衆院短期決戦、選挙情勢をどう読むか?

第50回衆議院選挙が15日公示され、27日投開票に向けて12日間の選挙戦がスタートした。今回は、1日に石破茂・自民党総裁が新しい首相に選出されて新政権が発足、8日後に衆院解散、26日後に投開票という戦後最短の政治決戦となった。

衆院選挙の立候補届け出は15日午後5時に締め切られ、小選挙区(定数289)に1113人、比例代表(定数176)に単独で231人の合わせて1344人が立候補した。

立候補者数は、現行制度下で最少だった前回2021年の1051人から、293人増えた。野党の立憲民主党と共産党との候補者一本化が進まなかったことや、日本維新の会が積極的に候補者擁立を進めたことが影響したとみられる。

選挙戦では、自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革のあり方、物価高騰対策をはじめとする経済政策、厳しい国際情勢に対応していくための外交・安全保障政策をめぐり、激しい論戦が行われる見通しだ。

一方、選挙の勝敗はどうなるのか。裏金事件の逆風が続く中で、自民・公明両党は過半数の議席を確保して政権を維持できるのか、それとも野党が勢力を伸ばして与党を過半数割れに追い込めるのかどうかが最大の焦点だ。選挙情勢の現状と勝敗のポイントを中心に探ってみたい。

カギとなる数字「233、47」の攻防

「衆院選挙の勝敗ライン」について、石破首相と公明党の石井新代表はそろって「自公で過半数を維持すること」を挙げている。「勝敗ライン」は選挙の勝敗の目安となると同時に、執行部の政治責任が生じる基準にもなる。

このため、与野党問わず、執行部はいずれも低目の目標を設定し、政治責任が自らに及ばないよう予防線を張るケースが多い。

「自公で過半数」は、衆院総定数465の過半数だから「233」、これが「勝敗ライン」ということになる。

今回は石破首相と自民党執行部は、不記載議員12人を非公認とした。このうち1人が立候補を取り止め、11人が無所属で立候補することになった。

自民党の公示前勢力は、非公認扱いとなった11人を差し引いた247人。公明党が32人なので、自公の勢力は合わせて279人となる。自公過半数割れは、279人-233人=46、これを1人下回る「47」となる。

以上を整理すると自公の過半数は「233」。この過半数割れは、与党勢力から「47」以上の議席が減るかどうかにかかる。したがって、今回の選挙でカギとなる数字は「233」と「47」。この数字をめぐる与野党の攻防ということになる。

自民単独過半数=「党内政局」分岐点

このカギになる数字「233」は、もう一つ「自民単独で過半数」を獲得できるかどうかという大きな意味も持っている。

自民党は、2012年から衆院選で4回連続、単独過半数を維持してる。ところが、今回は不記載議員を11人を非公認にしたため、党の公認候補は247人にまで減っている。

このため、「15人以上」が議席を失うと「自民単独過半数割れ」に陥ることになる。自民党政権下では、2009年麻生政権が政権から転落して以来の敗北を意味する。政権にとって大きな痛手となるのは間違いない。

一方、自民党は「非公認の候補者でも当選すれば追加公認はありうる」としているので、追加公認で議席減少の穴埋めの措置が取られることが予想される。

あるいは、自民党は不記載議員のうち、小選挙区での公認を認めたものの、比例代表選挙との重複立候補を認めなかった候補者が33人に上る。小選挙区で議席を失えば、比例代表で救済される道は閉ざされる。比例代表の単独名簿の候補者が当選になる。

旧安倍派議員を中心に議席を失う議員は、相当な数に上るとの見方があるほか、選挙後の自民党議員の顔ぶれなどを注意深く見ていく必要がある。

話を元に戻すと、自民党が単独過半数割れになった場合の影響はどうか。前回2021年の衆院選結果は261議席で、この水準が続いてきた。過半数を割り込むということは、この水準から30議席近くも下回るので、その影響は極めて大きいことがわかる。

仮に「自公過半数」の目標は維持できたとしても、党内の反主流派や旧安倍派からは「大幅な議席減をもたらした」として、石破首相の政治責任を追及することが予想される。

したがって「党内政局」を引き起こすボーダーラインという意味合いを持っている。「自民単独で過半数233」維持できるかどうか、そのためには「15議席以上の議席減」を避けられるかどうかは、石破政権にとって大きな意味を持つ。

 議席予測、正確な調査・取材の詰め必要

それでは、今回の選挙情勢はどうなっているのか、見ていきたい。自公で過半数を維持できるか、自民単独で過半数を維持できるか、この2つが大きなポイントになる。

石破首相は14日午後、衆院選の見通しについて「非常に厳しいことは認識している。何とか全力を尽くし、自民、公明で過半数をいただければありがたい」と記者団に語った。

これに対し、立憲民主党の野田代表は「自公過半数割れに追い込む」と強調し、自公で過半数を獲得できるかどうかが最大の焦点になっている。

衆院選の公示前の段階でメデイアの世論調査や、自民党関係者の見方を総合すると比例代表選挙の投票先では、自民党が野党各党を引き離しており、「自公で、過半数割れの可能性は小さい」とみられる。

一方、「自民単独で過半数を割り込むケースは、起こりうるのではないか」との見方は自民党関係者からも聞かれる。

つまり、自公過半数割れ、47以上の大幅な議席減は、今の時点では想定しにくい。但し、自民単独過半数割れは15議席程度の減少で起きるので、可能性はあるとの見方が多いのが現状だ。

但し、こうした見方は、突き詰めると、いずれも選挙前の予想で、選挙戦突入後の情勢に基づくものではない。

選挙情勢に影響を及ぼすと見られる石破政権の評価をはじめ、不記載議員に対して執行部がとった対応措置などについて、国民がどのような受け止め方をして、選挙結果にどこまで影響するのか、まだ詰め切れていないのが現状だ。

したがって、これまで見てきた見通しは、当たっているのかどうか、これから投票日に向けて、有権者の意識を中心にトレンド・傾向を追跡していく必要があるというのが結論だ。

”予測の外れ”を生かせるかが重要

ところで、選挙の予測は、従来はかなり高い精度で結果を予測することが可能だった。ところが、今回は政権が交代し、直後に超短期の選挙戦に踏み切ったので、賭けの要素が極めて高いとも言える。国民が新政権や、選挙の主要争点をどのように評価しているのかといったデータが乏しいので、選挙の予測はかなり難しい。

既にさまざまな選挙の予測が出されているが、その根拠ははっきりしない。メデイアの「情勢調査」(世論調査)や取材記者の「票読み」、「データ分析」などに基づいて、全体情勢が明らかにならないと、根拠のある予測とは言えないのではないかと個人的には考える。

これから2週間あまり、情勢調査などを実施しながら、選挙情勢のトレンドを把握し、読み解いていくのが基本だと思う。

前回・2021年の衆院選挙の予測報道を思い起こすと、取材者として参考になる点が多い。3年前の衆院選では、ほとんどのメデイアの予測が外れた。多くのメデイアは自民党は議席を減らすと予測していたが、実際は単独で過半数を上回り、安定多数を獲得した。

前回は衆院議員の任期切れを間近に控え、短期決戦に持ち込まれたことと、激戦区が多数に上った。当選者と次点の差が1万票以内の激戦区は全国で58にも上り、議席の読みを狂わせる要因になった。

今回も前回と同じく、激戦区が相当な数に上ることが予想される。激戦区を絞り込み、情勢調査、記者の票読み、投票者を対象にした出口調査などを総動員して正確な予測報道を行う必要がある。

また、選挙で有権者は何を重視して1票を投じたか?単に選挙結果の予測だけでなく、選挙や政治の質を高めていく選挙報道の取り組みに期待しながら、メデイアの対応を見守っていきたいと考えている。(了)