衆議院の解散・総選挙をめぐって高市政権内で、通常国会冒頭に衆議院を解散し総選挙を行う案を検討していることが明らかになった。高市首相は沈黙を続けているが、2月8日か、2月15日投開票を想定している。
急浮上の解散案に与野党ともに大きな驚きとして受け止められているが、冒頭解散の流れは広がりをみせている。高市首相のねらいや、冒頭解散の動きの背景などを探ってみたい。
冒頭解散、首相官邸主導で検討進む
今回の衆院解散の動きを最初に報じたのは、読売新聞だ。正月3が日が明けて政治が本格的に動き始めた週末9日の夜、読売新聞が電子版で「高市首相が通常国会冒頭で衆院を解散する検討に入った」と報じた。
政界では通常国会冒頭解散は見送りとの見方が定着していたこともあってか、全国紙のほとんどは翌日朝刊の報道は見送った。おそらく事実関係の確認などに手間取ったためとみられ、解散の動きが掲載されたのは11日朝刊になった。
筆者も報道直後に自民党関係者に電話取材をしたが、事実関係は確認できなかった。後で確認してみると与党の主要幹部でも知らない人がほとんどだった。「解散は首相の専権事項とはいえ、進め方が余りにもひどい」と憤る幹部もいたとされる。
政界関係者の情報を総合すると冒頭解散案は、高市首相と首相官邸の極めて限定された幹部が極秘裏に検討を進めたとされる。高市首相は早期解散より肝いりの政策を実現したうえで、解散を断行することが持論とされてきたが、最終的には一部側近の進言を受け入れ、早期解散にカジを切ったものとみられる。
安倍元首相は抜き打ち解散を重ねたが、いずれの場合も自民党中枢と連立を組む公明党代表には、事前に解散の意向を伝えるなど周到な根回しを行った。それに比べると高市首相の対応は官邸主導で、自民党執行部などへの根回しは後回しとなり、深刻なしこりを残すことになるだろう。
野党反発も、与党で解散の流れ広がる
高市首相の国会冒頭解散への動きに対して、野党側はそろって強く反発している。立憲民主党の野田代表は11日記者団に「経済や物価高対策が重要だと言いながら、政治空白をつくる。理屈や大義がなく、自己保身的な理由があるのではないか」と厳しく批判した。
国民民主党の玉木代表は12日「新年度予算案の年度内成立ができないタイミングでの解散になれば、『経済後回し解散』と言わざるを得ない」と批判し、新年度予算案成立に向けた協力を見直す考えがあることを明らかにした。
公明党の斉藤代表はNHK日曜討論で「新年度予算案の年度内成立が最も大事な状況の中で、なぜ今、解散するのか」とのべ、予算案の年度内成立を断念して解散につき進む姿勢を批判した。このように野党側は冒頭解散に強く反発する一方で、総選挙への態勢づくりを急いでいる。
一方、連立を組んでいる日本維新の会の吉村代表は11日の日曜討論で「おととい(9日)高市首相と話をした際に『一段ステージが変わったな』というやりとりがあった」として、通常国会冒頭解散には驚かないとの認識を示した。
自民党内では冒頭解散に驚きが広がったものの、「高市内閣の支持率が高い中で、早期解散に踏み切ることは理解できる」として、冒頭解散を容認する流れが広がっている。
ただ、党内には「高市首相がこれまで発言してきたように物価高対策や経済政策の効果を国民に実感してもらうことが重要だ」として、来年度予算案の年度内成立を優先させるよう求める声も根強くある。
こうした自民党内の反応などを踏まえたうえで、高市首相は近く、通常国会冒頭解散について自らの考え方を正式に表明するものとみられる。
高支持率で 自民大幅議席回復ねらいか
それでは、高市首相が通常国会冒頭解散を検討するようになったねらいについて話を進めたい。
報道各社の世論調査によると高市内閣の支持率は60%台から70%台という高い水準が続いている。このため、自民党内からは「高い支持率の間に早期解散に打って出るべきだ」という声が強かった。
高市首相の側近からは「今、選挙に打って出れば自民党は、単独で衆院の過半数を獲得できる」との進言が出されたとされる。高い内閣支持率の下で、衆院の大幅な議席回復が一番のねらいとみられる。
一方、台湾有事をめぐる高市首相の国会答弁で日中関係が悪化しており、中国は対日経済圧力をさらに強めようとしている。このため、対中関係をにらんで政権基盤を強化しておきたいとのねらいを指摘する見方もある。
さらに、野党関係者からは、高市首相の政治とカネをめぐる問題や、旧統一教会と自民党の関係などの不祥事が予算委員会で取り上げられ、支持率低下を懸念したのではないかとの見方も出されている。
乏しい大義名分、国民の理解がカギ
衆院解散・総選挙をめぐっては「解散の大義名分」がいつの選挙でも議論になる。高市首相は11日のNHK日曜討論(首相は8日事前収録)で「衆議院の解散・総選挙については、国民に物価高対策と経済政策の効果を早く実感してもらいたい、今は目の前の課題に懸命に取り組んでいるところだ」と強調した。
国民の関心が大きい物価高対策をめぐっては、自民党総裁選の混乱で補正予算の成立が年末にずれ込み、執行は新年に持ち越された。新年度予算案も冒頭解散になれば、年度内成立は無理で4月以降へと大幅に遅れるのは確実だ。
これでは,政府・政権が責務を果たしたとは言えまい。国民から「言行不一致解散」、「政権の自己都合解散」など厳しい批判を浴びることも予想される。
また、物価高や円安は続き、トランプ政権のベネズエラへの武力行使やイラン情勢への介入なども懸念されている。内外情勢が流動的な時期に、あえて解散・総選挙を行う必要があるのだろうか。
さらに真冬の選挙になり、候補者はもちろん、有権者にとっても負担が大きい。こうした点を考慮すると解散の大義名分があるようにはとても思えない。
国民にとって国政に1票を投じる機会は本来、歓迎すべきことだ。ただ、衆院選は1年3か月前に行ったばかりで、去年夏は参院選、今回衆院選となれば、1年余りに3回の国政選挙を行うことになる。
最近の衆院選は、解散から投票日までがわずか2週間あまりのあわただしい選挙が続いている。与野党が腰を落ち着け議論を尽くしたうえで、国民に判断を求める正攻法の選挙へ改めることが必要だ。
一方、選挙情勢も流動的だ。高市内閣の支持率は60%台から70%台と高いが、自民党の政党支持率はその半分以下の30%程度と低迷している。自民党の議席増加の可能性もあるが、逆のケースも起こり得る。
公明党・創価学会との選挙協力が見込めないことや、無党派層の投票行動など流動的で、大きなリスクを抱えた選挙になる可能性もある。
高市首相は、通常国会冒頭解散に踏み切るのかどうか。内外情勢をはじめ、国民生活や日本経済への影響、さらには外交・安全保障との関係をどのように考えているのか、高市首相の説明を待ちたい。(了)
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