裏金疑惑”踏み込んだ対応策示せず”岸田首相

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、岸田首相は13日夜、記者会見し、臨時国会の後、直ちに政権の態勢立て直しを図るため、14日に松野官房長官など安倍派の閣僚4人を交代させる人事を行う考えを明らかにした。

また、安倍派の副大臣5人も交代させる一方、政務官6人については、本人の意向なども踏まえて、交代させるかどうか判断する方針だ。

さらに、萩生田政務調査会長や高木国会対策委員長はそれぞれ自ら辞任する意向を表明したが、岸田首相としては、安倍派の党幹部の交代時期については、来年度予算案の編成作業の日程なども考慮しながら、調整したい考えだ。

こうした一方で、岸田首相は「自民党の体質を一新するために先頭に立って戦っていく」と決意を表明したが、踏み込んだ具体的な対応策は示すことができなかった。

14日の閣僚人事を前に岸田首相は、裏金疑惑問題にどのように対応しようとしているのか、何が問われているのか整理しておきたい。

 実態の解明、首相の積極姿勢みられず

岸田首相は昨夜の記者会見で、自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題について「国民から疑念を持たれるような事態を招いていることは極めて遺憾だ」とのべたうえで、「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と強い決意で取り組む考えを表明した。

こうした一方で、実態解明の取り組みについては「当事者が調査・精査し、丁寧に説明を行い、事実確認が求められている。事実が確認されたならば、国民に説明し、さまざまな課題、原因が明らかになっていく。自民党としてどう立ち向かうのか明らかになる」と慎重な発言に終始した。

この考え方では、裏金作りの疑いが持たれている国会議員が、まずは事実関係の確認をしながら、原因や課題を明らかにし、そのうえで、自民党としての対応策をとりまとめていくことになる。これでは、裏金疑惑の実態解明は、検察当局の捜査以外、ほとんど進まないのではないか。

国民の多くが岸田首相に期待しているのは、なぜ、派閥が総ぐるみで裏金作りを組織的に行ってきたのか、検察当局の捜査を待つのではなく、政治の側が自ら進んで事実関係を明らかにしていくリーダーシップの発揮だ。

昨夜の岸田首相の発言からは、こうした実態の解明に積極的に取り組む姿勢がみられなかったのは、極めて残念だ。

 ”安倍派外し”で済むのか、党の対応は

14日に行われる閣僚人事の特徴は、自民党最大派閥・安倍派に所属する閣僚4人全員と、副大臣5人をそろって交代させる”安倍派外し”にある。

政務官6人も当初の方針では交代させる方針だったが、安倍派から「政務官は資金の還流を受けていない」と強い反発を受けて、一部軌道修正した形だ。しかし、”安倍派外し”の本質は変わっていない。

安倍派は、去年までの直近5年間に5億円が政治資金収支報告書に記載されず、裏金として還流していた疑いがもたれている。その金額が突出して多いことや、裏金作りが組織的、常態化していた可能性が高く、責任を問われるのは当然だとの意見は自民党内でも強い。

但し、パーティー収入の不記載による裏金作りについては、二階派も行っていたほか、麻生派でも不記載があったとされる。さらに、岸田首相が7日まで自ら会長を務めていた岸田派・宏池会でも数千万円の不記載が行われていたことが明らかになった。

こうした事態を考えると、閣僚の交代などの責任は安倍派だけで済むのか。今後、その他の派閥の扱いをどうするのか、記者会見では明らかにされなかった。

自民党関係者に聞くと「岸田官邸は、各派閥の資金処理の実態など詳しい情報を得られていないのではないか」と話す。この指摘が事実であれば、今後、検察の捜査によっては新たな事実が明らかになり、対応を追われる事態も予想される。

岸田政権は、裏金疑惑に対して、どのような基本方針で臨み、閣僚や党役員に対して責任を取らせる基準をどのように考えるのか、昨夜の記者会見では明らかにならなかった。全体として、国民の知りたい点に応えるような会見ではなかった。

 問われる首相のリーダーシップ

今回の巨額裏金疑惑に対する世論の反応は、厳しい。NHKが今月8日から10日にかけて行った世論調査で、岸田内閣の支持率は先月より6ポイント下がって23%まで下落し、政権発足以降最低を更新した。不支持率は6ポイント上がって58%に達した。

これまで比較的高い水準を維持してきた自民党の政党支持率も先月より8ポイントも下がって29.5%、2012年に政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。いずれも裏金疑惑が直撃した影響とみられる。

こうした世論の厳しい反応に対して、岸田政権の対応は鈍い。岸首相は、政治資金パーティー開催の自粛と、自ら派閥の会長を退くことを表明した。そして、ようやく、今回、安倍派の閣僚などの交代に踏み切った。後手の対応が目立つ。

政治資金規正法を抜本的に見直し、政治資金を記載しない政治家や、政治団体の代表に対する罰則を強化すべきだとの声も聞く。また、30年前のリクルート事件の際にも問題になった派閥の解消などを求める声も強まっている。

14日の人事では、官房長官に林芳正・前外相が起用されるなど新たな閣僚の顔ぶれも固まった。但し、閣僚を入れ替えた程度で、政権の窮地が改善されるほど甘い情勢ではない。

岸田政権と自民党が、裏金疑惑の実態の解明と政治不信の払拭に真正面から取り組み、目に見える実績を上げることができない限り、岸田政権が命脈を保つのは難しいのではないか。正に待ったなしの危機的状況で、岸田首相の指導力が問われている。(了)

★<追記14日13時>自民党安倍派幹部の世耕参院幹事長は、辞表を提出したことを明らかにした。これで、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部は、いずれも閣僚や党幹部の役職を退くことになった)