自民総裁選”首相進退、戦いの構図が焦点”

長丁場の通常国会閉会に合わせたかのように、秋の自民党総裁選挙への動きがあわただしくなってきた。

岸田首相が、会期末の記者会見で再選への意欲をにじませれば、直後に菅前総理が、事実上の退陣論に言及するなど総裁選に向けた思惑が激しくぶつかり始めた。

今度の自民党総裁選は、裏金問題で派閥の解散が決まった後の最初の総裁選になり、どのような構図になるのか、まだはっきりしない。岸田首相の進退をはじめ、総裁選はどこが焦点になるのか探ってみる。

広がる首相交代論、政権浮揚がカギ

国会が事実上の閉会となった21日夜の記者会見で、岸田首相は「政治家の責任強化などを含む政治資金規正法改正を実現することができた」と胸を張った。

そして物価高対策として「8月から3か月電気・ガス料金の補助を行う」とともに秋に第2弾として「年金生活世帯などを対象に、追加の給付金の支援を検討する」ことを表明し、秋の自民党総裁選とその後の政権運営に強い意欲をにじませた。

この首相会見から2日後の23日夜、菅前総理がネット番組に出演し、裏金問題を受けた党の状況について「岸田首相自身が責任をとっておらず、不信感を持つ国民は多い」とのべ、この間の岸田首相の対応を批判した。

そのうえで、自民党総裁選について「自民党が変わったという雰囲気作りが大事だ。国民に刷新感を持ってもらえるかが大きな節目になる」とのべ、事実上、岸田首相の退陣論に言及した。

裏金問題の対応をめぐっては、自民党の若手議員などから「岸田首相は公明党に譲りすぎだ」といった不満や反発の声が出ていた、今回は、狙いすましたようなタイミングで、総理経験者が首相の責任に言及した影響は大きく、党内に波紋が広がっている。

それでは、これから総裁選はどのように展開するか、現在の立ち位置を確認しておきたい。報道各社の世論調査によると岸田内閣の支持率は20%台前半から10%台後半まで続落。自民党支持率も20%台半ばから10%台後半まで下落し、いずれも2012年の自民党政権復帰以降、最低の水準に落ち込んでいる。

こうした原因は裏金問題への対応が「不十分」で、岸田首相が「指導力を発揮できていない」と受け止められているためだ。

自民党長老に現状の評価を聞くと「国会終了とともに総裁選への号砲が鳴ったということだろう。但し『岸田降ろし』が直ちに起きる可能性は低い。ジワジワと包囲網が狭まるのではないか。岸田首相の再選への道は険しい」と指摘する。

自民党内では岸田首相交代論が、次第に広がりつつあるようにみえる。これに対して、岸田首相が政権浮揚策を打ち出し包囲網を突破できるか、それとも撤退・退陣を余儀なくされることになるのか。ここが、総裁選の第1のポイントだ。

8月上旬に自民党総裁選の選挙管理委員会が設置され、下旬までには選挙日程が固まる見通しだ。この時期に首相の進退問題が大きなヤマ場にさしかかるのではないかとみている。

麻生・菅両氏、ポスト岸田の選択肢は

次に今度の総裁選は、裏金問題を受けて派閥が解散し、派閥なき総裁選ということになる。具体的な選挙の構図はまだ、わからないが、それでも党内の実力者・キーパーソンの影響力は残ることになるだろう。

その1人が、岸田首相が頼りにしている麻生副総裁だ。ただ、岸田首相と麻生氏との関係は「政治資金パーテイーの扱いをめぐって麻生氏の説得を振り切る形で、岸田首相が公明党の要求を受け入れたことから、深い溝が生じている」とされる。

岸田首相は18日になってようやく麻生氏との会食にこぎつけ「有意義な会談だった」と関係修復を強調している。

ところが、麻生氏側は「この間の岸田首相の派閥解散、関係議員の処分の決め方、公明党への譲歩などに対する不満が消えておらず、別の選択肢に傾いている」(自民党関係者)とされる。この選択肢ははっきりしないが、兼ねてから上川陽子外相を想定しているのではないかとの見方は消えていない。

もう1人のキーパーソンが、先に触れた菅前総理だ。菅氏は総理・総裁の座を岸田首相に追われたこともあり、岸田首相とは距離を置いてきた。菅氏もポスト岸田の具体名を挙げていないが、小泉進次郎元環境相、河野太郎デジタル担当相、加藤勝信・元官房長官、それに石破茂元幹事長ら「幅広い選択肢」を持っているのが強みだ。

自民党関係者によると「麻生、菅両氏ともに『岸田首相で難局乗り切りは困難』」との見方では共通している」とされる。そして、それぞれ新たな選択肢を模索しているという。その際、菅氏が、ポスト岸田の世論調査で最も人気の高い石破元幹事長を推すことになるのかどうかが大きなポイントになる。

というのは、麻生氏はポスト岸田候補として、石破氏については拒否感が強い。菅氏が石破氏を推す場合は、麻生、菅両氏が事実上、対決する形になる。両氏が最終的に誰を擁立することになるのか、それによって総裁選の構図が固まる可能性が大きいとみられる。ここが2つ目の焦点だ。

新たな候補者、問われる政治とカネ

今度の総裁選では、新たな候補者や勢力がどこまで台頭し挑戦することになるのかも注目点だ。自民党の中堅や若手議員は、裏金事件の批判を浴びて、次の衆院選挙のゆくえに強い危機感を抱いている。

このため、「自民党が政権政党として生まれ変わった姿を見せる必要がある」として、中堅議員から新たな候補者を擁立しようという動きが続いている。

具体的には、斎藤健・経産相(当選5回)、小林鷹之・元経済安保担当相(当選4回)、古川禎久元法相(当選7回)らの名前が挙がっている。

このほか、上川陽子外相、高市早苗経済安保担当相、野田聖子元少子化担当相ら女性議員の名前も取り沙汰されている。派閥解散に伴い、これまでにない人数の候補者が名乗りを上げるのではないかとの見方もある。

また、自民党内では、岸田内閣、自民党の支持率ともに低迷する苦境に追い込まれていることから、総裁選で「新しい顔」を選んだ後、直ちに衆院を解散し、国民の支持を集めて危機を乗り切ろうという考え方が強い。

但し、国民は世論調査にみられるように「自民党は、裏金問題を本当に反省しているのか疑わしい」と疑念や不信の念は変わっていないのではないか。政治とカネの問題について、新たな踏み込んだ対応策を打ち出さないと、選挙の顔を変えた程度では状況は好転しないと思われる。

こうした新たな候補者や勢力の台頭、あるいは、政策や政治課題で国民の信頼を取り戻せるような取り組みができるのか。これが3つ目の大きなポイントになるのではないかとみている。

立民、政権構想と野党連携は進むか

一方、野党側の対応はどうなるか、秋以降の政局に影響を及ぼす。特に野党第1党の立憲民主党の態勢と戦略が問われる。

具体的には、自民・公明の与党に対して、どのような対立軸を設定して臨むのか、政権構想がカギを握る。焦点の裏金問題については、野党として共同の改革案をまとめ上げて、早期に実現を迫ることができるのかどうか。

また、暮らしや経済、社会保障などの分野で、現実的で説得力のある政策をとりまとめ、秋の臨時国会での論戦や次の衆院選での争点に持ち込めるかが試される。

さらに立憲民主党は、9月に泉代表の任期が満了になる。泉代表が続投するのか、野田佳彦元首相や、枝野幸男元官房長官らを推す声もあり、「党の顔」をどうするかという難題も抱えている。

立憲民主党としては、代表選びで足を引っ張り合うような余裕はなく、政権構想づくりや党の結束力を強めることができるか。そのうえで、次の衆院選に向けて、野党の連携を強めることできるかどうか課題は多い。

最近の世論調査で、次の衆院選挙後に望む政権については「自民党中心の政権の継続」と、「野党中心の政権に交代」が接近してきている。それだけに自民党総裁選と、立憲民主党の代表選がどのような展開になり、国民の支持を得るのはどちらになるのか、今後の動きを注視していきたい。(了)