長丁場の通常国会も今月10日に折り返し点を過ぎて、後半戦に入った。岸田首相の先のアメリカ訪問と日米首脳会談を受けて、今週は18日と19日に衆参両院の本会議で、それぞれ帰国報告と質疑が行われる。
続いて22日と24日には、衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、裏金問題などをテーマに岸田首相と野党側との質疑が交わされる。
一方、16日には衆院島根1区など3つの補欠選挙が告示され、28日の投開票日に向けて各党が激しい選挙戦を繰り広げる見通しだ。
これからの政治はどのような展開になるのか。岸田首相の行く手には、当面3つの壁が立ちはだかっている。裏金問題の実態解明と処分のケジメのつけ方、衆院3補選の乗り切り、それに裏金問題の再発を防ぐ政治資金規正法改正の実現までこぎ着けられるかだ。
こうした3つの壁を乗り越えることができるかどうか?岸田政権の今後の政権運営や衆院解散・総選挙戦略に大きな影響を与えることになりそうだ。
裏金の実態解明と処分のけじめは?
今の国会の大きな焦点になっている自民党の派閥の政治資金裏金問題について、自民党は4日に、安倍派と二階派の39人の処分を行ったが、報道各社の世論調査にみられるように国民の評判は極めて悪い。
国民の多くは、裏金の還流に関与した85人の議員らのうち、実際の処分が39人に止まったのをはじめ、実態解明が進まなかったこと、さらに立件された岸田派の会長を務めていた岸田首相や、二階派会長の二階元幹事長が処分の対象から外されたことについて厳しい評価をしている。
一方、今回最も重い「離党勧告」の処分を受けた安倍派の座長、塩谷元文科相は、処分を不服として自民党に再審査を請求した。自民党は16日、総務会や総務会幹部の会合で対応を協議した結果、再審査を認めない方針を決定した。この決定は塩谷氏に伝えられ、離党勧告処分が確定した。
自民党は、今回の処分で一定の政治責任を明らかにすることができたとして、今後は、再発防止の取り組みに重点を移したい考えだ。
これに対し、野党側は実態の解明は全く進んでいないとして、安倍派幹部の証人喚問を行うとともに、森元総理らの参考人招致を求める意見もある。
国民の政治不信を払拭するためにも、岸田首相は国会で事実関係の解明にどのように取り組んでいくのか、証人喚問や参考人招致の扱いを含めて方針を明らかにすることが必要だ。これが、第1の壁になっている。
衆院3補選、島根1区は与野党一騎打ち
続いて、第2の壁が衆議院の3つの補欠選挙のゆくえだ。東京15区、島根1区、長崎3区の3補選は16日に告示され、28日の投開票に向けて激しい選挙戦に入った。
いずれも自民党が議席を持っていた選挙区だが、自民党は東京15区と長崎3区については公職選挙法違反事件や裏金事件をめぐる逆風が強く、公認候補の擁立を見送った。公認候補を擁立するのは島根1区だけとなった。
◆島根1区の補選は、自民党安倍派の会長も務めた細田博之・前衆院議長の死去に伴うものだ。自民党は元中国財務局長の新人候補を擁立し、公明党が推薦する。
これに対し、立憲民主党は、元衆議院議員の女性候補を擁立し、国民民主党の地方組織と社民党が支援、共産党の地方組織が自主的に支援する。与野党が対決する唯一の選挙になる。
島根は竹下元首相、青木元官房長官などの実力者を輩出してきた全国屈指の保守王国だが、今回は政治とカネの逆風に見舞われている。与野党の選挙関係者に聞くと「現状では、野党候補に勢いがある」との見方が多い。最後までギリギリの戦いが続く見通しだ。
◆東京15区は9人が立候補の名乗りを上げ、大混戦となっている。このうち、地域政党である「都民ファーストの会」の小池東京都知事が主導する形で、作家で無所属の新人が立候補を表明した。国民民主党と都民ファーストの会が推薦する。
立憲民主党は前の江東区議の女性候補を擁立し、共産党も支援する。日本維新の会は元会社員の女性候補、参政党、諸派の新人が立候補する。さらに無所属の参議院議員と、無所属の元衆議院議員も立候補を表明している。
◆長崎3区は、裏金問題で多額の還流を受けていた自民党議員が辞職したのに伴うものだ。自民党が候補者の擁立を見送ったたため、立憲民主党の現職(比例代表)と、日本維新の会の新人の野党同士の一騎打ちになる見通しだ。
3つの補欠選挙は、政治資金規正法違反事件後、初めての国政選挙になる。自民党は2つの選挙区で不戦敗となっており、島根1区を失うと3戦全敗となる可能性もある。島根1区の勝敗がどうなるか、岸田政権の行方にも大きな影響を与えることになる。
政治資金規正法の改正、実現できるか
後半国会は、裏金事件を受けて政治資金規正法の改正が、最大の焦点になる見通しだ。岸田政権が法案の成立までこぎ着けられるかどうか、これが3つ目の壁になる。
公明党は、クリーンな党のイメージを守りたいとして自民党とは一線を画して、再発防止策の独自案をまとめている。立憲民主党や日本維新の会など野党各党もそれぞれ党の改革案をとりまとめており、自民党に攻勢をかける構えだ。
これに対して、自民党は「政治刷新本部」の作業部会で検討を続けているが、とりまとめには、なお時間がかかる見通しだ。公明党が求めている「連座制」導入などによる議員の罰則強化についても、自民党内には容認論がある一方で、慎重論も残っており、調整がついていない。
政治資金の扱いとなると、野党側が「政治家個人のパーテイー規制の強化」を求めているのに対して、自民党は反対の立場だ。また、政党が党役員に渡す「政策活動費」の廃止や、使途の公開の義務づけについても慎重論が根強い。
自民党としては、公明党との間で与党案をとりまとめたうえで、野党側との協議に入りたい考えだ。
これに対して、野党側は「自民党は時間切れで、政治資金規正法の改正を一部に止めたいねらいがあるのではないか」とみて、与党の改正案を早期に提出するよう求めていく方針だ。
このため、衆参両院に設置された「政治改革特別委員会」を舞台にいつから、政治改革の内容の協議に入るかも焦点になる。また、岸田首相が自民党の改革案のとリまとめに当たって指導力を発揮できるかも問われることになりそうだ。
岸田政権はここまでみてきた3つの壁を乗り越えることができれば、政権の浮揚につなげることができるが、逆に失敗すると政権の求心力を一気に失うことも予想される。特に衆院補欠選挙の結果が明らかになる4月末以降から、6月下旬の国会会期末にかけて岸田首相にとっては、息の抜けない局面が続くことになりそうだ。(了) ★追記(16日22時)衆院3補選が告示され、立候補者が確定したのを受けて16日22時の時点で、表現を一部、修正した。