”首相続投”対”早期退陣”対立深まる自民党

参院選挙で大敗した自民党は28日午後、自民党本部で両院議員懇談会を開いた。冒頭、石破首相は参院選挙の結果について陳謝したあと、「アメリカの関税措置をめぐる日米合意を着実に実行し、責任を果たしていきたい」と訴え、続投に理解を求めた。

これに対して、出席者からは続投を支持する意見が出された一方、「去年の衆院選に続いて、参院選でも大敗した責任を明らかにすべきだ」などとして、早期退陣を迫る意見が相次いだ。午後3時半に始まった懇談会は、予定時間を大幅に上回り、4時間半に及んだ。

両院議員懇談会終了後、石破首相は記者団に「果たすべき責任を果たしていきたい」とのべ、重ねて続投に意欲を示した。退陣を求める議員側も、党の正式な機関である両院議員総会の開催を求め、石破首相の退陣を迫る構えで、双方の対立は一段と深まった。

一方、報道各社の世論調査で、石破首相は参院選挙の責任をとって「辞めるべきだ」という意見と「辞める必要はない」とする意見が拮抗していることも明らかになった。こうした世論の反応をどのようにみたらいいのか、自民党内の対立はどのような展開になるのか、考えてみたい。

議員懇談会64人が発言、退陣論噴出

両院議員懇談会からみていくと石破首相と森山幹事長の挨拶のあと、懇談会は非公開で行われた。自民党所属議員の236人が出席し、このうち64人が発言した。

出席した議員の話によると「発言した64人のうち、続投を求めた議員は7人か、8人程度で、退陣を求めた議員は20数人に上った」と話しており、石破首相の責任の明確化や退陣を求める意見が噴出したというのが実態に近いようだ。

具体的な意見としては「選挙の結果責任は、誰かが取らなければいけない。組織のトップや執行部がケジメをつけるべきだ」「去年の衆議院選挙、6月の東京都議会議員選挙、参議院選挙でも大敗となった。組織の長、執行部にはケジメをつけてもらいたい」、「いつケジメをつけるのか、早く示してもらいたい」などの意見が相次いだとされる。

「辞任」「必要ない」分かれる世論

世論は、石破首相の進退をどのように考えているのだろうか。報道各社が26、27両日に行った世論調査によると◆朝日新聞では「辞めるべきだ」が41%に対し、「その必要はない」が47%で上回った。自民支持層だけに限ると「辞めるべきだ」が22%で、「その必要がない」が70%と多数を占めるという。

◆毎日新聞では「辞任すべきだ」42%、「必要ない」33%、◆産経新聞では「辞めるべきだ」47.7%、「必要ない」44.2%となった。社によって数字に違いはあるが、「辞めるべきだ」と「必要ない」が拮抗している点で共通している。

各社の世論調査では石破内閣の支持率は30%前後に対し、不支持率は60%と圧倒的に多数を占めている。だが、首相の進退については「辞任の必要はない」とする意見がかなり多いのはどうしてなのだろうか。

こうした結果になった理由について、調査では質問した項目はないが、幾つかの要因が考えられる。まず、今回の参院選挙結果の敗因は、石破首相個人の問題だけでなく、自民党全体に問題があると捉えていることが考えられる。

あるいは、日米関税交渉が合意にこぎ着けたばかりで、詰めの話し合いも予想される中で、退陣を急いで行う必要はあるのかとの見方も予想される。

もう1つは、退陣を求めている側に旧茂木派や旧安倍派、麻生派の議員が目立つことから、世論の側は裏金問題や権力闘争絡みの動きではないかとみて、不信感や疑念を抱いていることが影響していることが考えられる。

さらに、政権が交代する場合、次のリーダーや勢力に信頼を置くことができるのかどうか見定めたいという考えがあるのではないか。

いずれにしても世論の側には「政党や政権は、顔を代えるだけでは不十分で、リーダーを含めた政治勢力としての能力、資質、主要な政策などをじっくり判断したい」という姿勢が世論調査から読み取れる。

石破首相進退、8月下旬がヤマ場か

それでは、今後の展開はどのようになるのだろうか。森山幹事長は懇談会の冒頭に「選挙結果を踏まえ『参議院選挙総括委員会』を設置し、8月中をメドに報告書をとりまとめたい。まとまった段階で、幹事長としての自らの責任を明らかにしたい」との考えを示した。

森山幹事長は懇談会終了後、記者団に対し「両院議員総会については、29日の役員会で、開催する方向で協議したい」との考えを示した。

また、選挙の総括の報告書をとりまとめた後の責任には進退が含まれるのかとの質問に対し「そういうことを含むと考えている。党内には幹事長が責任をとれという意見があり、真摯に耳を傾けないといけない」とのべた。

この森山幹事長の発言は、選挙総括の報告書がまとまった段階で、自ら辞任する考えを示したものとみられる。

そこで、石破首相の進退問題はどうなるか。石破首相は続投に意欲を示しているものの、去年の衆院選に続いて、参院選でも与党が過半数割れしたことから、今の自民党の状況からすると、石破首相が政治責任を取る形になるのは避けられないのではないか。

8月は、1日からの臨時国会の召集や、広島、長崎原爆の日、終戦記念日の行事など重要な政治日程が続く。それに加えて、参院選の総括の報告書がまとまるとみられる8月下旬には、森山幹事長だけなく、石破首相の決断も迫られる可能性が大きいとみられる。

一方、総理・総裁が責任をとって辞任する場合も、自民党はこれまでと同じように首相の顔を取り替えれば、いずれ世論の支持が回復するような時代ではなくなっていることを認識する必要がある。既に衆参ともに多数派からは転落しているからだ。世論の視線も一段と厳しさを増している。

自民党は、世論の評価が厳しい「政治とカネの問題」など懸案の対応、日米関税合意への取り組み、物価高騰対策と日本経済の新たな成長戦略などを提示できない場合は、政権与党の座から滑り落ちるおそれがあるという危機感が今も乏しいのではないか。

先の参院選を受けて自民党が党の再生に向けて本格的に動き出すのか、それとも党内抗争を繰り返すことになるのかどうか、8月末にかけての動きを注視していきたい。

★追記(7月29日22時)自民党は29日の役員会で、参院選挙の敗北を受けて党内から開催を求める意見が出ていた「両院議員総会」を開くことを決めた。党執行部は8月第2週の後半にも開催する方向で調整を進めている。「両院議員総会」は、28日の両院議員懇談会とは異なり、党の正式な意思決定機関。党の運営や国会活動における特に重要な事項を審議、決定するとされている。石破首相の早期退陣を訴える議員らは、この場で石破首相の政治責任を取り上げて、退陣につなげたい考えだ。石破首相は記者団に「丁寧に真摯に、逃げずに説明するということに尽きる」とのべた。

★追記(7月31日22時)自民党は31日、参院選挙の敗北を分析する総括委員会の初会合を開き、選挙公約やSNSの活用を含む広報のあり方などについて検証したうえで、8月中に報告書をまとめる方針を確認した。一方、8月8日午後2時半から党本部で、「両院議員総会」を開くことを党所属議員に通知した。議題については「参議院選挙の総括と今後の党運営」としている。(了)

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