裏金問題と”機能不全政局”

長丁場の通常国会は、新年度予算案が異例の土曜審議を経て衆議院を通過し、年度内に成立することになったが、焦点の裏金問題の実態解明はまったく進んでいない。

こうした中で、NHK世論調査が11日にまとまった。先の衆院政治倫理審査会での二階派と安倍派幹部の説明には、8割の人が「説明責任を果たしていない」と厳しい見方を示している。

また、岸田内閣の支持率は低迷が続いていることに加えて、自民党の支持率も再び30%ラインを割り込んだ。一方、野党各党の支持率も低い水準のままで、無党派が4割を超えて圧倒的多数を占めている。

今の政治状況は、裏金問題の先行きもはっきりした見通しがつかず、端的に言えば「機能不全政局、進行中」と言えそうだ。最新の世論の動向とこれからの政治のポイントを考えてみたい。

 自民支持率も低下、再び30%割れ

さっそくNHK世論調査(3月8日から10日実施)の内容から見ていきたい。岸田内閣の支持率は先月と同じ24%。不支持率は57%で、先月から1ポイント下がったものの、6割近い高い水準だ。

これで、支持率を不支持率が上回る「逆転状態」は去年7月以来、9か月連続だ。これまで最も低かったのは去年12月の23%なので、横ばいというよりも「どん底状態」が続いているというのが実態に近い。

今回の大きな特徴は、自民党の政党支持率が28.6%と、30%ラインを再び割り込んだことだ。岸田内閣の支持率が低下しても、自民党の支持率は40%から30%台後半の高い水準を保ってきたが、去年12月の調査で29.6%と30%を割り込んだ。

自民党の支持率が20%台に落ち込んだのは、2012年政権復帰以来、岸田内閣が初めてで、今回で2回目となる。

一方、野党各党は立憲民主党が6%台、日本維新の会が3%台などと低い水準に止まったままで、反自民の受け皿になっていない。存在感を増しているのが無党派で42.4%、自民党を1.5倍上回る”第1党状態”が続いている。

自民党の支持率が落ち込んだ理由だが、やはり、裏金問題が大きく影響している。今月の調査で、衆議院の政治倫理審査会で安倍派と二階派の幹部議員が行った説明についての評価を尋ねているが、「説明責任が果たされていない」との答えが83%に達した。

また、裏金の関係議員に対して、自民党が処分を行うべきかどうかの質問は、「行う必要はない」が12%に対し「行うべきだ」は75%に上った。

 政倫審巡り混乱、政権も求心力低下

次に、今回の裏金問題は、国会や政権などにどのような影響を及ぼしているかを具体的にみておきたい。

裏金問題に関与した関係議員から事情を聞く衆院政治倫理審査会をめぐっては、岸田首相が現職首相として初めて出席することを表明したことで、渋る派閥幹部を出席させる効果はあった。

しかし、今月1日に行われた政倫審で、安倍派幹部4人はいずれも不記載には「関与していない」「知らない」の連発で、新たな核心に触れる内容はなかった。

逆に政倫審公開の是非や、出席者を誰にするかをめぐって、自民党内の調整不足が露呈し、与野党でほぼ合意していた日程が先送りとなり混乱を招いた。国会での事実の解明は、まったくと言っていいほど進んでいない。

岸田首相は、新年度予算案の衆院通過が最優先で、深夜の本会議や異例の土曜日審議となった。加えて、予算案採決の日程をめぐって、首相官邸と自民党執行部の足並みが乱れる場面もみられた。

自民党内では「岸田首相が党幹部に指示を出したり、説得したりする場面がみられない」と政権運営を問題視する指摘が聞かれた。一方、「党務を預かる茂木幹事長が党内調整に動かない」と批判する声も聞かれるなど首相官邸と自民党執行部との連携、調整がうまく進んでいないことが浮き彫りになった。

こうした政権内部の足並みの乱れが影響して、国会での裏金問題の実態解明は進んでいない。元々、自民党内のアンケートや、聞き取り調査の実施も遅く、政権の及び腰が混乱の原因だと見方が根強い。

参議院では14日に政治倫理審査会を開き、安倍派幹部の世耕・前参院幹事長など3人の弁明と質疑が行われることが決まった。

一方、衆議院では、安倍派事務総長経験者の下村元政務調査会長が説明責任を果たしたいとして、審査を申し出た。与野党は、審査会の日程などを協議することにしている。

「政治改革国会」と銘打って裏金問題の集中審議で幕を開けた国会は、既に会期の3分の1近くが経過したが、実態解明も手つかず状態という惨憺たる状況だ。

もう一方の政権を取り巻く状況も、岸田内閣の支持率は発足以来、最低の水準だ。政権の求心力も大幅に低下して、機能不全とも言える状況に陥っている。

 機能不全政局から脱却の覚悟あるか

それでは、今の機能不全の政治状況を変えるためには、どこがポイントになるのだろうか。今回の裏金問題は、自民党の派閥による政治資金の不記載に原因があることから、自民党政権自らが自浄能力を発揮する必要がある。

岸田首相は、裏金事件が明らかになった去年12月の記者会見で「信頼回復のために火の玉になって自民党の先頭に立って取り組んでいく」と決意を表明した。そして、これまでの国会答弁では裏金問題の実態の把握と、関係議員の政治責任の明確化、それに再発防止策と法整備の3点をセットで実行していくと繰り返し表明してきた。

ところが、第1段階の実態把握ですら、思うように進んでいない。政治責任の明確化、具体的には党として関係議員をどのように処分するのか、その方針も決まっていない。これでは、国民の疑念や不信は拭えないのは明らかだ。

党内には、当初、17日の自民党大会までに処分を決定すべきだという意見もあったが、先送りとなる見通しだ。党内から強い抵抗があると予想されるからだ。

しかし、岸田首相は党総裁として、裏金の実態解明から政治改革までの3点セットをどのような手順・段取りで行うのか、早急に明らかにする必要がある。

裏金問題にけじめをつけないと、岸田内閣が支持率低迷から脱却するのは困難だ。政界の一部で取りざたされる4月解散、6月解散などはおよそ想定できないことを認識すべきだ。

この国会は、裏金問題だけでなく、賃金引き上げと日本経済再生への道筋、子育て支援制度の是非、さらにはイギリスやイタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を認めるかどうかなど多くの重要課題を抱えている。

ところが、裏金問題への政権の対応の遅れが、こうした重要課題の議論を進めるうえで、大きな妨げになっている。

今のような遅々としたペースで裏金問題への対応が続けば、主な政治改革案づくりまでたどり着けず、これまで同様に先送りで幕引きとなる公算は大きい。岸田首相が問われるのは、機能不全政局から脱却する意思と覚悟があるかどうかだ。(了)