参院選 岸田首相 異例の首脳外交

長丁場の通常国会が15日で閉会し、いよいよ夏の参議院選挙が始まる。今回の選挙期間中、岸田首相はドイツで開かれるG7=主要7か国首脳会議などに出席し、海外で首脳外交を展開する。

日程は1週間程度になる可能性があり、政権与党のトップが国政選挙の期間中、長期にわたり国内を留守にするのは異例だ。参院選挙への影響はどうか、与党優位と言われる中で、参院選の風向きを変える要素は何か、探ってみた。

 岸田首相 G7とNATO出席も検討

まず、これからの政治日程をみておきたい。最終盤の国会は13日、参議院決算委員会に岸田首相が出席して質疑が行われた後、会期末の15日に重要法案の「子ども家庭庁」設置法案が参院本会議で可決・成立し、閉会する運びだ。

翌週の22日には、第26回参議院選挙が公示され、7月10日の投開票日に向けて選挙戦が始まる見通しだ。

選挙期間中の26日から28日には、G7=主要7か国首脳会議がドイツで開かれ、岸田首相が出席する。長期化するロシアによるウクライナ侵攻への対応策や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮問題が主要な議題になる見通しだ。

また、29、30両日、スペインでNATO=北大西洋条約機構の首脳会議が開かれる。岸田首相は最終的な態度を決めていないが、出席の方向で調整を進めている。

欧米の30か国で構成される軍事同盟NATOの首脳会議に日本の首相が出席すれば、初めてのことになる。

自民党内からも「NATO首脳会議に出席すれば、日本としてもウクライナ危機を欧米諸国と共有することになる。将来、台湾問題などで日本が危機に陥った場合、ヨーロッパ諸国の支援が期待できる」として、出席を支持する意見も出されている。

また、首相周辺には、外相経験者として岸田首相が得意の外交力を内外にアピールでき、参院選挙にも有利に働くとの判断がある。このため、岸田首相は、最終的にはNATO首脳会議にも出席する決断をするのではないかとみられている。

問題は、G7に続いて、NATOの首脳会議にも出席するとほぼ1週間かかる。参院選挙の運動期間18日間の3分の1以上にわたって、総理・総裁が国内を留守にする、異例の日程になる。

 首脳外交、選挙の得票・議席増効果は

さて、国政選挙の期間中、首相がほぼ1週間国内を留守にすることをどうみるか。地方の選挙関係者からは「最後の追い込みに、やはり総理・総裁の応援は欲しい」と海外訪問期間の短縮を求める声が出されることが予想される。

これに対して「地方の応援に回るよりも、国際舞台で活躍する首相の姿を報道してもらう方が効果がある」と反論する意見も出されそうだ。

自民党の長老に聞いてみた。「これまでの経験から言えば、外交は票にならない。ウクライナ情勢の影響はわからないが、有権者の身の回りや国内問題の方が選挙結果に結びつく。但し、今度の参院選挙は野党に勢いがなく、激戦区は少ない。首相が外遊しても大した問題にはならないのではないか」と語る。

この発言からすると選挙へのマイナスの影響はそれほどない。一方、首脳外交が華々しく取り上げられたとしても選挙に大きな効果もないだろうということになる。

 波乱要因は、不祥事、物価高騰

今回の参院選挙は与党優位との予想が多いが、波乱要因があるとすれば何か、この長老に聞いてみた。

「気になるのは2点。1つはスキャンダルや不祥事などに鈍感すぎると、思わぬしっぺ返しを受ける。もう1つは、有権者の関心は低いので、投票率が5割を切るかもしれない。この影響がどう表れるかだ」と語る。

通常国会では、政府提出法案の61本はすべて成立する見通しだが、国会議員に毎月100万円支給される「文通費」(「調査研究広報滞在費」に改称)の使途を公開するなどの宿題は、先送りになる見通しだ。

一方、細田衆議院議長のセクハラ疑惑報道に続いて、今度は自民党岸田派に所属する吉川赳衆院議員が18歳の女性と飲酒したなどと週刊誌に報じられ、離党した。吉川氏に対しては、自民党内からも議員辞職を求める意見が出されている。

有権者が、こうした不祥事への対応が甘すぎると判断すると参院選の風向きがガラリと変わる可能性がある。

このほか、与党にとっての不安材料は、物価高や経済運営のかじ取りの問題もある。円安や物価高がさらに急激に進んだり、政府の経済運営に問題ありと判断されたりすると苦戦を強いられる。投票日まで1か月ある。

一方、参院選の投票率については、前回2019年は48.80%で、戦後2番目に低い水準だった。選挙関係者の中には、今回、投票率が5割を割り込むのではないかとの見方もある。

その根拠としては、街頭のポスター類が少ないこと。ウクライナ情勢や、コロナ感染対策など大きな問題を抱えているのに、日本の問題に引き寄せて争点化ができていないこと。さらに野党がバラバラで、選挙に緊張感がないためだ。

選挙は、投票箱が閉まるまで何が起きるかわからないといわれる。ウクライナ情勢と日本の防衛力整備のあり方、新型コロナ感染の総括と備え、物価高騰と経済対策などについて、有権者がどんな判断を示すか、投票日までの動きをじっくり見極める必要がある。(了)