通常国会がいよいよ23日に開会し、岸田首相の施政方針演説と、これに対する各党の代表質問が行われて、本格的な論戦が始まる。
岸田政権は年末、防衛力の抜本強化と防衛増税、既存原発の運転期間延長や原発の新増設の方針などを次々に打ち出し、歴代政権の政策を大きく転換した。
また、今月13日に行われた日米首脳会談で、岸田首相は、バイデン大統領と日米同盟を更に深化させていくことなどで合意した。
ところが、一連の方針をめぐって国会での質疑はなく、国民への説明もほとんどなされてこなかった。それだけに岸田政権に対する国民の視線は厳しいことが、報道各社の内閣支持率の低迷に表れている。
こうした中で開会する今度の国会の特徴を一言でいえば、大きな問題を数多く抱える「難題山積国会」と言えそうだ。それだけに政府・与党と野党側との間で、多くの課題について徹底審議を行ってもらいたい。
徹底審議ではありきたりに聞こえるので、やや大げさに聞こえるかもしれないが、「一大論戦を戦わせてもらいたい」というのが私個人の率直な思いだ。特に防衛政策については、中長期に及ぶ問題だけに国民の納得がいく突っ込んだ論戦を行ってもらいたい。
通常国会は、こうした防衛問題や原発政策のほか、40年ぶりの物価高騰と経済・財政運営、脱炭素社会に向けた経済社会づくり、抜本的な少子化対策、旧統一教会の被害者救済問題など緊急課題が目白押しで、待ったなしの状態にある。
与野党攻防、防衛増税の扱いが焦点
次に与野党の攻防という観点からみると、通常国会前半の焦点は、一般会計の総額が過去最大114兆円にのぼる新年度予算案と、防衛問題になりそうだ。
岸田首相は、欧米5か国歴訪から帰国した直後の17日に開かれた自民党役員会で、通常国会では防衛力の抜本強化や少子化対策などについて議論し、実行に移していく決意を表明した。
岸田首相は先のアメリカ訪問で、バイデン大統領との間で、日本の反撃能力の保有について、アメリカ側の支持と協力をいち早く取りつけたことに自信を深め、防衛力強化と安定財源確保の方針については一歩も譲らない構えだ。
これに対し、野党第1党・立憲民主党の泉代表と、第2党・日本維新会の馬場代表が18日会談し、政府の防衛増税に強く反対し、撤回を求めていくことで一致した。また、共同の作業チームを設けて、行財政改革などを検討し、財源をねん出する具体案をまとめることにしている。
野党側は、防衛力整備の内容などをめぐっては違いがあるものの、政府の防衛増税に対しては、他の野党も反対していくことで、足並みがそろう見通しだ。与野党の対決色の濃い国会になりそうだ。
一方、自民党の茂木幹事長はこれに先立つ17日、維新の馬場代表と会談し、維新が重視している国会改革で協力したいとの考えを伝えた。立憲民主党と維新との連携にくさびを打ち込む狙いがあるものとみられる。
維新を挟んで、立憲民主党と自民党が自らの陣営に引き込む動きが水面下で続くことになりそうだ。
このほか、自民党内では萩生田政調会長をトップとする特命委員会が19日に初会合を開き、増税に頼らない新たな財源を検討することにしている。この会のメンバーは安倍派の議員が多く、増税に代わる具体的な財源を政府や党執行部に求めていくものとみられる。
このように国会での論戦が続く一方で、防衛財源のあり方をめぐって、野党間や与野党、自民党と政府との間で様々な調整や駆け引きが行われる見通しだ。
最終的には、新年度予算案と防衛財源を確保する法案が原案通りで採決されるのか、それとも法案の修正が行われるのかが大きな焦点になるのではないか。
防衛力整備と財源、世論の評価がカギ
ここまで通常国会の論戦のあり方と、防衛増税をめぐる与野党の動きをみてきたが、与野党の攻防がどうなるかは、最終的には世論の動向・評価がカギを握っているとみる。
というのは、岸田政権は内閣支持率が低迷していることに加えて、防衛増税で世論の支持を失うと、4月の統一地方選挙や衆議院の統一補欠選挙にも影響が出てくるからだ。岸田政権と自民党執行部は、世論の風向きも見ながら、防衛増税の扱いを判断することになる。
その政権与党に波紋が広がっているのが、読売新聞が今月13日から15日にかけて行った世論調査の結果だ。
政府の防衛増税の方針については「賛成」が28%に対して、「反対」が63%と大幅に上回った。内閣支持率も39%で前回と同じ水準に止まった。岸田首相が欧米を歴訪、日米首脳会談の直後でも、政権の浮揚効果が見られなかったからだ。
こうした傾向はNHKがこれより先1月7日から9日にかけて行った世論調査でも、防衛増税に「賛成」28%、「反対」61%でほぼ同じ水準だった。
向こう5年間の防衛費の総額を43兆円に大幅に増やすことについても、世論の賛否は分かれたままだ。
つまり、国民は物価高騰の中で、増税に敏感になっている事情もあるが、そもそも防衛力強化と大幅な予算増額のねらいや内容の説明そのものが、国民に伝わっていないと判断するのが自然ではないか。
防衛政策の大転換をめぐって、与党内や国会でもあまりにも議論が少なかったツケが今、跳ね返ってきているのではないか。
したがって遅ればせながら、まずは、政府が国会で十二分に説明すること。そのうえで、政府も「一大論戦」の覚悟で野党に臨まない限り、国民を説得するのは難しいのではないかと思う。
政府が年末に閣議決定した国家安全保障戦略の冒頭部分に次のような一文がある。「国家としての力の発揮は、国民の決意から始まる」「本戦略の内容と実施について国民の理解と協力を得て、国民が我が国の安全保障政策に自発的かつ主体的に参画できる環境を、政府が整えることが不可欠である」とある。
この指摘は、政治の要諦でもある。通常国会でも岸田首相は言葉だけでなく、行動、政権運営で率先垂範すべきだ。(了)