高市首相は就任直後から続いていた一連の外交日程を終えて、今月4日からは3日間の日程で、初めての国会論戦となる各党の代表質問に臨んだ。7日からは衆院予算委員会に舞台を移して一問一答方式の詰めた論戦に入る。
一方、報道各社の世論調査によると高市内閣の支持率は60%台後半から70%台の高い水準が続いている。高市氏は安倍元首相を政治の師と仰ぐ保守派として知られているが、どんな政治をめざすのか輪郭は見えてきたのだろうか。
代表質問を通じての論戦で高市首相がめざす政治について、明らかになった点と不明な点、それに高市政権が今後、問われる課題を点検してみたい。
経済・安保・外国人政策で保守色鮮明
各党の代表質問には野党第1党・立憲民主党の野田代表をはじめ、連立を組む日本維新の会の藤田共同代表、連立を離脱した公明党の斉藤代表など各党の代表が質問に立ち、それぞれの立場から高市首相の政治姿勢や政治課題の取り組み方などを質した。
これに対して高市首相は、経済政策と安全保障、それに総裁選で取り上げた外国人政策などについては、自らの保守的な考えを鮮明に打ち出した。
高市首相はまず、何を実行するにしても「強い経済をつくること」が必要だと訴え、そのためには「責任ある積極財政」で、所得や消費を増やし、事業収益を上げて経済の好循環を実現すると強調した。
高市内閣は4日、成長戦略の司令塔となる「日本成長戦略本部」の初会合を開き、AI・人工知能、半導体や造船など17項目の戦略分野を定めて、官民で集中投資し、経済成長をめざす方針を決めた。来年夏に新たな成長戦略をまとめることにしている。
このように高市政権の経済政策は需要と供給のうち、供給面からテコ入れすることに重点を置いているが、需要や分配にも配慮しないと結果を出すのは難しいとの指摘もある。また、積極的な投資も裏付けとなる財源などがはっきりしないので、説得力が乏しいとの批判もある。
一方、外交安全保障では「我が国として主体的に防衛力の抜本的強化を進めることが必要だ」として、防衛関連予算の対GNP2%水準について、補正予算と合わせて2年前倒しで実現する方針を明らかにした。来年中に国家安全保障戦略をはじめとする「三文書」を改定する考えも示した。
さらに自民党総裁選挙の時から外国人政策を取り上げてきた高市首相は、排外主義とは一線を画すとしたうえで、外国人による違法行為などに対して、政府として毅然と対応するとの方針を打ち出した。そして、外国人による土地取得のルールや各種制度のあり方について、来年1月をめどに方向性をまとめる方針だ。
このほか、憲法改正について国会による発議の実現や、政府のインテリジェンス機能の強化が急務だとして、国家情報局を創設するなど高市政権は、歴代政権に比べて保守色の濃い政策を打ち出しているのが大きな特徴だ。
物価高、問われる即効性ある具体策
次に当面の焦点になっている物価高対策について、高市首相は「内閣としても最優先で取り組む課題で、速やかに対策をとりまとめ、必要な補正予算を今の国会に提出する」と表明した。
具体的な対策としては、ガソリン税の暫定税率について、今の国会で廃止法案を成立させる考えを示した。この問題をめぐっては5日、自民党や立憲民主党など与野党6党が12月31日にガソリン税の暫定税率を廃止することで正式に合意した。軽油引取税の暫定税率も来年4月に廃止することで与野党が合意している。
この暫定税率廃止は、高市政権の物価高対策の第1弾になるが、元々、野党が要求してきた問題で、自民党が受け入れたものだ。ガソリンと軽油の暫定税率廃止に伴い1兆5千億円の税収減になるが、その財源確保のメドはついていない。年末の税制改正で結論を出すことにしている。
一方、立憲民主党などは物価高対策として、給付金の支給と食料品の消費税率ゼロ%の時限的な引き下げを迫った。これに対し、高市首相は、給付金は夏の参院選で国民の理解が得られなったとして実施する考えはなく、消費税率引き下げも「レジのシステムなどに一定の時間がかかる」として、否定的な考えを示した。
それでは高市政権としては、具体的にどのような対策があるのかということになる。特に物価急騰の影響が大きい子育て世帯や低所得の高齢者などに対しては、即効性のある対策が必要ではないかとの指摘が与野党から出されている。
高市政権としても即効性のある物価高対策と、輸入物価を押し上げる要因になっている円安など金融・財政・経済政策が改めて問われることになりそうだ。
政治とカネ・定数削減など懸案は曖昧
3日間にわたる各党の代表質問で、高市首相の答弁で歯切れが悪かったのが、懸案の政治とカネの問題や企業・団体献金の扱い、それに議員定数の削減などへの対応だ。
このうち政治とカネの問題では、最初に質問に立った立憲民主党の野田代表が自民党の旧派閥の裏金事件で、不記載の議員を副大臣や政務官に起用したことを捉えて「裏金問題にけじめがついたと考えているのか」などと追及した。
また、不記載議員で官房副長官に起用された佐藤啓参議院議員に対しては、野党側が強く反発して、参議院本会議場などで陪席できない事態が続いている。
さらに企業団体献金については、公明党と国民民主党が政治資金の透明化に向けて、企業献金を受け取る団体を政党本部と都道府県連に限るなど規制を強める法案を提出する方針だ。立憲民主党もこの案に賛成する意向を示しており、自民党の対応が問われることになる。
高市首相は、不記載議員の問題などについては「今後、厳しい姿勢で臨み、ルールを順守する自民党を確立する」などと釈明する一方、企業団体献金については「各党の成り立ちや組織のあり方にも留意しつつ、公平で公正な仕組みとなるよう検討したい」と慎重な考えを繰り返している。
もう1つ、自民党と維新の連立合意で、衆議院議員の定数1割を削減する法案を今の国会に提出し、成立をめざす方針を打ち出したことが各党に波紋を広げている。維新の幹部は「連立参加の絶対条件」として、これが実現しない場合は、連立を離脱する考えを示している。
高市首相は代表質問の答弁で「連立与党で検討するとともに、各党各会派とも真摯な議論を重ねたい」として、与野党で議論する考えを示している。
今回の定数削減をめぐっては、衆院議員のおよそ50人を比例部分だけで削減することが想定されているとされ、中小の政党は「一方的な切り捨てになる」として強く反発している。自民党内からも「与野党の協議会で議論している取り組みを否定するものだ」として批判がくすぶっている。
以上みてきたように一連の懸案について、高市首相は自民党の従来の方針を踏襲した慎重な姿勢が目立つ。一方、防衛力の抜本強化や防衛費の増額、さらに経済政策などについても、必要となる財源などの核心部分については、曖昧な点が多い。このため、国民の多くは高市政治とは何か、これからの日本はどのようになっていくのかを知りたいと思っているのではないか。
各党の代表質問に続いて、7日からは衆議院の予算委員会が始まり、一問一答方式で詰めた議論が行われる。代表質問で明らかになった論点について、高市首相がさらに踏み込んだ説明を行うのかどうか、野党側も対案を示しながら分かりやすい議論を展開してもらいたい。(了)
