低調な国会論戦、参院選は低投票率も

長丁場の通常国会は会期末まで2週間余り、物価高対策を盛り込んだ補正予算案が衆議院を通過し、週明け30日からは参議院に舞台を移して審議が行われる。

ここまでの論戦を聞くと国民が知りたい点に突っ込んだ議論は見られず、極めて低調だ。

一方、国会閉会後には参議院選挙が始まるが、閣僚経験者は「これほど手ごたえがない選挙は初めてだ」と早くも投票率の低下を心配している。

内外に数多くの難問を抱えている中で、国会の論戦は余りにも緊張感が乏しいのではないか。最終盤の国会の現状とあり方を考えてみたい。

 野党は迫力不足、首相は慎重答弁

国会の最終盤に設定された補正予算案の審議は、衆議院予算委員会で26,27両日行われた。審議は与党ペースで淡々と進み、補正予算案は衆院本会議で、自民、公明両党と国民民主党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。

論戦は、NHKの昼、夜のニュースをみてもウクライナ情勢や北海道知床沖で沈没した観光船の引上げなどに押されて、扱いは小さかった。論戦の中身は、メディアにとってもニュース価値が乏しかったということだろう。

アメリカのバイデン大統領の日韓両国への訪問や、日米首脳会談、クアッド=日米豪印4か国首脳会合が行われた直後の国会の論戦。本来なら、日本の外交、安全保障の今後の対応などをめぐって、与野党が丁々発止、激論を交わし、ニュースでも大きく扱われる場面ではなかったか。

ところが、論戦の中身は、外交・安全保障、石油高騰などに伴う経済政策も既に明らかにされていることの繰り返しで、極めて低調なまま終わった。

この原因は、まず、野党側の追及が迫力を欠いていたことがある。同時に岸田首相の答弁も、例えば外交安全保障面では、日米首脳の共同記者会見の繰り返しに終始、慎重、安全運転の答弁が目立った。

こうした姿勢では、活発な論戦につながらない。日米首脳会談を受けて、日本の今後の役割をどう果たしていくかといった点について、国会答弁を通じて、国民に説明、理解を求める姿勢が必要だったと考える。

 参院選はベタ凪 投票率大幅低下も

こうした国会の状況は、閉会後直ぐに公示となる夏の参院選にも影響する。全国各地を飛び回っている自民党幹部に手ごたえを聞いた。

「恐ろしいくらいのベタ凪だ。逆風は吹いていないが、追い風も吹いていない。選挙はどうなるのかという感じだ」と国民の参院選への関心の薄さを語る。

別の閣僚経験者は「これほど手ごたえがない反応・選挙は、初めてだ。野党がだらしないから、与党は負けることはないという選挙はまずい」と話す。

知り合いの選挙関係者も「今のような状態で国会が終わると、投票率はかなり下がるのではないか」と懸念を示す。

参院選挙の投票率(選挙区)の推移を確認しておくと2007年は58.64%だったが、2010年57.92%、2013年52.61%と下がり続けた。18歳投票が実施された2016年は、54.70%にやや戻したが、2019年は48.80%、50%を下回り戦後2番目に低い投票率を記録した。

戦後最も低かったのは、95年村山政権当時の44.52%。このままでは、前回の48.80%か、さらに最低水準まで落ち込むか、いずれにしても50%割れの低投票率が懸念されている。

これでは、仮に自民党が勝利したとしても、国民の多数の信認を得たとは言い難く、岸田政権が政策を強力に推し進める力を得ることも難しくなる。

 論戦の徹底、宿題処理の責任も

これからの国会日程は、30,31の両日、参議院予算委員会に舞台を移して補正予算案の審議が続く。続いて、6月1日には衆議院で、3日には参議院でそれぞれ集中審議が行われるところまで決まっている。

6月15日が会期末で、会期延長なしで閉会となるのが確実な情勢だ。これを受けて、22日に参議院選挙が公示され、7月10日投開票となる。

そこで、今の国会が問われることは、まず、内外の課題について、与野党が徹底した議論を尽くすことだ。参議院選挙が直後に控えていることを考えると、特に国民が知りたい点に応える論戦、判断材料を提供していく責任を負っている。

国民が知りたい点の第1は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本の外交、安全保障の取り組み方、特に防衛力の整備などをどのように進めるかにあるのではないか。

重点的に整備する分野や規模、そのための財源は、借金に因るのか、既存の予算縮減か、増税か、一定の方向性は明らかにするのが筋だと考える。

一方、国の安全保障は、軍事力だけでなく、根本は、日本経済を強くすることだという考え方もある。

さらに、米中の対立が強まる中で、外交のかじ取りが決定的な意味を持つという意見もあり、幅広く議論しながら、方針を決定していくことが極めて重要だ。

もう1つは、新型コロナ対策の総括と第7波への備えの問題がある。新規感染者数の減少が続いているが、新たな変異株などによる第7波の備えは不可欠だ。

さらに、やり残した課題・宿題も多い。まず、国会議員に毎月100万円を支給する「文書通信交通費」の問題がある。(正式名称は「調査研究広報滞在費」)。在職日数1日でも一律に月100万円が支給される仕組みの見直しだ。

4月の段階で、日割り計算に改めることで与野党が合意したが、使いみちの公開と、未使用分を国庫に返納する点は、先送りのままだ。税金の使いみちを公開すること、領収書が必要なことは当たり前のことで、今の国会で実現すべきだ。

また、細田衆院議長のセクハラ疑惑もある。女性記者に深夜に呼び出しの電話などをかけていたと週刊文春が報じている問題だ。細田議長をめぐっては、1票の格差是正のための10増10減論に難色を示し、3増3減の持論を展開したことも問題になった。

衆院議長をめぐる疑惑や不祥事は、この40年余り聞いたことがない。野党側が主張するように議院運営委員会の理事会などで説明して、潔白を晴らすことが国民の信頼を維持するためにも必要だと考える。

さらに内外ともに激動が続く時期であり、日本の進路をどのように制度設計していくのか、党首討論=国家基本政策委員会でも議論すべきだ。討論時間の枠を拡大するなどの工夫をして開催してはどうか。

ロシアによるウクライナ侵攻という戦後の国際秩序が揺らぐ中で、内外の課題にどう取り組むのか、最後まで議論の徹底に努力を尽くすべきだ。国会閉会まで、与野党の対応ぶりをしっかり見て投票に活かす必要がある。(了)