Go To停止と菅政権”失速”の波紋

菅政権の看板政策である「GoToトラベル」について、菅首相は14日、感染拡大に歯止めをかけるため、12月28日から1月11日までの間、全国一斉に一時停止する考えを表明した。

一方、菅内閣の支持率が14ポイントも急落したことが明らかになり、今後の政権運営に影響が出てくるのではないかと波紋が広がっている。

今回の「GoToトラベル」停止をどうみるか。また、菅政権の今後の政権運営や今後の政局のポイントはどこにあるのか、探ってみたい。

 「勝負の3週間」失敗 GoTo停止

今回の「GoToトラベル」停止の要因は、端的に言えば、政府がコロナ対策を短期集中的に取り組んできた「勝負の3週間」の効果が一向に見られず、逆に感染拡大へと状況が悪化したことから、一気に方針転換に追い込まれたとみている。

この背景には、菅首相が官房長官時代から、観光需要喚起策を積極的に推進し、首相就任後は政権の看板政策として強いこだわりをみせたこと。その結果、政府のコロナ対策分科会が、感染抑止に重点を移すよう再三、求めたのにもかかわらず、小出しの対応策を続け対応が遅れたことも影響しているようにみえる。

 世論の反発 急激な支持離れ

こうした感染対応に加え「菅内閣の支持率が急落」したことも、方針転換のきっかけになった。

14日にまとまった12月のNHK世論調査によると、菅内閣の支持率は42%で、前月に比べて14ポイントも激減した。逆に不支持は36%で、17ポイントも増加した。(データは、NHK WEB NEWSから)

「GoToトラベル」については、「続けるべき」はわずか12%、「いったん停止すべき」が79%にも達した。

新型コロナウイルスをめぐる政府の対応については、「評価する」が41%に対し、「評価しない」が52%で上回り、逆転した。

感染拡大が続く中で、「GoToトラベル」を続けることに対する世論の反発と、内閣支持率の急落で、菅首相としても方針転換を図らざるを得なかったことが推察される。

 政治的資源、コロナ対応評価失う

そこで、菅政権への影響はどうか。まず、内閣支持率が14ポイント急落したこと自体、影響を及ぼしている。前月の支持率の水準と比較すると、下落の比率は25%、「支持の4分の1」がはがれ落ちたことになる。

また、安倍政権当時と比較してみると、13ポイントと大幅に下落したのが2017年7月。当時、加計問題が焦点になり、直後の東京都議選で自民党は歴史的惨敗を喫した。その時とほぼ同じ、急激な下落幅ということになる。

菅政権にとって12月16日は、政権発足からちょうど3か月の節目になる。新たな景気対策を打ち出し、反転攻勢に出ようとした矢先で打撃は大きい。政権発足時は62%という高い支持率を誇ったが、早くも”政治的資源”のかなりの部分を失ったことになる。

菅政権が発足以降、学術会議問題で批判を受けながらも高い支持率を維持してきたが、この要因は、政府のコロナ対策を「評価する」意見が多かったからだ。但し、実態は9月、10月は感染状況が落ち着いていた”幸運”の要素が多い。

その政府対応を「評価する」割合は、9月52%、10月54%、11月60%と高い水準が続いた。ところが、12月は41%、19ポイントも急落した。「評価しない」は54%と急増し逆転。これが、内閣支持率全体を引き下げた。政権の求心力を低下させる。

 「Go To」から「コロナ対策全体」へ

それでは菅政権は今後、支持率を回復できるかどうか。そのカギは、携帯電話料金値下げなどの問題ではなく、国民の命や健康に関わる根本問題にある。先のデータが示すように「政府のコロナ対応」の評価、具体的には「感染拡大に歯止め」をかけられるかどうかにかかっている。

ということは、今後は「GoToトラベル」の問題だけに止まらず、「政府のコロナ対策全体」が効果を上げることができるかどうか、それによって菅政権の評価が左右される構図になっている。

具体的には、新規感染者数の抑制をはじめ、民間を含めた検査体制の拡充、重症者用の病床確保、感染者の隔離・入院体制、さらには医療機関や医療従事者に対する支援など医療提供体制を維持できるかできるかどうかが、問われる。

ところが、菅政権のコロナ対応は、政権発足以来、GoToトラベルへの東京の追加、海外との人の往来緩和など経済活動再開は加速させる一方、感染抑止の具体策が進まなかった。安倍首相が退任表明時に明らかにした対策以上の具体策は打ち出されてこなかった。

つまり、9月、10月に具体策が進まなかったツケが、今回ってきているとの受け止め方が多い。また、年末・年始目前にあたふたと対応、首相のリーダーシップや総理官邸の司令塔機能は極めて弱い。このため、これから短期間に感染抑止効果を上げることができるか、個人的には、正直なところ悲観的な見方をしている。

 政局、年内コロナ抑止にメドつくか?

当面、年内は、第3次補正予算案と、新年度予算案の編成作業が政治の中心になる。感染対策と同時に、社会・経済活動再開への対策が具体的に問われる。

一方、安倍前首相の後援会が主催した「桜を見る会」前日夜の懇親会をめぐって、安倍前首相の秘書が年内にも政治資金規正法違反容疑で立件される見通しだ。この関連で、東京地検特捜部が、安倍前首相本人から事情聴取を行うものとみられる。

さらに、自民党の農相経験者などが、大手鶏卵生産会社の元会長から現金を受けとっていた疑いで、年内にも立件されるとの見方が政界で取り沙汰されている。

こうした政治とカネの問題は、菅政権を直撃することになり、年明けの通常国会では、野党側が徹底して追及する構えだ。

また、来年秋の自民党総裁選をにらんで菅首相と安倍前首相との確執や、党内派閥間の抗争激化が予想されているが、こうした”党内政局”はコロナ問題に一定のメドがついた上での話だ。

このため、今後の政局は、菅政権がコロナ感染拡大を抑制できるかどうかと、衆院解散・総選挙の時期が大きなポイントになる。

年末の時点で◇感染拡大が続いていたり、高止まりしたりしていた場合は、年明け以降、政治とカネの問題が重なり、菅政権の政権運営は不透明感を増すことが予想される。政局のメルクマールは、年内に菅政権が「コロナ感染乗り切り」にメドをつけられるどうかが、最初の大きなポイントになるとみている。