IR汚職事件、疑惑の徹底解明を!

カジノを含むIR・統合型リゾート施設の事業をめぐって、元内閣府副大臣で自民党に所属していた秋元司衆議院議員が逮捕された事件に関連して、今度は日本維新の会に所属していた下地幹郎衆議院議員が、贈賄側の中国企業の元顧問から現金100万円を受け取っていたことが明らかになった。

贈賄の中国企業側は、秋元議員とは別に「5人の衆議院議員に100万円ずつ資金提供した」などと供述しているとされ、東京地検特捜部が捜査を続けている。

こうした汚職事件の捜査が進む中で、政府はIRの整備を予定通り進める方針で、7日に、事業者の審査にあたる「カジノ管理委員会」を設置した。

これに対して、野党側はIR整備法の廃止法案を通常国会に提出する方針で、今月召集される通常国会では、IRの整備の是非をめぐって、激しい論戦が交わされる見通しだ。

今回の汚職事件の背景や、IR法成立までの問題点などを考えてみる。

IR推進法、整備法とは

最初に基本的なことだが、カジノを含むIR法とは何か手短に整理しておきたい。
IR推進法は、カジノを中心にホテルなどの宿泊施設、テーマパーク、国際会議場、商業施設などを一体的に整備する統合型リゾート(IR=Integrated Resort)の設立を推進する基本法だ。

カジノは本来、刑法の賭博罪にあたり禁止されているが、政府は観光や地域経済の振興につながる公益性があるなどとして、例外的に合法化するものだ。このため、「カジノ解禁法」、「カジノ推進法」とも呼ばれる。2016年に議員立法として成立した。

この法律を受けて、IRの整備・運営の基本ルールを定めたものがIR整備法。全国に最大3か所設置することなどが定められている。IR整備法は、ギャンブル依存症対策基本法とともに2018年7月の国会で成立した。

 秋元議員、IRと深いつながり

今回の事件で逮捕された秋元議員は、内閣府のIR担当副大臣を務めていた2017年9月、衆議院が解散された際に中国企業の顧問から「選挙の陣中見舞い」として、現金300万円を受け取ったのが直接の容疑だ。

秋元議員とIRとの関わりは深い。2016年12月、カジノ解禁を含むIR推進法案を審議した際の衆議院内閣委員長が秋元氏だった。審議はわずか2日間のおよそ6時間で打ち切られ、委員長職権で採決に踏み切った。

その半年後の2017年8月に秋元議員は、内閣府と国土交通省のIR担当の副大臣に就任。その年の12月に自民党の衆議院議員らを誘って、中国の深圳にある中国企業本社を訪問するなど関係を深めていった。

 下地氏認め、自民4人は否定

中国企業の顧問は、秋元議員とは別に「衆議院議員5人に100万ずつ資金を提供した」と供述しているとされる。このうち、日本維新の会の下地幹郎衆議院議員が6日に記者会見し、3年前の衆議院選挙の期間中、事務所の職員が、現金100万円を受け取っていたことを認めた。
一方、残る4人の自民党衆議院議員は、いずれも受け取りを否定している。

下地議員が現金の受領を認めたことについて、日本維新の会の松井代表は「政治資金規正法違反にあたり、議員辞職すべきだ」との考えを示した。

こうした中で、下地議員は7日夜、離党届けを提出したことを明らかにした。議員辞職については、通常国会が召集される20日までに後援会のメンバーの意見を聞いた上で、判断する考えを示した。

これに対して、日本維新の会は8日、離党届けは受理せず最も重い除名処分とする方針を決めた。また、この問題は重大だとして、党として議員辞職の勧告を行うことも決めた。

今回の汚職事件、東京地検特捜部が捜査を続けているが、疑惑の解明を徹底して進めてもらいたい。また、国会も自浄能力が厳しく問われることになる。

 政府 IR整備進める方針

このように汚職事件の捜査が進められているが、政府はIRの整備を予定通り進める方針だ。7日付けで施設を運営する事業者の審査などにあたる「カジノ管理委員会」を設置した。カジノ委員会は、カジノの運営を申請した事業者を審査して免許を交付するとともに、事業運営の監視などにあたることになっている。

政府は、今月中にも整備区域の選定に向けた基本方針を決定する。これを受けて誘致を希望する自治体は、事業者とともに具体的な整備計画を作ることになっている。自治体から整備計画の申請を受け付ける期間は、来年・2021年1月4日から7月30日となる見通しだ。

政府は自治体から出された計画について、来年夏以降、有識者委員会を開くなどして審査し、場所を決定する。施設の建設に数年程度かかるため、政府は2020年代半ばの開業を見込んでいる。場所は最大3か所となっている。

 野党 廃止法案で対決姿勢

これに対して、野党側は、秋元議員が法律の成立にどのように関わったかなど実態の解明を進めるとともに、IR法は「バクチを解禁し、民間企業にやらせること自体に大きな問題がある」として政府の対応を厳しく追及する方針だ。

そして、立憲民主党などの野党4党は、今月召集される通常国会にIR整備法の廃止法案を共同で提出して政府と対決していく方針で、与野党の激しい論戦が交わされる見通しだ。

 重要法案多く、審議十分といえず

次に、IR整備法が整備されるまでの経緯と問題点について、触れておきたい。
IR整備法が与野党の争点になったのは、2018年の通常国会。森友問題で、財務省の決裁文書が改ざんされていたことが明るみになり、大きく揺れた時の国会だ。この時は、最終盤で、働き方改革法案、参議院の議員定数を6増やす法案、それにカジノを含むIR法案が、与党の圧倒的多数の力で相次いで成立した。

IR法案の審議では、カジノを合法化する要件をはじめ、入場回数の制限の根拠、ギャンブル依存症対策の実効性などについて、疑問点が浮上した。
また、条文が251条に及ぶ大型の新規立法だったが、衆参両院の審議時間は20時間前後で、十分な審議が尽くされたとは言えない状況だった。

 汚職事件で住民視線に厳しさも

一方、今回の汚職事件で、地域住民がカジノを軸とするIRに厳しい見方を強めることも予想される。ギャンブル依存症が増加するのではないかという懸念をはじめ、外国人の増加と治安の悪化、マネーロンダリング=不正なオカネを処理する温床になるのではないかいった問題に対する懸念が強まることも予想される。

政府は、IRを成長戦略として位置づけ、「観光先進国」の中核として巨額な投資をはじめ、雇用の拡大、観光客の増加といった経済効果をアピールしている。

これに対し、住民側からは、地域に根付いた伝統文化や、地域の自然、暮らしの体験などに軸足を置いた観光事業を求める意見が強まることも予想される。

通常国会では、こうしたIR事業そのものの評価をはじめ、成長戦略、地域社会の再生のあり方なども含めて議論を深めてもらいたい。