衆議院選挙で15年ぶりの与党過半数割れを受けて、特別国会で行われる首相指名選挙や政権の枠組みをめぐって、与野党の動きが激しくなっている。
長い間続いてきた「自民1強・野党多弱体制」が崩れ、どの党派も過半数に達しない新たな政治状況が生まれている。
こうした中で、特別国会で行われる首相指名選挙や、これからの政権の枠組みをめぐる協議はどのようになっていくのか、自民党、立憲民主党、それにキャスティングボートを握っている国民民主党の対応やねらいを探ってみたい。
石破首相、政権維持へ部分連合に意欲
衆議院選挙で国民の審判が示されてから4日目の31日、自民党の森山幹事長は、国民民主党の榛葉幹事長と会談した。この中で森山氏は、衆議院の与党過半数割れを受けて、今年度の補正予算案や来年度予算案の編成や審議に向けた協力を要請した。
これに対し、榛葉幹事長は「政策案件ごとに対応していきたい」と応じ、新たな経済対策の内容を含め、政策の案件ごとに両党間で協議を進めていくことで一致した。
また、石破首相と玉木代表との党首会談を11日に召集される特別国会までに行うことを確認した。
さらに榛葉幹事長は、特別国会での首相指名選挙では、決選投票になった場合も含めて国民民主党としては、玉木代表に投票する方針であることを伝えた。
自民党は先の衆院選で56議席を失う大敗を喫したが、石破首相は開票翌日の記者会見で、自ら続投する考えを表明した。そして過半数の勢力を回復するため、政策が近い野党との間で、政策や法案などの個別案件ごとに協力する「部分連合」に踏み切る方針を固め、国民民主党などへの働きかけを続けてきた。
自民、公明両党の議席は215議席で、過半数の233議席まで18議席下回っている。石破首相としては、28議席を確保した国民民主党の協力を得られれば、少数与党政権ながらも今後の政権運営に一定の展望が開けることになる。
石破首相としては、自民・公明両党との連立政権を維持したうえで、国民民主党との部分連合を視野に、自民・公明・国民の枠組みで予算案や法案などの成立をめざしていく方針だ。
立民、首相指名選挙へ野党の協力難航
立憲民主党の野田代表は30日、日本維新の会の馬場代表、共産党の田村委員長と相次いで会談し「政権交代を実現するため、首相指名選挙の決選投票が行われる場合、『野田』と書いて欲しい」と協力を要請した。
これに対して、馬場代表は「党に持ち帰って検討する」と返答したが、首相指名選挙で野田代表に協力することには消極的だ。田村代表は「前向きに検討する」との考えを伝えた。国民民主党は、決選投票でも「玉木代表」に投票する方針を決めている。このように首相指名選挙で野党が足並みをそろえて対応するのは困難な情勢だ。
こうした状況を踏まえて、立憲民主党としては今後、衆院選挙で大きな争点になった自民党の裏金問題と具体的な政治改革の実現に焦点をあてて、野党側の結束と自民党との対決姿勢を強めていく方針だ。
首相指名選挙、石破首相選出の公算
こうしたなかで、自民党は衆院選後の特別国会を11日に召集する方針を野党側に伝えた。衆院選挙が終わって、政治が最優先に取り組む必要があるのが、特別国会で首相指名選挙を行い、新しい首相を選出することだ。組閣人事や党、国会の体制を整え、内外の課題に早急に対応していく必要がある。
その首相指名選挙はどうなるか。指名選挙は1回目の投票で、過半数を得た議員がいない場合、上位2人の決選投票が行われる。決選投票の当選者は過半数ではなく、有効投票の多数を獲得した議員が当選となる。
今回決選投票には、与党第1党の石破首相と、野党第1党の野田代表が進むものとみられる。国民民主党は決選投票でも「玉木代表」と書くため、無効票の扱いになり、石破首相が多数の支持を得る見通しだ。
このため、自民党内から大量の造反票が出ない限り、石破首相が新しい首相に選出される公算が大きくなっている。
国民民主 政策・政治を変えられるか
ここまでみてきたように衆院選挙後の政局では、28議席を確保して第4党に躍進した国民民主党がキャスティングボートを握り、存在感を発揮している。
政界の一部には当初、国民民主党は閣僚ポストを獲得して連立入りをめざしているのではないかとの見方が出ていた。これに対し、玉木代表は「連立入りは考えていない。ポストよりも政策の実現をめざしている」と繰り返してきた。
国民民主党は、何をめざしているのか。玉木代表の記者会見を聞いていると、政府与党との政策協議をテコに、国民民主党が衆院選で打ち出した『103万円の壁』、所得税の課税最低限などの引き上げや、ガソリン課税の引き下げなどを実現し、党勢のさらなる拡大をめざしているものとみられる。
また、玉木代表は「与党の過半数割れを受けて日本政治は、新たな意思決定のルールづくりに取り組むべきだ」と主張している。政府や霞ヶ関は、与党の意見を聞くだけでなく、野党も含めた幅広い意見に耳を傾け、新たな合意形成のあり方を探るよう求めている。
国民民主党のこうした考え方については、国民としても賛成する点が多い。一方で、国民民主党はこれまでも政権との政策協議を進めてきたが、十分な成果を上げたかと言えば、疑問だ。自民党はしたたかで、連携した中小政党はいつの間にか取り込まれ埋没するケースも多かった。
それだけに国民としては、国民民主党の新たな取り組みは一定の評価をする一方、政策協議で具体的な成果を上げているのか、政治のあり方などを変えていくなどの姿勢を堅持しているのかといった点を厳しく見極めていく必要がある。
内外に難題、政権運営は茨の道
ここまでみてきたように11日に召集される特別国会では、石破首相が新しい首相に選出され、第2次石破政権が発足する公算が大きい。但し、新たな政権は少数与党政権という大きな制約を担っての政権運営となる。
日本を取り巻く国際環境は、5日投開票のアメリカの大統領選挙の結果がどのようになるか、中旬からはAPECやG20サミットなども予定され、息の抜けない状況が続く。内政では、物価高騰対策や能登半島地震の復旧など早急に手を打つべき懸案が待ち受けている。
但し、補正予算案1つをとってみても野党の主張をかなり取り入れなければ、成立にこぎ着けることは難しい。石破政権の今後の運営は、茨の道が続くことになる。
一方、足元の自民党内では、大量の落選者を出したのは石破首相や森山幹事長の責任が大きいとして、政治責任を追及する声もくすぶっている。自民党は7日にも両院議員懇談会を開き、選挙結果を総括することにしているが、執行部への不満や批判が噴きだす事態も予想される。
石破政権は、年末の予算編成をはじめ、年明けの通常国会、さらには来年夏の参議院選挙を控え、綱渡りの政権運営が続くことになる。いつ、政権が危機に見舞われるか予断を許さない政局が続くことになるのではないかとみている。(了)