衆院決戦 勝敗予測のカギは? 

コロナ禍の異例の短期決戦は、どのような結果になるのか?31日に迫った衆院選挙の投票日に向けて、各党は幹部を激戦区に投入し、最後の追い込みに入った。

その衆院選挙の勝敗を予測するとどうなるのか。自民党は、単独で過半数を大きく上回るといった予測も出ているがどうか。あるいは、野党第1党の立憲民主党は、野党候補者の1本化で議席を増やせるのか、横ばいに止まるのか、さまざまな見方・読み方が出されている。

私も選挙取材を40年余り続けているが、今回ほど読みにくい選挙はない。そこで、勝敗の予測のカギは何か、選挙の背景や事情を含めて考えてみたい。

 分かれる主要メディアの勝敗予測

さっそく、衆院選挙結果の予測からみていきたい。主要メディアの分析・見方はどうなっているか。

◆朝日新聞は26日朝刊で、◇自民過半数確保の勢い、単独で過半数を大きく上回る勢い。◇立憲ほぼ横ばい。野党1本化効果限定的か。

◆産経新聞は同じ26日朝刊で、◇自民は単独過半数へ攻防、◇立憲は公示前を大きく上回り、140議席台をうかがう。

◆読売新聞はこれより先の21日朝刊で、◇自民減、単独過半数の攻防。◇立民、議席上積みなどと報じている。

各社とも全国規模の世論調査を行うとともに各支局の取材も加えて、情勢を判断している。また、世論調査は電話だけでなく、朝日新聞のように新たにインターネットを活用するところも出てきており、取材方法の違いにも注意が必要だ。

以上のように今回の選挙予測は、◇自民党が、単独で過半数を確保できるかどうか、獲得議席数の幅に違いがある。◇野党第1党の立憲民主党についても横ばいか、上積みがあるのかどうか違いがある。◇日本維新の会については、議席を3倍程度増やし躍進するとの見方で、各社共通している。

 政権・政党の弱体化、有権者は様子見

さて、このように今回の選挙の予測について、主要メディアの予測が分かれる理由、背景には何があるだろうか。

与野党の選挙関係者に聞くと「今度の選挙は、読みにくい。風が吹かない。向かい風は強くはないが、追い風もない」、「だらっととした凪状態。こんな選挙は記憶にない」といった戸惑いの声を耳にする。

理由として考えられることは何か。1つは、事実上の任期満了選挙、いわば予定された選挙だが、有権者の側は「政治の目まぐるしい動き」についていけない状態にあるのではないか。

8月下旬の岸田氏の自民総裁選への立候補表明に始まって、菅前首相の退陣表明、総裁選4人の争い。岸田新政権誕生と思ったら、国会質疑はわずか3日で終了、即選挙。ご祝儀相場ねらいの選挙と映っているのではないか。

また、岸田新政権についても「新しい資本主義、成長と分配の好循環」と掛け声は高いが、具体的に何をやるのかはっきりしない。「岸田首相の期待値」が高まらない。保守層が固まらないので、自民党支持率が徐々に低下している状態だ。

対する野党第1党・立憲民主党も、共産党や国民民主党などと候補者を1本化したが、政党支持率、投票予定政党の支持が広がらない。格差是正、「分配なくして、成長なし」を強調するが、持続可能性はあるのか。有権者の納得感を得るまでには至っていない。

岸田新政権、野党第1党の力の弱さが、選挙戦の盛り上がりに欠ける要因になっているのではないかと感じる。

一方、有権者の反応はどうか。共同通信の世論調査では、小選挙区、比例代表ともに「投票先を決めていない人」は3割にのぼる(16、17日実施)。

「必ず投票に行く」人は、NHK世論調査で「期日前投票をした」人を合わせて61%、4年前衆院選と同じ水準だ(22~24日実施)。前回、実際の投票率は53.88%、過去2番目の低さ、前々回は52.66%で過去最低。今回、有権者の投票意欲は、必ずしも強くはない。

コロナ感染者数が驚くほど急減し、危機感が薄らいだ影響もあるかもしれない。次の備えをどうするか。「コロナ疲れ」「政治へ期待感の乏しさ」とも重なり、必ずしも選挙戦とつながっていない。有権者も様子見状態に見える。

 勝敗のカギ、野党1本化効果の読み方

それでは、選挙の勝敗予測はどうなるのか、何がカギを握っているのか。私個人の見方・考え方を以下、説明していきたい。

結論を先に言えば、今回は「野党候補者1本化の効果」をどう読むかが、大きなポイントだと考える。

前回・4年前の衆院選は、安倍首相が急遽、解散に踏み切り、希望の党の立ち上げと野党第1党が分裂し、与党が圧勝した。今回は、立憲民主、共産、国民民主、社民、れいわの各党は213選挙区で候補者を1本化した。

このうち、野党第1党・立憲民主党の候補者に1本化した160の選挙区について、選挙情勢を分析すると、立憲民主党が70前後の議席を獲得する可能性がある。その結果、公示前の110議席から、小選挙区を中心に30前後、議席を増やす可能性がある。

これに対して、自民党の獲得議席をどうみるか。わかりやすくするために数式で表示すると次のようになる。◆自民獲得議席=公示前勢力276-40±20

まず、「-40」は自民党は、選挙基盤が危うい議員を中心に40議席程度減らす可能性が大きい。したがって「自民の獲得議席のベース・基準は、236議席程度」とみる。「過半数233」とほぼ同程度になる。

そのうえで、「±20」は激戦が続く選挙区があり、その議席変動幅だ。情勢が好転すれば20議席増えたり、逆に減ったりする。うまくいけば「上限」が256まで増え、逆に厳しい場合は「下限」が216、過半数を割り込むこともある。

◆わかりやすく言えば、「過半数の233を軸に上下20議席の範囲内」が獲得ラインみる。つまり、自民党は単独で過半数は維持できる可能性はあるが、激戦区の状況によっては、過半数割れの可能性もある。

この範囲内のどこで決着するか、政権交代の確率はほとんどないが、選挙後、岸田首相の求心力や政治責任に関係してくることになる。

野党側については、◆立憲民主党は公示前勢力110議席から、20前後の上積みで、130±α。◆日本維新の会は、公示前の11議席から、30議席前後まで増やす可能性がある。◆共産党は、議席をやや増やす。◆公明党、◆国民民主党は、現状維持か、やや減らす可能性があるとみる。

以上のように選挙予測は、「上限と下限、幅」で考える。”占い師”のように下一桁の数字まで当てることではない。そのうえで、そうした結果になった理由、背景を捉えることが大事だと考える。

 選挙のカギ、投票率、無党派動向

選挙予測で、最も基本的で重要なカギは、投票率だ。例えば、無党派層は政権と一定の距離を置く人たちが多いので、そうした層がどこまで投票したかということになり、選挙結果を左右する。

保守層についても政権の対応に不満があれば、投票にでかけない棄権の選択肢も出てくるので、要注意だ。

有権者の投票意欲は先にみたように「必ず行く」は61%、4年前の前回選挙時と同じ水準だ。前回の実際の投票率は53.68%、過去2番目に低い水準だった。前々回の2014年は52.66%、過去最低を記録した。有権者の投票意欲は高くはない。

選挙が盛り上がるのは、有権者が政治に「強い不満や反発」を抱えている時か、新しい政権や新党などが誕生して「期待感」を抱いた時が多い。コロナ禍で緊急事態宣言などが長期間続いた今の社会は、どうも活力が感じられず、”沈思黙考状態”に見える。

コロナ激変時代、どんな政党や候補者に政権を委ねるのか。政策の選択と同時に国会の与野党勢力のあり方も大きなポイントだ。有権者が、それぞれ重視する判断基準で、1票を投じることを望みたい。