で早期解散と騒いでいるが、万一、自民党陣営の選挙事務所から感染者が出たら、世論の風向きは一変する。菅首相は、選挙大好き人間だが、世論の動向には敏感、解散には極めて慎重に対応するのではないか」と指摘。

「コロナ激変時代」をどのように乗り越えていくのか。菅首相をはじめとする政府・与党と野党の双方が、真正面から議論を戦わせてもらいたい。

特に衆参150人が結集した野党第1党の新「立憲民主党」、それに提案型政党をめざす新「国民民主党」も結成された。どんな対立軸を打ち出していくのか。

私たち国民の側も与野党の論戦にしっかり耳を傾け、1票の行使に備えたい。