補選は大接戦続く「岸田政治」が焦点

統一地方選挙後半戦の23日の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙は、いずれも与野党激突の構図になっており、このうち4つの選挙区では、最終盤に入っても大接戦が続いている。

それぞれ個別の選挙区事情を抱えているが、最終的には有権者が、岸田政権の防衛力抜本強化や異次元の少子化対策などの主要政策をどのように評価するかが、勝敗のカギを握っている。

衆参5つの補選の最終盤の情勢と勝敗のポイント、選挙の争点を探ってみる。

 補選4選挙区 大接戦のまま投票日へ

衆参5つの補欠選挙について、与野党の選挙関係者などについて、選挙情勢を取材した。

結論を先に言えば、衆議院山口4区については、自民党の新人がリードしているが、残りの千葉5区、和歌山1区、山口4区、参議院大分選挙区の4つは、与野党が激しくぶつかり、大接戦のまま投開票日を迎えようとしている。

▲まず、千葉5区は、自民党の衆議院議員が「政治とカネ」の問題で辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の新人で、元千葉県議会議員の矢崎堅太郎氏と、自民党新人で公明党が推薦する元国連職員の英利アルフィヤ氏が激しく競り合っている。

千葉5区は東京に通勤する住民が多い都市型選挙区で、無党派層の動向が勝敗を左右する。「政治とカネの問題」をはじめ、岸田政権が掲げる防衛力増強、異次元の少子化対策などの主要政策にどのような判断を示すかが焦点だ。

一方、野党陣営をみると立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党がそれぞれ公認候補を擁立しており、こうした野党乱立が選挙の勝敗にどのように影響するかもポイントになりそうだ。

▲和歌山1区は、自民党の元衆議院議員で、公明党が推薦する元国土交通政務官の門博文氏と、日本維新の会の新人で、元和歌山市議会議員の林佑美氏が激しく戦っている。

今回の補選は、この選挙区で5期連続当選を重ねてきた国民民主党の岸本周平元衆議院議員が知事に転出したのに伴う選挙だ。この選挙区で苦杯を重ねてきた門氏が、保守中道票をどこまでまとめきれるかがポイントだ。

林氏を擁立した維新は、前半戦の奈良県知事選で勝利するなど議席を大幅に増やした勢いを国政につなげていく戦略だ。大阪府の吉村知事や、奈良県の山下知事らを応援に投入、和歌山県で初の衆議院議席の獲得をめざしている。

▲岸信夫元防衛相の辞職に伴う山口2区は、岸氏の長男で、自民党新人の岸信千世氏と、元衆議院議員で民主党政権で法相を務めた無所属の平岡秀夫氏が争っている。

信千世氏は、岸信介元首相のひ孫で、祖父は安倍晋太郎元外相、伯父は安倍晋三元首相の政治一家で育ったことで知られる。分厚い保守地盤に加えて、看板、豊富な資金力を誇るが、「世襲批判」の声も強い。

当初は大差がつくのではないかとの見方もあったが、各種世論調査で平岡氏が激しく追い上げており、「世襲批判」の風がどこまで強まるか注目点だ。

▲安倍元首相の死去に伴う山口4区については、後継として擁立された自民党新人で公明党が推薦する元下関市議会議員の吉田真次氏が、立憲民主党の新人で元参議院議員の有田芳生氏をリードしていると与野党双方ともみている。

▲参議院大分選挙区は、前議員が知事選立候補のため辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の前議員の吉田忠智氏を、自民党新人で公明党が推薦する飲食店経営の白坂亜紀氏が激しく追い上げている。

吉田氏は、共産党や社民党の推薦を受けており、野党共闘の形を整えて選挙戦に臨んでいる。村山富市元首相の出身県で、野党共闘の歴史を基盤に無党派層でどこまで支持を広げることができるかが課題だ。

白坂氏は東京の銀座などで飲食店を経営しており、公募に応じて立候補した。知名度を上げる一方で、自民党がどこまで組織的なテコ入れをして出遅れを挽回できるかが焦点だ。

このように山口4区を除く4つの選挙区は、いずれも与野党の候補が僅差で激しく競り合っている。選挙前は、自民が3議席、野党が2議席を占めていた。

5つの補選のゆくえは◆自民が競り勝って5戦全勝のケース、◆逆に野党が3勝2敗と勝ち越すケース、◆自民4勝1敗、◆自民3勝2敗の4つのケースが想定される。どのケースで決着がつくのか、今の時点で正確に見通すのは困難だ。

 選挙の争点「岸田政治」をどう評価

それでは、次に補選の争点は何かを考えてみたい。その前に補選の選挙戦に入った15日、岸田首相が選挙応援のため訪れた和歌山市の演説会場に爆発物が投げ入れられて、24歳の男の容疑者が逮捕される事件が起きた。

この事件が補選に影響を及ぼすのかどうかをみておきたい。読売新聞は14日から16日に実施した世論調査で、岸田内閣の支持率が47%へ5ポイント上昇したと報じるとともに、支持率上昇は今回の事件が影響した可能性があるとの見方を示している。

政界でも選挙戦で与党に有利に働くのではないかとの見方がある。但し、読売の調査では、自民党の支持率は上昇せず1ポイント下がっている。

自民党の複数の選挙関係者に聞いてみたが、いずれも「個別の選挙に直接、影響を及ぼすようなことはないのではないか」との見方だった。

その理由としては「有権者は、容疑者の人柄や犯行の動機に関心はあるが、選挙の選択とは分けて考えているのではないか」との見方だった。私も基本的に同じ見方だが、選挙結果が判明した段階で改めて点検してみたい。

さて、選挙の争点は何か。選挙区によって、個別の問題などの違いはあるが、与野党とも今回の補選は、発足からまもなく2年を迎える岸田政権の「中間評価」になると位置づけている。

有権者としても、岸田政権が進めてきた政策の是非を評価、判断する機会になる。具体的には、原油高騰などに伴う物価高対策、賃金の引き上げ、新しい資本主義といった経済政策のかじ取りは適切か。

また、岸田政権が年末に、戦後の安全保障政策の大転換として打ち出した防衛力の抜本強化と防衛増税の是非をどう考えるか。今年に入って重要課題と位置づける異次元の少子化対策の内容と財源確保などへの取り組み姿勢を支持するか。

さらに、岸田首相の政権運営をめぐっては、防衛増税の決定にみられるように与野党や国民の意見を聞いたり、中身を説明したりする姿勢に欠けるのではないかといった声も出されてきた。

有権者は、こうした論点のどれを重視して投票したか、選挙の出口調査などを分析すれば明らかになる。今度の補選は勝敗面だけでなく、有権者が何を重視して選択をするかといった点も注目してみていきたい。岸田政権の政権運営の進め方や評価の物差しになる。(了)