政治改革3法案成立へ”意味と影響は”

今の臨時国会の焦点になっている政治資金規正法の再改正をめぐって、政党が幹部議員に支給している政策活動費を全面廃止にするなど3つの政治改革関連法案が衆議院で可決され、参議院へ送られた。今の国会で成立する見通しだ。

一方、最大の焦点になっていた企業団体献金については、与野党の主張が隔たったままで合意点を見いだすことはできず、来年3月末をメドに結論を出すことになった。

いずれも先の衆院選で大きな争点になった問題だが、こうした結果をどう見るか。「不十分な点は多いが、ようやく具体的な改善策が動き出し、一歩前進」との評価を個人的にはしている。なぜ、こうした評価になるのか、今後は何が問われているのか、さまざまな角度で考えてみたい。

政治改革3法案可決、企業献金は越年へ

まず、衆議院の特別委員会と本会議で17日に可決され、衆議院へ送られた法案を確認しておきたい。

1つは、政党から幹部議員などに渡される「政策活動費を全面廃止にする法案」だ。立憲民主党、維新、国民民主、共産など7党が共同で提出した。

2つ目は、「政治資金の支出を監視する第三者機関を国会に設置する法案」だ。公明党と国民民主党が共同で提出した。

3つ目は、「外国人によるパーテイー券の購入禁止や、収支報告書をデータベース化して検索しやすくする制度などを規定した法案」で、自民党が提出した。

このうち政策活動費の廃止をめぐっては、自民党は一部の支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」を設けることを主張したが、野党側の強い反発と与党・公明党からも賛同を得られず、撤回に追い込まれた。

結局、自民党は、野党7党が共同で提出した案を丸飲みする形で賛成に回った。こうした政治改革関連3法案は参議院へ送られ、今の国会で成立する見通しだ。

一方、立憲民主党などが提出した「企業団体献金の禁止を盛り込んだ法案」については、与野党の主張に大きな隔たりがあることから先送りし、来年3月末に結論を得ることを与野党で申し合わせた。リクルート事件以来「30年来の宿題」となっている企業団体献金は今回も年を越すことになった。

 政治改革前進、選挙の民意が後押し

政治とカネの問題をめぐっては、旧文通費=現在の「調査研究広報滞在費」の使い途の公開などを盛り込んだ法案も17日衆議院で可決され、参議院で成立する見通しになっている。3年以上も前からの懸案で、議員1人あたり月100万円・年間1200万円の使い途が来年8月から公開されることになる。

このように見ると企業団体献金は先送りになったものの、政治資金に関連する部分については、一定の範囲ながらも改善策を盛り込んだ法案が成立するメドがついた。

こうした背景には、先の衆院選挙で「裏金問題の実態解明と政治改革」が争点になり、政権与党が過半数を割り込むなど政治状況が大きく変わったことが影響している。選挙後の国会では、与野党双方ともに政治改革の実現を求めた民意を意識して法案成立へと動いた。

一方、国民にとっても選挙で大きな争点になった「103万円の壁」が引き上げられたり、「政治とカネの問題」も改善に向けて動き出したりするなど政治の変化を実感した方も多いのではないか。いずれにしても選挙結果が、政治を動かした数少ないケースだ。

 戦略なき対応、石破政権・自民党

それでは、政治とカネの問題をめぐって石破政権と自民党の対応は、どうだったのだろうか。衆院選挙の結果、30年ぶりの少数与党政権に転じ、石破首相にとっては全く別の世界に立たされた。

石破政権としては、政策面で主導権を発揮する立場にはなく、野党の主張を取り入れながら、譲るべきところは譲り、逆に守り抜く点は国民に訴えながら死守していくしかない難しい対応を迫られた。

その石破首相の対応だが、臨時国会冒頭の所信表明演説では、外交・安全保障政策や、経済対策と補正予算案などの説明に多くの時間を充てた。焦点の政治改革の問題は最後の方で「年内に必要な法整備も含めて、結論をお示しする必要があると考えています」と表明するのに止まった。これでは、政治改革は及び腰と受け取った国民が多かったのではないか。

一方、自民党は政治改革本部で、政治改革案をとりまとめたが、企業団体献金の扱いには踏み込まなかった。各党との協議でこだわったのは、政策活動費の廃止を認める代わりに、支出先を非公開にできる「公開方法工夫支出」の創設だった。

これに対して、野党各党はそろって強く反発し、与党の公明党からも賛同を得られずに孤立して、提案の撤回に追い込まれた。

この時期に行われた報道各社の世論調査ではいずれも、石破内閣の支持率と、自民党の政党支持率がそろって下落した。石破政権と自民党は、政治改革の取り組みが後ろ向きだと受け止められたことが影響したものとみられる。

石破政権は、丸飲みするところは最初から丸飲みする一方、主張すべき点は最後まで譲らないメリハリのとれた対応ができていれば、世論調査の評価も変わっていたかもしれない。

要は、この国会での石破政権と自民党の対応は、新たな政治状況の中でどのような姿勢で臨むのか、戦略が定まっていなかったことが国会で孤立することになった最大の要因ではなかったか。

今回、石破政権は企業団体献金を維持することはできたが、来年3月末に再び結論を出すことを迫られることになる。来年度予算案の成立と合わせて、企業団体献金などの政治改革が与野党の争点として浮上することが予想される。

 野党も責任、政治資金のあり方など

一方、野党側も今後の対応が問われる。特に野党第1党の立憲民主党は、企業団体献金禁止を強く主張し、そのための法案を4党派共同で提出したが、野党全体にまで賛同が広がらなかった。

国民民主党や維新からは「立憲民主党の案では『政治団体からの寄付』が除外されており、業界団体や労働組合からの献金が抜け穴として残されている」との批判が最後まで消えなかった。

この点について、立憲民主党から、明確な説明はなされていない。企業団体献金をめぐっては禁止論が根強くある一方で、政党によっては活動を支える政治資金の基盤に関わる問題でもある。また、政治資金集めのパーテイーの扱いも一定の範囲で認めるのかどうかを明確にしておく必要がある。

そこで、来年の春までに各党は「政治活動と、政治資金の関係の全体像」がわかる議論を行うべきだ。そして与野党が一定の考え方をとりまとめてはどうか。そのうえで、企業団体献金をはじめ、第三者機関の性格や権限など残された課題についても決着をつけてもらいたい。

与党過半数割れという新たな政治状況の中で、政治改革の取り組みでは、不十分な点も多いが、新しい与野党の対応として評価できる点もある。この国会では、「年収103万円の壁」の扱いが残されている。

いずれも先の衆院選挙で争点になったテーマであり、その後の国会で、具体的な対応策が動き出している。こうした前向きの動きが来年の通常国会でも続くのかどうか、そして来年夏の参議院選挙でさらに加速されるのかどうかみていきたいと考えている。(了)

 

 

”どこまで進むか”政治改革の年内決着

先月28日に召集された臨時国会は、9日から物価高対策や能登半島地震の復旧対策などを盛り込んだ補正予算案について、衆参両院の本会議で財政演説と各党代表質問が行われ、審議入りする。

もう一つの焦点である政治資金規正法の再改正は、与野党がそれぞれ提出した法案の審議が10日から始まる見通しだ。

さらに先の衆院選挙で国民民主党が訴えた「103万円の壁」の見直しについては、自民、公明、国民民主の3党が来年度税制改正の中で、引き上げ幅や財源などを中心に協議を続けている。

このように今の国会は、補正予算案、政治改革、税制改正の3つの問題が事実上、同時平行の形で進むことになる。

このうち、補正予算案の扱いと「103万円の壁」の協議は難航しているものの、自民党は政権維持のためには国民民主党との間で妥協案をまとめる以外に選択肢はない。このため、税制改正と補正予算案は最終的に合意に達するものとみられる。

一方、政治改革について、石破首相は「年内に必要な法整備を含めて、結論を出す」と表明しているが、自民党と野党側との主張には大きな隔たりがあり、年内決着が図られるのか見通しはついていない。会期末まで2週間を切った中で、政治改革はどうなるのか、何が問われているのか考えてみたい。

 自民案、企業団体献金には触れず

政治とカネ・政治資金規正法の再改正をめぐっては、自民党の呼びかけで、与野党は「政治改革に関する協議会」で協議を続けてきたが、意見の隔たりが大きく、合意点を見いだすことはできなかった。

このため、各党はそれぞれ独自の改正案を提出し、国会の特別委員会で審議を行うことになり、10日にも最初の委員会が開かれる見通しだ。

このうち、自民党がまとめた政治改革案では、◆政党が議員に渡す「政策活動費」を廃止する一方、外交上の秘密に関わるなど公開に特に配慮が必要な「要配慮支出」を設け、収支報告書に相手の氏名や住所、支出の目的などを記載しないことができるとしている。

そして、◆第三者機関として国会に「政治資金委員会」を設置し、「要配慮支出」を監査するとしている。

一方、立憲民主党などの野党側が求めている◆企業・団体献金の禁止については、触れていない。

こうした案をどのように評価するかだが、まず「要配慮支出」については、政治資金の透明化を進めようとする中で、「新たなブラックボックスを設ける案」などと批判が多く、国民の理解が得られるか疑問だ。

また、企業団体献金について、自民党は一貫して見直しの対象外としており、政治改革に前向きの姿勢が感じられないのは残念だ。これでは、先の衆院選挙で厳しい審判を受けたことに対して、反省と出直しの意思が国民につたわらないのではないかと思う。

 野党は攻勢、足並みに乱れも

野党側は、裏金問題の実態解明と政治資金規正法の再改正、旧文通費の見直しについては、今の国会で決着をつけるべきだとして、実現を強く迫る構えだ。

このうち、政策経費について野党側は、自民党の「要配慮支出」は「抜け穴」になるとして反対している。立民、維新、国民民主、共産、参政党、日本保守党、社民党の野党7党は4日、政策活動費を「完全禁止」とする法案を衆議院に共同提案した。

一方、企業団体献金の扱いについて、立憲民主党は「政治改革の本丸であり、今国会で結論を出すべきだ」として、企業団体献金を禁止する法案を他の野党と共同で提出する方針だ。

維新や共産などの各党も禁止する方針だが、国民民主党は「企業団体献金を禁止する場合、業界などの政治団体の扱いを明確にしないと抜け道となる可能性がある」として、慎重な姿勢を示している。

このように野党側には温度差がみられ、足並みは必ずしもそろっているとは言えない。このため、各党ともそれぞれ独自案を提出したうえで、特別委員会で審議を続けながら、多数派形成に向けて働きかけを行うことにしている。

政治改革、信頼回復の成果を示せるか

今の国会の会期末は21日までで、政府・与党は補正予算案は12日に衆院を通過させ、翌週の成立をめざしている。だが、与党は少数に転じ、予算委員会の委員長も立憲民主党議員に代わり、審議日程がどうなるか見通せない状態だ。

また、自民党と国民民主党の間では「103万円の壁」に関連した与党税制改正大綱の決定時期と、補正予算案の賛否の時期をどのように設定するかといった調整も残っている。

このため、法案の審議日程が足りず、国会の会期延長が浮上する可能性もある。特に政治資金規正法の再改正をめぐっては、審議日程と法案の出口がどのようになるのか、全くメドがついていない。

したがって、◆規正法の改正案などがすべて越年するケースをはじめ、◆与野党が合意した法案だけ年内に成立、それ以外は先送りといったさまざまなケースが想定される。与野党ともに年内決着を掲げているが、どこまで合意できるかは、これからの協議次第というのが実状だ。

但し、年内決着の成果が限られたものになれば、世論の政治不信はさらに強まることが予想される。与野党とも党の独自性を発揮したいとの思いはわかるが、政治全体の信頼回復に向けて踏み込んだ対応が必要ではないか。

政権を担う石破首相も、いつまでも政治とカネの問題を引きずっていれば、内外の懸案に取り組むことができなくなることは明らかだ。ここは、党内を説得しながら、長年の懸案に決着をつけられるか判断が問われることになる。

この1年は政治とカネの不祥事に明け暮れたが、国民としては、年の瀬の最後に「政治が一歩踏み出した成果」を見せてもらいたいところだ。年内に政治改革がどこまで進むのか、しっかり見届けたい。(了)

 

”少数与党国会”開会、3つの注目点

先の衆院選挙の後、初めての本格的な論戦の舞台となる臨時国会は29日、天皇陛下をお迎えして開会式と石破首相の所信表明演説が行われた。これを受けて、12月2日から各党の代表質問が始まり、政府・与党と野党側との間で活発な議論が戦わされる見通しだ。

この国会は、先の衆議院で自民、公明の両党が15年ぶりに過半数割れしたことで、国会の審議や与野党の攻防も大きく様変わりすることになりそうだ。そこで、この国会はどこをみておくとわかりやすいのか、注目点を3つに絞ってみていきたい。

①政治改革、年内決着つけられるか

最初に国会の日程を確認しておくと29日の石破首相の所信方針演説を受けて、12月2日から4日まで衆参両院で各党の代表質問が行われる。続いて、石破首相にとって就任以来初めての予算委員会が5日、6日の両日行われた後、9日から今年度の補正予算案が審議入りする。会期は21日までの24日間になる。

この臨時国会の注目点の第1は、先の衆院選挙でも大きな争点になった自民党派閥の裏金問題のけじめと政治改革について、国会の場で決着をつけることができるのかどうかだ。

石破首相は政府・与党連絡会議で、政治とカネの問題について「国民の多くが未だに納得していないという事実を重く受け止めている」とのべるとともに「責任政党として、各党との協議を率先して行っていく」とのべ、年内の政治資金規正法の再改正をめざして各党との協議を急ぐ考えを表明した。

自民党は21日の政治改革本部で、政策活動費の廃止などを盛り込んだ政治改革案をまとめ、これを基に各党協議に臨む方針だ。一方、焦点の企業団体献金の見直しについては触れていない。

これに対して、立憲民主党や日本維新の会、国民民主党、共産党など野党7党の国会対策委員長らは28日に会談し、政策活動費や企業団体献金の取り扱いを含む政治改革で成果を上げられるよう協力して取り組んでいく方針を確認した。

政治改革をめぐっては最大の焦点である企業団体献金について、野党側が廃止の方針を打ち出しているのに対し、自民党は存続の考えを変えておらず、双方の意見は対立したままだ。

また、野党間でも立民、維新、共産などの各党は廃止の方針を打ち出しているのに対し、国民民主党は慎重な姿勢をのぞかせるなど温度差があるのも事実だ。

このため、政治改革の具体的な内容や制度設計の問題のほか、企業団体献金の扱いが最後まで残る可能性がある。年内に政治資金規正法の再改正まで進むことができるかどうか見通しはついていないのが実状だ。

②「103万円の壁」引き上げ幅が焦点

注目点の2つ目は「年収103万円の壁」の問題だ。先の衆院選挙で国民民主党が訴え、国民の大きな関心を集めた。そして選挙後、与党側は野党の協力を得るねらいもあって、国民民主党との間で協議を続けてきた。

その結果、自民・公明の両党は20日、国民民主党との間で、政府の新たな経済対策に、所得税がかかる年収の最低額である「103万円の壁」の引き上げを盛り込むことで合意した。これを受けて3党は、税制会長などが引き上げ幅や、財源などについて協議を続けている。

この「年収103万円の壁」について、石破首相は29日に行った所信表明演説で「2025年度税制改正の中で議論し引き上げる」と表明した。政府・与党としては、こうした考えを示すことによって国民民主党が補正予算案に賛成することを期待している。

これに対して、国民民主党の幹部は「一番の問題は非課税枠の引き上げ幅で、178万円までの引き上げを強く求めている。引き上げ幅が不十分な場合は、税制協議などから離脱することもありうる」と強気の姿勢をみせている。

自民、公明両党と国民民主党との協議が最終的に整うのかどうかは、個別の政策面だけでなく、補正予算案の賛否、さらには石破政権の存続そのものにも影響を及ぼすことになる。

一方、立憲民主党は「130万円の壁」、社会保険料の負担の軽減策を求める法案を提出しており、こうした社会保障制度のあり方も含めて活発な議論が交わされる見通しだ。

③ 少数与党国会、新たな政治の模索を

注目点の3つ目は「少数与党政権に転じた石破政権と国会のあり方」の問題だ。まず、石破政権は衆議院では与党過半数の勢力を失ったので、野党の協力を取りつけながら国会や政権を運営せざるをえない。

所信表明演説でも石破首相は「他党にも丁寧に意見を聞き、可能な限り幅広い合意形成が図られるよう真摯に、謙虚に取り組んでいく」との考えを示した。

問題は、こうした姿勢で懸案の処理が進むかどうかだ。これまでの石破首相の政権運営をみていると、自民党内の反応を伺いながら対応していく局面が多かった。

自民党のベテランは「党内基盤が弱く、少数与党政権という厳しい状況はわかるが、政権のトップとして自らの考えを整理して打ち出し、国民に直接訴えていく姿勢が必要ではないか」と指摘する。

懸案の政治改革や「103万円の壁」などで石破首相が自らの考えを示し、党内や国民を説得しながらやり抜く覚悟が必要だというわけだ。

自民党の支持率もNHK世論調査では、衆院選挙後も30%程度に止まり低迷が続いている。衆院選大敗の原因になった「政治とカネの問題」について、未だに自浄能力が発揮できていないと国民に見透かされているからではないか。政権、自民党ともにこうした点の自覚がないと、党の再生は難しいと思う。

一方、国民は野党に対しても今の政治を変えていく意欲や能力があるのか見極めようとしているように見える。先の衆院選で国民は「与党を過半数割れ。但し、比較第1党は自民党」との判断を示した。

与党、自民党に厳しい評価を示す一方で、野党に対しても比較第1党の座を与えなかった。野党の主要な役割は政権をチェックすることだが、それに止まらず、形骸化が目立つ国会審議のあり方などを変えていく意欲や力を持っているのか試そうとしているのではないか。

これまでのところ野党の中では、国民民主党のように与党に接近し、個別の問題で前進を図る動きが出ている。これに対し立憲民主党は、国会の開かれた場で与野党が議論し合意を形成していく道をめざしているようにみえる。

与党が過半数を割り込み、どの党も単独で過半数を獲得する政党がないという新たな政治状況の中で、予算案や重要な政策をどのような形で決定していくのか、その最初の取り組みが今度の臨時国会だ。

少数与党政権自体30年ぶりの事態なので、政権や国会が多少の停滞や混乱を来すのはやむをえないのでないか。試行錯誤を重ねながら、政権与党と野党が国会を舞台に議論を尽くし、できるだけ早期に「新しい政治の仕組みとルール」をつくり出すことが最も必要ではないかと考える。(了)              ★追記(12月1日午後1時半)石破首相の所信表明演説部分は既に終了したので、過去形に表現を手直しした。

 

 

 

“低い期待度”第2次石破政権の危うさ

先の衆議院選挙を受けて、第2次石破政権が11日に発足した。衆議院選挙で自民、公明両党は過半数を下回り、石破政権は15年ぶりに少数与党政権として再スタートを切った。

国民は、先の衆院選挙の結果や石破政権をどのようにみているのか。NHKの世論調査がまとまったので、そのデータを分析しながら石破政権の課題や問題点、それに衆院選後の与野党の対応などを考えてみたい。

 与党過半数割れ「よかった」61%

まず、先の衆院選挙で自民、公明両党の議席が15年ぶりに過半数を割り込んだが、この結果について国民の受け止め方から、みていきたい。

NHKの11月世論調査(15日~17日)によると「よかった」が32%、「どちらかといえばよかった」が29%で、合わせて肯定的な評価が61%に上った。これに対して「どちらかといえばよくなかった」は18%、「よくなかった」は12%で、否定的な評価の30%を大幅に上回った。

これを党派別にみると与党支持層では「よかった」が40%に対し、「よくなかった」が58%だった。野党支持層では「よかったが」が86%、無党派層でも「よかった」が70%に達した。

年代別にみると「よかった」は、すべての年代で半数を超えた。80歳以上が53%、70代が60%、60代が66%など年代が若くなるほど多くなる傾向がみられ、40代は75%で最も多く、30代から18歳までは69%だった。

 政策・実行力への低い期待度

石破内閣の支持率は41%で、10月の衆院選1週間前調査(10月18日~20日)と変わらなかったのに対し、不支持率は37%で2ポイント増えた。

支持する理由では「他の内閣より良さそうだから」が37%、「人柄が信頼できるから」が21%など消極的な理由が多数を占めた。一方、「政策に期待が持てるから」は6%、「実行力があるから」は5%で、いずれも1けた台に止まった。

支持しない理由では、逆に「政策に期待が持てないから」が34%で最も多く、次いで「実行力がないから」も18%に上った。

石破首相が第1次政権を発足させたのが10月1日で、発足時の支持率は44%と比較的低い水準からスタートとなった。それでも支持する理由として「政策に期待が持てるから」は10%、「実行力があるから」は9%あったが、わずか1か月半でほぼ半減したことになる。

衆院選挙で大敗を喫したとはいえ、国民の「政策」と「実行力」への期待度は政権維持には不可欠で、石破政権として早急な対応を迫られているのは明らかだ。

 物価・経済対策と政治改革がカギ

その「石破政権が、いま最も優先して取り組むべき課題は何か」を世論調査で尋ねている(1つだけ選択)。◆最も多いのが、景気・物価高対策で41%、◆次いで「政治とカネ」などの政治改革16%、◆社会保障制度の見直し13%、◆外交・安全保障11%などと続いている。

こうした課題や優先順位については、同じ考えの方は多いのではないかと思う。今月28日から石破政権発足後、初めて本格的な論戦の舞台となる臨時国会が始まる。野党側は、物価・経済対策として「年収の103万円の壁」の解消をはじめ、裏金問題のケジメと政治改革の具体策の実現を迫るものとみられる。

石破首相としては自民党内の調整を抱えているものの、こうした野党の要求のうち、国民生活や政治の信頼回復のために必要な対応策については、積極的に受け入れ実現をめざさなければ政権運営は困難になるだろう。

特に衆院選で争点になった政治改革の具体策の多くと「103万円の壁」については、年内の決着に向けて踏み込んだ対応を迫られものとみられる。

また、石破首相は就任以来、自らの考えをはっきりさせず、党内の流れに合わせる対応が目立ったが、うまく運ばなかった。まずは自らの考えを整理し、野党の主張なども踏まえたうえで、政策を打ち出し国民に説明・説得していく姿勢が求められているのではないかと考える。

 政党支持率に変化、政治の動きは

今回の世論調査では「政党の支持率」に変化がみられたのも特徴だ。前回の衆院選投票日1週間前調査と比較しながらみていきたい。

◆自民党の政党支持率は30.1%で、前回調査から1.2ポイント減少した。岸田政権や安倍政権当時は30%台後半が多かったことを考えると低い水準に止まっている。石破内閣の支持率と同じく、対応を間違うとさらなる下落の可能性もある。

◆立憲民主党は11.4%で、前回より2.2ポイント伸ばした。立憲民主党が支持率10%を超えるのは、2020年9月に今の党の体制になって初めてだ。こうした動きが続くのか、それとも一時的な現象で終わるのかが試されている。

◆衆院選挙で選挙前の4倍に議席を増やした国民民主党は7.4%を記録した。前回より5.1ポイントも増やし、維新を抜いて野党第2党に躍進した。国民民主党もこうした勢いが維持できるのかどうかが問われる。

◆このほかの政党は、公明党3.8%、維新3.6%、共産2.4%、れいわ1.4%、参政党1.2%、社民党0.5%、日本保守党0.3%となっている。無党派は31.6%にまで減っている。

こうしたデータから今回の衆院選で、国民は今の政治に何を求めているのだろうか。石破政権に対しては大敗させたものの、支持率41%を維持させたほか、野党第1党の立憲民主党に対しては、支持率を2ケタに乗せ、自民党との競い合いの政治を期待しているのではないか。

さらに国民民主党に対しては、与党との連立などよりも、政策を前進させる取り組みを求めているようにみえる。世論調査でも「与党との連携を深めるべきだ」14%、「野党との連携を深めるべきだ」17%よりも「政策ごとに態度を決めるべきだ」が58%で最も多かった。

つまり、国民の多くは与野党の勢力を伯仲させたうえで、山積する懸案や難題について、与野党が議論し一定の結論を出していく新しい政治の実現を求めていることが読み取れるようにみえる。

そして今は”様子見の段階”、年末に向けての臨時国会、年明けの通常国会で与野党の競い合いをみたうえで、夏の参院選で各党の評価をしたいと考えているのではないか。まもなく始まる臨時国会の与野党の対応をみていきたい。(了)

”綱渡りの政権運営”第2次石破政権

先の衆院選挙を受けて11日に召集された特別国会は首相指名選挙が行われ、衆議院では自民・公明両党が過半数を割り込んだことから30年ぶりの決選投票に持ち込まれた。その結果、石破首相が、立憲民主党の野田代表を破って新しい首相に選出された。

参議院では与党が多数を占めることから1回目の投票で石破首相が選出され、第103代の首相に就任した。石破首相は直ちに新しい内閣の組閣人事を行い、衆院選で落選した2人の閣僚と公明党の代表就任に伴う後任の閣僚を決定し、第2次石破内閣を発足させた。

この後、石破首相は記者会見し、先の衆院選に関連して「厳しい結果を受け、あるべき国民政党として生まれ変わらなければならない」とのべ、政策活動費の廃止や旧文通費の使途の公開などについて早期に結論を出す考えを表明した。

第2次石破内閣は衆院選挙での過半数割れで、1994年の羽田内閣以来30年ぶりの少数与党政権となる。石破政権のこれからの政権運営はどのようになるのか、今後の政治のあり方を含めて考えてみたい。

 首相指名選挙 ひとまず乗り切り

先の衆院選で大敗を喫した石破首相にとって政権を維持していくためには、特別国会での首相指名選挙を勝ち抜くことが最優先の案件になっていた。

また、選挙の敗因となった裏金問題と政治改革、それに国民の関心が高い「年収103万円の壁」などの経済対策についても早急に対応策を打ち出す必要に迫られていた。

このうち、首相指名選挙については決選投票になった場合でも、国民民主党や日本維新の会が自らの党首に投票することから、野党側が候補者の一本化ができないことがはっきりしてきた。

また、自民党内でも石破首相や執行部の対応に強い不満を持つ議員やグループはいるものの、直ちに辞任を求める意見はほとんどみられず、首相指名選挙でも自民党内から無効票が投じられるなどの造反はなかった。

こうしたこともあって石破首相は、最初の難関である首相指名選挙をひとまず乗り越えることができた。

もう1つの難問である政治改革や「年収103万円の壁」などの政策について、石破首相は召集日当日の11日午前、立憲民主党の野田代表、国民民主党の玉木代表とそれぞれ個別に首脳会談を行った。維新の馬場代表とは10日に会談を行った。

こうした会談で、石破首相は「野党の皆さんの意見を誠実、謙虚に承りながら、国民に見える形であらゆることを決定していきたい」とのべ、政治改革をはじめ、政策の実現に向けて野党の協力を要請した。

石破首相と自民党執行部は、既に政策面で考え方の近い国民民主党との間で政策協議を行うことで合意しており、政調会長レベルの協議も始まっている。

選挙の大敗で動揺が続いていた石破政権は、野党各党の党首会談にもこぎつけ、ひとまず落ち着きを取り戻すことができたとみていいのではないか。

 綱渡りの政権運営、3つの節目

さて、第2次石破政権は少数与党政権だけに「綱渡りの政権運営」が続くのは確実な情勢だ。野党側の協力がなければ、法案や予算案は成立しないし、野党側が内閣不信任案を提出し可決すれば、内閣総辞職に追い込まれる公算が大きい。

これからの石破政権を展望すると政権運営が難しい局面を迎える「3つの節目」が予想される。第1の節目は、年末の時点で、焦点の裏金問題と政治改革、それに経済政策で野党との協議が一定の成果を生み出せるかどうかだ。

このうち、政治改革については、野党側が政策活動費の廃止、旧文通費の公開、第三者機関の設置、企業団体献金の廃止などを要求しており、石破政権がどこまで受け入れるかが焦点だ。

一方、経済政策では、自民党と国民民主党との間で進められている「年収103万円の壁」をはじめ、ガソリン税の見直しなどで進展がみられるか。今年度の補正予算案や、新年度予算案の内容をめぐっても協議が行われる見通しだ。

こうした協議の結果、国民民主党は、石破政権との政策協議を継続するのかどうか。また、日本維新の会が馬場代表から新たな代表に変わった後、石破政権との関係や政策協議にどのような方針で臨むのかも注目される。

2つ目の節目は、来年1月に召集される通常国会で、新年度予算案の審議をめぐる与野党の攻防だ。今回、衆院の予算委員長ポストは野党が握り、立憲民主党の安住・前国対委員長が務める。特に来年2月下旬以降、予算案の衆院通過をめぐって、予算案の修正が大きな問題になる可能性もある。

3つ目の節目は、新年度予算案が成立する見込みの来年3月末以降、石破政権の求心力がどのようになっているかだ。夏には参議院選挙が控え、内閣支持率が低迷していると自民党内から「石破降ろし」の動きが出てくることも予想される。

このほか、アメリカ大統領選挙でトランプ前大統領が復帰することになったことで、国際情勢が激しく揺れ動くことも予想される。石破首相はトランプ次期大統領と早期の会談を希望しており、今後の日米関係をどのように築いていけるか、国内政治にも影響を及ぼすことになる。

 新しい政治へ与野党の合意形成を

ここまでみてきたように石破政権の今後は、波乱・混乱の道に陥るおそれがある一方、新しい政治を切り開いていける可能性もある。そのためには、先の選挙で示された民意を踏まえて、与野党双方が政策の決定や、国会運営面で合意の形成に向けて踏み出せるかどうかにかかっている。

具体的には、衆院選挙の最大の焦点になった裏金問題と政治改革について、与野党が歩み寄り、年内に政治資金規正法の再改正を実現することができるかどうか。また、年収の壁などの政策についても、与野党が一定の方向性を打ち出すことができるかどうかが試金石だ。

国民の中には「政治に期待しても何も変わらない」「国会議員は自分たちの利益のことしか考えていない」など不信の声が根強くあるのも事実だ。こうした政治不信や民主主義に対する冷笑主義を克服するためにも、次の臨時国会で具体的な成果を挙げることが重要になる。

それだけに石破首相は政権の延命ではなく、懸案の解決に向けて思い切って踏み出すことが必要だ。少数与党政権は国会では少数派なので、国民に訴え、支持を広げていくしか有効な対応策はないのではないか。

一方、野党第1党の立憲民主党や国民民主党は大幅に議席を増やしたが、それだけ大きな責任を負ったことになる。野党が政権交代をめざすのであれば、将来社会の姿や、重点政策の柱を明確に打ち出す必要がある。

私たち国民の側は、与野党双方が政策や構想を競い合うと同時に、国会を舞台に与野党が協議を尽くして結論を出す「新しい政治」を期待している。来月上旬にも予想される次の臨時国会で、その第1歩をみせてもらいたい。(了)

どうなる首相指名選挙と石破政権

衆議院選挙で15年ぶりの与党過半数割れを受けて、特別国会で行われる首相指名選挙や政権の枠組みをめぐって、与野党の動きが激しくなっている。

長い間続いてきた「自民1強・野党多弱体制」が崩れ、どの党派も過半数に達しない新たな政治状況が生まれている。

こうした中で、特別国会で行われる首相指名選挙や、これからの政権の枠組みをめぐる協議はどのようになっていくのか、自民党、立憲民主党、それにキャスティングボートを握っている国民民主党の対応やねらいを探ってみたい。

石破首相、政権維持へ部分連合に意欲

衆議院選挙で国民の審判が示されてから4日目の31日、自民党の森山幹事長は、国民民主党の榛葉幹事長と会談した。この中で森山氏は、衆議院の与党過半数割れを受けて、今年度の補正予算案や来年度予算案の編成や審議に向けた協力を要請した。

これに対し、榛葉幹事長は「政策案件ごとに対応していきたい」と応じ、新たな経済対策の内容を含め、政策の案件ごとに両党間で協議を進めていくことで一致した。

また、石破首相と玉木代表との党首会談を11日に召集される特別国会までに行うことを確認した。

さらに榛葉幹事長は、特別国会での首相指名選挙では、決選投票になった場合も含めて国民民主党としては、玉木代表に投票する方針であることを伝えた。

自民党は先の衆院選で56議席を失う大敗を喫したが、石破首相は開票翌日の記者会見で、自ら続投する考えを表明した。そして過半数の勢力を回復するため、政策が近い野党との間で、政策や法案などの個別案件ごとに協力する「部分連合」に踏み切る方針を固め、国民民主党などへの働きかけを続けてきた。

自民、公明両党の議席は215議席で、過半数の233議席まで18議席下回っている。石破首相としては、28議席を確保した国民民主党の協力を得られれば、少数与党政権ながらも今後の政権運営に一定の展望が開けることになる。

石破首相としては、自民・公明両党との連立政権を維持したうえで、国民民主党との部分連合を視野に、自民・公明・国民の枠組みで予算案や法案などの成立をめざしていく方針だ。

 立民、首相指名選挙へ野党の協力難航

立憲民主党の野田代表は30日、日本維新の会の馬場代表、共産党の田村委員長と相次いで会談し「政権交代を実現するため、首相指名選挙の決選投票が行われる場合、『野田』と書いて欲しい」と協力を要請した。

これに対して、馬場代表は「党に持ち帰って検討する」と返答したが、首相指名選挙で野田代表に協力することには消極的だ。田村代表は「前向きに検討する」との考えを伝えた。国民民主党は、決選投票でも「玉木代表」に投票する方針を決めている。このように首相指名選挙で野党が足並みをそろえて対応するのは困難な情勢だ。

こうした状況を踏まえて、立憲民主党としては今後、衆院選挙で大きな争点になった自民党の裏金問題と具体的な政治改革の実現に焦点をあてて、野党側の結束と自民党との対決姿勢を強めていく方針だ。

 首相指名選挙、石破首相選出の公算

こうしたなかで、自民党は衆院選後の特別国会を11日に召集する方針を野党側に伝えた。衆院選挙が終わって、政治が最優先に取り組む必要があるのが、特別国会で首相指名選挙を行い、新しい首相を選出することだ。組閣人事や党、国会の体制を整え、内外の課題に早急に対応していく必要がある。

その首相指名選挙はどうなるか。指名選挙は1回目の投票で、過半数を得た議員がいない場合、上位2人の決選投票が行われる。決選投票の当選者は過半数ではなく、有効投票の多数を獲得した議員が当選となる。

今回決選投票には、与党第1党の石破首相と、野党第1党の野田代表が進むものとみられる。国民民主党は決選投票でも「玉木代表」と書くため、無効票の扱いになり、石破首相が多数の支持を得る見通しだ。

このため、自民党内から大量の造反票が出ない限り、石破首相が新しい首相に選出される公算が大きくなっている。

 国民民主 政策・政治を変えられるか

ここまでみてきたように衆院選挙後の政局では、28議席を確保して第4党に躍進した国民民主党がキャスティングボートを握り、存在感を発揮している。

政界の一部には当初、国民民主党は閣僚ポストを獲得して連立入りをめざしているのではないかとの見方が出ていた。これに対し、玉木代表は「連立入りは考えていない。ポストよりも政策の実現をめざしている」と繰り返してきた。

国民民主党は、何をめざしているのか。玉木代表の記者会見を聞いていると、政府与党との政策協議をテコに、国民民主党が衆院選で打ち出した『103万円の壁』、所得税の課税最低限などの引き上げや、ガソリン課税の引き下げなどを実現し、党勢のさらなる拡大をめざしているものとみられる。

また、玉木代表は「与党の過半数割れを受けて日本政治は、新たな意思決定のルールづくりに取り組むべきだ」と主張している。政府や霞ヶ関は、与党の意見を聞くだけでなく、野党も含めた幅広い意見に耳を傾け、新たな合意形成のあり方を探るよう求めている。

国民民主党のこうした考え方については、国民としても賛成する点が多い。一方で、国民民主党はこれまでも政権との政策協議を進めてきたが、十分な成果を上げたかと言えば、疑問だ。自民党はしたたかで、連携した中小政党はいつの間にか取り込まれ埋没するケースも多かった。

それだけに国民としては、国民民主党の新たな取り組みは一定の評価をする一方、政策協議で具体的な成果を上げているのか、政治のあり方などを変えていくなどの姿勢を堅持しているのかといった点を厳しく見極めていく必要がある。

 内外に難題、政権運営は茨の道

ここまでみてきたように11日に召集される特別国会では、石破首相が新しい首相に選出され、第2次石破政権が発足する公算が大きい。但し、新たな政権は少数与党政権という大きな制約を担っての政権運営となる。

日本を取り巻く国際環境は、5日投開票のアメリカの大統領選挙の結果がどのようになるか、中旬からはAPECやG20サミットなども予定され、息の抜けない状況が続く。内政では、物価高騰対策や能登半島地震の復旧など早急に手を打つべき懸案が待ち受けている。

但し、補正予算案1つをとってみても野党の主張をかなり取り入れなければ、成立にこぎ着けることは難しい。石破政権の今後の運営は、茨の道が続くことになる。

一方、足元の自民党内では、大量の落選者を出したのは石破首相や森山幹事長の責任が大きいとして、政治責任を追及する声もくすぶっている。自民党は7日にも両院議員懇談会を開き、選挙結果を総括することにしているが、執行部への不満や批判が噴きだす事態も予想される。

石破政権は、年末の予算編成をはじめ、年明けの通常国会、さらには来年夏の参議院選挙を控え、綱渡りの政権運営が続くことになる。いつ、政権が危機に見舞われるか予断を許さない政局が続くことになるのではないかとみている。(了)

 

 

 

 

 

 

 

自公過半数割れ、裏金問題が政権与党を直撃

第50回衆議院選挙は27日投開票が行われ、自民党は議席を大幅に減らし、単独で過半数に届かないことが確実になった。また、自民、公明両党でも過半数を割り込むことが確実になり、石破政権は大きな打撃を受けるのは必至の情勢だ。

衆院選挙は27日午後8時で投票が締め切られ、開票作業が進められた。自民党は議席が伸び悩んでおり、単独で過半数の233議席に届かないことが確実になった。

自民党は、28日午前1時半時点で186議席に止まっているほか、公明党も22議席で伸び悩んでいる。このため、自民、公明両党でも過半数の233議席に達するのは難しく、過半数割れをすることが確実になった。

これに対して、野党第1党の立憲民主党は公示前の98議席から、大幅に議席を増やし、28日午前0時半の時点で134議席を確保し、さらに議席を伸ばす勢いだ。

日本維新の会は35議席を確保したほか、国民民主党は27議席、れいわ新選組も8議席と公示前から議席を増やし、共産党も8議席を確保している。

自民、公明両党が衆議院で過半数を割り込むのは、2009年の衆議院選挙で民主党政権が誕生した時以来、15年ぶりのことになる。これによって、発足したばかりの石破政権は大きな打撃を受けるのは必至の情勢だ。

今回、自民党が議席を大幅に減らしたのは、自民党派閥の裏金事件について、実態の解明や説明などが不十分で、国民の不信感が逆風となって大きく影響したことが挙げられる。

これに加えて、自民党は不記載議員の一部を選挙で公認しないなどの厳しい措置を打ち出す一方で、非公認の候補者が支部長を務める政党支部に2000万円の活動費を支給していたことが選挙戦の最終盤に明るみになった。

自民党の関係者は「この問題が報じられた後、国民の自民党に対する視線が一段と厳しくなり、最終盤の巻き返しができなくなった」とのべ、この問題の選挙戦への影響の大きさを認めた。

執行部の政治責任浮上、政局流動化へ

今回の選挙結果について、石破首相は開票速報でのインタビューに答えて「非常に厳しい審判をいただいた。謙虚に厳粛に受け止めなければならない」とのべた。

こうした一方で、石破首相が引き続き政権を担当する意欲をにじませた。しかし、石破首相は、衆議院を解散するのに当たって勝敗ラインを「自民、公明両党で過半数を確保すること」を挙げていた。

自公過半数割れがどの程度で収まるのか、まだはっきりしないが、勝敗ラインを割り込んだことで、自民党内からは石破首相や党執行部の政治責任を明確にするよう求める意見が出されることが予想される。

また、選挙後の特別国会で首相指名選挙をどのように乗り切るのか、衆院選挙を受けての組閣人事、政権の安定に向けて連立の枠組みを拡大するのかどうかが大きな問題になる。

さらに、公明党の石井代表は小選挙区の埼玉14区で敗れ、比例代表との重複立候補をしていないため、議席を失うことが確実になった。

このほか、来月5日にはアメリカの新大統領が決まるのをはじめ、11月中旬にはAPECやG20サミットが控えている。来月下旬以降には、臨時国会を召集し、能登半島地震対策や物価高騰対策などを柱とする補正予算案の審議を行う必要がある。

このように内外に大きな懸案を抱えている中で、石破首相は選挙敗北の政治責任をどのような形で取るのか、今後の政権運営をどのような方針で行うか、早急に明らかにする必要がある。選挙後の政局は、大きく揺れることになる見通しだ。(了)

★追伸(28日午前11時)以上の原稿は、28日午前1時半時点のデータで執筆。 各党の最終確定議席と、公示前勢力との増減は以下の通りです。       ◇自民191議席-56。◇公明24議席-8 → 与党215議席、-64      ◇立憲民主148議席+50 ◇維新38議席-6 ◇国民民主28+21 4倍    ◇れいわ9議席+6 3倍 ◇共産8議席-2 ◇参政 3議席+2       ◇日本保守3議席+3 ◇社民1議席 ±0 ◇無所属(小選挙区)12議席-2   以上です。

 

“自民苦戦、与党過半数割れ攻防続く”衆院選情勢

短期決戦となった衆院選挙は、いよいよ27日に投開票が行われる。終盤の選挙情勢は、自民党が単独で過半数を維持するのは難しい情勢で、苦戦が続いている。

一方、自民、公明両党で過半数を維持できるかどうかは微妙な情勢で、このまま27日の投開票まで与野党の激しい攻防が続く見通しだ。

有権者にとっては投票に当たって、与野党の選挙情勢も念頭に置いて投票したいという方もいるので、最終盤の選挙情勢を分析、評価してみたい。

 自民、単独過半数維持は困難か

まず、自民党の選挙情勢について、党の関係者に聞いてみると「九州、四国、九州など西日本地域は堅実な戦いができているが、北海道、東北、東海などは厳しい戦いを迫られている。現状では、小選挙区で30議席程度減る情勢ではないか」と厳しい状況であることを認める。

衆院の総定数は465議席なので、その過半数は233議席、公示前の自民党の勢力は247議席だ。15議席以上減らすと自民党は単独過半数割れに追い込まれることになる。

先の自民党関係者が触れたように小選挙区で30程度も議席を減らせば、自民党は単独で過半数を維持することは困難だ。

自民党は過去4回、衆院選挙で単独過半数を維持してきた。仮に単独過半数を割り込む場合は、2009年麻生政権下で政権を失って以来、15年ぶりになる。それだけ今回の総選挙では、自民党は苦境に立たされていることを示すものだ。

 与党過半数割れは微妙、攻防続く

次に選挙情勢の大きな判断基準として、与党で過半数を維持できるかどうかの目安がある。石破首相と公明党の石井代表がそろって勝敗ラインとして掲げている「自公で、過半数を確保すること」と同じ内容だ。

自公で過半数が維持できるかどうかをめぐっては、選挙関係者の間でも見方が分かれている。立憲民主党の野田代表など野党関係者は「裏金問題を徹底的に追及していけば、自公両党を過半数割れに追い込むことは可能だ」と強気の見通しを示している。

これに対して、自民党の選挙関係者は「政治とカネの問題をめぐって自民党は、厳しい情勢にあるが、都市部の選挙区では野党候補が乱立したことで助かっているところもある」として、過半数割れを回避できるという見方を示している。

報道各社の情勢調査をみても、与党で単独過半数割れになるかどうかはっきりしない。仮に自民党が議席を大幅に減らしても210議席程度に止まると、公明党が20議席後半を維持できれば「ギリギリ、過半数を超えることも可能だ」と見られるためだ。

つまり与党の獲得議席の「下限」、最も厳しい場合は「与党過半数割れ」となる。逆に「上限」、「与党が過半数を確保」できる場合もあり、どちらに転ぶかわからないというのが今の状態だ。

立民は議席増か、自民追加公認も焦点

一方、野党側のうち、立憲民主党は公示前の98議席から大幅に議席を増やす勢いがある。国民民主党も公示前の7から議席を増やす見通しのほか、共産党も公示前の10議席を上回る勢いがある。れいわも公示前の3議席から増やす見通しだ。

一方、日本維新の会は、このところ党勢に広がりがみられず、公示前の44議席を減らす可能性が大きいとみられる。

衆院選挙の場合、過去の選挙でも与野党激戦の選挙区が60程度は残り、最後まで激しい戦いが続く。最終的な議席数は、こうした激戦区の結果で決まることになる。

与党の議席数に話を戻すと、自民党は与党で過半数の勢力を維持するためにも、無所属の当選者から「追加公認」を行うことを検討している。与党が過半数を維持できるかどうかは、こうした追加公認の扱いによっても変わることになる。

いずれにしても自公で過半数を維持できるのか、それとも野党が大幅に議席を伸ばし、与党過半数割れに追い込むことになるのかどうかが最大の焦点だ。

政権・与党の巻き返し、野党の動向は

このように石破政権と自民党は、政治とカネの問題などで厳しい状況に立たされているが、投開票日まで挽回の手段、方法はあるのだろうか?

NHKの世論調査(10月18~20日、投票日前1週前)を見てみると石破内閣の支持率は41%、不支持率は35%だった。その1週間前の調査に比べると、支持率は3ポイント下がり、不支持率は3ポイント上昇したことになる。

一方、各党の支持率は、自民党が31.3%、公明党4.4%、立憲民主党9.2%、日本維新の会3.4%、共産党2.9%、国民民主党2.3%、れいわ1.9%、社民党0.6%、参政党1.1%、みんなでつくる党0.1%、無党派34.8%だった。

このうち、自民党の支持率は先週の調査35.1%から、3.8ポイントも下落した。この数値は、小選挙区の勝敗に直接影響するものではないが、この1週間で自民党の下落幅が大きかったことがわかる。

こうした石破政権と自民党の支持率低下は、選挙の大きな争点となっている「政治とカネの問題」の逆風が今も続いていること示すものだとみられる。このため、石破政権が政策面で巻き返しにつながるような決定打を放つのは難しいものとみられる。

各党の取り組みに勢いがあるかどうかは、最終的な議席数にも影響を及ぼすので、最後まで見届ける必要がある。石破政権が発足直後に踏み切った衆院解散・総選挙は、27日の有権者の審判がどのような形になって現れるか、選挙後の政局は激しく揺れ動く予感がする。(了)

衆院短期決戦、選挙情勢をどう読むか?

第50回衆議院選挙が15日公示され、27日投開票に向けて12日間の選挙戦がスタートした。今回は、1日に石破茂・自民党総裁が新しい首相に選出されて新政権が発足、8日後に衆院解散、26日後に投開票という戦後最短の政治決戦となった。

衆院選挙の立候補届け出は15日午後5時に締め切られ、小選挙区(定数289)に1113人、比例代表(定数176)に単独で231人の合わせて1344人が立候補した。

立候補者数は、現行制度下で最少だった前回2021年の1051人から、293人増えた。野党の立憲民主党と共産党との候補者一本化が進まなかったことや、日本維新の会が積極的に候補者擁立を進めたことが影響したとみられる。

選挙戦では、自民党派閥の裏金事件を受けた政治改革のあり方、物価高騰対策をはじめとする経済政策、厳しい国際情勢に対応していくための外交・安全保障政策をめぐり、激しい論戦が行われる見通しだ。

一方、選挙の勝敗はどうなるのか。裏金事件の逆風が続く中で、自民・公明両党は過半数の議席を確保して政権を維持できるのか、それとも野党が勢力を伸ばして与党を過半数割れに追い込めるのかどうかが最大の焦点だ。選挙情勢の現状と勝敗のポイントを中心に探ってみたい。

カギとなる数字「233、47」の攻防

「衆院選挙の勝敗ライン」について、石破首相と公明党の石井新代表はそろって「自公で過半数を維持すること」を挙げている。「勝敗ライン」は選挙の勝敗の目安となると同時に、執行部の政治責任が生じる基準にもなる。

このため、与野党問わず、執行部はいずれも低目の目標を設定し、政治責任が自らに及ばないよう予防線を張るケースが多い。

「自公で過半数」は、衆院総定数465の過半数だから「233」、これが「勝敗ライン」ということになる。

今回は石破首相と自民党執行部は、不記載議員12人を非公認とした。このうち1人が立候補を取り止め、11人が無所属で立候補することになった。

自民党の公示前勢力は、非公認扱いとなった11人を差し引いた247人。公明党が32人なので、自公の勢力は合わせて279人となる。自公過半数割れは、279人-233人=46、これを1人下回る「47」となる。

以上を整理すると自公の過半数は「233」。この過半数割れは、与党勢力から「47」以上の議席が減るかどうかにかかる。したがって、今回の選挙でカギとなる数字は「233」と「47」。この数字をめぐる与野党の攻防ということになる。

自民単独過半数=「党内政局」分岐点

このカギになる数字「233」は、もう一つ「自民単独で過半数」を獲得できるかどうかという大きな意味も持っている。

自民党は、2012年から衆院選で4回連続、単独過半数を維持してる。ところが、今回は不記載議員を11人を非公認にしたため、党の公認候補は247人にまで減っている。

このため、「15人以上」が議席を失うと「自民単独過半数割れ」に陥ることになる。自民党政権下では、2009年麻生政権が政権から転落して以来の敗北を意味する。政権にとって大きな痛手となるのは間違いない。

一方、自民党は「非公認の候補者でも当選すれば追加公認はありうる」としているので、追加公認で議席減少の穴埋めの措置が取られることが予想される。

あるいは、自民党は不記載議員のうち、小選挙区での公認を認めたものの、比例代表選挙との重複立候補を認めなかった候補者が33人に上る。小選挙区で議席を失えば、比例代表で救済される道は閉ざされる。比例代表の単独名簿の候補者が当選になる。

旧安倍派議員を中心に議席を失う議員は、相当な数に上るとの見方があるほか、選挙後の自民党議員の顔ぶれなどを注意深く見ていく必要がある。

話を元に戻すと、自民党が単独過半数割れになった場合の影響はどうか。前回2021年の衆院選結果は261議席で、この水準が続いてきた。過半数を割り込むということは、この水準から30議席近くも下回るので、その影響は極めて大きいことがわかる。

仮に「自公過半数」の目標は維持できたとしても、党内の反主流派や旧安倍派からは「大幅な議席減をもたらした」として、石破首相の政治責任を追及することが予想される。

したがって「党内政局」を引き起こすボーダーラインという意味合いを持っている。「自民単独で過半数233」維持できるかどうか、そのためには「15議席以上の議席減」を避けられるかどうかは、石破政権にとって大きな意味を持つ。

 議席予測、正確な調査・取材の詰め必要

それでは、今回の選挙情勢はどうなっているのか、見ていきたい。自公で過半数を維持できるか、自民単独で過半数を維持できるか、この2つが大きなポイントになる。

石破首相は14日午後、衆院選の見通しについて「非常に厳しいことは認識している。何とか全力を尽くし、自民、公明で過半数をいただければありがたい」と記者団に語った。

これに対し、立憲民主党の野田代表は「自公過半数割れに追い込む」と強調し、自公で過半数を獲得できるかどうかが最大の焦点になっている。

衆院選の公示前の段階でメデイアの世論調査や、自民党関係者の見方を総合すると比例代表選挙の投票先では、自民党が野党各党を引き離しており、「自公で、過半数割れの可能性は小さい」とみられる。

一方、「自民単独で過半数を割り込むケースは、起こりうるのではないか」との見方は自民党関係者からも聞かれる。

つまり、自公過半数割れ、47以上の大幅な議席減は、今の時点では想定しにくい。但し、自民単独過半数割れは15議席程度の減少で起きるので、可能性はあるとの見方が多いのが現状だ。

但し、こうした見方は、突き詰めると、いずれも選挙前の予想で、選挙戦突入後の情勢に基づくものではない。

選挙情勢に影響を及ぼすと見られる石破政権の評価をはじめ、不記載議員に対して執行部がとった対応措置などについて、国民がどのような受け止め方をして、選挙結果にどこまで影響するのか、まだ詰め切れていないのが現状だ。

したがって、これまで見てきた見通しは、当たっているのかどうか、これから投票日に向けて、有権者の意識を中心にトレンド・傾向を追跡していく必要があるというのが結論だ。

”予測の外れ”を生かせるかが重要

ところで、選挙の予測は、従来はかなり高い精度で結果を予測することが可能だった。ところが、今回は政権が交代し、直後に超短期の選挙戦に踏み切ったので、賭けの要素が極めて高いとも言える。国民が新政権や、選挙の主要争点をどのように評価しているのかといったデータが乏しいので、選挙の予測はかなり難しい。

既にさまざまな選挙の予測が出されているが、その根拠ははっきりしない。メデイアの「情勢調査」(世論調査)や取材記者の「票読み」、「データ分析」などに基づいて、全体情勢が明らかにならないと、根拠のある予測とは言えないのではないかと個人的には考える。

これから2週間あまり、情勢調査などを実施しながら、選挙情勢のトレンドを把握し、読み解いていくのが基本だと思う。

前回・2021年の衆院選挙の予測報道を思い起こすと、取材者として参考になる点が多い。3年前の衆院選では、ほとんどのメデイアの予測が外れた。多くのメデイアは自民党は議席を減らすと予測していたが、実際は単独で過半数を上回り、安定多数を獲得した。

前回は衆院議員の任期切れを間近に控え、短期決戦に持ち込まれたことと、激戦区が多数に上った。当選者と次点の差が1万票以内の激戦区は全国で58にも上り、議席の読みを狂わせる要因になった。

今回も前回と同じく、激戦区が相当な数に上ることが予想される。激戦区を絞り込み、情勢調査、記者の票読み、投票者を対象にした出口調査などを総動員して正確な予測報道を行う必要がある。

また、選挙で有権者は何を重視して1票を投じたか?単に選挙結果の予測だけでなく、選挙や政治の質を高めていく選挙報道の取り組みに期待しながら、メデイアの対応を見守っていきたいと考えている。(了)

 

 

衆院解散、戦後最短決戦へ 裏金問題カギ

衆議院が9日解散され、政府は臨時閣議で、15日公示、27日投開票とする日程を決めた。各党とも15日の公示に向けて、選挙体制づくりを加速させている。

石破内閣が発足したのが今月1日。8日後に衆院を解散、26日後の投開票となるのは、戦後最短だ。解散から投開票までの期間は18日間で、前回・2021年の17日間に次いで、2番目の短さになる。

さて、今回の衆院選の大きな争点は「裏金問題と政治改革」になるだろう。というのは、前任の岸田内閣が退陣に追い込まれたのは、裏金問題への対応が後手に回り、内閣支持率が長期にわたって低迷、退陣に追い込まれたからだ。

日本政治が取り組むべき課題は、日本経済の再生をはじめ、急激な人口減少社会への対応、内外の外交安全保障情勢など多岐にわたるが、政治の信頼が失墜しているので、議論自体が進まない隘路に陥っている。

本来の政策論争などを取り戻すためにも、裏金問題と政治改革について国民の信頼を回復し一定の前進を図られるようにすることが、事態改善の第一歩だと考える。

一方、石破首相と自民党執行部は衆院解散が間近に迫った段階で、派閥の裏金事件で政治資金を不記載にした議員について、一部、公認しない方針を打ち出した。また、不記載議員については、政治倫理審査会で弁明を行っていない場合は、比例代表への名簿登載を認めない方針も決めた。

こうした方針に対しては、自民党安倍派から猛烈な反発が出る一方、世論の逆風を抑えるためには「厳しい措置は当然」との声も聞かれる。自民党の新たな方針を含めて、政治とカネの問題を改めて考えてみたい。

 裏金問題、党首討論でも集中砲火

自民党の裏金問題は9日、衆院が解散される直前に行われた党首討論でも野党各党の多くが取り上げた。

立憲民主党の野田代表は「先月、安倍派元事務局長の有罪判決の中で、幹部間の協議で裏金処理の再開が決まったので、従わざるを得なかったことが裁判所で認定された。国会で弁明した安倍派幹部の発言は、虚偽だったことが明らかになった」として、事実関係を解明せず解散を急ぐのは「裏金隠し解散だ」と批判した。

続いて質問にた立った日本維新の会の馬場代表、国民民主党の玉木代表らも「党が幹部議員に渡す政策活動費の廃止を考えているなら、直ちに今回の衆院選から政策活動費を取り止めるべきだ」などと攻め立てた。

石破首相は「政治の信頼回復を第一に対応するのは、当然のことだ。政治資金については、法律で許された範囲内で適法に行う」とのべ、政策活動費の扱いなどについて、具体的に言及することを避けた。

このように裏金問題と政治改革は、今も与野党間の最大の争点になっている。問題は、選挙の際、国民の多くがどのように判断するかだ。

報道各社の世論調査によると実態解明などは継続すべきだという意見は多い。一方で、選挙戦に入って政治が取り組むべき主要課題の中で「政治とカネの問題」がどの程度上位に位置づけられるかが、大きなポイントなりそうだ。

裏金議員12人非公認、世論の評価は

石破首相と自民党執行部は9日、派閥からの政治資金を不記載にしていた議員など12人について、次の衆院選挙で非公認とする方針を決めた。

非公認になったのは「党員資格停止処分」を受けた下村元文科相、西村元経産相、高木元国対委員長。1年間の「党の役職停止」の処分が継続し、政治倫理審査会で説明をしていない萩生田元政調会長、平沢元復興相、三ツ林裕巳・元内閣府副大臣の6人。

それに半年間の「党の役職停止」処分を受け、その期間が終わった菅家一郎元復興副大臣ら3人、「戒告」処分を受けた細田健一・元復興副大臣ら3人の合わせて12人だ。

自民党内では、旧安倍派議員などから「一度、処分をしながら再び処分するようなやり方は認められない」「旧安倍派を狙い撃ちにした措置だ」など強い反発の意見が相次いだ。選挙後の挙党態勢を危ぶむ声もきかれる。

一方で「原則公認となれば、今度は自民党全体が国民から厳しい批判を浴び、選挙どころではなくなる」として、処分やむなしとの意見も聞かれた。

この問題は、党首討論でも取り上げられ、立憲民主党の野田代表は「相当程度が非公認だと言っていたが、大半は公認されている。また、非公認で立候補した人も当選したら、追加公認するのではないか」と質した。

これに対して、石破首相は「公認しない人が少ないというが、それぞれの人にとってどれほどつらいものか、よくよく判断した上でのことだ。最終的な判断は、主権者たる国民に任せたい。追加で公認することはありうる」との考えを示した。

一方、不記載議員については、小選挙区で公認しても、比例代表選挙の名簿登載を認めない方針を決めた。小選挙区で当選できない場合、比例代表で救済される道が閉ざされることになる。

重複立候補が認められなかった議員は30人余りとなった。自民党は、比例代表単独の候補者を増やすなど新たな対応を迫られることになるだろう。

今回の方針について、自民党の選挙対策関係者に聞いてみると「自民党という組織で考えると、従来の方針を大きく転換、最も厳しい措置と言える。それなりの結果を出せれば、石破総裁の評価は高まる」。

「但し、国民からすると大半は公認されているとして、厳しい視線は変わらないかもしれない」として、新たな方針の意味や姿勢をどこまで理解してもらえるかにかかっているとの見方だ。今後、議席を予測する際のポイントになる。

 首相 勝敗ライン「自公で過半数」

衆議院解散を受けて石破首相は9日夜、記者会見し「国民の納得と共感がなければ政治を前に進めることはできない。新政権の掲げる政策に力強い後押しをお願いしたい」とのべた。

そのうえで、今回の解散を「日本創生解散」と位置づけた。「日本社会のあり方を根本から変えていきたいと考えている」と説明した。

また、衆院選挙の勝敗ラインと下回った場合の対応を問われたのに対し「自民党と公明党で過半数をめざしたい。勝敗ラインを割り込んだ場合の対応については、コメントを差し控えたい」とのべた。

報道各社の世論調査によると、発足した石破内閣の支持率は46%から51%程度に上昇した。自民党の支持率も、岸田政権当時に比べて上昇している。但し、3年前の選挙時の支持率に比べると、勢いが乏しいとのデータもある。

石破首相と自民党にとっては、次の選挙は楽観できる状況にはない。党の選対関係者も「前回より増やせる要素はなく、どこまで目減りを減らせるかだ」との見方をしている。

そのためには、最大の争点になるとみられる裏金問題と政治改革から逃げずに、具体策を打ち出せるかどうかが問われることになるだろう。

また、多くの国民にとっては、物価高騰と国民生活、日本経済の運営に大きな関心を寄せている。実質賃金の目減り、物価高を上回る賃上げ、円安政策など納得させるだけの対応策を打ち出せるかにかかっているのではないか。

これは、野党各党にとっても同様だ。政治とカネの問題、経済と暮らしの分野で国民の支持を広げられるような政策を打ち出せるかどうかが問われることになる。

今回も、前回に続いて、短期の政治決戦になる。内外の多くの難題の解決に向けて、かじ取りを任せられる政党・政治勢力や候補者は誰か、私たち有権者も重い選択を行うことになる。(了)

“前途多難”石破新政権発足、27日衆院決戦へ

臨時国会が1日召集され、岸田首相の後継を選ぶ首相指名選挙が行われ、自民党の石破新総裁が、第102代の総理大臣に選出された。石破首相は直ちに組閣作業に入り、19人の閣僚のすべてを決定、石破新内閣が発足した。

岸田首相が事実上の退陣表明したのが8月14日、後継選びの総裁選には過去最多の9人が立候補し、大混戦が続いた。最後は決選投票にまでもつれ込み、逆転勝利を収めたのが石破氏だった。

決選投票で敗れた高市早苗氏は、石破氏から総務会長ポストの打診を受けたが、固辞し、政権と距離を置く姿勢を鮮明にした。石破氏と高市氏とのせめぎ合いは今後も続くことになりそうだ。

石破首相はできるだけ早く国民の信を問いたいとして、10月9日に衆議院を解散し、10月27日に投開票を行う考えだ。首相就任から衆院解散までわずか8日間の日程は、過去最短となる。

これに対して野党側は、国会論戦を避けて衆院解散に踏み切るのは認められないとして強く反発し、1日召集の国会は冒頭から対決色が強まった。

激しい総裁選を終えたばかりの自民党内は一枚岩になっておらず、政治とカネの問題で逆風が続く中で、衆院決戦は大きなリスクも抱えている。石破政権の前途は多難で、まずは衆院決戦を乗り切ることができるかどうかがカギを握る。発足した石破政権の特徴や、政権運営のポイントなどを展望してみたい。

 政権基盤弱く、森山氏、菅氏らに依存

さっそく1日に発足した閣僚の顔ぶれから、見ておきたい。◇外務大臣に岩屋毅・元防衛相、◇防衛相に中谷元・元防衛相、◇総務相に村上誠一郎・元行革担当相など石破首相と個人的に親しい顔ぶれが目につく。

また、総裁選で石破氏の推薦人なった関係者を多数、起用したのも特徴だ。先ほど触れた岩屋氏、村上氏のほか、経済再生担当相に赤沢亮正・財務副大臣、農水相に小里泰弘・首相補佐官、デジタル担当相に平将明・広報本部長代理、沖縄・北方担当相に伊東良孝・元農水副大臣だ。

さらに◇内閣の要の官房長官は林芳正官房長官が続投するほか、◇財務相は加藤勝信・元官房長官が就任。女性閣僚は◇文部科学相に阿部俊子氏、◇子ども政策担当相には、参議院議員の三原じゅん子氏を起用した。

自民党の派閥からの政治資金を不記載にしていた裏金議員と、安倍派からは閣僚に起用しなかった。

一方、自民党役員人事では、◇党の要の幹事長にベテランの森山裕・総務会長をすえた。◇総務会長に鈴木俊一・財務相、◇政調会長に小野寺五典・元防衛相、◇選対委員長に総裁選を戦った小泉進次郎氏を起用した。

このように今回の人事は、党の運営全般と選挙を仕切る幹事長に森山氏、副総裁に菅元首相がそれぞれ就任して柱の役割を果たし、さらに内閣と党の主要ポストを岸田前首相とそのグループと菅グループなどが支援する構図になっている。

岸田政権は麻生、茂木、岸田の3派が主流の政権だったが、今回は高市支持の麻生氏を党の最高顧問に棚上げ、代わって「森山、菅、それに岸田の3氏を軸にした体制」へと変化している。

特に森山氏は小派閥の出身ながら、国対委員長と選対委員長の両方を長い間、担当して調整能力の優れた老練な政治家だ。石破政権は実質的に、森山氏が切り盛りすることになるのではないかとみている。

同時にこのことは、石破氏の政権基盤の弱さを補う効果が期待できる反面、石破氏が政権運営の主導権をどこまで発揮できるかどうかわからない両刃の剣ともいえそうだ。

 早期解散、首相の政治姿勢も問われる

さて、石破総裁は国会で新しい首相指名を受ける前日の30日、記者会見で「国会で新しい首相に選出されれば、できるだけ早期に国民の審判を受けることが重要だ。10月27日に解散・総選挙を行いたい」とのべ、10月9日に衆院解散、15日公示、27日投開票の日程で解散総選挙を行う方針を明らかにした。

この問題が与野党の新たな火種になっている。自民党の新総裁が、国会で首相の指名を受けてもいないのに、衆院の解散時期に言及することは異常な事態だ。指摘を受けた石破氏は「全国の選管が選挙の準備を行えるようにするためだ」と釈明した。

だが、憲法7条は「天皇は内閣の助言と証人により、国事行為を行う」と規定しており、その1つが「衆議院の解散」だ。新たな内閣が発足していないのに”衆院解散を事前予告”するような越権行為は認められない。なぜ、そこまで焦る必要があるのか理解に苦しむ。

もう1つ、この問題は、石破首相の政治姿勢にも関係してくる。というのは、総裁選での論戦で小泉氏が「できる限り早く解散総選挙を行いたい」と主張したのに対し、石破氏は「なってもいないものが言及すべきではない」と慎重な姿勢を打ち出した。

また、石破氏は「国民に判断していただける材料を提供するのが、新しい首相の責任だ。本当のやりとりは予算委員会だと思う」とまで予算委員会で与野党が議論を戦わせることの意義を強調していた。

ところが、新総裁に選ばれると、それまで発言を一転、早期解散にカジを切った。野党側は「自民党を変える前に、石破首相自身が変節してしまった。言ってきたこととやっていることが違う」などと強く反発している。

石破政権としては4日に初めての所信表明演説を行ったうえで、7日と8日に衆参の本会議で代表質問、9日に党首討論を行ったあと、その日のうちに衆院解散を行う方針で、野党側と折衝を続ける方針だ。

それでは、なぜ石破首相は解散時期の方針を転換せざるをえなくなったのか。自民党関係者は「石破首相の解散論は、あるべき論の筋論。党の重鎮や幹部はそろって選挙に勝つことが第1。新政権発足直後は、内閣支持率の上昇が期待できる。森山幹事長が短期決戦を強く進言し、石破氏も受け入れたのだろう」と解説する。

石破首相にとって、森山氏は誠実な人柄と調整能力に秀でており、幹事長候補として考えていたとされる。但し、森山氏に引きずられるようになると今度は、国民から首相の見識、能力を厳しく問うことになる。短期決戦方針が、吉と出るか、凶と出るか注目している。

 早期解散論、国民の支持得られるか?

組閣を終えた石破首相は1日夜、最初の記者会見を行い「『国民の納得と共感を得られる内閣』をめざしたい」とのべるとともに「政治資金の監視にあたる第三者機関の設置など令和の政治改革を断行する」と強調した。

これに対し、記者団からは「衆議院の早期解散について、総裁選の最中は慎重な発言を繰り返していたのに、総裁・総理になると早期解散を唱えるなど違っていることについて、国民は戸惑っている。なぜ、変わったのか」という質問が繰り返し出された。

これに対し、石破首相は「新しい内閣ができたので、国民の判断を早急に求めることになった。国民への判断材料の提供と両立できるよう誠心誠意務めていく」と釈明に追われた。

石破政権は内外に多くの難問を抱え、多難な政権運営予想される。そうした中で、政権運営の主導権を確保するために早期解散を打ち出したが、総選挙に打って出る大義や政治姿勢に国民の理解が得られるかどうか、当面の焦点の1つに浮上してきたようにみえる。(了)

“薄氷の勝利”石破氏 自民新総裁に選出

大混戦が続いていた自民党総裁選挙は27日、投開票が行われ、5回目の挑戦となる石破元幹事長が、決選投票で高市早苗経済安保相を逆転し、新しい総裁に選出された。決選投票の票差はわずか21票、薄氷の勝利だった。

今回の総裁選は、過去最多の9人が立候補して混戦となった。当初は、党員や国民の人気の高い小泉進次郎元環境相と、石破元幹事長の2人の戦いになるとみていたが、選挙戦に入ると高市氏が急速に勢いを増して3つ巴の構図となり、勝敗のゆくえは見通せなくなった。

最終的には、石破氏が勝利を収めることになったが、舞台裏で何が起きていたのか、今回の総裁選全体をどのようにみたらいいのか。さらに来週、発足する石破政権にとってのハードルは何かを見ておきたい。

 石破氏逆転勝利の事情、舞台裏は?

まず、第1回投票で高市氏がトップとなりながら、決選投票で石破氏が逆転することができたのは、どのような事情があったのかという点からみていきたい。

選挙なので、多少数字が多くなるが、お付き合い願いたい。第1回投票では、高市氏は議員票72票、党員票109票、計181票だった。党員票では、1票ながらも石破氏を上回った。同時に驚いたのは議員票の増加ぶりだ。40~50票程度と見ていたので、72票、相当な議員票の上積みが目を引いた。

これに対して、石破氏は議員票46票、党員票108票、計154票だった。石破氏は、党員票では強みを発揮するとみていたが、今回は高市氏の追い上げを許した。一方、議員票は限界があり、得票を大幅に増やすことはできなかった。

これを受けて、決選投票(368党員票から、47都道府県票に縮小)では、石破氏が議員票189票、都道府県票26票、合計215票を獲得。対する高市氏は議員票173票、都道府県票21票、計194票。石破氏が21票上回って、逆転勝利した。

この理由は何か?石破氏の議員票は、第1回投票が46票→決選投票189票へ143票も上積みした。高市氏は、第1回投票72票→決選投票173票、101票増に止まった。議員票で大差がついたのが大きな要因だ。

議員投票の詳細な流れはまだ不明だが、決選投票に進まなかった他陣営の議員票の多くが、石破氏へ流れたことが考えられる。麻生副総裁が高市氏支持に動いた一方で、岸田首相をはじめ、林官房長官、上川外相ら旧岸田派のグループ、小泉氏を支持した無派閥議員の多くは、逆に石破氏支持に回ったとみられる。

首相経験者でみると、岸田首相と菅元首相は石破氏を支持して勝利したのに対し、麻生副総裁は高市氏支持に回り敗北を喫し、明暗が分かれた。

また、自民党関係者によると「決選投票で高市氏が伸びなかったのは、高市氏の政治信条や政策などに対する警戒感が働いたのではないか」との見方をする。「保守の論客で、安倍元首相の後継者を自認する高市氏がトップに就任すると、外交・安全保障や経済・金融政策面で混乱を招く恐れがある」として、ブレーキが働いたのではないかというわけだ。

 小泉氏失速、高市旋風で構図が変化

もう1つ、今回の総裁選では、次の首相候補として人気の高かった小泉進次郎氏の評価が低下したことが、総裁選の構図を大きく変える要因になったのではないか。

小泉氏は、議員票では最多の75票を集めた。一方、党員投票は61票に止まり、100票台の高市氏や石破氏に大きな差をつけられた。

小泉氏は最初の立候補表明の記者会見は、準備や演出も周到で順調な滑り出しかに見えた。しかし、選挙戦が始まり、日本記者クラブの候補者討論会や記者会見などで、主張や政策の説明に説得力が感じられず、世論調査でも自民支持層や党員の支持に勢いが見られなくなった。

地方の党員に聞いてみたところ「はっきり言えば、総裁選に出るのは10年早い。政治家として能力は十分あるのだから、政策面などの力を磨いた上で再挑戦した方がいい」など手厳しい意見が多かった。

一方、高市氏については「政治信条や主張がはっきりしており、支持したい」といった声が多く聞かれた。総裁選挙の有権者は、自民党の党員・党友の105万人余りに限定されているが、こうした党員の受け止め方の差がそのまま得票数に現れる形になった。

今回の総裁選挙には、現職の閣僚、党の幹事長、元閣僚など主要幹部が名乗りを上げたが、党員の得票率はいずれも1ケタ台に止まった。人数だけは賑やかだが、議論がほとんど掘り下げられず、肝心な点がわからなかったとの声も聞く。

最終盤では、各候補者が重鎮詣でを繰り返したほか、特定の候補への投票の働きかけがあったとの声も聞く。総裁選のあり方も再検討する必要があるのではないかと思う。

石破新総裁、難問は新体制づくり

石破新総裁の選出を受けて、国会は10月1日に召集され、新しい首相に石破新総裁が指名される運びだ。その日のうちに石破新内閣が発足する見通しだ。

石破首相にとって最初の難問は、新しい内閣、政権の体制づくりだ。石破氏は自らの派閥を解散して無派閥を続けてきたことから、石破氏を一体となって支える人材が周囲に少ないのではないかとの声を聞く。

一方、総裁選で高市氏は、議員票のおよそ半数の支持を得た。高市氏を含め総裁選を戦った8人の候補者の処遇も問題になる。まずは、30日までに党の幹事長などの役員人事をどのような顔ぶれにするのか。また、内閣の要の官房長官候補を内定する必要がある。

総裁選出後、石破氏は最初の記者会見で「新政権が発足するので、なるべく早く国民の審判を仰がなければならない」とのべた。そのうえで、「人事はまだ白紙だ。総裁選で争った8人の議員は、最もふさわしい役職にお願いする。高市氏や小泉氏も考え方は同様だ」とのべた。

石破政権の新しい人事がどのような布陣になるのか、そして政府と自民党一体となった体制をつくれるのかどうか最初の試金石になる。そして、この新しい体制を国民がどのように評価をするのか、大きなポイントになる。

私たち国民としては、臨時国会で与野党が論戦を戦わせ、政治とカネの問題や、経済政策などの論点を明確にしたうえで、国民に判断を求める取り組みを行うよう注文しておきたい。(了)

立民新代表に野田元首相“対立軸がカギ”

立憲民主党の代表選挙の投開票が23日に行われ、新しい代表に野田佳彦元首相が選ばれた。元首相が、野党第1党の党首に返り咲くのは、2012年9月に安倍元首相が自民党総裁選に勝利して就任して以来のことになる。

当選が決まった直後の挨拶で野田元首相は「私は、本気で政権を取りに行く覚悟だ。衆院解散・総選挙は間違いなく早い段階で実施されるだろうから、その戦いの準備は、今日から始まる。明日午前中に人事の骨格を決める」と党の体制作りを急ぐ考えを明らかにした。

野田新代表にとって最大の目標は、次の衆院選を勝利に導き、政権交代を実現することだが、その道は容易ではない。何が問われているのか、探ってみたい。

 野田元首相の経験と安定感に期待か

まず、代表選の結果を確認しておきたい。第1回投票で、野田氏は4人の候補者の中で最も多くのポイントを獲得したが、過半数に達しなかったため、上位2人の決選投票に持ち込まれた。

その結果、国会議員票(136人、1人2ポイント)、国政選挙の公認候補予定者(98人、1人1ポイント)、47都道府県連代表(各代表1ポイント)を合わせて、◇野田氏が232P、◇枝野氏が180ポイントで、野田氏が新代表に選出された。

野田氏への支持が広がったのは、次の衆院解散・総選挙に向けて、野田氏の豊富な政治経験や安定感への期待が強いためとみられる。党内からは「元総理が新代表に就任したことで、自民党の新総裁とがっぷり四つに戦える」と歓迎の声が聞かれる。

こうした一方で、党内には「野田政権当時、公約にはなかった消費税率引き上げを飲んで党を分裂させ、政権を失った責任は大きい」との厳しい評価は未だに残っているのも事実だ。

裏金問題、政治改革の抜本案を提出へ

さて、野田新代表が問われるのは、最大の政治決戦となる次の衆院選挙に勝ち抜けるかどうかだ。そのためには、自民党との政治姿勢や政策面の違い「対立軸」を鮮明に打ち出し、国民の支持を得られるかどうかがカギを握っている。

自民党の裏金事件をめぐって国民の側は「実態解明は進まず、不記載議員は説明責任からも逃げ、ケジメもついていない」との批判は強い。先の通常国会で成立した改正政治資金規正法についても「評価しない」という受け止め方が世論調査では多い。

野田代表は「徹底した政治改革でウミを出し切る必要がある」として、秋の臨時国会に政策活動費の廃止や、企業団体献金の禁止など政治資金規正法の抜本改革案を提出する考えを表明している。

このため、政治とカネの問題をめぐっては、自公政権との対立軸は明確に打ち出せるものとみられる。立憲民主党は、他の野党各党と共同で抜本改革案を国会に提出することも検討しており、実現するかどうか注目している。

 経済政策、分厚い中間層の具体化は?

もう1つ、国民の多くが関心が高いのが、物価高騰対策と経済・金融政策のかじ取りをどのように行っていくかという問題だ。

野田代表は「分厚い中間層の復活」という構想を示している。かつての日本は、分厚い中間所得層の存在が安定成長と活力の源泉だったことから、格差を是正し、消費を活性化させることで「強い経済」を取り込みたいとしている。

そうした考え方は理解できるが、具体的に何を実施していくのか、よくわからない。「給付付き税額控除」なども柱に掲げているが、具体的な制度設計や、必要な財源確保策などについても詳しい説明が必要だ。

自民党総裁選挙の候補者も「経済成長」を掲げているが、どのような政策の組み合わせで実現するのかがはっきりしない。次の衆院選挙に向けて「経済・金融政策の基本方針」を与野党がそれぞれ明確に示して、議論を深めてもらいたい。

 衆院選に向け野党の連携は進むか?

3つ目に、野党第1党の立憲民主党は、次の衆院選に向けて他の野党との連携をどのように進めていくかという問題を抱えている。野田氏は、政権交代は立憲民主党だけでは限界があり、無党派層や国民民主党、さらには日本維新の会との連携を広げていく必要があるとの考え方だ。

これに対して、維新の側は、連携には否定的な考えを示しているほか、国民民主党は、立憲民主党が原発などの基本政策をはっきりさせる必要があるとして慎重な姿勢だ。共産党は、連携の対象には入っていないことに反発を強めている。

立憲民主党は、次の衆院選で自公政権を過半数割れに追い込んだ場合、どのような勢力が協力して政権を担うのか、具体的な構想を明らかにする必要がある。

野田代表は就任後、最初の記者会見で「あす24日の午前中までに党役員の骨格となる人事を決める。私にない刷新感をどうやって作っていくかは1つの重要な観点だ」とのべた。

野田代表にとっては、刷新感とともに挙党体制もカギになる。決選投票の得票率をみてみると野田氏が56%に対し、2位の枝野氏は43%と余り差がついてないことがわかる。

枝野前代表は立憲民主党を立ち上げた有力幹部で、議員や党員の間で支持者が多いとされる。野田代表としても、枝野氏を含め党内各グループをとりまとめて挙党体制を構築できるかどうか、党役員人事が最初の試金石になる。

今月27日には、過去最多9人が立候補している自民党総裁選で、新しい代表が選出される。これによって自民、立民両党のトップが決まり、来月1日に召集される臨時国会でそれぞれ新たな体制で激突する。政治に緊張感が生まれることを期待したい。(了)

★追記(24日23時)立憲民主党の野田代表は24日、新たな執行部人事案を提案し、両院議員総会で承認された。幹事長に小川淳也氏、政務調査会長に重徳和彦氏、国対委員長に笠浩史。いずれも50代で、執行部の若返りを図り刷新感をアピールするねらいがあるものとみられる。一方、党内からは、いずれも代表選で野田氏を支持したばかりで、挙党態勢になっていないと批判する声も出ている。

”情勢は混沌”自民総裁選後半戦へ

岸田首相の後継を選ぶ自民党総裁選は19日が折り返し点で、20日から後半戦に入った。情勢は当初、石破、小泉両氏の争いと見られていたが、高市氏が勢いを増し、石破、小泉、高市3氏の三つ巴の戦いになっているようだ。

総裁選の予測は中々、難しい。個人的な経験でも2012年の総裁選は当時、最多の5人が立候補し、私はNHK日曜討論、日本記者クラブの討論会の司会を担当したので鮮明に覚えているが、多くのメデイアの事前の予想は外れることになった。

総裁選が幕を開ける前は、幹事長の石原伸晃氏がトップとの予想が多かったが、選挙戦に入ると失速。最終的には、3位か4位と見られていた安倍元首相が決選投票に残り石破氏を逆転、新総裁に返り咲いた。現職の総理・総裁が立候補を断念し、新人候補などが名乗りを上げる総裁選は波乱が起きやすい。

そこで、今回はなぜ、三つ巴になっているのか。最後に誰が抜け出しそうなのか、そのカギは何かといった点を中心に選挙情勢を探ってみたい。

 2強から3強、三つ巴へ情勢変化

総裁選の第1回投票では、議員票368票(離党した堀井学議員の後任の繰り上げ当選が決まったため、議員票、党員票ともに1票ずつ増えた。党員票も368票になる)については、立候補者が過去最多の9人になったため、大きな差がつきにくく、代わって党員票の比重が高くなった。

その党員票は、報道各社の世論調査で「次の総裁としてふさわしいのは誰か」という質問に対して、告示前の時点では石破茂元幹事長と小泉進次郎氏の2人が他の候補を大きくリードしていた。

ところが、選挙戦が始まり、論戦が本格化した以降の調査では、石破氏、小泉氏、高市氏の3人がリードする形へと変化している。告示前は2強だったのが、選挙戦突入後は3強へと変わったのが大きな特徴だ。

但し、3人の強弱については、報道各社の調査でもバラツキがみられる。今の時点では「誰が最終的に勝ち抜くのか、わからない混沌とした情勢にある」というのが現時点の結論だ。

報道各社の調査結果をみてみたい。◆朝日新聞が行った調査(9月14~15日)のうち、自民支持層では①石破32%、②小泉24%、③高市17%となっている。◆共同通信の自民支持層の調査(9月15~16日)では、①高市27.7%、②石破23.7%、③小泉19.1%と順位も異なる。

読売新聞の調査(9月14~15日)では「党員を対象に絞った調査」をしているので、その結果を最も注目していた。①石破26%、②高市25%、③小泉16%。高市氏の伸びが大きく、小泉氏は3位に後退している。

こうした調査結果について、自民党の関係者に見方を聞いた。「石破、高市、小泉3氏が優位」との見方は妥当だ。但し、「3人の順位については、優劣をつけるまで至っていないのではないか」との見方をしている。

また、この関係者は「これまでの総裁選では、自民支持層と、自民党員を対象にした調査ともに、ほぼ同じ傾向が現れていた。今回は、その関係も異なりバラツキがみられる」「選挙情勢は、固まっていないのではないか」との見方だ。

一方、別の自民党の閣僚経験者に聞いてみると「高市氏に勢いが見られる一方、小泉氏には当初の勢いに陰りが生じつつある」との見方を示す。

その理由として「小泉氏は、選択的夫婦別姓の容認や解雇規制緩和などの政策を打ち出したが、党員の支持離れを引き起こしている。逆に高市氏の主張や政策に支持が広がった。論戦の影響が反映しているのではないか」と指摘する。

以上のような点から党員票については、上位3位の順位をつけるのは難しく、今後の動きを見極める必要があると考える。投開票まで、まだ1週間もある”長期戦”だ。

 議員票も投票行動を読み切れず

次に議員票について見ていきた。368票のうち、◆40票余りを固め、先行しているのが小泉氏と小林氏だ。◆30票余りが林氏、茂木氏。◆20票台が高市氏、石破氏、河野氏、上川氏、加藤氏と続いているものとみられる。残りの90票余りをめぐって、9つの陣営が獲得にしのぎを削っているとみられる。

以上の議員票、党員票を合わせても過半数に達する候補者はいない見通しだ。このため、第1回投票では決まらず、上位2人の決選投票に持ち込まれる公算が大きい。その決選投票では、党員票は47都道府県の47票に縮小するため、今度は議員票の368票の方が大きなウエイトを占めることになる。

さて、その議員票がどのようになるか。立候補者9人のうち、3人は順番は別にして石破、高市、小泉の3氏だろう。この中から、決選投票に進出する2人に絞り込み、さらに最後の総裁の座を獲得するのは誰かとなると今の時点では、読み切るのは困難だ。

それに各候補ともにそれぞれ弱点を抱えている。小泉氏は党内で最も高い人気を保っているが、論戦の際の即応力、説明能力の危うさを指摘する声が多い。加えて「憲政史上最も若い43歳の総理・総裁の誕生を想像すると、経験や修行をもう少し積んだ後がふさわしい」といった評価を聞く。

高市氏については、前回総裁選で後ろ盾になった安倍元首相が亡くなっても、立候補にこぎ着けた力を評価する見方は多い。反面、「総理・総裁として、多くの議員を束ねていくだけの力量、指導力があるとは思えない」。「超保守の岩盤支持層が支えるのは強みかもしれないが、右寄りの姿勢が前面に出すぎると特に対米、対中関係などが危うくなるのではないか」と懸念する見方は根強い。

石破氏については、安倍首相の政敵として辛酸をなめながらも5回目の挑戦にこぎ着けたことと、「裏金問題をめぐる国民の政治不信が頂点に達している中で、信頼回復に取り組むリーダーとして適任」との声は根強いものがある。一方で、「何年経っても党内で仲間が増えず、政権を安定的に運営できる体制を作れるか大きな課題を抱えている」と危惧する声も聞く。

今回は、岸田首相が派閥解散を宣言した後、初めて行われる総裁選挙だ。派閥が全面的に復活するような動きはないにしても、決選投票では旧派閥の意向が働くのではないかとの見方は残る。具体的には、麻生派、旧岸田派、旧茂木派について、指摘されるような動きがないか、注視していく必要がある。

一方、高市氏の陣営が「国政レポート」という文書を党員に郵送した問題が明るみになり、他の陣営から「カネのかからない選挙にするため、党員向け文書の配布は行わない申し合わせに反する」と強い批判が出された。逢沢一郎選管委員長が口答で高市氏を注意したが、高市氏陣営が反発するといった動きが続いている。

このほか、朝日新聞が17日、安倍元首相と旧統一教会会長が2013年の参議院選挙直前に自民党本部の総裁応接室で面談していたとみられる写真を報道した。一昨年、この問題が表面化した際、自民党は個別議員の問題とは別に「一切の組織的関係は無い」という見解を示した。

朝日新聞の報道が事実であれば、この見解に反する可能性があり、説明が必要だ。党関係者に聞くと「安倍元総理の問題であり、総裁選に直接影響する可能性は小さい」との見方を示すが、次の衆院選挙などへの影響は出てくるのではないかとみている。

立民、野田氏先行、枝野氏追う展開

立憲民主党の代表選挙は、報道各社の世論調査でも野田元首相が先行、枝野前代表が追う展開で、泉代表、吉田晴美氏は支持の広がりが見られないという構図だ。

立憲民主党関係者に聞いても「議員票、党員・サポーター票ともに野田氏が、枝野氏を上回るのではないか」との見方している。最終的には、野田氏が新代表に選出される公算が大きいものとみられる。

自民党総裁選の投開票日は27日なので、野党第1党の新代表が決まったのを受けて、新しい総理・総裁を選ぶことになる。まず、決選投票に残る2人はどうなるのか。順位は別にして「石破、小泉」「石破、高市」「小泉、高市」の組み合わせが想定され、さらに最終的に誰を選ぶのかを決めることになる。

自民党長老に総裁選びはどこがポイントになるかを聞いてみた。「自民党議員の多く、特に中堅・若手は、旧派閥との関係よりも自分の選挙を考え、『選挙の顔』を意識するだろう。その際には、単に人気というよりも、第1回投票で示された党員票1位の候補を選ぶ議員が多くなるのではないか」との見方だ。

折り返し点を過ぎて終盤戦に向かうが、投票日まで1週間もある。選挙情勢もまだ動く可能性がある。当面の選挙乗り切りの発想ではなく、総理・総裁としてふさわしい候補は誰かを基準に選出してもらいたい。ほとんどの国民は、この後、予想される衆院解散・総選挙で適否を判断することになる。(了)

“中身は変わるか?”自民総裁選スタート

岸田首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙が12日告示され、過去最多の9人が立候補を届け出た。9氏は党本部で立ち会い演説会に臨み、経済政策や党改革、外交・安全保障政策などをめぐり、それぞれ意見を表明した。

9氏は13日に党本部で共同記者会見、14日に日本記者クラブで候補者同士の討論会に臨む。その後、全国8か所の演説会などを経て27日に投開票が行われ、新しい総裁が選出される運びだ。

自民党内では、派閥の裏金問題を受けて「自民党が生まれ変わった姿を見せないと次の選挙は戦えない」との受け止め方がある一方で、「首相の顔を変えて戦えば、選挙を乗り越えることはできる」として、早期の衆院解散・総選挙論が急速に広がりつつある。

一方、選挙情勢は、報道各社の世論調査や自民党関係者の見方を総合すると「石破元幹事長と小泉進次郎元環境相の2人が先行している」との見方が強いが、決選投票にまで持ち込まれる公算が大きく、最終結果を見通せるまでには至っていない。

そこで、今回のブログでは、今度の総裁選の特徴と、総裁という「表紙」が変わって「中身も本当に変わるのか?」「何が問われているのか」といった点を中心に考えてみたい。

 混戦の背景、人材枯渇現象の裏返し

最初に、総裁選の立候補者9人を分類してみると◆岸田政権の中枢にいる林芳正官房長官(63)と茂木敏充幹事長(68)。◆閣僚は、高市早苗経済安保相(63)、上川陽子外相(71)、河野太郎デジタル担当相(61)。◆党幹部として、ベテランの石破茂元幹事長(67)、加藤勝信元官房長官(68)、中堅・若手が小泉進次郎元環境相(43)小林鷹之前経済安保相(49)となる。

つまり、政権与党の中枢と閣僚が5人を占める。岸田政権の当事者なので、主要政策の責任の一端を背負っている立場にあることを頭に入れておく必要がある。

そのうえで、今回の立候補者がこれまで最も多かった5人を大幅に上回り、過去最多の9人、大混戦となった理由・背景としては何があるのだろうか。

まず、自民党は裏金問題を受けて派閥の解散を決めており、従来のように派閥のタガ、締め付けが効きにくくなったことがある。同じ旧岸田派にいた林氏と上川氏、旧茂木派の茂木氏と加藤氏のように、同じ派閥から2人が立候補したのは派閥の締め付けががなくなったことが大きい。

また、閣僚経験者の1人は「推薦人20人を集めることができれば、立候補できるようになったので、総理・総裁をねらう人たちが名乗りを上げ、総裁選立候補の足跡を残しておきたいという思惑が働いているのではないか」と解説する。

さらに、党の長老に聞くと「次の政権は政治とカネの問題が響いて、衆院選挙は苦戦も予想され、短命政権となるおそれもある。政権の先行きを見越した思惑もあるのではないか」との見方を示す。

一方で、「かつては『三角大福中』『安竹宮』『麻垣康三』といった次の総裁候補の面々が控えていたが、今や衆目一致する有力なリーダー候補がいなくなったともいえる」と語る。この発言の意味は混戦というが、実態は有力なリーダー候補がいない”人材枯渇現象”の裏返しではないかとの厳しい見方だ。

 中身は変わるか、2つの視点がカギ

さて、今回の総裁選の選挙権は、自民党所属の衆参両院の議員376人と105万人党員に限られ、ほとんどの国民は選挙権はない。選挙権はないが、国民の多くは、岸田首相が退陣表明の際に強調した「自民党は変わらなければならない」との訴えが、本物になるのかどうかを注目しているのではないか。

9人の候補者は立候補の届け出を済ませた後、党本部で行われた立ち会い演説会でそれぞれの意見を明らかにした。

各候補は◆政治とカネの問題を受けて、信頼回復のための党改革や政治改革のあり方、◆経済・財政政策や物価高対策、◆人口減少対策と社会保障、◆外交・安全保障、◆憲法改正などについて、それぞれの立場から対応策を訴えた。

驚いたのは、政権幹部である茂木幹事長が「増税ゼロ」を訴え、防衛増税と子育て支援金の追加負担、各1兆円を停止する考えを打ち出したことだ。また、茂木氏は政治とカネの問題では「政策活動費」の廃止も表明した。いずれも岸田政権の方針とは正反対の考え方だ。

また、小泉進次郎氏は「総理・総裁になったら、できるだけ早期に衆議院を解散し国民に信を問う」考えを表明するとともに規制改革・解雇規制緩和などに取り組む考えを示した。解雇規制の緩和は、政府内や国民の間でも意見が分かれている問題だ。党内の合意形成はできるのだろうか。

総裁選なので、それぞれの候補が自らの考えを表明するのは自由だが、政権与党なので、政権の掲げる政策と異なる場合、その理由や内容などについて、詳しい説明を行う必要がある。

以上を確認した上で、本論である「自民党の中身は、本当に変わるのかどうか」に話を移したい。2つの視点が重要だと考える。

まず、国民の関心が高い「政治とカネの問題」については、国民の疑念に真正面から取り組むことが必要だ。立ち会い演説会を聞いた限りでは、各候補の主張はほとんどが一般論で、取り上げても部分的で、具体性が極めて乏しい。これでは、国民の政治不信を払拭し、信頼を回復するのは難しいだろう。

求められているのは、◆裏金問題の説明責任と処分の扱いをどのようにするのか。◆先の国会で成立した改正政治資金規正法の中で、「検討項目」として盛り込まれた第三者機関の設置などの改革をどのように実現していくのか明らかにする必要がある。

2つ目は、国民の多くが知りたいのは、端的に言えば、これからの「経済・社会のかじ取り」をどうするのかだ。国内では人口急減社会が急ピッチで進む一方、GDPの規模は円安政策もあってドイツに抜かれて4位に後退するなど国際社会での日本の地位低下に歯止めがかからない。

これに対して、各候補の主張は「強い日本列島をつくる」「世界をリードする日本をつくる」「所得倍増を成し遂げる」など威勢のいい目標は盛んに語られるが、目標はどのような政策を組み合わせると実現するのか、説得力のある説明は聞かれなかった。これでは、国民の将来不安は中々、消えない。

この10年余り続いたアベノミクスを総括し、これからの経済・社会の基本方針をどのように設定するかを明確に打ち出す時期ではないか。こうした基本方針と実現への道筋を示すことこそ、政権与党の自民党が問われている点だと考える。

自民党内には「総裁選で新総裁が誕生すれば、政権の支持率が上がり、その勢いに乗って早期の衆院解散に踏み切れば、選挙に勝てる」との見方が広がっている。

一方、政治とカネの問題への対応は曖昧なまま、将来の暮らしや経済の展望も開けないとなれば、次の衆院選では有権者からしっぺ返しを受けるというのが、これまでの教訓だ。

私たち国民は、総裁選での論戦を通じて「政治のカネの問題」と「経済・社会の基本方針」の議論が進むのかどうかを見極め、次の衆院選挙の投票する際に生かしていくことが必要ではないかと考える。(了)

 

“政権との対立軸を示せるか?”立民代表選

立憲民主党の代表選挙は7日告示され、野田元首相、枝野前代表、泉代表、吉田晴美衆院議員の4人で争われることが決まった。4氏は、共同記者会見や候補者同士の討論、地方遊説、テレビ番組に出演し、議論を交わしている。

メデイアの多くは、今回の代表選について「政権交代に向けた野党の共闘や連携が焦点」とのとらえ方をしているが、国民の多くは「今の自公政権との違いは何か?」に関心があるのではないか。

自民党の総裁選もまもなく12日に始まり、新総裁が決まれば、早期の衆院解散・総選挙に踏み切るとの観測も強まっている。今回の代表選をどのようにみたらいいのか、何が問われているかを考えてみたい。

 立民代表選の顔ぶれ、関心度は?

まず、候補者の顔ぶれだが、枝野前代表と野田元首相の立候補は早い段階で固まった。一方、泉代表の立候補表明は告示日の前日、吉田晴美議員は告示日当日、締め切り直前に立候補を届け出た。20人の推薦人集めがいかにたいへんだったかが、わかる。

吉田晴美議員は当選1回、初めての挑戦だが、残り3人はいずれも民主党時代を含めて、代表経験者と現代表だ。”変わり映えがしない”、”刷新感に乏しい”などの批判も聞かれる。

そうした批判は当たっているが、野田氏は67歳、枝野氏60歳、泉氏50歳で、自民党と比べると必ずしも高齢とは言えない。野党が政権交代をめざす場合、むしろ安定感を与えるとみることもできそうだ。

そうした顔ぶれの印象よりも、立憲民主党にとっての難問は、国民に代表選への関心を持ってもらえるかどうかだ。メデイアの報道は、既に自民党の総裁選の方に集中しているようにみえる。総裁選本番となると、代表選の方は埋没してしまう可能性もある。

メデイアの扱いは、野党か、政権与党かで、政策などの報道で差が出るケースもある。それだけに代表選の候補者は、国民を引きつけるメッセージや政策を打ち出せるか力量が問われることになる。

 政権との違い・対立軸を打ち出せるか

次に、各候補の主張について、ポイントを絞って見ておきたい。4人の候補とも次の衆院選で政権交代をめざすことでは一致している。

◆野田氏は「政権交代こそ最大の政治改革」だとして、自民党の裏金問題と政治改革を最大の争点として位置づけ、世論の支持拡大をめざす考えだ。

◆枝野氏は「人間中心の経済」を掲げ、失われた30年を教訓にアベノミクスに代わる、人を大事にする新たな経済政策を訴えている。

◆泉氏は「日本を伸ばす」をキャッチフレーズに地域の産業の振興、教育無償化などを推し進めていくと強調している。

◆吉田氏は「教育と経済で、国民生活の底上げ」を訴え、教育の無償化や消費税の食料品ゼロ税率などをアピールしている。

◆こうした主張をどのようにみるか。1つは、自民党の派閥の裏金事件を受けた政治改革については、報道各社の世論調査でも、岸田政権が成立させた改正政治資金規正法を「評価しない」という受け止め方が圧倒的に多い。

また、自民党総裁選に立候補を表明した候補の中からも、岸田政権の方針とは反対の「政策活動費の廃止」や「旧文通費の公開」を打ち出す意見が出されるようになった。

こうした動きを受けて、野党第1党である立憲民主党は、改正政治資金規正法の抜本改革に向けた具体案をまとめ、早期実現に道筋をつける必要があるのではないか。今後の具体的な取り組み方を注目したい。

◆2つ目は、立憲民主党が政権交代をめざすのにあたって、どのような構想・政策を掲げるかが問われている。枝野氏の「人間を中心にした経済」も構想の1つになると思うが、具体的な政策の内容がまだ、よくわからない。

一方、自民党の総裁選に名乗りを上げた小泉進次郎氏は「聖域なき構造改革、解雇規制の緩和」を打ち出した。こうした自民党候補の政策との違いを含めて、自公政権との違いを鮮明に打ち出してもらいたい。端的に言えば「自公政権との対立軸」を明確に示すことも注文しておきたい。

◆3つ目は、次の衆議院選に向けて、野党各党との共闘・連携の路線問題がある。メデイアは、共産党と維新のどちらと連携を図るのかと判断を求める論調が多い。

この問題の立憲民主党の本音は「共産党支持者の票は欲しいが、連立政権の話し合いの対象にはしたくない」というところだろう。

一方、維新は「立憲民主党との連立は考えていない」とみられる。共産党は「選挙協力を行う場合は、政権のあり方についても協議するのは当然」という考えとみられる。

つまり、3者の考え方は方向性が一致していないので、事前に話を詰めようとしても限界がある。また、次の選挙で自公両党が過半数割れに落ち込むかどうかもわからない。

このように見てくると連立政権の枠組みの問題よりも、自公過半数割れに追い込むための取り組み方を協議する方が、野党側にとっては意味があるように思われる。例えば、野党共通の主要政策をまとめ、政権に迫るといった取り組みだ。

以上、見てきたように国民の多くは、野党の共闘・連携のあり方よりも、野党第1党として、自公政権との違い・対立軸は何か、国民にわかりやすい政治課題を幾つか示すことが求められているのではないかと考える。

 代表選の情勢、地方票など流動的

最後に「代表選挙の情勢はどうか?」といった質問が予想される。民主党の関係者に聞くと「野田氏と枝野氏が先行しているのではないか」といった見方を聞くが、根拠のあるデータや情報に基づくものではなく、情勢はまだわからない。

その理由は、投票全体の半数を占める「地方議員と党員・サポーター」の地方票が、まだ読めないことが大きい。今回は、選挙期間が17日間と長いこともあって、4氏の論戦の評価なども含め情勢は、流動的だ。

一方、立憲民主党にとっては、新代表に誰が選ばれるかという問題と並んで、党の存在感や政策について、無党派層を中心に世論の評価や支持が広がるかがカギとなる。次の衆院選で、政権交代が実現するか最大の焦点になるからだ。

立憲民主党の代表選は23日、自民党の総裁選は27日にそれぞれ投開票が行われ、新しいリーダーが決まる。私たち有権者も両党の論戦に耳を傾けながら、これからの日本社会は何が必要か、次の衆院選挙に向けて準備を始めたい。(了)

 

混戦総裁選と”総理・総裁の条件”

自民党の総裁選挙は、立候補を表明したり意欲を示したりしている候補が10人以上に上るなど異例の混戦状態になっている。

既に立候補を表明したのは、小林鷹之・前経済安保相と、石破茂・元幹事長、河野太郎・デジタル担当相の3人だ。続いて林芳正・官房長官、小泉進次郎・元環境相、高市早苗・経済安保相、茂木幹事長らが続々と記者会見して立候補を表明する見通しだ。

メデイアは連日、誰が立候補に必要な推薦人20人を確保できるのかといった予想を伝えている。ただ、選挙の告示日は9月7日なので、最終的な顔ぶれが確定し、政策を打ち出すまでには、なお、かなりの時間がかかりそうだ。

一方、自民党の総裁選で新しい総裁に選出され、国会で指名を受けると直ちに新しい首相に就任する。国民のほとんどは総裁選の投票権は持っていないので、自ら関与しないところで、新首相が事実上、決まってしまうことになる。

そこで、せめて真っ当なリーダーを選んでもらいたいというのが国民多数の願うところだろう。「総理・総裁にふさわしい資格・条件」とは何か?この条件を考えてみたい。いずれ衆議院解散・総選挙になると今度は国民が、今の総理・総裁はふさわしいか、どの政治勢力・候補者に政権を委ねるかを判断することになり、その際の基準にもなる。

元首相の格言、体系的リーダー論も

さっそく、「総理・総裁にふさわしい条件」とは何か。政界で有名なのは、田中角栄元首相の格言だ。「党三役のうち幹事長を含む二つと、大蔵、外務、通産の大臣のうち二つ」が必要だいうものだ。一国の宰相は、主要ポストを歴任しておかないと、とても務まらないという考え方だ。

私は、70年代後半の「大福決戦」(当時の福田赳夫首相と大平幹事長との対決)の時が駆け出しの政治記者時代で、それ以降、総裁選挙を取材してきた。担当した竹下元首相や後藤田元官房長官は「調整力」を重視していたのが印象に残っている。

総理・総裁の条件を最も体系的に捉えていたのは、中曽根元首相ではなかったかと思う。中曽根氏は、4つの条件を挙げていた。1つは「目測力」、2番目は「結合力」、3番目は「説得力」、4番目が「人間的魅力」だ。

勝手に解釈をさせてもらうと目測力とは「事態の推移を予測し、問題点を提起し、最終的に決着させる力」。結合力は「智恵と人材を集め、政策を遂行する総合力」。説得力は「大衆社会では、政治家は国民との対話と説得力が不可欠」との考え方で、最終的には「人間的魅力」が重要とする体験的なリーダー論だ。

このリーダー論は今も通用すると私個人は考えているが、80年代までの話だ。93年に自民1党優位時代が崩れて以降、連立時代へと変わり、派閥の領袖や主要ポストを経験しない首相も誕生している。

一方、今回のように総理・総裁候補が10人以上も名乗りを挙げる事態をどのように考えたらいいのか。また、「選挙の顔として誰がふさわしいか」といった次元の意見がまかり通るようなリーダー選びでいいのか、今一度「総理・総裁の条件」を考えておくことが必要だと感じさせられる。

 リーダー選び 3つの判断基準

それでは「総理・総裁の条件」、もっとわかりやすく言えば「私たち一人ひとりが判断する基準」としては、どのような物差しがあるだろうか。最近の政治の動きを基に考えると、個人的には、次のような3つの基準を挙げたい。

1つは「目標と道筋」。内外ともに激動の時代、何を目標に設定して国政を運営するのかの基本方針。この基本方針が、明確かどうか。同時に目標を実現するための方法、達成時期がはっきり示されているか。

目標としては、この30年間賃金が上がらず停滞した日本経済の立て直し、人口急減社会と社会保障の整備、外交・防衛力の強化などさまざまな目標が打ち出されるだろう。その際、どのような方法で実現するのか、具体的な道筋を示すことができているかどうかがポイントだ。

2つ目は「経験と刷新」。多くの候補者の中から、リーダーとしての資質・能力をどのように判断するか。田中角栄元首相が指摘したように政府・党の主要ポストの経験も1つの物差しにはなると思う。

一方で、世代交代の促進。中堅議員でも突破力があれば、古い党の体質を刷新、大きな改革ができる可能性もある。但し、刷新を掲げながら、舞台裏で古い勢力の支援や重鎮とのつながりがあったりすれば、国民の失望を買う。経験と刷新をどう折り合いをつけるか、具体的な人物を対象に判断するしかないと考える。

3つ目が、各候補が打ち出す多くの目標や政治課題などの中から「優先順位」をつけることも重要な点だ。総理・総裁として中長期の目標と同時に、総裁任期3年の間に何を最優先に取り組むのかをはっきりさせる必要がある。

その際、報道各社の世論調査をみると国民の多くは「裏金問題を受けて、自民党は政治不信の払拭にどこまで真剣に向き合うのか」を重視している。このため、政治改革は最重要の案件として、各候補は具体的な対応策を示してもらいたい。そのうえで、その他の政治課題の中から、何を最重点に取り組むのかを明確に打ち出してもらいたい。

今回の総裁選は、多くの候補者が名乗りを上げ、それぞれ選挙の公約を打ち出す見通しだ。先に触れた「3つの基準」に基づいて整理をすれば、各候補について、一定の評価を行うことができると思う。

一方、今回の総裁選挙をめぐって自民党内では、次の衆院選挙を意識して「選挙の顔」を選ぼうとする動きがうかがえる。だが、新しい総裁は、国会で指名を受けると即、新しい総理として国のかじ取りを担う。行政全体を指揮する能力、与党との調整力、見識などを兼ね備えたリーダーを選ぶのが、責任政党の役割だ。

各候補者が出そろい、候補者同士による例年より長い論戦を経て、自民党は100万人余りの党員と所属する衆参国会議員の選挙で、誰を最終的に選出することになるのか。また、派閥を解消して、新しい自民党に生まれ変わるとした約束が守られるのかどうかも大きな注目点だ。

ほとんどの国民は、今回の総裁選では投票権は持っていないが、今の衆議院議員の任期が満了となる来年10月末までには、衆議院選挙が行われる。そこで、来月行われる自民党と、野党第1党・立憲民主党のリーダー選びを注視しながら、次の衆院選挙での判断に活かしてはどうだろうか。(了)

 

 

”政権不信 払拭できるか” 混戦自民総裁選

岸田首相の後任を選ぶ自民党の総裁選挙は、9月12日告示、27日投開票とする日程が20日、党の総裁選挙管理委員会で決まった。

一方、立候補に意欲を示す候補者は異例の11人にも上っている。党員投票が導入されて以降、立候補者が最も多かったのは5人だった。候補者数は推薦人20人が確保できるかどうかで絞られるが、混戦の総裁選になるのは確実な情勢だ。

総裁選の日程については、告示日から投票日前日までの期間は15日間となり、今の規定となった1995年以降、最も長くなる。また、告示日まで3週間もあり、これから投開票日まで1か月半近くに及ぶ長期戦になる。

こうした背景には、自民党としては「テレビなどメデイアの露出を増すことができる。また、低迷が続く内閣と自民党の支持率を回復させ、新総裁誕生の勢いに乗って衆院選の勝利にもつなげられる」との思惑があるものとみられる。

だが、世の中、それほど甘くはないのではないか。「総裁選を長期にすることで、議論がだらけないか。今の顔ぶれでは、国民を引きつける議論や討論を成り立たせるのは難しいではないか」とも思える。

総裁選をめぐっては、中堅・若手議員が推す小林鷹之・前経済安保担当相が19日、いち早く立候補を表明した。今週、石破幹事長も名乗りを上げる見通しだが、候補者の顔ぶれがそろうまでには、なお、時間がかかりそうだ。

これから、メデイアが総裁選の論点・争点にどこまで切り込めるか。また、ほぼ同時期に行われる立憲民主党の代表選で、どこまで自民党との対立軸を鮮明に打ち出せるかも大きなポイントになる。

自民総裁選は、私たち国民にとって、どのような意味があり、何が問われているのか考えてみたい。

退陣の最大要因は、裏金問題への対応

今回の総裁選挙は、岸田首相の総裁任期満了に伴うものだが、首相は再選を目指しながらも立候補断念に追い込まれた。

その結果、総裁選の構図が一変し多数の候補が乱立することになったので、岸田政権の3年間、何が最も大きな問題だったのかを手短に確認しておきたい。

岸田政権は2021年10月にスタートしたが、当時は急拡大するコロナ対応に追われた。翌22年にロシアのウクライナ侵攻、安倍元首相が銃撃事件、この事件を契機に旧統一教会と自民党との接点が発覚するなど事件、戦争、パンデミックなどに翻弄された政権でもあった。

こうした中で、退陣へ追い込まれた最大の要因は、自民党派閥の裏金事件への対応で、実態の解明や再発防止策への対応が後手に回った。

これによって国民の政治不信、政権への不信が深まった。内閣支持率は長期にわたって低迷状態が続き、自民党の政党支持率も下落するようになった。今度の総裁選挙や次の衆院選挙で勝てる展望が開けず、退陣に追い込まれたのが実態だった。

したがって、今回の総裁選では「政治不信、政権不信」を本当に払拭できるかのどうかが、最も問われる点だ。

もう1つ、岸田政権が問われる点を挙げると、重要政策の決定にあたって「国民に説明し、説得する姿勢」が乏しかったことだ。

具体的には、国家安全保障戦略など防衛3文書の決定に当たって、敵基地攻撃能力の保有と専守防衛との関係などについて、国会での議論があまりにも少なかった。

防衛予算についても5年間で43兆円、1.6倍に拡大することを決定したが、首相主導で、国民への説明は極めて不十分だった。その財源確保のための防衛増税の実施時期については、未だに先送りしたままだ。

岸田政権は、こうした防衛力の抜本強化などの方針転換にあたって、政府と党の連携が十分とれておらず、首相が独走する形が目立った。政権中枢と自民党、与党との方針決定のあり方も、今後の大きな課題として残された。

政治改革の具体化、実現の道筋が焦点

それでは、今度の総裁選では、具体的に何が問われるか。1つは、政治不信の払拭に向けて何をするかということになる。岸田政権は、改正政治資金規正法を成立させたが、報道各社の調査では、国民の多数は評価していない。

また、改正法の付則には、政治資金を監督する第三者機関の設置や、政策活動費の10年後の領収書公開のあり方をなど検討していくことが盛り込まれているが、自民党内ではその後、検討を行っている動きはない。

今度の総裁選挙でも各候補は、政治の信頼回復に向けて努力する考え方を示すものとみられる。その際、検討項目の結論をいつまでに出して、実現していくのか、具体的な方針を示さないと国民の理解は得られないだろう。政治改革の具体化と、いつまでに実現するのか、その道筋を明らかにできるかどうかが焦点になりそうだ。

2つ目は、物価高騰が続く中で、国民生活の向上と日本経済再生の道筋をどのようにつけるかも問われている。岸田政権は経済政策「新しい資本主義」を掲げ、経済成長と「分配」重視を打ち出し、「アベノミクス」の修正を図ろうとしたが、道半ばで終わってしまった。

円相場や株式市場が大きく変動する中で、大規模な金融緩和策を変更し、どのような金融・経済のかじ取りを行っていくのかも大きな論点になる見通しだ。

3つ目は、自民党はどのような政党をめざすのか、統治の形や運営方法などを具体的に示していく責任がある。裏金問題に関連して派閥の解散を決定したが、今回の総裁選で守られるのかどうか、試される。

また、今後は、派閥解散後の人事、政策の調整、若手議員の育成などをどのように行っていくのか、新生自民党の姿・内容も議論になりそうだ。

ここまで、自民党総裁選で問われる点をみてきたが、最終的に候補者の顔ぶれはどのようになるのか。政策論争は深まるのかどうか、その結果は、新しい総理・総裁の評価に直結する。

私たち国民も、ほぼ同時並行で進められる立憲民主党の代表選と比較しながら、次の時代を担うリーダーや、望ましい政権担当勢力、重点的に取り組むべき政策課題などを考える機会にしたい。(了)

 

 

 

 

 

岸田首相 退陣表明、自民総裁選びは混迷か

岸田首相は14日昼前、首相官邸で記者会見し、自民党総裁選に立候補せず、退陣する考えを正式に表明した。

この中で、岸田首相は来月の総裁選について「自民党が変わる姿、新生自民党を示すことが必要だ。変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は、私が身をひくことだ」とのべ、総裁選に立候補せず、新総裁選出後に退陣する考えを明らかにした。

自民党内では、岸田首相が「先送りできない課題に1つずつ、結果を出す」と繰り返し表明してきたことから、総裁選で再選をめざす可能性が大きいとの見方が強かった。それだけに、お盆休み中の突然の立候補断念表明は大きな驚きをもって受け止められている。

なぜ、岸田首相は総裁選への立候補を断念することになったのか。また、自民党総裁選の今後の展開はどうなっていくのか、探ってみたい。

 首相、総裁選乗り切り困難と判断か

岸田首相の総裁選への対応をめぐっては「首相が立候補を断念することはあり得ない」との情報が首相周辺から盛んに流される一方で、自民党内では「最終的には、断念に追い込まれる可能性もあるのではないか」との見方もあった。

自民党長老に首相の退陣表明の感想を聞いてみると「自民党議員の多くは、首相には交代してもらいたいというのが本音ではなかったか。総裁選での党員投票を考えると、岸田首相が多数を得るのは難しく、総裁選乗り切りは困難と判断したのではないか」と見方を示している。

こうした自民党内の見方に加えて、岸田内閣の支持率は今月も20%台半ばの低い水準で、これで10か月連続となる。一方、裏金問題をきっかけに自民党の政党支持率も下落し、30%ライン割れが6か月連続となる。いずれも2012年に自民党が政権復帰以降、初めての異例の状態が続いている。

また、岸田政権政治資金規正法の改正についても「評価しない」が多数を占め、その後も政権の支持率が回復する兆しはみられなかった。

さらに、岸田首相を支持してきた旧派閥内でも「岸田首相が立候補した場合、推薦人にはなりたくない」との声が聞かれた。

こうしたことから、岸田首相としても自民党総裁選に立候補しても、勝てないと判断し、最終的に立候補断念を決断したものとみられる。

取材する側からみても、政治とカネをめぐって、世論の政権不信は一向に収まらない。自民党内も「首相が最終的に責任を取るべきだ」として退任を求める意見が根強かった。さらに、世論の記録的な低支持率が改善されない以上、いずれ総裁選からの撤退は避けられないだろうとみていた。したがって、ここまでは想定内の展開と受け止めている。

自民総裁選、後継選びは混戦・混迷か

それでは、自民党の総裁選びは、どのような展開になるだろうか。総裁選の日程は、20日に開かれる総裁選選挙管理委員会の日程で、来月の告示と投開票の日程が決まる運びになっている。

当面の焦点は、まず、誰が立候補するかだ。これまで意欲をにじませる候補は多かったが、立候補を表明した候補は誰もいない。石破元幹事長は14日、「立候補に必要な推薦人20人が整えば、責任を果たしたい」とのべ、立候補する考えを示した。

自民党関係者に聞くと、岸田首相が立候補しない考えを表明したので、茂木幹事長は立候補する可能性が大きいとの見方を示す。小泉元環境相、河野デジタル担当相、高市早苗・経済安保担当相、野田聖子・元子ども政策担当相、中堅・若手の小林鷹之・元経済安保相など多くの候補が名乗りを上げようとするのではないか。

但し、立候補には推薦人20人が必要で、この条件は意外と厳しい。告示直前まで、推薦人確保の動きが続き、最終的に候補者が絞り込まれることになる。

そのうえで、誰が総裁選を勝ち抜くのか?この見通しは、残念ながら今の時点で難しい。自民党が派閥解散を決めたことから、議員票の読みが難しいからだ。

さらに、党内の一部では、麻生副総裁や、菅元首相らが影響力を行使して、総裁選に影響力を及ぼすのではないかとの見方も聞く。一方、自民党ベテラン議員は「派閥の領袖や元首相がキングメーカー然として振る舞ったり、派閥復活とみられるような動きが出たりすると世論の猛烈な反発を招く」と懸念を示している。

自民党の総裁選びは、従来の総裁選とどこまで変わるのか、実際の動きを見てみないと情勢の判断は難しい。従来より多くの立候補者が予想される一方、初めての派閥なき総裁選になるので、情勢がつかみにくく、混戦・混迷の総裁選びになるのではないか。

自民党の長老に聞いてみると「総裁選は各候補が、総理・総裁になったら何をやるかを打ち出すことが一番大事な点だ。今は、そうした動きが全くないのが一番の問題だ。議員も、誰が総裁になれば自分の選挙は有利になるかといった発想が強すぎる」と党の現状に強い危機感を抱いている。

私たち国民も総裁選の勝敗だけでなく、各候補の政権構想や主要政策、国民の信頼回復のための具体的な取り組み方などについて、しっかりみていく必要がある。(了)

 

 

 

 

 

 

 

株価乱高下、岸田首相の再選戦略に影響も

自民党の総裁選挙は、今月20日に開かれる総裁選管理委員会の会合で、来月の選挙日程が決定されることになった。9月20日投票か、27日投票を軸に選挙日程の調整が進む見通しだ。

こうした中で、NHKの8月の世論調査が5日にまとまり、岸田内閣の支持率と自民党の支持率は低い水準に止まっていることが明らかになった。

加えて、5日の東京株式市場で日経平均株価の終値が、4451円と過去最大の下落幅を記録した。翌6日は、一転して買い戻しの動きが広がり、終値で3217円値上がりし、終値として過去最大の上げ幅になった。

こうした株価の大きな乱高下は、経済政策を強くアピールしてきた岸田政権を直撃する形になった。総裁選での再選をめざす岸田首相にとって、大幅賃上げと株高は政権の大きな成果としてきただけに、今回の株価の異常な乱高下は再選戦略に影響を及ぼすことになりそうだ。

 内閣、自民支持率ともに低迷続く

まず、NHKの今月の世論調査(2日から4日実施)は、自民党総裁選を1か月後に控えた調査になるので、内閣支持率と自民党支持率がどの程度の水準になるのか、注目していた。

岸田内閣の支持率は25%で、先月と同じ水準に止まった。一方、不支持率は55%で先月より2ポイント減少したものの、依然として高い水準だ。岸田内閣の支持率は、10か月連続で20%台という低迷状態が続いている。

一方、自民党の政党支持率は今月は1.5ポイント伸ばして29.9%となったが、6か月連続で30%割れとなった。自民党政権下で30%ラインを割り込むのは、2009年の麻生政権以来となる。

岸田政権は通常国会閉会を契機に、定額減税の実施や電気ガス料金の補助金支給、それに得意の外交活動を展開して、総裁選前の政権の浮揚をめざしてきた。ところが、内閣支持率、自民党支持率ともに改善はみられず、厳しい状況に追い込まれている。

株価乱高下、首相の再選戦略に影響も

こうした中で東京株式市場は5日、取引開始直後から全面安の展開となり、日経平均株価の終値は4451円安い3万1458円、過去最大の下落幅を記録した。アメリカの景気減速の懸念が強まったことや、円高が急速に進んだことが影響したものとみられる。

翌6日は一転して買い戻しが広がり、株価は一時、3400円以上値上がりし、上げ幅は取引時間中としては過去最大となった。株価大暴落に歯止めがかかったことで市場は警戒感が和らいでいるが、当面不安定な値動きがつづきそうだ。

岸田政権は支持率低迷が続く中で、高い賃上げの実現や、NISA(少額投資非課税制度)の拡充など「貯蓄から投資へ」などの経済政策を強くアピールしてきた。それだけに今回の株価大暴落は、政権にとって大きな痛手だ。

また、自民党総裁選に向けても外交と並んで、経済に強い政権を訴えて再選を図る戦略を描いてきただけに、再選戦略に影響が出ることは避けられそうにない。

株価乱高下について、岸田首相は6日広島市の記者会見で「引き続き緊張感を持って注視するとともに、日銀と密接に連携しつつ、経済運営を進めていきたい」とのべるに止まった。

日銀は、先に政策金利を0.25%程度引き上げる追加乗り上げを決めるとともに、植田総裁はさらなる金利の引き上げもありうるとの考えを示した。岸田首相としてはどのような金融・経済政策を行っていくのか説得力のある説明が必要だ。首相の対応は、内閣の支持率にも跳ね返ってくる。

 自民総裁選、岸田首相の去就が焦点

さて、自民党総裁選挙をめぐっては、未だに誰も立候補の名乗りを上げていない。今月20日に総裁選の日程が正式に決まるのを待って、一気に動き出すものとみられている。

総裁選の動きが本格化しないのは、現職の岸田首相が自らの去就について、態度を表明しないことが影響している。首相周辺は「首相が再選を断念することはない」との見方を示す。これに対し、自民党内には「次の衆院選を戦う顔としては適任ではない」と交代を求める声も根強い。

自民党内では「岸田首相は9日から12日までの日程で、中央アジア・モンゴルを歴訪する。その区切りがつけば、最終的な判断をするのではないか」との見方もある。

岸田首相は今月、鈴木財務相、麻生副総裁、林官房長官、森山総務会長らと相次いで、個別に会談を続けている。総裁選の情勢をめぐって、さまざまなケースを想定して意見を交わしているものとみられる。

現職の首相が総裁選に立候補して敗北したのは、73年に当時の福田赳夫元首相が、大平幹事長に敗れた一度だけだ。一方で、現職の首相・総裁が立候補を断念したケースもある。最近では菅元首相、谷垣総裁、河野洋平総裁らだ。

岸田首相はどちらの道を選択するのだろうか。現職の首相が去就を明らかにしないと総裁選の構図は固まらない。今月中旬以降、来月初めにかけてさまざまな動きが表面化してくる見通しだ。(了)

近づく自民総裁選”焦点は岸田首相の進退”

この夏、日本の政治は7月7日投票の東京都知事選挙で小池知事が大勝した後は、通常国会が既に閉会していることもあって、平穏な日々が続いている。アメリカは、11月の大統領選に向けて劇的な動きが相次いでいるのと対照的だ。

こうした中で自民党は26日に開いた総務会で、秋の自民党総裁選挙の選挙管理委員会の委員を報告し、決定した。逢沢元国会対策委員長や中谷元防衛相ら11人で、8月上旬に初会合を開き、月内に告示や投開票などの選挙日程を決める見通しだ。

今回の総裁選は、岸田首相の自民党総裁としての任期3年が、9月30日に満了になるのに伴って行われる。但し、これまで総裁選に名乗りを上げた候補者は、岸田首相を含めて誰もおらず「様子見状態」が続いている。

今回の総裁選はどのような構図になり、どんな展開になるのか、総裁選の焦点を探ってみる。

総裁選・岸田首相の進退、分かれる見方

さっそく、総裁選はどのような顔ぶれで戦うことになるのか、この点からみていきたい。

冒頭に触れたようにこれまでに名乗りを上げた候補者はいないが、岸田首相は6月の記者会見で、秋に新たな経済対策を打ち出す考えを示すなど続投に強い意欲をにじませた。

一方、自民党内では「裏金問題で内閣支持率の低迷が続く岸田首相は、自ら責任を取って辞任すべきだ」といった声がくすぶっている。

これに対して、岸田首相の最側近として知られる木原誠二・幹事長代理は24日都内の講演の中で、岸田首相は総裁選への立候補を断念する考えはないのかと質問され「私の立場では、ないと思っている」とのべ、断念する考えはないとの認識を示した。

また、木原氏は「岸田政権は国内経済を活性化する点で成果を上げつつあり、憲法改正や政治改革といった残された課題もある。岸田総理が引き続き政権運営にあたるべきだ」との考えを示した。

この点について、自民党の長老に聞いてみると「現職の総理・総裁としては当然だろう。しかし、党内の『岸田首相ではダメ』という空気は変わっていない。首相続投の公算はあるが、辞退する可能性の方が大きいのではないか」として、岸田首相の立候補断念もありうるとの見方を示す。

このように自民党内では、総理・総裁の進退をめぐって見方が分かれており、選挙戦の構図が固まらない状況が続いている。

裏金問題の政治責任、選挙の顔の要素も

それでは、党内から首相の立候補辞退の見方が消えないのは、どういった背景があるのだろうか。

自民党の閣僚経験者は「政治とカネの問題で、岸田内閣の支持率が大幅に下落しているのは、政治家が責任を取っていないためだ。最後は党のトップが政治責任を取って局面を打開するしかない」と首相の決断に期待をかける。

別の自民党関係者は「今度の総裁選は党の中堅・若手議員にとっては、次の衆院選挙を戦う『党の顔』を選ぶ選挙でもある。総裁選と衆院選挙は事実上、一体と位置づけている。このため、国民に不人気な首相は交代してもらいたいというのが若手議員らの本音だ」として、岸田首相の再選は困難との見方を示す。

こうした考えをすべて肯定するわけではないが、岸田内閣の支持率などが大幅に改善しない場合、自民党内では「首相交代圧力」が一段と強まることが予想される。

岸田首相としては、早期に政権の浮揚を図り、求心力を高めることが迫られていると言える。

 有力候補不在、波乱の短期決戦か

さて、今回の総裁選をめぐって自民党内からは「岸田首相に戦いを挑む有力候補がいないのではないか」との見方を聞く。

候補者として名前が上がるのは、石破元幹事長、小泉元環境相、河野デジタル担当相、高市早苗経済安保担当相、茂木幹事長、それに若手の小林鷹之・元経済安保相らが取り沙汰されている。

各氏ともそれなりの意欲をにじませるのだが、「夏の間に考える」「熟慮を続け、お盆明け頃には結論を出す」などの曖昧な答えが返ってくる。総理・総裁をめざして何をやりたいのかなどには踏み込まないのが、最近の候補者の特徴だ。

自民党内からは「岸田首相が続投に意欲を燃やすのは、こうした顔ぶれなら勝てると思っているのではないか」といった声も聞く。岸田首相が最終的に総裁選に立候補するのか、あるいは、断念することになるのか。そして、対立候補として誰が立候補することになるのか、まだ時間がかかりそうだ。

総裁選の日程が決まるのは、お盆明けの8月下旬になるとみられる、それ以降、9月に入っての告示日までの短期間に一気に事態が動く可能性が大きい。一言で言えば、短期で波乱含みの展開になるのことが予想される。

今回、自民党は裏金問題で派閥の解散を決めた後、初めての総裁選になる。党の関係者からは「派閥としての動きは批判を浴びるので、小さなグループごとの動きになるのでないか」との声を聞くが、党員投票や議員票獲得がどのような形で行われるのか、はっきりしない。

一方、国民の多くは総裁選の投票権を持っていないが、政権与党としての対応を見極めようとしている。裏金問題に本当にケジメをつけたのか、総裁選の候補者の世代交代は進んだか、政策面では何を優先課題として打ち出すのかといった点に関心が集まるものとみられる。

総裁選の勝敗のゆくえだけでなく、自民党自体のあり方、政権与党としての役割、信頼性などが問われることになるのではないか。

9月は、野党第1党・立憲民主党の代表選挙もほぼ同じ時期に行われる見通しだ。そして、速ければ年内にも衆院解散・総選挙が行われる可能性が高いとみられている。私たち有権者も自民、立民のリーダー選びを注視しながら、次の衆院選本番の選択に備える必要がある。(了)

”無党派主流現象”と政治のゆくえ

先の東京都知事選挙で、政党からの支援を受けなかった無所属・新人の石丸伸二氏が165万票余りを獲得し、蓮舫・前参議院議員の128万票余りを抑えて2番手に食い込んだことが与野党に衝撃を与えた。

一方、全国規模の世論調査でも、支持する特定の政党がない「無党派」がこの10年余りで最も多い割合を占めるようになった。無党派層は90年代後半に大幅に増えたが、なぜ今、再び無党派が増えて国民の主流を占めるようになったのか、さまざまな面から分析してみたい。

 首都決戦、投票者の半数が無党派層

今月7日に投開票が行われた東京都知事選と、9つの都議補選の結果の分析については前号で取り上げたので詳しくは繰り返さないが、首都決戦の大きな特徴の1つが、実際に投票した有権者の半数近くを無党派層が占めたことだ。

NHKが投票者を対象に行った出口調査によると投票者のふだんの支持政党は、◇自民支持層が25%、◇立憲民主支持層が10%、◇共産支持層が4%、◇公明支持層が2%などと続いた。最も多かったのは、◇支持政党がない無党派層で、48%だった。

無党派の規模は、自民支持層の倍、立憲民主支持層の5倍に達し、多くの無党派層が投票所に足を運んだことが浮き彫りになった。

また、NHK出口調査のうち、「期日前投票を済ませた有権者」を対象にした調査結果が興味深い。選挙期間中の9日間を選んで、2万人余りを対象に行った調査だ。

調査初日の6月22日の時点で、トップは小池知事で大きくリードしており、2番手を石丸氏と蓮舫氏が横並びで争っていた。その後も、小池知事は得票率は下降傾向を示したものの、一貫してトップの座を維持した。2位争いは接戦が続いたが、最終盤で石丸氏が支持を伸ばして、蓮舫氏を上回った。

当初、メデイアの多くは「小池知事と蓮舫氏の与野党対決、これを石丸氏が追う構図」とみていた。私も同じような見方をしていた。ところが、出口調査によると当初から「小池知事が大きくリードし、次いで蓮舫氏と石丸氏が横並びで追う展開」が実態に近かったということになる。

小池知事については、選挙前に子ども1人あたり月5000円の支給を始めるなど現職の立場を活かした取り組みを進めていたことから、選挙戦で優位に立つだろうと予想していた。他方で、学歴詐称問題が再び問題視され、3期目で勢いに陰りも指摘されたことから、小池知事の選挙情勢を慎重に見極めるのは、取材者として当然の対応だと考えていた。

選挙結果は、小池知事が291万票を獲得して大勝、次点が石丸氏で165万票、蓮舫氏が128万票で3位に沈んだ。小池知事は、自民・公明支持層をはじめ、都民ファースト、無党派、維新、国民民主など幅広い層の支持を集めた。

最も多い無党派層の投票状況は、石丸氏が30%余りで最も多く、次いで小池知事の30%余り、蓮舫氏は20%に止まった。石丸氏と、蓮舫氏の勢いは、この「無党派層の獲得率」の差が大きく影響した。

石丸氏は、無党派層が多い若い世代に焦点を絞り、強い政治メッセージを発しながらSNSやYouTubeを駆使して、支持を拡大していく戦略が功を奏した。

蓮舫氏は60代、70代以上では一定の支持を得たが、、若い世代や、特に女性有権者で支持が広がらなかったことが響いた。

蓮舫氏をめぐっては、選挙後も議論が続いているので、少し触れておきたい。敗因について「立憲民主党と共産党の支援が前面に出すぎて無党派層の支持が離れた」との見方が、今回も提起されている。

一方、「若い世代の知名度、親近度が弱いのが影響した」との見方があるほか、「現職の知事に対して、説得力のある争点設定ができなかった」との指摘を聞く。選挙の敗因については、複数の要因が重なるケースも多く、掘り下げた分析が必要だ。

いずれにしても、今回の首都決戦では、無党派層の存在感と影響力が目立った。一方で、政権与党の自民党は裏金問題の逆風が大きく響き、候補者すら擁立できなかった。

野党第1党の立憲民主党も、自民党に代わる政権の受け皿としては、有権者の評価を得るまでに至らなかった。こうした既成政党に対する有権者の根深い不信が強く現れた選挙だったと言えそうだ。

無党派急増・第1党、秋の政局を左右

7月の政治の動きの中で、もう1つの大きな特徴として、全国規模の世論調査で、支持政党なしの無党派層が急増していることが挙げられる。具体的には、NHKの7月世論調査(5~7日)のデータで、無党派層は47.2%まで上昇した。

無党派層の割合は、岸田内閣が発足した2021年10月の時点で36.1%、その後も30%台前半で推移していた。今回の水準は、内閣発足から2年10か月で11ポイントも急増した。自民党が2012年に政権復帰して以降を調べても、最も大きな規模に膨れあがった。

自民党支持率を無党派が上回り、”第1党”に代わるようになったのは、去年5月だ。当時、自民党支持率は36.5%、無党派は38.9%でわずかに上回った。この時を境に1年3か月連続で第1党は無党派、特に去年12月以降は、その差が大きく拡大している。

こうした原因、背景は何があるのか。政権が混乱したり、短命政権が続いたりした時期に、無党派層が増加した。古くは1990年、海部内閣当時「支持なし層」は14%に過ぎなかった。その後、自民党の1党優位体制が崩れ、連立政権が次々に入れ替わるのに伴って90年代半ばに30%台、90年末には52%まで増加した。

世論調査の方法も異なっているので、単純には比較できないが、政権与党の支持率低下に伴って、無党派層が急増し第1党を占めて有権者全体の主流を占めるようになった。

岸田政権に話を戻すと、7月の内閣支持率は25%で、9か月連続で20%台で低迷している。自民党の政党支持率も28.4%、5か月連続で30%割れの状態が続いている。裏金問題の影響が大きく、政権離れ、自民離れがともに進んでいる。

問題はこれからどのように推移し、政権や政局にどう影響するかだ。岸田首相は、秋の自民党総裁選挙での再選をめざして立候補をめざしているが、内閣支持率、自民党支持率ともに低迷が続くようだと、前途は厳しいのではないか。

ポスト岸田をめぐっては多くの候補の名前が取り沙汰されているが、まだ正式に名乗りを上げる候補は出ていない。来月には総裁選の日程も決まり、最終的な候補の顔ぶれが一気に決まる見通しだ。

一方、野党第1党・立憲民主党も9月代表選に向けて、党内の動きが始まりつつある。今月のNHKの世論調査では党の支持率が6月の9.5%から、5.2%へ4.3ポイントも急落した。都知事選の対応が影響したのではないかとみられるが、次の衆院選に向けた党の体制づくりが、代表選の大きな争点になりそうだ。

自民党内では、9月の総裁選で新たな総裁が決まれば、年内に衆院解散・総選挙が行われる可能性が大きいとの見方が広がっている。来年夏には、東京都議選、参院選挙も行われる。

自民、立民のトップ選びを経て、次の衆院選挙の争点はどんな課題が浮かび上がることになるのか。あるいは、新たな政権が求心力を回復することになるのかどうかも焦点になる。

こうした政権、与野党の対応によって、無党派層が次第に縮小に向かうのか、逆に高止まりするのかが決まってくる。いずれにしても、有権者の主流を占める無党派層がどのような判断・対応を取ることになるのか、秋以降の政治の流れを左右することになる。(了)

”無党派・政治不信旋風”首都決戦

過去最多の56人が立候補した東京都知事選挙は7日投開票が行われ、小池知事が大勝し3選を果たした。次点は、広島県安芸高田市・前市長の石丸伸二氏、3位は前参院議員の蓮舫氏という事前の予想とは異なる結果となった。

一方、同じ7日に投開票となった東京都議補欠選挙で自民党は、9選挙区中8人の候補者を擁立したが、当選は2人に止まり、裏金問題の逆風が収まっていないことがはっきりした。

今度の都知事選と都議補選の首都決戦から、何が読み取れるのか?結論を先に言えば”無党派層の投票者が増え、既成政党に対する不信と批判が現れた選挙”ではないか。なぜ、こうした見方をするのか、以下、説明したい。

多数の無党派層投票 選挙結果を左右

まず、東京都知事選挙の構図については当初、小池知事が先行し、蓮舫氏と、石丸氏が追う展開と予想していた。終盤、石丸氏が急速に追い上げているとの見方もあったが、立憲民主党や共産党などの支援を受ける蓮舫氏が逃げ切るのではないかと個人的にはみていた。

結果は、冒頭に触れたように小池氏、石丸氏、蓮舫氏という順番で、決着がついた。小池氏先行というのは現職の立場に加えて、自主支援を打ち出した自民、公明両党支持層からの分厚い支持が想定され、小池氏優勢は妥当な判断だろう。

一方、蓮舫氏と石丸氏の順位が入れ替わったのはなぜかという点だが、これは、投票者を対象にしたNHKの出口調査のデータをみると、理由がわかる。それが今回の選挙の大きな特徴でもある。

今回の都知事選で、投票した有権者の「ふだんの政党支持」をみると、自民支持は25%、立憲民主党支持は10%などと続いている。これに対して、特に支持している政党はない、いわゆる無党派層は48%だった。

大都市・東京は無党派層が多いといわれてきたが、今回は自民支持層の倍近い規模だ。立憲民主党支持層との比較では、5倍にも達する。投票者に占める無党派の比率がここまで伸びたことはなかったのではないか。

つまり、投票所に足を運んだ有権者のおよそ半数が、無党派層。この無党派層から最も多く獲得したのが石丸氏で30%余り、次いで小池氏30%余りだった。これに対し、蓮舫氏は20%に止まった。「無党派層の獲得率」の違いが、勝敗と順位を大きく左右する。これが今回選挙の第1の特徴だ。

 既成政党への不信、批判が鮮明に

次に、都議補選をみると今回は、品川区、中野区、八王子市など9つの選挙区で行われた。自民党は8つの選挙区で候補者を擁立したが、獲得議席は2つに止まった。2勝6敗、選挙前の5議席からは3議席を失ったことになる。

議席を獲得したのは、小池知事が率いる地域政党「都民ファースト」が3議席、無所属が3議席、立憲民主党1議席となった。立憲民主党以外いずれも小規模な政治団体、または個人だ。

自民党は都民ファーストや無所属候補らと競り合ったが、最終的に競り負けた。自民党の選挙関係者に聞くと「自民党に対する不信や批判は厳しかった。但し、それは自民党だけでなく、立憲民主党にも向かった。無党派層を中心に、既成政党に対する姿勢が強烈に現れた選挙だった」と語る。

「そうした批判票が、石丸氏に最も多く流れた。小池知事でもなく、蓮舫氏でもない、批判票の受け皿に石丸候補がなった」との見方を示す。石丸氏は、無党派層を主要ターゲットにSNSを徹底して活用したことが功を奏した。

さて、自民党の評価だが、都知事選では独自候補を擁立できなかったものの、小池知事を自主的に支援することで敗北は免れる形になった。しかし、重視していた都議補選で思うような結果は出せなかった。裏金問題に対する有権者の厳しい評価は、変わっていないことが明らかになったと言える。

一方、立憲民主党については、蓮舫氏が3位に沈んで党内に衝撃が走った。立憲民主党は、4月の衆院3補選で連勝、5月の静岡県知事選でも勝利を重ねた。今度の都知事選で勝利すれば、次の衆院選に向けて弾みになると期待していただけに打撃は大きい。

蓮舫氏の対応をみていると、準備不足やちぐはぐな対応が次々に露わになった。立候補表明時には「反自民、非小池都政」との立場を鮮明に打ち出したが、「都政に、国政の対立を持ち込むな」といった批判を浴び、トーンダウンした。

一方で、幅広い都民の支持を得るとして、立憲民主党を離党したが、選挙運動では共産党が前面に出て活動したことから、無党派層や保守層が警戒して引いてしまったとの指摘も聞く。

さらに根本的な問題としては「小池知事との争点の設定」が明確ではなかったのではないか。小池知事側が候補者同士の討論を避けたとの情報も耳にしたが、都政のどこを変えていくのか、都民に強く訴えることができなかった。

その結果、無党派層へ浸透していく迫力がなく、既成政党批判の波に飲み込まれてしまったようにみえる。

 岸田政権、今後の政治への影響は

それでは、都知事選や都議補選が、岸田首相の今後の政権運営や、政治の動きにどんな影響を及ぼすだろうか。

都知事選の結果は、小池氏自身が現職の強みを発揮したことが大きい。自民党が自主的な支援に回ったからといって、党の評価が好転するといったことはないだろう。したがって、都知事選の国政への影響はほとんどないとみている。

一方、都議補選の敗北をめぐっては、さっそく東京選出の議員から「このままでは次の衆院選は勝てない」として、岸田首相の辞任を求める声が公然と出された。9月の自民党総裁選に向けて、今後、尾を引くことなりそうだ。

これに対して、岸田首相は、外交日程などをこなす一方、「先送りできない課題に1つずつ、結論を出していく」として、政権継続に強い意欲をにじませている。総裁選の選挙日程が固まる8月下旬頃には、首相の去就を含め総裁選の対応が大きなヤマ場を迎える見通しだ。

一方、立憲民主党は、都知事選の敗因などの分析を進めるとしている。党内から、共産党との連携のあり方を見直すべきだという意見も聞く。9月の代表選挙とも絡んで、党の路線問題も議論になりそうだ。

立憲民主党は前身の民主党時代から、党の足腰の弱さが課題になってきた。また、政権交代で何を重点的に取り組むのか、旗印を明確に打ち出すべきだといった意見も聞かれる。このため、路線問題だけでなく、政権構想を具体的に打ち出したりしなければ国民の支持は広がらないだろう。

自民党総裁選挙の後、年内に次の衆院選挙が行われる可能性が高いという見方が広がりつつある。衆院選は、都知事選挙のような首長1人を選ぶ選挙と違い、政党本位の選挙だ。自民・公明対、非自民・野党各党の戦いが基本になる。首都決戦で変化を巻き起こした「無党派・政党不信旋風」はどこに向かうかのか、注目していきたい。(了)

 

 

 

自民総裁選”地殻変動に対応できるか”

通常国会の閉会に伴って、9月に行われる自民党総裁選をにらんだ動きが始まった。先月23日には、菅前総理が事実上の岸田首相の退陣を求める発言が党内に波紋を広げている。

一方、岸田首相が続投に意欲をにじませていることもあって、ポスト岸田の候補とみられる幹部は、いずれも自らの立候補に言及することを避けている。しばらくは、各候補とも水面下で準備体制を整えていくものとみられる。

総裁選の注目点は、1つは岸田首相の進退で、続投をめざすのか、退陣もありうるのか。2つ目は、候補者として「石破、河野、高市、茂木の各氏にプラスα」(党関係者)との見方もあるが、最終的にどんな顔ぶれになるのかだ。

3つ目に派閥解散の下での総裁選びのプロセスがどうなるか。キングメーカーとして麻生、菅両氏が力を発揮するのか。それとも党員、議員の自主的な判断が強まったり、中堅議員グループから新たな候補者が出たりするのかが注目される。

候補者が態度を表明するまでには、時間がかかりそうだ。総裁選の選挙管理委員会が設置され、選挙日程の協議が始まる8月に入ってからになるとみられる。

そこで、今回は兼ねてから気になっていた点、具体的には、岸田政権の支持率や、自民党の政党支持率がそろって大幅に下落している現象をどのようにみたらいいのか、掘り下げて考えてみたい。

内閣・自民党も支持者激減の地殻変動

さっそく、国民が岸田政権や今の自民党をどのようにみているのか、6月のNHK世論調査(7~9日実施)のデータを基にみてみたい。

◆岸田内閣の支持率は21%まで下がり、不支持は60%にまで増えた。岸田内閣が発足した2021年10月以降で最も低く、自民党が政権復帰した2012年以降でも最低の水準だ。

◆自民党の支持率も25.5%まで下落した。内閣支持率が下落しても、これまでは自民党支持率は比較的高い水準を維持してきたが、岸田政権では、内閣支持率、自民党支持率がそろって下落が続く異例の状態が続いている。

自民党の支持率が30%ラインを割り込んだのは、自民党政権下では麻生政権以来だ。2009年8月に衆院解散・総選挙に踏み切る直前の支持率は26.6%だった。今回は、この時の水準も下回っている。

当時の野党第1党・民主党には勢いがあり、支持率も20%台後半まで伸ばしていたので、今とは大きな違いがある。直ちに政権交代が起きる状況にあるわけではないが、危機的状況にあることは間違いない。

この原因としては、岸田政権と自民党の裏金問題への対応について、国民の多くが強い不満や不信を抱いていることが影響しているものとみられる。裏金問題をきっかけに「世論の政権離れ、自民党離れ」が急速に進んでいるわけだ。

この「支持離れ」は、岸田内閣の発足時の2021年10月と、今年6月とを比較するとわかりやすい。◆内閣支持率は49%から21%へ実に半分以下に急落。自民支持層だけに限っても岸田内閣の支持割合は7割から5割に下がっている。

◆自民党支持率も41.2%から25.5%へ16ポイント、割合にして4割も減少している。このように内閣、自民党ともに支持者離れが劇的に起きているので、「地殻変動」と表現しても言い過ぎではないだろう。

総裁選による復活論は通用するか?

それでは、岸田首相や自民党執行部は、こうした支持者離れの地殻変動をどのように受け止め、対応しようとしているのか。

岸田首相は6月21日の記者会見で「政治資金パーテイー券購入者の公開基準の引き下げなど政治資金規正法改正が実現できた」と成果を強調するとともに「国民の最大の関心事項は、経済・物価・賃金にある」として、物価や経済対策に全力を上げる考えを表明した。

自民党の閣僚経験者に聞いてみると「党の基本戦略は、秋の総裁選を華々しく展開し、人材が豊富にいることと政策立案能力を示すこと。そのうえで新総裁の下、時間を置かずに衆院解散・総選挙に打って出て勝利することに尽きる」と語る。別の幹部からも同様の考えを聞く。

岸田首相や自民党幹部は「支持率減少は、政治資金問題による一時的な現象で、総裁選を盛り上げていけば、国民の支持と、以前のような強い自民党への復活は可能だ」という認識に立っているように見える。

確かに従来はそのような対応で状況を打開できたが、今回も同じようにいくとは限らない。というのは、岸田政権に対する世論の批判は「裏金問題への対応ができていない」として、未だに強い怒りや不信を抱いているからだ。

その後の新聞各社の世論調査の結果をみれば一目瞭然だ。成立した改正政治資金規正法について「効果がない」が77%(朝日、15・16日調査)、「評価しない」56%(読売21~23日調査)。

一連の政治資金問題については、岸田首相は「指導力を発揮していない」78%(読売調査)となっており、国民の厳しい評価は以前と変わっていない。

このように裏金問題の評価をめぐっては国民と、岸田首相や自民党執行部との間に「大きな認識のズレ」があることが読み取れる。こうした国民の認識、政権に対する不信感などに真正面から向き合い、対応策を打ち出していかない限り、支持率の回復は極めて困難だろう。

総裁選、衆院選ワンセットの政治決戦

ここまで岸田政権と自民党の支持者離れ現象をみてきたが、「総裁選で新しい総裁が選出されれば、事態は変わるのではないか」といった指摘が予想されるので、この点についても触れておきたい。

確かに、その可能性はないとはいえない。但し、今回の支持率減少は、一過性の現象とはみえないので、新総裁誕生で直ちに事態改善へとは進まないのではないかというのが私の見方だ。

というのは、支持者離れは一時的ではないからだ。NHK世論調査で見ると岸田内閣の支持率を不支持率が上回る「逆転現象」は去年7月以降、12か月続いている。自民党の支持率も30%ラインを割り込むのは今年3月以降、4か月連続になる。

また、安倍政権当時も内閣支持率が低下したこともあったが、2,3か月程度で早期に回復し、復元力の強い政権だった。その後の菅政権、岸田政権ともに支持率低迷が続き、回復力の弱い政権と言えそうだ。

さらに、先に触れたように支持率減少の原因に踏み込んだ対応策を打ち出していないので、状況は改善されないままだ。このため、総裁選で仮に「政権・政党の表紙」を変えたとしても、支持率回復に結びつかない公算が大きいという見方をしている。

さて、今度の自民党総裁選は、新総裁が選ばれると時間を置かずに衆院解散・総選挙が行われる可能性が大きい。総裁選と衆院選とが、事実上、ワンセットの政治決戦ということになる。

そうすると衆院選で勝てなかった場合は、その責任を問われ短命政権として終わる可能性もある。こうした事態を避けるためにも「支持基盤の地殻変動」に真正面から向き合い的確に対応できるかどうかが大きなカギを握っている。

具体的には、国民が選挙の争点の1つに想定するとみられる「政治とカネの問題」に対応策を打ち出せたか。そのうえで、何を最重点課題として打ち出していくのか、さらには新総裁の能力や力量などが問われることになる。

一方、国民としては、同じ9月に行われる野党第1党・立憲民主党の代表選挙も注目していく必要がある。世論調査では、次の選挙後の政権として、自公政権の継続と、野党中心の政権交代を望む意見とが接近しつつある。

政治に緊張感を持たせ、よりよい政策を打ち出していくためにも、しっかりした野党が必要だ。内外ともに激しい動きが予想される中で、与野党が競い合う政治の実現をめざしてもらいたい。私たち国民も、どちらの主張を支持するか、的確な評価と判断を次の選挙で示していきたい。(了)

 

 

自民総裁選”首相進退、戦いの構図が焦点”

長丁場の通常国会閉会に合わせたかのように、秋の自民党総裁選挙への動きがあわただしくなってきた。

岸田首相が、会期末の記者会見で再選への意欲をにじませれば、直後に菅前総理が、事実上の退陣論に言及するなど総裁選に向けた思惑が激しくぶつかり始めた。

今度の自民党総裁選は、裏金問題で派閥の解散が決まった後の最初の総裁選になり、どのような構図になるのか、まだはっきりしない。岸田首相の進退をはじめ、総裁選はどこが焦点になるのか探ってみる。

広がる首相交代論、政権浮揚がカギ

国会が事実上の閉会となった21日夜の記者会見で、岸田首相は「政治家の責任強化などを含む政治資金規正法改正を実現することができた」と胸を張った。

そして物価高対策として「8月から3か月電気・ガス料金の補助を行う」とともに秋に第2弾として「年金生活世帯などを対象に、追加の給付金の支援を検討する」ことを表明し、秋の自民党総裁選とその後の政権運営に強い意欲をにじませた。

この首相会見から2日後の23日夜、菅前総理がネット番組に出演し、裏金問題を受けた党の状況について「岸田首相自身が責任をとっておらず、不信感を持つ国民は多い」とのべ、この間の岸田首相の対応を批判した。

そのうえで、自民党総裁選について「自民党が変わったという雰囲気作りが大事だ。国民に刷新感を持ってもらえるかが大きな節目になる」とのべ、事実上、岸田首相の退陣論に言及した。

裏金問題の対応をめぐっては、自民党の若手議員などから「岸田首相は公明党に譲りすぎだ」といった不満や反発の声が出ていた、今回は、狙いすましたようなタイミングで、総理経験者が首相の責任に言及した影響は大きく、党内に波紋が広がっている。

それでは、これから総裁選はどのように展開するか、現在の立ち位置を確認しておきたい。報道各社の世論調査によると岸田内閣の支持率は20%台前半から10%台後半まで続落。自民党支持率も20%台半ばから10%台後半まで下落し、いずれも2012年の自民党政権復帰以降、最低の水準に落ち込んでいる。

こうした原因は裏金問題への対応が「不十分」で、岸田首相が「指導力を発揮できていない」と受け止められているためだ。

自民党長老に現状の評価を聞くと「国会終了とともに総裁選への号砲が鳴ったということだろう。但し『岸田降ろし』が直ちに起きる可能性は低い。ジワジワと包囲網が狭まるのではないか。岸田首相の再選への道は険しい」と指摘する。

自民党内では岸田首相交代論が、次第に広がりつつあるようにみえる。これに対して、岸田首相が政権浮揚策を打ち出し包囲網を突破できるか、それとも撤退・退陣を余儀なくされることになるのか。ここが、総裁選の第1のポイントだ。

8月上旬に自民党総裁選の選挙管理委員会が設置され、下旬までには選挙日程が固まる見通しだ。この時期に首相の進退問題が大きなヤマ場にさしかかるのではないかとみている。

麻生・菅両氏、ポスト岸田の選択肢は

次に今度の総裁選は、裏金問題を受けて派閥が解散し、派閥なき総裁選ということになる。具体的な選挙の構図はまだ、わからないが、それでも党内の実力者・キーパーソンの影響力は残ることになるだろう。

その1人が、岸田首相が頼りにしている麻生副総裁だ。ただ、岸田首相と麻生氏との関係は「政治資金パーテイーの扱いをめぐって麻生氏の説得を振り切る形で、岸田首相が公明党の要求を受け入れたことから、深い溝が生じている」とされる。

岸田首相は18日になってようやく麻生氏との会食にこぎつけ「有意義な会談だった」と関係修復を強調している。

ところが、麻生氏側は「この間の岸田首相の派閥解散、関係議員の処分の決め方、公明党への譲歩などに対する不満が消えておらず、別の選択肢に傾いている」(自民党関係者)とされる。この選択肢ははっきりしないが、兼ねてから上川陽子外相を想定しているのではないかとの見方は消えていない。

もう1人のキーパーソンが、先に触れた菅前総理だ。菅氏は総理・総裁の座を岸田首相に追われたこともあり、岸田首相とは距離を置いてきた。菅氏もポスト岸田の具体名を挙げていないが、小泉進次郎元環境相、河野太郎デジタル担当相、加藤勝信・元官房長官、それに石破茂元幹事長ら「幅広い選択肢」を持っているのが強みだ。

自民党関係者によると「麻生、菅両氏ともに『岸田首相で難局乗り切りは困難』」との見方では共通している」とされる。そして、それぞれ新たな選択肢を模索しているという。その際、菅氏が、ポスト岸田の世論調査で最も人気の高い石破元幹事長を推すことになるのかどうかが大きなポイントになる。

というのは、麻生氏はポスト岸田候補として、石破氏については拒否感が強い。菅氏が石破氏を推す場合は、麻生、菅両氏が事実上、対決する形になる。両氏が最終的に誰を擁立することになるのか、それによって総裁選の構図が固まる可能性が大きいとみられる。ここが2つ目の焦点だ。

新たな候補者、問われる政治とカネ

今度の総裁選では、新たな候補者や勢力がどこまで台頭し挑戦することになるのかも注目点だ。自民党の中堅や若手議員は、裏金事件の批判を浴びて、次の衆院選挙のゆくえに強い危機感を抱いている。

このため、「自民党が政権政党として生まれ変わった姿を見せる必要がある」として、中堅議員から新たな候補者を擁立しようという動きが続いている。

具体的には、斎藤健・経産相(当選5回)、小林鷹之・元経済安保担当相(当選4回)、古川禎久元法相(当選7回)らの名前が挙がっている。

このほか、上川陽子外相、高市早苗経済安保担当相、野田聖子元少子化担当相ら女性議員の名前も取り沙汰されている。派閥解散に伴い、これまでにない人数の候補者が名乗りを上げるのではないかとの見方もある。

また、自民党内では、岸田内閣、自民党の支持率ともに低迷する苦境に追い込まれていることから、総裁選で「新しい顔」を選んだ後、直ちに衆院を解散し、国民の支持を集めて危機を乗り切ろうという考え方が強い。

但し、国民は世論調査にみられるように「自民党は、裏金問題を本当に反省しているのか疑わしい」と疑念や不信の念は変わっていないのではないか。政治とカネの問題について、新たな踏み込んだ対応策を打ち出さないと、選挙の顔を変えた程度では状況は好転しないと思われる。

こうした新たな候補者や勢力の台頭、あるいは、政策や政治課題で国民の信頼を取り戻せるような取り組みができるのか。これが3つ目の大きなポイントになるのではないかとみている。

立民、政権構想と野党連携は進むか

一方、野党側の対応はどうなるか、秋以降の政局に影響を及ぼす。特に野党第1党の立憲民主党の態勢と戦略が問われる。

具体的には、自民・公明の与党に対して、どのような対立軸を設定して臨むのか、政権構想がカギを握る。焦点の裏金問題については、野党として共同の改革案をまとめ上げて、早期に実現を迫ることができるのかどうか。

また、暮らしや経済、社会保障などの分野で、現実的で説得力のある政策をとりまとめ、秋の臨時国会での論戦や次の衆院選での争点に持ち込めるかが試される。

さらに立憲民主党は、9月に泉代表の任期が満了になる。泉代表が続投するのか、野田佳彦元首相や、枝野幸男元官房長官らを推す声もあり、「党の顔」をどうするかという難題も抱えている。

立憲民主党としては、代表選びで足を引っ張り合うような余裕はなく、政権構想づくりや党の結束力を強めることができるか。そのうえで、次の衆院選に向けて、野党の連携を強めることできるかどうか課題は多い。

最近の世論調査で、次の衆院選挙後に望む政権については「自民党中心の政権の継続」と、「野党中心の政権に交代」が接近してきている。それだけに自民党総裁選と、立憲民主党の代表選がどのような展開になり、国民の支持を得るのはどちらになるのか、今後の動きを注視していきたい。(了)

 

裏金問題の法改正”やり直しが必要では”

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民党が提出した改正政治資金規正法が19日の参議院本会議で、自民、公明両党の賛成多数で可決、成立した。衆議院では賛成した日本維新の会をはじめ野党側はそろって反対した。

1月の通常国会冒頭から延々、議論を続けて法改正にこぎ着けたことは評価したいところだが、成立した改正内容をみると「期待外れ」と言わざるを得ない。報道各社の世論調査でも国民の多数は、今回の法改正を評価していない。

したがって、結論を先に言えば「やり直しが必要ではないか」と考える。なぜ、こうした結論になるのか、以下、その理由を説明したい。そのうえで、国民として、これからどうすべきか考えてみたい。

 法改正も透明性低く 残る抜け穴

まず、成立した政治資金規正法の内容については既に何度も取り上げたので、詳細は繰り返さないが、改正の対象が極めて狭い範囲に限られているのが大きな特徴だ。裏金問題にメスを入れることを願ってきた国民の認識と大きなズレがある。

次に政治資金の問題は「政治資金の透明性」をどこまで徹底するかが問われていた。焦点になった政党から幹部議員に渡される「政策活動費」については、支出の項目や年月が新たに報告されることになったが、領収書の公開は10年後だ。これでは「透明性」の確保につながらないと疑念を持たれるのは当然だ。

また、今回の法改正では、自民党と公明党、日本維新の会との修正協議を経て、「検討」項目が増えた。一見、改善が進んだように見えるが、例えば政治資金をチェックする第三者機関はどんな権限を持つのかはっきりしない。具体的な制度設計ができていないので、評価しようがないのが実態だ。

このように改正内容は部分的なので、従来の抜け穴、ザル法と言われる状態が続くことになる。

さらに、30年余り前のリクルート事件当時から問題になっていた企業・団体献金の廃止をはじめ、「政党活動費」の廃止、政治資金収支報告書のデジタル化の取り組みなど根本問題についても掘り下げた議論にはならなかった。

 裏金復活に議員関与、裁判証言で浮上

この国会では、もう一つ「裏金事件の実態解明」が大きな課題になったが、全く進まなかった。その大きな原因は、自民党の実態調査が甘く着手が遅れたことと、安倍派幹部が「知らぬ、存ぜず」に終始したことにある。

この裏金事件で、政治資金規正法違反に問われた安倍派の会計責任者、松本淳一郎被告の公判が18日、東京地裁で開かれた。この中で、松本被告は、一度は中止の方針が示されたキックバックが再開された経緯について、生々しい証言を行った。

「2022年7月末、ある幹部から再開を求められ、その後の幹部の協議で再開が決定した」。その協議に出席したのは「下村さん、西村さん、世耕さん、塩谷さんが集まって話し合いが持たれた。方向性として、還付はしようということになった」と証言。ただ「ある幹部」の具体名は明らかにしなかった。

この派閥幹部4人は政治倫理審査会で弁明したが、塩谷座長を除く幹部3人は「派閥の幹部の協議では、結論は出なかった」「自ら関わっていない」という趣旨の説明をしており、松本証言とは大きく食い違う内容だった。

この国会では、こうした幹部議員の弁明に対して、事実関係を解明するための証人喚問を行わなかった。また、派閥の会長経験者で裏金事件の経緯に詳しいとみられる森元首相を参考人として招致することも見送られた。

松本証言が明らかになったことから、国会として実態解明に向けて、安倍派幹部の証人喚問などを改めて検討する必要があると考える。

自民党・岸田政権、乏しい改革姿勢

それでは、裏金事件の実態解明が進まず、法改正も評価が得られない原因はどこにあったのか。通常国会も閉会するので、整理しておきたい。

今回の事件は自民党の派閥の裏金づくりにあったので、第一義的には各派閥に責任がある。同時に総裁として党全体を統括する立場にある岸田首相と、党執行部も大きな責任を負っている。

その岸田首相と党執行部の対応は事件発覚以降、不記載の実態把握の調査をはじめ、関係議員の聴き取り、国会での弁明、党の処分などいずれも後手の連続で、国民の失望と不信を招いた。

また、再発防止に向けた政治資金制度のあり方についても、公明党や野党各党は1月から2月にかけて、それぞれの党の独自案をまとめて公表した。

これに対し、自民党だけが独自案のとりまとめが遅れ、最終的に自民案を国会に提出したのは5月中旬と大幅にずれ込んだ。こうした自民党の後ろ向きの姿勢が国会での与野党の議論が深まらず、国民の理解も得られなかった大きな原因だ。

自民党の対応が後手に回ったのは、岸田首相らが党内の意見をとりまとめ、対応策を打ち出していく取り組みが弱かったことが挙げられる。党の運営や国会対応で場当たりの対応が目立ち、指導力が発揮できなかった。

その背景としては「岸田首相と茂木幹事長との確執で、政権が一体となって取り組む体制になっていなかった」と指摘する党関係者は多い。

さらにリクルート事件の際には、自民党の多数の議員が参加して党改革の議論を深め、党全体がめざす進路を「政治改革大綱」という文書として打ち出し、国民の理解を得ることができた。

それに比較して「今回は上は首相・党役員から、下は中堅・若手議員まで危機感と熱意に乏しく、大胆な改革に踏み出せなかった」と党幹部の1人は今後の影響を懸念する。

こうした一方で、野党に対して国民の期待が高まっているわけではない。今回、抜本的な政治改革まで議論できなかったのは、野党の力不足も大きい。今後どのような目標を掲げ、実現をめざしていくのか、野党の戦略と力量も厳しく問われる。

政治の流れを変えるか、世論の風圧

さて、これからの政治はどのように展開するのだろうか。政治資金制度の改革は成果を上げているとは言えないが、一方で、政治に変化の兆しがみられる。具体的には、岸田政権や自民党に対する世論の評価だ。

NHKの6月の世論調査(7日~9日実施)では、岸田内閣の支持率は21%、不支持率は60%。自民党の政党支持率は25.5%まで下落した。内閣支持率、自民党支持率ともに2021年の岸田内閣発足以降、最低の水準だ。自民党政権下の内閣としては、2009年麻生政権末期に近い状況だ。裏金問題の逆風が影響しているものとみられる。

朝日新聞の6月世論調査(15、16日実施)によると、岸田内閣の支持率は22%、不支持率は64%。自民党の支持率は19%で、2009年麻生政権末期の20%を下回った。裏金問題への岸田首相の対応は「評価しない」が83%、自民党の改正案が成立した場合、再発防止は「効果がない」とする回答が77%に達した。

また、次の衆院選挙の投票先(比例代表)としては、自民党が24%に対し、立民19%と接近している。その他の各党は、維新10%、公明6%、共産5%、れいわ5%、国民4%などと続いている。

このように世論の評価が、風圧となって政権与党の支持基盤を変えつつあることが読み取れる。また、国民の多数が、今回の法改正をほとんど評価していないことからも「政治改革のやり直し」が必要だと考える。

その際、国民の側は「政治とカネの問題」を忘れずにしっかり記憶し、次の選挙の争点として位置づけ、候補者や政党に対応を迫っていくことが必要だ。こうした世論の力が、今後の政治を変えていくことになるのではないかとみている。

今の国会は、21日に内閣不信任決議案の採決が行われた後、23日に閉会する見通しだ。閉会後は、秋の自民党総裁選に向けて激しい動きが予想される。但し、新総裁が選ばれても「政治とカネ」の問題に本気で向き合わないと、次の選挙で国民から厳しいしっぺ返しを受けることが予想される。(了)

揺らぐ岸田政権”世論の強烈な逆風”

長丁場の通常国会は会期末が23日に迫る中で、自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正をめぐる与野党の攻防が、大詰めの段階を迎えている。

こうした中でNHKが行った世論調査で、岸田内閣の支持率は21%と20%割れ寸前まで下落したほか、自民党の政党支持率も25.5%まで急落した。いずれも2012年に自民党が政権復帰して以降、最低の水準にまで落ち込んだことになる。

これまで内閣支持率が急落した場合でも、自民党の支持率は高い水準を維持してきた。今回のように内閣支持率と自民党支持率がそろって下落するのは異例で、2009年の麻生政権以来の現象だ。世論調査のデータを基に「揺らぐ岸田政権」の背景を探ってみたい。

岸田内閣の支持率下落 政権末期状態

さっそく、今月10日に公表されたNHKの世論調査(6月7日から9日)のデータからみていきたい。

岸田内閣の支持率は、5月の調査に比べて3ポイント下がって21%となった一方、不支持率は60%で、5月調査より5ポイント増えた。

今月の内閣支持率21%は、岸田内閣が発足した2021年10月以降、最も低くなった。また、2012年に自民党が政権に復帰した以降でも最低の水準になる。

一方、不支持率60%は岸田内閣発足以降、最も高い水準だ。安倍政権や菅政権の不支持率は、政権末期でも50%前後に止まっていた。

歴代の自民党政権を調べてみると麻生政権の2009年当時、70%台に上昇したことがあり、それ以来だ。その後の民主党政権下の3つの内閣でも政権末期の不支持率は60%台に達していた。

このようにみてくると岸田内閣の支持率は、政権末期とも言える水準にある。支持と不支持率の割合はおよそ1対3なので、仮に国民4人がいると3人が不支持という危機的状況にあることがわかる。

自民支持率 下野直前の水準まで下落

次に、自民党の政党支持率をみてみたい。今月の自民支持率は25.5%で、5月調査から2.0ポイントも下落した。2021年10月の岸田内閣発足当時、自民支持率は41.2%だったので、実に15.7ポイントも下落したことになる。岸田内閣発足以降、最も低くなった。

自民党が政権に復帰した2012年以降、自民支持率は安倍政権で30%台半ばから40%台前半、菅政権でも40%から30%台前半を維持してきた。この10年余りの期間で、今回が最も低い水準にまで落ち込んだ。

自民支持率が30%ラインを割り込んだのは、自民党政権下では麻生政権以来だ。下野する衆院選直前の2009年8月は26.6%だったので、今回はその水準も下回ったことになる。また、今回は内閣支持率だけでなく、自民支持率もそろって下落しているのが特徴だ。

ここで、野党の支持率もみておきたい。◆立憲民主党は9.5%で、先月から2ポイント上昇した。2020年8月に旧民主党勢力が合流して以降、最も高くなった。◆日本維新の会は3.6%で、0.9ポイント下落。◆共産党は3.0%、◆国民民主党は1.1%で、いずれも先月と同じだった。野党は3つの傾向に分かれた。

一方、◆公明党は2.4%で、5月より0.9ポイント下がった。自民党がまとめた政治資金規正法改正案に衆院段階で賛成した自民、公明、維新はいずれも先月に比べて支持率を下げたことになる。

政権に逆風、世論の強い不信と不満

さて、岸田内閣の支持率と自民支持率はなぜ、相次いで下落しているのか、その理由、背景には何があるのか分析を進めたい。

今月の世論調査では、裏金事件を受けた政治資金規正法改正案の評価を尋ねている。法案は、自民党と公明党、日本維新の会などの賛成多数可決されて衆議院を通過し、参議院で審議が続いている。

◆「大いに評価する」3%、「ある程度評価する」30%、合わせて「評価する」が33%。これに対して◆「あまり評価しない」32%、「まったく評価しない」28%で、合わせて「評価しない」が59%(四捨五入の関係)に上り、大幅に上回った。

また、法案の内容に関連して、現在は使いみちの公開が義務づけられていない政策活動費について「10年後に領収書を公開するとしている」点について、評価を尋ねた。

◆「妥当だ」は13%に止まり、「妥当ではない」が75%に達した。

このほか、政治資金パーテイー券の購入者を公開する基準額を、現在の「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げた点や、今回の改正案には企業・団体献金の禁止が盛り込まれていないことの是非についても尋ねた。いずれも改正案を「評価する」意見は少数に止まっている。

このように、自民党が公明、維新両党の主張を取り入れてまとめた政治資金規正法の改正案について、国民の評価は低い。その理由としては、政治資金の抜け穴を塞ぐ対策が十分にとられていないのではないかという強い疑念や、不信感が拭えないことが影響してているとみられる。

また、これまでの世論調査では、自民党が行ってきた党の裏金問題の調査や関係議員の処分、さらには再発防止策のとりまとめについても、内容が不十分で、対応も後手に回っているなどとして、厳しい評価が続いてきた。

こうした国民の不信や不満が、強烈な逆風となって岸田政権と自民党に吹きつけている状況を読み取ることができる。

カギは、裏金の実態解明と制度設計

それでは、これからの終盤国会や今後の政治の展開はどこがポイントになるのか、みておきたい。

政界の一部には、会期末に野党が内閣不信任決議案を提出するのをとらえて、岸田首相が乾坤一擲の大勝負に出て、衆院解散に踏み切るのではないかとの説が繰り返し流されてきた。

しかし、今の岸田政権には、解散・総選挙に打って出てるような状況にはないようにみえる。今月の世論調査でも、自民支持層の中で岸田内閣を支持する割合は52%で、半数程度に止まっている。

最も大きな集団である無党派層では、岸田内閣の支持率は10%にすぎない。自民党の長老も「勝算のない戦を党内が許すはずがない。6月解散はあり得ない」と強調する。

そうすると今後のカギは、この半年余り続いてきた裏金事件の実態解明と、政治資金規正法改正に区切りをつけることに絞られてくるのではないか。その役割をどの政党が中心になって果たしていけるのかに集約されるのでないかと思う。

自民党内では「国会を早く店じまいして、秋の総裁選挙で新しい顔を選んで、総選挙で出直しだ」といった声も聞かれる。だが、裏金問題を中途半端なまま「選挙の顔」だけ代えても、再び裏金対応を質され、国民の信頼を失う事態が予想される。

一方、野党側も自民党を批判するだけで、新たな仕組みをどこまで本気で迫っていくのか、野党の力量も問われる。形だけの追及でお茶を濁していると国会終了とともに支持者が離れていくことになりかねない。

つまるところ、政権、与野党が「新たな政治資金の制度設計」と「実態解明の道筋」をつけられるのかどうか。そうした取り組みで「政治の信頼回復の手掛かり」が多少とも残せるのかどうかにかかっているのではないかと思う。

但し、こうしたこともできないと、例えば岸田首相は、秋の総裁選に臨んでも再選への道は極めて厳しいことが世論調査からも読み取ることができる。最終盤の国会で、岸田首相や与野党がどのような対応をとるのか、次の総選挙への備えとしてもしっかり、見届けたい。(了)

“迷走と 低い改革度 ”規正法案 衆院通過

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民党が提出した政治資金規正法の改正案が6日、衆議院本会議で自民、公明、維新3党などの賛成多数で可決され、参議院へ送られた。これによって、この法案の今国会での成立が確実な情勢になった。

この法案の内容を見ると、政治資金の透明度や、抜け穴などと批判を浴びた現行制度がどこまで改善されるのか、はっきりしない。また、法案をめぐる自民党と岸田政権の対応には迷走が目立ち、政治改革をやり遂げる覚悟や意欲があるのか疑問に感じる場面も多かった。

今回の法案の衆議院通過という節目に、法案の中身の評価と、岸田政権それに与野党の対応や今後の注目点などを探ってみたい。

自民法案 透明性など低い改革度

さっそく、衆議院で可決された法案の内容からみていきたいが、その前にこの法案がどのような経緯を経て提出されたのか説明しておきたい。

この法案は自民党が単独で提出した法案について、公明党や日本維新の会との協議や党首会談を経て、法案の一部を修正し、3党の賛成で可決したものだ。

主な内容は◇議員の政治責任を強化する「連座制」導入のため、収支報告書の作成を議員に義務づけること。◇パーテイー券購入者を公開する基準について、現行の「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げること。◇党から支給される「政策活動費」については、項目ごとの使い途や支出した年月を開示し、10年後に領収書などを公開するなどとなっている。

国民にとって関心があるのは、こうした対策で、政治資金の透明性が徹底され、裏金や政治資金スキャンダルが止められるかどうかにある。結論から先に言えば、改善点は多少あるが、再発防止に実効性があるかどうかは不透明だ。

というのは、特別委員会の質疑でも指摘されたように「政策活動費」の領収書などの開示は10年後になる。その間、領収書の保存をどうするのか。政治とカネに関する法律の時効は5年で、10年後となれば罪に問えない公算が大きい。監視する第三者機関もいつ設置されるのか、これから検討するとしている。

自民党の修正案要綱には、具体的な改善内容が幾つも列挙されているが、いずれも「検討」項目だ。政治資金の基本である透明性が徹底されていない。

また、30年余り前のリクルート事件の時から宿題になっている企業・団体献金の扱いや、「政策活動費」の廃止といった点も取り上げられておらず、「改革の志向や度合いも低い」のが大きな問題点だ。

自民党が平成元年にとりまとめた「政治改革大綱」には「日本の政治は大きな岐路に立たされている。国民の政治に対する不信感は頂点に達し、深刻な事態を迎えている」「今こそ、自らの出血と犠牲を覚悟して、国民に政治家の良心と責任感を示すときである」と記されている。この指摘は今も通用する。

今回の法案審議でも提案者からは、こうした現状認識や改革の決意は全くと言っていいほど伝わって来なかった。国民の間では「期待外れ」「失望と落胆」などの受け止めが広がったのではないか。

政権迷走、場当たり対応が根本原因

次に、今回の法案作りと国会での各党の対応などについて、みていきたい。自民党は、当初から連立政権を組む公明党との間で「与党案」をまとめ、成立させることをめざしていた。

このため、大型連休明けの5月7日から両党の実務者レベルの協議を本格化させ、調整を進めたが、双方の溝は埋まらなかった。自民党は与党案を断念し、5月17日に単独で法案を提出した。連立政権を組む与党が、後半国会の最重要法案で合意できなかったのは極めて異例の事態だ。

その後、特別委員会の採決を控えた5月下旬になって、自民党は公明党の賛同を得るため、再び修正案を提示して関係修復を図った。公明党もこの修正案に賛成するものとみられていた。

ところが、公明支持者などの反発は強く、岸田首相は山口代表との党首会談に持ち込み、パーテイー券購入者の公開基準は「公明案を丸飲み」する形でようやく決着をつけた。

一方、日本維新の会と間では、岸田首相と馬場代表との党首会談で、政策活動費は「10年後に領収書などを公開する」との維新案を修正案に盛り込むことで合意した。

ところが、公開の内容をめぐって双方の食い違いが表面化し、与野党が決定していた特別委員会の審議と法案の採決日程が、土壇場で取り止めとなる前代未聞の事態が起きた。その後、自民党側が維新の要求を認め、再修正の合意にこぎ着けた。

このように自民党と岸田政権の対応は、当初から二転三転、法案修正の提示が3度も繰り返されるなどの迷走が続いた。こうした事態を起こす原因はどこにあったのだろうか。

自民党は、再発防止策の検討に当たっては、不記載の問題に絞り込んだため、口座を通じた資金管理や、議員の政治団体に対する監査の強化といった細々とした対策作りに重点が置かれた。

その結果、政治資金制度や政治改革全体に及ぶ党内議論は乏しく、党の幹部も「改革の熱が乏しい」と認めざるを得なかった。党の基本方針も示されなかった。

他の党は、いずれも1月から2月の段階で、政治改革方針をとりまとめ公表したが、自民党だけが大幅に出遅れた。報道各社の世論調査でも、岸田政権の取り組みを「評価しない」という声が多数を占めた。

さらに、自民党は独自案を示さず公明党との協議を続けたため、法案化や修正案づくりの面でも対応が後手に回った。

こうした結果、自民党は十分な準備が整わないまま、岸田首相が党首会談などでその都度、あわただしく方針を決める「場当たり対応」を重ねた。これが、一連の迷走が続いている根本的な原因だとみている。

岸田首相と自民 問われる統治能力

こうした岸田首相の迷走は、今回の政治資金規正法改正案の対応だけに止まらない。去年11月中旬に裏金事件が表面化して以降、年末の安倍派4閣僚の更迭をはじめ、年明けの派閥解散宣言、政倫審への自らの出席など“サプライズの対応”が続いている。

もちろん、岸田首相の対応に中には、動かぬ自民党を動かすにはトップリーダー自らが動かざるを得ない事情もあった。

一方で、党全体で議論して問題意識を共有し、そのうえで、政権が問題解決に向けた方針を打ち出し、様々な意見を取り入れながら、実行していく組織的な政権運営が必要だ。

ところが、岸田政権にはこうした組織的政権運営がほとんどみられず、首相が党の限られた政権幹部の協議を経て、大きな方針が突如と決まる事態が続いている。

今回もパーテイー購入者の公開基準の引き下げをめぐって、麻生副総裁と茂木幹事長は引き下げに反対、岸田首相が押し切ったとされる。党内は「パーテイー券購入者の公開基準は譲歩しすぎ」との不満が渦巻いているとされる。

岸田首相、自民党執行部ともに問われているのは、裏金事件を起こした当事者として、明確な方針を打ち出し、国民に説明を尽くす対応ができているか「統治能力」が問われているのだと思う。そして、世論の支持を得られているのかどうかが問題だ。

自民党は、衆院3補選で全敗したのをはじめ、静岡県知事選でも推薦候補が敗退、都内の区長選や議員補選でも負けが続いている。その要因としては、裏金問題の逆風が依然として大きく影響しており、岸田政権が有効に対応できていないことの証明でもある。

政治資金規正法の改正問題は、7日から参議院で審議が始まり、野党側は法案の再修正を求め、与野党の攻防が続く見通しだ。野党側は、維新が自民党の修正案賛成に回り、野党が分断される形になった。立民、維新どちらが野党内の主導権を確保し、党勢を増していくのかをみていく必要がある。

一方、岸田政権と自民党については、まずは、世論が自民党の修正案をどのように評価をするかが、大きなカギになる。仮にこれまでの自民単独案と同じように評価が低い場合は、次の段階として、自民党の統治能力や政権担当能力の評価にも影響を及ぼすことになりそうだ。

以上、みてきたように世論が今回の法改正をどのように評価するのか、極めて興味深い。9月末に自民党総裁としての任期満了を迎える岸田首相の進退問題や、次の衆院選挙のゆくえを占ううえでも、大きな判断材料として世論の動向を注目している。(了)

自民修正案 ”改革に遠い内容”

自民党派閥の裏金事件を受けた政治資金規正法の改正問題で、自民党は29日、修正内容を各党に示した。修正案は、改正案が成立し法律の施行から3年後に見直す規定などを盛り込んでいる。

この修正案について、これまで厳しい姿勢をとってきた公明党は「主張が一定程度認められた」と評価して賛成に回る方向だ。これに対して、野党側は企業・団体献金禁止が盛り込まれておらず「ゼロ回答」だとして強く反発している。

修正案の内容をみると自民党案の骨格は維持したままで、国民の多くが期待する踏み込んだ改革にはほど遠い内容に止まっている。なぜ、こうした評価をしているのか、今後の展開はどうなるのか探ってみたい。

自民修正案、骨格維持し小ぶりの手直し

後半国会の最大の焦点になっている政治資金規正法の改正をめぐっては、28日から衆議院の政治改革特別委員会で与野党の修正協議が始まった。

この中で、立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党各党は◇企業・団体献金の禁止、◇政党から幹部議員に渡される「政策活動費」の禁止や領収書の全面公開、◇それに「連座制」では、議員が会計責任者と同じ責任をとることを明確にするという3項目の共通要求をまとめ、自民党側に修正内容に盛り込むよう申し入れた。

これに対して自民党は29日、修正内容を各党に示した。それによると、今は使途の公開が必要ない「政策活動費」については、項目ごとの使い途に加えて、支出した年月を開示するとしている。

また、議員に政治資金規正法違反などがあった場合は、政党交付金の一部の交付を停止する制度を創設するほか、個人献金を促進するための税制優遇措置を検討するとしている。

そして、施行から3年をメドに法律を見直す規定を盛り込むとしている。

一方、野党側がそろって求めている企業・団体献金の禁止や、「政策活動費」の支給の禁止などは盛り込んでいない。

また、政治資金パーテイー券の購入者の公開基準については、現行の「20万円を超える」から「10万円を超える」まで引き下げるなどとした法案の骨格は維持するとしている。

このように自民党が示した修正内容は、自民党案の骨格は維持したうえで、各党の主張の一部をとり入れたり、情報の一部を追加したりしているが、極めて小ぶりの手直し案に止まっている。

 透明性、罰則強化の実効性も疑問

こうした自民党の修正案について、国民はどのように受け止めるだろうか?今回の裏金問題について、国民が強く望んでいるのは「政治資金の流れを徹底して透明化すべきだ」という点が1つ。

また、議員が多額の裏金を受け取りながら「知らぬ存ぜぬ」を繰り返し、会計責任者に責任を押しつける姿を目の当たりにしたことから「違法行為を行った議員に対する罰則の強化」も必要だとの思いが強い。

さらに、同じような不祥事を繰り返さないために「政治資金制度の仕組みやあり方について、改革を進めて欲しい」との期待も強い。

以上のような視点で、自民党の修正案をみると国民の期待するような改革には、ほど遠い。一例を挙げると党が幹部議員に渡す「政策活動費」は、領収書の添付は必要ないとしている。これでは、多額の活動費がどのような目的で、何に使われたのか、引き続き闇の中ということになりかねない。

パーテイー券の公開は「10万円超」に引き下げるとしているが、公明党も主張しているような寄付の公開基準である「5万円超」になぜ、できないのかという疑念も残されたままだ。

要は、透明性の徹底や、議員に対する罰則強化は本当に実現できるのか、実効性を担保するような仕組みになっていないのではないか。こうした疑念を残す内容になっている点が大きな問題であり、与野党の修正協議で改善してもらいたい。

 与野党の攻防、世論の評価がカギ

それでは、法案の扱いは今後、どのようになるのかみていきたい。自民党の修正案について、野党各党は、企業団体献金などに触れていないことから「ゼロ回答」「改革意欲が全く感じられない」などと強く反発している。

自民党は「前進させたいと思っているが、党内調整ができていない」として党内で検討した上で、再び各党と協議する方針だ。

自民党関係者によると「岸田首相は、自民党案をベースに公明党の協力に加えて、野党の一部の賛同も得て法案の成立をめざしている」とされる。

自民党は、参議院で単独過半数を確保していないので、法案の成立には与党・公明党の支持は不可欠だ。

その公明党は、党内で協議が続いているが、連立政権を組んでいることや、党の主張が一定程度、認められているとして、自民党案に賛成する方向で調整が続いている。自民、公明両党の足並みがそろうかどうかが、大きなポイントだ。

一方、野党側は、政策活動費の廃止や使途の公開などを要求するとともに、岸田首相との質疑を行うことを求めている。野党側の足並みが最後までそろうのか、要求の実現に向けて国会戦術を強める考えがあるのかも注目される。

さらに今回は、世論が自民党案にどのような評価をするのかが、大きなカギを握っている。というのは、26日に投票が行われた静岡県知事選挙では、野党系の候補が自民党の推薦候補を破って当選した。地域の選挙だが、「裏金問題と世論の逆風がボデイーブローのように効いた」との見方が強い。自民党にとっては衆院3補選全敗に続く、手痛い敗北となった。

報道各社の今月の世論調査でも、政治資金規正法改正に向けた自民党の対応について「評価しない」が読売新聞で79%、朝日新聞で62%に達している。岸田内閣の支持率、自民党の支持率ともに低迷が続いている。

今回、仮に修正された自民党案が成立しても、世論の評価が低い場合、岸田首相の政権運営をはじめ、秋の自民党総裁選、さらには衆院解散・総選挙の時期や勝敗にも大きな影響が出てくることが予想される。

政治資金規正法改正をめぐる与野党の攻防が、どのような形で決着がつくのか。そして、世論の評価と風向きはどのようになるのか、政治のゆくえを大きく左右することになる。(了)

 

 

 

裏金問題 最終攻防の見方・読み方

派閥の裏金問題を受けて、自民党が政治資金規正法の改正案を単独で国会に提出したのに続いて、立憲民主党と国民民主党が共同の法案、さらに日本維新の会も独自の法案を提出し、各党の法案が出そろった。

これを受けて、衆議院の政治改革特別委員会は22日に各党提出の法案の趣旨説明を行って審議入りした後、23日から法案の質疑と与野党の協議が本格的に始まる。

長丁場の通常国会も会期末まで残り1か月となった。政治資金規正法の改正案は成立にこぎ着けることができるのか、それとも与野党協議が決裂して見送りになるのか、最終段階に入った与野党攻防のゆくえを探ってみたい。

自民は単独で法案提出、深まる孤立

終盤国会最大の焦点になっている政治資金規正法改正案は、政権与党の自民、公明両党が共同で「与党案」を提出するとみられていたが、土壇場で両党の調整が不調に終わり、自民党が17日に単独で法案を提出した。

連立政権を組む自民、公明両党が重要法案で意見が折り合わず、自民党が単独で法案を提出するのは極めて異例だ。この背景には、自民党の裏金問題に対する世論の逆風が収まらず、公明党が自民党と距離を置くねらいがあるものとみられる。

こうした結果、自民党は元々、大きな隔たりがある野党側だけでなく、連立を組む公明党からも距離を置かれて、孤立を深める立場に追い込まれている。

自民党は、参議院では単独で過半数を確保していないので、法案を成立させるためには、公明党か、野党の一部の協力が必要になる。

このため、自民党は自らの法案の修正に応じるなど一定の譲歩が必要で、会期末に向けた法案の扱いは、不透明で複雑の展開をたどる可能性が大きい。

野党攻勢も 実現へ共同歩調を保てるか

野党側の対応はどうだろうか。野党各党は、ここまで裏金問題を厳しく追及し、世論の自民批判の受け皿となることをねらってきた。これからの政治資金規正法改正をめぐる議論でも、自民党に対する攻勢を強める方針だ。

野党各党とも企業団体献金の禁止をはじめ、政治資金の透明化、政治資金パーテイー券の公開基準の引き下げなどの基本的な方向では一致するが、具体的な方法などになると、党によって考え方や重点の置き方に違いがあるのも事実だ。

例えば立憲民主党は、国民民主党との間で「共同案」をとりまとめたことをアピールするとともに、政治資金パーテイーを全面的に禁止するための法案を単独で提出することなどで独自性の発揮をねらっている。

日本維新の会は、今の「政策活動費」を見直し、党勢の拡大や政策立案などの支出に限定したうえで、10年後に使い途を公開する新たな制度を盛り込んだ法案を国会に提出した。また、旧文通費の見直しも強く求めていく方針だ。

これに対して、自民党は公明党との協力を取り戻すとともに、維新の協力も取りつけて野党の分断を計り、主導権を確保したい考えだ。

但し、協力を求められる維新の側も、自民党に対する世論の逆風が強いことから、自民との連携には慎重な姿勢をとっており、両党が協力までこぎ着けられるかどうか見通しがついているわけではない。

こうした状況から野党側は、今の国会で各党共通の目標を絞りこみ、最後まで共同歩調をとれるかどうかが試されることになる。

 法改正 公開の徹底と実効性がカギ

次に法案の内容については、どこを注目してみていく必要があるか。先にみたように法改正では、企業団体献金の見直しなど多くの論点があるが、自民案の特徴は、今回の派閥による裏金問題の再発防止に重点を置いているのが特徴だ。

具体的には、政策集団に対する監査の強化や、政治資金パーテイー収入は現金ではなく、金融機関の口座を使うなど細かい改善点が多い。

また、パーテイー券の公開基準についても現行の「20万円を超える」から「10万円を超える」に引き下げているが、公明党の「5万円を超える」とも開きがある。自民案はパーテイー1回当たりの金額なので、開催回数を倍に増やせば、これまでと変わらず、相変わらず抜け道が多いとの指摘を聞く。

また、政党が幹部議員に年間10億円もの資金を渡す「政策活動費」についても、自民案では具体的にどのような支出に使われたのか明確になっていないほか、領収書の添付が義務づけられていないので、確認のしようがないといった批判が強い。

政治資金制度の基本は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判の下に置くことにある。今の制度は兼ねてから「抜け穴」が数多く指摘されてきたので、「公開」を徹底することが必要だ。

また、今回の裏金事件のように、違法行為を行った議員に対する罰則の強化が必要だ。このため、各党とも「連座制」を導入することでは、基本的に一致している。しかし、具体的な方法となると自民案と野党案では違いがあり、どちらが効果があるのか「実効性」を判断基準に議論をさらに深める必要がある。

 法案成立か見送りか 最終攻防へ

それでは、政治資金規正法の改正はどのような形で決着がつくのだろうか。自民党は、参議院で過半数を確保していないので、今の自民案がそのまま成立する可能性はほとんどない。与野党が歩み寄り、法案の修正の合意ができるかどうかがカギを握る。3つのパターンが想定される。

◆1つは、自民案をベースに公明党や、維新など野党の一部の意見を取り入れて修正案をまとめ、成立させるケース。

◆2つ目が、与野党が合意して修正案をまとめ、法案成立にこぎ着けるケース。この場合、今の国会で成立させる部分と、継続協議の部分との仕分けが問題になる。

◆3つ目が、与野党の協議が決裂し、法案の成立は見送りとなるケースが想定される。

こうした点に加えて、通常国会の会期末なので、◆野党側が内閣不信任決議案を提出することが予想される。その場合、与党が否決するケースが1つ。もう1つは、◆岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切る可能性もある。

国民の側もどのような展開が望ましいのか考えておく必要がある。個人的な考えを言わせてもらうと、裏金事件はこの半年間、日本の政治を大きく揺るがせ、国民の政治不信を増幅させてきた。

与野党の協議が決裂して何の結果も残さないよりも、これまでの議論を踏まえて、一定の対応策を法改正の形で示すことは必要で、与野党の責任ではないかと考える。

そのためには、政権を担当する岸田首相や自民党が、野党や国民の意見などを真正面から受け止め、法案の修正合意に大胆に応じることが必要ではないか。一方、野党側も自らの主張に固執するのではなく、大局的な判断を行うべきだと考える。

このほか、裏金事件の実態解明は全くと言っていいほど進んでいない。国民の政治不信を払拭するためにも、森元首相の参考人招致や、裏金の関係議員のほとんどが国会で弁明すら行っていないことについても、最低でも弁明書を出させるなどケジメをつける必要がある。

衆院解散・総選挙をいつ行うのが望ましいのか、世論調査でもかなり時期が分かれている。まずは、終盤国会で法案の成立や裏金事件のケジメをつけたうえで、判断すればいいのではないか。

裏金問題がどのような形で決着がつくのか。岸田政権の行方や、今後の政局の展開を大きく左右するのは間違いない。与野党の動きをしっかり注視していきたい。(了)                               ◆追記(22日21時):日本維新の会が22日、政治資金規正法の改正案を国会に提出した。これを受けて、各党の法案の提出状況の表現を一部、修正した。

 

 

 

 

政治とカネ”与党案に厳しい評価”

自民党派閥の裏金事件を受けて、自民・公明両党が先にまとめた政治資金規正法改正の「与党案」について、国民の8割近くが「評価しない」と厳しい評価をしていることが、NHK世論調査で明らかになった。

一方、岸田内閣の支持率は24%と低迷しているほか、自民党の支持率も30%を割り込んで、2012年の政権復帰以降、最低の水準まで落ち込んでいる。

いずれも、自民党の裏金問題への反省のなさや、改革に後ろ向きな姿勢が影響しているものとみられ、岸田政権は終盤国会で苦しい対応を迫られることになりそうだ。

 与党案と 首相の指導力に厳しい評価

終盤国会の焦点になっている政治資金規正法の改正をめぐり、自民・公明両党は9日、両党の幹事長が会談し「与党案」の概要をまとめた。

与党案では、政党が幹部議員に渡す「政策活動費」は、「議員からの報告に基づき、党が金額などを収支報告書に盛り込む」としたが、具体的な使途の公開の方法などは明らかになっていない。また、パーテイー券の購入者などを公開する基準についても結論を先送りにしている。

NHKの世論調査では、この与党案の評価ついて「評価する」は15%に止まり、「評価しない」が77%、8割近くに達した。

また、政治とカネの問題への対応で、岸田首相が指導力を発揮しているか尋ねたところ「発揮している」は19%で、「発揮していない」が74%に上った。

これを支持政党別にみると、自民党支持層でも「発揮していない」と答えた人が58%に達した。また、野党支持層では「発揮していない」がおよそ90%、無党派層ではおよそ80%を占めるなど首相の指導力に厳しい評価が示された。

内閣支持率低迷、自民支持率も落ち込み

岸田内閣の支持率は、4月調査より1ポイント上がって24%だったのに対し、不支持率は3ポイント下がって55%だった。

先月に比べるとほぼ横ばいだが、政権運営の危険ラインとされる30%を割り込んで、20%台が続くのは7か月連続。支持率を不支持率が逆転するのは、去年7月以降、11か月連続となった。

一方、自民党の支持率は、4月より1ポイント下がって27.5%だった。20%台に下がるのは今年3月以降、3か月連続だ。今月の27.5%は、2012年に自民党が政権復帰して以降、最も低い水準にまで落ち込んだことになる。

岸田内閣の支持率が低迷する理由としては、今月の調査で「景気がよくなっている実感がない」という人が80%に上ったほか、岸田首相が今年中に「物価上昇を上回る所得を必ず実現する」と表明していることについて、「期待しない」が62%を占めるなど政府の物価高騰対策や経済政策に対する不満もあるものとみられる。

こうした一方で、このところ内閣支持率だけでなく、自民党支持率も平行して下落しているのが特徴だ。

こうした背景には、去年11月に裏金事件が表面化して以降、実態解明が一向に進まないこと。また、岸田首相や自民党が再発防止と称して、政治資金の部分的な手直し案しか示さないことに対する国民のいらだちや、厳しい評価も影響しているとみられる。

 野党攻勢、自・公調整のゆくえは

それでは、政治とカネの問題は、これからどのように展開するだろうか。長丁場の通常国会も来月の会期末まで1か月余りを残すだけとなった。

野党各党は、裏金問題の実態解明に加えて、政治資金規正法の抜本的な改正に向けてそれぞれの党の独自案をとりまとめている。

このうち、野党第1党の立憲民主党と国民民主党は、法案の共同提出に向けて協議を続けており、衆院政治改革特別委員会を舞台に野党案の実現を迫る構えだ。

これに対して与党側は、岸田首相が13日の政府与党連絡会議で「与党間でしっかり協力し、今国会中の法改正の実現に全力を尽くしてもらいたい」とのべ、公明党との間で条文化の作業を進め、実現を図りたい考えを示した。

公明党の山口代表は「与党案をまとめたが、隔たりのあるところがあり、法案にするには困難な部分がある。与党として法案に必要な作業を行うべきだが、野党の意見も聞きながら、国会として合意を形成することが信頼回復につながる」とのべ、野党も含めた与野党協議を重視する姿勢をにじませた。

こうした背景には、与党案をめぐっては自公両党の間に考え方の隔たりがあることに加えて、公明党としては、裏金問題を抱える自民党と距離を置きたいねらいがあるものとみられる。

このように焦点の政治資金規正法をめぐっては、自民、公明両党の足並みがそろっていないことに加えて、自民党と野党各党都の間では、法改正の内容や範囲をめぐって大きな違いを抱えている。

岸田首相は今国会での法改正の実現を明言しており、14日に山口代表と会談し、自民党として法案の作成を進め、公明党側に示したいという考えを伝えた。

仮に法改正ができない場合は、岸田首相は大きな政治責任を負うことになる。このため、どのような道筋で実現を図るのか。野党の協力を得て与野党合意をめざすのか、与党だけで成立を図るのか、あるいは今国会での成立を見送るのか決断を迫られることになる。

一方、野党側は、法改正で要求が認められない場合、内閣不信任決議案を提出する公算が大きい。その場合、岸田首相は、粛々と否決するのか、それとも政界の一部にあるような衆院解散・総選挙に打って出るのか、緊迫した会期末を迎える可能性もある。

このため、まずは、与党の自民党と公明党との間で調整が進むのか、そしてどのような道筋で法改正の実現をめざすことになるのか、与党内の調整のゆくえが当面、最大の焦点になる。(了)

 

終盤国会2つの焦点、政治資金法改正と首相の求心力

大型連休が終わり、国会は6月23日の会期末まで50日を切って終盤戦に入った。終盤国会は、自民党の派閥の裏金問題を受けて、政治資金規正法の改正をめぐり、与野党の攻防が一段と激しくなる見通しだ。

また、岸田首相は会期末に向けてどのような姿勢で、終盤国会に臨むのか。野党側が内閣不信任決議案を提出した場合、衆議院の解散に打って出る可能性はないのかどうか、与野党や自民党内で腹の探り合いが続いている。

先の衆議院3補欠選挙で自民党が全敗したのを受けて、自民党内では岸田首相の政権運営を危ぶむ声も聞かれる中で、終盤国会の焦点を探ってみる。

政治資金の法改正、与野党協議は難航か

大型連休を利用してフランスと、南米のブラジル、パラグアイを歴訪した岸田首相は、連休最終日の6日午後帰国したあと、夕方、党の政治刷新本部のメンバーと会談し、自民党の政治資金規正法の改正案づくりをめぐって意見を交わした。

この中で、岸田首相は、政治資金規正法の改正に向けて、公明党と早期に合意できるよう協議を加速するよう指示した。

自民、公明両党の間では、議員本人に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけることなどで合意しており、それ以外の論点についても協議を急ぐ方針を確認したものだ。自民、公明両党は、連休明けの7日から協議を再開する見通しだ。

政治資金のあり方をめぐっては、衆議院の政治改革特別委員会が設置され、その委員会が先月26日初めて開催され、各党がそれぞれの党の見解を表明した。

与党の公明党、それに野党各党は既に改革案の内容を決定しているが、自民党の改革案は、議員の政治責任を強化するため、収支報告書の「確認書」の作成を義務づけるなど部分的な内容に止まっている。

このため、自民党が再発防止の具体策とともに、それ以外の論点を含め、どこまで踏み込んだ内容を打ち出し、公明党との間で具体案をとりまとめることができるかが焦点になっている。

具体的には、パーテイー券購入者の公表基準の引き下げや、政党から議員に渡しきりになっている「政策活動費」の扱い、政治資金パーテイーの開催や企業団体献金の是非、さらには懸案の旧文通費の使途公開など数多くの項目がある。

岸田首相は、今の国会で政治資金規正法の改正を実現させると明言しているが、自民党内には、派閥の政治資金パーテイー収入の不記載問題に絞った対応に止めた方がよいという慎重論も根強い。このため、岸田首相がどこまで指導力を発揮して、具体案を打ち出せるかが問われている。

先の衆院島根1区補欠選挙の出口調査をみても投票に当たって「裏金問題を考慮した」と答えた人は8割近くに達し、そのうち7割の人が野党候補に投票した。自民党としても相当、踏み込んだ改革案を打ち出さないと国民の納得は得られないのではないか。

さらに、今後の本格化する与野党協議では、政治資金制度の改正内容をめぐって、双方の主張に相当の開きがある。また、野党側は、裏金問題の実態解明が不十分だとして、関係議員の証人喚問や参考人招致を強く求めることが予想され、与野党の協議が難航するのは必至の情勢だ。

首相の求心力、会期末攻防や政局を左右

終盤国会のもう1つの焦点が、会期末の重要法案や政権運営の評価をめぐる与野党の攻防だ。野党第1党の立憲民主党は、自民党の派閥の裏金問題の政治責任を追及するとともに、衆議院の解散・総選挙に追い込む構えを強めている。

これに対して、岸田首相がどのような方針で、国会の乗り切りを図るのか、与野党の神経戦が続くことになる。

岸田首相は4日、訪問先のブラジルでの記者会見で「内外の諸課題に全力で取り組むことに専念する。それ以外のことは現在考えていない」とのべ、解散・総選挙は考えず、さまざまな政治課題に取り組んでいく考えを強調した。

岸田首相としては、今の国会で政治資金規正法の改正を実現するとともに「子ども子育て支援法」などの重要法案の成立を図りたい考えだ。また、定額減税の実施や物価高騰対策などを積み重ねながら、秋の自民党総裁選での再選と衆院の解散時期を模索しているものとみられる。

首相に近い自民党幹部は「岸田首相は苦境でも打たれ強く、予測不能な行動をする。野党が内閣不信任決議案を提出すれば、衆院解散・総選挙に踏み切る理由ができたことになる。一方、内閣や党の人事を行う選択肢もある」として、6月の会期末解散や国会終了後の人事の可能性も示しながら、政権運営の主導権を維持していく考えを示している。

自民党の長老に聞くと「6月解散などあるわけがない。今の内閣支持率や補選の結果を考えると、自民党にとって壊滅的な結果になる。岸田降ろしは起きないが、解散もなく、秋の総裁選挙を粛々とやろうという方向で収束するのではないか」と予測する。「但し、総裁選に誰が立候補するのか、岸田首相を含め顔ぶれは、今の時点では予想できない」という。

このようにみてくると、会期末に向けた政治の展開は、岸田首相の求心力がどの程度、維持されているのかが大きく左右するのではないか。岸田首相と茂木幹事長の確執が取り沙汰される中で、政治資金規正法改正の自民党案や、公明党との与党案をどのようにとりまとめるのかが、岸田首相の手腕がポイントになる。

一方、野党第1党の立憲民主党は先の衆院補選で3勝したことから、政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明をめぐって強い姿勢で臨むことが予想される。これに対して、岸田首相が最終的にどのような形で決着させるか、力量が問われることになる。

このほか、川勝平太前知事の辞職に伴い5月26日に投開票が行われる静岡県知事選挙のゆくえも注目される。選挙は、元副知事を自民党県連が推薦、元浜松市長を立憲民主党と国民民主党が推薦、それに共産党の県委員長が立候補する構図になっている。

静岡県では、自民党安倍派の座長を務めた塩谷・元文科相が派閥の裏金問題で、離党勧告処分を受けて離党したほか、先に宮沢博行・元防衛副大臣が女性問題で議員辞職に追い込まれた。

こうした裏金問題などが与野党対決の知事選挙にどこまで影響するか。また、自民党が先の3補選で全敗したのに続いて、地方の主要選挙で敗北となると「菅政権の末期と同じように、岸田政権も打撃を受けるのではないか」と与野党の関心が集まっている。

今年1月の通常国会召集から大きな焦点になっていた裏金問題は、終盤国会でどのような形で決着がつくのか、岸田政権と与野党双方に大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

 

 

 

衆院補選 自民3戦全敗”政局流動化へ”

衆議院の3つの補欠選挙は28日に投開票が行われ、いずれも立憲民主党の候補者が勝利し、自民党は不戦敗を含めて3戦全敗となった。

唯一、与野党対決となった島根1区は自民党が長年、議席を維持してきた牙城だったが、立憲民主党の元議員の亀井亜紀子氏が自民党新人を破って議席を獲得した。自民党の裏金問題に対する有権者の批判や怒りが、自民党の選挙地盤を覆した形だ。

岸田政権の下で、衆参の補欠選挙は5回目になるが、これまで自民党が負け越すことはなく、全敗したのも今回が初めてだ。

今回、岸田政権へのダメージは大きく、首相の求心力は低下するとの見方が広がっている。今は国会開会中で「岸田降ろし」が直ちに表面化する可能性は低いとみられるが、秋の総裁選挙をにらんだ動きが活発になり、政局は流動化してくる見通しだ。

3つの補欠選挙で有権者はどのような判断を示したのか、NHK出口調査のデータを基に分析してみたい。また、今後の政治はどのような展開になるか、ポイントを考えてみたい。

 ”保守王国”島根で野党勝利の異変

▲今回の3つの補欠選挙のうち、今の政治状況を最も鮮明に映し出したのが島根1区だ。衆議院に小選挙区が導入された1996年以降、島根県は全国で唯一、自民党が議席を独占してきた”保守王国”だが、今回初めて野党が勝利して議席を獲得した。

NHKが投票当日、投票所に足を運んだ有権者を対象に行った出口調査によると投票する際に「政治とカネの問題を考慮した」という人は76%、8割近くに達した。そのうち、70%の人が立憲民主党の亀井亜紀子氏に投票したと答えた。裏金問題が、選挙結果に大きな影響を及ぼしたことがわかる。

投票者を支持政党別にみると、当選した亀井氏は◇立憲民主党支持層の90%台半ばの支持を集めたほか、◇日本維新の会支持層の60%台半ば、◇無党派層の70%台後半から支持を得ていた。

さらに、亀井氏は◇自民党支持層のおよそ30%、◇公明党支持層の40%余りの支持も獲得していた。

これに対して、自民党新人の錦織功政氏は、◇自民支持層の70%、◇公明支持層の40%余りの支持に止まり、◇無党派層の支持は20%余りだった。

このように亀井氏は、野党支持層や無党派層の多数を固めたことに加えて、与党支持層にも支持を広げたことが勝因だ。これまで自民党に投票してきた支持層の一定割合が、裏金問題を契機に野党支持へ投票行動を変えたことが読み取れる。

▲野党や無所属など過去最多の9人が争った東京15区は、立憲民主党新人の酒井菜摘氏が抜け出し、初めて議席を獲得した。自民、公明両党は候補者擁立を見送った。

NHK出口調査では、◇投票者の24%を占める自民支持層は、主な候補者5人に票が分散した。酒井氏は、◇立憲民主党と◇共産支持層の大半を固めたうえで、◇全体の4割を占める無党派層の30%余り、候補者の中で最も多くの支持を獲得したことが勝利につながった。

東京15区では、東京都の小池知事が、無所属新人の乙武洋匡氏を支援したことから、小池知事の影響力に関心が集まった。その乙武氏の得票数は、1万9655票で5位に止まった。

小池知事の都政運営の評価は「評価する」が75%、「評価しない」が30%余りだった。「評価する」と答えた人のうち、20%台後半が酒井氏に投票したと答え、次いで無所属の前参議院議員の須藤氏と維新の金澤氏にそれぞれ10%台後半、乙武氏は10%半ばに止まった。

小池知事をめぐっては、今年1月の東京・八王子市長選挙で自公の推薦候補を応援して当選につなげるなど選挙の強さを発揮したが、今月21日の目黒区長選挙では、支援した候補者が現職に敗れており、今回も選挙関係者からは「学歴詐称疑惑が取り沙汰されて以降、小池氏の選挙への影響力は低下している」との見方が聞かれる。都知事選の告示を6月20日に控え、小池知事の対応に注目が集まっている。

▲長崎3区については、自民、公明両党が候補者擁立を見送ったことから、野党の候補者2人の戦いとなった。立憲民主党の前議員で、社民党が推薦した山田勝彦氏が、維新新人の井上翔一朗氏に大差をつけて、当選を果たした。立民と維新の争いでは、2つの選挙とも立民が制した。

 政権の求心力低下、6月解散は困難か

さて、3つの補選の結果を受けて、これからの政治はどのように展開するか、どこがポイントになるかみていきたい。

まず、岸田政権にとって、3つの補欠選挙で全敗したことは大きな打撃だ。特に島根1区は、2度も現地入りし選挙運動最終日も懸命なテコ入れを行ったが、挽回できず、岸田首相の求心力低下を印象づけた。

また、自民党内から岸田内閣の支持率低迷に加えて、補選の敗北で「次の総選挙の顔として、岸田首相はふさわしいのかどうか」疑問視する声が強まることも予想される。

但し、通常国会は連休明けには終盤戦に入り、重要法案を抱えていることなどから、自民党内で補選の敗北をめぐって「岸田降ろし」が表面化する可能性は低いとの見方が多い。

このため、閣僚経験者の1人は「6月末の会期末や秋の総裁選挙をにらんで、水面下でさまざまな動きが出てくるのではないか」との見方をしている。

一方、岸田首相に近い幹部は「岸田総理は打たれ強いので、自ら身をひいたりすることは考えられない。秋の総裁選に向けて政治課題を1つずつこなしながら、国会会期末に大きな政治決断をすることがあるかもしれない」と6月解散もありうるとの見方を示している。

これに対して、別の党幹部は「今のような支持率で、解散をすれば自民党は壊滅的な打撃を被るだろう」とのべ、6月末の解散・総選挙には反対する意向を漏らしている。

今回の補欠選挙の結果と、選挙の勝敗という面から考えると、自民党内では、6月末の解散論には慎重論が一段と強まることが予想される。

もう1つは、連休明けの通常国会では、野党側は、裏金問題を受けての実態解明と政治資金規正法の抜本的な改正を要求する構えだ。これに対して、自民党が先に公表した改革案は、確認書の義務化といった部分的な内容に止まっている。

このため、岸田首相が自民党内の慎重論を説得しながら、踏み込んだ改正案を打ち出し、野党側との協議を経て実現までこぎ着けられるかどうか、岸田首相の指導力が問われることになる。

以上、みてきたように補欠選挙後の政局は、1つは、政治資金規正法の改正をめぐって、岸田首相と野党側との綱引きがどのような展開になり、国民がどちらを支持するのかが焦点になる。

もう1つは、6月の会期末の時点で、岸田首相が秋の総裁選と衆院解散・総選挙の時期をどう判断するか、自民党内と与野党の駆け引きが激しくなる見通しだ。岸田首相にとっては、会期末までに政権の実績を上げ、国民の支持が広がらないと、秋の総裁選での再選も険しい道になるのでないかとみている。(了)

”島根1区 自民苦戦” 衆院補選情勢

岸田政権の政権運営に大きな影響を及ぼす衆議院の3つの補欠選挙は、後半戦に入った。このうち唯一、与野党対決の構図になっている島根1区は、立憲民主党の候補が先行、自民党の候補は苦戦している。

自民党の派閥の裏金問題などで、選挙戦は大きく様変わりしている。自民党は挽回をめざしているが、選挙情勢は厳しく、不戦敗を含めて3戦全敗となる可能性もある。28日に投開票が迫った選挙情勢を探ってみる。

 島根1区自民苦戦、全敗の危機も

衆議院島根1区の補欠選挙は、細田博之・前衆議院議長の死去に伴うものだ。21日の日曜日には、岸田首相と立憲民主党の泉代表がそれぞれ松江市に入るなど双方が激しい選挙戦を繰り広げている。

朝日、読売、共同の主要メデイアが19日から21日にかけて行った情勢調査によると島根1区は、立憲民主党元議員の亀井亜紀子氏がリードし、自民党新人で公明党が推薦する錦織功政氏が追う展開になっている点で共通している。

亀井氏は、立憲民主支持層の大半をまとめたうえで、無党派層の支持を幅広く獲得しており、自民支持層の一部にも食い込んでいる。

これに対し、錦織氏は自民支持層の7割から8割、公明支持層の7割程度の支持に止まっているほか、無党派層で大きな差をつけられている。

島根は竹下元首相、青木幹雄元官房長官を輩出するなど自民王国として知られる。今の選挙制度が導入された1996年以降、島根1区では自民党の細田博之氏が連続して当選を重ねてきた。

その細田氏は最大派閥・安倍派の会長を務めてきたこともあり、今回は裏金問題が選挙戦を直撃する形になり、自民党は守りの選挙に追い込まれている。

自民党の選挙関係者に聞くと「挽回をめざして最後までギリギリの戦いを続けるが、厳しい情勢にあるのは事実だ」と劣勢を認めている。自民党がここで1勝できるか、敗北すると不戦敗を含めて3戦全敗という危機的状況に立たされている。

報道各社の情勢調査では、有権者の3割から4割程度は、投票する候補者を決めていない。また、投票率が大幅に下がったりすると選挙情勢が変わる可能性があるので、特に投票率を注意してみていく必要がある。

 長崎3区は野党対決、立民優位

衆院長崎3区の補欠選挙は、自民党安倍派の議員の辞職に伴って行われる。自民党が候補者擁立を見送り、立憲民主党前議員の山田勝彦氏と、日本維新の会新人の井上翔一郎氏の野党対決の構図になっている。

メデイアの情勢調査では、立民の山田氏が、立憲民主支持層の大半を固めたうえで、無党派層や自民支持層にも支持を広げている。選挙関係者も、山田氏が優位に選挙戦を進めているとの見方をしている。

 東京15区 立民リードも5人混戦

柿沢未途・前法務副大臣の議員辞職に伴う東京15区の補欠選挙には、9人が立候補し大混戦となっている。この選挙区でも自民、公明両党が候補者擁立を見送ったため、野党と無所属、諸派の候補の争いとなっている。

メデイアの情勢調査によると、立憲民主党の酒井菜摘氏が一歩リードし、日本維新の会公認で「教育無償の会」推薦の金沢結衣氏、無所属で国民民主党と地域政党「都民ファーストの会」が推す乙武洋匡氏、無所属で前参議院議員の須藤元気氏、それに諸派の飯山陽氏の合わせて5人が争う構図になっている。

候補者を擁立していない自民、公明の支持層が、どのような投票行動をとるか。また、東京都の小池知事は、無所属の乙武氏擁立を主導したが、21日投票の目黒区長選では都民ファーストの会が推した候補が現職に競り負け、小池知事の影響力に関心が集まっている。

さらに、国政では野党第1党の立憲民主党と、野党第2党の維新の戦いがどのような形で決着がつくのかも注目点だ。投票率がどうなるのかという点も合わせて、不確定要素が幾つもあるので、最終的な勝敗のゆくえはまだ、はっきりしない。

 国会、政権運営、解散戦略に影響

以上見てきたように衆院3補選は、自民党が1勝できるか、それとも不戦敗を含めて3戦全敗となるかどうかが大きな焦点だ。

もう1つは、投票率がどうなるか。選挙結果を左右するだけでなく、今の政治に対する国民の認識や評価を判断できる指標にもなる。裏金問題と政治不信が、どのような形で現れるか注目している。

さらに、今回の選挙結果は、後半国会の焦点である政治資金規正法の改正や裏金問題の実態解明への取り組みに影響を及ぼす見通しだ。支持率低迷が続く岸田政権の政権運営や衆議院の解散戦略にも影響を与えることになりそうだ。

投票日直前の26日には、新たに設置された衆院政治改革特別委員会の初めての委員会が開かれる。各党が裏金問題について、どのような見解の表明を行うかも選挙の行方を左右する。今年前半の政治の大きな節目になる。(了)

 

”3つの壁”越えられるか?岸田首相

長丁場の通常国会も今月10日に折り返し点を過ぎて、後半戦に入った。岸田首相の先のアメリカ訪問と日米首脳会談を受けて、今週は18日と19日に衆参両院の本会議で、それぞれ帰国報告と質疑が行われる。

続いて22日と24日には、衆参両院の予算委員会で集中審議が行われ、裏金問題などをテーマに岸田首相と野党側との質疑が交わされる。

一方、16日には衆院島根1区など3つの補欠選挙が告示され、28日の投開票日に向けて各党が激しい選挙戦を繰り広げる見通しだ。

これからの政治はどのような展開になるのか。岸田首相の行く手には、当面3つの壁が立ちはだかっている。裏金問題の実態解明と処分のケジメのつけ方、衆院3補選の乗り切り、それに裏金問題の再発を防ぐ政治資金規正法改正の実現までこぎ着けられるかだ。

こうした3つの壁を乗り越えることができるかどうか?岸田政権の今後の政権運営や衆院解散・総選挙戦略に大きな影響を与えることになりそうだ。

 裏金の実態解明と処分のけじめは?

今の国会の大きな焦点になっている自民党の派閥の政治資金裏金問題について、自民党は4日に、安倍派と二階派の39人の処分を行ったが、報道各社の世論調査にみられるように国民の評判は極めて悪い。

国民の多くは、裏金の還流に関与した85人の議員らのうち、実際の処分が39人に止まったのをはじめ、実態解明が進まなかったこと、さらに立件された岸田派の会長を務めていた岸田首相や、二階派会長の二階元幹事長が処分の対象から外されたことについて厳しい評価をしている。

一方、今回最も重い「離党勧告」の処分を受けた安倍派の座長、塩谷元文科相は、処分を不服として自民党に再審査を請求した。自民党は16日、総務会や総務会幹部の会合で対応を協議した結果、再審査を認めない方針を決定した。この決定は塩谷氏に伝えられ、離党勧告処分が確定した。

自民党は、今回の処分で一定の政治責任を明らかにすることができたとして、今後は、再発防止の取り組みに重点を移したい考えだ。

これに対し、野党側は実態の解明は全く進んでいないとして、安倍派幹部の証人喚問を行うとともに、森元総理らの参考人招致を求める意見もある。

国民の政治不信を払拭するためにも、岸田首相は国会で事実関係の解明にどのように取り組んでいくのか、証人喚問や参考人招致の扱いを含めて方針を明らかにすることが必要だ。これが、第1の壁になっている。

 衆院3補選、島根1区は与野党一騎打ち

続いて、第2の壁が衆議院の3つの補欠選挙のゆくえだ。東京15区、島根1区、長崎3区の3補選は16日に告示され、28日の投開票に向けて激しい選挙戦に入った。

いずれも自民党が議席を持っていた選挙区だが、自民党は東京15区と長崎3区については公職選挙法違反事件や裏金事件をめぐる逆風が強く、公認候補の擁立を見送った。公認候補を擁立するのは島根1区だけとなった。

◆島根1区の補選は、自民党安倍派の会長も務めた細田博之・前衆院議長の死去に伴うものだ。自民党は元中国財務局長の新人候補を擁立し、公明党が推薦する。

これに対し、立憲民主党は、元衆議院議員の女性候補を擁立し、国民民主党の地方組織と社民党が支援、共産党の地方組織が自主的に支援する。与野党が対決する唯一の選挙になる。

島根は竹下元首相、青木元官房長官などの実力者を輩出してきた全国屈指の保守王国だが、今回は政治とカネの逆風に見舞われている。与野党の選挙関係者に聞くと「現状では、野党候補に勢いがある」との見方が多い。最後までギリギリの戦いが続く見通しだ。

◆東京15区は9人が立候補の名乗りを上げ、大混戦となっている。このうち、地域政党である「都民ファーストの会」の小池東京都知事が主導する形で、作家で無所属の新人が立候補を表明した。国民民主党と都民ファーストの会が推薦する。

立憲民主党は前の江東区議の女性候補を擁立し、共産党も支援する。日本維新の会は元会社員の女性候補、参政党、諸派の新人が立候補する。さらに無所属の参議院議員と、無所属の元衆議院議員も立候補を表明している。

◆長崎3区は、裏金問題で多額の還流を受けていた自民党議員が辞職したのに伴うものだ。自民党が候補者の擁立を見送ったたため、立憲民主党の現職(比例代表)と、日本維新の会の新人の野党同士の一騎打ちになる見通しだ。

3つの補欠選挙は、政治資金規正法違反事件後、初めての国政選挙になる。自民党は2つの選挙区で不戦敗となっており、島根1区を失うと3戦全敗となる可能性もある。島根1区の勝敗がどうなるか、岸田政権の行方にも大きな影響を与えることになる。

 政治資金規正法の改正、実現できるか

後半国会は、裏金事件を受けて政治資金規正法の改正が、最大の焦点になる見通しだ。岸田政権が法案の成立までこぎ着けられるかどうか、これが3つ目の壁になる。

公明党は、クリーンな党のイメージを守りたいとして自民党とは一線を画して、再発防止策の独自案をまとめている。立憲民主党や日本維新の会など野党各党もそれぞれ党の改革案をとりまとめており、自民党に攻勢をかける構えだ。

これに対して、自民党は「政治刷新本部」の作業部会で検討を続けているが、とりまとめには、なお時間がかかる見通しだ。公明党が求めている「連座制」導入などによる議員の罰則強化についても、自民党内には容認論がある一方で、慎重論も残っており、調整がついていない。

政治資金の扱いとなると、野党側が「政治家個人のパーテイー規制の強化」を求めているのに対して、自民党は反対の立場だ。また、政党が党役員に渡す「政策活動費」の廃止や、使途の公開の義務づけについても慎重論が根強い。

自民党としては、公明党との間で与党案をとりまとめたうえで、野党側との協議に入りたい考えだ。

これに対して、野党側は「自民党は時間切れで、政治資金規正法の改正を一部に止めたいねらいがあるのではないか」とみて、与党の改正案を早期に提出するよう求めていく方針だ。

このため、衆参両院に設置された「政治改革特別委員会」を舞台にいつから、政治改革の内容の協議に入るかも焦点になる。また、岸田首相が自民党の改革案のとリまとめに当たって指導力を発揮できるかも問われることになりそうだ。

岸田政権はここまでみてきた3つの壁を乗り越えることができれば、政権の浮揚につなげることができるが、逆に失敗すると政権の求心力を一気に失うことも予想される。特に衆院補欠選挙の結果が明らかになる4月末以降から、6月下旬の国会会期末にかけて岸田首相にとっては、息の抜けない局面が続くことになりそうだ。(了)                               ★追記(16日22時)衆院3補選が告示され、立候補者が確定したのを受けて16日22時の時点で、表現を一部、修正した。

 

 

裏金処分”世論は厳しい評価”

自民党は派閥の裏金事件をめぐって4日、関係議員ら39人の処分を決めたが、世論の評価は厳しく、岸田内閣と自民党の支持率はいずれも政権復帰以降、最も低い水準にまで下落していることが明らかになった。

裏金問題への対応は、岸田政権の政権運営や衆院解散戦略にも大きな影響を及ぼす。カギを握る世論はどのような受け止め方をしているのか、今後の政治はどのように展開するのか、NHKの4月世論調査のデータを基に分析してみたい。

 裏金処分、世論は妥当性に強い疑問

まず、8日にまとまったNHK世論調査(4月5日~7日実施)のデータからみていきたい。◆焦点の裏金問題について、自民党が関係議員85人のうち、不記載額が500万円以上の39人の処分を決めたことについて、評価を尋ねている。

◇「納得できる」は9%、「どちらかといえば納得できる」の20%を合わせて29%。これに対して◇「どちらかと言えば納得できない」22%、「納得できない」は41%で、合わせて63%と大幅に上回っている。

◆次に、今回の処分では、安倍派幹部2人について、8段階のうち最も重い「除名」に次ぐ「離党勧告」の処分にしたことの評価を尋ねている。

◇軽すぎる34%、◇妥当だ49%、◇重すぎる6%となった。処分の軽重の評価を聞きたかったのだろうが、安倍派の主要幹部6人は「離党勧告」「党員資格停止」「党の役職停止」の3段階に分かれたので、回答する側には複雑で難しい質問のように思われる。

◆検察から立件された二階派の二階・元幹事長は、次の衆議院選挙に立候補しない考えを表明し、自民党は処分の対象にしなかった。この扱いについて◇「妥当だ」は21%に対し、◇「妥当ではない」は68%と大きく上回った。

◆同じく派閥の事務局長が立件された岸田派について、会長を務めていた岸田首相を処分の対象から外したことについては◇「妥当だ」が25%に対し、「妥当ではない」が61%と、こちらも大きく上回った。

このように今回の処分は、対象となる関係議員らを39人に絞り込んだことや、党の総裁、元幹事長ら政権中枢を処分の対象から外したことについて、国民は正当な理由がないのではないかと強い疑念を持っていることが読み取れる。

また、今回の処分に当たっては、最大派閥の安倍派で長年、違法な還流行為が組織的に行われながら、いつから始まったのか、取り止めの方針がいったん決まったものの継続となった経緯すら明らかにならなかった。

こうした実態解明や処分の基準がはっきりしないまま、処分を行った自民党執行部に対して、国民の強い不満や不信感があることもうかがえる。

岸田首相や党執行部はこの処分で区切りをつけ、再発防止に重点を移すことをねらっていたとみられるが、世論の反応からすると、政権の思惑は外れたと判断してよさそうだ。

 内閣・自民党支持率ともに最低水準

さて、裏金処分に対する世論の厳しい評価は、岸田内閣の支持率にも大きな影響を及ぼしている。4月の内閣支持率は23%で、先月の調査より2ポイント下がり、岸田政権発足以降、最も低かった去年12月と同じ水準になった。

不支持率は、先月より1ポイント上がって58%だった。こちらも岸田政権発足以降、去年12月、今年1月と同じ率で最も高くなった。

これで岸田内閣の支持率は、政権運営の危険ラインとされる30%を6か月連続で割り込んだ。支持率を不支持率が上回る逆転現象は10か月連続となる。支持率低迷が常態化しつつあり、政権を浮揚させるのは容易ではない。

一方、自民党の政党支持率も変化がみられる。自民党の支持率は、内閣支持率が下がっても30%台後半から40%台前半を維持することが多かった。ところが、裏金問題が表面化した去年12月以降、じりじりと下がり続けている。

4月の自民党支持率は28.4%となった。党の支持率が30%を下回ったのは、2012年の政権復帰以降、岸田政権だけで、去年12月の29.5%、今年3月の28.6%に次いで3回目になる。これで、内閣支持率、自民党支持率ともに2012年自民党の政権復帰以降、最低の水準となった。

野党側は第1党の立憲民主党が6.5%、第2党の日本維新の会が4.7%、共産党が2.4%、国民民主党1.5%などと続き、自民党とは大きな開きがある。自民党内には、野党の支持率が上がらないことから、これを安心材料とする見方もある。

但し、最近の特徴は、次の衆議院比例代表の投票予定政党では、野党側の伸びが大きいことだ。朝日新聞の3月の世論調査によると自民党23%に対し、立民16%、維新11%などと続く。政党支持率では自民党との差が大きいが、投票予定党では接近している。

自民党の選挙関係者に聞くと「野党はバラバラだと油断していると、無党派層の動向によって、選挙の風向きはあっという間に変わってしまう」と警戒する。

 首相、政権浮揚めざすも険しい道

岸田首相は8日、日米首脳会談に臨むため、アメリカに向け出発した。安倍元首相以来9年ぶりの国賓待遇で、10日に日米首脳会談、11日に議会で演説する。岸田首相としては、日米防衛協力や経済分野の連携強化をアピールし、政権浮揚のきっかけにしたい考えだ。

そのうえで、今月28日に投開票が行われる3つの衆院補欠選挙を何とか乗り越え、後半国会で政治資金規正法の改正を実現させたい考えだ。そして、6月に定額減税を実施し、春闘での大幅賃上げと合わせて実績を訴え、9月の自民党総裁選前に解散・総選挙に打って出る戦略だとみられている。

このうち、日米首脳会談について、NHKの世論調査では「日米関係の強化につながるか」を尋ねている。回答は「つながる」が45%、「つながらない」が40%と見方が、二分されている。

また、岸田首相は新年度予算を成立させたうえで、「今年中に、物価上昇を上回る所得を必ず実現させる」と表明している。世論調査では「期待する」が29%に対し、「期待しない」が64%と冷めた見方が多い。

さらに3つの衆院補欠選挙のうち、自民党は東京15区と長崎3区については、公認候補の擁立を見送る方針を決めた。島根1区だけの戦いとなるが、保守王国でも裏金問題などが響いて、苦戦が伝えられている。

このようにみると、岸田政権にとって今後の政権運営は、険しい道のりが予想される。後半国会では、野党側が裏金問題の実態解明と再発防止策をめぐって、攻勢を強める構えだ。

これに対して、岸田首相は、政治改革をめぐって意見の違いがみられる党内をまとめたうえで、野党側との間で、再発防止の法整備の実現までこぎ着けられるかどうかが問われる。

一方、衆議院の解散・総選挙について、政界の一部には、今の国会の会期末に岸田首相が決断するとの見方もある。しかし、そのためには、支持率が大幅に改善しないと岸田首相が解散に打って出るのは難しいとの見方も根強い。

国会は、岸田首相が訪米から帰国後、裏金問題や重要法案の扱いをめぐる与野党の攻防が再開する。同時に水面下では、衆院解散・総選挙と秋の自民党総裁選挙をにらみながら、自民党内と与野党の間の駆け引きが一段と激しくなる見通しだ。

その際、世論の風が、岸田政権と与野党のどちらに追い風となって吹くことになるのか大きなポイントになりそうだ。(了)

 

 

 

 

 

“実態解明なき処分、遠い信頼回復”自民裏金問題

自民党は4日、派閥の政治資金問題で党紀委員会を開き、安倍派と二階派の議員ら39人の処分を決定した。安倍派の座長を務めていた塩谷・元文科相と、参議院安倍派トップの世耕・前参院幹事長を8段階ある処分のうち2番目に重い「離党勧告」とする処分を決定した。

また、安倍派の事務総長経験者の下村・元政調会長と、西村・前経産相を3番目に重い「党員資格停止」1年、高木・前国対委員長を「党員資格停止」半年とした。

さらに、派閥からの資金の不記載額が1000万円以上は「党の役職停止」、1000万円未満は「戒告」とし、500万円未満の議員は幹事長の厳重注意に止めた。

こうした処分をどのようにみたらいいのだろうか。私個人の見方を先に言わせてもらうと「実態解明なき処分」で、国民の信頼回復には遠く及ばないとの評価をしている。

その原因は、岸田首相をはじめとする党執行部が事件当初から、事実関係を明らかしようとする姿勢が乏しかったことが影響しているように思う。

岸田政権はこの処分で、実態の把握と政治責任に一定の区切りをつけられたとして、国会審議では再発防止に重点を移す構えだ。しかし、思惑通りに運ぶようには思われない。なぜ、こうした見方をするのか、以下、具体的に説明したい。

 安倍派幹部の処分に差、二階氏は除外

さっそく、今回の処分の内容からみておきたい。処分の中身や問題点については、既にメデイアが詳しく取り上げているので、手短に整理しておきたい。

まず、◇今回、派閥からの資金を受けていた衆参の議員らは85人に及ぶが、処分の対象者は39人に絞られた。これは、不記載の額が5年間で、500万円以上という線引きをしたためだが、この線引き自体が国民感覚とズレがある。

◇また、最も重い処分を受けたのは、安倍派座長の塩谷氏と、安倍派幹部で前参院幹事長の世耕氏の2人だ。塩谷氏は派閥の形式的な責任者で、衆参両院で1人ずつ責任を問われる形になった。

安倍派で「5人衆」と呼ばれる幹部5人の処分は、世耕氏が8段階のうち、2番目に重い「離党勧告」。次いで、3番目に重い「党員資格停止」が西村・前経産相の1年、高木・前国対委員長の半年。さらに、6番目の「党の役職停止」が松野・前官房長官と萩生田・前政調会長で、いずれも1年間と処分の扱いが分かれた。

自民党内で関心を集めているのが、萩生田氏の扱いだ。派閥の事務総長は経験していないものの、安倍政権で数多くの要職を歴任し、安倍元首相亡き後も、森元首相や岸田首相の厚遇を受け、比較的軽い処分になったのではないかとの見方が党内に広がっている。

◇派閥の事務局長が立件されたのは、安倍派と二階派、岸田派だが、二階派会長の二階・元幹事長は先に次の衆院選挙に立候補しない考えを表明したことを踏まえて、処分の対象にならなかった。

◇岸田派会長を務めた岸田首相も同じように対象から外れたが、党内からも総裁としての責任は免れないのではないかとの意見が聞かれる。

以上のような処分内容が決まったが、安倍派幹部の処分を1つをとってみても、裏金の還流にどのように関わったか、不正行為の実態がわからないまま、派閥幹部の結果責任を問う形で処分が行われているのが実状だ。

幹部の結果責任を問うのであれば、自民党総裁としての責任も生じると思うが、岸田首相の責任は不問に付しており、これでは、国民の納得は得られないのではないか。

 実態の調査、処分の検討体制にも問題

それでは、なぜ、実態の解明ができないまま、処分を決定するという事態に陥ったのだろうか。

この原因は、これまで何度も取り上げたが、裏金事件が起きた後、岸田首相をはじめとする自民党執行部が、事実関係の解明に真正面から取り組む姿勢に欠けていたことが大きいのではないか。自民党が党所属議員のアンケート調査や、聴き取りを始めたのは2月に入ってからで、その内容自体も極めて大雑把な内容だった。

岸田首相は、疑惑を持たれた議員はそれぞれの議員が自ら説明すべきだという議員個人の判断に委ねた。政治倫理審査会でも出席した派閥幹部は「知らぬ存ぜず」を繰り返し、派閥からの資金還流はいつ頃から始まり、派閥幹部がどのように関与していたのかといった事実関係の解明は全く進まなかった。

一方、自民党としての処分については、今回は岸田総裁自らが、茂木幹事長や麻生副総裁、森山総務会長らと個別に協議をしながら、処分内容を固めた。そのうえで、最後の決定手続きを党紀委員会に委ねる形になった。

自民党関係者に聞くと「議員を処分するような問題は、総裁自らが前面に立って調整するのではなく、党内の信頼を集める議員を集めて、どのような基準で処分を行うのが適切なのかを議論し、決定していく取り組みが必要ではないかったか」と指摘する。

今回、こうした処分の判断基準づくりのプロセスを経ていないことが、自民党内や国民の間でも、処分内容が説得力を持たない原因になっているのではないかとみている。

 国会で実態解明と政治改革の両立を

それでは、これからの展開はどうなるか。岸田首相は「実態の把握と今回の処分で、派閥の政治資金問題については、一定の区切りをつけることができた」として、9日からのアメリカ訪問を終えた後、国会での再発防止を含む政治改革の実現に重点を移したい考えだ。

これに対して、野党側は「今回の処分では、岸田派会長を務めていた岸田首相自身が処分されていないなど全く納得できない内容だ」と強く反発している。また、安倍派の幹部などの証人喚問を実施するよう迫る構えだ。

国民からすると、政治資金の不記載という不正行為が長期にわたって行われてきた問題の実態がわからないまま、放置することは許されない。国会として、けじめをつけるためにも実態の解明への取り組みを続ける必要がある。

そのためには、証人喚問の実施に向けて与野党は協議すべきではないかと考える。安倍派幹部の証人喚問のほか、事実関係を解明するためには、安倍派の会計を担当していた事務局長や、派閥会長の経験者である森元首相の参考人招致も必要ではないか。

そのうえで、裏金問題などの再発防止と政治改革についても協議に入り、今の国会で、政治資金規正法の改正を実現させてもらいたい。

政治資金規正法改正などの内容については、与党の公明党と、野党各党はそれぞれ独自案をとりまとめている。自民党は早急に具体案をとりまとめ、提示することが求められている。

自民党の処分決定でも裏金問題の事実関係の解明ができなかった以上、今度は国会に舞台を移して、実態解明と政治改革の両方を実現するよう強く注文しておきたい。(了)

“処分でケジメとなるか?”自民裏金問題

新年度予算が28日の参議院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数で可決され成立した。これによって例年であれば、通常国会前半戦の山を越えたとなるが、今年は全く様相が異なる。自民党派閥の政治資金の裏金問題が残されているからだ。

予算成立を受けて、岸田首相は28日夜、記者会見し「現在、自民党執行部で追加の聴き取りをおこなっており、来週中にも処分を行えるようプロセスを進めていきたい」とのべ、4月第1週に党の処分を行う考えを示した。

岸田首相は、この処分で、裏金問題の実態解明と関係議員の政治責任にケジメをつけたとして、今後は再発防止に向けて政治資金規正法の改正などの与野党協議に重点を移したい考えだ。

しかし、この処分でケジメがついたとなるのかどうか?カギを握る世論は、裏金関係議員と、党総裁の岸田首相の対応について厳しい評価をしており、岸田首相にとっては、引き続き厳しい政権運営を迫られることになる見通しだ。

 安倍派幹部聴取、処分の重さと範囲は

自民党の派閥の政治資金裏金問題をめぐって、岸田首相は事実関係の把握に努める必要があるとして、26日と27日の両日、茂木幹事長、森山総務会長とともに安倍派の塩谷・元文科相、下村・元政調会長、西村・前経産相、世耕・前参院幹事長の4人の幹部から個別に聴取を行った。

岸田首相は、安倍派幹部に続いて、そのほかの関係者からも追加の聴き取り調査を続けたいとしている。そのうえで、岸田首相は、4月9日から予定しているアメリカ訪問前の4月第1週に処分を行う方針だ。

この処分をめぐっては、25日、二階派会長の二階・元幹事長が「次の衆院選挙には立候補しない」考えを自ら表明したことから、自民党内では、安倍派幹部についても8段階中4番目に重い「選挙における非公認」以上のという重い処分を行うべきだといった意見が強まっている。

これに対して、野党側は「国会議員が、政治資金規正法違反の行為を組織的、継続的に行ってきたことは極めて悪質だ」として、最低でも離党勧告、議員辞職が必要だなどと参議院の予算審議などの場で要求してきた。

また、野党側は、裏金事件は、安倍派だけでなく、二階派、さらに岸田首相が会長を務めていた岸田派でも会計責任者が立件されたことから、二階元幹事長や岸田首相自らも処分を受けるべきだと追及している。

このように、自民党の処分をめぐっては、党の規則で8つの段階に分かれている「処分の程度」と「処分の対象範囲」がどこまで及ぶかが焦点になっている。

自民党内では、安倍派で資金還流を協議した塩谷氏ら先の4氏を最も重い処分にするほか、派閥の中枢を担った高木・前国会対策委員長や、松野・前官房長官、萩生田・前政調会長に対しても、4氏に次ぐ重い処分にすべきだという意見が出され、調整が進められている。

 森元総理の聴取や国会招致は?

こうした中で、28日に行われた参議院予算委員会の理事懇談会で、自民党側から「党が行っている追加の聴取の対象として、安倍派前身の派閥の会長を務めた森元総理も含まれる可能性があること」が説明されたとされる。

野党側は、この問題を参議院予算委員会の締めくくりの質疑で取り上げたのに対し、岸田首相は「追加の対象に森元総理も含まれるが、対象は決まっていない」とのべ、聴取を行うかどうかについては言及を避けた。

また、安倍派が裏金の還流問題をめぐって、派閥幹部が協議した会合がこれまで明らかになっている2回だけでなく、別の会合も開かれていたのではないかといった指摘が野党側から出されるなど事実関係が依然としてはっきりしないことも浮き彫りになった。

こうしたことから、自民党の処分決定までに森元総理の聴取が行われるのかどうかが注目される。また、野党側からは、森元首相を参考人として国会に招致すべきだという要求が出されることが予想され、与野党の折衝が今後も続く見通しだ。

 世論、裏金議員と首相に厳しい評価

さて、裏金問題に関与した議員に対する自民党の処分が出された際には、こうした処分で、実態解明や政治責任にけじめがついたと判断するのかどうかが、焦点になりそうだ。

与党幹部の1人は「いつまでも実態解明と言っても、国会は捜査権がないので限界がある。これからは再発防止の議論に重点を移すべきだ」と政治改革論議への転換の必要性を強調する。

これに対して、野党側は、証人喚問など実態解明を進めるべきだという意見と、再発防止を含む政治改革議論に入らざるを得ないとの意見もあり、調整が行われる見通しだ。

最終的には、国民がどのような判断を示すかがカギを握る。3月の世論調査をみるとNHKの調査(3月8日から10日)では◇政治倫理審査会で行われた派閥幹部の説明については「説明責任が果たされていない」という評価が83%に達した。

朝日新聞の調査(3月16日、17日)では◇裏金問題に関係した議員は、受け取ったお金について「政治活動に使った」という理由で税金を納めていないことは「納得できない」が91%。◇岸田首相のこれまでの対応は「評価しない」が81%を占めた。

読売新聞の調査(3月22日から24日)でも◇政治倫理審査会での派閥幹部の説明に「納得できない」が81%。◇安倍派議員に対して「厳しい処分をすべきだ」が83%にも上った。

以上のデータから、国民の多くは、裏金問題に関与した議員に対する厳しい処分を求める一方、岸田首相の対応についても強い不満を抱いていることが読み取れる。

安倍派幹部を中心に「選挙における非公認」などの処分を行ったとしても国民の多くの納得を得るのは難しいのではないかと推察される。コロナ感染拡大の時期に夜間、銀座で飲食した議員3人が「離党勧告」を受けたのに比べて「甘すぎる」といった反応も予想される。

実態解明へ証人喚問、やはり必要では

今回の裏金問題は、法律をつくる立場の国会議員が、政治資金規正法に違反して、虚偽の記載を組織的、継続的に長期にわたって行われた前代未聞の事件だ。

しかも、政治倫理審査会で派閥幹部は、会計処理や運用には全く関与していないと、会計責任者に責任を押しつけ、自ら説明責任や政治責任を取ろうという姿勢を全く示さない無責任さに国民は怒っているのである。

そして、事実関係の解明ができないのは、議員個人の判断に委ね、政党としての本格的な調査が遅れたことが影響している。岸田首相や自民党執行部の責任も極めて大きいと国民は受け止めているので、先の世論調査のような厳しい評価になっている。

国会議員や政党の対応も期待できないとなると、残るは国会が国政調査権を使って、証人喚問するしかないのではないか。証人喚問を行っても現在の調査能力からすると、事実関係は明らかにできないかもしれない。

しかし、国会議員が関係する事件の真相を解明するのは、国会の責務だ。やはり、証人喚問を行い、事実関係の解明に最後まで努力する行動を示してこそ、国民の政治不信をなくしていくことにつながるのではないか。

再発防止の法整備に時間がないとの反論もあるかもしれないが、国会の会期末は6月23日。会期が足りなければ、会期延長すれば対応は可能だ。岸田首相と自民党が、処分と事実関係の解明にどのような方針を打ち出すか、しっかり見極めたい。(了)

 

裏金問題 政倫審後の展開は?

自民党の派閥の裏金問題を受けて衆院政治倫理審査会が18日開かれ、安倍派幹部の下村・元政調会長が出席した。下村氏は、焦点の派閥からのキックバックを継続することになった経緯について「本当に知らない」などの説明を繰り返し、新たな内容はなかった。

これで、各派閥の幹部など10人が衆参両院の政治倫理審査会で弁明を行ったが、政治資金規正法違反の裏金問題に派閥幹部がどの程度関与していたのか、どのような経費に使われていたのかといった実態の解明にはほど遠い結果に終わった。

野党側は、証人喚問に切り替えて実態解明を続けるよう自民党に迫る方針だ。これに対して、岸田首相は自民党として関係議員の処分を急ぎ、局面の転換をめざすものとみられる。

政治倫理審査会の審理が一巡した後、裏金問題は今後どのように展開することになるのか、探ってみたい。

 実態解明進まず、取り組み姿勢も疑問

まず、これまでの政治倫理審査会の取り組みについて、整理しておきたい。最大派閥・安倍派の座長を務めた塩谷・元文科相、事務総長経験者の西村・前経産相など幹部6人は、いずれも派閥の政治資金パーテイー収入の会計や運用には「関与していない」「知らされていなかった」などと関与を否定した。

また、派閥会長に就任した安倍元首相が一昨年4月、派閥からのキックバックを取り止める方針を決めたものの、安倍氏死去後、8月の派閥幹部の会合を経て、キックバックが継続されることになった。この経緯についても、各幹部からは「誰がどのような発言をしたのか記憶にない」などあいまいな説明が続き、事実関係は明らかにならなかった。

さらに、参院選挙の年には、改選議員は派閥に収めるノルマが免除され、全額キックバックされる仕組みが続いてきた点についても、世耕・前参院幹事長は「事件が報道されて初めて知った」と説明し、与野党の議員を唖然とさせた。

このように裏金還流がどのような経緯で決定され、運用されてきたのかという核心部分については、今回の政倫審では全く明らかにならなかった。

派閥の会長は強力な権限を持っているのは事実だが、派閥の政治資金集めの意思決定や運用は、すべて会長と事務局長で決まり、派閥幹部は完全に除外されることがありうるのか、派閥取材を行ってきた者として大きな疑問が残ったままだ。

また、仮に派閥幹部がその時点で知らなかったことがあったとしても、個人として派閥の先輩や、事務担当の職員に尋ねるなどの努力があってもいいと思われる。しかし、そうした事実関係を究明しようとする姿勢・行動は質疑からうかがうことはできなかった。

 証人喚問要求、処分のゆくえは

さて、問題はこれから裏金問題は、どのように展開することになるのかという点だ。立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党の野党4党の国会対策委員長は19日に会談し、政倫審では実態解明につながらなかったとして、安倍派幹部6人について、予算委員会で証人喚問を行うよう要求することで一致した。

証人喚問の対象になった6人は、塩谷・元文科相、下村・元政調会長、松野・前官房長官、西村・前経産相、高木・前国対委員長の安倍派幹部と、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で起訴され、自民党を除名処分となった池田佳隆衆院議員だ。

参議院側は、既に立憲民主党が15日に政倫審に出席した世耕・前参院幹事長ら安倍派の3人について、証人喚問を行うよう自民党に求めている。

また、野党側は、裏金問題に関与した83人の現職のうち、衆参両院の政倫審に出席していない残りの議員は出席して説明するようを求めていく方針だ。

このように野党4党は当面、安倍派に的を絞る形で証人喚問を要求して、与党側に攻勢をかける考えだ。

これに対して、自民党の浜田国会対策委員長は「証人喚問となると、かなりハードルが高い」として、慎重に対応する考えだ。自民党としては、新年度予算案の成立を最優先に対応していくほか、下村氏の政倫審出席を区切りとして、証人喚問には応じない構えだ。

代わって自民党内では、裏金問題の早期の幕引きを図るためにも関係議員の処分を急ぐよう求める声が強まっている。

岸田首相も先の党大会で、茂木幹事長に関係議員の処分を行うための取り組みを進めるよう指示したことを明らかにした。岸田首相としては、来月上旬にも処分を行い、局面の転換を図りたい考えだ。

但し、この処分問題も、関係議員が82人という多数に上ることに加えて、何を基準に処分を行うのか、難しい問題を抱えている。

党の処分には、除名や離党勧告、党員資格停止、選挙における非公認など8つの段階があるが、どの処分を選択するか問題になる。

また、政治資金規正法の不記載の額や、役職、説明責任の果たし方などを基に判断するとしているが、仮に安倍派の事務総長経験者という役職で処分をすると、事務総長を経験していない萩生田・前政調会長が幹部の枠から外れる。

一方で、萩生田氏は不記載額では2700万円余りと上位にいることから、その責任の重さや線引き、バランスをどう判断するかという難しさもある。党内には、処分を早期に実施できるのか疑問視する声も聞かれ、紆余曲折がありそうだ。

 実態解明、処分に指導力発揮できるか

それでは、国民の受け止め方や評価は、どうか。最新の朝日新聞の世論調査(2月17、18日実施)をみると裏金問題について、△派閥幹部の説明は「十分でない」が90%にも上る。△岸田首相の対応は「評価する」が13%、「評価しない」が81%にも達している。△内閣支持率は22%で低迷、不支持率は67%を記録。

このように国民の多くは、派閥幹部の説明や、岸田首相の対応に強い不満や、疑念を抱いていることが読み取れる。国民の政治不信を払拭するためにも実態解明をさらに努める必要があり、国政調査権に基づく証人喚問も検討する必要があると考える。

また、事実関係が明確にならないと自民党は、党の処分を行うにしても判断材料が整わないことになる。リクルート事件の際には中曽根元総理、東京佐川急便事件の際には竹下元総理が証人喚問に応じた先例もある。

こうした実態解明と、政治責任を明確にする処分、それに再発防止策を盛り込んだ政治改革の法整備を実現することが、この国会の大きな責務だ。

ところが、岸田首相と自民党執行部の対応は、実態把握の調査1つをとっても対応が鈍すぎる。政治改革の中身も、与党の公明党と野党各党は既にそれぞれの改革案をとりまとめている。遅れているのが自民党で、早急なとりまとめが必要だ。

そのうえで、岸田首相は、国民の関心が強い実態解明と処分、それに政治改革の法整備について、具体的な時期を含めて政権の基本方針を明らかにすべきだ。

裏金問題をいつまでもダラダラと対応を引き延ばすのではなく、短期集中で方針を決定し、与野党で協議を進めながら、実行の道筋をつけるべきだ。

政治改革以外でも、日銀が19日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策を解除し、安倍政権時代からの大規模な金融緩和策の変更を打ち出した。賃金引き上げと日本経済の活性化、子ども子育て政策の進め方など内外の課題は山積している。

岸田政権と与野党は、懸案の政治改革に早急にメドをつけた上で、与野党がそれぞれ重視する政策を打ち出しながら、競い合う政治を一刻も早く取り戻してもらいたい。(了)

裏金問題と”機能不全政局”

長丁場の通常国会は、新年度予算案が異例の土曜審議を経て衆議院を通過し、年度内に成立することになったが、焦点の裏金問題の実態解明はまったく進んでいない。

こうした中で、NHK世論調査が11日にまとまった。先の衆院政治倫理審査会での二階派と安倍派幹部の説明には、8割の人が「説明責任を果たしていない」と厳しい見方を示している。

また、岸田内閣の支持率は低迷が続いていることに加えて、自民党の支持率も再び30%ラインを割り込んだ。一方、野党各党の支持率も低い水準のままで、無党派が4割を超えて圧倒的多数を占めている。

今の政治状況は、裏金問題の先行きもはっきりした見通しがつかず、端的に言えば「機能不全政局、進行中」と言えそうだ。最新の世論の動向とこれからの政治のポイントを考えてみたい。

 自民支持率も低下、再び30%割れ

さっそくNHK世論調査(3月8日から10日実施)の内容から見ていきたい。岸田内閣の支持率は先月と同じ24%。不支持率は57%で、先月から1ポイント下がったものの、6割近い高い水準だ。

これで、支持率を不支持率が上回る「逆転状態」は去年7月以来、9か月連続だ。これまで最も低かったのは去年12月の23%なので、横ばいというよりも「どん底状態」が続いているというのが実態に近い。

今回の大きな特徴は、自民党の政党支持率が28.6%と、30%ラインを再び割り込んだことだ。岸田内閣の支持率が低下しても、自民党の支持率は40%から30%台後半の高い水準を保ってきたが、去年12月の調査で29.6%と30%を割り込んだ。

自民党の支持率が20%台に落ち込んだのは、2012年政権復帰以来、岸田内閣が初めてで、今回で2回目となる。

一方、野党各党は立憲民主党が6%台、日本維新の会が3%台などと低い水準に止まったままで、反自民の受け皿になっていない。存在感を増しているのが無党派で42.4%、自民党を1.5倍上回る”第1党状態”が続いている。

自民党の支持率が落ち込んだ理由だが、やはり、裏金問題が大きく影響している。今月の調査で、衆議院の政治倫理審査会で安倍派と二階派の幹部議員が行った説明についての評価を尋ねているが、「説明責任が果たされていない」との答えが83%に達した。

また、裏金の関係議員に対して、自民党が処分を行うべきかどうかの質問は、「行う必要はない」が12%に対し「行うべきだ」は75%に上った。

 政倫審巡り混乱、政権も求心力低下

次に、今回の裏金問題は、国会や政権などにどのような影響を及ぼしているかを具体的にみておきたい。

裏金問題に関与した関係議員から事情を聞く衆院政治倫理審査会をめぐっては、岸田首相が現職首相として初めて出席することを表明したことで、渋る派閥幹部を出席させる効果はあった。

しかし、今月1日に行われた政倫審で、安倍派幹部4人はいずれも不記載には「関与していない」「知らない」の連発で、新たな核心に触れる内容はなかった。

逆に政倫審公開の是非や、出席者を誰にするかをめぐって、自民党内の調整不足が露呈し、与野党でほぼ合意していた日程が先送りとなり混乱を招いた。国会での事実の解明は、まったくと言っていいほど進んでいない。

岸田首相は、新年度予算案の衆院通過が最優先で、深夜の本会議や異例の土曜日審議となった。加えて、予算案採決の日程をめぐって、首相官邸と自民党執行部の足並みが乱れる場面もみられた。

自民党内では「岸田首相が党幹部に指示を出したり、説得したりする場面がみられない」と政権運営を問題視する指摘が聞かれた。一方、「党務を預かる茂木幹事長が党内調整に動かない」と批判する声も聞かれるなど首相官邸と自民党執行部との連携、調整がうまく進んでいないことが浮き彫りになった。

こうした政権内部の足並みの乱れが影響して、国会での裏金問題の実態解明は進んでいない。元々、自民党内のアンケートや、聞き取り調査の実施も遅く、政権の及び腰が混乱の原因だと見方が根強い。

参議院では14日に政治倫理審査会を開き、安倍派幹部の世耕・前参院幹事長など3人の弁明と質疑が行われることが決まった。

一方、衆議院では、安倍派事務総長経験者の下村元政務調査会長が説明責任を果たしたいとして、審査を申し出た。与野党は、審査会の日程などを協議することにしている。

「政治改革国会」と銘打って裏金問題の集中審議で幕を開けた国会は、既に会期の3分の1近くが経過したが、実態解明も手つかず状態という惨憺たる状況だ。

もう一方の政権を取り巻く状況も、岸田内閣の支持率は発足以来、最低の水準だ。政権の求心力も大幅に低下して、機能不全とも言える状況に陥っている。

 機能不全政局から脱却の覚悟あるか

それでは、今の機能不全の政治状況を変えるためには、どこがポイントになるのだろうか。今回の裏金問題は、自民党の派閥による政治資金の不記載に原因があることから、自民党政権自らが自浄能力を発揮する必要がある。

岸田首相は、裏金事件が明らかになった去年12月の記者会見で「信頼回復のために火の玉になって自民党の先頭に立って取り組んでいく」と決意を表明した。そして、これまでの国会答弁では裏金問題の実態の把握と、関係議員の政治責任の明確化、それに再発防止策と法整備の3点をセットで実行していくと繰り返し表明してきた。

ところが、第1段階の実態把握ですら、思うように進んでいない。政治責任の明確化、具体的には党として関係議員をどのように処分するのか、その方針も決まっていない。これでは、国民の疑念や不信は拭えないのは明らかだ。

党内には、当初、17日の自民党大会までに処分を決定すべきだという意見もあったが、先送りとなる見通しだ。党内から強い抵抗があると予想されるからだ。

しかし、岸田首相は党総裁として、裏金の実態解明から政治改革までの3点セットをどのような手順・段取りで行うのか、早急に明らかにする必要がある。

裏金問題にけじめをつけないと、岸田内閣が支持率低迷から脱却するのは困難だ。政界の一部で取りざたされる4月解散、6月解散などはおよそ想定できないことを認識すべきだ。

この国会は、裏金問題だけでなく、賃金引き上げと日本経済再生への道筋、子育て支援制度の是非、さらにはイギリスやイタリアと共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を認めるかどうかなど多くの重要課題を抱えている。

ところが、裏金問題への政権の対応の遅れが、こうした重要課題の議論を進めるうえで、大きな妨げになっている。

今のような遅々としたペースで裏金問題への対応が続けば、主な政治改革案づくりまでたどり着けず、これまで同様に先送りで幕引きとなる公算は大きい。岸田首相が問われるのは、機能不全政局から脱却する意思と覚悟があるかどうかだ。(了)

 

 

予算案 衆院通過”裏金解明は進まず”

異例ずくめの展開が続く国会は、新年度予算案の審議が土曜日の2日も続き、夕方の衆議院本会議で、与党の賛成多数で可決されて参議院に送られた。憲法の規定で、予算案は年度内に成立する。

もう1つの焦点になっている自民党の派閥の裏金問題については1日、衆議院政治倫理審査会で、安倍派幹部4人が弁明に立ったが、いずれも「自らは関与していない」と繰り返し、実態解明につながる新たな内容はなかった。

予算案が衆院を通過すれば、通常では国会前半戦が一山越えたということになるが、今回は、懸案の裏金問題が残されたままで、岸田政権にとって険しい政権運営が続く。国会での与野党攻防と、岸田政権の課題を点検する。

 裏金解明、派閥幹部・首相も後ろ向き

自民党の派閥の裏金問題から、見ていきたい。29日と1日に行われた衆議院政治倫理審査会を中継などでご覧になった方は、国会議員の政治とカネをめぐる認識や釈明にあきれ、驚くことが多かったのではないか。

1日の政治倫理審査会には、安倍派の西村・前経産相、松野・前官房長官など幹部4人が出席した。派閥の会計処理について、4人の幹部はいずれも「関与していない」と釈明したほか、「パーテイー券の販売ノルマも、会長と事務局長との間で長年、慣行として扱ってきた」などとして、会長案件だったと強調した。

2022年当時、安倍会長の意向で裏金還流を止める方針が決まった後、安倍氏が死去して還流が復活した経緯については、派閥幹部と事務局長が集まって検討したものの、いつ、決めたかはっきりしないといった説明が繰り返された。

一方、29日に行われた政治倫理審査会では、岸田首相が歴代総理大臣として初めて出席したが、事実関係については、党の聴き取り調査をなぞる説明がほとんどだった。

また、自民党総裁として、今後の実態解明の取り組み方や政治改革の目指すべき方向を明らかにすることもなかった。

政治倫理審査会が鳴り物入りで開かれたが、安倍派の裏金作りはいつから始まり、どのような経費に使われたのか、誰が政治責任を取るのか、かねてからの疑問点は全く明らかにされなかった。

「裏金の実態解明という宿題」は全く進んでいない。こうした原因は、自民党の聴き取りなどの調査が2月になってようやく始まるなど岸田首相や党執行部の後ろ向きな姿勢が大きく影響していることを改めて強調しておきたい。

 予算通過、主導権発揮に強いこだわり

次に、新年度予算案をめぐる与野党の攻防をどうみるか。岸田首相は、予算案の年度内成立、実際には自然成立となる衆院通過の時期に強いこだわりをみせた。

具体的には、予算案は3月2日までに通過すれば自然成立となるが、2日は土曜日なので、前日1日の通過をめざし、委員長職権で委員会の開催を決定した。

これに対して、立憲民主党は委員長解任決議案などを提出して抵抗したため、深夜にもつれ込んだ後、異例の土曜日、2日の採決となった。

自然成立は予算案が自動的に成立するメドであり、実際には、参議院が独自性を発揮して審議時間を短縮するので、多少ずれ込んでも年度内成立は可能だ。

それでも、2日までの成立にこだわって突き進んだのは、内閣支持率の低迷に加えて、この国会では裏金問題で野党の攻勢が続いていることから、何とか政権の主導権発揮を印象づけたいねらいがあるものとみられる。

一方、今回は、首相官邸と自民党執行部との連携が機能していない場面が目立った。例えば、政治倫理審査会に出席する派閥幹部の顔ぶれが二転三転、与野党が大筋合意していた日程が見送られたほか、岸田首相が突如、出席を表明し与野党双方の関係者を驚かせた。

政倫審の出席者の調整などは、本来、党務を預かる幹事長の役割だが、茂木幹事長が調整に当たる場面は見られなかった。今後は、裏金問題に関与した議員の処分を決める難問が控えている中で、首相官邸と党執行部の調整が順調に進むのか、危ぶむ声も聞かれる。

 裏金問題の処分、政治改革も本格化

予算案の衆院通過後の国会はどのような展開になるか。当面は、参議院予算委員会に舞台を移して、引き続き裏金問題が論戦の中心になりそうだ。

具体的には、裏金問題に関与した議員に対する処分の扱いや、岸田首相の政治責任をめぐって、野党側の追及が続きそうだ。このうち、処分の問題については、岸田首相も検討する考えを表明しているが、安倍派や二階派の反発も予想され、難問だ。

また、参議院では、安倍派幹部の世耕元参議院幹事長の政治倫理審査会での弁明が行われる見通しだ。但し、衆議院での安倍派幹部と同じような答弁に止まることが予想され、新たな事実が明らかになる可能性は低いとみられる。

一方、衆議院では、自民党の浜田国会対策委員長と立憲民主党の安住国会対策委員長が2日に会談し、政治資金問題で参考人招致の協議を続けるとともに、政治倫理審査会への出席の申し出があった場合は、弁明と質疑を行うことを申し合わせた。

新たに5人程度の自民党議員が審査会での弁明を申し出ており、来週以降、審査会が開催される見通しだという。野党側としては、当面、安倍派の事務総長経験者の下村・元政調会長の参考人招致を要求する方針だ。

このほか、野党内では、二階派会長の二階・元幹事長や、森元総理の参考人招致や証人喚問を要求する意見があり、調整が行われる見通しだ。

さらに、自民、立民の国対委員長会談では、4月以降、衆議院に政治改革を議論するための特別委員会を設置することを申し合わせた。この特別委員会で、再発防止の具体策や法整備の内容について、本格的な議論が始まる見通しだ。

このほか、今の国会では、春闘での賃上げと経済運営をはじめ、子ども・子育て法案や、25年ぶりの改正となる食料・農業・農村基本法改正案など重要法案の審議も控えている。

以上、見てきたように予算案の衆院通過後の国会は、裏金問題と政治改革に加えて、内外の多くの課題が議論になる見通しだ。岸田政権が賃上げなどをテコに反転攻勢をみせるのか、それとも野党が政治改革などを軸に攻勢を続けるのかが焦点だ。(了)

 

 

 

ようやく政倫審”後手と迷走”

自民党派閥の裏金問題で、衆議院の政治倫理審査会が28日と29日に開かれ、安倍派と二階派の幹部5人の弁明が行われる見通しになった。審査会を公開するかどうかなどについて、与野党の間で詰めの調整が続く。

政治倫理審査会開催への動きは一歩前進だが、まだ当事者の弁明を聞く舞台作りで、ようやく合意に達した状態だ。国会召集から早くも1か月近くが経過、「あまりに遅い」というのが率直な印象だ。

こうした背景には、岸田政権の小出しの対応と、基本方針がはっきりせず、決断や覚悟のなさが迷走につながっているようにみえる。ここまでの動きを点検し、何が問われているかを探ってみたい。

政倫審、出席議員の顔ぶれと公開の是非

衆議院の政治倫理審査会をめぐって、自民党は22日までに、安倍派の座長を務めた塩谷元文科相と、安倍派「5人衆」と呼ばれる松野前官房長官、西村前経産相、高木前国会対策委員長の3人、それに二階派事務総長の武田元総務相の合わせて5人が出席する意向だと野党側に伝えた。

参議院では、安倍派「5人衆」の1人、世耕・前幹事長も出席の意向を明らかにしている。

野党側は、派閥からのキックバックを受けながら政治資金収支報告書に記載しなかった自民党議員82人のうち、衆議院議員51人全員について、出席の意向を確認するよう要求した。また、安倍派「5人衆」全員と二階派会長の二階元幹事長らの出席を求めた。

自民党が示した対象者からは、安倍派の萩生田前政調会長と二階元幹事長は外れている。自民党は「派閥の事務総長、または経験者」で線引きしたものとみられるが、その場合、安倍派の事務総長経験者である下村元文科相は外れているなどの矛盾もある。

今回の対象者で、国民は納得するかといった問題も残されており、与野党の協議が続くものとみられる。

政治倫理審査会が開かれると衆議院の場合、2009年以来となる。参議院で開かれると初めてのケースだ。政治倫理審査会は原則非公開だが、本人の了承が得られれば、公開された先例もある。

このため、野党側は公開を求める方針で、与野党で折衝が行われる見通しだが、非公開となると、世論の反発も予想される。

一方、政倫審が開かれた場合、野党側は、裏金問題の実態解明につながるような審査を行うことができるのかどうか、力量を問われることになる。

小出しの対応、政権の強い指導力見えず

さて、ここまでの与野党の対応をどのように評価するか。まず、岸田首相や自民党執行部の対応は小出しの対応が多く、実態解明に積極的な姿勢は見られなかった。

今年の通常国会は、自民党派閥の裏金問題を受けて、異例の幕開けとなった。通例では召集日に行われる首相の姿勢方針演説を後回しにして、衆参両院の予算委員会で「政治とカネ」の集中審議を国会冒頭に行った。

その集中審議で、岸田首相は今回の事態を陳謝したうえで「関係議員から聴き取り調査を行うことを通じて実態を把握し、政治的な責任について考えたい」と表明した。

ところが、自民党所属の全議員を対象としたアンケート結果がまとまったのは2月13日、関係議員からの聴き取りの結果がまとまり、公表されたのは2月15日と大幅に時間がかかった。アンケートといっても質問はわずか2問だけ、聴き取り調査も核心に触れる内容はなかった。

政治倫理審査会についても野党側の申し入れがあって検討を始めるという受け身の対応が目立ち、議員に対する出席の意向確認も遅れた。

岸田政権がこうした対応をとったのは、新年度予算案の年度内成立が第1の目標で、予算案の衆議院通過が最優先の課題のためだ。そのための「時間稼ぎ」、その間に予算審議の時間を重ねる、ねらいがあるものとみられる。

実態把握の調査や政治倫理審査会の対象者への打診などは、森山総務会長が中心になって行われた。但し、安倍派幹部から、自らの派閥の問題なので、進んで説明責任を果たしていくような動きは見られなかったという。

一方、岸田首相や茂木幹事長ら党の執行部も、対象者を決める判断基準や基本方針を示したり、党内調整で強い指導力を発揮したりするような場面はみられなかった。

政倫審めぐる与野党折衝で、自民党側は当初は出席者は2人と伝え、野党の反発を受けると人数を増やすといった迷走もみられた。党内からも「岸田首相や党役員はもっと指導力を発揮しないと、国民の納得を得るのは難しいのではないか」との批判の声も聞いた。

実態解明、政治改革の集中的取り組みを

それでは、これからの取り組みはどうなるか。政治倫理審査会が開催されても、実態解明が一気に進むとは限らない。その場合、必要があれば、新たな幹部から説明を求めることも必要になるだろう。

また、予算委員会など別の場で参考人招致、証人喚問なども必要になるかもしれない。こうした取り組みが実現するかどうかは、野党側の連携や結束力が試されることになる。リクルート事件の際には、中曽根元首相、竹下元首相などの証人喚問が行われた先例もある。

こうした実態解明が、第1段階だ。第2段階は、裏金の実態などを踏まえて、政治資金規正法の「抜け道」などを防ぐ再発防止策と政治改革が焦点になる。

再発防止の法整備については、既に野党各党と、与党の公明党はそれぞれ、具体策や方針をとりまとめている。

自民党の対応だけが遅れており、党の刷新本部で検討を進めている段階だ。自民党が早急に改革案をとりまとめて、与野党の合意を図る取り組みが必要だ。

主な項目は、◇政治資金パーテイーの是非や、パーテイー券購入者の公開基準の引き下げ、◇政治資金をめぐる不正があった場合、会計責任者だけでなく、議員も罰則を適用できるようにすること、◇政策活動費の使途の公開、◇政治資金収支報告のデジタル化、◇それに懸案の旧文書・通信・文通費の扱いなどだ。

こうした対応策については、ダラダラと時間をかけずに短期集中型で合意をとりまとめ、成果を上げることが極めて重要だ。目に見える成果が得られないと国民の政治不信はさらに強まり、民主主義そのものが機能不全となる恐れがある。

また、この国会は、賃上げと日本経済活性化の取り組み、子ども・子育て支援制度の創設、農業基本法の改正、さらには、ウクライナやガザなどの外交問題といった数多くの法案や課題を抱えている。こうした懸案の議論を深める必要がある。

報道各社の今月の世論調査をみると、岸田内閣の支持率は政権発足以降、最も低い20%台前半まで落ち込んでいる。裏金問題への岸田首相の対応については「評価しない」が7割から8割にも達していることを重く受け止める必要がある。

これから政治倫理審査会での実態解明と政治改革をめぐる議論が、大きなヤマ場を迎える。与野党が議論を徹底して深めたうえで、再発防止の政治改革については、国民の信頼をつなぎとめるためにも一定の成果を上げるよう強く注文しておきたい。(了)

★追記(26日23時)以上の原稿は、23日(金)午前0時出稿。26日(月)夜の時点で全体状況は、以下の通り。政治資金問題を受けて、衆議院の政治倫理審査会は26日、与野党が開催のあり方について協議をしたが、公開の是非をめぐって折り合いがつかず、引き続き協議を行うことになった。            ★追記(27日21時)政治資金問題で、与野党は28、29両日、衆議院の倫理審査会を開く方向で協議を続けてきたが、公開のあり方などをめぐって調整がつかず、28日の開催は見送られることになった。                  ★追記(28日22時)衆議院の政治倫理審査会は28日午前、岸田首相が突如、審査会に自ら出席する意向を明らかにした。これを受けて、これまで公開での出席に慎重な姿勢を示していた派閥幹部4人も出席する考えを示し、29日と1日の両日、審査会が開催されることになった。報道機関にも公開する形で行われる。★追記(29日21時)29日に開かれた衆議院政治倫理審査会で、岸田首相は、自民党の派閥による裏金問題について、党の聴き取り調査の内容を繰り返す場面が多く、事実の解明につながる新たな事実を語ることはなかった。          二階派の事務総長を務める武田・元総務相は、収支報告書の不記載について「二階会長も私も、会計責任者から説明を受けることはなく、全く関与していない」とのべた。                               ★追記(3月1日午後11時半)衆議院の政治倫理審査会が1日開かれ、自民党安倍派の事務総長経験者4人が出席した。西村・前経産相、松野・前官房長官、塩谷・元文科相、高木・前国対委員長は、いずれも会計処理には関与していなかったと釈明した。野党側は「真相究明に後ろ向きだ」と強く反発している。

裏金問題”首相対応 評価せず7割”

自民党派閥の裏金問題を受けて、国会は衆院予算委員会を舞台に岸田首相と野党側との間で、論戦と攻防が激しさを増しているが、国民は今回の問題をどのようにみているのだろうか。

NHKの2月世論調査が公表されたので、そのデータを基に世論の受け止め方や、岸田政権に及ぼす影響などを考えてみたい。(2/10~12日実施)

まず、2月の世論調査をみて感じるのは、自民党や岸田政権に対する国民の視線が一段と厳しくなっていることだ。

世論調査は▲まず、自民党内では派閥から受け取った収入を収支報告書に記載していなかった議員が相次いでいるが、こうした議員が説明責任を果たしていると思うかどうかを聞いている。

回答は◆「果たしている」はわずか2%で、◆「果たしていない」が88%に上った。

▲次に、自民党「政治刷新本部」が中間とりまとめで、派閥をカネと人事から完全に決別させることなどを決めたことについては、◆「評価する」が36%に対し、◆「評価しない」が58%と上回った。

▲さらに、自民党の政治資金パーテイーの問題に対する岸田首相の対応については、◆「評価する」が23%に対し、「評価しない」が69%、7割に達した。

こうした厳しい評価となった背景としては、この問題が発覚したのは去年11月中旬で、岸田首相も先頭に立って取り組むと年末に表明しながら、実態把握の調査を始めたのは今月に入ってからと、あまりの対応の遅さに対する国民のいらだちや不信が影響しているものとみられる。

 内閣支持率25%、不支持率最高の58%

一方、岸田内閣の支持率は、先月より1ポイント下がって25%だったのに対し、不支持率は2ポイント上がって58%、去年12月と並んで岸田内閣で最も高くなった。政治資金問題への対応の評価が影響しているものとみられる。

岸田内閣は、支持率より不支持率が上回る「逆転状態」が、去年7月以降8か月続いている。また、政権運営に当たって危険ラインとされる30%を下回るのは、4か月連続になる。

さらに、支持率の中身をみても、政権の基盤となる自民支持層のうち、岸田内閣を支持している割合は、5割に止まっている。安倍政権や、岸田政権の発足当初は、7割から8割に達していたので、政権の体力が低下していることが読み取れる。

 政治倫理審査会が焦点、紆余曲折も

それでは、岸田政権のこれからの対応はどうなるか。自民党は13日、党所属のすべての議員を対象に行ったアンケート調査の結果を野党側に伝えた。現職の国会議員82人に不記載があったというもので、既に明らかにされていた内容だ。

野党側は、調査が極めて不十分だとして、衆議院の政治倫理審査会を開き、安倍派の幹部や二階元幹事長らが出席して説明するよう求めており、自民党が政治倫理審査会の開催に応じるかどうかが、焦点になっている。

今回の世論調査で明らかになったように、国民は関係議員の説明を強く求めており、岸田首相や自民党側も最終的には、政治倫理審査会の開催には応じるとの見方が与野党の関係者から聞かれる。

但し、政治倫理審査会は、関係議員の招致を決めても強制力はないため、何人の幹部が応じるかどうかなどは不明で、紆余曲折があるものとみられる。

野党側は、自民党側が十分な説明責任を果たさない場合は、新年度予算案の審議に影響が出ることもありうると強い構えをみせている。

以上、みてきたように当面、政治倫理審査会の開催と、岸田首相がどこまで指導力を発揮できるかどうかが焦点だ。(了)

“裏金解明 覚悟見えず”岸田首相

国会は5日から衆議院予算委員会に舞台を移して、岸田首相と与野党の委員との間で、一問一答方式による本格的な論戦が始まった。

焦点になっている自民党の政治資金パーテイーの裏金問題について、岸田首相は、この国会で政治資金規正法の改正を実現すると強調したものの、実態調査の進め方をめぐって消極的な対応が目立ち、実態解明に真正面から取り組む姿勢や覚悟は見られなかった。

ここまでの論戦の特徴と、今後の与野党の攻防はどのような展開になるのか、探ってみたい。

自民全議員の調査、 質問わずか2問だけ

衆院予算委員会の質疑の中で野党各党は、自民党の裏金問題について「自民党が自ら事件の全容を明らかにすべきだ」と要求するとともに、自民党総裁の岸田首相や、派閥の幹部の政治責任を明らかにするよう迫った。

これに対し、岸田首相は「国民から厳しい批判を受けており、自民党は変わらなければならないという思いを持って、党の中間とりまとめを実行する。今の国会で政治資金規正法をはじめとする法改正を実現していく」と強調した。

そのうえで「自民党としても実態を把握しなければならない」として、派閥からキックバックを受けていた議員で政治資金収支報告書を修正した「議員リスト」91人分を提出した。

これに対し、野党側は「リストは過去3年分だけで、参議院選挙の年のデータが含まれないなど極めて不十分だ」として、過去5年分を出し直すよう求めている。

また、自民党は5日から党所属の全ての議員を対象にしたアンケート調査を始めたが、この設問内容をみると「収支報告書への記載漏れの有無」と「過去5年の不記載額」を尋ねる、わずか2問だけに止まっている。

野党側は、裏金をつくった経緯や、資金をどのように使っていたかなどについては聞いておらず、「実態を解明する気があるのか」と強く反発している。

これに対して、岸田首相は7日の答弁で「アンケートとは別に、外部の弁護士も参加して聴き取り調査を行っており、結果は第三者にとりまとめをお願いする。党として実態を把握し、説明責任、政治的な責任について適切に対応したい」と釈明した。

自民党の裏金事件は、去年11月から東京地検特捜部が5つの派閥の関係者から任意の事情聴取を始めるなど既にかなりの時間が経過している。それにもかかわらず、今月に入ってアンケート始めるのは余りにも対応が遅すぎる。

また、質問内容もわずか2問だけでは、実態解明に真正面から取り組む姿勢や覚悟がないと言わざるを得ない。

事実解明型の審議、政治のけじめが必要

それでは、国会の審議や与野党の攻防はどのような展開になるか。衆院予算委員は、9日に外交や農業などをテーマに集中審議を行った後、14日に政治資金問題の集中審議を行うことが決まっている。

自民党は、関係議員からの聴き取り調査と第三者によるとりまとめと、アンケート調査の結果を週明け13日以降にまとめる見通しだ。

これに対して、野党側は「調査結果が不十分であれば、予算審議にも影響が出てくる」とけん制しており、場合によっては、予算審議をストップさせる対応もありうるとの見方も出ている。

一方、自民党は、7日に行われた公明党との定期協議で、国会の政治倫理審査会で、不記載の関係議員が説明することを検討していることを伝えた。

こうしたことから、裏金問題は当面、14日の集中審議で、裏金問題の実態がどこまで明らかにされるかが焦点になる見通しだ。そして、野党側から、調査のやり直しや審議拒否なども予想され、与野党の駆け引きが激しくなりそうだ。

一方、野党側としても実態調査とは別に、政治倫理審査会の場で、裏金の関係議員の出席を求めて説明を求めるべきだという意見が出されている。

さらに与野党双方とも再発防止の対応策を協議する場を設けるべきだという意見もあることから、こうした点も含めて与野党の協議が行われる見通しだ。

国民からすると政治とカネの問題は、ロッキード事件やリクルート事件などを経て90年代はじめに、政治改革関連法が成立した。そして、国民の血税を政党に助成することまで踏み込んだのに、未だに違法行為を組織的、かつ長期に続けている議員に強い不信感と怒りを覚える人が多いように見える。

したがって、国会が取り組むべきことははっきりしている。まずは、政治腐敗、政治資金規正法に違反する行為はいつ頃から行われ、何に使っていたのか、実態を明らかにすることが必要だ。

そのためには、これまでのような事実関係を曖昧にしたまま、小手先の妥協策で終えるのではなく、「事実の解明型の審議」を行うことが不可欠だ。

具体的には、ロッキード事件を受けて昭和60年に国会議員自らが定めた「政治倫理綱領」と政治倫理審査会がある。「疑惑が持たれた場合には、自ら疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう務めなければならない」と定めている。

疑惑を指摘された議員は全員、自ら申し出て弁明してはどうか。また、疑惑の解明を進めるために必要であれば、派閥幹部を参考人として招致、あるいは証人喚問なども行い、国民の政治不信をなくす具体的な取り組みを取ってはどうか。

自民党は、実態調査などは小出しにする対応が目立つが、その理由は、新年度予算案を衆院通過させ、年度内に成立させるのが一番の目標で、そのための時間稼ぎをねらっているのではないかとの見方も聞く。

しかし、岸田内閣の支持率は急落したまま低迷しているほか、今度は、森山文科相と旧統一教会との関係が新たな問題として急浮上しており、裏金問題など相次ぐ不祥事に時間をかけて対応するような状況にはない。

今回の裏金問題は、自民党の派閥が起こした不祥事であり、岸田首相と自民党執行部は、実態解明に積極的に取り組む必要がある。

また、再発防止の政治改革案は、他の各党は既にとりまとめているので、自民党は、直ちに改革案をまとめて与野党協議に臨むことも必要だ。

裏金問題の実態解明と政治改革にできるだけ早くメドをつけ、政治が本来、取り組むべき、新年度予算案の内容や、内外の政治課題に取り組んでもらいたい。(了)

”裏金”実態解明めぐる攻防激化へ

自民党の派閥の政治資金裏金事件を受けて、異例の幕開けとなった通常国会は、2日までに冒頭部分の与野党の論戦を終えた。

これまでは召集日に首相の施政方針演説を行うのが通例だったが、今回は「政治とカネ」の問題で、野党側の要求を受け入れて衆参両院で集中審議を行った後、岸田首相の施政方針演説と、これに対する各党の代表質問が行われた。

その異例の幕開けとなった論戦だが、焦点の裏金問題で、岸田首相の答弁に新味があったのは、キックバックを受けた議員から聴き取り調査を行うことを自民党執行部に指示した程度で、踏み込んだ発言はほとんどみられなかった。

岸田首相は施政方針演説では、今回の事件を陳謝したうえで「自民党の派閥、政策集団が、お金と人事から完全に決別することを決めた」とのべ、政治への信頼回復をめざしていく考えを強調した。

但し、政治資金の透明化や、連座制の導入、政策活動費の使途の公開などの各論になると「各党との協議に真摯に参加する」などとして、具体案には踏み込まなかった。

このように岸田首相の答弁は、事件の実態解明や、政治改革の内容ともに慎重な姿勢が目立った。国民の政治不信を払拭していくため、自ら強いリーダーシップを発揮していく強い覚悟や熱意は、残念ながら伝わって来なかった。

政治改革が大きなテーマになっているこの国会で、与野党の攻防はどうなるのか、どこがポイントになるのか探ってみたい。

 予算委の論戦・攻防、実態解明が焦点

国会は週明けの5日からは、衆議院予算委員会に舞台を移して、新年度予算案の審議を始めることで与野党が一致している。

野党側は、裏金事件を最重点に攻勢に出る構えで、自民党所属の全ての議員を対象に調査を行い、派閥からキックバックを受けていた議員の人数などを5日までに明らかにするよう求めている。

これに対して、自民党は2日から、森山総務会長ら党執行部の役員6人が、3つのチームに分かれて、政治資金収支報告書に不記載があった議員への聴き取り調査を始めた。安倍派と二階派、岸田派の議員ら80人余りを対象に行い、来週中のとりまとめをめざしている。

また、自民党は、来週、党所属の全ての議員を対象に裏金受領の有無を確認するアンケートも実施する方針だ。

さらに、安倍派幹部などについては、キックバックが始まった経緯や、収支報告書に記載しなかった理由などについても説明を求める方針だ。党執行部としては、こうした調査結果を踏まえて、党の処分も検討するものとみられる。

これに対して、野党側は、全ての議員を対象に十分な調査が行われたのかどうかを質すとともに「調査内容が不十分な場合には、予算審議にも影響が出てくる」とけん制している。

また、野党側は、事件の全容を解明するため、安倍派や二階派の幹部を参考人として、委員会に招致するよう求める構えだ。このように国会は、予算委員会を舞台に裏金事件の実態の解明や、そのための取り組み方をめぐって、与野党の駆け引きが激しくなる見通しだ。

 安倍派活動停止、裏金経緯の説明なし

こうした中で、自民党内で最大勢力を誇ってきた安倍派は1日、最後となる議員総会を開き、派閥としての活動を停止し、解散への手続きを進めることを決めた。

これに先立って、安倍派は31日、2018年から22年までの5年間で、国会議員の関係団体に支出した総額6億7千万円余りが、政治資金収支報告書に不記載だったと発表した。

このうち、公開している2020年から22年までの3年分については、不記載のパーテイー収入4億3千万円余りがあったとして、訂正を総務省に届け出た。

安倍派をめぐっては、東京地検特捜部の捜査で、高額なキックバックを受けていた議員3人と、派閥の会計責任者が立件されたものの、派閥の幹部議員は刑事責任を免れた。

一方、裏金作りがいつ頃から始められ、派閥幹部がどのように関与していたのかといった経緯や実態などについては、これまで説明されてこなかった。

さらに最後の議員総会でも、派閥としての政治責任については全く、明らかにしないまま、解散する公算が大きくなっている。自民党としても今回の裏金事件の政治責任をどのように明確にするのか、予算員会の論戦で問われることになる。

国会は、こうした裏金事件の実態解明と政治責任の問題とともに、政治資金規正法の改正など政治改革の内容も大きな焦点になる。また、予算委員会とは別に与野党が、政治改革をめぐる協議の場を設けることも話し合われる見通しだ。

政治改革の内容については、既に与党の公明党や、野党各党はそれぞれ具体的な方針を決めているのに対して、自民党はとりまとめが遅れている。

具体的には、◆パーテイー券の購入者の公開基準の引き下げ、◆政治資金をめぐる国会議員の責任を明確にするため連座制の導入、◆政策活動費の使途の公開などについて、早急に具体案のとりまとめが求められている。

以上、みてきたように自民党は、派閥の解散・活動停止の動きが広がる中で、事件の実態解明と、政治改革に踏み込んだ対応策を打ち出せるかが問われている。

一方、野党側は、立憲民主党と維新の会などが足並みをそろえて、自民党の譲歩を迫ることができるのかどうか。与野党ともに、この国会で最初の大きな節目を迎えている。(了)

 

”裏金 実態の説明とけじめ”が焦点 国会論戦

今年前半の政治の主な舞台となる通常国会が26日に召集された。召集日は、首相の施政方針演説が行われるのが通例だが、自民党の派閥の裏金事件を受けて見送られた。

代わって、29日に衆参両院の予算委員会で「政治とカネ」をめぐる集中審議を行い、翌30日に岸田首相の施政方針など政府4演説を行う異例の幕開けになった。

自民党の裏金事件をめぐっては、東京地検特捜部の捜査が国会召集直前まで続いた。また、岸田首相が突如、自らの派閥解散を宣言したのをきっかけに安倍派、二階派、森山派も相次いで解散を決めるなど政権与党の動揺が続く中で、国会論戦が始まることになった。

激動が予想される中で通常国会は、どこがポイントになるのか。結論を先に言えば、裏金事件については、実態の解明と説明が十分に行われるのかどうか。そのうえで、政治家の政治責任にけじめをつけられるのかどうかが、大きなカギを握っているとみている。

 与野党攻防、実態解明をめぐる綱引き

通常国会が召集された26日、岸田首相は自民党の両院議員総会で「政治とカネの問題で国民は、自民党に厳しい目を注いでいる。政治資金の透明化など各党・会派と議論して進めるべきものは進めていく」とのべるとともに「日本の重要課題にしっかりと立ち向かっていく」と結束と協力を呼びかけた。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の安住国会対策委員長は「岸田首相は、事件の全容解明のために、自民党の議員のどれくらいが事件に関わったのか調査チームなどを設けて国会に示して欲しい。それがなければ予算委員会は順調に運ばないのではないか」と自民党をけん制した。

この二人の発言から、今国会に臨む双方のねらいや展開が読み取れる。岸田首相としては、自民党総裁の直属機関として設置した政治刷新本部が決定した「中間とりまとめ」を基にこの国会を乗り切りたい考えだ。

中間とりまとめでは、政治資金の透明化を進める一方、「自民党は派閥ありきの党から完全に脱却していく」ことなどを強くアピールしている。

これに対し、立憲民主党などの野党側は「事件の本質は、派閥の解散などにあるのではなく、パーテイー収入を裏金として組織的、意図的にキックバックしてきた違法行為にある」として、自民党に事件の調査と結果の説明を強く迫る構えだ。

国会の序盤では、事件の概要・実態をはじめ、岸田首相の自民党総裁としての責任、実態解明の進め方などをめぐって与野党の激しい綱引きが続く見通しだ。

 実態調査と説明、政治家の責任がカギ

この問題で、国民の受け止め方はどうか。多くの国民は、ロッキード事件、リクルート事件など連綿と続くスキャンダルにあきれる一方、政治とカネの問題に早く決着をつけ、山積している懸案へ全力で取り組むことを期待していると思われる。

そうであれば、まずは、今回の事件について検察の調べとは別に、自民党は自ら党所属の議員を対象に調査を行い、その結果を国民に説明することが必要だ。不祥事を起こした企業、団体のほとんどが、こうしたことは行っている。

また、国民の政治不信を払拭していくためには、刑事責任とは別に、国会議員が政治的・道義的責任を明確にすることも必要だ。

岸田派、安倍派、二階派の会計責任者は、政治資金規正法の違反容疑で、起訴、または略式起訴となったが、派閥の幹部議員は、いずれも刑事責任を免れた。

安倍派では安倍元首相が派閥の会長に戻った時に、キックバックの廃止を決めたものの、安倍氏の死去後、復活させた。この経緯についても安倍派幹部は、検察の事情聴取に対して「会長案件だった」などとして、自らの関与は否定したとされる。

安倍派の場合、今回の事件について政治責任を取る幹部議員は一人もおらず、事件の事実関係についても詳しい説明が行われていない。これでは、自民党が中間とりまとめなどで「国民に深くおわびし、信頼回復に取り組む」と繰り返しても信用されないだろう。

「政治とカネ」の問題は、事件が起きたときに実態の解明と説明、それに政治家の政治責任を明らかにすることが大前提になることを強調しておきたい。

そのうえで、今後、与野党の間では、事件の実態解明や再発防止策の協議の進め方をめぐって意見が対立し、国会運営面で大きな問題になってくるとみられる。

具体的には、自民党側から「検察の捜査以上に実態を調べることには限界がある」として、再発防止の中身の議論を優先するよう求めることが予想される。

個人的な体験で恐縮だが、ロッキード事件以降、政治とカネの取材を続けてきた。再発防止策は曖昧決着となるケースが多く、同じような不祥事が繰り返されてきた。政権与党は「曖昧なまま先送りにすることにかけては、天才的能力を持っている」というのが、率直な印象だ。

このため、「政治とカネ」の問題では「取り組みの順序」が極めて大事だ。事件の実態を調べるとともに、問題点や抜け穴などの点検、確認が不可欠だ。そのうえで、再発防止の具体策を考えていくことが重要だ。

こうした一方で、再発防止策を整備するためには、野党各党がどこまで連携して自民党に迫ることができるかどうか、野党の連携、共闘体制が必要になる。立憲民主と維新との足並みがどこまでそろうかがポイントになる。

 再発防止と政治改革、実効性がカギ

それでは、再発防止と政治改革の実現にむけて、どのような取り組みが必要だろうか。再発防止の内容については、これまで何回も問題になってきたこともあって、与野党とも大筋で共通認識ができているようにみえる。

具体的には、◆政治資金集めのパーテイー券の購入については、購入者の公開基準を今の20万円から引き下げること。◆政治資金規正法については、会計責任者だけでなく、国会議員も責任を負う連座制を導入すること。

◆政党から議員に渡される政策活動費については、使途の公開などを図る。◆政治資金の透明化を徹底するため、オンライン申請とデジタル化を進めること。

こうした一方で、◆企業団体献金については、禁止を求める野党側と、継続を求める自民党側との間で、大きな隔たりがある。

企業団体献金の扱いを除いては、与野党の問題意識は多くの点で共通している。今後、内容面の詰めの議論を行い、与野党が実効性のある対応策をとりまとめることができるかどうかが大きな焦点だ。

最後に今の政治情勢だが、岸田首相は、派閥の解散を打ち出すことで、政権への追い風を期待したようだが、世論は反応せず、内閣支持率は低迷したままだ。一方、野党各党も政党支持率が上がらず、政権批判の受け皿になり得ていない。

この国会は「政治とカネ」の問題を中心に激しい論戦と駆け引きが繰り広げられる見通しだ。国民が、果たして政権与党と野党のどちらの主張に軍配を上げるか。その結果は、今年の政治の流れを大きく左右することになりそうだ。(了)

“カギは政治責任” 派閥幹部立件見送り

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる裏金事件で、東京地検特捜部は19日、政治資金規正法違反の虚偽記載の罪で、安倍派と二階派の会計責任者を在宅起訴し、岸田派の元会計責任者を略式起訴した。

一方、安倍派の幹部7人や二階元幹事長など派閥の幹部については、会計責任者との共謀は認められないとして、立件を見送る判断をした。これによって、検察の捜査は事実上、終結し、今後は政治の側、国会を舞台に与野党の議論や攻防に焦点が移る見通しだ。

こうした中で、岸田首相は18日夜、自らが会長を務めていた「宏池会」=岸田派でも政治資金収支報告書の不記載があったことから、派閥の解散を検討していることを記者団に明らかにした。

派閥解散の意向は、他の派閥幹部にも伝えられていなかったことから、党内に大きな衝撃をもって広がり、蜂の巣をつついたような状況になった。果たして、岸田首相は主導権を確保できるのか、逆に求心力を失うのか、混沌としている。

さて、私たち国民は、こうした政界の一大スキャンダルをどう受け止め、対応していけばいいのか。大事なことは、問題の核心は何かを見抜くこと。今回は「事件の実態と政治の責任」、特に「政治の責任」に関心を持ち、監視していくことが必要ではないかと考えている。

 納得いかない検察処分、どうするか?

今回の東京地検特捜部の処分では、裏金事件を起こした安倍派と二階派、岸田派の主要幹部議員はいずれも立件を逃れる形になった。「刑事処分を受けるのは会計責任者、まさにトカゲの尻尾切り、納得がいかない」と受け止めた国民は多かったのではないか。

東京地検特捜部も派閥幹部の立件に向けて、捜査を尽くしたと思うが、肝心の法律、政治資金規正法がかねてから”ザル法”と呼ばれてきたように、会計責任者が責任を取り、議員の責任は問いづらい立て付けになっている。

このため、会計責任者と派閥幹部の共謀を証明する証拠を集めることが難しかったので、立件を見送らざるをえなかったものとみられる。今後、検察審査会への申し立てが行われれば、捜査が再度、行われる可能性がないわけではないが、立件となる保証はない。

そこで、捜査が十分だったかどうかは検察審査会に委ね、今後は、政治の場、国会での与野党の議論や法改正の内容などを考えた方が生産的だ。政治の信頼を失墜させた責任は大きく、刑事責任を免れても「政治的道義的責任」を問われることは十分ありうる。

その場合、議論の仕分けや進め方の順番をきちんとしておかないと「それぞれの立場の意見の表明や、駆け引きが延々と続き、結局、曖昧なまま先送り」となりかねない。

 実態解明と政治責任、順序が重要

それでは、政治の場でどのように取り組みを進めるべきか。結論を先に言えば「実態の解明と政治責任」を明確にしたうえで、「再発防止や改革」を考えていく順番が重要だ。

今回も、各党の再発防止や改革案の中身の議論を急ごうとする動きもあるが、これをやってしまうと、不祥事の実態を踏まえていないので、制度・形だけ整ったが、使い物にならない恐れがある。

「実態の解明」、例えば、安倍派の裏金作りと還流の実態はどうなっていたのか、肝心な点は明らかになっていない。

安倍元首相が首相を辞めて派閥の会長に就任した後、裏金のキックバックの廃止を決めたものの、銃弾に倒れて死去した後、派閥幹部が協議して還流を再開したとされるが、誰が関与したのか。

また、安倍派の参議院議員は、選挙がある年はノルマを上回った分だけでなく、全額キックバックの優遇を受けていたとされるが、どのような経緯で決めたのか。

検察の事情聴取に対し、安倍派の事務総長や経験者らの幹部は「知ってはいたが、『会長案件』で、自分は関与していない」と説明したと伝えられている。自民党関係者から「まさに”死人に口なし”、亡き会長に責任を押しつける情けない対応」と批判の声も聞く。

リクルート事件の際には、中曽根元総理、竹下元総理の証人喚問も行われた。安倍派の幹部7人や、二階派、岸田派の幹部は、国会でどう説明するのか。説明が不十分であれば、参考人招致や証人喚問なども行うべきではないか、野党の力量も問われる。

「事件の実態」を明らかにするため、事実関係の解明を進めること、その上で、原因と問題点を明らかにするとともに「政治責任」をどう果たすのか、けじめをつけることが重要だ。

一方、再発防止や政治改革の中身は、かねてからの懸案で、与野党ともにやるべきことはわかっている。政治資金の透明性を高めること、連座制を導入して議員に対する罰則を問えるようにすることなどが主な柱になるとみられる。

 首相の派閥解散方針、問われる指導力

ところで、岸田首相が打ち出した自らの派閥の解散方針が、波紋を広げている。岸田派に続いて、安倍派や二階派も解散する方針を決めた。これに対して、麻生派と茂木派からは反発する声が出ているほか、森山派は様子見の構えだ。

自民党内では「今、国民は自民党の主張に耳を貸さない状態なので、派閥解散という大胆な対応は必要だ」と首相の決断を支持する意見がある。これに対して「事前の説明もなく、政権維持のため国民受けをねらった自己保身の方針だ」と反発する声も聞かれる。

野党からは「真相解明から目をそらすための目くらまし」あるいは、「自民党得意の論点ずらし」などの批判も聞かれる。

国民としては、どうみるか。岸田首相の発言は、メデイアの関心を引きつけ、その結果、低迷する支持率を一時的に引き上げる効果があるかもしれない。但し、最近の国民の目は肥えており、長続きはしないのではないか。

岸田首相は元々、派閥効用論者とみられており、首相就任後も派閥を離脱せず、先月急に会長を辞任した。通常国会を間近に控えて、今回の不祥事をどのような基本方針で乗り切るのか、その覚悟と党内の意見をとりまとめていく指導力が問われている。

自民党は近く政治刷新本部で、派閥の存廃を含めた党改革の議論に入り、26日の通常国会召集日までに中間報告をとりまとめる予定だ。派閥の存廃をめぐって党内に対立を抱えている中で、派閥のあり方について、どこまで踏み込んだ方針を打ち出せるかが焦点だ。

一方、通常国会は、自民党の裏金事件を受けて、今年は召集日当日の26日は開会式だけに止め、29日に先に「政治とカネ」の集中審議を衆参両院で行った後、翌30日に岸田首相の施政方針演説など政府4演説を行う異例の幕開けとなる。

まずは、焦点の「裏金事件の実態」はどうなっていたのか、政党、議員はどのように「政治責任」を果たしていくのかを明確にしたうえで、国民の信頼回復につながる具体策を打ち出せるか、しっかり監視していきたいと考えている。(了)

 

”危険水域”続く岸田政権  

新しい年・2024年は、元日に能登半島を震源地とする大地震に襲われ、発災から2週間余りたった今も多くの人が避難所での生活を続けている。

一方、年末から続いている自民党の裏金事件をめぐる東京地検特捜部の捜査は、大詰めの段階を迎えており、近く立件の方針が明らかになる見通しだ。

こうした大きな災害や事件が相次ぐ中で、国民は政治の対応をどのように受け止めているのだろうか?NHKの1月の世論調査がまとまったので、このデータを基に分析してみたい。

 支持率下げ止まりも、危険ライン続く

まず、内閣支持率からみていきたい。岸田内閣の支持率は、先月より3ポイント上がって26%だったのに対し、不支持率は2ポイント下がって56%となった。

岸田内閣の支持率は、去年11月に29%、12月に23%と政権発足以降、最低の水準を更新してきたが、今回は26%、ようやく下落に歯止めがかかった。但し、3%程度の上昇なので、誤差の範囲、事実上、横ばい状態だ。

岸田内閣は、支持率より不支持率が上回る「逆転状態」が、去年7月から7か月続いている。また、政権運営に当たって危険ラインとされる30%を3か月連続で下回っており、危険水域が続いているというのが実態だ。

さらに、支持率の中身をみても、政権の基盤である自民支持層のうち、岸田内閣を支持している割合は、5割に止まっている。安倍政権や、岸田政権の発足当初は7割から8割に達していたので、政権の求心力が大きく落ち込んでいる。

このため、岸田首相が秋の自民党総裁選で再選をめざすためには、自民支持層の支持を回復させないと、再選の道は相当難しいのが実状だ。

 災害対応、初期段階は一定の評価

次に、能登半島地震への対応だ。政府のこれまでの対応について、◇「大いに評価する」が6%、「ある程度評価する」が49%で、合わせて「評価する」は55%だ。

これに対して、「余り評価しない」は31%、「全く評価しない」は9%で、合わせて「評価しない」は40%となった。

このように地震対応について、「評価する」が過半数を上回ったことが、今回、内閣支持率の下落に歯止めをかけることができた主な要因だ。

但し、能登半島地震は16日時点で死者が222人に上ったほか、未だに被害の全容がつかめておらず、道路、水道などインフラ施設の復旧のめどもついていない。

厳しい寒さが続く中で、避難している人は1万6千人余りに上っており、避難所などで体調を崩して亡くなる災害関連死が増えることが懸念されている。こうした救援・復旧の進み具合で、政府の対応の評価は大きく変わる可能性がある。

 自民党の政治刷新、8割が信用せず

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる裏金事件を受けて、岸田首相は自民党に「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止や派閥のあり方などについて検討を始めた。

世論調査では、こうした取り組みが「国民の信頼回復につながると思うか」尋ねた。結果は◇「つながる」が13%に止まったのに対して、「つながらない」は78%に上った。国民の8割は、政治刷新の取り組みを信用していないことになる。

この「つながらない」と答えた人を支持層別にみてみると◇野党支持層では88%に上ったほか、◇無党派層で85%、◇自民支持層でも66%にも達している。

「刷新本部」は、本部長を岸田首相自ら務めるほか、最高顧問には、麻生派を率いる麻生副総裁と、無派閥の菅元首相が就任。党の役員もメンバーに入るので、各派閥のトップや幹部が顔をそろえた。

38人のメンバーのうち、安倍派が最も多い10人を占め、このうち9人は裏金のキックバックを受けていることが明らかになった。党内から「なんで、こんなバカなことをやるのか。規則破り、法律違反者に新たな規則づくりを委ねるようなもの。国民の理解が得られるはずがない」と厳しい声を聞く。

今から34年前のリクルート事件の際には、当時の竹下首相は党に「政治改革委員会」を設け、会長にベテランの後藤田正晴氏に就任を要請した。有識者の声を聞くため、首相官邸に私的諮問機関である賢人会議を立ち上げたほか、選挙制度審議会に選挙制度を検討してもらうなど3本柱で対応した。

このうち、後藤田氏は自民党の若手議員に自由に議論させ、その内容は後の政治改革大綱につながった。今回の岸田首相の「政治刷新本部」は、焦点の派閥のあり方を含め、国民の多くを納得させるような改革案をまとめることができるのか、危惧する見方は多い。

 2つの危機対応、舞台は通常国会へ

以上、みてきたように新年の政治は、当面、2つの危機対応が求められている。1つは、能登半島地震への対応だ。災害関連死などを防ぎ、早期の復旧・復興のめどをつけられるのか。自衛隊、警察、消防などの部隊の投入や展開などの危機対応は適切だったのか、検証や議論が必要だ。

もう1つは、裏金事件の真相究明と国民の政治不信の高まりへの対応だ。会計責任者とともに、国会議員、派閥の幹部の立件はどうなるのか、近く東京地検特捜部の結論が出される見通しだ。

検察当局の捜査とは別に、政治の場でも事実関係の解明と、議員や派閥幹部の責任が議論されることになる。そのうえで、再発防止策や、政治改革の実現へとつなげることができるかどうかも焦点になる。

通常国会が26日から幕を開け、これから半年間、与野党攻防の主な舞台となる。地震対応と、政治とカネ、さらに賃上げや経済政策、外交・防衛など多くの懸案・課題が待ったなしの状態だ。

岸田政権と与野党は、当面の問題については早期に結論を出し、政治が本来、取り組むべき懸案・課題を競い合う、メリハリの効いた政治をみせてもらいたい。(了)

 

“2つの危機対応”問われる岸田首相

新しい年・2024年は、厳しい年明けになった。1日夕方4時過ぎ、能登半島を震源とする最大震度7の強い地震が観測され、石川県では1週間たった8日時点で、亡くなった人は168人に増え、安否がわからない人が320人余りに上っている。

一方、昨年末に東京地検特捜部が着手した自民党の派閥の裏金事件は7日、高額なキックバックを受けていたとされる安倍派の池田佳隆・衆議院議員が、会計責任者の秘書とともに逮捕された。裏金事件で、国会議員が逮捕されたのは初めてだ。

支持率の低迷が続く岸田政権にとっては、裏金事件に加えて、新たに地震災害対応が重なることになった。この2つの危機を乗り切ることができるかどうか、今年の政治を大きく左右することになりそうだ。

令和で最大級の災害、問われる危機対応

能登半島地震の被災状況は、冒頭触れたように死者は8日午後2時時点で、168人に上る。100人を超す犠牲者が出た地震は、2016年4月の熊本地震以来で、令和に入って最大級の災害だ。

熊本地震では、大分県を含め死者は276人に上ったが、災害関連死が8割以上を占め、災害による直接的な死者数は55人だった。直接的な死者数では、今回が既に上回っている。

岸田首相は8日のNHK日曜討論で「中小の道路も寸断され、物資の搬入1つとってもたいへん困難な状況が続いているが、自衛隊、警察、消防関係者が最大限の努力をしている」と災害対応の現状を説明した。

これに対して、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「自衛隊の派遣が最初は1千人、次いで2千人、5千人と逐次投入となっており、対応が遅い」と批判した。

今回の地震では家屋の倒壊が多く、余震も頻繁に続いていることから、各地に孤立した集落が残されるなど災害全体の状況が把握できない状態が続いている。

政府は、当面、家屋の倒壊などで閉じ込められている人の救出や、孤立地域の救援に最優先で当たっているほか、避難の長期化に伴う生活環境の整備や、被災者の健康管理、さらには被災地域の復旧・復興などの取り組みが求められている。

災害などの危機管理は、政権にとって最優先の課題で、対応を間違うと政権は一気に求心力を失う。阪神・淡路大震災の際の村山政権、東日本大震災時の菅直人政権などは、災害対応に政権のエネルギーを奪われ、退陣へとつながった。

岸田政権は、政権発足直後の新型コロナ感染に続いて、今度は地震災害という異なる分野だが、2度目の危機対応になる。コロナ対応の時は、地域の感染状況の把握や医療提供態勢づくりに対応の遅れが目立った。

今回の能登半島地震では、石川県の避難者は2万8000人を超えている。厳しい寒さが続く中で、犠牲者や行方不明者を最小限に抑えて、被災者の救援と地域の復旧のめどをつけられるかどうか、岸田政権の危機対応力が問われている。

 捜査の本丸は?派閥幹部に伸びるか

もう1つの焦点である「政治とカネ」、自民党の派閥の裏金事件については、年明けに東京地検特捜部が、二階派会長を務める二階俊博・元幹事長から任意で事情を聴いたことが明らかになった。

8日には、安倍派に所属する池田佳隆・衆議院議員が4800万円余りのキックバックを受けたにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載せず、政治資金規正法違反の容疑で逮捕された。この事件で、国会議員が逮捕されたのは初めてだ。

池田議員が逮捕されたのは、検察の捜索の前に関係先にあったデータを保存する媒体が壊されていたことがわかり、罪証隠滅のおそれが大きいと判断したためとみられている。

政界では、池田議員と同じく高額なキックバックを受けていたとされる大野泰正・参議院議員、谷川弥一・衆議院議員についても立件されるのではないかとの見方が広がっている。

今回の事件の核心は、派閥が組織的、意図的に裏金作りを続けてきた点にある。東京地検特捜部は、最大派閥の安倍派、二階派の事務総長や経験者など派閥幹部の立件も視野に捜査を進めているものとみられる。

今月下旬に通常国会が召集されるのをにらんで、検察の捜査はヤマ場を迎えている。捜査の本丸が、派閥の幹部にまで伸びるのかどうかが、最大の焦点だ。

 政治改革案、問われる首相の指導力

一方、政治の側の動きとして注目されるのは、岸田首相が近く立ち上げる「政治刷新本部」と、首相の指導力だ。

この組織は、4日に行われた年頭の記者会見で岸田首相が打ち出した構想だ。自民党総裁の直属の機関として党に設置し、再発防止策や派閥のあり方などを検討し、今月中に中間的なとりまとめを行う方針だ。

岸田首相は、再発防止の具体策として「パーティーの収支について党の監査を行うとか、現金でなく振り込みに変えるとかが考えられる」とのべたが、いずれも政治資金パーティーの存続を前提にした内容だ。

また、刷新本部の本部長は岸田首相自らが就任するほか、最高顧問には、麻生副総裁と、菅前首相の首相経験者が就任する見通しだ。

リクルート事件当時、竹下首相は自民党に「政治改革委員会」を設け、トップに後藤田正晴・元副総理の就任を要請した。続く宇野首相時代に「政治改革本部」と変わり、本部長に伊東正義・元官房長官、代理に後藤田氏の重鎮2人が就任し、党内論議と党改革の推進役を果たした。

今回は、党内第2派閥を率いる麻生副総裁と、派閥解消論者の菅前首相という正反対の立場にいる2人が最高顧問に座る。果たして、派閥のあり方なども含めて思い切った政治改革案をまとめることができるのか、危惧する見方が強い。

さらに、野党側からは「自民党は、まずは事件の実態を説明し、不正を行った議員にケジメをつけさせるのが先だ」といった指摘が出されている。

また、与党の公明党や、野党各党からは、政治資金規正法の抜本的な改正を行い、パーティー券購入者の公開基準の引き下げや、違法行為に対しては、国会議員の責任を問える罰則の強化を求めていく方向で一致している。

自民党は、果たして党内の意見を取りまとめができるのかどうか、最終的には、岸田首相の決断と指導力にかかってくるのではないか。その結果によっては、今年の政局は、さらに大きく揺れ動くことになる。(了)

★追記①(9日16時30分)能登半島地震による石川県内の死者は、9日午後2時・時点で、202人に上った。昨日に比べて34人も増えた。一方、安否不明者は102人となり、昨日より121人減った。                     ★追記②(10日17時40分)能登半島地震による石川県内の死者は、10日午後2時・時点で206人。安否不明者は52人。                  ★追記③(11日21時)能登半島地震による死者は、11日午後2時・時点で213人、安否不明者は37人。2500人余りが孤立状態にある。

 

“波乱・混迷政局の幕開け”2024年予測

自民党の派閥の「裏金疑惑」が政権を直撃する中で、新しい年・2024年が幕を開けた。政界関係者の情報を総合して判断すると、新しい年は「波乱、混迷、模索の年」になるのではないか。

「波乱」とは、端的にいえば、内閣支持率の低迷が続く岸田首相は退陣、交代する確率が高いということ。

「混迷」とは、後継選びとなると有力候補がいないため、交代時期や候補者の絞り込みなどをめぐって、調整などが難航することが予想される。

焦点の衆院解散・総選挙の時期は、自民党の総裁選びと事実上、表裏一体の位置づけとなり、新総裁が決まると時間を置かずに解散・総選挙になる公算が大きいのではないか。2024年中に解散・総選挙となる可能性が高いとみている。

さらに「模索」とは、どういうことか。今の政治は、裏金疑惑に代表されるようにここ数十年の中でも残念ながら、最低水準といわざるをえない。ザル法と揶揄される政治資金規正法ですら守られないほど政治の劣化が進んでいる。

しかし、それでも難題を数多く抱える日本にとって残された時間は多くはない。政権、与野党双方とも懸案・課題を前進させていくため、さまざまな取り組みを試みてもらいたい。

なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 裏金疑惑、立件は政治家まで拡大か

新しい年の政治はどう展開するか?まず、大きな影響を及ぼすのは、自民党の派閥の裏金疑惑、政治資金規正法違反事件がどこまで拡大するかだ。

東京地検特捜部は12月中旬に安倍派と二階派の事務所の強制捜査を行ったのに続いて、多額のキックバックを受けたとされる安倍派の衆参議員2人の事務所などの家宅捜索も行った。

そして、年末までに松野・前官房長官、世耕・前参院幹事長、高木・前国対委員長、萩生田・前政調会長に続いて、西村・経産相の任意の事情聴取を行った。これで「5人衆」と呼ばれる派閥幹部と座長の塩谷・元文科相の6人すべてが、事情聴取を受けたことになる。

自民党関係者に今後の見通しを聞くと「検察当局は、金丸事件も念頭に捜査を進めるのではないか。安倍派と二階派の会計責任者だけではなく、議員や派閥幹部にまで広げるのではないか。但し、人数や範囲は全くわからない」と語る。

特捜部の捜査が最終的にどのような形で決着がつくのか、政界関係者は固唾を飲んで見守っている。いずれにしても、岸田政権と年明けの通常国会にさらに大きな打撃を与えることになるのではないか。

 自民総裁選び、岸田首相交代の波乱も

それでは、新年の政治はどのように展開するのか。今年前半の政治の舞台となる通常国会は今月26日に召集、会期末は6月23日となる見通しだ。野党は「政治とカネ」の問題で岸田政権を厳しく追及する構えだ。

これに対し、岸田首相は、自民党に新たな組織を立ち上げて再発防止と政治改革案をとりまとめ、国民の信頼回復への道を探りたい考えだ。

また、今年の春闘で物価高を上回る賃金の引き上げを実現し、6月に所得税など定額減税の実施ができれば、政権を取り巻く厳しい空気は和らいでくるのではないかと期待をかけている。

こうした一方、「政治日程は逆に読む」と言われる。以上のように時系列で政治の動きをみていくのではなく、政治を最も大きく左右する要素は何かを考えて、逆算して予測するとどうなるか。

最も大きな意味を持つのは、今年秋の自民党総裁選挙だ。岸田首相にとって、自民党総裁の任期が9月末に満了となり、再選できるかどうかが最大のハードルになる。その1年後の来年10月は、衆議院議員の任期も満了となる。

自民党長老は「自民党の議員、特に若手議員は、総裁選挙で誰に投票するか、次の衆院選挙とセットで考える。自民党は自分党、自らの当選を果たすうえで、『選挙の顔』は誰が有利かとなる。そうすると内閣支持率が改善しないと、岸田首相の再選の道は険しいものになるだろう」との見方を示す。

報道機関の世論調査で岸田内閣の先月の支持率は、20%台前半まで落ち込んだ。自民党の支持率もこれまで30%台後半を維持してきたが、年末には30%を切って、2012年に自民党が政権復帰して以降、最低の水準まで下がっている。

自民党内では「岸田降ろし」の動きは起きていないので、早期の退陣は考えにくい。しかし、総裁選が近づくにつれて岸田離れが一段と進むと見られ、再選は困難との見方が、じわりと広がっている。「波乱」の確率は高いとみられる。

そのうえで、想定される波乱の時期だが、与野党の議員に聞くと見方は分かれる。◇新年度予算成立の3月末が限界との説から、◇4月28日統一補欠選挙後、◇通常国会が閉会する6月、◇自民党総裁選が近づく夏といった具合だ。

岸田首相は3月上旬にはバイデン大統領の招請を受けて訪米、6月には首相肝いりの定額減税が実施されるので、それまでの退陣は何としても避けようとするのではないか。個人的には、6月の通常国会閉会後か、総裁選が近づく夏以降の公算が大きいのではないかとみている。

 総裁選び「選挙の顔」重視、混迷も

さて、ポスト岸田はどうなるのかといった質問もあるかと思う。支持率低迷でも岸田首相が持ちこたえているのは、後継の有力候補がいないことが大きい。

それでも総裁選が近づくと新たな候補者擁立の動きが出てくるのは、自然な流れだ。自民党関係者に聞くと、立候補の経験がある石破元幹事長、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相らのほか、新たな顔ぶれとしては、茂木幹事長、小泉元環境相、上川陽子外相らの名前が挙がる。

但し、圧倒的な支持を集めそうな候補者は見当たらない。このため、総裁の交代時期、候補者の絞り込みなどが難航し、迷走することも予想される。

さらに、今回は99人が所属する党内最大派閥の安倍派はどうなるのかという問題もある。特捜部の今後の捜査なども考えると他の派閥幹部からは「安倍派の存続は困難、解体的出直しは避けられないだろう」との厳しい見方も聞かれる。

自民党関係者の一人は「次の総裁選びでは、党員や議員の多くは『総選挙の顔』となる候補を選ぼうとするだろう。裏金問題で自民党への視線が厳しくなるので、よりましな候補、経験や実績のある候補へ支持が集まる」との見方を示す。

別の関係者は「裏金問題に焦点が当たるので、従来の派閥主導の候補者擁立は絶対ダメ。女性候補が浮上するのではないか」と話す。候補者選びは紆余曲折、混迷も予想される。

 年内総選挙も、新しい政治へ展望は?

もう一つの焦点である衆議院の解散・総選挙の見通しはどうか。自民党長老は「新総裁が選ばれた場合、即、国民に信を問うことになるだろう。今回は、総裁選びと総選挙を一体として位置づけて、戦うからだ」との見方を示す。

これに対して、野党側も通常国会では「政治とカネ」の問題を徹底的に追及しながら、岸田政権を解散・総選挙へと追い込んでいく構えだ。

こうした与野党双方の姿勢から判断すると次の総選挙は、今年中に行われる可能性が高いとみられる。衆院議員の任期は折り返しを過ぎたことに加えて、来年夏は参院選挙が控えているので、その前に総選挙という見方が強いからだ。

その際、野党の責任は極めて重い。この10年余りの国政選挙では、自民・公明両党の連戦連勝が続いている。その原因は、野党がバラバラで、政権交代はもとより、与野党伯仲にも持ち込めていないからだ。

「自民1強、野党多弱体制」は安倍派の裏金疑惑で崩壊の兆しが見え始めたが、立憲民主党や維新は、自民1強体制を崩せるのか、そのために戦略的な連携へと踏み出すことができるかどうか、問われることになりそうだ。

一方、国民からは「与野党が『政権構想』を示して、もっと政策を競い合う新しい政治を展開してもらいたい」との声を聞く。円安政策もあって、GDPをはじめとする日本の国際社会における地位の低下が目立つからだ。

人口急減社会が進行する中で、賃金の引き上げや経済の再活性化をどのように実現していくのか。教育、社会保障の将来の姿、防衛力増強や少子化対策の具体的な財源確保について、政府が方針を明確に示し、与野党が国会で議論を尽くして前進させていく「新しい政治」を期待する声は根強いものがある。

以上、見てきたように今年の政治は、波乱と混迷、模索の1年になりそうだ。一方、与野党の陣取り合戦だけで終わらせては意味がない。まず、政府、与野党、政治の側の取り組みが問われる。同時に、私たち国民も政治への関心と、選挙でしっかり判断し、選択していくことが求められる。(了)

★追記(5日正午)◇1日に起きた能登半島地震で、石川県内で合わせて92人の死亡が確認された(5日8時・時点)。また、安否不明者は242(5日9時・時点)。 ◇岸田首相は4日夕方の記者会見で、自民党の派閥の政治資金問題で、来週、総裁直属の機関として「政治刷新本部」を立ち上げ、再発防止策や派閥のあり方などの検討を進める意向を表明した。派閥のあり方など党改革の議論でどこまで踏み込めるかが焦点。

 

 

 

 

 

 

“揺らぐ岸田政権” 裏金疑惑に強制捜査

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、東京地検特捜部は19日、最大派閥の安倍派と二階派の事務所などを捜索し、強制捜査に乗り出した。

去年までの5年間に安倍派は5億円、二階派は1億円を越えるパーテイー収入を政治資金収支報告書に記載せず、裏金として還流させていた疑いが持たれている。

今後は派閥の会計責任者だけでなく、多額の資金のキックバック・還流を受けていた国会議員や派閥の幹部の責任を問えるかどうかが大きな焦点だ。

一方、今回の裏金疑惑捜査は、岸田政権を直撃するだけでなく、政権与党の自民党に対する国民の批判が一段と強まるきっかけになりそうだ。

党内からも「リクルート事件以来の逆風になるかもしれない」と警戒する声も聞かれる。岸田政権と政界への影響などを探ってみる。

 裏金疑惑の捜査、政治家まで伸びるか

政界関係者が固唾を飲んで見守っているが、検察の捜査が国会議員まで伸びるかどうかだ。

政治資金規正法は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判に委ねることを目的にしており、政治資金収支報告書の記載は、会計責任者が責任を負う仕組みになっている。このため、国会議員や派閥幹部の責任を問うのは、ハードルが高いとされてきた。

岸田政権や自民党の党内事情に詳しい関係者に聞いてみた。「岸田官邸は捜査がどこまで広がるか、つかめていないようだ」とのべ、捜査がどこまで展開するか明確に見通せないという。

一方、「検察当局は安倍政権時代、黒川・東京高検検事長の処遇をめぐって検察人事に手を突っ込まれた経緯もあり、その反撃といった意味もあって強い執念で取り組んでいる」として、安倍派の議員や幹部まで捜査が広がる可能性があるとの見方を示す。

検察当局は、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部などからも詳しい事情を聞くものとみられ、最終的に捜査がどのように決着するのかが最大の焦点だ。

 内閣支持率急落、トリプルパンチ

次に、政界への影響はどうか。岸田政権については、既に内閣支持率が低迷している状況だけに、今回の疑惑捜査はさらなる打撃となりそうだ。

岸田首相は14日、安倍派の裏金疑惑を受けて、松野官房長官ら安倍派の閣僚4人と副大臣5人の大幅交代に踏み切った。

ところが、この直後に行われた報道各社の世論調査によると、岸田内閣の支持率は、読売新聞が25%で横ばい、共同通信が22.3%で6ポイント下落、朝日新聞が23%で2ポイント下落となった。閣僚の交代による政権の立て直し効果は、まったく見られなかった。

いずれの調査とも岸田内閣支持率は20%台前半まで下落している。これは、2012年に自民党が政権復帰して以降、歴代政権の最低の水準だ。今回、裏金疑惑の捜査の影響を考えると、さらなる支持率の下落が予想される。

岸田政権は、10月に新たな経済対策の切り札として「所得税などの定額減税」を打ち出したが、国民には不評で、政策面で厳しい批判を浴びた。

これに加えて、11月は「副大臣3人が相次ぐスキャンダル」で更迭、さらに12月は「裏金疑惑」が重なり、トリプルパンチを浴びる形になっている。国民の信頼が低下し、今後の政権運営にも大きな影響が出ることは避けられない見通しだ。

 自民党も支持率低下、逆風強まるか

裏金疑惑の問題は、内閣支持率だけでなく、これまで30%台後半で比較的高い水準を保ってきた自民党の支持率にも影響を及ぼし始めた。

NHKが12月上旬に行った世論調査で、自民党の政党支持率は、先月より8ポイント余り下がって29.5%。2012年に自民党が政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。

今月中旬に行った朝日新聞の世論調査でも自民党の支持率は23%で、先月より4ポイント下落、こちらも2012年の政権復帰以後、最低を更新した。

朝日の調査によると◆裏金疑惑をめぐる岸田首相の対応については、「評価しない」が74%、「評価する」が16%だった。◆自民党は「政治とカネ」の問題を繰り返してきた体質を変えられると思うかとの質問に対しては、「変えられない」が78%、「変えられる」は17%だった。

こうしたデータを基に判断すると、自民党は信頼回復に向けた思い切った対応策を打ち出さないと自民党に対する世論の逆風は一段と強まることになるのではないか。

 疑惑対応が後手、国民の信頼回復は?

それでは、これからの政治はどう動くか。岸田首相は、22日に新年度予算案を閣議決定するとともに、萩生田政調会長ら辞任する党役員の後任を決定して、態勢の立て直しを図る方針だ。

そして、来年の春闘で物価上昇を上回る賃金引き上げを実現し、6月の定額減税の実施などで国民生活を安定させ、政局の主導権を回復したい考えだ。

自民党長老に聞くと「岸田政権が、個別政策で実績を上げて政権の浮揚をめざすのはかなり難しい。今や、政権と自民党が一体となって、政治不信を払拭し、国民の信頼を取り戻せるかが急務だ」と指摘する。

また、「岸田首相にとって今のような支持率では、とても解散は打てない。新年度予算案が成立した後は、来年秋の自民党総裁選に向けて『新しい顔』を探す動きが出てくるかもしれない」との見方を示す。

岸田首相は13日の記者会見で「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と決意を強調したものの、具体的な対応策は示すことができなかった。

安倍派と二階派の事務所に検察の捜査が入った19日も岸田首相は、記者団に「強い危機感を持って信頼回復に取り組む」と一般論を繰り返すだけに止まった。

また、安倍派の閣僚4人は全員交代させたのに対し、二階派の小泉法相と自見万博担当相は続投させる判断をした理由について、詳しい説明はなされなかった。

このように岸田政権は、国民の多くが求めている疑惑の解明や、こうした事態を招いた原因などについての説明が、後手に回っている。

自民党には、リクルート事件を教訓に党のあり方などを盛り込んだ「政治改革大綱」がとりまとめられているが、岸田首相や党執行部から、こうした原点に立ち返って対応していくといった今後の取り組み方についての言及は聞かれない。

岸田政権には、派閥のあり方などを含めた党改革について、踏み込んだ対応や指導力の発揮が最も問われているようにみえる。そうした取り組みができない場合、党員や国民の支持を失う危機的状況に追い込まれるのではないか。(了)

★(追記=21日21時)東京地検特捜部は、松野官房長官、高木国会対策委員長、萩生田政調会長ら安倍派の複数の幹部に任意の事情聴取を要請した。     ★(追記=25日21時)東京地検特捜部は、安倍派幹部の松野前官房長官、高木前国対委員長、世耕参院幹事長、塩谷元文科相(派閥の座長)から24日までに任意で事情を聞いたことが明らかになった。                    ◆岸田首相は25日、麻生副総裁ら自民党執行部と会談、年明けのできるだけ早い時期に、派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題を受けた改革などを検討するため、新たな組織を立ち上げる考えを示した。                ★(追記=27日23時)東京地検特捜部は27日、安倍派から4000万円を超えるキックバックを受けていたとみられる池田佳隆衆議院議員の事務所などを捜索した。自民党の派閥をめぐる政治資金問題で、議員側が強制捜査を受けるのは初めてだ。                                  ★(追記=28日21時)東京地検特捜部は28日、自民党安倍派の大野泰正参議院議員の事務所などを捜索した。安倍派から5000万円のキックバックを受けていたとされる。                               ◆柿沢前法務副大臣が28日、江東区長選挙をめぐる買収の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。

裏金疑惑”踏み込んだ対応策示せず”岸田首相

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、岸田首相は13日夜、記者会見し、臨時国会の後、直ちに政権の態勢立て直しを図るため、14日に松野官房長官など安倍派の閣僚4人を交代させる人事を行う考えを明らかにした。

また、安倍派の副大臣5人も交代させる一方、政務官6人については、本人の意向なども踏まえて、交代させるかどうか判断する方針だ。

さらに、萩生田政務調査会長や高木国会対策委員長はそれぞれ自ら辞任する意向を表明したが、岸田首相としては、安倍派の党幹部の交代時期については、来年度予算案の編成作業の日程なども考慮しながら、調整したい考えだ。

こうした一方で、岸田首相は「自民党の体質を一新するために先頭に立って戦っていく」と決意を表明したが、踏み込んだ具体的な対応策は示すことができなかった。

14日の閣僚人事を前に岸田首相は、裏金疑惑問題にどのように対応しようとしているのか、何が問われているのか整理しておきたい。

 実態の解明、首相の積極姿勢みられず

岸田首相は昨夜の記者会見で、自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題について「国民から疑念を持たれるような事態を招いていることは極めて遺憾だ」とのべたうえで、「自民党の体質を一新すべく先頭に立って戦っていく」と強い決意で取り組む考えを表明した。

こうした一方で、実態解明の取り組みについては「当事者が調査・精査し、丁寧に説明を行い、事実確認が求められている。事実が確認されたならば、国民に説明し、さまざまな課題、原因が明らかになっていく。自民党としてどう立ち向かうのか明らかになる」と慎重な発言に終始した。

この考え方では、裏金作りの疑いが持たれている国会議員が、まずは事実関係の確認をしながら、原因や課題を明らかにし、そのうえで、自民党としての対応策をとりまとめていくことになる。これでは、裏金疑惑の実態解明は、検察当局の捜査以外、ほとんど進まないのではないか。

国民の多くが岸田首相に期待しているのは、なぜ、派閥が総ぐるみで裏金作りを組織的に行ってきたのか、検察当局の捜査を待つのではなく、政治の側が自ら進んで事実関係を明らかにしていくリーダーシップの発揮だ。

昨夜の岸田首相の発言からは、こうした実態の解明に積極的に取り組む姿勢がみられなかったのは、極めて残念だ。

 ”安倍派外し”で済むのか、党の対応は

14日に行われる閣僚人事の特徴は、自民党最大派閥・安倍派に所属する閣僚4人全員と、副大臣5人をそろって交代させる”安倍派外し”にある。

政務官6人も当初の方針では交代させる方針だったが、安倍派から「政務官は資金の還流を受けていない」と強い反発を受けて、一部軌道修正した形だ。しかし、”安倍派外し”の本質は変わっていない。

安倍派は、去年までの直近5年間に5億円が政治資金収支報告書に記載されず、裏金として還流していた疑いがもたれている。その金額が突出して多いことや、裏金作りが組織的、常態化していた可能性が高く、責任を問われるのは当然だとの意見は自民党内でも強い。

但し、パーティー収入の不記載による裏金作りについては、二階派も行っていたほか、麻生派でも不記載があったとされる。さらに、岸田首相が7日まで自ら会長を務めていた岸田派・宏池会でも数千万円の不記載が行われていたことが明らかになった。

こうした事態を考えると、閣僚の交代などの責任は安倍派だけで済むのか。今後、その他の派閥の扱いをどうするのか、記者会見では明らかにされなかった。

自民党関係者に聞くと「岸田官邸は、各派閥の資金処理の実態など詳しい情報を得られていないのではないか」と話す。この指摘が事実であれば、今後、検察の捜査によっては新たな事実が明らかになり、対応を追われる事態も予想される。

岸田政権は、裏金疑惑に対して、どのような基本方針で臨み、閣僚や党役員に対して責任を取らせる基準をどのように考えるのか、昨夜の記者会見では明らかにならなかった。全体として、国民の知りたい点に応えるような会見ではなかった。

 問われる首相のリーダーシップ

今回の巨額裏金疑惑に対する世論の反応は、厳しい。NHKが今月8日から10日にかけて行った世論調査で、岸田内閣の支持率は先月より6ポイント下がって23%まで下落し、政権発足以降最低を更新した。不支持率は6ポイント上がって58%に達した。

これまで比較的高い水準を維持してきた自民党の政党支持率も先月より8ポイントも下がって29.5%、2012年に政権復帰して以降、初めて30%を割り込んだ。いずれも裏金疑惑が直撃した影響とみられる。

こうした世論の厳しい反応に対して、岸田政権の対応は鈍い。岸首相は、政治資金パーティー開催の自粛と、自ら派閥の会長を退くことを表明した。そして、ようやく、今回、安倍派の閣僚などの交代に踏み切った。後手の対応が目立つ。

政治資金規正法を抜本的に見直し、政治資金を記載しない政治家や、政治団体の代表に対する罰則を強化すべきだとの声も聞く。また、30年前のリクルート事件の際にも問題になった派閥の解消などを求める声も強まっている。

14日の人事では、官房長官に林芳正・前外相が起用されるなど新たな閣僚の顔ぶれも固まった。但し、閣僚を入れ替えた程度で、政権の窮地が改善されるほど甘い情勢ではない。

岸田政権と自民党が、裏金疑惑の実態の解明と政治不信の払拭に真正面から取り組み、目に見える実績を上げることができない限り、岸田政権が命脈を保つのは難しいのではないか。正に待ったなしの危機的状況で、岸田首相の指導力が問われている。(了)

★<追記14日13時>自民党安倍派幹部の世耕参院幹事長は、辞表を提出したことを明らかにした。これで、安倍派の「5人衆」と呼ばれる幹部は、いずれも閣僚や党幹部の役職を退くことになった)

 

“自民派閥の裏金疑惑”政権中枢を直撃

自民党の派閥の政治資金パーテイーをめぐる問題で、最大派閥の安倍派(清和政策研究会)に所属する松野博一官房長官側が、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受け、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。

これは8日朝、朝日新聞が報道したのに続いて、そのほかの新聞・放送各社の報道で明らかにされたものだ。東京地検特捜部もこうした資金の流れなどについて、実態解明を進めているものとみられる。

一方、NHKは8日夜のニュースで、松野官房長官側のほかにも、安倍派幹部で事務総長を務める高木毅国会対策委員長や、世耕弘成参議院幹事長側も1000万円を超えるキックバックを受けていることが新たにわかったと報道した。

これによって、政治資金パーテイーをめぐる裏金疑惑は、岸田政権の中枢を直撃する可能性が大きくなった。自民党関係者によると、臨時国会閉会後に検察当局が本格的な捜査に着手するとみており、岸田政権は大きく揺らぐことも予想される。

 裏金疑惑、事実関係の確認なされず

自民党の5つの派閥による政治資金パーテイー収入の不記載問題は、急展開した。今月1日には、最大派閥の安倍派では、パーテイー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側に裏金としてキックバックしていたことが明らかになり、その収入は去年までの5年間で数億円に上るものとみられている。

その後、安倍派の複数の議員が、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いが明らかになったほか、派閥側、議員側ともに政治資金収支報告書に記載していなかったものとみられ、裏金として環流していた実態が浮き彫りになった。

さらに冒頭に触れたように8日には、安倍派の事務総長の経験者で、官房長官の松野氏も1000万円を超える裏金を受け取っていたことが報じられた。裏金問題は、岸田政権の中枢を直撃した形になり、与野党に衝撃が広がった。

この問題は、8日に開かれた衆参両院の予算委員会でも取り上げられ、立憲民主党は、事実関係を厳しく追及するとともに松野官房長官に辞任するよう迫った。

これに対し、松野官房長官は「派閥で事実関係の確認が行われている最中であり、刑事告発を受けて捜査が行われている。私の政治団体についても精査して適切に対応していきたい」と同じ答弁を何度も繰り返し、事実関係の確認を避けた。

また、松野官房長官は「引き続き所管する分野の責任を果たして参りたい」とのべ、辞任する考えのないことを強調した。岸田首相も「政府のスポークスマンとして、しっかりと発信してもらう」と更迭する考えのないことを強調した。

岸田首相は一連の裏金疑惑について「自民党全体の問題として危機感を持っており、一致結束して対応していく。その第一歩として、信頼回復への道筋が明らかになるまで、政治資金パーテイーを自粛すること決めた」とのべ、今後の状況をみながら、さらなる対応をとる考えを示した。

このように岸田政権の対応は、危機感を表明するものの、各派閥のパーテイーによる資金集めや収支の実態がどのようになっていたのか、問題の核心に触れる説明はみられなかった。これでは、国民の疑問や疑念に答えることはできない。

 官房長官などの進退、検察の捜査が焦点

問題は、これからの展開はどのようになるかだ。8日の集中審議を受けて、野党側は「松野官房長官は説明責任を果たせていない」として、辞任要求や、証人喚問要求を強めていく方針だ。

与党内からも「今のような答弁では、内閣の要としての役割が果たせていない」などの厳しい意見も聞かれ、辞任は避けられないとの見方も出ている。

また、松野官房長官のほか、高木国対委員長や、世耕参院幹事長などの疑惑が事実であれば政治責任が厳しく問われ、進退問題につながることも予想される。

国民世論の厳しい評価が示されると、閣僚や党役員の一部交代に止まらず、内閣改造が必要になるとの見方もある。

さらに、最も大きな焦点は、検察当局の捜査のゆくえだ。今の臨時国会が13日に閉会すれば、安倍派の会計責任者や、事務総長経験者の幹部、さらには多額の裏金を受領していた議員などの事情聴取が行われ、立件に向けての捜査が本格化するものとみられる。

このため、岸田政権は、政治資金問題への対応に加えて、年末に向けて新年度予算の編成作業も待ったなしの状態だ。この2つの問題をどのように乗り切っていくのか、岸田首相は早急な態勢立て直しを迫られている。(了)

★追記(9日22時)自民党安倍派の政治資金パーテイーをめぐる問題で、新たに安倍派座長の塩谷立・元文科相、萩生田光一・政務調査会長、西村康稔・経産相がパーテイー収入の一部について、キックバックを受けていたとみられることが明らかになった。これで、安倍派の「5人衆」と「座長」の幹部6人は、いずれも派閥から裏金のキックバックを受けながら、政治資金収支報告書に記載していない疑いがあることが明らかになった。

 

 

 

”巨額裏金疑惑”急浮上、早急に事実の解明を

自民党最大派閥の安倍派「清和政策研究会」が、巨額の裏金づくりを続けていた疑いが明らかになり、衝撃が広がっている。

安倍派幹部は詳しい説明を避けており、報道が先行する形になっているが、政治とカネの問題は「国民の政治不信を招く最大の元凶」だ。

岸田首相は自民党総裁として、安倍派幹部に事実関係の解明を急ぐよう指示すべきだ。また、自民党も今後の具体的な対応策を早急に明らかにする責任がある。

岸田政権と自民党の対応が不十分だと国民が受け止めた場合、”岸田政権離れ”がさらに進み、政権運営に深刻な影響が出てくることが予想される。

 キックバック総額、5年間で数億円か

今回の自民党の派閥による裏金づくりの問題は、短期間に急展開したので、わかりにくいという方も多いと思われる。最初にここまでの動きについて、NHKの報道を基にポイントを整理しておく。

▲今回の問題は、自民党の5つの派閥が行った政治資金パーティーの収入が、政治資金収支報告書に合わせて4000万円も過少に記載されているという告発を受けて、検察当局の新たな動きから始まった。東京地検特捜部が、派閥関係者から任意の事情聴取を行っていたことが、先月18日に明らかになったのだ。

▲自民党の派閥の政治資金をめぐっては、複数の派閥が、所属する議員の役職や当選回数などに応じて、パーティー券の販売ノルマを設定し、ノルマを超えて集めた分の収入を議員側にキックバックしていたことを示すリストを作成していたことも明らかになった。

▲このうち、最大派閥の安倍派は、議員側にキックバックした分の収入を、派閥の政治資金収支報告書に記載していなかったとされる。その総額は、去年までの5年間で数億円に上るという。

▲また、安倍派の複数の議員は、1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがあることも明らかになった。

以上のような事実関係から、安倍派は、政治資金パーティーで集めた資金の中から一定額を、裏金として所属議員にキックバックする運用を組織的に続けてきたものとみられている。

こうしたキックバックは、二階派「志師会」でも行われていたという。自民党関係者に聞くと「派閥の政治資金パーティーは、実際には個別の議員が売りさばいており、派閥は全体状況を正確に把握できていないのが実状だ」と語る。

また、「不明朗な資金処理は、安倍派だけでなく、他の派閥でも同じようなことが行われている」として、自民党にとって根の深い問題であることを認める。

 公開が基本、政治改革否定の悪質行為

さて、こうした自民党派閥の「政治とカネ」の問題をどのようにみるか?政治資金規正法は「政治資金の流れ、収支を広く国民に公開し、国民の不断の監視と批判に委ねること」を基本にしている。

この法律は「ザル法」などと揶揄されてきたが、今回の問題はその”ザル法”すらも守らず、抜け道をつくって裏金を運用しているのだから、極めて悪質だ。

また、政治改革の問題とも関係する。ロッキード事件をはじめ、リクルート事件、東京佐川急便事件などの政治スキャンダルが相次いだのを受けて、90年代前半に新たな選挙制度とともに、政党助成制度の導入など政治改革関連法を成立させた。

政治腐敗を防ぐことをねらいに、国民1人当り250円、総額およそ300億円の税金を初めて政党に投入・助成することになり、政治の浄化が進むはずだった。

ところが、今回の裏金づくり疑惑によって、一連の政治改革とこれまで30年余りに及ぶ取り組みを台無しにするような行為が明らかになったことになる。

こうした背景としては、2000年の森政権以降、小泉政権、安倍政権など清話会を中心にした政権が続いたこと。特に「自民1強・野党多弱」体制のもとで政治のよどみと驕りが、不明朗な政治資金の運用へとつながったのではないか。特に自民党の歴代総裁をはじめ、派閥の幹部や党役員などの責任は重い。

 岸田首相、事実解明へ指導力発揮は?

こうした事態に対して、岸田首相や安倍派幹部の対応はどうか。岸田首相は、訪問先のUAE=アラブ首長国連邦で記者団に対し、「国民に疑念を持たれていることは、たいへん遺憾だ。党としても対応を考えていく」とのべた。但し、具体的な対応への言及はなかった。

安倍派の座長を務める塩谷・元文科相は30日、所属議員にパーティー券の販売ノルマを設けていたことを明らかにしたが、その日のうちに発言を撤回した。

安倍派で過去5年の間に派閥の事務総長を務めた幹部のうち、松野官房長官は1日の記者会見で「政府の立場で答えることは差し控える」とかわした。西村経産相、高木自民党国対委員長も、事実関係について口をつぐんだままだ。

政治とカネの問題は、国民の政治不信を招く最大の元凶だ。岸田首相は自民党総裁として、安倍派をはじめとする各派閥に対して、事実関係を早急に調査するよう指示するとともに、自民党としての具体的な対応策を明らかにすべきだ。

一方、岸田首相自身も派閥や政治資金をめぐって、問題を抱えている。去年の政治資金の収支報告が先日明らかになったが、岸田首相は収入が1000万円以上の「特定パーティー」を年に7回も開催し、1億4800万円もの資金を集めていた。

2001年に閣議決定された「国務大臣、副大臣及び政務官規範」によると「国民の疑惑を招きかねない大規模なパーティーの開催は自粛する」と定めている。歴代首相の中で、首相自ら「特定パーティー」を頻繁に開催するのは異例で、本来は自粛すべきではないかと考える。

また、自民党出身の歴代首相は、就任時には派閥の会長を退いてきた。ところが、岸田首相は今も出身派閥・宏池会の会長を続けており、党内からも「派閥とは一定の距離を置くべきだ」と指摘する声は多い。

いずれにしても自民党総裁である岸田首相が、派閥の不透明な資金集めの解明に指導力を発揮できるかどうかが、問われている。

 検察の捜査のゆくえと政権の対応が焦点

これからの焦点は、検察当局が立件に向けて捜査に着手するかどうかが1つ。東京地検特捜部は、全国から応援検事を集めて態勢を拡充しているとの情報もあり、臨時国会が閉会する13日以降、本格的な捜査に踏み切る可能性が高いのではないかとみている。

もう1つは、岸田政権の対応だ。安倍派の幹部は、政権の主要ポストを務めており、今後、政権運営にさまざまな影響が出てくるものとみられる。

その際、岸田政権は「政治とカネの問題」に真正面から向き合い、事実の解明などに積極的な姿勢で取り組まないと政権運営が困難になるのではないか。年内が最初のヤマ場で、岸田首相の決断と対応力が試される。(了)

★追記・参考情報(4日21時)安倍派では、キックバックを受けていた所属議員が、数十人に上るとみられることが新たに明らかになった。このうち、複数の議員は、去年までの5年間に1000万円を超えるキックバックを受けていた疑いがある。

混迷深まる岸田政権、復元力は?

岸田内閣の支持率下落に歯止めが、かからない。報道各社の世論調査によると、危険水域とも言われる30%ラインを下回り、与党内では、このままの状態が続けば、政権運営が行き詰まるのではないかと懸念する声も聞かれる。

一方、政府の新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案は、24日に衆議院の予算委員会と本会議で可決され、参議院へ送られた。参議院予算委員会で審議が続けられ、月内には成立する見通しだ。

問題は、急落している支持率が回復し、政権が再び力を取り戻すことができるかどうかだ。岸田首相の国会論戦での対応などから判断すると、復元への道はかなり険しいのではないかというのが、率直な印象だ。なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 記録的な低支持率、岸田政権の危機

最初に報道各社が行った11月の世論調査で、岸田内閣の支持率を確認しておきたい。今月中旬にまとまったNHKの調査(11月10日~12日)では、岸田内閣の支持率は29%で、節目の30%ラインを下回った。

続いて、下旬にまとまった読売新聞の調査(11月17日~19日)では、支持率は24%、朝日新聞の調査(11月18,19日)では25%まで下落した。

こうした支持率は、いずれも岸田政権発足以降、最も低い水準となった。また、2012年12月に自民党が政権復帰して以降と比べても、この11年間で最も低い、記録的な低支持率になっている。

この原因だが、岸田政権が打ち出した「減税と現金給付」を柱とした経済対策に対して、「評価しない」との受け止め方が6割以上にも上ったことが大きい。

また、副大臣など「政務三役」の相次ぐ不祥事で、3人が辞任に追い込まれたことも影響しているとみられている。

さらに、政府の減税を評価しない理由を聞くと「選挙対策に見えるから」が最も多く、首相や政権への強い不信感が読み取れる点も大きな特徴だ。

 予算委論戦、立て直しへの姿勢見えず

問題は、支持率急落が一時的なものか、根深い要因によるものかだ。そして、岸田首相がこうした世論の動向を察知して、何らかの対応策を打ち出すのかどうか、予算委員会での岸田首相の答弁を注目して見ていた。

総額13兆円の補正予算案が20日に国会に提出されたのを受けて、衆院予算委員会の論戦は翌日から始まった。

立憲民主党など野党側は「政府の所得税減税などが実施されるのは来年夏のボーナス時で、遅すぎる。それよりも幅広い世帯に対象を広げて現金給付を急ぐべきだ」と追及するとともに「減税は1回限りなのか」などと攻め立てた。

これに対して、岸田首相は「住民税の非課税世帯には、7万円の追加給付を行う。一方、賃上げとデフレ脱却の流れを止めてはならないので、一時的な下支え措置として定額減税を用意した」などと従来の答弁を繰り返した。

こうした回りくどい答弁では、長引く物価高に苦しむ国民に、政府の対策は響かない。また、所得税減税の場合、富裕層を除く所得制限を行うのかどうか具体的な制度設計についても踏み込まなかった。

政務三役の辞任についても、岸田首相は「任命責任を感じる」などいつもながらの答弁に終始した。国民の政権離れへの危機感や、政権の態勢立て直しへの強い思いなどは、岸田首相の答弁からは感じられなかった。

 難題対応の結論先送り、政権へ逆風

以上は岸田政権の当面の課題をみてきたが、今回の記録的な支持率低下の背景には、これまでの「岸田首相の政治姿勢や政権運営に対する疑問や不満」が大きく影響しているのではないかと感じる。

具体的には、岸田首相はこの1年「政策の大転換」と位置づけて、防衛力の抜本強化や、異次元の少子化対策を次々に打ち出す一方、防衛増税の実施時期や、少子化対策の財源の具体化については先送りを続けてきた。

岸田首相は、先送りはしていないと反論するが、「防衛増税」を「防衛財源確保の税制措置」と別の表現を使うなど、増税や国民負担の増加など国民に不人気な政策について、説明することを避けてきたのが実態だ。

このため、岸田首相が定額減税を打ち上げてもその財源はどのように確保するのか。選挙を乗り切れば、増税や社会保険料の上乗せなどの措置を取るのではないかと国民は見透かしているのではないかと思われる。

支持率低下の要因として、政界関係者の間では、岸田首相の発信力の弱さや説明不足などを指摘しているが、問題の根本は、政権が「財源などの核心部分について、結論を出さずに先送りしていること」にあるのではないかと考える。

別の表現をすれば「国民に不人気な政策であっても、結論を明確に打ち出すこと」。そのうえで「国会論戦を通じて説明し、国民を説得すること」。その取り組みがあまりにも弱かったのではないか。そうした首相の姿勢に対する疑問や不満が、逆風となって岸田政権に吹き出しているとみている。

 実績を上げられるか、復元力には弱さも

「岸田内閣の支持率が改善する展望はあるか」、「そのためには何が必要と考えるか」、自民党の長老に尋ねてみた。

「これほど政権への風当たりが厳しいと、小さくてもいいから、1つでも実績を上げること。それにより、国民の信用回復につなげることが必要だ。政権への支持が回復しなければ、党の総裁選で再選は難しいだろう。ましてや、解散などできるはずがない」と指摘する。

今の国会では、政府の総合経済対策をはじめ、旧統一教会の財産保全法案をめぐる野党との調整、マイナンバーカードの総点検を受けて、健康保険証の廃止の扱いなどの懸案を抱えている。

また、政権の新た火種として、自民党の5派閥が政治資金パーティー収入を政治資金報告書に記載していなかったことが明らかになった。こうした多くの懸案、問題の中から、1つでも実績を挙げることができるかどうかが試されている。

一方、岸田内閣の支持率をNHK世論調査でみると、支持率を不支持率が上回る「逆転状態」に陥ると、回復するまでに5か月もかかっている。安倍政権は逆転状態が少なかったことに加えて、いったん逆転状態になっても2か月、または3か月で回復し、復元力が強い政権だった。

これに対して、岸田政権は今年7月以降、既に5か月、逆転状態が進行中で、復元力の弱い政権と言える。それでも復元力を発揮するためには、国の将来にとって必要な政策は、不人気でも結論を示して、国民を説得する取り組みが必要だ。

岸田政権は、年末までに難題に結論を出していくのか、それともあいまい路線で乗り切りをめざそうとするのかどうか。岸田首相の選択と決断が、新年の日本政治の行方を大きく左右することになる見通しだ。(了)

 

 

“逆風強まる岸田政権”支持率30%割れ

岸田内閣の支持率が下落し、節目の30%ラインを割り込んだ。11月のNHK世論調査によると岸田内閣の支持率は、10月調査から7ポイント下がって29%になった。不支持率は8ポイント増えて52%、初めて5割を超えた。

内閣支持率が30%を下回るのは、菅政権が退陣する1か月前、2021年8月に同じ29%を記録したとき以来だ。2012年に自民党が政権復帰して以降をみても、菅政権と今回の岸田政権の支持率が最も低い水準になる。

今回の岸田政権の場合、政権浮揚の切り札として、減税と給付を盛り込んだ大型の経済対策を決定した直後だけに政権に及ぼすダメージは大きい。

端的に言えば、国民が喜ぶと思って5兆円の巨費を投じる減税と給付策が極めて不評で、逆に支持率が急落するという異例の結果を招いている。

なぜ、異例の支持率下落となったのか。政権への影響と今後の動きはどのようになるのか、世論調査のデータも分析しながら探ってみたい。

 政策の妥当性と政権への不信感も

まずは、岸田内閣の支持率が下落した理由・背景からみていきたい。そのためにNHK世論調査(11月10日~12日実施)の主なポイントを整理しておく。

▲世論調査では、政府の新たな経済対策のうち、物価高に対応するため、所得税などを1人当たり4万円減税し、住民税の非課税世帯に7万円を給付する方針について、どのように評価するかを質問している。

◆「評価する」は36%に止まり、◆「評価しない」が59%で大幅に上回った。

▲次に、評価しない理由は何か。◆「選挙対策に見えるから」が38%で最も多く、◆「物価高対策にならないから」30%、◆「国の財政状況が不安だから」24%、◆「実施時期が遅いから」4%となった。

逆に、評価する理由は◆「家計が助かるから」40%、◆「経済の再生につながるから」23%、◆「税収増加分は還元すべきだから」23%などと続いた。

▲岸田首相は一連の経済対策を通じて、来年夏には所得の伸びが物価上昇を上回る状態にしたいとしているが、これに期待するかを尋ねている。

◆「期待できる」は19%、◆「期待できない」は67%で、3人に2人の割合だ。

▲こうしたデータを基に岸田政権の経済政策と支持率下落の原因をどうみるか。個人的な取材を加味して考えると、次のような点を指摘できる。

▲国民の多くは、政府の経済対策を冷めた目で見ていることがうかがえる。政府の減税政策を「評価しない」とする人が6割近くと多いことに現れている。

また、「何を目的にしているのかはっきりしない」、「物価高対策としての妥当性に疑問」を抱いている人が多いことも読み取れる。

物価高対策であれば「給付」の方が「減税」よりも即効性があり、効果も大きいと考えるからだ。自民党の税調幹部の中にも同様の考え方がある。

これに対して、岸田首相の説明は、最初は物価高対策を強調し、次いで賃上げ・デフレ脱却に重点が移り、さらに子育て支援のためと政策のねらいが次々に変わり、「政策の目的、目標がはっきりしない」という問題点がある。

▲また、政府の減税政策などを評価しない理由として「選挙対策に見えるから」が最も多かった。これは「岸田首相の減税政策は、苦戦が続いていた衆参補欠選挙のテコ入れ」や「衆議院の解散ねらいの思惑があるのではないか」といった疑念や不信感が背景にあるためではないかと思われる。

▲さらに岸田首相の減税政策の打ち出し方をみると、与党に対して突如、減税検討の指示を出す一方、国会での自らの所信表明演説では、直接言及しないといった「チグハグな対応、迷走」が目立った。これでは、国民の理解や支持が広がらない。(詳しくはブログ10月27日号「迷走、所得税減税」)

▲一方、9月に行われた内閣改造人事で新たに起用された「政務三役の不祥事」が相次いで表面化した。山田太郎・文部科学政務官、柿沢未途・法務副大臣、神田憲次・財務副大臣の3人が3週間足らずの間に辞任・更迭に追い込まれた。

去年は「政治とカネの問題」などの問題で、閣僚4人が辞任する「辞任ドミノ」に追い込まれた。今年は政務官、副大臣レベルまで不祥事が広がったことも、政権の支持率低下に追い打ちをかけたとみられる。

このように物価高・経済対策そのものの内容に加えて、岸田政権の政策決定や政権運営のあり方についても、世論の側の疑問や不信感が重なって、支持率急落を引き起こしていると言えるのではないか。

 自民支持層離れ、政権の求心力も低下

そこで、政権への影響はどうか?結論を先に言えば「政権へのダメージは、大きい」とみる。既に政権の支持基盤へ影響が現れているからだ。

具体的には「自民支持層の支持離れ」が起きている。「自民支持層のうち、岸田内閣を支持する」と答えた人の割合は、岸田内閣の場合、5月は7割台半ばと高かったが、10月は6割台半ば、今月は5割台半ばまで大幅に減っている。

一方、最も大きな集団である「無党派層のうち、岸田内閣を支持する」と答えた人の割合は、10%をわずかに上回る程度だ。「支持しない」と答えた割合は7割近くにも達する。

岸田内閣は元々、無党派層の支持は少なかったが、2012年に自民党が政権に復帰して以降、今月は最も低い水準にまで落ち込んでいる。

無党派層からの支持を一定程度、得られないと普段の政権運営だけでなく、特に衆院解散・総選挙の際には勝敗を大きく左右することになる。

一方、年代別にみても20代から60代まで、さらに70歳以上のすべての年代で、「支持する」と答えた人より、「支持しない」と答えた人が上回っている。「政権の求心力の低下」が浮き彫りになっている。

 政権の力を取り戻せるか?年末がヤマ場

それでは、今後の政権運営や政局の見通しはどうなるだろうか。前回の衆院選挙から2年が経過し、与野党とも解散・総選挙のゆくえに神経をとがらせている。

今月9日から10日にかけてメデイア各社は「岸田首相は、年内解散を見送る意向を固めた」と大きく報道したが、既にみてきたように岸田政権は年内解散に打って出られるような状況にはなかった。

それよりも岸田政権は、国民の多くの支持を失い、内閣支持率は危険水域の20%台に落ち込んだという新たな段階を迎えているとみた方が実態に近いと思う。

但し、それでも野党は依然としてバラバラ状態で、政権交代が直ちに実現するような状況にはない。自民党内も岸田首相に代わる有力なリーダーは見当たらない。

このため、岸田政権が直ちに崩れるような状況にはないが、来年秋の自民党総裁任期満了まで1年を切ったことの意味は大きい。

これまで岸田首相の再選はかなり濃厚だったが、世論の支持率の低迷がこのまま続けば、総裁選の情勢は混沌としてくることが予想される。「次の衆院選挙を戦える顔」として通用するのかという声が出てくる可能性があるからだ。

当面は、新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案がポイントになる。今月20日に国会に提出され、成立はほぼ間違いないが、問題は、与野党の論戦を通じて、減税対策などの内容について、国民の支持が広がるかどうかだ。

また、年末の予算編成と税制改正に向けて、先送りされてきた防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源の扱いも改めて焦点になる。

さらに、大幅な円安が進む中で、日本経済や金融政策のかじ取りをどうするのか、国民は中期の構想と展望を求めている。

いずれも難題だが、岸田首相が強いリーダーシップを発揮して懸案を前進させることができるのか。そして、内閣支持率を回復して力強い政権となるのか、それとも低迷状態が続くことになるのか、年末が大きなヤマ場となる見通しだ。(了)

 

 

 

”減税、政権運営険しい道”岸田政権

政府は2日、所得税の減税や低所得世帯への給付などを盛り込んだ新たな経済対策を決定した。経済対策の規模は、17兆円台前半になる見通しだ。

経済対策の決定を受けて、岸田首相は記者会見で「最優先はデフレからの完全脱却だ。来年夏の段階で、賃上げと減税を合わせた国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に作りたい」と強調した。

経済対策をめぐっては、野党側は「物価高への対応にスピード感が無く、対策の効果も期待できない」と厳しく批判しているほか、自民党内にも岸田首相が強い意欲を示す所得税減税に疑問や不満がくすぶる。

国民は、新たな経済対策の内容をどのようにみたらいいのか。また、岸田政権の政権運営はどのような展開になるのか、探ってみたい。

 所得税減税の評価は?与党内にも異論

さっそく、新たな経済対策からみていきたい。ポイントは、岸田首相が強い意欲を示し、政権の目玉政策と位置づける所得税減税をどのように評価するかだ。

政府方針では、所得税と住民税を合わせて1人当たり4万円を差し引く定額減税を実施するとともに、住民税が非課税となっている低所得世帯に7万円を給付するのが主な内容だ。両方でおよそ5兆円程度の規模になる見通しだ。

政府が所得税減税を打ち出したは98年の橋本政権の定額減税と、その後継の小渕政権の定率減税以来だが、減税措置は結局、2007年まで9年間続いた。

この減税政策の評価だが、野党側は「税制改正に時間がかかり、実際に減税されるのは来年6月、遅すぎる」と批判し、「それよりも即効性のある給付で行うべきだ」と主張している。

自民党内にも「減税は一度実施すると止めるのが難しい。景気対策としての効果も給付の方が大きい」と異論も多い。また、「橋下政権時代は山一証券などが破綻した不況の時期で、コロナから回復した今は状況が違う」などの不満もくすぶる。

また、今回は減税と給付が混在することに加えて、支給額が減税の場合は1人当たり4万円で、家族数に応じて増える一方、給付は1世帯当たり7万円と異なり、公平さが担保できないといった問題点が指摘されている。

さらに、岸田首相をはじめ政府側は、減税は一回だけに止める一方、幅広い減税にするため、所得制限は避けたい考えだ。

これに対して、自民党内からは、バラマキ批判を避けるため、年収2千万円以上の高額所得者は対象から外す案や、減税は一回限りとすべきではないといった意見もあり、党の税制調査会で制度設計を急ぐことにしている。

政権の政策決定に批判、世論も厳しい視線

こうした所得税などの減税をめぐっては、与党内には、政権の政策決定のあり方を問題視する声も出ている。

具体的には、岸田首相が「税収増の国民への還元」を図るとして、新たな経済対策のとりまとめを与党に指示したのは9月26日だ。

その後、岸田首相から、唐突に所得税減税検討の指示が出されたのが10月20日で、苦戦が伝えられていた衆参補欠選挙の投票日の直前だった。

このため、「減税策は補欠選挙へのテコ入れではないか」、あるいは「低迷する政権の浮揚や、年内解散・総選挙をねらったものではないか」といった憶測も飛び交い、政権の対応のまずさを指摘する声は党のベテラン議員からも聞かれる。

一方、国民の岸田政権の経済対策に対する視線も厳しい。報道各社の10月の世論調査では、政府の新たな経済対策について「期待する」は4割程度に止まり、「期待しない」が6割程度でほぼ共通している。

直近の日経新聞の世論調査(10月27~29日実施)によると政府の経済対策について「期待する」は37%、「期待しない」は58%だった。物価対策としての所得税減税については「適切とは思わない」が65%で、「適切だと思う」の24%を大きく上回った。

岸田内閣の支持率は33%で、前回調査から9ポイント低下し政権発足以来、最低の水準だ。不支持率は8ポイント増えて59%だった。政権の対応を厳しい視線でみていることがうかがえる。

 補正予算審議と中期の将来展望がカギ

さて、岸田政権の今後の政権運営はどのようになるか。まず、新たな経済対策を受けて、政府は裏付けとなる補正予算案の編成を進めており、今月下旬に国会へ提出する見通しだ。一般会計の規模は13兆1000億円で、財源の多くは借金・国債に頼ることになる。

国会は与党が圧倒的に多数なので、原案通り可決・成立する見通しだが、予算審議を通じて、世論の反応が注目される。先の日経の調査と同じような結果になると減税が評価されず、内閣支持率を引き下げることになり、政権にとっては思わぬ展開となる可能性もある。

また、今の国会は、旧統一教会の財産保全のための法案や、11月末が期限のマイナンバーカードの総点検と健康保険証廃止の扱いをどうするかという問題も抱えている。

さらに、年末の予算編成や税制改正を控えて、先送りになっている防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源が焦点になる。岸田首相は、減税や児童手当の拡充など国民受けする政策には積極的だが、増税や国民負担増の問題は避けようとする姿勢がうかがえる。

岸田政権の減税に対して、世論の評価が低い背景としては「減税の後には、増税と負担増が待ち受けているのではないか」といった将来への不安や、政治不信があるのではないか。

したがって、岸田政権は当面の対策だけでなく、向こう3年から5年程度の日本経済や金融政策のかじ取りをどうするのか、中期の将来展望を明らかにしないと政権への不信感はぬぐえないのではないかと思う。

自民党の長老も「岸田首相に必要なことは、政権の目標をわかりやすく、はっきり示すこと。将来の展望を国民に率直に語りかけることが必要ではないか」と指摘する。

岸田首相にとっては、今月下旬に予定される衆参の予算委員会の質疑などを通じて、政府の経済対策について世論の支持が広がるかどうか、今後の政権運営の分水嶺になる。そして、来年夏の減税の実施時点で、日本経済がデフレ脱却の軌道に乗せられるのかどうか、険しい道が続くことになりそうだ。

最後に衆院解散・総選挙について触れておきたい。これまでのブログで触れてきたように経済対策のとりまとめが迷走し、内閣支持率も低迷している今の状況では、年内解散の可能性はほぼなくなったと言えるのではないか。

岸田首相も12月の政治日程として◆今月末からドバイで開かれるCOP28=国連の気候変動枠組み条約会議への出席、◆8日から長崎で開かれる国際賢人会議、◆16日から3日間、東京で開催されるASEAN特別首脳会議などの日程調整を進めている。

岸田首相にとって、懸案の解決で「政権の実績」を上げることができるかどうか、衆院解散の前提条件になる。(了)

“迷走 所得税減税”岸田政権

今月20日に召集された臨時国会は、岸田首相の所信表明演説と、これに対する各党の代表質問が3日間にわたって行われ、物価高と経済対策を中心に激しい議論が交わされた。

このうち、岸田首相が強い意欲を示している所得税減税については、野党の批判だけでなく、身内の自民党からも「何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」と苦言が示され、党内に不満が広がっていることが浮き彫りになった。

今回の所得税減税をめぐって、岸田首相は与党の幹部に対して検討を指示しながら、国会では減税への言及を避けるなど対応がちぐはぐで、迷走気味だ。政府の減税政策をどのようにみたらいいのか、国会論戦などを踏まえて考えてみたい。

 野党は批判、自民からも異例の苦言

各党の代表質問で質問が集中したのは「物価高と経済対策」だったが、どのような方向で取り組んでいくのか、各党の議論はかみ合わなかった。

その要因の1つに、岸田首相の対応がある。岸田首相は所信表明演説で「経済、経済、経済」と連呼し、経済を重点に取り組む姿勢を強調する一方、その実現に向けての具体策については言及を避けた。

具体的には「成長による税収の増収分の一部を公正かつ適切に還元する。還元措置の具体化に向けて、与党の税制調査会における早急な検討を指示する」とのべただけで、所得税減税に直接言及する表現はなかった。

これに対して、野党第1党の立憲民主党の泉代表は「政府の経済対策は遅すぎる。7月、8月でなく、なぜ、この時期まで遅れたのか。国民が望むのは、今年中の『給付、給付、給付』だ」として、6割の世帯に3万円のインフレ手当の給付を求めた。

日本維新の会など他の野党は、社会保険料の軽減や消費税率の引き下げなどそれぞれの党の主張を展開して、議論は平行線をたどった。

代表質問でもう1つ目立ったことは、自民党から岸田首相の減税政策に対して、厳しい指摘が飛び出したことだ。

自民党の世耕参議院幹事長は「『還元』という言葉がわかりにくかった。世の中に対して、何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」と厳しく指摘した。

また、「岸田内閣の支持率は低空飛行、補欠選挙の結果は1勝1敗。支持率が向上しない最大の原因は、国民が期待するリーダーとしての姿が示せていないということに尽きるのではないか」と岸田首相の政権運営についても苦言を呈した。

 国会対応、政策の組み立て方も課題

今回の経済対策について、政権の対応を点検してみると、岸田首相が「税収増を国民に適切に還元すべきだ」と最初に言及したのは9月26日の閣議で、10月末をめどに新たな経済対策を策定する考えを表明した。

その後、自民党内から所得税減税を求める声が上がったが、岸田首相は明確な考え方を示さず、衆参補欠選挙を直前に控えた10月20日になって、ようやく与党の幹部に所得税減税の検討を指示した。

一方、23日は臨時国会で首相の所信表明演説が行われた。通常は、政権がその国会で成立をめざす主要政策について表明するが、今回は冒頭に触れたように所得税減税などについて、直接言及する表現はなかった。

世耕参議院幹事長が苦言を呈したのは、こうした政権の対応の遅さや、首相の指導力が発揮できていないことへの不満やいらだちがあるものとみられる。

岸田首相の立場に理解を示す自民党幹部も「政権の目標の設定や、そのための政策の組み立て方を改めないと政権運営は安定しないのではないか」と指摘する。

以上、みてきたように経済対策のとりまとめを打ち出した9月26日の時点で、最初から所得税などの定額減税の検討を含めて指示していれば、迷走することはなかったのではないか。首相自らの主導権の発揮にこだわったのではないかとの説や、年内解散の思惑も関係していたのではないかとの見方も聞く。

 4万円定額減税、7万円給付で調整へ

こうした中で、岸田首相は26日、政府・与党政策懇談会を開き、税収増の還元策として所得税と住民税の定額減税とともに給付を行う考えを明らかにし、与党の税制調査会を中心に具体的な制度設計を行うよう指示した。

政府側から示された案では、◆1人当たり所得税3万円と、住民税1万円の合わせて4万円の減税を行う。◆所得の低い人への支援策として、住民税の非課税世帯に7万円を給付し、既に決定した3万円と合わせて10万円になるとしている。

◆政府としては、来月2日に経済対策を決定したうえで、非課税世帯への給付は補正予算案の成立後、速やかに行うとともに、減税は必要な法改正を経て、来年6月に実施したい考えだ。

政府案によると過去2年間に増えた税収の総額は、所得税が3.2兆円、個人住民税が2200億円で、これにおよそ1兆円の給付金を加えると、還元総額は5兆円規模になる見通しだ。

こうした政府の方針に対して、自民党内では、減税は実施まで時間がかかることに加えて、給付金に比べると物価高への即効性が低いとして、効果を疑問視する見方もある。

また、政府は所得制限を設けない方針に対し、自民党内には、高額所得者は対象から外すべきだという意見もあり、調整が必要になる。

 減税、先送り財源含め全体像の議論を

国会は27日から衆議院予算委員会に舞台を移して、岸田首相と与野党の委員の間で、一問一答方式の詰めた議論が繰り広げられる見通しだ。

まず、物価高騰対策として、支援を減税で行うのがいいのか、給付金として支援する方が効果的なのか、支援の方法、対象、規模などが焦点になる。

また、政府の減税方針をめぐっては、税収増を減税の財源として使うのが適切なのか、大量の国債を発行している財政の健全化に当てるべきなのかといった点も議論になりそうだ。

さらに、防衛力の抜本強化に伴う増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源については、年末の予算編成まで先送りのままだ。

こうした先送りの政策を含めて、主要政策の予算の規模や財源の見通しなどの全体像を明らかにして、議論を深めることが必要だ。

岸田首相が大型の減税政策を打ち出したのは、支持率が低迷する政権を浮揚させる思惑が働いているとの見方が与野党の関係者から聞かれる。また、与野党双方とも、次の衆院選を意識して、国民受けする歳出増の政策が目立つ。

物価高で家計のやりくりに追われる国民は、政府の支援策への関心は高い。一方で、将来、増税や負担増の形で跳ね返ってこないか、影響を見極めて政策を判断しようとする姿勢に変わりつつあるように感じる。

政府の新たな経済対策と裏付けとなる補正予算案の内容が、どのような形になるのか。衆参両院の予算委員会の審議などを通じて、国民は岸田政権の減税政策をどのように評価するのか、今後の政治のゆくえを左右することになりそうだ。(了)

臨時国会開会 ”解散より、懸案解決を”

臨時国会が20日召集され、先月内閣改造を終えた岸田政権と野党側との間で、物価高・経済対策を中心に激しい論戦が交わされる見通しだ。

今度の国会は衆参統一補選の最終盤に召集されるため、岸田首相の所信表明演説は初日の20日ではなく、統一補選の投開票が終わった後の23日に行われる。これに対する各党の代表質問は24日から始まり、会期は12月13日までの55日間だ。

また、細田衆院議長が体調不良で辞任し、後任に額賀元財務相が20日に選ばれる運びだ。このように国会冒頭の日程は、通常とは異なる形になる。

さて、この臨時国会をめぐって与野党の間では年内解散説が消えないが、内外に山積する課題・難題を考えると衆議院を解散して2か月近くも政治空白を作るような状況にはないと思う。

このため、”衆院解散をめぐる駆け引きより、懸案解決に向けた政策論争”を徹底して行ってもらいたい。実際にどのような展開になるか、この国会の焦点を考えてみたい。

 新閣僚の資質、政権の政治姿勢は

今度の国会は、岸田首相が9月に行った内閣改造・自民党役員人事の後、初めて開かれる国会だけに、野党側は衆参予算委員会などの場で、初入閣の11人を中心に閣僚としての考え方や資質などを追及していく方針だ。

このうち、加藤鮎子・こども政策担当相は、自らの資金管理団体が法律の上限を超えるパーテイー券250万円を受け取っていたことが明らかになった。同じように「政治とカネの問題」を抱える閣僚がいることから、政治資金や閣僚の資質などをめぐって激しいやり取りが交わされる見通しだ。

また、自民党が去年行った点検(調査)で、旧統一教会と接点があった新閣僚4人がいることから、野党側はこうした点についても取り上げる構えだ。

さらに、木原防衛相が今月15日、衆院長崎4区の補欠選挙の応援で、自衛隊の政治利用とも受け取られる演説を行い、その後、発言の一部を撤回した問題についても取り上げ、責任を追及することにしている。

岸田政権は今月4日に発足から2年が経過したことから、野党側は、岸田首相のこれまでの政権運営や政治姿勢についても質すことにしている。

 物価対策と経済全体の基本方針を

次に政策面では、物価高騰が続く中で、物価対策と経済政策をめぐる議論が大きな焦点になる見通しだ。岸田首相は新たな経済対策を10月中にとりまとめるよう指示するとともに、裏付けとなる補正予算案を提出する方針だ。

その経済対策の中では、ガソリンなどの燃料油と電気、ガスの料金を下げる負担軽減措置の継続をはじめ、持続的な賃上げに向けて、賃上げした企業に対する減税制度の拡充、低所得世帯への支援策などが盛り込まれる見通しだ。

一方、岸田首相は「税収増を国民に適切に還元する」との考えを示している。これは「期限付きの所得減税」に踏み切る意向とみられている。経済対策がまとまるのは10月末か11月はじめ、補正予算案を国会に提出するのは11月下旬になる見通しだ。

国民が知りたいのは、当面の物価高対策だけでなく、「経済全体のかじ取り」をどのように行っていくのか、「岸田政権の基本方針」だ。

消費者物価は3%以上の上昇が12か月連続、実質賃金のマイナスは17か月も続いている。1ドル=150円寸前の大幅な円安は物価上昇の要因だが、金融緩和はこのまま続けるのか。大型補正予算を組んだ場合、インフレの加速にならないのか、知りたい点は多い。

国の財政については、コロナ対策もあって補正予算はこの3年間、73兆円、36兆円、31兆円と異例の規模が続いた。コロナ感染が収まった今、補正予算案は通常の数兆円規模に戻すのか、それとも大型補正を続けるのかの問題もある。

さらに、所得減税の実施に踏み切る場合は、年末に結論を出す予定の防衛増税や、少子化対策の負担増との関係はどうなるのか「減税と負担増との関係」がさっぱり、わからない。

つまり、岸田政権の中期の経済運営は、何を重点目標に設定して、どのような政策を組み合わせて実施するのか「経済政策の全体像」を提示してもらいたい。

そのうえで、与野党がそれぞれの党の方針も交えて議論を徹底して行うことが、この国会の役割であり、政治の責任だ。

 旧統一教会の財産保全などの懸案も

このほか、去年秋の国会から持ち越してきた懸案も多い。まずは、旧統一教会の問題だ。政府が教団に対する解散命令を請求したのを受けて、立憲民主党や日本維新の会は被害者の救済にあてるため、教団の財産を保全する法案を国会に提出する方針だ。

これに対して、自民、公明の与党側も対応を検討していく考えだ。今後、与野党が協調して法案を国会に提出することも予想され、臨時国会の焦点の1つになる見通しだ。

また、先の通常国会で問題になったマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、政府は11月末までに総点検を行い、その結果を12月上旬に報告する予定だ。健康保険証を来年秋に予定通り廃止するのか、それとも廃止の延期を行うのか、議論が再燃することになりそうだ。

 解散より、内外の難題に向き合う国会を

この臨時国会をめぐって、与野党の間では「岸田首相は、年内解散を考えているのではないか」との憶測が飛び交った。今でも11月下旬に補正予算を提出、短期間で成立させた後、年末解散があるのではないかとの見方は消えていない。

個人的な見通しを言えば、岸田内閣の支持率と自民党の政党支持率も低迷している今の状況では、勝敗面からも解散の確率は極めて低く、年末解散はないとの見方をしている。

また、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に加えて、中東のイスラエルとハマスの軍事衝突の激化で、世界の平和と民主主義が危機的状況を迎えているときに、解散・総選挙で政治空白を生むような選択は取るべきではないと考える。

端的に言えば、この臨時国会は「解散よりも、内外の難題に向き合い、一定の結論を出す国会」にすべきだ。こうした視点で国民の多くが、岸田政権と与野党の対応を評価し、近い将来行われる選挙に活かしてもらいたい。(了)

 

“岸田政権浮上せず”10月世論調査

岸田政権が発足してから10月4日で、丸2年が経過した。岸田首相は先月13日に内閣改造・自民党役員人事を行って体制整備を図るとともに、新たな経済対策のとりまとめを指示し、3年目の政権運営を進めている。

来年秋の自民党総裁選まで1年を切り、前回衆院選挙から10月末には折り返し点を迎える。与野党双方からは「新たな経済対策で国民の支持が広がれば、岸田首相は年内の衆院解散・総選挙に踏み切るのではないか」との見方が聞かれる。

内閣改造後の岸田内閣の支持率に与野党の注目が集まっているが、NHKの10月の世論調査の結果がまとまった。岸田内閣の支持率は先月と同じ36%のままでピクリとも動かず、政権の浮揚効果は見られなかった。

岸田政権の新たな経済対策についても「期待していない」が半数を超え、政権を取り巻く情勢は好転の兆しがみられない。20日からは臨時国会が幕を開けるが、年内の衆院解散・総選挙への道は狭まりつつあるようにみえる。

不支持逆転続く、政策に不満過去最高

さっそく、NHKの世論調査(10月7~9日実施)のデータから見ていきたい。岸田内閣の10月の支持率は、先月と同じ36%。不支持率は、先月より1ポイント多い44%だった。支持率を不支持率が上回るのは7月以降4か月連続で、低迷状態が続いている。

支持する理由は◆「他の内閣より良さそうだから」が45%、◆「支持する政党の内閣だから」が27%で消極的な理由が多い。

不支持の理由としては◆「政策に期待が持てないから」が56%で、岸田内閣発足以降、最も高くなった。歴代政権と比べても高い水準だ。◆「実行力がないから」が20%で、合わせて8割近くを占める。

支持率の内容をみると、自民党支持層のうち「岸田内閣を支持する」と答えた割合は、60%半ばに止まっている。最も多い無党派層の支持率は18%と低く、逆に不支持率は56%と高いので、選挙の際にはマイナスに働く。

岸田首相は先月13日の内閣改造で、主要ポストの骨格は維持する一方、過去最多と並ぶ女性閣僚5人を起用して政権の刷新をアピールした。しかし、内閣支持率を上昇させる効果はみられなかった。改造人事のねらいは不発に終わったと言えそうだ。

 経済対策、期待せずは6割近くも

それでは、岸田首相が表明した新たな経済対策の評価については、どうだろうか。岸田首相は、物価高騰対策や賃金の引き上げから、少子化対策、安心・安全確保対策など5つの柱を挙げて、10月末までに具体策をとりまとめるよう閣僚に指示した。

世論調査では、こうした新たな経済対策の効果について、評価を尋ねた。答えは「期待している」が38%に対して、「期待していない」が57%となった。

また、世論調査では、新たな経済対策とともに、防衛費の増額や少子化対策のための財源確保も課題になっている中で「国の財政状況に不安を感じているかどうか」についても尋ねている。

答えは「感じている」が75%に対し、「感じていない」が19%となった。

さらに岸田内閣が最優先に取り組むべき課題を1つ選んでもらうと◆「物価対策を含む経済対策」が50%で最も多く、◆次いで「少子化対策」13%、◆「社会保障」11%などと続いた。

以上のことから、国民の多くは、大型の経済対策や補正予算案の規模よりも内容に関心があり、特に「物価高騰対策を中心にした経済対策」を望んでることが読み取れる。

また、対策の評価に当たっては、財源確保の取り組みに不安を感じており、「財源確保の具体策」を明らかにするよう求めていることがうかがえる。

政権与党の動きを取材すると、衆院解散・総選挙をにらんで予算の規模の拡大、端的に言えばバラマキ姿勢が感じられるのに対し、国民世論の方が、コロナ感染が収まり、平時の経済・財政運営に立ち返るべきだという真っ当な考え方が読み取れる。

 年内解散よりも政策論争の徹底を

これから年内の政治は、どう動くのか。今月20日から秋の臨時国会が始まり、会期は12月上旬までとなる見通しだ。

その国会では、新たな経済対策の裏付けとなる補正予算案の扱いと、内閣改造を受けての岸田政権の政権運営などをめぐって激しい論戦が戦わされる見通しだ。

また、補正予算案を成立させた後、岸田首相が衆院解散に踏み切るかどうかが大きな焦点になる。その解散・総選挙の前提条件として、政権与党側が期待していた内閣改造による政権の浮揚効果はみられなかった。

また、政府の経済対策についても世論の期待感は乏しいことを考えると、年内解散の道はかなり難しくなりつつあるようにみえる。

さらに、今月22日に投開票が行われる衆議院長崎4区の補欠選挙と、参議院徳島・高知の補欠選挙の結果がどうなるか。2つの補欠選挙ともに与野党一騎打ちの構図になっており、この結果も年内解散のゆくえに影響を及ぼしそうだ。

国民の多くは「年内の衆院解散・総選挙は時期尚早。それよりも政策の中身、物価高などへの経済対策を充実させること。それに先送りになっている財源の具体策を明らかにすべきだ」と注文を付けているように思える。

こうした国民の注文に対して、岸田首相と与野党はどのように応えるか、臨時国会の論戦をしっかり見ていきたい。(了)

 

 

 

 

“未完の政権”主要政策の核心先送り

岸田政権は発足から10月4日で、丸2年が経過した。秋の臨時国会を控え、政界では年内解散説もささやかれているが、国民はこの政権をどのように見たらいいのだろうか。

長年、政治取材を続けているが、岸田政治とは何か?”主要政策が完結しないまま、次々に政策課題が提起される政治”という点に大きな特徴があると感じる。端的に言えば”未完の政策が積み残されたままの政権”ということになる。

岸田首相は自民党内に強いライバルが不在で、政権は安定した状況を維持している。反面、報道各社の世論調査でみると国民の評価は低迷した状態にある。

岸田政権のこれまでの政策や政権運営をどのように評価するか、3年目に入った岸田政治は何が問われているのか、探ってみたい。

(★タイトル部分は、原案ではわかりにくいとのご意見をいただきましたので、表現を手直ししました。本文の内容は変わっていません。10月5日追記)

 岸田内閣 政策と実行力に低い評価

まずは、政権発足から2年が経過した岸田政権をどのように見るか。人によって評価はさまざまだが、ここではメデイア、具体的にはNHKの世論調査のデータを基に考えてみたい。

岸田政権が発足した2021年10月の調査では、◇岸田内閣の支持率は49%、不支持率24%でスタートした。それから2年、最新の9月調査によると◇支持率は36%に下がり、不支持率は43%に増えた。支持率と不支持率が逆転し、国民の支持は低迷している。

この間の推移を整理すると、政権発足直後に衆院解散・総選挙に踏み切り、勝利した。続く翌22年7月の参院選挙にも勝利を収め、8月の内閣支持率は59%まで上昇した。

ところが、参院選の最中に安倍元首相が銃撃されて亡くなり、その後、安倍元首相や自民党と旧統一協会との関係が明らかになった。安倍元首相の葬儀を国葬にした問題や、内閣改造後に新閣僚の政治とカネの問題が表面化し、4閣僚が辞任に追い込まれた。今年1月の支持率は政権発足以降、最低の33%まで落ち込んだ。

その後、内閣支持率は徐々に上昇を続け、G7広島サミットが開催された5月には、支持率が46%まで回復したが、長男の首相秘書官が公邸内で忘年会を開いた問題やマイナンバーカードの混乱で再び支持率は急落した。

このように政権前半の1年近くは、コロナ禍の対応に追われながらも国民の評価は高かったが、去年夏の参院選を境に、後半は支持率の低迷状態が続いている。

その後半は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、岸田首相が日本の防衛力の抜本的強化とその財源確保のために増税策をとりまとめた。続いて、年明けには異次元の少子化対策を打ち出し、政権の立て直しをめざした時期に重なる。

こうした主要政策をめぐる国民の評価は、いずれも賛成より、反対の方が上回って厳しい評価を受けている。

その原因だが、世論調査では「政府の説明が不十分だ」という評価が圧倒的に多い。岸田内閣を支持しない理由としては、◇「政策に期待が持てない」が半数近くを占め、「実行力がないから」が4分の1、両方合わせて7割に達している。

このように岸田政権は、主要政策・看板政策について、国民の多数の評価を得るまでに至っていない。これが支持率低迷の大きな要因であり、政権の弱点だ。

 岸田政治とは?政策の核心部分先送り

それでは、岸田政権の主要政策の決定や政治手法には、どんな特徴や問題点があるのだろうか。

岸田首相に近い政権幹部に聞くと「岸田首相は自らの成果を語らないタイプなので、わかりにくいかもしれない。だが、難題は水面下で首相自らが調整を進めたうえで、幹事長や政調会長などに割り振っている」と首相の指導力を強調する。

例えば、防衛力の抜本強化ではNATO並みのGDP比2%目標や、5年間で防衛費の総額を43兆円とするなどの大枠を示したことで、党内の騒ぎは収まったことなどを挙げる。

別の側近は「安倍元首相や小泉元首相は対立軸をつくり、上手に政権運営を進めた。一方、岸田首相の政治は、政策を複数、同時並行に進め、仕事や権限を移譲する別の政治手法なので、わかりにくいのかもしれない」と釈明する。

これに対し、別の自民党の閣僚経験者は「岸田政権の政策決定は、切羽詰まった段階になって首相が独りで登場、党の主要幹部に掛け合い、何とかまとめ上げているのが実態だ。もっと目標やビジョンを早い段階で打ち出し、党内議論を活発にして政策を決めるべきだ」と注文をつける。

私自身の見方は、後者に近い。例えば、防衛力強化の計画と財源確保に増税する方針は決まったが、増税の実施時期は年末の税制改正まで先送りになった。党内には増税に異論があり、さらに1年先送りになる可能性もある。

今年の年明けには唐突に、異次元の少子化対策が打ち上げられ、その後、児童手当を所得制限なしに拡充するなどの方針が決まった。但し、財源の具体策については、これも年末の予算編成まで先送りになった。

このように政策転換が次々に打ち出されるのだが、肝心の財源の扱いは先送りとなり、政策が完結しないまま、次の政策が積み重なっていく形になっている。

別の表現をすれば「政策の核心部分」があいまいで、全体像がはっきりしない。政権が変われば、政策が白紙に戻ったり、場合によっては国民に負担増となって跳ね返ってきたりすることも起こりうる。

したがって、特に政権の看板政策については、全体像を明確にし、政策を完結させたうえで、国民に説明し理解を求めるべきだ。この点が、岸田政権には欠けている。

 解散より”中期の展望・構想を語れ”

さて、秋の臨時国会が10月20日に召集されることが、ようやく固まった。岸田首相は、10月末までに新たな経済対策をまとめたうえで、裏付けとなる補正予算案を国会に提出する考えを明らかにした。

問題は、その後の展開で、与野党の間では「岸田首相は年内の解散を考えているのではないか」との憶測が消えない。来年秋の自民党総裁選での再選を確実にするため、野党の選挙態勢が整わないうちに選挙を仕掛けるのではないかとの見方だ。

安倍政権時代にも2014年や2017年の「不意打ち解散」「けたぐり解散」といわれた想定外の解散・総選挙はあった。今回もないとは言えないが、可能性としてはかなり低いのではないか。

その理由は、冒頭に触れたように岸田内閣の支持率が低すぎ、国民の信頼を得ていないので、選挙のリスクが大きい。また、仮に解散に踏み切った場合、2014年のように年末選挙となり、新年度の予算編成は越年、予算の成立は4月以降にずれ込む可能性が高い。

国民の関心は、1年以上も続く物価高騰や、実質賃金の目減りが16か月も続く中で、家計をいかに守っていくかにある。そうした時期に解散に踏みきり、国民の多数の支持を得るのは難しい。手痛いしっぺ返しや鉄槌を下されるのではないか。

岸田首相は、解散より他にやるべきことは多い。まずは、補正予算案の編成のねらい・目的をはっきりさせて欲しい。コロナも落ち着き、選挙目当ての大盤振る舞いをするようなときではない。

それよりも1ドル150円寸前の円安が続く中で、いつまで金融緩和政策を続けるのか。実質賃金をプラスに転換するために今後の経済・財政運営の大方針を明確に示すことが求められている。

さらに岸田首相には「中期の政策の展望や目標」を語って欲しい。政権発足時に掲げた「新しい資本主義」はどうなったのか。首相として、何をやりたいのか、目標を明確にしてもらいたい。

まずは、今月20日に召集される臨時国会の冒頭で、岸田首相が3年目に入った政権の目標と道筋を明確に打ち出せるのかどうかを注視していきたい。(了)

 

補正予算案と年内解散説のゆくえは

岸田首相は26日の閣議で、新たな経済対策を10月末をめどにとりまとめるよう各閣僚に指示した。

とりまとめにあたっては、緊急課題の物価高対策や賃上げ促進だけでなく、半導体などの国内投資や人口減少対策、それに防災対策など国民の安心・安全確保の5つの柱を挙げており、内容は多岐にわたる。

これを受けて、政府、与党はそれぞれ具体策の検討に入っているが、どこまで効果のある対応策を打ち出せるかが問われる。

また、対策実現の裏付けとなる補正予算案の規模が大きな焦点になる。コロナ禍では補正予算案の規模が膨張したが、感染も収まっているだけに「平時の予算編成」に戻るのか、それとも大盤振る舞いが続くかも注目点だ。

さらに、今回は岸田首相が、補正予算案の国会提出時期に言及しないことから、与野党の間では「岸田首相は、年内解散を考えているのではないか」との憶測が消えず、疑心暗鬼を生んでいる。解散・総選挙をめぐる思惑が経済対策づくりにも影響を及ぼしそうだ。

そこで、補正予算案の扱いと年内解散説との関係をはじめ、今後、どのような展開になり、何がポイントになるのか探ってみたい。

 秋の臨時国会、想定される2つの道

さっそく、政治日程から見ていきたい。秋の臨時国会は10月中旬に召集される見通しで、冒頭に岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問、それに内閣改造を受けて、岸田政権の政権運営をめぐって与野党の論戦が続く見通しだ。

10月末に経済対策がまとまれば、補正予算案の編成作業が進められ、11月中旬以降には終わる見通しだ。通常であれば、補正予算案の国会提出を受けて、衆参両院で予算審議を行い、11月下旬から12月上旬までに成立するのが通常のパターンだ。

ところが、もう一つ別のパターンも想定される。政府・与党は、新たな経済対策をとりまとめて国民にアピールした後、補正予算案の提出を見送り、衆議院の解散・総選挙に打って出るケースだ。

わかりにくい方もいると思うので、似たような過去の例をあげると、2014年11月の安倍政権当時の「不意打ち解散」がある。当時、安倍元首相は11月18日に急遽記者会見し、翌年10月から予定されていた消費税率10%への引き上げを先送りして、21日に衆議院を解散して信を問う意向を表明した。

予定通り衆議院は解散され、総選挙は12月2日公示、14日投開票の日程で行われた。「不意打ち解散」とも言われたように、野党側は選挙態勢が整わず、自公両党の与党側が大勝した。

但し、年末選挙になった関係で、予算編成は年を越え、年明けの通常国会に補正予算案と新年度予算案が提出された。新年度予算案は年度内には成立せず、暫定予算を成立させたあと、本予算の成立は4月にずれ込む影響が出た。

このように補正予算案を編成し、そのまま国会に提出して成立させる道と、もう1つ、補正予算案の提出を見送り、解散に打って出る道もある。後者は、王道と言えないと思うが、政治の世界は何が起きるか、わからない。

 経済対策の評価と内閣支持率がカギ

それでは、今回、岸田首相はどのような選択をするだろうか。安倍元首相が「不意打ち解散」に踏み切った時、安倍内閣の支持率と、自民党の政党支持率はともに高い水準を保っていた。安倍政権の経済政策「アベノミクス」が追い風となっていた。

これに対して、岸田政権の場合、9月の報道各社の世論調査をみると、内閣改造を行った後も岸田内閣の支持率は横ばい状態で、上昇効果は見られなかった。支持率より、不支持率の方が上回る逆転状態が続いている。

自民党の政党支持率も岸田政権発足以降、最も低い水準だ。衆議院の比例代表選挙の投票先としても、30%を下回る水準に止まっている。

以上のような状況でも自民党内の一部には「年を越えても岸田政権に好材料が見当たらないこと」。また「野党の選挙態勢が遅れている年内に解散に踏み切った方が有利だとして、年末解散をめざすべきだ」という意見がある。

一方で、自民党内には「世論の支持が得られていない状況では、年内解散は行うべきではない」という慎重論も聞かれる。

岸田首相としては、前回衆院選から10月末で折り返し点に達することから、年内も含めて、解散・総選挙に踏み切る時期を探っているものとみられる。

但し、年内解散のためには、10月22日に行われる衆議院長崎4区と、参議院の徳島・高知選挙区の補欠選挙はいずれも自民党の議席だっただけに、両方とも勝ち抜くことが早期解散の必須条件との見方が党内では根強い。

また、岸田内閣の支持率が大幅に改善しないと「年内解散は無理」との見方が広がりそうだ。このため、年内解散のハードルはかなり高いとみられる。

最終的には、10月末にまとまる政府・与党の新たな経済対策がどのような評価を受けるか。そして、岸田内閣の支持率も大きく改善するかどうか。この2つの評価で、補正予算案の扱いと年内解散のゆくえを占うことができそうだ。(了)

 

 

“政権浮揚効果見えず”岸田改造内閣

先の内閣改造と自民党役員人事を受けて、報道各社が行った世論調査の結果がまとまった。岸田内閣の支持率については、先月を上回った調査もあったが、前回と同じか、横ばいの水準に止まる結果の方が多かった。

また、人事全体の評価については、いずれの調査とも「評価しない」が「評価する」を大幅に上回った。

世論調査のデータからは、与党が期待していたような「政権浮揚効果」は見られず、岸田改造政権は厳しい出発になる。

また、秋の衆院解散・総選挙についてもハードルがさらに高くなったと言えそうだ。なぜ、こうした見方になるのか、以下、説明していきたい。

 人事の評価は低調、支持率も低迷続く

さっそく、報道各社の世論調査から見ていきたい。まず、岸田内閣の支持率については、◇共同通信は39.8%で、先月の調査より6.2ポイント増、◇朝日新聞は37%で、4ポイント伸びて微増となった。

一方、◇読売新聞は35%、日経新聞は42%で、それぞれ先月と同じ水準だった。◇毎日新聞は25%で1ポイント減、ほぼ横ばいとなった。

一方、今回の内閣改造と自民党役員人事全体の評価については、◇読売の調査では「評価する」が27%に対し、「評価しない」が50%だった。◇朝日の調査は、改造内閣の評価を聞いており、「評価する」が25%に対し、「評価しない」が57%だった。

このほかの調査結果も「評価する」より「評価しない」方が大幅に上回り、同じ傾向を示している。

この2つのデータを基に判断すると、今回の内閣改造と自民党役員人事については、国民の評価は低く、政権与党が期待したような内閣支持率を大幅に引き上げる「政権浮揚効果」は見られなかったと言える。

 内輪の人事、何をしたい人事か不明

それでは、なぜ、このように国民の評価が低いのか。岸田首相は、改造直後の記者会見で「変化を力に変える内閣」と位置づけ、「変化を力として、閉塞感を打破していく。強固な実行力を持った閣僚を起用した」と胸を張った。

国民からすると、内閣の要の官房長官や財務相、経産相などの主要閣僚と、党の副総裁、幹事長、政調会長は軒並み留任。変化と言えば、初入閣が11人、女性閣僚が過去最多と並ぶ5人となった点だが、刷新感はなく、強固な実行力も感じられないというのが率直な印象だろう。

また、2日後の副大臣と政務官合わせて54人の人事を見て驚いた国民も多かったのではないか。女性の起用はゼロ、全員男性だった。女性の閣僚を多数起用し、「女性活躍」を訴えた方針は、早くも看板倒れの形になった。

今回の人事をめぐっては与野党双方から、岸田首相が来年秋の総裁選での再選をねらった内向きの人事との声が聞かれる。自民党の長老に聞いても「初入閣が多いのはいいが、国民には何をやる内閣かさっぱり、伝わらないのではないか」と指摘する。

初入閣の中には、旧統一教会との接点があるとされる閣僚が4人含まれており、秋の臨時国会では、野党側から厳しい追及を受けることが予想される。

世論の評価や期待度が低いことは、政権の政策を後押しする力が弱いことにつながる。内外に数多くの懸案・課題を抱えている中で、政権が一丸となって、難局を乗り切っていく体制を整えられるのかどうか、早々に試される。

 秋の衆院解散、困難との見方強まる

秋の政局の焦点になっている衆院解散・総選挙の時期について、影響はどうだろうか。まず、自民党の一部にあった秋の早期解散シナリオは、困難とみられる。

早期解散シナリオとは、内閣改造で支持率を回復させたうえで、大型の経済対策と補正予算案を編成し、臨時国会に提出して早期の解散に打って出るというものだ。しかし、前提となる政権の浮揚効果がみられず、構想の実現は困難だ。

それでも自民党内には、年を越えると「追い込まれ解散」の恐れがあるとして、年末の解散・総選挙に踏み切るべきだという意見もある。岸田首相は、こうした年内解散を含めて、解散の時期を探るものとみられる。

このため、10月中旬に召集される見通しの臨時国会の攻防が、焦点になる。岸田政権は、物価高騰対策を含めた経済対策をまとめ、その裏付けとなる補正予算案を提出し、支持率を回復させ、政局の主導権を確保したい考えだ。

これに対し、野党側は、旧統一教会との接点がある閣僚の適格性をはじめ、マイナンバーカードの総点検の状況と保険証の今後の扱い、物価高騰対策の遅れや、経済運営の基本方針が定まっていないとして、政府の姿勢を追及する構えだ。

一方、朝日の世論調査では、政党の支持率が自民党は28%で、3か月連続で30%を切ったほか、衆院選挙の比例代表の投票先も31%に止まっている。野党側の投票先では、維新が14%、立憲民主党が11%などとなっており、こうした選挙情勢も岸田首相の解散戦略に影響を及ぼすので、注意が必要だ。

以上みてきたように改造人事では、政権の浮揚効果が見られなかったことで、秋の政局は、臨時国会での与野党の攻防が焦点になる。

世論調査のほとんどで、岸田内閣の支持率は、支持より不支持率が上回る逆転状態が続いている。臨時国会で、岸田政権が主導権を確保し、内閣支持率も回復するのか、それとも野党攻勢の国会になるのか、大きなポイントになる。(了)

“総裁再選ねらいの布陣”岸田政権 改造人事

岸田首相は13日、内閣改造と自民党役員人事を行い、新たな体制をスタートさせた。岸田政権の組閣と改造は、今度で3回目になるが、今回の人事をどのように見たらいいのだろうか。

結論を先に言えば、今回の人事は、2つの大きな特徴がある。1つは、岸田首相は来年秋の自民党総裁選をにらんで、その布石を打った人事であるという点。

2つ目は、初入閣が11人と多く、女性閣僚も過去最多の5人に上る。これは、低迷する内閣支持率を改善し、政権の浮揚へとつなげるねらいがある。

但し、こうしたねらいが功を奏するかどうか。自民党の長老は、短期間で支持率上昇などは期待しない方がいいし、秋の解散・総選挙もハードルが高いと指摘する。人事の背景や、岸田政権の政権運営に及ぼす影響などを探ってみた。

 総裁選へ体制固め、けん制と封じ込め

今回の内閣改造と自民党役員人事について、自民党関係者に聞くと「岸田首相は、茂木幹事長の処遇に迷っていた。最終的には、茂木氏に代わる適任者が見当たらずに留任を選択したのではないか」との見方を示す。

今回の人事では、自民党のNo2である幹事長の扱いをどうするかが、最大の焦点だった。「岸田首相は、幹事長を代えたいと考えている」として、茂木氏を幹事長から外し、内閣の重要閣僚として処遇する案が一時浮上した。

また、幹事長候補として、鈴木財務相や、小渕優子組織運動本部長、森山選対委員長や萩生田政調会長などの名前が浮かんでは消えた。

これに対し、茂木幹事長は入閣には難色を示したといわれる。また、茂木氏交代の場合、今の岸田・麻生・茂木の3派体制が崩れ、政権運営が不安定になるといった指摘も出され、岸田首相は最終的に茂木氏続投を決めたとされる。

但し、茂木氏留任とともに、総務会長に森山選対委員長を配置し、その後任に小渕優子氏を抜擢した。小渕氏は将来の首相候補の一人とも目されており、岸田首相は、茂木氏をけん制するねらいもあって起用したものとみられている。

一方、前回の総裁選に立候補した河野デジタル担当相と、高市経済安保担当相も退任説があったが、留任となった。閣内に止めた方が得策との判断があったものとみられる。

さらに、岸田首相は、安倍派の萩生田政調会長と人事の直前、2回も会談するなど安倍派重視の姿勢を示した。「5人衆」とも呼ばれる幹部は、いずれも同じポストにそのまま止まり、派閥としては最も多い4人が入閣した。

今回の人事は「総主流派体制」とも言われるが、実態は、岸田首相が来年の総裁選での再選をにらんで、ポスト岸田の候補をけん制したり、閣内に封じ込めたりする布陣とした点に大きな特徴がある。

 主要閣僚は留任、女性閣僚は過去最多

閣僚人事については、首相を除く19人の閣僚のうち、13のポストが入れ替わった。このうち、11人が初入閣で、女性の閣僚は5人にのぼり、2001年の小泉内閣や、2014年の安倍改造内閣と並んで過去最多となった。

女性閣僚では、上川陽子元法相が外相に就任したほか、子ども担当相に加藤紘一元幹事長の長女の鮎子氏が抜擢され、話題になっている。

一方、松野官房長官をはじめ、鈴木財務相、西村経産相、河野デジタル担当相、高市経済安保担当相、斉藤国交相の主要閣僚6人は留任し、内閣の骨格はそのまま維持される形になった。

派閥の内訳は、最大派閥の安倍派と第2派閥の麻生派が最も多い4人で、続いて岸田派と二階派が2人、谷垣グループが1人、無派閥が2人で、公明党はこれまでと同じ1人だった。各派閥に目配りをした「総主流派」で、党内の安定した運営を重視する姿勢が読み取れる。

改造内閣発足を受けて、岸田首相は13日夜、記者会見し、今回の人事について「『変化を力にする内閣』だ。経済、社会、外交安全保障の3つを柱に取り組んでいく」とのべるとともに、物価高などの経済対策を来月中をメドにとりまとめる考えを表明した。

また、衆議院の解散時期について問われたのに対し「今は、経済対策を作り、早急に実行していくことを最優先に日程を検討していく」とのべ、言及を避けた。

 改造人事、解散時期も世論の評価がカギ

これからの岸田政権の運営の取り組み方について、自民党の長老に聞いてみた。「女性の閣僚を多数起用したが、これで直ちに内閣の支持率が上がるとは思えない。初入閣の閣僚も多いので、まずは、内外の多くの課題にじっくり腰を落ち着けて、取り組みを進めるべきだ」と指摘する。

そのうえで、「内閣支持率がジワジワと上がっていくことをめざした方がいい。一定の成果が出ないうちに、解散・総選挙とはならないのではないか」とのべ、年内の衆院解散・総選挙は難しいとの見方を示している。

これに対して、自民党内には、野党の選挙態勢が整わないうちに早期解散に踏み切るべきだという意見もあり、岸田首相がどのような判断を示すかが焦点になる。

問題は、国民が今回の岸田政権の人事や政策をどのように評価するかだ。改造直前に行われたNHK世論調査(8~10日実施)によると、岸田内閣の支持率は36%に対し、不支持率は43%で、支持率を上回った。不支持の理由は「政策に期待が持てない」と「実行力がない」が7割を占める。

今回の改造で、内閣支持率がどうなるか。また、来月には、秋の臨時国会が召集される見通しだ。政権与党と、野党側が多くの懸案について、真正面から突っ込んだ議論を戦わせてもらいたい。

その結果で、衆議院の解散・総選挙の時期や是非などについても、一定の方向が見えてくるのではないかと予想している。(了)

秋の政局 見方・読み方”3つの焦点”

この夏は異常な猛暑が続いているが、暦は9月に入り、今年も残すところ4か月になった。5月のG7広島サミットでは存在感を発揮した岸田首相も今は、内閣支持率が政権発足以降、最低の水準まで落ち込み、厳しい局面が続いている。

さて、秋の政治はどう展開するのか?結論から先に言えば、3つの点がカギを握るとみる。1つは内閣改造・自民党役員人事。2つめは政権が抱える難題処理、3つめが衆院解散・総選挙のゆくえだ。この3つの焦点を軸に秋の政局を読み解きたい。

 内閣改造人事、政権浮揚か空振りか

最初に秋の主な政治日程を駆け足で見ておく。9月は外交日程がたて込んでおり、岸田首相は5日から11日までの日程で、インドネシアで開かれるASEAN関連首脳会議と、引き続いてインドで開催されるG20サミットに出席する。

この後、9月中旬に開幕する国連総会にも出席して演説を予定している。9月末には、自民党役員の任期を迎えるので、外交日程の合間をぬう形で9月中旬か、あるいは月末に内閣改造・自民党役員人事を行う見通しだ。

10月には秋の臨時国会が召集され、物価高と経済対策を盛り込んだ補正予算案が提出される見通しだ。10月22日には、衆議院長崎4区と参議院徳島・高知の統一補欠選挙が行われる。

11月末には、マイナンバーカードのトラブルをめぐって、総点検の完了の期限を迎える。12月は、来年度の税制改正や予算編成作業が本格化する。このように年末に向けて、内外の主要な日程がたて込んでいる。

岸田首相にとって、政治日程でもう1つ大きな意味を持つのは、10月初めで政権発足から丸2年が経過、自民党総裁任期満了まで1年を残すだけとなる。また、衆議院議員の任期の折り返しを迎え、衆議院の解散・総選挙の時期が視野に入ってくる。

以上の政治日程などから、岸田政権としては、9月に内閣改造・自民党役員人事に踏みきり、低迷している内閣支持率を反転させたい考えだ。そのうえで、年内に衆議院の解散・総選挙を断行するタイミングを探り、来年秋の自民党総裁選での再選につなげていくのが基本戦略だ。

そこで、内閣改造・自民党役員人事が政権浮揚につながるかどうか注目される。自民党の閣僚経験者は「岸田政権の運営は手詰まりの状況にあり、思い切った政策とそのための新たな布陣を打ち出せるかがカギだ」と語る。

与党内の関心は、岸田首相が党運営の要である茂木幹事長の交代に踏み切るかどうかだ。岸田首相と茂木幹事長とは、潜在的なライバル関係にあることや、自公関係を安定させるうえで「岸田首相は茂木氏を代えたがっている」との声も聞く。

これに対し、岸田首相は対応に迷っており、「今の岸田派、麻生派、茂木派の主流3派体制を維持してバランスを保つことが、政権の安定につながる」として、最終的には茂木氏の続投を選択するのではないかとの見方も根強い。

内閣の顔ぶれでは「松野官房長官や、林外相、西村経産相など主要閣僚は続投するのではないか」といった見方が強く、「人事の刷新は期待薄」といった声が早くも聞かれる。

自民党の長老に聞くと「岸田首相は、新たな人材も起用して力のある政権をめざしているが、具体的な人材となると適任者が見当たらない。改造で支持率が上がることもあるが、現実には上がらないのではないか」と厳しい見方を示す。

改造人事で、政権浮揚効果は現れるのか、それとも空振りに終わるのか、その結果が秋の政治のゆくえを左右する。

 難題処理の具体策と道筋、実行力は

2つめの焦点は、政治課題の問題だ。今年の5月以降、相次いだマイナンバーカードをめぐるトラブルについて、岸田政権は8月4日に新たな対応策を打ち出した。

焦点の健康保険証の廃止は、来年秋に廃止する方針を当面維持する一方、マイナ保険証を持たない人には、資格証明書の発行で、不安解消に努めるという内容だ。

そして、11月末まで総点検の作業を続け、その結果をみたうえで、健康保険証廃止の方針を改めて判断することにしている。

次に、東京電力福島第1原発の処理水を海に放出する問題については、岸田首相が放出に反対の全漁連の代表と面会するなどの調整を経て、8月24日に処理水の放出を開始した。

これに対して、中国政府は「汚染水」との表現で、こうした放出に強く反発し、日本産海産物の輸入を全面的に停止する措置を打ち出した。

これに対し、政府は、即時撤廃を申し入れたが、中国側は応じる気配がない。政府は、9月上旬に開かれる国際会議の機会を通じて、岸田首相が中国の李強首相や習近平国家主席に働きかけるシナリオを描いているが、めどはついていない。

さらに、ガソリン価格の高騰が続いているのをはじめ、電気やガス料金の負担軽減措置が9月末に切れることから、物価高や経済対策を求める意見が、与野党や国民の間から強まっている。

このほか、岸田政権が打ち出した防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源も先送りになっており、年末の予算編成で結論を出すことが迫られる。

このように岸田政権にとっては、内外の懸案が次々に積み重なる形になっている。いずれも難題で、どのような具体策と道筋で解決していくのか、政権の実行力が問われている。こうした懸案処理に一定の実績を上げないと政権の浮揚は困難だ。

 秋の衆院解散に高いハードル

3つめの焦点は、衆議院の解散・総選挙がどうなるか。ある閣僚経験者は「今のような内閣支持率の低さでは、とても解散を打てる状況にはない」との見方だ。

一方、与党内には「来年になっても政権に有利な材料は見当たらない。それなら、野党の準備が整っていない年内に行った方がいい」との意見も聞かれる。

自民党の長老の見方はどうか。「政権ができて2年になるが、残念ながら目に見える実績がない。政策も完結せず、道半ばだ。さらに政権として何をやりたいのか、国民に伝わっていない」と語り、解散のハードルは高いという見方だ。

岸田首相にとって与党内では、強力なライバルは見当たらず、最大派閥の安倍派も後継会長が決まらないことで、党内の主導権は発揮しやすい状況にある。但し、総選挙となると、国民の判断・反応が大きく影響する。

その世論の反応だが、NHKの8月の世論調査で岸田内閣の支持率は33%で、政権発足以降最低の水準だ。不支持率は44%で、支持を不支持が上回った。自民党の支持率も34%台まで下がり、岸田政権で最も低い水準になっている。

加えて、洋上風力発電をめぐる汚職事件で、外務政務官を務めていた秋本真利衆議院議員が検察当局から事務所の捜索を受けるなどの不祥事が相次いでいる。

岸田首相はこのところ、報道各社のぶら下がり取材に頻繁に応じ、懸案の取り組み方をスライドを用いて説明するなど情報発信を強めている。内閣支持率が低迷し、指導力を発揮していないなどの批判をかわす狙いがあるものとみられる。

これに対して、野党側は、岸田政権は内外の課題に有効に対応できていないとして、臨時国会では、岸田政権との対決姿勢を強める方針だ。

このように秋の政局は、臨時国会を舞台に岸田政権と野党側の攻防が一段と強まる見通しだ。与野党のどちらが主導権を握るのか、それによって年内解散があるのか、それとも来年以降へ先送りになるのか、決まることになる。(了)

”政府、東電に重い責任”処理水放出開始

福島第1原発にたまる処理水について、東京電力は24日午後1時、政府の方針に基づいて、海への放出を開始した。

原発事故から12年を経て、懸案の処理水の放出が動き出したが、完了には30年程度の長い期間がかかる見通しだ。政府と東電は、重い責任と役割を担う。

今回の処理水放出をめぐっては、安全性の確保と、風評被害への対策、それに東電、政府の責任と役割の3つが大きな課題になっている。

このうち、処理水の海洋放出に伴う安全性については、7月にIAEA=国際原子力機関が「国際基準に合致している」との報告書を公表し、国際社会では海洋放出を容認する受け止め方が広がっている。欧州、中国、韓国でもトリチウムを含む処理水を海洋に放出しているからだ。

中国は「汚染水」との表現を使って、厳しい日本批判を続けている。中国税関当局は、日本を原産地とする水産物の輸入を24日から全面的に停止すると発表した。

これに対して、岸田首相は記者団に対し、外交ルートで中国側に即時撤廃を求める申し入れを行ったことを明らかにした。中国に同調する動きは広がっていないが、中国はこの問題を外交カードとして使い続けることが予想され、日中間で激しい応酬が続く見通しだ。

一方、国内では、風評被害の防止と、政府と東電の対応や責任が国会でも議論になる見通しだ。今回のブログでは、政府の対応と役割、それに秋の政治に及ぼす影響について、考えてみたい。

 最終段階、首相の対応をどう評価するか

今回の処理水の方針決定では、岸田首相が訪米から帰国した直後の20日に福島第1原発を訪れたのに続いて、21日に放出反対の立場を表明している全漁連=全国漁業協同組合連合会の代表との面会が、大きな山場になった。

首相官邸で行われた全漁連の坂本雅信会長らとの面会で、岸田首相は「たとえ、今後、数十年の長期にわたろうとも、全責任を持って対応すること約束する」と風評被害などの対策に万全を期す考えを伝えた。

これに対し、坂本会長は「処理水の海洋放出に反対であることは変わりはない」とのべながらも「科学的な安全性への理解は、私ども漁業者も深まってきた」という認識を示した。

これを受けて、岸田首相は22日に関係閣僚会議を開き、「政府の姿勢と安全性を含めた対応に『理解は進んでいる』との声をいただいた」とのべ、24日に放出を始める方針を正式に決定した。

政府は、処理水の海洋放出は「春から夏」の時期に行う方針を表明してきた。そして、7月にIAEAの報告書が出された後、「8月下旬から9月前半にかけて放出」とさらに期間は絞られていた。

問題は、この期間に原発事故による避難や、風評被害などに苦しんできた漁業関係者や、福島県民に政府の方針を説明し、理解をどこまで深められるかにあった。西村経産相などの閣僚も現地を訪れ、意見交換などを続けてきた。

但し、政府全体、与党も一丸となって取り組みを全面的に展開するといったところまでは至らなかった。

そして、岸田首相が現地を訪れたのも最終のギリギリの段階で、しかも現地入りしながら、地元の漁業関係者や知事、市町村の代表などとの面会も行わなかった。

このとき、関係者と膝詰めで意見交換をしていれば、雰囲気などがかなり改善したのではなかったか。今回は「見切り発車」「日程ありき」の対応で、理解に苦しむ対応といわざるを得ない。

 国民に説明、説得が不得手な政権か

これまでの政府の対応をみると、安倍政権時代の2015年に政府と東電は「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分も行わない」との文書を福島県漁連に示した。

菅政権時代の2021年には、海洋放出の方針を決定し、時期は「2023年春から夏頃」として準備を進めてきた。安倍、菅、岸田の3つの政権にわたって取り組んできた難題だ。

一方、政府は海洋放出の評価について、IAEAに評価を要請するとともに、風評被害対策として800億円の基金を創設するなどの準備を進めてきた。

しかし、福島県民や、国民全体に対する説明は不足したままだった。岸田首相も通常国会が閉会したあとの7月下旬から、国民の声を聞くとして、地方行脚を始めた。

ところが、福島県は対象に選ばれなかった。懸案中の懸案、処理水放出の時期が迫っているのになぜ、訪問先には選ばなかったのかだろうか。ここでも首相、政権の対応に疑問が残る。

こうした岸田政権の対応について、国民はどのような見方をしているのだろうか。報道各社の8月の世論調査をみるとNHKの調査(11日~13日)では、処理水の海への放出について「適切だ」が53%で、「適切でない」30%を上回った。

一方、共同通信の調査(19日・20日)では、処理水放出に関する政府の説明は「十分だ」が15%に対し、「不十分だ」が82%を占めた。

朝日新聞の調査(19日・20日)では、風評被害を防ぐ政府の取り組みは「十分だ」が14%に対し、「十分ではない」が75%と大きく上回った。

このように海洋放出そのものについては「適切」「賛成」が半数に達し、「反対」を上回っている。但し、政府の取り組み方の説明や、風評被害対策は不十分といった否定的な受け止め方が圧倒的多数に上る。

この問題に限らないが、岸田政権は、政府の方針を明らかにし、国民に説明したり、説得をしたりする「対話が不得手な政権」という特徴が読み取れる。国民の意見が分かれる原発のような問題は、特に共通の認識、理解を広げていく取り組みが必要だ。

 増える懸案、秋の解散困難との見方も

それでは、秋の政局に及ぼす影響はどうだろうか。NHKの8月の世論調査では、岸田内閣の支持率は33%で、政権発足以降最も低い水準に落ち込んでいる。

処理水の海洋放出問題は、放出自体は肯定的な評価が上回っているので、この問題だけで、支持率が大幅に下がる可能性は小さいのではないか。

但し、岸田政権は、防衛増税の開始時期や少子化対策の具体的な財源を先送りしたり、マイナンバーカードへの対応が迷走したりして、懸案が増え続けている。さらに今回、処理水の問題が加わり、悪循環が続いている。

このほか、ガソリン価格の一段の上昇や食品の値上がりなど物価高対策を求める声が強まっている。

自民党の閣僚経験者に聞いてみると「9月中旬とも言われている内閣改造・自民党役員人事で、どこまで政権を立て直せるかが大きなカギだ。しかし、風力発電をめぐる国会議員の収賄事件などのスキャンダルも表面化しており、秋の解散・総選挙は遠のきつつある」との見方を示す。

岸田政権は、原発処理水の海洋放出の開始で、安全性の確保や風評被害の防止に大きな責任を担うことになった。増え続ける懸案を着実に処理していけるのか、政権の浮揚へつなぐことができるのか、厳しい状況に直面している。(了)

 

 

 

 

 

岸田内閣支持率最低”秋の解散困難か”

政界は夏休みがまもなく終わり、秋の政局に向けてのが動きが始まる。こうした中で、NHKの8月の世論調査の結果が14日にまとまった。

今回の調査では、2つの点を注目していた。1つは、マイナンバーカードをめぐる問題について、政府が先に打ち出した新たな対応策がどのように評価されたか。2つめは、岸田内閣の支持率で、政権の求心力や体力がどの程度あるかだ。

結論を先に言えば、マイナンバーカードの対応策への評価は低く、岸田内閣の支持率も政権発足以来、最も低い水準となった。

この世論調査のデータを基に予測すると、岸田首相が秋に衆院解散・総選挙に踏み切るのは、かなり難しい情勢にあると言えそうだ。なぜ、こうした結論になるのか、以下、説明したい。

 マイナ新対応策「評価しない」が6割

さっそく、マイナンバーカードをめぐる問題からみていきたい。マイナンバーカードに健康保険証をひもづける問題をめぐっては、他人の情報が誤って登録されるなどのトラブルが相次いだことから、政府は今月8日に総点検の中間報告と新たな対応策を発表した。

11月末までに保険証をはじめ、税や所得など29項目に及ぶすべての個別データについて、総点検を行い、その結果を公表するというのが主な柱だ。

今回の世論調査では、こうした政府の対応策の評価を尋ねている。その結果は、「評価する」は36%に対し、「評価しない」は57%で、大幅に上回った。

また、岸田首相は、来年秋に今の健康保険証を廃止する方針を当面、維持したうえで、マイナンバー保険証を持たない人すべてに「資格確認書」を発行して、国民の不安の払拭に努める。そして、総点検の状況次第では、廃止の延期を含め、必要な対応をとるという考えを明らかにした。

こうした保険証廃止の政府の方針について、世論調査の結果は「予定通り廃止すべき」が20%、「廃止を延期すべき」が34%、「廃止を撤回すべき」が36%となった。「廃止の延期」と「廃止の撤回」を合わせると、廃止反対が7割に達した。

マイナ保険証の問題をめぐって、政府の方針と、国民の評価には大きな開きがあることがはっきりした。国民の側は、今の保険証を来年秋に期限を区切って廃止することに大きな疑問を感じている。

加えて、今の保険証と変わらない「資格確認書」を発行することにどのような意味があるのか、強い不信感を抱いていることも読み取れる。政府の新たな対応策については、国民の支持が得られていないことが改めて浮き彫りになった。

 内閣支持率33% 政権発足以来最低

次に、2つめの注目点である岸田内閣の支持率に話を移したい。8月の内閣支持率は、先月の調査から5ポイント下がって33%だった。これは、去年11月と今年1月の調査と同じで、岸田政権発足後、最も低い水準になった。

一方、不支持率は45%で、先月に比べて5ポイント増えた。支持率を不支持率が上回る逆転現象で、先月に続いて2か月連続となる。

支持率が政権発足以来、最低となった理由としては、冒頭に取り上げたマイナンバーカードをめぐる相次ぐトラブルが大きく影響したものとみられる。

また、洋上風力発電をめぐり賄賂を受け取った疑いで、秋本真利衆議院議員が検察の捜索を受け、外務政務官を辞任し、自民党を離党した。資金提供は6000万円にものぼり、競走馬の購入などの費用にあてた疑いが持たれている。

さらに、自民党の松川るい女性局長がフランスで行った党の研修で、エッフェル塔の前で研修の参加者とポーズを取って映っていた写真をSNSに投稿し、「観光旅行だ」などと批判を浴びて陳謝する出来事も起きた。

こうした相次ぐ不祥事も支持率低下に影響したものとみられる。岸田内閣の支持率は、G7広島サミットが行われた今年5月には46%まで上昇したが、その後3か月連続で減少し、合わせて13ポイントも支持率を落とした。

 自民支持率低下、看板政策も低い評価

岸田内閣の支持率下落に関連して、もう1つ注目すべき点は、自民党の政党支持率低下も並行して減少している点だ。8月の自民党支持率は34.1%で、岸田政権発足以降、最も低い水準になった。

自民党の政党支持率は、安倍政権や菅政権でも30%台後半から40%程度と高い水準を維持してきた。内閣支持率が低下した場合も、自民党支持率は安定した水準を保ってきた。

岸田政権でも同じような傾向が続いていたが、今年1月以降は、自民党の支持率が緩やかながら低下傾向が見られるようになり、今年6月に35%台を切って岸田政権発足以降、最低を記録した。その状態が3か月連続で続いているのである。

つまり、内閣支持率と自民党支持率がともに低下する新たな傾向が表れ始めた。この理由は、世論調査のデータからははっきりしたことはわからないが、政権の求心力が低下しているのは間違いない。

個人的には、最近の自民党は、政府に対して党の存在感を発揮できるような場面がほとんどみられないので、政権の支持率低下にひきづられる形で党の支持率も低下しているとの見方をしている。

そのうえで、岸田内閣の支持層をもう少し、詳しく分析すると最も多い自民支持層のうち、岸田内閣を支持すると答えた人の割合は59%で、6割を下回った。

安倍政権時代は、7割台後半から8割前後の高い水準だったのに比べると、岸田政権では、自民支持層の支持離れが起きている。内閣支持率の低下は、不祥事などの影響もあるが、こうした政権基盤の弱体化が根本的な問題だ。

一方、岸田政権は、最も大きな集団である無党派層の支持が、2割程度と極めて低いのが特徴だ。さらに、70歳以上の高齢世代の支持は比較的高いが、それ以外の60代以下ではいずれの年代も「不支持」が5割に達し、「支持」を上回っている。

こうした無党派層や働き盛りの世代が重視するのは、政策だ。その岸田政権の政策については、防衛増税の実施時期をはじめ、異次元の少子化対策の具体的な財源などが、いつまでたってもはっきりしないことに対する批判が強い。

マイナンバーカードの問題についても今の保険証を廃止するのか、廃止を延期するのか、新たな対応策の方向すらはっきりしないことに不満も聞かれる。

岸田政権の看板政策は「内容が曖昧で、先送りが目立つ」という批判が根強く、こうした政策面の評価の低さが支持率の低下をもたらしている可能性が大きい。それだけに支持率の回復は時間がかかり、政権運営にあたって深刻な問題だ。

 秋の解散・総選挙は大きなリスク

最後に、秋の政局の最大の焦点である衆議院の解散・総選挙に及ぼす影響はどうか。岸田首相や政権与党の執行部は、衆議院議員の任期も10月には折り返し点を迎えることから、秋の解散・総選挙を有力な選択肢として模索するものとみられる。

しかし、これまでみてきたように内閣支持率は発足以降最低の水準で、しかも政権の看板政策について、国民の支持が十分に得られていない。このため、選挙の勝敗面からも、秋の解散・総選挙に踏み切るには極めて大きなリスクを伴うことが、今回の世論調査から読み取ることができる。

岸田首相が今後、どのような解散戦略を描いていくのか。それに対して、与野党がどのように対応していくのか、秋の政局に向けての動きがまもなく始まる。(了)

保険証廃止で資格証明書 ”小手先対応”批判も

来年秋に今の健康保険証を廃止する方針について、岸田首相は4日夕方、記者会見し、国民の不安を払拭するための対応策を明らかにした。

この中で、岸田首相は当面、廃止の方針を維持したうえで、マイナンバーカードと一体化した保険証を持っていない人には「資格確認書」を発行することなどで、国民の不安払拭に努める考えを表明した。

こうした対応策については「小手先の弥縫策」などといった批判も予想され、国民の理解が広がるか不透明だ。

 資格確認書、法案の再修正回避ねらいか

まず、岸田首相が「資格確認書」の有効期限の延長という運用の見直しを打ち出した背景には、どんな事情があったのか。

マイナンバーカードと健康保険証の一体化をめぐっては、誤った登録が続発して、対応の見直しを迫られた。その際、政府・与党内では、2つの考え方が出され綱引きが続いてきた。

1つは、今の健康保険証の廃止期限を来年秋から延長する案。もう一つは、廃止方針は維持したうえで、運用面の見直しを行う考え方だ。

前者は、自民党の萩生田政調会長や世耕参院幹事長などが主張し、首相官邸の一部も支持していた。これに対して、加藤厚労相や河野デジタル担当相らは、後者の考え方で、麻生副総裁や茂木幹事長が支持したとされる。

岸田首相は当面の対応策として、後者の保険証廃止を維持する方針を選択したといえそうだ。この理由だが、保険証の廃止は6月の通常国会で成立させた改正マイナンバー法に盛り込まれており、廃止時期を延期する場合は法案の再修正が必要になる。

このため、秋の臨時国会で野党側の追及は必至で、廃止方針を見直すとかえって混乱を生むことになるとして、廃止時期の延期案は避けたものとみられる。

但し、岸田首相は、現在進めている総点検の状況次第では、廃止の延期も含めて必要な対応をとる考えも示した。岸田首相の対応は、保険証廃止の維持を基本にしながらも、見直しにも含みを残し、腰が定まっていないようにみえる。

 確認書、今の保険証と同じとの批判も

次に、資格確認書を発行する場合の問題点はどうか。政府の説明では、マイナ保険証を持たない人にすべて交付するとともに、今の制度では1年としている有効期限を5年まで延ばし、その範囲内で自治体や健康保険組合などの保険者が設定できるとしている。

また、今の制度では、本人の申請に基づいて交付しているルールを改め、申請を待たずに行政が対象者のすべてに交付する「プッシュ型」とする方針だ。

政府は、こうした措置でマイナ保険証を持たない人も確実に医療を受けることができ、国民の不安も払拭できると強調している。

しかし、こうした案は、今の健康保険証に限りなく近づけるための措置だ。このため「資格確認書といっても今の保険証と同じではないか。わざわざ資格確認書を発行するより、廃止時期を延長すればいいのではないか」といった批判を受けそうだ。

また、マイナ保険証を持たない人全員に資格確認書を発行する場合、相当な規模の人数が予想されるが、その経費などは明らかにされていない。

報道各社の世論調査によると政府の保険証の廃止方針については、◆廃止方針の支持は2割程度と少なく、◆廃止を延期すべきが3割余り、◆撤回すべきも3割余りで、廃止の延期や撤回を合わせると7割程度を占める点で共通している。

このため、保険証の廃止を維持したうえで、資格確認書の見直しで、国民の理解と支持を得られるかどうかは不透明だ。

 普及急ぎ過ぎと国民への説明不足

今の保険証の廃止やマイナ保険証の扱いは、国民にとって命や健康に関わる切実な問題だけに、安心して利用できる制度にしてもらわないと困る。

同時に、今回の問題は、政府のマイナンバーやデジタル化への取り組みに大きな問題があったことを提起しているのではないか。

4日の記者会見でも記者から「政府のこれまでの対応に反省点はないのか」と質問されたのに対し、岸田首相は「瑕疵があったとは考えていない」と答えた。

岸田政権の対応を振り返ってみると、マイナンバーカードの普及に2兆円もの予算を計上して、1人最大2万円相当のポイントを付与する事業を大々的に進めたが、マイナンバー制度の意義や、デジタル化でめざす社会の姿を国民に示していく取り組みは弱かった。

また、去年の10月には、河野デジタル担当相が健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一体化する方針を唐突に打ち出した。それまでの政府は、紙の保険証との選択制をとってきたが、方針を変更する必要はあったのか疑問が残る。

さらに、マイナ保険証に別の人の情報が誤ってひもづけされていたことが一昨年10月には明らかになっていながら、個人情報保護への対応が遅れた。その後も個人情報が、誤って他人にひもづけされるケースが相次ぎ、政府のデジタル化の司令塔であるデジタル庁が個人情報保護委員会の立ち入り調査を受ける異例の事態を招いている。

岸田政権が問われているのは、マイナンバーカードの普及促進を急ぎすぎた失敗を率直に認めたうえで、デジタル社会の実現に向けて国民への説明と対話を優先していく姿勢が必要だ。

マイナンバーカードをめぐるトラブルの総点検の結果と再発防止策も、まだ明らかになっていない。今月8日にようやく中間報告が公表される予定だ。国民の信頼回復のためには、岸田首相の決断力とリーダーシップも問われている。(了)

 

 

健康保険証廃止”広がる延期論”

来年秋に今の健康保険証を廃止して、マイナンバーカードと一体化させる政府の方針に対して、廃止の時期を遅らせることも含めて見直すべきだという意見が、与野党や世論の間で広がってきた。

今月26日に参議院特別委員会で行われたマイナンバー問題の閉会中審査で、立憲民主党など野党側は「政府は国民の理解が得られないまま、健康保険証の廃止を強引に進めようとしている」として、健康保険証の廃止見直しを強く迫った。

自民党の委員も「来年秋の期限ありきではなく、国民の信頼回復を優先して、国民の理解を求めるべきではないか」と質した。公明党の委員も「行政や関係者の都合が前面に出すぎているのではないか」と政府の姿勢に疑問を示した。

これに対して、河野デジタル担当相は「マイナンバーカードへの一体化のメリットは大きい」と強調したうえで、「紙の保険証を廃止した後も最大1年間の猶予期間を設けており、この期間も活用して丁寧に説明し不安を払拭したい」とのべ、保険証の廃止を予定通り進めていく考えを表明した。

こうした政府の方針に対しては、自民党の幹部からも異論が相次いでいる。萩生田政務調査会長は「期限ありきで進めるべきではない」と指摘したのに続いて、世耕参議院幹事長も「必ずしも期限にこだわる必要はない」として、政府に柔軟な対応を取るよう注文をつけている。

 世論は反発、内閣・自民支持率も低下

こうした政府の方針に対する見直し論が、与党からも出されるようになった背景は何か。国民の側から、強い批判や反発が強まっていることが挙げられる。

報道各社の世論調査のうち、最新の読売新聞の調査(7月21~23日実施)によると、今の健康保険証を廃止してマイナンバーカードに一本化することに「賛成」は33%に止まり、「反対」は58%に達する。

岸田内閣の支持率は35%で、先月より6ポイント下落して、岸田内閣発足以降最低となった。不支持率は52%で、前回より8ポイント増加して去年12月に並び最高になった。マイナンバーカードをめぐる混乱が影響しているものとみられる。

自民党の支持率については、NHK世論調査(7月7~9日実施)では34.2%で、岸田政権発足以降最低を記録した。朝日新聞の世論調査(7月15、16両日実施)では28%に減少した。同党の支持率が20%台になるのは、2020年6月以来だという。

このようにマイナンバーをめぐる問題は、岸田内閣の支持率を急落させただけでなく、これまで堅調だった自民党の政党支持率にも影響を及ぼしている。与党の幹部はこうした事態に危機感を抱いている。

 強まる包囲網、問われる首相の指導力

それでは、岸田政権が今、問われている点は何か。マイナンバーをめぐるさまざまな問題のうち、国民の関心が高いのは健康保険証の廃止問題だ。野党だけでなく、与党、それに国民の間でも見直し論が広がっており、政府に対する包囲網が強まっているのが今の状況だ。

岸田政権は、通常国会最終日の6月21日に「マイナンバー情報総点検本部」を立ち上げた。そして、今年の秋までに健康保険や年金など、政府のサイト「マイナポータル」で確認できる29項目の情報について、マイナンバーカードに正しくひもづけされているかを総点検して、再発防止策を講じる方針を決めた。

岸田首相はその日の記者会見で「保険証の全面的な廃止は、国民の不安を払拭するための措置が完了することが大前提だ」と強調した。

ところが、これまで1か月以上経過したが、具体的な取り組みは進んでいるとはいえない。岸田首相は、総点検実施本部長は河野デジタル担当相に委ね、7月に衆参両院で行われた閉会中審査にも出席しなかった。

岸田首相は、総点検の中間報告を当初の8月下旬から、8月上旬に前倒しする指示を出したが、それ以外、指導力を発揮した場面はみられない。

26日の閉会中審査でも、政府がマイナンバーカードを持たない人に発行するとしている「資格証明書」はどれくらいの規模の人数に発行するのか、申請方式なのかといった制度設計の中身について、はっきりした答弁はなされなかった。

29項目の個人情報の総点検についても、どのような方法で行い、コストや期間はどの程度かかるかも、わからない。岸田首相は、国民の不安を払拭すると強調するが、裏付けとなる具体的な行動が伴わないのである。

読売新聞の世論調査で、マイナンバーカードをめぐるトラブルへの対応について、岸田首相は指導力を発揮していると思うかどうか尋ねている。「発揮していると思う」はわずか12%、「思わない」が80%と圧倒的多数を占めている。

この世論調査の結果から、国民の側は「さまざまな問題が相次いで起きているが、政府の対応は不十分であり、岸田首相は先頭に立って陣頭指揮すべきだ」と厳しい評価と注文を付けていることが読み取れる。

したがって、岸田首相は、7月末まで行ってきた総点検の結果を早急にとりまとめるとともに点検結果に基づいて、政府の新たな方針と具体策を打ちだせるかどうかが問われる。その結果と国民の評価は、岸田政権の今後の政権運営を大きく左右することになるだろう。(了)

”真夏の地方行脚も険しい道”岸田首相

ヨーロッパ訪問に続いて中東3か国歴訪から帰国した岸田首相は、21日から全国各地へ足を運んで国民との対話を行う地方行脚をスタートさせる。

岸田政権の主要政策に国民の理解を得るとともに、秋の解散総選挙をにらんだ布石との見方もある。

華やかな首脳外交とは対照的に国内では、内閣支持率の急落と自民党支持率の低下傾向が表れているが、夏の地方行脚で政権浮揚は可能なのか、探ってみたい。

 首相”原点に立ち返り、国民の声を伺う”

中東3か国歴訪から19日に帰国した岸田首相は、今度は21日から栃木県を訪問するのを手始めに鳥取、島根、福岡などの各地を訪れ、視察や対話集会などに出席する予定だ。

岸田首相は通常国会が閉会した先月21日の記者会見で「今年の夏は再度、政権発足の原点、政治家・岸田文雄の原点に立ち返って、全国津々浦々の現場にお邪魔して、皆さま方の声を伺うことに注力していく所存です」と語っていた。

岸田首相は一昨年10月の政権発足直後に始めた「車座対話」を重視しており、少子化対策など政権の重要課題をテーマに国民との対話を再開して、政権の態勢立て直しを図りたい考えだ。

 内閣支持率急落、自民支持率も低下へ

その岸田首相を取り巻く情勢は、自ら「原点に立ち返る」といわざるを得ないほど厳しさを増している。それは、7月の報道各社の世論調査に表れている。

今月7日から9日に行われたNHK世論調査では、岸田内閣の支持率は38%で5か月ぶりに30%台に下落し、不支持率は41%に達した。自民党の支持率も34%で、他党に比べて高いものの、岸田政権発足以来最も低い水準となった。

今月15、16の両日行われた朝日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は5ポイント減の38%、不支持率は4ポイント増の50%で半数に達した。自民党の支持率は28%まで低下し、安倍内閣がコロナ対応で苦しんだ2020年6月以来の低い水準だ。

このように報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率は、いずれも不支持率が支持を上回る逆転状態となっている。自民党の支持率もこれまで堅調に推移してきたが、ここに来て岸田内閣の支持率低下が、自民党の支持率を押し下げる形になっているのも特徴だ。

こうした原因としては、マイナンバーカードをめぐる混乱が大きく影響している。政府の対応の評価について、NHKの調査では「適切だと思わない」が49%で、「適切だと思う」の33%を上回った。朝日の調査でも「評価しない」が68%を占め、「評価する」の25%を大きく上回った。

来年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する政府の方針について、朝日の調査では「反対」が58%で、「賛成」の36%を上回った。

NHKの調査では「(保険証を)予定通り廃止すべき」は22%だったのに対し、「廃止を延期すべき」が36%、「廃止の方針を撤回すべき」が35%だった。「延期」と「撤回」を合わせると7割にも達した。

ここまでトラブルが発生しながら、岸田首相は河野デジタル担当相などに対応を事実上、丸投げし、その河野担当相は総点検の最中に2度にわたって外国訪問に出かける予定だ。

国民からすると、政府は真剣に取り組む気はあるのか、緊張感がなさ過ぎるとの受け止め方が読み取れる。内閣支持率の急落は、直接的にはマイナンバーをめぐる問題が大きく影響していると言って間違いないだろう。

 看板政策の低い評価を打破できるか

岸田内閣の支持率急落や自民党支持率の低下の背景としては、マイナンバーの問題もあるが、もう少し踏み込んで考えると岸田政権の看板政策への評価の低さと対応の問題が影響しているとの見方をしている。むしろ、問題の本質は、後者にあるのではないかとみている。

例えば、岸田首相が今年1月に打ち出した「次元の異なる少子化対策」。この少子化対策の評価については、NHKの世論調査では「期待している」は33%しかなく、「期待していない」が62%と多数を占める。

これは、子ども予算を年間3兆円台半ばまで増やすことは評価するものの、肝心の財源確保の具体策が明らかにされていないことが影響しているものとみられる。将来、社会保険料などの負担増で自らの生活に跳ね返ることがあるからだ。

また、防衛費の増額についても、政府の説明は「十分だ」は16%に対し、「不十分だ」が66%を占めた。3月時点の調査結果だが、防衛増税の開始時期は未だに決まらず、年末の予算編成まで先送りになったままだ。

さらにマイナンバー制度の推進、これも岸田政権の看板政策だ。ところが、こうした政権の看板政策への対応については、いずれも国民の評価が低く、異例の状態といえる。

特に国民に不人気な増税や負担増の問題はとにかく避けたいという姿勢が目立つ。これに対して、今は、国民の賃金引き上げや投資の拡大を最優先にすべきだという擁護論もあるが、政権としてもそのように考えるのであれば、堂々と訴えるのが本来の姿だ。

岸田首相は「丁寧に説明する」「真摯に対応する」と繰り返すが、説明の中身はほとんど同じで、結論も変わらないことが多い。「糠に釘、暖簾に腕押し」などの受け止め方が広がり、国民の側に岸田政治に対する期待感の低下があるのではないか。

したがって、岸田首相が問われているのは、将来のあるべき姿を示して、国民に真正面から説明、不人気な政策でも国民を説得していく姿勢が求められているのではないか。今度の地方行脚では、そうした政治姿勢を打ち出せるかが問われていると考える。

政界では、岸田首相は秋の解散・総選挙に打って出るのではないかとの見方は根強くある。しかし、今のような内閣支持率の低迷が続いている状態では、とても衆院の解散は打てないのではないかとみている。

岸田首相のこの夏の地方行脚は、秋の解散風が本物になるかどうかの判断材料としても注視している。(了)

風向き変わる岸田政権、5か月ぶり不支持率が逆転

先の通常国会の最終盤では一時、岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの情報が飛び交い緊迫した場面もみられたが、先送りとなった。政界は今、国会が閉会し一段落しているが、各党とも秋の解散に備えた準備に余念がない。

政治の焦点は、マイナンバーカードをめぐる混乱への対応と、秋の解散・総選挙のゆくえに移っている。こうした中で、NHKの7月の世論調査がまとまった。

それによると岸田内閣の支持率は2か月連続で下落し、5か月ぶりに支持率を不支持率が上回り、逆転したのが大きな特徴だ。

岸田内閣の支持率は、回復基調にあったが、世論の風向きが下降局面へと変わりつつある。こうした世論の変化の背景や、岸田政権が対応を迫られている課題などを分析してみたい。

 回復基調から、不支持が増え逆転

さっそく、NHK世論調査(7月7日~9日)の7月のデータからみておきたい。岸田内閣の支持率は38%で、先月から5ポイント下落した。不支持率は41%で、先月から4ポイント増えた。

支持率の下落は2か月連続で、支持率を不支持率が上回って逆転するのは、今年の2月以来、5か月ぶりになる。

岸田内閣の支持率は、今年1月の33%を底に上昇が続き、5月の46%まで回復基調にあった。ところが、6月、7月と2か月連続で下落し、世論の風向きが変わりつつある。

岸田内閣の支持層をみると、与党支持層のうち、岸田内閣を支持する割合は、7割を下回った。無党派層の支持は18%で、岸田内閣発足以来、最も少ない状況だ。

政権を支える与党支持層と、最も大きな集団である無党派層の支持がいずれも低下しており、政権に勢いがみられない。

一方、岸田内閣を支持しない理由としては「政策に期待が持てないから」が46%で最も多く、次いで「実行力がない」が22%を占める。

このうち、「実行力がない」は先月より5ポイント増えた。これは、マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いでいることが影響しているためとみられる。

 健康保険証の廃止方針、反対が7割も

そのマイナンバーカードをめぐる問題だが、相次ぐトラブルを受けて、政府は秋までに専用サイトで閲覧できるすべてのデータの総点検を行う方針を打ち出した。

こうした政府の対応について、世論調査の結果は「適切だと思う」が33%に対し、「適切だと思わない」が49%で上回った。

また、政府が、来年秋に今の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化させるとしている方針については「予定通り廃止すべき」は22%。「廃止を延期すべき」が36%で、「廃止の方針を撤回すべき」が35%となった。

つまり、政府の廃止方針を支持している人は2割に止まり、健康保険証の廃止の延期や、撤回を求める人が合わせて7割を占める結果となった。

さらに、政府が今後3年をかけて年間3兆円台半ばの予算を確保して、児童手当の拡充などに集中的に取り組むとしている少子化対策についても「期待する」は33%に対し、「期待していない」が62%と倍近くに達している。

この理由についての質問項目はないが、少子化対策の具体的な財源確保について、政府は曖昧にしたまま、年末まで先送りしている。こうした政府の対応に対する国民の不信や不満が影響しているものとみられる。

このように岸田内閣の支持率低下は、第1にマイナンバーカードの問題に対する政府の対応策について、国民の多くが疑問や不安を抱いていることが大きく影響しているものとみられる。

もう1つは、少子化対策に代表されるように岸田政権は、大胆な歳出増を伴う政策を次々に打ち出すが、政策の裏付けとなる財源確保などの核心部分が曖昧で、説明も不十分だと受け止めていることが影響しているとみられる。

岸田政権は、こうした主要政策の内容を明確にするとともに、国民に対して説明を尽くす姿勢を打ち出さないと、国民の支持を回復することは難しいのではないかとみている。

 政権の浮揚策、秋の解散も高いハードル

それでは、秋の政局の焦点になっている衆院解散・総選挙のゆくえはどのようになるだろうか。

政府・与党内では、岸田首相は外交日程などをこなした上で、9月中旬を軸に内閣改造・自民党役員人事を行うとの見方が示されている。そして、内閣支持率や選挙情勢などを見極めた上で、秋の解散・総選挙選挙も選択肢として検討しているのではないかとの観測もある。

その際、各党の支持率が問題になるが、7月の自民党の支持率は34.2%で、他の党に比べて優位にある。但し、今年に入って自民党の支持率は低下傾向が続いており、7月は岸田政権発足以来、最も低い水準だ。

また、自民、公明両党は東京の選挙区調整をめぐって対立が続いており、両党の選挙協力が完全に修復できるのかも不安材料として残されている。

一方、野党側では、次の衆議院選挙で野党第1党をめざしている日本維新の会の支持率が5.6%で、立憲民主党の5.1%を上回っている。維新の支持率が上回るのは3か月連続だが、その差は次第に縮小しており、野党間の戦いも激しさを増す見通しだ。

さらに、岸田首相が秋の解散・総選挙を断行する際には、内閣支持率の上昇が不可欠だが、政権浮揚の有力な材料を見いだせているわけではない。

むしろ、焦点のマイナンバー問題がどのような形で決着がつくのか。また、内閣改造と自民党の役員人事が国民からどのよう評価を受けるのか。さらには、与野党の選挙情勢がどのようになるのか不透明な要素が多く、秋の解散・総選挙のハードルはかなり高いとみている。(了)

 

 

“主軸なき政権”安倍氏死去1年

安倍元首相が選挙応援演説中に銃撃され、死去した事件から、7月8日で1年を迎える。

安倍元首相は憲政史上最長の通算8年8か月にわたって政権を担当、退陣後も様々な発信を続けていた。

安倍氏の死去は、岸田政権にどのような影響を及ぼしたか。また、これからの岸田政権や日本政治は何が問われることになるのか、探ってみたい。

 中心軸みえない政治、自民党の構造問題

さっそく、安倍元首相死去の影響から、みていきたい。あるベテラン国会議員は「政界の風景、空気が大きく変わった。安倍政治がいい、悪いは別にして、まったく別の世界になった感じがする」と語る。

安倍元首相は2020年に政権を退いた後、自らの派閥の会長に就任し、自民党の右派を代表する形で、さまざまな発信を続けた。これに対し、岸田首相はもう一方の柱として、安倍氏の協力を求めながら政権運営に当たった。2つの点が中心になって政権与党を運営するという岸田首相の「楕円の論理」だ。

ところが、安倍氏が死去したことで、自民党内の柱の1つが倒れたままで、新たな体制を作り直せなかったのが、岸田政権のこの1年ではなかったか。もう一方の柱である岸田首相の指導力も強いとは言えないので、政権の中心軸がみえない状態が続いたと言えるのではないか。

その結果、岸田政権は衆議院選挙に続いて、去年の参議院選挙にも勝利したものの、旧統一教会問題や閣僚の相次ぐ不祥事と更迭で、政権の安定が長続きしない。

今年3月になって、岸田首相のウクライナへの電撃訪問や、5月のG7広島サミットの成功で、支持率が回復した。

ところが、ここでも首相秘書官に抜擢した長男の軽率な行動や、マイナンバーカードをめぐるトラブルで足下をすくわれ、内閣支持率が急落し、政権の求心力が再び低下する事態に追い込まれている。

その自民党は、二階元幹事長や麻生副総裁ら党の重鎮も第一線でいつまでも活躍できる状況ではない。また、岸田首相の後継をめざす次の有力なリーダーも見当たらないのが実態だ。

「安倍長期政権時代に次のリーダーを育成しておくべきだった」と自民党関係者の声をよく耳にする。次の時代を担うリーダーをいかに確保していくのか、人材難が大きな構造問題として横たわっている。

 安倍派「5人衆」体制へ模索続く

次に安倍元首相の派閥、安倍派の新しい会長選びはどうなるか。これまでも去年の国葬が終わった時点、今年5月の派閥の資金集めパーティーなどの節目があったが、進展はみられなかった。

安倍氏の1周忌が近づいた6月30日、安倍派で「5人衆」と呼ばれる幹部が会談し、「5人衆」を中心とした体制への移行をめざす方針を確認した。顔ぶれは、松野官房長官、西村経産相、萩生田政調会長、高木国対委員長、それに世耕参議院幹事長だ。

これに対して、会長代理を務めている塩谷立氏や、下村博文氏らベテラン議員の間からは、反発する声も出ている。

一方、「5人衆」の体制移行が決まったとしてもそれぞれの役割分担をどうするかという難問を抱えている。◇萩生田氏を派閥の会長、総裁候補を西村氏にする分離案、◇萩生田氏と、世耕参議院自民党幹事長を共同代表にする案、◇総裁候補とは距離のある高木氏を会長にする案などが取り沙汰されているという。

7月6日に派閥の総会を開き、新体制について協議する予定だ。派閥に大きな影響力を持つ森元首相も「5人衆」の体制には理解を示しているといわれる。派内のベテラン組との調整が焦点だ。

安倍派は衆参100人の議員が参加する自民党の最大派閥だ。派閥の歴史と論理からすると、派閥の跡目争いは最後は次をめざす幹部の思惑が一致せず、分裂するケースが多い。

仮に、「5人衆」の集団指導体制がとられても自民党の総裁選や、衆院解散・総選挙といった大きな動きが近づくと、一枚岩の体制が崩れる局面が出てくるのではないかとみている。

 人事と実行力がカギ、解散は波乱要因に

最後に岸田政権とこれからの政治はどう動くか、みておきたい。まず、岸田首相は頼りなさそうに見えるが、政権を投げ出すような性格ではない。

また、自民党内には、ポスト岸田をねらう有力候補がいないことに加えて、反岸田の不満勢力をまとめ上げる幹部も見当たらないことから、来年の総裁選挙に向けては、岸田首相が相対的に優位な立場にある。

そこで、まず、注目されるのは、夏から9月にかけて行うとみられる内閣改造と自民党役員人事で、政権の体制強化につながるかどうかだ。

特に幹事長ポストは、政権与党の中心軸になるだけに、今の茂木幹事長の続投を認めるか、それとも別の幹部に差し替えるかがポイントだ。

また、衆議院の解散・総選挙をいつに設定するかも大きな問題になる。先の通常国会の最終盤で、岸田首相サイドは早期解散を模索したが、自民党側は冷静な反応が目立った。

秋の解散・総選挙といっても政権発足からまだ2年、タイミングを誤ると、与党側からも強い反発が予想され、政権が揺らぐ波乱要因にもなりかねない。

さらに、岸田政権については「何をやる政権か、未だにはっきりしない」などの声が与党からも聞かれる。防衛力の抜本強化や、異次元の少子化対策などを打ち出すが、肝心の財源は曖昧なままで、結論を先送りする手法にうんざり感も広がる。

政権が最優先で取り組む課題を設定して、実行していく力を示すことが必要だ。そうした取り組みを通じて、岸田首相が「安倍元首相なきあとの中軸」になれるかどうかが試されている。

つまり、人事と政策課題の実行力で、政権の求心力が高まるかが秋の政局のゆくえを左右する。

一方、報道各社の世論調査によると、自民・公明の連立政権を続けることに反対意見が半数を超えるようになった。野党についても、野党第1党の役割を立憲民主党より、維新に期待する人が多くなっている。

自民党の単独政権が終わったのが1993年。それ以降、連立政権の時代に入ってから今年でちょうど30年になる。国民は今の連立時代の政治に対して、限界を感じ、変化を求めているようにもみえる。

次の衆院解散・総選挙の時期は年内か、来年以降になるのかは不明だが、次の総選挙では、政権の姿や政治のあり方が、新たな論点の1つとして浮上してくるのではないかと予想している。(了)

 

 

 

“マイナカード混乱”岸田政権に重圧

マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次いでいる問題で、岸田首相は「重く受け止めている」と陳謝する一方で、来年秋に保険証を廃止し、マイナカードと一体化する方針は予定通り進めていく考えを表明した。

これに対し、報道各社の世論調査では「反対」が「賛成」を大幅に上回り、岸田内閣の支持率が急落している。支持率低下の背景には、岸田政権の看板政策である少子化対策や防衛費の財源確保策に対する評価の低さも関係しているものとみられる。

与野党とも秋の衆院解散・総選挙を想定して準備を加速しているが、世論の関心が高いマイナカードの問題は、岸田政権の政権運営に重くのしかかり、解散・総選挙戦略にも大きな影響を与えるのは避けられない情勢だ。

 マイナカード混乱、内閣支持率直撃

読売新聞が23日から25日に行った世論調査で、岸田内閣の支持率は41%で、前回調査から15ポイントも急落した。不支持率は44%で11ポイント増えて、支持率と不支持率も逆転した。

焦点のマイナカードのトラブルについて、政府は適切に対応していると「思う」は24%に止まり、「思わない」が67%に達した。

また、政府が現在の健康保険証を廃止し、マイナカードに一体化する方針についても「反対」は55%で、「賛成」の37%を大幅に上回った。

これより先の17、18の両日行われた朝日、共同、毎日各社の世論調査でも同じ傾向が表れた。岸田内閣支持率を前月比でみると、朝日は4ポイント減の42%、共同は5.7ポイント減の40.8%、毎日は12ポイント減の33%となっており、いずれも支持率より、不支持率が上回った。

G7広島サミット直後に上昇した岸田内閣の支持率は、わずか1か月で大きく様変わりした。

 支持率急落、曖昧・先送り政治に嫌気も

それでは、岸田政権に支持率急落をもたらした原因としては、どこに問題があるのか。マイナカードへの対応から、具体的にみていきたい。

マイナカードをめぐるトラブルは、今年3月以降コンビニで住民票など別人の証明証が発行される不具合が各地で起きたほか、カードに情報を紐づける登録の誤りが、健康保険証、年金、公金受取口座、障害者情報などで続発した。

特に国民の関心が高いのが、来年の秋までに今の健康保険証を廃止してマイナンバーに一体化する問題だ。

岸田首相は21日の記者会見で、秋までにすべてのデータについて総点検を行うとともに「保険証の全面的な廃止は、国民の不安を払拭するための措置が完了することを大前提に取り組む」と強調した。

これは、健康保険証廃止にこだわっていないのかと思ったが、質疑で「従来の方針のもとに進める」とのべ、方針を変更しないことが明らかになった。

国民は、マイナンバーの活用はデジタル社会へ対応するため、必要性は理解している。但し、高齢者などの弱者にはさまざまな準備やサポート体制が必要だ。

自分の親が高齢者施設に入り、認知症の症状などがある場合、マイナカードの申請、交付後の保管、パスワードの管理、日常の受診などの対応がそれぞれの家庭でスムーズにできるだろうか。

また、マイナカードのサイトで閲覧できる情報を総点検することになったが、点検すべき分野は29項目にものぼる。市区町村や健康保険組合などに点検作業を要請、事実上の丸投げとなるが、大量の情報を確認する要員などに余裕はあるのだろうか。

こうした点を想像すると、来年秋に期限を区切った健康保険証の廃止は見直した方がいいのではないか。また、今回のような大がかりなシステムは、故障などが起きた場合、バックアップ体制はできているのか、制度設計についても聞きたい点は多い。

さらに、岸田政権が最重要課題と位置づける「次元の異なる少子化対策」についても内容、財源の問題ともに世論の評価は低い。

岸田政権は、児童手当の拡充などに年間3兆円台半ばの予算を組む一方、「国民に増税や実質的な負担増も生じさせない」と強調する。しかし、財源の具体策には言及せず、年末の予算編成に先送りになっている。

防衛増税の実施時期についても「来年以降」から「再来年・2025年以降も可能となる」が表現が、今年の骨太方針に盛り込まれた。

このように岸田政権では、看板政策でも中身が曖昧で、肝心な点が先送りにされた政策が多い。また、政府側の説明や、国会の議論も少なく国民に対して積極的に説得しようとする姿勢がみられない。

国民の多くは将来、必ず大きな問題となる財源などの扱いを曖昧にしたまま、先送りを続ける政治にも嫌気がさしているのではないか。そうした国民の受け止め方が、岸田政権の支持離れにつながっているのではないか。

 マイナ混乱は政権に重圧、解散にも影響

さて、政界は先の通常国会の最終盤で、衆院解散が見送られたことで、秋の解散の可能性が増しているとみて、与野党は走り出している。

ところが、岸田内閣の支持率が急落し、この状態が続けば、岸田政権の求心力が低下し、解散戦略にも影響が出てくることも予想される。

まずは、岸田政権がマイナンバーカードをめぐる総点検の結果を明らかにするとともに、再発防止策を明確に打ち出すことが必要になる。

また、政界では、防衛力強化や少子化対策の財源を年末に先送りしたことは、秋の解散に踏み切る可能性が増したとみる見方もある。

しかし、国民の多くはそうした「負担隠しの小手先の対応」はお見通しで、そうした動きをする政党や候補者には厳しい審判を下すのではないかと予想している。難題を抱えているからこそ、世論の反応・潮流は大きく変わりつつある。

岸田政権にとって、今回のマイナカード問題は重圧となって政権を覆っているように見える。懸案に真正面から取り組み、一定の成果を上げて支持率を回復しないと、秋の解散・総選挙の展望も開けてこないとみている。(了)

“首相の求心力が カギ”秋の解散・総選挙

長丁場の通常国会が21日に閉会する。最終盤の国会は一時、解散・総選挙へ突入かと緊迫したが、岸田首相は解散見送りを表明して決着した。

今回の解散、岸田首相は本気だったのかどうか?岸田首相はかなり早い段階で、解散先送りを決めていたのではないとみているが、真相はどうだろうか。

もう一つは、次の解散・総選挙の時期が焦点になるが、「岸田首相の求心力がカギ」を握っている。私もかつて政治報道に携わってきたので、1取材者の立場から、今回の岸田首相の対応について、思うところを率直にお伝えしたい。

 6月解散、岸田首相は本気だったか?

衆院解散・総選挙をめぐる動きは、13日夜、岸田首相が記者団に対し「情勢をよく見極めたい」と発言したのをきっかけに、解散風は一気に勢いを増した。

民放のある報道番組では「首相は解散に踏み込んだ」との解説が流れ、翌日には別の民放局が「野党側が16日に不信任決議案を提出すれば、即日解散になる」などと報じ、政党の幹部の中には選挙対策会議を開くなど対応に追われた。

ところが結果はご存じの通り、15日夜、岸田首相が記者団に対し「今の国会での解散は考えていない」と表明し、6月解散は見送りになった。

岸田首相は、本当にこの時まで解散・総選挙を行う考えを持っていたのだろうか。この点は、見方が分かれるところで、整理しておく必要がある。

そこで、岸田首相の本気度は、どこをみておくとわかるか。首相官邸の首脳、自民党執行部、派閥の領袖、与党・公明党首脳などを取材し、情報を総合して判断するのが基本である。

それに加えて、解散・総選挙では、取材のポイントというものがある。ベテランの自民党関係者に聞くと「保守政党・自民党は、解散当日、総理・総裁が出席して『選対本部開き』を行い、『公認詔書』と『為書き』を手渡す重要な行事がある。ところが、この準備を行っていない」と指摘していた。

つまり、「公認証書」や「為書き」は、総裁をはじめ限られた党役員が手分けして、選挙区と氏名を手書きする。この準備は、数週間はかかるといわれる。そこで、官邸関係者と、自民党の複数の幹部を取材したが、こうした準備が行われているとの情報は得られなかった。

したがって、一部で岸田首相が解散に向け踏み込んだとされる13日時点では、実は、解散を考えてはいなかったのではないか。解散に含みを持たせることで、野党をけん制し、防衛財源確保法など最重要法案の乗り切りが本当のねらいではなかったかとの見方をしている。

以上を整理すると、岸田首相が解散戦略として、当初からサミット後の早期解散をねらっていたのは事実だと思う。そして、サミットが閉幕、内閣支持率の上昇はみられた。ところが、5月下旬以降、政権にとって想定外の事態が続いた。

一つは、長男の前首相秘書官の「公邸内忘年会」が週刊文春にすっぱ抜かれ、更迭に追い込まれた。また、公明党が東京での選挙協力の解消を打ち出した。さらに、看板政策であるナンバーカードのトラブルが相次ぎ、6月7日には「公金受取口座」の登録の誤りが13万件も確認された。

これでは、6月解散は無理で、6月第2週には、既に解散見送りを覚悟していたとみるのが自然ではないか。但し、この間の詳しい経緯の情報は確認できていないので、現役記者諸氏の取材・検証に期待したい。

  ”利用されるな、傍観者になるな”

解散をめぐるメデイア報道について一言、触れておきたい。1つは、解散・総選挙は政治記者にとっても最大の取材対象だが、政権側が流す情報に飛びついて、裏を取らずに間違った情報を流すなと先輩記者から戒められたのを思い出す。「利用されるな」と。

他方、「傍観者になるな」も重要な点だ。つまり、ミスを恐れて挑戦せず、思考停止、傍観者のような対応も論外だ。

解散・総選挙報道は、いかなる事態にも即応することが求められる。難しい取材の連続だが、いかに「正確な情報に基づく予測報道」を行うことができるか、この点でも現役記者の皆さんの活動に期待したい。

 秋の解散は難問、政権の求心力が左右

それでは、岸田政権はこれからどのような政権運営を行うだろうか。岸田首相は来年9月の自民党総裁選での再選をにらみながら、夏から秋にかけて内閣改造・自民党役員人事に踏み切るとともに、秋の解散・総選挙を探るものとみられる。

秋の解散・総選挙ができるかどうか、大きなハードルが控えて折り、難問だ。1つは、内閣改造・自民党役員人事で、政権の体制を強化できるかどうか。今の時点では、ポスト岸田の有力候補が見当たらないので、相対的に優位にあるのは事実だ。

一方、岸田派は党内では4番目の規模の勢力で、人事につまづくと党内の不満が強まり、政権が不安定化するリスクを抱えている。今回の解散をめぐっても「解散権をもてあそぶような姿勢が感じられ、好ましくない」などの批判もくすぶっている。

2つめは、次の衆議院選挙に向けて公明党との関係修復ができるかどうかだ。公明党側は「東京での協力解消は見直さない」と硬い態度を崩していない。

3つめは、今回も問題になったが、「解散の大義名分」があるかどうか。国民との関係で言えば、防衛費に続いて、少子化対策についても裏付けとなる財源確保の具体策は年末に先送りになった。

財源問題を曖昧にしたまま、秋に解散・総選挙を行うことになれば、国民から、将来の負担を隠すねらいがあるのではないかと厳しい批判が出てくることも予想される。

解散の大義名分と、懸案についての明確な方針を打ち出さないと世論の支持は得られず、政権の求心力が低下するのではないか。その場合、秋の衆院解散は難しく、来年以降に先送りされることもありうることも予想される。

通常国会が21日に閉会する。まずは、岸田首相がいつ内閣改造・自民党役員人事に踏み切るか。また、国民が今回の解散問題を含め、岸田政権の対応をどのように評価し、政権の求心力に変化が出てくるかどうかを注目している。(了)

 

国会大詰め”6月解散説”の読み方

通常国会の会期末を21日に控えて、岸田首相は6月解散・7月総選挙に踏み切るのかどうか、与野党ともに緊張感が増してきている。

前回の衆院選挙から1年8か月も経っていない中で、本当に解散に踏み切るのかどうか。今回の解散をめぐる構図と可能性、それに解散の是非をどのようにみたらいいのか多角的に分析し、考えてみたい。

 早期解散、首相サイドと自民幹部との溝

今回の衆院解散・総選挙をめぐる動きは、既に詳しく報道されているので省略して、ここでは、解散をめぐる「与党内の構図」を中心に整理しておきたい。

まず、岸田首相の今年の政権運営は、G7サミットを地元・広島で開催して成功させた後、その勢いに乗って通常国会の会期末に衆院解散・総選挙に踏み切るというのが、首相のベスト・シナリオだと自民党内では受け止められてきた。

そのG7サミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領の参加効果が大きく、政治的には成功裏に終わり、直後のメデイアの世論調査で支持率は上昇した。

ところが、首相の政務秘書官を務めていた長男の行動などが週刊誌で取り上げられ、更迭したことが批判を浴び、支持率が下落するなどの動きが続いている。

こうした中で、岸田首相に近い遠藤総務会長は「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」などと盛んに解散風を吹かしてきた。

また、10増10減に伴う候補者調整などに当たっている森山選対委員長は、調整が最終段階にあるとして、選挙態勢が整ってきたことを明らかにした。

自民党執行部の動きとしては5日、役員会の前に岸田首相と麻生副総裁、茂木幹事長3者会談が行われた後、麻生、茂木の両氏は夜、長時間にわたって会食した。党関係者によると「早期解散には大義名分が必要」などとして、早期解散に慎重な意見が出されたという。

翌6日、二階元幹事長は記者団のインタビューに応じ「解散はいつあっても結構だが、何もせずに解散風をふかせるのはけしからん」と最近の動きをけん制した。

このように自民党内では、岸田首相と近い立場の幹部は、早期解散を有力な選択肢として模索しているのに対し、ほかの幹部は異論は唱えないものの「半身の構え」で、慎重な立場をとっているのが特徴だ。

こうした背景としては、早期解散論の幹部は「サミットは成功、支持率も上昇、株価は3万円台の高値で、これ以上のタイミングはない」と強調する。そのうえで「野党はバラバラ、特に維新の選挙態勢ができていない今、選挙をやるべきで、必ず勝てる」と力説する。

これに対して、慎重な幹部は「支持率は高いといっても自民支持層で、岸田内閣を支持する割合が回復していない。また、公明党との選挙協力がギクシャクしたまま選挙になると公明票が見込めず、思わぬ結果を招く」とけん制する。

早期解散に慎重な意見は、閣僚経験者などベテラン議員に多い。今年4月の衆参5補選で自民党は4勝したが、野党の乱立に救われたと楽観論を戒める。

また、自民、公明両党間の候補者調整をめぐって、両党の関係に亀裂が生じたことの影響を懸念する声が根強いのも特徴だ。

前回の衆院選挙で、自民党の小選挙区での当選者189人のうち、次点との差が2万票以内は57人、1万票以内は30人にも達した。公明党・創価学会票は1選挙区2万票程度とされるので、この票のゆくえ次第で議席の大幅な減少も予想される。

公明党が解消の方針を決めた東京の選挙協力については、関係修復の糸口を見いだせておらず、時間がかかる見通しだ。その公明党は、早期解散には反対だ。

このように自民党内、公明党を含めた与党内も早期解散論でまとまっているわけではない。自民党の関係者によると、党内はかなり慎重論が強いという。

そうした中で、主導権発揮に自信を深めているとされる岸田首相が独自の判断で「6月解散」へ踏み込むのか。それとも「秋口以降」の解散を選択するのか、その最終決断を見守っているのが今の状況だ。

 大義名分、主要政策の具体策の提示は

もう1つの焦点は、衆議院の解散・総選挙の大義名分は何か、国民との関係の問題がある。「大義名分など後で考えればいい」と語る幹部もいる。しかし、そうした考えは昭和の時代は通用しても、今の時期は受け入れられないだろう。

自民党の伊吹元衆議院議長は1日、所属していた二階派の会合で、早期解散の観測について「支持率が上がって自民党に有利だとか、党の総裁選挙をうまく運ぶためといった私利私欲で解散したら、国民はみんな見ていて簡単に勝てない」と今の永田町の動きに苦言を呈した。

自民党内には「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」といった意見がある。しかし、国民はそのような政争レベルの理由を聞いているのではない。内外で激動が続く中で、岸田首相は国民生活を安定させていく覚悟と、具体的な政策と道筋を準備しているのかを問うているのだ。

岸田政権は、昨年末に防衛力の抜本強化や、年明けに異次元の少子化対策を相次いで打ち出した。但し、肝心の裏付けとなる財源については、未だに具体策を打ち出せていない。

その防衛財源確保のための増税の実施時期について、政府は当初の「来年以降」の方針から、「再来年・2025年以降」へさらに先送りもできるよう骨太方針に盛り込むことを検討している。

少子化対策、防衛財源についても、具体策は年末の予算編成まで先送りする方針が固まりつつある。

こうした対応は、岸田首相の解散戦略と関係している。要は、国民に不人気な負担の問題は年末まで先送りしたうえで、「6月解散」か、「秋の解散」で乗り切ることをねらっていると政界では受け止められている。

岸田首相は今年1月の施政方針演説で「先送りできない課題に正面から愚直に向き合い、一つ一つ答えを出していく」「(新たな安定財源確保に)今を生きる我々が将来世代への責任として対応して参ります」と決意を表明した。

こうした決意や覚悟はどこへ行ったか。政権が懸案解決に向けた具体策を打ち出したうえで、国会で野党と論戦を戦わせ、論点を明確にして、選挙で国民に信を問うのが、政治の王道だ。

6月解散論は、大義名分が見当たらず、懸案解決の具体策も示さないまま、今が有利と選挙に勝つことを目標に突き進んでいるようにみえる。

仮に実現した場合も、伊吹元議長の指摘する総裁再選を目標にした「私利私欲解散」、あるいは「負担増・増税隠し解散」などの厳しい批判の声が予想される。

 6月解散は?論点・争点設定が重要

最後に直近の問題として、6月解散の可能性はどの程度あるのかという問題に触れておきたい。難しい質問だが、私個人は、6月解散の可能性は低いのではないかとの見方をしている。

但し、不確定要素として最後まで残るのは、岸田首相がどのように決断するかだ。これまで触れたように自民党内のかなりの幹部は早期解散には慎重だ。それでも岸田首相が解散を決断すれば従うとみられるので、解散の可能性が残る。

一方、仮に解散に踏み切るのであれば、その前にやるべきことをやったうえで、決断することを求めたい。それは、岸田政権が懸案から逃げずに将来の解決策と展望を示すことだ。

それに対して、野党も自らの主張や対案を示しながら、論戦を挑んでもらいたい。与野党が論点・争点を明確にして、選挙に臨むのが政治の責任だ。

そうした論戦を踏まえて、解散・総選挙となるのであれば、国民としても納得するのではないか。国民にとっては、解散に至るプロセスが重要だという点を強調しておきたい。

国会の会期末が21日に迫る中で、岸田首相は13日夜、少子化対策で記者会見を行った。この中で、今の国会で解散する考えがあるかと問われたのに対し、岸田首相は「情勢をよく見極めたい」とのべるに止めた。

NHKの今月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、今年1月を底に4か月連続で上昇していたが、6月は43%で3ポイント下落した。不支持は37%で6ポイント増え、その差は縮まった。

G7サミットの評価は高かったが、長男の前首相秘書官を更迭した問題やマイナンバーの誤登録問題が直撃したものとみられる。自民党の支持率も34.7%と相対的には高い水準にあるが、下降傾向が続いており、今月は岸田政権発足以来、最も低い水準となっている。

最終盤の国会は、最重要法案の防衛財源確保法案の扱いと、野党側が内閣不信任決議案を提出するかどうか。その上で、岸田首相が6月解散について、どのような最終判断を示すかが最大の焦点だ。じっくり、見極めたい。(了)

★(追記16日、21時30分)岸田首相は15日夜、記者団の取材に応じ「今の国会での解散は考えていない」とのべ、野党側から内閣不信任決議案が出された場合は否決し、衆議院を解散しない考えを明らかにした。

★国会は16日の衆議院本会議で、立憲民主党が提出した岸田内閣に対する不信任決議案について、自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党などの反対多数で否決した。

 

”2つの懸念”岸田政権 少子化対策案

岸田政権が最重要課題に位置づける「次元の異なる少子化対策の方針」案がまとまった。30ページの方針案を一読すると、児童手当の所得制限を撤廃するなど経済的給付の具体策が詳細に示されている。

一方、財源については、増税や実質的な負担増を生じさせないとして新たな枠組みを提示しているが、具体策は年末に結論を出すとして先送りになっている。

こうした少子化対策案をどうみるか。結論を先に言えば、2つの懸念がある。1つは、給付の裏付けとなる財源を確保するための「持続可能な制度設計」になっていないのではないかという疑問。

もう1つは、政治との関係だ。年内にも衆議院の解散・総選挙が取り沙汰されている中で、財源確保の具体策を示していないと「論点隠し、争点隠し」といった批判を受けるのではないか。

政治の王道は、時の政権と与野党が懸案への方針を示し、論争を重ねたうえで、選挙で国民が決着を付けるのが基本だ。岸田政権は、こうした2つの懸念に対して、早急に新たな考え方や対応策を打ち出してもらいたい。

 支援策、児童手当拡充など3年間集中実施

第1の懸念である財源確保の問題に入る前に、政府の少子化対策のうち、支援策の中身をみておきたい。

政府は少子化対策を強化するため、今後3年間を集中的な取り組み期間と位置づけ、年間3兆円台半ばの予算を組んで、対策を加速するとしている。

具体的には、児童手当の所得制限を撤廃したうえで、対象も高校生まで拡大するのが大きな柱だ。

また、高等教育にかかる費用の負担軽減策として、授業料の減免や給付型の奨学金について、年収600万円程度までの中間層にまで広げた上で、さらなる拡充を図るといった支援メニューを数多く並べている。

こうした「加速化プラン」で子ども家庭庁の予算は今の5兆円からおよそ1.5倍増えるとしたうえで、2030年代初頭には倍増をめざすとしている。

支援策に対しては「異次元」といえるほどの規模や内容かといった批判も予想されるが、これまでに比べると踏み込んだ対策として、一定の評価はできるのではないかと考える。

 財源確保、持続可能な設計設計か疑問

問題は、こうした対策を実行していくうえで裏付けとなる財源をどう確保するかだ。方針案では、必要となる財源は◇「社会保障費の歳出改革」に加え、◇社会保険の仕組みを活用することも念頭に、社会全体で負担する新たな「支援金制度」を創設する。◇制度が整うまでの不足分は、一時的に「子ども特例公債」を発行してまかなうとしている。

このうち、新たな「支援金制度」は今後検討し、年末に結論を出すとして、先送りしている。

「社会保障費の歳出改革」についても、内容や規模は示されていない。年末の新年度予算案の編成課程で検討を進めるものとみられ、年末に先送りされている。

岸田首相はこうした財源問題については、消費税などの増税は行わない考えを示している。「徹底した歳出改革を行うことなどで、実質的に追加負担を生じさせないことをめざす」と強調している。

増税も社会保険料の上乗せ負担も避けるとなると「歳出改革」が中心になるが、医療や介護などの社会保障分野で、歳出の見直し・削減で、兆円単位の財源を捻出できるとは思えない。

したがって、政府の方針案は「安定した財源確保と持続可能な制度設計」にはなっていないのではないか。こうした疑問・懸念に真正面から答えてもらいたい。

 政権が方針を明示、選挙で政策決定を

2つ目の懸念は、具体的には次の衆議院選挙との関係だ。現状のままでは、肝心な財源問題がはっきりしない中での選挙になる可能性がある。判断材料が示されないので、「論点隠し、争点隠しの選挙」という批判を招くのではないか。

政界では衆議院の解散・総選挙が、年内にも行われるのではないかとの憶測が飛び交っている。最も早いケースは今の国会の会期末といった説も出されるなど与野党の国会議員は浮き足立っている。

政界関係者の間では、今回の財源問題先送りは岸田政権の解散戦略とも連動しており、財源問題・負担増の結論を出す前に、秋口に解散・総選挙を行うねらいがあるのではないかといった見方も出されている。

こうした疑心暗鬼を生じさせないためにも、岸田政権は財源問題について早急に具体的な考え方を明らかにすべきだと考える。

そのうえで、国民に信を問うのが筋ではないか。そうしないと国民の政治参加、選挙で政策を選択・決定という権利を封じることにもなる。

政府の対応を振り返ってみると岸田首相は年明けの記者会見で「異次元の少子化対策」をぶち上げ、3月末には少子化担当相の下で支援策のたたき台をとりまとめた。

そのうえで、総理官邸に設けた会議で検討を重ね、6月の骨太方針に「内容、予算、財源の大枠を示す」と繰り返し表明してきた。ところが、財源確保の具体案は年末へ先送りになった。これでは、あまりにも対応が遅すぎるのではないか。

岸田政権は、少子化対策の核心部分である財源確保について、具体案を示すべきだ。それに対して野党側も対案などを示し、議論を深めて論点を明確にすることが政治の側の責任だ。

そのうえで、衆議院解散・総選挙で信を問うというのであれば、与野党が選挙を通じて主張を展開し、最終的には国民が選択、1票を投じて決定するのが、政治の基本だ。国民がこうした筋の通った政治、選挙になることを求めるのは、当然の注文だと考える。

国会は6月21日の会期末を控え、与野党の攻防が次第に激しさを増しているが、今月2日に厚生労働省から「2022年の人口動態統計」が発表された。

それによるとこの1年間に生まれた赤ちゃんの数は77万人余りで、初めて80万人を割り込んだ。出生率は1.26で過去最低。死亡者数から出生数を差し引いた自然減は79万人、山梨県や佐賀県のほぼ1県分の人口がなくなったことになる。

人口減少は猛烈なスピードで進んでいる。少子化問題が政治に大きな衝撃を与えたのは1.57ショック、平成元年だ。既に30年余りが経過しているが、思うような成果を上げていない。岸田首相は、安定した財源に基づく強力な少子化対策案を早急に明らかにすべきだ。(了)

 

 

 

 

 

揺らぐ自公、解散、政権への影響は?

次の衆議院選挙の候補者調整をめぐり、自民、公明両党の意見の対立が深まり、公明党が東京での選挙協力を解消する方針を決めた問題で、岸田首相と山口代表が30日会談し、連立政権の枠組みを維持していくことを確認した。

一方、自民党の茂木幹事長と公明党の石井幹事長も会談し、自民党は東京以外に影響が広がらないよう埼玉と愛知で、公明党の候補を推薦する方向で調整を急ぐ考えを伝えた。

このように自民、公明両党の関係が大きく揺らいでいるが、両党の関係はどうなるのか。焦点の衆議院の解散や岸田政権の政権運営にどのような影響を及ぼすのか、探ってみたい。

 埼玉・愛知で協力、亀裂への歯止め

まず、岸田首相と山口代表の党首会談は昼食を取りながらおよそ1時間行われた。この中で、両党の関係や今後の政権運営について意見を交わしたが、公明党が東京の選挙で自民党の候補を推薦しないなどの方針を決めたことについて、岸田首相から言及はなかったとされる。

一方、両党の幹事長同士の会談で、茂木幹事長は両党間の亀裂がこれ以上拡大しないようにするため、次の選挙から選挙区が1つずつ増える埼玉と愛知について「公明党の要望に沿って調整を進めていきたい」とのべ、公明党が擁立を発表している候補を推薦する方向で、地方組織との調整を急ぐ考えを伝えた。

これに対し、石井氏は「なるべく速やかに調整してほしい」とのべた。また、両氏は、全国レベルでの選挙協力に向けて協議を続けていくことでも一致した。

一方、公明党が東京での選挙協力を解消するとした方針の扱いについては、議題として取り上げられなかったという。

このようにきょうの会談は、両党の選挙協力をめぐる亀裂がこれ以上、拡大しないよう歯止めをかけるのが精一杯というのが実態のようだ。

 首相の長男秘書官更迭 波紋広がる

この自公の選挙協力の問題とほぼ同時進行の形で、岸田首相の長男、翔太郎首相秘書官をめぐる問題が表面化した。

翔太郎秘書官をめぐっては、年末に首相公邸で親戚と忘年会を開き、写真撮影をしていたことなどが週刊誌で報じられた。参議院の予算委員会でも取り上げられ、岸田首相は厳重注意をしたと答弁してかわそうとしたが、世論の批判を浴び、29日に更迭に踏み切った。

野党だけでなく、与党からも批判を浴びており、この不祥事で「早期解散は当面、難しくなった」との受け止め方が与野党に広がっている。ただ、一部には「早期解散の流れは変わっていない」と警戒する見方も残っている。

 解散時期、自公の選挙協力体制がカギ

そこで、衆議院の解散・総選挙への影響はどうか。自民党内では、G7広島サミットをきっかけに岸田内閣の支持率が上昇、株価も3万円を超え、これ以上の好条件はないとして、今の国会の会期末に解散に踏み切るべきだとの意見が強まっていた。

ところが、結論を先に言えば、自公の選挙協力が難航し両党の関係に亀裂が入ったことで、早期解散はかなり難しくなったのではないかとみられる。

解散をめぐっては、いろいろな要素が絡むが、端的に言えば、選挙で勝てる見通しがつかないと踏み切ることは難しい。

今問題になっている東京をみると、前回2021年の衆院選挙で自民党は小選挙区で23人の候補者を擁立、このうち21人が公明党の推薦を受け、14人が当選した。

このうち、次点との差がおよそ2万票未満の当選者は6人。公明票は1選挙区で2万票程度といわれているので、この公明票の上乗せがないと当選は厳しいということになる。

全国でみると自民党は小選挙区の277人を擁立し、このうちの95%、ほとんどが公明党の推薦を受けた。このうち、2万票差未満の当選者は57人、1万票差未満は30人。つまり、公明票がないと激戦区で、かなりの議席を失う可能性がある。

そこで、仮に今の国会での6月解散・7月総選挙となると、極めて短い期間に自公の選挙協力体制を整えられるか。また、解散の大義名分、選挙の政策面の争点として何を設定するのか、国民の理解を得るのは難しいとみられる。

他方で、自民党内には、先の統一地方選で躍進した維新などの野党側に対しては選挙体制が整っていない時に解散を打てば有利だとして、早期解散はありうるとの見方もある。

最終的には、岸田首相がどのように判断するかで決まる。個人的な見方を尋ねられれば、岸田政権の現状を冷静に観察すると早期に解散・総選挙を行えるような状況にはならないのではないかとみている。

 自公連立様変わり、選挙協力見通せず

もう1つの焦点である自民・公明両党の連立政権や、岸田政権の政権運営への影響はどうだろうか。

岸田首相と山口代表との会談で、両党による連立政権の枠組みを維持していくことを確認したので、当面、今の連立の枠組みが変わることはないとみられる。重要法案の扱いや主要政策の調整についても従来の方式で進められる見通しだ。

但し、自公の連立がスタートして20年あまりが経過したこともあって、かつての濃密な人間関係は薄れ、連立政権の姿は大きく様変わりした印象を受ける。

振り返ると公明党が連立政権に参加したのは、小渕政権当時の1999年10月だった。前年の参議院選挙で自民党が惨敗し、衆参ねじれ国会となり、自民党の強い要請を受けて、公明党が自自公連立政権の形で政権入りした。

当時の取材メモを読み直してみると小渕首相、野中幹事長が、公明党の神崎代表、冬柴幹事長と水面下でたびたび会談を重ね、連立政権入りを働きかけた。

公明党側は「最初は閣外協力でどうか」などと慎重な姿勢を繰り返したが、最後は小渕首相が「直ちに連立に入り、閣内協力でお願いしたい」と強く要請して実現にこぎつけた。

当時は、金融危機とバブル崩壊後の経済立て直しが最大の課題だった。公明党の連立政権参加で、与党が参議院で過半数を回復した。それ以降、重要な政策決定や選挙態勢づくり、時には政局にも関与しながら双方が一体となって運営に当たった。

第2次安倍政権では、安倍首相は維新との関係が強かったが、公明党に対しては二階幹事長らが調整役を果たしたほか、難問は安倍首相と山口代表のトップが直接、調整に当たった。

これに対して、岸田政権では、首相官邸をはじめ、自民、公明双方ともに真正面方調整に当たる幹部がみられない。今の自公の連立政権は人間関係が希薄で、かつての連立政権と比べると大きく様変わりしている。

今後、問題になるのは、東京の選挙協力をどのように決着をつけるのか、事態収拾の糸口がまったく見えない。東京だけ除いて、それ以外の地域について、選挙協力を進めることができるかどうか、無理がある。

また、公明党は、関西地域で維新と競合が激化する中で、どこで議席を増やすのか。東京で自民党との選挙協力を行わない場合、自民党以外のどの党と協力していくのか、自民党側に疑念を生じさせる可能性もある。

6月21日に迫った通常国会の会期末に向けて、自民、公明両党は重要法案などはこれまで通りの体制で乗り切るものとみられる。但し、夏から秋にかけて予想される内閣改造などの節目には、選挙協力体制を含め両党の関係を再構築することができるかどうか問われることになる。(了)

 

 

終盤国会と解散風で問われる点

G7広島サミットが21日閉幕し、政治の焦点は、終盤国会の与野党の攻防に焦点が移った。同時にサミット効果などで岸田内閣の支持率が上昇し、自民党内では衆議院の早期解散に踏み切るべきだという声が強まっている。

こうした解散風は本物になるのか。終盤国会では何が問われているのか、みていきたい。本論に入る前にG7広島サミットについて、手短に触れておきたい。

結論を先に言えば、これまで日本で開催されたサミット7回の中では、内外の関心を最も集めた首脳会議と言っていいのではないか。

被爆地・広島でのサミットという点もあるが、やはり、世界が一挙手一投足を注視しているウクライナのゼレンスキー大統領が電撃的に来日し、G7首脳や新興国首脳との会合に参加した効果が大きい。

G7はウクライナへの支援を強化するとともに、ロシアへの制裁継続を確認した。また、核保有国を含めて各国首脳が原爆資料館を視察し、展示資料を通じて被爆の実態に触れた点も評価していいのではないか。

但し、問題は、全てこれからだ。ウクライナの反転攻勢もこれからであり、欧米の軍事支援が強化されつつあるとはいえ、戦況が好転するか予断を許さない。

専門家によるとこれから数か月、場合によっては半年、大きな山場を迎えるとの見方もある。日本のG7議長国としての役割は、年末まで続く。国内の一部にある早期解散論で浮き足立つような状況には全くないと思うが、どうだろうか。

 終盤国会、防衛・少子化財源問題が焦点

それでは、本論に入って終盤国会はどうなるか。国会の会期は会期末の6月21日まで1か月を切ったが、与野党の論戦の焦点としては、2点ある。

1つは、防衛費の増額に伴う財源確保法案の扱い。2つ目は、岸田政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策の財源をどのような仕組みで確保するかだ。

このうち、防衛費の財源確保法案は23日、衆院本会議で与党の賛成多数で可決され、参議院に送られた。参議院で審議が始まるが、野党の立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党がそろって反対しており、激しい議論がかわされる見通しだ。

少子化対策の財源については、政府は、来年度から3年間で集中的に取り組みを強化するとして、新たに3兆円程度の財源を確保する方向で調整を進めている。

この財源としては、消費増税などの増税ではなく、医療・介護など社会保障費の歳出改革と、社会保険料の上乗せなどで確保することを検討している。

具体的には、健康保険の仕組みを使うことを検討している。これに対して、野党側は「医療や介護など社会保障分野での歳出改革はありえず、社会保険料への上乗せではなく、税で確保するのが筋だ」として、厳しく批判している。

経済界や労働界からも「社会保険料を上乗せすれば、せっかくの賃上げの機運に水を差すことになる」などの異論も出ている。

今月24日と26日には、衆院と参院でそれぞれ予算委員会の集中審議が予定されており、防衛と少子化対策の財源をめぐっては、政府・与党と野党側で激しい議論が戦わされることになりそうだ。

こうした財源問題については、世論の関心も高く、報道各社の世論調査によると政府の防衛増税の方針については、反対の意見が多数を占めている。少子化対策の財源についても社会保険料の活用への賛成は少なく、今後、岸田内閣の支持率にも影響が出てくることも予想される。

今の国会は終始、与党ペースで進んできたこともあって、論戦は極めて低調だった。終盤国会では、防衛と少子化対策の財源問題などを軸に与野党が徹底した議論を尽くすよう強く求めておきたい。

 強まる解散風、勝てる条件・大義名分は

次に衆議院の解散・総選挙をめぐる動きについて、みておきたい。G7広島サミットを受けて、自民党内からは「サミットは大きな成功を納め、世論調査で内閣支持率も上昇している」として、衆議院の早期解散を求める意見が相次いでいる。

こうした背景としては、低迷が続いていた岸田内閣の支持率が回復傾向にあることに加えて、今後は、防衛増税や少子化対策の負担増が具体化してくるので、その前の解散が有利だとの判断が働いているものとみられる。

また、先の統一地方選と衆参補欠選挙で、維新が勢力を大幅に拡大したことから、維新の選挙態勢が整わないうちに解散に打って出るべきだという思惑もある。

一方、与党・公明党の山口代表は、内閣支持率の上昇を理由に解散を考えることは望ましくないとして、早期解散に否定的な考えを表明している。

自民党は小選挙区で議席を獲得するうえでは、公明・創価学会支持層の上乗せで当選した議員も多く、自公の足並みがそろわない中で、与党が勝てる条件を整えられるのか、疑問だ。

また、先の衆院選挙から1年8か月しか経っていない中で、早期解散に踏み切る大義名分は何かという点が問われる。政権与党にとって、今が有利だからというのでは党利党略そのもので、国民の支持はえられないだろう。

 問われる岸田首相の構想と実現力

衆議院の解散・総選挙について、岸田首相は記者団からの質問に対して「先送りできない課題で、結果を出すことに集中しなければならない。今は考えていない」と繰り返し強調している。

一方、自民党内からの早期解散を求める声は強まっており、岸田首相としては最終的にどのように判断するか、今後の焦点だ。

その解散時期について、国民の見方は「今の国会ですぐ」は8%と極めて少なく、「夏以降の年内」18%、「来年」19%、「再来年10月の任期満了まで」が41%で最も多い(NHK世論調査5月)。

要は「解散を急ぐ必要はない」と考えている国民が多い。別の表現をすれば「解散よりも前に、やるべきことがある」と考えている国民が多いということだろう。

岸田首相は、防衛政策の転換で日本の防衛力整備の姿をどのように考えているか。異次元の少子化対策では、何を最重点に実現したいのか。新しい資本主義で何をやりたいのか、いつまでに実行できるのか。

国民は、以上のような岸田政権がめざす政権の具体的な構想を求めているのではないか。その上で、構想を実現していく力を備えているのかどうかを見極めようとしているのではないかと考える。

終盤国会では、大きな論点として残されている防衛と少子化対策の財源問題について、政府・与党と野党側との間で徹底した論戦を尽くしてもらいたい。

そのうえで、国民の側は、岸田首相が解散・総選挙に踏み切るのかどうか。解散の大義名分をはじめ、焦点のウクライナ情勢、政策の争点設定など必要な条件が整っているかどうかで、解散の是非を判断して対応すればいいのではないか。

会期末まで目が離せない緊張した展開が続くことになりそうだ。(了)

★(追記25日22時)次の衆議院選挙に向けた自民・公明両党の候補者調整で、双方の意見の対立が深まり、公明党は25日、東京28区の擁立を断念した上で、東京では自民党の候補者に推薦を出さない方針を決定し、自民党に伝えた。与党の足並みの乱れは、衆院解散・総選挙の時期にも影響を与えることになりそうだ。

 

 

G7広島サミット”世論は冷静思考”

G7=主要7か国首脳会議が19日から3日間の日程で、広島市で開かれる。G7サミットが日本で開かれるのは7年ぶり、7回目になる。

アメリカのバイデン大統領をはじめとする主要国の要人が相次いで来日するので、開催地の広島だけでなく全国的に大規模な警備体制が敷かれる。

また、メデイアを通じて膨大なサミット情報が洪水のように出されることが予想されるが、国民は今回のサミットをどのようにみているか。

一方、政界の一部には、サミット終了後、岸田首相が衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかとして、サミットへの国民の反応を注視している動きもある。

そうした中で、NHKの世論調査が発表されたので、このデータをみながら広島サミットへの国民の見方や政治への影響を探ってみたい。

 ウクライナ情勢議論、世論の見方は

さっそく、今回のG7広島サミットを国民はどのように受け止めているのか、この点からみていきたい。

◆サミットでは、ウクライナ情勢が主要な議題になるものとみられている。NHKの世論調査(5月12日から14日実施)では「ロシアの侵攻を止めさせるための実効性がある議論が期待できると思うかどうか」について聞いている。

◇「大いに期待できる」は2%、◇「ある程度期待できる」が26%で、合わせて「期待できる」は28%。これに対して、◇「あまり期待できない」50%、◇「まったく期待できない」16%で、「期待できない」は合わせて66%となった。

◆今回のサミットは被爆地広島で開かれることから、「核兵器のない世界」の実現に向けた機運が高まることを期待できるかどうかについても尋ねている。

◇「大いに期待できる」は2%、◇「ある程度期待できる」27%で、「期待できる」は29%。◇「あまり期待できない」45%、◇「まったく期待できない」20%で、「期待できない」は65%となった。

ウクライナ情勢と、核廃絶の問題ともに目に見えるような成果を早期に求めるのは、難しいとの見方をしている。国民の多くは、サミットの主要課題について、冷静かつ客観的に見極めようとする姿勢・思考がうかがえる。

◆外交分野では、岸田首相と韓国のユン大統領が3月に続いて、今月も首脳会談を行い、対話を重ねていくことを確認したことについて、日韓関係が改善に向かうかどうかを聞いている。

◇「改善に向かうと思う」が53%で、「改善に向かうとは思わない」の32%を上回った。

このように日韓二国間の問題については、積極的に評価しようとする人が多いことも明らかになった。

広島サミットで議長を務める岸田首相はインタビューなどで「平和の象徴である広島にG7首脳が集う歴史的に大きな重みがある」「ロシアが行っているような核の威嚇を拒否していく強い意思を発信する」などの考えを強調している。

これに対して、国民世論はサミットの意義は評価しつつ、首脳会議の内容に実効性があるのかどうか、冷静に見極めて判断しようとしている。サミットを政治的なセレモニーではなく、外交・安全保障などの面で前進しているのかどうか、中身で評価しようとしており、大いに評価できる。

 サミットの年は解散のジンクス、今回は

さて、政界では「サミットの年には、衆議院の解散がある」とのジンクスがある。日本で開かれたサミット7回のうち、4回連続で同じ年内に衆議院が解散・総選挙が行われた歴史がある。

具体的には、1979年の大平元首相、86年の中曽根元首相の時には、衆参ダブル選挙だった。93年の宮沢元首相、2000年の森元首相の時もサミットが行われるとともに衆議院の解散・総選挙が行われた。

その後、2008年の福田元首相の時、および前回2016年安倍元首相の伊勢志摩サミットの時には、解散・総選挙は見送られた。

こうしたジンクスに加えて、政界の一部には、岸田首相は野党の選挙態勢が整っていないのを好機とらえ、広島サミットの勢いに乗って衆議院の解散に打って出るのではないかという見方が根強くある。

◆その岸田首相の5月の内閣支持率はどうか。支持率は46%で、前月より4ポイント上昇し、不支持率は31%で4ポイント減少した。

この結果、岸田内閣の支持率は1月の33%を底に4か月連続で上昇、支持が不支持を3か月連続で上回った。岸田内閣は最悪期を脱し、回復傾向にある。

こうした背景には、通常国会が与党ペースで進み、野党側が存在感を発揮できていないことがある。また、岸田首相が大型連休を利用してアフリカ5か国歴訪や韓国訪問などでメデイアの露出度を増したことも影響しているものとみられる。

但し、岸田内閣を支持する理由としては「他の内閣より良さそうだから」が45%で最も多く、相変わらず消極的支持が多い。支持しない理由としては「政策に期待が持てない」が50%、「実行力がない」が20%と多く、政権が力強さを発揮するような状況にまで至っていない。

 サミット後の早期解散説、世論は少数

◆それでは、国民は衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきだと考えているか。◇「G7広島サミットの後すぐ」は8%、◇「夏以降の年内」18%、◇「来年」19%、◇「再来年10月の任期満了まで」41%となっている。

政界の一部にある「サミット終了後の早期解散説」については、世論の見方は1割にも達していない。任期4年のうち、まだ1年7か月しか経過していないので、国民が解散を急ぐ必要はないと考えるのは当然ともいえる。

このようにみてくると、広島サミットについては、ウクライナ侵攻の停戦に向けた糸口を見いだせるか。核廃絶や核軍縮が一歩でも前進するのか。ロシア、中国対日米欧の構図が続く中で、G7は中国との関係をどのように位置づけて対応していくのかなどが注目される。

一方、サミット後の終盤国会では、防衛費の大幅増に伴う財源確保の法案の審議と、異次元の少子化対策の財源をどのように確保していくのか、待ったなしの状態にある。

会期末に向けて、最終盤の国会では、野党側が内閣不信任決議案を提出するのかどうか。それを受けて、岸田首相が衆議院の解散・総選挙へ打って出るのかどうか、政局が緊迫する局面も予想される。

国民の側は、まずはG7広島サミットの協議の中身を冷静に評価するとともに、政治が今、為すべきことは何か、しっかり見ていく必要がありそうだ。(了)

解散風と終盤国会 ”やるべきことは”

大型連休が終わり、長丁場の通常国会も終盤に入った。永田町では、岸田首相はG7の広島サミットを終えて、会期末に衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの声が聞かれるなど夏の解散風が吹き始めた。

一方、ここまでの国会論戦は極めて低調で、岸田政権や与野党双方とも日本の将来をどのように考えているのか、さっぱり伝わって来ない。加えて、終盤国会は解散をめぐる駆け引きばかりとなると国民は困惑してしまう。

個人的には今、衆議院の解散を行うような状況にはないと考えているので、会期末に向けて浮き足立つ議員の動きを想像すると「解散より前にやるべきことがある」と言わざるを得ない。

終盤国会は、議論を尽くしておくべき3つの論点を抱えている。戦後の安全保障政策の転換といわれる防衛力の抜本強化と防衛増税の扱いが1つ。

また、異次元の少子化対策と財源、それに経済運営の今後のかじ取り。以上の少なくとも3つの論点について、政権与党と野党はそれぞれの方針を明示して、徹底した議論を重ねる必要があると考える。

こうした論点を明確にしたうえで解散・総選挙に踏み切るのであれば、国民も一定の理解を示すのではないか。

逆に論点を曖昧にしたままの解散の場合、厳しい審判が下される可能性があるのではないか。解散風が吹き始めた中で、解散と国会のあり方を考えてみたい。

 防衛費の大幅増、防衛財源は持続可能か

国会は会期末の6月21日まで40日余りとなり、政府提出法案のうち、新年度予算や、かなりの法案が既に成立、または成立のメドがつきつつある。

終盤国会で与野党の対決法案として残るのは、防衛費の大幅な増額をまかなうための財源確保法案がある。衆議院段階で審議が続いている。

政府は2023年度から5年間に防衛費の総額を今の1.6倍にあたる43兆円に増やすとともに2027年度以降、毎年度、防衛費を今より4兆円増やす方針だ。

その財源確保の主な柱として「防衛力強化資金」を創設する方針だ。具体的には、国有地を売却したり、特別会計の剰余金を集めたりして9千億円を見込むのをはじめ、補正予算に活用してきた決算剰余金7千億円をかき集め、税金以外の歳入をためておくための法案だ。

問題は、国有地の売却益や特別会計の剰余金の活用といっても1回限りなので、今後も財源を確実に手当できるかどうかわからない。一方、1兆円強とされる増税は、実施時期が決まっていない。

このように防衛費の大幅増額は決まったものの、財源は確実に確保できるのか、持続可能な安定財源なのか明確にしておく必要がある。

外交・安全保障分野では、今月19日から開催されるG7広島サミットを受けて、ウクライナ支援とロシア制裁、米中対立が激しさを増している中で対中外交をどのように進めていくのか、終盤国会で突っ込んだ議論を行う必要がある。

 少子化対策 優先順位と財源の明示を

岸田政権が最重要課題に位置づける異次元の少子化対策については、3月31日に子ども政策担当相からたたき台が示された。この案を政府が引き取って、岸田首相の下に新たな会議を設けて検討を進めており、6月の骨太方針に盛り込む運びになっている。

政府のたたき台では、子ども手当の所得制限の撤廃や、学校給食費の無料化など大胆な対策が打ち出されているが、防衛費と同じく財源をどう確保するかが最大の問題だ。

今の少子化対策関係予算は6兆1千億円で、これを倍増するには、相当な規模の財源が必要だ。政府・与党内では、消費税率の引き上げを除いて、社会保険料の上乗せや、歳出の見直し、国債発行などの案が出されているが、方向性すら定まっていない。

岸田政権としては、少子化対策の優先順位とどのような財源を組み合わせるのか決断の時期が迫っている。

 働き手大幅減、経済のかじ取りは

3つ目の経済運営の問題はどうか。政府とともに経済・金融政策のかじ取りに当たる日銀は、10年間続いた黒田総裁から、学者出身の植田総裁に交代したが、これまでの金融緩和策は、当面、継続する方針だ。

一方、物価の高騰は続き、東京23区の4月の消費者物価指数は3.5%上昇し、1976年以来46年ぶりの高い水準が続いている。

今年の春闘は大手企業では30年ぶりの高水準の回答が相次いだが、3月の実質賃金は物価上昇の影響で2.9%の減少、12か月連続のマイナスだ。

こうした中で、4月26日に発表された「将来推計人口」によると日本の総人口は50年後には3割減の8700万人に縮小することが明らかになった。特に15歳から64歳までの生産年齢人口、働き手は3000万人も減少するとの予測だ。

日本の過去の実質成長率は、2000年から2021年までの平均で0.65%。経済の専門家は「政府は実質2%の高い目標を掲げているが、高い目標を掲げることだけでは問題の深刻さを隠蔽することになる」と警告している。

岸田政権は「新しい資本主義」を打ち出したが、政権発足から1年半、何を最重点に取り組むのか、未だにはっきりしない。対する野党は、どのような対案で挑むのか、この国会でも経済論争は未だ深まらないまま、終盤国会を迎えている。

  解散より前にやるべきことがある!

政治の動きに話を戻すと、政府・与党内では岸田内閣の支持率が上昇傾向にあるとして、G7広島サミット終了後、来月の国会会期末に岸田首相は、衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの説を聞く。

この早期解散説の本音は「岸田内閣の支持率はまもなくピークを迎え、下り坂に向かう。野党はバラバラ、体制は整っておらず、今がチャンス」との見方だと思われる。

これを国民の側からみると「国会でろくに議論もしないで、何を基準に選べというのか」と反発する人も多いのではないか。新たな議員を選んだとしても再び同じ議論の繰り返しになりかねない。

先にみてきた3つの論点を思い出してもらうと、答えは自ずと出てくる。「衆院解散・総選挙の前にやるべきことがある」。終盤国会では、主要な論点、選挙の争点にもつながる問題について、まずは、政権が基本方針や構想、実現するための具体策を提示すること。

対する野党側も対案を打ち出すなどして、徹底して議論を尽くすことが基本だとと考える。その上で、首相が総合的に判断して、解散・総選挙で信を問うという次の段階もありうるのではないか。

今の選挙制度に代わって、前の解散から次の解散まで最も短かったのは2003年、小泉首相時代の郵政解散で1年9か月だった。今回、6月解散に踏み切るとさらに短く1年8か月だ。衆院選挙は1回当たり600億円程度の経費がかかる。

経費のレベルの問題ではないが、世界が激しく揺れ動く時代、日本の地位も国際社会で下がり続けている時期に、争点がはっきしない解散・総選挙は御免被りたい。首相、議員の皆さんには「難題解決、将来を切り開いていくための選挙、政治」を行ってもらいたい。日本にはそれほど時間は残されていない。(了)

 

 

 

”早期解散風”の見方・読み方

衆参5つの補欠選挙が終わったのを受けて、政界は大型連休明けからG7広島サミットを経て、6月の通常国会会期末に向けて、与野党の激しい駆け引きが予想される。

最も注目されるのは、国会会期末に野党が岸田政権に対する内閣不信任決議案を提出するか。岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切るかどうかが、最大の焦点になる見通しだ。

岸田政権や自民党内では衆参補選が4勝1敗と勝ち越したことから、会期末に衆議院の解散・総選挙に打って出るべきだという早期解散論が聞かれるほか、野党側にも早期解散を警戒する受け止め方がある。

さて、こうした早期解散論はどんな思惑があるのか、実現可能性はどの程度なのか。大型連休の最中だが、平穏な時期に解散・総選挙のあり方をさまざまな角度から考えてみたい。

 早期解散 争点隠しとの見方も

衆議院の解散・総選挙をめぐっては、先の補欠選挙の結果をどのようにみるかで、考え方に違いがある。自民党は4勝1敗、選挙前より1議席増えたことで、内容はともかく、”勝ちは勝ち”だとして早期解散はありうるとの見方がある。

これに対して、勝ち方の中身をみると和歌山1区で、日本維新の会に議席を奪われたのをはじめ、そのほかの選挙区でも野党側に接戦に持ち込まれ、世論の支持が十分得られていないとして慎重論も聞かれる。

そうした中で、岸田首相はウクライナを電撃訪問したのに続いて、異次元の少子化対策の内容のとりまとめを急いでいる。G7広島サミットを終えて支持率がさらに上がれば、衆院解散・総選挙に踏み切る可能性は大きいとの見方が、政権与党内に根強くあるのも事実だ。

早期解散の理由としては、岸田内閣の支持率が低迷から抜けだし、回復傾向にあること。G7広島サミットの開催でさらに上昇することが期待できるとして、政権に勢いがあるチャンスを生かすべきだという声も聞く。

一方、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策」の財源確保については、社会保険料の引き上げなど国民負担が避けられない。また、防衛増税の実施時期についても年末までには決定する必要がある。

世界経済はアメリカの金利引き上げなどの影響で下り坂に向かう可能性がある。つまり、早期解散論の背景には、岸田政権はこの先、好材料が見当たらないので、支持率が高いうちに解散に打って出るべきだという判断がある。

このほか、野党側は、日本維新の会は躍進したものの、野党第1党の立憲民主党には勢いがなく、野党低迷の時が有利だとの思惑も働いている。

こうした早期解散論を国民は、どうみるか。少子化対策の財源や防衛増税の決定前の選挙が有利だとする姿勢に見えるので、端的に言えば”争点隠し”、党利党略の色彩が濃い解散と批判的に受け止めるのではないかとみている。

   解散の条件、時期をどう考えるか

さて、衆院解散・総選挙は、最終的には岸田首相が判断するので、与野党の攻防や駆け引きによって、今後、どのように展開するかわからない。そこで、解散の条件や時期について、さまざまな角度からさらに分析してみたい。

まず、解散・総選挙の決断に当たっては、勝てる見通しがあるのかどうかが最大のポイントになる。具体的には、自民、公明両党の選挙協力が機能することが不可欠の条件だ。

ところが、公明党は先の統一地方選挙では、目標の全員当選どころか、地方議員の12人が落選した。1998年の公明党再結成以来初めてという激震に見舞われている。地方組織の高齢化や運動量の低下、各候補への票割りの判断ミスなどが指摘されている。

また、「10増10減」に伴い定数が増える首都圏や愛知県で、公明党は候補者を擁立する小選挙区を増やすよう求めているが、自民党は難色を示し、調整が進んでいない。自公の選挙協力体制が機能しないと早期解散は難しいのではないか。

さらに岸田首相の政権戦略とも関係がある。岸田首相にとって、来年9月の自民党の総裁選で再選を果たすことが、大きな目標だ。そのためには、いつ解散に踏み切るのが有利かという問題でもある。

自民党内では、最大派閥の安倍派の後継会長選びの見通しがついておらず、岸田首相の有力な対立候補が見当たらないとの見方が強い。そうすると衆議院で安定多数を確保しているのに、解散を急ぐ必要はないのではないかといった見方も聞かれる。

一方、野党が低迷している状況で、解散に踏み切るのは、政権与党にとって有利であることは事実だ。しかし、選挙は将来展望を語って国民の支持を得るのが基本で、そうした本来の姿から大きく外れる。

国民の見方はどうか。朝日新聞の4月の世論調査をみると◇「できるだけ早く解散すべき」は22%に対し、◇「急ぐ必要はない」が67%と圧倒的多数を占める。

以上、さまざまな要素を総合して考えると、私は早期解散の確率は低いとみる。しかし、岸田首相自身は政権運営は極めて順調で、国民に信を問いたいと考えるかもしれない。岸田首相の意欲の問題と、解散に踏み切る条件は整っているか、2段階でみていく必要があると考える。

 停滞日本の立て直し、終盤国会で論戦を

衆議院の解散・総選挙の是非、あり方はどのように考えたらいいのだろうか。安倍政権当時「不意打ち解散」と呼ばれたように野党の備えがない時をねらって解散を断行、政権与党が勝利したケースも頭に浮かぶ。

解散・総選挙の基本は、政権が取り組むべき課題と対策を明らかにして、野党側と徹底して議論を交わし、国民の判断を仰ぐのが基本だ。国民自身もそのように願っていると思われる。

今の日本が抱える問題、例えば、この20年間の実質経済成長率は0.6%に止まり、賃金も上昇しない状態が続いてきた。科学技術力も論文引用数でみると22年前は世界4位だったのが、今や12位に後退している。生産年齢人口は今後、50年間で約3000万人も減少するとの予測が先日、公表された。

停滞日本をどのように立て直すのか、かねてから政治が問われている大きな課題だ。岸田政権も焦点の異次元の少子化対策の財源をどうするのか、具体策が中々、決まらない。去年決まった防衛増税の実施時期も年末までかかりそうだ。

衆議院議員の任期は、まだ1年半しか経過していない。この1点からして、早期解散にはかなり無理があると感じる。

国民の多くは、早期解散より、停滞が続く日本経済・社会の立て直しにどのように取り組むのか、そのために政治は何をやるのか、政権の明確な方針と与野党の論争を期待している。連休明けの国会では、政争・駆け引きではなく、日本再生に向けて熱のこもった真剣な論戦をみせてもらいたい。(了)

 

岸田自民”薄氷の勝利”衆院解散は?

岸田政権の「中間評価」と位置づけられる衆参5つの補欠選挙は、自民党が4議席を獲得する一方、日本維新の会が1議席を獲得した。野党第1党の立憲民主党は、1議席も獲得することができなかった。

この選挙結果をどのようにみるか。まず、勝敗面を客観的に読むと自民・勝利、維新・躍進、立民・敗北と言っていいだろう。

但し、今後の岸田政権の運営や政局の展開を考えると、勝ち方が問題だ。勝利の中身に踏み込んで評価をすれば、”薄氷の勝利”が実態に近いとみている。

焦点の衆議院の解散・総選挙についても、岸田首相は解散カードを手にしているが、高いリスクを伴っていることも顕在化した。候補者の選び方の問題や、無党派層の支持が得られていないことが浮き彫りになった。

一方、野党側では、維新の躍進によって立憲民主党との間で、野党第1党の座を意識した競い合いが激化する見通しだ。その際、次の衆院選では、野党の共倒れをいかに防いでいくのか、野党の選挙戦略も問われることになる。

なぜ、このような見方・読み方をしているか。また、焦点の衆議院解散・総選挙の時期や条件などについてもみていきたい。

 自民4勝議席獲得も、高揚感なし

今回の補欠選挙をめぐって自民党内では当初、保守地盤の選挙区が多いこともあって、5戦全勝説が聞かれるなど楽観視する空気が強かった。

ところが、選挙が近づくにつれて野党側の追い上げが激しくなり、最終盤には、最悪のケースとして2勝3敗説がささやかれるほどだった。選挙結果は4勝1敗、喜んでいいはずだが、高揚感は感じられない。そこで、各選挙区の勝敗のポイントを絞ってみておきたい。

▲衆議院山口4区については、安倍元首相の後継者として、自民党新人の吉田真次氏が、立憲民主党の元参議院議員、有田芳生氏らに大差をつけて、当選を果たした。安倍昭恵さんが全面的に支援し、事実上の「弔い選挙」が強みを発揮した。

▲山口2区は、父親の後を継いで立候補した自民党の岸信千世氏が初当選したが、無所属新人で、立憲民主党有志の支援を受けた元法相の平岡秀夫氏に5700票差まで追い上げられた。「世襲批判」が強く働いたものとみられている。

両選挙区とも投票率が2年前の衆議院選挙に比べて、山口2区が9.2ポイント下回って42.4%、山口4区が13.9ポイント低い34.7%で、いずれも過去最低を記録した。選挙から距離をとった有権者がかなりの数に上ったことがうかがえる。

▲和歌山1区は、日本維新の会の新人、林佑美氏が和歌山県内の小選挙区で初の議席を獲得した。前半戦の奈良県知事選で勝利した勢いに乗って、党の勢力を集中したことが功を奏した。維新は大阪、兵庫以外で衆院小選挙区の議席を獲得したのも初めてだ。

自民党関係者に聞くと「党の候補者に問題がありすぎた」とのべ、地元選出の二階元幹事長と世耕参院幹事長との確執で、強力な候補者を選べなかったことが敗因との見方を示した。

▲千葉5区については、自民党の新人、英里アルフィヤ氏が4900票余りの僅差で、立憲民主党の新人の矢崎堅太郎氏らを振り切って勝利した。野党の立民、国民、維新、共産の各党がそれぞれ候補者を擁立し、候補者乱立となったことが自民の議席獲得につながった。

▲与野党の一騎打ちとなった参議院大分選挙は、自民党新人の白坂亜紀氏が、立憲民主党の吉田忠智氏をわずか241票差で初当選を決めた。この背景には、大票田の大分市の投票率が33%へ大幅に下がったことがある。市長選が無投票になったためだが、無党派層を多く獲得していた吉田氏には誤算だった。

このように自民党は、選挙前より1議席多い4議席を獲得したが、選挙の中身は野党側との接戦が多く、何とか競り勝ったというのが実態だ。

また、前半戦の奈良県知事選では党の組織が分裂して敗北したのに続いて、和歌山でも候補者選びが難航したあげく議席を失った。岸田首相や茂木幹事長ら党の最高首脳部の統率力に問題があったのではないかと指摘する声もくすぶっている。

さらに、自民支持層と並んで大きな集団である無党派層の支持獲得についても、野党側に大きな差をつけられた選挙区が目立った。次の衆議院選挙では、都市部を中心に議席を失いかねないと危惧する見方も聞く。

このように自民党内は、保守地盤の和歌山で維新の進出を許したのをはじめ、選挙態勢づくりなどをめぐっても問題点が浮き彫りになったことから、議席を増やしたものの、勝利したとの高揚感は乏しい。

   維新躍進、立民と野党第1党争い激化

それでは、野党側の対応はどうか。躍進した維新の馬場代表は記者会見で「和歌山で1議席獲得したことは、関西や全国に党勢を広げていく大きな追い風になる」として、次の衆議院選挙ではすべての小選挙区に候補者を擁立したいという考えを示した。

維新は、今回の統一地方選挙で、地方議員の数を1.5倍の600人に増やす目標を立てたが、非改選を含めて774人となり、目標を達成したことを明らかにした。

また、次の衆議院選挙では野党第1党をめざすとともに今後、3回の衆院選挙で政権交代を実現する構想を打ち出している。

このため、今後、立憲民主党と野党第1党をめぐる競い合いが激化するものとみられる。但し、次の衆議院選挙をめぐって、立憲民主党と維新の両党が互いに候補者を出し合うと、共倒れになる事態も予想される。

維新にとっても、候補者調整などを行わないと小選挙区で多数の議席を獲得するのは難しいとみられる。それだけに競合しながら、野党間の選挙態勢づくりをどうするかの調整が大きな課題になるのではないか。

このほか、立憲民主党は、千葉5区など3つの選挙区に公認候補を擁立したが、議席を確保できなかった。今後、党の態勢の立て直しや、執行部の責任を問う動きが表面化することも予想される。

  衆院解散・総選挙をどうみるか?

統一地方選挙と衆参補選が終わったのを受けて、岸田首相は24日「与党・自民党が重要政策だと掲げたものについて、『しっかりやり抜け』と叱咤激励を受けた」として、来月のG7広島サミットや後半国会での重要法案に全力を挙げる考えを強調した。

政界では、岸田首相が通常国会の会期末に衆議院を解散、総選挙に踏み切るかどうかが最大の焦点になっている。

その時期をめぐっては、早期解散の見方がある。一方で、岸田首相自身は強い意欲を持っていても、実際には条件が整わず、秋以降に持ち越すとの見方がある。

例えば、今回の千葉5区のように野党がバラバラだったり、参院大分選挙区のように野党第1党の力量が弱体化したりして、岸田首相が勝てると判断すれば、早期解散を決断する可能性は大いにあるとみることもできる。

しかし、岸田首相が解散に踏み切る大義名分はあるか。また、政権が最重要課題と位置づける異次元の少子化対策について、財源の具体策を示し国民を説得できるのか。

さらには、統一地方選が終わったばかりで、早期解散に慎重な公明党の理解を得て、与党の選挙態勢を整えることはできるのか、乗り越えるハードルは多いのも事実だ。

私は後者の見方だが、政界は一寸先は闇といわれるのも事実だ。私たち国民の側も早期解散に備えて常在戦場、岸田政権が取り組むべき重要課題は何か考えておく必要がある。

そのうえで、岸田政権や与野党に対して、重要課題にどんな方針と具体策で臨むのか、早期に明らかにするよう求めていく必要があると考える。(了)

補選は大接戦続く「岸田政治」が焦点

統一地方選挙後半戦の23日の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙は、いずれも与野党激突の構図になっており、このうち4つの選挙区では、最終盤に入っても大接戦が続いている。

それぞれ個別の選挙区事情を抱えているが、最終的には有権者が、岸田政権の防衛力抜本強化や異次元の少子化対策などの主要政策をどのように評価するかが、勝敗のカギを握っている。

衆参5つの補選の最終盤の情勢と勝敗のポイント、選挙の争点を探ってみる。

 補選4選挙区 大接戦のまま投票日へ

衆参5つの補欠選挙について、与野党の選挙関係者などについて、選挙情勢を取材した。

結論を先に言えば、衆議院山口4区については、自民党の新人がリードしているが、残りの千葉5区、和歌山1区、山口4区、参議院大分選挙区の4つは、与野党が激しくぶつかり、大接戦のまま投開票日を迎えようとしている。

▲まず、千葉5区は、自民党の衆議院議員が「政治とカネ」の問題で辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の新人で、元千葉県議会議員の矢崎堅太郎氏と、自民党新人で公明党が推薦する元国連職員の英利アルフィヤ氏が激しく競り合っている。

千葉5区は東京に通勤する住民が多い都市型選挙区で、無党派層の動向が勝敗を左右する。「政治とカネの問題」をはじめ、岸田政権が掲げる防衛力増強、異次元の少子化対策などの主要政策にどのような判断を示すかが焦点だ。

一方、野党陣営をみると立憲民主党、日本維新の会、国民民主党、共産党がそれぞれ公認候補を擁立しており、こうした野党乱立が選挙の勝敗にどのように影響するかもポイントになりそうだ。

▲和歌山1区は、自民党の元衆議院議員で、公明党が推薦する元国土交通政務官の門博文氏と、日本維新の会の新人で、元和歌山市議会議員の林佑美氏が激しく戦っている。

今回の補選は、この選挙区で5期連続当選を重ねてきた国民民主党の岸本周平元衆議院議員が知事に転出したのに伴う選挙だ。この選挙区で苦杯を重ねてきた門氏が、保守中道票をどこまでまとめきれるかがポイントだ。

林氏を擁立した維新は、前半戦の奈良県知事選で勝利するなど議席を大幅に増やした勢いを国政につなげていく戦略だ。大阪府の吉村知事や、奈良県の山下知事らを応援に投入、和歌山県で初の衆議院議席の獲得をめざしている。

▲岸信夫元防衛相の辞職に伴う山口2区は、岸氏の長男で、自民党新人の岸信千世氏と、元衆議院議員で民主党政権で法相を務めた無所属の平岡秀夫氏が争っている。

信千世氏は、岸信介元首相のひ孫で、祖父は安倍晋太郎元外相、伯父は安倍晋三元首相の政治一家で育ったことで知られる。分厚い保守地盤に加えて、看板、豊富な資金力を誇るが、「世襲批判」の声も強い。

当初は大差がつくのではないかとの見方もあったが、各種世論調査で平岡氏が激しく追い上げており、「世襲批判」の風がどこまで強まるか注目点だ。

▲安倍元首相の死去に伴う山口4区については、後継として擁立された自民党新人で公明党が推薦する元下関市議会議員の吉田真次氏が、立憲民主党の新人で元参議院議員の有田芳生氏をリードしていると与野党双方ともみている。

▲参議院大分選挙区は、前議員が知事選立候補のため辞職したのに伴う選挙だ。立憲民主党の前議員の吉田忠智氏を、自民党新人で公明党が推薦する飲食店経営の白坂亜紀氏が激しく追い上げている。

吉田氏は、共産党や社民党の推薦を受けており、野党共闘の形を整えて選挙戦に臨んでいる。村山富市元首相の出身県で、野党共闘の歴史を基盤に無党派層でどこまで支持を広げることができるかが課題だ。

白坂氏は東京の銀座などで飲食店を経営しており、公募に応じて立候補した。知名度を上げる一方で、自民党がどこまで組織的なテコ入れをして出遅れを挽回できるかが焦点だ。

このように山口4区を除く4つの選挙区は、いずれも与野党の候補が僅差で激しく競り合っている。選挙前は、自民が3議席、野党が2議席を占めていた。

5つの補選のゆくえは◆自民が競り勝って5戦全勝のケース、◆逆に野党が3勝2敗と勝ち越すケース、◆自民4勝1敗、◆自民3勝2敗の4つのケースが想定される。どのケースで決着がつくのか、今の時点で正確に見通すのは困難だ。

 選挙の争点「岸田政治」をどう評価

それでは、次に補選の争点は何かを考えてみたい。その前に補選の選挙戦に入った15日、岸田首相が選挙応援のため訪れた和歌山市の演説会場に爆発物が投げ入れられて、24歳の男の容疑者が逮捕される事件が起きた。

この事件が補選に影響を及ぼすのかどうかをみておきたい。読売新聞は14日から16日に実施した世論調査で、岸田内閣の支持率が47%へ5ポイント上昇したと報じるとともに、支持率上昇は今回の事件が影響した可能性があるとの見方を示している。

政界でも選挙戦で与党に有利に働くのではないかとの見方がある。但し、読売の調査では、自民党の支持率は上昇せず1ポイント下がっている。

自民党の複数の選挙関係者に聞いてみたが、いずれも「個別の選挙に直接、影響を及ぼすようなことはないのではないか」との見方だった。

その理由としては「有権者は、容疑者の人柄や犯行の動機に関心はあるが、選挙の選択とは分けて考えているのではないか」との見方だった。私も基本的に同じ見方だが、選挙結果が判明した段階で改めて点検してみたい。

さて、選挙の争点は何か。選挙区によって、個別の問題などの違いはあるが、与野党とも今回の補選は、発足からまもなく2年を迎える岸田政権の「中間評価」になると位置づけている。

有権者としても、岸田政権が進めてきた政策の是非を評価、判断する機会になる。具体的には、原油高騰などに伴う物価高対策、賃金の引き上げ、新しい資本主義といった経済政策のかじ取りは適切か。

また、岸田政権が年末に、戦後の安全保障政策の大転換として打ち出した防衛力の抜本強化と防衛増税の是非をどう考えるか。今年に入って重要課題と位置づける異次元の少子化対策の内容と財源確保などへの取り組み姿勢を支持するか。

さらに、岸田首相の政権運営をめぐっては、防衛増税の決定にみられるように与野党や国民の意見を聞いたり、中身を説明したりする姿勢に欠けるのではないかといった声も出されてきた。

有権者は、こうした論点のどれを重視して投票したか、選挙の出口調査などを分析すれば明らかになる。今度の補選は勝敗面だけでなく、有権者が何を重視して選択をするかといった点も注目してみていきたい。岸田政権の政権運営の進め方や評価の物差しになる。(了)

”支持率回復は本物か?”岸田政権

統一地方選挙の前半戦が終わり、各党とも4月23日投開票の後半戦と衆参5つの補欠選挙に向けて、激しい選挙戦に突入している。

永田町では先月下旬以降、春の解散風が吹き始め、一部に岸田首相は通常国会の会期末に早期解散に打って出るのではないかとの観測も聞かれる。

その根拠の1つとして、岸田首相のウクライナ電撃訪問をきっかけに岸田内閣の支持率回復を上げる関係者が多い。

果たして、本当に岸田内閣の支持率は回復しているのかどうか、今週NHKと朝日新聞の世論調査がまとまったので、そのデータを基に分析してみたい。

 上昇から横ばい、電撃訪問効果は限定的

さっそく、岸田内閣の支持率からみていこう。NHK世論調査(7日から9日実施)によると◆支持率は42%で先月の調査から1ポイント増、◆不支持率は35%で、5ポイント減少した。

不支持率が5ポイント減少したが、「わからない」との回答が5ポイント増えているので、支持率が好転したわけではない。

一方、朝日新聞の調査(8日、9日実施)によると◆支持率は38%で先月から2ポイント減、◆不支持率は45%で5ポイント減少した。

2つの調査とも3月と比べて、支持率は1~2ポイントわずかに増えたが、誤差の範囲で、横ばいという点で共通している。

次に、世論は岸田首相のウクライナ電撃訪問をどのように評価しているか。NHKの調査では「評価する」が58%で、「評価しない」の34%を上回った。

朝日の調査は「ロシアによるウクライナ侵攻について、岸田首相の対応を評価するか」と設問の表現は異なるが、「評価する」が47%で、「評価しない」の39%より多かった。

つまり、2つの調査とも「評価する」が上回ったが、岸田内閣の支持率は横ばいのままだ。

岸田首相の電撃訪問は先月21日。2週間後の世論調査では、内閣支持率の押し上げ効果は限定的といえる。外交面で内閣支持率を上げるのは、昔から中々、難しい。

 過去最低の投票率と政治離れの重さ

それでは、国民は衆議院の解散・総選挙をどのようにみているのか。朝日の調査では、「できるだけ早く衆議院を解散して総選挙を実施すべきだと思いますか」と尋ねている。

◆「できるだけ早く実施すべきだ」22%に対し、◆「急ぐ必要はない」67%だった。3人に2人が「急ぐ必要はない」と答えている。

この調査が行われた同じ9日には、9つの道府県知事選挙と41道府県議会の議員選挙などが行われた。平均投票率は、知事選挙が46.78%、道府県議選が41.85%で、いずれも50%にも達せず、戦後最低を更新という惨憺たる状況だ。

つまり、最も身近な選挙ですら、有権者の関心を引きつけることができず、衆参の国政選挙もこの10年、ワースト記録が相次いでいる。

与野党双方とも水面下で、早期解散をめぐる神経戦を繰り広げているが、国民の半数は政治への関心や期待感を失い、投票所にも足を運ばなくなっている状況を深刻に重く受け止め、何らかの対応策を早急に打ち出す必要がある。

 5補選と少子化対策の財源がカギ

そのうえで、衆議院の解散・総選挙の条件や実現可能性を考えると、どういうことになるか。岸田首相が仮に解散に踏み切ろうとする場合、まず、今月23日に投票が行われる衆参5つの補欠選挙を乗り切る必要がある。

自民党閣僚経験者に聞くと「山口の2つは勝てる感触を得ているが、野党乱立で勝てる公算が大きい千葉5区は、地域に浸透できていない。和歌山1区も勢いに乗る維新の勢いを前に苦戦が続いている。参院大分選挙区は、野党共闘の実績のある土地柄で、最も厳しい選挙になっている」と歯切れが悪い。

与野党の関係者の話を総合すると自民候補の5戦全勝もありうるが、3勝2敗、場合によっては、野党が3勝2敗と勝ち越すこともありうる大混戦の状況が続いている。これが、最初のハードルだ。

2つ目のハードルは、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策の財源問題」だ。児童手当の所得制限の撤廃などを実現するためには、数兆円単位の財源が必要だが、そのメドが立っていない。

NHK世論調査で、財源確保の方法を聞いている。◆「(少子化対策以外の)ほかの予算を削る」が最も多く56%、◆「社会保険料負担の見直し」17%、◆「増税」8%、◆「国債の発行」8%となっている。

政府・与党内では、増税は理解が得られないとして、医療費などの社会保険料の上乗せ案が検討されている。これに対して、世論の大半は、予算の組み替えで財源を生み出すべきだとの考え方が主流で、社会保険料の負担増は少数派だ。

仮に政府・与党が社会保険料の負担上乗せ案を打ち出せば、世論の強い反発を受け、内閣支持率を直撃することが予想される。

岸田政権は、防衛増税の実施時期も先送りにしており、6月の骨太方針で、防衛と少子化対策の財源確保について、明確な方針を打ち出し、国民を説得できるかどうかが最大の課題といえる。

3つ目のハードルとして、与党の選挙関係者は「自民支持層のうち、岸田内閣を支持する人の割合が上昇することが必須の条件だ」と指摘する。

自民支持層の岸田内閣の支持率は、4月は60%台後半で、3月とほぼ同じ水準で、こちらも横ばいのまま止まっている。岸田政権の発足当初は、8割から7割台を維持してきた。ところが、去年の秋以降、自民支持層の支持もつるべ落とし、3割台の危機的状況が続いてきた。

ようやく今年に入り、6割に戻し最悪期は脱しつつあるものの、まだ6割台に止まっている。与党の選挙関係者は、せめて7割から8割台に回復しないと安定した選挙戦を展開するのは難しいと判断しているわけだ。

以上、みてきたように衆議院の解散・総選挙の時期やこれからの政局は、岸田政権が当面、3つのハードルを乗り越えられるかどうかが焦点になる。

そして、まずは、今月23日に迫った衆参5つの補欠選挙に向けて、与野党がどんな論戦を戦わせるのか。そして世論が「岸田政権の中間評価」として、どのような判断を示すのか、それによって今年後半の政治が動き出すことになる。(了)

“維新 勢力拡大”政権,政局への影響は?

統一地方選挙の前半戦は9日、全国9つの道府県知事選挙と6つの政令指定都市の市長選挙、それに41道府県議選と17政令指定都市議員選の投開票が行われた。

知事選挙では、大阪維新の会が大阪の府知事と市長のダブル選挙をいずれも制した。保守分裂となった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人が当選するなど維新が勢力を拡大したのが大きな特徴だ。

自民党は、与野党対決の北海道と大分県の知事選挙で推薦候補が勝利したが、大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で維新の攻勢に敗れた。

政党の基礎体力を示す道府県議選の結果と合わせて、前半戦の選挙結果をどのようにみるか。政権や政局にどんな影響を及ぼすのか、後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえを含めて、分析してみる。

 維新は拡大戦略奏功、自民は奈良で敗北

まず、統一地方選挙前半戦の最も大きな特徴は、▲全国政党の日本維新の会が、地域政党の大阪維新の会を含めて、勢力を拡大したことだ。

大阪府知事と大阪市長のダブル選挙のうち、知事選では現職の吉村洋文氏が2回目の当選、市長選では元府議の横山英幸氏が初めての当選を果たした。統一地方選では2回連続、それ以前を含めると4回連続で維新が勝利した。

保守分裂選挙になった奈良県知事選挙でも、日本維新の会の新人で元生駒市長の山下真氏が初めての当選を果たした。大阪府以外で、初めて維新公認の知事が誕生したことになる。

41道府県議選でも維新は、18の道府県で合わせて124議席を獲得、選挙前の59議席から倍以上に増やした。大阪府議会では9議席増の55議席を獲得して過半数を維持したのをはじめ、兵庫県では選挙前の4議席から21議席へ議席を増やしたほか、神奈川では6議席、北海道や福岡県などでも初の議席を獲得した。

維新関係者に聞くと「今度の統一地方選挙では、現有の地方議員400人を1.5倍の600人に増やす目標を立て、徹底した候補者の発掘と擁立の準備を重ねてきた」と話しており、こうした党勢拡大の戦略が功を奏した形になっている。

▲これに対して、政権与党の自民党はどうか。与野党対決型の北海道では、再選をめざす鈴木直道氏を公明党とともに推薦して、立憲民主党の元衆議院議員の候補に圧勝した。大分県知事選挙でも元大分市長の佐藤樹一郎氏を推薦して、共産・社民両党の県組織が支援する前参議院議員の候補者に勝利した。

一方、奈良県知事選挙は、県連会長を務める高市経済安全保障担当相が主導して、総務大臣当時の秘書官を擁立したが、現職が反発して分裂選挙に突入した。

結果は、維新候補が漁夫の利を得る形で当選した。保守王国とされてきた奈良県で維新公認の知事が誕生したことは、今後の国政選挙などで影響が出るのは避けられない。

高市担当相の責任が極めて大きいと批判する声が出ている。一方、自民党は各地の選挙で分裂選挙となるケースが目立っており、党執行部の調整不足に問題があるとの指摘も強い。いずれにしても、この問題は尾を引くことになりそうだ。

一方、41道府県議選について、自民党は合わせて1153人が当選し、総定数2260に占める割合は51%に達した。安倍政権時代の2015年と2019年に続いて、3回連続で過半数を維持したことになる。

議員数は前回・選挙時の1158人とほぼ同じだが、選挙前と比べると86人減らしている。但し、総定数の過半数は維持しているので、岸田政権に代わっても地方組織の力量に大きな変化は現れていないとみられている。

問題は、奈良県知事選挙にみられるように候補者擁立をめぐって地方組織の意見が対立した場合、地方任せで党の執行部が組織全体をまとめ上げる力が弱体化していることを懸念する声は強い。

このほかの各党をみておくと▲立憲民主党は、北海道知事選挙で大敗したほか、各地の知事選では与野党相乗り型が目立ち、野党第1党として与党と対決していく構図を作り上げることができなかった。

一方、道府県議選では185議席を獲得し、選挙前から7議席増やした。今後、野党内で、維新との間で主導権をめぐる確執が強まることが予想される。

▲公明党は道府県議選では169人が当選したが、愛知県で1人が落選し、170人の全員当選は果たせなかった。今後、関西地域で、維新との関係が焦点になる。

▲共産党は75議席で、選挙前から24議席減らした。▲国民民主党は、選挙前と同じ31議席を維持した。

 衆参補選は混戦、政権・政局へ影響も

それでは、今回の選挙結果が岸田政権へ及ぼす影響はどうだろうか。自民党の長老に聞いてみると「道府県議選では、過半数を維持できたので、岸田政権や当面の政局に大きな影響はない。問題は、衆参の補欠選挙のゆくえだ」と語る。

次に、維新がめざしている「大阪の政党から、全国政党をめざす目標」をどのようにみるか。大阪のダブル選挙と奈良県知事選挙で勝利したのをはじめ、大阪府議会に続いて大阪市議会でも初めて過半数を確保、兵庫県議会でも大幅に増やしていることなどから「近畿の政党」へ拡大しているようにみえる。

一方、地盤の近畿以外の関東や愛知など地域では、議員の獲得数はまだ少ない。「全国政党化」の展望が開けたという段階までには至っておらず、足場を築きつつあるというのが、現状ではないか。

政界関係者の中には、今後の維新の存在感が高まれば、政界入りを目指す人材の中には、維新入りをめざす人が増えるなど求心力が増すことも予想されるとの見方もある。

今後の焦点は、統一地方選挙の後半と同じ投票日になる衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。衆議院の千葉5区と和歌山1区、山口2区と4区の補欠選挙が11日告示される。既に6日に告示された参議院大分選挙区と合わせて、投票日は統一地方選の後半戦と同じ23日になる。

与野党の関係者の見方を総合すると、山口4区と2区は安倍元首相と岸元防衛相の選挙区で、勝敗面では自民が獲得する可能性が大きいとの見方が多い。

そのほかの3つの選挙区は、混戦、激戦になるのではないか。衆議院千葉5区は、政治とカネの問題で自民党の衆議院議員が辞職したのに伴う選挙だ。自民と、立民、維新、共産、国民などの各党がそれぞれ候補者を擁立するが、いずれも新人で、混戦になる見通しだ。

和歌山1区は、国民民主党議員が県知事戦に転出したのに伴う選挙だ。自民党はこれまで挑戦を続けてきた元衆議院議員を擁立したのに対し、維新は前和歌山市議の女性を擁立し、奈良県知事選の勝利をはずみに総力を上げる構えだ。共産党も候補者を擁立する。

さらに参議院大分選挙区は、野党系無所属議員が県知事選に立候補したのに伴う選挙だ。自民党は公募で飲食店の経営の女性候補を擁立したのに対し、立憲民主党は、前参議院議員を擁立し野党の共闘体制で戦う構えだ。

こうした選挙区の勝敗がどうなるかによって、与党側の5選全勝説から、4勝1敗説、3勝2敗説、逆に野党の3勝2敗説などさまざまなケースが予想される。

この勝敗によって、岸田政権の今後の政権運営や、衆議院の解散・総選挙の時期にも影響を及ぼすことになる。どのケースで決着がつくか、選挙情勢をみていく必要がある。(了)

 

 

 

 

“自民 過半数が焦点”41道府県議選

統一地方選挙の前半戦は、41道府県議選と17の政令指定都市の市議選が31日に告示され、4月9日の投開票日に向けて、選挙戦が一段と熱を帯びてきた。

このうち、41道府県議選は、過去2番目に少ない3139人が立候補し、激しい選挙戦を繰り広げている。

地方議員は、国政選挙では選挙運動の中核になるだけに、各党とも党勢の拡大に力を入れている。自民党が総定数の過半数を獲得できるのか、それとも野党側が阻止できるかどうか、統一地方選前半の大きな焦点になっている。

自民党内では岸田政権の支持率が回復し始めたとして、早期解散論が出始めており、選挙結果は、5月のG7広島サミット後の解散の行方にも影響を与える。道府県議選を中心に各党の取り組みや選挙の焦点をみておきたい。

 自民3回連続過半数なるか、道府県議選

41道府県議選は総定数2260に対し、立候補者は過去最低だった前回から77人増えて3062人、過去2番目に少ない人数になった。

▲自民党は、今回、全体の4割にあたる1306人と最も多い候補者を擁立した。これまでの選挙を振り返ると自民党は、安倍政権時代の2015年の道府県議選で総定数の50.5%の議席を確保し、24年ぶりに過半数を獲得した。

続いて、前回2019年も50.9%の議席を確保した。今回、過半数を獲得すれば、3回連続で過半数を獲得することになる。

自民党をめぐっては、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに旧統一教会と国会議員や地方議員の関係が明らかになり、党本部は地方組織に対して、教団や関連団体との「関係を絶つ」ことを求めている。こうした対応が、今回の選挙戦にどのような影響を及ぼすか、注目点の1つだ。

また、今回は岸田政権に代わって最初の統一地方選挙で、岸田政権が打ち出した防衛力の抜本強化と財源確保のための増税の方針、異次元の少子化対策などがどのような評価を受けるかも注目される。

▲次に、与党の公明党は、道府県議選に前回並みの170人を擁立したのをはじめ、統一地方選で合わせて1555人の候補者を立て、全員当選をめざしている。

前回は、道府県議では全員当選を果たしたが、政令市議選で2議席を失った。今回は、多数の候補者を擁立した維新と激しく競り合う関西での戦いがカギになりそうだ。

 立民は上積み、維新は大幅増をめざす

野党の陣営をみてみると▲立憲民主党は、道府県議選では前回より69人多い246人を擁立し、上積みをめざしている。前回2019年は初めての統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。

しかし、21年衆院選、22年参院選でいずれも敗北が続いており、今回は党勢の低迷から脱却できるかどうか試されている。

▲日本維新の会は、これまでの関西地域を拠点にした政党から脱却し「全国政党」をめざしている。このため、今回の道府県議選では、前回の立候補者83人から、2.5倍にあたる211人を立候補させている。

また、統一地方選全体を通じて、現在400人の地方議員を1.5倍の600人以上に増やすことを目標に掲げている。馬場代表は達成できない場合、代表を退くと明言しており、こうした積極的な戦略が功を奏するかどうか、関心を集めている。

▲共産党は、道府県議選では立候補者数を前回の243人から、188人へ絞り込んだ。共産党をめぐっては、すべての党員による「党首選挙」を求める本を出版した党員が除名される問題が起きており、こうした動きが選挙結果にどのように影響するかも注目される。

▲国民民主党は、道府県議選では46人の候補者を擁立しており、国民民主党系の無所属を含めて改選議席数の倍増、およそ300人の当選をめざしている。

▲このほか、れいわ新選組、社民、政治家女子48、参政の各党も支持拡大をめざしている。

 統一地方選と5補選、解散への影響も

9日に投票が迫った統一地方選挙の前半戦では、9つの道府県知事選挙の戦いが行われる。このうち、与野党の全面対決型は北海道だけで、与党と野党系無所属の戦いとなっているのが大分で、いずれも激しい戦いが続いている。

奈良と徳島は保守分裂選挙となっている。このうち、奈良では、保守系の現職と新人、それに維新の候補との間で、三つ巴の激戦が続いている。

大阪は府知事と市長とのダブル選挙で、維新と非維新の勢力がぶつかる構図だ。

今後の政局へ及ぼす影響という面では、41道府県議選の結果を最も注目してみている。次の衆院解散・総選挙を考えると、道府県議は地域の選挙運動の中心的役割を果たし、各党の党勢のバロメーターになるからだ。

その道府県議選は、冒頭みたように自民党が総定数の過半数を3回連続して維持できるのか。それとも野党側がこれを阻止できるのかどうかが、最大の焦点だ。

もう1つの焦点は、23日の後半戦の投票日に合わせて行われる衆参5つの補選がどうなるかだ。自民党が議席を獲得していたのが、千葉5区と、山口2区と4区の3つに対し、和歌山1区は国民民主党、参院大分選挙区は、野党各党が統一候補として擁立した無所属議員が議席を獲得していた選挙区だ。

自民党内では勝敗ラインとして、自民党が獲得してきた議席を念頭に「3勝2敗」とする考え方のほか、岸田首相が衆院解散・総選挙に向けて主導権を発揮するためには「5戦全勝」が必要だとする見方が出ている。

岸田政権は、日韓首脳会談や岸田首相のウクライナへの電撃訪問をきっかけに、報道各社の世論調査で内閣支持率の回復傾向が出ている。

統一地方選挙と5つの補欠選挙で、岸田政権が支持率回復の流れを加速することになるのか、それとも世論の厳しい評価を受けて再び低迷することになるのか、分かれ道にさしかかっている。

 選挙離れ社会が進行中、歯止めかかるか

さらに統一地方選挙で気になるのは、投票率がどうなるかだ。41道府県議の平均投票率は、前回2019年は44.02%で、過去最低を記録した。

1995年以降は50%台で推移していたが、2011年に48.15%を記録し、初めて5割を下回った。それ以降、最低水準を更新し続けている。

統一地方選挙の投票率は、これまでも長期低落傾向を続けてきたが、前回は道府県の知事選挙、道府県議の選挙、市区町村長の選挙、市区町村議の選挙の投票率は平均するといずれも、初めて5割を割り込んだ。

最も身近な統一地方選挙で、2人に1人しか投票所に足を運んでいない「選挙離れ社会」が進行中だ。これに歯止めをかけられるのかどうか、この点も今度の統一地方選挙で問われる。(了)

反転攻勢なるか? 岸田政権

今年の春は、新型コロナ感染がようやく4年ぶりに収まり、マスク着用は個人の判断となったほか、WBCで日本代表が世界一を奪還、岸田首相はウクライナを電撃訪問するなど激しい動きが続いている。

4年に一度の統一地方選挙も知事や政令指定都市の市長選挙が始まり、前半戦の投票が来月9日、後半戦の投票が来月23日に行われる。

報道各社の世論調査によると岸田内閣の支持率は、ようやく下げ止まり傾向が出てきたが、果たして反転攻勢へとなるのかどうか?岸田首相の政権運営や、これからの政局では何がカギになるのか、探ってみたい。

 ウクライナ電撃訪問の意味と効果は

3月の政治・外交の動きの中で、政界に最も大きな驚きを与えたのは、岸田首相のウクライナへの電撃訪問だ。

昨年からの懸案で、今月19日からのインド訪問直後にそのままウクライナを訪問するのではないかとの見方も一部にあったが、月末の予算案成立後になるのではないかとの見方が政界では強かった。

インドで首脳会談を終えた岸田首相は20日夜、チャーターした民間ジェット機で極秘裏に出発、同行記者団は何も知らされないまま置き去りになった。政界関係者の一人は「同行記者の恨みを買い、しこりを残すだろう」と語る。

さて、今回の訪問をどのようにみるか。与野党の中からは、岸田首相はG7のメンバー国で唯一、ウクライナを訪問していない首脳という点を気にして、無理に訪問する必要はないといった意見も聞かれた。

しかし、ロシアによるウクライナ侵攻は、国連の常任理事国の大国が隣国に軍事侵略する、いわば百年に一度あるかどうかの蛮行だ。

「G7議長国として、何としても5月のG7広島サミットまでに訪問したい」という岸田首相の強い思いは理解できる。

また、ロシアの軍事侵略が成功すれば、今度はアジアでも同じような侵攻が起きる恐れがある。日本自体の国益の観点からも、ウクライナ情勢に真正面から向き合う必要がある。

さらに、今回は中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領との首脳会談の日と重なった。軍事大国同士の両首脳が力を誇示したのに対して、岸田首相はゼレンスキー大統領と会談して支援と連帯を伝え、世界平和の回復をめざす別の選択肢を国際社会に示すことができた。

問題はこれからだ。欧米諸国の中には一部に「支援疲れ」も伝えられる中で、日本はG7議長国として、ウクライナ支援や対ロ制裁措置の継続などで全体をまとめていけるかどうか。

また、日本自身もウクライナ支援をどのような形で行っていくか。欧米は軍事支援に重点を置いているが、日本はG7との横並びを意識するよりも、人道的な支援やインフラ復興など日本にふさわしい支援を考えた方がいいのではないか。

このほか、3月は16日に韓国のユン大統領が来日し、日韓首脳会談が行われた。懸案の「徴用」をめぐる韓国政府の解決案を日本側が評価し、両国首脳が「シャトル外交」を再開することなどで一致した。

そこで、気になるのは、こうした外交活動が岸田政権の評価につながるのかどうかだ。岸田首相のウクライナ訪問は、WBCの日本代表が準決勝でメキシコに逆転勝利、決勝でアメリカを破って世界一を奪還した戦いと重なった。

大谷、ダルビッシュ、村上各選手の活躍に沸き、テレビは高い視聴率を記録、新聞も一面で大きく扱い、電撃訪問の方は霞んでしまった印象だ。政権の評価にマイナスの影響はないとみるが、直ちに内閣支持率上昇といった効果が表れるようには思えない。

 予算審議は順調、支持率は下げ止まり

内政面では、新年度予算案の審議が参議院予算委員会で続いている。審議の中で野党側は、安倍政権時代、放送法の政治的中立の解釈をめぐって、当時の礒崎首相補佐官が新たな解釈を行うよう総務省に働きかけていたことを示す行政文書を明らかにした。

この行政文書について、当時の総務相だった高市経済安保担当相は「捏造」と否定し、辞職を求める野党側と応酬が続いている。一方、予算審議は与党ペースで進んでおり、新年度予算案は28日にも成立する見通しだ。

報道各社の3月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、横ばいか、わずかながら上昇する結果になっている。内閣支持率と不支持率は、NHKが41%-40%、読売が42%-43%、朝日が40%-50%となっている。

支持率は前月に比べて、NHKで5ポイント、読売で1ポイント、朝日で5ポイントそれぞれ上昇し、下げ止まりの傾向が表れている。但し、不支持率は40%から50%と高い水準にあり、支持率低迷状態から脱するまでには至っていない。

支持率の下げ止まりの原因は、去年秋のような閣僚の相次ぐ辞任などが避けられ、予算審議が順調に進んでいることが挙げられる。一方、支持する理由としては「他の内閣より良さそうだから」が最も多く、消極的な支持に止まっている。

 反転攻勢、少子化対策と選挙がカギ

それでは、岸田政権は今後、攻勢へ転じることができるのかどうか?

これまで外交面で成果を上げ、内閣支持率が上昇するケースは希で、やはり内政の取り組みが影響することが多かった。今回の場合は、政府が今月末にまとめる「少子化対策」の評価がカギを握るとみている。

岸田首相は「異次元の少子化対策」を政権の最重要課題に位置づけ、今月末にまとめるたたき台には、児童手当の所得制限の撤廃や、対象年齢の18歳までの引き上げなど大胆な対策を盛り込む方向で調整を続けている。

岸田政権の少子化対策について、NHK世論調査でみると「期待しない」が56%と多く、「期待している」39%を上回る。特に18歳から30代までの若い世代で「期待しない」が66%と多いほか、無党派層でも7割近くが「期待しない」と答えている。

こうした背景には、岸田政権は1月に子育て政策重視の方針を打ち出したが、具体策が中々、決まらない。加えて、財源をどうするかも先送りしていることから、対策の実現はかなり先になると、政府に対する不信感を読み取ることができる。

岸田首相は少子化対策のたたき台がまとまると、今度は首相官邸が財源の調整を行ったうえで、全体をとりまとめ、6月の骨太方針で正式に決定する見通しだ。

このような政府の手順を考えると対応が遅すぎて、今月末に少子化対策のたたき台がまとまったとしても、国民の支持が広がり、政権が力強さを増すといった事態は想定しにくい。

もう1つのカギは、統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙のゆくえだ。政党の勝敗のメルクマールとしては、前半戦の41道府県議の選挙がある。自民党は、全体の議席占有率50%以上を確保できるかどうかが判断基準になる。

安倍政権時代の前回は50.9%、前々回は50.5%で2回連続で維持してきた。岸田政権に代わった今回はどうなるか、地方組織の足腰の強さの評価にもなる。

統一地方選挙後半の投票日と一緒に行われる衆参5つの補欠選挙のゆくえも大きな焦点だ。自民党が議席を確保していた選挙区は、千葉5区と山口2区と4区。

和歌山1区は、国民民主党に所属していた議員、参院大分選挙区は、無所属で野党共闘で当選した議員がそれぞれ知事選挙に転出することに伴って行われる選挙だ。

自民党の勝敗ラインとしては、保有していた議席を基準に考えると「3勝2敗」とする見方もあるが、今後、衆議院の解散・総選挙に向けて主導権を確保するためには「5戦全勝」が必要だとする見方もある。

以上、みてきたように内外ともに激しい動きが続く中で、岸田政権は政権浮揚へ反転攻勢となるのか。それとも低空飛行状態が続くことになるのか。その岐路は、月末の少子化対策に対する世論の評価と、来月の統一地方選挙と補欠選挙の結果がカギを握っている。(了)

 

 

 

”支持率改善も 看板政策は低評価” 岸田政権

通常国会は、焦点の新年度予算案の審議が大詰めの段階を迎えており、今月末に参議院で採決が行われ、与党の賛成多数で成立する見通しだ。

一方、統一地方選挙も今月23日、全国9道府県知事選挙が告示され、来月9日の投開票に向けて選挙戦がスタートする。こうした中で、NHKと共同通信がそれぞれ実施した3月の世論調査の結果がまとまった。(NHK10~12日、共同通信11~13日実施)

統一地方選挙突入前の政治情勢と、岸田政権や与野党の国会審議などを世論はどのように評価しているのか、分析する。

 内閣支持率、7か月ぶり不支持を上回る

まず、岸田内閣の支持率からみていくとNHKの世論調査では◆支持率が先月より5ポイント上がって41%に対し、◆不支持率は1ポイント下がって40%となった。

岸田内閣の支持率がわずかながらも不支持率を上回ったのは、去年8月以来7か月ぶりだ。(去年8月は支持率46%、不支持率28%」)但し、今月の支持と不支持の差はわずか1ポイントなので、五分と五分、拮抗とみた方がよさそうだ。

共同通信の世論調査では◆支持率は、4.5ポイント上がって38.1%、◆不支持率は、4.2ポイント下がって43.5%だった。支持率は改善しているが、不支持率が支持率を上回る状態が続いている。

NHKと共同通信の調査ともに岸田内閣の支持率が改善しているのは、なぜか。NHKの調査でみてみると、一つは、政府の賃金引き上げの取り組みをどのようにみるか。「評価する」が50%で、「評価しない」の43%を上回った。

もう一つは外交問題で、太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題をめぐり、韓国政府が解決策を発表した。日本政府も評価し、16日にユン大統領が来日して、日韓首脳会談が行われる。

この問題について「評価する」は53%に上り、「評価しない」の34%を大きく上回った。北朝鮮に対して、日韓両国の安全保障面の連携強化を評価する人が多いことが読み取れる。

また、自民支持層では、岸田内閣を支持していた割合は6割程度に止まっていたが、今月は69%まで上昇し支持率回復につながった。

このほか、国会論戦では、同性婚をめぐる発言で首相秘書官が更迭される問題が起きたものの、野党側が攻め手を欠き、与党ペースの国会運営が続いていることも影響しているとみられる。

 岸田政権の看板政策、評価しないが多数

このように岸田内閣の支持率は、改善している。但し、内容面をみていくと、岸田政権が重視している政策、看板政策については「評価しない」「不十分」などと厳しい見方が多い。

▲岸田首相が戦後の安全保障政策の大転換と位置づける防衛費の増額について、政府の説明をどのように評価しているか。「十分だ」は16%に止まり、「不十分だ」が66%、3人に2人の割合にも達している。

▲岸田首相が子ども予算の倍増を掲げる政府の少子化対策については、「期待している」は39%に対し、「期待していない」が56%と多数を占める。年代別では、18歳から30代までの若い年代では「期待しない」が66%にも達している。

▲さらに原子力発電を最大限活用するため、政府が最長60年とされている原発の運転期間を延長する法案を閣議決定した問題。「賛成」は37%に対し、「反対」は42%で上回っている。

このように岸田政権が打ち出した看板政策は、いずれも世論の支持を得られていない。

こうした背景には、岸田政権の国会対応に大きな問題があるのではないか。防衛費増額にみられるように従来の政府方針の繰り返しがほとんどで、防衛力整備の必要性や中身に踏み込んで国民に説明、説得しようとする姿勢や熱意が欠けている点に問題がある。

 放送法の問題、事実の解明と政府見解を

このほか、参議院の審議では、安倍政権当時、特定の民放番組の内容を問題視した首相補佐官が、放送法が定める政治的公平性をめぐり解釈の再検討を総務省に求めたとする文書が明らかになった。

共同通信の世論調査で、この行為は政権による「報道の自由」への介入と思うかどうかを尋ねている。◆「介入だと思う」が65%、◆「思わない」が25%だった。

また、当時の総務相だった高市早苗氏(現在、経済安全保障担当相)が、総務省が自らに説明を行ったとする文書を「捏造」(ねつぞう)と主張していることについて「納得できる」は17%で、「納得できない」が73%だった。

放送法3条では「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、規律されることがない」と規定されている。首相補佐官や、首相といえども介入はありえないわけで、国民の多くは法律の本質を理解していることがうかがえる。

この問題は、安倍政権時代の首相補佐官と総務省、安倍元首相の意見調整ルート。また、もう一つのルート、総務省と当時の高市総務相への説明があったのかどうか。さらにこの2つのルートに関係があったのかどうか、事実関係を明らかにする必要がある。

その上で、岸田政権が、事実関係を整理したうえで、放送法の解釈について政府の見解を示すことが必要だと考える。

 統一地方選と5補選、無党派がカギ

以上みてきたように岸田内閣の支持率の改善はみられるものの、主要政策について、世論の支持を得ているとは言えない。今月末の子ども政策のとりまとめ方によっては、支持率が再び落ち込むことも予想され、不安定な状態にある。

一方、野党側も国会で思うような攻めの論戦を展開できていない。政党支持率では、自民党に大きな差をつけられたままで、党勢拡大の展望は開けていない。

このように政権与党と、野党側ともに弱点を抱えたまま、来月の統一地方選挙と衆参5つの補欠選挙に臨むことなる。

統一地方選挙はそれぞれの地域の選挙が中心だが、全国規模の選挙になるので、有権者の立場からすると政党の主張や主要政策は、選挙に当たって有力な判断材料になる。

それだけに各党とも地域の課題と、当面の政治課題についての考え方や構想を明確に打ち出してもらいたい。

NHK世論調査の政党支持率で、”第1党”は「支持する政党がない」無党派で、38.5%を占める。この無党派層のどの程度が投票所に足を運ぶか、どの政党が最も多く獲得できるかが、選挙のゆくえを左右することになる。(了)

 

 

 

統一地方選、衆参5補選の注目点

4年に一度の統一地方選挙前半戦の投開票まで今月10日で、1か月を切った。選挙日程は、今月23日に9つの道府県知事の選挙が告示されてスタートする。

続いて、41都道府県議会議員の選挙、6つの政令指定都市の市長と17の政令市の議員選挙が相次いで告示され、来月9日に前半戦の投開票が行われる。

後半戦の投開票日は来月23日で、東京の特別区と、全国の市町村の長と議員、合わせて907の選挙の投開票が実施される。また、後半戦の投開票日と合わせて、衆参5つの補欠選挙の投開票も行われる予定だ。

統一地方選挙は最も身近な自治体の長と議員を選ぶ選挙で、それぞれの地域が抱える課題が争点になる。

一方、統一地方選挙は全国規模の選挙なので、選挙結果は国政にも影響を及ぼす。また、今の衆議院議員の任期は再来年の10月なので、衆議院の解散が行われなければ、再来年夏の参議院選挙まで、まとまった国政選挙がないことになる。

そこで、今回の統一地方選挙は国政との関係で、どんな影響や意味合いを持つのか考えてみたい。

 知事選、与野党全面対決、保守分裂型

まず、統一地方選挙で最も注目されるのは、知事選挙だ。今回は、北海道、神奈川、福井、奈良、大阪、鳥取、島根、徳島、大分の9道府県の知事選挙が予定されている。前回4年前から、三重と福岡が知事交代にともなって減っている。

◆与野党の全面対決型となるのは北海道で、自民・公明両党が推薦する現職と、立憲民主党が推薦する元衆議院議員の対決となる。

◆大阪は、府知事選挙と市長選挙とのダブル選挙になる。維新は、府知事は現職、市長選は新人を擁立し、非維新の候補との戦いになる。

◆保守分裂となるのが奈良県と徳島県だ。このうち、奈良県は、保守が分裂し、自民党県連が推薦する新人と現職、それに関西に影響力を持つ維新が擁立する元市長の3つ巴の戦いになる見通しだ。

◆徳島県については、自民党の前参議院議員と、前衆議院議員、それに現職がそれぞれ立候補する意向を表明して、異例の保守3分裂の様相だ。

◆大分県は、現職の知事が引退し、自民・公明両党が推薦する前の大分市長と、野党系無所属の参議院議員が議員を辞職して立候補する見通しだ。(この参院議員は9日辞職願を提出、10日の参院本会議で認められた)

このように知事選挙については、与野党の全面対決型の選挙は少なくなってきている。

 自民議席占有率 5割確保できるか?

私が最も注目しているのは、41道府県議会議員選挙の各党の獲得議席数だ。各党の党勢を現すメルクマールになる。

◆自民党は、前回1158議席を獲得、全体の議席に占める議席占有率は50.9%に達した。前々回は50.5%で、2回連続して過半数を獲得した。いずれも安倍政権時代だが、岸田政権に代わり、この流れを維持できるかどうかが大きな焦点だ。

◆公明党は、市区町村議員選挙を含め、統一地方選で擁立する1500人の候補者全員の当選をめざしている。前回、道府県議選の166人は全員当選したが、政令市議選で2議席を失った。

◆野党側のうち、立憲民主党は、具体的な数値目標を示していない。前回19年は初の統一地方選への挑戦で、118人が当選し勢力を伸ばした。21年衆院選、22年参院選では敗北したが、今回はどうなるか。

◆日本維新の会は、現在400人の地方議員の数を1.5倍の600人以上に増やす目標を掲げている。800人程度の候補者を擁立し、目標の達成は可能だとしている。

◆国民民主党は、倍増となるおよそ400人の当選をめざしている。

◆共産党は、前回獲得した1200人を確保した上で、上積みをめざしている。

岸田政権は、この統一地方選挙を勝ち抜き、5月のG7広島サミットにつなげて政権の浮揚につなげていきたい考えだ。

一方、旧統一教会との関係や防衛増税の影響が選挙に影響を及ぼすのではないかと危惧する声もある。さらには、地域によっては世代交代の影響が現れるのではないかとの見方もある。

自民党の閣僚経験者に聞くと「道府県議会議員が減ったりすると、国会議員にとっては次の選挙に影響が出てくる。岸田首相では戦えないといった声が出てくる可能性もあり、要警戒だ」と指摘する。

安倍政権当時「自民1強」を地方で支えた地方組織が、今後も安定して継続するのかどうか、自民党の議席占有率をみていく必要がある。

 衆参補選、千葉5、和歌山1、大分が焦点

後半戦の4月23日投開票に合わせて、衆参5つの補欠選挙が行われる見通しだ。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区でも補欠選挙が行われる見通しだ。

◆千葉5区は、政治とカネの問題で自民党議員が辞職したことに伴い行われる。東京通勤圏の都市部の選挙区で、一定の野党支持層のある選挙区だが、立民、維新、国民の各党が候補者を擁立する見通しだ。

これに対し、自民党は新人の候補者を決定しており、自民党関係者は「野党候補が乱立すれば、議席獲得はありうる」との見方を示す。

◆和歌山1区は、これまで国民民主党所属の議員が議席を維持してきたが、県知事に転出したのに伴う選挙だ。自民党の二階元幹事長と世耕参議院幹事長の両陣営の間で人選が難航した末、元衆議院議員の擁立で決着した。

これに対し、関西圏に影響力を持つ維新は、前和歌山市議の女性候補を擁立した。維新幹部によると自民党内の足並みに乱れが出てくれば、勝機はあるとして、後半戦の重点区として戦う構えだ。

◆山口4区は安倍元首相の死去、山口2区は実弟の岸信夫前防衛相の辞職に伴う「ダブル補選」だ。野党側は、山口4区に元参議院議員を擁立するほか、山口2区も候補者の擁立を検討している。

◆参議院大分選挙区は、野党系無所属の参議院議員が県知事選に立候補するのを受けて行われる。辞職は10日に決まる見通しで、与野党ともに候補者の選考作業を急いでいる。

このように5つの補選の候補者や野党間の選挙協力などの構図が最終的に決まっていないが、自民党としては、5戦全勝をめざす方針だ。

これに対して、野党側は、これまで野党や無所属議員が確保していた議席は維持したいとして、野党間の協力を進めたい考えだ。

ここまでみてきたように9つの知事選挙と、41道府県の県議選、それに5つの補欠決戦がどのような結果になるのか。通常国会後半の国会運営をはじめ、岸田首相の衆院解散・総選挙戦略などにも影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

★追記11日。大分県知事選挙への立候補を表明した安達澄参議院議員の辞職が、10日の参議院本会議で認められた。これによって、参議院大分選挙区では補欠選挙が行われる。衆参の補欠選挙は、この大分選挙区を含めて5つの選挙となる。

予算衆院通過、国会論戦は”超低調”

新年度予算案は28日、衆議院本会議で採決が行われ、与党の賛成多数で可決されて参議院に送られた。これによって憲法の規定で、年度内の成立が確実になった。

新年度予算案は、防衛費の大幅な増額などで規模が膨らみ、総額が過去最大の114兆円に上った。岸田政権の防衛政策の転換と防衛増税、物価高騰や経済政策などをめぐって審議の難航も予想されたが、与党ペースで予算審議は進んだ。

国会審議が与党、野党どちらのペースで進もうと国民に直接大きな影響はないのだが、今年の予算審議くらい焦点が定まらず、低調な論戦は珍しいのではないかと思う。

これからの政治や国会のあり方にも関係してくるので、今年の予算審議の特徴と課題、問題点などを整理しておきたい。

 野党の追及不足、首相は防戦に終始

今年の予算審議の特徴は、27日に行われた最後の集中審議に凝縮されていたのではないかと思う。立憲民主党の長妻政調会長は、岸田首相が打ち出している子ども予算の倍増について「国内総生産比で倍にするのか、絶対額を倍にするのか」と迫った。

これに対し、岸田首相は「数字ありきではない。子ども・子育て予算は何かということが整理されてベースが決まる。中身を決めずして、最初からGDP比いくらかだかとかではない」とかわすのに懸命だった。

防衛問題でも「反撃能力」(旧「敵基地攻撃能力」)に使うことを想定して、アメリカから購入する巡航ミサイル「トマホーク」の購入数が問題になっていた。岸田首相は、400発を購入することを明らかにした。予算審議の冒頭から質問が出ていたが、論戦最終日にようやくデータを公表したことになる。

政府、野党の論点がかみ合わないほか、防衛問題では、防衛力整備の中身に迫る議論にはほど遠い状態であることが浮き彫りになった。

今年の予算審議は、多くの難問が山積み状態だった。岸田政権が年末に決定した防衛力抜本強化と防衛増税をはじめ、物価高と賃金引き上げ、アベノミクス10年を経て今後の経済・金融政策をどうするのか、野党には攻めどころ満載だった。

但し、防衛力整備をめぐって、野党第1党の立民は、維新や国民民主との間で足並みがそろわず、防衛問題追及には慎重な姿勢が目立った。

代わって、首相秘書官の差別発言が表面化したこともあってLGBTの問題、続いて児童手当の拡充に力点を置いた。この点は他の党も同じで、与野党ともに4月の統一地方選挙をにらんでアピール合戦の様相となった。

論戦が低調に終わった背景としては、まずは野党の追及不足が影響したとみている。立憲民主党は、維新との連携・共闘を維持したいとの思惑が働いて追及の焦点を絞れなかったのではないか。

これに対して、岸田首相は防衛問題をめぐっては、野党側の追及に対して「相手国もあり、手の内はさらせない」として徹底した防戦に終始した。野党側は、攻めあぐねて思うような論戦が展開できず、岸田首相の作戦が功を奏したといえるかもしれない。

 国民の関心事項と首相の方針決定は

問題は、国民への影響だ。国民の側はウクライナ情勢をはじめとする内外の激しい動きを受けて、次のような点に関心を持っていたのではないか。

◆40年ぶりの物価高騰や今後の経済政策はどうなるのか。政府の電気や都市ガス料金の軽減措置は2月から実施されたが、追加対策やメッセージはない。

◆ロシアによるウクライナ侵攻の長期化が避けられない中で、エネルギー確保の戦略を示してもらいたい。原発や再エネなどをどのようにかじ取りするのか。

◆防衛力整備は必要だが、「反撃能力」を保有する場合、専守防衛と両立するのか。一定の基準を設定するのか。自衛隊は遠距離の攻撃目標を把握する能力を持っておらず、米軍に頼らざるを得ないのではないか。

◆日本の防衛の弱点としては、武器、弾薬などの継戦能力、自衛隊基地の防護。それに国民の避難体制の整備を急ぐべきだとの意見もあるが、どうか。

◆政府は「異次元の少子化対策」を強調するが、出生率の低下「1.57ショック」は1990年、この30年間、政府は何をしていたのか。

国民の主な関心事項としては、例えば以上のような点にあり、野党側が掘り下げて政府に質してもらいたいと考えていたのではないか。いずれも政府・自民党が手をつけずに長期にわたって先送りにしてきた問題ではないか。

一方、岸田首相は施政方針演説で「課題を先送りにせず、国会で政府の考えを正々堂々、議論する」と胸を張ったが、予算委員会の答弁では踏み込んだ考えは示されなかった。議論が深まらない原因として、首相の責任も大きい。

加えて、岸田首相の政権運営、政策決定をめぐって懸念される点がある。具体的には、年末の防衛政策決定に見られたような首相の方針決定のあり方だ。岸田首相からの指示が急に示され、与党との調整期間も短く、その後、国会での野党への説明も乏しい方針決定プロセスだ。

去年11月末に防衛費のGDP比2%を打ち出した後、わずか3週間足らずで防衛増税を含めた新しい防衛政策を決定した。年が明けて今の国会で、岸田首相は「誠心誠意、丁寧に説明責任を果たす」などと強調するが、残念ながら「従来方針の繰り返しで、中身は皆無」の答弁が多い。

当面の焦点になっている少子化対策も3月末に担当大臣の下で案をとりまとめた後、6月の骨太方針で決定される見通しだ。その時点で、国会は閉会しており、防衛問題と同じような政府の対応が、再び繰り返される可能性もある。

難問の対応にはさまざまな法案の制定も必要で、国会で政府が与野党との論戦を通じて行政の運営に民意を取り入れたり、法案を修正したりする政策決定過程も必要だ。

岸田政権は低姿勢に見えながら、実は政権の都合優先で重要事項を決めてしまうとの懸念も聞こえる。衆議院議員の任期は、解散がなければ再来年2025年10月まで続く。岸田政権の政策決定のあり方も問われる。

 統一地方選と5補選、世論の評価は?

新年度予算案の衆議院通過を受けて、3月1日から参議院予算委員会に舞台を移して、予算審議が始まる。衆議院から持ち越した論点が数多いので、「再考の府」参議院で詰めた議論を行ってもらいたい。

もう1つは、当面の焦点は当面、4月に迫った4年に一度の統一地方選挙に移る。3月23日にはトップを切って、北海道、大阪、奈良、徳島、大分など9道府県の知事選挙が公示され、4月9日が前半の投開票日になる。

後半の投開票日は4月23日で、この日は衆参5つの補欠選挙も行われる。衆議院の千葉5区、和歌山1区、山口2区と4区、それに参議院の大分選挙区だ。

自民党長老に注目点を聞いてみると「知事選は、与野党対決の北海道、保守分裂の奈良、徳島のゆくえ。補欠選挙は千葉5区で、野党の陣営が1本化するか、複数擁立となるかカギ。和歌山1区は、関西に強い維新が候補者を擁立した場合、どんな戦いになるかが焦点」と語る。

岸田政権への影響については「政権に直接、大きな影響があるとは想定していないが、選挙は投票箱が閉まるまでわからない。補欠選挙と道府県議選がどうなるか、気を抜かずに取り組む必要がある」と話す。

41道府県議選は、各政党の地域の力量を測るバロメーターでもある。特に、自民党は旧統一教会の問題をはじめ、防衛増税や少子化対策論議がどのように影響するかが、変動要因だ。

岸田政権の支持率は、報道各社の世論調査によると2月は横ばい状態だが、支持を不支持が上回る逆転状態が5か月続いている。統一地方選挙と統一補選で、世論の評価、風向きがどう現れるか、夏以降の政局に影響を及ぼすことになる。(了)

 

 

ウクライナ侵攻1年と日本の防衛問題

ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてから、24日で1年になる。これを前にアメリカのバイデン大統領は20日、ウクライナを電撃訪問し、揺るぎない支援を続ける考えを世界にアピールした。

これに対し、ロシアのプーチン大統領は年次教書演説で、ウクライナへの侵攻を継続する考えを表明し、ロシアと欧米諸国の非難の応酬が続いている。

ウクライナの前線は一進一退の状況だとみられるが、春先から夏にかけての攻防がどのような展開になるのかが大きな焦点だ。

ロシア軍が大規模な攻撃に踏み切るのか、ウクライナ軍が欧米諸国から供与された戦車などを活用し、反転攻勢へ打って出るのかどうか戦況は予断を許さない。

この1年、日本からウクライナの対応をみて感じるのは、国民の強い防衛意識だ。報道によると最近のウクライナの世論調査では「勝利を確信する」と答えた人は95%、「領土に関して妥協すべきでない」という人は85%に上っているという。

去年の侵攻当初は、軍事大国ロシアの軍事攻勢で数日のうちに制圧されてしまうのではないかとの見方も聞かれたが、ウクライナ国民はシェルターなどでの生活に耐え、徹底抗戦で跳ね返した。

こうした要因としては、ゼレンスキー大統領の優れた統率力もあるだろう。また、欧米の軍事支援も後押しになったが、やはり、自らの国の独立と自由な暮らしを守り抜きたいという強い防衛意識が戦いを支えたのではないかと思う。

 防衛力整備、政府の国民への説明に弱さ

それでは、日本の場合、国民の防衛意識や、政治の対応はどうだろうか。岸田政権は防衛力の抜本強化の方針を打ち出したが、政府案のとりまとめの調整に追われ、国民への説明、説得などの働きかけが極めて弱かったのではないかと思う。

政権の関係者を取材すると「防衛力整備の中身の調整に想定以上に時間がかかってしまった」と語り、与党や国民に対する説明が必ずしも十分ではなかったとの考えを漏らしていた。

防衛費の大幅増額と、その財源確保のとりまとめに政権の相当なエネルギーを費やしたことは事実だろう。しかし、それでも国民に対して、防衛の現状とめざす内容を理解してもらうよう働きかけを強める必要があったと考える。

というのは、NHKの2月の世論調査(10~12日実施)では、◆防衛費の大幅増の評価は、賛成、反対ともに40%ずつ二分されたままだ。政府が方針を決定した12月調査では一部質問の表現は異なるが、賛成は51%あったのが、2月までに11ポイントも減少したことになる。

◆防衛増税は賛成23%に対し、反対64%で、反対が圧倒的に多い状況だ。

朝日新聞の2月の世論調査(18、19日実施)でも◆防衛費を増やすための1兆円増税については、賛成は40%に対し、反対は51%で上回っている。

通常国会の論戦が始まって既に1か月が経過したが、政府が戦後防衛政策の大転換と位置づけている防衛政策と予算案について、国民多数の賛成を得られていない状況は重く受け止める必要がある。

 防衛の主要論点、参院で徹底審議を

それでは、なぜ、国民の多数の賛成を得られていないのか。22日に行われた衆議院予算委員会の集中審議でのやりとりが、ヒントになる。

質問に立ったのは立憲民主党の泉代表で「政府・防衛省は、新年度予算案でアメリカから購入する巡航ミサイル『トマホーク』の数量などを防衛機密だとして、公表できないとしている。しかし、アメリカ国防省は自らのホームページで、同じトマホークを今年度、1発の購入単価5.4億円、40発を買い取ることを明らかにしている」などと追及した。

岸田首相はこれまで手の内を明かすことになると公表を拒んできたが、「関心が高いので、数量などを改めて検討したい」と情報開示に前向きの答弁をせざるを得なかった。

岸田首相は施政方針では「国会で堂々と議論したい」と強調したが、予算委員会の質疑では、具体的な情報や自らの考え方をほとんど明らかにしない。防衛論争が一向に深まらない大きな要因になっている。

国民の多くは、武器の詳細な性能などを知りたがっているのではない。防衛力を向こう5年間で、新たに17兆円も増額してどこまで日本の防衛力が強化されるのか、基本的な判断材料を示してもらいたいと考えている。

衆議院予算委員会の論戦も最終盤で、予算案の採決が近く行われる。防衛問題の主な論点は詰めの議論を残したまま、参議院での予算審議に持ち越される公算が大きい。

主な論点としては、◆相手国のミサイル基地などを叩く「反撃能力」の保有が、「先制攻撃」とならないようにするための対応策、基準づくりをどうするのか。

◆反撃の武力行使を行う場合、自衛隊は相手の標的などの情報把握をどのように行うのか。米軍との攻撃面での運用・調整は可能なのか。

◆戦闘機などの正面装備に比べて、弾薬、燃料などの継戦能力に弱点があるとされてきたが、どの程度改善されるのか。

◆台湾有事などに備え、沖縄や南西諸島の避難計画のほか、全国的に国民の避難施設、シェルターなどの整備はどの省が中心になって整備していくのか。

国民が知りたいと思われる一例を挙げたが、こうした論点について、これまでのところ政府側から具体的な説明はほとんどなされていない。参議院では、こうした論点について、国民にわかりやすい説明、議論を行ってもらいたい。

 首相ウクライナ訪問、日本の視点で判断

冒頭にも触れたが、アメリカのバイデン大統領がウクライナを電撃訪問したのに続いて、イタリアのメロー二首相も現地入りし、G7首脳で訪問していないのは岸田首相だけになった。

このため、政府内では、日本もゼレンスキー大統領から招待を受けていることに加えて、G7議長国であることから、5月の広島サミットまでには訪問を実現したいと焦りを強めている。

岸田首相のウクライナ訪問は、実現が望ましいのは当然だ。但し、首相の訪問は、安全性や国会のルール、情報管理などの面でハードルが多い。最も重要なことは、戦地などでは現地の政府や国民に迷惑や負担をかけてはいけないことだ。

首相の人気・評価の獲得といった政治的パフォーマンスで、周辺が対応してもらっては困る。日本は欧米とは地理的にも大きな違いあり、NATOの加盟国でもない。

日本の立場、独自の視点で安全性などが確保できるまで、訪問は見送りたいと堂々と表明して、G7議長国としての役割を果たせばいいのではないか。

合わせて、日本は先の大戦を教訓に平和外交を戦後一貫して追求しており、民生支援を軸に国際社会とともに歩んでいく基本方針を表明するのが基本だと考えるが、どうだろうか。

一方、国内の防衛力整備については、国会で政府と与野党が質疑を通じて国民の理解を深めたり、必要に応じて法案・予算案の修正を図ったりして、国民全体の合意を広げる必要がある。

国会の質疑も内外の重要課題を取り上げる予算委員会の議論に限らず、外交・防衛に関係する委員会で、恒常的に議論を続けてもらいたい。

その際、防衛・軍事面については、専門の自衛官幹部を招いて意見を聴取する時期を迎えているのではないか。自衛隊は文民統制が基本であり、具体的には国民の代表である国会が、自衛隊の意見も聞きながら決定するのが本来の姿だ。

ウクライナ侵攻を可能な限り早期に終わらせると同時に、政府と国会は、日本の外交・安全保障のあり方を国民全体で考えるように具体的な取り組みを進めてもらいたい。(了)

 

 

政策転換も支持率低迷続く岸田政権

岸田政権が打ち出した防衛力の抜本強化や異次元の少子化対策などの政策転換は、国会論戦を通じて世論にどのように受け止められているのか?NHKと共同通信の2月の世論調査結果がまとまったので、その結果を基に分析してみたい。

結論を先に言えば、焦点の防衛費の大幅増額は賛否が分かれ、防衛増税は反対多数の状況は変わっていない。少子化対策も児童手当の所得制限撤廃には慎重論が強く、そもそも政府の具体策がはっきりしない問題を抱えている。

さらに、岸田内閣の支持率は、支持と不支持の逆転状態が5か月連続の低水準で、政治の先行きは不透明だ。

こうした背景には国会論戦が低調で、政権や国会が政策転換にふさわしい判断材料や多角的な議論を提供できていない点に大きな問題があるのではないか。

 防衛政策転換、国民の支持広がらず

まず、国会の焦点の1つになっている防衛政策からみていきたい。NHKの世論調査(10日から12日実施)によると、政府が2023年度から5年間に防衛費の総額を43兆円に大幅に増額する方針については、賛成、反対がそれぞれ40%ずつで、二分されている。

設問の表現が一部異なるが、政府がこの方針を打ち出した12月調査では、賛成が51%で、反対の36%を上回っていた。その後、岸田首相の施政方針演説や衆院予算委員会で与野党の論戦を経て、2月の調査では賛成が11ポイント減り、反対が4ポイント増えたことになる。

また、防衛費の財源の一部を確保するため、増税を実施する方針については、賛成が23%に対し、反対は64%と多数を占めている。この設問も一部表現が異なるが、1月の調査では賛成が28%、反対が61%だった。引き続き、反対多数という傾向は変わっていない。

政府は、防衛増税の実施時期を来年以降に決めるとしているので、新年度予算案に直ちに影響することはない。しかし、岸田政権が戦後の安全保障政策の大きな転換と位置づけている防衛力強化の予算と財源について、国民の支持が広がっていない事実は重く受け止め、対応を考える必要がある。

 児童手当の所得制限撤廃は反対多数

次に岸田政権が「次元の異なる少子化対策」と位置づけている「子ども・子育て政策」はどうか。世論調査では、政府が打ち出した「子ども予算の倍増方針」について、賛成は69%で、反対は17%だった。

自民党の茂木幹事長が代表質問で打ち出し、政府・与党が検討している児童手当の所得制限の撤廃については、賛成が34%に対し、反対が48%で上回った。

共同通信の世論調査(11日から13日実施)でも賛成が44%に対し、反対が52%と多かった。今の制度で導入されている所得制限を撤廃すると限られた財源が、所得の高い世帯に支給されるとして、反対や慎重論があるためとみられる。

NHK世論調査では、子ども予算を増やすために国民の負担が増えることについても聞いている。「負担が増えるのはやむを得ない」が55%に対し、「負担を増やすべきではない」は35%だった。

但し、「負担が増える」具体的な内容を示さずに聞いているので、今後、例えば社会保険料からの拠出といった内容が決まると、評価が変わる可能性がある。いずれにしても政府は最重要課題と位置づけるものの、政策の重点や具体策を明らかにしていないので、国民の評価も定まらない。

このほか、岸田首相の元首相秘書官が、同性婚をめぐる差別発言をして更迭されたことから、同性婚の賛否についても聞いている。同性婚を法律を認めることについて、賛成は54%に対し、反対は29%に止まっている。自民党の支持層でも賛成が半数に達している。

 岸田政権 支持率低迷の長期化

さて、岸田政権の支持率だが、NHKの調査によると◇支持率は36%に対し、◇不支持率は41%だった。

先月との比較では、◇支持が3ポイント上がり、◇不支持が4ポイント下がった。このところ、数ポイント差で上下を繰り返しているので、事実上、横ばいとみていいだろう。

共同通信の世論調査も◇支持率は33.6%で、前回調査から0.2ポイント増の横ばい。不支持率は2.2ポイント減の47.7%だった。

内閣支持率は傾向・流れをみるのが大事だ。NHKの調査で岸田内閣の支持率は、去年10月に3割台に落ち込んで以降、不支持が支持を上回る逆転状態が5か月続いている。「支持率低迷の長期化」がウイークポイントになりつつある。

こうした原因だが、岸田政権の場合、防衛力の抜本強化などを打ち出したが、国会論戦の段階になっても具体的な内容を掘り下げて説明したり、野党側と丁々発止議論したりする場面がみられない。

子ども対策も施政方針演説で「次元の異なる少子化対策」として大々的に打ち出したが、中身は担当閣僚の下で検討し、その後、財源問題は総理官邸が引き取って調整し、6月の骨太方針で決める段取りだ。防衛増税の時とは変わって、今度は長い検討時間が予想され、国民の心に響かない。

新年度予算の審議であれば、国民は40年ぶりの物価高騰や経済・金融対策の議論を期待するが、政権から新たなメッセージは未だに発信されない。これでは、内閣支持率が好転し、反転攻勢へとはつながらないのではないか。

政界やメデイアの一部では、岸田首相による早期解散説も取り沙汰されるが、政権の支持率が低迷していては難しい。安倍首相は奇襲解散を仕掛けたが、支持・不支持が逆転しても2か月程度で回復、復元力を備えていたからできたことだ。

 優先課題の設定、論戦の活性化を

一方、野党側についても政党支持率をみると、支持率を大きく伸ばしている政党はなく、自民党に大差をつけられ低迷している。

衆院の予算委員会は、かつては野党の最大の出番だったが、この国会で国民の多くが納得するような政権を問いただす場面があっただろうか。

また、衆議院の予算委員会としても多くの政治課題の中から、国政として最優先に議論すべきテーマを絞り込んで議論すべきではなかったか。そして、政府が具体的な方針を踏み込んで説明し、野党が問題点や対案を提示して議論を戦わせる取り組みが余りにも弱かったのではないか。

その結果、今回の世論調査にみられるように国民の疑問や不満が、内閣の支持率や、野党の支持率の低迷に凝縮して現れているのではないかと思う。

国会は14日に、日銀の新しい総裁・副総裁の人事案が示され、同意の手続きが進められる。論戦の主要な舞台となった衆院予算委員会は16日に公聴会が決まっており、これが終われば新年度予算案の採決に向けた動きが本格化する。

こうした審議日程を考えると新年度予算案の採決の前に、各党の党首クラスが質問に立って、岸田首相と締めくくりの論戦を戦わせるなど論戦を充実させる取り組みを考えるべきではないか。政策転換にふさわしい国会審議の質と、政治の立て直しが問われている。(了)

“難題滞留、審議は順調”国会予算委

国会は、衆議院予算委員会を舞台に新年度予算案の審議が続いているが、予算案の採決の前提になる「公聴会」が16日に開かれることが9日、決まった。これによって、新年度予算案の委員会採決の条件が整ったことになる。

予算案が委員会に続いて、本会議でも採決が行われて可決され、衆議院を通過する時期は、これまで平成11年・1999年の小渕政権時代の2月19日が最も早かった。今回は、これに次ぐスピード通過となる可能性もある。

去年は2月15日に公聴会、その後、集中審議を2日間入れたりして22日に衆院通過、戦後2番目に早い衆院通過となった。今回はどうなるかは今後の与野党の交渉次第だが、去年並の早い通過は間違いなさそうだ。

問題は、国会審議の中身だ。この国会の焦点になっていた防衛費の大幅増加と財源や、物価高騰と暮らし・経済のかじ取りなどの難問・難題については、さっぱり議論が深まっておらず、滞留したままだ。

このまま予算案の採決へと進むことで、与野党、政府はそれぞれの役割と責任を果たせたといえるのかどうか、国民の側がしっかり見ていく必要がある。

 野党の足並みに乱れ、論客不足も

この通常国会は、岸田政権が防衛力の強化や原発の活用など歴代政権の政策を大きく転換させたことから、審議は難航するのではないかとみられていたが、与党ペースで順調に審議が進んでいるのはどうしてだろうか。

その理由としては、攻める野党側の足並みの乱れと、論客の少なさが追及に迫力を欠く大きな要因になっている。

例えば8日の集中審議をみると、野党第1党の立憲民主党はベテラン議員が外交・安全保障問題を取り上げ、岸田首相の白熱した質疑を展開した。後続の質問者は、首相秘書官の更迭の原因となった同性婚問題を取り上げるなどテーマが多く、追及の焦点が定まらないようにみえた。

野党第2党の維新は、身を切る改革、衆議院議員の定数削減問題を取り上げた。国民民主党は、配偶者の就業抑制につながる年収の壁、共産党は防衛問題といったように各党バラバラで、一時のような野党間の連携はみられなかった。

党によって、質問の重点が異なるのは当然だが、与党から譲歩を引き出すためには、勢力の劣る野党側は連携、共闘しながら攻めなければ、成果は得られない。野党第1党の全体をとりまとめていく力量、野党各党の論客不足もある。

一方、与党の自民党も、焦点の外交・安全保障関係の質問は一部に止まった。かつてのようにベテラン議員が質問に立って、国民をなるほどと納得させるような奥の深い質疑は見られなかった。

また、岸田首相の答弁も従来の説明の繰り返しが多かった。施政方針演説では「決断した政府の方針や予算案について、国民の前で正々堂々議論し、実行に移す」と強い口調で決意を表明していたが、決意が伝わってくるような場面はまったく見られなかった。

 LGBT法案 児童手当問題も浮上

このように予算審議は最速に近いペースで進む一方、岸田政権の中枢の首相秘書官が「同性婚は見るのも嫌だ」などの差別発言をしたことが明るみになり、更迭された。

岸田首相は予算委員会で「政府の方針について誤解を生じさせたことは誠に遺憾で、不快な思いをさせてしまった方々におわびする」と陳謝するとともに「LGBT理解増進法案」の提出について前向きな姿勢を示した。

この法案は、既に超党派の議員立法としてとりまとめられたもので、一昨年、国会に提出直前に自民党内の一部の反対で見送られた。

欧米では同性婚を認める動きが広がっており、今年5月にG7広島サミットで議長国を務める日本としては、早期に成立させるべきだとの意見が強まっている。

但し、自民党内には、伝統的な家族観を重んじる一部議員の反発は根強いといわれ、岸田首相や党執行部が党内をまとめきれるかどうかにかかっているようにみえる。

このほか、児童手当の拡充をめぐって、岸田首相や茂木幹事長らは所得制限の撤廃や18歳までの支給対象拡大に前向きな姿勢を示している。これに対し、西村経産相らは、財源が限られているので、所得の少ない人たちに重点に置くべきだとして、所得制限の撤廃に否定的な考えを示し、意見が対立している。

以上、見たように岸田政権にとっては、当初、懸念していた防衛増税に議論が集中する事態は避けられた一方、LGBT法案や児童手当など新たな問題への対応を迫られている。

国会と政権はそれぞれの役割、任務を果たしているのかどうか。新年度予算案の衆議院通過などを1つの節目に、今度は世論の側がどのような評価・反応を示すのか、報道各社の世論調査の結果を注目している。(了)

 

 

 

 

 

 

“本丸の議論はどこに?”国会論戦

国会は、衆議院予算委員会で基本的質疑が30日から3日間にわたって行われ、各党の主張や論点が出そろった。各党の質問が集中したのは「防衛増税」や、岸田政権が打ち出した「異次元の少子化対策」、それに物価高と賃上げ対応などだ。

いずれも重要な問題で、議論してもらいたいテーマだが、戦後の安全保障政策の大転換と位置づけられている「防衛力整備の内容・あり方」については、踏み込んだ議論にはならなかった。

これは、岸田首相が「防衛力整備の具体的な内容を明らかにするのは適切でない」と説明を避けたことがある。

また、与野党双方が近づく統一地方選挙を意識して少子化対策や物価高騰対策を前面に押し出し、自らの党の存在感をアピールしたいとの事情も影響しているようにみえる。

しかし、これでは日本の安全保障はどのように変わるのか、肝心な点がさっぱりわからない。「本丸の議論はどこにいったのか?」との思いを強くする。これからの防衛論議や国会論戦はどうなっていくのか考えてみたい。

予算委質疑に違和感、議論の重点が不明

冒頭に少し触れたが、30日から始まった衆議院予算委員会の論戦に違和感を覚えた。具体的には、内外に”大きな問題”、難題を抱えているのに、どうも緊迫感が伝わってこないからだ。

取り上げられたテーマを並べると、防衛増税、物価高騰と賃上げ、少子化対策と児童手当の拡充、黒田日銀総裁の後任人事と金融政策、さらには岸田首相の欧米歴訪に同行した長男、翔太郎秘書官のお土産購入などが主なものだ。

多様で幅広く問題を取り上げているが、何を優先し重点にすえて議論をしようとしているのかはっきりしない。いわば”ごった煮”のままの議論が続いている。

もっと端的に言えば、戦後の安全保障政策の大転換といわれる「防衛力の整備」をめぐる国会の議論が深まらないが、このままで大丈夫かという思いがする。

防衛費の増額に伴う「増税」の議論は活発だが、その根幹である「防衛力整備」の議論は深まらない事態をどう考えたらいいのかということでもある。

反撃能力、防衛力の水準をどう考えるか

それでは、予算委員会での実際の議論はどうだったのか。野党側は、焦点の「反撃能力」保有について、専守防衛の基本から外れる恐れがあるのではないか。また、防衛費を向こう5年間の総額で43兆円にまで増やした理由、根拠は何か。

さらに、新年度予算案に盛り込まれているアメリカ製の巡航ミサイル、トマホークはどのくらいの数を購入するのかといった点を質した。

これに対して、岸田首相は「反撃能力は、専守防衛の範囲内で対応する。武力行使は必要最小限の措置となる」。防衛費の総額は「1年以上にわたって議論を積み重ね、現実的なシュミレーションを行って、防衛力の内容を積み上げ、規模を導き出した」などと説明した。

さらに、トマホークについては「詳細を明らかにすることは適切ではない」と具体的に言及することを避けた。

政府が、新しい防衛力整備の方針について、国会で説明するのはこの国会が初めてだ。その最初の国会で、岸田首相のこうした一般的な説明で国民が理解、納得するのは難しいのではないか。

防衛問題は軍事機密の関係もあり、詳細な説明は難しい面はあるが、基本的な考え方や原則、わかりやすいケースを挙げて説明することは可能だ。政府側の説明は、量、質、熱意ともに不十分といわざるを得ない。

一方、野党側は防衛増税については、そろって反対しているものの、反撃能力や防衛力の整備をめぐっては考え方に違いあり、バラバラだ。本丸の防衛力整備をどのように考えるのか、政府の方針をどのようにチェックしていくのか、それぞれの党の対応方針を明確に示していく必要がある。

国民は、「反撃能力」を保有して本当に安全が増すのか、自衛隊と米軍との役割はどうなるのか。防衛力整備の必要性はわかるが、どの程度の水準が妥当なのかといった点に関心を持っているものとみられる。

政府と与野党は、こうした防衛力整備という根幹部分の議論をどのように進めていくのか。予算委員会だけでなく、防衛・外交を所管する合同の委員会、あるいは特別委員会の設置でもいいのだが、国会で政府の外交・安全保障政策を点検、議論し、国民に判断材料を提供する取り組みを早急に整備してもらいたい。

防衛増税と与野党攻防、最後のカギは

予算委員会の論戦では、防衛費の増額に伴う財源の確保をどうするのか、もう1つの問題を抱えている。

政府は、5年後以降に不足する1兆円を増税で確保する方針だが、野党側はそろって反対している。この問題で、野党第1党の立憲民主党と第2党の日本維新の会は連携して対応する方針で、対案を検討することにしている。

これに対し、自民党は国会改革などに応じる考えを維新に伝えて、維新、立民の両党間にクサビを打ち込もうとしている。

維新を挟んで、立民と自民が綱引きをしており、防衛増税に対する野党の対案がまとまるかどうかをみていく必要がある。

このほか、岸田首相が打ち出した「異次元の少子化対策」が与野党に波紋を広げている。

元々、この対策・構想は、防衛増税に野党や世論の関心が集中するのを避けるための戦術だとみられていたが、メデイアが盛んに取り上げていることもあり、予想以上に関心を集めている。

自民党の茂木幹事長が、児童手当の所得制限廃止を打ち上げたかと思うと、立憲民主党は、民主党政権時代の政策の正しさが証明されたとアピールに力をいれている。

維新や国民民主からは、教育の無償化や税の負担軽減を図る制度の導入につながると期待する声も聞かれる。このため、野党の関心を引きつけて、足並みを乱すという政権サイドのねらいが一定の効果を上げつつあるようにも見える。

但し、この問題は最終的に財源がどうなるかで、評価がガラリと変わる。岸田首相が表明している子ども予算の倍増には、新たに5兆円もの巨額な財源が必要になる。

社会保険料や企業からの拠出金、教育目的の新たな国債発行などの案も取り沙汰されているが、世論が諸手を挙げて賛成となるかは不透明だ。この少子化対策でも本丸は、巨額な財源をどう確保するのか、難題を抱えているからだ。

防衛力整備と財源の問題に話を戻すと国会では、政府・与党が仮に十分な説明をしないまま新年度予算案の採決、衆議院通過で論戦のヤマを越えたとしても問題は、世論の支持がどうなっているかだ。

報道各社の1月の世論調査では、いずれも防衛力整備の賛否は二分され、反対が賛成を上回っている。防衛増税は、賛成が2割から3割、反対が6割から7割を占め、岸田内閣の支持率は低迷している。

こうした世論の動向を考えると、岸田首相にとっての本丸は「世論の風向き」を変えられるかだ。これまでの姿勢を改めて、真正面から国会の論戦に向き合い、国民を説得できるかどうかにかかっている。(了)

防衛論戦”期待外れの首相答弁”

23日に召集された通常国会は、岸田首相の施政方針演説を受けて、25日から各党の代表質問が始まった。

今回の国会は、岸田政権が年末に安全保障や原発政策を大きく転換したあとだけに政策転換の是非などをめぐって、政府と与野党が一大論戦を行ってもらいたいと前号のコラムで取り上げた。

ところが、国会冒頭の論戦を聞く限り、岸田首相の答弁は従来の考え方や結論の繰り返しがほとんどで「期待外れの首相答弁」と言わざるを得ない。焦点の防衛問題を中心にこれまでの論戦の問題点や、今後のあり方を考えてみたい。

 防衛が焦点、原発、少子化など多い論点

通常国会冒頭の各党代表質問で、最初に質問に立った立憲民主党の泉代表は、防衛費の問題を取り上げ「まさに額ありき、増税ありき、そして国会での議論なしの乱暴な決定だ」として、増税を強行するなら衆議院の解散・総選挙で信を問うべきだと質した。

これに対し、岸田首相は「防衛力の抜本的強化や維持を図るためには、これを安定的に支えるための財源が不可欠だ。国民の信を問うかどうか、時の総理大臣の専権事項として適切に判断していく」と強調した。

また、政府が保有の方針を打ち出した「反撃能力」について、泉代表が「専守防衛の原則を逸脱する恐れがある」と追及したのに対し、岸田首相は「必要最小限の措置で、抑止力として不可欠な能力だ」と反論した。

日本維新の会の馬場代表、国民民主党の玉木代表、共産党の志位委員長らは、防衛力整備の考え方に違いはあるものの、防衛増税にはそろって反対を表明し政府の対応を質した。

このうち、維新の馬場代表は「防衛力の財源としては、景気回復に伴う税収増、コロナ感染の収束に伴うコロナ対策予算の活用、国債の償還期間の延長による新たな財源の確保ができるのに、なぜ、最初から増税を選択するのか」と増税案の撤回を求めた。

これに対し、岸田首相は「政府としても国民の負担を抑えるため、新たに必要となる財源の4分の3を行財政改革でまかない、残り4分の1を税制でお願いすることにした」と理解を求めた。

このほか、各党の代表質問では、政府が新増設の方針を打ち出した原発政策、少子化対策、物価高騰と賃金引き上げ、新型コロナの感染症法上の扱いの変更などを取り上げた。

このように論戦のテーマとしては、防衛問題をはじめ、議論すべき重要政策が極めて多いことが改めて浮き彫りになった。

但し、岸田首相の答弁は、従来の答弁や施政方針演説の繰り返しがほとんどで、残念ながら、議論が深まったとは言えないのが実態だ。

 防衛増税、全野党が反対、論戦激化へ

それでは、今後、どのような論戦が必要か。国民からすると、防衛予算の総額を向こう5年間で1.6倍の43兆円に拡大する計画や、不足財源を賄うために増税する方針は、この国会で初めて政府の説明を受けることになる。

それだけに◆なぜ、防衛予算を43兆円にまで拡大する必要があるのか。日本を取り巻く安全保障の変化を含めて、説明が欲しいところだ。

◆また、防衛のどのような分野を強化するのか。正面装備をはじめ、武器・弾薬の備蓄などの継戦能力、シェルターなど国民の避難・保護に充てる予算はどの程度なのか、詳しい知識を持っている人は多くはないのではないか。

◆さらに、防衛財源は、歳出削減でどの程度確保できたのか。施政方針演説で岸田首相は「増税」という言葉を一度も使わず、「今を生きる我々の責任」などと表現するのはどうしてか。たばこ税を引き上げるが、酒税を対象にしないのはなぜかといった点に疑問を感じる人は多いのではないか。

報道各社の世論調査のうち、最も新しい朝日新聞のデータ(21、22日実施)によると◆防衛費を増やす計画については、賛成44%、反対49%に分かれる。◆防衛増税については、賛成24%に対し、反対が71%と多数を占めている。

このデータから読み取れることは、政府の方針は依然として、国民の理解と支持が得られていないということだ。

国会論戦はこれから衆議院予算委員会に舞台を移して、本格的な質疑が行われる。まずは、岸田首相をはじめとする政府側が、従来の説明に止まらず、踏み込んだ説明ができるかどうかが問われる。

また、大きな政策転換を行った防衛政策と原発政策、それに少子化対策などについても政策転換に踏み切った理由、背景について、国民の納得がいくような説明が不可欠だ。できなければ、岸田内閣の支持率は低迷が続く可能性が大きい。

一方、野党側は政府方針の問題点を指摘したり、批判したりすることは野党の役割だが、政府方針を明確にするためにも自らの防衛力整備の考え方や財源の具体策を対案として示して、議論を深めてもらいたい。

  岸田政治とは何か?首相の政治姿勢

最後に代表質問でメデイアでは余り取り上げられないかもしれないが、参議院の立憲民主党の水岡俊一議員会長が興味深い質問をしていたので、触れておきたい。

水岡議員は「岸田首相は、安全保障政策や原発政策などの大きな政策転換を選挙で訴えず、国会でも十分な議論をしないで、次々に決定している。これは、内閣は連帯して、国民の代表である国会に責任を負う内閣法や憲法の基本原則から逸脱しているのではないか」と質した。

これは、政界の関係者の間で話題になっている「岸田政治とは何か?」とも共通する。安倍元首相でもできなかった「敵基地攻撃能力」の保有や、GDP2%へ倍増する方針を次々に決定できたのはなぜかという疑問だ。

岸田首相は「国家安全保障戦略など安保関連3文書は、国会においても丁寧な説明を心がけてきた。進め方に問題があったとは考えていない」「議院内閣制では政権与党が国政を預かっており、まずは、政府与党で1年以上の丁寧なプロセスを経て方針を決定した」と反論した。

岸田首相は国会で「防衛の内容、財源、予算を三位一体で決める」と繰り返し答弁したが、その中身について具体的に説明することはなかった。

また、与党の役割を強調・優先する考え方をしているが、昭和、平成の自民党のリーダーは、国会での議論、野党との論戦を重視する考え方が主流だったと思う。

この点でも、岸田首相は保守のリーダー像を大きく転換させている。国会論戦では、政策論争とともに重要政策の決定の仕方、国会との関係、リーダーの政治姿勢のあり方などについても議論をしてもらいたい。

30日から始まる予定の予算委員会の論戦では、岸田政権が打ち出した一連の政策転換をめぐる質疑がどのように展開するか。世論の受け止め方はどうか、さらに岸田政権の行方にどのような影響を及ぼすか、注目点が多い。(了)

”難題 山積国会”開会 一大論戦を

通常国会がいよいよ23日に開会し、岸田首相の施政方針演説と、これに対する各党の代表質問が行われて、本格的な論戦が始まる。

岸田政権は年末、防衛力の抜本強化と防衛増税、既存原発の運転期間延長や原発の新増設の方針などを次々に打ち出し、歴代政権の政策を大きく転換した。

また、今月13日に行われた日米首脳会談で、岸田首相は、バイデン大統領と日米同盟を更に深化させていくことなどで合意した。

ところが、一連の方針をめぐって国会での質疑はなく、国民への説明もほとんどなされてこなかった。それだけに岸田政権に対する国民の視線は厳しいことが、報道各社の内閣支持率の低迷に表れている。

こうした中で開会する今度の国会の特徴を一言でいえば、大きな問題を数多く抱える「難題山積国会」と言えそうだ。それだけに政府・与党と野党側との間で、多くの課題について徹底審議を行ってもらいたい。

徹底審議ではありきたりに聞こえるので、やや大げさに聞こえるかもしれないが、「一大論戦を戦わせてもらいたい」というのが私個人の率直な思いだ。特に防衛政策については、中長期に及ぶ問題だけに国民の納得がいく突っ込んだ論戦を行ってもらいたい。

通常国会は、こうした防衛問題や原発政策のほか、40年ぶりの物価高騰と経済・財政運営、脱炭素社会に向けた経済社会づくり、抜本的な少子化対策、旧統一教会の被害者救済問題など緊急課題が目白押しで、待ったなしの状態にある。

 与野党攻防、防衛増税の扱いが焦点

次に与野党の攻防という観点からみると、通常国会前半の焦点は、一般会計の総額が過去最大114兆円にのぼる新年度予算案と、防衛問題になりそうだ。

岸田首相は、欧米5か国歴訪から帰国した直後の17日に開かれた自民党役員会で、通常国会では防衛力の抜本強化や少子化対策などについて議論し、実行に移していく決意を表明した。

岸田首相は先のアメリカ訪問で、バイデン大統領との間で、日本の反撃能力の保有について、アメリカ側の支持と協力をいち早く取りつけたことに自信を深め、防衛力強化と安定財源確保の方針については一歩も譲らない構えだ。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の泉代表と、第2党・日本維新会の馬場代表が18日会談し、政府の防衛増税に強く反対し、撤回を求めていくことで一致した。また、共同の作業チームを設けて、行財政改革などを検討し、財源をねん出する具体案をまとめることにしている。

野党側は、防衛力整備の内容などをめぐっては違いがあるものの、政府の防衛増税に対しては、他の野党も反対していくことで、足並みがそろう見通しだ。与野党の対決色の濃い国会になりそうだ。

一方、自民党の茂木幹事長はこれに先立つ17日、維新の馬場代表と会談し、維新が重視している国会改革で協力したいとの考えを伝えた。立憲民主党と維新との連携にくさびを打ち込む狙いがあるものとみられる。

維新を挟んで、立憲民主党と自民党が自らの陣営に引き込む動きが水面下で続くことになりそうだ。

このほか、自民党内では萩生田政調会長をトップとする特命委員会が19日に初会合を開き、増税に頼らない新たな財源を検討することにしている。この会のメンバーは安倍派の議員が多く、増税に代わる具体的な財源を政府や党執行部に求めていくものとみられる。

このように国会での論戦が続く一方で、防衛財源のあり方をめぐって、野党間や与野党、自民党と政府との間で様々な調整や駆け引きが行われる見通しだ。

最終的には、新年度予算案と防衛財源を確保する法案が原案通りで採決されるのか、それとも法案の修正が行われるのかが大きな焦点になるのではないか。

 防衛力整備と財源、世論の評価がカギ

ここまで通常国会の論戦のあり方と、防衛増税をめぐる与野党の動きをみてきたが、与野党の攻防がどうなるかは、最終的には世論の動向・評価がカギを握っているとみる。

というのは、岸田政権は内閣支持率が低迷していることに加えて、防衛増税で世論の支持を失うと、4月の統一地方選挙や衆議院の統一補欠選挙にも影響が出てくるからだ。岸田政権と自民党執行部は、世論の風向きも見ながら、防衛増税の扱いを判断することになる。

その政権与党に波紋が広がっているのが、読売新聞が今月13日から15日にかけて行った世論調査の結果だ。

政府の防衛増税の方針については「賛成」が28%に対して、「反対」が63%と大幅に上回った。内閣支持率も39%で前回と同じ水準に止まった。岸田首相が欧米を歴訪、日米首脳会談の直後でも、政権の浮揚効果が見られなかったからだ。

こうした傾向はNHKがこれより先1月7日から9日にかけて行った世論調査でも、防衛増税に「賛成」28%、「反対」61%でほぼ同じ水準だった。

向こう5年間の防衛費の総額を43兆円に大幅に増やすことについても、世論の賛否は分かれたままだ。

つまり、国民は物価高騰の中で、増税に敏感になっている事情もあるが、そもそも防衛力強化と大幅な予算増額のねらいや内容の説明そのものが、国民に伝わっていないと判断するのが自然ではないか。

防衛政策の大転換をめぐって、与党内や国会でもあまりにも議論が少なかったツケが今、跳ね返ってきているのではないか。

したがって遅ればせながら、まずは、政府が国会で十二分に説明すること。そのうえで、政府も「一大論戦」の覚悟で野党に臨まない限り、国民を説得するのは難しいのではないかと思う。

政府が年末に閣議決定した国家安全保障戦略の冒頭部分に次のような一文がある。「国家としての力の発揮は、国民の決意から始まる」「本戦略の内容と実施について国民の理解と協力を得て、国民が我が国の安全保障政策に自発的かつ主体的に参画できる環境を、政府が整えることが不可欠である」とある。

この指摘は、政治の要諦でもある。通常国会でも岸田首相は言葉だけでなく、行動、政権運営で率先垂範すべきだ。(了)

 

 

 

 

通常国会、防衛論争と世論の動向が焦点

新しい年・2023年が明けて、政治も本格的に動き始めた。岸田首相は年頭の記者会見を終えた後、9日から欧米5か国を歴訪中だ。13日には、ワシントンで日米首脳会談が行われる。

新年前半の政治の主な舞台となる通常国は23日に召集され、6月下旬まで続く。その通常国会最大の焦点は、向こう5年間の防衛力の整備と増税問題になる。政府・与党と野党との間で、激しい防衛論争が繰り広げられる見通しだ。

問題は、国民の支持がどうなるかだ。10日にまとまったNHK世論調査によると、岸田政権が決めた防衛費の財源を確保するための増税方針については、賛成が28%に対し、反対が61%に達し多数を占めた。

政府の方針を理解し、納得している国民は少ないことが、改めて浮き彫りになった。岸田内閣支持率も先月より3ポイント下がり33%、下落に歯止めがかかっていない。

国会での論戦が始まり、この世論がどう動くのか。政府・与党、あるいは野党のどちらの主張を支持するのか、岸田政権とその後の政局に大きな影響を及ぼす。防衛力整備と財源のあり方や問題点を考えてみたい。

 難題山積、防衛増税めぐり与野党対決

岸田首相は、新年4日の年頭の記者会見や8日のNHK日曜討論の番組などで「新年は、先送りできない課題に正面から愚直に挑戦したい」として、防衛力の抜本強化をはじめ、エネルギー政策、経済の好循環、それに異次元の少子化対策などの課題に幅広く取り組んでいく考えを表明した。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「防衛費や経済対策、エネルギー政策などについて、チェックしていく。特に防衛費については、5年間で43兆円という額は適切なのか、検証しなければならない」として、他の野党とも連携して通常国会で厳しく追及する考えだ。

野党第2党の日本維新の会の馬場代表も「防衛費の不足財源を増税で賄う政府の方針は、国民の理解は得られないだろう」と批判的だ。

立憲民主党と日本維新は、去年の臨時国会で連携したのに続いて、通常国会でも連携を図っていく方針だ。具体的には、防衛費の財源については、行財政改革によって財源を捻出する対案などを検討することにしている。

通常国会では、新年度予算案の審議とともに、防衛増税をめぐって政府・与党と野党側が対決する公算が大きくなりつつある。

 防衛力整備と財源 多岐にわたる論点

それでは国会の論戦では、具体的にどのような点が論点になるか。自民党の防衛族・防衛問題の専門家や、野党幹部の話を聞いてみると論点は多岐にわたる。

▲1つは、国家安全保障戦略など安全保障関係3文書が10年ぶりに改訂された問題がある。外交・安全保障の基本方針を策定するもので、今回は「反撃能力」の保有を盛り込んだのが大きな特徴だ。

「反撃能力」は、これまで「敵基地攻撃能力」と表現されてきたのを改称したものだが、相手国のミサイル基地などを叩く能力だ。歴代政府は、憲法上許されるが、政策判断として保有しないとしてきたが、今回、保有する方針に転換した。

専守防衛、戦後の安全保障政策の大きな転換だが、政府は周辺国のミサイル能力の向上に対応するため「必要最小限度の措置」だと説明している。

これまで自衛隊は「盾」、米軍が「矛」の役割を明確にして分担してきたが、これから日本は「矛」の一部の役割も果たすことになる。

これに対して、野党側は「我が国に対する『攻撃の着手』の判断が、現実的には困難で、先制攻撃となるリスクが大きい」として、保有に反対する意見もあり、活発な議論が交わされる見通しだ。

▲第2は、防衛力整備の中身で、知りたい点は実に多い。◇向こう5年間の防衛費を1.5倍の43兆円に増やしたが、どのように積算したのか。◇自衛隊の弱点といわれてきた弾薬などの備蓄、予備自衛官の確保など継戦能力はどの程度、改善されるのか。

◇反撃能力の確保に米軍の巡航ミサイル「トマホーク」を購入する計画だが、反撃能力の効果は期待できるのか。◇国民を避難させるシェルターなど国民保護・避難体制の取り組みが弱いのではないかといった点が指摘されている。

▲第3は、防衛費の財源問題だ。政府は、新年度の防衛費について、今年度より1兆4000億円上積みし、過去最大の6兆8000億円を計上している。

また、防衛費の増額で必要となる財源は、5年後の2027年度に1兆円余りで、これを法人税など3税の増税で賄う。但し、増税の実施時期は「2024年以降の適切な時期」として、今後検討することにしている。

これに対し、野党側は「政府の防衛予算は最初からGDP比2%とするなど”数字ありき”で、無駄のない調達や歳出努力が不足している」として、歳出改革による対案の提出を検討することにしている。

このほか、防衛財源として、剰余金やさまざまな基金の積み残しをかき集めて確保しているが、5年後も安定財源が担保されているのかなどをめぐって、詰めた議論が行われる見通しだ。

 国民への説明不足、問われる政権

ここまで政府の方針と通常国会で予想される論点を見てきたが、国民がこうした防衛力整備と財源確保策をどのように評価するかという問題がある。

岸田首相は、1年かけて丁寧に議論を重ねてきたと強調するが、国民の多くは、防衛力整備の具体的な内容、財源、予算を耳にしたのは、おそらく去年11月下旬以降だと思われる。

岸田首相が11月28日に財務・防衛の両閣僚に対して、5年間でGDP2%に達する予算を指示したことが報道された後、あれよあれよという間にわずか3週間で、増税と予算方針が決まったというのが実態ではなかったか。

これまでは政府・与党間で検討が進められ、ようやく通常国会になって、政府と各党の議論を通じて、国民は政府の説明を聞くことになる。国の防衛、国民の暮らしや安全の確保にどこまでつながるのか、国民が判断することになる。

新たに改定された「国家安全保障戦略」の冒頭に「(安全保障上の)国家としての力の発揮は、国民の決意から始まる。国民が我が国の安全保障政策に自発的かつ主体的に参画できる環境を、政府が整えることが不可欠である」と強調している。

岸田政権の国民に対する説明は明らかに不足していたのではないか。通常国会でも、具体的な説明と説得ができるのかどうか、問われることになる。

 政権浮揚か、野党攻勢か、世論がカギ

最後に、政局との関係についても触れておきたい。岸田首相がいつ衆議院解散・総選挙に踏み切るかの議論が盛んだが、岸田首相としては好機があれば、解散刀を抜いてみたいという思いは抱いているのではないかと推察する。

問題は、解散の環境が整うかどうかだ。その環境整備のためには、岸田政権が防衛問題で世論の理解と支持を得て、内閣支持率が回復、政権浮揚が必要になる。それとも野党が論戦の主導権を確保して、攻勢に転じることになるのかどうか、分かれ道になる。

10日にまとまったNHK世論調査によると、岸田内閣の支持率は先月より3ポイント下がって33%、不支持率は1ポイント上がって45%だ。

内閣支持率は下落に歯止めがかかっておらず、政権発足後、最も低かった去年11月と同じ水準だ。通常国会で野党の攻勢が続けば、”危険水域”とされる支持率3割割れの可能性もある。

衆院解散・総選挙といった政局よりも、岸田政権は防衛力整備と財源問題で世論の支持を回復できるか、待ったなしの状態だ。通常国会の防衛論争と世論の動向が、岸田政権と今後の政局のゆくえを大きく左右することになる。(了)

“政局より政策、カギは世論” 2023年展望

新しい年、2023年の政治はどのように動くか。今年は、例年のような衆議院解散・総選挙をめぐる駆け引きや政変といった「政局」よりも、「政策」に焦点を当ててみていく必要があるのではないか。

その理由は、端的にいえば、岸田政権が防衛力の抜本強化や原発の新規建設など政策の大きな転換を打ち出し、年明けの通常国会で最大の焦点になるからだ。

そして、国会での与野党の論戦のゆくえと、国民がどのように受け止め、評価するか、”新年の政治の核心”は「世論の動向」がカギを握っているとみる。

こうした世論の動向は、政治の側に跳ね返り、岸田政権や与野党の新たな動きを生み出していく。2023年の政治のゆくえを分析、展望する。

春に統一地方選、大きな選挙がない年

初めに今年の主な動きをみておきたい。◆日本は1月から、国連の非常任理事国の任期が始まり、G7=主要7か国の議長国を務める。

このため、岸田首相は1月上旬にフランス、イタリア、イギリスを歴訪し、G7各国に協力を要請する。続いて、カナダを経由してアメリカに入り、13日にバイデン大統領と日米首脳会談を行う日程で調整が進められている。

◆1月下旬には通常国会が召集され、与野党の論戦が始まる。新年度予算案などの審議が行われ、会期は150日間で、6月下旬まで続く。

◆3月下旬からは、4年に1度の統一地方選挙が始まる。◇前半戦は、4月9日に9つの道府県と6つの政令指定都市の長、41道府県と17政令市の議員を選ぶ投票が行われる。

◇後半戦は、23日に市区町村の長と議員の投票が行われる。当日は、衆参両院の統一補欠選挙、衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区などの投票が行われる。

◆5月19日から21日の日程でG7サミットが、岸田首相の出身地である広島市で開かれ、各国首脳が集まる。

◆9月末になると岸田首相の自民党総裁としての任期切れまで1年になる。自民党役員人事や内閣改造が行われ、総裁選をにらんだ動きが始まる見通しだ。

このように今年は春に統一地方選挙や衆参の補欠選挙が行われるものの、衆議院が解散されない限り、全国規模の国政選挙、大きな国政選挙がないのが特徴だ。

衆院解散、首相退陣の確率は低いか

さて、その解散・総選挙だが、衆議院議員の任期満了は再来年・2025年の10月、参議院議員の任期満了は同じ年の7月だ。

政界の一部には、5月のG7サミットを終えた後、内閣支持率が上がった場合、岸田首相は衆議院の解散・総選挙に踏み切るのではないかとの観測がある。

岸田首相は年末、民放のBS番組で、防衛増税の実施前に衆院選が行われるとの認識を示したが、こうした早期解散を念頭に置いているのかもしれない。

但し、岸田内閣の支持率は政権発足以来、最も低い水準に低迷したままだ。好転する材料は乏しいとして、与党内では解散には踏み切れないだろうとの見方が多い。

一方、4月の統一地方選挙で自民党が不振の場合、「岸田降ろし」の動きが出てくるとの見方もある。しかし、与党幹部は、地方の選挙結果が首相の進退につながることはほとんど考えられないとして、否定的だ。

自民党内は、安倍元首相が亡くなった後、最大派閥の安倍派の会長は未だに決まっていない。また、岸田首相に対する批判が強まっても0、批判勢力をまとめあげていくリーダーが見当たらないとして、年内の政変を予想する見方は少ない。

このようにみてくると新年は、衆院解散・総選挙や、首相退陣といった政変が起きる確率はかなり低いとみている。

国会論戦、防衛政策の大転換が焦点

それでは、新年の”政治の変数”は何か。大きな要素は、岸田政権が長丁場の通常国会をどのような形で終えるかではないか。

岸田政権は年末、向こう5年間の防衛費を1.5倍の43兆円に増やすとともに不足財源1兆円を増税で賄う方針を決めた。また、原発政策では、既存原発の60年を超える運転を認めることや次世代型の原子炉の開発・建設に取り組む方針をまとめた。いずれも歴代政権の政策を大きく転換する内容だ。

自民党の閣僚経験者に聞くと「防衛のどの分野を強化するのかという中身と、そのための安定財源、予算規模はこうすると論理的に説明できていないので、国民の理解を得るのはたいへんではないか」と国会乗り切りを危惧している。

野党の幹部は「政府・与党の方針は初めに規模ありきで、43兆円もの巨額予算が必要なのか精査する必要がある。また、軍備優先で、外交視点が欠落している。特に財源は、安定財源と言えるのか疑問だ」として、徹底追及する構えだ。

原発政策をめぐっても東日本大震災の福島原発事故の後、政府が示してきた原子力政策を大きく変更する内容だけに激しい議論が交わされる見通しだ。

このほか、年末に秋葉復興相が辞任するなど4閣僚の辞任ドミノを引き起こした岸田首相の任命責任をはじめ、旧統一教会の解散請求や被害者救済への取り組み、40年ぶりの物価高騰や世界的な景気減速への対応など難問が目立つ。

野党側は、第1党の立憲民主党と第2党の日本維新の会が去年の臨時国会に続いて、通常国会でも連携を継続する見通しだ。焦点の防衛費をめぐっては、政府・与党の増税方針に対して、両党は行財政改革で財源を捻出する対案を検討していくことにしており、与野党が真正面からぶつかり合うことになりそうだ。

去年の臨時国会は、旧統一教会問題で久しぶりに野党の攻勢が目立った。通常国会では、政府・与党と野党のどちらが主導権を確保するのか、岸田政権の政権運営とともに大きな注目点だ。

世論がカギ、政権・政局のゆくえ左右

こうした与野党の論戦を通じて、国民は大きな政策転換を打ち出した岸田政権をどのように評価するのか。この点が、”新年の政治の核心”とみる。

報道各社の世論調査をみると、国民は防衛力整備については賛否が分かれる一方、財源確保のための増税については、6割以上が反対している。政府の方針に対する国民の評価は、まだ定まっていないようにみえる。

加えて自民党内は、最大派閥・安倍派を中心に国債発行論が根強い。また、岸田政権は増税方針を打ち出す前の党内調整が弱く、政策の打ち出し方が稚拙などと不満や批判が数多く聞かれる。

それだけに年明けの通常国会で、岸田首相が説得力のある説明をできるかどうか。そして、国民の支持を得ることができるかどうか、今後の政権運営に当たって極めて大きな意味を持つ。

岸田内閣の支持率は、12月中下旬に行われた世論調査ではいずれも3割台前半から半ば(朝日31%、共同33%、日経35%)に止まり、低迷が続いている。国会論戦を通じて支持が広がらないと、危険水域とされる支持率30%割れの事態も予想される。

自民党の長老に向こう1年の見通しを聞いてみた。「自民党は、衆参の選挙や総裁選といった大きな選挙がないと動かない。岸田首相は低空飛行が続くだろうが、政権を投げ出すタイプではない。また、取って代わる人物がいないので、ズルズル続くのではないか」との見方だ。

そのうえで「政局は大きな選挙を控えて動く。本格的な動きが出てくるのは、再来年の連休明けくらいか。今年は、再来年に向けた備えの年ではないか」と語る。

自民党内は安倍元首相が亡くなった後、最大派閥・安倍派のゆくえが、未だに定まらない。麻生、茂木、岸田の各派はいずれも出身閣僚が更迭となり、そのほかの派閥も問題を抱え、各派総崩れ状態、態勢の立て直しを迫られている。

このため、冷静にみると”自民党内政治”が大きく動く可能性は、小さい。2023年の政治は”政局よりも政策”、防衛問題を軸に国会の論戦がどのように展開するか。

また、国民の評価と支持が、岸田首相や、新たなリーダー候補、野党側のどこに向かうのか。そうした結果が政治の側に跳ね返り、与野党に新たな動きを引き起こす。今年の政治は「世論の動向、世論の風の吹き具合」がカギを握るとみている。(了)

”防衛増税 反対6割”政権運営に影響も

我が国の外交・安全保障の基本方針を盛り込んだ国家安全保障戦略など3つの文書が改定され、16日閣議決定された。

防衛力を抜本的に強化するための予算の財源として、1兆円の増税方針も与党の税制改正大綱に盛り込まれた。

岸田首相は当日の記者会見で「国家、国民を守り抜く総理大臣としての使命を断固として果たしていく」と胸を張った。

今回決定された内容は、戦後の安全保障政策を大きく転換するもので、国民はどのように受け止めるのだろうか、個人的に大きな関心を持ってきた。その国民の受け止め方について、報道各社の世論調査がまとまった。

それによると各社の調査とも、今回の防衛増税については「6割以上が反対」という厳しい受け止め方をしていることが浮き彫りになった。

こうした世論の動向は、防衛財源をめぐる議論に当たって大きな意味を持つ。同時に年明け以降の岸田政権の政権運営にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。

 防衛費増は賛否拮抗、増税に強い反対

報道各社の世論調査は17、18の両日行われ、朝日、毎日、産経、共同の各社の調査結果がそれぞれ報道されている。

▲政府は、防衛力を抜本的に強化するため、2023年度から5年間の防衛費を1.6倍の43兆円とする方針を決めた。こうした防衛費の賛否について、各社の調査結果は、次のようになっている。

◇朝日は賛成46%ー反対48% ◇毎日は賛成48%ー反対41% ◇産経は評価する46%ー評価しない48% ◇共同は賛成39%ー反対53%

社によって多少のばらつきがあるものの、賛成と反対に二分されており、その比率はかなり拮抗している。

▲政府・与党は、防衛力を整備する財源として、およそ1兆円増税する方針を決定したが、どのように評価するか。

◇朝日は賛成29%ー反対66% ◇毎日は賛成23%ー反対69% ◇産経は評価する26%ー評価しない70% ◇共同は支持する30%ー支持しない65%

各社の調査とも賛成は3割以下に止まり、反対は6割以上で共通している。反対の割合は、65%以上から70%と多い。3人のうち2人の割合で、反対または支持・評価しないという厳しい受け止め方をしているのが特徴だ。

 順序が逆、防衛力の中身知らされず

それでは、岸田首相にとって誤算はどこにあったのか。1つは、増税に関する情報、説明が圧倒的に不足していたことが、わかっていなかったのではないか。

岸田首相が防衛力整備に具体的に踏み込んだ発言をしたのは11月28日が最初で、防衛費をGDPの2%水準にするよう指示した。その翌週12月8日には増税の検討を指示し、その後わずか1週間で増税内容を決めたことになる。国民の多くには、拙速と映ったのではないか。

次に議論の進め方の問題もある。防衛力を抜本的に強化するのであれば、その内容、目的などを明確に十分説明したうえで、財源を検討、その上で、年末の予算編成時に予算内容を提示するのが、本来あるべき望ましい進め方だ。

ところが、今回は「順序が逆」で、増税の議論が先行、後から防衛3文書の中身が公表となり、国民に対して不親切という指摘は与党幹部からも聞かれた。

さらに、増税の内容やタイミングの問題もある。例えば、東日本大震災の「復興特別所得税」の転用、目的外使用とも言える筋の悪い提案が出てきた。

あるいは、国民が物価高に苦しんでいる時期であることや、企業が賃上げに乗り出そうとする矢先で、経済政策の面からも失敗といった酷評も聞かれた。

このように防衛力整備の内容や意義を国民に十分説明しないまま、増税論が先行し、混乱したツケが、政権側に跳ね返る構図になっている。

    ”竹下流、覚悟や段取りなし”

増税実施に当たって、国民の理解を得るのはどの政権にとっても難しいのは事実だ。但し、岸田政権の対応は余りにも「覚悟と段取り」が乏しいと感じる。

新たな方針を決めた日の記者会見で「増税のプロセスが拙速ではないか」と聞かれたのに対し、岸田首相は「プロセスに問題があったと思っていない。昨年の暮れから議論を進めていた」と反論した。そして、関係閣僚をはじめ、政府の有識者会議などにも諮り議論を重ねてきたことを強調した。

だが、増税の問題は、国会などでの議論を通じ、繰り返し説明することで国民に説明・説得できるかが重要な点だ。昭和や平成前半の首相や政権幹部は、国会での与野党の質問者の背後にいる国民を意識し、答弁する人が多かったと思う。

その典型が、消費税導入に取り組んだ竹下元首相だ。「たとえ、いかなる困難があろうとも、もし聞く人がなくとも『辻立ち』してでもわが志をのべる」と訴え、野党の追及にも耐え、段取りを整えながら法案の成立にこぎ着けた。

これに対して、安倍政権以降この10年、国会での議論を嫌がり、もっとはっきり言えばムダと考える閣僚や幹部が増えたように思う。

岸田政権もこの延長線上にあり、政権内での議論は続けるが、世論に向き合い、意見を分析しくみ上げる力が弱いのではないか。旧統一教会の問題に続いて、今回の防衛問題でも同じような失敗を繰り返しているように見える。

具体的には今年5月、来日したバイデン大統領との会談で岸田首相は「相当な防衛費の増額」を約束しながら、国会や国民に対する掘り下げた説明はみられなかった。竹下元首相流の覚悟や段取りはみられなかったと言わざるを得ない。

世論への向き合い方が弱ければ、内閣支持率の下落は避けられない。報道各社の今月の内閣支持率をみるといずれも30%台前半で政権発足以来最低の水準に落ち込んでいる。不支持率は、5割から6割台にも達している。

内閣支持率は、旧統一教会関連の新法成立が評価されて、いったん下げ止まりとみられていたが、防衛増税の問題で再び、歯止めがかからなくなった。

年末の予算編成を終えても支持率が大幅に上昇するような材料は、見当たらない。世論の動向は、岸田政権の今後の政権運営にも引き続き、大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

このため、年明けの通常国会までに防衛問題などで国民の理解と支持を得られるかどうかは、岸田政権の政権運営にあたっての大きな難問、難所になるとみられる。

その際、岸田首相が国民に真正面から向き合い、段取りを設定しながら着実に懸案を処理できるかどうか、難しいかじ取りを求められる年になるのではないか。(了)

迷走 “防衛増税”どうなるか?

防衛費増額の財源をめぐって、岸田首相の対応と自民党内の議論が迷走している。岸田首相は13日朝、自民党本部で開かれた党の役員会で「責任ある財源を考え、今を生きる国民が自らの責任として対応すべきものだ」と増税の意義を力説した。

増税の具体案づくりが大詰めの段階で、しかも党役員の面々を前に「あるべき論」を持ち出さざるを得ないところに岸田首相の苦境がうかがえる。

自民党は13日から税制調査会で議論を始めたが、増税に反対意見が噴出し、今週中に与党の税制改正大綱の決定にまで持ち込めるかどうかメドがたっていない。防衛増税をめぐる迷走の事情と、どんな対応が必要なのか探ってみたい。

 強まる反発「復興特別所得税」転用

まず、頭の中を整理するために岸田首相の防衛財源をめぐる対応を手短にみておきたい。先の臨時国会最終盤の11月28日と12月5日、岸田首相は浜田防衛、鈴木財務の両閣僚を呼んで、27年度に防衛費をGDPの2%、5年間で総額43兆円の規模とするよう指示した。

続いて12月8日、今度は政府与党政策懇談会で、防衛財源確保のため、歳出削減などを行っても不足する財源、1兆円余りを増税で賄うよう与党に検討を指示した。

これに対して、閣内から西村経産相や、高市早苗・経済安保担当相が、多くの企業が賃上げや投資に意欲を示している時期に増税は避けるべきだとして、慎重な対応を求めた。

また、萩生田・政調会長も直ちに増税で対応するのではなく、国債の追加発行もありうるとの考えを打ち出した。首相と党の政策責任者の考え方の違いが表面化するのは、この10年なかったことだ。

こうした中で、11日に開かれた自民党税制調査会の幹部の会合で、不足する財源対策として、復興特別所得税を転用する案が示された。

この復興特別所得税は、東日本大震災の復興に協力するため、2013年から25年間、所得税の2.1%上乗せして7.5兆円の復興財源を確保する税制だ。

ところが、この「復興特別所得税」の転用が浮上したことで、自民党内の増税反対論が一気に広がった。国民負担は増やさないという岸田首相の表明に反することに加えて、復興財源に手をつける悪手の印象を与えたからだ。

 背景に選挙、先送り体質、後継問題も

それでは、自民党内でこうした反対論が強まるのはなぜか。1つは、来年4月の統一地方選挙を控えて、増税を打ち出されては選挙が逆風となると受け止める議員が多いことがある。

また、自らを支持する業界関係者などへの配慮に加えて、国民負担の増加は自らの政治活動にも悪影響を与えるので、先送りにしたいという根強い体質があると思う。

さらに、自民党最大派閥、安倍派の後継問題も絡んでいるから複雑だ。安倍元首相は防衛力を大幅に増強するとともに、経済再生優先の立場から増税ではなく、国債発行で対処すべきというのが持論だったとされる。

このため、萩生田政調会長をはじめ、西村経産相、世耕参院自民党幹事長ら安倍派の幹部は、安倍元首相の遺訓に従い、国債発行路線を簡単に変更できない事情があるとの見方が多い。

端的に言えば、派閥の跡目争い、政争の思惑も絡むので、政策論で議論を尽くせば、対応策が1つに集約されるほど簡単のものではないことは予想がつく。

しかし、国の重要な防衛政策がこうした派閥次元の事情で、方針決定が先送りされるようなことが許されるはずがない。

 財源先送りでなく、政治決定できるか

それでは、これから、どんな展開になるのだろうか。14日に開かれた自民党税制調査会で、宮沢洋一税調会長ら幹部は、法人税、たばこ税、復興特別所得税の3つの税目を組み合わせた増税案のたたき台を示した。

但し、具体的な税率や実施時期は示されておらず、今後、意見を集約し、今週中に与党の税制改正大綱をとりまとめることができるかどうかが焦点になる。

一方、防衛力整備と財源確保の進め方をどのように考えたらいいのだろうか。国民の評価が決め手になるので、今月12日にまとまったNHKの世論調査のデータでみておきたい。

◆まず、政府が来年度から5年間の防衛予算を総額43兆円に増額する方針については、賛成が51%に対し、反対は36%となっている。

◆次ぎに防衛費の財源として、法人税を軸に増税を進めるとしている方針については、賛成は61%で、反対の34%を上回っている。

つまり、防衛予算を増やして整備を進めるとともに、そのための財源として、法人税を軸に増税は必要だと考える人が多いことが読み取れる。

調査の時点では、復興特別所得税は検討対象になっていなかったので、この税目が入ると数値が変わる可能性があるが、傾向は大きくは変わらないのではないか。

こうした世論の動向を基に、岸田政権の対応を評価してみると、国民の関心が強い防衛力整備の中身や構想について、政府の説明がほとんどなく、増税が先行しているのは、本末転倒でおかしいと受け止めているのではないか。

岸田政権の対応は、重要課題の方針決定までの手順、段取りが不十分で、国民への説明ができていない点が大きな問題ではないかとみている。

一方、自民党内の議論や対応については、岸田首相の増税案に対する批判は強いが、代替財源をどうするのかの議論は深まってはいない。

仮に国債を発行する場合、返済の財源は何か、いつから返済を開始するのかを示さないのは無責任だ。そうした先送りを続けてきた結果が、今の国債発行残高1400兆円の借金の山で、国民は不信感を抱いている。

岸田首相は、これまで防衛力の内容、財源、予算の3つを一体として議論し決定すると再三再四、強調しながら実行できなかったツケが、顕在化している。

中曽根政権のような目標を明確に打ち出し決断・実行する力や、竹下政権のような段取りの用意周到さが、岸田政権には欠けているのではないか。

政権与党はもう一度、原点に戻って、防衛力整備の構想と内容を明確にしたうえで、必要な財源の再検討、その結果を予算案として提示する手順を踏む必要があるのではないか。

時間がないとの反論があるかもしれないが、90年代初めの細川政権下では、当時大きな焦点だった政治改革法案を優先し、予算編成が越年したこともあった。

今回の防衛力の抜本強化は、戦後の安全保障政策を大きく転換する重い内容だ。それにふさわしい十分な議論と国民への説明を尽くす覚悟と決意があるのか、国民は政権の対応を見極めようとしているのではないか。(了)

★追記(15日21時45分)◆ブログ原稿冒頭部分関連。岸田首相が13日自民党役員会で行った挨拶「今を生きる国民」→「今を生きるわれわれ」に修正。自民党が、発表に誤りがあったとして、修正した。                 ◆自民党税制調査会は15日、防衛増税策について、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目を組み合わせる案を了承した。増税の施行時期については、いずれも「令和6年=2024年以降の適切な時期」としている。実施時期などは、事実上の先送りで、来年改めて議論を行うものとみられる。

順序が逆では! 岸田政権の防衛力整備

新年度予算の編成を控えて、最大の焦点である防衛力の強化と財源確保に向けた動きが、本格化してきた。岸田首相は8日、防衛予算の財源を確保するため、増税の検討に入るよう自民、公明両党に要請した。

岸田首相は、このところ防衛予算の規模や財源をめぐる指示が目立つが、防衛力整備の構想や中身の言及がほとんどみられない。

今回の防衛力整備は、戦後の安全保障政策の大転換となる。そうであれば、防衛力整備の考え方などを明確にしたうえで、予算の規模や財源の検討に入るのが基本ではないか。岸田政権の対応は、順序が逆に見える。防衛力整備の進め方や問題点を考えてみたい。

 歳出改革などと1兆円規模の増税案

まず、岸田首相の最近の対応からみておきたい。岸田首相は先月28日に鈴木財務相と浜田防衛相と会い、2027年度に防衛費と安全保障関連経費を合わせてGDPの2%に達する予算措置を講じるよう指示した。岸田首相が、防衛費の水準について言及したのは、これが初めてだった。

続いて今月5日には、来年度から向こう5年間の防衛費について、総額43兆円を確保する方向で調整を進めるよう踏み込んだ。

さらに8日の政府与党政策懇談会で、岸田首相は「防衛力を安定的に維持するためには、毎年度4兆円の追加財源が必要になる。歳出改革や税外収入などで賄うが、残り1兆円強は、国民の税制でお願いしたい」として、与党に増税を検討するよう要請した。

政府・与党は、増税の開始時期については、来年度の増税を見送り、その後、段階的に税率を引き上げ、2027年度の時点で、年間1兆円の増税をめざす方針だ。その際、個人の所得税は対象から外し、法人税を中心に検討する方針とみられる。

 岸田政権は予算先行、防衛構想提示を

このように岸田政権の方針・対応は、防衛予算の規模や財源確保を先行させているのが特徴だが、これをどのようにみたらいいのだろうか。

岸田首相は今の国会で、与野党双方から防衛力の規模や財源について幾度となく質問されたのに対し、「防衛力の内容、予算の規模、財源を一体的かつ強力に進めていく」と繰り返し、具体的な内容に踏み込むのを避けてきた。

いわゆる3点セット、三位一体で議論し決定するという考え方だが、今の首相の対応は、これまでの国会答弁から外れている。

一方、国民の側からすると、今の中期防衛力整備計画の5年間で27.5兆円の規模を、新たな計画で43兆円へ1.6倍も大幅増額し、どのような分野を強化するのか最も知りたい点だ。

ところが、こうした防衛力の中身や考え方が、首相の口からは一向に語られない。順序が逆で、国民が知りたい、肝心な点がさっぱりわからない。

防衛力整備の基本構想、内容を早急に明確にしたうえで、財源を幅広く検討、最終的な予算の内容を固めていくことが必要だ。

 財源の先送りは止め、責任ある対応を

もう1つの論点は、防衛力整備の財源をどうするかという問題がある。岸田政権の方針に対し、自民党内には、来年の統一地方選挙への影響などを考慮して、増税の議論を急ぐべきではないといった慎重論も出されている。

結論から先に言えば、防衛費を増やす場合、安易に国債・借金に頼って負担の問題を先送りするような対応は取るべきではないと考える。既に借金財政は、1400兆円を上回る。

もちろん直ちに来年から増税とはいかない場合はあると思うが、その場合でも財源については、税目を含めた増税や実施時期を法案に明記すべきだと考える。

また、今回、政府・与党は、5年後の時点で増税規模1兆円という試算を示している。これが事実だとすれば、個人的な予想に比べると負担の規模が小さい印象を受けるが、こうした試算の根拠を詳しく説明してもらいたい。

こうした背景には、コロナ禍からの経済の回復や円安などで法人税が好調で、国の税収が3年連続で過去最高水準が見込まれていること、コロナ対策の剰余金の活用などが想定されているのではないかと思われるが、見通しは正確か。

一方、防衛装備品などは、契約時から実際の納入時期の間に価格が大幅上昇したりするケースが多い。防衛装備の歳入、歳出両面での改善も含めて、国民に十分な説明を願いたい。

これから年末に向けて、国家安全保障戦略など安保関連3文書も改訂される。日本の安全保障の構想・戦略と合わせて、防衛力整備の中身の議論を深めてもらいたい。

防衛費の増額そのものについても国民の賛否が分かれるが、防衛力整備は可能な限り幅広い国民の理解と合意が重要だ。私たち国民も激しい国際情勢の変化の中で、防衛力整備をどう進めるか、政府案の決定をじっくりみていきたい。(了)

”師走政局” 新法、防衛で攻防続く

今年も残り1か月、内閣支持率の下落が続く岸田政権は、最終盤に入った臨時国会を乗り切ることができるかどうか、ヤマ場にさしかかっている。

物価高騰対策を盛り込んだ第2次補正予算案は、ようやく今月2日に成立する運びだ。一方、旧統一教会の被害者救済法案をめぐっては、与野党が歩み寄ることができるかどうか、ギリギリの調整が続いている。

さらに最大の焦点になっているのが防衛費の問題だ。岸田首相は28日、防衛費と関連経費の合計をGDP比で2%にするための財源確保措置を決める方針を打ち上げたが、財源の扱いをめぐって自民党との意見の違いが表面化している。

”師走政局”は、救済新法をめぐる与野党の最終決着の仕方と、防衛費の政府・与党内の調整が大きな焦点になりそうだ。その結果によっては、岸田政権の求心力はさらに低下する事態も起こりうるのではないか。

 辞任ドミノ、秋葉復興相は続投か

今月10日に会期末が迫った臨時国会からみていくと、岸田政権が最優先に位置づけている総額28兆9000億円の補正予算案は、寺田前総務相の更迭の影響を受けて当初の予定より遅れ、2日の参議院本会議でようやく成立にこぎつける見通しだ。

補正予算案の審議の中で野党側は、秋葉復興相に照準を合わせて追及した。事務所家賃の不明朗な支払いをはじめ、旧統一教会との新たな関係、さらには昨年の衆院選挙で自らの秘書2人が車上運動員として報酬を受け取っていた問題などを取り上げ、集中砲火を浴びせた。

これに対し、岸田首相は「秋葉大臣は、国会でさまざまな指摘を受け、それにしっかり説明責任を果たせるよう努力している」として、野党側の更迭要求には応じない考えを示した。

岸田首相としては会期末を控えて、4人目となる閣僚の辞任は何としても避けながら、この国会を乗り切りたい考えだ。

 旧統一教会救済新法 ギリギリの攻防

臨時国会で最後に残っている案件が、旧統一教会の被害者救済の新法の扱いだ。岸田首相が途中、積極姿勢に転じたことで与野党の協議が続けられ、政府が新たな条文案を提示する段階まで進んだ。

政府・与党と野党側双方とも、この国会で新たな法案を成立させたいという方向では一致しているものの、被害者の救済に実効性があるかどうかという点で、与野党の間には、なお、意見の隔たりがある。

具体的には、野党側が、マインドコントロールによる悪質な献金を禁止する、より強い条文を求めている。これに対し、政府・与党側は、マインドコントロール状態を法律で明確に定義するのは困難だとして、対立している。

政府は、既に国会に提出している消費者契約法案改正案と新法を近く閣議決定して、10日までの会期内に成立させたい方針だ。

この新法については、自民、公明両党と国民民主党は賛成なのに対し、立憲民主党と日本維新の会は「修正が必要だ」という立場だ。

このため、与野党が法案の修正で歩み寄り、成立にこぎ着けるのか。それとも、話し合いが決裂して見送りになるのか。さらには、野党内の対応が分かれて、与党と野党の一部の合意で成立するのか見通しは立っていない。

この法案の最終的な決まり方によって、岸田首相の対応の評価や、立民と維新の野党共闘が最後まで続くのか、崩れるのか、今後の政局に大きな影響を及ぼすことになる。

 防衛費GDP2%と財源 調整は難航か

年末の政治の動きの中で最大の焦点は、防衛費とその財源をめぐる政府・与党の調整になるのでないか。

岸田首相は28日、来年度から向こう5年間の防衛費と関連経費について、GDP・国内総生産の2%に達する予算措置を講じるよう浜田防衛相と鈴木財務相に指示した。

また、岸田首相は、防衛力強化に向けて、財源を確保する措置を年内に決める考えを示し、両閣僚に対し、与党との協議に入るよう求めた。

こうした政府の動きに対し、29日開かれた自民党の安全保障関連の合同会議で「増税を念頭に置いた議論は唐突だ」「税収の上振れ分を活用すべきだ」などといった批判的な意見が相次いだ。

また、萩生田政務調査会長は30日の講演で「将来的には、税で負担して安定財源を確保した方がいいが、当面は、国債や税収の上振れ分で対応すべきだ」として、現時点で増税の議論を行うことに慎重な姿勢を示した。

このように岸田首相は、先に政府の有識者会議の提言に沿って、増税を含めた国民負担が必要だという立場を取っているのに対し、萩生田政調会長は増税慎重論を唱え、双方の立場は大きな開きがある。

自民党の閣僚経験者に聞くと「自民党内の空気は、増税などとんでもない。つなぎ国債発行論が圧倒的に多いのが現状だ。歳入、歳出両面から安定財源をどのように確保していくかの正論がどこまで通用するかわからない」と調整の難航を予想する。

これから年末に向けて、国家安全保障戦略など防衛3文書の改訂をはじめ、防衛力整備の内容、そのための財源、必要な予算の確保などの調整をわずか1か月間で仕上げなければならない。

戦後防衛政策の大転換といわれる今回の防衛力整備をやり遂げることができるかどうか、岸田首相はまもなく胸突き八丁にさしかかる。(了)

※(追記12月1日21時45分:政府は1日、旧統一教会の被害者救済に向け、悪質な寄付を禁止する新たな法案を閣議決定し、国会に提出した。政府・与党は10日までの会期内の成立をめざしている。これに対し、野党側は、まだ不十分な点があるとして、与野党の調整が続く見通しだ。)

 

「辞任ドミノ」岸田政権の師走危機

岸田首相は20日、政治資金をめぐる問題が次々に明らかになった寺田総務相を更迭し、後任に松本剛明・元外相を起用する方針を決めた。

岸田政権は、山際前経済再生相、葉梨前法相に続き、わずか1か月の間に3人の閣僚が辞任に追い込まれる「辞任ドミノ」が現実になった。岸田内閣の支持率は既に33%まで下落しており(NHK11月世論調査)、岸田政権の求心力の低下は避けられない。

閣僚の相次ぐ辞任のケースとしては、竹下政権当時、3人の閣僚が1か月半余りの間に次々と辞任に追い込まれたことが思い出される。いずれもリクルート事件絡みだった。

また、第1次安倍政権では、事務所費問題などで5人の閣僚が、五月雨式に辞任や死亡の動きが続いたほか、麻生政権では、3人の閣僚が不祥事などで辞任に追い込まれた。こうしたいずれのケースとも政権はその後、短期間で幕を閉じた。

相次ぐ閣僚の辞任は、首相への信任や政権の体力を失わせることが多い。岸田政権の場合は、どうだろうか。

結論を先に言えば、懸案や重要政策の決定が年末にかけて集中する形になっており、こうした年末の対応が大きく影響するのではないか。

自民党内で”岸田降ろし”の動きが直ちに出てくる可能性は低いが、岸田政権にとっては、”師走の危機乗り切り”が今後のカギを握っているという見方をしている。以下、その理由・根拠を説明していきたい。

 臨時国会 補正予算、新法の攻防続く

まず、岸田政権の政権運営では、当面、3つの大きなハードルが待ち構えている。1つは、今の臨時国会の乗り切り。2つ目が、安全保障関係の3文書の改訂と防衛費の増額問題。それに3つ目が、新年度予算案の編成と税制改正だ。

このうち、国会からみていくと政府・与党は、21日に国会に提出した第2次補正予算案の早期成立を最優先に臨む方針だ。

これに対し、立憲民主党など野党側は、岸田首相の任命責任を質すとともに、秋葉復興相の「政治とカネ」の問題に照準を合わせて追及する構えだ。

このため、閣僚辞任は寺田氏で幕引きというわけではなく、25日から始まる予定の衆院予算委員会でも激しい攻防が続く見通しだ。補正予算案の成立は12月にずれ込む見通しだ。

もう1つの焦点が、旧統一教会の被害者救済に向けた新法の扱いだ。内閣支持率の急落を受けて、岸田首相は、新法の今の国会への提出と成立に積極的な姿勢を示している。

但し、政府・与党と野党側の間では、信者の寄付の取り扱いなど法案の中身について、かなりの開きがあり、双方が歩み寄って成立にこぎ着けられるかどうか、メドは立っていない。

このため、12月10日までとなっている国会の会期を1週間程度延長することが検討されており、ギリギリの調整が続くものとみられる。国会の最終的な決着の仕方で、岸田政権の評価や影響も違ってくる。

 防衛力整備と財源、国民的議論が必要

2つ目のハードルは、防衛力整備の問題だ。ロシアによるウクライナ侵攻や北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイルの発射などで日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。

岸田政権は、防衛力を抜本的に強化する方針を打ち出し、年末の予算編成の中で、防衛力整備の中身と予算の規模、それに財源を三位一体で決定するとしている。

これを受けて、自民・公明の両党は防衛力整備の中身の検討を進めているほか、政府の有識者会議は、防衛費の増額には安定した財源が欠かせないとして「増税を含めた国民負担が必要だ」とする報告書を、22日に岸田首相に提出する見通しだ。

問題は、与党の幹部や政府の有識者レベルでの議論は進んでいるものの、国会の与野党や国民レベルで、防衛力整備のあり方をめぐる議論が深まっていないことだ。

このため、岸田政権が焦点の「反撃能力」保有の方針を決めたり、増税を含めた国民負担の必要性などを打ち出したりした場合、国民の理解や支持を十分に得られるのかどうか、防衛関係者の中には危惧する声も聞かれる。

岸田政権は、年末に向けて国民的議論をどのように進めていくのか、国民を説得できるのか。その成否は、岸田政権の評価と支持に直ちに跳ね返ってくる。

 新年度予算と政権のビジョンは

3つ目の問題が、新年度予算編成と税制改正だ。岸田首相は就任以来、「新しい資本主義」の旗印の下で「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」の3つを重点分野としてきたが、具体的に何をやり遂げたいのか、未だによくわからない。

岸田首相は、新年度の予算編成と税制改正の決定に合わせて、どのような経済・社会をめざしているのか、政権のビジョン、最重点政策をわかりやすく打ち出す必要があるのではないか。

特に内閣支持率が続落している中では、具体的な目標を明確にし、実行力を証明しないと政権の浮揚は難しい。

今回の閣僚の辞任ドミノに対しては、野党だけでなく、与党からも「岸田首相の決断が遅く、危機感も乏しい」と厳しい批判や不満の声を聞く。但し、今のところ、”岸田降ろし”の動きはみられない。菅政権の末期と違って、次の衆院選挙まで時間があるからだろう。

しかし、岸田政権がこれまでみてきた3つハードルを乗り越えることができない場合、世論の支持率はさらに下落し、”政権のレーム・ダック化”、低迷へと変わる可能性がある。”師走の政権危機”を回避できるか、岸田首相にとって正念場が続く。(了)

 

 

岸田内閣支持率 ”危険水域接近中”

臨時国会は間もなく終盤戦に入り、ヤマ場を迎えるが、岸田内閣の支持率が続落している。報道各社の世論調査の中には、内閣支持率が自民党の支持率を下回って”危険水域”といわれる30%に近づきつつある調査結果もみられる。

岸田首相は、東南アジアで開かれている一連の外交日程をこなしている。これに先立って、財政支出の総額で39兆円にのぼる総合経済対策をとりまとめたが、支持率回復の効果は見られない。

支持率続落の原因については、相次ぐ閣僚の辞任と岸田首相の決断の遅れを指摘する声が多いが、根本は岸田政権の中枢や自民党の体制、構造に問題があるとの指摘も聞く。年末に向けて岸田政権の運営はどうなるか、探ってみる。

自民支持層に”岸田離れ現象”も

報道各社の世論調査で岸田内閣の支持率を見てみると◇読売新聞は支持率36%、不支持率50%(4~6日調査)。◇朝日新聞は支持率37%、不支持率51%(12,13日調査)。◇NHKは支持率33%、不支持率46%(11~13日調査)。

いずれの調査とも岸田内閣の支持率は、去年10月の政権発足以降、最低の水準。支持率を不支持率が上回る”逆転状態”が続いている点でも共通している。

こうした支持率下落の背景としては「死刑のはんこを押す時だけニュースになる地味な役職」などと発言した葉梨法相をめぐって、岸田首相が続投させるとしてきた方針を一転、更迭したことが影響したとみられる。

NHK世論調査では、内閣支持率と政党支持率との関係に新たな特徴が読み取れる。自民党の支持率は37.1%で、7月の参議院選挙以降ほぼ横ばいだ。

これに対し、内閣支持率は33%で、11月の調査で初めて内閣支持率が、自民党の支持率を下回った。これは自民支持層のうち、一定の割合で岸田内閣を支持しない”支持離れ現象”が起きていることを示している。

今の支持率33%は、今後4ポイント以上さらに下落すれば、政権の”危険水域”とされる30%の危険水域ラインを下回ることになる。

岸田政権は物価高騰や円安に対応するため、財政支出の総額で39兆円にのぼる総合経済対策をまとめた。この対策を「評価する」は61%で、「評価しない」の32%を上回ったが、内閣支持率の下落に歯止めをかけるほどの効果はなかったことになる。

政権中枢、自民の体制・構造問題も

それでは、なぜ、岸田政権の支持率がここまで、大幅に下落しているのか。第1に考えられるのが、山際経済再生担当相と葉梨法相の相次ぐ更迭の影響だ。

それに加えて、いずれの閣僚の更迭も、任命権者である岸田首相の判断、決断が遅すぎるという批判が野党だけでなく、与党内からも聞かれた。岸田首相の資質、能力、対応のまずさを指摘する声が相次いだ。

自民党の長老に聞いてみると「第2次安倍政権との比較で言えば、政権中枢の機能、動きに力強さが感じられない。安倍政権当時の今井秘書官、菅官房長官らに相当する存在が見当たらず、真逆の政権だ」と指摘する。

「党の方も高木国会対策委員長と茂木幹事長との連携、全体を取りまとめていく力が感じられない。連立与党の公明党との関係もしっくりいっていないのではないか」と危ぶむ。

総理官邸内の結束力と自民党の統率力、それに双方が支え合う体制に問題ありというのが長老の真意だろう。これが2つ目の問題。

さらに、安倍元首相が銃撃され亡くなって以降、”政権与党の全体を取り仕切る主柱”がなくなったような印象を受ける。それまでは、安倍元首相と岸田首相の2人が一定の距離を置きながら、存在感を発揮し合いながら全体を統率してきた。

ところが、その一方の柱である安倍元首相がなくなり、党内の様相が一変した。その安倍氏が率いてきた最大派閥は、後継の新会長も決められず迷走状態に陥っている。

このように安倍1強体制が崩れ、新たな党内秩序が再構築できず、不安定な構造に陥っているのが根本要因ではないかと思われる。

このため、岸田首相の個人的な資質、求心力の弱さという問題もあるが、根本的には、政権与党の体制と構造に大きな問題を抱えており、政権の立て直しは相当なエネルギーと時間がかかるとみている。

 旧統一教会、防衛費まで政権綱渡り

さて、岸田政権の当面の政権運営と国会・政局の先行きをどうみるか。まず、臨時国会は会期の延長が避けられない情勢だ。

政府・与党は、補正予算案の早期成立を最優先で臨む方針だが、この国会は野党ペースで進んでおり、補正予算案の成立は当初の見通しからずれ込み、12月上旬までかかる公算だ。

また、野党側は、政治とカネの問題を抱える寺田総務相に照準を絞って追及を強める方針で、与党側は3人目の閣僚の辞任、辞任ドミノを警戒している。

さらに、大きな焦点は、旧統一教会の被害者救済の新法が成立までこぎ着けられるかどうかだ。世論調査では、今国会での成立を求める意見が7割と圧倒的多数を占めており、この成否は岸田内閣の支持率にも影響を及ぼす。

さらに臨時国会が閉会した後、年末最大の焦点は、防衛力の整備と防衛予算の扱い問題だ。ウクライナ情勢や北朝鮮の相次ぐミサイル発射、中国の習近平・長期1強体制の継続などで、防衛力整備に向けた世論の理解は進んでいるようにみえる。

但し、岸田政権の防衛論議の進め方には批判も多い。有識者会議を設置して議論を委ねる一方、国会答弁では「整備の中身、予算の規模、財源は三位一体で年末の予算編成時に決定する」と繰り返すばかりで、国民的な議論を深める取り組みはほとんど見られない。

これでは、国家防衛戦略3文書の改訂や、防衛力強化に向けて国民の理解が深まらないと危惧する声は根強い。

このほか、来年はアメリカの景気後退が予想される中で、日本経済の再生や円安などの経済運営にどのような方針で臨むのか、中長期の政策も問われる。

このように岸田政権は、臨時国会での旧統一教会の被害者救済新法から、新年度の税制と予算の編成、防衛力整備などの難題を処理できるのかどうか、綱渡りのような対応を迫られることになりそうだ。

そのうえで、世論の支持に思うような回復がみられない場合、岸田首相は政権や自民党の体制を現状のままで年明けの通常国会に臨むのか、それとも体制の見直しに踏み込むのか、決断を迫られることになるのではないか。(了)

 

法相更迭 ”揺らぐ岸田政権”

岸田首相は11日、「死刑のはんこを押した時だけニュースになる地味な役職」などと発言し批判を浴びた葉梨法相を事実上の更迭に踏み切った。後任には、斎藤健・元農相の起用を決めた。

岸田内閣は、先月24日に旧統一教会の問題をめぐって山際経済再生相を更迭したばかりで、わずか2週間余りで2人目の閣僚の交代に追い込まれた。

岸田首相は東南アジアで開かれる国際会議に出発するため、11日午後に出発予定だったが、出発を大幅に遅らせて12日未明に出発した。岸田政権への打撃は大きく、政権基盤は大きく揺らいでいる。今後の政権運営はどうなるだろうか。

  葉梨法相更迭 ”首相の決断遅すぎ”

まず、葉梨法相の発言をどうみるかだが、法相は死刑の執行命令を発する権限を持っているのをはじめ、国の法制度や、人権問題などを担当する国の最高責任者だ。

その責任者が、死刑を執行した時だけ注目される地味な役職などと言及するのは、余りにも軽率すぎる。

また、葉梨法相の発言は自らが所属する派閥の議員のパーティで、口が滑った発言かと思っていたが、過去に少なくとも4回以上、同じ様な発言をしていたことも明らかになった。これでは、法相としての見識、責任を問われるのはやむを得ないのではないか。

一方、任命権者である岸田首相の対応についても与野党双方から「決断が遅すぎる」と批判の声が強い。松野官房長官は、問題発言のあった翌日・10日の朝、葉梨法相を首相官邸に呼び出し、厳重注意をした。

その当日、参議院法務委員会で野党側の厳しい追及を受け、葉梨法相は発言を撤回し、陳謝したが、与野党からの批判は収まらなかった。それでも岸田首相は10日夜「説明責任を果たしてもらいたい」として続投させる判断をした。

ところが、11日の衆議院法務委員会や参議院本会議などで野党側の追及が続き、岸田首相は一転して、更迭に踏み切る判断に変わり、葉梨法相の辞表を受け取った。

岸田首相が判断を一転させたのは、当初、葉梨法相の発言の撤回と説明で乗り切れると判断していたようだが、足元の与党内からも強い反発を受け、見通しが間違ったことから、方針転換を図ったものとみられる。

岸田首相は10月下旬、旧統一教会の問題で山際経済再生相を更迭する際にも対応が後手に回ったと批判されたが、その教訓は今回も生かせなかった。

 岸田政権に打撃、求心力低下も

さて、岸田政権への影響はどうだろうか。国会の最中に総合経済対策のとりまとめに当たっていた経済再生担当相が辞任したのに続いて、旧統一教会の被害者救済の新法とりまとめにも関係する法相が辞任に追い込まれただけに、政権への打撃は大きい。

野党側は、今月下旬から始まる総額29兆円の大型補正予算案や重要法案の審議をめぐって、攻勢を強める構えだ。また、政治資金の記載漏れが問題になっている寺田総務相や秋葉復興相をターゲットに”閣僚の辞任ドミノ”に追い込むことをねらっており、これを跳ね返せるかが焦点になる。

さらに、岸田政権の支持率下落が続いているが、相次ぐ閣僚の辞任で、岸田首相の求心力が一段と低下するのではないかと懸念の声が与党からも出されている。報道各社の世論調査で、内閣支持率がどのように変化するか注目される。

それでは、岸田政権の政権運営はどのようになるだろうか。今回の問題で、岸田首相の決断力の遅さを指摘する声が多いが、問題はもっと根深いところにあるのではないかとみている。

安倍元首相が銃撃され亡くなって以降、首相官邸と自民党との連携不足が目立つ。臨時国会の会期幅の決定が遅れたり、予算委員会の日程が決まらずに審議が空転するなど異例の事態が相次いでいる。

最近では、山際経済再生相が辞任した直後に、自民党のコロナ対策本部長に就任する人事が行われ、国民への配慮に欠けると反発を招いた。

自民党の長老は「今の岸田政権は、首相官邸内では総理、官房長官、副長官の縦の結合力が弱い。一方、自民党は幹事長、国対委員長、政調会長、それに公明党との足並みがバラバラで統率がとれていない。政権の土台から立て直さないと、岸田政権が求心力を取り戻すのは難しいだろう」と指摘する。

岸田首相は、12日からカンボジア、インドネシア、タイの各国を歴訪し、G20サミットなどの国際会議に出席し、首脳外交を展開する。帰国後の21日からは、補正予算案の審議が始まる見通しで、臨時国会を乗り切ることができるかどうか、正念場を迎える。(了)

 

”政権浮揚も 険しい道” 大型経済対策

11月に入り、臨時国会は会期末まで残り1か月余りとなった。これまでの国会は、野党側が旧統一教会問題を中心に岸田政権を攻め立て、主導権を発揮する場面が目立った。

これに対し、政府・与党側は、先月末に決定した物価高騰対策を柱とする総合経済対策を受けて、裏付けとなる補正予算案を提出、会期内に成立させて、岸田政権の浮揚につなぎたい考えだ。

このため、後半国会では旧統一教会の問題とともに、新たに政府の大型経済対策も焦点になるが、世論の視線は厳しく、政権の浮揚につながるかどうか。岸田首相にとっては、険しい道が続くことになりそうだ。

 電気・ガス料金の負担軽減に6兆円

まず、政府が28日に閣議決定した総合経済対策の中身をみておきたい。財政支出の総額は39兆円に上り、対策の柱としては、家庭の電気やガス料金などの負担軽減策を盛り込んだのが一番の特徴だ。

今回の軽減策で標準的な世帯では、来年前半で4万5000円の支援になると試算されている。この総合経済対策を実施するため、政府は一般会計の総額で29兆1000億円の第2次補正予算案を編成、国会に提出する方針だ。

岸田首相は記者会見で「来年1月からの電気代の負担軽減策や、ガソリン価格の抑制策を来年以降も続けることなどに6兆円を充てる」と説明した。

そのうえで「今回の対策は『物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策』だ。国民の暮らし、雇用、事業を守るとともに、来年に向けて経済を強くしていく」と強調した。

野党 ”対策が遅く、生活支援が弱い”

これに対して、野党側は「政府の経済対策は遅すぎる」と批判するとともに「政府案では、ガス料金の負担軽減を挙げながら、全国で利用の半分を占めるLPガスが対象になっていない」と指摘する。

また、「政府案では6兆円もの巨額な予算を計上しているが、電気、ガス、ガソリンの支援額は、1世帯当たり月額5000円程度にすぎない。企業を通しての支援の仕方にも問題がある」として、5万円の現金給付や消費税率の引き下げなどに対策を切り替えるべきだと主張する。

さらに、野党側は「政府の対策は、物価高騰対策を強調しながら、中身は、公共事業や、予備費の大幅上積みなどあれもこれも詰め込み、肝心の家庭や中小企業への支援が弱い」と今後、政府の姿勢を追及する構えだ。

 世論 ”政府の対策に厳しい評価”

こうした中で、共同通信が10月29、30両日、全国緊急世論調査を実施した。それによると政府の総合経済対策について「期待できる」が27%に対し、「期待できない」が71%に上った。

一方、岸田内閣の支持率は37.6%、前回8、9日両日の調査に比べて、2.6ポイント増えた。不支持率は3.5ポイント減の44.8%だった。支持率は微増に止まり、支持を不支持が上回る逆転状態が続いている。

政府・与党は、総合経済対策に7割の人が「期待できない」という厳しい評価をしていることを重く受け止める必要がある。

こうした理由・背景に何があるのか。1つは、電気、ガス料金の軽減対策は、必要だと一定の評価をしながらも、食料品などの値上げが続いており、政府の物価対策としては不十分と受け止めているのではないか。

また、政府・与党で対策を決める際、財務省の当初案は25兆円規模だったのが、自民党側の要求で一夜で4兆円も積み増しされた。「経済対策の中身より、規模ありき」の姿勢に対する批判もうかがえる。

一方、財政への影響はどうか。補正予算案の規模といえば、数兆円が相場だったが、コロナ対策を機に跳ね上がり、今回も29兆円にも上る。この財源の大半は、赤字国債、借金だ。国の借金は1255兆円、借金財政がいつでも続くはずがない。

さらに、問題の核心は、岸田政権の経済・財政運営にある。つまり、急激な円安に対して、黒田日銀総裁は、金融の大幅緩和策を継続する方針を表明した。

一方、岸田首相は、物価高騰の抑制に全力を挙げる構えで、双方の対策が逆方向に見える。岸田首相は、今後のかじ取りをどのように進めるのか、経済・財政運営の方針をはっきり打ち出してもらいたい。

また、この国会では、旧統一教会の問題、年末に控えている安全保障の3文書の改訂と防衛費の扱いについても、国民の疑問・関心に応えられるようしっかり議論を行うよう強く注文しておきたい。(了)

”幕引き遠い辞任劇”岸田政権

旧統一教会との関係が相次いで明らかになっていた山際経済再生担当相が24日夜、辞任した。岸田首相は後任に後藤茂之・前厚労相を起用する方針を決め、25日夜、認証式を経て正式に就任した。

岸田政権が去年10月に発足して以降、閣僚が不祥事で辞任するのは今回が初めてだ。しかも、総合経済対策の取りまとめやコロナ対策、政権の看板政策である「新しい資本主義」を担当する重要閣僚が辞任するのも初めてで、岸田政権への打撃は大きい。

岸田首相は今月中に総合経済対策をとりまとめ、政権の立て直しを図りたい考えだが、事態収束へのメドは立っていない。岸田政権や政治の対応のあり方を考えてみたい。

 閣僚の更迭、判断遅く、ねらいも不明

まず、今回の辞任劇をどうみるか。山際担当相と旧統一教会との問題は、8月の内閣改造の時から、繰り返し記者会見や国会で取り上げられてきた。これまで2か月半、曖昧な釈明が延々と続いた末の辞任で、遅きに失した辞任と言われてもやむを得ないだろう。

また、任命権者である岸田首相の判断や決断も遅すぎた。内閣改造時の続投の判断が正しかったのか、その後、新たな事実が明るみになったことを考えると、秋の臨時国会前に決断すべきだったのではないかと考える。

さらに、閣僚更迭のカードを切る場合は、事態を鎮静化させたり、区切りをつけるためのシナリオや戦略を描いたうえで決断することが多い。

ところが、今回は、政権内でそうした調整や、野党側との折衝などの動きもみられなかった。戦略的なねらいがはっきりしないまま、切羽詰まった対応で、岸田政権の運営は不安定化しているようにみえる。

 野党 首相の責任追及、辞任ドミノも

これに対して、野党の対応はどうか。25日の衆議院本会議で、岸田首相は辞任の経緯を報告し、「国会開会中に大臣が辞任する事態になり、深くおわびを申し上げる」と陳謝した。

これに対し、立憲民主党など野党側は、岸田首相の任命責任を追及するとともに、旧統一教会と自民党との関係を明らかにするよう迫った。

具体的には、旧統一教会の友好団体が国政選挙で、自民党の国会議員に「推薦確認書」に署名を求めていたとして、党として調査を行うよう求めていく方針だ。

また、細田衆議院議長が旧統一教会側と接点がありながら、説明用の短い文書を出すだけで記者会見などを行わない問題や、「政治とカネ」の問題で寺田総務相や秋葉復興相の責任を追及する構えだ。

この国会は野党側の攻勢が目立ち、与党側には今後”閣僚の辞任ドミノ”につながるのではないかと懸念する声も聞かれる。

このように今回の山際担当相の辞任で、旧統一教会の問題が幕引きとなる状況にはなく、国会後半も引き続き、この問題が焦点の1つになる見通しだ。

 岸田首相 厳しい評価に対応できるか

それでは、岸田首相や与党側はどんな対応が求められているのか。まず、旧統一教会の問題について、国民世論の多くが、岸田首相や自民党の説明は不十分だという受け止め方をしている。

岸田首相らは、国会議員個人が点検し、説明すると繰り返すが、報道各社の世論調査では、岸田首相の対応を「評価しない」という受け止め方が7割以上に達している点を重く受け止める必要がある。

岸田首相や自民党執行部は、第2次補正予算案の提出は11月下旬になる見通しなので、それまでの間は、可能な限り国会での論戦に応じて、旧統一教会問題への対応方針や取り組みを説明し、国民の不信感を取り除く必要があるのではないか。

そうした取り組みを重ねたうえで、物価高騰対策や総合経済対策の説明をしなければ、国民の理解と支持は広がらない。急落している岸田内閣の支持率にも歯止めがかからない事態も予想される。

この臨時国会には、国民の投票権に関係する「10増10減の区割り法案」や感染症法の改正案などの重要法案が提出されており、国民の側としては、議論を尽くして成立させてもらいたい。

一方、政府は年末に、外交安全保障の3文書の改訂や防衛費を増やす問題にも結論を出す。その前に、国会でも与野党が十分に議論を交わしてもらいたい。

このように多くの課題・難題を抱えているだけに、旧統一教会と政治の関係については、早期にメドをつけたうえで、重要な政治課題の議論に入ってもらいたい。

隣国の中国では、習近平国家主席を中心とする長期1強体制が発足するなど国際情勢は大きく変わりつつある。内外情勢の激しい動きに対応していくためにも、与野党が真正面から議論する態勢を早く整えてもらいたい。(了)

 

 

 

 

 

“攻守逆転” 与野党の国会攻防

臨時国会は、前半戦の山場となる予算委員会の基本的質疑が、岸田首相とすべての閣僚が出席して、17日から20日まで4日連続で衆参両院で行われた。

焦点の旧統一教会問題をめぐっては、野党側の攻勢が目立ち、岸田首相は答弁内容を一晩で修正に追い込まれるなど守りの場面が目立った。

旧統一教会をめぐる論点や与野党の構図がわかりにくいといった声も聞くので、岸田政権の対応や思惑などを含めて、臨時国会の攻防の背景を探ってみたい。

 首相答弁異例の修正、与野党協議会も

この臨時国会は、異例の出来事や対応が相次ぎ、驚くことが多い。まず、衆議院予算委員会初日の17日、岸田首相は冒頭、旧統一教会問題について、宗教法人法に基づく「質問権」を行使し、調査を実施するよう永岡文科相に指示したことを明らかにした。

質問権の行使は初めてのケースになり、政権内でも「信教の自由」の関係で慎重論が強かったが、岸田首相は野党の機先を制する形で、新たな動きをみせた。内閣支持率の下落が続く中で、首相の指導力をアピールする狙いがあったものとみられる。

続く18日、岸田首相は旧統一教会の被害者救済に向けて、消費者契約法の改正案などを今の国会に提出できるよう準備を進めると踏み込んだ。

一方、野党側から、宗教法人に対する解散命令の要件を緩めるよう強く迫られたが、この点は、従来の方針を譲らなかった。

ところが、翌19日午前の委員会冒頭で、岸田首相は、宗教法人に対する解散命令を請求する要件について「民法の不法行為も入りうる」との考えを打ち出した。

前日は「民法の不法行為は、要件には含まれない」と譲らなかったが、一晩で一転、従来の答弁を修正した。これには、野党の質問者も「解釈を良い方向に変えるのはいいことだが、朝令暮改にもほどがある」と唖然としていた。

この問題に詳しい専門家は「従来の政府の見解は、要件を狭く解釈しすぎていたので、これを修正することはありうる。但し、政府の対応ぶりは前夜、関係省庁の担当者や首相側近が集まって決定するなど場当たり過ぎではないか」と指摘する。

一方、旧統一教会の被害者を救済するため、自民党、立憲民主党、日本維新の会は19日、公明党も含めた4党で、与野党協議会を設置することで合意した。

被害者救済の法整備は、野党第1党の立憲民主党と第2党の維新が連携して水面下で、自民党に働きかけてきた。こうした野党共闘が、実質的に国会運営をリードし、久しぶりに一定の成果を生み出す形になった。

第2次安倍政権以降、国会運営面で自民党が圧倒的な強みを発揮し続けてきたが、この国会では攻守ところを変えて、野党が攻勢に転じているのが大きな特徴だ。

 乏しい即応力、政権与党の機能低下も

それでは、こうした与野党の攻守逆転は、なぜ起きたのか。1つは、岸田内閣の支持率が急落し、政権発足以来最低の水準にまで落ち込んでいることがある。

岸田首相としては、旧統一教会問題で野党側の追及に対して、後ろ向きの姿勢を示すと、さらに世論の支持離れに拍車がかかる恐れがあり、局面打開のために従来の方針を転換した事情がある。

自民党の長老に聞くと「岸田政権の問題は、対応が遅すぎることと、即応力が乏しい点ではないか」と指摘する。コロナ感染第7波が急拡大した際にもメッセージが出されない。旧統一教会の実態調査、物価高騰対策の打ち出しの遅さなどを挙げる。

さらに、この国会では、山場の予算委員会の設定自体が大幅に遅れた。岸田首相の所信表明演説と各党代表質問が終われば、通常は直ちに予算委員会が始まる。

ところが、国会は1週間以上、異例の”開店休業状態”が続いた。鈴木財務相の国際会議出席の日程が自民党側と共有できていなかったためだ。

こうした問題の背景には、首相官邸と自民党幹事長室、それに国会対策の政府・与党の連携が十分できていないことが浮き彫りになったと言える。

さらには、自民党の石井・参議院議運委員長らが17日夜、岸田首相との会食の後、記者団に対し「衆議院予算委員会が午後5時1分に終わるなど野党側に緊張感がない。それで『瀬戸際大臣』の首を取れるのか」などと発言したことが明らかになり、野党理事が予算委員会の席で抗議する一幕もあった。

政権の命運にも影響する予算委員会の初日の夜、首相と与党幹部が食事をともにしながら懇談すること自体、ありえないことで、一昔前なら”切腹モノ”だ。政権中枢と与党に危機感が乏しく、統治機能の低下が進行しているのではないか。

 国会後半 経済対策と旧統一教会問題

最後に国会後半はどう展開するだろうか。岸田首相は、物価高騰対策などを盛り込んだ総合経済対策を月内にとりまとめ、11月に補正予算案を提出、政権運営の主導権を取り戻す方針とみられる。

問題は、大幅な値上がりが続いている電気料金やガス料金の価格引き下げ幅と仕組みがどうなるのか、対策の中身で評価が大きく分かれる。

もう1つは、この国会の焦点である旧統一教会問題にケジメをつけられるかどうかだ。

この点に関連して、旧統一教会の関連団体が、国政選挙の際に自民党の国会議員と、憲法改正や家庭教育支援法の制定に取り組むよう記した「推薦確認書」を取り交わしていたことが明らかになった。朝日新聞のスクープだ。

この確認書の問題は、自民党が先に所属国会議員に対して行った点検調査には、含まれていなかったとされる。世論の信頼を回復するためには、事実関係の実態調査が引き続き求められることになるのではないか。

また、被害者救済の法案がこの国会で成立するかどうか。政府は、消費者契約法の改正案の提出を検討しているほか、自民、立民、維新の3党は今国会で必要な法案の成立をめざすとしている。

政府・与党と野党側が、法案の扱いで最終的に合意できるのか、まだはっきりしない。岸田首相がこうした一連の問題で、リーダーシップを発揮できるかどうか。

野党側も、立民と維新の足並みが最後までそろうのか。政権与党、野党がともにどのように対応するのか、会期末まで目が離せない状態が続くことになる。(了)

 

袋小路の岸田政権 出口はあるか?

岸田政権は10月4日に発足から1年を迎えたが、報道各社の世論調査によると支持率が続落、いずれの調査でも支持と不支持が逆転している。

国会運営でも政府・自民党の連携不足から不手際が目立ち、政権運営は”袋小路”に迷い込んでいるようにみえる。

17日からは衆議院予算委員会に舞台を移し、一問一答方式の本格的な質疑が始まる見通しだ。与党関係者からは「旧統一教会問題で、野党の攻勢に防戦一方になるのではないか」と懸念の声も聞かれる。果たして、出口を見いだせるのか探ってみる。

 旧統一教会問題、実行力に厳しい目

まず、11日に報道されたNHK世論調査の結果が、今の岸田政権を取り巻く状況を的確に表していると思うので、そのデータから見ておきたい(NHK世論調査10月8~10日実施)。

◆岸田内閣の支持率は38%で、3か月連続で下落が続いており、4割を割り込んで政権発足以来、最も低くなった。不支持率は43%で、支持と不支持が初めて逆転した。

◆9月27日に実施された安倍元首相の国葬について、政府が実施したことを「評価する」は33%に止まり、「評価しない」が54%で上回った。国葬が終わったあとも評価は上がらなかった。

◆旧統一教会問題の岸田首相の対応については、「評価する」が18%に対し、「評価しない」が73%に達した。山際経済再生相の説明には「納得していない」が77%と圧倒的多数を占めた。

◆政府の物価高騰対策については、「評価する」が45%、「評価しない」が47%で、評価が分かれた。

◆発足から1年がたった岸田内閣の実績については、「評価する」が38%に対し、「評価しない」が56%で上回った。

岸田内閣は発足以来、高い支持率を維持してきたが、7月の支持率59%をピークに急落した。その主な要因は、岸田首相が決断した安倍元首相の国葬と、旧統一教会問題への対応にあることが、先のデータからも読み取れる。

また、岸田内閣を支持しない理由をみてみると、これまで「政策に期待が持てないから」が3割台でトップだったが、10月からは「実行力がないから」が39%に達し最多になった。9月に比べて、10ポイントも増えた。

7月は20%、1年前は12%だったので、「岸田首相の実行力」に疑問や不満を抱いている人たちが急増していることも読み取ることができる。

 与党の国会運営、目立つ混乱と防戦

次に国会運営面で、政府と自民党との連携が不足し、信じられないような不手際が相次いでいるのも最近の特徴だ。

臨時国会は3日に召集され、岸田首相の所信表明演説と、これに対する各党の代表質問が3日間行われた。

続いて、衆参の予算委員会に舞台を移して、一問一答方式の本格的な論戦が始まるところだが、鈴木財務相の国際会議出席が政府・自民党間で共有されていなかったため、予算委員会の日程が設定できなくなった。

衆議院の予算委員会は17日からになる見通しで、この間は一部の委員会を除いて、国会は”開店休業状態”が続く異例の事態になっている。

国会日程を巡っては、これより先、野党側に召集日を伝達した際にも、会期幅が決まっておらず、野党側の反発を受けて、あわてて政府・与党の幹部が協議して決定するといった事態も起きた。政権与党の統率力に疑問符がつく事態だ。

 旧統一教会、政権与党の体制もカギ

さて、これからの注目点だが、まずは、17日から始まる予定の予算委員会の質疑のゆくえだ。

野党側は、旧統一教会の問題を巡って、新たな事実が次々に明らかになっている山際経済再生担当相と、説明文書を出すだけで記者会見などに応じない細田衆議院議長について、岸田首相の対応や政治姿勢を厳しく追及する構えだ。

これに対して、岸田首相は、旧統一教会の問題は、政治家個人が自ら点検、説明することが基本だとかわす一方、物価高騰対策が当面の最重要課題だとして、電気料金の抑制に巨額な支援金を出すなど大型の経済対策を打ち出して、反転攻勢をめざすものとみられる。

こうした与野党の論戦と政府の経済対策を、世論がどのように評価するか、国会後半の展開にも影響する。

もう一つは、岸田首相の政権運営だ。夏の参院選挙に大勝したあと、いち早く自ら決断した安倍元首相の国葬方針が、世論の批判を浴びた。また、時期を早めた内閣改造も新たに任命した閣僚などに旧統一教会との接点が明らかになるといった誤算が続いている。

政界の関係者の間では、岸田政権の中枢に問題があるのではないかといった見方や、官邸と自民党幹事長室、国会対策委員長との連携不足や足並みの乱れを正す必要があるとの指摘も聞く。

さらには、安倍1強体制が崩れ、今の政権与党にはそれに代わる新たな柱・体制が整っていない点に問題の核心があるといった意見も聞かれる。

このようにみてくると、まずは、世論が大きな関心を寄せ、政権の基本姿勢にかかわる旧統一教会問題について、岸田政権がけじめをつけることができるかどうか。その上で、政策課題、難題の解決に向けた具体策と道筋を打ち出すことがカギを握っているのではないか。

また、政権運営をめぐる問題は、政権与党内の権力構造に関わる根の深い問題なので、岸田政権が、袋小路から脱出する出口を見いだすのは容易ではないのではないかとの見方をしている。臨時国会は、前半の山場を迎える。(了)

★追記(15日14時45分)国会日程については、岸田首相と全ての閣僚が出席する予算委員会が、衆議院で17日と18日、参議院で19日と20日にそれぞれ開かれることが14日までに決まった。

 

 

“三権の長”の説明責任、旧統一教会問題

旧統一教会との関係をめぐり、細田衆議院議長は再調査の結果、新たに4つの会合に出席し、挨拶していたことを明らかにした。

細田議長と旧統一教会との関係をめぐっては、事実関係の問題とは別に、議長が自ら記者会見や国会での説明に応じていないことが問題になっている。

衆議院議長は、参議院議長などとともに”三権の長”に位置づけられているが、どのような対応が求められているのか、考えてみたい。

 説明は文書配布、記者会見はなし

これまでの経緯を手短に整理しておくと、かねてから旧統一教会との関係が指摘されてきた細田衆議院議長は9月29日に、ようやく「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)との接点を認めるコメントを発表した。

内容は、2018年と19年の関連団体の会合に4回出席したことを認めたもので、A4版の文書1枚が配布されただけだった。野党側は、内容が具体性を欠いており、不十分と強く反発したため、議院運営委員会の山口委員長が、さらに詳しい説明を行うよう要請していた。

これを受けて、細田議長は7日、衆議院議長公邸で山口委員長と自民、立憲民主両党の筆頭理事2人と10分程度面会し、過去10年間さかのぼって調査した結果をまとめたA4版2枚の文書を示し、説明したという。

それによると前回調査の4回とは別に、新たに4つの会合に出席し、挨拶していたことがわかったとしている。また、教会側の関連する会合に祝電を送っていたケースが3件あったことが、新たに判明したとしている。

このほか、教会側に選挙支援を依頼したり、組織的な動員を受けたりしたことはないことなどを記している。

旧統一教会との関係については、後ほど触れるとして、異様に感じられるのが細田議長の対応だ。

最初の説明は、文書の配布だけだ。2回目は、山口議院運営委員長ら3人に文書を示して説明し、その結果を山口委員長が記者団に説明するという回りくどい方法をとっている。

昭和を通り越して、明治時代を連想させるような方法だが、なぜ、こうした方法になるのだろうか。また、こうした対応をどう評価したらいいのだろうか。

 議長の権限は絶大、説明責任も重い

議長の仕事といえば、国会の本会議が開かれた際、中央の議長席で議事運営を指揮することが多い。このほか、天皇陛下がご臨席になる開会式への出席や、さまざまな公式行事に参加することも多い。

国会での議長の職務権限については、国会法19条で「各議院の議長は、その議院の秩序を保持し、議事を整理し、議院の事務を監督し、議院を代表する」と規定されている。

これを整理すると議長の権限は、①秩序維持権、②議事整理権、③事務監督権、④代表権ということになり、幅広く絶大といえる。

例えば、国会で与野党が激突した場合、国会職員の衛視だけでなく、警察官の派遣を要請して院内秩序を維持したこともあった。

本会議中の規律保持も議長が行うので、議員が議場の秩序を乱したり、議院の品位を汚す行為をしたりした場合は、制止や発言取りができる。議長の許可がなければ、議員は演壇に登ってはならないという衆議院規則もある。

話がわき道にそれるが、先に立憲民主党の泉代表が本会議で、細田議長に向かって発言した行為をめぐって、自民党は礼を失するとして抗議した。

泉代表の行為はパフォーマンスに見えたが、細田議長も無礼千万と発言を制止したり、降壇を命じることもできたはずだが、躊躇せざるを得ない心理状況にあったのかもしれない。

話を元に戻すと、衆院議長はこのように絶大な権限を持っている。このことは、逆に個人的な問題などが起きた場合は、国権の最高機関の長として、説明責任を果たす重い責務を負っている。

このようにみてくると細田議長としては、記者会見を行うこと。あるいは、議院運営委員会に出席して自ら説明し、与野党の質疑に応じることも考えられる。議長の発言には制約があるとの説も聞くが、国会法20条には「議長は、委員会に出席し発言できる」と規定されている。

一昔前の話になるが、自民党には「政界の三賢人」と呼ばれた人たちがいた。椎名悦三郎、前尾繁三郎、灘尾弘吉の各氏で、前尾、灘尾の両氏は衆院議長を務めた。公正、公平、清廉潔白などの評価が伝えられている。

細田議長もこうした先人たちにならって、国会の権威や信頼感を維持していくためにも具体的な行動を取ってはどうか。

 事実の解明、議長・国会の重い責任

最後に細田議長の文書を読んでもわからないことが幾つもある。まず、2019年名古屋市で開かれた関連団体の大規模イベントに出席して挨拶し「今日の会の内容を安倍総理にさっそく報告したい」などとのべていたとされる。当時、細田氏や安倍首相は教会側とどのような関係にあったのか。

また、細田氏は、2014年から21年まで自民党最大派閥の会長を務めていたが、この派閥は、旧統一教会とのつながりが深く、参議院比例代表選挙で支援を受けていたとの証言もある。実態はどうだったのか、明らかにするよう求める意見は多い。

安倍元首相の銃撃事件は、戦後初めて首相経験者が殺害された大きな事件だ。捜査当局が容疑者の刑事責任を問うこととは別に、政府や国会もそれぞれの立場から事件の真相や背景を徹底して究明するのは当然のことと思われる。

ところが、日本の政治は国葬の決定は早いが、真相究明への動きは極めて鈍い。欧米では、司法の捜査とは別に、政府の調査委員会を設置したりするのとは大きな違いがある。

細田議長は、自らの問題の説明責任を果たす必要がある。加えて、国会としても事実関係や背景を粘り強く調べていく取り組みはできないものか。

岸田首相も、旧統一教会との関係が次々に明らかになっている山際経済再生担当相の扱いを含め、国民の政治不信にどう応えるかが問われている。

臨時国会は、17日から衆参両院の予算委員会に舞台を移して、一問一答方式の詰めた質疑が始まる。旧統一教会の問題をどのような形で決着をつけるのか、細田衆院議長と山際担当相の問題が焦点になりそうだ。(了)

 

 

”逆風の岸田政権”臨時国会開会

夏の参議院選挙の後、初めての本格的な論戦の舞台となる臨時国会が3日召集され、岸田首相の所信表明演説が行われた。

臨時国会前半の最大の焦点は、旧統一教会と閣僚や自民党議員の関係をめぐる問題だ。野党側は、この問題を集中的に取り上げる構えなのに対し、岸田首相は踏み込んだ対応策を打ち出して、乗り切ることができるのかどうか大きな注目点だ。

続いて、10月中に物価高騰対策を盛り込んだ総合経済対策が取りまとめられ、11月には補正予算案が提出される。臨時国会の後半では、暮らしや今後の経済政策が論戦の中心になりそうだ。

岸田政権は4日に政権発足から1年になるが、安倍元首相の国葬と旧統一教会への対応をめぐって内閣支持率が急落している。果たして、この臨時国会を乗り切ることができるのかどうか、逆風が強まる岸田政権と臨時国会の見どころを探ってみる。

 旧統一教会問題、実態解明は進むか

まず、臨時国会の日程を確認しておくと、3日の岸田首相の所信表明演説を受けて、各党の代表質問が、5日から7日まで衆参両院の本会議で行われる。

通常はこの後、直ちに衆参両院の予算委員会の審議に入るが、今回は、G20財務相・中央銀行総裁会議に鈴木財務相が出席する関係で、予算委員会は17日からの週にずれ込む見通しだ。

こうした国会冒頭の論戦で、野党側は、国葬問題に加え、旧統一教会と閣僚や自民党議員の関係を集中的に取り上げ、岸田政権を追及する構えだ。

具体的には、安倍元首相は旧統一教会との関係で中心的な役割を果たしていたとして、実態を調べるよう求める方針だ。また、最大派閥・安倍派の前会長を務めていた細田衆院議長についても詳しい事実関係の説明を求めることにしている。

さらに山際経済再生担当相については、旧統一教会が主催して開いていた会合に出席し、教団トップの総裁と会っていたことが明らかになるなど関係が深いとして、更迭を求める方針だ。

これに対し、岸田首相は所信表明演説で「国民の声を正面から受け止め、説明責任を果たしながら、信頼回復のための取り組みを進める」とのべ、いわゆる霊感商法はどの被害者救済へ法令などを見直す考えを明らかにした。

一方、安倍元首相の問題については「ご本人が亡くなっており、調べるのは限界がある」として、調査には応じない考えを示している。

但し、この問題をめぐっては、世論も政府・自民党の説明は不十分で、事実関係の調査などを求める意見が多数を占めている。これまでの対応では、内閣支持率の下落に歯止めがかからなくなる可能性もある。

このため、岸田首相としては、従来の方針を繰り返すのか、それとも世論の疑念を晴らすため、踏み込んだ考え方や対応策を明らかにするのか、大きなポイントになりそうだ。

 経済再生を最優先、国会日程はタイト

それでは、岸田首相は、この臨時国会をどのように乗り切ろうとしているのか。

岸田首相は、所信表明演説で「日本経済の再生が、最優先の課題だ」と位置づけ、大型の補正予算案を成立させ、物価高騰対策と経済再生で主導権を確保し、反転攻勢を図る考えだ。

具体的には、物価高騰対策として、今後さらなる価格上昇が予想される電力料金について、前例のない思い切った対策を講じる方針だ。また、構造的な賃上げに向け、人への投資策を5年間で1兆円に拡充するなどの考えを表明した。

問題は、電気、ガス料金の大幅な上昇に加えて、10月は食料品や飲料の値上げが最多となる中で、政府がどこまで有効な対策を打ち出せるかが、カギになる。

政府は10月中に総合経済対策を取りまとめ、第2次補正予算案の成立をめざしているが、予算案の提出は11月になる見通しだ。国民の側からは、もっと早く経済対策を実行に移せないのかといった声も出てきそうだ。

加えて、政府・与党にとって不安材料は、11月は外交日程が数多く入っており、岸田首相の海外出張で、審議日程がタイトなことだ。11月中旬以降、ASEAN関連首脳会議、G20首脳会議、APEC首脳会議が相次いで開かれる。

こうした外交日程が相次ぐ中で、衆議院の1票の格差是正のための10増10減法案や、コロナ感染危機に対応するための感染症改正案も提出される。

政府・与党は、臨時国会の召集時期と会期幅の調整が遅れるなどの連携不足が目立つ。それだけに重要法案の処理を順調に進められるかどうか、不安視する声が与党内から聞かれる。

以上の政治の動きを国民の側からみると、岸田政権は旧統一教会の問題では、実態を調べ、今後の対処方針を明確にして、ケジメをつけられるかどうか。

経済政策については、人気取りの予算のバラマキではなく、本当に必要とされる人たちへの支援になっているか。また、将来の経済社会の発展につながるのかを厳しく見極めていく必要がある。

臨時国会は、岸田政権のゆくえと同時に、安倍長期政権後の日本政治の方向を決める分岐点になるかもしれない。(了)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国葬問題 ”検証と総括が必須”

安倍元首相の国葬が27日午後、東京都千代田区の日本武道館で行われた。式典には、海外からの700人を含め4100人余りが参列し、岸田首相や菅前首相らが追悼の辞をのべた。

このうち、岸田首相は「あなたは憲政史上最も長く政権にありましたが、歴史はその長さよりも、達成した事績によって記憶することでしょう」と安倍元首相の功績を称えた。

吉田茂元首相以来、55年ぶり2例目の国葬だが、国民の評価は分かれ、反対が賛成を上回る異例の事態となった。

加えて、この問題の背景には、旧統一教会と安倍元首相との関係、岸田政権の方針決定のあり方も絡んでおり、国葬と旧統一教会の問題は、”政権の喉に刺さったトゲ”のように見える。

それだけに国葬の式典は終わっても一件落着とはいきそうにない。秋の臨時国会では、岸田政権、与野党ともに「国葬問題の検証と総括」が問われる。

岸田政権は、この問題に真正面から対応しない限り、内閣支持率の回復は難しいのではないか。国葬が残した課題や政権への影響を考えてみたい。

 国葬 首相の説明・調整力に問題

さっそく、国葬が残した課題や政権への影響から、考えてみたい。まず、政府は国葬を閣議決定して実施したが、国民の評価は分かれ、報道各社の世論調査では、反対の方が多かった。

世論は、賛成が3割程度、反対が6割前後と多数を占めた。政府の説明が不十分との受け止め方が7割以上を占める点でも、各社の調査結果は共通していた。

次に岸田政権への影響では、内閣支持率が急落し、支持と不支持が逆転した。その理由は、国葬や旧統一教会の問題が影響しているものとみられる。

それでは、岸田政権の対応は、どこに問題があったのか。政界関係者の見方と世論調査のデータを総合して考えると、次のような点を指摘できる。

1つは、国葬の方針をいち早く決めた岸田首相の判断と対応だ。振り返ってみると、安倍元首相が銃弾に倒れた6日後、7月14日の記者会見で、いち早く表明した。

ところが、この方針は、政権の限られた関係者しか知らされておらず、法的な根拠をはじめ、国会の関与のあり方の検討も不十分などと批判を浴びた。

岸田首相としては、安倍元首相を強く支持した保守層を取り込みたいというねらいがあったのかもしれない。仮にそうだとしても、与野党の党首会談や国会への報告など理解を広げるための方法もあったはずで、浅慮と言わざるを得ない。

2つ目は、国葬の問題の背景には、旧統一教会と政治、特に自民党国会議員との関係がある。世論の側は、その中心に安倍元首相がいたのではないか、事実関係を知りたいという受け止め方が強かった。

これに対して、岸田首相は「本人が亡くなった今、実態を把握することには限界がある」として、調査は行わない考えを示し、世論の支持離れを招く要因になっている。

3つ目は、国葬や旧統一教会問題への対応の問題で、岸田首相は「真摯に受け止め、丁寧に説明する」との考えを繰り返した。ところが、国葬問題の国会での説明は、最初の方針表明から2か月後で、内容も従来の答弁の繰り返しに止まった。

このように岸田首相は、丁寧で低姿勢で対応するのはいいのだが、問題の核心に踏み込む説明がほとんどみられない。また、事態打開の調整や指導力がみられないことも大きな問題点として浮かび上がっているのが、今の状況だ。

 検証と総括、難題乗り切りの試金石

それでは、岸田政権のこれからの対応はどのようになるだろうか。政権の関係者は「政局より、政策だ。物価高騰、景気対策などを打ち出していく」と強調する。

これに対し、野党側は3日召集される臨時国会では、旧統一教会や国葬の問題を集中的に取り上げ、岸田政権を追及する構えだ。

世論の側は「疑惑も政策も両方をきちんとやって欲しい」との考えが多いと思われる。

このため、国葬や旧統一教会の問題について、逃げずに真正面から取り組まない限り、岸田政権が窮地を脱するのは難しい。検証と総括をやり抜くことが、カギになるとみている。

「喉元過ぎれば、熱さを忘れる」。日本人は、大きな出来事などで一時的に議論が盛り上がるが、問題点などを突き詰めないまま、別の問題に関心を移して忘れてしまう習性があるといわれる。

不得手な総括などをきちんと行えるのか。政権、与野党、メデイアが共通して問われる点でもある。

一連の問題の検証と総括は、物価高騰対策や補正予算案の編成、防衛力強化と予算の扱いなどこれから待ち受けている難問を乗り切っていけるのかの試金石ともいえる。

秋の臨時国会、それに安倍氏なき後の日本政治はどんな展開になるのか、注視していきたい。(了)

国葬問題 ”政権の調整力不足”

安倍元首相の国葬が27日に迫っているが、国民の理解が広がっていない。報道各社の世論調査によるとほとんどで「賛成」より「反対」が上回っている。

国葬を巡っては、さまざまな論点があるが、岸田政権の野党に対する働きかけや、国民に対する説得など政権の調整力不足が影響しているのではないかと感じる。

報道各社の最新の世論調査のデータを基に、国葬問題と岸田政権の対応について考えてみたい。

 国葬問題 国民の理解広がらず

さっそく報道各社の最新の世論調査の結果から、見ておきたい。◆毎日新聞が17,18両日行った世論調査では、国葬の賛否については「反対」が62%、「賛成」が27%となった。

◆共同通信が同じ日に実施した調査では「反対」が60.8%、「賛成」が38.5%。◆産経新聞の同じ日の調査でも「反対」が62%、「賛成」が32%だった。

国葬の評価をめぐって、NHKの世論調査では7月の調査では「評価する」が49%で、「評価しない」の38%を上回っていた。ところが、8月に逆転、9月は「評価しない」が57%、「評価する」が32%とその差が広がった。

このように安倍元首相の国葬については、国民の理解が広がっていないことが改めて浮き彫りになっている。

 国民への説明、政権の調整機能の弱さ

それでは、なぜ、国葬について、国民の理解が広がらないのか。先の世論調査では「政府の説明が不十分だ」「岸田首相の説明に納得できない」といった点を挙げる人が全体の6割から7割以上に上っている。

岸田首相は8日の国会での閉会中審査で、安倍元首相が憲政史上最長の任期を務めたことなど4項目を挙げて理解を求めたが、世論調査の結果は、こうした説明に国民の多くは納得していないことを示している。

具体的には、岸田首相がいち早く国葬とする方針を決めた理由は何か、歴代首相経験者と同じ「内閣と自民党の合同葬」ではいけないのか。

法的な根拠として、政府は内閣府設置法を挙げているが、国会で与野党の議論を経て決定するのが適切ではないか。国葬の場合、全額国費で賄うが、全体の経費をなぜ早く示せないのかといった点だ。

いずれも7月の時点から問題になっていた点だが、国会の閉会中審査で議論されたのは9月8日、あまりにも対応が遅い。しかも、岸田首相の説明は当初の4項目の繰り返しで、これでは国民の心に響かない。

国民の理解が広がらなければ、さらに追加の議論を深めることが必要だと思うが、そのような対応は行われなかった。

国葬をめぐっては、与野党の意見が対立していることに加えて、国葬への出席をめぐっては、野党内の対応にも違いがある。さらに世論の評価も分かれているのが実情だ。

こうしたときこそ、政治の側、中でも政権の最高責任者が主導権を発揮して調整機能を果たすことが必要だと考えるが、岸田首相はこうした対応を取らなかった。

国葬をめぐる分断は、政権が野党側に働きかけたり、国会での議論を通じて国民を説得したりする調整機能の弱さ、調整力不足が大きな要因というのが、私の見方だ。

 国葬問題、臨時国会で議論・総括を

さて、国葬については、岸田首相は14日の政府与党連絡会議で「案内状を順次発送しており、各国からの敬意と弔意に対し、礼節をもってお応えする」とのべ、粛々と執り行う考えを強調した。

内外から6400人が参加して盛大に営まれる見通しだが、国民の多数が必ずしも賛意を示しているわけではない状況をどう考えればいいのか、複雑な思いだ。秋の臨時国会では、遅ればせながらも国葬の課題や今後の対応などをきちんと議論して総括してもらいたい。

一方、この国葬問題は、旧統一教会を巡る問題とともに、岸田政権の政権運営に影響を及ぼしている。9月の世論調査の特徴は、岸田内閣の支持率が続落しているだけでなく、初めて支持と不支持が逆転した点だ。

◆9月中旬の朝日新聞の調査では、支持率が41%に対し、不支持率は47%で逆転した。◆毎日新聞では、支持率29%、不支持率64%。◆共同通信は、支持率40%、不支持率47%、◆産経は支持率42%、不支持50%となった。

岸田内閣の支持と不支持の逆転は、7月の参院選挙で大勝した岸田政権の状況が一変したことを意味する。10月3日に召集される秋の臨時国会では、与野党の激しい論戦が交わされる見通しだ。

さらに年末に向けては、物価の高騰対策と補正予算案の編成、コロナ感染対策の法整備、さらにはウクライナ情勢を受けて防衛費の増強という難題が控えている。

国葬や旧統一教会の問題で、岸田政権が国民の疑念や不信感を取り除くことができるかどうかは、難題乗り切りと政権の先行きを左右する大きなポイントとして、注目している。(了)

 

岸田政権”9月危機のゆくえ”

岸田内閣の支持率下落に歯止めがかからない。報道機関の世論調査でみると9月の内閣支持率は下落が続き、内閣発足以来、最低の水準に陥っている。

岸田政権は夏の参院選挙で勝利したのを受けて、7月の内閣支持率は政権発足以降、最高を記録したが、わずか2か月で真っ逆さまに急落した。

理由は、はっきりしている。安倍元首相の国葬と、旧統一教会問題への政権の対応に、国民の厳しい評価と批判が集中しているためだ。

あと半月で、政権発足以来1年の節目を迎えるが、今の状態が続くと岸田政権は低空飛行へと転じる可能性がある。世論調査のデータを基に岸田政権の現状と今後を探ってみる。

 参院選後、政治資産3分の1失う

最初に、岸田内閣の支持率を見ておきたい。NHKの9月の世論調査によると岸田内閣の支持率は40%で、先月から6ポイント下がり、内閣発足以来最低となった。

不支持率も40%で、先月から12ポイントも増加し、内閣発足以来、最も高い水準になった。岸田内閣の不支持率は、2割台と低いのが特徴だったが、先月から一気に倍増した。

内閣支持率は毎月の数字の変動だけでなく、全体の流れと意味を読み取ることが重要だ。岸田政権は7月の参院選挙で勝利したのを受けて、直後の内閣支持率は59%と発足以来、最高を記録した。

ところが、8月は46%、9月は40%と下落を続け、最低の水準まで落ち込み、ついに支持と不支持が並んだ。

7月の参院選挙を起点にみると岸田内閣の支持率は59%から40%へ、2か月で19ポイントも急降下し、減少幅は32%にもなる。

別の表現をすれば、選挙の勝利などで得た”政治資産”の3分の1を2か月で失ったことになる。

ほぼ同時期に実施した朝日新聞の世論調査では、支持率は発足以来最低の41%、不支持は47%に増え、初めて不支持が支持を上回った。岸田政権をとりまく政治状況は、9月に一変した。

 国葬、旧統一教会問題が政権直撃

岸田政権の支持率急落の理由・原因は何か。世論調査の中身をみると安倍元首相の国葬と、旧統一教会の問題が大きく影響したことが読み取れる。

NHK世論調査のデータでは◆国葬を「評価する」は32%に対し、「評価しない」は57%で多数を占めた。7月時点では「評価する」が49%、「評価しない」が38%だったのが、逆転した。

◆政府の国葬の説明については「十分だ」が15%に対し、「不十分だ」が72%にも達する。

◆旧統一教会の問題については、自民党は党所属の国会議員との関係を点検し公表したが、この対応について「十分だ」が22%に対し、「不十分だ」が65%に上った。

 内閣改造、首相説明も効果なし

岸田政権の対応はどこに問題があったのか、今後の政権のゆくえを考えるうえでポイントになる。

途中経過は省略して結論を率直に言わせてもらうと、初動から状況の認識や判断に問題がある。同時に、問題があれば直ちに軌道修正すべきだが、機動的な対応ができていない。

国葬問題についていえば、岸田首相は、安倍元首相が凶弾に倒れた6日後の7月14日には、いち早く「国葬」とする方針を表明した。表明する前に、与野党の党首会談を呼び掛けたり、国会の議院運営委員会で状況報告をしたりすることは考えなかったのか。

あるいは、表明後も8月3日に召集された臨時国会の会期を短期間延長して、質疑を行うことはできなかったのか。その後、国葬をめぐる閉会中審査を行うことで与野党は合意したが、実際に行われたのは9月8日、首相の表明から2か月後だ。

旧統一教会をめぐる問題でも政府は8月15日、閣僚ら政務三役との関係について「個人の政治活動に関するもので、調査を行う必要はない」とする答弁書を閣議決定した。

ところが、閣僚ら三役をはじめ、党所属議員の旧統一教会との接点が次々と明るみになり、党所属国会議員の点検結果を取りまとめ、公表することに追い込まれた。

このように対応が後手に回り、対応策を小出しにする手法に問題があるのは事実だが、根本は、問題が発生した時にどの程度広がりを見せるのか、状況の判断ができていない。

また、機動的に対応策を打ち出していく姿勢に欠けている。その結果、国民への説明は、常に後回しになる。

9月の世論調査では、もう1つ大きな問題が浮き彫りになった。岸田政権は内閣支持率の低下を打開するため、お盆休み前の8月10日に内閣改造・自民党役員人事を前倒しして断行した。

続いて、9月に入って、岸田首相が自ら国葬に関する閉会中審査に出席するとともに、自民党が党所属の国会議員の自己点検結果の公表に踏み切った。

ところが、内閣改造後は一時的でも支持率が上昇するが、今回は下落するという異例の事態が起きた。旧統一教会をめぐる自民党の点検結果の公表後でもに「対応が不十分」とする受け止めが65%にも上った。

いずれのカードとも、事態の鎮静化はできず、政権の浮揚も不発に終わったことがはっきりした。

 世論の支持離れか、事態打開へ動くか

それでは、岸田政権は今後、どのように対応するのだろうか。このまま、手をこまねいていると、世論の岸田政権離れはさらに進むことが予想される。

もう1つは、遅きに失した感はあるが、国葬問題、旧統一教会問題について、世論の理解を得る取り組みを行うかどうかだ。

そのためには、国民の疑念を晴らす取り組みが必要だ。具体的には、旧統一教会とのつながりが深いとされる安倍元首相はどんな関係にあったのか。

また、細田衆院議長は最大派閥の会長時代に接点があったとされるのになぜ、点検対象にならないのか。議長職でも所属会派からの離脱であれば、離脱前の行動を確認するのに問題はないと考えられる。

さらに、岸田政権の中枢の存在である木原官房副長官は、旧統一教会との関係で報告漏れがあり、追加の報告をした。

このほか、旧統一教会との接点があるのに氏名が公表されていない国会議員の存在も指摘されている。要は、岸田首相が派閥の論理に縛られず、事実関係をきちんと調べ、説明責任を果たす覚悟はあるのか、国民は見極めようとしている。

国葬の問題についても岸田首相は丁寧な説明を強調するが、同じ内容の繰り返しに止まり、与野党の意見の対立を打開する内容を示せないのが大きな問題点だ。

今後、野党側から要求のあった国葬の判断基準を検討したり、首相経験者の葬儀の扱いをどのようにするかなど接点を探る動きが出てくるのか、注目される。

以上、見てきたように岸田政権を取り巻く情勢は厳しさを増しているが、自民党内から”岸田おろし”を求める動きは出ていない。

但し、現状のまま推移すれば、岸田政権は世論の支持離れが進み、低空飛行政権へと変わる公算が大きいのではないか。臨時国会の召集前に岸田政権は、新たな行動を起こすことはあるのかどうか、正念場を迎えている。

 

「国葬」国会議論深まらず

安倍元首相の「国葬」をめぐり、国会では8日、岸田首相が出席して衆参両院で閉会中審査が初めて行われた。

野党側は、なぜ、国葬の方針を決めたのかなどを追及したが、岸田首相は従来の説明を繰り返し、議論は深まらなかった。

また、安倍元首相と旧統一教会の関係について、岸田首相は「実態を十分に把握することは限界がある」とのべるに止まった。

岸田首相は国会への出席で、説明責任を果たしたことをアピールしたい考えだが、こうした答弁では国民の納得を得るのは難しいのではないか。

安倍元首相の国葬問題について、主な論点と今後の対応のあり方などを点検してみたい。

 なぜ国葬か?新たな説明見られず

国葬問題をめぐって、国民が知りたいのは、なぜ、国葬にする方針を決めたのかという点だ。国葬は52年前、吉田茂元首相の1件だけで、それ以外の大平、中曽根、小渕の歴代首相は、内閣と自民党の合同葬で行ってきたからだ。

岸田首相は、安倍氏の首相在任期間が8年8か月で、憲政史上最長だったことや、民主主義の根幹である選挙の最中に非業の死を遂げたことなど従来から説明してきた4点を挙げて、国葬とする方針は適切だったと強調した。

これに対し、野党側は、内閣と自民党合同葬はダメで、国葬でなければならない理由の説明になっていないと質したが、岸田首相の説明はなかった。

また、野党側が、国葬にした法的根拠を質したのに対し、岸田首相は、内閣府設置法で、国の儀式は閣議決定でできるとして、問題はないとの考えを示した。

さらに、野党側は、国葬の方針を決める前に、国民の代表で構成される国会で議論したり、与野党の党首会談に諮ったりすべきではないか。今後、首相経験者が死去した場合の扱いの基準や法整備を検討すべきではないかなどと質した。

こうした点について、岸田首相は「国葬は、行政権に属する」などとかわした。このように岸田首相の答弁は、従来の説明の繰り返しに止まり、国民の理解を得るための新たな視点や取り組みについて、踏み込んだ説明はみられなかった。

 国葬の費用 16.6億円改めて説明

第2の論点は、国葬にかかる費用の問題だ。コロナ感染の長期化や物価高騰などで国民生活が厳しくなっている中で、国葬の費用は妥当なのかという問題だ。

この点について、松野官房長官が会場の設営費に加えて、警備や海外要人の接遇費用などを合わせて、16億6000万円程度を見込んでいることを改めて説明した。

そのうえで、岸田首相は「過去のさまざまな行事などとの比較においても妥当な水準だと考えている」と理解を求めた。

野党側は「政府は当初、会場設営費など2兆5000万円しか公表していなかった。費用を小さく見せようとしているのではないか」と批判している。また、今後、費用が膨らむ可能性もあるとして、監視を強めていくことにしている。

 安倍氏と旧統一教会「把握、限界」

第3の論点は、安倍元首相と旧統一教会との関係だ。立憲民主党の泉代表は「自民党内を取り仕切ったキー・パーソンが、安倍元首相だ。党の調査対象から、なぜ、外しているのか」と追及した。

これに対し、岸田首相は「ご本人が亡くなられており、今の時点で実態把握には限界がある。自民党としては点検結果をとりまとめ、社会的に問題のある団体と関係を持たないことを徹底し、国民の信頼回復に努めたい」と理解を求めた。

統一教会との関係をめぐって、自民党は夕方、所属する国会議員全体の半数近くにあたる179人が何らかの接点があったことを明らかにした。また、選挙で支援を受けるなど一定以上の関係を認めた121人の氏名も公表した。

この調査は、国会議員個人の自主点検の結果をとりまとめたものだ。選挙や日常の政治活動でどこまで密接な関係があったのかなどの実態は明らかにされていないが、旧統一教会側が幅広く浸透していたことが浮き彫りになった。

安倍元首相の国葬をめぐって、報道各社の世論調査では、賛否が分かれているが、ほとんどの調査で賛成より、反対の方が上回っている点で共通している。

政府の対応をみていると岸田首相が、国葬とする方針を記者会見で表明したのが、銃撃事件発生から6日目の7月14日で異例の早さだった。

ところが、その後は国会の閉会中審査は先送りし、世論調査で支持率急落を受けて、8月31日の記者会見で急遽、国会出席を表明するなど後手の対応が続いた。

今回、国会の閉会中審査がはじめて行われたが、岸田政権はこれで一件落着と再び、先送りするような対応はやめた方がいい。

国会の議論で明らかになった論点を整理し、与野党をはじめ、国民の多くの賛成を得て葬儀を円滑に実施できるよう環境整備に最後まで努力すべきだ。今一度、これまでの対応を再点検し、国会で議論を深める懐の深い対応が必要ではないかと考える。(了)

 

 

 

岸田政権と9月政局のゆくえ

岸田政権は来月4日に政権発足から1年を迎えるが、ここにきて内閣支持率が急落し、政権発足以来最低の水準が続いている。

凶弾に倒れた安倍元首相の葬儀を国葬とする政府方針の是非をはじめ、旧統一教会と新たに任命した閣僚など政務三役や自民党議員の関係が次々に明るみなり、世論の厳しい批判を浴びているためだ。

岸田首相は近く自ら国会の閉会中審査に出席し、国葬を決断した理由などについて説明する方針だが、野党側は国葬にかかる費用の全体を明らかにするよう求めるなど対決姿勢を強めている。

こうした岸田首相の説明で、事態を沈静化できないと秋の臨時国会だけでなく、今後の政権運営にも大きな影響が予想される。岸田政権のゆくえを左右する9月の政治の動きを探ってみる。

 9月の政治・外交日程 閉会中審査も

まず、9月の主要な政治・外交日程を見ておきたい。国会の動きでは、◆焦点の安倍元首相の国葬をめぐる閉会中審査を8日以降に行う方向で、与野党の調整が進められている。

◆旧統一教会の問題では、自民党が党所属国会議員に求めていた旧統一教会との関係について、10日までの週内に公表される見通しだ。

◆安倍元首相の国葬は9月27日に行われる予定で、この前後に海外から来日した各国首脳と岸田首相との弔問外交が行われる。

◆一方、秋の国連総会が開幕し9月下旬に岸田首相が演説する。◆29日は、日中国交正常化から50年の節目を迎える。

◆このほか、11日は沖縄県知事選の投開票日で、現職と新人3つ巴の選挙戦に決着がつく。◆25日には、公明党大会で新代表が決まる。◆今月末には、秋の臨時国会が召集される見通しだ。

このように秋の政治が本格的に動き始めるが、今年は、安倍元首相の銃撃事件がさまざまな分野に影響を及ぼしている。

特に安倍元首相の国葬と、銃撃事件をきっかけに急浮上した旧統一教会の問題が岸田政権を直撃しており、この問題が秋の政局を大きく左右する見通しだ。

 旧統一教会問題、自民の点検結果は

国葬と旧統一教会の問題で、岸田首相は厳しい状況が続いている。先月末の記者会見で岸田首相は、閣僚などを含む自民党議員と旧統一教会との関係が明らかになっていることを陳謝し、「旧統一教会との関係を断つよう徹底する」と表明した。

また、国葬については、国会の閉会中審査に自ら出席し、説明する考えを明らかにした。こうした方針は当然と思えるが、決定まで1か月半もかかった。

この問題、野党側は「自民党の対応は、議員個人の点検に委ねており、党の調査としては不十分だ」として、厳しく追及する構えだ。

国葬についても法的な根拠が明確でないことに加え、全体の費用がどの程度になるのかも明らかになっていないとして、批判を強めている。

今後の展開はどのようになるか。自民党の点検結果は、当初6日に公表する予定だったが、遅れている。10日までの週内には公表される見通しだ。

野党側は、最も深く関係していたとされる安倍元首相をはじめ、自民党の萩生田政調会長、山際経済再生担当相をターゲットに追及を強めることにしている。

このように一連の問題をめぐっては、自民党の点検結果で、どこまで事実関係が明らかにされるかが焦点だ。与野党の主張や論点などには隔たりが大きいことから、事態が沈静化する公算は極めて小さいとみられる。

 政権浮揚か、低空飛行政権かの岐路

それでは、岸田政権や政局にどんな影響が出てくるか。岸田内閣の支持率は、NHK世論調査で、参院選の大勝を受けて7月は59%と政権発足以来最高となった。ところが、8月上旬の調査では46%と13ポイントも下落、発足以来最低の水準になった。

続いて、8月10日の内閣改造直後に行われた読売新聞の調査では、前回調査から6ポイント下がって51%で過去最低。8月末の朝日新聞の調査でも前回から10ポイント下落の47%、不支持率は14ポイント増の39%で、発足以来最高となった。

報道各社の世論調査で共通しているのは、8月に入って内閣支持率の急落が続いていること。その理由としては、旧統一教会の問題について、政府や自民党の説明が不十分だと受け止められていることが挙げられる。

安倍元首相の国葬方針についても「賛成」より「反対」が多い点で共通している。岸田首相が政権の浮揚をねらって断行した内閣改造・自民党役員人事は、不発に終わったといえる。

自民党長老に岸田政権の評価を聞いてみると「去年秋の衆院選に続いて、夏の参院選でも大勝し、政権は安定するはずなのに足元が揺らいでいる。旧統一教会の問題もあるが、コロナ感染爆発が起きているのにメッセージすら出せていない。やるべきことができていない」と指摘する。岸田首相の発信力や指導力に問題があるとの厳しい評価だ。

旧統一教会の問題が沈静化できない場合は、秋の臨時国会の本番では、野党側がこの問題を集中的に取り上げ「旧統一教会国会」になるのではないかという見方も聞かれる。

臨時国会では、物価高騰やエネルギー対策、経済・暮らしの立て直しと補正予算案の編成、衆議院の1票の格差是正の「10増10減案」などの懸案が控えている。こうした懸案処理に影響が出てくることも予想される。

このようにみてくると当面の焦点は、岸田首相が旧統一教会や国葬の問題で、国民の疑念を晴らし、信頼回復へこぎつけられるかどうかが、カギになる。

そのためには、国会論戦には逃げの姿勢ではなく、積極的な姿勢で臨み、焦点の旧統一教会の問題には、安倍元首相の関係を含め事実関係を明らかにしていくこと。国葬の問題も全額を国費でまかなう以上、費用全体のメドは明らかにすることは必要ではないか。

そのうえで、コロナ対策や防衛力の整備、経済再生などに向けて、岸田首相自らがやり遂げたい政治課題を明確に打ち出すことが必要ではないかと考える。

旧統一教会など問題は、政治や政権のあり方などに大きな影響を及ぼす。難題を数多く抱える中で、岸田政権は安定した政権運営を取り戻せるのか、それとも国民の失望を買い、内閣支持率が落ち込み、低空飛行を続けることになるのか、岐路に差し掛かっている。岸田首相の判断を注視したい。(了)

 

 

 

 

 

立民、維新 ”戦略的連携”はできるか

先の参議院選挙で敗北した立憲民主党は26日、岡田幹事長らベテランを重視した新たな執行部を発足させた。一方、選挙で躍進した日本維新の会は27日、初の代表選挙を行い、新たな代表に馬場・共同代表を選出した。

これで参院選挙後の野党陣営の体制がそろったことになるが、国民の強い関心や期待を得られるかどうか、個人的にはかなり難しいとみる。

というのは、国民の側からみると岸田政権も頼りないが、野党側はそもそも何をめざしているのかわからないといった厳しい受け止め方が強いからだ。

結論を先に言えば、立憲民主党と維新は”水と油”のような関係にあるが、国会対策を中心に”戦略的連携”で足並みをそろえ、巨大与党に対決できる状況をつくることができるかが、大きなカギを握っているのではないか。

この連携ができないと、仮に政権与党が失速したとしても、野党側に展望は開けないのではないか。連携は可能なのかどうか、世論の動向なども踏まえて考えてみたい。

 立民と維新、執行部刷新効果の現実

立憲民主党の新しい体制は、泉代表はそのままで、幹事長に岡田克也・元副総理、国会対策委員長に安住淳・元財務相、政調会長に長妻昭・元厚労相を起用した。民主党政権当時、要職を占めたベテランが多数起用されたのが特徴だ。

日本維新の会は、創設時から10年、中心的な存在だった松井一郎代表が退任することになり、初めて行われた代表選挙で、共同代表を務めてきた馬場伸幸氏が有効投票の8割近くを獲得して新代表に選出された。ただ、松井氏に比べると存在感や発信力が弱いのも事実だ。

それぞれの党の支持者は、新執行部が野党第1党としての役割を強めたり、新たな第3極として勢力を結集したりすることに期待を寄せていると思う。

国民はどのように見ているか、28日に朝日新聞の世論調査の結果が報道されているので、そのデータを材料に考えてみたい。

この世論調査は27,28の両日行われ、野党の新執行部の評価の質問はないが、政党支持率が参考になる。自民は34%、公明は4%に対し、立民は6%で、先月調査と同じ水準。維新は5%で、2ポイント減少。そのほかの野党各党も先月と同じか、1ポイント減で、大きな変動は見られない。

野党の新執行部は発足した直後で、十分浸透していないとの反論も予想されるが、このデータを見る限り、新執行部の刷新効果は現れていない。

一方、自民党の支持率34%は、先月との比較で2ポイント減少。無党派層は39%で、先月の28%から11ポイントも急増しているのが大きな特徴だ。旧統一教会と政治の関係が次々に明るみになっていることが影響しているものとみられる。

つまり、自民党からの支持離れを含めて無党派層が大幅に増えているが、野党支持の拡大にはつながっていない。今の野党のままでは、期待や魅力が乏しいという受け止め方の反映ではないか。この現実を踏まえて、どう対応するかが問われている。

 戦略的連携、政治の流れ変えられるか

それでは野党側は、具体的にどんな対応が必要なのか。各党ともそれぞれの党の理念、重視する政策に磨きをかけるのは当然だが、国民の関心や期待を得るための取り組み方もカギになる。

先の政党支持率に端的に現れているように自民党と野党第1党の支持率を比較すると34%対6%、5分の1以下の大差がついている。「自民1強、多弱野党」の構造を多少でも変えないと、国民の関心を高めるのも難しい。

今の野党の構造は、立憲民主党は共産党などとの協力はできても、国民民主との距離は離れたままで、野党全体をまとめきれていない。

日本維新の会は、松井前代表と安倍元首相や菅前首相との関係が強かったが、立憲民主党とは対立が目立ち、野党の分断状態が続いてきた。但し、維新にとっても岸田政権発足後は政権側と太いパイプはなく、状況が変わってきた。

そこで、立民、維新ともに、従来の関係をそのまま続けていくのか、それとも新たな関係構築の道を模索するのか、2つの選択肢がある。

もちろん、立民、維新両党は、それぞれの党の理念や、憲法、外交・安全保障、原発などの主要政策では大きな開きがある。そうした違いを認めた上で、野党の存在感と力を強めることを目標に「戦略的な連携」に踏み出す道がある。

具体的には、国会対策を中心に臨時国会の早期召集をはじめ、会期幅の設定、予算委員会などの審議日程の確保、さらには個別の政治課題や法案の扱いなどについて、野党全体の要求をまとめ、実現していくことが考えられる。

こうした取り組みで、国会審議に緊張感をもたらしたり、重要法案の修正を実現したりして、政治の変化につなげていくことも考えられる。

無党派層が28%から39%へ11ポイント増えたということは、日本の有権者数は1億人なので、ざっと1100万人が政治の立ち位置を変えたことを意味する。

野党陣営は、戦略的連携で政治の流れに変化を求める有権者を生み出し、そのうえで、自らの支持につなげていく2段階の新たな取り組みが問われているのではないかと考える。

 難題乗り切り 臨時国会の対応注視

報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率急落が続いている。最新の朝日新聞の世論調査では、岸田内閣の支持率は47%で、先月の前回調査から10ポイントも下落。不支持は39%で、14ポイント増加している。

旧統一教会と現職の閣僚など政務3役、それに自民党議員の関係が明らかになっていることが影響しているものとみられている。

来月27日には、安倍元首相の国葬が予定されており、近くこの問題の閉会中審査が予定されている。秋の臨時国会では、旧統一教会の問題やコロナ対策、経済の立て直しと補正予算案の扱い、防衛力整備の進め方など難題が目白押しだ。

国民の側が最も困るのは、与野党が対立して難題の解決が一歩も進まないことだ。秋の臨時国会では、与野党が真正面から議論を尽くし、場合によっては法案の修正などで歩み寄り、難題処理の具体的な成果を見せてもらいたい。(了)

岸田首相コロナ感染と強まる逆風

岸田首相が夏休みを終えて公務に復帰する前日の20日夕方、新型コロナに感染したことが確認された。一夜明けた22日から、首相公邸に止まりオンラインで公務を始めたが、現職首相のコロナ感染は初めてで、波紋が広がっている。

一方、岸田内閣の支持率が、報道機関の世論調査で急落していることが明らかになった。内閣改造を行った直後に内閣支持率が下がるケースは少なく、岸田政権に逆風が強まっている。

岸田首相のコロナ感染と内閣支持率の急落で、岸田政権は何が問われているのか、探ってみる。

 首相のコロナ感染 政権対応力に懸念

岸田首相のコロナ感染の経緯については、既に詳しく報道されているので繰り返さないが、感染判明から一夜明けた22日、松野官房長官は記者会見で次のように説明した。

岸田首相の症状は「22日朝の時点で平熱に下がり、テレワークなども活用し、ほぼ予定通りに執務にあたっている」と説明した。そのうえで「岸田首相は夏休み期間中も他人と接触する場合は、常にマスクを着用するなど適切な感染対策に務めてきた」と釈明した。

岸田首相の感染経路はわからないが、感染爆発が収束せず、医療のひっ迫が続く中で、コロナ対策の最高責任者が罹患し、公邸で事実上、隔離状態に追い込まれた責任は重い。

首相官邸では、この夏、松野官房長官に続いて、島田隆政務秘書官ら3人の首相秘書官が相次いでにコロナに感染した。個別の問題といってしまえばそれまでだが、安倍、菅両政権では見られなかった事態が起きている。

首相の健康管理は、危機管理の基本中の基本だ。首相官邸では、基本的な感染対策はどうなっているのか、疑問に感じる人は少なくないのではないか。

岸田政権は、安倍元首相の銃撃事件をめぐる警備の不手際をはじめ、追悼演説の先送りや国葬の扱い、さらにコロナ感染者の全数把握の問題などを抱えたまま、結論を出せない状態が続いている。

首相のコロナ感染は、感染対策に限らず、政権を取り巻くさまざまな懸案を連想させる。この政権に懸案を乗り越える対応力はあるのか、懸念を生じさせる点が意外に大きいのではないかと感じる。

 支持率低下”為すべきことを為さず”

岸田内閣の支持率については、読売新聞と日経新聞が先の内閣改造後の今月10、11の両日に行った世論調査で、いずれも支持率が下落し、政権発足以降最低の水準になった。

続いて、今月20、21の両日に行われた毎日新聞の世論調査で、岸田内閣の支持率は36%、前回調査から16ポイントも下落した。不支持は54%で、17ポイント増加し、支持と不支持が逆転した。

こうした各社の調査で、支持率下落の要因としては「世界平和統一家庭連合」(以下、旧統一教会)と、閣僚など政務三役、それに自民党議員の関係が次々に表面化していることが影響している点で、共通している。

また、毎日新聞の調査では、旧統一教会との関係について「極めて問題がある」64%、「ある程度問題がある」が23%で、合わせて9割近い人が、問題ありと受け止めている。

政府・自民党は、反社会的な行動を続けている旧統一教会との関係が指摘されながら、実態の調査や説明もしようとしない姿勢に、世論の側は極めて強い不信感を抱いていることが読み取れる。

一方、コロナ対策についても、感染爆発が続き、医療現場がひっ迫、死者も第6波のピークに迫る高い水準が続いているのに、政府から新たな対策やメッセージが出されない点を厳しく批判する声が聞かれる。

さらに来月27日には、安倍元首相の国葬が予定されているが、政府・与党は、国会の閉会中審査にも応じていない。世論調査では、政府の国葬方針について、反対が賛成を上回る調査結果がほとんどだ。

このように政府・自民党の一連の対応は「為すべきことを為さず、説明すら行わない姿勢」に見える。この点に世論は憤りを感じており、支持率急落の原因は、はっきりしている。

そこで、岸田首相がどこまで世論を納得させる具体策を打ち出すのかが、焦点だ。野党側は、臨時国会を早期に召集するよう申し入れている。

政府・与党の執行部はこれまで臨時国会を早期に開けば、野党に追及の場を与えるだけだとして、引き延ばし戦術をとることが多かった、しかし、今の世論の動向から判断すると、そうした対応で切り抜けるのは難しい情勢だ。

焦点の統一教会の問題は、実態調査とそれに基づいて、どのような方針で臨むのか具体策をはっきりさせることが必要だ。

そのうえで、当面するさまざまな問題について、逃げずに正々堂々、国会論戦を通じて国民に説明し、事態を打開する道を探る必要があるのではないか。

岸田首相は、30日まで公邸からオンラインで公務を続け、31日から通常の職務に戻る予定だ。岸田首相が事態打開に向けて、主導権の発揮に踏み出すのかどうか、注視したい。(了)

”夏の宿題3点”岸田首相の解答力は?

参議院選挙で大勝し、内閣改造と自民党役員人事を終えた岸田首相は16日から夏休みに入っており、22日から公務に復帰する予定だ。

岸田首相はこの夏、3つの課題への対応が求められている。1つは、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに浮上した旧統一教会の問題だ。新任閣僚や副大臣、自民党議員との関係が次々に明るみになり、国民を驚かせている。

2つめは、来月27日に予定されている安倍元首相の国葬の扱いだ。3つめが、感染爆発の収束の見通しが未だに立っていないコロナ対策だ。

こうした3点は、”夏の宿題”ともいえる緊急の課題で、岸田首相が”説得力のある”解答”を早急に示すことができるかどうか。できなければ、秋の臨時国会や岸田政権の今後の政権運営にも影響を及ぼすことになるだろう。

国民の関心が高い夏の宿題3点をどのように考えたらいいのか、探ってみたい。

 旧統一教会問題、疑念払拭は必須

さっそく、第1の課題である「世界平和統一家庭連合」(以下、旧統一教会)の問題からみていきたい。

旧統一教会と政治の関係は、政治団体である国際勝共連合とともに古くて新しい問題だが、今回の内閣改造人事をみて、その浸透ぶりには、改めて驚かされた。

岸田首相は内閣改造に当たって、旧統一教会との接点が明らかになった閣僚7人を外した。ところが、新たに任命された閣僚からも関連団体の会合に出席したり、会費を払ったりしていたことが次々に明らかになり、8人にも上った。

続いて行われた副大臣、政務官54人の人事でも24人に接点があったことが明らかになった。閣僚、副大臣、政務官の政務三役73人中、32人、実に4割にも達している。

一方、共同通信が全ての国会議員712人を対象に行ったアンケート調査で、旧統一教会の関連団体のイベントに出席したり、選挙協力を受けたりした議員は106人に上った。このうち、自民党議員は82人で、全体の8割を占めている。

今回の閣僚などの起用について、岸田首相は「旧統一教会との関係を自ら点検し、その結果を踏まえて、厳正に見直すことを了解した人だけを任命した」とのべ、個人の責任で対応してもらう考えを示した。

こうした首相の判断をどうみるか。旧統一教会をめぐっては、入信させて多額の壺や印鑑などを購入させる霊感商法や、献金の強要など深刻な被害が相次いでいたことが知られている。

閣僚など政務三役は、公正な立場で行政の執行に責任を持つ立場にある。こうした社会的に問題のある団体との関係が認められた場合、政府としても調査し、程度に応じて必要な対応策をとることは必要ではないか。

一方、先の参議院選挙についても初当選した自民党の生稲晃子議員が、萩生田政務調査会長が経産相だった今年6月、旧統一教会の関連施設を訪れていたことも明らかになった。

自民党についても、公正さが求められる選挙への支援も含めて、旧統一教会との関係について、政党として実態の調査を行い、その結果を公表することは最低限、必要ではないか。

要は、政府・自民党ともに国民の疑念を晴らす取り組みが必要だ。ケジメをつけられるかどうか、しっかり見ていく必要がある。

 国葬 国民の理解と共感を得られるか

第2の安倍元首相の葬儀を国葬とする政府の方針については、国民の間でも賛否が分かれている。

その理由については既に報道されているので、ここでは触れないが、報道機関の世論調査では、国葬について、賛成よりも反対の意見が上回っている。また、国葬を決めた岸田首相の説明について「納得できない」との評価が過半数を占める。

こうした背景としては、国葬は吉田茂元首相の1例しかなく、首相の葬儀は、政府と自民党の合同葬や、国民有志を加えた国民葬で行われてきた。今回、国葬の扱いにした理由や法的根拠が、国民に理解されていないことを示している。

また、全額国がまかなう国葬の費用はどの程度になるのか。国民にどのような弔意の示し方を求めるのかといった具体的な内容の説明も行われていない。

国葬は、国民の理解と共感が必要だと思うが、現状はその条件を満たしていないようにみえる。岸田首相は、国会で与野党との質疑を通じて、国民に説明することが必要ではないか。そうした心構えと取り組み方を表明する必要がある。

 コロナ 検査・医療体制の具体策を

第3のコロナ感染については最近、1週間平均で減少傾向もみられたが、お盆休みが明けた8月中旬以降、再び感染者数が過去最多となる地域が増えている。

全国の感染者数は18日、過去最多の25万人を超えたのをはじめ、病床使用率も41の都府県で50%を上回り、感染収束の見通しはついていない。

この間、政府は「経済社会活動の制限はしない」と繰り返し強調してきた。一方、各地の発熱外来は、感染者が押し寄せてパンク状態で、PCR検査にたどりつけず、抗原検査キットも手に入らないといった声を数多く耳にした。

端的に言えば、政府や自治体の対応は後手に回り、発生から3年目に入ったというのに、対策面で改善が進んだという実感は乏しい。

厚生労働省は最近、感染者の「全数検査」の見直しや、抗原検査キットのインターネットでの販売を解禁する方針を決めたが、対症療法的対応にみえる。

全数検査の見直しで、保健所や医療機関の負担軽減を図りたいとの狙いは、理解できる。一方で、感染の実態はどのように把握するのか。自宅療養者の病状悪化や入院などの調整はどのような仕組みで対応するのか、肝心の点がわからない。

国民が首を長くして待っているのは「検査体制の整備」と「医療提供体制の確保」の具体策を、早急に明らかにして欲しいという点に尽きる。

 国会論戦徹底、新たな政治へ模索を

このように3つの宿題について、岸田首相は公務に復帰した後、国民が納得できるような”解答”を早急に明らかにしてもらいたい。

加えて、これから年末に向けての政治は、岸田首相が言うように何十年に1度という難題が幾つも待ち構えている。

ウクライナ情勢をきっかけにした物価高騰、エネルギー確保、感染症対策の法整備、日本経済の立て直し、防衛力整備の進め方など目白押しだ。

このため、秋の臨時国会はできるだけ早く召集して、難題の解決に向けた議論の時間を大幅に確保した方がいい。与党はこれまでは、国会を開けば野党に追及の場を与えるだけだとして消極的だったが、改めた方がいい。

国会で野党側との議論を通じて、国民の理解は格段に進む。野党も、臨時国会の早期召集を求めており、重箱の隅をつつくような議論はしないと思われる。

与野党が徹底した議論を通じて、与野党の合意や修正の道を探り、難題を1つずつ前進させる新しい政治をめざす段階にきている。

戦後最大級の難問・難題を抱えている今こそ、与野党が徹底した論戦でぶつかり、懸案の処理が一歩ずつでも進む政治を与野党双方に強く注文しておきたい。(了)

 

”前途多難” 岸田改造政権

お盆入り直前に急遽行われた岸田政権の内閣改造と自民党役員人事。岸田首相は10日夕方の記者会見で、「有事に対応する『政策断行内閣』として、経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用することとした」と声を高めた。

確かにベテランを起用し、手堅い人事と認めるが、「世界平和統一家庭連合」旧統一教会との関係、国葬問題などで世論とのズレを抱えている。また、これから内外の政治課題の大きさを考えると岸田改造政権は”前途多難の再出発”になるだろう。

今回の内閣改造と自民党役員人事の見方と、岸田改造政権のゆくえを展望する。

 経験重視の布陣、安倍派にも配慮

今回の人事の特徴を見ておくと、自民党の体制は、麻生副総裁、茂木幹事長を続投させ、岸田、麻生、茂木の3派体制を軸に政権運営に当たる。

その上で、安倍元首相なき最大派閥・安倍派から、萩生田経産相を政調会長に抜擢するとともに、政権と距離を置いてきた森山裕・前国対委員長を選挙対策委員長に起用し、これまでの政権基盤を広げた。

内閣の方は、松野官房長官をはじめ、林外相、鈴木財務相、山際経済再生相、斉藤国交相の5閣僚が留任したほか、加藤勝信・元官房長官を3回目の厚労相に起用、浜田靖一氏を2回目の防衛相に充てた。

また、デジタル担当相に河野太郎・党広報本部長、経済安全保障担当相に高市早苗・政調会長をそれぞれ起用した。

このように内閣については、これまで担当してきた経験や、専門性を重視して主要ポストに充てるなど手堅い人事を行った点は評価できる。

次に、安倍派の処遇も焦点の1つになったが、官房長官の松野博一氏は続投、萩生田氏を政調会長に抜擢する一方、派閥の事務総長を務める西村康稔氏を経産相に起用し、バランスをとった。

安倍派幹部の世耕弘成氏も参院自民党幹事長に再任され、松野、萩生田、西村、世耕の4氏を内閣と党の要職に配置するなど安倍派への配慮を示している。

自民党長老に人事の評価を聞くと「華はないが、ベテランを起用し、それなりに評価できる。安倍派では、萩生田氏が党三役の一角を占め、後継争いでは一歩リードした」との見方を示す。その理由として、今回の党役員は派閥の長が就任して重量級に変わっており、岸田首相との関係が良好な点も有利だとしている。

去年の総裁選を争った河野氏、高市氏、それに西村氏を入閣させたことは茂木幹事長、萩生田政調会長らと合わせて、ポスト岸田を争わせる戦略との見方が一部にある。

この点について、長老は「岸田首相には、そのような発想はないのではないか。河野氏は専門性、高市氏は保守層へ一定の配慮。総裁選は2年後の話で、衆参両院の選挙を率いて勝利したのは自分だという意識が強いのではないか」と解説する。

 世論とズレ、遠い信頼回復対応

岸田改造政権は、人事でベテランや非主流派にも配慮を示したことで、党内融和、結束力が増す効果が期待できる一方、世論とのズレが大きな問題として残されたままだ。

今回の改造人事は、安倍元首相の銃撃事件をきっかけに浮上した旧統一教会と政界との関係、特に安倍派を中心に自民党との関係が次々に明るみになる中で行われた。

この問題は、安倍元首相の国葬問題にも波及、岸田内閣の支持率急落という負の連鎖に歯止めをかけ、局面の転換を図る狙いがあったものとみられる。

今回の改造で、元統一教会と接点があった閣僚7人は退任した。ところが、新たに任命された閣僚7人も接点があったことが、改造後に次々に明らかになっている。

岸田首相は記者会見で「国民の疑惑を払拭するため、閣僚に対して、当該団体との関係を点検し、厳しく見直すことを厳命した」と強調するが、前の閣僚と、新任閣僚とで対応が違うとなりかねない。

やはり、国会議員任せにせず、党で実態調査を行うとか、宗教団体との関係について、一定の対応基準を打ち出す必要があるとの意見も聞く。

国葬の問題についても報道機関の世論調査で、賛成より反対が上回る状態だ。国葬にした理由、法的根拠などについては、相変わらず、従来の説明を繰り返している。国会で野党との議論を通じて、国民の理解を深めることが必要ではないか。

旧統一教会、国葬の問題について、政府や党の説明が不足している。内閣改造で目先を変えたいという狙いがあるのかもしれないが、真正面から徹底して説明したり、議論したりしないと国民の信頼を取り戻すのは難しいとみる。

 内外に難題、岸田首相の決断力は

最後に、岸田政権の今後の運営はどうなるか。与野党関係者に話を聞くと、政府のコロナ対策について、厳しい批判を数多く聞く。

内閣改造が行われた10日、全国の新規感染者数は25万人で過去最多、感染爆発は止まらない。亡くなる人は251人で、第6波のピークに近いレベルまで急増しており、さらに増加することが懸念されている。

感染者が急増した7月中旬以降、政府が発するのは「経済社会活動との両立、行動制限はしない」とのメッセージばかりで、具体的な感染対策の呼びかけなどは乏しく、与野党関係者は「無為無策だ」と怒る。

7月下旬からの内閣支持率急落は、コロナ対策の失敗が底流にあるのではないかとの見方がある。内閣改造を行っても政権浮揚効果は限定的ではないか。

秋の政治日程は、9月27日の安倍元首相の国葬に続いて、臨時国会が召集され、感染症対策として医療提供体制の整備法案が提出される見通しだ。食品を中心に大幅な物価高騰が進むほか、大型の補正予算案の編成も検討される見通しだ。

さらに年末にかけて、防衛力整備と政府予算の大幅増額という難題が控えている。このほか、冬場の電力のひっ迫などエネルギー問題などの難問にも向き合わなければならない。

安倍元首相の存在がなくなった中で、岸田首相が党内のとりまとめを決断し、国民を説得できるのかどうか。岸田首相の決断力と統率力が試されることになりそうだ。(了)

 

岸田首相の求心力は?改造・人事

先の参議院選挙を受けて召集された臨時国会最終日の5日夕方、「岸田首相が内閣改造・自民党役員人事を10日にも実施する」との情報が駆け回り、与野党双方を驚かせた。永田町では、人事はお盆明けの8月下旬から9月前半説が強かったからだ。

今回の人事前倒しの事情・背景は何か。安倍元首相なき政局で、岸田首相の求心力は高まるのか、内閣改造・自民党役員人事で問われる点を探ってみたい。

 人事前倒しの事情・背景は何か

岸田首相は6日、広島の平和記念式典に出席したあと記者会見し「新型コロナ、物価高への対応、ウクライナや台湾情勢、防衛力整備などさまざまな課題を考えると、新しい体制を早くスタートさせたいと常々思っていた」とのべ、内閣改造・自民党役員人事に踏み切る考えを正式に表明した。

岸田首相は早期の内閣改造を考えていたことを強調したが、それならば、7月25日に参議院議員の任期が切れ、引退するため議員資格を失う金子農水相と二之湯国家公安委員長の後任と併せて、内閣改造を行うのが普通ではなかったか。

そのタイミングを見送り、8月下旬以降と見られていた内閣改造・自民党役員人事を前倒しすることに踏み切ったのは、別の事情・背景があったのではないか。

1つは、安倍元首相が銃撃され、亡くなった事件に関連して、容疑者が恨みを抱いていたとされる「世界平和統一家庭連合」旧統一教会と、現職閣僚や自民党議員との関係が次々に明るみになり、世論の批判が一段と強まってきた。

また、岸田首相が事件から日を置かずに決断した安倍元首相の国葬については、政府の説明が不足しているとの指摘が多く、報道機関の調査では国葬の評価は「賛成」よりも「反対」が上回るようになった。

さらに、岸田内閣の支持率が7月下旬に行われた共同通信で12ポイントも減少し、内閣発足以来最低の水準に急落した。日経新聞の調査でも2番目に低い水準まで落ち込んだ。

岸田政権は、こうした旧統一教会問題を沈静化させるとともに、内閣支持率急落の事態を転換するために人事の前倒しを決断したのではないかとみている。

 難題解決への布陣、政権の求心力は

さて、その人事は、注目点が多い。まず、安倍元首相が亡くなったあと、97人が所属する最大派閥の安倍派からの起用はどうなるのか。旧統一教会の問題は安倍派の議員に集中しているが、その影響はどうか。

また、岸田首相と距離を置いてきた二階元幹事長や、菅元首相ら非主流派の扱いも焦点になる。菅元首相の入閣はあるのかどうか、安倍元首相なき後の党内力学がどのように変化するのかも注目点だ。

国民の側からみると一番の関心事項は「難題」に取り組む布陣はどうなるかという点だろう。政府のコロナ感染対応は相変わらず、後手が目立つが、感染危機乗り切りを誰に託すのか。

防衛力整備をはじめ、経済の立て直し、この冬の電力不足やエネルギー対策などのポストに誰が就任するのか。

岸田首相は麻生副総裁らと人事の詰めの作業を進めているが、麻生副総裁、茂木幹事長、松野官房長官ら政権の骨格は維持されるとの見方が有力だ。林外相、鈴木財務相らも続投とみられる。

主要閣僚・党の中枢もこれまで通りとなると、今度は何のための人事なのかという疑問がわく。冒頭に触れたような旧統一教会の問題や内閣支持率急落をかわす小手先の対応かということになりかねない。

そうすると、今回の人事のねらいと「難題」解決に向けた首相自身の構想を併せて、打ち出して国民に説明する必要がある。

一方、岸田首相が率いる派閥は第4勢力で、内閣の要の官房長官と、党の要の幹事長も他の派閥から起用している。政権の意思決定はこれまで通りで問題はないのかという指摘もある。岸田首相を軸にした政権の体制づくりも焦点だ。

お盆前の10日に内閣改造・自民党役員人事が行われ、新たな顔ぶれが決まる見通しだ。この人事で、岸田首相の求心力は高まるのかどうか、政権の浮揚効果が現れるのかどうかも焦点になる。

旧統一教会の問題について、岸田首相は内閣の人事に当たって、点検するよう指示したことを明らかにした。一方、党の方は調査を行うのかどうかはっきりしていないが、党としてもけじめをつける必要がある。

さらに、安倍元首相の銃撃事件については、警察当局の警護の落ち度が指摘されている。警察を所管する国家公安委員長の責任問題は、内閣改造で交代する前に必要な措置をとる必要があるのではないか。

岸田首相は、コロナ感染拡大にウクライナ危機など戦後最大級の政局と位置づけている。そうであれば、人事の最終的な決定とともに難題解決に向けた自らの考え方を明確に打ち出し、国民に説明してもらいたい。(了)

★追記(8月8日21時)NHK世論調査によると◆岸田内閣の支持率は46%で、前回調査より13ポイント下がった。支持率46%は、去年10月の岸田内閣発足後、最も低い。不支持は28%で、7ポイント上がった。◆政府が安倍元首相の「国葬」を行うことについて、「評価する」が36%だったのに対し、「評価しない」は50%だった。◆旧統一協会と政治の関係について、政党や国会議員が十分説明しているかどうかを尋ねたところ、「十分説明している」が4%、「説明が足りない」が82%だった。この調査は、8月5日から7日まで行われた。前回調査は、3週間前の7月15日から18日まで実施。

 

 

臨時国会”召集すれど審議なし”

先の参議院選挙を受けて、国会の構成などを決める臨時国会が3日、召集されるが、審議はまったく行われずに3日間で幕を閉じる見通しだ。

安倍元首相が銃で撃たれ死亡するという衝撃的な事件が起き、その余震は今も続いている。一方、コロナ感染は爆発的な拡大が続いており、物価高騰も長期化する公算が大きい。

こうした先行き不透明な情勢の中で召集される国会で、銃撃事件の中間的な報告も、経済・社会に関する審議・質疑も全く行われない国会をどう考えればいいのだろうか。

一言でいえば鈍感。危機感も緊張感も感じられず、驚きを通り越してあきれてしまうというのが正直な受け止め方だ。

今の会期内で短時間でも審議を行ったり、会期を延長したりする考えは本当にないのだろうか。国会を召集する権限を持つ政府に最も大きな責任があるが、与野党の国会議員は自らの役割と責務を果たすため、再考の声を上げてはどうか。

 慣例にとらわれず柔軟な国会運営を

衆議院選挙や参議院選挙が行われ、新しい国会議員が選ばれた後の国会は、新しい議長、副議長、常任委員会や特別委員会の委員長を選出する「院の構成」を行って短期間で終えることが多いことは知っている。

今回も召集日当日は、新人の参議院議員が国会正面から登院し、メデイアのインタビューに応じる光景が繰り広げられるのだろう。それはいいとして、この国会は、院の構成だけで済ませられるほど甘い状況にないことは、与野党の議員の多くが感じていると思う。

ところが、自民党の高木国会対策委員長と、野党第1党・立憲民主党の馬淵国会対策委員長は1日の会談で、この国会の会期は3日から5日までの3日間とすることで、早々と合意した。

また、安倍元首相の国葬は秋の臨時国会に先送りする一方、国葬などについて議論をするため、閉会中審査を行うことで日程調整を進めることになった。

短期にしたのは、自民党としては、岸田首相がニューヨークで開幕したNPT=核不拡散条約再検討会議に出席して演説する外交日程が入ったこと。

8月は広島、長崎の原爆の記念式典に出席する関係で、国会の審議日程を確保するのは難しいと判断したためとみられる。

そうした事情はあるにしても、参院選挙が行われた後の臨時国会で、審議を行った先例はある。

2004年小泉政権時代、あるいは2010年の民主党の菅直人政権の時は、いずれも会期を7月30日から8日間に設定し、衆参両院で本会議を開いたり、予算委員会を開催したりして質疑を行っている。

仮に先例がなくても与野党が合意すれば質疑はできる。先人たちは、その時々の情勢に応じて、慣例にとらわれずに柔軟に対応してきたことを学ぶべきだ。

 国葬、感染爆発対策、首相自ら説明を

それでは、国会の対応のあり方などをどう考えたらいいのか。選挙応援演説中の首相経験者が、兇弾に倒れる前代未聞の事件が起きた。警察当局の警護の不手際も指摘されているが、国会で経緯の報告もなされていない。

また、容疑者の動機や背景に「世界平和統一家庭連合」、旧統一教会の存在が指摘されているほか、この旧統一教会と政治との関わり、現職閣僚や自民党議員の数多くの関係も明るみになりつつある。

政府は、安倍元首相の葬儀を国葬で行うことを閣議決定したが、国葬で行う法的根拠や手続きなどをめぐって、世論の賛否の意見が分かれている。

また、国民の受け止め方は、事件の背景を含め全容を明らかにするよう求める意見が強まっている。

こうした状況を考えると、まずは、岸田首相が国会で安倍元首相の死去を報告するとともに、政府が国葬にすることにした考え方などを説明することから始める必要がある。

また、この事件に関連して、旧統一教会と与野党の国会議員との関係はどうだったのか、実態調査の進め方などについても議論する必要があるのではないか。

岸田首相は先に旧統一教会と自民党議員との関係について「丁寧な説明を行っていくことは大事だと思っている」とのべた。

この発言は、議員個人の問題と聞こえるが、自民党の場合、関わりのあったと指摘された議員の多さを考えると、党として事実関係の調査を行う必要があるのではないか。

このほか、コロナ感染の爆発的な拡大と医療のひっ迫への対応、今後の物価高騰対策の中身はどうなるのか、国民の関心は極めて大きい。こうした点を含め、岸田首相は、国会審議を通じて政府の方針を明らかにすべきだと考える。

7月末に行われた共同通信の世論調査で、岸田内閣の支持率は51%で、参院選挙で大勝した前回調査から12ポイントも急落し、内閣発足以来最低となった。安倍氏の国葬についても「賛成」は42%で、「反対」が53%と上回っている。

こうした世論の反応は「国葬についての説明はなく、感染危機対応のメッセージも発しない岸田首相に対する厳しい評価の表れ」と思われる。

加えて、臨時国会で報告や質疑もないとなると、首相の信頼感を失うことになるのではないか。岸田首相は戦後最大級の難局と受け止めているのであれば、逃げずに真正面から、自らの考えを国民に訴える局面ではないかと考える。(了)

感染爆発”やはりブレーキが必要”岸田政権

新型コロナの”感染爆発”に歯止めがかからない。新規感染者数は28日、東京では初めて4万人を超え、全国でも23万人と過去最多を更新した。

岸田政権は、感染抑制と社会経済活動の両立をめざしてきたが、このところ、感染拡大期に、濃厚接触者の待機期間を短縮するなどチグハグな対応が目立つ。

ここは、やはり感染抑制へブレーキを踏み込む時期ではないか。岸田政権のコロナ対応を緊急点検する。

 ”フェーズが変わった”日本世界最多

感染状況を振り返っておくと新規感染者数は7月1日時点で、東京で3500人余り、全国では2万3100人台に止まっていた。死者は21人、重症者数は52人と低い水準だった。

ところが、全国の新規感染者数は15日に10万人を突破、20日に15万人、23日には20万人と加速度的に増え、27日には20万9600人で過去最多となった。第6波のピーク時の2倍の水準だ。

東京では28日、1日当たりの感染者数がついに4万406人に達した。今月に入り1か月近くで11倍も増えた。全国では、23万3000人余り、過去最多を更新した。

日本の感染者数は、欧米諸国に比べて格段に少なかったが、WHO=世界貿易機関が27日にまとめた報告書では、24日までの1週間当たりの新規感染者数では、日本は97万人で、世界で最も多くなっている。

アメリカは86万人、ドイツは56万人だ。フェーズが大きく変わり、日本は欧米に比べて感染者数が少ないとは言い切れなくなった。

 感染拡大期に緩和”チグハグ対応”

岸田政権のコロナ対応だが、先の参院選挙で自民党が大勝したのを受けて、岸田首相は14日に記者会見し、今後の対応策を明らかにした。

この中で岸田首相は、感染状況について「感染が全国的に拡大しているものの、重症者数や死亡者数は低い水準にある」と説明し、新たな行動制限を行うことは考えていないと表明した。

一方、社会経済活動と感染拡大防止の両立を維持するため、世代ごとにメリハリの効いた感染対策をさらに徹底すると強調した。

具体的には、4回目のワクチン接種について、すべての医療従事者と高齢者施設のスタッフなどおよそ800万人にも対象範囲を拡大し、接種を始めると明らかにした。

そのうえで、岸田首相は22日、後藤厚労相などと協議し、社会経済活動を維持していくため、濃厚接触者に求める待機期間をこれまでの原則7日から5日間に短縮し、さらに2日目と3日目の抗原検査が陰性であれば、3日から待機を解除できることを決めた。

こうした対応をどう評価するか。まず、行動制限を求めないという方針はやむを得ない措置だと思う。仮に緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置を出しても、感染抑制にどこまで効果があるか疑問だからだ。

問題は、政府や自治体の説明では、重症者や死亡者などは低水準との認識だが、状況は厳しくなっている。27日時点で全国の死者は129人、重症者は311人、7月1日と比べると6倍前後も増えて折り、状況認識に甘さを感じる。

また、医療への影響も大きくなっている。28日には「重症確保病床の使用率」が東京都で53%となったほか、「確保病床使用率」も沖縄、神奈川、静岡、大阪、福岡、熊本など20都府県で50%以上の警戒ラインを上回っている。

こうした医療のひっ迫状況を考えると今は感染抑制に向けて、ブレーキをかける局面だ。岸田政権の対応は、感染が急拡大している時に、待機期間短縮の緩和策を打ち出すなどチグハグな対応が目立つ。これでは危機感は伝わらない。

さらに東京では、発熱外来はパンク状態、PCR検査はなかなかできない、抗原検査キットも薬局で手に入らないとの声を身近なところでも数多く聞いた。

検査、診察、自宅療養へのサポートも期待できず、健康管理の仕組みが目詰まり状態だ。政府は最悪の事態を想定して備えを進めていると強調してきたが、実態はこれまでと同じく「後手の対応」を繰り返している。

新たな問題としては、感染や濃厚接触者が増えて、医療、保育だけでなく、JR九州では乗務員の確保ができず列車の運転が休止になったり、郵便局の窓口業務ができなくなったりするなど社会活動に影響が広がり始めた。

岸田首相は、参院選の期間中は、特に経済活動重視の姿勢が感じられたが、この感染爆発の局面では、感染抑制へカジを切った方がいいのではないか。

 感染抑制の具体策と首相の実行力

これからのコロナ対策を考えると、今回の感染では、比較的軽症の人が多いのも事実だ。軽症な人は自宅で療養してもらう一方、症状の重い人は入院・治療にアクセスしてもらうなどの取り組みを進める必要がある。

また、抗原検査キットの配布はじめ、自宅療養者への支援体制などはどうするのか、政府と自治体が連携して、具体的な改善策を早急に示してもらいたい。

さらに、高齢者や医療従事者などへのワクチン接種の4回目と、若い世代への3回目のワクチン接種の促進も重要だ。

緊急事態宣言など行動制限を求めないのであれば、症状に応じた具体的な感染抑制対策や、メッセージなどの発信に一段と力を入れて取り組むべきだ。今の岸田政権には、こうした力強さが感じられない。

今回の感染急拡大は、感染危機対応が、岸田政権にとって引き続き最重要課題の1つであることを示している。具体策を早急に打ち出し、感染拡大を押さえ込めるのか、岸田政権の評価を大きく左右することになる。

参院選後の政治は、安倍元首相なき後、岸田首相が独力で主導権を発揮できるのかどうかが焦点だ。コロナ感染急拡大は、岸田首相の実行力と、政権の求心力がどの程度のものかを占う試金石の意味を持っている。(了)

安倍元首相の「国葬」をどう考えるか

先の参議院選挙で応援演説中に銃で撃たれて亡くなった安倍元首相の葬儀を「国葬」で行うとした政府の方針をめぐって、与野党や国民の間で賛否両論が出され議論が続いている。

この問題は、選挙で選ばれ、国の最高責任者の立場にいた政治家の葬儀をどのような形で執り行うのが適切なのかという古くて新しい問題だ。

政府は、22日の閣議で安倍元首相の「国葬」を9月27日に行うことを正式に決めた。果たして国民の多くの支持は得られるだろうか。世論調査のデータを参考にしながら、国葬のあり方などを考えてみたい。

 国葬の評価 国民多数は”思案中か”

安倍元首相の葬儀を「国葬」で行うことについては、岸田首相が14日夕方の記者会見で「憲政史上最長の8年8か月にわたり、内閣総理大臣の重責を担い、内政・外交で大きな実績を残された」として、秋に国葬を行う方針を表明した。

この方針をめぐって、与野党幹部が激しい議論を交わしているが、国民はどのように受け止めているのか、今後のあり方を考えるうえでベースになる。NHKが16日から3日間行った世論調査の結果が興味深いので、みておきたい。

政府が安倍元首相の葬儀を国の儀式の「国葬」として今年秋に行う方針については「評価する」が49%に対し、「評価しない」が38%だった。

これを支持政党別にみると◇与党支持層では「評価する」が68%で、「評価しない」の25%を上回っている。◇野党支持層では「評価する」が36%に対し、「評価しない」が56%と多数を占めた。

◇大きな集団である無党派層では「評価する」が37%、「評価しない」が47%となっており、「評価しない」方が多い。

次に年代別では、30代以下の若い年代では「評価する」が61%と特に多く、「評価しない」は31%だった。逆に、60代は「評価する」が41%に対し、「評価しない」が51%で、他の年代の割合より多かった。

以上のデータをどのように読むか。国民世論は、国葬の評価をめぐって「どちらか一方が、圧倒的に多いという状況にはない」。「評価する」が多いが、過半数には達していない。かなり接近しているとみることができる。

また、与野党の支持層で評価に違いがある。与党支持層では「評価する」が多く、野党支持層では「評価しない」が多いが、この点は予想されたことだ。無党派層では「評価しない」方が、「評価する」を上回っているのが特徴だ。

さらに、年代別では、若い年代と60代とでは違いがある。各年代でも受け止め方に違いがみられる。

このようにみてくると国民の多くは「思案中」というのが実態ではないか。岸田首相は、安倍元首相の銃撃事件から6日後の早い段階で「国葬」とする方針を表明した。

ところが、国民の側からすると容疑者の動機や事件の背景、旧統一教会と政界との関係などの情報も十分そろっておらず、思案中との受け止め方が実態に近いのではないかとみている。

 基本は法整備、国会で説明・質疑を

それでは、「国葬」については、どのように考えればいいのだろうか。歴代首相の葬儀については、さまざまな先例がある。

まず、戦後の「国葬」は、昭和42年に亡くなった吉田茂元首相の1件だけだ。長期政権だった佐藤栄作元首相の場合は「国民葬」。内閣と自民党、それに国民有志が主催して実施された。

さらに「内閣と自民党の合同葬」、総選挙の最中に体調悪化で亡くなった大平元首相をはじめ、中曽根元総理、小渕元総理などは、いずれもこの方式で、これまでの主流の形式と言える。

今回、安倍元首相の葬儀が国葬として行われれば、2例目となる。「国葬令」は戦後、廃止された。法的根拠について、岸田首相は「内閣府設置法に国の儀式に関する事務が明記されており、閣議決定を根拠として国葬を行うことができる」との考え方を示した。

確かに役所の所掌事務として書かれているが、法治国家であり、経費全額を国の予算でまかなうのであれば、法案を国会で成立させて実施するのが基本ではないか。

また、新たな法案の提出で与野党が合意できないのであれば、少なくとも国会で政府が説明し、与野党が議論することは必要ではないかと考える。

一方、「国葬」とすることの理由については、政府・与党は、安倍元首相は憲政史上最も長い期間、首相の重責を担ったこと。東日本大震災からの復興や日本経済の再生などで大きな実績を残したこと。外国の首脳を含む国際社会から極めて高い評価を受けていることを挙げている。

これに対し、野党側は、日本維新の会と国民民主党は、国葬を容認する立場だが、共産党や社民党、れいわは「弔意の強制につながることが懸念される」などとして反対している。立憲民主党は「予算など不明な点が多い」として、国会で政府に説明を求める考えを示している。

自民党の茂木幹事長は「野党は、国民の声や認識とかなりズレているのではないか」と批判したのに対し、野党側が強く反発している。

このように与野党の意見が対立しているが、国の予算・税金の投入を伴う以上、国民の代表である国会で、首相が説明し、与野党が質疑を行うことは最低限、必要だと考える。

そのうえで、国民の多くが国の最高責任者に哀悼の意をささげられるよう首相や、与野党はできるだけ党派色を抑えて、静かな環境で葬儀が営まれるよう努めてもらいたいと思う。

 難題対応へ問われる首相の政治姿勢

ところで、政界では、岸田首相がいち早く、国葬の方針を打ち出した理由などに関心が集まっている。

というのは、党内最大派閥の会長を務めていた安倍元首相亡き後の政界で、岸田首相がどのような党内運営、政権運営を行うのかという点と関係するからだ。

自民党内では、岸田首相が早い段階で国葬の方針を示したのは、安倍氏を強力に支えてきた保守勢力の反発を招かないようにするためではないかとの見方が出ている。

これに対し、葬儀の扱いが曖昧なままで党内がギクシャクするより、早期に対処方針を示したことで、党内が安定して良かったなどの声も聞かれる。

こうした点について、自民党の長老に聞くと「岸田首相が党内の派閥や力関係にに目が向きすぎると、世論の側から、国民への説明が不十分だといった批判や支持離れを招く恐れもある」と指摘する。

参院選挙後の政治は、コロナ感染の急拡大をはじめ、物価高騰の加速、防衛費の大幅増額、さらには憲法改正など大きな政治課題が目白押しだ。

加えて、こうした大きな問題は、党内の意見と世論の受け止め方に大きな違いを抱えているケースが多い。

安倍元首相の国葬問題は、こうした難題処理にあたっての岸田首相の政治姿勢、特に党内への配慮と、世論への目配りとのバランスをどのようにとるのか、最初の試金石ともいえる。

このバランスを間違うと、年末に向けて難題が山積している中で、岸田政権の足元が揺らぐことになりかねないとみる。(了)

 

ポスト参院選政局 岸田首相の求心力は?

今年最大の政治決戦となった参議院選挙は、自民党が単独で、改選議席の過半数を獲得して大勝した。

自民、公明の与党側は去年の衆院選でも勝利しており、これで衆参両院のいずれも60%を上回る議席を獲得し、安定した政権基盤を築いたことになる。

本来であれば、喜びに沸く自民党のはずだが、開票が終わった今も党内は重苦しい空気に包まれたままだ。選挙最終盤の8日午前、奈良市で街頭演説中の安倍元首相が銃で撃たれて亡くなるという衝撃的な事件が起きたからだ。

首相在任中は”安倍1強”と言われ、退陣後も最大派閥を率いてきた期間を合わせると10年にも及ぶだけに党内の喪失感と動揺は、未だに収まっていないように感じられる。

ウクライナ危機などで内外の情勢が揺らぐ中で、岸田政権の政権運営は大丈夫なのか。先行き不透明感が強い参院選後の政局は、どこをみておくとわかりやすいのか、探ってみた。

 不透明政局”政治日程は逆に読む”

参院選挙の投開票から一夜明けた11日午後、岸田首相は自民党本部で記者会見し「暴力が突然、偉大なリーダーの命を奪ったことは悔しくてならない」と安倍元首相の死を悼んだ。

そして「今の日本は大きな課題が幾つも重なり、戦後最大級の難局にある」として、有事の政権運営を心掛け、自ら先頭に立つと決意を表明した。

焦点の内閣改造・自民党役員陣については「今の時点では具体的なものは何も決めていない。今後の政治日程を確認しながら、人事やタイミングを考えなければならない」とのべるにとどめた。

岸田首相が触れた今後の政治日程については、安倍派の後継問題をはじめ、8月末の来年度予算編成の概算要求締め切り、内閣改造・自民党役員人事、秋の臨時国会などと並ぶが、こうした日程に思いを巡らしても迷路をさまようだけだ。

政治はどう動くかは「政治日程は逆に読む」とわかりやすい。数年先までの日程を見通して、何が政治の流れを決定づけるかということになる。

◇来年・2023年4月には統一地方選挙がある。◇2025年7月に参議院議員の任期満了、◇10月に衆議院議員の任期満了となる。2025年が大きな節目になるのは、間違いない。

その前の2024年9月に岸田首相の自民党総裁としての任期が満了となる。議院内閣制の日本では、自民党総裁でなくなれば、首相の座を退任することになる。当面の政局を方向づけるのは、自民党総裁選挙ということになる。

岸田首相は再選をめざすとみられるので、この総裁選を重視し、そこから逆算して政治日程を組み立てるものとみられる。場合によっては、総裁選前に衆院解散・総選挙をめざすかもしれない。

これから2年間、岸田政権は再選を念頭に何を政策の重点として実行していくか、そのための人事についても検討を続けているものとみられる。

一方、安倍氏なき後の安倍派はどうなるか。派内には、衆目一致する有力な後継者が絞られていない。このため、後継の派閥会長は決めずに、主要幹部による集団指導体制を採用する方向で調整が進められているようだ。

但し、安倍派内には、次の総裁選立候補に強い意欲を示している幹部が複数いる。2年後の総裁選までには、立候補に必要な推薦人を確保するために派内のグループ化が進み、事実上、分裂する可能性が大きいとみる。

自民党議員の4分の1に当たる93人が所属する最大派閥なので、派閥の分裂、党内流動化の動きをはらみながら、政治は動いていくことになる。

 注目点多い内閣・党役員人事

以上を頭に入れたうえで、岸田政権が対応を迫られるのが内閣改造・自民党役員人事だ。参議院議員の金子・農水相と二之湯・国家公安委員長の2閣僚は7月25日の任期満了で引退するので、その後任の補充が必要になる。

今のところ、人事は8月下旬以降まで持ち越される見通しだ。安倍元首相が死去したことで、安倍派の運営などをどうするか調整に一定の時間がかかるからだ。議員の任期が切れた閣僚は、民間人として職務を継続させる方法はある。

その内閣と党の人事、最大の焦点は、党の要である幹事長人事だ。首相の政権運営に協力してもらう一方で、総裁選では強力なライバルになる可能性がある。参院選が勝利したことで茂木幹事長の再任説が強いが、最終的にどうなるか。

また、安倍派の処遇も難問だ。生前、安倍元首相は自らの派閥の規模に反して、閣僚などへの起用が少なかったことに不満を漏らしていたとされる。

人事の調整で、安倍派の交渉窓口を誰が務めるかという問題もあり、岸田首相は安倍派の処遇に頭を悩ますことになりそうだ。

さらに自民党内は世代交代の時期を迎えており、実力者の政界引退が近づきつつある。

具体的には、二階元幹事長は83歳、麻生副総裁も81歳、森山裕元国対委員長は77歳だ。本人たちは進退に言及していないが、党内では、次の衆院選挙を機会に引退するとみられている。

実力者の安倍氏の死去で、岸田首相は政権運営のフリーハンドの範囲が広がった面がある。そうした優位な立場を生かして、人事面で主導権を握ることができるのかどうか、今回の人事は注目点が多い。

 防衛力、憲法改正の扱いが焦点

次に国民の側からみると最大の関心は、岸田首相は政権の最重点課題として何を取り上げるかという点とみられる。

岸田首相は14日夕方の記者会見でも「一つ一つの課題が何十年に一度あるかないかの大きなものだ。そうした大きな課題が幾重にも重なり、戦後最大級の難局にある」という認識を示した。

確かに、ウクライナに侵攻したロシアに対する経済制裁をはじめ、物価高騰、抜本的な防衛力の整備、30年も給料が上がらず停滞が続く日本経済の立て直し、人口急減社会と社会保障の整備など難題が数多く横たわっている。

さて、何を最重点に取り上げるのか。先の会見でも時代認識は明らかにしたが、肝心の難題への対処方針、政治課題の優先順位なども明らかにしてもらいたい。

その際、憲法改正の問題をどれくらいのスケジュール感で考えているのか。また、防衛力の整備の具体的な内容などについて、明確にすることが必要だと考える。

 自民党内と世論のバランスとれるか

岸田政権は「戦後最大級の難局・難題」に臨むことになる。まずは、岸田首相が人事、主要政策で主導権を発揮し、政権の求心力を高めることができるかどうかが問われる。

岸田首相はこれまで安倍元首相の協力を得るため、節目節目に報告・相談をしながら政権運営に当たってきたが、安倍氏を失った政界で1人立ちできるかどうか。

難題処理をめぐって自民党内では、総論賛成・各論反対となる場面が多く、意見の取りまとめには、相当な力技も必要になる。

一方、党内に目が向きすぎると世論の支持離れを招くことになる。岸田首相は14日の会見で「安倍元首相の国葬」を今年秋に行う方針を表明した。国葬は、吉田茂元首相が唯一の例で、全額国費でまかなわれる。

憲法改正、防衛力整備の進め方をめぐっても、党内と世論の認識に違いがある。党内と世論の意見が対立した場合、岸田首相自らが説得する場面にも迫られるだろう。

岸田首相にとって参院選後の政治は「黄金の3年間」というよりも「苦難の3年間」になるのではないか。

そして、岸田政権が安倍政権に続いて長期政権へとなるのか、それとも短期政権が続くことになるのか、国民の側はしっかりみていく必要がある。(了)

 

自民大勝も”想定の範囲内”

ウクライナ危機など激動が続く中で行われた参議院選挙は、自民党が単独で改選議席の過半数を獲得し大勝した。与党の公明党と合わせて、改選議席を大きく上回り、安定多数を確保した。

選挙の最終盤には、選挙応援演説中の安倍元首相が銃で撃たれて亡くなるという衝撃的な事件も起きた。

今回の選挙結果をめぐっては「ウクライナ情勢などを受けて、世論は保守の側にシフトしているのではないか」「岸田政権は防衛力の強化や、憲法改正への動きを加速するのではないか」といった声も一部で聞かれる。

今回の選挙をどのように評価するか、あるいは、有権者はどのような受け止め方をしているのか。こうした点を明らかにするために、自民大勝の結果をさまざまな角度から分析してみたい。

自民大勝、”想定の範囲内”の声も

自民党の長老に今回の選挙結果の受け止め方を聞いてみた。「マスコミは、自民大勝と強調するが、”想定の範囲内”ではないか」と話す。

この長老によると、自民党は63議席を獲得し、単独で改選議席125の過半数を獲得したが、こうした結果は事前に想定できたことだというわけだ。

具体的には、全体の勝敗を左右する1人区で、野党側の共闘体制が崩れたことで、勝利できるチャンスが広がった。過去2回の選挙では、32ある1人区の全てで、野党側は候補者を1本化したが、今回は11選挙区に限定された。

結果は、自民党が28勝4敗と大きく勝ち越した。前回は10敗、前々回は11敗だったが、前回との比較でいえば、負けを6つ減らしたことが、60台に乗せ勝利につながったとの見方だ。

私も同じような見方で、選挙は前回、前々回との比較をよくするが、実は、その前の3回前の選挙の戦い方が重要だ。「2013年の参院選」に似た戦いになるのではないかとみていた。

この時は、安倍元首相が政権復帰した直後の勢いのある時期で、自民党史上最多の65議席を獲得した。今回、岸田内閣の支持率と自民党支持率は、いずれも3年前を上回った一方で、2013年の水準までには達していなかった。

このため、自民党の獲得議席は3年前の選挙を上回り、2013年選挙時との間に落ち着くのではないかとみていた。

自民党の長老の言うように「想定の範囲内」で、自民党の勝因は、野党を分断し「野党共闘の崩壊」が大きかったとみている。

但し、岸田自民党が獲得した63議席は、安倍政権の65議席に迫る水準だ。また、小泉政権が躍進するきっかけになった2001年の参院選が64議席だったので、それに次ぐ歴代3位の議席数で、評価されていい。

また、選挙の内訳をみると、◇比例代表選挙は小泉政権の20議席、安倍政権の18議席とほぼ同じだった。◇もう一つの選挙区選挙の方で、1人区を中心に議席を着実に増やしていったことが勝利につながったと言える。

自民支持層拡大より、無党派層の獲得

次に有権者の投票行動から分析するとどうなるか。新聞、通信社などが行っている出口調査=実際に投票した有権者を対象にした調査結果を基に考えてみたい。

各社の出口調査とも「ふだん支持する政党」について、過去の調査と大きく違っているとの説明はない。そうすると、特に支持する政党がない「無党派層」の投票行動が、勝敗のゆくえを左右することが多い。

読売新聞の出口調査(11日朝刊)によると「ふだん支持している政党」は自民が37%、立民9%、維新9%などと続き、「無党派層」は18%で、3年前の参院選、去年の衆院選とほぼ同じ水準で大きな変化はなかったという。

この無党派層の投票先としては、◇自民が22%でトップ、◇維新が17%、◇立民が16%だった。自民や維新が上位を占めたのに対し、従来は上位にあった立民や共産は伸び悩んだことがことがわかる。

以上のことから、今回の選挙では、自民党は、自民支持層が拡大し支持基盤を強化して勝利したというよりも、「無党派層の支持を獲得し受け皿」になったことが大きな要因になったことが読み取れる。

もちろん、従来の自民支持層の支持や、連立を組む公明支持層の支援も支えになったとみられるが、「無党派層の獲得」が競り勝つうえで、大きな効果を発揮したとみている。

安倍元首相事件、選挙への影響は?

ところで、安倍元首相が亡くなった事件が世論の同情を誘い、自民党の勝利に影響したのではないかといった声も聞くが、本当だろうか。

いわゆる”同情票”を確認する方法がないので、論評は難しいが、メディア関係者の中には、期日前投票者を対象にした出口調査で、自民党への投票割合が事件の翌日に増えたとの指摘を聞く。

また、投票率が上昇したことも、今回有権者の関心を高めたとの説も聞く。

しかし、期日前投票で自民党への投票が増えたのであれば、政党を選ぶ比例代表の得票数がもっと増えるはずだが、議席数が増えるほど得票数は増えていない。

投票率についても、3年前は”亥年選挙”。統一地方選挙に続いて参院選も行われる年で、投票率が下がる傾向があった。その年と比べて、今回数ポイント投票率が上がったので、影響したのではと関連付けるのは無理がある。

自民党の選挙関係者にも聞いてみたが、「日本人は、亡くなった方には丁寧に弔意を示す人が多いが、選挙と関連づけて考える人は少ない」との見方だ。

私も「日本の有権者はリアルで、冷静かつ慎重、賢明な選択をしている」という見方をしており、直接的な影響は少なかったのではないか。

成果を出せるか、失望すれば離反も

選挙結果を受けて、岸田首相は11日午後、記者会見し、今後の政権運営の方針などを明らかにした。

この中で、岸田首相は「多数の議席は、国民からの叱咤激励だ。今の日本は戦後最大級の難局にある」との認識を示したうえで、再拡大しているコロナ対策をはじめ、物価高騰対策、防衛力の整備や、憲法改正、拉致問題などの難題に取り組んでいく考えを強調した。

問題は、岸田政権が難題の解決に向けて、果断に実行できるのか。具体的な対策や目に見える成果を早期に出せないと、民意が失望し離反する恐れもある。

それだけに内外の難問にどのような優先順位をつけて取り組んでいくのか、明確に打ち出す必要がある。

また、最大派閥を率いてきた安倍元首相が死去した後、岸田首相は、政権与党内の意見調整に強い指導力を発揮できるか、険しい道が続く見通しだ。(了)

 

 

 

”冷静・公正な参院選挙を” 元首相銃撃事件

参議院選挙の投票が2日後に迫った7月8日正午前、奈良市で選挙応援演説中の安倍元首相が男に銃で撃たれ、亡くなるという衝撃的な事件が起きた。

現場で取り押さえられ逮捕された41歳の容疑者は、元自衛官で「安倍元首相に不満があり、殺そうと思って狙った」という趣旨の供述をしているという。

一方で、「元首相の政治信条への恨みではない」とも供述しているということだが、動機など詳しい事件の背景は明らかになっていない。

今回の事件は、自由な政治活動や言論を封殺するものだ。しかも、民主主義の根幹である国政選挙の最中という重い意味を持っており、決して許されない。

私事になるが、安倍氏が2012年、自民党総裁選に再び挑戦して総裁に返り咲いた時や、その年の衆院選挙、さらに政権復帰した後、NHKの番組のインタビューや日本記者クラブの討論会などでお世話になった。心からお悔やみ申し上げたい。

元首相が選挙の演説中に凶弾に倒れるという事態に、これまで経験したことのない衝撃を受けた。犯人の動機や、事件の背景を徹底して捜査し、全容を国民の前に明らかにするよう強く要望しておきたい。

そのうえで、私たち国民は、こうした卑劣な政治テロに決して屈してはならない。日本は、成熟した民主主義国であることを証明するためにも、参院選挙をきちんと実施することが極めて重要だ。

9日は選挙運動の最終日、翌10日は投開票日が迫っている。私たち国民は、何をすべきか。今のような緊急事態には、次の2点をやり抜くことが重要だ。

1つは、政党、候補者などの対応だ。安倍首相が倒れた8日は、政党によっては急遽、選挙運動を中止した。しかし、選挙運動最終日の9日は、各党が正々堂々、政策や所信を訴えて、選挙運動をやり抜いてもらいたい。

2つ目は、私たち国民の側の対応だ。事件の全容はまだ明らかになっていない今の時点では、まずは、冷静な判断を取り戻すことを心掛けたい。危機の際には、フェイクニュースや虚偽情報が飛び交うことも想定しておく必要がある。

そのうえで、国民一人一人が改めて「自らの判断基準」に照らして、政党や候補者を選んで1票を投じていただきたい。

岸田政権の実績評価をはじめ、ウクライナ情勢などによる物価高騰対策、防衛力をはじめとする外交・安全保障政策など数多くの論点がある。

以上の2点を実行することで、まずは「国民が冷静で、自らの判断基準で選択」、そして政党とともに「自由で公正な参議院選挙」をやり抜きたい。

可能な限り多くの国民が投票に参加するよう呼びかけたい。そのうえで、選挙後は新たな国会で、与野党はさらに議論を尽くし、合意点を広げていく取り組みを強めてもらいたい。

一方、今回の参院選では、肝心な争点・論点が深まらなかったという不満を多くの国民が抱いているように思う。岸田首相と与野党は、こうした国民の不満、批判に応え、内外の懸案を速やかに実行し、具体的な成果を見せてもらいたい。

政治家の暗殺事件といえば、戦前の1921年、日本で初めての政党内閣を組織し平民宰相と言われた原敬が、東京駅で青年に刺殺された事件が有名だ。この事件を契機に政党内閣が崩れ、満州事変、太平洋戦争の道へと転落していった。

今の日本は当時と異なり、成熟した民主主義の力を持っていると考えています。日本の民主主義の力を証明するためにも「冷静で賢明、公正な選挙」をやりぬこうではありませんか。(了)

 

 

 

参院選、メディアの予測は当たるか?

参議院選挙の終盤の情勢について、メディア各社の分析が6日までに出そろい、各党の獲得議席を予測している。

去年秋の衆議院選挙では、メディアの予測が大きく外れた。政権与党・自民党の獲得議席をめぐって、過半数をめぐる接戦と予測したが、結果は安定多数の議席を確保した。予測の範囲内に収まらなかったメディアもあった。

今回の参院選では、メディアの予測は当たるだろうか。正確な予測のためには、何が必要なのか。一方、国民の側も予測の意味や活用の仕方などを考えておく必要があるのではないかと感じる。メディアの予測報道のあり方を取り上げる。

 予測 ”与党改選議席の過半数超え”

メディア各社の予測報道の内容を確認しておきたい。ここでは、長年選挙報道を続けている読売、毎日、朝日3社の「終盤情勢」を基に分析してみたい。(毎日は「中盤情勢」としており、「終盤情勢」は今後、出される見通し)

▲参院選挙は改選と非改選とに分かれるのをはじめ、少数の党派も多くて複雑なので、政権与党の自民党を中心にみていきたい。3社の各党の獲得議席の予測は次のようになっている。

◆読売、自民55~65「与党改選過半数の勢い」。◆毎日、自民53~66「与党堅調、改選過半数に届く見通し」、◆朝日、自民56~65「自公、改選過半数の勢い維持」となっている。

▲野党側については、◆読売と朝日は、立憲民主党は改選議席23を割る可能性があること。維新は改選議席6から大幅に伸ばし、比例代表では立民を上回る可能性があるとしている。

▲一方、選挙結果によっては、選挙後、憲法改正の動きが加速する可能性がある。憲法改正に前向きな勢力、自民、公明、維新、国民の4党が改正発議に必要な「3分の2」を確保するかどうかも大きな焦点だ。

◆朝日と毎日は、4党が「3分の2」を超える可能性があるとしている。

このように自民、公明の与党は、改選議席125の過半数を上回る勢いにあること。野党側は、立民が伸び悩む一方、維新が議席を増やす見通しで、比例代表選挙で接戦を繰り広げているという見方では、ほぼ一致している。

   予測当たる公算大、情勢調査に課題

さて、こうした予測は当たるかどうか。結論を先に言えば、私も前号のブログで明らかにしたように「与党で改選議席の過半数を上回る」との見方をしており、予測は当たる可能性が大きいとみている。(前号7月1日「与党優勢、波乱は物価高騰、参院選」)

その理由は、今回の選挙は野党共闘が崩れたことで、与野党の力の差が広がり、選挙情勢が読みやすくなったことがある。

また、「情勢調査」、選挙の勝敗に重点を置いた世論調査のことだが、衆議院の小選挙区に比べて、参院選の選挙区は、都道府県単位で対象が広いので、有権者の状況を把握しやすい。比例代表は、全国が選挙区なので、さらに全体の傾向をつかみやすい。

端的に言えば、世論調査のサンプル数が衆院選に比べて、集めやすいし、精度も高くなる。したがって、予測も当たる可能性が大きいという事情がある。

それでも「情勢調査」ですべてがわかるわけではない。具体的には、選挙区選挙で、焦点の全国で32ある「1人区」の結果は、全体の勝敗を左右するが、メディア各社で勝敗の予想でかなりの違いがある。

例えば、読売は、野党系がリードしている選挙区は1つで、接戦選挙区が12、残りは自民リードとみている。毎日は、接戦区は5から、8に増えたとの判定。朝日は、野党系候補が有利な情勢にあるのは2つ、接戦区は6から、2に減少したとの判断だ。

私は、1人区は、接戦区のうち5つ程度は開票してみないとわからないほどの激戦になるのではないかという見方をしている。物価高騰、コロナ感染再拡大などの不確定要素もある。加えて、もう一つ「情勢調査方法の違い」が影響しているのではないかとみている。

というのは、この「情勢調査」は去年の衆院選挙から大きく変わり、社によって調査方法が異なる移行期・試行錯誤の段階にあると思う。

具体的には以前は、各家庭にある固定電話をかける方式だったが、固定電話を持っている家庭自体が少なくなり、先の衆院選挙から、固定電話だけの情勢調査方式は姿を消した。

今はメディアによって、◆固定電話と携帯電話の両方を組み合わせた方式(読売など)。◆民間大手の携帯会社のインターネット会員を対象にした調査方式(毎日など)。◆固定電話と携帯電話、それにインターネット調査会社4社に委託して実施する調査の組み合わせ(朝日)など様々だ。

したがって、どの社の方式が選挙結果に近いデータを得られたかなどを見極める必要がある。

一方、メディア各社は、企業秘密もあるだろうが、データをできるだけ公開して説明してもらいたい。「情勢調査のあり方」が選挙後、新たな課題になりそうだ。

 予測の意味と活用の仕方がカギ

選挙予測については、国民の側も予測報道の意味や、活用方法などを考える必要があると思う。

どういうことかと言えば、報道機関は正確な報道を行うことが第1の役割だ。そのうえで、有権者の側に「投票に当たって判断材料の1つとして、選挙結果の見通しを知っておきたい」という要望に応えたいという考えがある。

政治にできるだけ民意を反映させるためにメディアの予測報道は意味があり、必要だと個人的には考えている。

このため、どのメディアの予測が当たったか、外れたかをことさら強調するのは、あまり意味がないと考える。

それよりも、メディアが選挙の争点をはじめ、政策の評価、選挙後の与野党の勢力の見通しなど国民に可能な限り多くの判断材料を提供するよう叱咤激励する方が生産的で望ましいことではないかと考える。

 出口調査と選挙報道の充実を

最後に「出口調査」についても触れておきたい。選挙の正確な報道という観点からすると、出口調査が最も正確なデータを得ることができると考える。

現役時代、NHKで政治記者と解説委員として選挙報道に携わった。出口調査は、実際に投票を済ませた有権者を対象にしているので、世論調査・情勢調査に比べて、予測の精度が各段に高くなるというのが実感だ。

但し、問題点もある。1つは、おカネがかかり、億単位の予算が必要になる。もう1つは、最近は期日前投票が増えてきたので、期日前投票も含めた出口調査を十分に行えるのか、調査員の確保などの面で難しい問題がある。

こうした問題はあるが、出口調査は、当落を判定するだけでなく、国民は何を重視し、何を選択したか有権者の投票行動の意味も正確に把握できる。それを選挙後、政治の側にぶつけたりすれば、さらに大きな意味を持つ。

選挙報道は、選挙の勝敗だけでなく、有権者の投票行動などを多角的に分析した中身の充実が問われている。

率直に言わせてもらうと以前に比べると、こうした点は各社とも弱体化しているのではないか。選挙のプロと言われる記者、世論調査や出口調査の分析などに当たる専門家も少なくなった。

こうした背景には、メディア各社の経営陣の資質や責任が大きいと個人的にはみている。

一方、現役の記者、編集委員、解説・論説委員などの諸氏も今回の選挙の意味、政治の側の役割、能力などの課題、問題を深く分析、論評してもらいたい。10日の投開票日の報道や論評に期待したい。(了)

 

 

 

”与党優勢、波乱は物価高騰” 参院選

参議院選挙は折り返し点を過ぎて、いよいよ後半戦に入った。G7サミットなどへの出席のため、選挙期間中に異例の海外訪問をしていた岸田首相は帰国し、各党とも最後の追い込みに入っている。

さて、選挙情勢をどうみるか。与野党の関係者の話を総合して予測すると、自民、公明の与党は、改選議席の過半数を固めて優勢といえる。対する野党側は共闘体制が崩れ、焦点の定員1人の「1人区」でも苦戦が続いているのが特徴だ。

一方、岸田内閣の支持率や自民党の支持率に下降傾向が、現れている。政府の物価高騰対策に対する不満が背景にあるものとみられ、選挙に波乱があるとすれば、この物価高騰が要因になることも予想される。

また、猛烈な暑さが続く中で、投票率がどうなるか。前回は、戦後2番目に低い投票率だったが、改善なるか。参院選の情勢や背景を探ってみる。

 与党、改選議席の過半数確保の勢い

さっそく、選挙情勢からみていきたい。自民党関係者に聞くと「想定通りの戦いで、前回・2019年の選挙を下回るような要素はない。前回獲得の57議席以上、60台に乗せるのではないか」と自信をのぞかせる。

選挙全体を左右するといわれる「1人区」をみても32選挙区のうち、27程度で自民党が優勢だ。定員が2人以上の「複数区」でもすべての選挙区で1議席を確保したうえで、北海道、千葉、東京、神奈川では2議席目にメドが立ちつつある。

比例代表選挙は、前回は19議席だったが、今回は1~2議席の上積みが可能だとみている。自民党は58議席以上、60台を確保する勢いをみせている。

公明党は、接戦が続いている選挙区を残しているものの、比例代表と合わせて、前回と同じ14議席が視野に入りつつある。

このため、岸田首相が勝敗ラインとして設定する「非改選を含めて与党で過半数」という56議席はもちろん、「与党で改選議席の過半数」63議席も上回る勢いがある。(橋本聖子参議院議員が近く自民党に復党した場合、56議席→55議席)

 比例・野党第1党、立民と維新の争い

野党側は、カギを握る1人区で候補者を1本化できた選挙区は11で、前回・前々回の3分の1に止まり、苦戦を強いられている。

野党側が今の時点でやや優位にある選挙区は、立憲民主党、国民民主党、無所属候補を含めて、青森、岩手、山形、長野、沖縄の5か所程度に止まっている。

自民党と激しく競り合っている選挙区が5つ程度あり、この激戦区でいくつ上積みできるかが焦点だ。野党系候補が勝利した1人区は、2019年は10,2016年は11あったが、今回はこれを下回り、1ケタ台に落ち込む公算が大きい。

野党側は、野党内で激しく競い合っているのが特徴だ。野党第1党の立憲民主党は改選議席23を上回る目標を掲げているが、改選議席を割り込むことも予想される。

維新は、改選6議席の倍増と比例代表選挙で立憲民主党を上回る得票をめざしている。共同通信の世論調査で、比例代表の投票先として、維新が立民を上回っていたが、最新の調査では逆転しており、比例の野党第1党争いが続く見通しだ。

このほかの党の改選議席は、国民民主党が7、共産党が6、社民党1となっており、各党の勝敗を評価するうえで目安となる。

一方、今回の選挙では、憲法改正に前向きな勢力が改正を発議できる総定数の「3分の2」、166議席に達するかどうかも焦点だ。具体的には、自民、公明、維新、国民の4党で、非改選の84に加えて、今回82議席が必要になる。4党が今の勢いを維持した場合は、届く見通しだ。

 岸田内閣、自民支持率ともに下降傾向

このように選挙戦は与党優勢で推移しているが、ここにきて、岸田内閣の支持率と、自民党の支持率がともに下降傾向を見せ始めた。

読売新聞が6月22・23日に行った調査では、岸田内閣の支持率は57%で、6月上旬の前回調査から7ポイント下落した。自民党の支持率も6ポイント下がって37%、比例代表の投票先も9ポイント下がって36%となった。

NHKが6月中旬から1週間ごとに行っているトレンド調査でも、岸田内閣の最新の支持率は50%で、この2週間に9ポイント下落した。自民党支持率も35.6%で、2週間で4.5ポイント下落した。(最新・投票日2週前調査と、その2週前調査との比較)

NHKの調査では、政府の物価高騰対策について「評価する」が35%に対し「評価しない」が56%と上回っており、物価高騰対策が影響しているものとみられる。

但し、岸田内閣や自民党の支持率は下落しているものの、野党の支持率は上がっていない。こうした批判がどのような投票行動になって現れるか、わからない。

 物価高騰、与野党勢力、投票率がカギ

後半戦の焦点は何か。これまでの議席予想に変化・波乱が起きるとすれば、政府の「物価高騰対策」への批判が強まる場合が考えられる。

厳しい暑さが続き、東京電力管内では「電力需給ひっ迫注意報」が出されてきたことから、エネルギー確保や経済政策を含めた物価高騰対策の論戦がどのような展開をみせるのか焦点になりそうだ。

また、岸田首相がG7サミットやNATO首脳会議に出席したのを受けて、ロシアや中国に対する「日本外交の戦略・対応」や、「防衛力の整備の具体的な内容、予算の規模、財源」をめぐる論戦のゆくえも注目される。

さらに、参議院選挙が終わると衆議院が解散されない場合、向こう3年間、国政選挙がない期間が続くことになる。このため、国民が与野党の勢力はどのような形が望ましいと考えるか。

与党を増やして岸田政権の実行力に期待するのか。与党を増やしすぎると内輪の抗争が激化するとみて、野党を増やす方へ動くのか「与野党の勢力バランス」も判断の要素になりそうだ。

さらに気になるのは「投票率」だ。前回は48.8%、50%を割り込み、戦後2番目に低い投票率になった。今の日本政治が国民の関心を引き付ける力を失っていることの反映だ。

ロシアによるウクライナ侵攻は長期化が予想される中で、日本は国際社会の中でどのような役割を果たすのか。どんな経済・社会を目指すのか、政党のリーダーは構想や目標、道筋をもっと明確に打ち出して議論を深めるべきだ。

私たち国民も政治の側の訴えに耳を傾け、ベストの選択肢がない場合は、よりましな選択を心掛け、1票を投じたい。(了)

★追記(7月1日16時:東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長を務めてきた、参議院議員の橋本聖子氏が組織員会の解散を受けて、1日付で自民党に復党した。これに伴い、自民・公明両党の非改選の議席は、1つ増えて「70」となる。また、自公両党が勝敗ラインとしている参議院全体の過半数を維持するために必要な議席は、56から「55」になる)

参院選 憲法改正問題の見方・読み方

参議院選挙が公示された後の最初の週末、テレビ局では各党幹部が出演して討論が行われた。週明け27日から首都圏では政見放送も始まったが、新興勢力の党派やユーチューバーの候補者も目に付き、ネット時代の選挙を感じる。

与野党の論戦では、ウクライナ情勢などによる物価高騰・経済政策と、日本の防衛力整備のあり方を含む外交・安全保障の2つのテーマに議論が集中している。

一方、参議院選挙の結果によっては、選挙後、憲法改正問題の議論が加速する可能性がある。そこで、今回はこの憲法改正問題をどのように考えたらいいのか、取り上げる。

 改憲勢力「3分の2」82議席が焦点

岸田政権が初めて臨む今回の参議院選挙は、自民、公明両党が改選議席の過半数を獲得できるかどうかが焦点になるが、今の選挙情勢から予想すると達成の可能性は高いとみている。

もう1つの焦点が、憲法改正に前向きな勢力が、参議院の「3分の2」を占めることになるのかどうかだ。この「3分の2」は、憲法改正を国会で発議、提案するために必要な勢力だ。

具体的には、自民党と公明党、日本維新の会、国民民主党の4党が衆議院に続いて、参議院でも3分の2の議席を確保すれば、数の上では憲法改正を発議することが可能になる。

参議院の定数の「3分の2」は166人。憲法改正に前向きな4党の非改選議員と近く自民党に復党する無所属議員1人を加えると84人。その差「82」議席を改憲勢力が獲得すると「3分の2」を確保することになる。

 自民、憲法改正原案早期に提出の意向

6月26日に放送されたNHK日曜討論で、自民党の茂木幹事長は「時代の転換点にあって、新しい時代にふさわしい憲法のあり方を示すのは国の役割だ。この選挙後、できるだけ早いタイミングで、憲法改正原案の国会での可決、発議をめざしたい」と憲法改正を早期に実現したいとの考えを表明した。

これに対し、野党の立憲民主、共産、れいわ、社民の各党の幹事長や書記局長からは強く反対する意見が出される一方、維新や、国民民主からは議論に応じていきたいとの意見が出され、対応が分かれた。

憲法改正をめぐって、安倍政権時代も参議院で3分の2を確保したことはあったが、当時は安倍首相に対する野党の警戒感が強く、憲法改正への動きは進まなかった。

これに対して、岸田政権に代わった先の通常国会では、衆参の憲法審査会が頻繁に開かれ、憲法論議が活発化した。

去年の衆院選で野党第1党の立憲民主党が敗北、憲法改正に積極的な維新や国民民主党が積極的に議論に応じたことが背景にある。

一方、岸田首相は宏池会出身で、ハト派のイメージが強いが、憲法改正には強い意欲を示している。政権運営にあたって最大派閥の安倍派の協力が必要で、選挙後も憲法改正に積極的な姿勢で臨むことが予想される。

このため、今回の選挙結果次第では、憲法改正をめぐる議論が選挙後に加速することがありうる。これを国民の側からみると、今回の参院選がターニング・ポイントになることもありうるので、投票に当たっては、こうした点も念頭に置いておく必要がある。

 憲法のどこを変えるか、各党に温度差

ここまでみてきたように憲法改正をめぐる議論は加速することはありうるが、直ちに改正へと大きく動くかと言えば、そうとも言えない。

というのは、今の憲法をどのように評価するか。また、具体的にどこを変えるのかといった中身の問題になると各党の考え方の違い、温度差が大きいからだ。

例えば、自民党は憲法改正に向けて、自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を提示して、丁寧に説明すると選挙公約で打ち出している。

ところが、同じ与党でも公明党は今の憲法を高く評価しており、自衛隊の明記については「引き続き検討を進める」という表現にとどめている。

この自衛隊の明記をめぐっては、野党側のうち、立憲民主や共産、れいわの各党は反対している一方、維新は賛成、国民民主は議論するとして、対応に違いがある。

このため、国会でこうした違いを調整して改正案をまとめることができるかどうか。そのうえで、国民投票の実施にこぎつけ、多数の賛成を得られるのかどうか、なかなかの難問だ。

 国民が重視する課題、優先順位は

さらに国民は、憲法改正問題をどのように受け止めているか、この点も重要だ。NHKが今月24日から26日に行った世論調査で「選挙で、最も重視する政治課題」を聞いている。

結果は、◇経済政策が最も多く43%。次いで◇社会保障が16%、◇外交安全保障が15%と並び、その後、◇新型コロナ対策、◇憲法改正、◇エネルギー・環境がいずれも5%だった。

つまり、国民が重視する政治課題の中で、憲法改正問題は低い順位に止まっている。政党の側は熱心だが、国民の側には、届いていない。この点を政党、政治家は重く受け止める必要がある。

私事になるが、現役時代の2000年に憲法調査会が国会に設置された当時から憲法問題を取材してきたが、憲法は国民のものであり、絶えず、見直していく必要がある。

そして、憲法改正を行う場合、最終的には国民投票で、国民の多数の賛成を得なければならない。政治の側は、国民が必要としている暮らしや社会が抱える大きな課題を解決できているか、課題の処理能力や優先順位が大きな問題になる。

今回の参院選は、ウクライナ情勢や外交・安全保障のあり方をはじめ、物価高騰や経済政策、人口急減社会への対応、さらには憲法改正問題など大きなテーマを数多く抱えている。

特に政権与党の自民党は、選挙後、早いタイミングで憲法改正原案を提出する考えであるならば、選挙期間中に改正案の内容を掘り下げて説明し、国民に判断材料を提供するよう注文しておきたい。(了)

 

 

 

参院選 波乱要因は物価高騰問題

第26回参議院選挙が22日公示され、7月10日の投開票日に向けて18日間の選挙戦が始まった。

政権与党の自民党は堅調な滑り出しをみせているが、「物価高騰とエネルギー対策を含む経済政策」が選挙の波乱要因として浮上してきたように見える。

今回は選挙の構図をはじめ、選挙情勢、今後の焦点を報告する。

 選挙の構図一変、野党共闘から競合へ

まず、「立候補状況」を確認しておくと◇選挙区選挙には75の定員に対して367人、◇定員50の比例代表選挙には178人の合わせて545人が、それぞれ立候補した。

前回・3年前の立候補者は、合わせて370人だったので、前回に比べて175人も増えた。これは、選挙区で1人を選ぶ「1人区」で、野党候補の1本化が進まなかったことと、”ミニ政党”が多数の候補者を擁立したためだ。

また、女性候補者が181人で、候補者全体の33%、人数と割合はいずれも過去最高となった。衆院選挙を含めた戦後の国政選挙で初めて3割を超えたが、「候補者男女均等法」の目標には届いていない。

次に「選挙の構図」は、過去2回の選挙と比べると様変わりしたのが特徴だ。特に全国に32ある「1人区」で、与野党の勝敗を左右する選挙区の様相は大きく変化した。

1人区は、自民党が長年議席を維持してきた選挙区が多く、野党側は共闘体制を組んで対抗しようとしてきたが、今回、1本化できたのは、11の選挙区に止まった。

前回、前々回はすべての1人区で候補者を1本化してきた。今回は全体の3分の1に止まったので、野党同士が競合する選挙区が増えたことになる。

 自民堅調、波乱要因は物価高騰対策

それでは、与野党の選挙情勢や、勝敗を分けるポイントは何かをみていきたい。

自民党の幹部に聞くと「新型コロナ感染は落ち着いているし、ウクライナ情勢も岸田内閣はG7と連携して対応しており、選挙準備も順調に進んでいる。自民党にとって、不安材料があるとすれば、物価の高騰や円安など経済問題への対応だ」と公示前の時点で語っていた。

その後、党首討論や、公示日の党首第一声などを聞いてみると、この幹部の不安が的中した形になっている。別の幹部も「この30年、国民は物価の高騰を経験したことがなく、対応を誤ると思わぬリスクになる」と神経をとがらせている。

報道機関の世論調査でも◆共同通信が6月11日~13日に行った調査では、岸田内閣の支持率は56.9%と高い水準を保っているが、前回調査から5ポイント近く下落した。岸田首相の物価高対応についても「評価する」は28.1%に対し、「評価しない」が64.1%と大幅に上回った。

◆NHKが6月10日以降1週間ごとに実施しているトレンド調査では、岸田内閣の支持率は59%から、55%へ4ポイント下落した。政府の物価高騰対策についても「評価する」が35%に対し、「評価しない」が56%と上回った。

今回の参院選の論点としては、ウクライナ情勢と外交・安全保障、コロナ対策、憲法改正問題など数多くのテーマを抱えているが、世論や選挙情勢に最も大きな影響を及ぼしているのは「物価高騰対策」であることが浮かび上がってきた。

次に、こうした物価高騰問題は、参院選挙では具体的にどのような形で影響が出てくるのかを探ってみよう。まず、全国が対象の比例代表選挙に比べて、選挙区選挙への影響が大きい。特に1人区のうち、接戦の選挙区だ。

例えば、青森、岩手、宮城、福島の東北各県をはじめ、新潟、山梨、大分、沖縄などの各県は大激戦になりそうだ。こうした激戦区は10余りあり、風向きが変わると勝敗が入れ替わることになる。

与野党の選挙関係者の話を基に判断すると、自民党は「前回・2019年に獲得した57以上の議席の獲得は可能で、60台に届くのではないか」との見方をしている。

これに対して、野党関係者は「1人区では、野党候補の1本化で前回は10議席、前々回は11議席を確保してきた。今回、野党共闘は縮小したが、激戦区では1議席でも競り勝ちたい」と最後の追い込みにかける構えだ。

自民、公明の与党側は、非改選を含めて与党で過半数の確保には、自信を持っている。但し、どこまで議席を上積みできるかは、読み切れていない。1人区の激戦区がカギを握っており、特に10か所近い激戦区の情勢はまだ、流動的だ。

 物価・防衛、岸田首相の政治決断は

最後に7月10日の投開票日に向けて、どんな動き、展開が予想されるか。

1つは、週末は各テレビ局で党首レベルの討論が行われるが、これまでと同じ主張をダラダラと繰り返す展開が1つ。選挙の争点が明確にならないのが問題だ。

岸田首相は、26日からドイツで始まるG7の首脳会合、続いて29日からスペインで開かれるNATO首脳会議に初めて出席する。選挙期間中に異例の1週間近くも国内を留守にすることになる。

2つ目は、例えば円安がさらに加速したり、報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率が続落したりして、岸田政権が新たな対策に追い込まれたりするケースも予想される。

3つ目は、岸田首相が打って出る形で、物価高騰や防衛費問題などをめぐって、新たな対策や構想を打ち出すこともありうるのではないか。野党党首もこれに応じて、活発な論戦が戦わされるケースも考えられる。

現実の政治はどうか。1つ目の先送りケースに落ち着く可能性が大きいと思うが、私個人は、3つ目のケースもありうるのではないかと期待している。

というのは、このまま推移すると世論は「岸田政権は、物価高騰などに思い切った手を打てないのか」と落胆や批判が強まり、内閣支持率などが下がる可能性もあるからだ。

また、平時であれば先送りもありうるかもしれないが、今はウクライナ情勢に伴う激動、有事が続いている。大胆でスピーディーな対策が必要だ。

さらに世論は、小手先の給付金や補助金のバラマキを期待しているのではなく、資源高対策としてエネルギー確保にどう取り組むのか。日本の金融政策は、欧米諸国とは正反対の方向で、大胆な金融緩和策を続けて大丈夫なのかといった点を知りたいと考えているのではないか。

端的に言えば、岸田政権としてどんな経済・金融政策を取るのか、明確でわかりやすい説明を世論は催促していると思う。

今回は物価高を中心に取り上げたが、防衛力整備のあり方についても同じ問題を含んでいる。

岸田首相は、防衛力を抜本的に強化する考えを表明する一方、重点的に整備する分野や、予算規模、財源は選挙の後に先送りする方針だ。

しかし、国政選挙のさ中に、防衛力整備の基本的な考え方を明らかにしないのはどう考えても無責任だと言わざるを得ない。

選挙の時に「負担」の話はしないというのは、昔流の政治手法だ。国民の安全にかかわる問題は選挙の時に説明し、国民を説得することは、政治的なリスクを伴うが、民主主義国のリーダーの責務であり、強さでもある。

岸田首相が政治決断をして、踏み込んだ構想を示し、野党党首も受けて立って、中身のある充実した論戦を行えないものか。国民の多くは、政治が変わり、前進することに大きな関心と期待を抱いているのではないか。(了)

 

 

参院選 何が問われる選挙か

ウクライナ情勢で世界が大きく揺れ動く中で、第26回参議院選挙が今週22日に公示され、7月10日の投開票日に向けて選挙戦が始まる。

今度の参議院選挙で、岸田政権は去年秋の衆院選に続いて勝利し、安定した政権基盤の下で、内外の懸案に取り組みたい考えだ。

これに対して、野党側は改選議席の過半数を獲得して反転攻勢の足掛かりを得たいとしており、激しい戦いが予想される。

一方、私たち有権者は今度の参議院選挙をどのように観たらいいのか。判断すべきことが多く、選択が意外に難しいとの声も聞く。そこで、「何が問われる選挙か」。有権者の側から、政治の対応や政策のポイントを考えてみたい。

 ”大きな問題、低い投票率”の懸念

今度の参議院選挙について、個人的に最も気になっている点から取り上げてみたい。何かと言えば、投票率が低くなるのではないかという懸念だ。

というのは、選挙関係者の何人かを取材したところ、かなりの人が、選挙は盛り上がっていないし、有権者の関心も低く、投票率が下がるのではないかと心配しているからだ。

前回・2019年の参院選の投票率は48.80%で、戦後2番目に低い結果に終わった。今回は前回並みか、さらに下がるのではないか、つまり、50%割れの可能性が強いということになる。

他方で、ロシアによるウクライナ侵攻は、日本国民にも大きな衝撃を与え、日本の平和や安全の問題を考えるきっかけになっている。加えて石油高騰、物価高も進み、政治・外交、選挙への関心が高まるという見方もできる。

ところが、有権者の関心が低いとみられるのはなぜか。選挙関係者は、立候補予定者のポスター類が例年に比べて少ないこと。野党共闘が崩れ、野党支持層の関心が薄れていること。さらにメディアの取り上げ方が、ウクライナ問題に集中し、日本の政治に関心が向かっていないからではないかと指摘する。

こうした点に加えて私は、国会の論戦が低調で、これからの選択肢も示されない状況も重なって、政治への関心が低下しているのではないか。「政治の責任」が極めて大きいとの見方をしている。

したがって「参院選で何が問われているか」と言えば、まずは「政治の力量と質」が問われている。具体的には、政党・候補者が選挙の争点を明確にし、有権者を引き付けることができるかどうかが問われていると考える。

 暮らし・経済 重点政策の明示を

そこで、選挙の争点となる政治課題・政策をみていきたい。各党の選挙公約を読むと、ウクライナ情勢を受けて、重視している政策は2つに絞られつつある。1つは、外交・安全保障政策、もう1つは物価の高騰、暮らし・経済政策だ。

暮らし・経済政策から取り上げたい。物価の高騰は去年秋から始まり、ロシアによるウクライナ侵攻で石油高、資源高に拍車がかかった。日本では、さらに円安が加速し、物価高騰対策が参院選の争点に浮上してきている。

野党側は「岸田インフレ」と批判し、家計の負担を軽減するため、消費税の減税や廃止をそろって打ち出しているのが特徴だ。

これに対して、政府・与党は、ロシアによる「有事の物価高騰」が主たる要因だが、物価高は欧米の4分の1程度に収まっているとかわす一方、1兆円の地方創生臨時交付金を活用して、生活者や事業者への支援を強化していくと強調している。

この問題は、岸田政権の旗色が悪いように見える。今後、ボディーブローのように効いて、選挙の波乱要因になるのかどうか、注意深くみていく必要がある。

もう1つは、日本経済の根本問題は、この30年近く、賃金が上がらず、経済成長も目立った成果を上げることができなかった問題をどうするのかということに尽きる。

岸田首相や自民党は、看板政策として「新しい資本主義」を掲げ、「25年ぶりの本格的な賃金増時代を創る」と強調しているが、どのように実現していくのか、骨太の方針や選挙公約を読んでも、よくわからない。

要は、与野党ともに「暮らし・経済分野の重点目標と、実現のための具体策、期限を含めた道筋」を明確に打ち出すことが問われている。

特にメディアは、各党党首を招いての討論では、論点を明示して、かみ合った議論を展開するよう求めることが必要だ。

 防衛力整備のあり方と外交構想を

外交・安全保障に話を移したい。この分野は多くの論点あるが、日本に引きつけて考えると、日本の防衛力整備をどう考えるかが、最大のポイントだ。各党の選挙公約を読むと、対応の方針は3つ程度に分類できる。

1つは、「防衛力の抜本的強化路線」。例えば自民党の方針で、NATOのGDP比2%を念頭に5年間で整備をする考え方。日本維新の会も基本的に同じ路線だ。

2つ目は、先の路線とは対極にある考え方で、「軍拡反対・外交重視路線」。共産党、れいわ、社民党などの考え方。

3つ目が、2つの路線の中間に位置する考え方で、「漸進的な防衛力整備路線」。防衛費を増やす立場だが、整備する分野を検討し、着実に整備を進めるなどとしている。与党の公明党、立憲民主党、国民民主党などがこの路線だ。

以上は私の個人的な分類だが、有権者としてどの路線が望ましいと考えるか、追加の判断材料が必要だ。

例えば、第1の路線「防衛費を5年間でGDP2%まで増やすケース」では、今のおよそ5兆円の予算から、さらに5兆円の予算の上積みが必要で、年平均で1兆円程度ずつ増やしていく必要がある。

岸田首相は「防衛力のどこを強化し、そのための予算の規模、財源の3つを一体で考える」として、具体的な内容に踏み込むことを避けている。

しかし、これでは論戦は深まらないし、国民も理解し選択するのも困難だ。詳細は別にして、基本的な考え方を説明して議論を深めるべきだ。

例えば、防衛力を優先的に整備する分野として、国民の避難・保護をはじめ、武器弾薬の備蓄、正面装備、自衛隊員の生活環境など多くの課題の中で、どこを重視するのか、財源は国債で賄うのか、一定の考えを示すのは可能だと考える。

もう1つ、重要なことは「日本外交のあり方・構想・ビジョン」論争だ。これが余りにも弱い。防衛力の整備は必要だが、国家レベルの意見の対立を武力紛争に拡大させないことが重要だ。そのための外交努力、国のトップリーダーの役割や取り組みが極めて重要だ。

日本を含む東アジア地域の平和と安定については、日米同盟が基軸であることはほとんどの政党で一致している。そのうえで、関係悪化が続いている韓国との関係や、軍事力増強が続いている中国とどのように向き合うのか議論が必要だ。

日米同盟を基軸にしたうえで、中国とも対話を模索するなど「したたかな外交」を探るべきだ。日本外交の役割、平和と安定を追求していく構想・ビジョン論争も必要だと考える。

ここまで「参議院選挙で問われる点」をみてきた。暮らしと経済、外交・安全保障分野では、重点目標と実現への道筋をめぐる議論が不可欠だ。

また、国際社会の激動が続く中で、国民の多数が参加して進路を定めていく参院選挙にできるのかどうか。特に選ばれる側の政党、候補者の対応が問われている。(了)

参院選 岸田首相 異例の首脳外交

長丁場の通常国会が15日で閉会し、いよいよ夏の参議院選挙が始まる。今回の選挙期間中、岸田首相はドイツで開かれるG7=主要7か国首脳会議などに出席し、海外で首脳外交を展開する。

日程は1週間程度になる可能性があり、政権与党のトップが国政選挙の期間中、長期にわたり国内を留守にするのは異例だ。参院選挙への影響はどうか、与党優位と言われる中で、参院選の風向きを変える要素は何か、探ってみた。

 岸田首相 G7とNATO出席も検討

まず、これからの政治日程をみておきたい。最終盤の国会は13日、参議院決算委員会に岸田首相が出席して質疑が行われた後、会期末の15日に重要法案の「子ども家庭庁」設置法案が参院本会議で可決・成立し、閉会する運びだ。

翌週の22日には、第26回参議院選挙が公示され、7月10日の投開票日に向けて選挙戦が始まる見通しだ。

選挙期間中の26日から28日には、G7=主要7か国首脳会議がドイツで開かれ、岸田首相が出席する。長期化するロシアによるウクライナ侵攻への対応策や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮問題が主要な議題になる見通しだ。

また、29、30両日、スペインでNATO=北大西洋条約機構の首脳会議が開かれる。岸田首相は最終的な態度を決めていないが、出席の方向で調整を進めている。

欧米の30か国で構成される軍事同盟NATOの首脳会議に日本の首相が出席すれば、初めてのことになる。

自民党内からも「NATO首脳会議に出席すれば、日本としてもウクライナ危機を欧米諸国と共有することになる。将来、台湾問題などで日本が危機に陥った場合、ヨーロッパ諸国の支援が期待できる」として、出席を支持する意見も出されている。

また、首相周辺には、外相経験者として岸田首相が得意の外交力を内外にアピールでき、参院選挙にも有利に働くとの判断がある。このため、岸田首相は、最終的にはNATO首脳会議にも出席する決断をするのではないかとみられている。

問題は、G7に続いて、NATOの首脳会議にも出席するとほぼ1週間かかる。参院選挙の運動期間18日間の3分の1以上にわたって、総理・総裁が国内を留守にする、異例の日程になる。

 首脳外交、選挙の得票・議席増効果は

さて、国政選挙の期間中、首相がほぼ1週間国内を留守にすることをどうみるか。地方の選挙関係者からは「最後の追い込みに、やはり総理・総裁の応援は欲しい」と海外訪問期間の短縮を求める声が出されることが予想される。

これに対して「地方の応援に回るよりも、国際舞台で活躍する首相の姿を報道してもらう方が効果がある」と反論する意見も出されそうだ。

自民党の長老に聞いてみた。「これまでの経験から言えば、外交は票にならない。ウクライナ情勢の影響はわからないが、有権者の身の回りや国内問題の方が選挙結果に結びつく。但し、今度の参院選挙は野党に勢いがなく、激戦区は少ない。首相が外遊しても大した問題にはならないのではないか」と語る。

この発言からすると選挙へのマイナスの影響はそれほどない。一方、首脳外交が華々しく取り上げられたとしても選挙に大きな効果もないだろうということになる。

 波乱要因は、不祥事、物価高騰

今回の参院選挙は与党優位との予想が多いが、波乱要因があるとすれば何か、この長老に聞いてみた。

「気になるのは2点。1つはスキャンダルや不祥事などに鈍感すぎると、思わぬしっぺ返しを受ける。もう1つは、有権者の関心は低いので、投票率が5割を切るかもしれない。この影響がどう表れるかだ」と語る。

通常国会では、政府提出法案の61本はすべて成立する見通しだが、国会議員に毎月100万円支給される「文通費」(「調査研究広報滞在費」に改称)の使途を公開するなどの宿題は、先送りになる見通しだ。

一方、細田衆議院議長のセクハラ疑惑報道に続いて、今度は自民党岸田派に所属する吉川赳衆院議員が18歳の女性と飲酒したなどと週刊誌に報じられ、離党した。吉川氏に対しては、自民党内からも議員辞職を求める意見が出されている。

有権者が、こうした不祥事への対応が甘すぎると判断すると参院選の風向きがガラリと変わる可能性がある。

このほか、与党にとっての不安材料は、物価高や経済運営のかじ取りの問題もある。円安や物価高がさらに急激に進んだり、政府の経済運営に問題ありと判断されたりすると苦戦を強いられる。投票日まで1か月ある。

一方、参院選の投票率については、前回2019年は48.80%で、戦後2番目に低い水準だった。選挙関係者の中には、今回、投票率が5割を割り込むのではないかとの見方もある。

その根拠としては、街頭のポスター類が少ないこと。ウクライナ情勢や、コロナ感染対策など大きな問題を抱えているのに、日本の問題に引き寄せて争点化ができていないこと。さらに野党がバラバラで、選挙に緊張感がないためだ。

選挙は、投票箱が閉まるまで何が起きるかわからないといわれる。ウクライナ情勢と日本の防衛力整備のあり方、新型コロナ感染の総括と備え、物価高騰と経済対策などについて、有権者がどんな判断を示すか、投票日までの動きをじっくり見極める必要がある。(了)

 

 

衆院議長、内閣 不信任決議案の読み方

通常国会の会期末が15日に迫る中で、野党第1党の立憲民主党は今週、細田衆議院議長に対する不信任決議案と、岸田内閣に対する不信任決議案を相次いで提出する構えだ。

これに対して、自民、公明の与党側は直ちに否決する方針で、与野党の攻防が激しさを増す見通しだ。今回の不信任決議案の意味をどのようにみたらいいのか、夏の参院選挙を控えた与野党の事情、背景を探ってみた。

 衆院議長の説明責任と政治の質

細田衆議院議長をめぐっては、週刊文春が複数のメディアの女性記者に対して、深夜に自分のマンションに来ないかなどの電話をたびたびかけていたと報道し、衆参の予算委員会などでも取り上げられた。

立憲民主党は、細田議長が衆議院の小選挙区の「10増10減案」に繰り返し懸念を示したことや、女性記者などへのセクハラ疑惑の週刊誌報道について、国会で説明していないことは、議長としての資質に欠けるとして、7日にも細田議長に対する不信任決議案を提出する方針だ。

国会の議事運営などをめぐって、野党が衆院議長に不信任決議案を出すことはあるが、セクハラ疑惑の報道をめぐって不信任案が出されるのは極めて異例だ。

与党側は「事実関係が確認されていない段階で不信任案を提出するのは、極めて無責任だ」として、提出されれば直ちに否決する方針だ。

但し、与党関係者の中にも「細田氏の言動には、かねてから問題があった」との発言が聞かれるほか、「録音がとられていたらアウトではないか」との声もささやかれている。

衆院議長は、参院議長とともに立法府をつかさどる三権の長で、手厚い処遇と強い権限が与えられている。例えば、国会法で、議院の秩序保持権、衛視や派出された警察官を指示・執行できる。

政界では、権力をめざさない「上がりポスト」との見方もあるが、重厚さや権威、信頼感などが求められるポストだ。昭和の前尾繁三郎、保利茂、灘尾広吉などが知られるほか、最近では、伊吹文明氏、大島理森氏らが就任していた。

こうした衆院議長の重みを考えると今回のような疑惑が生じた場合は、国会のしかるべき場所で、議長が説明責任を果たすことが最低限必要ではないか。そのうえで、責任などをどう考えるか、議長が与野党の意見も聞いて最終的に判断するのが基本ではないかと考える。

今回のケースは、「政治の質」に関わる問題でもある。細田氏は現在は党籍を離れているが、自民党に所属し、最大派閥の会長を務めてきた。重要なポストにふさわしい人物が就任しているかどうか。問題が生じたときに国会は、政治の信頼を維持できる取り組みができているかどうかも問われている。

一方、国民の側も「政治の質」をどのように判断するか、問題があるとすれば、次の選挙で一定の判断をして改善を求めるというのが、議会制民主主義のルールだ。回りくどい対応だが、粘り強く進めるしか他に方法はない。

 政権与党、野党の対立軸を鮮明に

もう1つは、岸田内閣に対する不信任決議案の問題だ。今のところ、9日に提出される見通しだ。

内閣不信任決議案の意味をめぐっては、個人的には、2つに分類できるとの見方をしている。1つは、政治の行方を大きく左右する「政局緊迫型」。2つ目は、野党が自らの存在感を訴える効果を狙った「アピール型」だ。

前者は、不信任決議案が可決される可能性があるようなケースで、政治は一気に緊迫する。可決されれば、内閣総辞職か、衆院解散・総選挙のいずれかになる。

今回、自民、公明両党は、提出されれば、直ちに否決する方針で、与党内で反乱が起きるような要素はない。

そうすると今回の不信任決議案は、後者の「アピール型」となる。参院選を控えて、野党第1党が存在感の発揮を狙ったとみられる。

衆院では与党が圧倒的多数なので、不信任案が提出される場合、否決される見通しだ。この不信任案提出の意味を見出すとすれば、提案理由の説明や賛否の討論を通じて、岸田政権の評価や各党の立ち位置などを確認できるということではないか。

というのは、ウクライナ情勢やコロナ感染問題など極めて大きな問題を抱えながら、与野党の今後の対応策の違いはどこにあるのか、国民の側には、十分に伝わっていないのではないか。参院選でもどの政党に投票するか迷ってしまうとの声を聞く。

先週の補正予算案の審議と集中審議でも岸田首相は、焦点の物価高対策や、今後の経済・金融政策をめぐって、曖昧な答弁が相次いだ。これまでの政策を変える点、変えない点はどこか、肝心な点がさっぱりわからなかった。

防衛力の整備についても、抜本的な防衛力の整備を強調するが、整備する重点分野や、予算規模の目安、その財源のいずれも、年末の予算編成まで差し控えるという答弁で、これでは議論が深まるはずがない。

一方、野党の側も、政府の対応を批判するのは当然なのだが、自らの党はどんな考え方で臨むのか、政府とどこが違うのか、はっきりしない党が多い。

通常国会も会期末まで残りわずかだ。政権与党と、野党側はそれぞれ何を最重点に取り組んでいくのか「与野党の違い・対立軸」を明確にして、この国会を締めくくってもらいたい。

★追記(6月9日23時)立憲民主党が提出した岸田内閣に対する不信任決議案は9日午後、衆議院本会議で採決が行われ、自民、公明両党に加え、日本維新の会、国民民主党などの反対多数で否決された。また、細田衆議院議長に対する不信任決議案も自民、公明両党などの反対多数で否決された。野党側は、立憲民主党や共産党などは賛成し、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組などは採決を棄権した。(了)

低調な国会論戦、参院選は低投票率も

長丁場の通常国会は会期末まで2週間余り、物価高対策を盛り込んだ補正予算案が衆議院を通過し、週明け30日からは参議院に舞台を移して審議が行われる。

ここまでの論戦を聞くと国民が知りたい点に突っ込んだ議論は見られず、極めて低調だ。

一方、国会閉会後には参議院選挙が始まるが、閣僚経験者は「これほど手ごたえがない選挙は初めてだ」と早くも投票率の低下を心配している。

内外に数多くの難問を抱えている中で、国会の論戦は余りにも緊張感が乏しいのではないか。最終盤の国会の現状とあり方を考えてみたい。

 野党は迫力不足、首相は慎重答弁

国会の最終盤に設定された補正予算案の審議は、衆議院予算委員会で26,27両日行われた。審議は与党ペースで淡々と進み、補正予算案は衆院本会議で、自民、公明両党と国民民主党などの賛成多数で可決され、衆院を通過した。

論戦は、NHKの昼、夜のニュースをみてもウクライナ情勢や北海道知床沖で沈没した観光船の引上げなどに押されて、扱いは小さかった。論戦の中身は、メディアにとってもニュース価値が乏しかったということだろう。

アメリカのバイデン大統領の日韓両国への訪問や、日米首脳会談、クアッド=日米豪印4か国首脳会合が行われた直後の国会の論戦。本来なら、日本の外交、安全保障の今後の対応などをめぐって、与野党が丁々発止、激論を交わし、ニュースでも大きく扱われる場面ではなかったか。

ところが、論戦の中身は、外交・安全保障、石油高騰などに伴う経済政策も既に明らかにされていることの繰り返しで、極めて低調なまま終わった。

この原因は、まず、野党側の追及が迫力を欠いていたことがある。同時に岸田首相の答弁も、例えば外交安全保障面では、日米首脳の共同記者会見の繰り返しに終始、慎重、安全運転の答弁が目立った。

こうした姿勢では、活発な論戦につながらない。日米首脳会談を受けて、日本の今後の役割をどう果たしていくかといった点について、国会答弁を通じて、国民に説明、理解を求める姿勢が必要だったと考える。

 参院選はベタ凪 投票率大幅低下も

こうした国会の状況は、閉会後直ぐに公示となる夏の参院選にも影響する。全国各地を飛び回っている自民党幹部に手ごたえを聞いた。

「恐ろしいくらいのベタ凪だ。逆風は吹いていないが、追い風も吹いていない。選挙はどうなるのかという感じだ」と国民の参院選への関心の薄さを語る。

別の閣僚経験者は「これほど手ごたえがない反応・選挙は、初めてだ。野党がだらしないから、与党は負けることはないという選挙はまずい」と話す。

知り合いの選挙関係者も「今のような状態で国会が終わると、投票率はかなり下がるのではないか」と懸念を示す。

参院選挙の投票率(選挙区)の推移を確認しておくと2007年は58.64%だったが、2010年57.92%、2013年52.61%と下がり続けた。18歳投票が実施された2016年は、54.70%にやや戻したが、2019年は48.80%、50%を下回り戦後2番目に低い投票率を記録した。

戦後最も低かったのは、95年村山政権当時の44.52%。このままでは、前回の48.80%か、さらに最低水準まで落ち込むか、いずれにしても50%割れの低投票率が懸念されている。

これでは、仮に自民党が勝利したとしても、国民の多数の信認を得たとは言い難く、岸田政権が政策を強力に推し進める力を得ることも難しくなる。

 論戦の徹底、宿題処理の責任も

これからの国会日程は、30,31の両日、参議院予算委員会に舞台を移して補正予算案の審議が続く。続いて、6月1日には衆議院で、3日には参議院でそれぞれ集中審議が行われるところまで決まっている。

6月15日が会期末で、会期延長なしで閉会となるのが確実な情勢だ。これを受けて、22日に参議院選挙が公示され、7月10日投開票となる。

そこで、今の国会が問われることは、まず、内外の課題について、与野党が徹底した議論を尽くすことだ。参議院選挙が直後に控えていることを考えると、特に国民が知りたい点に応える論戦、判断材料を提供していく責任を負っている。

国民が知りたい点の第1は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、日本の外交、安全保障の取り組み方、特に防衛力の整備などをどのように進めるかにあるのではないか。

重点的に整備する分野や規模、そのための財源は、借金に因るのか、既存の予算縮減か、増税か、一定の方向性は明らかにするのが筋だと考える。

一方、国の安全保障は、軍事力だけでなく、根本は、日本経済を強くすることだという考え方もある。

さらに、米中の対立が強まる中で、外交のかじ取りが決定的な意味を持つという意見もあり、幅広く議論しながら、方針を決定していくことが極めて重要だ。

もう1つは、新型コロナ対策の総括と第7波への備えの問題がある。新規感染者数の減少が続いているが、新たな変異株などによる第7波の備えは不可欠だ。

さらに、やり残した課題・宿題も多い。まず、国会議員に毎月100万円を支給する「文書通信交通費」の問題がある。(正式名称は「調査研究広報滞在費」)。在職日数1日でも一律に月100万円が支給される仕組みの見直しだ。

4月の段階で、日割り計算に改めることで与野党が合意したが、使いみちの公開と、未使用分を国庫に返納する点は、先送りのままだ。税金の使いみちを公開すること、領収書が必要なことは当たり前のことで、今の国会で実現すべきだ。

また、細田衆院議長のセクハラ疑惑もある。女性記者に深夜に呼び出しの電話などをかけていたと週刊文春が報じている問題だ。細田議長をめぐっては、1票の格差是正のための10増10減論に難色を示し、3増3減の持論を展開したことも問題になった。

衆院議長をめぐる疑惑や不祥事は、この40年余り聞いたことがない。野党側が主張するように議院運営委員会の理事会などで説明して、潔白を晴らすことが国民の信頼を維持するためにも必要だと考える。

さらに内外ともに激動が続く時期であり、日本の進路をどのように制度設計していくのか、党首討論=国家基本政策委員会でも議論すべきだ。討論時間の枠を拡大するなどの工夫をして開催してはどうか。

ロシアによるウクライナ侵攻という戦後の国際秩序が揺らぐ中で、内外の課題にどう取り組むのか、最後まで議論の徹底に努力を尽くすべきだ。国会閉会まで、与野党の対応ぶりをしっかり見て投票に活かす必要がある。(了)

ウクライナ危機の教訓と”日本問題”

ロシアによるウクライナへの侵攻から、24日で3か月になる。侵攻当初は、短期間で終結かとの見方もあったが、東部戦線では一進一退の状態が続いており、攻防は長期化する見通しだ。

内外のメディアを通じて、ロシア軍の攻撃で廃墟と化した市街地の映像や、現地の人たちの悲痛な声を聞くたびに、何とか早期停戦に持ち込めないのかという思いを強くする。

同時に、現実の世界は、こうした惨状を打開できないことにいら立ちや無力感を感じることも多いが、問題点などを整理できないまま、現在に至っている。

そこで、今回はウクライナ危機から、日本としては何を教訓として学ぶのか。

また、国内では、米中対立や東アジアでは台湾問題にどう対応するかといった議論を聞くが、実は、日本の外交・安全保障の対応と方針、「日本問題」が問われているのではないかと考える。

そこで、ウクライナ危機の教訓を踏まえて、この「日本問題」を考えてみたい。

 日本から見たウクライナ危機の教訓

ロシアによるウクライナ侵攻は、旧ソ連・大国ロシアの復活をめざすというプーチン大統領の世界観に基づく独断がもたらしたものだとみているが、国連憲章違反であり、冷戦後の国際秩序も覆すもので、決して容認することはできない。

そのうえで、ウクライナ危機から、日本は教訓として何を学ぶか、私の個人的な考えを以下、のべさせてもらいたい。

1つは、ウクライナ国民の国防・防衛意識の強さを感じる。ロシアからあれほどの猛攻を受けながら、ロシアに屈せず、独立と尊厳を守り抜こうとする姿勢に心から敬意を表したい。

ロシアや旧ソ連との長年の抗争の歴史をはじめ、90年代に実施された国民投票で旧ソ連からの独立に90%以上の賛成があったこと、今後はヨーロッパ諸国との連携を選択したいという国民の強い思いが底流にあるのではないかと感じる。

2つ目は、防衛の備えだ。攻撃から地下鉄の構内に逃れて生活を続ける姿をはじめ、地下の大きなシェルターで1か月から2か月の生活をしていた親子、さらには、個人の住宅でも小さな避難部屋を作って備えていたことを知った。

こうした国家・社会、個人レベルで国民を守る備え、軍事面での近代化や継戦能力の向上に向けた取り組みに日本との違いを感じた。

3つ目は、政治リーダーの力量だ。ゼレンスキー大統領については、様々な見方があるようだが、国民を結束させ、大国ロシアに一歩も引かない戦いを継続していることは、相当な能力の持ち主だ。

また、国際社会へ支援を呼び掛けるメッセージの発信力には、卓越したものがある。リーダーを支える側近にも優れた人材を起用しているのだろう。

 日本の対応、ロシア制裁は評価

それでは、日本の対応については、どのように自己評価したらいいのか。まず、岸田政権の対応からみていくと、ロシアに対する経済制裁はG7の欧米諸国と連携して進めているのが特徴だ。

また、ウクライナからの避難民は、空路の座席を用意したりして、既に1000人が来日している。全国各地の自治体や企業、個人の協力を得ながら、受け入れと支援・交流が続いている。

日本政府の対応については、こうした自治体、企業、国民の協力を含めて、これまでの対応は、合格点をつけていいのではないか。

 防衛力の整備 ”何から手を付けるか”

問題は、これからの取り組み方だで、さまざまな提案や考え方が出されている。例えば、安倍前首相から核共有論や、防衛費の6兆円への拡大のほか、自民党からは防衛費のGDP2%への拡大や、敵基地攻撃能力の名称を「反撃能力」に変えて保有していく考え方や提言が出されている。

さて、こうした提言などを踏まえて日本の防衛力整備に「何から手を付けるか」課題が多すぎて、対応が難しい。核兵器への備えもあれば、防衛費の増額、サイバー、電磁波攻撃への対応、陸海空の装備の更新も必要になってくる。

日本の防衛費の総額は、今年度予算で約6兆3000億円。国際軍事組織の評価で規模は世界9位で、最新鋭の戦闘機なども装備している。

国の防衛は、国民の命や財産、生活を守るのが基本だ。冒頭に触れたウクライナ危機の教訓も参考に考えると「防衛の基盤」の再構築という視点が大事ではないかと考える。

具体的には、1つは、国民の防衛意識の問題がある。ウクライナに比べ、日本国民の防衛意識は高いとは言えないのではないか。世界最新鋭の武器を備えても国民の多くの支持がなければ、戦いを持続していくのは困難だ。

国民の多くから、日本の外交・防衛政策に関心を持ってもらうことが必要で、政府の説明と説得が重要だ。

2つ目は、防衛面の備え。ウクライナをはじめ海外では、国民を保護するため、有事の際のシェルターを整備している。シェルターは、単なる地下施設ではない。食料、水、トイレ、換気口、簡易ベッドなどを備える必要がある。

専門家に聞くと、フィンランドの整備率は80%以上、アメリカでも50%、ソウルでは300%、市民の3倍にも達している。日本は、ほとんど整備が進んでいない。ミサイル攻撃に備えて、国民の避難訓練も中止されたままだ。

このほか、自衛隊の制服組に聞くと有事の際には、武器、弾薬の備蓄がカギを握るが、備蓄は乏しく継戦能力は極めて脆弱だという。つまり「防衛力の基盤の整備」が十分でない。この点は、防衛相の経験者も認めている。

3つ目に、防衛予算の問題もある。岸田首相は、防衛力の抜本的強化を図る考えで、バイデン大統領との首脳会談で防衛費の増額について言及する見通しだ。

この防衛費、自民党の提言であるGDP2%を5年間で達成する場合、今の予算が5兆3000億円余りで、GDP1%に相当する。2%に増額すると約11兆円となり、これを達成するには、毎年1兆円ずつ増やさなければならない。

使い道についても陸海空3自衛隊から要望を出してもらい、ホッチキスで止めて決着とはいかない。防衛の目標を明確にして、部隊の配置、統合運用も必要で、何よりも国民の理解と支持が不可欠だ。

このように防衛力の整備といっても何を最重点に、優先順位をどうするか、財源をどのようにして確保するのか、たいへんな難問が控えている。

 外交・防衛の構想、国会で徹底論争を

アメリカのバイデン大統領が韓国に続いて、日本を訪問した。23日に日米首脳会談、24日にクアッド=日米豪印4か国首脳会合が開かれる。大きな動きなので、最後にこの点も触れておきたい。

アメリカは、ロシアのウクライナ侵攻があっても最大の競争相手は、中国という位置づけは変えていない。今回の訪問は、中国に対抗する枠組みを強化することが最も大きな狙いだとみられる。

これに対して、岸田首相も日米同盟の強化と防衛費増額の方針を伝える公算が大きい。その場合、防衛費増額の方針は、国際的な公約として受け止められる。

その結果、日本は東アジアの安定に向けてどんな役割を果たすのか。そのためには、岸田政権が、安全保障と防衛力整備の基本構想と政策の内容をきちんと示して、国民を説得できるかどうかがカギになると思う。

また、与野党とも国会で外交・安全保障論争を徹底して行う責任がある。与党の中には、夏の参議院選挙後のテーマになるとの考え方もあるが、国会に続いて、参議院選挙でも主要な論点として逃げずに議論をしてもらいたい。(了)

★参考情報:事実関係の追加(23日20時)23日の日米首脳の共同記者会見   ◆岸田首相「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費を相当増額する決意を表明し、バイデン大統領から強い支持をいただいた」と発言。  ◆バイデン大統領は記者の質問に答えて、中国が武力で台湾統一を図ろうとした場合、台湾防衛のために軍事的に関与する考えを示した。アメリカの従来の曖昧戦略から踏み込んだ発言と受け止められたが、米当局は「アメリカの政策は変わっていない」との声明を出して軌道修正した。

参院選 与党優勢、波乱要因は

夏の参議院選挙は、6月22日公示、7月10日投開票の日程で行われる見通しだ。あと1か月余りで選挙戦が始まるが、与野党の選挙関係者に話を聞くと事前の予測は「与党優勢」の見方が多い。

一方、与党幹部に選挙の手ごたえを尋ねると「ベタなぎ状態、逆風は吹いていないが、追い風もない」と国民の関心や反応に戸惑いもみせる。

そこで、今回は、参院選での与党優勢の情勢を変える波乱要因はあるのか、あるとすれば、どのようなリスクなのかを探ってみたい。

 与党の取り組み先行、野党共闘に乱れ

まず、今の時点の選挙情勢をどのようにみているのか、自民党の選挙関係者に聞いてみた。「自民党に追い風が吹いているわけではないが、野党側に比べると候補者の擁立などの取り組みは先行している」として、自民、公明両党で改選議席の過半数を獲得できる勢いがあるとの見方を示している。

具体的には、選挙区選挙のうち、定員が2人以上の選挙区で自民党は最低でも1議席は獲得できること。焦点の1人区についても野党の共闘体制に乱れが生じているので、自民党が過去2回に比べて議席を減らす可能性は低いとみていること。

さらに比例代表選挙で最低でも18議席は確保できると仮定すると自民党は、前回や前々回並みの55議席以上は獲得できるとの見方だ。

公明党は、選挙区と比例を合わせて10数議席の獲得は確実なので、与党で改選議席の過半数63以上は十分、達成可能だと判断している。

これに対して、野党側の取り組みは、前回のブログで取り上げたように与野党の勝敗を左右する1人区で共闘の足並みが乱れている。候補者を1本化できるのは15日現在で、32選挙区のうち11程度と少ない。

さらに、9日にまとまったNHK世論調査で、岸田内閣の支持率は55%と高い水準を維持している。政党支持率でも自民党は39.8%で、野党第1党の立憲民主党の5.0%、第2党の日本維新の会の3.5%を大幅にリードしている。

このようにみてくると参院選挙をめぐる情勢は、候補者擁立などで与党の取り組みが先行しており、与党優勢と言えそうだ。

 波乱要因、ウクライナ、コロナ対応

参議院選挙は、投票日直前の状況の変化などで、選挙結果がガラリと変わった選挙もあった。そこで、今回はどのような変動要因があるのかみていきたい。

直ぐに頭に浮かぶのは「ウクライナ情勢への対応」だ。ロシア軍がウクライナに軍事侵攻を始めて3か月近くなるが、戦争終結の見通しは全くついていない。

岸田政権は、ロシアに対する経済制裁については、G7=主要国と連携して対応することを基本方針にしている。自民党内には、連携ばかりで日本の外交方針がはっきりしないなどの批判も聞くが、党内の大勢にはなっていない。

また、エネルギー分野では、ロシア産の石油や天然ガスの輸入禁止の問題があるが、ヨーロッパ諸国の方が、ロシアへの依存が高いので、日本が直ちに厳しい対応を迫られる公算は小さいとみられる。

このため、政府・与党側は「ウクライナ問題は、G7との連携重視で対応していけば、短期的には大きなリスクは避けられるのではないか」との見方が多い。

2つ目の変動要因は「コロナ対応」だ。ウクライナ危機が起きる前までは、最大の変動要因との見方が強かった。

感染拡大は3月以降、新規感染者数が大幅に減少したことや、3回目のワクチン接種が進んでこともあり、このところ医療のひっ迫状況は改善されている。

帰省や行楽などで人の移動が活発になった5月の大型連休が終わり、感染の再拡大が再び起きるのかどうか、まだはっきりしない。

新規感染者が増えても重症者が少ないことと、医療提供体制が維持されているので、与党関係者は、コロナ対応は、選挙のゆくえを左右する大きな争点にはならないのではないかとの見方をしている。

但し、コロナ感染は、新たな変異株がいつ現れるかわからず、油断大敵だ。個人的には、政治・行政のコロナ感染危機対応は問題が多いとみているので、この3年の検証と評価の議論を大いに深めてもらいたいと考えている。

 物価高騰、円安、経済政策リスク

変動要因の3つ目は、「物価高騰などの経済政策リスク」だ。ウクライナ情勢による原油高で関心を集めているが、去年秋から原油高や物価高が続いている。ウクライナ情勢の影響は、これから秋にかけて大きくなる。

東京23区の4月の消費者物価指数は、生鮮食品を除いた指数で去年の同じ月を1.9%上回り、上昇幅は7年ぶりの大きさになった。東京23区のデータは、全国の先行指標となっており、4月の全国指標はどこまで上昇するのか、5月20日に公表になる。

原油価格の高騰を背景に電気代、ガス代、ガソリン代が上がっているのをはじめ、各種食料品の値上がりも続いている。これに加えて、急激な円安も進んでおり、輸入物価の押し上げにつながる。

与党側にも、こうした物価高が参院選に大きな影響を及ぼすのではないかと懸念している声を聞く。この30年間、国民は大幅な物価上昇の経験をしていないためで、選挙への影響を計りかねているからだ。

政府・与党は、国費で6.2兆円に上る補正予算案を編成する方針を決めたが、物価対策としては、石油価格の高騰を抑えるための補助金の拡充や、低所得世帯の子ども1人あたり5万円の給付などに限られている。

日米の金利差の拡大で円安が急速に進んでいるが、景気が十分に回復していない中で、今の金融緩和策を転換するのは難しく、手詰まりの状態だ。

与党幹部の1人は、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の具体策が未だに示されていないことから、効果的な物価対策や成長戦略を打ち出せないと選挙に大きな影響が出てくるのではないかと警戒している。

 国会最終盤、予算委で骨太な論戦を

ここまで政策面の波乱要因を見てきたが、国会運営面で、もう1つの波乱要因を抱えることになった。それは、物価高対策のため、新年度の補正予算案を編成することになり、衆参両院で予算委員会が開かれることになったことだ。

政府・与党側は、国会の最終盤に予算委員会が開かれ、野党側が政府を厳しく追及する場面が続くと、直後の参院選挙に影響が出てくる恐れがあると神経をとがらせている。6月15日の会期末を控え、与野党の攻防が激しさを増しそうだ。

一方、国民の側から見ると予算委員会の開催は、本格的な論戦の舞台が設定され、活発な論戦が行われることに大きな意味がある。この国会では、論戦らしい論戦がほとんど見られなかった。

3つの変動要因は別の表現をすれば、ウクライナ危機と、コロナ感染危機、それに低迷が続く日本経済と社会をどのように立て直していくのかという問題だ。

こうした内外の懸案に対して、岸田首相をはじめ与野党の党首はどのような方針や対応策で乗り切ろうとしているのか、骨太な論戦を見せてもらいたい。国民にとって、参院選での重要な判断材料になるからだ。(了)

 

参院選”野党戦線異変あり”

夏の参議院選挙が近づいているが、国民の選挙への関心は高まっていないように見える。ロシア軍によるウクライナへの侵攻の衝撃があまりにも強く、それ以外の出来事には、なかなか関心が向きにくい事情が影響しているからだ。

その参議院選挙は6月22日公示、7月10日投開票の日程が想定されており、この日程通りに運ぶと40日余りで選挙戦が始まることになる。

この参議院選挙が終われば、全国規模の国政選挙は、衆院解散・総選挙がない限り向こう3年間は行われない。国民にとって今度の参議院選挙は、政治に意思表示できる数少ない機会になる。

このため、当ブログでも参院選挙については、さまざまな角度から取り上げたいと考えているが、今回は、野党に焦点を当てたい。

野党の戦い方をめぐっては、過去2回の選挙と大きく様変わりした事態が進行中だ。一言で言えば”野党戦線異変あり”、野党の動きを報告する。

 焦点の1人区”共闘から競争、分裂”

まず、野党の選挙への対応はどのようになっているのか。定員1人を選ぶ「1人区」が最もわかりやすいので、この1人区を中心にみていきたい。

1人区は全国に32選挙区あるが、この勝敗が与野党の勝敗を大きく左右する。地方にある選挙区で、保守地盤が厚く自民党が強い地域なので、野党側は候補者を1本化したり、選挙協力を行ったりして挑戦を続けてきた。

ところが、野党各党の候補者の擁立状況をみてみると今回は7日時点で、複数の野党がそれぞれの候補者を擁立し、競合する選挙区が目立つ。

最も競合が激しい香川選挙区では、自民党の現職に対して、野党は立憲、国民、維新、共産の各党が候補者を擁立する予定だ。

同じ旧民主党の流れをくむ立憲と国民との間では、香川だけでなく、宮崎でも候補者がぶつかる。

立憲と共産とは、栃木、群馬、富山、福井、三重、滋賀、奈良、鳥取・島根、岡山、香川、宮崎の12選挙区で競合する。(推薦の無所属候補も含む)

国民と共産とは、国民の現職がいる山形と大分を含めて9選挙区で争う見通しだ。(推薦の無所属候補も含む)

さらに今回は、維新が栃木、香川、長崎で候補者を擁立し、他の野党と競り合う見通しだ。

野党側は、第2次安倍政権当時の2013年参院選挙で惨敗したのを受けて、2016年、2019年は1人区の全ての選挙区で候補者1本化を実現してきたが、今回は一転、野党競合へ変わった。競合選挙区は、1人区の半数にのぼり、四分五裂状態に陥っているのが実状だ。

 第1党の力量低下、連合は与党接近

それでは、なぜ、野党が競合・分裂へと変わったのか。1つは、野党第1党の立憲民主党が去年の衆院選で敗北したのを受けて、共産党との共闘の見直しに踏み切ったことがある。

泉代表は、3月中旬に国民、共産、社民、れいわの各党に候補者調整を呼び掛けたが、各党をまとめていくだけの力を発揮できていない。

兄弟政党と位置づけていた国民民主党は、新年度の当初予算に異例の賛成にかじを切った。ガソリン価格抑制のトリガー条項の凍結解除に向けても与党側と政策協議を続けており、両党の距離はむしろ広がっている。

共産党は、野党共闘の継続を求める一方、参院選挙区への候補者擁立を増やし、立憲民主党の対応をけん制している。このように野党第1党の力量が低下していることに加えて、野党各党がめざす方向もバラバラ状態にある。

さらに、立憲民主党にとって誤算だったのは連合の対応だ。政権交代をめざしてきたはずの連合は、芳野友子・新会長が自民党の会合に出席したり、麻生副総裁らと会食を重ねたりするなど自民党へ異例の接近を続けている。

背景には、連合は旧総評系の官公労と旧同盟系の民間労組を統合して発足したが、結成から30年余り、産業構造の激変などを受けて民間組合の中から、自民党との政策協議などを強めるべきだとする意見が強まっていることもある。

一方、自民党は、かねてから国民民主党や民間労組と連携を強めながら、野党陣営の分断をめざしてきたが、ねらいが現実のものになりつつある。

 分断打開は困難、最後の論戦で奮起を

夏の参院選で、野党共闘は最終的にどのようになるのか。立憲民主党の関係者に聞いてみると「泉代表は最後まで調整を続ける方針だが、野党各党の方向がバラバラなので、取りまとめは無理ではないか」と厳しい見方をしている。

また、泉代表が、国民民主党の玉木代表や共産党の志位委員長らと党首会談を行い、事態の打開を図ることも考えられるが、党の関係者によるとそうした対応は検討していないという。

このため、今の事態を打開するのは困難という見方が立憲民主党内でも強まっている。そして、1人区では、野党の現職がいる選挙区などで候補者の1本化は行われるものの、野党の候補者が競合する選挙区がかなりの数に上る見通しだ。

過去の1人区の選挙で自民党は、2013年が29勝2敗、2016年は21勝11敗、2019年は22勝10敗だった。過去2回と違って1本化の選挙区が限定されるので、野党側の獲得議席は1ケタ台に落ち込むことも予想される。

参院選挙の選挙区、比例代表を合わせた参院選全体でも、堅調な取り組みを進める与党側と比べて、野党側の選挙情勢は極めて厳しい状況にある。

一方、国民の側からは「選挙結果が、投票前から予想できる消化試合のような選挙は止めてもらいたい」といった声や、「政策の対立軸、論点の設定がはっきりわかる選挙にしてもらいたい」といった意見が出されるのではないか。

それだけに野党各党とも、与党と互角に戦える選挙態勢づくりに努める責任がある。参議院選挙は首相の失言や問題発言などがきっかけになって、選挙の予測が覆るようなことも起きる。98年の橋本政権時代の参院選挙が典型的な例だ。

今回は公明党の強い働きかけで、補正予算案が編成されることになり、6月上旬には衆参両院で予算委員会が開かれ、参院選を前に最後の国会論戦が繰り広げられる。

ウクライナ情勢と物価の高騰対策などへの対応は、十分か。新型コロナ感染の再拡大にどのように備えるのか。さらには、外交・安全保障、特に日本の防衛力の整備をどう考えるのか、国民が知りたい点は多い。

岸田首相は「検討する」といった曖昧な答弁でなく、政府・与党としての基本方針を明確に示す責任を負っている。

一方、野党各党も自らの考えや対案を示しながら、岸田政権との対立軸を打ち出せるかどうか、国会最後の論戦では、野党各党の奮起を促したい。(了)

★追加データ(10日)夏の参議院選挙をめぐり、立憲民主党と共産党は9日、去年の衆院選の際に結んだ、政権交代を実現した場合の枠組み合意について、夏の参院選では棚上げすることを確認した。そのうえで、1人区での候補者1本化については、勝利の可能性が高い選挙区を優先して、限定的に行う方針で一致した。この結果、実際に候補者調整が行われるのは、ごく限られた選挙区に止まる見通しだ。

 

ウクライナ危機と日本防衛力整備の考え方

ロシア軍によるウクライナへの侵攻は、東部地域でロシア側の攻撃が激しさを増しているが、ウクライナ側の抵抗も強く一進一退の状況が続いている。

こうした中で、節目とみられる「5月9日」が近づいている。旧ソ連の対独戦勝記念日で、プーチン大統領がこれまでの侵攻をどのように評価し、どんな戦い方を打ち出してくるかが、大きな焦点だ。

これに対して、アメリカとヨーロッパ諸国は、ウクライナ側に軍事面の支援を強化しており、ウクライナでの攻防は長期化を予想する見方が強い。

ウクライナ情勢を日本から見て感じるのは、ウクライの大統領をはじめとする政治家、軍人、国民が、ロシア軍の激しい攻撃と甚大な被害を受けながらも、強い意思で自国の独立と尊厳を守り抜こうとしている姿勢だ。

そこで、ウクライナ危機からの教訓として、日本は何を学ぶべきか。外交・安全保障、特に日本の防衛力整備のあり方について、考えてみたい。

 日本外交・安全保障 幅広い考え混在

まず、ロシアのウクライナへの侵攻を受けて、日本の外交・安全保障のあり方について、政治家・政党はどのような考え方をしているのか整理しておきたい。

積極的な発言を続けているのは、安倍元首相だ。プーチン大統領が核使用にも言及したことを受けて、NATOのようにアメリカとの間で核の使用をめぐる「核共有」の議論を行うよう問題提起をしたほか、日本の防衛費を6兆円まで増強するよう提案している。

これに対し、岸田首相は非核三原則は堅持するとして「核共有の議論は行わない」との考えを示した。そのうえで、ロシアに対する経済制裁をG7と連携して実施するとともに「憲法、平和安全法制、専守防衛の枠内で、抜本的な防衛力を強化したい」という考えを表明している。

与党・公明党の山口代表は、専守防衛、非核三原則、国際協調の基本原則を堅持するとともに「中国なども含めたアジアの安全保障の対話ができる枠組みを設置すべきだ」と提唱する。

これに対して、野党第1党・立憲民主党の泉代表は「日本が強い攻撃兵器を持てば、周辺国も保有し軍備拡張競争となる。防衛費は着実な積み上げで対応すべきで、抑制的な安全保障政策であるべきだ」との考えを明らかにしている。

国民民主党の玉木代表は、非核三原則のうち「持ち込ませず」については、アメリカ原潜の日本寄港なども想定して、アメリカや日本国民との議論が必要だとの立場だ。

共産党の志位委員長は「日本の強みは、軍事に頼らず平和を追求する国としての信頼力だ。憲法9条を生かした外交に知恵と力を尽くすべきだ」と強調する。

これに対し、日本維新の会の馬場共同代表は、日本独自の防衛力を整備するとともに防衛費をGDP2%まで早期に引き上げるべきだと増強路線を提唱している。

このように与野党の外交・安全保障の考え方には、相当な開きがある。自民党内でも核共有を含む軍備大幅増強路線と、堅実な防衛力整備を図るべきだとする2つの流れがある。与党の公明党は大幅な増強路線には慎重だ。

野党側は、非軍事路線から、抑制的な防衛力の整備、さらには自民党並みの防衛力増強論まで、混在状態というのが現状だ。

 国民、国力、防衛力の中身がカギ

それでは、日本の防衛力の整備のあり方や進め方をどのように考えるか。ウクライナ国民は、大勢の犠牲者を出し、猛烈な攻撃を受けながらも徹底した抗戦を続けている。度重なる侵略の歴史や、自由な社会への渇望、政治リーダーの求心力なども影響しているものと思われる。

日本の場合は、先の太平洋戦争を引き起こした責任も影響して、野党第1党の社会党は非武装中立を掲げ、軍事・防衛の各論には踏み込まない傾向があった。また、自民党の保守政権も軽武装・経済重視路線を取ったことも影響している。

一方、日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増している。北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイルの発射をはじめ、中国の軍事力の急拡大、それに今回のロシアの侵略などを合わせると日本の防衛力のあり方を見直す時期を迎えていると考える。

但し、短兵急に結論を出すのではなく、戦後日本の平和外交や安全保障の基本原則なども踏まえて、慎重で徹底した検討を行ってもらいたい。

具体的には、まず、国民世論の理解と支持が不可欠だ。いくら防衛費を増強し最新の防衛装備をそろえても、国民の支持がなければ何の意味もない。国のリーダーが、基本的な考え方を説明し、国民の理解と協力を得ることが大前提だ。

また、防衛力整備は5年、10年と長い期間がかかる。国力、国の経済や財政が安定していなければ、持続的に進められない。ドイツは今回、防衛費のGDP2%引き上げる方針を打ち出したが、ドイツの公的債務はGDPの70%程度に抑えてきた強みがある。

これに対し、日本のGDPは伸び悩む一方、国債残高は1000兆円を超え、政府の債務はGDPの2.5倍にも達している。防衛費をどの程度増やせるのか、国力・経済力を高める政策とセットで考える必要がある。

さらに防衛力のどの分野を重点的に整備するのか。武器などの正面装備に目が行きがちだが、日本は弾薬の備蓄など継戦能力が弱いといわれ、防衛力整備の中身が問われる。

一方、外交・安全保障をめぐっては、冒頭に見たように与野党の考え方に相当な開きがある。岸田政権は、4月末に自民党の安全保障調査会がとりまとめた提言に沿って、防衛力の整備を進める方針だとみられる。

この提言では、従来の「敵基地攻撃能力」という表現から「反撃能力」という名称に変えて、弾道ミサイル攻撃に対処するほか、NATO諸国の国防予算のGDP2%を念頭に5年以内に必要な予算水準の達成をめざす方針を求めている。

この提言を受けて、岸田政権は、年末の国家安全保障戦略の改定時期まで先送りするのではなく、外交・安全保障の基本的な考え方を明らかすべきだ。その際、日米の役割分担を踏まえて、日米同盟の強化につながる取り組みが必要だ。

5月の大型連休が明けると今の通常国会は会期末まで1か月程度しかなく、その後は直ちに参院選挙に突入する。5月下旬には、ウクライナ情勢などに伴う物価高対策の補正予算案も提出される。経済運営と防衛力整備の両面について、与野党が突っ込んだ議論を見せてもらいたい。(了)

 

 

 

 

 

 

 

 

”異例・異形な補正予算案”

ウクライナ危機などによる物価高対策のため、政府・与党は今年度補正予算案を編成する方針を決めた。ガソリンなどの価格を抑えるための補助金の拡充や、低所得者の子育て世帯に子ども1人当たり5万円の給付金を支給することなどが主な内容だ。

一方、財源については、今年度予算の予備費を使ったうえで、減った分の予備費を補正予算案で積み増す措置を取る。予備費は、国会審議のチェックを受けずに政府の判断で使える予算だ。

過去最大規模の今年度予算が成立した直後に、参議院選挙を控えて補正予算案を編成する異例な対応に加えて、多額な予備費を積み増す異形な補正予算編成だ。なぜ、こうした異例・異形な対応をとるのか舞台裏の事情を探ってみた。

 補正予算案 予備費を積み増し

まず、自民・公明両党の幹事長が21日に決定した緊急経済対策の内容から見ておきたい。第1にガソリンなどの価格を抑えるために、石油元売り会社に対する補助金を拡充することになった。

また、低所得者の子育て世帯に対して、子ども1人当り5万円の給付金を支給すること。さらに、地方自治体による生活困窮者への支援を後押しするため、地方臨時交付金を拡充することなどを盛り込む考えで一致した。

一方、財源については、今年度予算で、コロナ対策の予備費5兆円と、一般予備費5000億円の一定額を活用するとともに、不測の事態に備える予算が足りなくなるおそれがあるとして、予備費の積み増しなどの措置を補正予算案で取ることで合意した。

これを受けて、岸田首相は、補正予算案を編成する方針を示し、26日に緊急対策の中身を公表する方針だ。補正予算案の規模は、2兆7000億円前後とみられている。

さて、この補正予算案をどうみるか。まず、原油高やガソリン価格の上昇は、去年の秋から続いていたことで、価格上昇を抑える措置を取る場合、本来は今年度予算案で対応できたはずで、対応が極めて遅いと言わざるを得ない。

また、低所得の世帯の支援は必要だが、物価高や経済対策というよりも福祉対策ではないか。現行の福祉制度の中で、機動的に手当てすることが筋ではないかと考える。

一方、予備費の扱いは極めてわかりにくい。予備費を物価高対策に使うが、減少分は補正予算案で積み増し、5兆5000億円の予備費の総額は維持する方針だ。

予備費は災害など緊急事態に対応するため、認められるもので、国会の審議を経ないで、政府の判断で使われる。国民の税金で編成される国の予算は「財政民主主義」、国民の代表である国会の審議を経て使われるのが基本だ。

今回の措置は、こうした「財政民主主義」の基本に抵触するとの見方も成り立つのではないか。国会で、きちんとした議論が必要だ。

 与党の舞台裏事情、調整機能の低下

このように今回の補正予算編成は、何を目的にしているのか明確ではない。また、予備費の扱いに見られるように、持って回った手法で、わかりにくい予算編成だ。なぜ、こうしたことになるのか、与党の舞台裏事情を取材してみた。

1つは、自民、公明両党の間では「参院選への方針・戦略」に違いを抱えていた。自民党は、補正予算案を編成すれば予算委員会を開く必要があり、参院選を前に野党に追及の場を与える補正予算には消極的だった。

それよりも予備費を活用して、高齢者向けに給付金などを支給する一方、参院選前に総合的な経済対策を打ち上げ、選挙後に補正予算案を組んで処理する方針だった。岸田首相も予備費で緊急対策を行う考えを示してきた。

これに対し、公明党は参院選では比例800万票という高い目標を掲げており、補正予算案の編成を実現して、存在感を発揮したいという思惑があるものとみられていた。

結局、公明党の強い主張に自民党は押し切られる形で、補正予算案の編成を受け入れた。但し、補正予算案では新たな踏み込んだ対策は盛り込まず、予備費の範囲内に止めることが前提になっている。

つまり、自民、公明両党の主張を足して二で割った妥協案、”木に竹を接いだような異例・異形な予算編成”になった。

2つ目は、自民・公明両党間では、参院選挙での相互推薦などをめぐってギクシャクした関係が続いてきたが、こうした背景には「両党間の調整機能の低下」がある。

与党関係者に聞いてみると「自公連立も20年を超えるが、かつてのような太いパイプが無くなり、一体感も失われつつある。幹事長同士、あるいは、政調会長同士の調整もうまく働いていないのではないか」と話す。

別の与党関係者も「高市政調会長と竹内政調会長は”水と油の関係”。茂木幹事長と石井幹事長とは、”長い会話が続かない関係”。さらに茂木幹事長と高市政調会長とは”近くて遠い関係”。幹部レベルの調整機能が低下している」と指摘する。

 補正予算審議、国のかじ取り論戦を

さて、補正予算案の編成を受けて、5月下旬には衆参両院で予算委員会が開かれる見通しだ。岸田政権は無難にこなしたい考えだが、野党側は、参院選を前に政府を追及できる絶好の機会と位置づけ、攻勢をかける構えだ。

一方、国民の側からみると、これまでの国会は論戦らしい論戦がなく、夏の参院選挙では何を判断材料にするか、戸惑う人も多いのではないか。

そこで、岸田政権に対する注文がある。内閣支持率は50%を超えて高い水準にあるが、当面の物価高対策の説明に終わらせるだけなく、ウクライナ危機を受けて、外交と内政の基本方針、国のかじ取りの構想を明確に語ってほしいという点だ。

例えば、急激に進んでいる円安にどのような方針で臨むのか。アメリカは5月にさらなる利上げに踏み切る見通しで、日米の金利差はさらに拡大、円安の加速と輸入物価の上昇が懸念されている。

また、原油やLNGなどの価格面だけでなく、エネルギーの確保をどうするのか。この夏は何とかなりそうだが、今年の冬は電力需給のひっ迫が予測されている。短期と中長期の見通しや、省エネなど国民への協力も語るべきではないか。

さらに、外交・安全保障政策で、守っていくべき基本方針と見直す点は何か。防衛力整備のあり方についても国の最高責任者として、自らの考え方を表明する責任があると考える。

一方、野党側も政府の批判・追及だけでなく、自らの基本的な考え方や政策を示しながら、議論を深めてもらいたい。

私たち有権者の側も、コロナ感染再拡大とウクライナ情勢という2つの危機を乗り切るためには、どのような構想や政策が必要だと考えるのか。国会の論戦に耳を傾け、夏の参院選挙で「熟慮の1票」を投じることが必要ではないかと考えている。(了)

★追加説明(28日)政府は26日、緊急経済対策を決定した。国費の規模は6.2兆円で、ガソリン価格を抑えるための補助金の拡充や、低所得世帯を対象に子ども1人当り5万円支給などが主な内容。一方、財源は今年度予算の予備費から1.5兆円を使う一方、補正予算案で同額の予備費を積み増す。

ウクライナ危機と 岸田政権の経済政策

ウクライナ情勢は、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」が撃沈される一方、ロシア軍が報復に首都キエフ攻撃を再開するなど戦争の激化と長期化が懸念される。

こうした中で、岸田政権はロシア制裁は、G7各国と足並みをそろえ資産の凍結や貿易の優遇措置を外すなどの措置を打ち出し、国際社会からも一定の評価を受けている。

一方で、ウクライナ危機で拍車がかかる物価高騰については、22日に緊急対策を取りまとめる方針だが、与党の自民、公明両党の間で財源の扱いをめぐって隔たりが浮き彫りになっている。

また、4月に入って20年ぶりとなる水準まで円安が進んだが、政府・日銀は有効な対応策を打ち出せていない。ウクライナ戦争の長期化の見通しが強くなる中で、岸田政権の経済政策は何が問われているのか、点検してみたい。

 自民・公明、経済対策で隔たり

まず、政府・与党が、22日に取りまとめを目指している緊急経済対策の動きから見ていきたい。自民、公明両党は、14日にそれぞれの党の経済対策の提言を政府に申し入れた。

両党とも、原油価格の高騰対策として4月末までとなっている石油元売り会社への補助金の期限延長や拡充を求めることと、生活に困っている人への支援を強化すべきだという方針では一致している。

一方、対策の財源をめぐって、自民党はスピード感を重視して今年度予算の予備費で対応するよう求めている。これに対し、公明党はウクライナ情勢や新型コロナ感染で不測の事態も予想されるとして、補正予算案の編成が必要だと主張している。

また、公明党は原油高騰対策でもガソリン税の上乗せ部分の課税を停止する「トリガー条項」の凍結解除も求めており、両党の隔たりが浮き彫りになっている。

そこで、岸田首相が両党の隔たりを軟着陸させることができるかどうか。自民党の幹部に聞くと「ウクライナ情勢で安全の確保や、コロナ対策など総合的な対策を打ち出す必要がある。その際、予備費で直ちに実施する対策と、補正予算を編成して新たな財源を確保して、本格的に取り組む事業の仕分けが必要だ」と語る。

ということは、岸田首相は、まず、ガソリン代などへの補助金の増額と生活困窮者への支援などを予備費で実施する。そのうえで、夏の参院選もあり、子育て支援や外交・安全保障対応を含めた総合的な対策を打ち出し、補正予算案は参院選挙後に提出して成立をめざすことが想定される。

つまり、自民、公明両党の主張を足して割る、得意の2段階方式で決着を図るのではないかと個人的にはみている。

 円安・日本売り、見えない経済政策

さて、岸田政権の経済政策の評価だが、結論から先に言えば「経済政策の基本、目標と道筋が見えない」というのが最大の問題点だと考える。

先に触れた緊急経済対策は必要だと思うが、物価高は去年秋から問題になっていたことで、新年度予算が成立した直後に新たな緊急対策が必要になるというのは、余りに安易な対応と言わざるを得ない。

また、緊急経済対策と銘打つのであれば、4月に入って急激に進行している円安に対して、対策を打ち出す必要がある。4月13日の円相場は1ドル=126円台まで下落し、20年ぶりの円安水準が続いている。

今回の円安は、日米の金利差の拡大が直接的なきっかけになっているが、日本経済の低迷、経済成長が期待できないことが、根本的な要因だとの見方が強い。

円安が進めば、輸入物価がさらに上昇、賃金は上がらず、経済活動も停滞して、原材料の購入費が流出、日本売りとも言える悪循環が懸念される。

岸田政権としては、こうした悪い円安をどう乗り越えていくのか。政府と日銀は、金融・財政の基本方針を明らかにすべきだと考えるが、未だに示されていない。

また、ガソリン価格を抑えるための補助金の拡大は必要だと思うが、ウクライナ戦争が長期化する可能性を考えるとエネルギーの確保をどうするのか、ロシア産原油やLNGガスの代替策を含めて、対応策の検討を急ぐ必要がある。

さらに岸田政権の経済政策をめぐっては、看板政策である「新しい資本主義」で何をやるのかわからないという批判が、野党だけでなく与党の幹部からも聞く。これまでの方針から、もっと踏み込んだ骨太な政策を打ち出してもらいたいという厳しい注文が多い。

 激動期こそ、経済など幅広い論戦を

それでは、岸田政権の今後の経済政策や政権運営はどのようになるのだろうか。与野党の幹部の話を基に判断すると、次のような展開を予想する向きが多い。

ポイントは岸田内閣の支持率で、政権発足から半年たった4月段階でも50%を上回る異例の高い水準を維持している。このため、岸田首相は、国会の論戦は避けて安全運転に徹し、夏の参院選乗り切りを最優先に臨む。選挙に勝った後、政策の本格的な取り組みを展開するとの見方が有力だ。

こうした対応は、平時にはありうるシナリオの1つかもしれないが、国民の側からみるとウクライナ戦争や新型コロナ感染といった危機を抱える激動期に、有益な選択肢にはなりえない。危機の時こそ、迅速果敢な対応と議論が必要だ。

岸田首相は、資源高や円安に伴う日本経済の停滞をどのように乗り切っていく方針か。エネルギーの確保をめぐっては、原発の再稼働の是非や省エネをどう考えるのか。国を率いるリーダーは、基本的な構想や政策を明らかにして、実行していく責任がある。

一方、野党側はこの国会は完全な与党ペースで、存在感が全く感じられない。物価高対策として消費税率の引き下げなどを掲げているが、どのように実現を迫るのか。党首討論などあらゆる機会を活用して、国民生活支援をはじめ、経済、エネルギー、安全保障などについて積極的に論争を挑むべきだ。

今月22日には、緊急経済対策としてどんな政策が打ち出されるのか。国会も会期末まで2か月を切り、閉会後は直ちに参院選に突入する。日本経済と国民生活の立て直しと外交・安全保障のかじ取りをどうするのか、国会で与野党の真剣勝負の論戦を見せてもらいたい。(了)

 

 

参院選情勢”与党先行、波乱要因も”

夏の参院選挙は、6月22日公示・7月10日投開票日が有力視されている。この日程からすると、投票日まで3か月を切ったことになる。

国民の関心は、ロシアによるウクライナ侵攻と、収まらないコロナ感染のゆくえに集中しているが、これからの日本の進路をどうするのか。参院選では何を基準に選択をするのか、私たち有権者としても考え始める時期ではないか。

そこで、参院選の今の情勢はどうなっているのか。また、何が問われる選挙なのかを考えてみたい。

 選挙情勢、与党”前回以上の勢い”

さっそく、参院選挙に向けた与野党の取り組みからみていきたい。ここでは、参院選の勝敗を左右する、全国で32ある1人区を取り上げる。与野党の構図がわかりやすいからだ。

自民党は1人区については、宮城と山形を除く30の選挙区で候補者の擁立を終えている。宮城は近く公認候補が決まる見通しだ。山形は政府予算に賛成した国民民主党に配慮して、党本部から擁立見送り論が出され調整が行われている。

これに対して、野党側は候補者の擁立が遅れていることに加えて、野党間の候補者調整の枠組みが崩れ始めているようにみえる。

前回と前々回の参院選挙では、野党第1党の立憲民主党や民進党が中心になって、国民民主、共産、社民、れいわなどの各党と、1人区の全ての選挙区で候補者を1本化して選挙に臨んだ。

ところが、今回は立憲民主党が先の衆院選で敗北した”後遺症”もあり、野党結集に主導権を発揮できていない。加えて、国民民主党は独自路線を強め、これに共産党が反発し、候補者調整がどこまで進むかメドが立っていない。

このため、立憲民主党内からは、すべての1人区で候補者1本化は難しく、今回は、限定した形になるのではないかという見方も聞かれる。

こうした1人区の現状は、参院選全体の取り組み方とも共通しており、”与党は着実な体制で先行、野党は共闘体制に乱れ”というのが、今の段階での特徴だ。

次に選挙情勢を見ていきたい。11日にまとまったNHK4月世論調査によると岸田内閣の支持率は先月と変わらず53%、不支持は23%だった。

政党支持率では、自民党は38.9%、公明党3.0%。野党側第1党の立憲民主党は5.2%と低迷、日本維新の会も3.6%と減少が続き、国民民主党1.5%、共産党2.5%、れいわ0.2%、社民党0.4%、無党派36.7%となっている。

岸田政権の支持率をどう読むか。まず、内閣支持率については、政権発足から半年経過した時点でも50%を超えたのは、小泉、第2次安倍、岸田の3つの政権しかないので、高い水準を維持しているといえる。

次に自民党の政党支持率について、過去3回の参院選挙のデータと比較してみると2013年の41.2%より低いが、2016年35.5%、2019年34.2%より高い水準にある。

過去3回の参院選の結果は、2013年は自民単独で、改選議席の過半数を獲得して大勝。2016年と2019年は公明党を合わせた与党で、改選議席の過半数を確保した。

つまり、与党は今の時点では「前回、前々回以上の勢い」がある。但し、「今の水準が今後も続くかどうかはわからない」というのが結論になる。

 波乱要因、コロナ、ウクライナ戦争

さて、参院選挙の予測は”当たる”ことが多いが、予想外の結果となり、政権が倒れることもある。98年橋本龍太郎政権の参院選が代表的なケースで、私も個人的に予測が外れ、苦い思いとして今も残っている。

古い話は横に置いて、参院選の場合、波乱要因は何かを絶えず意識して取材する必要がある。今回の場合は、コロナ感染の再拡大と、ウクライナ危機の影響ということになるのではないか。

自民党の長老に聞くと「ウクライナ戦争をめぐる世論の反応は、ロシアに対する批判が強く、岸田政権に向かう可能性は低いのではないか。やはり、コロナ感染の再拡大。特に入院・医療提供体制にまで影響が及ぶ事態になるかどうかを最も心配している」と語る。

一方、ギクシャクした関係が続く自民、公明関係については「自民党の各候補や県連の多くは、選挙協力では公明党・創価学会に”個別撃破”され、従来の関係に落ち着くのではないか」として、影響は大きくないとの見方をしている。

 外交・防衛、新たな争点になるか?

ここまで与野党の取り組みや選挙情勢などをみてきたが、私たち有権者にとっても「何を基準に政党や候補者を選択するのか」がそろそろ、考え始める時期に入っているのではないか。

判断材料としては岸田政権の政権運営、具体的にはコロナ対応をはじめ、国民生活への支援や日本経済の立て直しの問題がある。ウクライナ関係では、ロシアに対する制裁の評価や、去年秋からの原油高騰、物価高への対策も論点になりそうだ。

一方、今の段階でははっきりしないが、個人的に注目しているのが、日本の外交・安全保障、特に防衛力整備のあり方だ。今度の参院選で、どの程度大きな争点として浮上するのか注視したい。

安倍前首相は「核共有」をめぐる議論の活発化や、防衛費6兆円規模への増強などを盛んに打ち上げている。与野党議員からは「核より通常兵力の整備が先だ」「安倍前首相は、プーチン大統領頼みの日ロ外交の総括を明らかにすべきだ」などの意見も聞かれ、議論は混戦状態だ。

岸田政権は、年末に国家安全保障戦略や、中期防衛力整備計画などを改定する方針だ。敵基地攻撃能力保有の是非や、防衛力の整備の水準や予算規模の扱いも焦点になる。

その際、専守防衛、国連中心主義、アジア重視など戦後日本の外交・防衛の基本方針との関係が、どのように整理されるのか、あるいは方向転換することになるのかどうか。

一方で、国内では、少子高齢化に伴う人口減少と社会保障の設計、停滞の長いトンネルから抜け出せない経済政策、巨額な借金財政への対処方針も先送り状態になっている。

こうした内外の課題・懸案をどうするのか。参院選では、与野党、候補者はバラマキ政策を競うのではなく、懸案に優先順位をつけて基本方針を示す責任がある。そして、私たち選ぶ側も、賢明な選択ができるかどうかが問われることになる。(了)

ブログ・サイト復旧、12日新規投稿予定です!

3月23日から突然、ブログサイトにエラーが発生してアクセスできない状態が続いていましたが、今日4月7日、ようやくサイトが復旧しました。

新規の投稿は、取材の関係などで、週明け4月12日を予定しています。この間、ご心配やお問い合わせなどをいただき、たいへんありがとうございました。

コツコツ取材を重ね、内外の出来事についての見方、読み方などをお伝えしたいと思いますので、引き続きご覧いただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

4月7日

政治ジャーナリスト、神志名泰裕

予算成立”外交・経済論争を”

一般会計の総額が過去最大の107兆円にのぼる新年度予算が22日、参議院本会議で、自民、公明両党と国民民主党の賛成多数で可決、成立した。戦後4番目に早いスピード成立になった。

これによって、長丁場の通常国会は前半の山を越え、焦点は経済安全保障推進法案など重要法案の審議に移る。また、夏の参議院選挙に向けて与野党が、本格的に動き出す。

それでは、これからの政治は、具体的に何が問われることになるのか。1つは、コロナ感染対策だ。まん延防止等重点措置は21日にすべての地域で解除されたが、年度末に人の動きが活発になると4月以降、感染の再拡大が懸念される。

もう1つは、ウクライナ危機対応だ。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、住宅や学校なども攻撃され、子どもを含む一般住民の犠牲者も増えている。

国際社会は、ロシアに対する経済制裁を打ち出したが、停戦までには至っていない。ウクライナ危機は、長期化することが予想される。

国際社会の激動は、日本の外交・安全保障、さらには国内にも跳ね返って与野党の枠組み変更など大きな転換点となる可能性がある。

予算成立後の日本政治は、内外情勢が激動する中で、政権が外交・安全保障、経済運営などの基本方針を打ち出し、与野党が議論を深めて、日本の進路を設定していくことが不可欠だ。ウクライナ情勢を中心に政治の動きを展望してみたい。

 ウクライナ危機、G7連携と後追い

まず、当面の最大の焦点であるウクライナ情勢について、岸田政権の対応から見ていきたい。

岸田首相は「ロシアのウクライナへの侵攻は、国際法や国連憲章に違反し、国際秩序を根幹を揺るがす行為で断じて許容できない」として、G7の欧米諸国と連携して、ロシアに対する経済制裁を打ち出した。

自民党の幹部に評価を聞いてみると「G7と連携して対応している点は評価するが、欧米の方針決定から対応が一歩遅れ、受け身の姿勢が目立つ」と厳しい声も聞く。

確かに1月17日の施政方針演説では、ウクライナ情勢への言及はなく、続く1月21日のバイデン大統領とのオンライン会談でも、ウクライナをめぐる危機感に温度差がみられた。

岸田首相が、ウクライナ対応に本格的に向き合い始めたのは2月に入ってからで、当初の対応は、欧米諸国の後追いが実態に近かった。

但し、2014年にロシアがクリミアを併合した際には、当時の安倍首相は北方領土交渉を有利に運びたいという思惑もあって、欧米の制裁から距離を置き、批判を招いた。

これに比べると岸田首相の対応は、プーチン大統領らロシア政府関係者などの資産凍結、金融・貿易分野の制裁で欧米と足並みをそろえ、一定の評価を得ているとみていいのではないか。

ロシアに対する経済制裁は長期化することが予想され、日本としてはこうした制裁を最後までやり抜くことができるかどうかが問われている。

 物価高・経済、外交防衛の基本方針を

次に、当面、最も大きな課題は、こうした経済制裁に伴う原油高、穀物価格の上昇などによる物価高にどのように対応していくかだ。円安も一時120円まで進むなど急速に進んでおり、輸入価格の上昇も重なり景気後退を招くのではないかと懸念されている。

このため、ガソリンなどの高騰対策として、1ℓ当たり25円を上限に補助金を支給しているが、これに加えて「トリガー条項」の凍結を解除してガソリン税の一部を減税する案が検討されている。

また、自民、公明両党からは、高齢者に一律5000円の給付金を支給する案が出されているが、参院選挙を意識したバラマキ政策としか言いようがない。

さらに、政権与党内では、ウクライナ情勢に伴う物価高や、経営が悪化している中小企業対策として、大型の追加経済対策が参議院選挙前に打ち出される公算が大きくなっている。

一方、外交・安全保障分野では、日本の防衛力整備をどのように進めていくのか。自民党内では、ドイツが防衛費を2%にまで拡大する方針を打ち出したことを踏まえて、日本も防衛費の増加へと舵を切るべきだという声が強まっている。

また、安倍元首相や日本維新の会からは、アメリカの核兵器を日本国内に配備して共同運用する「核共有」の議論を求める意見も出されている。

これに対し、自民党内には、核共有の問題よりも通常兵力や、武器弾薬などの継戦能力の整備などを進めるべきだといった意見も出されている。

このほか、ロシア外務省は21日、日本の制裁措置に反発して、日本との北方領土問題を含む平和条約交渉を中断する方針を表明した。日本側は強く抗議しているが、安倍政権が推進してきた北方領土での共同経済活動なども含めて日ロ関係の見直しを迫られることになりそうだ。

このように外交・安全保障や、防衛力の整備、さらには経済運営について、様々な意見が出されているが、岸田政権は、何を最優先に取り組むのかはっきりしない。

今の通常国会が6月に閉会すれば、直ちに参院選に突入する。それだけに予算成立後の国会論戦では、岸田政権が内外の課題について、基本方針を明確に打ち出す必要がある。そのうえで、与野党が議論を深め、参議院選挙で国民が選択できる判断材料を示してもらいたい。

 

“ウクライナ戦争”国民の見方は?

歴史的な冷戦終結から30年余り、私たちはテレビの映像などを通じて、世界の大きな出来事を目の当たりにしてきた。ベルリンの壁がハンマーで打ち壊された光景をはじめ、湾岸戦争、アメリカの同時多発テロ、イラク戦争などを鮮明に思い出す。

2月24日に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、国連安全保障理事会の常任理事国の行為であり、にわかに信じられない事態だと世界に大きな衝撃を与えた。そして、いまも非人道的な攻撃が続いている。

一方、今回の侵攻をめぐって、”スマホで視る戦争”ともいわれる。こうした今回のウクライナ侵略を日本国民はどのように受け止めているのか、個人的にずっと気になっていた。

14日にNHKの世論調査の結果が報道されたので、そのデータを基に個人的な分析、読み方を取り上げたい。(NHK世論調査、3月11日から14日まで実施)

 ロシア経済制裁、妥当・強化は8割

▲この調査では、まず、日本政府がロシアに対して、プーチン大統領ら政府関係者や、半導体の輸出禁止などの制裁措置を決めたことについて、どう思うかを聞いている。

回答は、◇「妥当だ」42%、◇「さらに強化すべきだ」40%、◇「強すぎる措置だ」7%となっている。

「強すぎる措置だ」と反発する受け止め方は少なく、「妥当」、あるいは「さらに強化すべきだ」として支持する意見が合わせて8割に達している。

▲次に、ウクライナから避難した人の日本への受け入れを進めるとした政府の方針をどの程度、評価するか。

◇「大いに評価する」42%、◇「ある程度評価する」40%。これに対し、◇「あまり評価しない」8%、◇「まったく評価しない」2%となっている。

これを整理すると「評価しない」は10%、「評価する」が82%と圧倒的多数だ。人道的な立場からの受け入れであり、納得する方は多いだろう。

▲ロシアのウクライナ軍事侵攻に対する日本政府のこれまでの対応を、どの程度評価するかについてはどうか。

◇「大いに評価する」6%、◇「ある程度評価する」52%、◇「あまり評価しない」27%、◇「まったく評価しない」8%。

これをどう読むか。まず、全体としては「評価する」が合わせて58%、およそ6割と多い。これに対して「評価しない」は35%、およそ3割に止まる。

次に、「大いに評価する」は6%、逆に「まったく評価しない」が8%ということは、両極端の評価は合わせても15%と極めて少ないのが特徴だ。

「ある程度評価する」が過半数で最も多く、次に続くのが「あまり評価しない」で2割後半だ。つまり、ロシアに対しては厳しい制裁を求めているものの、感情的にならずに「平静に推移を見極めようとする姿勢」が読み取れる。

 日本経済への影響8割が懸念

▲さらに、ロシアのウクライナ軍事侵攻が、日本の経済にもたらす影響をどの程度懸念しているかについても聞いている。

答えは、◇「非常に懸念している」が42%で最も多く、◇「ある程度懸念している」が40%、◇「あまり懸念していない」9%、◇「まったく懸念していない」が2%と続いている。

このように「懸念している」が8割に達している。原油の急騰をはじめ、小麦など穀物価格の上昇、さらにはロシア産の希少金属などの供給減などの影響を懸念していることがうかがえる。

 岸田内閣の支持率は横ばい

岸田内閣の支持率については、◇「支持する」が1ポイント下がって53%だったのに対し、◇「支持しない」は2ポイント下がって、25%だった。ほぼ横ばいだ。

もう1つの焦点になっている「政府のコロナ対応の評価」については、◇「評価する」57%、「評価しない」36%で、こちらも横ばいで大きな変化はみられなかった。

そうすると、ロシア軍事侵攻に対する政府対応の評価についても、岸田内閣の支持率には直接、大きな影響を及ぼしていないとみることができる。

但し、ロシア軍のウクライナへの侵攻が、今後、軍事的にどのような形で決着がつくのか。G7や国際社会がさらに経済制裁を強めていくのか。その結果、国際経済や日本経済などに打撃や影響が、跳ね返ってくるかが焦点になる。

政界の反応としては、安倍政権時代、2014年のロシアのクリミア併合の時に比べて、今回の岸田政権の対応は、米欧との経済制裁の足並みがそろっていると評価する声が多い。

一方で、今回は、米欧の方針の後追いが目立つと批判する意見や、核共有や防衛力整備のあり方について、主体的な判断が乏しいと批判する声も聞く。

こうした政治の側の動きとともに、今後、国民世論に変化があるのかどうか、さらには、ウクライナ問題への対応が、夏の参院選挙の大きな争点として浮かび上がってくるのかどうか、注意深く見守っていきたい。(了)

”コロナ 新たな対策を” 重点措置延長

新型コロナ対策の「まん延防止等重点措置」が、東京など18都道府県では、7日からさらに2週間延長されることになった。

この「重点措置」は新規感染者の抑制に一定の効果はあると思うが、漫然と延長を繰り返すだけでは意味がない。延長する場合、「何を重点に取り組むのか」を明確に打ち出す必要があるのではないか。

政治の焦点は、今はロシアのウクライナ軍事侵攻に移っているが、日本の経済・社会の立て直しにためにもコロナ感染を抑制する「新たな対策」を早急に取りまとめることを強く求めたい。

 ”後手と受け身”続く岸田政権

岸田首相は4日夜の記者会見で、31都道府県に適用されていた「まん延防止等重点措置」について、東京など18都道府県で今月21日まで延長し、福岡など13の県を解除する方針を明らかにした。

そして、水際対策として、外国人の1日あたり入国者の上限を5000人から7000人に引き上げる方針を示した。一方、国内の対策については、これまでの対策の説明を繰り返した。

「重点措置」は、東京など13都県には1月24日に出され、2月に1度延長している。岸田政権としては3月6日の期限で全面的に解除したかったが、医療提供体制のひっ迫が続く地域も多く、全面解除は見送らざるを得なかった。

新規感染者数は減少しているが、高止まりの状態で、特に高齢者を中心に重症者数と亡くなる人の数は第5波に比べて非常に多い状態が続いている。専門家は「感染再拡大の可能性も十分にある」と警告している。

こうした状況の中で、政府は決め手となる3回目のワクチン接種について、1日100万回の接種目標を掲げ、希望する高齢者接種の2月中の完了を目指してきた。ところが、3月4日時点で、接種率は国民全体の23%、高齢者は対象の58%に止まっている。

目詰まりが指摘されてきた抗原検査キットの確保をはじめ、経口治療薬の配布、これからワクチン接種を加速する取り組み方もはっきりしない。このように政府のコロナ対策は、後手と受け身の対応が続いているように見える。

 参考になる米のコロナ新対策

海外の取り組みを取り上げ、日本の対応と比較して論評するのは避けてきたが、これまで個人的に主張してきたことと一致点が多いので、あえて海外の事例を紹介する。

日本政府の重点措置決定とちょうど同じころ、アメリカ政府が3月2日に新たなコロナ対策を発表した。

主なポイントは、◇子どもを含むすべての年代のワクチン接種の向上と、ワクチン製造の拡大を支援する。◇ウイルスの検査では、陽性の場合、その場で無料で治療薬が手に入る仕組みを導入する。

そのうえで、◇新たな変異ウイルスの出現を早期に検知するため、ウイルスの遺伝子を調べたり、下水からの感染状況を調査するなど検査態勢の拡充を図る。

◇感染が拡大しても経済活動や学校の運営に支障が出ないように換気設備の更新の支援、病気になったときの有給休暇制度の導入をめざす。

要は、経済や社会の活動を止めずに、これまでの日常を取り戻していく方針を明確にするとともに、対策を具体的に示している点が大いに参考になる。

 岸田政権 新たなコロナ新対策を

さて、岸田政権のコロナ対策についての注文だ。何度も同じことの繰り返しになって恐縮だが、次のような内容だ。

まず、基本的な考え方としては、政府の「まん延防止等重点措置」は全く役に立っていないとは思わないが、重点措置を適用するか、解除するかよりも「何を重点に取り組むのか」を明確にしてもらいたい。

そのためには、岸田政権は去年11月にまとめた対策の「全体像」を取り上げるが、全体像は内容が一般的すぎるので見直し、「新たな対策」として取りまとめてもらいたい。

その「新たな対策」では、デルタ株ではなく、オミクロン株の特性に即した内容になる。そのうえで、ワクチン接種の目標、検査態勢の強化、経口治療薬の配布、入院・治療体制の整備と自宅療養支援のあり方などについて、アメリカ政府の対策のように具体策を明示してもらいたい。

コロナ対策は、「まん延防止等重点措置」を期限の3月21日に全面解除できるかどうかが、大きな焦点になる。また、コロナ対策の出口戦略、経済・社会活動を本格化させる道筋を提示できるかどうかも問われる。

ロシアによるウクライナ侵略への対応という大きな政治課題も抱えているが、まずは、コロナ対策を先行させ区切りをつける必要があると考える。(了)

“2つの危機”対応と岸田政権

”2月は逃げる”と言われるようにあっという間に過ぎ去り、弥生・3月に入った。3月の動きを予想すると、日本にとって、”2つの危機”への対応が問われる節目の月になる。

1つは、新型コロナ・オミクロン株の感染拡大に伴う医療危機を乗り越えられるか。東京など31都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」の期限が3月6日に迫っており、この扱いと出口戦略も問われる。

もう1つは、ウクライナ危機への対応。ロシアのウクライナへの軍事侵攻は、日本にとっては対岸の火事ではなく、冷戦後のアジアを含む世界平和や国際秩序が今後も維持できるかどうかの「岐路」に立っているという認識が重要だ。

こうした2つの危機に岸田政権はどのように対応しようとしているのか、日本はどのような取り組みが必要なのか探ってみたい。

 ロシアの侵攻、冷戦後国際秩序の岐路

さっそく、ウクライナ情勢からみていきたい。ロシアが先月24日に開始したウクライナへの軍事侵攻は、19世紀や20世紀の帝国や大国が行った侵略を思わせる行動だ。国際法や国連憲章に違反する侵略行為そのものであり、ロシア軍は直ちに停戦、撤退すべきだ。

但し、現実の世界は、プーチン大統領の野蛮な行為をやめさせることができるかどうか不明で、既成事実が積み重ねられることもありうるのが実状だ。

そこで、ロシアに対する厳しい制裁で、国際社会が徹底した反撃が必要だと考えるが、ここでは日本国民の1人として何が必要か、2点に絞って取り上げたい。

▲1つは、今回の事態については「日本にとっての意味」を掘り下げて考え、国民全体が共有していくことが重要だと考える。

端的に言えば、ロシアの今回の行動を容認すれば、日本を含むアジアでも同様な事態が起こりうる。核開発やミサイル発射を繰り返す北朝鮮や、台頭著しい軍事大国である中国の存在と覇権主義的行動を念頭に置いておく必要がある。

したがって、日本としては、冷戦後の国際秩序を破壊するロシアの行為は認められないことを明確にすることが重要だ。短期的には日本にとってマイナスの影響が想定される場合でも、国際社会と足並みをそろえて対応していくことが必要だと考える。

岸田政権のこれまでの対応については、プーチン大統領を含むロシア政府関係者の資産凍結、SWIFTと呼ばれる国際決済システムからロシアの特定の銀行を締め出す措置に参加する方針を打ち出した。

さらに28日夜には、ロシア中央銀行との取り引きを制限する追加の制裁措置を行う方針を表明した。こうした一連の措置は、G7との連携した対応で評価していいのではないか。

但し、政府の対応の中には、例えばSWIFTへの参加表明が欧米主要国の意思決定から遅れて態度表明をするなど”後追い”を感じる局面も少なくない。欧米の情報をいち早くつかみ、主体的・能動的な日本外交を展開してもらいたい。

▲2つ目は、ロシアに対する経済制裁の強化などに伴って「物価・経済への影響」の問題がある。

原油価格の高騰に伴うガソリン価格の上昇をはじめ、昨年後半から続いている食品や生活必需品のさらなる値上げ、それに中小企業の経営悪化などが現実味を帯びている。

一方で、今月は大手企業の賃金引上げの集中回答も行われる。岸田政権は、経済の好循環を生み出すため、企業に積極的な賃上げを求めているが、物価上昇に見合うような賃上げが実現できなければ、個人消費の落ち込みも予想される。

ガソリンなどの小売り価格の上昇を抑えるため、政府は、石油元売り会社への補助金の上限を、現在の5円から25円へ大幅に引き上げる方向で調整を進めている。

さらにガソリン税のトリガー条項を解除して、税金の上乗せ分を引き下げることも検討している。この問題は、野党の国民民主党が政府予算案に賛成するのにあたって、岸田首相が実現を約束したとしており、3月中に必要な法改正が行われるのか注目している。

このほか、アメリカのFRBがインフレ抑制のため、3月にも利上げに踏み切ると観測されている。そうすると日米の金利差拡大による投資資金の流出、円安、輸入インフレ、国内景気減速の可能性も出てくる。

このように3月は、原油価格の高騰と物価高、ウクライナ情勢に加えて、アメリカの経済対策など変動要因が多く、日本経済の先行きは予断を許さない状況が続くことになりそうだ。

 コロナ対策、出口戦略打ち出せるか

2つ目の問題が、新型コロナの感染対策だ。オミクロン株による新規感染者数は減少傾向が続いているが、減少のペースが鈍化しているほか、重症者数は高止まり、亡くなる人の増加が続いている。

こうした中で、東京など31都道府県に出されている「まん延防止等重点措置」が3月6日に期限を迎える。政府は、感染状況が改善し、医療提供体制のひっ迫を回避できる見通しがたった自治体は重点措置を解除する方針だ。

これに対し、病床の使用状況が高い水準にある場合は、延長する。東京、神奈川、愛知、大阪、京都、兵庫の6都府県で2週間程度の延長を軸に検討が続いており、近く最終的に決める見通しだ。(※文末、その後の動きなど追記)

政府のコロナ対策をめぐっては、1月9日に沖縄、山口、広島3県に重点措置が打ち出されたあと、全国的に拡大して既に2か月近くの長期に及ぶ。

重点措置をいつまで続けるのか、合わせて今後の経済・社会の立て直しに向けた道筋、出口戦略をどのように設定するのかが問われる。

 参院選へ外交・安全保障論議浮上か

ここまでロシアのウクライナ侵攻や、コロナ対策を見てきたが、ウクライナ情勢に関連して、日本の外交・安全保障のあり方に焦点が当たり、夏の参院選の主要な論点の1つとして浮上してくるのではないかとみている。

外交・安全保障の問題は、今年の年末に国家安全保障戦略や防衛力整備計画などを取りまとめる予定なので、参院選後に議論が本格化するとみていたが、ウクライナ情勢で、前倒しも予想される。その場合、90年代に北朝鮮の核開発が問題になって以来、本格的な安全保障論議となる。

その際には、現行憲法と戦後の日本外交・防衛力の基本原則を踏まえたうえで、短期、中期に分けて、わかりやすい外交・安保論争にしてもらいたい。少子高齢化に伴い若い年齢層が少なくなっていることや、厳しい財政事情も考慮にいれた現実的な議論が必要だ。

岸田政権の政権運営については、通常国会前半の焦点になっている新年度予算案が先月22日、2番目に早いスピードで衆議院を通過したが、参議院でも審議は与党ペースで進んでおり、3月23日までに成立するのが確実だ。

岸田内閣の支持率は高い水準にあるが、支持率に陰りもみられる。その要因は、コロナ対策、特に3回目のワクチン接種の遅れが影響しているものとみられる。世論調査では、岸田首相の実行力に不満を持つ層が増えている点も読み取れる。

このため、コロナ対策や暮らし・経済のかじ取りを誤ると、世論の支持が大幅に低下する可能性がある。新型コロナ感染と、ウクライナ情勢の2つの危機への対応がどこまで順調に進むのか、3月が大きな節目になりそうだ。(了)

※(追記:コロナ対策について3月3日20時)=31都道府県のまん延防止等重点措置について、岸田首相は3日夜の記者会見で、東京など18都道府県で3月21日まで延長し、福島、広島、鹿児島など13の県を解除する方針を明らかにした。

予算スピード通過と野党の混迷

通常国会前半の焦点になっている新年度予算案は、22日の衆院本会議で賛成多数で可決され、参議院に送られた。この採決では、与党の自民、公明両党に加えて、野党の国民民主党が初めて賛成に回った。

新年度予算案の衆院通過の時期は、1月召集になって以降では、1999年小渕内閣当時に次いで2番目に早いケースになった。憲法の規定で、参議院に送られた後、採決されなくても30日後の3月23日に自然成立する。

今回、予算案が衆院をスピード通過した背景や、野党の国民民主党が異例の賛成に回った事情を探ってみたい。

 バラバラ野党と戦略なき第1党

さっそく、政府予算案が早期に衆院通過したのはなぜか。結論から先にいえば、野党陣営がバラバラ、政権与党ペースを突き崩せなかったということになる。

もちろん、今年は去年のように国会冒頭、補正予算案が提出されなかったため、新年度予算審議が例年より早く始まった事情がある。

また、かつてのような予算案の通過を遅らせる”日程闘争”に大きな意味はない。だから日程よりも、国民が期待していた掘り下げた質疑に至らなかった中身の方が大きな問題だったといえる。

予算審議はちょうど、オミクロン株の急拡大が続く中で進んだ。高齢者の3回目のワクチン接種の遅れ、抗原検査キットの不足など対策の目詰まりはどこに問題があるのか。

自宅療養者の健康管理、懸案だった政府と自治体などの連携・調整の問題をどのように改善して出口戦略につなげるのか。さらには、社会・経済を立て直す具体策と道筋を示して欲しいというのが、国民の多くの期待ではなかったか。

ところが、野党第1党である立憲民主党の追及は迫力を欠いた。長妻昭・元厚労相や江田憲司氏らは、岸田首相らに鋭く切り込む場面もあったが、その後に続く論客は少なく、追及は散発的に終わった。

岸田首相ら政府側の答弁は、去年11月に対策の全体像をまとめ、水際対策もいち早く断行したと同じ説明を繰り返し、反省や対策の見直しなどにも踏み込まなかったことも議論が深まらなかった要因でもある。

岸田首相は、野党の追及に柔軟な姿勢を見せながら、実質ゼロ回答、”暖簾に腕押し”答弁は、事前にある程度予想されていたはずだ。それを上回る追及、そのための戦略や戦術、論客の陣立てなどが十分でなかったところに弱点があった。

一方、野党内では、先の衆院選で躍進した日本維新の会は第3極を意識した構えで、国民民主党は独自路線。共産党は野党共闘再確認に重点を置くなどバラバラで、攻めの体制になっていなかったことも影響したと思う。

 国民民主党 ”独自性と焦り”

それでは、次に野党の国民民主党が、政府の当初予算に対して異例の賛成に回ったことをどのようにみたらいいのだろうか。

玉木代表は22日の衆院本会議で賛成討論に立ち「トリガー条項凍結解除によるガソリン価格の値下げを岸田首相が検討すると明言したからだ」とのべるとともに「従来型の古い国会対応でなく、国民生活に何が重要かを判断した」と訴えた。

これに対し、泉立憲民主党代表は「野党とは言えない選択だ。これまでの国会で主張してきたことと整合性がとれるのか」と反発した。維新の藤田幹事長も「与党入りや閣外協力であれば、根本的に違う」と突き放し、共産党の小池書記局長は「事実上の与党入り宣言だ」と批判した。

野党関係者に聞くと「国民民主党の支持率が上がらず、参院選前に独自性をアピールしようとする焦りがあるのではないか」。「党内には、与党との連携・協力を志向する動きがあり、その布石ではないか」といった見方もある。

ガソリン価格の抑制策は最終的に実現するか、まだ決まっていない。仮に実現した場合も個別課題で、野党の立ち位置を大きく変えることに支持者の理解は得られるのか。党内でも前原代表代行は、玉木代表の方針に反対意見をのべたといわれ、党の結束も見ていく必要がありそうだ。

私事で恐縮だが、昔、駆け出し記者のころ、派閥の幹部から「国会議員は、予算案が採決される衆院本会議は、何がなんでも出席しないといけない」と聞かされた。田中角栄元首相は裁判中でも本会議場に姿を現していたことを思いだす。

政権の主要政策を凝縮して編成した当初予算の賛否は、首相指名選挙などと並んで政治家個人、政党にとっても重い決断、選択だ。その選択の是非は、国民の支持と共感、信頼を得られるかによるが、慎重に判断した方がいいと個人的には考える。つまり、支持者は、野党から与党へ転じるのを期待しているかだ。

ここまで国民民主党の動きをみてきたが、野党各党にとっても夏の参院選にどのような政治姿勢、主要政策で臨むのかが問われる。また、参院1人区について、候補者調整をどのような枠組みで進めるのか、国民民主党の扱いを含めて、早急に結論を出す必要があるだろう。

 岸田首相は歓迎、公明には慎重論も

最後に岸田政権と与党の受け止め方を見ておきたい。岸田首相は、玉木代表との間で水面下で調整を進めてきたようだ。21日の党の役員会で、これまでの経過を説明したうえで「与党として歓迎したい」との考えを表明した。

一方、連立を組む公明党からは、国民民主党との間で将来的な協力関係につながるか慎重に見極める必要があるとの意見が出ているという。山口代表も記者会見で「自公の連立の枠組みには影響を与えないことを岸田首相と確認している」とのべている。

岸田首相は、今後、政策面での連携を国民民主党との間で強めていくものとみられる。

岸田政権にとって当面の焦点は、来月6日に31都道府県で期限を迎える「まん延防止等重点措置」を予定通り解除できるかどうかが大きなカギになる。また、気になるのは、2月に入って岸田内閣の支持率に陰りが出ている点だ。

2月上旬の読売新聞、中旬のNHK、下旬に近い時点で行われた朝日新聞の世論調査で、いずれも下落傾向が続いている。政府のコロナ対応について「評価しない」との受け止め方がいずれの調査でも増えている。(※文末に内閣支持率のデータ)

このため、まん延防止等重点措置の解除、第6波の感染の抑え込みが進展するのかどうか、岸田政権の支持率や政権運営に影響が出てくるので、注視していく大きなポイントだとみている。(了)

※参考:岸田内閣支持率                            ◇2月4~6日  読売調査:支持58%(-8P)-不支持28%(+6P)     ◇2月11~13日 NHK調査:支持54%(-3P)-不支持27%(+7P)    ◇2月19・20日 朝日調査:支持45%(-4P)ー不支持30%(+9P)

“繰り返される後手の対応”岸田政権

年明けとともに驚異的な拡大が続いてきたオミクロン株の感染は、今月上旬になって、ようやくピークを超えた模様だ。一方、感染による重症者は増え、高齢者を中心に亡くなる人も最多の状態が続いている。

政府は18日、「まん延防止等重点措置」について、北海道や大阪など17道府県で延長する一方、沖縄など5県は解除する方針を決めた。先に延長を決めた東京などと合わせて31の都道府県で「重点措置」が続くが、3月6日の期限までに感染拡大を抑え込めるのかどうか。

新型コロナ対策は、未知のウイルスとの戦いで試行錯誤は当然ありうるが、岸田政権の対応を見ていると”後手の対応”を繰り返しているように見える。どこに根本の問題があるのか、どのような取り組みが問われているのか点検してみたい。

 感染ピーク越え、重症者や死者は増加

まず、最新の感染状況を確認しておくと18日、全国の新規感染者数は8万7700人余り。5日の最多10万5600人余りから減少しており、厚生労働省の専門家会合も「2月上旬にピークを超えた」との見方を明らかにしている。

但し、減少のペースは緩やかなので、高止まりの可能性がある。また、療養者や重症者、それに高齢者を中心に亡くなる人の増加が続いている。死者は18日は211人で、4日連続で200人を超える高い水準にある。

オミクロン株は「感染のスピードは速いが、重症化リスクは小さい」と言われてきたが、実際は感染者数の急増で、高齢者を中心に重症者や死者の増加傾向が続いているので、警戒が必要だ。

1月以降、自治体から死亡が報告された感染者のおよそ9割が、70歳以上だった。一方、高齢者施設でつくる団体が2月上旬に行ったアンケートでは、入所者、職員ともに3回目接種を終えていない施設が4割を超えており、高齢者施設でのワクチン接種の遅れがうかがえる。

 決め手のワクチン接種、検査も遅れ

岸田首相は17日夜、記者会見し「第6波の出口に向かって歩み始める」として、外国人の新規入国を原則停止している水際対策について、3月から段階的に緩和し、1日当たりの入国者を5000人に引き上げる方針を明らかにした。

また、3回目のワクチン接種について、2月15日以降、VRS=ワクチン接種記録システムの入力ベースで、目標の1日100万回程度までペースが上がってきたとしたうえで、安定的に100万回以上が達成できるよう全力を尽くす考えを強調した。

水際対策の緩和は、経済活動の再開をめざす経済界や与党の突き上げを受けて、踏み出すことになったものだが、国内対策は、まん延防止等重点措置の延長という従来の方針の繰り返しに止まっている。

こうした対策で3月6日の期限までに感染拡大を抑え込めるのだろうか。岸田政権の対応についてみていると大きな問題点として、2点指摘しておきたい。1つは3回目のワクチン接種の進め方であり、2つ目が検査態勢の問題だ。

ワクチン接種については18日公表データで、3回目の接種を終えた人は1600万人、国民全体の接種率は12.6%に止まっている。欧米に比べて低い水準のままだ。

与野党の議員に聞くと、政府は年末、感染が急減した時期に接種間隔を8か月にするか、6か月か決定に手間取ったこと。また、先行接種を希望した自治体に対して、厚労省が”護送船団方式の発想”でブレーキをかけたことも失敗だったと厳しく指摘する。

2つ目の検査態勢については、特に抗原検査キットの不足を招いた責任を問う声が多い。医療のひっ迫を避けるために「自宅で自分で検査すること」を呼び掛けながら、検査キットが手に入らないことが国会の質疑で取り上げられた。

後藤厚労相は18日、「最大限の取り組みを行った結果、1日当たり100万回分以上の生産・輸入を確保できる見込みになった」と明らかにした。目標の1日80万回分を上回る努力は多とするが、あまりにも遅すぎる。

 国と地方の態勢、首相官邸の危機対応

以上のワクチン接種と検査は、いずれも感染症との戦いで、切り札となる有力な武器だが、日本は感染第1波以降、有効な対応ができなかった。

コロナ感染との戦いは、安倍、菅両政権に続いて岸田政権で3年目に入ったが、どこに根本的な問題があるのだろうか。

コロナ対策の政府対応について、私の見方は点検・検証を行い、問題点を把握したうえで、対策を打ち出すという基本ができていない点が一番の問題と考える。

岸田政権は10月に発足、11月にコロナ対策の全体像をとりまとめた。医療提供体制の強化、ワクチン接種の促進などに重点を置いた。問題は、対策の内容とともに、対策の実行態勢、準備ができていたかがカギを握っていた。

ところが、現実は高齢者の3回目のワクチン接種は遅れ、抗原検査キットも不足し、自宅療養者が自分で健康管理を行うことができない事態に陥ってしまった。実行態勢の詰めに甘さがあったとされる。

この原因だが、岸田首相は「これまでのコロナ対応を徹底的に検証する」と表明しながら「司令塔機能の強化を含めた抜本的な体制強化策は、来年の6月までに取りまとめる」と先送りにした。これが、それまでの政府対応の失敗を繰り返すことにつながったとみている。

検証をいち早く行い、地方自治体との間でワクチン供給量の確保と配分、接種時期の調整を行うことも可能だった。企業との間で検査キット供給や輸入の枠組みを検討しておけば、対応の遅れや、目詰まりを防ぐことも可能だったかもしれない。

つまり、総理官邸の危機管理、司令塔機能の強化を整備すること。具体的には、総理官邸と厚労省など各省庁との指揮命令系統の整理、厚労省と地方自治体などとの役割分担などを早い段階で着手しておくべきだったと考える。

コロナ対策の次の節目は、31都道府県の「まん延防止等重点措置」を期限の3月6日までに解除できるかどうか。感染第6波の出口に向けた道筋をつけられるかどうか、岸田政権の政権運営、夏の参院選挙にも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

 

 

“先手の誤算”岸田政権コロナ対応

新型コロナ感染に歯止めがかからない中で、政府は10日、東京など13都県に出している「まん延防止等重点措置」を3月6日まで延長する方針を決めた。また、新たに高知県を対象に加え、合わせて36都道府県で重点措置が続くことになる。

岸田政権は、これまで安倍、菅両政権を反面教師に”先手、先手の対応”をアピールしてきたが、年が明けて3回目のワクチン接種の遅れや抗原検査キット不足などの”誤算”が続いている。

まん延防止等重点措置の長期化も予想される中で、岸田政権は感染危機を抑え込めるのか、オミクロン対策では具体的に何が問われているのか、岸田政権の対応を点検してみたい。

 ”後追い”目立つ コロナ対策3本柱

岸田首相は9日夜、コロナ対策で関係閣僚と協議した後、記者団に対し「これまでと異なったオミクロン株との戦いは、今、正に正念場を迎えている。私の責任で、迅速で機動的な判断と実行を進めていきたい」と決意をのべた。

そのうえで、政府の基本的対処方針に感染速度が速いオミクロン株に対応するため、臨時の医療施設の整備や、学校、保育所、高齢者施設などの感染対策を強化することなどを盛り込んだ。

こうした内容はいずれも必要な対策と思うが、問題の核心は、岸田政権が発足以降、3本柱として打ち出してきたワクチンの追加接種、検査体制の強化、それに経口治療薬の迅速な提供がどこまで実行できたかという点にある。

年明け以降の政府対応をみていると、ワクチン対策では3回目接種の間隔について、一般の人では原則8か月以上から、7か月、6か月へと短縮するなどの方針変更に追われた。

また、感染した人との濃厚接触者が、自宅や宿泊所で求められる待機期間についても当初の14日間から10日間、1月末には7日間に短縮するなど”後追いの対応”が続いている。

一方、3回目のワクチン接種を終えた人は、8日時点のデータで914万人、接種率7.2%に止まり、思うように進んでいない。

抗原検査キットについても、爆発的な感染急拡大で、自ら検査したい人たちの急増に供給が追い付かず、薬局や医療機関でも入手が困難な状況が続いている。

さらに飲める治療薬の供給量が十分ではないと国会で野党側が追及したのに対し、政府側はいつ頃、必要な人に届けられる状態になるのか見通しを示すことができなかった。

 オミクロン新対策と実行態勢の強化

それでは、岸田政権のコロナ対策では何が必要なのか。国会での論戦を基に考えるとオミクロン株の特性の分析に基づいた「新たな総合的な感染対策」を早急に打ち出す必要があるのではないか。

今回のオミクロン株は、感染力は極めて強く、今も感染者数が全国で1日9万人前後も確認される一方で、重症化率は低いなどの特性が指摘されている。

また、感染しても症状が現れない軽症者や濃厚接触者になったために仕事を休まざるを得ない人も増えている。その結果、医療機関、保育所、高齢者施設、ごみ収集などの社会機能をどのように維持していくか新たな問題も起きている。

これに対して、政府は、濃厚接触者の待機期間を短くするなど対応策を次々に出しているが、細切れでわかりにくい。そこで、検査から、陽性者などの隔離や待機、治療などの対策全体を盛り込んだ「新たな総合的な対策」が必要だと考える。

全国知事会も政府に対し、「オミクロン株の特性等を踏まえた感染対策」を早急に確立、実行するように求める提言を出している。また、政府が11月にまとめた対策の全体像を見直すことを求めており、こうした提言に賛成だ。

▲岸田政権が問われる2点目は「検査体制の拡充」だ。感染第1波の時から、専門家や、メディア、野党が繰り返し主張している論点だが、政府・厚生労働省の危機感は乏しく、対応も鈍かった。

岸田首相も11月段階で「検査も抜本的に拡充する。感染拡大時には、無症状者でも無料で検査を受けられるようにする」と強調していた。ところが、抗原検査キットは品薄、政府は「検査は自分で」と勧めながら、薬局では手に入らない。

日本はキットの多くを輸入に頼っており、政府は、国内メーカーに1日80万回分まで増産するよう要請した。但し、要請したのは1月14日という遅さだ。

自民党の閣僚経験者に聞くと「経済・社会を回すためにも検査が重要だ。検査キットは数千万キットくらい保有すべきで、国が買い取りを保証、増産させるべきだ。PCR検査も38万件まで検査能力を増やしてきたが、100万件くらいまで拡大した方がいい。大胆に舵を切るべきだ」と指摘している。

▲第3は「ワクチン接種の加速」だ。3回目のワクチン接種が進んでいない現状は、先に触れた。

その背景だが、与野党の関係者とも「去年秋、感染が急減していた時の対応がなっていない。自治体の中には、年末早めの接種ができたのに、厚生労働省がすべての自治体がそろうまでブレーキをかけたことが大きい」と指摘。岸田政権の指導力を問題視する声を聞く。

岸田首相は、ワクチン接種の目標設定に消極的な姿勢を続けてきたが、7日、「1日100万回」を目標に2月後半の達成をめざす考えを明らかにした。国会で野党からの批判、報道機関の世論調査で内閣支持率に陰りが出始めたことを懸念したのかもしれない。

ワクチン接種の目標設定は遅きに失した感じもするが、切り札であるのは間違いないので、猛スピードで追加接種を進めてもらいたい。

 対策の実行力、政権の行方を左右

ここまで岸田政権の対応を見てきたが、安倍政権や菅政権のコロナ対策の失敗を教訓に対策をまとめており、方向性は間違っていないと思う。

問題は、首相官邸が中心になって、対策を実行に移していく実務能力、具体的には、厚生労働省を指示したり、全国の自治体と連携・調整を進めたりする力が弱い点ではないか。

また、岸田首相の姿勢も水際対策として、11月末に外国人の新規入国の停止を打ち出すといった時期までは意欲的な姿勢が感じられた。

ところが、年明け以降は安全運転、守りの姿勢が目立つ。まとまった記者会見は去年12月21日に行って以降、行われていない。

国会の答弁でも、オミクロン株対策をまとめて説明したりする場面もほとんど見られない。トップリーダーとして、国民に向けた対策の説明・説得、それに強い決意と攻めの姿勢は不可欠だ。発信力も不足している。

オミクロン株感染のピークは近いとの説もあるが、高止まり状態が続くとの見方も根強い。今月20日には、一度延長した沖縄など3県と、北海道や大阪府など18道府県の重点措置の期限が近い。

岸田政権がオミクロン危機の出口を見いだせるか、それとも混迷のトンネルで試行錯誤を続けることになるのか、分かれ道に差しかかりつつあるように見える。夏の参院選や岸田政権のゆくえも、オミクロン感染対策が大きく左右する図式は、変わっていない。(了)

 

“オミクロン緊急宣言”の考え方

新型コロナウイルスの感染は、感染力の強いオミクロン株によって急拡大が続いており、全国の新規感染者数は2日、9万人を超えて過去最多となった。

東京都内では新規感染者数が初めて2万人を超え、コロナ感染患者用の病床使用率は51.4%に達した。都は、緊急事態宣言の発出を要請する目安を50%に置いてきたが、その目安を上回ったことになる。

政府や東京都は、いずれも緊急事態宣言の取り扱いには慎重な姿勢を示している。この宣言の扱いをどのように考えたらいいのか。岸田政権のコロナ対策では何が問われているのか、衆院予算委員会のコロナ対策の集中審議も含めて考えてみたい。

 政府、東京都も緊急宣言に慎重姿勢

まず、オミクロン株の感染急拡大に伴う緊急事態宣言について、東京都と政府の対応から見ていきたい。

東京都の小池知事は「命と暮らしを守るという観点からも、病床の使用率の中でも重症や中等症を見ていく必要がある。専門家の声なども聞きながら考えていきたい」とのべ、症状の重い人たちの状況も見ながら慎重に判断したいとの考えを示している。

岸田首相は、2日の衆院予算委員会の集中審議で「去年8月の感染者数がピークだった時、病床も満杯だった。今の感染者数は当時の3倍と多いが、病床使用率は国の基準で37%程度に収まっている。今の時点では、緊急事態宣言を出すことは検討していない」として、慎重な姿勢を示した。

 緊急宣言、今後の方向性・選択肢は

それでは、今後、重症者数などがさらに増加した場合、緊急事態宣言の扱いをどう考えるかという点が問題になる。

この点に関連して、前のコロナ担当相で、自民党の西村康稔議員が2日の衆院予算委員会集中審議で、次のような方向性と選択肢を示しながら質問に立った。今後の対応を考えるうえで参考になるので、個人的な解釈を交えて紹介したい。

1つは「より強い強制力」を伴った感染抑制対策。日本は海外のようなロックダウンは難しいので、今の緊急事態宣言に比べて、より強い措置、例えば夜10時以降の外出制限などが考えられる。

2つ目は「緩やかな対応策」。具体的なイメージとしては、今の緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置がベースとして考えられる。感染対策と経済社会活動との両立をめざしながら、穏健な対策を基本に考える。

西村氏は、国民の理解が得られるかなどを考えると1つ目は、当面は困難と判断している模様だ。2つ目が、現実的な案だが、さまざまな工夫や改善を行うことが可能だとして、次のような取り組みを挙げていた。

オミクロン株感染で重要なのは、高齢者と子ども。高齢者対策では、ワクチン接種の加速。子ども対策では、学校・教育のオンライン化。それに親たちの企業のテレワークの推進を強力に推進することを提案した。

これに対して、岸田首相は「感染防止と、社会経済活動維持のバランスの中で、今後の対策を考えたい。強制力を伴う対策に踏み出すかどうかは、6月にまとめる中長期の対策の中で考えたい」と今後の方向や対応には踏み込まなかった。

以上の質疑も踏まえて、緊急事態宣言の扱いだが、岸田首相や小池知事が今の時点で慎重に判断したいとの姿勢は妥当なように思える。

但し、問題は、特に医療に大きな影響を及ぼす重症者の状況がどうなるか。それに感染拡大の抑え込みと、社会経済活動の維持の3つの要素をどう考えるか。専門家の意見も聞くにしても最後は、政権トップが政治判断で決めることになる。

その決断に当たって、仮に緊急事態宣言を出す場合も、重要なことは従来の対策の踏襲ではなく、ワクチン接種の一層の加速や人流抑制のオンライン化促進など新たな対策を打ち出せるかだ。

また、国や自治体の権限強化といった問題も先送りせずに、今の国会で議論し、法案を提出して成立させることこそ、緊急時の国会の役割ではないか。

 日本の弱点、ワクチン、検査の強化

岸田政権の今後のコロナ対策の進め方について、民主党政権の厚労相経験者で、立憲民主党の長妻昭議員の指摘も参考になったので、紹介しておきたい。

長妻氏もコロナ感染防止と経済・社会活動の両立をめざす立場だ。そのうえで、オミクロン株対策としては、端的に言えば、ワクチン接種とPCR検査の2つの柱を強化することを提案した。

具体的には、日本の3回目のワクチン接種率は3.5%に止まり、世界の先進36か国の中でも最低の水準だ。政府の接種間隔8か月の見直しが遅れたためではないか。1日当たりの接種も直近で40万回だが、菅政権の100万回など目標を設定してはどうか。

一方、PCR検査についても日本の能力は国際的にも低い。日本のコロナ対策の弱点は、検査体制が未だに改善・強化されていないことで、岸田政権が掲げる抗原検査キット1日80万確保はいつ実現するのかと質した。

これに対して、岸田首相は「ワクチン接種の対象者は、今後、増えていくので、一律の目標は適切かどうか」と消極的な姿勢を示したほか、検査キット確保の具体的な時期に言及することは避けた。

このようにみてくると既に4回も出してきた緊急事態宣言をいつ出すか自体には、あまり大きな意味がない。緊急事態宣言を出して、どんな対策が強化されるのか、中身がより重要だ。

岸田政権は去年、水際対策をいち早く打ち出した点は評価する。ところが、年明け以降、急拡大したオミクロン株対応では、対応に遅れが目立つ。3回目のワクチン接種が目標を大幅に下回ったり、自衛隊による大規模接種も対象の人員が少しずつ増えるなど小出しの対応に見える。

オミクロン株感染は、感染状況や医療・病床のひっ迫がどうなるか。東京など13都県のまん延防止等重点措置の期限が13日に近づいている。

岸田政権は、オミクロン危機をどのように乗り切っていくのか。まん延防止等重点措置や緊急事態宣言などの手続きではなく、具体的な対応策を打ち出して、強力に推進・実行できるかどうかが問われている。(了)

〇追記(2月3日20時)東京都 緊急事態宣言要請の新たな指標設定         ①重症者用の病床使用率、酸素投与が必要な人の割合             →いずれか30%~40%                          ②新規感染者数 2万4000人(7日平均)                  ※現状→①重症者用の病床使用率15.1%、酸素投与割合8%、            ②1万7058人

 

 

 

“感染危機本番”と首相の指導力

新型コロナウイルス、オミクロン株による感染急拡大が続いている。海外の感染状況から予想はしていたが、国民生活への影響も目立ち、感染危機が現実のものになってきた。

政府は27日から「まん延防止等重点措置」の対象地域に北海道、大阪、福岡など18道府県を追加し、適用地域は合わせて34都道府県、全国の7割以上に拡大した。新規感染者数は7万人を超えて過去最多、さらに拡大は続く見通しだ。

感染危機を抑え込むためには、政権の対応、特に首相の指導力が大きく影響する。岸田首相は、感染対応を比較的順調に進めてきたが、ここにきて対策の決定などに遅れがみられるようになった。

岸田政権のオミクロン株対応は何が問われているのか、岸田首相の指導力をどうみるか、通常国会の論戦も含めて考えてみたい。

 オミクロン、新たな対策とりまとめを

岸田政権は、去年11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのに続いて、今月11日には、オミクロン株の急拡大を受けて新たな対策を打ち出した。そして、水際対策で時間を稼ぎながら、予防、検査、医療提供体制の整備を進めながら、感染の抑え込みをめざしてきた。

ところが、年明けとともにオミクロン株の感染力はすさまじく、あっという間に第5波を乗り越えた。全国の新規感染者数は26日、7万1000人余りに達し、過去最多を更新した。

今回は濃厚接触者も多く、保健所は、感染経路を調べる積極的疫学調査を断念したところが多い。病院の外来診療もひっ迫が目立ち、保育園の休園、小学校の臨時休校もみられ、国民生活への影響は大きくなっている。

国会では新年度予算案の実質審議が始まり、オミクロン対策が最大の焦点になっている。野党側は「政府の対応は後手に回っている」と追及したのに対し、岸田首相は「感染防止と社会活動の両立をめざしている」と防戦に追われている。

それでは、岸田政権としては、何が最も問われているか。結論を先にいえば、これまでの対策を見直し、オミクロン感染に対応できる新たな対策を早急に取りまとめ、実行に移せるかだ。

オミクロン株の特性は、感染力は強いが、重症化リスクは今のところ低いといわれている。濃厚接触者が多いので、陰性が証明されれば、待機期間を短縮してエッセンシャルワーカーは仕事ができるようにして、社会機能を維持していく必要がある。

また、政府は、医療がひっ迫する可能性がある場合、自治体の判断で、軽症者は自分で検査を行い、自宅療養も認める新たな方針を打ち出した。

ところが、こうした対策も肝心の抗原検査キットが不足する事態が起きている。また、自ら検査をして自宅療養するにしても、薬や食料などのバックアップ体制などもはっきりしていない。

このように政府のオミクロン対策は、場当たりで断片的な対応が目立ち、国民の不安をなくしていく対応ができていないようにみえる。

したがって、政権がなすべきことは何か。1つは、感染防止対策と医療提供体制が本当に機能しているのか、早急に点検・確認したうえで、問題点があれば、是正して新たな対策として明らかにすること。

2つ目は、新たな問題、社会的機能を維持していくための取り組みも必要だ。具体的には、待機期間の扱いと考え方。そのうえで、保育や学校、交通機関、ごみ収集などの事業を維持していくため、政府、地方自治体、民間企業の役割分担や支援策などもとりまとめる必要がある。

 ワクチン追加接種、強力な推進を

次にワクチンの3回目接種が遅れている問題がある。政府は、3回目接種について、1月末までにおよそ1470万人に打つ目標を立てていたが、25日までに接種を終えた人は289万人、目標のわずか20%に止まっている。

この問題は、衆院予算員会でも取り上げられ、野党側は「最近の1日当たりの接種状況は、昨年夏のピーク時の1割以下と少ない。人口に占める接種率もわずか2.1%、先進国で最下位だ」と対応の遅れを厳しく批判した。

これに対し、岸田首相は「1,2回目の接種が遅れたため、3回目は間隔を空けて行わなければならなかった。2月末までには8割の自治体が高齢者の接種を終えられる見通しだ」と理解を求めた。

政府は当初、3回目の接種の間隔について「原則8か月以上」としていたが、オミクロン株の感染が拡大したのを受けて、65歳以上の高齢者などは6か月に、一般の人は7か月に短縮するという方針変更を迫られた。

また、ワクチンの安定的な確保の難しさや、自治体の接種体制の準備の問題。さらに、3回目はワクチンの「交互接種」が可能だが、予約希望がモデルナ社製より、ファイザー社製に集中する問題も抱えている。

但し、切り札の3回目のワクチン接種が遅れているのは事実だ。接種をさらに強力に推進しないと感染の急拡大に間に合わない恐れもあり、時間との闘いとも言える厳しい状況にある。

 首相の指導力、現状把握と実行力

感染危機を抑え込むことができるかどうかは、岸田政権の求心力を大きく左右する。岸田首相は当初の対策が有効に機能しているかどうか、現状の把握と問題点があれば、直ちに是正していく実行力が、問われている。

一方、政権与党、野党の双方とも感染対策に問題があれば、鋭く指摘したり、批判したりすることは当然だが、些細なことで足を引っ張るような行動を取ると国民の支持を失う。野党側も建設的な対応を続けているようにみえる。

岸田首相については、代表質問に対する答弁や、衆院予算委員会の論戦をみているといわゆる”安全運転”、既存の方針の説明を繰り返す”守りの姿勢”が目立つ。

オミクロン危機を回避するためには、科学的な知見、データを集めたうえで、国民生活を守るために、どこまで踏み込んだ対応策を実行できるかが試される。

岸田首相並びに総理官邸が、司令塔機能を発揮して新たな対応策を打ち出し、危機乗り切りに成功するかどうか。トップリーダーの政治決断が問われる局面が近づきつつあるように思う。(了)

”オミクロン危機” 岸田政権の対応は

オミクロン株の感染が驚異的な速さで拡大している。「まん延防止等重点措置」が21日から東京など16都県に拡大したが、大阪など関西3府県や北海道など各地の自治体からも適用の要請に向けた動きが相次いでおり、感染地図が大きく塗り替えられつつある。

岸田首相は国会の答弁で「過度に恐れることなく、対策を冷静に進める覚悟だ」と訴えているが、オミクロン危機の出口戦略は描けていない。感染抑え込みに何が問われているのか、探ってみる。

 東京は過去最多更新、危機的状況も

今回の感染拡大のスピードはすさまじい。東京都を例に見ておくと1日当たりの感染者数は、去年10月9日から今月2日までのおよそ3か月は100人を下回る日が続いた。

ところが、今月8日に1000人を超えて1224人となり、急速に増加する。12日に2198人、13日3124人、14日4051人。そして19日に7377人で過去最多、20日は8638人で最多を更新した。

これを1週間平均のデータで1日当たりの感染者数をみてみると、今月1日は60人だったのが、19日時点では4555人、半月ほどで76倍も増えている。

このままの増加が続けば1月27日には、1万8266人になるという推計が都のモニタリング会議に報告された。専門家は「これまでに経験したことのない危機的な感染状況となる可能性がある」と指摘している。

全国でも20日は、4万6200人の感染が確認され、3日連続で過去最多を更新した。累計では、国内の感染者数は20日に200万人を超えた。

 岸田政権 ”自治体要請 丸飲み”

こうした感染急拡大を受けて、自治体側は政府に対し「まん延防止等重点措置」の適用を要請し、沖縄、山口、広島3県には今月9日に適用された。続いて21日からは、東京など首都圏、東海地方、九州の合わせて13都県が追加され、重点措置は16都県に拡大した。

さらに、大阪、京都、兵庫の関西3府県が22日、重点措置を要請するほか、北海道が要請を決める方針だ。また、福岡、佐賀、大分の各県も要請する方向で、感染地図がオセロゲームのように塗り替わりつつある。

政府は、自治体から重点措置適用の要請があれば、速やかに検討に入る方針だ。岸田政権としては「感染者数の抑制や、医療体制がしっかり稼働するための準備が進む」として、自治体の要請を”丸飲み”する形で適用を認める考えだ。

 カギは医療、ワクチン、危機対応

オミクロン株の感染拡大は、17日から始まった通常国会の代表質問の論戦でも最大の焦点になっている。野党側は、政府のコロナ対策は不十分だと強く批判したほか、3回目のワクチン接種の取り組みも遅いなどと追及した。

これに対して、岸田首相は「これまでG7で最も厳しい水準の水際対策で、海外からのオミクロン株流入を最小限に抑えてきた」と反論するとともに「今後は、オミクロン株の特性を踏まえ、メリハリをつけた対策を講じていく」と強調した。

政府・与党と、野党側の主張は平行線だが、岸田政権はオミクロン株の感染危機を抑え込めるのか、正念場を迎えている。感染抑え込みができるか否かのカギは何か、具体的にみておきたい。

第1は、岸田政権が準備を進めてきた「医療提供体制」が機能するかどうかが、試される。岸田首相は、病床を去年夏に比べて3割増やしたのをはじめ、自宅療養中の患者の健康観察、飲み薬の速やかな供給などを行うための体制を整えてきたとしている。果たして、急拡大の第6波に通用するか。

第2は「ワクチン接種の前倒し」だ。一般高齢者の3回目のワクチン接種について、政府は当初、原則8か月としていた2回目との間隔を7か月に短縮した後、今月13日には6か月に短縮し、接種体制などに余力がある自治体に対しては、さらに前倒しをして、接種を進めることも要請した。

こうした政府の方針転換に準備にあたる自治体側は、振り回されている。また、19日時点で3回目の接種を受けた人は162万人余りで、全人口のわずか1.3%に止まっている。先手、先手と言えるのかどうか。

さらにオミクロン株では、子どもの感染も目立っており、政府は新たに5歳から11歳までのワクチン接種も進める方針だ。その子どもを対象にしたファイザー社製ワクチンは21日、厚生労働省から正式に承認される見通しだ。但し、保護者や子どもの理解がどこまで得られるかという問題がある。

第3は「政府と地方自治体の連携・調整、危機対応」が順調に進むかという問題だ。例えば、前提となるオミクロン株の特性についても、政府と自治体側などとの間に認識や、評価、対応の仕方に違いがあるのではないか。

政府分科会の尾身会長は、報道陣の取材に応じ「今までやってきた対策を踏襲するのではなく、オミクロン株の特徴にあったメリハリのついた効果的な対策が重要だ。これまでの『人流抑制』ではなく、『人数制限』というのがキーワードになる」とのべ、飲食そのものではなく、感染リスクの高い状況に集中して対策を行うことが重要だとの考えを強調している。

これに対して、東京都の小池知事は、飲食店の営業時間の短縮や酒の提供制限の方針を決めた後、「感染者の急増は、医療提供体制のひっ迫に止まらず、社会が止まる事態も招きかねない。都民の皆さまには、再度、気を引き締め、行動を変えていただきたい」とのべ、不要不急の外出の自粛や、基本的な感染防止対策の徹底を呼び掛けた。

こうした考え方の違いの背景には、オミクロン株の特徴、重症化リスクの評価の違いがあるのかもしれない。あるいは、医療従事者やエッセンシャルワーカーの確保、経済活動とのバランスのとり方との関係で、感染対策の重点の置き方に違いが出てくることも考えられる。

オミクロン危機を抑え込むためには、どのような戦略、対応策がありうるのか。感染状況と社会、経済への影響などをみながら、政治、行政、それに国民の側もそれぞれ考えていく必要があるのではないか。国会で24日の週に始まる衆院予算員会の質疑も注目したい。(了)

 

 

通常国会論戦へ”オミクロン対策”が焦点

通常国会が17日召集され、岸田首相の施政方針演説に続いて、各党代表質問が行われて論戦が始まる。

岸田首相にとっては就任後初めての通常国会だが、新型コロナのオミクロン株の感染が加速度的に拡大している。このため、国会冒頭の論戦は、岸田政権のオミクロン株対策が焦点になる見通しだ。

オミクロン株対策では何が問われているのか、対策の具体的な内容に焦点を当てて考えてみたい。

 ”オミクロン株国会”の様相か

最初に日程をみておくと通常国会は17日に召集され、その日のうちに岸田首相の施政方針など政府4演説が行われる。これを受けて、19日から衆参両院の本会議で各党代表質問のあと、24日から衆院予算委員会に舞台を移して、新年度予算案の審議が始まる見通しだ。

夏に参議院選挙を控えているため、その前哨戦と位置づけられる今年の通常国会は、与野党の対決色の濃い国会になりそうだ。

特に予算案成立のメドがつく3月末までの前半戦では、オミクロン株対策をめぐって激しい論戦が戦わされる見通しだ。端的にいえば”オミクロン国会”の様相になるのではないか。

 岸田政権の新対策と感染見通し

そのオミクロン株対策について、岸田首相は所信表明演説で、オミクロン株の特性を踏まえて、メリハリのある対策を講じるとして、医療提供体制を強化するとともに3回目のワクチン接種を前倒しする方針を打ち出したい考えだ。

ところが、ここにきてオミクロン株の感染が驚異的な速さで拡大してきた。東京では13日、1週間前の5倍近い3100人余りに急増した。都の専門家会議では、今のペースでいけば1月中に1万人を超えるという推計も示された。

全国の感染状況も「まん延防止等重点措置」が沖縄、山口、広島3県に出されているほか、全国の感染者数は13日に1万8600人余りに達し、オミクロン株への置き換わりは暫定値で84%を占めている。

岸田政権は、去年11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたの続いて、今月11日には、オミクロン株の新たな対策を打ち出した。果たして感染拡大を抑え込むことができるのかどうか、試されることになる。

 ワクチン、医療、水際対策の論戦を

岸田政権のオミクロン対策は、具体的にどんな点が問われることになるのか、論戦のポイントをみていきたい。

▲第1は「医療提供体制の備え」がどこまで進んでいるかだ。政府は、オミクロン株の感染力は強いが、今のところ重症リスクは小さいなどの特性を踏まえて、感染者や濃厚接触者を一律に入院させるのではなく、地域の医療機関などと連携して、自宅療養も認める方針を打ち出した。

そして、各都道府県で体制を整備した結果、自宅療養中の患者の健康観察や、飲み薬の速やかな供給などを行うための体制が整ったとしている。具体的には、自宅療養を始めた場合には、翌日までにパルスオキシメーターを配布する体制も整い、患者の健康観察などを行う医療機関の数は、全国で計画を3割上回る1万6000確保できたとしている。

問題は、今後、感染が急拡大した場合、入院・治療、宿泊所での待機療養、自宅療養などの仕分けや転院などが実際に機能するかどうかだ。

また、感染や濃厚接触で、医療従事者やエッセンシャルワーカーの仕事が制限され、要員が不足する社会機能の低下といった新たな問題も懸念される。

▲第2は「ワクチン接種の前倒し」の問題だ。政府は13日、ワクチンの2回目と3回目の接種間隔について、◆高齢者施設などに入っていない一般の高齢者も現在の7か月から6か月に短縮する方針を決めた。

◆64歳以下は、8か月から7か月に前倒して、今年3月から実施する方針だ。こうした対応は、オミクロン株の急拡大を踏まえ、3回目の接種を急ぐ必要があると判断したためだ。

問題は、ワクチンの確保と自治体への配分が順調に進むかどうかだ。12日に開かれた全国知事会では、前倒しの方針を歓迎しながらも「ワクチンは3月までのスケジュールしか示されておらず、4月以降の配分が見通せないと予約を受け付けられない」「現場の自治体が大混乱しかねないので、接種の対象や時期、ワクチン供給量などについて行程を示してほしい」といった要望が相次いだ。

こうした自治体の声を受け止めて、具体的な実施計画をまとめ、迅速に追加接種を行えるのかどうかが問われている。

▲第3に「水際対策や検疫の問題」がある。在日アメリカ軍基地がある沖縄、山口県・岩国市、隣接する広島県西部などの地域で、感染が拡大した。基地内の感染流行が、基地の外に広がったものとみられる。米軍関係者がアメリカなどから基地に直接、入国する場合、検疫が免除されていたことも明らかになった。

日米両政府は今月9日、対策を強化することでようやく合意した。この問題が沖縄県で表面化したのが、去年12月だったことを考えると政府の対応はいかにも遅い。日米地位協定を見直すべきだとの意見もある。

▲このほか、首相官邸の司令塔機能のあり方、具体的には、政府と自治体、医療機関などとの連携・調整のあり方の課題もある。政府は6月まで先送りしているが、危機管理体制の見直しは早急に行うべきだという意見もある。

このようにコロナ対策は、数多くの課題・問題がある。野党側は、全国各地の実態を踏まえて、政府の対策に問題がある場合は厳しく指摘したり、別の対策があれば積極的に提案したりするのが本来の役割だ。

これに対し、政府、与党側は対策に問題があれば真摯に受け止めて是正するなど与野党双方が建設的な取り組みを見せてもらいたい。国民の側も、政府、与野党の議論、対応をしっかり評価していくことが重要だ。

経済立て直し、外交・安保論争も

今年は、通常国会が6月に閉会すると直後に参議院選挙が控えている。国民にとって、参議院選挙の主な判断材料は、国会の与野党の議論ということになる。このため、コロナ対策以外の議論も必要不可欠だ。

具体的には、まずは、経済の立て直しだ。コロナ感染が収束したあと、国民生活や経済の立て直しに向けて、何を最重点に取り組むのか、各党とも構想と政策を明らかにしてもらいたい。

また、米中の対立や北朝鮮の弾道ミサイルの相次ぐ発射などを受けて、日本の外交・安全保障、防衛力整備のあり方などの議論を深めていく必要がある。

通常国会冒頭は、オミクロン株対策に議論が集中するのはやむを得ないが、感染が落ち着けば、経済、外交・安全保障論争にも力を入れてもらいたい。(了)

※(追記14日21時半。◆濃厚接触者の自宅などでの待機期間、政府は現在の14日間→10日に短縮する方針。◆新規感染者数、東京14日4051人、全国2万⑳45人)

感染第6波、正念場の岸田政権

新しい年が明けて1週間も経たないうちに、コロナ感染の波が、猛烈な勢いで押し寄せてきた。政府は7日、沖縄、山口、広島の3県に緊急事態宣言に準じる「まん延防止等重点措置」を適用する方針を決めた。

重点措置の期間は、9日から今月31日まで。夏の感染第5波に対する重点措置が解除された去年9月30日以来で、岸田政権になって初めてになる。

全国的にも1日当たりの感染者数が6000人を超え、オミクロン株の入れ替わりも早いペースで進んでいる。医療専門家は「全国的に第6波に入った」と警戒を強めている。

第6波を抑え込むことができるどうか、政権のかじ取りが大きく影響する。安倍政権、菅政権と2年連続、感染対応に失敗し退陣に追い込まれてきた。

岸田政権は、これまで感染対策を比較的順調に実施してきたように見えるが、第6波を乗り越えられるのか、どんな取り組みが必要なのか考えてみたい。

 驚異的な感染力、米軍基地が”穴”

まず、重点措置が適用されることになった3県の感染者数を見ておく。7日の時点で、沖縄は1414人で過去最多を更新、広島も429人で過去最多、山口は180人で高い水準にある。

特に感染の速さが、驚異的だ。7日の感染者数を1週間前と比較してみると沖縄は実に32倍、広島は19倍、山口は12倍にもなる。これだけの急拡大は、感染力の強いオミクロン株への置き換わりが急速に進んでいるものとみられる。

この3県に共通しているのは米軍基地だ。沖縄と山口県岩国市には米軍基地があり、広島県の西部は隣接地域だ。地元の知事や医療専門家は、米軍基地内の感染の流行が基地の外に広がったことが一因との見方をしている。

米軍関係者が、アメリカなどから在日米軍基地に入国する際にPCRなどの検査が免除されていたとされる。沖縄県の玉木知事らは、去年からたびたび米軍の感染対策の強化を訴えてきたが、日本政府の対応は安全保障面への配慮のためか慎重な姿勢が続いた。

岸田政権は、外国人の入国を全面停止するなど厳しい水際対策を取ってきたが、在日米軍基地に感染を広げる”穴”が開いていたことになる。岸田政権の失策と言わざるを得ない。

日米地位協定で、米軍関係者は検疫の対象外だが、地域住民の健康と安全を考えると、検疫や感染管理の不備を放置することは許されない。この問題は、今月召集される通常国会でも取り上げられることになるだろう。

 岸田政権の新対策は機能するか

次に岸田政権のコロナ対策をどうみるか。今回の3県の「重点措置」適用は、岸田政権が去年11月に決定した緊急事態宣言や重点措置を出す目安となる「新指標」に基づいている。

新指標は、従来の新規感染者数よりも、医療提供体制への負荷を重視しているのが特徴だ。具体的には、医療のひっ迫状況などに応じて、レベル0から4まで、5段階に分けて判断する。緊急事態宣言はレベル3、重点措置はレベル3か2に相当する。今回の3県は、レベル2に当たると判断された。

また、岸田政権は同じく去年11月に「コロナ対策の全体像」を取りまとめた。対策のねらいは、コロナウイルスの感染力が2倍になった場合にも対応できる医療体制を確保することにあると強調している。

具体的には、昨年夏に比べて3割増の3万7000人の入院を可能にすること。ワクチン、検査、飲める治療薬の普及で「予防、発見、早期治療までの流れを強化し、重症化リスクを減らすこと」を掲げている。

菅政権の前半は、飲食店の営業時間短縮に重点を置いた1本足打法だった。後半はワクチン接種最優先だったのに比べて、岸田政権の対策は、医療提供体制の確保に重点を置いたうえで、複数の対策を組み合わせているのが特徴だ。

問題は、全体像の目標で掲げる「予防、発見、早期治療までの流れを強化し、重症化リスクを減らす対策」が本当に機能するのかどうかにある。

 国と地方自治体の連携・実行がカギ

一番の問題は「国と地方自治体などとの連携・調整」が順調に進むのかどうかという点にあるのではないか。

具体的には、岸田政権の対策では、オミクロン株の感染が急拡大している地域では、自宅での療養体制が整っていることを条件に、感染者や濃厚接触者でも症状に応じて「自宅での療養」なども可能にするとしている。

確かに去年夏のピークを上回るような感染者が出た場合、入院だけでは対応できないので、自宅療養を認めるのは現実的な方法であることは理解できる。

問題は、入院か自宅療養かを判断をするのは、地域の保健所が担当すると思われるが、保健所の体制整備は進んでいるのだろうか。自宅療養が広がった場合、地域の医療機関の往診や健康管理はスムーズに運ぶのだろうか、多くの疑問がわいてくる。

このほか、無料のPCR検査など拡充や、ワクチン追加接種の前倒しなど多くの難問がある。最終的には、総理官邸が司令塔機能を果たして、厚労省など各省庁を指示し、都道府県、市区町村を通じて、保健所や医療機関などとの連携・調整、実行の歯車がうまく回るのかが、これから試される。

 医療提供、経済の二正面作戦

感染力の強いオミクロン株の感染は、7日夜までに全国45都道府県にまで拡大した。また、オミクロン株の置き換わりが急速に進んでいることなどを考えると今後は、東京や大阪など大都市圏へ波及していくことが予想される。

新規感染者数は7日のデータで、東京都は922人、1週間前の12倍に急増した。大阪府も676人で、1日の感染者数が500人を超えるのは2日連続だ。

ここまで見てきたように感染の拡大は避けられないが、重症者を減らしながら医療提供体制を維持できれば、感染抑制への展望が開けてくる。

また、感染が長期化する中で、国民生活への影響を最小限に食い止めるとともに経済活動を維持していく道を探っていくことも必要だ。

岸田政権が、こうした二正面作戦に取り組み、第6波の感染危機を乗り越えられるかどうか、正念場を迎えている。

※追記(1月10日)在日アメリカ軍の施設区域などで、コロナ感染拡大が続いていることを踏まえ、日米両政府は、10日から14日間、アメリカ軍関係者の不要不急の外出を制限することなどを取り決めた共同声明を発表した。

これに対し、野党側は、政府の対応が遅すぎるなどと批判しており、17日召集の通常国会の焦点の1つになる見通しだ。

 

“コロナ危機、踊り場政局” 新年予測

新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染が広がりを見せる中で、新しい年・2022年が幕を開けた。昨年は、自民党総裁選を前にコロナ対応などで失速した菅前首相が退陣、岸田首相が誕生するなど波乱が続いた。

新年の日本政治はどんな展開になるのだろうか。まずはコロナ対応、感染力が強いオミクロン株の抑え込みができるかが、政権運営を左右するのは間違いない。

問題は岸田政権をどうみるかで、政局の見方は変わる。結論を先に言えば、岸田政権を取り巻く今年の政治状況は「踊り場政局」と言えるのではないか。

どういうことか?岸田政権は先の衆院選に勝利し安定しているように見えるが、政策にぶれがみられるし、政権基盤も強くはない。政権は浮揚するのか、逆に停滞、失速することになるのか、不透明だ。

だから「踊り場政局」、政権の階段を駆け上がるのか、下りへと向かうのか、読みにくい政治状況が、短くても半年以上は続きそうだ。

一方、野党も先の衆院選で議席を減らした第1党の立憲民主党と、議席を大幅に伸ばした日本維新の会との主導権争いが激しくなる見通しだ。政権与党との対決より、野党内のせめぎあいにエネルギーを費やす可能性もある。

つまり、与野党双方とも”内部に不確定要素を抱え、様子見の政治”、”メリハリのない政治”が続く可能性が高い。そして、夏の参院選で、政治的に一件落着、国民は蚊帳の外といった状況が生まれるのではないか。

そこで、なぜ、こうした見方をするのか、現実の政治の動きを分析する。そのうえで、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で考えてみたい。

 政治日程 参院選挙が最大の焦点

まず、今年の主な政治日程を駆け足で見ておきたい。◆今年前半の政治の舞台となる通常国会は1月17日に召集される見通しで、6月15日が会期末。◆会期延長がなければ、参議院選挙の投開票日は、7月10日になる見通しだ。

一方、国際社会では、◆2月4日から北京冬季オリンピックが開会するが、米英などは外交ボイコットで臨む方針だ。◆3月9日は、韓国の大統領選挙。◆11月8日は、アメリカの中間選挙。◆秋には5年に一度の中国共産党大会が開かれ、習近平国家主席が異例の3期目の任期に入るか注目される。

◆米中対立や東アジア情勢の変化を受けて、岸田政権は、日本の外交・安全保障の基本戦略を盛り込んだ国家基本戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画を年末に改定する方針だ。外交安全保障の論議が、久しぶりに高まる可能性がある。

 岸田政権 3つのハードル

以上の日程を頭に入れて、国内政治はどう展開するか、岸田政権の運営がベースになる。3つのハードルが待ち受けている。コロナ、国会、参院選挙だ。

▲第1のコロナ対策について、岸田政権は去年11月に対策の全体像を取りまとめたのに続いて、オミクロン株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの対応策を次々に打ち出した。

一方、水際対策をすり抜けたオミクロン株の感染がじわりと広がっている。これに伴って急増する濃厚接触者の扱い、病床の確保、3回目のワクチン接種の前倒しなど、やるべきことが実に多い。その際、国と都道府県、市区町村、医療機関などの連携・調整が順調に進むのかどうか、年明け早々、正念場を迎えそうだ。

▲第2は通常国会の乗り切りだが、岸田政権にとって長丁場の国会は初めてだ。初入閣の閣僚が多く、答弁を不安視する声が与党内からも聞かれる。

▲第3の参院選挙は、特に野党が候補者を1本化する1人区、32の選挙区の勝敗が焦点だ。自民党は前回22勝10敗、前々回21勝、11敗だった。但し、与党は非改選議員が多いため、自民・公明の両党で過半数を維持する公算が大きいとみられる。

自民党長老に岸田政権のゆくえを聞いてみた。「一番の波乱要因は、オミクロン株対応だ。2月頃の感染がどうなっているか。一定程度に抑え込み、3、4月に経済活動が本格化していれば、参院選を乗り切れる。だが、実績が上がらないと厳しい評価を受けるだろう」と楽観論を戒める。

岸田政権は発足からまだ、3か月。コロナ感染者数が激減した環境に恵まれ、内閣支持率も高い水準を維持している。一方、実績と言えば、年末に大型補正予算を成立させた程度で、派閥の人数は5番目、党内基盤は安定しているとはいえない。

特にオミクロン株が急拡大し、対応に失敗すると内閣支持率は急落、政権運営は窮地に陥るとの見方は、党内でも少なくない。

 岸田政権と対決、野党内の競合も

野党側は、通常国会で岸田政権と対峙し、夏の参議院選挙につなげていくのが基本戦略だ。政府のオミクロン株対応、新年度予算案の内容、臨時国会から持ち越した国土交通省のデータ二重計上問題などを追及していく構えだ。

一方、先の衆院選で、野党第1党の立憲民主党は議席を減らしたが、日本維新の会は議席を大幅に増やし第3党に躍進した。日本維新の会は、参院選挙でも候補者を積極的に擁立する構えで、通常国会でも野党内の主導権争いが激しくなりそうだ。

参院選挙に向けては、立憲民主党が、衆院選で閣外協力で合意した共産党との関係をどのように見直すのか、国民民主党との協力関係はどうするのか。日本維新の会の出方も含めて、野党内の構図が変化する可能性もある。

 参院決選、岸田政権 浮上か失速か

このように今年前半の政治は、通常国会を舞台に与野党の攻防が続いたあと、直後の参院選挙で決着がつけられる見通しだ

岸田自民党は前回、または前々回並みの議席、具体的には50台半ば以上を獲得できれば、公明党と合わせて参議院で安定多数を確保できる。

その場合は、去年秋の自民党総裁選、衆院選に続いて、参院選でも勝利したことになり、岸田首相の求心力は高まる。次の衆院議員の任期満了は2025年、向こう3年間国政選挙なしで、政治課題に専念できる。

逆に前回、前々回の水準を割り込めば、岸田首相の政権運営に陰りが生じ、党内の非主流派のけん制が強まる可能性がある。

つまり、夏の参院選は、踊り場に位置する岸田政権の分岐点だ。安定政権へ階段を上り始めるのか、停滞・失速で下がっていくのか、分かれ道になりそうだ。

但し、与党で過半数は維持する公算が大きいので、去年のような大きな波乱が起きる可能性は低いとみる。年後半は、参院選の結果で方向が決まることになる。

 党利党略から、政治の王道へ転換を

最後にコロナ感染危機が続く中で、今の政治は何が問われているのか、国民の視点で見ておきたい。

日本の現状を概観すると過去30年間、国民の給料・所得は横ばいで、先進国の中で唯一上昇がみられない。アベノミクスで異次元の金融緩和にも踏み込んだが、実質経済成長率は1%にも達しない状況に陥っている。

加えてコロナ感染拡大が重なるが、危機の時こそ、政治は右往左往するのではなく、目標と道筋を明らかにして、国民の力を集中させることが必要だ。

そのためには、政権与党と野党の双方が、「構想や政策」を真正面からぶつけ合い、議論を深めたうえで、合意をめざす「競い合いの政治」が問われている。

与野党とも「恣意的な1強政治」「批判・追及ばかり」といった批判を受けて、「落ち着いた政治」を模索する動きもみられる。延々と続く党利党略、パフォーマンスの政治から脱却、「政治の王道、政策の中身で勝負する政治」に転換、実践ができないものか。

具体的には、▲年明けの通常国会では、過去最大107兆円の新年度予算案の審議が焦点になる。コロナ禍で困っている人や事業者に支援が届く内容になっているのか、中身を厳しくチェックするのが、与野党議員の仕事だ。

▲オミクロン対策は、水際対策をはじめ、PCRなどの無料検査、陽性者の隔離や待機、病床確保と治療入院、3回目のワクチン接種などの取り組みは順調なのか点検が必要だ。岸田内閣の危機管理体制の見直し、機能強化も大きな課題だ。

▲そのうえで、コロナ収束後の「日本社会、経済の立て直しの構想や目標」をどのように考えているのか。重点政策として、何を最優先に取り組むのか。

▲冒頭に触れた外交・安全保障についても、日本の国力や国益を踏まえて、どんな役割を果たすのか、国民が知りたい点だ。

先の衆院選では、コロナ対策の給付金など当面の対策に議論が集中し、経済の立て直し、人口減少と社会保障、デジタル・科学技術などの基本的な課題を掘り下げて議論することができなかった。

それだけに新年は、コロナ危機と基本的な課題に同時並行で取り組む必要がある。数多くの懸案を抱える日本、解決へ残された時間は多くはない。

通常国会で議論を深めたうえで、参院選で与野党が選択肢を示し、国民が投票で決着をつける本来の政治に一歩でも近づける必要がある。(了)

 

 

コロナ政局と政権の危機対応

今年も残りわずかとなったので、2021年の政治をどうみるか、締めくくりとして取り上げたい。

今年元旦の当ブログのタイトルは「”首相交代含みの波乱政局” 2021年予測」だった。「コロナ大激変時代、政治もコロナ対応を軸に動く。菅政権は予想以上に不安定さが目立ち、さらに今年は自民党総裁、衆院議員の任期切れが重なる」として、上記のような予測をした。

菅政権が倒れ、岸田政権へ交代、衆院解散・総選挙で敗北した野党第1党の枝野代表も辞任したので、予測としてはなんとかクリアできたのではないかと総括している。

問題は日本政治が最も問われていた点、「政権の危機対応」は岸田政権に代わっても未だに手が付けられず、先送りされているのではないか。重い宿題を背負ったまま、新たな変異ウイルス「オミクロン株」に立ち向かおうとしているようにみえる。

 2代連続退陣、核心は政権の危機管理

2020年1月に新型コロナウイルスの感染が日本国内で確認されて以降、安倍晋三元首相が体調悪化を理由に退陣したのに続いて、菅義偉前首相も今年9月に退陣を表明、日本の首相は2代続けて退陣に追い込まれた。

菅政権では、年明けの第3波から緊急事態宣言が発せられ、夏場の第5波では、自宅待機を余儀なくされる人たちが多数に上り、治療を受けられずに亡くなる人も出るなど深刻な事態に陥った。

また、国民に対する説明も不十分で、内閣支持率も急落して支持を失った。問題の核心はどこにあったかといえば、新型コロナ感染症という新たなリスクに対して、政権の司令塔である首相官邸の危機管理が機能不全状態に陥り、失敗したということになる。

 初動は順調、危機管理は先送り

菅政権に代わって登場した岸田政権は、衆院解散・総選挙を何とか勝ち抜いた後、11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのをはじめ、新たな変異株の水際対策として、外国人の入国を全面停止するなどの措置を次々と打ち出した。

菅政権がワクチン接種を猛スピードで進め、感染者数が激減する効果が現われたこともあって、岸田政権の初動の対応は順調で、世論の評価も高い。

但し、岸田政権のコロナ対応をみると危機管理体制の見直しは先送りされている。岸田首相は12月の所信表明の中で「これまでのコロナ対応を徹底的に検証します。そのうえで、来年6月までに感染症危機に迅速・的確に対応するため、司令塔機能の強化を含めた、抜本的な体制強化策をとりまとめます」とのべた。

つまり、様々な対策を打ち出す一方で、肝心の危機管理体制の見直しは6月に先送りしているわけだ。野党がこの点を、なぜ追及しないか理解できない。そこで、この疑問を政権幹部に直接ぶつけたところ、次のような返事が返ってきた。

「岸田政権の対策の柱は、ワクチンの2回目接種の完了と治療薬の実用化、それに3回目のワクチン接種を行うこと。加えて、経済を動かしていくことが基本戦略だ。途中で体制を変えること、司令塔を変えるのは難しい。一連の対策が終わり、感染対策が落ち着いたところで、体制を決めたい」という考えだ。

実務的で現実的な考え方とも言えるが、危機管理は、平時に考え準備を完了させておくことが重要だ。日本の政治家の悪いところは、急場をしのぐと問題点の洗い出しや検証を行わず、先送りにすること。前任者の責任に触れるのを避けたいためかは知らないが、とにかく同じ間違いを繰り返す。

驚くほど急減していた感染も、新たな変異株・オミクロン株が国内でも広がり始めた。岸田政権の感染対策は「都道府県知事が感染状況を判断し、国と連携しながら対策を進めていく」新たな仕組みに変えたのが特徴だ。

国と都道府県知事、市区町村との連絡・調整をはじめ、医療機関や保健所、大学などとの連携・調整が本当に機能するのかどうか、首相官邸の司令塔機能が再び問われることになりそうだ。

 コロナ危機とリーダーの指導力

コロナ危機で改めて浮き彫りになったのが、政治のトップリーダーの判断力や決断力だ。また、リーダーが決断するためには、決断を支える体制が重要だ。

今回の新型コロナは百年に一度の危機といわれる。百年前というのは第1次大戦の時期で、スペイン風邪が大流行、日本でも39万人もの犠牲者が出た。

その時期の政治リーダーは、著名な原敬首相だ。第1次大戦が終了する1か月ほど前に就任した。平民宰相と呼ばれ、内外の難問に取り組んだが、3年後に暗殺された。

当時、日本は第1次大戦に参戦、戦勝国になったが、戦後には熾烈な列強間の経済戦争が予想され、将来への不安感も広がり、ちょうど今の日本に似た状況にあったとされる。(伊藤之雄京都大学名誉教授「真実の原敬」講談社現代新書)

原首相は、アメリカ中心の世界秩序をいち早く予測して、外交関係を再編するとともに、国内では交通網の整備、産業振興の列島改革を実行した。今風に言えば、コロナ後もにらんだ米中覇権争いと、国内の経済・社会の立て直しの構想と具体策を打ち出し、実行に乗り出そうとしたというところだろう。

さて、話を現代に戻す。年が明けるとコロナ・パンデミックは、3年目に入る。スペイン風邪も3年で収束した。政治がやるべきことは多い。まずは、海外で感染が急拡大しているオミクロン株のコントロールを成功させること。

そのうえで、新型感染症時代に対応できる危機管理体制を早急に整えること。先人にならって外交・安全保障の基本方針や、国内の経済・社会の立て直しの構想や具体策を打ち出すことだ。

そのためには、国会で与野党が真正面から議論し、競い合う政治が今一度、求められているのではないか。(了)

”期待外れの臨時国会” 懸案は越年へ

先の衆院選挙後、初めて本格的な論戦の舞台になった臨時国会は、35兆円を上回る過去最大規模の補正予算を成立させ、21日閉会した。

国会閉会を受けて、岸田首相は21日夜記者会見し、年内に10万円の現金給付を容認する方針を打ち出したことについて「国民の思いを受け止め、思い切ってかじを切った」と方針転換の判断を説明した。

そのうえで、岸田首相は「大型経済対策を年内に国民に届けるとともに、変異株対策も先手、先手を打つ」とのべ、オミクロン株対策を強化する考えを表明した。

さて、こうした岸田政権の対応や今度の臨時国会をどのようにみたらいいのか。大型の補正予算は暮らしや経済の立て直しにどの程度、効果があるのか、掘り下げた議論は乏しかったのではないか。

国土交通省の基幹データの書き換えなど新たな問題も明らかになったが、経緯や原因はわからないまま、通常国会に先送りになった。

衆院選挙を踏まえて向こう4年間の外交・安全保障のかじ取りをどうするのかといった議論もほとんど聞かれず、残念ながら”期待外れの臨時国会”といわざるをえない。

なぜ、こうした結論になるのか、年明けの通常国会の論戦を充実させるためにも、今度の臨時国会の問題点をしっかり点検しておきたい。

 現金給付方針転換 制度設計に甘さ

まず、今度の国会で与野党の最も大きな焦点になったのは、18歳以下の子どもを対象に10万円相当を給付する問題だった。政府案では、年内に5万円を現金で支給し、残り5万円は来年春にクーポンで支給する方針だった。

ところが、政府案では、クーポンの発行に1000億円近い事務費がかかることに加えて、コロナワクチン接種などで多忙を極める自治体からは、さらに労務の負担が増すと強い反発を受けた。

これを受けて、岸田首相は予算審議の中で「自治体の判断で、年内に現金10万円を一括給付することも容認する方針」に転換する考えを表明した。

具体的には、現金5万円とクーポン5万円の併用と、現金5万円を年内と来年の2回に分けて支給、さらに全額現金で一括支給の3案から選択する仕組みに変えた。

この方針転換をどうみるか。首都圏の市や区の大半は17日現在で、年内全額現金一括給付を予定しており、クーポンを採用するところはないという。岸田首相が土壇場で方針転換したこと自体は、歓迎されるという皮肉な結果になっている。

但し、こうした現金給付をめぐる混乱は一昨年、安倍政権当時に続いて2回目だ。再度の現金給付は必至とみられていたが、備えは進んでいなかった。

今回の原案は、11月上旬に自民、公明両党の幹事長が急ピッチでまとめ上げた案がベースになっているが、スピードを重視した結果、制度の問題点や詰めの甘さが露呈した。

また、この問題に補正予算審議の多くの時間が費やされたため、予算案に盛り込まれていた、コロナ対策や経済対策の中身の審議は十分できなかった。

さらに、35兆円もの巨額予算は、経済の立て直しにどの程度役に立つのかといった経済効果の議論も深まらなかった。方針転換は、貴重な審議時間を奪い、国会のチェック機能を弱めた点で政権与党の責任は大きい。

 統計データ書き換え 失う信頼性

国土交通省が、建設業の受注実態を表す基幹統計データを書き換え、二重に計上するなど不適切な取扱いを続けていたことが明らかにされた。朝日新聞のスクープだった。

データの二重計上は2013年4月に始まったとみられている。GDP=国内総生産を推計する際の要素になるとも言われ、統計の信頼性を失う行為だ。

3年前、厚生労働省が所管する「毎月勤労統計」をめぐる問題で不適切な扱いが明らかになり、予算審議が紛糾したことも思い出す。同じような不祥事が繰り返される。

岸田首相は「経緯や原因を究明するため、検事経験者などによる第三者委員会を設置し、1か月以内に報告する」考えを表明した。この問題も年明けの通常国会に持ち越されることになった。

 文書改ざん 問われる裁判終結の判断

森友学園をめぐる問題で、財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した赤木俊夫さんの妻が訴えていた裁判は15日、国側がこれまでの主張を一転し、全面的に受け入れる手続きを取り、裁判を終わらせた。

裁判を通じて「夫の死の真実を知りたい」と訴えてきた妻の雅子さんは「不意打ちで卑怯だ」と批判している。

国の対応は、改ざんの具体的な経緯を明らかにしないまま、賠償責任を認めて幕引きを図ろうとするようにみえる。国民の多くの納得も得られないのではないか。

鈴木財務相や岸田首相はどのような判断で、裁判を終わらせることにしたのか、雅子さんの訴えに真摯に向き合い、事実関係を明らかにする責任があるのではないか。この問題も年明けの通常国会で改めて問われることになる見通しだ。

このほか、国会議員に毎月100万円が支払われる「文書通信交通滞在費」についても初当選した議員がわずか1日で全額受け取るのはおかしいと問題提起し、国民の関心を集めた。

与野党とも日割りに変えることでは一致したが、野党側が未使用分の返納と使いみちの公開を求めたのに対し、与党側が難色を示して合意ができなかった。使途の公開など是非は明らかだと思われるので、次の通常国会では早期に是正を図るべきではないか。

  問われるコロナ、立て直し構想

ここまでみてきたように今度の臨時国会は、過去最大の補正予算を成立させたが、肝心の中身を評価・点検する議論は乏しかった。また、先送りされた懸案・課題も多く、課題解決という面でも”期待外れの国会”に終わったというのが正直な印象だ。

それだけに年明けに召集される通常国会の役割と責任は大きい。夏には参議院選挙が行われるので、通常国会の会期延長は難しい。先送りになった懸案については、早急に是正を図ることを強く求めておきたい。

また、新しい年は、取り組むべき課題が多い。コロナ感染は3年目に入り、特に感染力の強いオミクロン株を抑え込めるのか当面、最大の問題だ。

岸田首相は21日の記者会見で、オミクロン株対策として濃厚接触者は、自宅待機ではなく、宿泊施設で待機を要請する方針や、いわゆるアベノマスクを廃棄するなどさまざまな方針やアイデアを明らかにした。

せっかくの方針であり、国会論戦の中で明らかにすれば論戦は盛り上がるし、国民の理解も進むと思うのだが、独り舞台でのアピールは残念だ。

いずれにしても感染をコントロールしながら、暮らしと経済の立て直しに向けた構想と道筋をどのように描くのか。与野党双方とも年明けの国会で、それぞれ建設的な提案を行い、提案の中身を競い合う緊張感のある政治を見せてもらいたい。(了)

 

“つまずき”目立つ岸田政権  

政権発足から2か月半が経過した岸田政権は、コロナ感染対策の全体像を打ち出したり、過去最大規模の補正予算を編成したり順調な運営を続けてきたが、ここにきて、人事の混乱や主要政策の方針変換といった”つまずき”が目立ち始めた。

旧友の石原伸晃元自民党幹事長を内閣官房参与に起用したが、雇用調整助成金を受給していた問題が明らかになり、わずか1週間で辞任に追い込まれた。

また、政権の目玉政策である18歳以下に10万円相当の給付についても自治体側の強い反発を受け、全額現金一括給付の容認へ方針転換することになった。

与党内には、今の短期の国会は何とか乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会の運営を危ぶむ声も聞かれる。岸田首相の政権運営、どこに問題があるのか探ってみたい。

 ”旧友優遇”と首相の任命責任

岸田首相が就任して以降、初めて開かれた13日の衆議院予算委員会で、岸田首相は、内閣官房参与に起用したばかりの石原伸晃元幹事長が辞職した問題を追及され、「混乱は否めなく、申し訳ない」と陳謝に追い込まれた。

岸田首相と石原元幹事長は20年余の盟友関係にあることは政界では有名で、岸田首相は今月3日、先の衆院選挙で落選した石原元幹事長を内閣官房参与に起用したが、さっそく「旧友優遇、救済人事」といった批判が聞かれた。

その石原元幹事長は、自らが代表を務める党支部が60万円余りの雇用調整助成金を受け取っていたことが批判を浴び、就任後わずか1週間で辞職に追い込まれた。

また、大岡敏孝環境副大臣も雇用調整助成金30万円を受け取っていたことが明らかになったが、岸田首相は、進退は本人の判断に委ねる考えを示した。

雇用調整助成金は、コロナ感染で売り上げが大幅に落ちた民間事業者などを守るのが本来の目的だ。政党の支部は、企業献金や政党助成金を主な収入源にしており、政党支部が助成金を受領するのは違法ではないとされるが、国民の理解を得られるとは思えない。

また、任命権者としての首相の対応をみると元幹事長は辞職に対して、現職の副大臣はそのまま続投と処置は異なる。現職の副大臣であれば、事実関係の説明を徹底させるとか、政治的道義的な責任をとらせるべきではないかと個人的には考える。

一方、旧友の石原元幹事長の人事をめぐっては、岸田元首相も”安倍元首相や菅元首相のお友達人事、身内優遇”と変わらないではないかといった世論の側の受け止め方もあったのではないか。今後、内閣支持率などに影響があるのかどうか、注意してみていきたい。

 スピード決着、制度設計に甘さ

次に18歳以下の子どもを対象に1人10万円相当を給付する政策については、大きな動きがみられた。

政府は、これまで10万円相当のうち、年内に現金5万円を支給、残り5万円相当はクーポンで支給することを原則にしてきた。

ところが、クーポンの発行には1000億円近い事務経費がかかることに加え、地方自治体からは、ワクチン接種などで多忙な時期にさらに労力などの負担がかかると強い反発を招いた。

こうした自治体や野党の批判を受けて、岸田首相は13日、年内に全額現金で一括給付することも容認する考えを明らかにした。2回に分けて現金を給付する場合も含め、自治体に条件も設けないとしており、これまでの方針変換に踏み切った。

今回の方針転換をどうみるか。11月上旬に自民、公明両党の幹事長が3日間の協議で大枠が決着、10日には岸田首相と山口代表のトップ会談で、最終合意が図られた。こうしたスピード決着の結果、クーポン支給などの制度設計の詰めが甘かったのではないか。

また、自治体や国民の要望・ニーズを把握しないまま、政府が政治決着した仕組みを押し通したことも影響したのではないか。

自治体や野党の中には、岸田首相の決断で、年内の現金全額給付が可能になったことを評価する意見が出ている。

一方、土壇場になって、ようやく方針転換が図られるのは、政権の意思決定が遅すぎるし、制度設計能力の改善も進んでいないと見ることもできる。

岸田首相は「聞く力」と「スピード」を重視しているが、「迅速な決断力」と「実行力」も問われていると言えそうだ。

 内閣支持率低下、通常国会に不安

このほか、岸田政権としても判断が問われるのは、毎月100万円が支給される「文書交通滞在費」の問題がある。10月末に初当選した議員がわずか1日で、1か月分の100万円の手当を受け、見直しを提起している問題だ。

野党第1党の立憲民主党は、日割り計算に改めることと、返金できる仕組み、それに使いみちの公開の3点セットの改善を提案している。

自民党は、日割り変更には応じるものの、使いみちの公開には難色を示しており、今国会での合意・実現のメドはついていない。

岸田政権は内閣官房参与人事や、10万円相当の給付に代表されるように、このところ政権運営のブレやつまずきが目立ち始めている。

NHKが今月10日から12日にかけて行った世論調査では、岸田内閣の支持率は50%で、前の月から3ポイント減少した。一方、不支持は27%で、1ポイント増えている。

「オミクロン株」の水際対策として、政府が外国人の新規の入国を原則停止とした対応を「評価する」との意見が81%と高かった。これに対し、目玉政策の10万円給付は「評価する」が33%に対し、「評価しない」が64%と多い。

つまり、内閣支持率は50%と高い水準を維持しているが、先月から低下傾向が表れている点を注意しておく必要がある。

岸田政権にとって最初の予算員会の審議をみていると、コロナ対策の山際経済再生担当相と、後藤厚労相、堀内ワクチン担当相の答弁や連携は、前政権に比べて不慣れな面が目につく。

自民党関係者に聞くと「今の臨時国会は短期間なので、乗り切れるが、年明け長丁場の通常国会は大丈夫か不安だ」と漏らす。岸田政権の”つまずき”が収まっていくのか、不安定の始まりになるのか、今の臨時国会が試金石になる。

 

師走国会の焦点 党首対決の論戦   

先の衆院選挙後、初めて本格的な論戦の舞台となる臨時国会が6日召集され、岸田首相が衆参両院の本会議で所信表明演説を行い、論戦の幕が開いた。

コロナ対策などで過去最大35兆9800億円余りの補正予算案も6日、国会に提出された。

師走に入っての臨時国会だが、ここまで振り返ってみると夏のコロナ感染第5波と医療危機などで菅政権が倒れ、岸田政権が発足。衆院解散・総選挙が行われ、与野党執行部の顔ぶれも大幅に入れ替わった。

野党第1党・立憲民主党は、若手の泉健太代表が就任した。岸田首相も10月に就任以降、2か月余りになるが、予算員会での本格的な論戦は今回が初めてになる。

「聞く力」を掲げる岸田首相と「批判ばかりからの脱却」をめざす泉代表との初めての論戦対決はどうなるか、師走国会の焦点を探ってみた。

 岸田首相 問われる「実行力」

まず、この国会論戦のベースになる、岸田首相の所信表明演説の内容から見ておきたい。

岸田首相は、新たな変異ウイルス「オミクロン株」の感染拡大に備え、細心かつ慎重に対応する考えを強調し、3回目のワクチン接種については「8か月から、できるかぎり前倒しする」考えを表明した。

外交・安全保障では、いわゆる「敵基地攻撃能力」も含め、現実的に検討する考えを示すとともに、新たな国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画を1年かけて策定する方針を明確にした。

一方、政権の看板政策である「新しい資本主義」の主役は地方だと強調したうえで、デジタルの力を活用することで、地方活性化を進め、地方から全体へボトムアップの成長を実現する考えを強調した。

この新しい資本主義については、具体的な政策をはじめ、いつまでに実現するのかが、わかりにくい。国会の論戦を通じて、構想をさらに具体化したり、肉付けしたりして、岸田カラーを鮮明に打ち出せるかが課題だ。

一方、メディアの世論調査で、岸田政権の支持率は高い水準を維持している。これは感染状況が落ち着いていることと、オミクロン株対応で水際対策を早めに打ち出したことが評価されているものとみられる。

但し、この高い支持率も岸田政権の具体的な実績が評価されたわけではない。オミクロン株対策も含めた感染第6波の抑え込みと、経済の立て直しを軌道に乗せることができるかどうか、これからの「実行力」にかかっているのではないか。

 野党 入国規制や10万円給付方法

野党側は、オミクロン株の水際対策の具体的な進め方や、国土交通省が国際線の予約を全面的に停止するよう要請した後、撤回した経緯などについて、岸田政権の対応を質す方針だ。

一方、生活支援の眼玉政策である18歳以下への10万円相当の給付については、現金とクーポンに分けることで事務的経費が900億円増える問題を追及する構えだ。

また、初当選した議員の提起で議論を呼んでいる、国会議員に毎月100万円支払われる「文書通信交通費」についても国民の理解は得られないとして、日割りでの支給に改めることに加え、使いみちの公開の義務付けを求めることにしている。

さらに、今回の補正予算案の規模は過去最大だが、生活に困っている人たちに給付金が届いているか、事業者への支援も事業の継続に役立つ制度設計にはなっていないのではないかとして、追及する方針だ。

このほか、今回の経済対策の効果について、政府は、今年度と来年度を中心にGDP=国民総生産を実質で5.6%程度押し上げる効果があると試算している。

これに対し、民間のエコノミストの間では、押し上げの効果は、来年度に限れば1%から2%程度という見方が示されており、こうした経済効果についても詰めた議論を要望しておきたい。

 党首対決の論戦 新たな議論の姿を

さて、国会の論戦は、岸田首相の所信表明演説を受けて、8日から3日間各党の代表質問に続いて、13日からは衆参の予算委員会に舞台を移して、1問1答形式の詰めた議論が戦わされる見通しだ。

一連の論戦では、野党第1党の立憲民主党は、泉代表や西村智奈美幹事長らの幹部をはじめ、第3極として躍進した日本維新の会も馬場共同代表らの新執行部、さらに各党幹部も岸田首相と論戦を挑むことにしている。

このうち、岸田首相と、立憲民主党の泉代表論戦は、初めての党首対決になる。岸田首相は「自らの特技は、人の話をよくきくことだ」と「聞く力」をアピールしてきた。対する泉代表は「批判ばかりからの脱却」を訴え、政策立案型の政党をめざしている。

岸田首相の演説を聞いた泉代表は記者団に「論戦しがいのある演説だったと思う」と感想をのべている。果たしてどんな論戦になるのか、個人的に大きな関心を持っている。

今年を締めくくる師走国会、会期は16日間と短いが、半年ぶりの本格的な論戦の舞台になる。コロナ感染第6波の備えをどうするか、コロナ後の経済・社会の構想と道筋をどのように描くか、国民が納得のいく新たな論戦の姿を、是非見せてもらいたい。                         (了)

 

 

 

”泉 立憲民主党”が問われる点

野党第1党・立憲民主党の「新しい顔」に泉健太氏が選ばれた。立憲民主党の代表選挙は30日投開票が行われ、1回目の投票で4人の候補者がいずれも過半数を獲得できず、上位2人による決選投票の結果、泉健太政務調査会長が、逢坂元首相補佐官を抑えて新しい代表に選出された。

泉代表は就任後、最初の記者会見で「根本は、国民に何を届けるかが大事で、国民への発信を強めていきたい」とのべ、自民党と対抗するだけでなく、政策立案型の新たな党運営をめざす考えを表明した。

泉氏の知名度は高いとは言えないが、衆院京都3区選出の当選8回で、47歳。2001年の衆院選挙で、当時の民主党から立候補して29歳で初当選した。その後、国民民主党の国会対策委員長などを歴任、去年9月に立憲民主党との合流に参加し、代表選挙にも立候補した経験もある。

泉氏が選出された背景としては、4人の候補者の中では40代で最も若いことに加えて、政治的には中道に位置することから、来年夏の参院選を控えて、党のイメージの刷新と新たな支持層を拡大して欲しいという党内の期待を集めたことが挙げられる。

こうした一方で、泉代表の前途には、多くの難問が待ち受けている。岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ大型補正予算案を編成し、早期成立をめざしている。泉代表は、こうした巨大与党にどのように対峙していくのか、野党第1党の立て直しに何が問われているのか探ってみたい。

 国会論戦で存在感、支持率回復は

泉新代表は、さっそく幹事長をはじめとする党役員人事に着手することになるが、代表選に立候補した逢坂、小川、西村の3氏を主要ポストに起用するとともに党役員の半数に女性を充てたい考えだ。その新体制が発足早々、直面するのが4日に召集される臨時国会への対応だ。

岸田政権は、コロナ対策などを盛り込んだ35兆円という過去最大の補正予算案を提出し、岸田首相の所信表明演説と各党の代表質問が行われた後、衆参両院で予算委員会が開かれる。

岸田政権が10月4日に発足して2か月になるが、衆院解散・総選挙が行われたこともあって、衆参両院の予算委員会で本格的な論戦が行われるのは、今回が初めてだ。岸田首相と、泉新代表との直接対決の論戦も交わされる見通しだ。

立憲民主党は2017年の衆院選挙の直前に、当時の新党・希望の党から排除された枝野氏が中心になって結党され、選挙で躍進。その後、去年9月には国民民主党などと合流、ようやく衆院で100人を上回る野党第1党にまで党勢を拡大した。

しかし、この間、政党支持率が10%に乗ったのは数えるほどで、ほとんどが8%から6%の1ケタ台で、30%台の自民党に大差をつけられてきた。

国会の論戦や新代表の発信力などを通じて、政党支持率をかつての野党第1党並みの2ケタ台まで回復し、存在感を発揮できるかどうか、泉新代表が最初に問われる点だ。

 重点政策、コロナ収束後の構想提示を

新代表が問われる2つ目としては、党の重点政策をはっきりさせるとともに、何をめざす政党かの旗印を明確に打ち出すことが不可欠だ。

今回の代表選挙で4人の候補者ともに「どのような社会を目指すのか」、「コロナ対策や、経済の立て直し策」、「共産党などとの野党共闘」のあり方など幅広い課題について議論を交わした。

但し、多くの国民にとって、興味を持つような議論にはならなかったのではないか。立憲民主党が衆院選の期間中に配布していた「政策パンフレット」と同じレベルに止まっているという印象を受けた。

国民は「コロナ収束後にどのような社会をめざしているのか」大きなビジョン、構想を明らかにして欲しいと感じている。また、感染の抑え込みを始め、生活困窮者や打撃を受けている事業者の立て直し策として何をやるのか、知りたい点だ。

ところが、自民、公明両党の政権とはここが違うという具体的な政策や、わかりやすい説明ができていなかった。このため、政権の受け皿としても認められていなかった点に根本的な問題があったのではないか。

また、共産党と閣外協力で合意した問題についても比例代表選挙への影響はあったと思うが、根本の問題は、それ以前の問題、政権交代を目指すための客観的な条件が整っていなかったとみる。

具体的に言えば、国民の多くは政権交代を望んでいなかった点を読み間違っていたのではないか。野党共闘の問題は、政治状況や政権交代の道筋まで踏み込んで議論しないと、問題の核心に迫ることはできないと考える。

 参院選へ野党結集の構想と道筋を

3つ目に問われている点は、来年夏の参院選挙への対応だ。岸田政権は、衆院選に続いて、参院選でも勝利すれば長期政権も視野に入る。これに対し、野党側は、自公政権を過半数割れに追い込む構えで、来年の最大の政治決戦になる。

参院選の焦点は、当選者1人を選ぶ1人区の攻防で、全国で32選挙区にのぼる。野党側がバラバラに候補者を擁立すれば、自民党の1人勝ち、いわゆる消化試合になってしまうので、これまでも候補者調整が行われてきた。

この1人区の戦い方がどうなるか。今回の代表選でも候補者4人とも「1対1の構図は維持したい」とする一方、共産党との閣外からの協力といった合意については、見直す考えを示していた。

今回の衆院選挙で枝野前代表らの対応を見ていると「共産党とは連立を組みたくないが、票は欲しい」というのが本音ではなかったか。このため、政権構想として位置付けているのか、選挙戦術の延長なのか、敢えて曖昧にしていた点に大きな問題があったとみる。

国民の側からみていると、参院選に向けて野党結集の構想と道筋を明らかにすることが野党第1党の役割だ。そして、野党各党や各種団体、国民に説明して、理解を求めるのが本来のあり方ではないか。共産党と連合の間で、右往左往、ヤジロベエのように揺れ動く対応は止めた方がいいと考える。

先の衆院選挙を経て、政界の構図は、自民・公明の政権与党と、野党第1党の立憲民主党や共産党、社民党、れいわ新選組などの勢力、それに日本維新の会が第3極をめざして国民民主党と連携を深めようとしているようにみえる。

こうした構図の中で、野党第1党はどのような役割を果たすのか、参院選にむけて、野党各党の構想、野党結集の枠組みや道筋はどうなるのか。野党第1党の新代表は、早急に基本的な考え方を明らかにすることが必要ではないか。

新たな変異株「オミクロン株」の感染が世界各国へ広がり始めた。日本としては、第6波への備えや、経済・暮らしの立て直しも早急に進める必要がある。そのためにも国会を早期に開いて、政権与党と野党側が新体制できちんとした論戦を行い、緊張感のある政治を取り戻すことが急務だ。       (了)

※参考情報(追記:12月1日21時半)泉代表は、立憲民主党の役員人事について、代表選挙で争った◇西村智奈美氏を幹事長に、◇逢坂氏を代表代行に、◇小川氏を政務調査会長に、それぞれ起用する意向を明らかにした。

また、◇国会対策委員長には馬淵澄夫氏、◇選挙対策委員長に大西健介氏を起用する方針。

この人事案は、2日の両院議員総会に示され、了承される見通し。

※立憲民主党は2日、両院議員総会を開き、泉代表が示した人事案を了承し、新たな執行部が発足した。泉代表は記者会見で「国民のために働く政策立案型」を執行部のカラーとして打ち出したい」とのべた。(追記:12月4日午前11時55分)

 

 

 

立民代表選 立て直しへ道筋描けるか

”野党第1党の顔”に誰が選ばれるのか。立憲民主党の代表選挙が19日告示され、4人が立候補して選挙戦が始まった。

立候補したのは、届け出順に逢坂誠二・元首相補佐官、小川淳也・国会対策副委員長、泉健太・政務調査会長、西村智奈美・元厚生労働副大臣の4人だ。届け出の後、さっそく午後から共同記者会見に臨んだ。

4氏はいずれも民主党政権時代には、閣僚や党幹部の経験がなく、知名度も高くないため、国民の関心を高めることができるかどうか、不安視する声も聞かれる。

来年夏の参議院選挙を控えて、自民・公明両党の岸田政権にどのように対峙していくのか、党の態勢立て直しへ道筋を描くことができるのかどうか、代表選の焦点を探ってみた。

 記者会見で論戦、党勢立て直し策

立憲民主党の代表選挙は19日、立候補の届け出が終わった後、4氏がそろって共同記者会見に臨み、論戦が始まった。各候補は、先の衆院選で議席を減らした党勢の立て直しについて、それぞれ次のような考え方を明らかにした。

◆逢坂氏は「単に理念や理屈、政策を述べるだけでなく、具体的な地域課題を解決し、その結果を積み上げていくことで党勢を拡大していきたい」とのべ、地域課題の取り組みを強化したいという考えを示した。

◆小川氏は「野党には2つの仕事があり、政権を厳しく批判的な立場から検証すること、政権の受け皿として国民に認知されることがあるが、後者が十分ではなかった」とのべ、党の期待感や魅力を増す必要性を強調した。

◆泉氏は「先の衆院選では、比例代表選挙での投票を呼びかける運動が欠けていた。また、消費税率の引き下げや分配政策を打ち出す時期が遅れた」として、党の政策などを早期に提示する必要があることを訴えた。

◆西村氏は「地方組織をしっかり作っていくことが課題だ。また、立憲民主党がどういう社会をめざしているのか、有権者に届いていなかったのではないか」とのべ、党がめざす社会像を明確に打ち出していくべきだという考えを強調した。

記者団からは、来年の参議院選挙に向けて、共産党などとの野党連携を維持するかどうかや、他の野党との連携の軸足の置き方について、質問が集中した。

これに対して、4氏は「先の衆院選挙では、選挙区で1対1の構図を作ることができたところは、成果があった」。

「参議院の1人区で、野党候補が数多く立候補すれば、野党が不利になるので、できるだけ1対1の構図を作りたい」などの意見が出され、参議院の1人区では野党候補の1本化をめざすべきだという考えをそろって示した。

各候補とも巨大与党に対抗するために、参議院選挙でも共産党などとの野党共闘は維持すべきだという基本的な考え方では一致していたが、具体的な連携の形や重点の置き方などについては、踏み込んだ議論までには至らなかった。

 選挙情勢は混戦、決選投票も

次に代表選挙の情勢だが、投票は党所属の衆参議員と公認候補予定者、地方自治体議員、一般党員・サポーターの得票をポイントに換算して争われる。

具体的には、衆参議員は140人で、1人2ポイント。公認候補予定者6人で、1人1ポイントで、合わせて286ポイント。

この半分の143ポイントずつが、自治体議員1270人と、およそ10万人の一般党員・サポーターに割り当てられる。得票数に応じて、各候補にポイントが配分される。

過半数に達しない場合は、上位2人の決選投票になる。今回は、候補者が4人も立候補し、抜きんでた本命がいないため、混戦は避けられず、決選投票の可能性が高いという見方が強い。

国会議員は140人のうち、既に90人が4候補の推薦人になっているため、残り50人と少ないことから、自治体議員と党員・サポーターの地方票が、選挙情勢を大きく左右することになりそうだ。

このため、各候補とも党の態勢の立て直しに向けて、どのような具体的な取り組み方や構想を打ち出していくのか、知恵を絞ることになる。

一方、野党陣営では、先の衆院選で議席を大幅に増やした日本維新の会と、同じく議席を増やした国民民主党が連携を深めようとしている。野党第1党の代表として野党全体をまとめていくだけの力量・能力があるのか、選挙戦を通じて厳しく評価されることになる。

代表選挙の今後の日程は、22日に日本記者クラブ主催の候補者討論会が開かれる。札幌、福岡、横浜で街頭演説も行われ、30日の臨時党大会で投開票が行われる。

果たして、誰が野党第1党の新しい顔になるのか。来月6日に召集される臨時国会の論戦に立つことになる。

 

立民代表選の争点、何が問われる選挙か

野党第1党・立憲民主党の代表選挙が19日告示され、30日の投開票に向けて選挙戦が始まる。

今回の代表選は、先の衆院選で議席を減らした責任をとって辞任した枝野前代表の後任を選ぶもので、国会議員だけでなく、地方議員や党員なども参加して行われる。

野党の代表選挙は、与党の総裁選と違って政権に直結しないため、国民の関心は必ずしも高くはないが、政治に緊張感をもたらすためにはどんな野党になるのか、特に第1党のあり方は、国民にとっても大きな意味を持つ。

今回の代表選は、枝野前代表が打ち出した共産党などとの共闘路線の是非が大きな焦点になるとの見方が強いが、どうだろうか。

私個人は、野党共闘の問題もあるが、それ以前に野党第1党としての役割の認識や、その役割を果たすための党の態勢の立て直し、戦略の構築こそが問われているのではないかと考える。

野党共闘の問題は、新代表の下に検討委員会を設けて結論を出す方法もあるのではないか。

来年夏には参議院選挙が行われる。どんな野党第1党をめざすのか、政権構想や重点政策を明確にしたうえで、野党共闘のあり方などを決めていくのが本筋ではないかと考える。こうした理由や背景などについて以下、説明していきたい。

 小選挙区と比例で異なる効果

まず、先の衆院選挙の結果を確認しておきたい。自民党は選挙前より議席を減らしたものの、絶対安定多数の261議席を確保、公明党の32議席と合わせて293議席を獲得したので、勝利したといえる。

一方、立憲民主党は96議席で、選挙前の110議席から14議席減らし敗北した。共産党は10議席で2議席減らした。これに対し、日本維新の会は前回より4倍近い41議席を獲得して躍進、国民民主党も3議席多い11議席を獲得した。

このうち、立憲民主党の議席の内訳だが、小選挙区では、選挙前の48議席から9議席増やして57議席を獲得したのに対し、比例代表では62議席から39議席へ23議席も減らした。

小選挙区では、1万票差以内の接戦となった選挙区がおよそ30にも上ったことを考えると善戦健闘、野党候補1本化の共闘は一定の成果を上げたとも言える。

比例代表では、立憲民主党は前回からわずかに多い1100万票に止まった。これに対し、日本維新の会は800万票で、前回より460万票余りも増やし、国民民主党も新たに260万票近い得票、「れいわ」も220万票を獲得した。

こうした票の流れは前回、野党第1党も合流して結成された旧「希望の党」が集めた960万票が立憲民主党には向かわず、維新、国民、れいわ3党に回ったとみることもできる。

このため、立憲民主党が比例代表で議席を大幅に減らしたのは、共産党との共闘路線を有権者が警戒して、立憲民主党以外の政党に投票したためではないかという見方も出されている。

このように比例代表選挙と小選挙区とで、野党共闘の効果は分かれている。

 野党のあり方、旗印や存在感に弱さ

それでは、国民は、野党第1党の立憲民主党をどのように評価しているのか、報道各社の世論調査のデータでみてみたい。

報道各社の調査で、自民党の支持率は30%台後半の水準にあるのに対して、立憲民主党の支持率は、5~6%台、1ケタの水準で共通している。

また、年代別に見ると10代から30代では、自民党が4割から30%台後半で高いのに対して、立憲民主党はその10分の1,1ケタ台と低い。働く世代40代、50代でも大きく水をあけられている。60代、70歳以上の高齢世代でようやく10%台に達するが、それでも自民党との差は大きい。

さらに比例代表選挙の投票予定先でも、自民党がおよそ30%に対して、立憲民主党は11%台と3分の1に止まっていた。望ましい選挙結果についても「与党と野党の逆転」は11%程度に対し、「与党と野党の勢力伯仲」が49%で最も多かった。(10月23,24日共同通信調査)

枝野前代表は「政権選択選挙」と位置づけ、共産党とは「閣外からの協力」に止めているとのべたが、与野党の勢力が逆転した場合、政権の枠組みなどはどうなるのか、詳しく説明する場面もなかった。

このため、有権者の側は、野党共闘や政権交代を訴えられても「現実的な選択肢」として受け止める人は少なかったのではないか。

また、「立憲民主党は何をする政党か、自民党とどこが違うのかの旗印がわからない」。「自民党政権はコロナ対策で、失敗と後手の対応が続いたが、野党の存在感も感じられない」といった声も数多く聞いた。

こうした国民の評価を基に考えると、立憲民主党が衆院選で議席を減らしたのは、野党共闘というレベルの問題ではなく、何をめざす政党か、構想や重点政策も理解されておらず、政権の受け皿として認められるまで至っていない点を認識する必要があるのではないかと考える。

 魅力ある野党、新風を巻き起こせるか

今回、自民党は絶対安定多数を維持したが、何とか接戦をしのいで議席を守り抜いた「薄氷の勝利」というのが実態だ。

一方、有権者の側は「魅力のある野党や新党ができれば、支持する」「野党第1党は、政界に新風も巻き起こし、政治に緊張感を取り戻す役割」を果たしてほしいという期待は根強いものがある。

このため、立憲民主党が求められているのは「代表の顔」を顔を変えるだけでなく、◆立憲民主党は何をする政党なのかの旗印、政権構想を明確にすること。◆コロナ激変時代に取り組む重点政策。子育て、教育、雇用、知識集約型産業といった、自民党とは異なる重点政策をはっきりさせる必要があるのではないか。

そのうえで、◆来年夏の参議院選挙を野党第1党として、野党結集を進めていく具体的な道筋を明らかにすることが重要ではないか。参院選の1人区は、野党ができるだけまとまって戦わないと、政権与党側の1人勝ちになる公算が大きい。

◆共産党など野党共闘のあり方は、新しい代表の下に政権構想委員会といった組織を設けて、検討していくことも1つの方法ではないかと考える。

代表選挙の告示が近づいているが、立候補を検討しているのは、◆泉健太・政務調査会長、◆大串博志・役員室長、◆小川淳也・国会対策副委員長、◆西村智奈美・元厚生労働副大臣の4人だ。

いずれも中堅の顔ぶれだが、単に代表の顔が若返るだけでなく、コロナ激変時代の新たな構想や重点政策、それに自民党に対抗できる、もう1つの大きな政治の軸を打ち出せるような代表選挙をみせてもらいたい。

第2次岸田政権の前途をどう読むか

先の衆院選挙を受けて、特別国会が10日召集され、首相指名選挙などを経て、第2次岸田政権が再スタートした。

岸田首相は10日夜の記者会見で「総選挙で、岸田政権に我が国のかじ取りを担うようにとの民意が示された。政治空白は一刻も許されず、最大限のスピードで政策を実行に移す」と強い意欲を示した。

岸田自民党は、苦戦が予想された衆院選の接戦をしのぎ、自民党単独で安定多数の261議席を獲得した。公明党の32議席を合わせると与党で300近い議席を確保して、再出発することになった。

岸田政権は、果たして安定した政権運営が可能なのか、それとも短命政権で終わる可能性はあるのか、そのカギは何かを探ってみたい。

 内閣支持率上昇、小渕元首相型も

まず、衆院選後、最初の世論調査のデータから見ていきたい。朝日新聞の調査(11月6,7日)では、岸田内閣の支持率は、投票日5日前の調査に比べて、4ポイント高い45%、不支持率は1ポイント高い27%だった。

NHKの調査(11月5~7日)でも内閣支持率は、投票日前1週間前の調査に比べて、5ポイント上がって53%、不支持は2ポイント下がって25%だった。10月4日の第1次内閣発足直後49%からも、支持率は4ポイント上昇したことになる。

支持率上昇は、衆院選挙で安定多数を確保して、勝利したことの影響が大きい。自民党の歴代政権で安倍政権は、高い支持率を長期間、維持したが、それ以外の多くの政権は発足時は高いものの、下落するケースがほとんどだった。

そうした中で、90年代後半に政権を担った小渕元首相は最初は低空飛行だったが、経済対策などに地道に取り組み、次第に支持を高めていった。岸田首相もここまでの支持率をみていると、小渕元首相型の展開になる可能性もある。

但し、岸田政権の支持率上昇は、政権の実績が評価されたわけではない。衆院選挙最優先で選挙を急いだ結果、重要政策として掲げる政策のほとんどは具体化しておらず、岸田政権の真価が問われるのは、これからだ。

当面、乗り越えなければいけないハードルとして、3つ大きな課題がある。そのハードル・課題を具体的にみていきたい。

 コロナ対策、医療の備えと実行力

第1のハードルは「新型コロナ対策」を早期に実行し、成果を上げることができるかだ。この優先課題を処理できないと、菅政権と同じように出だしから国民の支持を失うことになるだろう。

岸田政権は「コロナ対策の全体像」を12日に明らかにする予定だ。その中身に触れる前に岸田政権は、政府のこれまでのコロナ対応の総括をきちんと行う必要があると考える。

安倍政権と菅政権は、コロナ対策について、まとまった検証・総括を一度も行ってこなかった。国会では、感染が落ち着いた段階で考えたいとの答弁はしたが、実行されず、同じ失敗の繰り返し、後手の対応と国民の眼には映った。

それだけに岸田政権としては、政府対応の問題点を率直に認め、そのうえで、今後の具体策を打ち出せば、政権の信頼性も高まるのではないか。

幸い、コロナ感染は潮が引くように急激に減少している。この感染が落ち着いている時期の対応が極めて重要だ。冬場に第6波の感染が到来しても対応できる医療提供体制の備えを早急に進める必要がある。

また、ワクチン接種や経口薬の実用化などを強力に推進すること。さらに、安倍政権、菅政権では、総理官邸の司令塔機能が働かなかった。この点をどのように改めていくのか。具体策を示して、早急に実行に移すスピード感も問われる。

 経済・暮らし対策 具体策は

第2のハードルは「経済・暮らし対策」で具体策を打ち出せるかどうかだ。

岸田首相は、新型コロナの影響を受けた人たちへの現金給付をはじめとする、数十兆円規模の新たな経済対策を19日に取りまとめるとともに、大型の補正予算案を今月中に編成する方針だ。

また、看板政策である「新しい資本主主義」について、有識者などで構成する実現会議の緊急提言をとりまとめ、新たな経済対策や補正予算案、さらには新年度の当初予算案に盛り込みたい考えだ。

自民党長老に岸田政権の看板政策について聞くと「国会の演説を聞いても、”お経”が長すぎて、肝心の”功徳、ご利益”が国民にわかりにくい。何をやるのかはっきりさせないと、民心は政権から離れしまう」と指摘する。

この長老の指摘するように「成長と分配の好循環」「格差是正」「給与の引き上げ」などを強調するが、どんな方法でいつまでに実現するのかはっきりしない。

また、安倍政権や菅政権の経済政策とどこが違うのか。さらに、短期間のうちに一定の成果を上げないと、国民は看板政策への関心も示さなくなる可能性もある。

このため、岸田首相が、看板政策の実現までの具体的な道筋を描き、国民を説得しながら成果を上げることができるかどうか、年末までが勝負だとみる。

 党内政局、主導権を確保できるか

3つ目は、岸田首相が政権運営で主導権を発揮できるかどうか、党内政局への対応の問題もある。

自民党内を俯瞰すると菅前首相の退陣に伴って、幹事長を続けてきた二階氏も表舞台から去り、代わって安倍前首相と麻生副総裁の存在感が増している。

このため、岸田首相としては、安倍、麻生両氏との良好な関係を維持しながら、岸田色を発揮する余地を広げることに腐心しているようにみえる。

党の要の幹事長には、安倍、麻生両氏と関係の深い甘利氏を起用したが、衆院選の小選挙区で敗北し、わずか1か月で辞任に追い込まれた。後任に茂木外相を充て、党の態勢立て直しに懸命だ。

茂木氏も安倍、麻生氏との関係は良好と言われるが、安倍氏と関係が深い細田派からではなく、竹下派から起用した。

また、茂木氏の後任の外相には、林芳正・元文科相を起用した。安倍、林の両氏は先代の時から地元・山口でライバル関係にあり、こうした一連の人事から、岸田首相と、安倍前首相の微妙な関係を指摘する声も聞く。

その最大派閥の細田派は、細田会長が衆院議長就任したことに伴い、安倍前首相が派閥に復帰して、後任の会長に就任する見通しだ。安倍氏は最大派閥のトップとして、主要な政策や政局の節目で影響力を行使しようとするのではないかとの見方も出ている。

さらに、菅前首相や二階前幹事長、それに総裁選で敗れた河野太郎氏らが、今後、岸田首相とどのように向き合うのかにも党内の関心を集めている。

このように自民党内では、派閥の勢力や有力者の力関係の変動が続いており、岸田首相が主導権を発揮できるのかどうか、これからの焦点になっている。

その岸田首相は第4派閥の領袖だが、今後の政権運営はどうなるか。総裁選や衆院選を戦い、勝利を収めたことで、当面の政権運営に当たって大きな支障はなく、来年夏の参院選挙までは比較的安定した政権運営が続く可能性が大きいとみている。

但し、岸田政権の政権運営に陰りが生じると党内からの批判や風当たりが一気に強まることも予想される。一方、野党第1党の立憲民主党の代表選の結果によって、与野党の関係も変わる可能性があり、野党の動きもみていく必要がある。

いずれにしても岸田政権にとって、来年夏の参議院選挙が最大のハードルになる。参院選に勝てば、衆院選に続いての勝利で、長期安定政権への展望が開けるが、議席を減らすと短命で幕を閉じる可能性もある。

来年夏の参院選までに「政権の実績」を上げることができるか。そのためには、特に国民の関心が高いコロナ対策や経済政策で、年末までに具体的な成果上げることができるかどうか、大きなカギを握っていると言えそうだ。

 

衆院選”自民勝利、立民敗北”の背景

コロナ禍の短期決戦となった第49回衆議院選挙は、自民党が選挙前からの議席を減らしたものの、単独過半数を大きく上回る261の絶対安定多数の議席を獲得して、事実上の”勝利”を収めた。

これに対して、野党第1党の立憲民主党は、選挙前を下回る96議席にとどまり、”敗北”した。一方、日本維新の会は、選挙前の4倍近い議席を獲得し、第3党に躍進するなど国会の新しい勢力分野が確定した。

メディア各社の情勢調査や投開票当日の予測報道でも、自民党の獲得議席は単独で過半数ギリギリか、下回るのではないかとの見方が多かった。これに対し、朝日新聞は、単独で過半数を大きく上回る見通しを示し、選挙結果に最も近い予測をした。

当ブログも自民党は単独過半数をやや上回る「236議席をベースに上下20程度の幅」になるのではないかと予測した。結果は「絶対安定多数」の261議席となり、上限を上回り、予測が外れたことになる。

個別選挙区の積み上げの検証はまだ行えていないが、予測が外れた理由や背景にどういった事情があるのか、与野党の関係者の取材を基に報告しておきたい。

(メディアの予測については、前号・10月27日「衆院決戦 勝敗予測のカギは?」。関心のある方は、この号の後に掲載しています。ご覧ください)

 野党共闘 無党派層へ広がりの限界

自民党が過半数を大きく上回る議席を獲得できた理由は何か、選挙に詳しい自民党幹部に聞いてみた。

この幹部は「自民党の若手議員は危機感を強め、後援会を中心に必死で支持固めに動いたこともあるが、野党共闘が、野党候補の支持拡大につながらなかったことに助けられた側面が大きかった」と指摘する。

具体的にどういうことか。「野党共闘と言っても例えば、立憲民主党の候補者に1本化された場合、立憲民主党と共産党の支持層に限られていたのが実態だった。無党派層への支持拡大につながらなかったので、自民党候補が競り勝つ選挙区が多かった」と分析している。

立憲民主党関係者に聞いても「野党共闘は、野党陣営の分裂を防ぎ、自民党と競り合う構図にまで持ち込めた効果は大きい」と強調したうえで、「有権者の反応を見ると、共産党との共闘に抵抗感を持ち、無党派層の中から支持離れが出たことも事実だ」と認める。

読売新聞の出口調査で、比例代表の投票先のデータをみると、立民24%、自民21%、維新19%などに分かれている。前回の選挙では、立民30%、維新が9%だったという。前回と比較すると立民は最多だが支持の比率が下がり、維新は大幅に伸ばしている。

今回、立憲民主党は、共産党などの野党と213の選挙区で候補者を1本化し、激戦や接戦に持ち込んだが、勝利したのは59選挙区で、勝率は3割に達しなかった。

これに対し、与党側はおよそ65%にあたる138の選挙区で議席を獲得した。今回の野党共闘には限界がみられ、自民・公明の与党側の地力が勝ったと言えそうだ。

 コロナ感染収束 首相交代効果も

以上は、選挙の戦い方の面から分析したものだが、自民党が議席を増やした背景としては、選挙を取り巻く状況なども影響した。

1つは、「コロナ収束効果」。選挙戦が進むにつれて、新型コロナの新規感染者が急速に減少した。その結果、これまでの政府のコロナ対策の失敗よりも、これからの感染抑制や暮らし・経済の立て直しに有権者の関心が移ったことも、政権与党側に有利に働いた。

もう1つは、「首相交代、政権のイメージチェンジ効果」も大きかったのではないか。安倍・菅政権では、野党をいわば敵方に設定して対決していく手法が目立った。

これに対して、岸田首相は「聞く力」を強調し、安倍政権や菅政権とは異なる政権運営を強調し、与党内の疑似政権交代を印象付けようとするねらいがあったものとみられる。こうした政治姿勢が、一定の期待感を持たせる効果を生んでいる。

さらに、冒頭に触れた「野党共闘の限界」を加えた3つの要因が、今回の自民議席増をもたらしたとみている。メディアの側の情勢調査や世論調査、議席予測の改善点などについては、今後材料を集め、改めて報告したいと考えている。

 問われる与野党 新しい政治・国会を

今回の選挙を受けて、政界にさまざまな動きが続いている。自民党では、甘利幹事長が小選挙区で敗れた責任をとって辞任し、後任に茂木外相が就任することが1日固まった。岸田政権にとって、政権発足からわずか1か月で、党の要の交代は痛手だ。

一方、立憲民主党は、政権交代を訴えたが、結果は選挙前の109議席を下回る96議席に止まり、党内から執行部の責任を問う声が出ている。枝野代表は、2日の党役員会までには何らかの考え方を示したいとしており、党の態勢の立て直しを迫られることになりそうだ。

このほか、立憲民主党などの野党側と距離を置く日本維新の会は、選挙前議席の11から41議席を獲得し第3党へ躍進した。第3極をめざして、国会で独自色を強めていくものとみられる。

国民の側は、与野党双方に対して、コロナ対策をはじめ、暮らしと経済の立て直し、さらに外交・安全保障をどのように進めていくのか、明らかにして欲しいという期待が強い。与野党が議論を深め、新しい政治・国会論戦の姿を示すことが問われている。

来年夏には、参議院選挙が控えている。次の国政選挙にどう備えるのか、今回の衆院選挙の結果を分析して、それぞれの政策や政権構想の打ち出し方や、政党間の選挙協力のあり方などについても検討を行い、政治の信頼回復に取り組んでもらいたい。

衆院決戦 勝敗予測のカギは? 

コロナ禍の異例の短期決戦は、どのような結果になるのか?31日に迫った衆院選挙の投票日に向けて、各党は幹部を激戦区に投入し、最後の追い込みに入った。

その衆院選挙の勝敗を予測するとどうなるのか。自民党は、単独で過半数を大きく上回るといった予測も出ているがどうか。あるいは、野党第1党の立憲民主党は、野党候補者の1本化で議席を増やせるのか、横ばいに止まるのか、さまざまな見方・読み方が出されている。

私も選挙取材を40年余り続けているが、今回ほど読みにくい選挙はない。そこで、勝敗の予測のカギは何か、選挙の背景や事情を含めて考えてみたい。

 分かれる主要メディアの勝敗予測

さっそく、衆院選挙結果の予測からみていきたい。主要メディアの分析・見方はどうなっているか。

◆朝日新聞は26日朝刊で、◇自民過半数確保の勢い、単独で過半数を大きく上回る勢い。◇立憲ほぼ横ばい。野党1本化効果限定的か。

◆産経新聞は同じ26日朝刊で、◇自民は単独過半数へ攻防、◇立憲は公示前を大きく上回り、140議席台をうかがう。

◆読売新聞はこれより先の21日朝刊で、◇自民減、単独過半数の攻防。◇立民、議席上積みなどと報じている。

各社とも全国規模の世論調査を行うとともに各支局の取材も加えて、情勢を判断している。また、世論調査は電話だけでなく、朝日新聞のように新たにインターネットを活用するところも出てきており、取材方法の違いにも注意が必要だ。

以上のように今回の選挙予測は、◇自民党が、単独で過半数を確保できるかどうか、獲得議席数の幅に違いがある。◇野党第1党の立憲民主党についても横ばいか、上積みがあるのかどうか違いがある。◇日本維新の会については、議席を3倍程度増やし躍進するとの見方で、各社共通している。

 政権・政党の弱体化、有権者は様子見

さて、このように今回の選挙の予測について、主要メディアの予測が分かれる理由、背景には何があるだろうか。

与野党の選挙関係者に聞くと「今度の選挙は、読みにくい。風が吹かない。向かい風は強くはないが、追い風もない」、「だらっととした凪状態。こんな選挙は記憶にない」といった戸惑いの声を耳にする。

理由として考えられることは何か。1つは、事実上の任期満了選挙、いわば予定された選挙だが、有権者の側は「政治の目まぐるしい動き」についていけない状態にあるのではないか。

8月下旬の岸田氏の自民総裁選への立候補表明に始まって、菅前首相の退陣表明、総裁選4人の争い。岸田新政権誕生と思ったら、国会質疑はわずか3日で終了、即選挙。ご祝儀相場ねらいの選挙と映っているのではないか。

また、岸田新政権についても「新しい資本主義、成長と分配の好循環」と掛け声は高いが、具体的に何をやるのかはっきりしない。「岸田首相の期待値」が高まらない。保守層が固まらないので、自民党支持率が徐々に低下している状態だ。

対する野党第1党・立憲民主党も、共産党や国民民主党などと候補者を1本化したが、政党支持率、投票予定政党の支持が広がらない。格差是正、「分配なくして、成長なし」を強調するが、持続可能性はあるのか。有権者の納得感を得るまでには至っていない。

岸田新政権、野党第1党の力の弱さが、選挙戦の盛り上がりに欠ける要因になっているのではないかと感じる。

一方、有権者の反応はどうか。共同通信の世論調査では、小選挙区、比例代表ともに「投票先を決めていない人」は3割にのぼる(16、17日実施)。

「必ず投票に行く」人は、NHK世論調査で「期日前投票をした」人を合わせて61%、4年前衆院選と同じ水準だ(22~24日実施)。前回、実際の投票率は53.88%、過去2番目の低さ、前々回は52.66%で過去最低。今回、有権者の投票意欲は、必ずしも強くはない。

コロナ感染者数が驚くほど急減し、危機感が薄らいだ影響もあるかもしれない。次の備えをどうするか。「コロナ疲れ」「政治へ期待感の乏しさ」とも重なり、必ずしも選挙戦とつながっていない。有権者も様子見状態に見える。

 勝敗のカギ、野党1本化効果の読み方

それでは、選挙の勝敗予測はどうなるのか、何がカギを握っているのか。私個人の見方・考え方を以下、説明していきたい。

結論を先に言えば、今回は「野党候補者1本化の効果」をどう読むかが、大きなポイントだと考える。

前回・4年前の衆院選は、安倍首相が急遽、解散に踏み切り、希望の党の立ち上げと野党第1党が分裂し、与党が圧勝した。今回は、立憲民主、共産、国民民主、社民、れいわの各党は213選挙区で候補者を1本化した。

このうち、野党第1党・立憲民主党の候補者に1本化した160の選挙区について、選挙情勢を分析すると、立憲民主党が70前後の議席を獲得する可能性がある。その結果、公示前の110議席から、小選挙区を中心に30前後、議席を増やす可能性がある。

これに対して、自民党の獲得議席をどうみるか。わかりやすくするために数式で表示すると次のようになる。◆自民獲得議席=公示前勢力276-40±20

まず、「-40」は自民党は、選挙基盤が危うい議員を中心に40議席程度減らす可能性が大きい。したがって「自民の獲得議席のベース・基準は、236議席程度」とみる。「過半数233」とほぼ同程度になる。

そのうえで、「±20」は激戦が続く選挙区があり、その議席変動幅だ。情勢が好転すれば20議席増えたり、逆に減ったりする。うまくいけば「上限」が256まで増え、逆に厳しい場合は「下限」が216、過半数を割り込むこともある。

◆わかりやすく言えば、「過半数の233を軸に上下20議席の範囲内」が獲得ラインみる。つまり、自民党は単独で過半数は維持できる可能性はあるが、激戦区の状況によっては、過半数割れの可能性もある。

この範囲内のどこで決着するか、政権交代の確率はほとんどないが、選挙後、岸田首相の求心力や政治責任に関係してくることになる。

野党側については、◆立憲民主党は公示前勢力110議席から、20前後の上積みで、130±α。◆日本維新の会は、公示前の11議席から、30議席前後まで増やす可能性がある。◆共産党は、議席をやや増やす。◆公明党、◆国民民主党は、現状維持か、やや減らす可能性があるとみる。

以上のように選挙予測は、「上限と下限、幅」で考える。”占い師”のように下一桁の数字まで当てることではない。そのうえで、そうした結果になった理由、背景を捉えることが大事だと考える。

 選挙のカギ、投票率、無党派動向

選挙予測で、最も基本的で重要なカギは、投票率だ。例えば、無党派層は政権と一定の距離を置く人たちが多いので、そうした層がどこまで投票したかということになり、選挙結果を左右する。

保守層についても政権の対応に不満があれば、投票にでかけない棄権の選択肢も出てくるので、要注意だ。

有権者の投票意欲は先にみたように「必ず行く」は61%、4年前の前回選挙時と同じ水準だ。前回の実際の投票率は53.68%、過去2番目に低い水準だった。前々回の2014年は52.66%、過去最低を記録した。有権者の投票意欲は高くはない。

選挙が盛り上がるのは、有権者が政治に「強い不満や反発」を抱えている時か、新しい政権や新党などが誕生して「期待感」を抱いた時が多い。コロナ禍で緊急事態宣言などが長期間続いた今の社会は、どうも活力が感じられず、”沈思黙考状態”に見える。

コロナ激変時代、どんな政党や候補者に政権を委ねるのか。政策の選択と同時に国会の与野党勢力のあり方も大きなポイントだ。有権者が、それぞれ重視する判断基準で、1票を投じることを望みたい。

衆院短期決戦の見方・読み方

第49回衆院選挙が19日公示され、31日の投開票日に向けて、選挙戦に入った。明治23年・1890年に第1回総選挙が行われた後、131年、49回目の選挙になる。

今回はコロナ禍、直前に菅前政権が退陣して岸田新政権に交代した。新政権発足から解散まで、解散から公示までいずれも戦後最短。衆議院議員の任期満了日を越えた選挙は今の憲法下で初めて、異例ずくめの衆院選だ。

有権者の反応はどうか。NHKの世論調査では、投票に「必ず行く」と答えた人は56%。前回4年前の衆院選時と同じ水準で、投票意欲は必ずしも高くはない。短期決戦のあわただしい選挙のせいか、それとも争点が不明なのか、有権者が投票所に足を運びたくなるような選挙にはなっていないようだ。

そこで、今回の選挙は、何が問われる選挙なのか。また、選挙の構図や情勢はどうなっているのか、有権者側の視点で考えてみたい。

 選挙の構図 与野党対決色 強まる

まず、選挙の構図と情勢からみていきたい。各党の候補者擁立状況だが、全国で289ある小選挙区についてみてみると◇自民党は277人、公明党は9人で、与党側はほとんどの選挙区に候補者を擁立している。

これに対して、◇野党第1党の立憲民主党、共産党、国民民主党などは、およそ210の選挙区で候補者を1本化しており、与野党対決の構図が鮮明になっている。

一方、こうした野党と距離を置く日本維新の会は94人を擁立し、地盤の関西だけでなく、全国的に勢力の拡大をめざしている。

過去3回の衆院選では、野党陣営の分裂や選挙対応の遅れで、与党圧勝が続いてきたが、今回は小選挙区の7割以上で、野党の候補者1本化が実現した。与野党の一騎打ちで、激戦選挙区が増えている。

それでは、比例代表176も合わせた総定数465の選挙全体の情勢は、どうなっているか。与野党関係者の見方や報道各社の世論調査を基に判断すると、次のような情勢になっている。

◆まず、自民党は議席を減らすものの、与野党の勢力が逆転するまでには至らないのではないかという見方が強い。

◆次に、自民党の勝敗ラインは、事実上、「単独で過半数の233」を維持できるかどうか。自民党の解散時の勢力は276なので、減少幅が43以内に収まるかどうかが焦点だ。減少幅が20程度か、40程度で収まるか、50以上か見方が分かれる。

◆自民党の選挙関係者によると、選挙地盤が固まっていない若手を中心に与野党が激しく競り合っている接戦区が40~50か所あり、こうした接戦区がどうなるかを見極める必要があると話している。

◆野党側については、基本的に解散時の勢力が勝敗の基準になる。例えば、野党第1党の立憲民主党は、解散時勢力110からどれだけ上積みできるか。党内には150程度が獲得できれば、今後の政権交代への足掛かりになるという見方もある。

以上、見てきたように選挙情勢については、与野党の勢力逆転の確率は低いとみている。但し、これまでのような1強状態から、与野党の勢力が接近ないし、伯仲する可能性が大きいのではないかと見ている。

 政策、説得力と具体性はあるか

次に政策面の争点について、与野党の議論はどこまで深まっているか。各党の選挙公約や各党の党首討論、公示日の各党首の第1声などを基にみておきたい。

◆第1は、コロナ対策だ。岸田首相をはじめ自民党は、3回目のワクチン接種をはじめ、経口治療薬の実用化、さらには、病床確保のため、行政がより強い権限を持てるように法改正を行うことなどを訴えている。

但し、これまでの政府対応のどこに問題があり、国と地方の連携のあり方などをどのように改善していくのかといった点について、踏み込んだ説明は聞かれない。

これに対し、立憲民主党の枝野代表など野党側の方が、水際対策をはじめ、PCR検査の拡充、患者の入院調整を地域の開業医で分担する取り組み、さらには、政権の司令塔機能の強化に向けた体制づくりなどなど内容が具体的で、説得力があると感じる。

◆第2は、格差是正のために、分配のあり方を含む経済政策だ。岸田首相は「新しい資本主義構想を掲げ、成長と分配の好循環で、国民の所得を上げる」と訴えている。但し、分配に必要な成長の果実をどう生み出すのか、好循環にどのようにつなげていくのか、納得のいくような説明はない。

野党側は「分配なくして成長なし」と分配最優先を掲げ、財源は大企業や富裕層に対する課税を強化すると強調している。但し、こうしたやり方で、持続性があるのかどうか疑問視する声も根強い。

このほか、野党によっては「改革を通じて成長につなげる」「雇用の流動化で所得を増やす」「消費税の引き下げ」など様々な提案が出されている。

有権者の側が知りたいのは、コロナ感染の再拡大を抑えながら、どのようにすれば日本経済・社会を立て直していけるのかという点だ。与野党双方とも、具体的な方法と道筋を示して議論を深めてもらいたい。

◆さらに、外交・安全保障分野では、北朝鮮のミサイル発射が繰り返されている。また、米中対立が激化するなかで、中国とどのように向き合うのか、防衛・軍事だけでなく、外交・安全保障の基本的な構想も問われている。

このほか、エネルギーや原発政策、長期政権の下でこれまで相次いだ政治とカネの問題、さらには、選択的夫婦別姓など多くの問題を抱えている。

報道各社の世論調査をみると、有権者の側は、与野党のどちらに投票するかわからないと答える人の割合が4割近くもいる。このことは、各党の政策論争などを聞いても、1票を入れようというところまで納得していない現れではないか。

今回の衆院選は異例の短期決戦だ。政党、候補者の側には、有権者が知りたい点に応える政策論争をさらに深めてもらいたい。

一方、有権者の側も、1票を投じなければ政治・行政は変わらない。衆院選の投票率は、このところ50%前半の低い投票率が続いている。コロナ禍の衆院選、より良い社会をめざして1票を投じたい。

 

 

 

 

 

 

”選ぶ側”から見た衆院短期決戦

衆議院が14日解散され、19日公示、31日投開票の日程で、総選挙が行われることになった。前回2017年から4年ぶりで、衆議院議員の任期満了(10月21日)を越えての衆院選挙は、現行憲法の下で初めてのケースになる。

岸田新政権が発足したのが4日で、10日後に解散。解散から投開票までの期間は17日間でいずれも戦後最短、あわただしい選挙になる。

岸田首相は14日夜、記者会見し、今回の選挙を「未来選択選挙」と位置づけ、「コロナ後の新しい経済社会を作り上げていく」考えを強調した。各党の党首もさっそく街頭などで演説し、支持を訴えた。

戦後最短の衆院決戦。私たち有権者はどのように受け止め、どんな基準で判断していけばいいのか、”選ぶ側の視点”で考えてみたい。

 世論最多は思案中、結果は流動的

まず、最近の政治状況を有権者はどのようにみているか。11日にまとまったNHK世論調査(10月8~10日)では、岸田内閣を支持する人は49%、支持しない人は24%だが、わからないと答えた人が27%にも上ったことが大きな特徴だ。ふだんの月の調査では20%未満なので、7ポイント以上も多い。

朝日新聞の世論調査(10月4、5日)でも支持率41%、不支持20%だが、その他・答えないが35%にも達している。

NHK調査では、今回の衆院選で与党と野党の議席がどのようになればよいと思うかも聞いている。与党の議席が増えた方がよい25%、野党の議席が増えた方がよい28%、どちらともいえないが41%となった。

4割の人たちは、どんな投票行動を取るか決めておらず、思案中というわけだ。菅前首相の突然の辞意表明から、総裁選を経て、岸田政権誕生と思ったら、国会での与野党論戦はわずか3日で打ち切り、解散時期も早めた。

選ぶ側からすると「少しは考える余裕をくれ」ということだろう。岸田内閣発足時の支持率49%は、麻生内閣並み(48%)の低空飛行だ。

一方、自民党の支持率は上昇しているので、議席はあまり減らないとの見方もあるが、思案中の人が4割もいるので、結果は流動的とみた方がよさそうだ。

 コロナ対策 反省・総括はあるか

それでは、短期決戦、何を基準に候補者や政党を選ぶか。多くの国民にとって第1は、「コロナ対策」が大きな判断基準になるだろう。

政党の側も選挙公約の第1の柱として、コロナ対策、ワクチン接種の促進や、治療薬の開発・実用化などこれからの対策の充実、強化を掲げている。

問題は1年9か月にわたって4回も緊急事態宣言を出しながら、政府はまとまった検証、総括を一度も行っていない。これまでの対策の検証、反省もないまま、これから対策を強化すると言っても説得力は乏しい。

これまでの対策の問題点や失敗の原因などを率直に語る方が、むしろ誠実な対応で信頼がおけるかもしれない。この夏、入院できずに自宅待機を余儀なくされた感染者が13万5千人に達し、自宅で亡くなられた方も多かった。

病床だけでなく、医療人材の確保、入院・転院などの仕組みを誰が、どのように改善していくのか。都道府県知事と厚生労働大臣の権限の調整、首相官邸が司令塔として機能するための体制づくりが具体的に問われている。

ロックダウン・都市封鎖ができる法整備など勇ましい案よりも、政治・行政の仕組みの具体的な改善策と、期限も明示させて実行できるようにすることの方が重要だと考える。

 生活・経済立て直しの具体案

第2の判断基準は、コロナ感染拡大で大きな影響を受けた人たちや、事業者の救済など「生活・経済の立て直し」をどのように進めるかだ。

日本経済は、コロナ前から長期にわたって停滞が続いており、かつて1位だった国際競争力ランキングは今や34位。実質賃金指数も1996年をピークに下がり続けている。日本経済をどのように立て直していくのかが問われている。

岸田首相は「新しい資本主義」で、分厚い中間層を再構築し、賃上げに積極的な企業に対する税制支援や、看護師や介護士などの所得向上のため、報酬や賃金のあり方を抜本的に見直していく考えを表明している。

これに対し、野党第1党・立憲民主党の枝野代表は、格差を是正し「1億総中流社会」の復活を目指して、消費税の税率を時限的に引き下げる一方、富裕層の金融所得への課税を強化し、分配を最優先に取り組んでいく考えを示している。

いずれも格差是正に「分配」を重視しているが、自民党は企業支援を通じた「経済成長の果実」を賃金に振り向ける仕組みを考えている。これに対し、立憲民主党は「富裕層への増税」で実現するとしており、「方法論」や「成長と配分の重点の置き方」に大きな違いがある。

このほかの各党も「消費税率の引き下げ」や「規制改革」、「労働市場の流動化による賃金引上げ」などの提案を打ち出している。

どの提案が妥当と考えるか、方法論を含め実現可能性はどうか、各党の主張や論争をじっくり聞いて見極めていきたい。

 「負の遺産」の是正 公正な政治へ

第3の判断基準として、「政治・行政の信頼回復」の問題がある。岸田政権でも、業者からの金銭授受疑惑が報じられた甘利氏を幹事長に起用した人事に対して、世論の評価は厳しい。

一方、一昨年の参院選挙をめぐる買収事件で、有罪判決を受けた河井案里元参院議員側に、自民党本部が1億5千万円を提供していた問題についても、事実関係の調査や詳しい説明を尽くすべきだといった声が出されている。

前回2017年の衆院選挙以降を振り返っても安倍政権と菅政権下で、政治とカネをめぐって多くの不祥事が噴出し、国民の強い批判を浴びてきた。また、官僚の政権への忖度や委縮が進んでいるのではないかと懸念する声も強い。

したがって、こうした長期政権の「負の遺産」を是正し、公正な政治・行政をどのように取り戻していくか、今回の選挙で問われている大きな問題だ。

具体的な方法としては、政治や行政のあり方の見直し、情報公開の徹底や、内閣人事局の運用の改善などが考えられる。

一方、政治の構造を考える必要があるとの指摘もある。具体的には、特定の政党が強い1強体制では、権力の驕りや腐敗が生じるので、与野党の勢力バランスを均衡させ、政治に緊張感を持たすことが必要だという考え方だ。

コロナ禍の難問を解決するためには、国民の協力は不可欠で、そのためにも幅広い国民の声を吸収できる政治の構造や、国会の勢力バランスを考えていく必要があると思う。

以上、私なりの3つの判断基準を取り上げた。今回は、外交・安全保障の課題に触れなかったが、この課題を含め、さまざまな判断基準が考えられる。自らが重視したい判断基準・物差しを決めて、選挙で選択を考えていただきたい。

コロナ・パンデミックを何としても乗り越え、多くの国民、特に次代を担う若い人たちが、将来に希望を持てる社会をどのように築いていけるのか、今回の衆院選に多くの国民が参加して、第1歩を踏み出していくことを願っています。

 

 

“岸田政治”は見えたか?初の所信表明

国会は8日、岸田首相が就任後初めての所信表明演説を行い、「成長と分配の好循環」により「新しい資本主主義」を実現すると訴えた。

これに対して、野党側は11日からの代表質問で、岸田首相の政治姿勢や政策の内容を厳しく質すことにしている。

また、岸田首相の所信表明演説は、19日公示・31日投開票の衆院選挙に向けて、与野党の論戦のベースにもなる。

そこで、「岸田政治とは何か」が見えたのかどうか、選ぶ側の国民からみると「何が必要」と考えるのか、衆院選に向けて、所信表明演説の中身を点検しておきたい。

 中長期の構想先行 乏しい各論・社会像

歴代の首相は就任後、最初の所信表明演説で、自らの政治姿勢をはじめ、政権の目標、主要政策などについて、国民の理解を得ようと演説の中身やキャッチフレーズに工夫をこらしてきた。

安倍元首相は1回目の就任時には「美しい国、日本」「再チャレンジ可能な社会」、2度目の登場の際には「経済危機突破、3本の矢で経済再生」を掲げた。菅前首相は理念より「省庁の縦割り打破、デジタル庁創設」など個別政策に力点を置いた。

これに対して、岸田首相は30分近い演説の中で、コロナ対策に万全を期す考えを表明したうえで、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトに「新しい資本主義」の実現をめざす考えを訴えた。

このうち成長戦略では、先端科学技術の研究開発に大胆に投資を行う一方、分配戦略では、賃上げを行う企業に対する税制支援を抜本的に強化するとしている。

こうした構想をどうみるか。理念や中長期的の構想としては理解できるが、政策課題の羅列が目立つ。また、各論の中身が具体的に示されていない。さらに分配と成長の好循環の結果、どんな暮らしや社会になるのか「社会像」も明らかではないので、説得力は乏しい。

さらに中長期の課題とは別に、コロナ禍で直面する経済対策をどうするのか。経済規模や、生活支援と事業者支援など「緊急対策の中身」を打ち出す必要がある。中長期と直面する経済対策のバランスも考える必要がある。

コロナ対策、政府対応の総括が不可欠

次に当面の最大の焦点である新型コロナ対策について、岸田首相は、ワクチン接種の加速化や経口治療薬の年内実用化をめざす考えを示した。

また、国民への説明を尽くす考えを示すとともに司令塔機能の強化や、人流抑制、医療資源確保のための法改正などに取り組む考えを明らかにした。

コロナ対策については、岸田首相も「これまでの対応を徹底的に分析し、何が危機管理のボトルネックだったのかを検証する」とのべたが、行政の継続性からすれば、問題点をこれから分析・検証するというのはあまりにも遅すぎる。

感染者が確認されてから、既に1年9か月。緊急事態宣言の発出と解除が繰り返され、総括をきちんと行うべきだという声が出されてきたのに、政権は一度もまとまった検証、総括を行ってきておらず、国民の1人として怒りすら覚える。

この夏は、最も多い時期には、1日当たりの新規感染者数は、全国で2万5000人を超えた。入院できずに自宅待機を強いられた感染者は、一時13万人を上回り、多くの方が治療を受けられずに亡くなった。

こうした背景については、政権の危機管理対応、具体的には、総理官邸の体制や総合調整機能が十分、働いてこなかった点に問題があるのではないか。

政府が、法改正が必要と考えるのであれば、その前にやるべきことがある。政府対応の検証と総括だ。具体的には、人流の抑制、医療提供体制、検査やワクチン接種の体制、治療薬の開発と活用、生活支援と事業者支援などについて、どこに問題があり、どのように改めるのか明確にする責任があると思う。

そのうえで、総理官邸や各省との関係、都道府県、市区町村や大学・医療機関など行政の体制について、抜本的に見直し、その実施計画を明らかにするのが、新政権の役割だ。衆院選挙が始まる前に、是非、明らかにしてもらいたい。

 外交・安全保障、構想の提示を

外交・安全保障の分野については、従来の政府方針を基本的に踏襲している。国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の改定に取り組むとしている。その中で、海上保安能力や、ミサイル防衛能力の強化、経済安全保障など新しい時代の課題に果敢に取り組むとしている。

米中対立が激化する中で、日本は日米安保を基軸にすえたうえで、中国にどう向き合うのか。外交努力に加えて、防衛力の整備、経済安全保障の観点も踏まえて、外交・安全保障の基本的な構想を明らかにして、国民の理解と協力を求めていくことが重要だ。

 政治の信頼回復 不祥事に言及なし

政治の信頼回復も極めて重要な課題だ。岸田首相は「難しい課題に挑戦していくためには、国民の声を真摯に受け止め、かたちにする、信頼と共感を得られる政治が必要だ」と強調した。

ところが、2017年の前回の衆院選以降、安倍政権の下で、政権絡みの不祥事が相次ぎ、国民の強い政治不信を招いた。国有地の払い下げをめぐる「森友学園問題」で、財務省の公文書が改ざんされていたことを認める報告書が公表された。

菅前政権下のこの1年間でも「桜を見る会」前夜祭をめぐって安倍元首相の秘書が政治資金規正法違反で有罪判決を受けた。政治とカネをめぐる問題で、河井元首相夫妻や菅原元経産相が議員辞職に追い込まれた。総務省幹部の接待問題なども明らかになり、幹部が辞職した。

こうした「長期政権の負の遺産」をどのように改めていくか、国民は注視している。岸田首相は「信頼と共感の得られる政治」という一般論は語るが、「負の遺産」や、公正な政治・行政に向けてどのような決意で臨むのか言及しなかった。

長期政権が続いた結果、官僚の政権に対する忖度や、委縮が進んでいるのではないかとの声も聞く。官僚の政策提案能力を生かす人事制度や運用にも真剣に取り組む必要がある。

 与野党の論戦 判断材料提示を

以上みてきたようにコロナ激変時代、今の政治・行政は実に多くの課題・問題を抱えている。14日には、衆議院が解散され、19日公示、31日投開票の日程で衆議院選挙が行われる。

11日から始まる各党の代表質問は、衆院選直前の最後の国会論戦になる。与野党とも国民の判断材料となるような中身の濃い論戦を見せてもらいたい。

私たち国民の側も、政権与党に対しては「岸田政治」とその前の「安倍・菅政権の実績」をどう評価するかが基本になる。

また、野党の政権構想や主要政策にも耳を傾け、どちらが政権担当勢力としてふさわしいのか、与野党の勢力バランスはどのような形が適切か、熟慮を重ね1票を投じたい。

 

 

 

岸田新政権と10月衆院決戦

自民党の岸田文雄総裁が4日召集された臨時国会で、第100代首相の指名を受けた後、岸田内閣を発足させた。

これに先立って、岸田氏は衆議院の解散・総選挙について、会期末の14日に解散し、19日公示、31日投票で選挙を行う意向を固め、複数の与党幹部に伝えた。

衆院選挙の投票日は、11月7日か14日のいずれかとの見方が強かっただけに与野党に驚きが広がった。岸田首相は4日夜、就任後初めての記者会見で、衆院選挙を19日公示、31日投開票の日程で行う方針を正式に表明した。

大きく揺れている秋の政局、私たち有権者は、新たに発足した岸田新政権をどのようにみるか。また、衆院選では何を基準に選択することになるのか、国民の側の視点で考えてみたい。

 党人事は派閥色、閣僚人事に腐心

まず、岸田新政権の人事から見ていきたい。個別の人事については、メディアの現役記者に委ね、ここでは、人事全体の評価を見ていきたい。

自民党役員人事と閣僚人事とでは、評価がかなり異なる。党役員人事は、No2の幹事長に麻生派幹部の甘利氏、政調会長には総裁選で安倍前首相の支援を受けた高市氏、副総裁に麻生前財務相が就任するなど派閥や重鎮に配慮が際立つ人事になった。

これに対して、閣僚人事については、派閥均衡の色彩はあるものの、派閥が長年入閣できなかった議員を押し込む「滞貨一掃」人事はみられない。茂木外相、岸防衛相を再任する一方、新設の経済安全保障担当相に当選3回の小林鷹之氏を起用するなど政策能力が高いとされる若手議員や女性議員を起用しているのが、特徴だ。

但し、人事は全体としてみると派閥や重鎮の存在感が強く、岸田首相の強い指導力を印象付ける布陣にはなっていない。

 官房長官、他派閥からの起用の成否

次に、私が最も注目しているのは、内閣の要の官房長官ポストに、自らの派閥からではなく、最大派閥・細田派幹部の松野博一氏を起用した点だ。これが、党内基盤を安定させて吉と出るか。それとも首相と官房長官との一体感が乏しく凶と出るか、この成否が大きなポイントになるのではないかとみている。

こうした人事をめぐっては「安倍前首相が幹事長に高市氏、官房長官に萩生田氏を強力に押し込もうとしたのではないか」などの情報も飛び交っている。自民党関係者に聞いてみると「ガセネタの類としか思えない。宏池会に適任者がいなかったので、松野氏を選んだと聞いている」と否定する。事実関係を詰めて、政治の裏側を確認していく作業が今後も必要だ。

松野氏は、文科相経験者で細田派の事務総長。政調副会長も務め岸田氏とも近いとされる。但し、派閥の領袖出身の首相で、内閣官房長官を他の派閥から起用したケースは少ない。

最も有名なのは、中曽根元首相が政権就任にあたって、当時の最大派閥・田中派の後藤田官房長官を起用したケースだ。当時のメディアは、「田中曽根内閣」などと報じた。

第4派閥のリーダーに止まる中曽根氏は、後藤田氏をいわば人質として取り込むことによって、政権基盤を安定させる戦略が明確だった。

事前に田中角栄元首相と直談判して了解を取り付けたほか、後藤田本人とも以前から、さしの会合で意見交換し、行政改革など政権目標についても両者の考えは一致していたといわれる。

今回の岸田首相の人事も似ているようにも見えるが、当時現場で取材していた者からすると「似て非なるもの」、時の首相の覚悟と戦略が異なるように見える。

政界関係者に聞くと「官邸の仕事は、総理と官房長官の力で決まる」とされる。特に政権が苦境に立たされた時に一体的な対応ができるかどうか、岸田首相が試されることになるのではないかと考える。

 衆院選 最大の争点はコロナ対策

次の衆院選挙での最大の争点は「コロナ対策」ということになるだろう。政権の側も安倍首相に続いて、菅首相も感染急拡大と医療危機を防ぐことができず、退陣に追い込まれた。

ところが、2つの政権とも「コロナ対策の総括」を行っていない。両首相とも感染拡大が収まった後、検証を行う考えを示してきたが、検証や総括はなされないまま、首相の座を去ってしまった。

今回の自民党総裁選挙でも4人の候補者はそれぞれ独自の政策を打ち出したが、安倍政権と菅政権のコロナ対策の問題点には踏み込んでおらず、具体的な取り組み方を示すまでには至っていない。

政府・与党側は、これまでのコロナ対策の総括と今後の具体策を明らかにすることが必要だ。これに対して、野党側はどのような対案を打ち出すのか、週明けの国会の代表質問でも激しい議論が交わされることになる。

選挙戦でも感染の抑え込みや、医療提供体制の整備、さらに国民生活や事業者支援のあり方などについて、どの政党が具体的で、実効性のある対策を示しているか、しっかり見極めていきたい。

今度の衆院選挙は、任期満了を超えて4年ぶり選挙になる。それだけに、これまでの安倍・菅政権の実績評価も焦点になる。森友・加計学園の問題をはじめ、財務省の決裁文書の改ざんや、桜を見る会の経費の問題などの真相の解明の仕方や、政治・行政の信頼の回復に向けた取り組み方も問われることになる。

このほか、激化する米中関係の中で、日本の外交・安全保障をどのように進めていくかも大きな論点になる。

このように内外に数多くの課題を抱えている中で、国会の勢力分野はどのような形が望ましいと考えるか。

自民・公明両党を中心とする今の政権の継続か、与野党の政権交代か、さらには与野党の勢力均衡が好ましいと考えるのか。コロナ激変時代の政治の方向を決める重い1票を投じることになる。

 

岸田 新総裁選出の読み方 自民総裁選

菅首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は、決選投票の結果、岸田文雄前政務調査会長が、河野太郎規制改革担当相を抑えて、新しい総裁に選ばれた。

今回の総裁選挙は、「自民党の異端児」などと言われ、国民の人気の高い河野氏が党員投票で大量得票するのではないかという見方も出されていた。

これに対して、岸田氏は「真面目で普通の人」でアピール力も弱いとされてきたが、なぜ、勝利を収めることができたのか。

岸田新総裁は、来月4日に国会の首相指名選挙を経て、第100代の首相に就任する。首相就任に向けて、何が問われているのか探ってみたい。

 ”本命岸田、対抗河野、大穴高市”

まず、今回の総裁選挙の勝敗の予測はどうだったか。投開票日の29日朝の時点で、全国紙、NHK、民放の主なメディアで、岸田氏が決選投票で勝つとの見通しを報道した社はなかったのではないか。

それだけ、読みにくい総裁選だった。派閥の対応も、総裁候補として派閥の会長を擁立した岸田派を除いて、支持を1本化することは見送り、自主投票としたからだ。

また、派閥が一定の票を動かして、特定の候補者を外すといった権謀術数、怪情報が投開票日直前まで飛び交ったことなども影響したかもしれない。

自民党総裁選挙で投票できるのは、全国の党員・党友110万人余りと衆参両院の国会議員に限られ、独自のルールで行われる。それだけに党員の投票行動の本音がわかるのは、党の関係者だ。

そこで、告示前に党の長老に勝敗見通しを聞いたところ、「わかりやすく言えば、本命・岸田、対抗・河野、大穴・高市ではないか」との見方を示していた。

個人的には、そこまで言い切れるのか半信半疑だったが、見通しが当たったので、さっそく電話で、改めて真意を聞いてみた。

「岸田勝利は、確信していた。但し、第1回投票で、わずか1票だが、岸田がトップには驚いた。おそらく、ここまで予測できた人はいなかったのではないか。議員や党員の多くが、河野に”危うさ”を感じたのに対し、岸田には、政策や人間的に”安定感”を感じたのではないか」と指摘する。

私なりに解釈すると、河野氏については発信力はあるが、ワクチン接種の地方への配分が混乱したほか、最低保証年金など政策の詰めの甘さが目立ち、リーダーとしての危うさを感じたのではないかというわけだ。

これに対し、岸田氏は4人の候補者の中で唯一の派閥の領袖であり、人との付き合いや、組織を運営する経験もある。政策面についても、コロナ感染収束後の経済政策などを仲間と練り上げてきたことがうかがえたとの見方だ。

当事者の見方として、個人的には、納得できる点も多い。

 世代交代進まず、実力者の影響力大

これに対して、別の見方もできる。国民に近い党員票に着目すると、河野氏が44%を獲得し、岸田氏の29%を大きく上回った。岸田氏は、逆に議員票で大きくリードした。

河野氏を支持した党員の側には「党の役員や閣僚に長老が長期間、居座っており、なんとか世代交代を進めてほしい」「派閥や、実力者が政権運営を支配するような体質を変えてほしい」といった期待がうかがえる。

このうち、派閥の関与については、若手議員が自主投票を強く要求したこともあり、派閥で支持を1本化しない異例の形になった。ところが、決選投票の段階になると派閥として、まとまって対応しようという動きも出てきた。

例えば、決選投票で岸田氏は議員票が100票程度増えたが、この増加分は高市氏の得票分のかなりが回ったのではないか。派閥の対応の仕方を変えるのは、中々、難しい。

党内実力者の影響もかなりみられた。具体的には、安倍前首相は、高市氏支援で若手議員などに頻繁に電話をかけ、ヒートアップしていたとの話を聞いた。高市氏票のかなりの部分は、安倍氏の働きかけによるとの見方が強い。

二階幹事長については、当初、菅首相再選支持で動き、派内の反発を招いたことなどから、影響力は低下しているのではないかといった声も聞く。

全体としてみると、自民党の派閥の存在や機能は中々、変わらない印象を受ける。安倍氏や麻生氏などの実力者の影響力も依然として強い。派閥、党内実力者影響力は依然として残り、世代交代、党風刷新への道のりは長いと言えそうだ。

 問われるコロナ対応、政権の信頼性

そこで、岸田新総裁が問われる点は何か。党員や国民の期待に応えられる政策を打ち出し、政権の体制づくりが進むかどうかだ。

まず、政権の最優先課題は、コロナ対策。コロナ対応は既に1年9か月、自民党は、安倍政権、菅政権の2代にわたって感染の抑え込みに失敗して、退陣に追い込まれた。

ワクチン接種の加速で、幸い今は、感染が大幅に減少している。政権の交代期だが、政治・行政の対応の空白にならないよう全力で取り組む責任がある。

特に肝心の医療提供体制については、総裁選の論戦でも、菅政権のどこを変えるのか、掘り下げた議論は乏しかった。コロナ対策に遅れが出れば、直ちに政権は失速するだろう。

もう1つは、政権の信頼性の問題だ。岸田氏は、総裁選の議論の中で、安倍長期政権の負の遺産とも言える、森友・加計問題や、財務省の公文書の改ざん問題などについての再調査や政治責任について、及び腰とも見える発言がみられた。

党員や国民の側は、総理・総裁は一部の実力者の存在を気にすることなく、国民のための政策を強力に進めてほしいという期待を抱いている。幸い、岸田氏は、若手中堅を大胆に起用する考えを表明しており、どこまで実行するのかを注目している人は多いと思われる。

岸田新総裁が、国民が期待できるような体制を組むことができるのか、自民党役員人事と組閣の布陣が大きなカギを握っている。

国民の多くは、自民党の総裁選挙の投票権を持っていないので、選挙の本番は、衆院選挙だ。自民党の総裁選後の政権の体制や方針、それに対する野党の政策や構想などをしっかり見比べて、熟慮の1票を投じたいと考えている。

 

 

 

“最後に笑う人は?”自民総裁選投開票へ

菅首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は、29日に投開票が迫っているが、党員票で河野規制改革担当相がトップに立っているものの、過半数を獲得することは難しく、上位2人による決選投票にもつれ込むことが確実な情勢となっている。

決選投票を制し、”最後に笑う候補者”は誰になるのか、混戦が続く総裁選のゆくえを探ってみたい。

 1回で決まらず、決選投票が確実

さっそく、総裁選の選挙情勢からみていきたい。知人からも誰が当選するかとの質問が寄せられているので、可能な限りわかりやすく現状を分析してみたい。

混戦が続く今回の総裁選の予測は難しい。総裁選は、全国の党員・党友110万人余りの得票を比例配分する「党員票」382票と、党所属国会議員の「議員票」382票の合計764票で争われる。このうち、党員票の動向は、大手メディアの調査や取材がないと正確な情勢は中々、つかめない。

その際、正確なデータとして最も参考になったのは、読売新聞と共同通信が党員・党友を対象に行った電話調査だ。報道各社も世論調査を行い、自民党支持層の支持動向を分析しているが、自民党支持層と党員の支持動向は一致するとは限らない。

その党員調査によると河野氏がトップに立ったものの、「得票の上限」は50%を超えそうにないことがはっきりした。また、河野氏は議員票で1位になる公算は小さいので、党員票と議員票の合計でも過半数に達しない。つまり、第1回投票では決まらず、決選投票が確実な情勢ということになる。

そうすると決選投票は上位2人に絞って行われるので、河野ー岸田、あるいは、河野ー高市の2つのケースが想定される。第1回投票の予測では、党員投票と議員投票ともに岸田氏が高市氏をリードしているので、決選投票は河野-岸田の両氏の公算が大きいというのが、今の情勢だ。

 決選投票 党内力学・選出過程を注視

さて、決選投票はどうなるか。国会議員票382票と、党員票は47都道府県ごとに上位の候補者に1票ずつ加算されて、合計429票で争われる。党員票の比重が小さくなり、議員票の比重が増すのが特徴だ。

党員票については、47票の多数を河野氏が獲得し、岸田氏は地元広島県や有力議員のいる県に限られる見通しだ。

一方、議員票は、第1回投票の予測では◆岸田氏が3割強で最も多く、ついで◆河野氏が2割台半ばで、◆高市氏が2割で追い、◆野田氏20票程度とみられている。決選投票では、まず、3位の高市氏に投じた票と4位野田氏の票がどう動くか。

高市票の内訳は、最大派閥の細田派や、安倍前首相の影響が大きい若手議員の支持が多いとみられる。こうした票の多くは、安倍氏の意向などから、岸田氏支持へ回るとの見方が強い。派閥間の申し合わせを行うかどうかは別にして、事実上の「2位・3位連合」だ。

また、派閥の中には、1回目は自主投票としたが、決選投票はまとまって投票しようという動きもあり、派閥の動きがどうなるか。

さらに、党内の実力者、具体的には安倍前首相、麻生副総理、二階幹事長、菅前首相などがそれぞれの派閥や議員集団にどのような働きかけをするのか。

このほか、衆参でも温度差があるといわれる。衆議院の若手議員の中には、間近に迫った衆院選を有利に戦うために「選挙の顔」となるリーダーを選ぼうとする傾向が強いとされる。

これに対して、参議院側は、来年夏の参院選を考えると年明け長丁場の通常国会を乗り切れる「安定感」のある総理・総裁を選ぼうとするのではないかといった見方も聞かれる。このようにさまざまな要素が絡み合い、投票箱を開けるまでわからないとも言える。

総裁選で投票権を持っている自民党員は、有権者全体のわずか1.1%。投票権のない国民の1人としては、国会議員が何を重視して1票を投じたのか、派閥や有力者の働きかけなど党内力学がどのように働いたのか、じっくり注視したい。

今の段階で、”決選投票で笑う人”を予測すれば、岸田氏か、河野氏のいずれかというのが、個人的な見方だ。あるいは、結果によっては、候補者の背後にいる実力者の中にも、”笑う人”が現れるかもしれない。

 新首相は前途多難 衆院選が本番

新総裁は10月4日に召集される国会で、第100代の新しい首相に選ばれる運びだが、その前途は多難だ。

まず、懸案のコロナ対策について、政権移行に伴う空白が生じないよう支障なく進めていく体制づくりが求められる。月末に緊急事態宣言が解除になる見通しで、ワクチン接種の促進や、冬場の感染再拡大に備えた医療提供体制の整備を急ぐ必要がある。

最大の課題は、10月21日に任期満了となる衆議院選挙だ。新総裁にとっては、選挙に勝てば問題はないが、議席を大幅に失うような事態になれば、政権は失速する。新総裁にとっては、自民党総裁選に続いて、衆院選挙でも勝てるかどうかが一番のカギを握っている。

したがって、”最後に笑う人”は、実は与党のリーダーか、それとも野党のリーダーになるのか、最終的には秋の政治決戦の結果次第ということになる。

私たち国民の側としては、国会で与野党が、焦点のコロナ対策や日本社会や経済の立て直し策などをめぐって、十分に議論を深め、双方の論点や選択肢をはっきりさせたうえで、選挙戦に入ってもらいたいところだ。

まずは自民党総裁選の投開票をじっくり観察し、秋の衆院選本番に向けて、心構えの準備を始めたい。

 

“国民目線乏しい論戦”自民総裁選

菅首相の後継を選ぶ自民党総裁選挙は、29日の投開票に向けて後半戦に入った。テレビ、新聞の政治報道は総裁選一色、特に「誰が勝つか」「1回で決まらず、決選投票で逆転か」など勝敗をめぐる予想がにぎやかだ。

国民のほとんどは投票権がないが、事実上、次の首相選びなので「何をする首相か」、特に主要政策に関心を持つ人は多いとみられる。ところが、前半戦の候補者の意見を聞く限り、主要なテーマをめぐって掘り下げた議論は乏しい。

例えば、国民の多くが高い関心を持つコロナ対策について、安倍政権、菅政権の2代にわたる失政と退陣に追い込まれた問題の核心には、どの候補者も踏み込まない。個人的には、政権の司令塔機能が果たせなかった点に大きな問題があったとみているが、4人の候補者は「欠けていたことは、丁寧な説明」などと論点をずらしているようにみえる。

「議員投票では党内実力者の支持が必要であり、政権や執行部に厳しい意見を言えるわけがない」との反論が聞こえてきそうだが、そのような腰の引けた対応では次の総理・総裁として、国民の信頼を得ることはできない。

コロナ対策は自らが就任した場合も、直ちに真剣勝負が迫られる最優先課題だ。それだけに後半戦の論戦では、各候補者は主要テーマを絞り込んで、踏み込んだ論戦を望みたい。こうした結論や注文をする理由、背景などについて、以下詳しく説明したい。

 コロナ対策、総括なき議論の限界

今回の総裁選で国民の関心が最も高いコロナ対策から、具体的にみていきたい。4人の候補者の主な主張を手短に確認しておくと次のようになる。

◆河野規制改革担当相は「ワクチン3回目接種の準備」、◆岸田前政務調査会長「健康危機管理庁の設置」、◆高市前総務相「ロックダウンの法整備検討」、◆野田幹事長代行「臨時病院の整備」など独自政策のアピールに懸命だ。

これに対し、国民の側が聞きたい点は、安倍前首相と菅首相が2代にわたってコロナ対策に失敗して退陣に追い込まれた原因は何か。自ら首相に就任した場合、その教訓を生かして、何を最重点に取り組むのかという点に尽きる。

ところが、4人の候補者とも「欠けていたのは、丁寧に説明するということ」「国民に対する丁寧な説明」など説明の仕方の問題に論点をずらしている。

振り返ってみると菅政権では、1月に2回目の緊急事態宣言を出して以降、飲食店の営業時間短縮の1本足打法を長期にわたって続けた後、5月頃からはワクチン接種最優先の1本足打法へと切り替わった。

しかし、その後も感染急拡大と医療危機は収まらず、夏場になって3本柱、感染抑制、ワクチン接種、医療提供体制整備の対策がようやく打ち出された。この間、菅政権はコロナ対応について、まとまった評価、総括をしないまま退陣を迎えようとしている。

今回の総裁選の議論では各候補者とも、安倍前政権や菅前政権の対応策についての評価には踏み込まず、ワクチン接種や新薬の開発などの個別の問題について議論を続けている。このため、国民の側からすると、4人の候補者は菅政権のどこを変え、何を最重点に取り組もうとしているのか、さっぱり伝わってこない。

また、各種の討論会やテレビ番組の議論を聞いても、司会者側から、これまでの経緯や事実に基づいた具体的な質問がほとんどなされないため、問題の核心に触れるような議論に発展せず、説得力を持たない形に終わっている。

今月末に期限を迎える緊急事態宣言は、感染の減少傾向がはっきりしてきたことから、19都道府県で全面的に解除される公算が大きい。新総裁・新首相は、就任後直ちに対応を迫られるので、これまでの政権の対応の評価や総括については、後半戦の議論の中で決着をつけておく必要がある。

 外交・安保の基本構想の明示を

次に外交・安全保障の問題がある。米中対立が続く中で、特に中国とどのように向き合うのか。そして、日本が国際社会の中で、どんな役割を果たすのか、知りたい点だ。

また、台湾海峡の安定や香港の民主主義の問題をはじめ、北朝鮮のミサイル開発、敵基地攻撃能力の保有や、サイバー攻撃への対応など個別問題も多く抱える中で、最大の貿易相手国である中国との外交をどのような考え方や原則に基づいて進めるのか。

さらに、自衛隊の整備の進め方、防衛予算の扱いも問題になる。日米同盟を基軸に日本は、アジア太平洋地域の平和と安定にどのような役割を果たすのか、軍事面だけでなく、外交力を含めて基本的な構想を明らかにする責任がある。

 政治姿勢 信頼回復への具体策は

国民の関心事項の3つめは、政治・行政の信頼回復に関わる問題だ。

安倍長期政権と後継の菅政権では、政治とカネをめぐり主要閣僚が辞任したり、衆参議員が議員辞職したりする事態が続いたほか、財務省の決裁文書の改ざんという前代未聞の不祥事などが相次いだ。

また、官僚の政権に対する忖度や委縮も目につき、「官僚のあり方」も何とかしないと、官僚の政策提案能力も失われてしまうのではないかと危惧している。

こうした長期政権の「負の遺産」にどう対処するか。4人候補者は、この点でも踏み込み不足が目立つ。議員投票で党内実力者の反発を避けたいという及び腰がうかがえる。

不祥事にケジメをつけ、政治・行政の信頼回復を取り戻すことは、コロナ対策をはじめ政治課題の実現に向けて、国民の協力を得るための前提条件でもある。

疑惑や不祥事については、国会の政治倫理審査会などで必ず説明させることや、公文書の保存と公開、政治と官僚の関係の見直しなど自らの政治姿勢を明確にすることは避けて通れないのではないか。

自民党のベテランに話を聞くと「今回の総裁選の顔ぶれをみると、正直なところ、小粒という印象は避けられない。長期政権下で人材育成を怠ったつけが、人材不足という形で現れている」と不安をもらす。

こうした不安を払拭するためにも、各候補者は主要なテーマについて、自らの考えや構想を明らかにするとともに、具体的にどんな政策に取り組むのか、鮮明に打ち出すことを求めておきたい。

そして、総裁選の後半戦では、個別の問題への対応を羅列するのではなく、党員や一般有権者が大きな関心をもっている主要なテーマに絞り込んで「何をめざすリーダーか」がわかる論戦に切り替えてもらいたい。

自民党の総裁選挙で投票できる党員は110万人、有権者全体の1.1%に過ぎない。但し、事実上の次の首相を選ぶ選挙であり、次の衆議院選挙で多くの有権者の判断材料にもなるようなリーダー選びが問われているのではないか。

なお、総裁選の選挙情勢については、前号でお伝えした内容と基本的に変わっていない。党員投票では、河野氏が大きくリードしているが、議員票と合わせて第1回の投票で、過半数を得て決まる状況にはないとみている。

決選投票に持ち込まれる公算が大きく、岸田氏、河野氏、高市氏がそれぞれ当選するケースが予想され、23日夜の時点で情勢は、なお流動的だとみている。

 

混戦の自民総裁選 勝敗の読み方 

菅首相の後継を選ぶ自民党の総裁選挙は17日告示され、届け出順に河野太郎・規制改革担当相、岸田文雄・前政務調査会長、高市早苗・前総務相、野田聖子・幹事長代行が立候補した。

これによって、総裁選挙は4人で争われる構図が最終的に決まり、29日の投開票に向けて、選挙戦が始まった。

「今回の総裁選挙は、誰が勝つのか」という質問を受けることが多いので、選挙の勝敗面について、どこが大きなポイントになるのか探ってみたい。

 勝敗予測、根拠あるデータなし

自民党の総裁選挙は、47都道府県連の党員・党友が投票する「党員票」と、党所属の衆参両院議員が投票する「議員票」の合計で決まる。第1回の投票で、過半数を得た候補者が当選となるが、過半数に達しない場合は、上位2人に絞って、決選投票が行われるのが基本的な仕組みだ。

そこで、候補者4人のうち、誰が優勢なのか。結論を先に言えば、今の時点で正確な予測をするのは困難というのが、本当のところだ。というのは、今回の総裁選は、今の段階では、党員の意向調査や派閥の票読みなど一定の根拠のあるデータがほとんどないからだ。

報道各社の世論調査では、次の新総裁に誰がふさわしいかを質問したりしているが、かつて大手全国紙が行ったような自民党員を対象にした調査ではない。

また、立候補を断念した石破元幹事長が含まれたりして、今の候補者の構図とも食い違っている。

さらに、国会議員についても、今回は岸田派を除く各派閥は、特定候補の支持を1本化せずに自主投票にしており、派閥単位で国会議員票を予測するのは難しいからだ。

 党員票は河野氏優位か、上限は?

そこで、自民党の長老に勝敗のゆくえを聞いてみた。長老曰く「注目しているのは、党員票で河野が最大どの程度、獲得できるか、上限の見極め。それによって、1回戦で河野が大量得票して決着がつくか。それとも決選投票に持ち込まれ、例えば岸田が逆転するか、2つのケースが想定される」と指摘する。

報道機関の世論調査で「次の新総裁にふさわしい候補者」は、自民支持層でも河野氏を挙げる人が最も多く、河野陣営も第1回投票で決着をつけたい考えだ。その際、河野氏がどの程度の支持を集めることができるかどうかが、ポイントになる。

かつて小泉純一郎氏が、橋本龍太郎元首相らに大差をつけて当選を決めた2001年の総裁選。都道府県連単位の党員の予備選では、小泉氏が党員票全体の87%を獲得して圧勝した。但し、この時は各都道府県でそれぞれ第1位の総どり方式で、今のドント方式とは仕組みが異なっていた。

自民党関係者に聞くと「河野氏が過半数を獲得する可能性はあるが、6割、7割も獲得するのは難しいのではないか。そのような勢いは、感じられない。野田聖子氏の立候補で、党員票はさらに分散する。河野氏は議員票の方では多くを期待できないので、1回戦での決着は難しいのではないか」との見方を示す。

なお、党員票は全国110万人余りの党員が各都道府県連単位で郵送で投票。全国集計され、国会議員票と同じ383票が各候補の得票比率に応じて、ドント式で配分される。決選投票の場合は、各都道府県の1位が1票を獲得して加算される。

 議員票 若手や衆参議員など複雑

議員票は、党所属の衆参両院議員の383票で争われる。若手議員から、派閥の締め付けを行うべきではないという意見が強まり、会長が立候補した岸田派を除く6つの派閥は、候補者を1本化せず、自主投票という異例の形になった。

派閥の存在感の低下は著しいが、自民党は派閥に代わる人事システムを未だに見いだせていない。このため、ポスト配分や選挙の応援などの際には、派閥が機能しているのも事実だ。

また、総裁選の時には、派閥の領袖を中心に結束して対応する役割を果たしてきた。ところが、今回はこの役割も果たせなくなったわけで、自民党の体質の変化が一段と進んでいるようにみえる。

さて、議員票で注目されるのは、若手議員の対応だ。衆議院の当選3回以下の議員は120人余りもいて、全体の半数近くを占める。このうち、選挙基盤の弱い議員は今回、自らの選挙を有利に運ぶため、「選挙の顔」の要素を重視して総裁を選ぶのではないかとみられる。

また、安倍前首相、麻生副総理、二階幹事長、さらには菅首相など実力者や派閥の幹部は、それぞれの影響力を残そうと行動するのではないかとみられている。立候補を断念した石破元幹事長が河野氏を支援する動きと、それに対抗する動きも影響してくるのではないかという見方もある。

さらに、衆議院議員と参議院議員との間で、温度差もみられるという。どういうことかと言えば、衆議院議員の側は、どうしても近づく衆院選挙を意識して、有権者の人気の高いリーダーを選ぼうとする。

これに対して、およそ110人いる参議院議員の半数は来年夏に、参議院選挙を迎える。来年の通常国会を乗り切るなど安定した国会運営や政権運営ができるリーダーを重視し、衆参で違いが出てくるのではないかというわけだ。

このように今は、まだ各議員がどのような投票行動を取るのか様々な要素が絡み合っている。このため、各候補の陣営がどの程度、議員票を獲得できるか票読みできる状態に至っていないように感じる。

但し、先の長老に再び見通しを聞くと「決選投票に持ち込まれた場合、国会議員票は383票、党員票の方は各都道府県1票ずつの47票に比重が低下する。このため、河野氏に対抗する陣営が足並みをそろえると、河野氏以外の候補、例えば、岸田氏が逆転したりするケースも起こりうる」と予想する。

以上を整理すると、1回戦で決着がつくのか、それとも決選投票までもつれるのか、大きな分かれ道ということになる。その際第1回投票で、比重が増した党員票を各候補がどのように分け合うかの割合が、大きなカギを握ることになる。

 総裁選の論戦、衆院選への準備も

自民党総裁選の構図は、告示前日にようやく固まった。このため、党員の多くは、これまでとはちがって、各候補がどんな政策を掲げているのか、政策論争を聞いた後で、投票をすることになるのではないか。

このため、17日に日本記者クラブで予定されている候補者同士の討論会が注目される。候補者間の論争は、党員、国会議員にも影響を及ぼすことになると思われる。

一方、私たちのような多くの有権者は、自民党員ではないので、総裁選に投票できるわけではない。まもなく実施される次の衆議院選挙が、選挙の本番ということになる。

政権与党の総裁選び、それに対する野党の反応や政策、さらには、総裁選後には新しい首相を指名するための臨時国会も10月初めには開かれるので、新首相と野党の各党首との論争も聞きたいところだ。

コロナ対策、医療体制の強化、経済・社会の立て直し、外交・安全保障など様々な問題を抱える中で、私たち有権者は何を重視して選択をするか、熟慮の1票を投じる準備を始めたい。

菅首相 退陣への身の処し方

菅首相は9日夜の記者会見で、自民党の総裁選挙に立候補せずに退任することになったことについて「12日の緊急事態宣言の解除が難しく、コロナ対策に専念すべきだと判断した」とのべるとともに「最後の日まで全身全霊を傾けて取り組んでいく」と強調した。

菅首相が実際に総理・総裁を退任するのは10月上旬の見通しで、およそ1か月先になる。コロナ危機が続く中で、事実上の退陣が決まっている首相が、政権運営を続けることは「権力の空白」を招かないのかどうか。また、「退任までに為すべきこと」は何かを考えてみたい。

 衆院選投票ずれ込み11月か

最初にこれまでの経緯と、今後の政治への影響などを整理しておきたい。

菅首相は自民党総裁選挙について、時期が来れば再選に向けて立候補する考えを繰り返して表明してきた。党役員人事の刷新や、衆院解散・総選挙の断行も検討されたというが、今月3日、一転して立候補しない考えを自民党の臨時役員会で表明し、内外に大きな衝撃を与えた。

歴代首相は退陣の意向を表明した際には、その日のうちに記者会見をして、理由や背景などを説明してきたが、菅首相は3日に記者団のぶら下がりに2分間程度応じただけで、記者会見は行わなかった。

今回、緊急事態宣言延長の方針が決まったのを受け、その説明の記者会見の中で、退任にも触れる形を取った。

菅首相は9月末の総裁任期満了まで退任しないため、実際に総理・総裁を辞めるのは、10月上旬になる見通しだ。総裁選と次の新総裁が国会で首相指名を受ける手続きが必要なためだ。およそ1か月総理・総裁を続け、今月下旬には首脳会合に出席するため訪米も検討されている。

さらに次の衆院選挙の投票日は、衆院議員の任期満了日を越えて11月上旬以降にずれ込む異例の日程になる見通しだ。

 「12日の宣言解除難しい、心に残る」

さて、菅首相は9日の記者会見で、総裁選への立候補を取りやめたことについて「12日の宣言解除が難しく、やはりコロナ対策に専念すべきだと思い、総裁選に出馬しないと判断した」と退任の理由を説明した。

また、記者団から「自民党役員人事や、衆議院解散・総選挙の戦略が行き詰ったことが影響したのか」などと質問が相次いだ。

これに対し、菅首相は「党役員人事は総裁の専権事項だ。解散時期のシミュレーションは行った。ただ、12日の宣言解除が常に頭の中にあり、心の中に残っていた」とのべ、緊急事態宣言の解除が困難になったことが、退任の決断に大きく影響したという考えを繰り返した。

 「退陣までに為すべきこと」菅首相

以上のような菅首相の対応をどうみるか。まず、国政の最高責任者が自らの進退の決断をした場合は、国民、国家に大きく影響するだけに、歴代の首相のように直ちに緊急の記者会見を行って、退任の理由を説明すべきだった。

また、次の新総裁・新首相が決まるまで、時間がかかりすぎるのではないか。自民党の総裁選挙の日程が入っており、難しいとの答えが予想されるが、身内の代表を選ぶ政党の選挙であり、選挙日程を早めたり、短縮したりすることはあり得たのではないか。

特に今回は、衆議院議員の任期満了が迫っており、国民の権利そのものを制約する。また、政権の事実上の空白期間はできるだけ短くした方がいいと考える。

次に、今の政治日程を変えないというのであれば、「退陣までに為すべきこと」を明確にして実行してもらいたい。具体的には、「コロナ対策の総括」をきちんと行ってほしい。うまくいった点や、問題点・反省点を率直に整理することは、次の政権に引き継ぐうえでも必要だ。

菅政権のコロナ対策については、当ブログで何度も「政権としての総括」をすべきだと指摘してきた。菅首相は緊急事態宣言を出したり、解除したりするたびに記者会見を行ってきたが、自らの政策をどのように評価しているのか、まとまった総括は、残念ながら一度も行ってこなかった。

去年9月16日に政権を担当して以来、1年になる。◆政権発足当初は、コロナ対策を優先事項に位置づけながら、実際には携帯料金の値下げなどの独自色にこだわった。

◆GOTOトラベルを優先、コロナ感染の抑え込みが遅れたのではないか。◆飲食店の営業時間短縮を中心にした1本足打法にこだわった。感染抑制、ワクチン接種、医療提供体制整備の3本柱対策をもっと早く取り組むべきではなかったか。

◆最近、ようやく感染者数は減少傾向が表れているが、重症者は多く、入院できない入院待機者は全国で13万人にも上っている。国と自治体は連携して臨時医療施設の増設などに取り組んでいると強調するが、医療従事者の確保を含め、どこまで対策が進んでいるのか詳しい状況の説明がない。

菅首相は、「最後の日まで職務に全力で取り組んでいく」と表明した。そうであるならば、この1年間のコロナ対策について、政治・行政の立場で総括を行い、国会に報告、与野党が論戦を交わし議論を深めるべきだ。

特に国民の関心が強い、医療提供体制の改善はどこまで進んだのか、国と地方自治体の今後の計画の見通しも明らかにして、今後に生かすべきだ。

自民党の総裁選挙が17日から始まるが、国民のほとんどは投票権を持っていない。次の衆院選挙が本番で、どんな政治家、どの政党に政権担当を委ねるかを選択することになる。

内閣は連帯して国会に責任を負うのが、憲政の本来の姿だ。党利党略でなく、菅政権の取り組みをはじめ、与野党の意見を国会で戦わせ、国民への判断材料を提供してもらいたい。菅首相の最後の大きな責任であり、「退任への身の処し方」だと考える。

菅首相退陣と政権与党の政治責任 

菅首相は3日の臨時役員会で、自民党総裁選挙に立候補しない考えを表明した。これによって、今月末に自民党総裁任期が満了するのに伴い、総理大臣を退任することになる。菅政権は1年で、幕を閉じることになった。

実は、自民党長老の1人は「総裁選挙から衆院選挙にかけて、菅首相は退陣に追い込まれることがあるのではないか」と予言していた。さっそく、今回の退陣の理由・背景について、聞いてみた。

「結論は、コロナ対策の失敗が大きい。菅首相はワクチン接種で感染を抑え込めると自信を示していたが、重症者は過去最多を更新、入院できず自宅療養者も多数に上り、事態は好転していない」。

「加えて、総裁選でも再選が難しくなった。直接的には、総裁選直前の党役員人事が難航、引き受け手もいなかった。八方ふさがり、万策尽きた」と指摘する。

以上のような点に加えて、「人心」がすっかり政権から離れてしまった。内閣支持率は30%を切って政権発足以降、最低を更新。総裁選に続いて、衆院決戦の本番を控え、大きなダメージを負ってしまった。

さらに東京オリンピック・パラリンピックを成功させ、9月の早い段階で衆院選挙を断行、その後、自民党総裁選を無風で乗り切る当初のシナリオも崩れた。

そして、岸田前政調会長が立候補を表明した後、菅首相の対応は、場当たりが目立ち、迷走に次ぐ迷走。総裁選告示までには立候補見送りに追い込まれるのではないかと個人的にはみていた。

なお、冒頭に紹介した、この長老は秋の政局の見通しにつて「菅首相は、自民党総裁選と、衆院選の2回の選挙を連続して勝ち抜く必要がある。コロナ対策を抱え、政治責任と進退を問われる時期が必ず、来るだろう」と語っており、その通りの展開になった。

 総裁選仕切り直し、勝敗のカギは

さて、自民党総裁選は仕切り直しになったが、どうなるか?

既に立候補を表明しているのが、岸田派会長の岸田前政調会長と高市前総務相。3日には河野規制改革担当相、野田聖子幹事長代行が意欲を示した。石破元幹事長や下村政調会長の名前も挙がり、それぞれ立候補を検討している模様だ。

このうち、注目されるのは河野規制改革担当相で、世論調査で知名度が高い。問題は、ワクチン接種の担当閣僚だ。希望者全員のワクチン接種完了をめざしている大詰めの段階で、総裁選への立候補に支持が得られるかどうかが、カギだ。

石破元幹事長も「全く新しい展開となった。同志と相談して結論を出す」と立候補に含みを持たせている。石破氏も次の総理候補として高い人気がある。問題は、推薦人20人を集めることができるかどうかと、弱点の国会議員票に広がりが出てくるか。

候補者の顔ぶれと構図が決まった段階で、総裁選の情勢を取り上げたいが、今の時点での注目点は何か。総裁選は一般党員票と国会議員票の合計で決まる。党員の支持と同時に、議員票はやはり派閥の支持が影響する。

今の時点では、岸田、河野、石破の3氏を軸に動くとみているが、どうなるか。現職の総裁は立候補せず、新人同士の争いになる。派閥の大勢、実質的な支援がどの候補に向かうかが大きなポイントになるとみている。

 政争よりコロナ、選挙設定の責任

自民党内では総裁選で激しい選挙戦を繰り広げると、メディアを独占、党の支持率も上昇、衆院選で自らの当選に有利に働くと期待する声は多い。

ところが、今の有権者はそれほど甘くはない。コロナ感染危機が長期化する中で、政治家不信は極めて強い。総裁選の多数派工作は、私的な権力闘争とみなして厳しい評価を下すのではないかとみる。

新規感染者数は減り始めているが、新学期が始まり、子供たちへの感染が広がり始めた。50歳代以下の若い世代の感染、入院が増えている。重症者数は過去最多、病床はひっ迫し、自宅療養者は全国で13万人を超える。命の危機と隣り合わせで暮らしていることを忘れてもらっては困る。

具体的には、12日に期限を迎える緊急事態宣言はどうするのか。また、医療危機に対する具体策はどこまで進んだのか。菅首相は、自らの進退に言及する前に、コロナ対策の総括、今後の対策のメドをつけておくべきで、今回の進退は一国のリーダーとして責任ある対応とはとても思えない。

もう一つ重要な問題がある。衆議院議員の任期が10月21日に迫っているが、次の衆院選挙はいつ行うのか、国民の権利に関わる問題が放置されたままだ。

今の総裁選の日程で新総裁を選ぶと、国会での首相指名選挙などが行われ、衆院選挙は議員の任期満了日を越えて行われる公算が大きい。

また、国政選挙を控えて、国会は与野党が論戦をしっかり行い、国民が知りたいコロナ対策などを議論したうえで、審判を仰ぐのが本来の姿だ。

政権与党として、首相指名選挙や国会論戦、それに衆院選挙の期日などについて、野党側とも協議したうえで、日程案をまとめ、国民に説明する責任を負っている。こうした点について、菅首相や与党は一切、説明していない。

政権与党は、総裁選をめぐって政争に明け暮れるのではなく、国民生活や経済の安定を真剣に考えようとしているのか、感染の抑え込みに具体策を打ち出すことができるのか、国民は厳しく注視していることを忘れないでもらいたい。

 

 

 

幹事長交代の舞台裏と衆院選の時期

自民党総裁選挙をめぐる動きが、あわただしくなってきた。菅首相が再選に意欲を示しているのに対し、岸田・前政務調査会長や高市早苗・前総務相が立候補の考えを明らかにした。

こうした中で、菅首相は、二階幹事長を含む自民党役員人事を行う意向を固め、党内の根回しを始めた。総裁選直前に幹事長を交代させるのは、極めて異例だ。

総裁選をめぐる自民党内の動きや二階幹事長交代の舞台裏、さらに衆院選挙の実施時期はどうなるのか、探ってみたい。

 二階幹事長交代の舞台裏

菅首相は8月30日午後、総理官邸で二階幹事長とおよそ30分間会談した。菅首相は追加の経済対策の検討を指示する一方、幹事長交代を検討していることを伝えた。これに対し、二階幹事長は「遠慮せずに人事を行ってもらいたい」と述べ、受け入れる考えを示したという。

自民党役員の任期は党則80条で「総裁は3年とし、その他はすべて1年」と規定されているので、今回の人事も党則上は問題はない。しかし、3週間もしないうちに自民党総裁選が告示される時に「党の要」を交代させるのは異例だ。

自民党関係者に、このねらいをきくと「岸田氏が立候補の際、打ち出した党改革の『争点外し』のねらいが大きいのではないか」と指摘する。

岸田氏は総裁選立候補にあたって「党役員は任期1年連続3期までという党改革」を打ち出した。これは、具体的には安倍・菅政権下で5年以上も幹事長を続けている二階幹事長に焦点を当て、総裁選の争点にするねらいがあると受け止められていた。

このため、菅首相としては、二階氏を交代させることで、総裁選の争点から外すねらいがあるのではないかというわけだ。

また、この党関係者は「二階派の中で、二階さんに近い人の中からも『晩節を汚さない方がいい』との声が出ていた」と語り、二階派内が一枚岩ではないことを把握したうえで、菅首相が交代論を持ち出したとみる。合わせて、党刷新のイメージと自らの求心力も高めたいというねらいがあるとの見方をしている。

党役員人事は6日にも行われる見通しだが、新たな幹事長はたいへんだ。自民党総裁選は目前で、衆議院選挙も迫っている。幹事長として手腕を発揮するには、あまりにも時間が短すぎる。

本来は、通常国会が終わった後の6月頃にも人事を行い、幹事長人事をはじめとする体制を整えて衆院決戦に臨めばよかったのだが、急遽のリリーフ登板で、衆院決戦で勝利できるか、不安を抱えて選挙戦のかじ取りとなる。どこまで、政権浮揚に効果があるかも疑問だ。

 総裁選 石破氏の動向も焦点

総裁選挙への立候補者については、下村博文・政務調査会長が意欲を示していたが、党三役は立候補を自重すべきだとの猛烈な批判を浴びて断念に追い込まれた。高市早苗・前総務相も意欲を示しているが、推薦人を集めることができるかどうかはっきりしない。

一番の焦点は、石破元幹事長が立候補するかどうかだ。石破氏は自らの派閥の退会者が相次ぎ、推薦人20人の確保のメドがつかないため、立候補に慎重とみられていたが、「全くの白紙だ」とのべるなど、これまでの姿勢に変化がみられる。

政界では「地方の党員などから、久しぶりに石破待望論が出ており、最終的には立候補に踏み切るのではないか」との見方も出ている。

一方で、石破氏が立候補すれば、岸田氏との間で地方票が分散し、菅首相にとって有利に働くとの見方もあり、立候補した場合の影響などを見極めようとしているのではないかといった見方も聞かれる。

このほか、菅首相は国会議員票では優勢とみられているが、今回は二階派を含めて派閥の締め付けがきかず、若手を中心に「菅離れ」が強まり、苦戦を強いられるのではないかとの見方も聞く。

このように総裁選の情勢は流動的で、候補者の顔ぶれがはっきりしてきた段階で、改めて取り上げたい。

 衆院選の時期 10月から11月か

それでは、私たち有権者が1票を投じることができる衆院選挙はいつになるのか、できるだけわかりやすく説明したい。基本は、次のような2つの日程・考え方に整理できる。多少ややこしいが、お付き合い願いたい。

◆1つは「10月5日公示、17日投票」の日程。公職選挙法31条では、任期満了選挙は「任期満了の日から前30日以内に行う」規定されている。

任期満了日は10月21日。その前30日の期間の中で、最も遅い日曜日で、17日投票となる。衆議院の解散ではなく、任期内なので、閣議で選挙期日を決めることができる。

但し、問題はその直前に自民党総裁選があり、菅首相ではなく、別の新総裁が選ばれた場合は、国会で首相指名選挙を行う必要があり、数日かかるので、この日程では物理的に無理がある。

菅首相は自らが選出されるので問題ないとの判断かもしれないが、ほかの候補者が当選することもありうるので、問題の多い判断だと言わざるを得ない。

◆2つ目は、臨時国会を10月上旬か、それ以降に召集、任期満了をまたぐが、「10月末から、11月下旬までの間に投票を行う日程」。具体的には、投票日は最も早い場合で10月31日。最も遅い場合は11月28日。その間の日曜日も設定できる。

このケースは、衆院を解散する方法(解散日から40日以内に実施)、あるいは任期満了で、解散せずに国会閉会後、一定の期間で選挙期日が決まる方法のいずれかを選択できる。

但し、これらの日程はいずれも、10月21日の任期満了日をまたいで投票する日程になる。公職選挙法上は可能とされるが、基本から外れる特例で問題は多いとの指摘もある。

2つのケースとも問題を抱え、その原因は自民党総裁選の設定の仕方に問題があると考えるが、今の政治日程のままで進むと、衆議院選挙は「10月から11月にかけての選挙」になる公算が大きいとみている。

 コロナ対応評価 一番のカギか

最後に、次の衆院選挙で、国民は何を重視するだろうか。自民党の総裁選びの駆け引きや党内抗争は、有権者にとっては所詮、途中経過の話に過ぎない。

◆選挙で最も重視する点と言えば、第1は、コロナ感染の抑え込みと医療提供体制をどうするかということになるのではないか。

また、生活支援や事業者支援、経済活動再開への取り組みも論点になる。その際、政府のコロナ対応の評価はどうか「政権の実績評価」が判断のベースになる。

◆2つ目は、衆議院選挙は政権選択選挙だ。どんな政治家、政治集団に政権担当を委ねるのか。特に政党のリーダーの資質や能力、「党首の顔・力量」が大きな判断材料になる。

◆3つ目は、コロナ激変時代の政治のあり方をどう考えるか。国際社会との関係、外交・安全保障のあり方、人口減少社会への対応など中長期の課題を含め、自らの判断でしっかりした政治家、政治集団を選びたい。そのための判断材料を集め、何とかコロナ激変時代を乗り越えていきたいと考える。

自民総裁選 党員投票が焦点 ”コロナ対応”も影響

秋の政局の焦点になっている自民党の総裁選挙は、9月17日に告示、29日に投開票を行う日程が、正式に決まった。

一方、岸田前政務調査会長は26日午後、自民党総裁選に立候補する意向を表明し、総裁選挙は、再選をめざす菅首相を含め複数の候補者で争われることが確実になった。

これによって、秋の政治日程は、自民党総裁選が先行し、続いて衆院選挙が実施されることが固まった。一方、コロナ感染は収束のメドが立っておらず、総裁選や衆院選挙にも大きな影響を及ぼし、波乱含みの展開になりそうだ。

 自民総裁選 党員投票がカギ

さっそく、自民党総裁選挙から見ていきたい。岸田前政務調査会長は26日午後、国会内で記者会見し、「感染拡大が長期化する中で、国民の間では、自分たちの声が自民党に届いていないと感じている。自民党が国民の声を聞き、幅広い選択肢を持つ政党であることを示すため、総裁選に立候補する」とのべ、総裁選挙への立候補を正式に表明した。

そのうえで、新型コロナ対策については、人流の抑制をはじめ、重症者用の病床や医療人材の確保などに強力に取り組むとともに、感染収束後の社会経済活動のあり方を検討するため、幅広い分野の専門家で構成する新たな組織を立ち上げるなどの考えを示した。

このほか、高市早苗前総務相や、下村政務調査会長も立候補に意欲を示している。このうち、高市氏は立候補に必要な推薦人20人が集まるかどうか、下村氏に対しては党三役は立候補を自重すべきだといった声が出されている。

総裁選をめぐって、菅首相は既に「時期が来れば、出馬する考えに変わりはない」と再選をめざす考えを表明している。

岸田氏は46人の議員が所属する岸田派の会長で、去年の総裁選に続いて2回目の挑戦になる。今回の総裁選は、菅首相と岸田氏を軸にした戦いになるのではないかという見方が出ている。

菅首相が選出された去年の総裁選挙は、安倍前首相の突然の辞任表明を受けて行われたため、自民党所属の国会議員393人と47都道府県連の各代表3人(計141人)だけによる「簡易型」の方式で実施された。

今回は任期満了に伴う選挙で、全国一斉の党員・党友投票と、国会議員投票の両方を行う「完全実施型」で行われる。具体的には、国会議員の383票と、同じく383票が党員投票に配分されるため、党員票の比重が増すことになる。

立候補者の顔ぶれがまだ固まっていないことと、投票日まで4週間もあるため、選挙情勢を論評できる段階にないが、自民党関係者に聞くと次のような見方をしている。

「菅首相は、二階幹事長をはじめ、安倍前首相や麻生副総理ら幹部クラスの支持を得ているので、国会議員票では優勢ではないか。一方、党員の評価は国民世論に近いので、菅首相にはかなり厳しい判断が示され、若手議員にも影響する。いずれにしても情勢は流動的で、激しい選挙になりそうだ」と予想している。

 衆院選は10月以降の公算大

それでは、衆院解散・総選挙はどうなるだろうか。

最初に主な日程を確認しておくと、◆9月5日に東京パラリンピックが閉幕、◆12日に東京などに出されている緊急事態宣言の期限を迎える。◆17日に自民党総裁選が告示され、29日に投開票が行われる。◆10月21日が衆議院議員の任期満了日になる。

菅首相は当初、東京パラリンピック閉幕後、直ちに解散・総選挙を断行する考えだったとされるが、感染急拡大や、横浜市長選で支援候補が大敗したため、見送らざるを得ない情勢だ。

それでは、どうなるのか、自民党の長老に聞くと「菅首相は、新型コロナ対策を最優先すると繰り返している。具体的な目標として、9月末に6割近くが2回接種を終える。10月初旬にすべての対象者の8割に接種できるワクチンを配分すると約束している。そうすると9月解散は見送らざるを得ず、10月前半の解散を模索するのではないか」との見方をしている。

その場合、菅首相は総裁選挙に勝利して求心力を回復したうえで、10月前半に臨時国会を召集、衆院を解散・総選挙に臨むケースが想定される。

但し、コロナ感染拡大が収束していない場合は、解散できずに10月21日の任期満了による選挙になるケースもある。

さらに、総裁選で菅首相が敗れるケースもありうる。新しい総理・総裁が選ばれ、政治日程は大幅に変わる。臨時国会が召集され、首相指名選挙が行われ、新内閣が発足した後、各党代表質問も行われる可能性がある。

このケースでは、新内閣が解散に踏み切る場合と、10月21日の任期満了選挙になる場合とがあり、投票日は11月14日、21日、28日が想定される。

このように、総裁選の結果によって衆院選の時期は、大きく変わることになる。

 コロナ対応が選挙情勢を左右

総裁選と衆院選の選挙情勢を左右する、もう一つ大きな要素として、コロナ感染状況と政府対応の問題がある。

国民の最大の関心は、感染爆発の抑え込みと医療崩壊を防ぐことにある。このため、総裁選と衆院選の争点も、感染抑制や医療提供体制の問題になるのではないか。

具体的には「菅政権のコロナ対策の実績評価」に焦点が当たり、選挙結果に大きな影響を及ぼす。菅政権は、医療体制の構築、感染防止、ワクチン接種という3つの柱からなる対策を着実に進めると強調している。

9月12日の緊急事態宣言の期限の時点で、感染や医療体制はどうなっているか。10月から11月にかけてのワクチン接種の進捗と感染減少効果は現われているか。コロナ感染と医療体制の状況によって、秋の政局は激しく揺れ動くことになりそうだ。

 

”横浜ショック”菅政権を直撃 秋の政局激動へ  

過去最多の8人が立候補し激戦が続いてきた横浜市長選挙は22日投票が行われ、立憲民主党推薦で、元横浜市立大学教授の山中竹春氏が、初当選を果たした。

前の国家公安委員長で、菅首相が全面的に支援した小此木八郎氏は支持が広がらず、及ばなかった。横浜市長選は菅首相のおひざ元の選挙で、小此木氏は閣僚を辞任しての挑戦、しかも菅首相が全面的に支援してきただけに、敗北の衝撃は大きい。

小此木氏敗北の要因と、秋の政局に及ぼす影響を探ってみる。

 小此木氏敗北、3つの要因

横浜市長選は、元横浜市立大学教授の山中竹春氏と、前国家公安委員長の小此木八郎氏が競り合い、4期目をめざす林文子市長が追う構図になっていた。

当初は小此木氏の当選か、候補者乱立による再選挙かといった見方も出ていたが、結果は、山中氏の圧勝に終わった。

山中竹春氏が50万6392票、小此木八郎氏32万5947票、林文子氏19万6926票などで、山中氏が大差をつけて初めての当選を果たした。

父親から政治家の座を引き継ぎ、閣僚まで務めた小此木氏が敗北した要因は何か。地元関係者の話を総合すると、次のような点をあげることができる。

1つは、保守分裂の影響で、小此木氏は自民支持層を固めることができなかったことが大きい。林市長の後継選びが難航の末、小此木氏が立候補に踏み切ったが、カジノを含むIR誘致をめぐる意見の対立から、林市長も立候補して双方が激しい戦いを繰り広げた。

小此木氏を支援する菅首相の陣営も舞台裏で、政権関係者が林氏を支持する企業などの切り崩しを図ったが、思うような効果は上がらなかったとされる。

2つ目は、選挙の争点への対応の問題がある。争点となったカジノ問題について、小此木氏はカジノ誘致反対を打ち出したが、IR推進役の菅首相の支援を受けたことで、当選後に反対姿勢を覆すのではないかとの疑念が地元で広がったという。

また、もう一つの争点になったコロナ対応についても、菅首相の支援を受けたことで、菅政権のコロナ対策に対する有権者の不満や批判の逆風を、小此木氏がまともに受ける形になった。

3つ目は先ほど触れたコロナ対策とも関連するが、菅首相が地元の選挙に自ら全面的に関与することになったことで、有権者側に「菅首相にモノ申したい」という受け止め方が広がり、選挙の流れが変わってしまったという見方がある。

地元関係者に聞くと「小此木氏は当初、運動に勢いがあったが、菅首相が小此木氏と対談、全面的に支援することを明言したというタウンニュースが配られた後、急速に勢いを失っていった」と振り返る。

知名度も高い小此木氏が大差で敗れたことは、候補者個人や陣営の問題というレベルを越えて、小此木氏を支援する菅首相に対する不満や批判が影響したという見方だ。

選挙期間中も感染が拡大し、ワクチン接種の遅れなど政府のコロナ対策に対する有権者側の怒りや、批判が”小此木離れ”を引き起こしたという受け止め方が地元では聞かれた。

一方、当選を果たした元横浜市立大学教授の山中竹春氏は、立憲民主党の推薦に加えて、共産党や社民党の支援を受けたほか、報道各社の出口調査では、無党派層の支持を最も多く獲得したことが勝利に結びついたといえる。

 政権運営に打撃、秋の政局激動へ

それでは、今回の選挙結果は、菅政権や秋の政局にどのような影響を及ぼすことになるか。

まず、菅政権への打撃は極めて大きい。政治家にとって、地元の主要選挙で支援候補が敗れることは、有権者の信頼を得ていないと受け止められ、求心力を大きく低下させる。

また、菅政権にとっては、今年4月の衆参3つの選挙で不戦敗を含めて全敗したのをはじめ、地方の主な知事選挙、さらには7月の東京都議選でも過去2番目に少ない獲得議席に終わった。

このため、自民党内には衆院選挙を控えて、菅首相は「選挙の顔」としてふさわしいのかといった不安の声が広がりつつあり、選挙基盤が固まっていない若手議員などから、今後、菅首相交代論が強まることが予想される。

これに対して、安倍前首相や麻生副総理、二階幹事長らの実力者が最後まで菅氏続投を貫くのかどうかが焦点になる。

いずれにしても菅首相としては、続投のためには9月末に任期が切れる自民党総裁選挙と、10月21日に任期満了となる衆院選挙の2つの選挙を連続して勝ち抜かなければならない。

自民党総裁選挙は26日に総裁選管理委員会が開かれ、日程が決まる予定だ。緊急事態宣言の期限が9月12日になっていることや、感染収束のメドが立たっていないことなどから、9月中の衆院解散は難しいとみられる。

そうすると自民党総裁選が先に実施される公算が大きく、今度は、議員投票だけでなく、党員投票が実施され、選挙のゆくえを左右する。

さらに最大の難関は次の衆議院選挙で、コロナ対策を中心に「政権の実績評価」が大きな争点になる見通しだ。菅内閣の支持率は政権発足以来、最低水準が続いてており、政権浮揚につながる材料が今のところ見当たらない。

国政選挙の先行指標と言われる東京都議選に続いて、今回の横浜市長選挙は菅政権にとって、”横浜ショック”と言えるほどの厳しい選挙結果になった。これからの政治の動きは、コロナ対応の評価を中心に世論が主導する形になり、菅首相の退陣も含めて激しく変動する確率が大きいとみている。

展望なき”宣言”拡大 菅政権

新型コロナウイルスの急激な感染拡大を受けて、政府は17日、緊急事態宣言の対象地域に茨城、静岡、京都、福岡など7府県を追加する方針を決めた。

また、まん延防止等重点措置を宮城、富山、三重、香川、鹿児島など10県に新たに適用する方針だ。期間は、いずれも9月12日までになる。

これによって、緊急事態宣言は13都府県、重点措置は16道県に拡大する。但し、これによって、感染拡大に歯止めをかけることできるかどうか不明だ。

菅首相は先月末の記者会見で「緊急事態宣言が最後となる覚悟」で取り組むと表明していたが、8月末までの感染抑え込みはできず、9月にずれ込むことになる。感染危機は今後、どうなるのか、政権運営などにどんな影響が出てくるのか探ってみたい。

 8月感染危機抑え込みは失敗

まず、今回の緊急事態宣言の追加・拡大の方針をどのようにみるか。

政府は、今月2日緊急事態宣言の対象地域に埼玉、千葉、神奈川、大阪府を追加して6都府県に拡大し、8月31日までの抑え込みをめざしてきた。菅首相は先月末の記者会見で「8月末までの間、今回の宣言が最後となるような覚悟で、政府を挙げて全力で対策を講じる」と決意を表明していた。

ところが、先月末以降、感染が急拡大し、今回、感染対象地域を追加するとともに、期間についても9月12日まで延長することに追い込まれた。端的に言えば、菅首相がめざした8月感染危機抑え込みに失敗したことになる。

問題は、今回の方針で、今後の感染急拡大を抑え込めるかどうかだ。政府は、今回、医療体制の構築、感染防止の徹底、ワクチン接種の3本柱で対策を進めて行くと強調している。

しかし、3本柱の中身を見ると新たな対策といえば、百貨店やショッピングモール、専門店などの大型商業施設について、入場者の整理を徹底することを盛り込んだ程度で、新味に乏しいのが実状だ。

専門家が重視した人出の抑制も、買い物の回数を半分程度にしてもらうよう呼びかけるのが中心で、効果は期待できそうにない。

専門家は「東京の感染状況は制御不能」、医療提供体制も「深刻な機能不全に陥っている」などと警告しているが、残念ながら今回の政府方針で、今の感染爆発を抑え込むのは難しいという見方が多く、展望なき感染対策が続くことになりそうだ。

 感染抑え込みに何が必要か

それでは、感染拡大の抑え込みにどんな取り組みが求められているのだろうか。結論を先に言えば、先に政府分科会の尾身会長が12日に公表した、感染抑制策の強化の提言を基に、具体的な対策を練り上げることが考えられる。

分科会の提言は、感染爆発を防ぐための大目標として、2週間という期限を区切って、人出・人流の5割減少をめざす。そのための、具体策として◇災害時並みの今の医療危機に対応するため、国が自治体と協力し、思い切った対策を取ること。◇医療関係者がいる宿泊療養施設を増設、◇PCR抗原検査の徹底などを、ワクチン接種とは別に早急に打ち出すように求めていた。

政府が今回、示した対応策は「急増している自宅療養患者と必ず連絡がとれるようにする」などの一般論ばかりで、自宅待機・療養患者をどのような仕組みで、いつまでに、どれくらいの人数の改善をめざすのかといった具体策は盛り込まれていない。これでは、感染抑え込みは難しいのではないか。

 ワクチン接種64歳以下の遅れ

政府のワクチン接種の進め方についてもみておきたい。ワクチン接種が感染抑止の切り札になることに異論はないし、接種を加速させることにも賛成だ。

菅首相は17日夜の記者会見でも「10月から11月のできるだけ早い時期に、希望するすべての方へ2回のワクチン接種の完了をめざしていく」との考えを示した。政府関係者もワクチン接種については、7月は1日150万回と目標をはるかに上回るペースで進んだと強調する。

ところが、専門家に聞くと、日本のワクチン接種は遅ればせながらも、高齢者の接種は急速に進んだが、64歳以下の人たちの遅れが、極めて大きな問題だと指摘する。

14日時点のデータをみてみると国民全体では、1回目の接種を終えた人は49%、2回目は37%となっている。このうち、高齢者は1回目が88%、2回目が84%と高い。一方、64歳以下は1回目は22%、2回目は10%に過ぎない。

これでは、感染爆発を防ぐのは難しい。また、50代以下、若い世代については、ワクチン接種の予約を申し込もうとしても、なかなか予約が取れないとの話を聞く。自治体の中にも今月下旬以降、ようやく若い世代の受付を本格化するところもある。ワクチン配分と接種の進み具合をしっかり見ていく必要がある。

 総裁選先行、衆院選の公算も

感染抑え込みが9月にずれ込んだことは、菅政権の解散・総選挙戦略にも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

菅政権の当初のシナリオは、感染拡大を抑え込み、東京オリンピック・パラリンピックを成功させ、その勢いに乗って、9月の早い段階で衆院解散・総選挙を断行、選挙に勝利した後、自民党総裁選を無風で乗り切る戦略だった。

ところが、緊急事態宣言が9月12日まで延長されたので、9月早期の衆院解散は難しい情勢だ。このため、自民党総裁選を先に行い、その後、衆院選挙という可能性が大きくなりつつある。菅首相としては、衆院選の前に、総裁選を勝ち抜くことが必要になる。

もう1つ、8月22日に行われる横浜市長選も絡んでくる。横浜市長選は菅首相のおひざ元の選挙で、前の国家公安委員長の小此木八郎氏が議員を辞職して立候補。現職の林文子市長も立候補して保守分裂の選挙になっている。

8人が立候補して、激戦が続いているが、地元の関係者によると立憲民主党が推薦する山中竹春候補と小此木候補が激しく争い、これを林候補が追う構図とみられている。この選挙結果によっては、首相が次の衆院選を戦う「選挙の顔」としてふさわしいかどうか問われることになるとの見方が出ている。

以上、見てきたように今回の緊急事態宣言の拡大は、来月12日の期限までに感染爆発と医療危機を抑え込むことができるのかどうか。菅首相の政治責任や秋の政局のゆくえにも大きな影響を及ぼすことになりそうだ。

 

菅政権 ”支持率続落の危機”

コロナ禍の東京オリンピックが8日夜、17日間の幕を閉じ、政界はお盆明けから秋の政局に向けた動きが本格的に始まる。

最大の焦点は衆院解散・総選挙がいつ、どのような形でおこなわれるかだが、ここにきて、菅内閣の支持率が急落している。報道各社の世論調査の中では、菅内閣の支持率が3割を切るところも出てきた。

また、不支持が支持を上回る”逆転状態”も4か月連続で、深刻なのは政権の浮揚材料が見当たらないことだ。

今月末には、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の期限を迎える。新型コロナウイルスの新規感染者数は、全国で連日1万人を上回る状態が続いている。

感染爆発の勢いを止めることができなければ、菅政権に対する世論の風当たりは一段と激しさを増し、秋の政局にも大きな影響を及ぼすことになる。こうした菅政権の支持率続落危機の背景や政権への影響を探ってみる。

 菅内閣発足以降最低 3割の壁崩れる

さっそく、報道各社の世論調査のデータから見ていきたい。朝日新聞が7、8の両日、読売新聞とNHKがそれぞれ7日から9日の日程で実施し、その結果がまとまった。

まず、菅内閣の支持率は、朝日が支持28%-不支持53%、読売が支持35%-不支持54%、NHKが支持29%-不支持52%となっている。

各社の数値に多少の幅はあるが、支持率はいずれも去年9月以降最低の水準を更新、不支持は5割以上という点で共通している。世論の潮流がはっきりしてきた。

中でも衝撃的なのは、朝日新聞とNHKの内閣支持率が30%を下回ったことだ。NHKの世論調査では、第2次安倍政権が発足した2012年以降、最も低かったのは、安倍前首相が退陣を表明した去年8月の34%だった。

第2次安倍政権時代は、森友学園や加計学園問題をめぐって国会が紛糾した際も支持率3割を割り込むことはなく、復元力も強かった。

これに対して、菅政権ではこの3割の壁が崩れたことになる。衆院議員の任期満了が2か月後に迫り、支持率続落に歯止めがかかるのかどうか、反転攻勢の材料は見当たらない。

 政府のコロナ対応 不信感と嫌悪感

それでは、支持率急落の原因は何か。菅内閣の支持率については、これまで何度か指摘したように「新型コロナウイルスを巡る政府の対応」と連動している。

NHKの調査では「評価する」が35%に対し、「評価しない」が51%で、依然として、国民の厳しい評価は変わっていない。

これに加えて、政府の不手際が相次いだ。飲食店の種類提供を停止させるため、酒の販売事業者や金融機関へ働きかけを要請をした後、批判を浴びて撤回に追い込まれた。

自宅療養者に対する医療提供方針をめぐっても対応が混乱した。こうした混乱について、説明もきちんとなされないので、政府の対策や対応には付き合いきれないという不信感や嫌悪感が広がっていること影響しているものとみられる。

一方、政権与党内には、五輪開催による政権浮揚効果を期待する意見があったが、この点はどうか。読売の調査でみると東京五輪が開催されてよかったと「思う」が64%に対し、「思わない」は28%だった。

菅首相が掲げた「安全安心な大会」になったかについては、「思う」は38%に対し、「思わない」が55%だった。

東京五輪について、世論の多くは、コロナ禍の試練に耐えて技や能力を磨いてきた選手の躍動に共鳴し、「開催してよかった」と感じているのだと思われる。

それに引き換え、政府や自治体トップには覚悟や国民に訴える内容も持ち合わせておらず、「五輪は五輪、政治とは別の次元」と割り切っているようにみえる。

このように五輪の評価は高いが、菅内閣の支持率には結びついておらず、政権浮揚効果は全く見られないことがはっきりした。

  政党支持率 ”自民低下現象”

今回の報道各社のデータの中で、特に注目したのは読売の調査で、政党支持率と投票予定政党に変化が現れている点だ。結論を先に言えば、内閣支持率の低下が、自民党の支持率の低下という形で現れ始めたとみられる点だ。

自民党の支持率は7月の39%から36%へ低下しているほか、無党派層の投票先でも自民党17%に対し、立憲民主党は13%で4ポイント差まで詰め寄られている。無党派層は今や自民党を抜いて”第1党”で、無党派層の獲得率が選挙結果を大きく左右する。

自民党長老に聞くと「菅首相と自民党は丁寧な政権運営を心掛けないと、国民の信頼を失い、選挙で大敗する恐れがある。コロナ対策、政治とカネ、オリンピック・パラリンピック対応、総理の説明不足などで、国民との距離がどんどん広がりつつある」と選挙への深刻な影響を懸念する。

 感染抑え込み 宣言解除できるか

さて、これから政治の展開はどうなるか。東京オリンピックに続いて、今月24日からパラリンピックが予定されており、この大会をどのような形で開催するか、組織委員会や東京都、政府などの間で調整する。今のところ、オリンピックと同様、無観客で開催するとの見方が強い。

次に最も大きな問題は、今月31日に期限を迎える緊急事態宣言と、まん延防止等重点措置の扱いだ。緊急事態宣言は東京、大阪など6都府県、重点措置は13道府県にまで拡大している。

東京に今の4度目の緊急事態宣言が出された7月12日、東京の新規感染者数は502人、全国でも1504人だった。ところが、その後急増し、今月5日東京では5000人を突破、全国では7日に1万5700人を上回った。専門家は「ピークが見えない」語るとともに重症者や、入院に伴う病床のひっ迫を警戒している。

これに対し、菅首相はワクチン接種に期待をかける。但し、2回目接種の割合は10日時点で、高齢者は81%と高いが、64歳以下はわずか8%に止まる。ワクチンの供給不足で急ブレーキがかかっていたが、ようやく段階的に再開され始めた。

変異株への置き換わりが急速に進んでおり、仮に8月末に感染収束のメドがつかなければ、菅政権の対応や政治責任を問う声が強まることが予想される。8月末までに感染抑え込みができるのか、大きな節目になる。

 問題の核心 衆院選の顔と選び方

自民党の総裁選については、今月26日に総裁選の選挙管理委員会が開かれ、日程が決まる見通しだ。党の執行部や派閥の実力者は、今のところ菅首相の下で衆院選を戦い抜く考えで、衆院選や総裁選の日程を調整する方針だ。

これに対して、中堅・若手議員を中心に「菅首相で選挙に勝てるのか」との不安感が広がりつつあり、総選挙の前に自民党総裁選を行い、国民の関心を自民党に引きつけた後、衆院選に臨むべきだとの声も聞く。

また、執行部は総裁選は、無投票で菅首相を選出したいとの考えが強いが、高市早苗・元総務相が月刊誌で立候補の考えを表明した。任期満了に伴う総裁選は、議員投票とともに党員投票を行って新総裁を選出すべきだという声も若手議員の間では強い。

今後、自民党内からさまざまな動きが出てくることが予想されるが、問題の核心は、次の衆院選の顔を誰にするのか。現職の菅首相に1本化するのか、菅首相を含め候補者が立候補して決めるのか、その方法を早く決める必要がある。

執行部が強引に政治日程を決めると、党員や有権者の反発を招き、本番の衆院選でしっぺ返しを受ける。菅政権の足元が揺らぎ始めた中で、感染抑え込みはできるのか、それに与野党、世論が絡み、変動の激しい秋になりそうだ。

 

 

“感染8月危機”と菅首相の政治責任

新型コロナウイルスの感染急拡大を受けて、政府は2日、緊急事態宣言の対象地域に首都圏の埼玉、千葉、神奈川と大阪府を追加し、6都府県に拡大した。

また、まん延防止等重点措置が北海道、石川、京都、兵庫、福岡の5道府県に適用された。期限はいずれも8月31日までとなっている。

東京オリンピック開催中の感染急拡大で、専門家は感染者数の急増だけでなく、医療のひっ迫も懸念されるとして、「この1年半で最も厳しい状況にある」と8月感染危機に警鐘を鳴らしている。

菅首相にとっても、この感染危機を抑え込めないと秋の衆院解散・総選挙を控えて自らの力量や政治責任を問われることになる。この8月感染危機を本当に抑え込むことができるのか、何が問われているのか探ってみたい。

 緊急宣言の拡大・延長の効果は

政府が緊急事態宣言の対象地域拡大の方針を決めたのは7月30日だが、この週の初めまでは宣言拡大には慎重な姿勢だった。ところが、28日に感染者数が3000人台に跳ね上がってから、慌てて舵を切ったのが実状だ。さらに翌31日は4058人と初めて4000人も突破した。

東京に4度目の緊急事態宣言が出されたのが7月12日で、この日の感染者数は502人だった。わずか3週間余りで、感染者数が急増したことになる。

政府分科会の尾身茂会長は「現状では感染を減少させる要素がほとんどない。逆に増やす要素はたくさんある。一般市民の『コロナ慣れ』、感染力が強いデルタ株、夏休みにお盆、さらにオリンピックだ」と指摘する。

そのうえで、「最大の危機は、社会で危機感が共有されていないことだ。このままでは医療のひっ迫が深刻になる」と危機感を示すとともに、政府に強いメッセージを出すように求めていた。

これに対して、菅首相は30日夜の記者会見では「今回の宣言が最後となるような覚悟で、政府をあげて全力で対策を講じていく」と強調する一方、ワクチン接種の効果や画期的な治療薬の積極的活用に詳しく触れて楽観的とも受け取れる発言が目立った。

また、開催中の東京オリンピックとの関係についても「感染拡大の原因になっていない」と強調し、国民に向けた強いメッセージはなかった。尾身会長の危機感との違いが際立った。

 感染危機乗り切りへ何をすべきか

それでは、当面の感染危機を乗り切るためには、どんな取り組みが必要だろうか。菅政権が去年9月に発足して以降、政府のコロナ対策としては、一貫して飲食店の営業時間短縮や休業要請が中心で、酒類の提供停止に力を入れてきた。

飲食店対策も重要だが、与党関係者の間では「サラリーマンが多く活用する居酒屋などの飲食店対策は、いわば”川下の対策”。それよりテレワークをより徹底して通勤者を減らす”川上対策”を行うべきだ。企業や経営団体などにもっと強力に働きかける方が効果がある」といった提案を聞いた。

医療分野では、感染急拡大に伴い自宅で療養している人たちの対策が、再び大きな問題になっている。東京都の場合、7月1日時点ではおよそ1000人だったのが、日を追うごとに増え、8月1日には1万1000人にも達しているという。わずか1か月の間に11倍も増えたことになる。

こうした自宅療養者は無症状や軽症者が多いと言われ、保健所などの健康管理がうまくいかないと地域で感染を広げることになりかねない。ホテルなどでの宿泊療養体制の整備が必要ではないか。

政府関係者からは「新たな対策を打ち出したいが、もう打つ手がない」との声を聞くが、本当だろうか。例えば、変異ウイルスのデルタ株を追跡する検査は十分行われてきたのか。大量の抗原検査キットを配布するなどの対策を聞かされてきたが、最近まで行われていなかったと聞く。

政府や東京都の対応については、これからの実施計画などの説明は詳しいが、実施後の経過や、どのような成果があったのか、逆に問題が生じて目詰まりの段階にあるのか、結果の説明や政策評価は乏しい。

感染拡大は変異株が主要な要因との政府側の説明を聞くが、そうした点は既に明らかで、検査・追跡体制強化は十分だったのか。政府・自治体は、国民へ外出自粛などの要請を頻繁に行うが、自らの対策の点検結果や、問題点や反省点、今後の改善点などの説明は極めて弱い。

これでは、政治や行政側が国民との危機感の共有はできないし、国民の協力をえるのも難しい。

菅首相も毎日、記者団のぶら下がり取材に応じたりして、国民にメッセージを発信すべきだ。記者会見でも具体的な説明が少ないうえに、伝えたいメッセージも乏しいとなると、危機のリーダーとして通用するのだろうか。

このほか、もう1つの柱であるワクチン接種の問題がある。ワクチン接種のペースは先進国に比べて遅れているが、8月1日時点のデータで、高齢者については1回目の接種が86.2%、2回目接種は75.8%に達し評価できる。

但し、国民全体に占める接種比率は、1回目が39.6%、2回目が29.1%に止まる。ワクチンの供給不足が問題になっているほか、50代以下の若い世代への接種を早期に終えることができるかどうかという問題を抱えている。

 問われる首相の力量・政治責任

さて、東京オリンピックは、日本勢の活躍でメダルラッシュが続き、盛り上がりをみせている。但し、政権・与党幹部が「オリンピックが盛り上がれば、世の中の空気が変わり、政権の評価も高まるまずだ」と期待していたような気配は、今のところ感じられない。

国民の多くは、オリンピックはテレビ観戦を楽しむ一方、感染状況や政府の対策の実績を見極めようとしているように見える。国民にとっては、まずは政府と自治体が今の「第5波」が大きな波にならないように抑え込むことができるかどうかに最大の関心を持っている。

具体的には、オリンピックが無事、閉幕までこぎつけられるか。24日からのパラリンピックは観客の扱いを含めてどうするのか。

一方、政治の動きとしては、8月はじめに自民党総裁選の選挙管理委員会が設置された後、下旬には、選挙期日の扱いを決めることになる。

自民党内では、派閥の幹部を中心に菅首相の下で衆院解散・総選挙を戦い抜くべきだという意見が今のところ主流だ。一方で、中堅・若手議員の間では「選挙の顔」として菅首相の力量に不安を感じる声も聞かれる。

さらに報道各社の世論調査も実施される。世論は、菅政権のコロナ対策をどのように評価し、菅内閣の支持率はどうなるか。世論の風向きは、衆院選挙を控えた自民党の対応の仕方にも影響を及ぼす。

8月の感染危機はどのような形で収まるのか。菅政権の対応を世論はどう評価するのか、秋の政局の流れを大きく左右することになる。

 

 

 

 

五輪さなかの感染危機 問われる菅政権

東京オリンピックが開幕し日本勢の躍進が続いているが、東京都内では28日、新型コロナウイルスの感染者が初めて3000人を超え、2日連続で過去最多を更新した。

また、首都圏の神奈川、埼玉、千葉3県でも過去最多となったのをはじめ、全国でも最多の9576人の感染が確認された。

こうしたオリンピックさなかの感染危機に対して、政府や東京都はどのように対応しようとしているのか、どんな取り組みが問われているのか考えてみたい。

 宣言効果みられず シナリオ崩れる

東京都に4度目の緊急事態宣言が出されたのが今月12日で、この日の新規感染者は502人だった。その後も感染拡大に歯止めがかからず、オリンピック開幕当日の23日には1359人人まで拡大した。

そして、オリンピックが続いている27日の2848人に続いて、28日には3177人と初めて3000人を超えて、2日連続で過去最多を更新した。

緊急事態宣言の発出で夜間の人出は減少しているのだが、減少幅が小さいことや、感染力が強いデルタ株に急速に置き換わっていることなどが影響して、緊急事態宣言の効果がみられない。

また、政府や東京都は、緊急事態宣言の発出で感染者数を大幅に減らし、東京五輪・パラリンピックを「安全安心な大会」として開催することをめざしてきた。しかし、感染者数が減少するどころか、逆に爆発的に急増しており、感染抑制シナリオの前提が崩れた。

 感染抑え込み具体策打ち出せず

それでは、こうした感染危機拡大に政府や東京都はどのように対応しようとしているのか。

小池知事は28日、「デルタ株の影響を考えると、若者や中高年の世代にワクチンを早く行き渡らせることが重要だ」と強調するとともに「ぜひ、不要不急の外出を控えてください」といつもの呼びかけを繰り返した。

一方、菅首相は27日夕方、関係閣僚と対応策を協議した後、記者団に対して「強い危機感を持って、感染防止にあたっていく」として、国民に不要不急の外出を控えるよう呼びかけた。また、東京オリンピックについては「人の流れは減っており、心配ない」として、中止の考えはないとの認識を示した。

こうした菅首相と小池知事の発言からは、過去最多の感染者数に対する危機感が伝わってこない。また、国民が最も知りたい、”急増する感染拡大に対して何をするのか”という問いに、直接答える内容になっていない。

政府のこれまでの対策をみていると、ワクチン接種以外、ほとんどが従来からの対策の繰り返しで、手詰まり状態に陥っている。今回もワクチン接種が行き届くまでの間に、具体的にどんな対策を打ち出すのか、対策の方向性も示すことができていない。

 問われる菅政権の感染危機対応

それでは、これからどんな動きになってくるか。まず、神奈川、埼玉、千葉の3県の知事は、今の「まん延防止等重点措置」から、「緊急事態宣言」を出すよう要請する方向で調整を進めている。

政府は、要請があれば速やかに検討したいとしているので、今週中には3県に緊急事態宣言適用が決まる見通しだ。問題は宣言を出す場合、具体的で実効性のある対策を打ち出せるか、政府と自治体とが連携した体制をとることができるかどうかが問われる。

一方、東京オリンピックについては、菅首相は先に触れたように大会中止は考えていないことを明らかにした。選手や大会関係者から感染者は出ているが、クラスターはこれまでのところ発生していない。

但し、来月8日のオリンピック閉会日まで感染状況がどのようになるか。さらには、来月24日から予定されているパラリンピックを開催できるか、医療提供体制の状況と合わせて、リスクの評価が焦点になる。

一方、感染対策の切り札とされるワクチン接種については27日現在、1回目の接種を終えた人が37%、2回目接種が26%まで進んでいる。海外では接種率が1回目で40%に達すると、感染者数の減少傾向が表れるとの報告もあり、日本の場合どうなるかが注目される。

ワクチン接種については、供給不足から政府は、一定の在庫があると見なした自治体に対し、配分量を削減する方針を打ち出し、自治体側が強く反発していたが、この方針を撤回するなどの混乱も続いている。

こうした中で、今回、感染急拡大の第5波を何とか抑え込めるか。東京オリンピック・パラリンピックをはじめ、ワクチン接種の進捗、さらには菅首相の政権運営や政治責任にも影響を及ぼすことになる見通しだ。

 

”異例五輪開幕と第5波” 菅政権直撃  

新型コロナウイルスの感染拡大で、史上初めて大会が1年延長の末、異例の無観客で開催されることになった東京オリンピックは23日夜、開会式が行われて開幕した。

開会式をめぐっては、先に楽曲の担当者が過去のいじめ問題で辞任したのに続いて、今度は演出担当の1人が、過去にユダヤ人の大量虐殺をやゆする表現をしていたとして解任された。関係者の低い人権意識などが露呈した形で、内外から厳しい批判を浴びている。

今回の五輪開催をめぐる国民の評価・見方は、複雑だ。報道各社の世論調査をみると、開催に賛成が3割程度、反対が5割から6割程度。これに無観客開催の条件を加えて判断してもらうと、適切が4割、中止は3割程度に変わり、賛否の間で判断が揺れているように見える。

個人的には、テレビ観戦で各国選手の活躍を見たいと思うが、組織委員会や東京都、それに政府の対応をめぐっては、多くの問題を抱えていると感じる。政治取材を続けている立場から、今回の異例ずくめの大会をどのように見たらいいのか、感染急拡大の問題と合わせて、政治・行政のあり方を考えてみたい。

 五輪の意義不明 政権シナリオ誤算

まず、今回の異例の東京オリンピック・パラリンピックをどう評価するか。そのためにもこれまでの経緯を駆け足で振り返っておきたい。

招致が決まったのは、2013年9月。前年暮れに安倍前首相が政権に復帰し、長期政権の目標の1つに東京五輪・パラリンピック招致を位置付け、当時の官邸主導で誘致工作を重ね、実現にこぎつけたのが実態だ。

そして去年3月、世界的な感染拡大を受けて、大会の1年延長を決める際に安倍前首相は「完全な形での開催」を国際的に約束した。

後継の菅首相も今年1月の施政方針演説で「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と意義を強調。そのうえで「感染対策を万全なものとし、世界中に希望と勇気をお届けできる大会を実現する」と決意を表明した。

菅首相としては、秋の自民党総裁選で再選を果たし、次の衆院選挙を勝ち抜くためにも感染を抑え込み、大会を開催し成功させることは、政権運営に必要不可欠な条件として取り組んできた。

ところが、大会が近づいても東京の感染状況は改善せず、7月12日からは4度目の緊急事態宣言を出す事態に追い込まれた。また、観客を入れて盛り上げるはずの大会が、ほとんどの会場で観客を入れない無観客開催に決まった。

菅首相は国会答弁などで「安全安心の大会」を繰り返すだけで、「コロナ禍で五輪を開催する意義は何か」を打ち出すことができず、国民に訴えかける力強さにも欠けていた。

この点は菅首相にだけ責任があるわけではないが、五輪開催の意義については、「復興五輪」の位置づけなどを含め、多くの人が活発に意見を表明し、掘り下げた議論にできなかったことは大きな反省点だ。延期五輪が今一つ、盛り上がりに欠ける要因ではないかと考える。

一方、政治への影響はどうか。無観客の大会になったことは、菅政権にとって誤算だ。政権運営のシナリオの一部が崩れ、今後の影響は大きいとみている。

 感染拡大 第5波を抑えられるか

次に国民の多くの関心は「五輪を開催して、爆発的な感染拡大につながらないのか」という点にある。22日、東京の新規感染者数は1979人。1週間前に比べて670人も増え、2000人に迫るまで急拡大している。

東京都のモニタリング会議は21日、東京の感染状況について予測を明らかにした。それによると、この1週間の平均で新規感染者は1170人で、前の週の1.5倍となり、「今年1月の第3波を上回るペースで感染が急拡大している」と警鐘をならした。

そのうえで、今のペースが続いた場合、8月3日には2598人となり、「第3波をはるかに超える危機的な感染状況になる」と強い懸念を示している。

つまり、オリンピック期間中に、東京の新規感染者数は2600人まで急増し、第5波の感染再拡大のおそれがあると警告しているわけだ。

東京五輪に参加する海外からの選手や、大会関係者からも感染者が出ているが、選手はワクチン接種をしたり、PCR検査を頻繁に受けたりしているので、選手村などで大規模なクラスターが発生する可能性は大きくはないとみられる。

但し、海外からの大会関係者の行動管理はどこまで徹底できるかはわからない。また、大会開催に刺激されて、国内での会食や人出の増加などで、感染拡大へとつながる可能性は否定できない。

さらに変異型のウイルス、インド株の置き換わりで、感染が急拡大する可能性もあり、第5波を抑え込めるかどうか。また、来月8日までのオリンピックが無事、閉会できるか。さらに、24日からのパラリンピックが予定通り開会できるのか注視していく必要がある。

 危機対応、制度設計能力に問題

政権の対応については、これまで何度も指摘してきたが、司令塔機能に弱点があるのではないか。具体的には、PCR検査の拡充をはじめ、病床確保の調整、飲食店の休業・時間短縮要請と支援の基準づくりなどの具体的な取り組みが、迅速に進まなかった。

こうした点に加えて、制度設計にも問題がある。例えば、ワクチン接種について、菅首相が「希望する高齢者の接種を7月末に完了」、「1日100万回以上の接種」などの大号令を出すが、肝心のワクチン供給が不足して、新規の予約ができなくなるといった事態が起きている。

今回のオリ・パラ対応についても、延期された大会日程から逆算して、ワクチン接種の計画や日程を決めて、完了させるといった取り組みができなかった。

こうした制度設計については、安倍政権当時も大学共通テストに英語の民間試験を導入する方針が行き詰ったのをはじめ、コロナ対策で国民へ特別給付金を支給する問題、さらには今回、飲食店で酒類提供停止の要請への仕組みづくりでも混乱がみられた。

菅政権については、グランドデザイン=基本的な目標や計画を打ち出したうえで、個別対策の組み合わせや日程を明らかにしていく戦略的な取り組みに欠けるといった指摘が出されている。政府が自らの対策の点検、総括をきちんと行い、同じような過ちを繰り返さない取り組み方も必要だ。

 問われる五輪対応と感染抑え込み

東京五輪・パラリンピックが9月5日に幕を閉じれば、直ちに政治の季節に入る見通しだ。菅首相の自民党総裁としての任期が9月末に切れるほか、衆議院議員も10月21日が任期満了日で、衆議院選挙が行われる。

その際、政府・自民党内では「次の選挙の顔」を誰にするかが焦点になる。今の段階では、菅首相を先頭に選挙を戦うとの見方が各派閥の幹部の間では有力だが、党内では菅首相の選挙への手腕を不安視する声も聞かれる。

また、万一、東京オリ・パラ大会の期間中、選手や大会関係者の感染が拡大したり、あるいは、国内の感染状況が急速に悪化したりした場合、世論や自民党内から、菅政権の政治責任を厳しく問う声が出されるのは必至の情勢だ。

このため、菅政権としてはこの夏、まずは、東京五輪・パラリンピックを無事に閉幕までこぎつけられるかどうか。また、急拡大している感染に歯止めをかけるとともに、切り札のワクチン接種を再び軌道に乗せることができるかどうか、実行力と具体的な実績が問われることになる。

 

 

 

 

菅内閣”世論の支持離れ”鮮明に

東京都に4度目の緊急事態宣言が出され、23日に開会する東京オリンピックもほとんどの会場が、観客をいれない無観客開催となることになった。

国民はこうした事態をどのように受け止めているのか。報道機関が相次いで世論調査を行い結果を報道しているが、いずれも菅内閣の支持率が発足以降、最低を記録、不支持は最多で、”世論の菅内閣支持離れ”が一段と鮮明になっている。

こうした世論の動向の分析と、これからの政治への影響を探ってみたい。

 内閣支持率最低 読売 NHK調査

読売新聞とNHKは今月9日から11日までの3日間、それぞれ世論調査を行い、その結果を報道している。

菅内閣の支持率は、◇読売調査で支持が37%、不支持が53%。◇NHK調査では支持が33%、不支持が46%となっている。

いずれの調査とも菅内閣の支持率は、去年9月の政権発足以降、最低の水準だ。一方、不支持も発足以降、最も高くなっている点で共通している。

今回の世論調査は、政府が8日に、感染再拡大が続く東京都に4度目の緊急事態宣言を出すことを決定した直後に実施された。また、東京オリンピックについては、無観客開催とする方針が決まった直後でもある。

政府のコロナ対応については、読売の調査で◇評価するが28%に対し、◇評価しないが66%。ワクチン接種をめぐる政府の対応についても◇評価するが36%に対し、◇評価しないが59%となっている。

政府のコロナ対応に対する世論の不満、批判が支持率低下の要因になっていることがわかる。(データは、読売新聞13日朝刊、NHK WEB NEWSから)

 支持離れ 女性 無党派層など深刻

それでは、菅内閣の支持離れはどんな支持層で起きているのか、NHK世論調査でみていきたい。

◆まず、菅首相を支える自民支持層について、菅内閣を支持する人の割合は61%に止まっている。菅政権が発足した去年9月は85%だったから、下落幅は大きい。

選挙に強かった安倍政権では、自民支持層の支持割合は70%台後半から80%台前半と高かった。それに比べる菅政権の基盤は極めて脆弱であることがわかる。

◆有権者の最も大きな集団である無党派層の支持はどうか。菅内閣の支持は2割を割り込み、不支持は6割近くに達している。

◆年代別では◇20代以下の若い年代だけ、支持が不支持をわずかに上回っているが、そのほかの年代はすべて不支持が、支持を上回っている。

◆男女はいずれも不支持が、支持を上回っている。男性は支持35%、不支持49%に対し、女性は支持31%、不支持43%で、特に女性の支持は少ないのが目立つ。

このように菅政権の支持構造は、選挙の行方を左右する自民支持層と無党派層、それに女性の支持離れが顕著で、菅政権にとって深刻な事態が進行中であることが読み取れる。

 失態続き 政権浮揚見通せず

次に菅政権に反転攻勢が可能かどうかを見ていきたい。結論から先に言えば、菅政権はこのところ失態続きで、政権浮揚につながるような好材料は見当たらない。

まず、政府は先に緊急事態宣言の対象地域などで、酒の販売事業者に対して、酒の提供停止に応じない飲食店との取引を行わないよう求める方針を打ち出した。

これに対して、販売事業者から「長年の取引先で、コロナ禍で苦しんでいる飲食店をさらに追いつめることはできない」と強い反発を招いた。

また、世論の側も「行政が自ら直接向き合わず、外から強い圧力をかけるような行為は絶対に許されない」といった強い批判が出され、撤回に追い込まれた。

これより先、政府は同じように金融機関にも働きかけを要請していたが、この方針も撤回した。こうした動きを経て菅首相が14日、総理官邸で陳謝した。

一方、ワクチン接種については、これまで接種の加速が続いていたが、接種希望の需要に供給が追い付かず、職域接種の新規受付を中止する事態に追い込まれた。ワクチン確保量が縮小することを明らかにしなかったことと、接種管理システムが十分機能していない不手際が背景にある。

さらに14日には、東京の新規感染者数が1149人と急拡大した。1100人を超えるのは、第4波のピークだった5月8日以来、2か月ぶりだ。専門家が7月中旬には、東京の新規感染者数は1000人を上回る可能性があるとの予測が現実になった。

このように感染再拡大と失態続きで、政権浮揚につながる好材料が見当たらない。菅内閣の支持率は、”瞬間風速的”にはさらに低下している可能性が大きく、当面、大きな改善は見通せない。

 政局緊迫オリパラ後か ”選挙の顔”

それでは、菅政権や政局のゆくえはどうなるか。支持率は急落しているが、いわゆる”菅降ろし”、菅首相の交代を求める動きは、当面、表面化しないとみる。

というのは、今の自民党は安倍長期政権を経て、非主流の派閥集団がなく、総理・総裁や執行部の権限が一段と強くなったこと。安倍前首相や麻生副総理、二階幹事長らの実力者も「次の衆院選は菅首相で戦う考え」を表明していることから、首相交代を求める動きが出てくる公算は小さいからだ。

一方、菅首相の政権運営については、描いていたシナリオが大きく狂い始めたとみる。菅首相はワクチン接種を加速し、東京五輪・パラリンピックを成功させ、その盛り上がりを受けて衆院解散・総選挙に打って出て勝利するのが基本戦略だ。

ところが、感染の収束どころか緊急事態宣言を発出し、五輪も無観客となり、お祭りムードは吹き飛んでしまった。それどころか、五輪開催が感染拡大の引き金になりかねないと危惧されている。

唯一、政権が大きな期待を寄せているのがワクチン接種の加速だが、先にみたように安定的に進むかどうかはっきりしない。

このようにコロナ対応をめぐって不確定要素は多いが、秋の政局は主流派がめざしているのが、菅首相の下で衆院解散・総選挙へと突入するケース。

もう1つは、今後、菅首相は「選挙の顔」として通用するかどうかを問う動きが出てくるとの見方もある。特に中堅・若手議員は、自らの当落を左右するからだ。その場合、世論の厳しい声に押される形で、菅首相の政治責任と交代を求める動きが土壇場の段階で出てくる可能性があるとみられている。

先の都議選では、自民党は第1党に復帰したものの、2番目に少ない33議席にとどまった。投票率は過去2番目に低く、低投票率では選挙に強いはずが、伸び悩んだ。都議選は、その後の国政選挙を先取りする先行指標となることが多く、党内では、次の衆院選挙に危機感が強まっている。

菅内閣の支持率が好転しない場合でも、菅首相の方針通り衆院解散・総選挙を先に行うのか。それとも自民党総裁選を実施して党の存在感をアピールしたうえで、総選挙に臨む方針に転換するのか、政局が一気に緊迫してくることが予想される。

ワクチン接種の加速などで、コロナ感染を抑え込めるのか。菅政権に対する世論の風向きに変化があるのかどうか、この2つの変動要素が、秋の政局のカギを握っている。

 

 

”コロナ失政”東京に4度目緊急宣言

政府は、新型コロナウイルスの感染再拡大が続く東京都に、4度目の緊急事態宣言を出すことを決めた。沖縄県の緊急事態宣言も延長し、期限はいずれも8月22日まで。まん延防止等重点措置については、埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を対象に同じく22日まで延長することになった。

この決定を受けて、東京オリンピックは、東京など1都3県のすべての会場で観客を入れずに開催されることになった。こうした決定をどうみたらいいのか、考えてみたい。

 コロナ対策の失敗、”失政”

今回緊急事態宣言をどうみるか、結論を先にいえば、菅政権のコロナ対策が行き詰まり、宣言発出に追い込まれたとみている。

まず、3度目の緊急事態宣言は2回にわたって延長され、6月21日に宣言を解除したばかりだったが、1か月も経たないうちに4度目の宣言に追い込まれたことになる。解除に当たっては専門家から慎重論が出されたが、政権側が押し切った。

また、今年1月18日に召集された通常国会の施政方針演説で、菅首相は「新型コロナウイルス感染症を一日も早く収束させる」と強調するとともに「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証として、また、東日本大震災からの復興を世界に発信する機会としたい」と表明していた。

さらに、昨年3月に大会延期を提案した際、当時の安倍首相は「完全な形」での開催を表明していた。後継の菅首相は、大会開催から逆算して、ワクチン接種などの対策を徹底し、感染抑え込みを実現する責任を負ってきた。結果は、感染が拡大し、無観客開催に追い込まれたので、コロナ対策は失敗、失政と言わざるを得ない。

 五輪「無観客」は世論配慮か

次に東京五輪が「無観客」開催になったことについてだが、菅政権は最終段階まで、制限付きながらも観客を入れての開催を模索していたとみられる。

最終的に「無観客」を決断したのは、世論の側が感染拡大を心配して、開催に慎重・反対論が根強く、こうした点を配慮したためではないか。先の東京都知事選で、自民党は過去2番目に少ない議席に終わり、五輪の中止や延期を主張した野党が議席を伸ばしたことも影響したものとみられる。

さらに、秋には衆議院議員の任期が満了、衆議院選挙が控えており、五輪をきっかけに感染急拡大といったリスクは避けたいという判断も働いたのではないかと、個人的にみている。

 五輪、感染抑制の総合対策が必要

東京五輪は「無観客」での開催が決まったが、問題の核心部分、つまり、「感染の再拡大で緊急事態宣言が出される中で、オリンピックを開催して大丈夫か」という問題は残されたままだ。

菅首相は8日夜の記者会見でもワクチン接種が決め手だとして、最優先で取り組む考えを強調した。ワクチン接種は重要だが、それだけで感染を抑え込めるわけではない。人流の抑制など根本的な問題を含めて、対策を練り直す必要がある。

また、繰り返される緊急事態宣言やまん延防止等重点措置と、政府・自治体の無策ぶりに国民は、うんざりしている。また、営業時間の短縮や酒類の提供停止が長期化する飲食店業界は、危機的な経営状態に追い込まれている。

コロナ対策は未知の分野で、対応が極めて難しいことは理解できる。失敗があることもやむを得ない。だからこそ、対策の点検、検証、総括が必要だが、菅政権にはそうした対応がなく、対策の見直しが進まないのが大きな問題点だ。

今、菅政権に必要なことは、東京都などの地方自治体と連携を強め、感染対策や医療体制の整備、決め手のワクチン接種をより促進させる必要がある。

また、国民生活の支援や、深刻な影響を受けている飲食店などに対する事業支援など総合的な対策を早急にまとめ、実行に移すことが問われている。

最後に、菅政権の今後の政権運営について触れておきたい。菅政権の政権運営の基本は、感染拡大を抑え込んだうえで、東京五輪・パラリンピックを成功させ、秋の衆議院解散・総選挙の勝利につなげることにあった。

ところが、今回、緊急事態宣言の発出、五輪は無観客開催に追い込まれた。政権運営の土台部分が崩れ始めた意味を持っており、菅政権は東京五輪・パラリンピック閉会後は、一段と厳しい状況に立たされる可能性が大きいとみている。

 

 

自民”敗北”の原因は?東京都議選

東京都議会議員選挙は4日、投開票が行われ、自民党は第1党の座を獲得したが、議席を大幅に伸ばすことはできなかった。全員当選を果たした公明党と合わせても過半数に達しなかった。

自民党が獲得した33議席は過去2番目に少ない議席数で、”伸び悩み”という評価もあるが、事実上の”敗北”と言える。選挙前の大幅議席増の期待感は吹き飛び、自民党内では、秋までに行われる次の衆院選挙は厳しい結果になりかねないと懸念する声も聞かれる。

一方、投票率は42.93%で、5割を割り込んだ。前回・4年前の選挙より、およそ9ポイント低く、過去2番目に低い投票率になった。

自民党は、これまで低い投票率でも厚い保守地盤を活かして強みを発揮してきた。今回はなぜ、大幅議席増につながらなかったのか。今度の選挙結果の核心であり、次の選挙にも大きく影響するので、自民敗北の理由・背景を分析してみたい。

 自民第1党議席回復もワースト2

最初に選挙結果を手短におさらいしておく。選挙前は45議席で第1党だった都民ファーストの会(以下、都民ファ)は、14議席減らして31議席に踏み止まった。選挙前25議席だった自民党は、33議席しか獲得できなかった。公明党は、23人の候補者全員が当選、1993年以降8回連続の全員当選となった。

共産党は選挙前の18議席から1つ増やして19議席。選挙前8議席だった立憲民主党は15議席に伸ばした。日本維新の会と、東京・生活者ネットワークはいずれも選挙前と同じ1議席を獲得した。

自民党の獲得議席については、自民党関係者の間でも「8議席増やしたので、敗北ではない」との声も聞くが、前回4年前の選挙は歴史的惨敗といわれた議席数で、これを基準に党勢を評価するのはどうか。

今回は過去2番目に少ない議席数で、公明党を合わせた与党過半数の低いハードルも超えられなかったので、事実上の”敗北”とみるのが適切だと考える。

 ”自民支持層の支持離れ”

それでは、自民党は、なぜ、過去2番目に少ない議席数に陥ったのか。自民党長老に聞くと「政府のコロナ対応に対する不満と批判を浴びる形になった。特に選挙直前、ワクチン接種予約に供給が追い付かず、接種予約の停止に追い込まれたことが響いた。先月下旬、選挙の流れがガラリと変わった」と振り返る。

具体的にどういうことか。有権者の投票行動はどうだったのか、メディアの出口調査で分析する。

読売新聞の出口調査では、投票した人にふだんの支持政党を聞くと最多は自民党の33%。立民11%、共産8%、都民ファ6%、公明5%、無党派層28%となっている。NHK、朝日、共同の出口調査も数値は異なるが、似た傾向を示している。

自民党の政党支持率は、前回選挙と比べても大きな変動はない。ということは、自民党の支持層の中で、これまでとは異なる投票行動の質的な変化があったと考えられる。

◆自民支持層のうち、自民候補者に投票した人は57%と少ない。都民ファに投票した人が19%、2割近くに達した。◆朝日と共同のデータでも自民候補者に投票した割合は、どちらも70%と低い水準だ。都民ファには、それぞれ12%程度流れている。

一方、◆無党派層の投票先としては、各社の調査とも都民ファに28%から25%程度と最も多く投票している。自民は10%台前半で、4年前とほぼ同じ割合だ。

以上のことから、自民敗北の要因は「自民支持層の支持離れ」が起きて、投票数が減少したことが考えられる。

自民幹部にこの見方をぶつけてみると「確かに当初、自民党に追い風も感じられ、40台半ばは獲得できるとみていた。ところが、選挙戦に入る直前の6月下旬、急ブレーキがかかったような印象を受けた。ちょうどワクチン職域接種の予約中止が決まった時期で、このことが支持離れにつながったのではないか。自民支持層の一部に意識変化を起こさせた」との見方を示す。

私も選挙取材を40年余り続けているが、自民党が選挙に負ける場合は、自民支持層が政権に不信感を抱き、支持離れを起こしていることが多い。

今の菅政権については、緊急事態宣言延長の繰り返しをはじめ、ワクチン接種計画の見通しの悪さ、さらには、中々、決まらない東京オリパラ開催問題などに対する支持者の嫌気、不満や批判が支持離れをもたらしたのではないかと同じ見方をしている。今後は、支持者への説明、説得ができるかどうかが、カギになる。

 都民、共産、立民各党の課題

一方、都民ファーストの会が今回、踏み止まったのはなぜか。既にみてきたように無党派層の支持を得たことが大きい。もちろん、誕生した4年前の選挙の時に比べると、その支持は半減状態だが、各党と比べると支持の比率は最も多い。無党派層からは、改革勢力のイメージを持たれている。

また、小池知事の都民の支持率は6割程度と高く、こうした支持層の支持を都民ファは受けている。さらに、小池知事の緊急入院と投票日前日の候補者支援のパフォーマンス効果もあったかもしれない。

小池知事は、開票翌日の5日、自民党本部に二階幹事長を訪ね会談した。政界では、小池知事は次の衆院選で国政に復帰するのではないかとの見方がくすぶる。五輪閉会後、東京都のトップが任期満了、最後まで仕事をやり遂げるのか有権者としても注視していく必要がある。

一方、共産党と立憲民主党は、1人区と2人区を中心に候補者調整を行った。両党とも議席増につながり、一定の効果は出ている。今後は、次の衆議院選挙に向けて、野党第1党が中心になって政権構想づくりや、小選挙区の候補者調整をどこまで進められるのかどうかが、ポイントになる。

菅首相「選挙の顔」と政治責任

最後に今回の都議選の結果を受けて、政権与党の動きはどうなるか。菅政権発足以降、自民党は4月に行われた衆参3つの選挙で、不戦敗を含めて全敗したのに続いて、千葉県、静岡県の知事選挙で推薦候補の敗北が続いている。

加えて、今回の都議選で大幅な議席回復ができなかったことで、今後、自民党内から、菅首相は「選挙の顔」として通用するのかという声が出てくることが予想される。

自民党長老は「自民党員や世論は、菅首相の二正面作戦が本当に効果をあげるのか、五輪は無事開催できるのか、見極めようとしている。また、特にワクチン接種の計画と見通しなどを的確に説明し、軌道に乗せないと強い反発を招き、自民党内からも菅首相は政治責任を問われる局面が出てくるのではないか」と指摘する。

東京五輪・パラリンピックが無事開催にこぎつけられるのかどうか。感染の抑え込みとワクチン接種は順調に進むのかどうか。秋に向けて、こうした問題は政治に直ちに跳ね返り、政局は一気に緊迫する状況が続くことになりそうだ。

 

 

“選ぶ側”から見た東京都議選の注目点

東京都議会議員選挙が25日告示され、7月4日の投票日に向けて9日間の選挙戦に入った。選挙権がない方も多いと思うが、この選挙は、コロナ禍、東京五輪・パラリンピック開会を控えた中で、東京の有権者がどのような判断を示すか、注目点の多い選挙になりそうだ。

そこで、候補者や政党など選ばれる側ではなく、有権者”選ぶ側”の立場から、この選挙をどうみるか、どんな対応が賢明な選択になるか、探ってみたい。

何を重視するか?少ない候補者情報

都議会議員選挙と言われても、私たち選ぶ側が困るのは、立候補者はどんな人でどのような考え方を持っているのか、候補者の情報が極めて少ないことだ。最も身近な市区町村の議員選挙や、国政レベルの選挙に比べて、この中間に位置する都道府県議会議員選挙は候補者情報が少なく、誰に投票するか困ることが多い。

さて、どうするか。私事になるが、選挙期間中に各候補者の陣営から、自宅に配られるビラを集めておくと意外に役立つ。ビラを比較すると、各候補の経歴なども含めてどんな人物か、輪郭がわかる。加えて、配布される選挙公報には、候補者の公約、政策などが記載されているので、候補者情報をかなり集めることができる。

そのうえで、何を重視して選ぶか。今回の選挙について、すぐに頭に浮かぶのは、やはり新型コロナ対策だ。感染抑止対策として何をするのか、病床など医療提供体制の整備や、ワクチン接種などではどんな取り組みを考えているのかがわかる。

また、東京オリンピック・パラリンピックの開催の是非も、判断材料になる。予定通りの開催か、中止か。あるいは開催する場合でも無観客にするのか、制限付きで観客を入れるのかどうか、候補者の違いがわかるはずだ。

さらに、向こう4年間の東京都政のかじ取り役を選ぶので、中長期の課題・政策で判断したいと考える人も多いと思われる。首都直下型大地震に備えての防災対策、少子高齢化時代の社会保障の姿、子育て・教育・格差是正の取り組みなども問われることになる。

以上のような内容から、何を重視して選ぶのか。ここをはっきりさせれば、どの候補者を選択するか、対象者が絞られてくるのではないか。

 東京都政、どの政党・勢力を選ぶか

巨大都市、東京の街づくりや都民の暮らしを安定させていくためには、知事と議会が車の両輪として、それぞれの役割を果たしていくことが必須の条件だ。そのためには有能な議員を選ぶとともに、どの政党・政治勢力に中心的な役割を委ねるかがカギを握る。

今回の都議選は、小池知事が特別顧問を務める都民ファーストの会が第1党の座を維持できるか。それとも自民党が公明党との選挙協力を復活させており、公明党と合わせて過半数の議席を獲得したうえで、第1党へ返り咲くかどうかが焦点だ。

一方、共産党と立憲民主党は候補者を競合させないため、一部の選挙区で候補者のすみわけを行っており、議席の積み上げができるかどうかも注目される。

このほか、小池知事が過度の疲労による静養のため入院しており、今後、いつ公務に復帰し、選挙にどのようにかかわるのかにも関心が集まっている。

 コロナ禍 有権者の選択政党は?

今回の都議選は、緊急事態宣言は解除されたものの、コロナ感染が高止まりから、再び拡大の兆候が表れ始めた中での選挙になっている。”3蜜”を避けるため、各陣営の選挙運動も大規模な集会や街頭演説などの自粛が予想される。有権者の選挙への関心、投票率はどうなるか。

前回4年前は、小池知事が都民ファーストの会を立ち上げて”小池旋風”を巻き起こし、投票率は51%台まで上がった。その前の2013年選挙は、43%台まで落ち込んだ。今回、有権者の投票意欲は前回水準から強まるのか、あるいは下回るのかも注目点の1つだ。

また、東京都議選の結果は、次の国選選挙の先行指標になる。2009年の都議選では、当時の民主党が大勝して都議会第1党に躍進、夏の衆議院選挙で過去最多の議席を獲得して政権交代を実現した。

2013年の都議選で、自民党は候補者全員が当選して都議会第1党に返り咲き、続く参議院選挙でも過去最多の議席を獲得して圧勝した。都議選の結果は、全国の都市部の有権者の先行指標になるケースが多かった。

7月4日投開票となる東京都議選の結果は、菅政権の政権運営に大きな影響を及ぼすだけでなく、秋の衆院選挙のゆくえを占う判断材料になる。コロナ激変時代、有権者は何を重視し、どの政党・政治勢力を選択するのか目が離せない。

総選挙は秋の公算 ”コロナ波乱政局”の始まり

通常国会は、野党4党が提出した菅内閣に対する不信任決議案が、与党などの反対多数で否決され、16日に閉会した。

焦点の衆議院解散・総選挙について、菅首相は夏の東京オリンピック・パラリンピック閉会後に断行する方針を固めており、総選挙は秋に行われる公算が大きくなっている。

与野党双方とも国会閉会後、直ちに衆院選に向けた体制づくりを加速させているが、これからの政治はどんな展開になるのか。

コロナ感染を抑え込めるかどうかということだけでなく、衆院選挙の結果がどうなるかまでを展望すると”波乱要因の多い政局”になる可能性が大きい。

9月5日のパラリンピック閉会後、菅首相が早期に解散に踏み切るケースをはじめ、ワクチン効果をねらった任期満了選挙、さらには菅首相退陣のケースなども予想される。”コロナ波乱政局”のゆくえを探ってみる。

 オリパラ後の総選挙へまい進 菅首相

次の衆議院解散・総選挙はいつになるか。解散権を握る菅首相の考えがベースになる。菅首相はコロナ対策を優先し、早期の解散には慎重な姿勢を示してきた。

菅首相の考えは、ワクチン接種を加速させて感染拡大を抑え込むとともに、東京五輪・パラリンピックを成功させた後、秋に衆院を解散・総選挙を断行して勝利し、再選を果たすのが基本的な戦略だ。

このため、通常国会閉会後は、20日に期限を迎える東京などの緊急事態宣言を解除し、まん延防止等重点措置に切り替える方針だ。同時にワクチン接種をさらに加速させるとともに東京五輪・パラリンピックについては、感染対策を徹底して予定通り、開催する方針だ。

衆院解散・総選挙については、9月5日にパラリンピックが閉幕した後、臨時国会を召集して衆院解散に踏み切り、10月に総選挙を断行する方向で調整が進められている。投票日としては、10月3日、10日、17日を軸に検討している。これが、第1のケースだ。

自民党長老に聞くと「9月解散・10月総選挙の可能性が最も高い。今の自民党には、菅首相や二階幹事長らに対抗して、政局を変えることができる実力者はいない。これからの政局は自民党内より、コロナ感染の状況や世論の動向がカギを握っている。例えば、五輪開催後に感染爆発が起きたら、自民党は選挙でぼろ負けするだろう。油断できない」と語る。

 ワクチン効果期待 選挙後ろ倒しも

菅首相がめざす9月解散・10月総選挙は、感染が収束に向かい、ワクチン接種も順調に進み、五輪・パラリンピックも開催され盛り上がった場合が前提だ。

政府・自民党内には、こうした考え方とは別にワクチン接種効果を重視して、衆院解散を急がず、任期満了などによる選挙の後ろ倒しを選択した方がいいという考え方もある。

ワクチン接種は高齢者接種が本格化するとともに、一部の地域では一般国民の接種が始まった地域もある。10月から11月ころまでに、国民の半数以上に2回接種が完了すれば、感染の減少効果が期待できる。このため、選挙を遅らせれば、与党にとって有利に働くとの思惑がある。

具体的には、今の衆議院議員の任期は10月21日までだが、臨時国会の会期を任期満了ギリギリまで引き延ばして、大型補正予算案を成立させた後、国会を閉会すると11月14日投票が可能になる。

あるいは、任期満了ギリギリで解散すれば、11月28日投票も可能になる。任期満了に伴う選挙を後ろ倒しする案も取りざたされている。これが第2のケースだ。

 波乱要因 五輪開催と感染急拡大

以上は、いずれも感染抑制や、ワクチン接種が順調に運むことが前提だ。逆に波乱要因として、変異株の広がりなどで感染拡大が抑え込めない事態もありうる。

例えば、7月23日の五輪開会式までに感染を抑え込めないような場合。あるいは、大会期間中、さらには9月5日のパラリンピックが閉会式後に感染爆発が起きた場合どうなるか、危惧する与党関係者は少なくない。

こうした場合、菅首相の政治責任を問う声は、自民党内からも高まるだろう。衆院選挙を控え、自らの当落に直結するからだ。菅首相の退陣・総裁選立候補辞退もありうるとの見方もある。その場合、後継の新しい総裁を選んだあと、衆院解散・総選挙というケースも想定される。これが、第3のケースだ。

 衆院選の獲得議席幅 政局を左右

ここまでみてきた3つのケースは、いずれも衆院選挙にこぎつけるまでの道筋の予測だ。最大の難関は、衆院選の政治決戦で、菅政権は勝てるかどうかだ。

選挙の専門家に聞くと、国政選挙で連勝を続けた安倍政権に比べると、菅政権は議席を減らすのは避けられないとの見方が強い。一けた台の減少で済むのか、50議席程度の大幅減もあるのか、減少幅がどの程度になるかが一番のポイントだ。

減少幅によっては、菅首相の政治責任が問われ、政局のゆくえを左右することもありうる。来年夏には、参議院選挙も行われる。衆院選挙後は、コロナ激変時代の政治のリーダーのあり方なども改めて問われることになりそうだ。

以上みてきたように、コロナ禍の政治は、不確定要素が多い。変異株の広がりなど感染状況がどうなるのか、ワクチン接種の進展で感染抑え込みの効果が出てくるのか。そうした動きによって、3つの政局のどのケースに収れんしていくのか注視していく必要がある。

同時に、私たち国民の側は、これまでの政権の実績評価や、これからの社会や暮らしのあり方をどのように考えていくのか。そして、どんな政治家や、政党に政権をゆだねていくのか答えを出す時期が近づいている。

 

 

 

”議論なし開催突入の愚”東京五輪

新型コロナウイルスの感染流行が続く中で、東京オリンピック・パラリンピックを開催して大丈夫か。国民の多くが考え、判断に迷っているのではないか。本来は、政治、具体的には国民の代表で構成される国会で、政府が対応策を示し議論する大きなテーマのはずだ。

ところが、菅政権で初めて行われた9日の党首討論では、こうした国民の関心に応える議論にはならなかった。このままでは国会は16日に閉会、20日には緊急事態宣言を解除、そのまま議論が深まらないまま五輪開催へと突入する公算が大きい。

これでは、国会は熟議の場どころか浅慮、議論なしの”愚の骨頂”と言わざるをえない。東京五輪・パラリンピックの開催問題を政治の側から、考えてみたい。

 党首討論 知りたい点に答えず

9日に国会で行われた党首討論は2年ぶりの開催。菅政権になって初めてで、菅首相と野党党首が突っ込んだ議論を交わすのではないかと期待した国民も多かったのではないか。

ところが、結果は、残念ながら期待外れに終わったというのが正直な印象だ。立憲民主党の枝野代表らは「3月の緊急事態宣言の解除が早すぎたのではないか。同じ間違いを繰り返さないために厳しい基準を明確にすべきだ」などと追及した。

これに対して、菅首相は論点をそらしつつ、ワクチン接種について「希望する人すべてが、10月から11月にかけて終えられるよう取り組む考え」を表明した。

また、共産党の志位委員長が、政府分科会の尾身会長の指摘を引用しながら「感染リスクが高くなる中で、なぜ開催するのか」と質したのに対し、菅首相は「国民の命と安全を守るのは私の責務だ」と答え、議論が深まらなかった。

 問題の核心 開催の条件と意義

国民が知りたいのは、世界でコロナパンデミックが続いている中で、東京五輪・パラリンピックを開いて本当に大丈夫なのか。開催する場合、日本の感染状況はどこまで収まっているのか、医療的提供体制はどこまで余裕があるのか、具体的なデータを示しながら説明をして欲しいという点だ。

また、感染危機の中で、国民の多くは大会を開く意義は何か、世界に向けて語る必要があると考えているのではないか。

こうした点について、菅首相の発言は真正面から答える内容には遠かった。前回の東京五輪の思い出を長々、話をするのではなく、日本国民や世界の人たちにどんな大会にしたいかを、自らの言葉で語りかける必要があったのではないか。

このように、今回の党首討論では、問題の核心である東京五輪・パラリンピックの開催意義や、開催のための条件をどう設定するか、依然として大きな宿題として残されたままだ。

 専門家の意見をどう扱うのか

東京五輪・パラリンピックについては、国内の観客を入れるのかどうか。また、メディアを含めた大会関係者の行動管理などの細部も不明な点が多い。

こうした中で、政府分科会の尾身会長は、開催に慎重な考えを示しているほか、開催する場合は規模を最小限にすることなどを求めている。

一方、9日に開かれた厚生労働省の専門家会合で、京都大学の西浦教授は独自に行ったシミュレーションで、7月末までに高齢者へのワクチン接種が完了したとしても、接種が進んでいない50代以下の年代を中心に感染が大きく広がり、8月中に再び重症者病床が不足するような流行になると警告している。

政府は、こうした専門家の意見をどのような形で、方針決定に反映させるかも問われる。緊急事態宣言の判断では専門家に意見を求め、五輪対策では意見を求めないといったご都合主義は止めた方がいい。五輪の開催問題も「科学」で判断すること、具体的なデータに基づいて公正に判断する姿勢で対応してもらいたい。

 政治の劣化 責任の明確化必要

それでは、今後の動きはどうなるか。菅首相は11日から13日までイギリスで開かれるG7の対面式の首脳会議に出席するが、この中で東京五輪・パラリンピック開催支持を取り付けたい考えだ。

16日は国会の会期末だが、政府・与党は会期を延長しない方針だ。これに対して、野党側は内閣不信任決議案を提出、与党側が否決して、国会は去年に続いて早々と”店じまい”となる見通しだ。20日には、東京都などに出されている緊急事態宣言が期限を迎え、この頃、組織委員会がオリ・パラの観客の扱いなどの判断を示す見通しだ。

このようにみてくると、今後、国会で五輪開催の是非などを論じる機会は極めて少ない。これでは、熟議の国会どころか浅慮、国会の議論が乏しい状態が常態化しており、政治の劣化と指摘されても反論は難しいのではないか。

仮に五輪を開催した場合、選手とは別に、通訳、警備、ボランティアなどを含めると要員は30万人規模になるといわれる。このほか、観客の扱いはまだ決まっていないが、現在のイベント規制の基準で計算すると観客数は300万人規模に達するとの見方もある。

こう見てくると仮に開催して感染拡大が起きた場合、その責任は誰が負うのか。曖昧なままにせずに、はっきりさせておく必要がある。

コロナ感染対策とオリンピック開催問題は、7月の東京都議選、10月までに行われる見通しの次の衆院選でも争点の1つになる見通しだ。選挙で判断・審判を下すことになるが、その前に国会の場で議論をしっかり行うことが、最低限必要だと考える。

菅首相”二正面作戦”の賭け

東京、大阪など9つの都道府県に出されている緊急事態宣言は、5月31日の期限が6月20日まで延長されることになった。

菅首相は、この延長期間で「感染防止とワクチン接種とという『二正面作戦』の成果を出す」と決意を示すが、東京五輪を控え、期限内に感染を抑え込み、宣言を解除できるのか大きな賭けとみることもできる。菅政権の対応を点検する。

 ”宣言などなし”わずか21日間

緊急事態宣言を振り返ると、東京などに2度目の宣言が出されたのは、年明けの1月8日。以来、宣言の延長、再延長、緊急事態に準じる「まん延防止等重点措置」も出され、”宣言などが解除され何もなかった日”は調べてみると、わずか21日間だ。

今回、6月20日まで延長が続くと、東京はざっと半年間で”宣言などなし”は、3週間という短さだ。これでは、政府や自治体の対応は、失敗、失政と言わざるをえない。

 二正面作戦 実態はワクチン頼み

さて、菅首相は宣言延長を決めた28日夜の記者会見で、今回の宣言延長ついて「感染抑止とワクチン接種という『二正面作戦』の成果を出すための、極めて大事な期間と考えている。内閣の総力を挙げて取り組んでいく。私自身その先頭に立ってやり遂げていく」と決意を表明した。

問題は、二正面作戦の中身だ。感染防止の中身は、飲食店の時間短縮や酒提供の停止が中心で、これまでとほとんど変わっていない。成果が上がるか疑問が残る。

もう1つのワクチン接種は、新たな挑戦という位置づけだ。ワクチンという新たな武器をようやく手にできたので、これを最大限活用して、何としても感染を抑え込みたいというのが本音のようだ。

ということは、二正面作戦と言っても、柱はワクチン接種、ワクチン頼みというのが実態だ。

その二正面作戦の柱であるワクチン接種は、接種率が5割を超えると感染者数が大幅に減少するといわれるが、いつ5割達成を目指すのか”戦略目標”は、はっきりしない。

また、ワクチン効果が出るまでには時間がかかる。その間、変異株にどう対処するのか。感染防止の新たな具体策、ワクチン接種の進み具合などとを組み合わせた”工程表”も示されていない。

 ワクチン接種の加速 調整機能に弱点

ワクチン接種について、もう少し詳しく見ておきたい。菅首相は「できることは全てやる。1日100万回を目指し、高齢者接種は7月末まで完了させる」と号令をかけている。

また、高齢者接種の見通しがついた市区町村から、次の基礎疾患がある人たちを含め、一般の人たちの接種を6月中から開始するとワクチン接種をさらに加速させる指示を出している。

接種の現状は、高齢者3600万人のうち5月27日現在で、1回目の接種が終わった人が10.4%、2回目が終わった人は0.7%に止まる。目標は、まだまだ遠い。

気になるのは、高齢者接種の市区町村が主体とされてきた。ところが、ここにきて国・自衛隊が乗り出し、東京と大阪で大規模接種会場を設営した。続いて、都道府県も独自の大規模接種を始める見通しだ。国、都道府県、市区町村の連携などは大丈夫か。

一方、市区町村の現場の悩みは、ワクチン接種の打ち手が足りないことだ。歯科医にも参加してもらうことになったが、さらに医療の検査関係者にまで広げられないか調整が続いている。

こうした対応を見るとついつい、海外と比較してしまう。専門家によるとイギリスでは、大規模接種を進める公的な組織があり、接種会場も病院、診療所だけでなく、教会や競馬場などにも設営するなど早くから準備を進めてきた。

また、接種要員が不足することが予想されたため、去年の夏には、医学生や理学療法士なども接種を行えるよう検討を始め、10月には法律改正も済ませたという。先を読み、用意周到だ。

これに対し、日本は、夏に五輪・パラリンピックが決まっていながら、対応は遅く”場当たり的対応”が目立つ。先の大戦の「失敗の本質」は今も変わっていないのではないかと感じてしまう。

高齢者に続いて、今後は一般の人たちへと対象者がさらに広がる。ワクチン接種についても司令塔、全体を統括・調整する機能が弱い。計画的に準備を進め、混乱が生じないよう強く注文しておきたい。

 五輪開催に突き進む 難題は山積

東京オリンピック・パラリンピックについて、菅首相は開催へと突き進む方針だ。「安全、安心な大会に向けて取り組みを進める」と繰り返す。

これに対して、世論の受け止め方は報道各社の世論調査で、中止を求める割合が4割から6割で多数を占める。開催する場合も、観客を入れない無観客を求める意見が最も多い。

世論の側は、世界の感染状況が深刻な中で、開催が妥当なのか。日本国内の医療に及ぼす影響などを深刻に受け止めている。

こうした点について、菅首相は、来日する大会関係者を当初の18万人から半分以下の7万8千人に減らすほか、選手や関係者には徹底した検査とワクチン接種、宿泊先の制限などで、一般国民と交わることがないよう徹底した行動管理を行うと強調する。

健康管理にあたる医師や看護師など医療関係者の確保、それに感染者が出た場合の指定病院など体制整備について、首相の記者会見では触れなかった。

さらに、国内の観客の扱いについても未だ決まっておらず、大会開催への課題は山積している。

安全、安心な大会は可能なのか、科学的なデータとともに感染対策の全体像を早急に明らかにする必要がある。開催の賛否が鋭く対立する中では、データに基づいて科学的に判断、決定するのが基本だ。

また、開催に踏み切る場合には、万一、感染急拡大など事態悪化の場合、自ら政治責任を取る考えを明らかにしないと国民の納得は得られないのではないか。

東京や大阪では、新規感染者数は減少してきているが、高止まり状態が続き、予断を許さない状況だ。宣言の期限である6月20日までに「二正面作戦の成果」が現れ、緊急事態宣言が解除されるのかどうか、菅首相にとって正念場を迎えている。

 

 

菅政権 相次ぐ難題 カギは東京都議選  

新型コロナ対策の緊急事態宣言は23日から沖縄が追加され、10都道府県に拡大した。このうち、沖縄を除く地域では今月31日が期限になっている。延長されるのか、解除はあるのか。

一方、東京オリンピック・パラリンピックは開幕まで2か月を切ったが、中止はあるのか。高齢者向けのワクチン接種は7月に完了するのか。さらに菅政権はどうなるのかといった質問を多く受ける。

そこで、こうした相次ぐ難問に対して、菅政権はどのように対応しようとしているのか、探ってみたい。

結論を先に言えば、個別の問題は激しい動きがあるが、政治のゆくえに大きな影響を及ぼすのは、来月25日に告示される東京都議会議員選挙。この結果が、秋の政局を大きく左右するとみる。

以下、その理由を解説したい。

 緊急事態宣言 延長の公算大

まず、先月25日に東京、大阪などに出された緊急事態宣言の扱いだが、大型連休明けに宣言延長を決めた際に、政府関係者の間ではオリンピックも近づいており、期限の31日までには余裕をもって解除できるのではないかとの見方をする人が多かった。

ところが、その後は完全に逆の展開で、感染は地方に拡大。愛知、福岡に続いて、北海道、岡山、広島、さらには沖縄まで3週連続で追加され、10都道府県に拡大した。「まん延防止等重点措置」も8県になった。

政府の専門家の間では「大阪、東京は新規感染者の減少傾向がみられるが、なお見極める必要がある。北海道や沖縄、福岡などでは感染急拡大が続いており、変異株の急激な置き換わりも考慮に入れると、解除できる状況にはない」と緊急宣言の延長論が大勢だ。

これに対して、菅首相は「今月末に判断する」と態度を明らかにしていないが、専門家の意見を最終的には受け入れるのではないかとみる。というのは菅内閣の支持率は政権発足以来最低で、専門家の意見を覆すだけの力はない。

また、菅首相自身も今、最も力を入れているのは、ワクチン接種と、東京五輪・パラリンピック開催の2つだ。五輪開催のためには、大会直前の感染拡大を抑え込む必要があり、宣言延長を容認する可能性が強いとみる。

 菅首相 五輪中止の選択はあるか

次に東京オリンピック・パラリンピックの開催中止はあるか。この問題は、国内だけでなく、海外の感染状況など多くの変動要因があり、断定的に言えるだけの判断材料や能力はない。

但し、国内政治を取材している立場からすると、菅首相が自ら中止の選択をする確率は極めて低いとみる。

その理由は、東京五輪・パラリンピックの招致に大きな力を発揮したのは安倍前首相だった。同じように、東京オリパラの開催問題で、影響力を持っているのは時の政権、菅首相だ。

その菅首相の政権運営、特に解散・総選挙戦略に、東京オリパラ開催は事実上、組み込まれている。夏に大会を開催し、その成果を秋の解散・総選挙につなげていく戦略なので、中止の公算は極めて乏しいとみる。

政界の一部などには、小池都知事や菅首相が土壇場で大会中止を打ち出し、政局をリードするのではないかといった見方もある。しかし、首相が大会中止を打ち出せば、その政治責任を問われ、退陣表明に追い込まれる公算の方が大きいのではないか。

一方、大会開催に踏み切った場合、世論の側は、コロナ禍での大会は中止すべきとの意見も強いので、政権に対する批判が強まる可能性も大きい。

結局、未だに具体的な説明がない、大会の国内観客数や感染対策、国内の医療提供体制への影響、さらにはコロナ禍で五輪を開催する意義などを国民に訴え、理解を得られるのかどうかが問われることになるのではないか。

 ワクチン接種 7月完了は可能か

菅首相は先月下旬、高齢者のワクチン接種について「1日100万回、7月末完了」を打ち上げた後、自衛隊による大規模接種が決まった。また、総務省と厚生労働省がタッグを組んで、接種に当たる地方自治体に接種を急ぐよう猛烈な働きかけを続けている。

両省が全国1741市区町村を対象に聞き取り調査を行った結果、21日時点で「7月末完了」の見通しを伝えたのは、1616市区町村、93%に達している。

但し、この回答の中には、医療従事者の確保ができた場合という留保条件をつけている自治体もある。自治体側は、打ち手の医師や看護師の確保に四苦八苦しているところが多い。7月完了は流動的な要素が残っていると見た方がよさそうだ。

ワクチン開発や海外での獲得競争の話は横に置くとして、日本のワクチン接種の対応はどうか。イギリスでは、去年夏の時点で、いち早く打ち手の要員について、医師だけでなく医学生、理学療法士など資格を持たない人にも広げる検討を始め、法改正を実現するなど準備を着実に進めてきたという。

これに対して、日本の取り組みは、高齢者接種は事実上、地方に丸投げ。突如、自衛隊による大規模接種構想が浮上したりと”場当たり、突貫工事”の連続だ。高齢者に続いて、一般国民の接種まで順調に進むのかどうか不確定要素は多い。

 菅政権と政局 都議選がカギ

それでは、菅政権はどうなるのか。これまで見てきた緊急事態宣言の扱いを含めた感染の抑え込み、東京オリパラ開催問題、ワクチン接種の問題を乗り切ることができるかどうか。

但し、こうした難題への対応について、与党内から強い批判や責任追及が直ちに出てくる可能性は小さい。菅政権の評価や批判などが出てくる可能性があるのは、東京都議会議員選挙ではないか。

都議選は来月25日告示、7月4日の日程で行われる。各党とも国政選挙並みに力を入れる。国政のテーマが選挙の争点になるケースが多い。次の国政選挙、秋までに行われる衆議院選挙の先行指標になる。

この都議選で、政権与党である自民党の議席がどうなるか。その結果によって、菅政権や秋の政局に影響が出てくる。自民党は前回の都議選では、歴史的大敗を喫したが、今度の選挙では公明党との選挙協力が復活し、議席の回復が見込まれる。

一方、このところ報道各社の世論調査では、菅内閣の支持率だけでなく、自民党の支持率の低下傾向が現れ始めた。政府のコロナ対応に対する有権者の批判が、自民党の支持率にも影響が出始めたのではないか。このため、自民党は議席は回復するが、その程度、勝ち方が焦点の1つになる。

以上、見てきたように菅政権にとっては、まずは相次ぐ難題を乗り切れるかどうか。その対応を有権者がどのように評価しているかが、都議選に現れる。

その都議選の結果は、菅政権の今後と秋の政局の行方を左右する。”政局の本番は、都議選から始まる”ということになるのではないか。

“緊急宣言”延長 内閣支持率 急落の背景

東京、大阪など4都府県に出されている緊急事態宣言が今月31日まで延長、愛知県、福岡県が追加されたが、感染急拡大に歯止めがかからない。

感染拡大は地方でも広がっており、政府は14日、北海道、岡山、広島の3道県を対象に緊急事態宣言を発出する方針を決めた。また、「まん延防止等重点措置」について、群馬、石川、熊本の3県を追加することになった。(この部分は、政府の方針が変更されたため、14日正午に内容の表現を修正した)

こうした中で、菅内閣の支持率が報道各社の世論調査で急落している。支持率急落の理由・背景、菅政権や政局への影響を分析、展望してみたい。

 菅内閣支持率 発足以来最低水準

さっそく報道各社の世論調査からみていきたい。菅内閣の支持率は、読売新聞の調査では、支持が43%で前回から4ポイント低下、不支持が46%で6ポイント増加し、2月以来3か月ぶりに不支持が支持を上回った。

NHKの調査では、支持が先月より9ポイント下がって35%、不支持が5ポイント増えて43%、こちらも3か月ぶりに不支持が支持を上回った。今月の支持率35%は、菅内閣が去年9月に発足して以来最低の水準だ。

両社の調査とも調査日時は7日から3日間。7日は政府が緊急事態宣言の延長・追加の方針を決めた日で、それ以降の調査になる。支持、不支持の数値は異なるが、支持率が急落、支持と不支持が逆転した点は共通している。(データは読売新聞10日朝刊、NHK WEB NEWSから)

 コロナ「政府対応の評価」に比例

そこで、内閣支持率下落の理由だが、結論を先に言えば、コロナ感染に対する「政府対応の評価」に連動している。これまでも何回か取り上げたようにコロナ感染が問題になった安倍政権当時から、感染が拡大し政府対応の評価が下がると内閣支持率も下がる。感染が改善されると支持率も回復するといったように両者は連動、比例するのが特徴だ。以下、データはNHK調査でみていく。

その政府対応の評価については「評価する」が33%で、先月より11ポイント減った。逆に「評価しない」は63%、10ポイントも増えた。「評価する」33%は、菅内閣発足以来の最低の水準だ。

この結果、菅内閣の支持率は低下した。支持しない人たちに理由を1つに絞って挙げてもらうと「政策に期待が持てない」が40%、「実行力がない」が39%を占めた。

こうした背景を考えてみると、菅政権は先月25日、3度目の緊急事態宣言に踏み切り、短期集中の対策として「人流の減少」を打ち上げたが、新規感染者の抑え込み効果が現われていない。

また、菅政権では対策の検証、総括がなされず、十分な説明がない。今回の宣言延長・追加では、再び「飲食重点」の対策に戻るといった「対症療法」「場当たり対応」が目立ち、これに対する世論の不満や批判が読み取れる。

 女性、中年、無党派 ”支持離れ”

それでは、菅政権への影響はどうだろうか。内閣支持率の中身を分析してみると足元の「自民支持層の支持」が6割台前半まで落ち込んでいる。安倍政権では、7割後半から8割程度を維持していたのに比べると基盤が安定していない。

次いで、「女性の支持」が3割程度にまで急落している。コロナ感染拡大で、女性が多く従事しているパートや非正規労働の仕事が失われている影響だろうか。

年代別では、18歳以上20代と30代は、支持が上回るか、横ばい。40代・50代・60代の「働き盛りの中年層」では、いずれも不支持が増えて、支持を上回っている。最も多い「無党派層」では支持が2割を割り込み、不支持が過半数を占める。

このように「女性」「中年」「無党派層」の支持離れが目立つ。仮に今、衆院選となれば、かなりの打撃を受けるだろう。

もう1つの注目点は、自民党の政党支持率が下がっている点だ。自民党33.7%、先月より3.7ポイントも低下。菅政権下で最も低い水準だ。野党第1党の立憲民主党の支持率は5.8%で、0.5ポイントの低下。つまり、自民党の下がった分は、野党に回らず、無党派層43.8%に上積みされている形だ。

菅内閣の支持率が低下しても、自民党支持率は40%から30%台後半を維持してきた。今回のような大幅な下落はこれまでにないだけに、内閣支持率の低下が自民党の支持率低下に影響し始めたのかどうか、注視している。

 ワクチン接種 進み具合の評価

さて、コロナ感染の抑え込みに向けて、菅首相が切り札と位置付けているのが、ワクチン接種だ。菅首相は、7月末までに高齢者へのワクチン接種を完了できるように取り組む考えを打ち出した。

世論調査では、そのワクチン接種の進み具合の評価を聞いている。「順調だ」はわずか9%、「遅い」が82%と圧倒的だ。

ワクチン接種状況は5月11日時点で、先行接種の医療従事者で、1回目のワクチンを打った人が319万人で66%。2回目を完了した人が129万人で27%に止まる。65歳以上の高齢者接種になると1回目は48万人、1.3%。2回目を完了した人はわずか2万4千人余り、0.06%にすぎない。

菅首相は12日「全国の85%を占める1490の市区町村で、7月末までに接種を終えるという報告を受けた」と自信を示す。ところが、市区町村では、高齢者の電話予約が殺到して通じなくなったり、予約システムが障害で中断したりとトラブルが相次いでいる。

東京五輪・パラリンピックの開催日程がわかっているのに、日本のワクチン接種率は先進国で最下位、世界でも下位に位置する。政府のワクチン競争への遅れ、戦略、危機管理能力の乏しさが改めて浮き彫りになっている。

政府は5月下旬以降、ワクチンの供給量は大幅に増えると強調するが、市区町村の接種で、医師や看護師の確保が順調に進むか不安は残る。

さらに、全国各地で変異株が急拡大しているが、ワクチン接種を終えるまでに抑え込めるのか緊急の課題だ。免疫学の専門家に聞くと「ワクチン接種効果が出てくるのは、早くて今年後半。五輪・パラリンピックには間に合わない」と語る。感染抑え込みに総力を挙げる必要がある。

 政治の焦点 五輪 東京都議選

最後にこれからの政治・行政の動きをみておきたい。まず、厚生労働省は今月20日にアメリカ製薬大手のモデルナとイギリスのアストロゼネカの2つのワクチンを承認する見通しだ。承認されれば、アメリカのファイザーと合わせてワクチンは3種類に増え、供給量の増加が加速される。

一方、来月初めまでには、東京五輪・パラリンピック大会の観客数の上限などが決まる運びだ。菅首相は予定通り開催する方針だが、世論調査では「中止する」が49%で最も多い。次いで「無観客で行う」が23%、「観客数を制限して行う」が19%、「これまでと同様に行う」は2%となっている。

「中止」以外の合計、つまり「何らかの形で行う」は合計44%に達する。どう考えるか、「科学的データ」に基づいて判断するのが基本だ。開催しても安全と主張するのであれば、無観客でも大会参加者は何人になるのか。9万人説、6万人説などが取りざたされているが、明確にしないと判断のしようがない。

また、国内外の感染状況、医療提供体制はどうするのか。政府、東京都、組織委員会は、安心安全な大会を唱えるだけでなく、具体的なデータと条件を早急に示すべきだ。そのうえで、開催、中止、延期のどれを選択するのか、議論を徹底して合意形成を図る必要がある。

さらに通常国会は、来月16日に会期末を迎える。25日には東京都議会議員選挙が告示され、7月4日に投票が行われる。各党とも国選選挙並みの体制で臨む見通しだ。国政のテーマが選挙の争点になることが多く、秋までに行われる衆議院選挙の先行指標になる。

菅政権のコロナ対応の評価も大きな争点になる見通しだ。感染抑止対策や、ワクチン接種の進み具合、五輪開催問題などの動きに有権者がどんな判断を示すことになるのか。都議選の結果は、菅政権や政局のゆくえを大きく左右するとみて注視している。

 

”綱渡りのコロナ対策” 菅政権 宣言延長

新型コロナウイルス対策として7日、東京、大阪など4都府県に出されている緊急事態宣言が今月31日まで延長されることが決まった。また、愛知県と福岡県を対象地域に加えることになった。

一方、首都圏3県などに適用されている「まん延防止等重点措置」についても期限を今月31日まで延長するとともに、北海道、岐阜県、三重県を追加し、宮城県は対象から外すことになった。

今回の方針で、宣言の対象は東京、大阪、兵庫、京都、愛知、福岡の6都府県に拡大する。重点措置の適用は、北海道、埼玉、千葉、神奈川、岐阜、三重、愛媛、沖縄の8道県に広がる。

今回の緊急事態宣言、菅首相は「人流減少の目的は達成できた」と成果を強調するが、宣言延長が決まった7日、全国の新規感染者数は6000人を超え、死者は145人で過去最多を記録、感染状況は急速に悪化している。

これに対して、菅政権は”ワクチン接種頼み”が実状で、接種完了までに変異株の猛威を抑え込めるか、”綱渡りのコロナ対策”が続くことになる。菅政権のコロナ対応を探ってみる。

  3度目宣言 “大きな効果見えず”

今回の緊急事態宣言の効果について、菅首相は7日夜の記者会見で「ゴールデンウイークに合わせ、人流を抑える措置が必要と考え、幅広い要請を行った。東京や大阪の人流は4月はじめと比較して、夜間は6割から7割、昼間は5割程度、減少している。人流の減少という初期の目的は達成できた」と宣言効果を強調した。

ところが、大阪、東京などの感染は収まらず、宣言の延長・追加を決めた7日、全国の新規感染者数は6000人を超え、1月16日以来の高い水準になった。重症者数は1131人で過去最多、死者も145人と過去最多、事態は急速に悪化している。

専門家は、宣言の効果は来週にならないとわからないとしながらも、変異株の急拡大に警戒を強めている。新規感染者、重症者、死者はいずれも極めて高い水準で、3度目の緊急事態宣言の対策はこれまでのところ、大きな効果は見えない。

 具体策なく、ワクチン接種頼み

それでは、菅政権は緊急事態宣言を延長・追加して、どんな対策を打ち出そうとしているのか。

7日夜記者会見した菅首相は「大型連休という大きな山を越えた今後は、通常の時期に合わせた高い効果の見込まれる措置を徹底して対策を講じていく」とのべた。但し、「高い効果の見込まれる対策」としては、飲食店における酒の提供や持ち込みを制限する程度で、新たな具体策を打ち出すことはできていない。

菅首相が強い意欲を示しているのが、高齢者のワクチン接種だ。「来週から、全国の自治体でワクチン接種が始まる。今月24日からは、東京、大阪の大規模接種センターでも始まる。1日100万回の接種を目標とし、7月末を念頭に、希望する高齢者に2回の接種を終わらせるよう、政府としてあらゆる手段を尽くして自治体をサポートしていく」と力を込めた。

このワクチン接種、先行接種の医療従事者の接種は、2回接種が終わった人は2割程度で進んでいない。一方、全国の1700余りの市町村では、高齢者向けのワクチン配分量がわからないのと、接種に当たる医師や看護婦の確保に四苦八苦しており、8月以降までかかる自治体もあるとみられている。また、1日に100万回もの接種体制が可能なのかどうか、詰めが必要だ。

さらに高齢者に続いて、一般国民の接種はどうなるか。菅首相は「来月をめどに高齢者接種の見通しがついた市町村から、基礎疾患がある方々を含めて、広く一般の方々にも接種を開始したい」と意欲を示した。但し、一般国民への接種を終える時期の目標については、具体的に言及することは避けた。

このように菅首相のコロナ対応は、ワクチン接種を感染抑制の戦略に位置付けている。一方で、それ以外の対策、例えば変異株対策をはじめ、新規感染者の抑え込み、PCR検査の拡充、入院できない感染者の宿泊・治療提供体制などはどうするのか。

また、休業や時間短縮などの事業者、生活支援をどうするのかも具体策は示されていない。ワクチン頼みで、それ以外の感染抑制対策、医療提供体制改善の内容も乏しく、危うさを感じる。

 東京五輪・パラ開催方針は変えず

コロナ感染拡大との関係で注目されている東京オリンピック・パラリンピックの開催について、菅首相は「心配の声が上がっていることは承知している。選手や大会関係者の感染対策をしっかり行い、国民の命と健康を守っていくことが大事だ」とのべた。

そのうえで、「IOCと協議の結果、各国選手へのワクチン供与が実現することになった。日本の選手についても世界の選手の中の一部として接種をしたい。さらに選手や大会関係者と一般国民が交わらないように滞在先や移動手段を限定したい。選手は毎日検査を行うなど厳格な感染対策を検討している」とのべた。

菅首相は、各国選手のワクチン接種や大会関係者の滞在先の対策を徹底して、開催する方針は変える考えはないようだ。

一方で、海外の感染状況をはじめ、数万人ともいわれる大会関係者を国民と接触できないような管理が疑問だとして、開催の中止や延期を求める意見も内外に根強い。この点についても今後どのような展開になるのか、不確定要素を抱えている。

 衆院選とも関係 コロナ対策論争を

最後に政治との関係を見ておきたい。菅首相は7日、月刊誌のインタビューに答えて注目すべき発言をしている。衆議院の解散・総選挙の時期について、自民党総裁としての任期が満了となる9月末までの間で検討していることを明らかにした。

菅首相のワクチン接種や東京五輪の考え方も、このインタビューと重ね合わせると、わかりやすい。端的に言えば、菅首相の政権戦略・選挙戦略は、感染拡大はワクチン接種で抑え込むとともに、東京五輪・パラリンピックは何としても開催して成功させ、秋の解散・総選挙で勝利したい腹づもりとみられる。

このため、ワクチン接種、東京五輪・パラリンピックは政権の総力をあげ強力に進めるとみられる。一方、私たち国民の側からみると、ワクチン接種が完了するまでにはかなりの時間がかかる。接種完了までにどんな感染対策を進めるのか、変異株対策を含め具体的な対応策を示してもらいたい。

ワクチン接種についても、肝心のワクチン確保量や地方自治体への配分情報は、余りにも少ないし遅い。ワクチン接種計画の詳細版を早急に出すべきである。

そのうえで、感染抑止の総合対策やワクチン接種、経済・社会立て直しをどうするのか。国会で政権与党と野党の双方が真正面から議論して、国民に判断材料を示してもらいたい。

菅首相 ”3つの難問・難関”  

新型コロナ対策として、3度目の緊急事態宣言が、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に出されてから2日で1週間が経ったが、新規感染者の増加に歯止めがかからない。

菅首相にとって、大型連休明けから数か月の間に”3つの難問・難関”が待ち受けている。1つは、連休明けまでに感染拡大に歯止めをかけ、緊急事態宣言を解除できるかどうか。2つ目は、東京オリンピック・パラリンピック開催問題。3つ目が、高齢者向けのワクチン接種。菅首相がめざす7月末までに終えることができるかどうかだ。

こうした3つの難問は、私たちの暮らしや社会、政治の行方に大きな影響を及ぼす。難問・難関を乗り越えられるかどうか、以下、点検してみる。

 緊急事態宣言 解除は困難か

まず、新型コロナウイルスの感染状況からみていきたい。3度目の緊急事態宣言が4都府県に出されたのが4月25日、今月2日で1週間が経過したが、新規感染者は増加傾向が続いている。

深刻さを増しているのが大阪で、2日の新規感染者数は1057人で、6日連続で1000人を超えた。医療は危機的状況に陥っている。東京の新規感染者数は879人で、日曜日に800人を上回るのは3か月ぶりの高い水準だ。このほか、北海道は過去最多、福岡県でも過去2番目の多さになっている。

一方、重症者数は2日、1050人に達し過去最多となった。専門家は「変異ウイルスが広がっていることが一番の原因ではないか」「新たなフェーズに入ったと受け止めるべきだ」と危機感を強めている。

緊急事態宣言の期限は11日までだが、解除できるかどうか。今の時点で判断するのは難しいが、専門家の見方や重症者数の多さなどを考えると、宣言解除は悲観的にならざるをえない。特に大阪などの関西圏の解除は難しいのではないか。

緊急事態宣言の扱いに関連して、政府のコロナ対応については、これまでも繰り返し指摘していることだが、節目節目に「対策の検証・総括」を明らかにすべきだ。どこに問題があり、今後どう改善するのか説明がない。

このため、変異株を含めた検査の拡充をはじめ、隔離・入院、病床の確保調整、休業補償の在り方など同じ問題について、1年以上も堂々巡りの議論が続いている。何とかならないのか。

今回は、酒類提供の飲食店や大型商業施設の休業が打ち出されたが、人の移動・人流の減少の目標はどこまで達成されたのか。菅首相や閣僚の対応は、ワクチン接種には熱心だが、感染の抑え込みの呼びかけなどは型通りで、国民に懸命に繰り返し説明・説得する熱意が感じられない。

これでは、人流抑制効果を期待する方が無理ではないか。11日の期限の節目では、今度こそ、きちんとした説明を行ってもらいたい。

 五輪・パラ 感染対策 徹底議論を

2つ目の難問は、東京五輪・パラリンピックの開催問題だ。先月28日に行われた大会組織委員会やIOC国際オリンピック委員会のバッハ会長など5者によるオンライン会議で、観客数の上限については、6月に判断することで合意した。

政府・自民党関係者に聞くと「菅首相の考えは、大会開催は前提で、安全・安心な大会にするため、感染防止対策をどうするかを考えている」と説明する。

これに対して、報道各社の世論調査では、国内外の感染状況や変異株の広がりを考えると「大会の中止や延期すべき」と考える人が7割を占めている。首相と世論の見方・考え方に大きな開きがある。

大会開催の是非は、アスリートの夢や努力をはじめ、スポーツ関係者の尽力、1兆6000億円にものぼる大会費用の投入など様々な要素を考慮に入れて判断する必要がある。

一方、国内、世界のコロナ感染は深刻な状態にあり、大会を開催できる状況にあるのかどうか。開く場合は、感染防止対策はどのようになっているのか。政府、東京都、組織委員会が、それぞれの考え方を科学的なデータも含めて明らかにして、議論を徹底的に行う必要がある。大会開催予定まで3か月を切っている。

五輪を巡っては、菅首相と小池都知事との確執や思惑などが取りざたされている。国民にとっては直接関係ないことであり、国家的行事について、それぞれの立場で明確な考え方を明らかにしてもらいたい。

私たち国民の側も開催、中止のいずれの結論になっても”五輪の政治的利用や、思惑に加担しない賢明な判断・対応”が必要ではないかと考える。

 ワクチン高齢者7月末完了は可能か

3つ目の難問は、高齢者のワクチン接種の問題だ。菅首相は先月23日、緊急事態宣言の方針を決定した際の記者会見で「希望する高齢者に7月末を念頭に2回の接種を終えることができるように取り組んでいく」と高齢者接種の7月末完了の考えを打ち上げた。

現状はどうか、まずは高齢者より前に行う医療従事者の先行接種。4月29日の時点で、対象となる480万人のうち、2回の接種を完了した人は21%に止まる。1回目の接種も49%だった。

医療従事者への接種が進まない背景としては、ワクチンの供給が遅いことがある。2月17日から医療従事者の接種が始まったが、すべての対象者に2回分が供給されるのは5月中旬になる見通しだ。

高齢者の優先接種は4月12日から始まったが、最初の供給量は1%にも満たなかった。高齢者の接種が全国で本格化するのは5月に入ってからだとみられるが、その前に、高齢者にワクチンを打つ医療従事者の接種を優先する必要がある。

全国の自治体関係者が、3600万人の高齢者を対象にした接種で頭を痛めているのは、ワクチン供給の情報が極めて乏しいことだ。「いつ、どれくらいの量が届くのかがわからないので、準備のしようがない」などの声を聞く。

政府は先月30日にようやく、5月下旬から6月末までの全市区町村への配分量を各都道府県に通知した。6月末までに高齢者全員が1人2回接種できる分を配り終える計画だ。

自治体側はこれから打ち手の医師、看護師の確保などに当たらなければならない。自治体の中には、7月末まではとても無理で、接種が終わるのは8月以降を想定しているところもあるという。

専門家によると、7月末までにワクチン接種を終えるには、1日に80万回の接種が必要だ。そのためには、ワクチンの打ち手を歯科医師や、薬剤師などにも広げる必要がある。さらにクリニックや、企業での接種も含め、多様な形で取り組まないと困難だという。

政府のこれまでの対応、司令塔機能の弱さをみると、高齢者接種は難問中の難問と言えるのではないか。どんな設計図を描いているのか、地方自治体へのバックアップ体制や、指導力・実行力を注視していきたい。

 都議選、菅政権の行方を左右

以上、見てきた3つの難問は、大型連休明けから直ちに動きが始まる。7月末にかけて、政治の面では様々な動きやハレーションが起きることも予想される。

菅首相が政権の最優先課題としてワクチン接種を挙げ、高齢者接種を7月末までに完了させることを表明したことは、東京五輪前の早期解散は選択しないとみていいのではないか。このことは、前号のブログでも取り上げたように秋の衆院選挙の公算が一段と明確になったとみることができる。

これからの政治の焦点は、秋の衆議院解散・総選挙は誰の手で断行することになるのかに移りつつある。具体的には、菅首相か、それともその前に自民党総裁選を行い別のリーダーを選ぶのか。

一方、3つの難問は、今年夏の大型選挙である7月4日投票の東京都議会議員選挙にも大きな影響を及ぼす。都議選は、直前の国政レベルの主要テーマが争点になるからだ。このため、国政選挙の先行指標ともいわれる。

3つの難問は、私たちの暮らしに影響を与えるのをはじめ、夏の都議選、秋の衆院解散・総選挙など政治の先行きも大きく左右することになる。

 

衆参3選挙 自民全敗”早期解散遠のく”

菅政権発足後最初の国政選挙となった衆参3つの選挙は、いずれも野党候補が勝利し、自民党は候補者擁立を見送った選挙を含めて、全敗した。

この選挙結果は菅政権の政権運営を直撃し、自民党内の一部から出ていた早期解散論は遠のき、秋の解散・総選挙の可能性がさらに高まったとみている。

今回の選挙結果をどのようにみるか、菅政権や政局に及ぼす影響などを分析してみたい。

 金権政治批判、怒り噴出、広島選挙

今回の3つの選挙、早い段階から「自民党が1勝できるか、3戦全敗になるか」が大きな関心事項だった。衆院北海道2区は、吉川元農相の収賄事件に伴う補欠選挙で、自民党は候補者擁立を見送り、不戦敗。参院長野選挙区は、羽田元総理の厚い選挙地盤に加えて「弔い選挙」、野党が強いとみられていた。

残るは参院広島選挙区がどうなるか。河井克行元法相夫妻の前代未聞の大規模買収事件に伴う再選挙で、「政治とカネ」の問題が最大の争点になった。

広島は「保守王国」といわれ、一昨年参院選挙の政党を選ぶ比例代表選挙では、自民党は41万票、立憲民主党15万票の3倍近い得票をしていた。選挙前には「ギリギリで自民が勝つか」との見方も強かった。

フタを開けてみると野党候補の宮口治子氏が37万票860票、自民党候補の西田英範氏が33万6924票、3万票余りの差をつけて宮口氏が初めての当選を果たした。広島の知人に聞いてみると「政治とカネ、金権政治に対する有権者の怒りが底流にあったのではないか」と語る。

NHKの出口調査では、宮口氏に投票した人が最も重視したのは「政治とカネをめぐる問題」が35%で最も多く、次いで「コロナ対応」19%、「経済・雇用政策」13%などとなっていた。

投票率は33.61%で、一昨年の参院選挙に比べて11ポイントも下がり、過去2番目に低かった。自民党の支持層では、2割以上が野党の宮口氏に投票したほか、「政治とカネ」の問題に嫌気がさして、棄権した人も多かったのではないか。

今回の3つの選挙、自民党の敗因としては、コロナ感染拡大に歯止めをかけられない政権に対する不満が共通しているほか、選挙区によって「政治とカネ」の問題が重なったことが挙げられる。

 菅政権を直撃 反転攻勢吹き飛ぶ

今回の選挙結果は、菅政権を直撃する形になっている。支持率が急落した菅首相は4月は反転攻勢と位置づけ、12日にワクチンの高齢者優先接種を開始したのをはじめ、世界の指導者に先駆けて訪米、16日にはバイデン大統領と日米首脳会談を実現し、対中けん制の共同声明を打ち出した。

ところが、コロナ感染の急拡大が収まらず、23日には東京、大阪など4都府県に3度目の緊急事態宣言発出に追い込まれた。これに衆参3つの選挙全敗が、追い打ちをかけた。反転攻勢が吹き飛ぶ形になっているのが実状だ。

今回の選挙は菅政権が去年9月に発足後、最初の国政選挙だ。政権発足当初は”たたき上げ首相”が好感され、高い内閣支持率を記録した。ところが、コロナ対応が後手に回り、放送関連会社に勤める長男が総務官僚に多額の接待を繰り返していたことも明らかになるなど政権や与党の不祥事が相次いでいる。

今回の選挙について、自民党内には「補欠選挙や再選挙であり、政権運営には影響しない」との受け止めもあるようだが、額面どおり受け取る人は永田町では少ない。政治とカネ、国民への説明が乏しい政治の現状。3つの選挙区の有権者だけでなく、国民の多くが菅政権に対して厳しい見方や不信感を抱いていることを真正面から受け止める必要がある。

 ”五輪前解散”遠のく 都議選注視

今後の政局への影響は、どうだろうか。衆議院議員の任期満了まで半年を切った。最大の焦点は、次の衆議院解散総選挙がいつ断行されるのかだ。

自民党内の一部からは、春の解散・5月下旬投票説のほか、東京五輪前、7月の東京都議選とのダブル選挙説などが流されてきた。

今回の選挙結果で、政治とカネをめぐる自民党の体質や政治姿勢、コロナ感染を抑え込めない政権に対する有権者の厳しい評価を考えると、東京五輪前の解散・総選挙は遠のいたのではないか。

菅首相は26日記者団の質問に対して「コロナ対策を最優先に考えている」と早期解散に慎重な姿勢を重ねて示した。ワクチン接種を軌道に乗せることも考えると、秋の解散・総選挙の可能性がさらに強まっていると個人的にはみている。

今後の政治の動きをみていくうえで、ポイントは3つある。1つは、来月11日に期限を迎える緊急事態宣言の効果がどのようになるか。また、医療従事者と高齢者のワクチン接種が順調に進むのかどうか。

2つ目は、東京五輪・パラリンピック開催問題。菅首相は、開催を前提に感染対策を進める方針だ。一方で、コロナの感染状況が、世界や日本国内でどのようになるのか、決断の時期が近づいている。

3つ目は、7月の東京都議選の結果だ。都議選は、国政選挙の先行指標になってきた。自民党は前回は歴史的な大敗を喫したが、今回は公明党との選挙協力が復活するので、議席を回復するとみられているがどうなるか。

こうした3つのポイントを経ながら、政権与党内で菅首相続投を求める声が強まるのか。それとも交代を求める動きが出てくるのか、菅政権は秋に向けて、綱渡りの政権運営が続くことになりそうだ。

 

 

“3度目緊急事態宣言”が問われる点 

新型コロナ対策について、政府は23日、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に緊急事態宣言を出すことなどを決めた。期間は25日から5月11日までの17日間。去年4月、今年1月に続いて3度目の宣言になる。

今回の対策は、酒類を提供する飲食店や大型商業施設などに休業を要請するのをはじめ、強力な対策を短期に集中して実施し、コロナ感染を抑え込むとしているが、果たして成功するだろうか。

”3度目の緊急事態宣言”、何が問われているのか、緊急宣言決定後に行われた菅首相の記者会見を中心に探ってみたい。

 納得感と説得力乏しい記者会見

菅首相のおよそ1時間に及ぶ記者会見を聞いて、政府の今回の対策について、納得感や説得力は感じられなかった。なぜかと考えてみると、「これまでの対応の総括」がないことと、今回の対策は「どのような目的・目標」を設定して取り組もうとしているかが、はっきりしないからではないかと思う。

記者会見の中で、菅首相は「再び、多くの皆様方にご迷惑をおかけすることになる。心からお詫びを申し上げる」とのべたが、これまでの政府の取り組みのどこに問題があり、どのように改めていくかの言及はなかった。

「懸念されるのは変異株の動きで、このまま手をこまねいていれば、大都市での感染拡大が国全体に広がることが懸念される」とのべたうえで、「ゴールデンウイークという多くの人が休みに入る機会をとらえ、対策を短期間に集中して実施することで、ウイルスの勢いを抑え込む必要があると判断した」として、短期集中型の対策に理解を求めた。

振り返ってみると菅首相は1月の緊急宣言以来、飲食店の営業時間短縮に重点を置く対策を取り続けてきたが、感染を抑え込むことができず、再び宣言発出に追い込まれた。去年の第1波、第2波の感染が落ち着いた後もどこに問題があったのか、点検・総括を先送りにしてきた。

また、今年1月に緊急事態宣言を出す際、飲食店の時短に偏りすぎて対策として弱かったことが、感染を抑えられなかった要因と指摘する見方もある。

今回の対策でも菅首相は、飲食店対策と人の移動・人流を減らす対策の両方を重視する考えを示しているが、「人流抑制」に舵を切ることが重要だとする意見が政府内にある。どちらに重点を置くのか、目標、基本姿勢を明確にしないと政策の効果が上がらないのではないか。総括と目標の明確化が必要だ。

 対策の中身 変異株、感染抑制効果は

次に問われるのが、「対策の具体的な中身」だ。強い対策と強調するが、本当に効果を上げることができるか、実効性が問題になる。酒類を提供する飲食店やカラオケ店などに対する休業要請に始まって、百貨店などの大型商業施設の休業要請、さらにプロ野球やJリーグの無観客試合など幅広い対策が盛り込まれている。

確かにこうした対策が取られた場合、感染抑制につながる人出・人流の減少という点で一定の効果は期待できる。

一方、厚生労働大臣経験者に話を聞くと、変異株の急増に対応するためには、人流の抑制が必要で、そのためには大都市圏への通勤者を減らす対策を徹底して行う必要があると強調している。

去年第1波の時のようにテレワークや有給休暇の取得などで7割、8割削減を徹底して行うこと。企業、経済団体などへの働きかけも弱いと指摘する。

このほか、休業要請を行う場合は、休業に対する補償、協力金が十分かどうか。そして、本当に協力が得られるのかどうか、今回も大きな問題になっている

さらに変異株の検査・監視をはじめ、陽性者の宿泊、入院・治療体制整備はどこまで進んでいるのか。政府や自治体は、国民への自粛要請を繰り返すが、行政の側はどんな取り組みを行い、改善しているか説明は極めて乏しい。

  第4波 感染収束のシナリオが必要

国民が知りたいのは、変異株を中心とした感染拡大第4波を収束させるために、政府はどのような対策を組み合わせ、危機を脱出するのかという点だ。

最初の緊急宣言が出されてから、すでに1年以上が経過した。政府は、夏には東京五輪・パラリンピックを感染対策を徹底して行う方針だ。そうであるならば、ワクチン接種を含め、今後の感染対策をどのように実施していくのかのシナリオを示す必要がある。

この点に関連して、菅首相は記者会見で、4月から始まった高齢者の優先接種は「7月末を念頭に各自治体が2回、接種を終えることができるよう、政府を挙げて取り組んでいく」とのべ、高齢者接種のメドを明らかにした。

また、先の訪米で、ファイザー社のCEO、今年9月までにすべての対象者に確実に供給できるめどが立ったと説明している。こうした点について、本当に確約が得られているのか疑問だとする見方もあるので、根拠を具体的に明らかにしてほしい。

ワクチン接種については、地方自治体側からは「5月の連休明けのワクチンの配分量が未だにわからない状態を、何とかして欲しい」という要望が強い。ワクチン確保が確実になったというのであれば、各市町村への具体的な配分のメドを示すことを注文したい。

菅首相は記者会見で「危機乗り切りに、自治体との協力、病床の確保、ワクチン接種など内閣総理大臣として、できることはすべて全力を尽くしてやり抜く」と決意を語った。

そうであるならば、その場しのぎの対症療法に陥らないように、まずは既に打ち出している政府の総合対策の進捗状況をきちんと説明したうえで、第4波を抑え込む道筋を明らかにする必要がある。

今回の対策の期限である来月11日の節目には、菅政権のコロナ対策全体の取り組み方を明らかにすることを強く求めておきたい。

 

 

日米首脳会談と政治・外交のゆくえ

菅首相とアメリカのバイデン大統領は、16日の日米首脳会談で、日米同盟を深化させるとともに、覇権主義的な動きを強める中国に対して、共同で対抗していく姿勢を打ち出した。

これに対し、中国側は「強烈な不満と断固たる反対」を表明する談話を発表した。米中対立が激化する中で、日本は難しいかじ取りを迫られることになりそうだ。

今回の日米首脳会談は、日本の政治や外交、安全保障にどのような影響を及ぼすのか探ってみたい。

 日本外交・安全保障に重い責任

今回の日米首脳会談は対中戦略が大きな焦点になり、会談を受けての共同声明は、中国を強くけん制する内容を打ち出した。その象徴が、中国が「核心的利益」と位置づける台湾問題で、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した。

共同声明で台湾に言及したのは、日中国交正常化前の1969年の佐藤首相とニクソン大統領の会談以来52年ぶりだ。

また、菅首相は会談後の共同記者会見で、「防衛力の強化を図る決意」を表明した。尖閣諸島の防衛をはじめ、日本の防衛力の整備、台湾有事を想定したアメリカ艦船への補給など後方支援などの検討も課題になるとみられる。

これに対して、中国側は今後さまざまな形で、対日圧力をかけてくるものとみられる。米中対立の激化が予想される中で、中国とどのように向き合うか、日本は外交・安全保障などの分野で重い責任を担うことになる。

中国は、日本の最大の貿易相手国だ。経済面でどのような影響が出てくるのか、検討も迫られる。中国に対する外交、安全保障、経済、先端技術など総合的な対策・戦略が必要になる。コロナ対策では後手の批判を浴びたが、総理官邸が中心になって対中戦略づくりが進むのかどうか、菅首相の指導力が問われる。

 ”政権運営の支え役” 日米首脳会談

次に国内政治への影響はどうか。日米合意内容は重い課題だが、菅政権にとっては、短期的には”政権運営の支え役”になる。政権に対する批判を浴びても、日米合意の実現を図る責任があるとして、批判を封じることもできる。

例えば、4月下旬の衆議院北海道2区、参議院の長野、広島のトリプル選挙で、仮に与党系候補が敗れた場合。あるいは、7月の東京都議会議員選挙が不振に終わり、”菅降ろし”などの動きが出た場合、外交の責任を持ち出して批判をかわすことも可能になるとみられる。

東京五輪・パラリンピックについても首脳会談で、菅首相は開催に強い決意を表明し、バイデン大統領は支持したとされる。今後の感染状況にもよるが、菅首相は、開催を推進する方針は変えないとみられる。

菅政権の今後の政権運営は、4月下旬の気候変動サミット、6月中旬のG7サミットなどの外交案件をこなしながら、7月から9月はじめにかけての東京五輪・パラリンピックへとつなぎ、秋の政治決戦に打って出る戦略だとみられる。

 秋の解散・総選挙の公算大か

菅首相は、訪米中に同行記者団から衆院解散・総選挙について質されたのに対し、「まずは新型コロナ対策をしっかりやりたい。同時に10月に衆議院議員の任期が来るので、秋までの間で時間の制約はあるが、よく考えていきたい」とのべた。

この発言と先の政治日程とを合わせて考えると、◆7月の東京都議選に合わせた解散・総選挙の可能性は小さい。◆基本はコロナ対策を進めたうえで、秋の解散・総選挙の公算が大きい。◆その際、9月解散・総選挙を断行し、その後、自民党総裁選を行う方針を模索しているのではないかとみている。

但し、以上は菅内閣の支持率が高く、政権が求心力を保っていることが前提だ。求心力低下となれば、首相の交代論が出てくることも予想される。

 カギは、感染状況とワクチン接種

それでは、これからの政治を動かすカギは何か。結論を先に言えば、コロナ感染状況と、ワクチン接種が順調に進むかどうかにかかっている。

ワクチン接種については、河野担当相が、訪米中の菅首相とアメリカ製薬大手ファイザー社との間で、ワクチンの追加供給を受けることで実質合意したと明らかにした。そのうえで、国内のすべての対象者に必要な数量を9月中に供給できるとの見通しを示した。

今月12日から始まった高齢者の優先接種に必要な数量は、既に6月末までに確保できるとの見通しが示されている。問題は、ワクチン接種が高齢者に続いて、基礎疾患のある人、さらに一般の人に打ち終わるまでに、感染拡大を抑えられるかどうかだ。

全国の感染状況は18日の時点で、大阪府では新規感染者が1220人で過去最多を更新。まん延防止等重点措置を適用して2週間が経つが、効果が現れていない。東京都も543人で、500人を超えるのは6日連続。全国の新規感染者数は4000人に増加。感染力の強い変異株に置き換わりつつあることも影響しているものとみられる。

菅政権の先行きは、こうしたコロナ感染を抑え込めるのか。今のような飲食店の時間短縮重点では限界があり、より強い新たな対策に踏み込む必要があるのではないか。

一方、外交面では、中国とどのように向き合うのか。外交、安全保障、経済を含めた対応策を国民に説明、理解を得ながら取り組む必要がある。内政、外交の大きなハードルを乗り越えられるのか、菅政権の実行力が問われている。

”総括も道筋もなき”コロナ対策 菅政権

新型コロナウイルスの感染再拡大に伴って、東京、京都、沖縄の3都府県に12日から「まん延防止等重点措置」が適用される。大阪など既に適用されている地域と合わせると6都府県に拡大した。

注目のワクチン接種も先行している医療従事者に続いて、12日からは高齢者を対象にした優先接種が始まる。

感染再拡大とワクチン接種の同時進行という新たなフェーズに入ったが、菅政権の対応をみると、対策の総括がなされないので、効果はあまり期待できない。

また、コロナ感染危機脱出への道筋も示されていないという問題を抱えたままだ。第4波が現実味を帯びてきた中で、何が問われているのか探ってみた。

「まん延防止」で抑え込めるか?

菅政権が新たに採用したのが、コロナ対策の特別措置法に基づく「まん延防止等重点措置」だ。緊急事態宣言が各都道府県内全体を対象にするのに対して、「まん延防止」は、知事が地域を決めて飲食店の営業時間短縮などを要請できる。

機動的に対処できるが、感染力が強い変異ウイルスが拡大している局面で、効果が期待できるのかどうか、自民党の厚生労働経験者に聞いてみた。

「一定の効果はあると思うが、はっきり言って限界もある。政府の今の対策は、”川下”での対策だ。サラリーマンなどが勤務を終えて一杯やる居酒屋での感染拡大を防ぐ。しかし、感染の急拡大を抑え込むには、人の移動を減少させる”川上”対策、蛇口を閉める対策まで踏み込むことが必要だ」と指摘する。

具体的には、去年春の感染拡大期にとられた「テレワークの徹底」。首相をはじめ、西村経済再生相、田村厚労相などが必死で企業、経済団体などを回り、出勤者の7割、8割削減を要請することだ。中小企業については支援策も用意して、協力を要請すべきだ。

そして「2週間程度、短期集中型で感染を極めて低レベルに抑え込んだうえで、新たな対策を実行しないとリバウンドの防止は無理だろう」と指摘する。

 ”総括も道筋もなき”コロナ対策

次に、菅政権のこれまでのコロナ対策はどこに問題があるか。端的に言えば、”総括も道筋もない対策”といえるのではないか。

例えば、先に東京など3都府県に「まん延防止等重点措置」の適用を決めたが、その2週間余り前には緊急事態宣言解除に合わせて「5つの柱からなる総合対策」を打ち出した。変異ウイルス対策の強化やPCR検査の拡充、医療提供体制の強化などで、ようやく政府の対策に盛り込まれた。

ところが、今回、新たな「まん延防止措置」を打ち出すのにあたって、総合対策はどこまで進み、新たな措置とどのように関連づけて実行していくのかといった総括や説明はまったくない。その時々の対応、”対症療法”の繰り返しに終始している。

菅政権のコロナ対策は、年明けの緊急事態宣言以降、飲食店の時間短縮中心の”1本足打法”で一貫している。第1波、第2波の総括も先送りにしたままなので、いったん打ち出した対策以外は、新たな対策はなかなか採用されない。

また、決め手と位置付けるワクチン接種をどのように進めていくのか、供給量や接種スケジュールもはっきりしない。さらに、感染抑止とワクチン接種を組み合わせた実施計画や、経済・社会活動の本格化につなげる出口への道筋も未だに示されていない。

最初の緊急事態宣言発出から既に1年、菅政権発足から半年余りが経った。菅政権は暮らしと経済活動を軌道に乗せていく道筋を早急に示す時期に来ている。

  ワクチン接種と政権の実行力

感染抑制と経済活動再開への切り札になるのがワクチン接種だが、日本は先進国の中で後れをとっている。2月17日から医療従事者の先行接種始まったが、4月9日までのデータで159万回に止まる。

4月12日からは、いよいよ高齢者の優先接種が始まる。但し、ワクチン確保量が極めて少ないため、本格的な接種は5月以降になる見通しだ。

河野ワクチン担当相は、6月末までに高齢者3600万人が2回接種を受けられるワクチンは確保できると強調する。これに対して、接種主体の自治体担当者からは「いつ、どれくらいのワクチンが届くのか具体的な情報がない」と不満は強い。

ワクチン接種の道のりは長い。高齢者の優先接種が終わった後、基礎疾患ある人・約820万人、次は高齢者施設の従事者・約200万人、さらに60歳から64歳までの高齢者・750万人と続く。その後、ようやく一般の人たちとなる。かなりの時間がかる。

それまでの間、第4波を防ぎながら、ワクチン接種を順調に進めることができるか。やるべき対策は、これまでの経験からはっきりしている。PCR検査の拡充をはじめ、変異株を把握する検査強化、病床の確保と転院調整など医療提供体制の整備だ。

菅政権の対策は飲食店の時間短縮が中心だが、これからは多様な対策を組み合わせて、感染抑制の効果を上げられるか実行力が厳しく問われる。

大阪をはじめとする関西圏では、このところ新規感染者数が過去最多となっているほか、重症病床もひっ迫している。東京も先月22日に緊急事態宣言が解除された後、感染拡大傾向が続いている。

当面、まん延防止措置の効果が現れるのか、それとも3度目の緊急事態宣言に追い込まれるのか、この2週間の感染状況をしっかり見ていく必要がある。

 

 

 

 

 

”五輪前解散 困難” コロナ感染再拡大

新型コロナ感染が急増している大阪、兵庫、宮城の3府県に「まん延防止等重点措置」が5日から初めて適用される。

感染は全国的に拡大傾向にあり、政府は感染拡大を抑え込めるか。仮に歯止めをかけることができず、第4波となると菅政権の先行きは一段と厳しくなる。

今回の感染再拡大の兆候は、政権や政治にどんな影響を与えることになるのか、探ってみる。

 変異ウイルス拡大 第4波も警戒

東京など1都3県に出されていた緊急事態宣言が全面的に解除されたのが3月22日。それから2週間も経たないうちに、今度は、大阪、兵庫、宮城の3府県で感染者が急増し、政府は「まん延防止等重点措置」の初めての適用に踏み切った。

重点措置の期間は、4月5日から5月5日までの1か月。3府県の知事が、地域を決めて飲食店の営業時間の短縮要請などの措置を取ることになる。

また、大阪や兵庫など関西地域では、感染力の強い変異型のウイルスの拡大が目立つ。専門家は今後、全国的にウイルスは変異株に置き換わっていくだろうと神経をとがらせている。

さらに、東京をはじめ、山形、愛媛、沖縄など43都道府県で、新規感染者数の増加傾向が続いている。政府コロナ対策の尾身会長は「第4波に入りつつある」と感染再拡大に警戒を強めている。

 重点措置 東京など視野に追加も

こうした感染再拡大への対応について、西村担当相は4日のNHK日曜討論で、東京などの首都圏をはじめ、沖縄、山形、愛媛、奈良、京都、愛知などの都府県の名前を挙げたうえで、「まん延防止重点措置を中心に臨機応変に対応したい」とのべた。

政府は、東京などで感染の急拡大がみられる場合は、この「まん延防止等重点措置」の適用を追加して、感染拡大を抑え込む方針だ。

政府と、東京都など都府県の知事との調整がどのように進むか、今後の注目点の1つだ。

 五輪前の解散・総選挙は困難か

次に今年の政治の焦点である衆議院の解散・総選挙の時期に及ぼす影響はどうか。自民党の二階幹事長は、野党側が内閣不信任決議案を提出した場合は、衆院解散・総選挙に打って出るよう進言すると強気の姿勢を見せている。

また、自民党の一部には、東京オリンピック・パラリンピック前の解散・総選挙をめざすべきだとする見方が出されてきた。4月解散・5月23日投票説や、7月4日東京都議選とのダブル選挙説などだ。

自民党のベテランに見通しを聞くと「コロナ感染を抑え込めないと、解散・総選挙は無理だ。自民党の選挙運動は”蜜”そのもので、支持者は高齢者が多い。万一、感染者や亡くなる人が出たら、それでお仕舞いになる」。

3府県のまん延防止等重点措置の期間は5月5日までと設定されたことで、その前の解散は難しく、5月23日投票説は時間的に不可能だ。

次に7月4日都議選とのダブル選挙説は、5月、6月はワクチン接種が全国の自治体で本格化するとみられること。また、ワクチン接種会場と投票所とが重なっている地域もあることから、ワクチンと選挙の同時実施は困難だとする意見が強い。

さらに、選挙の勝敗への影響。公明党は東京都議選を国政選挙並みに重視している。都議選の時期と衆議院選挙が重なれば、公明党・創価学会票が自民党候補への上乗せ効果が下がり、接戦区で自民党が議席を減らすことになりかねない。このため、自民党はこの時期の解散は避けるとの見方が強い。

菅首相も「最優先はコロナ感染拡大を防ぐことだ」と早期解散には慎重な姿勢を変えていない。したがって「五輪前の解散・総選挙は困難」とみられる。最終的には「五輪後の秋の解散・総選挙」の可能性がさらに強まっているとみてよさそうだ。

 4月感染状況 政権・政局を左右

今後の政治の見方・読み方だが、「4月の感染状況がどうなるか」がポイントになるとみている。

4月は、12日から高齢者を対象にしたワクチンの優先接種が始まる。16日には、菅首相が訪米してバイデン大統領との日米首脳会談が行われる。世界のリーダーに先駆けての会談になるだけに、菅首相としては、政権浮揚のきっかけにしたい考えだ。

感染状況が収まっていれば問題はないが、逆に感染再拡大になっていれば、日米首脳会談効果も帳消しになりかねない。東京オリンピック・パラリンピックの開催環境にも影響してくる。

さらに4月25日には、衆参のトリプル選挙も行われる。衆議院の北海道2区、参議院長野選挙区の補欠選挙、それに参議院広島選挙区の再選挙の3つ。元農相の収賄事件や大規模買収事件が原因の選挙などだ。政府のコロナ対応、一連の相次ぐ不祥事なども有権者の判断材料になるだろう。

コロナ感染状況とトリプル選挙の審判。政権発足後、半年余りの菅政権に対する有権者の評価が示される。政権浮揚に向かうのか、それとも政権直撃・求心力低下となるのか、分かれ道になる。

 ワクチン接種と感染抑止の実績は

最後に国民の関心が強い、ワクチン接種と感染対策について触れておきたい。

ワクチン接種は、4月12日から高齢者の優先接種が始まるが、未だに「いつ、どれだけの分量が届くのかわからない」と自治体関係者の悩みは続いている。5月以降、本格化するのではないかとみられているが、明確な見通しはついていない。

また、仮に高齢者接種が順調に進んだとしても、次は基礎疾患のある人、高齢者施設の従事者のあと、ようやく一般の人たちになる。ワクチン接種の計画・見通しをできるだけ早く示す責任がある。

さらに、ワクチン効果が上がるまでにはかなりの時間がかかるので、当面の感染再拡大を抑え込めるかどうかが、大きな問題になっている。

菅政権の対応を見ていると対策は発表するが、対策がどこまで進んでいるのか説明がなされない。例えば、先月打ち出された変異ウイルス把握の検査拡充や、繁華街などでの無料大規模PCR検査などもどこまで実行できているのか、停滞しているのか、一向に明らかにされない。

今回の感染再拡大に対して、菅政権は「まん延防止重点措置」で飲食店の営業時間短縮で乗り越えようとしている。こうした対策は一定の効果はあるだろうが、限界がある場合は、より強い対策に切り替えていく柔軟性を示してもらいたい。

最初の緊急事態宣言が出されてから、今月7日で1年になる。この間、繰り返し指摘されてきたPCR検査体制の拡充をはじめ、国と自治体との病床確保の調整・整備体制づくり、さらに変異ウイルスの検査強化などの課題について、これまでの取り組みの結果・実績を明らかにすることを強く求めておきたい。

菅政権と”コロナ政局”のゆくえ

菅政権が初めて編成した新年度予算が26日、参議院本会議で可決、成立した。菅首相の長男が勤める放送関連会社が、許認可権を持つ総務省幹部を接待していた不祥事が表面化し、総務官僚2人が辞職する異例の展開となったが、何とか年度内の成立にこぎつけた。

予算成立後の政治はどう動くのか。菅首相の自民党総裁任期は9月末まで、衆議院議員の任期は10月21日まで、残された任期はおよそ半年。「政権発足からまだ半年とみるか、残り任期はあと半年しかないとみるか」で、政治の光景は違って見える。コロナ感染と菅政権のゆくえを分析・展望してみたい。

反転攻勢 訪米、五輪、衆院決戦

コロナ対応をめぐって、世論や野党から厳しい批判を浴びてきた菅首相は、4月を「反転攻勢のスタート」にしたい考えだ。アメリカを訪問し、9日にバイデン大統領と会談し、世界の首脳の中で最初に会談したリーダーであることをアピール、政権運営の追い風にしたいねらいもある。

続いて4月12日からは、これまでの医療従事者の先行接種から、いよいよ高齢者を対象にした優先接種が始まる予定だ。また、菅政権の看板政策であるデジタル改革関連法案は、今国会で成立するのは確実な情勢だ。

さらに延期されてきた東京五輪・パラリンピック大会の開催、感染対策を万全にしたうえで、成功させたい考えだ。

こうした内外課題の実績を積み重ねたうえで、菅首相は9月末の自民党総裁選での再選と、衆議院の解散・総選挙をめざす戦略は変わっていないように見える。菅首相にとって、今後の政権運営のメイン・シナリオだ。

但し、このメイン・シナリオ通りに運ぶかどうか、幾つもの難関・ハードルを越えなければならない。

ハードル① 感染抑え込みできるか

第1のハードルが「新型コロナの感染拡大」を抑え込むことができるかどうかだ。首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言は、3月21日に全面的に解除されたが、感染状況は予断を許さない。

全国の新規感染者数は、27日は2073人、2日連続で2000人台。2月6日以来の高い水準だ。東京、大阪など関西2府1県の大都市圏だけでなく、宮城県、山形県、愛媛県、沖縄県などの地方でも増え始めた。

変異型ウイルスの広がりを含めて、専門家は第4波の始まりではないかと神経をとがらせている。仮に第4波となると”政府の早すぎた宣言解除”に対する世論の批判が強まり、菅内閣の支持率が再び下落することが予想される。

 ワクチン接種の成否と感染対策

こうした中で、菅首相がコロナ対策の決め手と位置づけているのが、ワクチン接種だ。2月17日に医療従事者の先行接種が始まった。

続いて、4月12日からは65歳以上の高齢者の優先接種が始まるが、ワクチン確保量が少ないため、テスト的な実施に止まる見通しだ。但し、河野担当相は「6月末までに高齢者3600万人が2回接種を受けられる分量は確保できる」との見通しを示している。

与党関係者に聞くと「高齢者接種が本格化するのは5月以降」との見方だ。全国1700余りの市区町村単位で接種を行う大作戦だが、地方自治体関係者の間では「いつ、どれだけのワクチンが届くのか肝心の情報があまりにも少なすぎる」と批判が強い。この大作戦が順調に進むのかどうか大きなポイントだ。

政府コロナ対策の尾身茂会長は、国会での質疑で「高齢者の接種が5月か6月に本格化し、7月に終わったと仮定。さらに一般国民の接種に移るが、今年暮れの時点でゼロにはならない」とのべ、収束は来年以降に持ち越す可能性が高いという見通しを示している。

つまり、ワクチン接種へ国民の期待は大きいが、抑制効果が表れるまでには、かなりの時間がかかる。ということは、短期的には今の対策がカギを握っている。5つの柱からなる総合対策を打ち出したが、実効性に大きな疑問が持たれているのが実状だ。

 ②五輪開催 世論の支持は

第2のハードルは、東京五輪・パラリンピック大会開催で、世論の支持が広がるか否かだ。自民党幹部に聞くと「菅首相の関心は、大会を開催するか否かではなく、開催を前提にしてどのように安全・安心の大会にできるかにある」と語る。

一方、報道各社の世論調査をみると、大会を開催するよりも、再延期や中止を求める意見の方が多い。このため、世界や日本の感染状況がどうなるかということに加えて、開催する場合も大会の意味や位置づけを明確にして、国民の合意を広げられるかどうかが大きな課題と言える。

現状のままでは、大会の成功を国民の多くが喜び、政権の評判が上がり、衆院選の盛り上げにつなげたいという与党関係者の思惑通りには運ばないのではないか。

 ③総裁選、衆院選2つの選挙

第3のハードルは、”今年は選挙の年”なので、大きな選挙を勝ち抜けるかどうか。まず、4月25日投票の”トリプル選挙”と、7月4日の東京の都議会議員選挙。それに秋に任期満了となる自民党総裁選と、衆議院選挙が控えている。

”トリプル選挙”は、衆院北海道2区と参院長野選挙区の補選、それに参院広島選挙区の再選挙の3つ。吉川元農水相の収賄事件、河合案里参院議員の選挙違反事件に伴う選挙などのため、自民党にとっては厳しい選挙になる。1勝2敗説、3連敗説なども取りざたされている。

東京都議選は、各党とも国政選挙並みの取り組みになる。前回は、小池百合子・知事率いる”都民ファースト旋風”で、自民党は歴史的な大敗を喫した。今回は、自民、公明の選挙協力が復活し、議席の回復が見込まれるが、国政の問題が選挙の争点になる。次の「衆院選挙の先行指標」、”菅自民党”の先行きが占える。一連の不祥事などの影響がどう出るか。

菅首相にとって政権維持のためには、自民党総裁選と、衆院選の2つの大きな選挙を勝ち抜く必要がある。感染抑止やワクチン接種が順調に進むケースは、現職の総理・総裁として、優位に選挙に臨むことができる。

逆に、コロナ対策やワクチン接種が滞ると強い逆風となる。特に衆院決戦を控えているので、自民党内から「自らの当選が危うくなる」として、リーダーの交代を求める動きが出てくることが予想される。

これから半年の政局の読み方は、◆菅政権はトリプル補選などが不振に終わっても、直ちに政権が揺らぐ可能性は低い。党内では”コロナ禍の難局、火中の栗を拾う動きは出ない。9月まで菅さんにやってもらおう”との見方が根強い。

◆秋が近づいた段階でも内閣支持率が低迷する場合は、”選挙の顔”を代える動きが一気に噴き出す可能性がある。◆政局が大きく動くのは、自民党総裁選が近づいた段階ではないかというのが、今の時点の結論だ。

なお、政界の一部には、5月解散・6月選挙説、あるいは7月都議選との同時選挙説がメディアで盛んに報道されている。この五輪前の解散・総選挙説があるのかどうかを最後に見ておきたい。

 五輪前の解散・総選挙説は?

結論を先に言えば、確率としては極めて低いとみる。理由は、6月選挙、7月初め選挙となると、先に見たようにワクチンの高齢者接種が本格化している時期だ。その時期の解散・総選挙は「政権の自己都合優先」と世論の猛烈な批判を巻き起こし、政権与党惨敗の可能性もあるのではないか。

また、選挙の実務面でも全国の市区町村の負担はたいへんだ。ワクチン接種会場と投票所が重なったり、選挙管理の要員のやりくりなどに忙殺されるだろう。

さらに選挙への影響としては、与党の公明党は都議選を重視しており、選挙の時期が接近すると自民党との選挙協力がうまく機能しないことになる。接戦選挙区の自民党候補は、落選が相次ぐといった事態も予想される。

”選挙大好き人間”と言われる菅首相は、こうした事情は百も承知で、五輪前の解散・総選挙は選択しないとみる。任期満了か、それに近い時期の解散・総選挙を選択するのではないか。

以上、みてきたように、これからの政治は、ワクチン接種を含めたコロナ状況で大きく変わる。従来の伝統的な政局の見方・読み方と大きく異なる点だ。

同時に、この半年余りの間に衆院選挙が確実に行われる。「コロナ激変時代の選挙」の備えが重要だ。自らと家族の生活、将来の経済・社会づくりをどのような勢力、リーダーにゆだねるのか。今から政治の動きをじっくり注視、選挙に備えていただきたい。

”後手と迷走”脱却できるか?菅政権

東京など1都3県に出されていた緊急事態宣言が、21日解除された。これによって、年明け1月7日に決定された緊急事態宣言は、2か月半ぶりに全面的に解除された。

政府は引き続き、国民に感染対策の徹底を求めるとともに、無症状の感染者を洗い出すため、繁華街などで無料のPCR検査を行うなどして、感染のリバウンド・再拡大防止に全力を挙げることにしている。

こうした対策で本当に感染を抑え込めるのかどうか、菅政権の対応に焦点を当てて、何が問われているのか考えてみたい。

  後手と迷走  政権のコロナ対応

去年4月に出された最初の緊急事態宣言に続いて2回目となった今回の緊急事態宣言を振り返って見ると、菅政権の対応は”後手と迷走”の連続だった。

菅首相は年末、緊急事態宣言を出す必要はないと明言していたが、年末から年始にかけて新規感染者が急増、1月7日に1都3県の宣言発出に追い込まれた。続いて、1週間後の13日に大阪、愛知など7府県に拡大、さらに2月入って1か月延長を決定。その後、大阪など6府県が解除されたが、1都3県は2週間の再延長、ようやく今回、解除となった。

この間、コロナ対策の特別措置法の改正が実現した。行政罰の導入などを盛り込んだ法改正だが、本来、去年の第1波、第2波が収まった後、直ちに改正すべきだったとの指摘は与野党双方から聞かれた。このように菅政権の対応は、後手と迷走が続いた。

 政権の司令塔機能の立て直し

菅首相は、緊急事態宣言の解除に合わせて、5つの柱からなる総合対策を打ち出した。飲食店の感染防止、変異ウイルス対策、ワクチン接種の推進、医療提供体制の充実などだ。

こうした対策はいずれも必要だが、菅政権の問題点は対策を打ち出しても、どこまで改善が進んでいるのか、停滞しているのか、実態がよくわからないことが多い。総理官邸が中心になって、対策を打ち出すだけでなく、進捗状況を点検し、目詰まりがあれば調整・是正していく「政権の司令塔機能」が弱い。

例えば、今回の対策でも打ち出された高齢者施設のPCR検査の拡充、無症状の感染者を洗い出すため繁華街などでの大規模なPCR検査、病症確保のための病院間の調整などはいずれも去年の段階から、必要性が指摘されてきた内容ばかりだ。

菅首相は官房長官時代、危機対応に手腕を発揮してきたと評価されてきたが、自らの政権では、対策の目詰まりが目立つ。各省庁を動かし、自治体や医療機関などとの連携・調整していく機能を強化、そのための政権の体制の立て直しが必要だ。

 感染収束へ道筋の提示を

今回の総合対策に関連して、もう1つの注文は、こうした対策が進んだ場合、コロナ感染の収束の見通しはどうなるのか、道筋を示してもらいたい。国民にとって、”コロナ対応生活”は既に1年2か月、これからの生活はどうなるのか。事業者にとっては、今後の事業継続のためにも判断材料が欲しい。

一方、今月25日には、東京オリンピック・パラリンピック大会の聖火リレーが始まる予定だ。政府は、コロナ感染に対する安全対策を徹底させて開催する方針だが、世論調査によると国民の間では、開催に慎重・反対論も多い。それだけに大会の意義や安全対策を議論していく上でも感染収束の見通しなどが必要だ。

コロナ感染の収束には、ワクチン接種が決め手になる。政府のコロナ対策分科会の尾身会長は、先の参議院予算委員会で、正確な見通しは誰もできないと断った上で、次のような見通しを示している。

今の医療従事者に続いて、高齢者の接種が5月以降本格化し7月に終わると仮定するとその後、一般国民の接種が進む。その結果、今年暮れまでには、今よりも感染レベルが下がることが期待される。但し、12月頃もゼロにはならないので、収束は来年以降になるという見通しを示している。

こうした専門家の見通しなどを踏まえて、政府はどのような道筋を描くのか。正確な予測は困難だが、オリパラ大会前後の感染状況はどの程度を想定して準備を進めるか。社会・経済活動再開の条件や時期をどのように設定するのかといった見通しが欲しい。

アメリカのバイデン大統領は、7月4日の独立記念日までに生活の正常化に道筋をつける考えを表明した。菅首相も政権発足から半年が過ぎた。ワクチン接種を含めて感染収束への道筋や目標を示してもらいたい。

その上で、政権与党と野党が今後の感染対策の重点をどこに置くのか。また、社会・経済の立て直しをどのように進めていくのか、突っ込んだ議論をみせてもらいたい。

 

菅首相のラストチャンス ”宣言”解除

首都圏の1都3県に出されていた緊急事態宣言が21日に解除されることが、18日に決まった。これによって、1月8日に発出された緊急事態宣言は、およそ2か月半ぶりに全面的に解除されることになった。

しかし、国民の側には宣言解除による安堵感は少なく、これから本当に大丈夫なのか、不安感の方が強いのではないか。

一方、政権を担当する菅首相にとっても一息つくような状況にはなく、万一、感染拡大になれば政権維持は難しい。自民党総裁任期は半年後に迫っている。

それだけに今回の宣言解除は、今後の政権浮揚につなげられるかどうかの”ラストチャンス”と言えるのではないか。宣言解除の意味や政治への影響を考えてみる。

 ”1本足打法”の限界 宣言解除

今回の緊急事態宣言の解除について、菅首相は18日夜の記者会見で「1都3県の感染者数は、1月7日の4277人から、18日には725人まで8割以上減少した。飲食店の時間短縮を中心にピンポイントで行った対策は大きな成果を上げている」と胸を張った。

これに対して、医療の専門家などは「東京について、ステージ3、感染者数500人程度を目安にするのではなく、さらに減少させ100人程度をめざすべきだ」との声が強かった。東京の18日の感染者数は323人、この1週間の平均は前の週を上回る状態だ。

こうした感染者数の下げ止まりは、これまでの政府の対策、飲食店の時間短縮に絞った”1本足打法”の限界ではないか。政府関係者からも「今の対策を続けても効果は小さい」といった声も聞く。

一方、国民の側にも”自粛疲れ”、”緊急宣言疲れ”が見られる。こうした点を考えると、緊急事態宣言は多くの国民の協力で感染拡大に歯止めをかける効果を上げたのは事実だが、今の対策では限界もある。したがって、やむを得ない解除といった側面があるかもしれない。今回の評価は中々、難しい。

 総合対策、時期と責任を明確に

問題は、解除後の対策をどうするかだ。政府は、5つの柱からなる総合対策を決めた。主な柱は、飲食の感染防止、変異ウイルス対応、戦略的な検査の実施、安全・迅速なワクチン接種、それに医療提供体制の強化だ。

こうした対策は、いずれも必要な対策で、中身の評価はそれぞれの専門分野の担当者に任せたいが、個人的な受け止め方をいくつか触れておきたい。

1つは、対策の打ち出しが遅い。変異ウイルスとワクチン接種を除くと去年の第2波の後、指摘されてきた延長線上の政策だ。

第2に規模が小さい。例えば、変異ウイルス対策。陽性者の抽出、再検査する割合について、今の10%程度から40%程度に引き上げるとしているが、大幅に増やすべきではないか。専門家の中からも同様な指摘が聞かれる。

第3にカギとなる医療提供体制についても、コロナ病床、軽症者用のホテル、自宅療養などの役割分担を進めるとしているが、中々、進まない。どこに目詰まりの原因があるのか調べ、早急に手を打つ必要がある。実効体制がカギだ。

その上で、昨夜の菅首相の記者会見で気になったのは、こうした対策を実行することで、いつ頃を目標に感染の収束をめざすのか。できない場合は、どう責任を取るのか、記者団から質問が出されたのに答えなかったことだ。総合対策と銘打ちながら、時期と責任をはっきりさせないと迫力にかける。

 ワクチン成否 菅政権の命運左右

菅政権と今後の政治の動きを見ておきたい。菅首相にとっても緊急宣言解除後の総合対策が実行に移せるのかどうか正念場が続く。

仮に感染対策の効果が思うように上がらず、変異株による感染が拡大。あるいは、東京オリンピック・パラリンピックの開催ができないような事態になった場合は、首相・政権は”即アウト”となる公算が大きい。

それだけにコロナ対策、中でも決め手となるワクチン接種が、大きなカギを握っている。医療関係者への優先接種は順調に進んでおり、現在1日8万人ペースで進んでいる。来月12日からは高齢者への優先接種、そして6月までに少なくとも1億回分が確保できる見通しだという。

問題は、全国1700余りの市区町村での接種が順調に進むかどうか。また、国民の大半の接種を終えるまでには、かなりの時間がかかる。その間、感染拡大を抑えられるか、難しい対応が続く。

ワクチン接種がうまく行けば、菅政権の政権浮揚の大きな推進力になる。逆に接種計画に支障が出たりすれば、逆風になって跳ね返ってくる。つまり、ワクチン接種の成否は、菅政権の命運や、これからの政局を大きく左右することになる。

 菅首相続投か否か、ラストチャンス

今年の政治は、9月末が自民党総裁の任期切れ、10月21日が衆議院議員の任期満了日。政界関係者の間では、再び感染拡大となれば、菅首相の総裁再選・続投は難しくなる。ワクチン接種が順調に進んだ場合も、総裁選立候補のハードルを越える意味を持つが、勝てるかどうかはわからないという見方もささやかれている。

一方、自民党内の一部には、菅首相はワクチン接種が本格的に始まれば、7月の東京都議選に合わせて衆院解散・総選挙に打って出るのでないかとの見方もある。しかし、感染危機が収まらない中で、解散・総選挙に踏み切った場合、有権者から猛烈な反発が出てくることは、容易に想像できる。ワクチン接種が本格化し、軌道に乗るまでは、地方自治体にとって選挙どころではない。

菅首相も記者会見では「優先すべきはコロナの収束が、私の責務」と明言した。この発言は、国民の側からみると評価できる。与野党ともに衆院選は秋が基本、それまでは、コロナ対策に総力を挙げようというのが基本ではないか。

私たち国民の側もコロナ対策の取り組みを中心に、政権与党、野党側の対策・対応を見極めて、選挙で選択をする。そのための判断材料集めを始める時期ではないかと考える。

 

 

 

不祥事でも内閣支持率が上がる訳は?

東京など1都3県に出されているコロナ対策の緊急事態宣言は2週間の延長戦に入ったが、報道機関の3月の世論調査で菅内閣の支持率が上昇に転じた。

複数の知人から「コロナ対策で目立った成果がないのに、どうして内閣支持率は上がるのか」。「菅首相の長男が接待事件を起こし、役人が処分される不祥事が続いているのに内閣支持率が上がる理由は何か」。「長期政権で世の中は、倫理に不感症になってしまったのか」といった質問やご意見をいただいた。

そこで、今回は”不祥事でも内閣支持率が上がる訳はどうしてか”を取り上げる。なお、私は世論調査や統計学の専門家ではない。40年余り政治取材を続けているジャーナリストの分析・見方であることを最初にお断りしておきたい。

 ”支持が不支持を上回る” 3か月ぶり

読売新聞とNHKが8日にそれぞれ3月の世論調査結果を報道した。菅内閣の支持率は、◆読売新聞が「支持」が前月より9ポイント上昇して48%、「不支持」が2ポイント下がって42%。◆NHKは「支持」が2ポイント上がって40%、「不支持」が7ポイント下がり37%。いずれも支持が不支持を上回っており、去年12月以来3か月ぶりのことになる。

NHKの支持率は40%に対し、読売新聞の支持率は48%と高い。これは、読売新聞の調査は「重ね聞き」。つまり、支持か不支持かわかりにくい場合、重ねて聞く方式を採用しているため、支持率が高くなるとみられている。なお、データは、3月8日読売新聞朝刊、NHKNEWSWEBから引用している。

 支持率は「政府対応の評価」に比例

最初に菅内閣の支持率が上昇したのはなぜかという問題。結論を先に言えば、菅内閣の支持率は、コロナ対策の「政府対応の評価」に比例しており、この評価が改善しているからだということになる。

具体的にどういうことか。以下、NHKのデータで説明していきたい。「内閣支持率」と「政府対応の評価」は次のようになっている。

◆支持率 =9月62%→11月56%→12月42%→1月40%→2月38%→3月40%

◆対応評価=9月52%→11月60%→12月41%→1月38%→2月44%→3月48%

このように政府対応の評価が12月以降、大幅に下がると支持率も急落。2月以降、政府対応の指標が改善すると支持率も次第に上昇していることがわかる。

政府の対応策で具体的な成果が上がったというよりも、感染者数が減少し感染状況が落ち着いてきたことが、国民の安心感につながったという面が大きい。

また、ワクチンの医療従事者への先行接種が始まり、国民の間でも「接種したい」という希望者が67%へと増えていることも政府対応の評価につながったものとみられる。要は、政府対応の評価が改善してきたことが、内閣支持率の上昇につながった主要な要因とみることができる。

首相長男らの不祥事に厳しい視線

一方、菅首相の長男が勤める放送関連会社が、総務省の幹部を接待していた問題が明るみになるなど菅政権では、不祥事が相次いでいる。

このうち、総務審議官時代に1回7万円の高額接待を受けていた山田真貴子・内閣広報官が辞職した問題について「菅首相の説明は十分か」を質問で取り上げている。「十分だ」という答えはわずか15%、「不十分」が65%と圧倒的多数だ。

また、総務省や農林水産省の幹部職員が接待を受けていた問題で「行政はゆがめられたと思うか」については「ゆがめられたと思う」が56%、「思わない」の24%を大幅に上回っている。

世論は、菅首相の長男らによる高額接待と官僚の倫理違反、菅首相の説明責任を厳しい視線でみていることが読み取れる。

 世論の関心事項と調査のタイミング

それでは、なぜ、不祥事が相次ぐ中で、内閣支持率が上昇するのか。この理由を説明できる決定的な判断材料があるわけではないが、幾つかの要因が考えられる。

1つは世論の関心事項だ。菅内閣発足の際に「政権に最も期待すること」については、最も多かったのがコロナ対応がだった。また、毎月の世論調査でも「感染の不安」を感じる人の割合は80%と高い水準が続いている。世論の最優先の関心事項は、不祥事よりもコロナ対応だとみられる。

次に調査のタイミングの問題がある。今回の調査を実施した3月第1週は、期限が来る1都3県の緊急事態宣言の扱いと、総務省の接待問題が同時平行的に進んでいた。

ところが、宣言解除に強い意欲を示してきた菅首相が週の半ばに、宣言延長へと方針転換を記者団に表明し、大騒ぎになった。小池都知事の機先を制するねらいもあったと思われるが、政治決断を印象づけた。

そして週末に緊急事態宣言の延長を正式決定、メデイアは大きく取り上げた。世論の多数も延長支持が多かったように思われるが、世論の関心事項と調査のタイミングが相まって支持率上昇につながったとみている。

このほかの要因、例えば、コロナ感染拡大という危機の中での国民の意識。例えば、危機を乗り切るまで、国民の側は首相の交代や政治の大きな変動は避けようとするのではないかといった見方。

あるいは、自民党内に次の有力なリーダー候補が見当たらないこと。野党の政権交代も難しく、国民にとって別の選択肢がないことが、政権の維持を助けているといったことも考えられるが、今回どこまで影響を与えたかは不明である。

要は、これまでみてきたように感染の落ち着きに伴う政府対応の評価の改善が、主な要因で、それに加えて、世論の関心と調査のタイミングが重なった結果という見方をしている。

 支持率低下も、政権先行き不透明

そこで、菅内閣の支持率は今後どうなるのかという問題が残る。NHKの調査では支持と不支持の差は、わずか3%だ。「支持と不支持が拮抗」というのが実態ではないか。

その支持の内容も「自民支持層の内閣支持の比率」は60%台半ば、前の月とほぼ同じ水準。政権発足当初は85%あったのに比べると大幅に落ち込んだままだ。

今回、改善したのは、最も多い無党派層で支持の割合が20%台から6ポイント増えたためだが、無党派層なので支持離れに転じる可能性は大きい。支持基盤は、引き続き不安定な状態にあることに変わりはない。

菅政権にとって安定した政権運営を行うためには、最大の課題であるコロナ感染を抑え込めるかどうか、そのためには、決め手となるワクチン接種が順調に進むかどうかにかかっている。但し、高齢者の本格的な接種は当初の4月から、本格的な接種は、5月以降にずれ込む見通しだ。

一方、総務省の接待問題では、総務官僚No2の谷脇総務審議官がNTTからも高額な接待を受けていたことが確認され、更迭された。菅政権の看板政策である携帯電話料金政策などの推進役を失うことになった。

また、週刊文春が、新たに総務大臣を務めた野田聖子幹事長代行や、高市早苗元政調会長らが在任当時、NTTの社長らと会食していたなどと報じた。さらに、菅首相の長男が勤める「東北新社」が放送法の外資規制に違反していたにもかかわらず、衛星放送の事業認定が取り消されなかった問題も明らかになった。

自民党の閣僚経験者に政権への影響を聞くと「政府のコロナ対応や、不祥事に対する国民の不信感は強い。他に選択肢がないから”仕方なく支持”といった雰囲気を感じる」と警戒を強めている。

当面の政治は、2つのファクターがカギを握る。1つはワクチン接種を軸にしたコロナ対応が軌道に乗るか。もう1つが一連の不祥事乗り切りができるかどうか。菅内閣の支持率、政権のさき行きも不透明だ。

 

”土俵際の菅首相” 緊急宣言再延長

東京など1都3県に出されている緊急事態宣言について、政府は今月7日の期限を2週間延長し、今月21日までとする方針を決めた。これを受けて、菅首相が5日夜、記者会見をして、感染対策の徹底を呼びかけた。

政府は「この2週間が瀬戸際だ」と強調するが、菅首相の記者会見を聞いても、2週間に設定した理由をはじめ、達成目標、具体的な対応策もよくわからない。

一方で、目立った成果が上がらないと首相の実行力が改めて問われる。菅首相は、”土俵際”に追い詰められつつあるように見える。そこで、菅首相の記者会見の中身を点検してみたい。

 再延長の目標、具体策も見えず

菅首相の記者会見で聞きたかった点は、なぜ2週間の延長にしたのか。この期間で達成する目標と、そのためにどんな対応策を打ち出すのか。コロナ対策の今後の出口をどう考えているのかの3点だ。

まず、今回の延長について、菅首相は「1都3県については、ほとんどの指標が当初、目指していた基準を満たしているが、病床の使用率が高い地域があるなど依然、厳しさがみられる」とのべた。

その上で、「2週間は感染拡大を押さえ込むと同時に、状況をさらに慎重に見極めるために必要な期間だ。こうした点を総合的に考慮し判断した」と説明したが、2週間に設定した根拠・理由には言及しなかった。

次にこの期間で達成する目標や宣言解除については「目標としては、ステージ3の段階で、病床使用率が50%未満。病床使用率引き下げの努力をしっかりと行い、体制をつくることが、この2週間でやるべきことだ」とのべ、従来の目標を重ねて強調した。

今後の対策については、「飲食店の時間短縮、不要不急の外出の自粛やテレワークを徹底していく。さらに高齢者施設などでの感染を早期に発見するため、3万の施設で検査を行う。また、市中感染を探知するため、無症状者のモニタリング検査を行う」という考えを示した。

このように政府の対策は、高齢者施設の検査体制強化も従来の対策の延長で、新たに踏み込んだ内容は打ち出していない。専門家や自治体関係者からは「新たな対応策がないまま、病床の使用率の低下を目標に掲げ、短期間に実現できるかどうかは疑問だ」という見方も聞かれる。

 菅首相と小池知事の駆け引き

今回の宣言再延長では、菅首相と小池・東京都知事の駆け引きが大きく影響したとの見方が政界関係者の間では強い。

菅首相は、今月3日、記者団の”ぶら下がり取材”に応じ「緊急事態宣言の2週間程度の延長が必要ではないか」とぶち上げた。それまで菅首相は、7日で宣言を解除し、経済活動の再開に道筋をつけたい考えを示していた。その方針を大きく転換した。

こうした背景には、小池都知事が、千葉、神奈川、埼玉の3県知事と「再延長を政府に要請しよう」という動きが伝えられていた。政府は1月に宣言を発令する直前に、小池知事をはじめとする4県知事から発令要請を突きつけられた形になり、後手に回ったと批判を浴びた。今回は、そうした小池知事の機先を制するねらいがあったとみられている。

今回、菅首相は”小池劇場”を回避することはできたが、小池知事に振り回されている状況には変わりがないようにもみえる。感染状況や病床確保などの改善ができなかった場合、菅首相と小池知事との間で確執が再燃する可能性もある。

今回の緊急事態宣言は、年明けの1月7日に方針決定。菅首相は「1か月で必ず改善させる」と宣言。2月に1か月の延長を決定し「1か月で全ての都道府県で解除できるよう対策の徹底を図っていく」と表明。今回の再延長は、去年4月の最初の宣言以来初めてだ。次第に「土俵際」に追い詰められているように見える。

 コロナ出口戦略 不祥事対応も

菅政権にとっては、コロナ対策の出口戦略を示すことができるかどうかも大きな課題だ。今後、コロナ感染をどのように抑制し、社会・経済活動を本格的に再開していくのか。東京オリンピック・パラリンピックの開催問題も含まれる。

この出口戦略について、菅首相は5日の記者会見では踏み込んだ発言は避けた。しかし、今月25日には、東京オリ・パラの聖火リレーがスタートする予定だ。菅首相は五輪開催の方針だが、そのためには今後の感染防止対策や、ワクチン接種の進め方を含めた出口戦略を打ち出す必要がある。

一方、記者会見では、菅首相の長男が勤める放送関連会社が総務省幹部を接待していた問題や、新たに情報通信大手のNTTも総務省幹部を接待していた問題について、複数の記者から質問が出され、この問題に対する関心の強さを印象づけた。

菅首相は「接待でいろんな問題が出ているが、国家公務員に倫理法をしっかりまもってもらうことは当然だ。その中で、もう一度、私自身が、関係大臣や倫理監督官を通じて、徹底するようにしていきたい」と防戦に追われた。

コロナ対策では、国民の協力がなければ感染収束は一歩も進まない。一方で、政権の側が、中央省庁の官僚が高額な接待を受けていた問題を曖昧なままにしていれば、国民の反発を買いコロナ対策に跳ね返る。一連の不祥事に早期にケジメをつけられるか。不祥事対応の面でも、菅首相は土俵際に立たされている。

揺らぐ菅政権 “国民感覚とズレ”

新年度予算案が2日衆議院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決され参議院へ送られた。これによって、新年度予算案は年度内に成立する。

通常国会前半の焦点である本予算の成立にメドがつき、例年であれば政府・与党内に安堵感が広がるが、今の菅政権にはそうした余裕は全く感じられない。

菅首相の長男が勤める放送関連会社の接待問題などが尾を引いており、予算審議の大詰めの段階に内閣広報官が辞職するという失態も招いてしまったからだ。

菅政権は特にこの1か月、相次ぐ失言・不祥事に振り回されている。加えて、事態収拾に当たる菅首相の判断に「国民感覚とのズレ」が目立つ。

政府・与党内からも「菅政権は、フラフラの状態で揺らいでいる。果たして、コロナ危機を乗り切れるかどうか」と政権の先行きを危ぶむ声も聞かれる。予算案の衆院通過という節目に菅政権が抱える問題点を探ってみる。

 抜擢 内閣広報官 辞任の衝撃

菅政権に衝撃を与えたのが、山田真貴子・内閣広報官の辞職だ。山田氏は、菅首相の長男が勤務する放送会社「東北新社」から、総務審議官時代に1回1人7万円の接待を受けていたことが明らかになり、世論の厳しい批判を浴びた。

その山田氏は、第2次安倍政権で女性として初めての首相秘書官に起用され、退職後も去年9月菅内閣発足とともに初の女性内閣広報官に抜擢された。総務相時代から菅首相の強い後押しがあったとされる。

野党側は、山田氏を接待問題の参考人として衆院予算委員会に出席するよう求めていた。予算審議が大詰めの段階で、山田氏が辞職するといった事態は、政権幹部も想定していなかったのではないか。

菅首相は2月26日の時点でも山田氏を続投させる意向を示していたが、わずか3日で方針変更に追い込まれた。与野党からも「山田氏は早く辞めさせた方がいい」との声が出されていた。

菅政権の対応をめぐって「後手」という批判が強いが、判断の遅れというよりもむしろ「国民感覚とのズレ」と「判断の誤り」が多い。山田氏の問題についても衛星放送の許認可権を持つ総務省の総務審議官時代、利害関係者から高額な接待を受けていた以上、直ちに交代させるのが国民の普通の感覚・判断だ。

 ”不祥事・危機管理対応”に失敗

この問題は、元をたどると菅首相の長男に行き当たる。2月3日夜「文春オンライン」が緊急事態宣言が出されていた時期に総務省幹部4人を接待していたと報じた。当初、総務省幹部は、放送事業は話題にならなかったと否定していたが、音声データを突きつけられて、ようやく事実関係と相手が利害関係者にあたることを認めた。

その後、総務省の調査で、幹部13人が延べ39回にわたり接待を受けていたことが明らかになり、24日に11人が処分された。調査と処分が決まるまで3週間もかかったことになる。

一方、贈収賄事件で起訴された吉川元農相と鶏卵生産業者との会食に同席、接待を受けていた農水省の枝元事務次官ら幹部6人は、25日に処分を受けた。吉川元農相が起訴されたのは1月15日だから、こちらは1か月以上も経過している。

このように菅政権の対応をみていると事実関係の確認、処分、再発防止策などの危機管理対応に時間がかかる。これでは政治・行政への信頼回復は期待できない。危機管理対応は十分機能しておらず、失敗と言わざるえない。

 菅首相の姿勢、政権の対応は

総務省の接待問題で、菅政権の危機管理対応がなぜ、機能しないのか。1つは、菅首相の姿勢、対応の仕方に問題がある。

菅首相は「私の家族が関係して、結果として、公務員が倫理法に違反する行為をすることになって心からおわびする」と陳謝するが、長男とは「別人格」だとして、自らの考え方や具体的な対応策には一切示さない。

しかし、菅首相は長男を総務大臣当時、政治任用の大臣秘書官に起用し、その後、総務省と関係の深い「東北新社」に就職している。会食に応じた官僚の中には、長男とは秘書官当時に知り合いになった幹部もいる。さらに菅首相は、官房長官時代も内閣人事局などを通じて、総務省に強い影響力を維持しているとみられている。

そうすると菅首相は、今一度、長男が関与した今回の問題をどのように考えているのか。また、公正な電波行政、電波の許認可などの進め方などについても明らかにすべきだと考える。

 首相に直言する側近、幹部の不在

もう1つの問題としては、首相に直言できる側近や、幹部がいない点がある。政界関係者の1人は「菅氏は、安倍政権では官房長官として危機管理に優れた能力を発揮した。しかし、菅政権にはそうした人材が見当たらない」と指摘する。

加藤官房長官はどうか。堅実さはあるが、政府全体を引っ張って行くタイプではない。一方、菅首相もどこまで加藤氏を信頼しているのかわからない。無派閥の首相と官房長官との関係、「政権の軸の弱さ」を指摘する声も聞く。

菅首相は、この間のさまざまな不祥事について、引き続き参議院の予算審議の中で野党側の追及を受けることになる。

一方、コロナ対策については、緊急事態宣言が続く1都3県の扱いと、大規模なワクチン接種の準備体制。さらには延期された東京五輪・パラリンピック開催問題が大きな課題として待ち受けている。

このため、今後の政治をみていく上では、当面、コロナ感染の抑制とワクチン接種の準備体制が順調に進むのかどうかが、菅政権の先行きを左右する大きなポイントになるとみている。

 

 

 

 

 

首相は政治責任を明確に!総務省接待問題

総務省の幹部と放送関連会社に勤める菅首相の長男らとの会食をめぐり、総務省は、幹部職員ら13人が延べ39回にわたり接待を受けていたとする調査結果を発表した。

総務省は、このうちの11人が国家公務員倫理法に基づく倫理規程に違反するとして、24日にも処分する方針だ。

一方、こうした接待で放送行政が歪められることはなかったのか。総務省幹部はなぜ、繰り返し接待に応じたかなどの背景も明らかになっていない。

菅首相は長男が関係している問題であり、政治・行政に疑念を生じさせないためにも自らの政治責任を認め、事実関係などの再調査を行う必要がある。

 驚く、課長から審議官まで接待づけ

菅首相の長男が勤める放送関連会社「東北新社」が行っていた接待は、当初、総務省幹部4人が対象とみられていたが、その後の調査で13人までに広がった。

新たに判明したのは課長級が中心で、衛星放送の担当や放送政策担当の課長など8人。他に山田真紀子内閣広報官も総務審議官当時、会食していた。課長クラスから局長、次官級審議官まで放送通信行政に関係する幅広い幹部が接待を受けていたことに驚かされる。接待づけと言っていいような実態が浮き彫りになった。

こうした幹部は、総務省の調査に対して「放送業界全体の実情の話はあったかもしれないが、行政を歪めるような話はなかった」と説明したという。

国会での質疑でも、こうした幹部は「一般的な会合で、衛星放送など個別具体的な問題は話題にならなかった」と否定していた。しかし、「文春オンライン」の音声データをつきつけられて、ようやく話題になったことは認めた。

但し、本当に放送行政を歪めたり、首相の長男が勤める会社を優遇したりすることはなかったのか、総務省の調査や国会の質疑でも肝心な点は明らかになっていない。

 首相の政治責任 再調査の指示を

菅首相は22日の衆議院予算委員会で「私の長男が関係して、結果として、公務員が倫理法に違反する行為をすることになって心からおわびする」と陳謝した。

だが、今後どのように対処していくのか明らかにしていない。野党の追及に対しては「長男とは別人格。就職の面倒はみていないし、仕事の話もしていない」と突っぱね、総務省の調査に任せる姿勢に終始した。

首相の対応をどうみるか。”長男とは別人格”は形式的にはその通りだが、実態的に首相の関わりは大きい。長男は、25歳の時に菅氏の総務大臣秘書官に抜擢された。その後、菅氏と同郷の創業者の「東北新社」に入社、子会社の衛星放送会社の役員も務めている。今回、接待を受けた総務省幹部の中には、総務大臣秘書官当時、知り合った人もいる。

菅氏は、総務省に隠然たる力を持っていると政界や霞が関でみられている。加えて、長年官房長官を務め霞が関人事を掌握、首相にまで上り詰めた。総務省の官僚からすれば「その首相の長男から誘いの宴席は断りづらい」と受け止めるのは容易に想像がつく。

首相の子息や身内が、行政に影響を与え問題を複雑化するのは、安倍政権での昭恵夫人の例はあったが、それまでの歴代政権でほとんどなかった。それだけに菅首相の政治責任は重いのである。

菅首相は身内の長男が絡む問題であり、官僚に倫理違反行為を取らせた責任を率直に認めた上で、官僚が繰り返し接待に応じた背景や行政に影響がなかったのかどうか、再調査を指示することなどが必要ではないか。その再調査も役所の調査では限界があるので、第3者の調査が望ましいと考える。

 政治の責任を明確に 具体策は?

国家公務員倫理法と倫理規程は、98年の旧大蔵省接待汚職事件がきっかけになって制定された。その後、倫理規程違反の事案は散発的に起きたが、今回のように課長から局長、次官級審議官まで幹部総ぐるみで違反対象になる事態は初めてだ。

総務省は24日に倫理規定違反の幹部職員を処分するが、官僚に責任を取らせるだけでは、トカゲの尻尾切りと批判を浴びるだろう。大蔵省接待汚職事件の際も官僚だけでなく、三塚蔵相は引責辞任した。

今回の問題の核心は菅首相の長男にあり、その背後にいる菅首相も影響を及ぼしている。総務省は、会食の相手先が利害関係者にあたるかどうかを確認する仕組みを導入するなどの再発防止策を検討しているようだが、技術的で小手先の対応と言わざるをえない。

菅首相としては、問題の核心である政治の責任をどう取るのか。総務相の監督責任、接待事件の調査のあり方などを含めて、信頼回復のための具体的な対応策を打ち出す必要がある。

また、菅政権の最優先課題はコロナ対策であり、感染の押さえ込みをはじめ、東京オリンピック・パラリンピックの開催問題、ワクチンの大規模接種など国民の理解と協力を求める場面が数多く予想される。国民から疑念を持たれるような対応を取れば、菅政権の政権運営にも影響が出てくるのではないか。

“ワクチン、不祥事、首相の力量” 政治のカギ

「2月は逃げる」と言われるように、今月の政治をめぐる動きは驚くほど早い。五輪組織委員会の森会長辞任と後任選びは混乱の末、橋本聖子氏に決まった。総務省幹部が菅首相の長男から接待を受けていた疑惑は、国会で与野党の攻防が続いている。

菅政権は発足からちょうど5か月が経った。これからの政治はどう動くのか。結論から先に言えば、カギは”ワクチン、不祥事、首相の力量”の3つになるのではないか。なぜ、こうした結論になるのか、さっそく見ていきたい。

 ワクチン成否 菅政権の命運を左右

新型コロナウイルスのワクチン接種が17日から国内で初めて、医療従事者およそ4万人を対象に先行して始まった。ワクチン接種に国民の期待は大きい。菅首相も「感染拡大防止の決め手で、何としても収束に向かわせたい」と決意を表明した。

ワクチン接種が成功するか、失敗するかは、政権のゆくえにも大きな影響を及ぼす。菅内閣の支持率が急落したのも「政府のコロナ対応」を評価しない意見が大幅に増えたからだ。

逆に言えば、感染防止に成功すれば、菅政権は意気を吹き返す可能性はある。はっきり言えば「コロナ次第。押さえ込めば菅再選もあるし、失敗すればお終いだ」(自民党長老)。ワクチン接種の成否は、菅政権の命運を左右するカギだ。

そのワクチン接種、2つの難問を抱えている。1つは、ワクチン確保の量と時期のメドが未だについていないこと。ファイザー社からの輸入にはEUの規制がかかっており、順調に契約量が入ってくるか不透明だ。

もう1つは、4月から本格化するワクチン接種の体制づくりだ。全国の市区町村ごとに実施されるが、大都市圏から過疎、離島まで全国1700市区町村。人口、交通の便、医療など条件は実に様々だ。集団接種か、個別接種かにはじまり1700通りのやり方で、国民のほぼ全員を対象にした例のない接種大作戦が始まる。

その大作戦も実施スケジュールもメドがついていない。順調に進むのかどうか、自治体、菅政権にとっても手探りの準備が続く。

但し、1つだけ明確になったこともある。衆院解散・総選挙の時期だ。一部に4月解散、あるいは通常国会会期末の6月解散説も取り沙汰されてきた。しかし、ワクチン接種大作戦が軌道に乗るまで、解散・総選挙はとてもムリだ。国民から総反発を食らう。10月任期満了か、その前の秋の解散・総選挙が確実になったとみていいだろう。

 不祥事続発、調査進まず ”滞留”も

2つ目のカギは、不祥事が続発していることだ。特に2月に入り、日替わりのように失言、不祥事が相次いでいる。

◆緊急事態宣言が出されている深夜に自民党の議員と、公明党議員がそれぞれ東京銀座の高級クラブに出入りしていたことが明らかになり、2月1日に自民党議員3人は離党、公明党議員は辞職に追い込まれた。

ところが、自民党の当選3回、白須賀貴樹衆議院議員が同じく緊急事態宣言下の2月10日夜遅く東京麻布十番の高級ラウンジを訪れていたことが明るみになり、17日に離党した。国民に宣言に基づく自粛を求めながら、自らは宣言破り、この規範意識のなさには唖然とさせられる。

◆東京五輪組織委員会・森会長の女性蔑視発言も内外から厳しい批判を浴びた。森会長は辞任に追い込まれ、後任選びも迷走、日本の五輪組織や日本社会のジェンダー意識の後進性などが浮き彫りになった。

この問題は、組織委員会の候補者検討委員会が18日、後継会長候補に橋本聖子・五輪担当相に1本化して要請、橋本氏が受諾して新しい会長に就任した。

政治の側の対応をめぐっては、森会長の発言が表面化した時に、菅首相が見解などを表明していれば、ここまで混迷しなかったとの見方もある。ただ、森氏は、安倍前首相の要請で会長に就任、菅氏との関係は深くはない。菅氏も森氏の進退に関与することには躊躇・逡巡があり、腰の引けた対応になったとみられる。

東京五輪は、2013年安倍前首相が長期政権戦略に位置づけ、水面下で猛烈な誘致活動を繰り広げ、実現にこぎ着けた。その組織委員会のトップに自らの派閥の重鎮をすえた政治色の濃い人事だ。既に安倍退陣で”たが”が外れており、後継人事が混迷するのは避けられなかったと言えるのではないか。

橋本聖子・新会長は、アスリート経験に加えて、国会議員歴も長い。政界には表現は悪いが、”爺殺し”という言葉もある。菅、森両元首相を操りながら、組織委員会トップとしてのリーダーシップの発揮を期待したい。

◆菅政権下の不祥事のうち、衛星放送会社に勤める首相の長男が、総務省幹部4人を接待し、国家公務員の倫理規定違反疑惑。あるいは、吉川前農相の汚職事件で農林行政が影響を受けていたかどうかを検証する調査会の調査結果も未だに報告がなされていない。野党側は引き延ばしと批判し、早く報告を行うよう求めている。

菅政権では不祥事が続発するだけでなく、その実態調査や是正策が進まず、滞留状態が続いている。

 首相の力量 激変時代のリーダー像

3つ目のカギは「首相の力量」の評価。これから政治の主要な論点の1つになる。というのは、世論の関心が政府のコロナ対応にあり、その方針決定権を首相が握っているからだ。また、相次ぐ不祥事に対して、首相が指導力を発揮しようとしているのかどうか、世論の側の注目が集まるからだ。

さらに今年は、衆院決戦を控え、特に自民党の中堅・若手議員にとっては、自らの選挙の当落が、首相の評価で影響を受けるからだ。

菅内閣の支持率は報道各社の世論調査で、いずれも支持を不支持が上回る逆転状態が続いている。また、支持しない理由の中で「指導力がない」という評価が、大幅に増えている。例えば、NHK世論調査では、政権発足時の9月は8%だったのが、2月は34%で最も多くなっている。

このため、今後、コロナ対策が思うような成果を上げられず、内閣支持率も好転しない場合は、総裁選や衆院選挙に向けて、菅首相の交代を求める意見が出てくるとの見方が、自民党内からも聞こえる。

一方、政党支持率で自民党は減少傾向が現れ始めたものの、減少分は野党に向かわず、無党派層に回っている。このため、特に政権交代をめざす野党第1党の立憲民主党は、枝野代表のリーダーシップも問われる形になっている。

今年は、秋に自民党総裁と衆議院議員の任期が満了になる。その前に4月は、衆参3つの再選挙と補欠選挙、7月は首都東京の都議会議院選挙も行われる選挙の年だ。

有権者の側からみると、特に政権を担う首相をどのように評価するかがポイントになる。◇菅首相の再選を支持するか。◇あるいは、自民党内の別のリーダーに交代を求めるか。◇さらには、与党から野党への政権交代が必要だと考えるか。これから、秋までに行われる選挙に向けて、どのケースを選択するか。

以上、みてきたように今年は選挙の年。政治の動きを注視しながら「コロナ激変時代のリーダー像」を考えていく必要があるのではないか。

不祥事続出と”政権与党嫌われ現象”

新型コロナ対策の緊急事態宣言は10都府県で延長されることになったが、感染者数は全国的に減少傾向がはっきり現れてきた。

一方、報道機関の世論調査によると菅内閣の支持率は、2月も不支持が支持を上回る逆転状態が続いている。加えて、2月はこれまで安定していた自民党の政党支持率も減少し、内閣支持率、政党支持率ともに減少、菅政権発足以降最低を記録したのが特徴だ。

こうした背景をどう見るか?政府のコロナ対応は、与党支持層を中心に評価する意見が増え始めているが、今度はコロナ対応以外の要因、具体的には相次ぐ不祥事・失言問題が影響し始めた。女性蔑視の発言だと内外で大きな批判を浴びた東京五輪パラリンピック組織委員会の森会長は12日、辞任に追い込まれた。

自民支持層の支持離れ、別の表現をすれば”政権与党・自民党の嫌われ現象”が起き始めているのではないか。世論調査のデータを分析しながら、最新の政治事情を探ってみたい。

 支持30%台、不支持逆転2か月連続

菅内閣の支持率について、NHKの2月世論調査でみてみると◆支持が38%に対して、◆不支持が44%となっている。1月に比べると支持は2ポイント下がり、菅内閣としては初めて30%台にまで下がった。不支持は3ポイント増えた。不支持が支持を上回る逆転状態は2か月連続になる。(調査実施2/5~7 データはNHK NEWS WEBより)

支持層別にみると◆自民支持層の支持の割合は65%、安倍政権では70%から84%程度だったので、相当低い。◆最も多い無党派層では支持が22%に止まる。

こうした支持率の下落だが、これまでは「政府のコロナ対応の評価」と連動してきた。つまり、政権発足から去年11月までは「評価する」が過半数を占めていたが、12月に41%、1月が38%と急落したのに比例して、内閣支持率も急降下した。

これに対して、2月は「感染の不安」を感じる人の割合が下がり、政府のコロナ対応の評価も「評価しない」が52%と多いものの、「評価する」が44%、前月に比べて6ポイント増えてきた。与党支持層を中心に感染防止の法改正やワクチン接種の取り組みを評価する意見が増えている。

このように政府のコロナ対応の評価は改善しているが、内閣支持率は下落が続いている。その理由だが、政府のコロナ対応の評価とは別の要素、「不祥事続出」が影響しているものとみられる。

 日替わり不祥事、菅政権を直撃

政権にまつわる不祥事や失言だが、2月に入って主なものだけ挙げてもその多さに改めて驚かされる。◆緊急事態宣言下の深夜まで銀座クラブ通い。自民党議員3人が離党、公明党議員が議員辞職。◆参院選買収事件で河井案里・参議院議員が議員辞職。◆新型コロナ接触アプリの不具合、4か月も放置判明。◆菅首相長男が総務省幹部を接待との報道。◆東京五輪パラ組織委の森会長が女性蔑視発言、その後撤回・謝罪。二階幹事長、ボランティア辞退に関する発言に批判。◆森会長は12日辞任に追い込まれた。

与党議員の深夜クラブ通いに始まって、古典的大型選挙買収事件の”現代版”、デジタル標榜政権がデジタルに弱い行政実態、首相子息への官僚の忖度疑惑。日替わりのようにスキャンダルが相次ぎ、菅政権を直撃している。こうした不祥事が、折角のコロナ好転分を帳消しにしているとみられる。それにしても、これだけの不祥事で、支持率が38%で止まっているのが不思議な気もする。

 自民支持率 低下  ”嫌われ現象”

こうした不祥事は、自民党の政党支持率にも影響を及ぼし始めた。自民党の支持率はこれまでは安定した高さを保ってきたが、2月は35.1%、前月から2.7ポイント下がった。逆に無党派層は、1.8ポイント増えて42.3%となった。

菅政権が発足した去年9月の自民支持率は40.8%だったので、5か月で5.ポイント余りも下がったことになる。つまり、内閣支持率の低下に続いて、自民党の支持率も追いかける形で下がりはじめた。そして、内閣支持率、自民党支持率ともに菅政権発足以来、最低の水準に落ち込んだ。

自民党の長老に聞いてみると「自民党内には、党の支持率が下がっても野党の支持率が上がっていない。無党派に回っただけなので、大丈夫だとの見方もあるが、そうではない。無党派に回った層は、選挙では野党に投票する可能性が大きいからだ」とみている。

その上で、「これまで自民党が選挙に負けたときは、その前に”自民党は嫌いだ”というムードが広がっていた。選挙では、その時の政権与党・自民党が好きか、嫌いかが大きく左右する。”嫌いな政党”と言われないように細心の注意が必要だ」と警戒する。

この発言の意味するところは、例えば第1次安倍政権。当時、党幹部の失言や閣僚の不祥事が相次ぎ、選挙で敗北、退陣につながった。有権者に傲慢、おごり、お灸をすえたいと思われたことが敗因。最近の内閣支持率や政党支持率の低下は、”有権者の嫌いな政党現象”の前兆ではないかというわけだ。

 不祥事にケジメ 政権運営のカギ

以上の世論調査の分析から、これからの政治の動きをどう見るか。まずは、菅政権はコロナ対策の決め手として、ワクチン接種の大作戦にとりかかかる。この成否が菅政権のゆくえを左右する。これが今後の政治の見方の基本だ。

次にコロナ感染の押さえ込みには、一定の期間がかかる。その間に不祥事や、失言問題に明確なケジメをつけられないと、政権与党にとって”嫌いな政党現象”がさらに拡大・定着してしまう可能性もある。

当面は、森会長の発言と辞任の影響がどう出るか。菅政権や自民党への影響は相当、深刻ではないか。森氏は安倍長期政権を支えた自民党最大派閥の親分的存在。二階幹事長も大会ボランティアの辞退をめぐる発言で批判を浴びた。自民党長老2人の古い考えや体質。その長老2人に頭の上がらない現職首相のというイメージを多くの国民に残したのではないか。

菅首相がコロナ対策や今後の国会・政権運営で、どこまでリーダーシップを発揮できるのか。また、次の衆院選に向けて、改革姿勢や党の清新さを有権者にアピールすることは可能か。当面は、予算審議の論戦と4月末に行われる衆参の補欠選挙・再選挙、それに7月の東京都議会議員選挙が試金石になる。

“羅針盤なき” 緊急事態宣言の延長

新型コロナ対策の緊急事態宣言は、栃木県を除く10都府県で延長されることが2日決まった。延長幅は1か月で、3月7日が新たな期限になる。

今回の延長で、感染の押さえ込みはできるのか?国民の多くは「菅政権には余り期待できないが、危機的状況は脱しないといけない。次の一手は何か、出口戦略はあるのか」に一縷望みを抱いているというのが正直なところではないか。

そこで、2日夜に行われた菅首相の記者会見、国民が知りたい点に応える内容が示されたのかどうか、点検してみたい。

 次の一手、新味はあったか

さっそく、記者会見の中身だが、新味はあったかどうか。

結論を先に言えば、ワクチン接種の開始時期について、これまでは「できる限り2月下旬」としてきた目標を前倒しして、「2月中旬」をめざすことを明らかにした。この点以外は、新味はほとんどなかった。

まず、これまでの緊急事態宣言の取り組みについて、菅首相は「全ての地域で緊急事態宣言を終えることができず、まことに申し訳なく思っている」とのべたものの、「全国の感染者数、東京の感染者数ともに大幅に減少し、はっきりした効果がみられ始めている」と成果を強調した。

その上で、「国民のみなさんに、もう一踏ん張りしていただいて何とか感染の減少傾向を確かなものにしたい。飲食店の時間短縮を中心に、これまでの対策を徹底していくことで、感染の減少傾向を継続させ、入院者・重症者も減少させ、安心できる暮らしを取り戻したい」と訴えた。そして「3月7日の期限を待たずに、順次、宣言を解除していく」と楽観的とも思える見通しを示した。

こうした発言をどうみるか。緊急事態宣言を出してここまで1か月近く続けてきた原因や問題点などの言及がない。また、これまでの方針を続けていれば、引き続き感染者の減少が進むのか、その根拠や見通しの説明もない。

したがって、3月7日までに本当に宣言解除にたどり着けるのか、納得のいく説明になっていない。つまり、緊急事態宣言からの脱却に向けて、現在の位置、進む方向もよくわからない。例えて言えば、”羅針盤のない”緊急事態宣言の延長というのが問題の核心ではないか。

 ”夜の銀座” 政権与党の姿勢は

もう1つ、国民が怒りを禁じ得ないのが、政権与党の幹部などの行動だ。緊急事態宣言発令で、飲食店に営業時間の短縮、国民に不要不急の外出の自粛を求めながら、自民党と公明党の幹部らが、夜の銀座のクラブに出入りしていたことが明らかになった。自民党議員の3人が離党、公明党の議員1人が議員辞職することになった。

菅首相は記者会見の冒頭に「あってはならないことだ。率直にお詫び申し上げる」と陳謝した。その後、記者団から重ねて質問されたのに対しても「あってはならないこと」と一言触れただけで終わってしまった。これではどこまで真剣に受け止めているのか、疑問に感じた国民も多かったのではないか。

年末は二階幹事長や菅首相らのステーキ会食、年が明けては石原伸晃元幹事長のコロナ陽性と即入院が世の中の話題になった。このところの与党議員の振る舞いをみていると、緩みやおごり、議員の質の低下を感じるのは私だけではあるまい。政治の信頼確保は、コロナ対策などで国民の協力をえるための前提条件だ。

1月31日に投票が行われた政令指定都市・北九州市議選では、自民党現職6人が落選した。東京の千代田区長選では、都民ファーストの推薦候補が、自公推薦候補を破って衝撃を与えた。いずれも今回の不祥事が影響しているとみられている。

今年は夏に東京都議選、秋までに衆院選挙が行われる。自民党議員の中からも「今回の不祥事で、菅内閣の支持率がさらに下落すると、これからの選挙への影響は避けられない」と懸念する声も聞こえ始めている。

 政策の全体像、出口戦略 語らず

最後に再び、コロナ対策に話を戻す。菅首相の就任以来の記者会見を聞いて感じるのは、コロナ対応全体の取り組み方の言及が乏しいことだ。感染抑制に始まり、検査と医療提供体制、ワクチン接種、生活・事業者支援などを総合的に進めていく必要があるが、政策の全体像を語ることはほとんどない。

また、コロナとの闘いは既に1年以上になる。さらに東京オリンピック・パラリンピックの開催まで半年を切った。コロナ感染脱却に向けた取り組みと道筋、出口戦略を語れないものだろうか。

未知のウイルスとの闘いで細かい日程まで言及することはできないし、必要ないが、重点政策の飲食店の時間短縮、ワクチン接種が順調に進んだ場合、どんな展開になるのか、シナリオを幾つか示す段階に来ているのではないだろうか。

さらに菅首相は、医療提供体制の確保のために医療機関をしっかり支援していくと強調した。国民の側が最も知りたいのは、入院できずに自宅療養を迫られている人が多数に上っている事態をいつ、改善できるのかだ。

去年の第1波、第2波の段階から繰り返し指摘されてきた問題だが、一向に改善されない。病床と医療従事者の確保。そのためには、国と地方自治体、医療関係団体との調整がどうなっているのか、具体的な説明を国民は待っている。

菅首相の記者会見を聞いて、展望が開けたと納得できた人はどれくらいいるだろうか。先行き不明、羅針盤なき緊急事態宣言の延長との受け止め方が多いのではないか。

国会はいよいよ4日から、焦点の新年度予算案の審議が始まる。緊急事態宣言の延長、行政罰が導入されることになった特別措置法の改正も含めて、コロナ感染対策をどう進めるのか。与野党が建設的な対応策を競い合って、緊張感のある論争をみせてもらいたい。

国民の多くは、こうした論戦を通じて、説得力のある対応策を示した政党を次の選挙で支持することになるのではないか。

政権の浮沈かかる”2月政局”

新型コロナ対策の緊急事態宣言が出される中で始まった通常国会は、28日に第3次補正予算が成立し、”第1ラウンド”が終了した。補正予算の規模は19兆円の大型だが、コロナ対策は4兆円余りに止まっている。

論戦では、各地で入院できないコロナ感染者が、自宅や搬送中に亡くなる深刻な事態が取りあげられたが、政府側から、病床の確保や医療危機回避に向けた新たな対応策は打ち出されず、大きな問題として残ったままだ。

さらに緊急事態宣言が続く中で、自民党と公明党の幹部が、深夜まで東京・銀座のクラブなどを訪れていたことが明らかになり、世論の厳しい批判を浴びている。

国会は例年であれば、直ちに新年度予算案の審議に入るところだが、今年はコロナ問題で例年とは異なった国会運営になりそうだ。そのコロナ対応と、新年度予算審議が重なる、2月の国会や政治の動きはどうなるのか。菅政権への影響も含めて「2月政局・政治の動向」を探ってみたい。

 法改正 「刑事罰」削除で合意

補正予算が成立した後、政府・与党は対策の効果を強めるため、コロナ対策の特別措置法や感染症法などの改正案を先行して審議、成立させる方針だ。このため、補正予算の審議と並行して、政党レベルの協議を進めてきたが、28日に自民党と立憲民主党の幹事長間で、法案を修正することで正式に合意した。

焦点になっていた入院を拒否した感染者に対する刑事罰について「1年以下の懲役か100万円以下の罰金」としていたのを、懲役刑を削除するとともに、罰金を行政罰の過料に改め、金額も50万円以下に引き下げるとしている。

また、営業時間の短縮命令などに応じない事業者に対して、50万円以下の過料に科すとしていることについても金額30万以下に減額するとしている。

いずれも与党側が、譲歩する形で決着した。政府・与党は29日から審議に入り、2月3日にも成立する見通しだ。但し、この法改正は、周知期間を置くため、施行は2月中旬になるとみられている。

 緊急事態宣言 延長の公算

次に東京など11都府県に出されている緊急事態宣言の期限を延長するかどうかについても、2月第1週に判断することが迫られる。宣言の期限は2月7日だが、直前では事業者などへの影響が大きいので、週の半ばには方針を決めたい考えだ。

菅首相や西村担当相の国会答弁では、感染状況や医療のひっ迫状況などを総合的に判断するとしているが、現在の感染状況「ステージ4」から脱却できるメドはついていないため、緊急事態宣言は延長の公算が大きいとみられている。

問題は、延長の期間と感染抑止の取り組み方をどうするか。菅首相は1月7日に1都3県に緊急事態宣言を出した際の記者会見で「1か月後には、必ず、事態を改善させるため、ありとあらゆる方策を講じていく」と強い決意を表明した。

それだけに宣言を延長する場合は、政治責任とともに、事態を改善できなかった原因と今後の対策をどうするか。それに延長期間をどのように設定するかが問題になる。

特に感染防止策について、菅首相は飲食店の時間短縮に重点を置いたが、そうした対策の是非。また、深刻さを増している病床不足などの医療提供体制をどのように改善していくのか、政府や自治体の具体策が厳しく問われることになる。

 新年度予算審議も綱渡り

通常国会前半の焦点である新年度予算案の審議は、2月に入ってからのスタートになる。一般会計の総額で106兆円、過去最大の規模で、コロナ対策のほか、デジタル化や脱炭素など「菅カラー」を重視した予算になっている。

政府・与党は2月4日にも審議入りしたい考えだ。そして、年度内に成立させるためには、衆議院では3月2日までに採決を行い、参議院に送る必要がある。しかし、審議入りが遅れたため、過去の平均的な審議日程で計算すると、1日でも審議が空転すると参院送付の日程が崩れることになる。

新年度予算案は去年の12月21日に閣議決定したが、その後、コロナ感染が急拡大し、感染拡大防止と経済再生の両立という「二兎を追う」戦略が行き詰まりをみせている。

さらに野党側は、これまで控えてきた吉川元農相の収賄事件や、安倍前首相の「桜を見る会」懇親会の会費補填など「政治とカネ」の問題で攻勢を強めていく構えだ。与野党間で激しい論戦がかわされ、菅政権にとっては予算の年度内成立が可能かどうか、”綱渡りの国会運営”を迫られることになりそうだ。

 ワクチン接種に期待と不安

逆風が続く菅首相にとって、「コロナウイルス克服の決め手」として大きな期待を寄せているのが、ワクチン接種だ。ワクチン担当相に、発信力の強い河野行革担当相を指名した。

ワクチン接種をめぐっては、アメリカの製薬大手「ファイザー」が承認申請したのを受けて、厚生労働省が審査をしているが、2月半ばに承認、2月下旬に医療従事者から接種を開始になるとみられている。

自民党にとっては、年内に実施される次の衆院選に向けて、菅内閣の支持率回復の数少ない武器として、期待が大きい。コロナ難局を一変させる「ゲームチェンジャー」との声も出るほどだ。

一方、「失敗すれば決定的な打撃を受ける」と不安視する声もある。ワクチンをめぐっては、不確定要素が多いからだ。

具体的には、ワクチンが安定して供給されるかどうか。接種体制の問題もある。実施主体は、市区町村だ。国民の大多数が対象の「前例のない接種大作戦」になる。大都市圏から、地方、過疎地、離島などで条件は異なる。医師や看護師などの態勢づくりもたいへんだ。

65歳以上の高齢者は3月下旬から始まる計画だったが、早くて4月1日以降にずれ込む見通しだ。ワクチン接種の準備体制づくりが順調に進むかどうか、政治・政権にも大きな影響を及ぼす。

 政権の浮沈かかる2月政局

菅首相にとって誤算の1つが、緊急事態宣言下の深夜に、自民党の松本純・国対副委員長と、公明党の遠山清彦・幹事長代理がそれぞれ東京・銀座のクラブなどを訪れていたことが明らかになり、世論の猛反発を受けていることだろう。

補正予算は成立したが、”予算成立効果は帳消し”と言えるのではないか。予算委員会では、コロナ対策をめぐって野党側から「菅総理の答弁では、国民に危機感が伝わらない。首相の自覚や責任感はあるのか」などと批判を浴びていたことに加えて、陳謝を重ねることにもなった。世の中に”菅政権への不信感”を増幅させた。

以上、見てきたように2月は、特別措置法などの法案の修正をはじめ、緊急事態宣言の扱いと今後の対策、さらに本予算の審議、ワクチン接種準備と節目の取り組みが集中しており、「綱渡りの国会、政局運営」が続くことになる。

内閣支持率の下落が続く菅政権が、こうした難局を乗り越えられるか、それとも足を踏み外すようなことはあるのか「政権の浮沈がかかる岐路」にさしかかっているようにみえる。

コロナ国会論戦 防戦続く菅首相

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、通常国会がようやく開会され、各党の代表や幹部が質問に立って論戦が始まった。

菅政権は11都府県に緊急事態宣言を出し、飲食店の営業時間短縮などを打ち出したが、思うような効果は上がっていない。また、国会論戦でも野党側の追及に押され、防戦が続いている。

国民の1番の関心は、コロナ危機を抑え込めるのかにある。また、何を重点に取り組むべきか、与野党に選択肢はあるのか。一方、菅首相に国会答弁能力や危機管理能力はあるのか、首相の資質・能力に疑問符を投げかける見方もある。

今回はやや地味な話になるが、コロナ第3波と政府の対応をどう評価したらいいのか。代表質問の論点を整理しながら「コロナ対策のあり方と菅政権が問われている点」を考えてみたい。

 感染拡大の原因と責任は

代表質問のトップバッターとして登壇した野党第1党・立憲民主党の枝野代表は「今回の感染拡大は、昨年の11月には明らかな兆候が表れていたが、総理はGoToトラベルを続け、必要な対策を先送りしてきた。緊急事態宣言も1月に遅れ、対象地域も追加になった。なぜ、こんなに後手に回っているのか。判断の遅れを認め、反省することから始めるべきだ」と切り込んだ。

これに対し、菅首相は「判断が遅れたとは考えていない。緊急事態宣言に基づき、飲食店の営業時間短縮などの強力な対策を講じることで、何としてもこの感染拡大を食い止めていく決意だ。感染拡大を抑えつつ、雇用や事業を維持するという考えに基づいて必要な対策を講じていく」と反論した。

このように菅首相は、野党の批判に対して「強気の姿勢」が目立ったが、感染拡大を押さえ込む具体的な方策や抑え込みの根拠、見通しなどには言及せず、防戦を迫られる場面が目立った。

 感染抑止戦略・具体策 野党が対案

次に国民にとっては、コロナ感染を押さえ込む基本的な考え方・戦略と、どんな具体策があるのかが、最も知りたい点だ。代表質問では、野党側は従来のような責任追及一辺倒から、具体的な取り組み方の提案に力を入れたのが特徴だ。

立憲民主党の枝野代表は「感染が収まらない中で、経済を活性化させようと人の移動や会食など接触の機会を増やせば、感染が再拡大し、結果的に経済により大きな悪影響を与える」として、「withコロナ」から「zeroコロナ」を目指す方向へと転換するよう迫った。

その上で、具体的な施策の3本柱を提案した。◇「医療の充実」に最優先に取り組み、医療従事者に再度「20万円の慰労金」を支給。◇「感染封じ込め」の徹底、無症状者を含めた感染者の早期把握と確実な隔離。◇「倒産を防ぐ補償と生活支援」だ。

共産党の志位委員長は、3つの緊急対策を提案した。◇PCR検査を無料で大規模に実施すること。◇医療崩壊を防ぐために病院経営の減収補填に踏み込むこと。◇時間短縮に応じた飲食店は、一律の協力金ではなく、事業規模に応じた店舗ごと補償を求めた。

日本維新の会の馬場幹事長は、◇ワクチン接種では、マイナンバー活用のデジタル化と合わせて推進するよう政治決断をすること。

国民民主党の玉木代表は、◇アメリカのバイデン新政権と同じく、家計の下支え政策が重要で、現役世代に一律10万円、低所得者にはさらに10万円上乗せの現金給付を提案した。

コロナ対策では、政府・与党も有効な決定打を持ち合わせているわけではない。野党の対案も検査・医療重視への転換、医療従事者への慰労金など支持したい案もある。今回のコロナ危機ではメデイアや国民は、従来の与党、野党にこだわらず、効果的な対策は積極的に支持・実現していく新たな発想と対応が必要だ。

 菅首相 ワクチン接種に活路

こうした野党案に対して、菅首相は先の施政方針演説で打ち出した飲食店の営業時間短縮や外出自粛要請などに国民の協力を求める答弁が目立った。

また、自民党の二階幹事長や公明党の山口代表が、ワクチン接種の取り組み方を質したのに対しては「できる限り2月下旬までに接種を開始できるよう準備をしており、さらに1日も早く開始できるよう、あらゆる努力を尽くしている」と強調。「河野規制改革担当相に、全体の調整と国民へのわかりやすい情報発信を指示、政府を挙げて全力で取り組んでいく」と強い意欲を示した。

菅首相は、感染抑止対策としてワクチン接種を決め手と位置づけるとともに、東京オリンピック・パラリンピック開催へつなげる戦略だとみられる。平たく言えば、ワクチン接種に活路を開こうとしているように見える。

問題は、海外で開発されたワクチンの安全性や副反応などの審査と2月実施が予定通りスタートできるか。市町村単位で全国民に予防接種を行う前例のない大事業を順調に実現できるか。ワクチン接種が終わるまでに、感染をコントロールできるか際どい作業が続く。

 法改正 罰則導入の是非と範囲

菅首相は、コロナ対策の実効性を高める必要があるとして、特別措置法や感染症法、それに検疫法を改正する方針で、野党に協力を求めている。これは、緊急事態宣言が出されている自治体の知事が、事業者に対して営業時間の変更などを要請したが、応じない場合、行政罰としての科料を科すことができるようにするのが大きなねらいだ。

これに対して、野党側は、菅首相は「特措法改正は感染収束まで行わない」としてきた方針を急きょ転換をしたことに反発があるほか、営業時間の短縮などの命令に応じない事業者に50万円以下の科料を科すなどの罰則を設けることにについては、十分な補償が大前提であると強く要求する方針だ。

また、緊急事態宣言の前の段階でも「まん延防止等重点措置」を規定し、営業時間の変更などを要請、命令できる規定を設けていることは、ノー・チェックとなり認められない。

さらに入院勧告に応じない場合に懲役刑を科すことについては、行政の側は病床も満足に確保できない責任を棚に上げており、全く容認できないなどの意見が出ている。

このように罰則導入の是非や範囲などをめぐって、与野党の間で法案の修正協議が行われる見通しだ。

 問われる首相の答弁能力・発信力

国会は各党の代表質問が終わり、今後は衆参の予算委員会に舞台を移して、一問一答形式の本格的な論戦に入っていく。

与党の長老に感想を聞いてみると「菅首相は防戦に終始しており、感染を封じ込める政権の強いメッセージを発信できていない」と国会乗り切りを不安視している。

21日の参議院本会議での代表質問で、立憲民主党の水岡俊一議員会長が30分にわたって質問したのに対し、菅首相の答弁はわずか10分で終わってしまった。野党理事が「答弁が短すぎる」と”抗議”、議場内で与野党の理事が協議するという珍しい光景が見られた。

首相答弁は「質問者の時間程度になる」というのが長年の相場だ。ところが、菅首相の答弁は1項目あたり文章で2から3センテンス、30秒から40秒程度の素っ気ない答弁が続く。事務方が用意した答弁メモをひたすら読むだけで、質問者向けに配慮するアドリブは全くない。長老が危惧する点だ。

首相には、個性があっていい。能弁タイプだけでなく、剛毅木訥型もありうる。しかし、今回のような先行き不透明で、国民の多くが不安を感じるような局面では、リーダーは政府方針の説明を尽くすこと。軌道修正する場合は、その理由、新たな方針などについても説明を尽し、世論を説得することが必須の条件だ。

菅内閣の支持率も急落している。菅総理の心構えだけでなく、総理を支える政権幹部、官僚との関係まで踏み込んで体制を整備しないと、感染危機の深刻化ともに政権も危機的状況に陥ることも起こりうるのではないか。

1月の最終週は、第3次補正予算案の審議が衆参の予算委員会で行われる。補正予算の成立後は、特別措置法の審議と修正協議に入る。菅首相にとっては、感染拡大の押さえ込みと、国会乗り切りに向けて綱渡りの状況が続くことになる。

 

 

危機感、内容乏しい首相演説 ” コロナ国会”開会

通常国会が18日に召集され、菅首相の初めての施政方針演説が行われた。この演説を皆さんはどのように聴かれただろうか。

施政方針演説は、通常国会の冒頭に時の首相が、向こう1年間の政府の基本方針を説明するものだ。それに加えて、今年はコロナウイルス第3波が急拡大中だけに、首相がどこまで具体策に踏み込むか、注目して耳を傾けた。

ところが、菅首相の演説は「危機感が伝わって来ず、政府の対応策の内容も乏しい演説」と言わざるを得ない。今回の首相演説の中身を点検してみた。

 首相演説 ”最前線に立つ”

最初に施政方針演説の内容を確認しておくと、次のような点がポイントになる。

◆政権を担当して4か月、一貫して追い求めたのは、国民の安心と希望だ。
◆私自身も闘いの最前線に立ち、難局を乗り越えていく決意だ。
◆飲食店の時間短縮などの対策を徹底的に行い、ステージ4を早急に脱却する。
◆特別措置法を改正して、罰則や支援を規定して、対策の実効性を高める。
◆ワクチンを対策の決め手と位置づけ、来月下旬までに接種を開始したい。

「自ら闘いの最前線に立つ」と決意を表明したが、その他のほとんどは既に表明してきた内容に止まっている。

 国民の知りたい点とのズレ

菅首相の演説の評価だが、1番の問題は「国民が知りたい点」に答えていない点だ。具体的には◆感染拡大の第1波、第2波を何とか抑えてきたのに、なぜ、第3波を防げなかったのか。菅政権は「GoToトラベル」など経済活動再開に重点を置いた結果、感染抑止の取り組みが不十分だったのではないか。

◆緊急事態宣言を出すタイミングは年明けになったが、遅すぎたのではないか。

◆コロナ対策の特別措置法の改正もこれから法案を提出するのではなく、去年秋の臨時国会に提出し成立させておくべきではなかったのか。

このように国民の側は「政府の対応は、後手に回っているのではないか」という受け止め方に対して、真正面から答える演説の内容になっていない。国民の受け止め方との間にズレがあり、首相の危機感が伝わってこない。政権担当以来のコロナ対策を総括し、教訓などを率直に表明するところから始めるべきではなかったか。

 感染対策の具体策の強化が必要

国民が知りたい点の2つ目は、感染抑止のためにこれから何をするのかという点だ。菅政権は飲食店の営業時間短縮に重点を置いているが、それで十分なのか。他の対策との組み合わせで、対策の強化を図る必要があるのではないか。

また、兼ねてからPCR検査の拡充、医療・病床の確保、医療機関への支援などの取り組みをどうするのか。特に医療現場の受け入れ体制がひっ迫している事態に対して、病床確保などの取り組み方も取りあげられていない。

さらに、政府と地方自治体、医療機関、専門家などとの連携、総理官邸の総合調整機能が発揮できていないのではないか。

こうした感染対策を組み合わせていく取り組みや、さまざまな分野からの意見や提言を柔軟に取り入れていく体制づくりを進める必要があると考える。

 政権の基本方針・政策を明確に

さらに、コロナ感染の収束はいつ頃を目標にどんな方針で取り組んでいくのかも知りたい点だ。

新型感染症は未知の世界で、具体的な収束の時期などを予測するのは困難なことはわかる。そこで、短期と中期、あるいは様々な事態を想定しながら対応策を進めていかざるをえない。

短期の対応としては、緊急事態宣言の期限が来る2月7日に向けては、宣言の解除ができる場合と、できない場合に分けて具体的な対応の仕方を検討して、事態に応じて臨機応変の対応を望みたい。

また、政府は緊急事態宣言の根拠になっている特別措置法や、感染症法を改正し、それぞれに罰則を導入して実効性を上げていきたい考えだ。

これに対して、野党側は営業時間の短縮や休業を求める場合は、補償や支援とセットにする必要があると主張しているほか、罰則の導入についても慎重な意見もある。

さらに政府が適切な対応策をとっているか国会がチェックする仕組みを検討すべきではないかといった意見も聞く。こうした与野党、国民の声を取り入れながら、具体的な取り組みを進めていく必要がある。

一方、政府はワクチン接種を感染収束の決め手と位置づけているが、ワクチン接種の効果が出てくるまでの期間の取り組み方が問題になる。

また、施政方針演説では、菅首相が看板政策と位置づけていた「GoToトラベル」の扱いや、「コロナ対策と経済の両立」といった政権の基本方針に関わる点を修正するのかどうかといった点は明らかにしていない。

施政方針演説を受けて行われる各党の代表質問では、こうした政権の基本方針も含めて、国民が知りたい点に応える論戦を強く注文しておきたい。

「緊急宣言」迷走 菅政権”危険水域”へ

新型コロナ感染拡大に対する「緊急事態宣言」をめぐって、政府は13日、大阪、愛知、福岡など7府県を追加する方針を決定した。先の1都3県と合わせて、宣言の対象地域は11都府県に拡大した。

一方、NHKの世論調査によると菅内閣の支持率は、不支持が支持を上回って、初めて逆転した。政権発足から4か月目で、早くも支持・不支持が逆転したことになる。コロナ対応の迷走と合わせて、菅政権は危険水域に近づきつつある。今回の緊急事態宣言をめぐる政権の対応と、世論の反応を分析する。

「宣言」急拡大 後追い・迷走

菅首相は今月7日、東京など1都3県に緊急事態を宣言し、飲食店の営業の時間短縮に重点を置いたコロナ対策に乗り出したが、1週間も経たないうちに宣言対象地域の拡大に追い込まれたことになる。1週間前には、大阪などへの宣言発出は必要はないとの考えを示していた。

また、この間、大阪府や愛知県の知事からは、政府に対して宣言要請の意向が伝えられていたが、ズルズルと延ばしているうちに感染が拡大。結局、大阪・兵庫、京都の関西3府県、愛知・岐阜の東海2県、福岡、栃木の7府県の追加に広がった。

緊急事態宣言をめぐって、菅首相は年末の時点では、宣言自体に否定的な考えを示していた。しかし、大晦日に感染者が急増、東京など1都3県の知事から宣言の検討を求められ、宣言発出へ大きく方針転換を迫られた。

このように今回の菅政権の対応は、知事の側の要請の後追いや、対応のブレ・迷走が目立った。その背景には、感染状況の把握や予測をはじめ、感染抑止の具体策づくり、検査の拡充や病床の確保などの医療提供体制の整備、さらには国と地方自治体との連携・調整など危機管理機能が十分改善されていないことが浮き彫りになったといえるのではないか。

 内閣支持・不支持が逆転、発足4か月

その菅内閣の支持率だが、NHKの1月の世論調査によると◆支持が40%に対して、◆不支持が41%、支持と不支持が逆転した。先月との比較では、支持が2ポイント減少、不支持が5ポイント増えた。支持と不支持が逆転したのは、今回が初めてだ。(調査は1/9~11日、有効回答59%、データはNHK WEB NEWSから)

支持・不支持が逆転した要因の1つは「緊急事態宣言」だ。「適切だ」は12%と少なく、「遅すぎた」が79%、実に8割にも達している。

また、コロナ対策をめぐる「政府の対応」については、「評価する」が38%に対して、「評価しない」は58%で、6割に達している。「コロナ対応の評価の低下」が、内閣支持率全体を下げる大きな原因になっている。

さらに緊急事態宣言の期限の2月7日までに宣言が解除できるかどうか。「できると思う」はわずか6%、「できないと思う」が88%。菅首相は「1か月後には、必ず事態を改善させる」と強調するが、世論の多数は信用していない。

さて、菅内閣の支持・不支持逆転は、9月の政権発足から4か月目。9月の支持率は62%だったので、22ポイントの大幅な下落。「支持の3分の1」がはがれ落ちた。逆に不支持は、9月の13%から3倍以上も増えたことになる。

歴代政権の支持率逆転の時期を調べてみると◆麻生政権は政権発足から3か月目。◆福田康夫政権も同じく3か月目だった。麻生、福田両政権ともその後、支持率が回復したことはなかった。支持率が一旦、急落すると回復・復元は極めて厳しいことを物語っている。

  政権”危険水域” 今後のカギは?

菅首相は13日夜の記者会見で「緊急事態宣言の対象地域を大都市圏に拡大したことで、全国の感染拡大の防止に効果が期待できる」と強調するとともに、重ねて政府の対策に国民の協力を呼びかけた。また、11の国と地域で実施しているビジネス関係者らの往来を停止して、水際対策を強化する方針を示した。

しかし、感染拡大を防ぐための対策については、飲食店の営業時間短縮を重点に進めるなど従来の方針の説明に止まり、ひっ迫する病床確保についても具体策は示されなかった。

緊急事態宣言が東京など1都3県に出された後もビッグデータによる調査では、人出は思ったほど減らず、新規感染者数や重症者数も高止まりの状況が続いている。政権の当面の最大の課題であるコロナ対策が思うような成果を上げることができておらず、世論の支持離れと合わせると、菅政権の政権運営は”危険水域”に近づきつつあるとみている。

さらに18日からは通常国会が召集され、野党側の厳しい追及も予想される。コロナ対策については、政府・与党は、第3次補正予算とコロナ対策のための特別措置法の改正案を先行して成立させ、主導権を確保したい考えだ。

しかし、特別措置法は仮に2月初めまでに成立したとしても、周知期間などが必要で、実施は2月中旬以降とみられる。つまり、2月7日の緊急事態宣言の期限切れには間に合わないので、今後、新たな緊急の対策を打ち出すかどうか問題になるのではないか。

緊急事態宣言が1か月後に解除できないとなると宣言が長期化し、経済や社会への影響はさらに大きくなる。菅首相の政治責任を問う意見が強まることも予想される。

通常国会では、政治とカネの問題、安倍前首相の「桜を見る会」前夜祭や、吉川元農相の事件もあるが、最大の焦点は、コロナ対策。緊急事態宣言の期限内に効果をあげることができるかどうか。その結果は、菅政権の政権運営や政局のゆくえを大きく左右することになる。

 

 

 

 

緊急事態宣言と”菅首相の本気度”

新型コロナ対策として、菅首相は7日、東京など1都3県を対象に「緊急事態宣言」を出した。期間は8日から2月7日までのほぼ1か月。宣言発出直後の記者会見では「1か月後には、必ず事態を改善させるため、ありとあらゆる方策を講じていく」と決意を表明した。果たして感染急拡大を抑え込めるのだろうか。

緊急事態宣言は、危機に当たって国民や組織をまとめ上げる”強力な武器”になる反面、個人の自由や経済活動を制約するので、扱いを間違えると激しい反発を招く”劇薬”にもなる。

それだけに宣言発出の唯一の権限を持つトップリーダーの覚悟や、国民に対する訴える力が問われる。今回、菅首相がどこまで本気で緊急事態宣言の効果を上げようとしているのか、菅首相の”本気度”と今回の対策の効果を探ってみたい。

 ”追い込まれ型” の緊急宣言

菅首相は、安倍政権の官房長官時代から、「緊急事態宣言は経済活動を制約するため、慎重な姿勢だった」と言われる。安倍前首相による最初の緊急事態発出の際もそうだったし、緊急宣言解除後、観光需要喚起の「GoToトラベル」再開の旗を振ったのも菅氏だった。

去年の年末25日の記者会見でも、記者から緊急事態宣言を出す可能性を質問された際、「尾身会長からも、今は緊急事態宣言を出すような状況ではないとの発言があったことを私は承知しています」と政府分科会の尾身会長の発言を引いて緊急事態宣言は想定していない”慎重な考え方”を明らかにしていた。

ところが、10日しか経っていない1月4日の年頭記者会見で「緊急事態宣言の検討開始表明」に追い込まれた。大晦日に新たな感染者が、東京で1337人、全国で4520人に急拡大したからだ。

また、正月2日には、小池東京都知事と近隣3県の知事からそろって「緊急事態宣言の発出検討」を迫られたため、不本意ながら応ぜざるを得なかった。今回の緊急事態宣言は、端的に言えば「追い込まれ型の緊急宣言」というのが実態だ。

 国会事前説明 首相の出席見送り

菅首相は年頭の記者会見では、感染対策、水際対策、医療体制、ワクチンの早期接種の4点にわたって政権の方針を説明した。実は、菅首相が記者会見で政権のコロナ対策を総合的に取りあげ説明したのは、この時が初めてだった。

また、新型コロナウイルス対策の特別措置法についても、遅ればせながらも休業要請などの給付金と罰則をセットにした改正案を、通常国会に提出する考えも表明した。この時は、普段のような語り口で持ち味も出て、菅首相にしては珍しく意欲とわかりやすさが前面に出た記者会見だった。

こうした中で、緊急事態宣言を出す7日に、衆参両院の議院運営委員会で、政府が発令を事前報告する委員会に、菅首相の出席は見送りになることが決まった。代わって西村担当相が出席し、与野党の委員と質疑を行うことになった。

これは、自民党と野党第1党・立憲民主党の国対委員長会談で決まったものだ。野党側は首相の出席を求めたが、自民党は拒否し出席は見送られた。「昨年、初めての宣言を出す時は首相が出席したが、今回はその延長線上の対応でいい」という理由だ。事前に自民党が菅首相の意向を確認した上での対応だとみられる。

議院運営委員会は各党代表の委員で構成され、議院の運営を協議する機関だ。首相が出席することは珍しいが、去年の4月7日最初の宣言が出された時は、安倍首相が出席した。昭和50年・1975年、当時の三木首相以来45年ぶりだったが、緊急事態宣言の重みを国民に伝える上でも大きな意味があった。

今回の宣言は2回目だが、菅首相は感染危機乗り切りの決意を示す上でも出席すべきではなかったか。欠席では、首相の”本気度”は伝わらない。

 緊急宣言効果 飲食店重視の評価?

さて、今回の緊急事態宣言の効果をどうみるか。政府の対策は「効果のある対象にしっかりした対策を講じる」として、飲食店の営業時間短縮に感染防止の重点を置いている。このため、この飲食店重視の評価で、効果の見方も変わる。

菅首相が強調するように感染経路不明な要因として、大半が飲食店が関係しているのは、専門家の指摘通りなのだろう。その意味で飲食店対策は必要だ。

一方で、分科会の尾身会長や、数理モデル分析が専門の西浦博教授によると、東京都の感染者数を十分に減少させるためには、昨年の緊急事態宣言と同等レベルの効果を想定しても2月末までかかるとみられている。

また、飲食店対策とともに、不要不急の外出自粛や、出勤者の7割削減など幅広い対策の組み合わせが欠かせないとの見通しも示す。ということは、今回の宣言期間である2月7日までに大きな効果が上がるのはかなり難しいと覚悟していた方が良さそうだ。

 首相の本気度? 早急に緊急対応を

緊急事態宣言を出した後、菅首相が臨んだ7日の記者会見をどう受け止めるか。菅首相は「1か月後には、必ず事態を改善させるため、ありとあらゆる方策を講じていく」と決意を表明した。

ところが、この日明らかになった新たな感染数は、東京は2400人余り、2000人を超えるのは初めてだ。埼玉、千葉、神奈川各県も過去最多を更新した。全国でも初めて7000人を超え、過去最多となった。こうした現実を前にすると、菅首相の決意も、事態改善にどこまで根拠と展望を持っているのか、”本気度”が残念ながら伝わって来なかった。

また、国民の側には、なぜ、ここまで政府の対応は後手に回ってしまったのか、その反省の弁もなく、国民の協力を求める首相の姿勢に違和感を感じた国民も多かったのではないか。国民と危機感を共有するところまで至らなかったのではないか。

一方、全国の感染状況は大阪、京都、兵庫の関西3府県や、愛知県でも感染拡大が続き、緊急事態宣言の発出を政府に要請する動きも出ている。感染抑制どころか、非常事態宣言地域が広がる可能性もある。

さらに、首都圏では入院や重症患者が増えて病床がひっ迫、看護師などの医療従事者が不足するなど提供体制が維持できるか深刻さを増している。こうした点についても菅首相から説得力のある対応策や見通しは示されなかった。

コロナ感染危機をどのように乗り切っていくか。政府に望みたいのは、総理官邸を中心に司令塔としての体制を整えること。そして各自治体と連携して、早急に感染抑止と医療提供体制の確保に向けた取り組みを強めることだ。

その上で、まもなく始まる通常国会では、政府がコロナ危機の現状と今後の対応策を報告し、与野党間で法改正や予算措置などを協議して、対応策を迅速に実行してもらいたい。

同時に私たち国民の側も基本的な感染防止対策を徹底するなどに協力して、危機乗り切りにメドをつけていきたい。

危機を乗り切るためには、政権、与野党など政治の対応がカギを握っている。

 

”首相交代含みの波乱政局” 2021年予測

新しい年・2021年は、東京のコロナ感染者が大晦日に1300人を超えるなど感染第3波と強い寒波の襲来で幕を開けた。去年の日本政治は、憲政史上最長の7年8か月に及んだ安倍政権が幕を閉じ、菅新政権が誕生する激動の年だった。今年はどんな年になるのだろうか?

結論を先に言えば、”コロナ大激変時代”、政治もコロナ対応を軸に動く。菅政権は予想以上に不安定さが目立ち、さらに今年は自民党総裁、衆議院議員の任期切れが重なる。”首相交代含みの波乱政局”になる公算が大きいとみている。なぜ、こうした結論になるのか、以下、その理由・背景を説明していきたい。

 新年の政治 ”コロナ、五輪、選挙”

2021年の主な政治日程を見ておきたい。◆通常国会は1月18日に召集、今年前半の政治の主な舞台になる。◆6月末から7月にかけて東京都議会議員選挙、各党とも国政選挙並みの取り組みになる。◆7月23日から、延期されていた東京オリンピック・パラリンピックの開催、9月5日閉会の見通し。その後、9月に自民党総裁の任期切れ、10月に衆院議員の任期が満了、それまでに選挙が行われる。

新年の政治に影響を及ぼす要素としては、何があるか。3つ挙げるとすると◆1つは「コロナ対応」。◆2つ目は「東京五輪」。国家的行事で、仮に再び延長になれば、政治はもちろん、経済、社会への影響は甚大だ。◆3つ目が「選挙」。春の統一補選、夏の都議選、自民総裁選、解散・総選挙、大きな選挙が相次ぐのが特徴だ。

 政局 衆院解散より ”菅リスク”

そこで、政治の焦点はどこになるのか。これまでは衆院解散・総選挙がいつになるかが、最大の焦点だった。

ところが、菅政権のコロナ対応が後手に回り、年末、菅内閣の支持率が急落した。菅政権の力量に赤信号、年明けの解散・総選挙はなくなったとの受け止め方が広がり、秋の解散・総選挙が有力になっている。

代わって、菅政権は「いつまで持つか」。フェーズが変わり、解散・総選挙より、”菅政権の不安定化”に焦点が移りつつある。”菅リスク”をどうみるか、この点が、実は”2021政局の核心”だ。

なお、解散の時期は◆通常国会冒頭解散が見送られた場合、◆新年度予算成立後の4月説、◆東京都議選とのダブル選挙説も一部にあるが、公明党が都議選を重視していることなどから、実現可能性は極めて低い。◆10月任期満了か、その前の9月選挙が、選挙のプロの見方だ。

 菅政権 ワクチン接種効果に期待

それでは、菅首相はどんな政権運営を行うのだろうか。菅首相に近い関係者に聞くと菅首相は「実績を積み重ねた上で、信を問えば、国民は必ず理解してくれる」という考え方で一貫していると言う。

具体的には◆コロナ対応は、ワクチン接種が2月下旬に始まれば、感染防止にメドがつく。◆その上で、東京オリ・パラを成功させる。◆その間に携帯電話料金の値下げ、不妊治療支援、自然エネルギー開発のグリーン成長戦略を進めた上で、衆院選勝利、総裁再選へとつなげる戦略と言われる。

 野党攻勢 ”桜、卵 ”疑惑 の逆風

これに対して、野党の出方はどうだろうか。野党側は、菅内閣の支持率急落は、政府のコロナ対策に国民の支持が得られていないことが原因とみて、政権批判と野党のコロナ対策の提案も織り交ぜながら、攻勢を強めることにしている。

もう1つは、”政治とカネ”の問題。「桜を見る会」前夜の懇親会をめぐり、安倍前首相の公設第1秘書が政治資金規正法違反で略式命令を受けた。野党側は、安倍氏は責任を秘書に押しつけ、国会での虚偽答弁の政治責任もとっていないとして、安倍氏の証人喚問を要求していく方針だ。立憲民主党の幹部は「今度こそ、安倍氏を追い詰める」と強気で攻める構えだ。

また、自民党に所属していた吉川貴盛・前農相が、大臣在任中に大手鶏卵生産会社の元代表から現金500万円を受け取っていた問題。東京地検特捜部は、贈賄容疑で強制捜査に乗り出した。吉川氏は、先の総裁選では菅選対の事務局長を務めるなど菅首相とも近く、事件に発展すれば菅政権への打撃は避けられない。

さらに、河井案里参院議員が、一昨年夏の参院選で公職選挙法違反、買収の罪に問われている裁判で、国会召集直後の1月21日に判決が言い渡される。

菅政権にとっては、コロナ対応に加えて、政治とカネのスキャンダルが逆風となって吹きつける公算が大きい。年明けの通常国会は、厳しい国会運営を迫られることになりそうだ。

 首相続投か、交代か?政局流動化

それでは、今年の政局はどのような展開になり、何が大きなカギになるか。

自民党のベテランに聞くと「コロナ次第だ。ワクチン接種がうまくいけば、菅首相は政権維持ができるし、再選だって可能になる。自民党は保守政党、総裁に問題ありといっても直ぐには代えられない。菅首相で総裁選まで突っ込む可能性が大きいのではないか。”菅降ろし”ができる実力者もいない」との見方を示す。

一方で、「都議選と、国政選挙が重なる年は、要注意だ。党員の意見や世論の力が強く働く。また、菅内閣の支持率下落だけでなく、自民党の支持率も徐々に低下し始めた点が気になる」と警戒感をのぞかせる。

この指摘は、平たく言えば、”麻生型”か、”森型”か。「どちらのコースをたどるのかが、今年の政局のポイントだ」と示唆しているように聞こえる。

◆”麻生型”。麻生元総理は、リーマンショックの対応を優先し、早期解散を見送ったが、”漢字が読めない総理”などの不評も重なって支持率が急落、退陣論もくすぶった。任期満了近くの解散・総選挙まで粘ったが、惨敗・退陣に終わった。

◆”森”型。森元総理は、日本の水産高校の練習船「えひめ丸」がハワイ沖で、アメリカ海軍の原子力潜水艦と衝突・沈没した事故の対応をめぐって批判を浴びた。その年は、都議選と参院選とが予定されており、「森元総理では選挙を戦えない」などの声が強まり、退陣に追い込まれた。

こうしたケースにみられるように菅政権は、コロナ対応の批判や内閣支持率の低下が続いた場合、党内から首相批判が強まる事態が予想される。菅首相は、総裁選に挑戦して続投をめざすのか、それとも首相交代へと追い込まれるのか。今年の政局は衆院選の戦い方とも絡んで、政局が流動化する公算が大きいとみている。

 コロナ激変時代 再生の競い合いを

最後に”コロナ激変時代”、私たち国民の立ち場から、今の政治のどこを注視していけばいいのか、みておきたい。

第1は「政権の危機対応」だ。菅政権はこれまで携帯電話料金値下げなど”菅カラー”の政策には熱心だったが、肝心のコロナ対応は「後手の連続」と言わざるをえない。政権がコロナ危機に有効な対応策を打ち出し、司令塔の役割を果たしているかどうか、しっかりみていく必要がある。

第2は、繰り返される「政治とカネの問題にケジメ」をつけられるか。安倍長期政権のよどみが噴き出した結果にもみえる。コロナ対応に集中するためにも、与野党は、安倍氏の証人喚問などは早期に結論を出して決着を図ってもらいたい。

第3は「日本社会・経済の立て直し」の議論と競い合い。自民党の次をめざすリーダーや、野党各党の代表はそれぞれ自らの構想を打ち出し、議論を深め、競い合いをみせて欲しい。

国民の側は、こうした主張・構想を手がかりに、年内に必ず行われる衆院選に1票を投じたい。コロナ禍で、政府や政治の重要さは肌身に感じている国民は多いのではないか。投票参加によって、「コロナ激変時代、日本社会立て直し元年」にしてはどうだろうか。

“桜”問題と前首相の政治責任

「桜を見る会」の前日夜に開催された懇親会をめぐり、安倍前首相の公設第1秘書が24日、政治資金規正法違反の罪で略式起訴され、罰金100万円の略式命令を受けた。安倍氏本人については、嫌疑不十分で不起訴になった。

一方、安倍前首相は25日、「在任中の国会答弁に事実に反するものがあった」として、衆参両院の議院運営委員会に出席して謝罪した。

これを受けて、政府・自民党側は、安倍前首相の説明で区切りがついたとして、幕引きを図りたい方針だが、野党側は年明けの通常国会で、証人喚問を要求して追及する構えをみせている。

一国の首相経験者が国会答弁を訂正するのは極めて異例の事態で、どのように見たらいいのか。また、年の瀬、コロナ感染拡大に歯止めがかからない中で、菅政権や政局にどんな影響を及ぼすのか、考えてみたい。

 肝心な「事実関係」など不十分な説明

安倍前首相の国会での説明はテレビの中継などで、ご覧になった方も多いと思う。「懇親会の開催費用の一部を後援会として支出していたにもかかわらず、政治資金収支報告書に記載していなかった事実が判明した。会計処理は、私が知らない中で行われていたこととはいえ、道義的責任を痛感している。深く、深く反省し、心からおわび申し上げたい」。

冒頭の説明はわずか2分。「深く反省」や「おわび」を口にしたが、国会答弁のどの部分をどのように訂正するのか。なぜ、事実と異なる答弁、事実上の”虚偽答弁”になってしまったか、肝心な事実関係の説明があまりにも乏しく、正直、驚いた。

衆議院調査局の調べによると、安倍前首相が去年11月からの臨時国会と今年1月からの通常国会で行った答弁のうち、検察の捜査に関する情報とが食い違う答弁は、少なくとも118回もあった。

このように内容の乏しい説明と質疑に終わったのはなぜか。理由は、衆議院、参議院での質疑がそれぞれたったの1時間ずつしかなかった点が大きい。これでは、事実関係にしても詰めようがない。

政治とカネの問題は長年取材したが、「事実関係」を確認・認定した上で、国会議員の秘書に対する監督責任や、政治資金制度の改革などを掘り下げて議論しないと真相究明や事態の改善につながらない。今回の説明と質疑は極めて不十分と言わざるをえない。

 与野党の受け止め、今後の取り組み

それでは、この問題、今後の取り組みはどうなるか。自民党の幹部は「一定の説明責任を果たすことができたのではないか」として、早期に幕引きを図りたいのが本音だ。

これに対して、野党側は「虚偽答弁を続けた上、秘書に責任を押しつけており、真実を明らかにする姿勢が感じられない」と批判、安倍氏の証人喚問や、議員辞職を要求していく構えだ。

また、安倍前首相の政治責任をどう考えるか、年明けの通常国会でも焦点の1つになる。「桜を見る会」や懇親会の問題については、菅首相も官房長官時代に安倍氏を擁護する発言をしており、菅首相の責任も問題になる見通しだ。

国民の側からみると、政治とカネの問題に決着をつけるとともに、コロナ対策や経済対策などもきちんと議論してもらいたい。そのためには、政治とカネの問題は、予算委員会で一定程度議論したあとは、別の委員会でじっくり議論するなどコロナ対策などと両立する取り組み方を工夫する必要があるのではないか。

政治とカネの問題は「事実関係」を明確にできるかどうかがカギになる。審議にあたっては、事前に安倍前首相やホテル側に求めて領収書や明細書などをそろえる。その上で、安倍首相に「事実関係」について「詳しい説明・報告」を求め、各党の委員が時間を十分取って論点を深めていく。端的に言えば「事実解明型の審議」に変えていく必要がある。

 菅政権、新年政治への影響は?

安倍前首相の問題は、菅政権や新年の政治にどんな影響を及ぼすか。東京地検特捜部の捜査は終わったが、安倍氏を告発した弁護らは、今後、不起訴処分を不服として、検察審査会に審査を申し立てる可能性がある。

その場合、政界関係者によると「最終的な結論が出るまで、10か月程度かかる可能性がある」という。有権者から選ばれた11人の検察審査会の審査員が、市民感覚で、検察の不起訴処分が適切か否かを判断することになる。

菅政権としては、国会での野党側の攻勢に加えて、検察審会の動きも影響してくる。

また、自民党の衆議院議員だった吉川貴盛・前農相が、大臣在任中に大手鶏卵生産会社の元代表から現金500万円を受け取った疑いがある問題で、東京地検特捜部は収賄などの疑いで、25日に吉川氏の事務所の捜索など強制捜査に乗り出した。政界では、事件に発展する可能性が大きいとの見方が強まっている。

さらに年明けの1月21日には、去年夏の参議院選挙で公職選挙法違反に問われた河井案里参議院議員の1審判決が出されることになっている。

このように菅政権にとっては、拡大が続くコロナ感染に加えて、年明け以降には、政治とカネの問題が一気に押し寄せる形になっており、内閣支持率や国会運営面で影響が出ることが予想される。

また、新しい年は秋までには、衆議院の解散・総選挙が行われる。政治とカネの問題に真正面から取り組まないと、有権者の批判を浴びて、選挙で打撃を受けることになる。それだけに与野党双方ともコロナ対策に加えて、政治とカネの問題への取り組み方が問われることになりそうだ。

菅内閣支持率 急落の見方・読み方

報道各社の世論調査で、菅内閣の支持率が急落している。NHKの12月の世論調査では「支持する」が42%で、前月から14ポイントも急落した。「支持しない」は36%で、17ポイント増えた。

内閣支持率の低下は、政権や政治のゆくえに大きな影響を及ぼすので、このブログの前号で取りあげた。関心も高いので、再びこの問題を取りあげる。

今回は、支持率急落の理由や背景をはじめ、どのような人たちの支持が低下しているのか、今後の見通しはどうかといった点を中心に、さらに詳しく分析してみたい。なお、データは、NHK NEWS WEBから引用。世論調査は12月11日~13日実施、有効回答率は57%。

 「下落幅」発足3か月で、3割低下

さっそく、第1点は、菅内閣支持率の「下落幅」をどのように評価するか。冒頭触れたように12月の支持率は、前月より14ポイント下がって42%、不支持は17ポイント増えて36%となっている。

この下落幅の評価だが、前月との比較だけでなく、もう少し長い期間でみた方がよりわかりやすい。菅政権は9月に発足したので、この3か月間の変化になる。

9月の支持率は63%。政権発足時の水準としては、高い水準だった。9月を基準にすると3か月間で、◆支持は21ポイント減少、比率にすると33%、「支持が3割はがれ落ちた」ことになる。◆不支持は9月の13%から、36%へ3倍近くも増えた。政権発足時の勢いが失速、政権へのダメージが大きいことがわかる。

 「支持離れ」無党派、中高年、女性

第2点は、どんな人たちの支持が減少したのか「支持離れの層」。政党の支持層別にみると12月は、◆最も大きな集団である「無党派」の支持は27%、前月4割から大幅に減少した。不支持は47%、5割近くにも達している。

◆次いで大きな集団である「自民支持層」でも支持は67%に止まる。普段は8割台後半だから、身内の支持離れも大きい。安倍首相が辞任を表明した今年8月、安倍内閣当時が65%だったので、ほぼ同じ水準だ。

◆さらに年代別にみると、全ての年代で支持が減少している。特に40代以降の「中高年」では、不支持が2割前後だったのが、4割前後に急増している。

◆男女では、男性が支持45%ー不支持38%。女性が支持39%ー不支持34%。女性の支持が低い。

このように無党派、自民支持層、中高年、女性の支持の落ち込みが目立ち、選挙への影響は大きい。

 政府のコロナ対応 厳しい評価

第3点は、「支持率が急落した原因・背景」は何かという点だ。世論調査の設問から推測すると「政府のコロナ対応」、「GoToトラベルの是非」、安倍前総理の「桜を見る会」前夜の懇親会をめぐる問題などが考えられる。

様々な問題が原因として想定されるが、結論は「政府のコロナ対応」への評価が、主要な要因とみている。

「政府のコロナ対応」の評価を毎月、聞いているが、菅政権発足以降は次のようになっている。「評価する」は、9月52%→10月54%→11月60%→12月41%。

つまり、菅内閣の支持率が安定してきたのは、コロナ対応の評価が高かったから。実態は、感染が比較的落ち着いていたという”幸運”に支えられていたように思うが、9月以降、11月上旬まで評価は高かった。

ところが、12月は「評価する」が20ポイント近くも下落、内閣支持率も急落した。11月中旬以降、感染が急拡大したためとみられる。また、コロナ対応の評価と、内閣支持率との動きに相関関係がみられる。

「GoToトラベル」も影響したと考えられるが、政府が全国一斉に停止を決めたのは、12月の世論調査後なので、コロナ対応全体の評価が影響したとみるのが、合理的だと思われる。

 菅内閣支持率 早期回復は困難か?

第4点は、「菅内閣の支持率の今後の見通し」はどうか。先ほどみたように「政府のコロナ対策」が主な要因だとすると、政府のコロナ対策が効果を上げているかどうかが影響する。

その政府の感染対策の取り組み「勝負の3週間」が終わった翌日の18日、感染者数は東京で800人超、全国で3200人を上回る過去最多、皮肉な結果となった。重症者数、死者数はその後も最多水準が続き、より深刻化している。

また、菅政権の対応は、GoToトラベルの見直しは”小出し”の連続、感染抑止のために何を実施するのか、具体策が示されない。説明やメッセージも乏しい状況が続いている。これでは、政府のコロナ対応の評価は上がらないだろうし、菅内閣の支持率も早期に回復するのは難しいという見方をしている。

また、12月の世論調査の実施時点以降も、感染状況はより悪化している。このため、内閣支持率の水準は「支持42%ー不支持36%」から、悪化している可能性もある。支持と不支持の差は6ポイント、今後は逆転もありうるのではないか。

さらに12月は、安倍前首相の「桜を見る会」前夜の懇親会をめぐる問題で、安倍氏の秘書が政治資金規正法違反で起訴される見通しだ。この問題で、安倍氏本人が検察当局から、任意の事情聴取を要請されている。

さらには、農相経験者へ鶏卵生産会社から現金が提供されていたとの疑惑も取り沙汰されている。

菅首相は、安倍政権の官房長官として支えてきただけに、こうした政治とカネの問題が菅政権に逆風として跳ね返ってくることも予想される。菅政権の支持率は今後、より厳しくなる可能性が大きいのではないか。

 世論調査 有効回答にも注意を!

最後に第5点として、世論調査の見方・読み方で、注意しておきたい点を触れておきたい。具体的には「有効回答」が重要なポイントになる。

国民の一定数を抽出して科学的に調査・分析するのが世論調査なので、国民全体の縮図となる一定のサンプル数が必要だ。ところが、最近の新聞、通信社、放送会社の調査の中には、サンプル数が5割を切るような調査があったり、有効回答数自体も明記されていなかったりする調査もある。

筆者は政治記者出身で世論調査の専門家ではないが、世論調査では有効回答が6割程度が必要だと教わってきた。

これから内閣支持率や、衆院選挙などのさまざまな世論調査に接する機会が増えるでのではないか。中には驚くようなデータがあるかもしれない。その際には、「有効回答」の説明があるか、その比率はどの程度かをみると、どこまで信頼できるか調査なのか、一定の判断材料になると思います。

Go To停止と菅政権”失速”の波紋

菅政権の看板政策である「GoToトラベル」について、菅首相は14日、感染拡大に歯止めをかけるため、12月28日から1月11日までの間、全国一斉に一時停止する考えを表明した。

一方、菅内閣の支持率が14ポイントも急落したことが明らかになり、今後の政権運営に影響が出てくるのではないかと波紋が広がっている。

今回の「GoToトラベル」停止をどうみるか。また、菅政権の今後の政権運営や今後の政局のポイントはどこにあるのか、探ってみたい。

 「勝負の3週間」失敗 GoTo停止

今回の「GoToトラベル」停止の要因は、端的に言えば、政府がコロナ対策を短期集中的に取り組んできた「勝負の3週間」の効果が一向に見られず、逆に感染拡大へと状況が悪化したことから、一気に方針転換に追い込まれたとみている。

この背景には、菅首相が官房長官時代から、観光需要喚起策を積極的に推進し、首相就任後は政権の看板政策として強いこだわりをみせたこと。その結果、政府のコロナ対策分科会が、感染抑止に重点を移すよう再三、求めたのにもかかわらず、小出しの対応策を続け対応が遅れたことも影響しているようにみえる。

 世論の反発 急激な支持離れ

こうした感染対応に加え「菅内閣の支持率が急落」したことも、方針転換のきっかけになった。

14日にまとまった12月のNHK世論調査によると、菅内閣の支持率は42%で、前月に比べて14ポイントも激減した。逆に不支持は36%で、17ポイントも増加した。(データは、NHK WEB NEWSから)

「GoToトラベル」については、「続けるべき」はわずか12%、「いったん停止すべき」が79%にも達した。

新型コロナウイルスをめぐる政府の対応については、「評価する」が41%に対し、「評価しない」が52%で上回り、逆転した。

感染拡大が続く中で、「GoToトラベル」を続けることに対する世論の反発と、内閣支持率の急落で、菅首相としても方針転換を図らざるを得なかったことが推察される。

 政治的資源、コロナ対応評価失う

そこで、菅政権への影響はどうか。まず、内閣支持率が14ポイント急落したこと自体、影響を及ぼしている。前月の支持率の水準と比較すると、下落の比率は25%、「支持の4分の1」がはがれ落ちたことになる。

また、安倍政権当時と比較してみると、13ポイントと大幅に下落したのが2017年7月。当時、加計問題が焦点になり、直後の東京都議選で自民党は歴史的惨敗を喫した。その時とほぼ同じ、急激な下落幅ということになる。

菅政権にとって12月16日は、政権発足からちょうど3か月の節目になる。新たな景気対策を打ち出し、反転攻勢に出ようとした矢先で打撃は大きい。政権発足時は62%という高い支持率を誇ったが、早くも”政治的資源”のかなりの部分を失ったことになる。

菅政権が発足以降、学術会議問題で批判を受けながらも高い支持率を維持してきたが、この要因は、政府のコロナ対策を「評価する」意見が多かったからだ。但し、実態は9月、10月は感染状況が落ち着いていた”幸運”の要素が多い。

その政府対応を「評価する」割合は、9月52%、10月54%、11月60%と高い水準が続いた。ところが、12月は41%、19ポイントも急落した。「評価しない」は54%と急増し逆転。これが、内閣支持率全体を引き下げた。政権の求心力を低下させる。

 「Go To」から「コロナ対策全体」へ

それでは菅政権は今後、支持率を回復できるかどうか。そのカギは、携帯電話料金値下げなどの問題ではなく、国民の命や健康に関わる根本問題にある。先のデータが示すように「政府のコロナ対応」の評価、具体的には「感染拡大に歯止め」をかけられるかどうかにかかっている。

ということは、今後は「GoToトラベル」の問題だけに止まらず、「政府のコロナ対策全体」が効果を上げることができるかどうか、それによって菅政権の評価が左右される構図になっている。

具体的には、新規感染者数の抑制をはじめ、民間を含めた検査体制の拡充、重症者用の病床確保、感染者の隔離・入院体制、さらには医療機関や医療従事者に対する支援など医療提供体制を維持できるかできるかどうかが、問われる。

ところが、菅政権のコロナ対応は、政権発足以来、GoToトラベルへの東京の追加、海外との人の往来緩和など経済活動再開は加速させる一方、感染抑止の具体策が進まなかった。安倍首相が退任表明時に明らかにした対策以上の具体策は打ち出されてこなかった。

つまり、9月、10月に具体策が進まなかったツケが、今回ってきているとの受け止め方が多い。また、年末・年始目前にあたふたと対応、首相のリーダーシップや総理官邸の司令塔機能は極めて弱い。このため、これから短期間に感染抑止効果を上げることができるか、個人的には、正直なところ悲観的な見方をしている。

 政局、年内コロナ抑止にメドつくか?

当面、年内は、第3次補正予算案と、新年度予算案の編成作業が政治の中心になる。感染対策と同時に、社会・経済活動再開への対策が具体的に問われる。

一方、安倍前首相の後援会が主催した「桜を見る会」前日夜の懇親会をめぐって、安倍前首相の秘書が年内にも政治資金規正法違反容疑で立件される見通しだ。この関連で、東京地検特捜部が、安倍前首相本人から事情聴取を行うものとみられる。

さらに、自民党の農相経験者などが、大手鶏卵生産会社の元会長から現金を受けとっていた疑いで、年内にも立件されるとの見方が政界で取り沙汰されている。

こうした政治とカネの問題は、菅政権を直撃することになり、年明けの通常国会では、野党側が徹底して追及する構えだ。

また、来年秋の自民党総裁選をにらんで菅首相と安倍前首相との確執や、党内派閥間の抗争激化が予想されているが、こうした”党内政局”はコロナ問題に一定のメドがついた上での話だ。

このため、今後の政局は、菅政権がコロナ感染拡大を抑制できるかどうかと、衆院解散・総選挙の時期が大きなポイントになる。

年末の時点で◇感染拡大が続いていたり、高止まりしたりしていた場合は、年明け以降、政治とカネの問題が重なり、菅政権の政権運営は不透明感を増すことが予想される。政局のメルクマールは、年内に菅政権が「コロナ感染乗り切り」にメドをつけられるどうかが、最初の大きなポイントになるとみている。

コロナ感染、”疑惑”拡大 窮地の菅政権

菅政権は発足からまもなく3か月の節目を迎えるが、新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない。

一方、安倍前首相側の「桜を見る会」懇親会の経費補填疑惑は、年内にも秘書が政治資金規正法違反で立件される見通しだ。さらに吉川貴盛・元農水相らへの現金提供疑惑も広がりをみせている。

コロナ感染拡大と”政治とカネ”をめぐる疑惑はどう展開するのか、政権や政局に及ぼす影響を含めて、今後のポイントを探ってみる。

 コロナ感染防止、見えない具体策

新型コロナウイルスの感染状況は、10日全国の新規感染者がついに2900人を超えて過去最多、大都市圏だけでなく、地方でも感染拡大が続いている。

1番の問題は、政府の具体的な対応策やメッセージが打ち出されないことだ。感染拡大の恐れは、11月初めから政府の分科会や医師会などの専門家からも提言や警告が出されてきた。

これに対して、菅政権の反応は鈍く、GoToトラベルは政権の看板政策であることもあってか見直しは、部分的で小出し、自治体側との調整にも手間取った。

また、危惧されてきた病床確保など医療提供体制がひっ迫し始めているが、どう乗り切っていくのか具体的な対応策は示されていない。

さらに、臨時国会閉会を受けて菅首相の記者会見が4日、2か月半ぶりに行われたが、危機乗り切りの具体策やメッセージは出されなかった。政府は「勝負の3週間」と位置づけ、飲食店の時間短縮などを要請しているが、状況はむしろ悪化しているのが実状だ。とにかく、菅首相・政権の反応は極めて鈍い。

 ”桜”疑惑、年内にも秘書立件か

一方、「桜を見る会」の前日夜に開催された懇親会をめぐる問題で、東京地検特捜部が安倍前首相側に、安倍氏本人の事情聴取を要請したことが明らかになった。年内にも行われるのではないかとみられている。

この事件はどう展開するのか。自民党の閣僚経験者に聞くと「小渕優子・元経産相の政治資金問題と同じケースになるのではないか」との見方を示す。2014年、当時の小渕優子・経済産業相の政治団体が、支援者向けの観劇会の収支を政治資金収支報告書に虚偽の記載をしていたことが明るみになった。元秘書2人は在宅起訴されたが、小渕氏本人は不起訴処分となった。

今回は、安倍氏の会計責任者の秘書が、懇親会の会費不足分800万円以上を補填しながら、収支を政治資金収支報告書に記載していなかったとされる。政治資金規正法違反(不記載)で秘書は起訴されるものの、安倍氏本人は実態を知らされていなかったとして、不起訴処分になるだろうとの見立てだ。

但し、この問題は刑事責任とは別に、安倍前首相の政治責任が厳しく問われる。野党の幹部に聞くと「安倍前首相は、安倍事務所や後援会からの収入、支出は一切ないとウソの答弁を1年間も続けてきた。時の首相が虚偽答弁を重ねてきた前代未聞の事件で、今回は逃げ切りは許さない。菅首相も官房長官として同じ虚偽の答弁を行ってきた政治責任がある」と徹底追及の構えだ。

 元農相経験者に現金提供疑惑

「政治とカネ」の問題では、大手の鶏卵生産会社の元代表が、吉川貴盛・元農水相に、大臣在任中現金500万円を渡していたことが明らかになった。このほか、西川公也・元農水相や複数の国会議員にも現金を渡したと周囲に説明しているという。

吉川元農相は、自民党二階派の事務総長を務めていた他、菅首相とは初当選同期で、自民党総裁選では菅選対の事務局長に就任。党の選挙対策委員会の委員長代理も務めていたが、辞任した。一方、西川元農水相は、3年前から内閣官房参与を務め、菅内閣でも再任されたが、8日「一身上の都合」を理由に退職した。

野党側は、吉川元農水相らの国会招致を要求しているほか、この問題が刑事事件に発展していくかどうか政界の関心が集まっている。

 コロナは政権直撃、疑惑は越年か

菅政権や今後の政局への影響という点では、まずは「コロナ感染拡大が収束」できるかどうかが最大のポイントになるとみる。政府は「勝負の3週間」と位置づけ、飲食店の時間短縮などの取り組みを進めてきたが、17日に期限が来る。

現在の感染状況から推測すると早期収束は難しいのではないか。その場合、政権の感染防止対策が問われることになり、菅内閣の支持率が下落するような事態になるのかどうかもポイントだ。

次に「政治とカネの問題」は、桜を見る会関連で、検察当局が年内に秘書の起訴処分を決定するのかどうか。その場合も安倍前首相の国会招致などは、年を越えるとの見方が強い。

年明けの通常国会では、野党側は安倍前首相の国会招致、証人喚問などを要求するものとみられる。農相経験者への現金提供疑惑も含めて攻勢をかける構えだ。

これに対して、政府・与党側は、コロナ対策を盛り込んだ大型の第3次補正予算案と新年度予算案を編成し、通常国会で早期成立を訴え、政治とカネの問題をかわすものとみられる。

通常国会では、一部に冒頭解散説も取り沙汰されていたが、コロナ感染拡大でその可能性はほぼなくなったとみられている。

このため、菅政権は”解散カード”は封印する形で、予算審議やデジタル庁新設などの重要法案の成立を図ることになる。その場合、野党の要求に応じて、安倍前首相の国会招致を受け入れることになるのかどうか。自民党内の反応も含めて、年明け早々から、厳しい国会運営を迫られることになりそうだ。

 

 

コロナと ”政治とカネ” 重荷背負う菅政権

菅政権発足後最初の臨時国会が4日、事実上閉会した。これを受けて、菅首相が夕方記者会見し、コロナ対策や今後の経済対策などの考え方を明らかにした。

この臨時国会では、新型コロナウイルスのワクチンを接種するための改正予防接種法など政府提出の法案は全て成立した。

一方、国会の論戦面では、菅首相の防戦が目立った。前半は、日本学術会議の新しい会員候補の一部を承認しなかった問題。後半は、コロナ感染が急速に拡大し、看板政策のGoToトラベルの一部見直しなどに追い込まれた。

また、安倍前首相側が「桜を見る会」前夜の懇親会に経費の一部を補填していた問題をめぐって、東京地検特捜部が安倍前首相本人の事情聴取を要請していることも明らかになった。

さらに吉川貴盛・元農相が大手鶏卵生産会社の元代表から現金500万円を受領していた疑惑が浮上するなど「政治とカネ」の問題が菅政権を直撃する形になっている。

菅政権は、こうした問題にどのように対応していくのか。菅首相の記者会見の内容を点検しながら、今後の政権運営や政局の見通しを探ってみたい。

 記者会見 ”新味乏しい”コロナ対策

菅首相の記者会見は、外国訪問の際を除くと就任時の9月16日以来、およそ2か月半ぶりになる。記者会見の主な内容を整理すると次のようになる。

◆新型コロナウイルスの感染状況は「新規感染者数や重症者数が過去最多となり、強い危機感を持って対応している」とした上で、「飲食店の営業短縮は極めて重要だ。協力いただいたすべての店舗に対して、国として支援していく」。

◆「来週早々には、経済対策を決定する」とした上で、「緊急的な手当として、ひとり親世帯については、所得が低い世帯は1世帯5万円、さらに2人目以降のこどもには3万円ずつの支給を年内をメドに行う」。

◆2050年温室効果ガス排出ゼロの実現に向けて、2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を今後10年間継続して支援する。

◆「桜をみる会」の問題は「国会で答弁したことについて責任を持つ」とした上で、「安倍前総理が国会で答弁されたこと、あるいは必要があれば私自身が安倍前総理に確認しながら答弁を行ってきた」。

菅政権の政権運営は、今後のコロナ対策がうまく行くのかどうかで大きく左右されるので、感染防止にどんな具体策を打ち出すかを注目していた。

そのコロナ対策については、これまで国会などで答弁してきた内容がほとんどで、新たな対応策は打ち出されていない。基本は「マスクの着用」、「3密の回避」といった基本的な感染対策の徹底を呼びかける内容で、新味は乏しい。

 感染防止、政策の具体化に弱点

それでは、菅政権発足後のコロナ対策をどのようにみたらいいのか。菅首相は、所信表明演説でも「爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜きます。その上で、社会経済活動を再開して、経済を回復してまいります」と感染対策と経済対策の両立をめざしてきた。

ところが、実際の対応はどうか。これまでの取り組みを振り返って見ると、10月はGoToトラベルへの東京の追加や、GoToイートの開始、さらには入国制限措置の緩和など経済活動の再開を積極的に進めてきた。

一方、感染防止対策は、国民の感染対策の徹底に期待する内容が多く、具体的な取り組みは乏しかった。

こうした中で11月9日、政府のコロナ対策の分科会は、北海道をはじめ全国各地で感染者が増加していることを受け「急速な感染拡大に至る可能性が高い」という緊急提言を提出した。その後、日本医師会の中川会長も「第3波の可能性があり、先手、先手の対策を」と警告を続けたが、政治・行政の反応は鈍かった。

全国的に感染者や重症者が急増する中で、危機感を抱いた分科会の尾身会長が、11月20日「より強い対策」を政府に求め、翌21日に菅首相が「GoToトラベル・イート」の運用の一部見直しにようやく踏み出した。

但し、最初は札幌市と大阪市を目的地とする旅行の除外で、決まったのは4日後の25日。札幌、大阪市の出発も対象にすることが決まったのは、27日だ。

さらに東京発着の旅行は、65歳以上の高齢者と基礎疾患をもっている人に自粛を求めるという内容に止まり、決定は12月1日にずれ込んだ。政府と自治体の調整に時間がかかり、とにかく”小出し”で、対応が遅いと言わざるを得ない。

コロナ対策に詳しい政界関係者に聞くと「9月、10月の感染が落ち着いていた時期に対策を進めなかったツケが、11月以降一気に回ってきた」と菅政権の対応に厳しい見方を示している。

 「政治とカネ」急浮上、政権に重荷

一方、安倍前首相側が主催する「桜を見る会」前日夜の懇親会について、経費の一部を安倍氏側が補填していた問題で、公設第1秘書が東京地検特捜部から任意の事情聴取を受けていたことが明らかになった。

また、特捜部は安倍前首相本人の事情聴取を要請しており、国会閉会後に行われる見通しだ。安倍氏は「何も聞いていない」とのべた上で、捜査に協力するとともに、その結果が出た段階で、自ら説明するとの考えを示している。

これに対して、野党側は「1年間にわたって虚偽答弁を続けてきたことになる。直ちに国会に出てきて説明すべきだ」と厳しく批判している。

さらに吉川貴盛・全農相が大手鶏卵生産会社の元会長から現金500万円を受領していたとの疑惑が浮上しており、野党側は贈収賄の疑いがあると追及する構えだ。

政府・与党側は当面、第3次補正予算案や新年度予算案の編成作業を本格化させる方針だ。そして、生活支援や経済再生に分厚い予算をつけるとともに補正予算案の早期成立を図ることなどで、事態の沈静化を図りたい考えだ。

しかし、コロナ感染の拡大で、このところ亡くなる人や重症者が一段と増えてきている。一方、「政治とカネ」の問題は、菅政権の支持率などに影響が出てくることになりそうだ。年明けの通常国会は、冒頭から荒れ模様の展開になることも予想される。

こうしたことから、菅政権にとってはコロナ感染が収まらない限り、年明けの「衆院解散カード」を切ることは難しいみられ、「コロナ」と「政治とカネ」の2つの重荷を背負いながら、息の抜けない年末・年始が続くことになりそうだ。

 

コロナ”桜”戦線拡大 正念場の菅政権

政権発足から2か月半、順調な滑り出しをみせていた菅政権だが、ここに来てコロナ感染が急拡大し、看板政策であるGoToトラベルなどの一部見直しに追い込まれた。また、政府のコロナ対策分科会の専門家からは、より踏み込んだ対応策をとるよう厳しい注文がつけられた。

一方、安倍前首相の後援会が開催した「桜を見る会」の前夜祭について、安倍氏の事務所側が費用の一部を補填していたことが明らかになった。これまで全面的に否定してきた安倍首相の国会答弁を覆す内容だけに、安倍首相を支えてきた菅首相も大きな打撃を受ける形になっている。

現在、開会中の臨時国会乗り切りに加えて、急拡大のコロナ感染への対応、”桜”疑惑の火の粉、さらには第3次補正予算案と新年度予算案の編成作業など菅政権の戦線は、多方面に拡大しつつある。正念場を迎えている菅政権への影響や今後を分析してみたい。

 コロナ感染危機、専門家の厳しい指摘

GoToトラベルをめぐる議論が続いていた11月25日夜、政府のコロナ対策分科会の尾身会長は記者会見で、「GoToトラベルの見直しばかりに注目が集まっているが、最も重要な取り組みが十分、共有されていない」といらだちを見せた。

「一部の地域では、感染拡大が急激に進んでおり、このままでは医療提供体制が厳しい状況に陥る」として、感染が急速に拡大している地域では、◇酒を提供する飲食店の営業時間の短縮。◇人の往来をできるだけ控えること。◇ステージ3の感染急増の地域では、GoToトラベルは停止など強い対策を取るよう政府と自治体に厳しい注文をつけた。

一方、菅首相は同じ25日に開かれた衆参両院の予算委員会で「GoToトラベルの利用者は延べ4000万人が利用し、コロナの陽性率は180人に止まっている。地域のホテルや旅館、食材提供など900万人の雇用を維持している」とのべ、自ら旗振り役を務めているGoToトラベルなど経済活動との両立をめざす基本方針は変えない考えを強調した。

このように政権のトップと、コロナ対策の専門家との間には、感染の現状認識や経済活動との兼ね合いなどの考え方に大きな隔たりがあることが、浮き彫りになった。

 「桜」前夜祭、安倍氏側 補填の衝撃

11月の3連休最後の23日、読売新聞は、安倍首相側主催の「桜を見る会」の前夜祭をめぐり、東京地検特捜部が安倍氏の公設第1秘書らから事情聴取をしていたことを朝刊でスクープした。同じ日の午後、今度はNHKが、安倍前首相側が前夜祭の費用のうち800万円以上を負担していたことを示す、ホテル側作成の領収書があることを特ダネで報じて切り返した。その後、報道各社が、安倍事務所側が領収書を廃棄したことなどの続報を続けている。

公職選挙法や政治資金規正法違反にあたるような事件だが、法律に詳しい専門家によると、後援会員という特定の人を対象にした場合、公職選挙法の適用は難しい。政治資金規正法も秘書の責任を立証できるか、難しいのではないかとの見方が示されている。検察当局がどこまで切り込めるか注視していきたい。

一方、この問題は、国会で野党側が1年にわたって追及を続けてきた。これに対し、安倍首相は「懇親会の全ての費用は、参加者の自己負担で支払われており、安倍事務所や後援会の収支は一切ない。領収書や明細書についてもホテル側からの発行はなかった」と全面的に否定してきた。今回の報道内容は、こうした答弁を覆す内容だけに衝撃は大きい。

野党側はさっそく25日の衆参両院の予算委員会で「安倍氏は国会に出てきて説明をすべきだ。菅首相も安倍氏に説明を求めるべきだ」と迫った。これに対し、菅首相は「安倍前首相自身が国会でいろいろ答弁してきたのは事実だ。国会の件は、国会で決めていただきたい」と防戦に追われた。

    菅政権 戦線拡大、カギはコロナ対応

秋の臨時国会も終盤に差し掛かっているが、政府は急拡大しているコロナ感染対策をはじめ、「桜を見る会」前夜祭の経費補填問題が再燃、さらに第3次補正予算案や新年度の税制や予算編成の準備に追われ、政権運営の戦線が多方面に広がっている。

中でも直ちに問われているのが、コロナ対策への対応だ。先に触れた政府の分科会が、3週間の集中期間にさらに強い対策を求める提言を出したことで、政府としても具体策のとりまとめに追われている。

ところが、コロナ感染対策をめぐって、先に見たように菅首相と、分科会の尾身会長ら専門家との現状認識、GoToトラベルをはじめとする政策の評価をめぐっても大きな隔たりがある。

また、感染状況のレベルの判定や、営業時間の短縮、協力金の支給水準などについて、政府と都道府県との意見調整の仕組みづくりは進んでいなかった。

こうした背景には、菅政権はGoToトラベルへ東京を追加するなど経済活動再開への取り組みは積極的だったが、感染抑止については、対策の具体化が進まなかった事情がある。

菅首相は26日夜、記者団に対し、分科会の答申を受けて「東京、名古屋市などでも飲食店の時間短縮を行うことになった。協力した店舗に対し、しっかり支援していきたい」とのべたが、新たな対応策への言及はなかった。

急増している重症者用の病床を確保し、感染拡大に歯止めをかけることができるかどうか政府の対応が問われている。

  菅政権に打撃、解散・政局にも影響

コロナ対策と、”桜”前夜祭の問題は、菅政権の国会・政権運営に打撃を与えることになりそうだ。

今の臨時国会は12月5日が会期末、会期延長なしで閉会、時間切れで野党の追及をかわすことになりそうだ。問題は、新年の通常国会。召集時期は上旬になるのか、中旬になるのかどうか決まっていないが、第3次補正予算案を冒頭で処理する必要がある。

その補正予算案は、20兆円程度の大規模な補正が取り沙汰されており、審議もかなりの時間がかかるとみられている。加えて、”桜”問題も重なり、荒れ模様の展開になることも予想される。

また、コロナ感染が収まっているのかどうか、不確定要素が極めて大きい。さらに菅首相は、デジタル庁の新設など改革の実績を上げたうえで、解散に踏み切る慎重な考えとみられている。このため、自民党内で期待の強い「年明け通常国会冒頭の解散」の確率は極めて低いとみられる。

一方、”桜”問題をめぐっては、野党側は衆院選も意識して、安倍前首相の参考人招致や証人喚問を強く要求することが予想される。通常国会では予算案の審議日程と絡めて、実現を強く迫る見通しだ。政治とカネの問題をめぐっては、中曽根元首相、竹下元首相、細川元首相の証人喚問も行われた。安倍前首相はどうなるか、大きな焦点になりそうだ。

安倍前首相については、自民党内で3度目の首相登板に期待する意見が出されていた。それだけに来年秋の総裁選にどのような影響が出てくるか。岸田前政務調査会長は、安倍前首相の支援を期待しているが、安倍首相の影響力が低下するような場合は、戦略の見直しに迫られる。

菅首相にとっては、官房長官時代の責任を追及され、内閣支持率の低下などにつながるかどうか。一方、安倍氏や岸田氏の影響力が低下すれば、菅氏が総裁選に向けて相対的に優位になるとの見方もある。

このようにコロナと”桜”の問題は、自民党の総裁選や解散・総選挙に様々な影響を及ぼすことになりそうだ。

 

”評価分かれる”菅政権 コロナ対応がカギ

菅内閣が発足して、まもなく2か月を迎えるが、世論の反応は、臨時国会で与野党の意見が対立している日本学術会議の任命拒否問題については「菅首相の説明は十分でない」と批判的な受け止め方が多い。

一方、新型コロナ・ウイルスをめぐる政府の対応は「評価する」との見方が増えて、菅内閣の高い支持率を支える形になっている。

また、菅首相の人柄をめぐって「信頼できると受け止める層」と「信頼できないとする層」とに二分される現象も起きている。

内閣支持率はこれまでのところ高い水準を維持しているが、今後、コロナ感染が急拡大すれば、政権の評価が一変することも予想される。

国民の側は、菅政権をどのように見ているか、11月のNHK世論調査を基に分析してみる。(調査は11月6日から8日、データは「NHK WEB NEWS」から)

 菅内閣支持率56% 横ばい

まず、11月の菅内閣の支持率は、◆「支持する」が56%、◆「支持しない」が19%で、前の月に比べると支持が1ポイント増え、不支持が1ポイント減少し、「横ばい状態」だ。

9月16日に発足した菅内閣の支持率は、直後の9月調査では62%と高い水準を記録したが、10月調査では、日本学術会議の問題が影響して55%、7ポイントも下落した。その後、召集された臨時国会で与野党の本格的な論戦が続いており、今回の調査結果が注目されていた。

 学術会議「首相の説明不十分」6割

そこで、具体的な問題を見ていく。まず、臨時国会の焦点になっている日本学術会議の問題について、「菅首相のこれまでの説明は十分だと思うか」。◆「十分だ」は17%に止まり、◆「十分ではない」が62%と多数を占めている。

一方、政府と自民党が、学術会議のあり方に問題があり、検証するとしていることについては、◆「適切だ」が45%、◆「適切ではない」が28%、◆「わからない」が27%と分かれた。

このように世論は、「菅首相の説明は十分ではない」として、批判的に受け止めていることがわかる。

但し、10月は、この問題が内閣支持率全体を大幅に引き下げたが、今回11月は、引き下げるような影響は出ていない。菅首相の姿勢は問題があるが、学術会議にも問題があれば、検証すればよいと冷めた受け止め方がうかがえる。

 コロナ対応、温室ガスゼロの評価

次に新型コロナウイルスをめぐる政府のこれまでの対応については、◆「評価する」が60%、◆「評価しない」が35%となった。

「評価する」は、9月調査では52%だったが、10月調査54%、11月調査60%と次第に増えている。これは、11月上旬までは、感染者が比較的落ち着いていたことが影響しているものとみられる。

また、菅首相が臨時国会の所信表明演説で「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と表明したことについて、◆「評価する」が62%、◆「評価しない」が29%となった。

菅政権は、学術会議問題での批判を、コロナ対応や温室効果ガス対策のアピール効果で打ち消し、内閣支持率を下支えする形に持ち込んでいるとみることができる。

 菅政権と世論、”様子見の期間”か

以上のデータを基に菅内閣に対する世論の反応を整理するとどうなるか。

菅政権発足から2か月、11月は3回目の世論調査になったが、内閣支持率は56%で過半数を保っており、高い水準にある。

一般的に新政権と世論は、”ご祝儀相場”と”ハネムーン”が数か月続く。世論も一定期間は、政権を激しく批判したり、厳しい評価を避けたりする傾向がある。このため、今は”様子見の期間”と言えるかもしれない。

但し、「支持の中身」を詳しく分析してみると幾つかの特徴がある。◆「与党支持層の支持」の割合は83%と高いが、◆最も多い「無党派層の支持」は41%に止まり、低い水準にある。

◆「男性の支持」は59%と高いが、「女性の支持」は52%とかなり下回る。

◆「支持する理由」としては、「菅首相の人柄が信頼できる」が25%で第2位を占める。これに対して「支持しない理由」としては、「菅首相の人柄が信頼できない」が32%、こちらも2番目に多い。

つまり、「菅首相の人柄」の評価をめぐって、「信頼する層」と「信頼しない層」とが、それぞれ一定割合を占める、珍しい構造になっている。

また、学術会議問題をはじめ、コロナ対策、温室効果ガスなどの問題によって、内閣の評価が大きく分かれている。

さらに、内閣支持率そのものについても「支持する」と「支持しない」の他、「どちらともいえない」などと答えた人が「25%」にも達している。第2次安倍内閣では発足後、半年間は14%から18%だったが、菅内閣はこれを11~7ポイントも上回り、全体の4分の1も占めるのも大きな特徴だ。

菅首相については、”たたき上げで親近感”が持てるという声がある一方、”学術会議人事に見られるような強権的な政権”との受け止め方も聞かれる。国民の側から見ると「菅内閣は、評価しにくい政権」と言えるかもしれない。

 コロナ感染拡大は?菅政権正念場

11月に入って、コロナ・ウイルスの感染拡大の傾向が続いている。冬の到来が早い北海道をはじめ、東京などの首都圏、愛知、大阪など全国各地で増加している。12日には、全国の感染者数がついに1635人、1日あたり過去最多を更新した。

菅内閣の支持率の高さは、コロナ感染抑制が前提条件になっている。携帯電話料金の値下げやデジタル庁新設などの内閣の評価は高いといわれるが、土台のコロナ対策がうまくいかなければ、直ちに政権の評価にも影響が出てくる。

政権発足後、GoToトラベルなどの経済対策は積極的に推進してきたが、肝心の検査体制の拡充をはじめ、病床の確保など医療提供体制の整備のスピードは遅い印象を受ける。

臨時国会は序盤戦が終わった段階だが、国民が不安に感じているコロナ対策の議論は不十分だ。政府の備えは十分なのか、コロナ対策の特別措置法の改正を早急に行う部分はないのか、議論を尽くしてもらいたい。

菅政権については、コロナ感染抑制と経済再生の両立を進めることができるのか正念場を迎えている。

 

菅首相”迷走答弁”続く 学術会議問題

菅新政権発足後、最初の臨時国会は、衆参両院の予算委員会での総括質疑が6日、終わった。焦点の1つである日本学術会議の問題は、菅首相の答弁がクルクル変わり、論点がほとんど噛み合わなかった。

これまで長年、国会論戦を取材してきたが、今回ほど首相の答弁内容そのものがわかりにくく、迷走が続く質疑はほとんど記憶にない。

やはり、学術会議の新しい会員候補6人の任命を拒否した判断に問題があるのではないか。また、本来、コロナ感染対策に全力投球する時期に、新政権がこの問題にこだわりエネルギーを費やす意味があるのかどうかも疑問に感じる。

総括質疑が一区切りついたのを機会に、今回の問題をどのように見たらいいのか、考えてみる。

 ”クルクル変わる論点、矛盾と迷走”

最初に菅首相のこれまでの発言のポイントを整理しておく。

◆「個別人事に関するコメントは控えたいが、”総合的俯瞰的活動”を確保する観点から判断した」と説明。(10月5日の内閣記者会とのインタビュー)

◆(抽象的でわかりにくいとの指摘を受け)「民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りがあり、”多様性が大事だ”ということも念頭に判断した」

◆(任命拒否の対象者に若手や少数大学関係者が含まれており、答弁が矛盾していると批判され)「個々人の任命の判断と、”多様性は直結しない”」

◆「以前は、学術会議が正式の推薦名簿を出す前に、内閣府の事務局などと学術会議会長との間で、”一定の調整”が行われていた」。(野党から、任命前の選考・推薦段階での人事介入だと追及され)「考え方のすり合わせだ」と釈明。

このように発言内容が一貫せず、矛盾、論点が次々に変わり、答弁の迷走が続いた。与党などに首相答弁は「ぶれない」「安全運転に徹した」などの評価があるとの声も聞くが、論点が噛み合う答弁になっていないのが実態ではないか。

 6人除外、杉田副長官が関与

一方、学術会議6人の任命拒否の経緯の一端は、明らかになった。菅首相は質疑の中で、官僚トップの杉田和博官房副長官と相談しながら6人の除外を決めた経緯を説明した。

それによると菅首相は、学術会議の人事について「懸念」を、安倍政権の官房長官時代から杉田氏に伝えていたこと。今回は、9月16日の首相就任後に改めて懸念を伝え、杉田副長官からその後、相談があり、99人の任命の判断をしたこと。杉田副長官から報告を受けた時期は、内閣府が決裁文書を起案した9月24日直前の「9月22日か23日」などの点を明らかにした。

以上の経緯、杉田官房副長官が任命に当たってのキーパーソンとみられる。このため、野党側は杉田氏の国会招致を要求しているが、自民党は応じない姿勢をとっている。

但し、菅首相や加藤官房長官が6人をなぜ任命しなかったのか説明ができない場合は、今後、杉田副長官を招致し、事実関係などの説明を求める必要があるのではないか。この問題を早期に決着させるためには、菅首相や自民党の判断が問われる。

 菅新政権の政治姿勢にも関係

以上のような国会の論戦、菅首相の答弁などを、どのように評価するか。学術会議の根本の問題は、「6人の任命をなぜ、拒否したのか」、「学術会議法では、学術会議の推薦に基づいて首相が任命する規定」に違反していないかどうかをはっきりさせることにある。ところが、この点の解明は未だに進んでいない。

また、これに関連して、菅首相や自民党が、学術会議の役割や構成などに問題があると考えるのであれば、任命問題を解明した上で、議論し是正するのが筋だ。

さらに、今回の問題は、政権と学者・学術団体との関係に止まらず、「菅新政権の基本姿勢」を判断する上で注目している。

というのは、安倍政権では、森友、加計問題、桜を見る会、黒川・元東京高検検事長の定年延長など不透明な疑惑・問題が相次いだ。後継の菅政権は、公正で透明な政治・行政を進めるのかどうか、国民の側は見定めようとしているのではないか。

報道機関の世論調査で菅内閣の支持率が大幅に低下しているが、その「支持しない」理由として「首相の人柄が信用できない」が急増し、1位になっていることからもわかる。

 学術会議早期決着、重要課題論戦を!

今の臨時国会は来月5日まで、会期末まで1か月を切った。コロナウイルスのワクチン接種や、日英貿易協定の承認案件の審議はこれから始まる。冬場に入って、コロナ対策と、暮らしや経済の備えは急務だ。さらにアメリカ大統領選の開票が続いているが、国際社会への対応も待ったなしの状況だ。

学術会議の問題は、問題の所在はこれまで見たように明らかだ。政府・与党側と野党側の双方が批判し合っているだけでは、何の解決につながらない。

ここは、任命権のある菅首相がこれまでの議論を踏まえて、論点を整理し、最終方針を明らかにして、早期決着を図る必要があるのではないか。その際、集中審議や、杉田官房長官の招致など柔軟な対応が求められる。野党側も歩み寄るべき点は、柔軟に対応すべきだ。

菅政権は、内閣支持率はなお、高い水準にあり、こうした貴重な政治的資源は、学術会議の人事問題ではなく、政権がめざすデジタル化や、コロナ対策、経済再生対策などに投入した方がはるかに意味がある。

”コロナ激変時代”、政府、与野党が学術会議問題に早期に決着をつけ、日本社会・経済の立て直しに向けた本格的な議論と競い合いを見せてもらいたい。

 

 

 

 

 

「大阪都構想」否決 菅政権2つの不安材料

大阪市を廃止して4つの特別区に再編する「大阪都構想」が、1日に行われた住民投票で、反対多数で再び否決された。

大阪地域の問題だが、菅政権や衆院選、政局に及ぼす影響は大きいとみている。菅政権にとっては日本学術会議に続いて、大阪都構想否決問題が、国会・政権運営の面で不安定要因になる可能性がある。

今後の政治にどんな影響が出てくるのか、具体的にみていきたい。

 大阪都構想、”無党派層6割が反対”

大阪都構想がなぜ、再び否決されたのか。まず、構想を推進する「大阪維新の会と公明党の足並みの乱れ」がある。報道各社の出口調査では、住民投票で維新支持層の9割は賛成だったのに対し、公明支持層の賛成は半数に止まった。

投票率は前回より4ポイント余り下回ったものの、62.35%と高い水準となった。最も多い無党派層が投票所に足を運び「無党派層の6割が反対」に回ったことが大きく影響した。

大阪都構想をめぐっては、「府と市の二重行政の無駄を是正できる」との賛成意見は多かった。一方で、「大阪市廃止後の市はどうなるのか、住民の利益になるのかどうか」確信を持てない市民が多かったのではないか。

結局、大阪都構想の大義名分、住民自治や利益について、十分説得することができなかった。「住民投票の難しさ」も改めて浮き彫りになった。憲法改正問題での国民投票でも同様の問題を抱えている。

 維新に打撃、看板政策否定と代表引退

「大阪都構想」を推進してきた「大阪維新の会」と「日本維新の会」代表の松井市長は「政治家としてケジメをつけなければならない」として、2023年4月までの任期を務めた上で、政界を引退する意向を明らかにした。

維新の会にとって、結党以来の看板政策である「大阪都構想」が2度にわたって否決された。加えて、党を率いてきた松井市長が政界引退表明に追い込まれた打撃は大きい。

向こう1年以内には、衆議院の解散・総選挙が行われる。維新の会は、住民投票での勝利をテコに、次の衆院選では全国各地で候補者を積極的に擁立する戦略を描いていた。

それだけに党の態勢の立て直しが急務だが、結党以来の旗印である都構想に代わる看板政策を打ち出せるかどうか。選挙戦略の見直しも迫られるのではないか。

 菅政権 “政権補完勢力”の後退

菅政権への影響はどうか。菅首相は、安倍政権の官房長官時代から、松井代表とは太いパイプを築いてきた。今回の住民投票でも、自民党大阪府連が反対の立ち場を取る中で、静観を続けてきた。

政権関係者に聞くと「維新の会は是々非々路線、重要法案の審議では賛成に回る場面も多く、立憲民主党など野党勢力を分断できる貴重な存在だ。今回の維新の失速が、政権運営面で直ちに影響が出てくるとはみていないが、今後、国会運営や憲法改正問題などにも影響が出てくるだろう」と”政権補完勢力”の後退の影響の大きさを認める。

一方、連立与党の公明党は、前回の住民投票では反対だったが、今回は賛成に回った。次の衆院選大阪選挙区での公明党候補への影響を意識した対応とみられているが、反対の姿勢を貫いた自民党大阪府連との間にしこりを残した。

 2つの不安材料 大阪都構想と学術会議

菅政権発足後、最初の臨時国会が10月26日に召集され、11月2日からは衆議院予算委員会に舞台を移して、一問一答形式の質疑が始まった。

野党第1党の立憲民主党は、日本学術会議の会員候補の一部の任命を菅首相が拒否した問題に焦点を絞って攻め立て、初日の審議では、菅首相は同じ答弁メモを繰り返すなど防戦が目立った。

今回の維新の失速は、菅政権にとっては、学術会議の人事問題に続いて、2つ目の不安材料になる可能性がある。菅政権は、当面、臨時国会を乗り切るとともに第3次補正予算と新年度予算案の編成で、菅カラーを打ち出して行きたいところだが、2つの不安材料をどこまで押さえ込むことができるかどうかも注目点だ。

”注目点多い臨時国会” 開会 コロナ 新政権

臨時国会が10月26日に開会した。6月の通常国会閉会から4か月ぶり、ようやく論戦再開になる。26日に菅首相の初めての所信表明演説が行われた後、各党の代表質問、続いて予算委員会で一問一答方式の詰めた質疑が行われる運びだ。

この臨時国会は「注目点の多い国会」だ。新型コロナは一進一退状態だが、感染拡大防止をどうするか、生活・経済支援で新たな対応策は打ち出されるのか。

また、安倍首相から菅首相へ8年ぶりの首相交代、”菅政治”とは何か。焦点の学術会議の任命拒否はどのような形で決着をつけるのか。国民にとっても、聞きたい点、知りたい点が多い。

菅新政権発足後初めての国会論戦の注目点は何か、何を議論すべきなのか、具体的にみていきたい。

 コロナ感染防止 ”備えはできたか”

臨時国会冒頭の所信表明演説で、菅首相は「新型コロナウイルス対策と経済活動再開の両立をめざす。コロナ対策では、爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守り抜く」と訴える方針だ。

菅首相は9月の総裁選に立候補した時以来、コロナ対策を最重点に取り組む決意を繰り返し表明してきた。但し、感染拡大防止のために何に取り組むかについて、具体的に言及していない。

政府の感染防止対策については、安倍首相が8月28日に辞任表明をした際に1日当たり20万件の検査体制をめざすことや、経営が厳しい医療機関や大学に万全の支援を行う方針を明らかにしたが、その後、具体的な説明がない。

◇1日20万件の抜本的検査体制拡充の進み具合はどうなっているのか。◇コロナと同時にインフルエンザの流行が重なった場合、検査体制の備えはどうか。東京都の場合、現在の7.5倍の検査能力・体制が必要だとする試算も公表されたが、現状ではとても対応できないのではないか。

◇10月から始まった入国制限の緩和に伴う空港での検査体制。検査のすり抜け防止や、14日間待機の担保は大丈夫か、知りたい点は多い。

要は「コロナ対策の備えはできているか」。検査、入院・重症者治療などを総点検して結果を公表し、全体状況を国民に理解してもらうことが必要だ。

また、特別措置法の見直し=感染抑止のための休業要請と、応じた場合の”補償”、知事の権限強化などが宿題として残されている。政府のコロナ対応の検証と特措法の早期見直しが必要だと考えるが、この点についても国会で詰めた議論を行ってもらいたい。

 生活・経済支援の追加策はどうするか

次に大きな問題は、コロナ感染拡大で大きな打撃を受けた人たちや事業者に対する生活・事業支援。年末に向けて、雇い止め・休業・失業、中小事業者の廃業・倒産が増えることが懸念されている。

これまで国民1人10万円給付をはじめ、事業継続のための持続化給付金、雇用継続のための雇用調整助成金の支給、さらには、GoToトラベルなど各種事業の支援を行ってきた。今後、こうした事業追加策はどうするのか。

政府は予備費10兆円のうち、7兆円が残っており、この活用で手当すると同時に、不足すれば第3次補正予算案を編成すると説明している。

また、政府はコロナ対策として総額234兆円にものぼる、世界でも有数な経済対策を実施してきた。予算に匹敵する効果を上げているのか、どの分野をテコ入れしていくのか、早期に方針を打ち出す必要がある。

 学術会議問題、菅政権の政治姿勢は

日本学術会議の新たな会員候補6人について、菅首相が任命を拒否した問題も大きな論点になる見通しだ。

野党側は「菅首相やその周辺が、勝手に法解釈をねじ曲げており、任命拒否を撤回すべきだ」と追及する方針だ。これに対し、政府・与党側は「10億円の予算が使われており、学術会議の在り方や組織の見直しは必要だ」として対立している。

この問題は「菅新政権の政治姿勢に関係する問題」でもある。日本学術会議法では「学術会議の推薦に基づき首相が任命する」と規定されている。任命しない場合は「なぜ任命しないのか、誰が実質的に決めたのか」を明確にする必要がある。その上で、学術会議の在り方に問題があれば議論すればいい。

菅氏が官房長官を務めた安倍政権では、内閣法制局長の交代や、東京高検の検事長の定年延長をめぐって”強引な人事”が批判を浴びた。菅新政権はどのような考え方で人事や政権運営を行うのか、国民に十分わかる説明と議論を強く求めておきたい。

 ”菅カラー” 独自政策と全体像は

菅政権は、安倍政権の路線を継続する一方で、”菅カラー”とも言える独自政策を次々に打ち出している。携帯電話料金の値下げ、デジタル庁の新設、不妊治療への保険適用が”菅首相の三大案件”とされている。

こうした国民目線、国民の利益に直結するような政権の取り組みを高く評価する意見がある一方で、社会保障や少子化対策などの政策全体の取り組み方も示さないと、政権の人気取りに終わってしまうと懸念する声も聞く。

一方、地球温暖化対策として、菅首相は「2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする方針」を所信表明演説で表明する方向で調整している。これまでより踏み込んだ目標で、エネルギー基本計画や企業の生産活動にも影響する。

菅政権の政策をめぐっては、目先の個別政策が多いため「どんな社会をめざすのかわかりにくい」。あるいは「中長期の政策も含めて、政策の全体像を示してもらいたい」といった指摘が出されており、政権の主要政策の全体像や基本構想を明らかにして議論を深めてもらいたい。

外交・安全保障分野についても、米中間の覇権争いが激化する中で、日本外交の舵取りをどのように行っていくのか基本的な考え方を明らかにして欲しい。

 コロナ激変時代 制度設計・構想を

日本の政治は、7年8か月に及ぶ安倍長期政権が幕を閉じ、代わって菅新政権が登場し、向こう1年以内に衆議院の解散・総選挙が行われる。

国民の側も”コロナ激変時代、どんな将来社会をめざすのか”、これまで以上に政治の動向に関心を持つともに、次の選挙はどんな基準・物差しで1票を投じるかを考え始めているようにみえる。

それだけに政府・与党、野党各党の双方には、新しい日本社会の制度設計としてどんな構想と政策、実現への道筋を考えているのかしっかり打ち出してもらいたい。その上で、注目点の多い臨時国会、国民が知りたい点に真正面から応える国会論戦を是非、みせて欲しい。(※備考:10月26日に国会が召集されましたので、冒頭の文章の表現を一部を過去形に手直しにしました)

菅内閣支持率 下落 学術会議問題が影響

菅新政権が発足して16日で1か月が経過した。政権発足直後は高い支持率を記録、順調な滑り出しだったが、NHKの10月の世論調査によると内閣支持率が大幅に下落している。

この理由は、日本学術会議の新しい会員候補の一部について、菅首相が任命を拒否、その理由を説明していないことが影響していると見られる。

菅内閣を支持しない理由として「首相の人柄が信頼できない」が急増。「女性の支持率」が大幅ダウン。最も多い「無党派層」の不支持も増加している。

菅新政権の支持率下落の理由、背景を以下、詳しく分析してみる。

 菅内閣支持率 7ポイント下落

NHKが10月9日から11日に実施した世論調査によると、菅内閣の支持率は◆「支持する」が55%、◆「支持しない」が20%だった。

政権発足直後の9月の世論調査では◆支持が62%、◆不支持が13%だったので、支持率が7ポイント減少、逆に不支持が7ポイント増加したことになる。

政権発足直後は、いわゆる”ご祝儀相場”もあって高い支持率となり、その後、減少していくことが多いが、2回目の調査で大幅に下がるケースは少ない。◇菅直人内閣の22ポイント、◇小渕内閣14ポイントに次ぐ水準で、野田内閣と同じく大幅な下げ幅だ。

(備考:9月調査=21・22日、10月調査=9~11日実施。データは「NHK NEWS WEB」から)

 支持率下落 与党、無党派、女性

支持率下落の中身をみると◆「与党支持層」が、9月の85%から10月の80%へ減少。◆最も多い「無党派層」が50%から43%へと下落している。

◆男女別では、特に「女性の支持」が、9月62%から10月51%に11ポイントと大幅な下落が目立つ。男性は9月63%から10月59%へとは対照的だ。

 「首相の人柄信頼できない」倍増

次に菅内閣を支持する理由としては◆「他の内閣より良さそう」26%、◆「人柄が信頼できる」24%、◆「実行力がある」18%と続く。

これに対して、菅内閣を支持しない理由としては◆「人柄が信頼できない」32%、◆「政策に期待が持てない」31%、◆「他の内閣の方が良さそう」13%となっている。

つまり、菅内閣を支持する人の中で「人柄が信頼できる」と答えた人は、菅首相は世襲ではなく、秋田の農家出身の”たたき上げ”といった点を評価しているものとみられる。

一方、支持しないと人たちの中で「人柄が信頼できない」と答えた人は、日本学術会議の問題が影響しているものとみられる。9月は15%だったのが、10月は32%へと倍増、支持しない理由のトップに跳ね上がっているからだ。

 学術会議任命拒否 ”納得できない”

その日本学術会議が推薦した新しい会員の一部を任命しなかったことについて、菅首相が「法に基づいて適切に対応した結果だ」などと説明していることをどのように受け止めているかを聞いている。

◆「納得できる」は38%、◆「納得できない」は48%となっている。支持政党別にみてみると◇与党支持層でも「納得できる」は55%に止まっている。◇野党支持層と◇無党派層では「納得できる」は2割台後半で、「納得できない」は野党支持層の7割、無党派層の6割と多数を占めている。

年代別では、どの年代でも「納得できる」は3割から4割程度で、「納得できない」は、50代以降、60代、70歳以上でいずれも半数を上回っている。

女性は「納得できる」は33%に対し、「納得できない」が46%と大幅に上回っている。男性は、43%と48%で拮抗している。

 新政権の信頼度、政権の行方に影響

学術会議の問題は、日本学術会議法で「会議側の推薦に基づいて首相が任命する」と規定されている。推薦制を導入した中曽根政権以降、歴代政権は学術会議の推薦を尊重してきた。菅政権では一部の任命を拒否したが、「誰が判断したのか、任命しなかった理由は何か」といった肝心な点を説明していない。

国民の側は、こうした政府の対応に疑念を抱いており、新政権の政治姿勢、政権の信頼度に関わる問題として受け止めていることがうかがえる。この問題は、10月26日から始まる秋の臨時国会でも与野党の攻防の焦点になる見通しだ。

菅政権は、デジタル庁の新設や携帯電話料金の引き下げなどを打ち出し、世論の高い支持を得たが、学術会議問題が思わぬ影響を与えている形だ。政府側が説得力のある説明を行えないと、さらなる支持率低下につながる可能性もある。

菅政権としては、学術会議問題にどのような方針で臨むのか、軌道修正を図る考えはないのかどうか。今後の政権運営や次の衆議院選挙の選挙情勢にも影響を及ぼすだけに注意して見ていく必要がある。

 

任命拒否の事実関係 早急に解明を!学術会議問題

日本学術会議の会員人事をめぐる問題が、菅新政権にとって大きな政治問題になりつつある。野党側が、菅首相の任命拒否の撤回を要求すれば、政府・自民党側はこれを突っぱね、学術会議の在り方そのものを見直していく方針を打ち出し、与野党の対立が深まっている。

一方、この問題は、国際的な科学誌として知られる「ネイチャー」が社説で取り上げ「科学と政治の関係が危機にさらされている。黙ってみていることはできない」と懸念を表明、国際的にも注目を集めることになりそうだ。

この問題をどうするか。様々なレベルの問題が整理されないまま議論されているが、肝心な事実関係がはっきりしていない。「学術会議側が出した105人の推薦候補のうち、6人を任命しない判断は誰が行ったのか、その理由は何か」。

この点が「今回の問題の核心」であり、事実関係をはっきりさせること。その上で、任命拒否の是非、学術会議の在り方などについても議論すればいいのではないか。以下、今回の問題をさらに詳しくみていきたい。

 菅首相「推薦リストは見ていない」

菅首相が9日に行った内閣記者会とのインタビューが、波紋を広げている。この中で、菅首相は今回の任命は自ら判断したとした上で、9月28日の決裁の直前には、任命する99人のリストは見ていたこと。但し、任命されなかった会員候補6人を含む105人の学術会議側の推薦リストは「見ていない」と説明した。

この説明では「誰が、学術会議側の推薦名簿を見て、除外したのか」が問題になる。また、除外した理由は何か。さらに日本学術会議法の「学術会議の推薦に基づいて首相が任命する」という法律の規定にも違反する可能性がある。

一方、学術会議の元幹部によると、今回の任命拒否以外に少なくとも過去4回、首相官邸が人事に難色を示し、定員を上回る名簿の提出を求められたことなども明らかになった。

したがって、まずは、問題の「核心部分の事実関係」を確認した上で議論する必要がある。政府は、早急に事実関係を調査・確認し、説明する責任がある。

 歴代内閣の方針転換ではないか

もう1つの問題は、「歴代内閣の方針との関係」がある。今回の問題に関連して、政府は一昨年、政府内で学術会議の会員の任命を巡って、政府内でまとめていた文書を明らかにした。

それによると、学術会議は、国の行政機関であることから、首相は任命権者として、人事を通じて一定の監督権を行使することができると明記している。

一方、今の推薦制を導入した際、当時の中曽根首相は、国会の答弁で「政府が行うのは、形式的な任命にすぎない」として学術会議側の推薦を尊重する考えを表明し、歴代内閣も踏襲してきた。

ところが、安倍内閣と今の菅内閣は、中曽根内閣との方針とは異なるのではないか。また、政府の方針を変える場合は、公表し説明する必要があるのではないか。こうした点についても政府の説明が必要ではないか。

 過ちては改むるに、はばかることなかれ

今回の問題は、菅政権の政治姿勢を判断する面でも注目してみている。というのは、菅氏が官房長官として務めてきた安倍政権は、森友、加計問題、桜を見る会、さらには、東京高検の黒川検事長の定年延長など政治・行政の透明性、首相の信頼性に関わる問題が相次いだからだ。

菅新政権が発足し、これから新型コロナ対策をはじめ、デジタル庁の新設など独自の政策に取り組んでいく上でも、菅首相の政治姿勢や政権の透明性などが問われる。

今回、任命されなかった6人の学者については、いずれも政府の集団的自衛権の行使や安全保障法制などに批判的な立ち場であることから、任命から除外したのではないかとの疑念が持たれている。菅首相はそうした見方を否定しているが、任命しなかった理由については、説明をしていない。

こうしたことから、事実関係を調べる中で、仮に選考に問題があった場合は、官僚や政権のメンツなどにはこだわらず、是正した方がいい。”過ちては改むるに、はばかることなかれ”と言われる。政権発足で世論の高い支持を得ており、こうした政治資源は有効に使った方がいい。

いずれにしても、まずは事実関係を明確にし、その上で、任命しなかったことの是非を判断するのが、順序だと考える。

さらに学術会議の在り方、運営などに問題があれば、議論、検討すればいい。その前に事実関係を明確にし、人事問題をはっきりさせておく必要がある。問題を曖昧にせず、国民にわかりやすい議論と結論を出してもらいたい。(了)

 

”負の路線”も継承か 菅政権の学術会議人事

アメリカのトランプ大統領夫妻が新型コロナウイルスに感染したという驚きのニュースが週末に飛び込んできた。一方、国内でも日本学術会議が推薦した新会員の候補について、菅首相が一部任命をしないことが明らかになり、波紋が広がった。

この問題は「学問の自由との関係」もあるが、菅政権発足直後の出来事なので、「新政権の政治姿勢」を占う点でも注目している。

そこで、今回の問題、政権のあり方も含めて、どのように考えたらいいのか見ていきたい。

 学者の代表機関 独立性を保障

最初に日本学術会議とは何か、手短に整理しておきたい。

「学者の国会」とも呼ばれ、人文・科学、生命科学、理学・工学のおよそ87万人の科学者を代表する機関で、210人の会員などで構成されている。

太平洋戦争に科学者が協力したことを反省し、1949年に設立された。内閣総理大臣が所管し、経費は国費で負担。年間10億円支出されているが、政府から独立して職務を行う機関と位置づけられている。

会員は昭和59年の法律改正で、学者間での選挙で選ぶ方法から、研究分野ごとに候補者を推薦し、その推薦に基づいて総理大臣が任命するという形式に変わった。

その際、所管していた総理府・総務長官は国会答弁で「学会からの推薦者を拒否はしない」と独立性を保障する考えを表明した。

 6人任命せず 政府側の説明なし

今回、日本学術会議は8月31日に、新たに会員となる105人の候補を推薦するリストを提出した。これに対し、加藤官房長官は10月1日の記者会見で、推薦候補のうち6人を任命しなかったことを明らかにした。

歴代政権は学術会議の推薦を尊重してきており、学術会議が推薦した候補が任命されなかったのは、初めての事態だ。

加藤官房長官は「会員の人事などを通じて、一定の監督権を行使することは、法律上可能だ」と強調した。

菅首相も「法に基づいて適切に対応にした結果だ」とのべたが、任命しなかった理由の説明は避けている。

これに対して、学術会議側は、任命しなかった理由の説明を求めるとともに、6人の任命を求める要望書を提出することを決めた。

 学問の自主・自立性が損なわれる

そこで、この問題をどう見るか。憲法の専門家の1人は「今回、人選のルールが解釈で変更され、任命権者の判断でどうにでもなると、学問の自主性・自立性が損なわれる」と批判している。

その上で「一定の方向でしか学問ができないことになれば、社会全体も政治的に多数派ではない意見が言えなくなるおそれがある」と指摘している。

野党側は「学問の自由に対する国家権力の介入だ」として、臨時国会で追及する方針だ。

この問題に関連して、国が補助金を出していることや、学術会議の運営のあり方に問題があるのではないかとの指摘も出されている。指摘の点は改善の必要があると思うが、問題の核心は、政治権力と学術団体との関係をどうするかにあると考える。

 新政権の政治姿勢 任命拒否の背景

今回の問題、私個人は「菅新政権の政治姿勢」を世論がどのように評価するかという点を注目している。

菅首相は、安倍政権の路線を継承する考えを表明するとともに、デジタル庁の創設や携帯電話の通話料の値下げなど独自色を打ち出そうとしている。これまでのところ、菅内閣の支持率も高い水準を示している。

こうした中で、任命されなかった6人の研究内容や経歴をみると次のような共通点がある。

まず、6人は憲法や政治学、行政法、日本近代史などいずれも法文系の研究者だ。また、安倍政権が打ち出した集団的自衛権の行使容認や安全保障法制、テロ等準備罪の新設などに批判的な立ち場を表明している点でも共通点がみられる。

政府が任命拒否の理由に言及していないので断定的に言えないが、6人の共通点から判断すると「政権との距離」、政府の方針に批判的な研究者は任命できないとの判断が働いているのではないかと推測せざるをえない。

 負の路線継承 百害あって一利なし

安倍政権は、森友、加計問題をはじめ、桜を見る会などで、首相の政治姿勢や説明責任が大きな問題になった。

また、集団的自衛権の憲法解釈などに当たった内閣法制局長官の交代や、検察当局のNo2 黒川・前東京高検検事長の定年延長をめぐっても、強引な人事ではないかとの批判も浴びた。

今回の学術会議の問題は、安倍政権の末期から菅政権誕生の交代時期に重なっている。菅新政権の今回の対応は、安倍政権の人事や説明の仕方などをそのまま引き継いでいるように見える。世論の側は、”負の路線継承”と受け止める可能性が大きいのではないか。

このように見てくると、学者の世界に”対立”を持ち込むことは、新政権にとっても”百害あって一利なし”ではないか。

今、国民の多くが新政権に期待しているのは、コロナ危機乗り切りと経済再生を着実に進めることにある。学術会議の問題は、任命しなかった理由を明らかにすると同時に、問題ありと判断した場合、早急に是正した方が賢明だと考える。

 

”年内解散先送り”の公算 コロナ対策優先 

安倍首相の辞任を受けて登場した菅政権は発足から30日で、2週間になる。安倍政権の継承を表明する一方、デジタル庁の創設など独自色を打ち出し、世論調査でも高い支持率を得て、順調な滑り出しを見せている。

一方、今後の大きな焦点になっている衆議院解散・総選挙はどうなるのか。さまざまな見方があるが、菅首相はコロナ対策と経済再生優先で、”年内解散先送り”の公算が大きいるとみる。以下、その理由・背景を説明したい。

 秋口解散なし 首相誕生日投票説も

衆議院の解散・総選挙について、政界の一部では「9月末解散・10月12日公示・25日投票説」が有力との見方が流されてきた。菅内閣と自民党の支持率が高いことから、早期解散必至との見方だった。しかし、この秋口解散はなしの情勢だ。

代わりに今、流れているのが「11月解散・12月投票」説。この中には「12月6日投票」説も。この日は、菅首相の誕生日という漫画のような話も聞く。さらに「年明け通常国会冒頭の解散」説もある。

このように政界の解散情報は、ゴールポストが次々に、後ろにずれていくのが特徴だ。予想が外れた場合の解説もほとんどなされたことがない。

 臨時国会や皇室日程 固まる

それでは、解散・総選挙の時期をどう見たらいいのか。衆議院の解散は、解散詔書が国会に伝達されて決まるので、国会が開かれていることが前提になる。

その臨時国会は、自民党幹部によると10月下旬、23日か26日召集の見通しだ。この国会に政府は、◇日本とイギリスのEPA=経済連携協定の承認を求める議案や、◇新型コロナウイルスのワクチン確保などの法案の提出を検討している。

政府が臨時国会冒頭の解散に踏み切らない限り、◇菅首相の所信表明演説と◇各党の代表質問が行われる。続いて◇内閣が交代したので、新首相の所信を質す予算委員会が衆参両院で開かれる。その上で、◇個別の法案審議に入っていくので、協定の承認や法案の成立までには、通常1か月程度はかかる。

さらに政府内では、秋篠宮さまが皇位継承順位1位の「皇嗣」になられたことを内外に伝える「立皇嗣の礼」について、新型コロナウイルスの感染状況次第では11月中旬以降に行う見方が出ており、具体的な日程の検討が進んでいる。

このように10月から11月一杯は、国会日程や皇室の重要日程で固まりつつあり、衆院解散・総選挙の日程を設定するのは困難とみられる。

 菅首相の判断基準 コロナ優先

衆議院の解散・総選挙を断行するか否かは、最終的には首相の判断になる。菅首相はどう考えているのか。

自民党総裁選への立候補の表明から、新総裁就任、さらには新首相の就任までの一連の発言を聞いてみても、菅首相の考え方はほぼ一貫している。

菅首相は、9月16日新内閣発足後最初の記者会見では、次のようにのべている。「新しい内閣に国民が期待していることは、新型コロナ感染を早く収束させ、経済を立て直すことだ。その上で、時間的制約も視野に入れて考える」。

要は「感染収束と経済再生」という判断基準を明確にしている。早期解散を期待する自民党議員にとっては、高いハードルだ。

解散問題については、自民党の野田聖子幹事長代行と、山口選挙対策委員長が「コロナ対策と菅内閣の政策実現が最優先だ。国民から評価された時点で、菅総理が判断されると思う」と早期解散説の火消しを始めた点も注目している。

野田氏は二階幹事長と相談していると思われるし、山口氏は菅首相と当選同期で抜擢された関係にあり、首相の意向を確認した上での発言だと思う。

 政権の実績重ね、信を問う戦略

菅首相の政権運営は、安倍政権の路線を継承しながら、携帯電話料金の値下げやデジタル庁の創設などの独自色を打ち出そうとしているのが特徴だ。

特に看板政策のデジタル庁は、全閣僚をメンバーとする会議を開き、年末には基本方針を決定、年明けの通常国会に必要な法案を提出する考えを打ち出した。

新内閣の顔ぶれも新入閣を少なく抑え、再任や閣僚経験者を各派から幅広く起用することで、仕事の実績を上げようとするねらいが読み取れる。

さらには、来年に延期された東京オリンピック・パラリンピックについては、IOC=国際オリンピック委員会のバッハ会長と電話会談し「歴史的な大会」になるよう緊密に協力していくことを確認した。バッハ会長は、大会開催に強い意欲を示しており、10月下旬に来日、菅首相と会談する見通しだ。

このように菅政権は、総裁任期1年を念頭に急ピッチで、政権の実績を積み重ねるとともに、東京五輪も成功させ、自民党総裁選と衆議院選挙を乗り切るのを基本戦略にしているとみられる。

このため、衆院解散・総選挙は、年末解散や年明け解散ではなく、来年秋の任期満了に近い時期までを視野に入れての対応を考えていると推察している。

 解散・世論慎重、自民に早期解散論

こうした菅首相の考え方は、世論の受け止め方と基本的に一致している。NHKの9月世論調査で、解散・総選挙の時期については◇年内は15%、◇来年前半が14%、◇来年10月の任期満了かそれに近い時期が58%で圧倒的多数だ。

これに対して、自民党内では、若手議員を中心に早期解散に期待する声が強い。今後、自民党内の主要派閥から、早期解散を求める圧力が強まるかどうかを見極める必要がある。自民党独自の選挙情勢調査で、自民優勢となれば、解散・総選挙に一気に動く可能性も残っているからだ。

自民党のベテランに解散風の見通しを聞いてみた。「次の解散・総選挙は、コロナ感染に十分すぎるほど気を配る必要がある。一部で早期解散と騒いでいるが、万一、自民党陣営の選挙事務所から感染者が出たら、世論の風向きは一変する。菅首相は、選挙大好き人間だが、世論の動向には敏感、解散には極めて慎重に対応するのではないか」と指摘。

「コロナ激変時代」をどのように乗り越えていくのか。菅首相をはじめとする政府・与党と野党の双方が、真正面から議論を戦わせてもらいたい。

特に衆参150人が結集した野党第1党の新「立憲民主党」、それに提案型政党をめざす新「国民民主党」も結成された。どんな対立軸を打ち出していくのか。

私たち国民の側も与野党の論戦にしっかり耳を傾け、1票の行使に備えたい。

菅政治とは ”改革・実利提供型政治” 

安倍長期政権が幕を閉じたのを受けて登場した菅新政権は、23日に発足から1週間,本格的に動き出している。報道各社の世論調査では、菅内閣の支持率は60%台後半から70%台前半の高い支持を得て、滑り出しは順調に見える。

そこで、菅政治とは何か、どんな特徴があるのか。また、これからの政権の課題・問題は何か考えてみたい。

 ”改革・政治主導、実利提供型政治”

さっそく、菅政治の特徴から見ていきたい。自民党総裁選から、第99代首相に選ばれ、就任後最初の記者会見までの発言を聞くと、次のような点が挙げられる。

◆安倍首相の突然の病気退陣を受けて首相就任になったことから、「安倍政権の路線の継承と前進」を打ち出したこと。

◆また、自らの政治経歴について「秋田の農家の長男に生まれ、ゼロからの出発だった」として、世襲ではなく、政治家の秘書、市議会議員、国会議員へと歩んできた”たたき上げの政治家”をアピール。

◆その上で、今の政治・行政には「国民感覚から大きくかけ離れた、当たり前でないことが数多く残っている」として、「行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打ち破って、規制改革に全力を上げる」と政権担当の決意を表明した。

◆そして、具体的な課題として◇携帯電話料金の値下げをはじめ、◇出産を希望する世帯を幅広く支援し、不妊治療への保険適用、◇”縦割り110番の新設”、◇デジタル庁の新設などの新機軸を矢継ぎ早に打ち出している。

前任の安倍首相は、アベノミクスをはじめ、地方創生、1億総活躍、女性活躍、全世代型社会といった看板政策を次々に打ち出した。

これに対し、菅首相は派手な看板は避け「国民目線の改革と政治主導」をめざしている。官房長官時代も官僚と議論を徹底して行い、方向性を打ち出してきた。こうして採用された政策を見ると、携帯電話料金値下げに代表されるように暮らしの利益になる「実利提供型の政治」に菅政治の大きな特徴があるとみている。

 世論の反応、高支持率でスタート

さて、菅政権の対応について、世論の評価はどうか。報道各社が9月に実施した世論調査をみると次のようになっている。

◇毎日新聞 支持64%:不支持27%、◇共同通信 支持66%:不支持16%、◇朝日新聞 支持65%:不支持13%、◇日経新聞 支持74%:不支持17%、◇読売新聞 支持74%:不支持14%。

支持率に幅はあるが、概ね「60%台後半から70%台前半」で、歴代内閣の中でも高い水準にある。

その理由だが、菅新政権が「安倍政権の政策や路線を引き継ぐ方針」を評価する受け止め方が多い。また、コロナ感染が収まらない中で、政治の混乱は避けたいとの判断が読み取れる。さらに、国民生活に利益をもたらす改革路線を歓迎しているようにみえる。

 コロナ感染拡大を抑えられるか

こうした一方で、世論の高支持率がいつまでも続くとは限らない。当面、最大の問題は、コロナ感染を抑えることができるか。

実利提供型政治といっても、土台となる感染拡大を抑制できなければ、生活や事業そのものが台なしになるからだ。

その感染対策、安倍首相が8月末の最後の記者会見で、1日当たりの検査20万件への拡充、医療提供体制の整備など方針を打ち出した。

後継の菅政権としては、特に秋から冬場にかけてコロナ感染とインフルエンザの同時流行・ツインデミックへの備えを早急に整えること。スピード感のある体制づくりが問われている。

 社会経済活動との両立メドは

もう一つの懸案が、感染抑制と社会経済活動との両立が、本当にできるのかどうか。

このところ収入が減少し当面の生活費を国から借りる制度の貸付件数が急増している。年末に向けて、雇用・失業情勢の悪化、事業の廃止や倒産の増加などが心配されている。

雇用調整助成金の延長をはじめ、持続化給付金、家賃支援などこれまでの対策で乗り切れるのか。追加の経済対策を打ち出すのか。焦点の成長戦略の中身として、何を中心にすえるのか、肝心の経済政策の柱がはっきりしない。

つまり、菅政治の特徴である携帯料金の値下げなど個別の政策は出されているが、経済政策の軸が明確ではない。また、個別の改革を積み重ねてどんな経済・社会をめざすのか将来像も示されていない。

 負の遺産と政治の信頼回復

さらに、安倍政権の路線の継承は、政権運営面では安定感をもたらす効果がある一方で、森友、加計、桜を見る会、河井前法相夫妻の選挙違反事件など一連の政治不信を招いた”負の遺産”も引き継ぐマイナス要因も抱え込むことになる。

桜を見る会に関連しては、ジャパンライフの山口隆祥元会長が、菅政権発足直後の18日、巨額詐欺容疑で逮捕された。野党側は、安倍首相主催の桜を見る会に招待状が出されていた経緯を再調査するよう要求している。政府側は応じない方針だが、秋の臨時国会で再び与野党の攻防の焦点になる見通しだ。

このように見てくると、菅政権の内閣支持率は高いものの、コロナ対策、日本経済の立て直し、政治不信の払拭などの難問が数多く待ち受けている。

 年内早期解散、世論の強い反発も

こうした中で、菅新政権がこの秋、衆議院の解散・総選挙に踏み切るのかどうか政局の焦点になっている。

自民党内では、内閣支持率とともに自民党の支持率も上昇していることから、早期の解散・総選挙に踏み切るべきだという意見が一段と強まっている。

これに対して、菅首相は、国民の関心はコロナ対策にあるとして、早期の解散・総選挙には慎重な姿勢を示している。

早期解散は、野党の選挙準備が遅れているので有利だが、最大のポイントは、世論の反応がどうなるかだ。報道各社の世論調査でも年内解散の賛成は少数派で、来年秋の任期満了まで急ぐ必要はないというのが、国民多数の意見だ。

自民党総裁選の党員投票はコロナ感染を理由に省略しながら、衆院選挙は有利だから急ぐといった「ご都合主義」、「党利党略」に対する強意反発を招く可能性があるのではないか。加えて、選挙中に再び感染拡大となれば、与党の選挙戦は総崩れすることになるのではないか。

菅首相が最終的にどのような決断を下すのか。選挙戦に勝利して本格政権への道を切り開くのか。それとも党利党略批判を浴びて敗退・短命政権で終わるのか、年内解散は両刃の剣と言えそうだ。

 

 

菅新政権発足”世代交代”へ布石 閣僚・党人事

7年8か月続いた安倍長期政権が幕を閉じ、菅新政権が発足した。自民党の菅義偉・新総裁は16日午後、衆参両院本会議で、第99代の首相に選出された。この後、直ちに組閣作業に着手し、新しい内閣を発足スタートさせた。

菅首相は新しい内閣で、麻生副総理兼財務相など8閣僚を再任する一方、内閣の要の官房長官に加藤厚労相、行革・規制改革担当相に河野防衛相を起用した。

自民党役員人事については、二階幹事長を再任するとともに、総務会長や政調会長など主要ポストを、支援を受けた5つの派閥に均等に割り振った。

菅首相は16日夜、新内閣発足後の最初の記者会見で「新内閣は、安倍政権の政策の継承と前進が使命だ。最優先課題はコロナ対策だ」と強調した。

今回の人事をどう見るか。「派閥均衡人事で、菅カラーが見えない」などの批判も聞かれる。様々な見方ができるが、私は”隠れたねらい”として、菅首相は「次の時代の新しいリーダー候補」を起用することで、世代交代を促進、自らの求心力を高める戦略ではないかとの見方をしている。

以下、その理由や背景などを説明したい。

 ”目玉人事”、加藤氏、河野氏抜擢

今回の閣僚人事では、”内閣の要”官房長官ポストが焦点になった。複数の候補者の名前が挙がっていたが、最終的には、官房副長官の経験があり、政策にも詳しい加藤厚労相に落ち着いた。

菅首相は官房長官時代、副長官の加藤氏と3年近く仕事をしたこと。竹下派だが安倍前首相と近いことも、起用につながったとみられる。但し、厚労大臣としてのコロナ対応で、調整力や実行力に疑問があるとの見方もある。

また、行政改革・規制改革担当相に河野防衛相が起用された。菅首相は組閣後の記者会見で「私自身、規制改革を新政権のど真ん中に置いている。河野太郎が一番ふさわしい閣僚と判断して任命した」と強い期待感を表明した。

その河野氏についても個人プレーが目立ち、閣僚としての手腕を危ぶむ声も出されている。しかし、菅氏は、河野氏や加藤氏の力量を高く評価し、将来の有力なリーダー候補として経験を積ませるねらいがあるとみられる。

 ニュー・リーダーの競い合いへ

菅氏は今回の人事で、茂木外相、萩生田文科相、西村経済再生担当相、小泉環境相を再任した。また、党の三役人事で、政調会長に下村博文氏を抜擢した。

こうした人材は、加藤官房長官、河野規制改革相とともに、次の時代を背負うニュー・リーダーとして強い意欲を持っている。

非世襲で無派閥の菅首相は党内基盤が弱いため、二階・麻生の両重鎮の力を借りつつ、派閥の動向にも目を配りながら、政権運営に当たらざるをえない。その際、ニュー・リーダーとの関係を通じて、派閥の協力を取り付け、政策の実現や政権運営の主導権を確保する戦略だとみられる。

 石破氏、岸田氏は外す

一方、菅首相は、総裁選で争った石破氏と岸田氏については、どちらも主要ポストで処遇しなかった。

自民党関係者に話を聞くと、菅首相は「石破氏や岸田氏が登場する総裁選に終止符を打ち、新しいリーダー候補が競い合う時代にしたいと考え」との見方。

これに対し、岸田氏は先の総裁選で一定の支持を確保し、次の総裁選の挑戦権は得ているとの判断だ。

石破氏も地方票で30%を獲得し、総裁選への足かがりは残していると考えている。

短期リリーフか、本格政権ねらいか

それでは、菅首相は自らの政権をどのように位置づけているだろうか。政界では、来年9月までの暫定政権・短期リリーフ役との見方と、本格的な政権をめざしているとの見方に分かれている。

今回の人事では、ニューリーダーを起用、自らは短期リリーフで区切りをつけ、後継者の後ろ盾に回るようにも見える。一方で、石破・岸田両ライバルを退け、派閥均衡人事で、本格政権への環境整備を進めているようにも見える。

いずれにしても、ニュー・リーダーが競い合って成果を上げれば、政権の実績になり、短期リリーフ、本格政権いずれの選択肢も手にすることができる。

逆にニュー・リーダーが失敗すると政権失速につながる。ニュー・リーダーの成否は、政権の先行きに大きな影響を及ぼす。

このため、菅政権や今後の政局の行方を判断していく上では、ニュー・リーダーの実績と世代交代の進み具合が大きなポイントになる。

 長期政権後、コロナ激変時代の政治

これまで自民党の歴史を振り返ると、佐藤政権、中曽根政権、小泉政権といった長期政権の後は、短命政権が続いてきた。憲政史上最長、安倍1強を誇った安倍政権後の今回は、どうなるのだろうか。

加えて、今回は新型コロナ・パンデミックで、日本経済は戦後最大の落ち込みになっている。安倍首相の退陣は直接的には持病の悪化だが、コロナ対策が後手に回った影響が大きい。それだけに菅新政権にとっても、コロナ危機乗り切りが大きなハードルになる。

政界では、立憲民主党と国民民主党などとが合流、新「立憲民主党」という150人規模の野党第1党が結成され、菅政権と対峙する構えだ。

衆議院議員の任期は来年10月まで、いつの時点で衆院解散・総選挙が行われるのか。また、コロナ感染の収束と、国民生活や経済の立て直しに向けて、政権与党と野党側はどのような具体策を打ち出すのか。コロナ激変時代、日本政治は国民の判断で大きく変わることになる。

 

 

 

 

 

 

菅氏圧勝 派閥主導の総裁選び

安倍首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙は14日投開票が行われ、本命の菅官房長官が圧勝、新しい総裁に選出された。

菅新総裁は、就任後最初の記者会見に臨み「国民のために働く内閣を作っていきたい」と述べ、新型コロナ対策と経済再生に全力を挙げる考えを強調した。焦点の衆院解散・総選挙については、コロナの収束が見通せない限り難しいと慎重な姿勢を示した。

今回の総裁選の結果をどのように見るか。菅新政権は何をめざしているのか、どんなハードルが待ち受けているのか探ってみる。

 菅氏圧勝の背景 派閥全面支援

総裁選の投票結果は、議員票と各都道府県連に3票ずつ割り振った地方票の合計で、◇菅官房長官が377票で、得票率71%。◇岸田政調会長が89票、17%。◇石破元幹事長が68票、13%となり、菅氏が圧勝した。

菅氏圧勝は予想通りだが、背景としては、党内7派閥のうち5つの派閥が相次いで支持に回ったことが大きい。その結果、国会議員票の73%、圧倒的多数を獲得した。小選挙区制の導入で党執行部の権限が強まり、各派閥とも主流派入りしたい思惑が働いたものとみられる。

地方票は、菅氏が63%を獲得、全国各地で幅広い支持を得た。支持する国会議員が自らの支持党員に働きかけた他、安倍首相の病気による辞任表明で”弔い選挙”に似た様相になり、安倍路線の継承を掲げた菅氏へ追い風になった。

さらに、これまで政治家の2世・3世、世襲議員の総理・総裁が続いてきたことから、地方出身で”たたき上げ”の菅氏に党員の期待が集まった面もある。

閣僚経験のある議員に感想を聞くと「これほど緊張感のない総裁選は初めてだ。2000年小渕首相が緊急入院、5人組が後継総裁候補を決めた時に比べても緊張感は乏しかった」。

別のベテラン議員は「今回の派閥の動きを見ていると、金丸信さん登場かと錯覚、昭和の古い総裁選びを思い出した」と話すなど今回の党員投票の省略や、派閥主導の総裁選びの在り方は問題が多いとの受け止め方は根強い。

 石破、岸田両氏の今後は?

次に、敗れた岸田氏、石破氏の今後はどうなるか。

岸田氏は、石破氏に21票差をつけて2位の座を確保。岸田氏は地方票は10票しか獲得できなかったが、議員票で79票を獲得。岸田派は47人と無派閥の5人が基礎票とみられるので、20数票が積み上がった勘定になる。この票はどこから、どんなねらいがあったのか、さまざなな憶測を呼びそうだ。

石破氏は、地方票では42票を獲得したが、議員票は26票に止まった。派閥19人と無派閥など5人の合計24人が基礎票。4回目の挑戦は、今回も主流派に完全に封じ込められた形だ。

新総裁の任期は、安倍前総裁の残り任期の1年。来年9月の総裁選は、2位の岸田氏が残ったとの受け止め方が政界では強い。但し、石破氏も地方票で30%を獲得、なお挑戦の足がかりは残っているとの見方もある。

 菅新総裁「国民のために働く内閣」

菅新総裁は14日夕方の記者会見で、◇新政権の政治姿勢について「国民のために働く内閣、信頼される内閣をめざす」と強調した。

◇内閣改造・自民党役員人事については「総理大臣が代わるので、私の政策の方向性に沿った、改革意欲のある人を思いきって起用する」とのべ、閣僚の大幅な入れ替えを行いたい考えを示した。一方、二階幹事長、麻生副総理については、続投させたいとの考えを示唆した。

◇衆院の解散・総選挙については、「せっかく新総裁になったので、仕事をしたい。新型コロナウイルス問題を収束して欲しいということと、経済を再生させて欲しいというのが、国民の大きな声だ。専門家が完全に下火になってきたということでなければ、なかなか難しいのではないか」とのべ、早期の解散・総選挙には慎重な姿勢を示したのが印象に残った。

菅新総裁は、安倍前首相のように派手な看板政策を次々に打ち上げるよりも、当面は、コロナ対策や経済・暮らしの立て直しなどに一定の成果や道筋をつける。その上で、国民の信を問う堅実な政権運営をめざす戦略のように見える。

 新政権のハードル 人事と解散時期

その菅新政権の戦略が成功するかどうか。

まずは、自民党役員人事と組閣人事問題が待ち受けている。既に選挙後の人事をめぐって派閥の主導権争いが激しさを増している。派閥の思惑・圧力をはねのけて、菅新総裁の方針が貫徹できるかどうか。

また、秋から冬にかけてコロナウイルスの感染拡大と、インフルエンザの同時流行をいかに防いでいくか。そして、国民生活の安定と経済活動の本格的な再開との両立を図っていけるか、極めて難しい対応が試される。

さらに衆議院議員の任期満了まで残り1年。衆議院の解散・総選挙の時期をどう設定するか。自民党内には、内閣支持率や自民党支持率が上昇傾向にあるので、早期の年内解散を求める動きが強まりつつある。

これに対して、菅新総裁は慎重な姿勢を崩していない。この解散・総選挙をめぐる綱引きをどのように調整するか。無派閥の総理・総裁の新政権が、こうした多くのハードルを乗り越えることができるかどうか。まずは、今週行われる党役員と組閣人事で、一定の判断材料が示されることになる。

新「立憲民主党」が問われるもの 

立憲民主党や国民民主党などが合流してつくる新党の代表選挙が10日に行われ、新しい代表に枝野幸男氏が選ばれた。新党の名称は、枝野氏が提案した「立憲民主党」に決まった。新「立憲民主党」は15日に結党大会を開く。

一方、政権与党の自民党では、ポスト安倍の総裁選挙が進行中で、菅官房長官が優位な情勢だ。14日の投開票で菅氏が新総裁に選出される見通しで、7年8か月ぶりに総理・総裁が交代する。

コロナウイルスの感染状況と国民生活・経済への影響がどうなるか。私たち国民の側も、政治の舵取りや与野党の動きをしっかり見ていく必要がある。

そこで、新たに結成された「立憲民主党」は、どんな意味や役割を持っているのか。何が問われているのか考えてみたい。

 野党第1党、100人台の規模達成

さっそく、新「立憲民主党」の意味から見ていくと、弱小野党のバラバラ状態が続いてきた中で、衆参100人規模の野党第1党にまとまった点が大きい。

新党の内訳は、従来の立憲民主党88人、国民民主党から40人、無所属21人、衆参合計で149人。100人を超える野党第1党が結成されるのは、3年前・2017年10月の民進党以来になる。

今の衆議院の選挙制度は、政権交代をめざす複数の政党が競い合う、政党本位の選挙が基本だ。

与党は、自民・公明の巨大与党。対する野党第1党が政権交代をめざすためには、衆議院で3ケタの野党勢力が必要とされてきた。今回、旧民進党の復活と揶揄されながらも合流で106人、ようやく政権交代に挑戦できる条件を満たしたことになる。緊張感のある選挙に近づくという点で、評価している。

 支持率4%台からの出発 乏しい存在感

さて、大きな野党が結成された言っても、その前途は極めて厳しい。まず、世論の支持が低く、存在感が乏しいからだ。

8月のNHK世論調査で政党支持率をみると◇立憲民主党4.2%、◇国民民主党0.7%、合計4.9%。共産、社民を加えた野党4党の合計でも7.8%に過ぎない。

これに対し、◇自民党36.8%、◇公明党3.2%。与党合計で40%。野党4党合計とは、5倍もの開きがある。

立憲民主党幹部に支持率の低さの理由を聞くと、民主党政権時代の失敗の影響を挙げる。しかし、それだけではない。立憲民主党は一時は10%台の支持を得た時もあったが、半分以下まで下落。国民民主党の支持率は最高でも1.5%と低迷が続いてきた。

このように”存在感”は極めて乏しい。この「現状」を十分、認識して再出発しないと新党の前途は開けない。

世論との関係で言えば、自民党を上回る”第1党”は、無党派層の43.3%。野党は、以前は選挙でこの層を大幅に取り込むことができていたが、最近は支持が広がらない。この無党派層のへ支持を広げることが、新党の大きな課題だ。

 コロナ激変時代、具体策で浮上も

今後の政治や政党のゆくえに大きな影響を及ぼすのが、コロナ問題だ。安倍首相が退陣に追い込まれたのも持病の悪化もあるが、コロナ対策が後手に回ったことが大きく影響している。

逆に言えば、政権や政党の側が新たな対策を打ち出し、効果が上げることができれば、世論の支持を大きく拡大する可能性がある。

今回の合流新党の代表選の論戦と、ほぼ同時に進んでいる自民党の総裁選の論戦を比較すると、どうか。私個人は、感染拡大防止については、合流新党の論戦で示された対応策の方が、具体的で説得力があるとの印象を受けた。例えば、PCR検査の拡充、保健所などの検査と医療体制の整備、地域を限定した休業要請と補償のセット論などだ。

これから年末に向けて、国民生活や経済の立て直しに向けて、政権与党とは異なる政策、対応策を打ち出せるかどうか。具体的には、代表選の議論で示された子育て・医療・教育などの公共サービスの拡充や、消費税や所得税減税などをどこまで説得力のある形で示せるか。具体的で有効な対応策を打ち出すことができれば、野党の存在が大きく浮上する可能性もある。

 衆院選挙 候補者1本化できるか

今回の合流は、近づく衆院解散・総選挙を乗り切るためのねらいが大きい。安倍長期政権の下で、野党は国政選挙6連敗中だ。

衆院選挙で反転攻勢ができるかどうか。そのためには、衆院の小選挙区で野党候補の1本化調整がどこまで進むかがカギを握っている。

野党は、前回、前々回の衆院選挙も安倍首相に不意打ちの形の解散を仕掛けられて大敗したが、根本は候補者擁立・選挙準備が遅れていたことが大きい。今回も289の小選挙区のうち、野党第1党が候補者を擁立できていない「空白区」は90近くにのぼる。

一方で、合流新党に参加しなかったメンバーが新「国民民主党」を結成する。れいわ新選組も独自候補の擁立を進めている。さらに共産党は多くの小選挙区で独自候補を擁立する。野党候補の乱立を防いで、与党と1対1の対決の構図に持ち込めるか。野党第1党の役割として、候補者の1本化調整ができるのかどうかが問われている。

このほか、新党は足下の党内融和が進むのかどうか、15日の結党大会に向けて、新たな執行部体制の人事を控えている。このように枝野「立憲民主党」は内外に多くの課題・難問を抱えており、新代表としての手腕・力量が試されることになる。

最後になるが、政権与党の自民党内では、新政権発足の勢いに乗って早期の年内解散を求める空気が強まっている。今後、自民・公明の与党間の綱引き、与野党の駆け引きが一段と激しくなりそうだ。

私たち有権者の側からみると次の解散・総選挙は、7年8か月に及ぶ安倍長期政権の終焉、新型コロナ危機の中で、国民生活や経済をどのように立て直していくのかを選択する選挙にする必要がある。

そのためには、政党の側が、設計図や構想を示して議論した上で、国民に信を問うプロセスが極めて重要だ。”党利党略”の動きには鉄槌を下し、与野党の徹底した論戦に耳を傾ける。その上で、私たちが自ら判断・選択できる政治を粘り強く求めていきたいと考える。

 

 

“たたき上げ”優勢 ” 世襲エリート”苦戦 自民総裁選

安倍首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙は、8日午前10時から立候補の届け出が行われた後、14日の投開票日に向けて選挙戦に入る。

選挙結果の見通しをベテラン議員に聞くと「幕が開く前に芝居は終わった」と冷めた口調で語る。岸田政調会長、石破元幹事長、菅官房長官の三つ巴だが、派閥の応援で菅官房長官優勢は変わらないとの見方が強い。

なぜ、菅官房長官が優勢なのか。総理・総裁の座をめぐる権力闘争、しかも安倍最長政権の後継争いでは、さまざまな要因が考えられるが、突き詰めていくと候補者の特性、政治家の資質や能力の問題に突き当たる。

そこで、今回は「政治家の特性」に焦点をあてながら、総裁選のゆくえを分析してみたい。

 ”世襲エリート” 対 ”たたき上げ”

安倍首相の後継総裁選びをめぐっては、石破元幹事長と岸田政調会長の2人が有力候補として先行する形が続いてきた。

石破元幹事長は、報道各社の世論調査で「次の総理候補」のトップを走ってきた。父親は官僚出身の参議院議員、自治大臣や鳥取県知事を務め、田中角栄元総理とは昵懇の間柄。石破氏は慶応高校、慶応大学法学部から旧三井銀行に入った後、父親の死去を契機に政界入り。28歳で衆議院議員に初当選、防衛相や自民党幹事長などの要職を歴任、総裁選に既に3度挑戦した63歳のベテラン政治家だ。

岸田政調会長は、父親が元通産官僚の衆院議員で、自民党の経理局長などを務めた。祖父も衆院議員の3代目。東京で著名な開成高校から、早稲田大学法学部を卒業、長期信用銀行入り。1993年の衆院選で初当選、安倍首相と同期。池田勇人元総理を筆頭に4人の宰相を生んだ名門派閥、宏池会の会長も務める。安倍首相が後継を託す候補とみられてきた63歳のエリート候補。

これに対して、安倍首相の突然の辞任表明後、電光石火登場したのが菅官房長官。政界ではいずれ手を挙げるとの見方が続いてきたが、本人は「考えていません」と否定してきた。

菅氏は「平成」からの改元で「令和おじさん」として有名だが、それまでは地味で、安倍政権を裏で支える番頭、「権力の管理人」的存在だった。立候補表明で自ら語ったように秋田県の農家の長男。団塊の世代で、地元の湯沢高校を卒業した後、上京。小さな会社で働きながら法政大学を卒業。代議士秘書から横浜市議を経て、1996年衆院選で初当選した苦労人。旧竹下派、宏池会を経て無派閥で活動中に安倍首相と意気投合、第1次安倍政権の総務相から政権を支えている。

このように今回の総裁選は、2人の”世襲エリート”vs”たたき上げ”の構図だ。

 ”情報・人・カネ”集中ポストの強み

それでは、この”たたき上げ”候補が、なぜ、”世襲エリート”候補に対して圧倒する勢いを持ち込めているのかという点だ。

旧知の政界関係者に話を聞くと「今回の総裁選びとその後の政局を考えると、菅氏が官房長官という主要ポストを7年8か月独占してきた意味と重み。この点を考えることが最大のポイントだ」と指摘する。

確かに、官房長官といえば、各省庁の政策などの調整に始まって、政権に関係するありとあらゆる出来事を処理する。安倍1強と言われ、しかも憲政史上最長を記録した政権の要役を務めてきた。

平たく言えば、”情報、人、カネ”を集中して扱ってきた「政権の管理人」。カネといえば、領収書なしで扱える内閣機密費の威力を指摘する関係者も多い。

安倍首相の辞任表明の翌日、菅氏は二階幹事長らと密かに会談。二階幹事長はいち早く菅支持を打ち出し、岸田・石破両氏の派閥を除く5つの派閥が雪崩を打って菅支持へと続いた。二階幹事長とのふだんの付き合いの深さもうかがえた。

その二階幹事長は、総裁選の日程調整の一任を受けて、コロナ対応が続く中で、政治空白は許されないとして、党員投票を省略することで党内をとりまとめた。この結果、国会議員票の比重が高まり、この点も菅氏有利に働く形になった。

菅氏はこの10年近く無派閥で活動し、一見すると有力派閥が仕切る総裁選は不利に見える。しかし、異例の長期にわたって官房長官を続けており、この強みを最大限生かして、総裁選を乗り切ろうとしていることが読み取れる。

”排除の包囲網” ”選挙の顔に弱さ”

これに対して、石破氏率いる派閥は、所属議員19人という小世帯。地方票に強い石破氏にとっては、本格的な党員投票がなくなったことは、大きな痛手だ。安倍首相や麻生副首相は、後継総裁ポストに石破氏が就くことに反対の意向とされ、石破氏は、主要派閥による”排除の包囲網”を突破できていない。

岸田氏は安倍長期政権のうち、4年7か月を外相、続いて党の政調会長として支えてきた。岸田氏は、安倍・麻生両氏の支援に基づく3派体制で、政権を獲得する戦略とみられてきた。しかし、党内では、岸田氏は発信力が弱く、次の衆院選を戦う選挙の顔として弱いとの評価を打ち消すことができなかった。結局、安倍首相や麻生副総理は、後継の本命を次善の菅氏に乗り換える形になった。

菅氏のしたたかな戦略と行動力に比べて、岸田氏、石破氏ともに政権獲得への準備や体制づくりへの詰めが甘いとの指摘が聞かれる。2人は1年後の総裁選もにらんで、激しい2位争いを繰り広げているが、どうなるか。

   負の遺産、コロナ対策など難問

総裁選は14日の投開票日に向けて、国会議員票と、各都道府県連に3票ずつ割り振られた党員票をめぐる戦いが本格化するが、菅氏優勢は動きそうにない。

また、報道各社の世論調査で、安倍内閣や自民党の支持率が上昇。3人の総裁候補の中では、安倍路線の継承を掲げる菅氏の支持が最も高い。このため、菅氏が後継の総理・総裁に選ばれた場合、ご祝儀相場も重なり、短期的には高い支持率が予想される。

一方、菅氏にとって問題は、安倍政権の継承は、政権の負の遺産も引き継ぐことにもなる。森友、加計、桜を見る会、公文書の改ざんなど一連の不祥事をどのように払拭し、政治・行政の信頼回復にどうつなげるか、大きな課題を抱え込む。

また、国民の最大の関心は、コロナ対策だ。安倍政権の対応は後手に回ってきた。年末に向けて国民生活や中小事業者の経営、日本経済全体をどのように立て直していくのか、政権の継承だけでは、乗り切りは難しいとの見方も根強い。

このほか、来年秋の任期満了まで1年に迫った衆院選挙。自民党内からは、早期解散論も聞かれるが、コロナ感染が収束できていない段階では、世論の猛反発も予想される。

このように菅官房長官は総裁選では勝利に大きく近づいているが、新政権スタートと同時に、待ったなしの難問が数多く待ち構えている。最初のハードルが、組閣と自民党役員人事、政権の体制づくりが順調に運ぶかどうか、新しい総理・総裁の手腕がさっそく試される。

 

”政権 番頭役” 浮上の背景 自民総裁選

安倍首相の後任を選ぶ自民党総裁選挙は、岸田政務調査会長と石破元幹事長が9月1日、正式に立候補を表明したのに続いて、2日夕方には菅官房長官が立候補を表明する運びになっている。総裁選は、この3人で争う構図になった。

一方、今回の総裁選挙では、党員投票を行わないことが決まり、国会議員票・派閥の影響力が強まることになった。

立候補する3人のうち、菅官房長官を推すのは、二階派に続いて、第2派閥の麻生派、最大派閥の細田派が相次いで支持を表明し、無派閥の議員グループなども支持することから、菅官房長官が優位に立っている。岸田政調会長や石破元幹事長は厳しい状況に追い込まれている。

”政権の番頭役”である菅官房長官が浮上した背景には何があるのか。各派閥の支持・不支持の現状は現役記者諸氏に任せて、ここでは少し長いスパンで、さまざまな観点から分析してみたい。二階幹事長との連携をはじめ政権獲得への布石、緻密な計算に裏打ちされた戦術・戦略が読み取れる。

 菅氏支持が急拡大、圧倒的優位

今回の自民党総裁選の立候補の動きは、岸田政調会長と石破元幹事長が先行、菅官房長官が立候補に踏み切るのかどうかが焦点になっていた。

その菅官房長官は自らの態度を明らかにしない中で、8月29日夜、二階幹事長らと密かに会談、立候補の意向を伝えていたことが明らかになった。

この会談を受けて、二階幹事長は翌日には、自らの派閥の幹部に”菅支持”で派内をとりまとめるよう指示し、流れを作った。続いて、第2派閥の麻生派、安倍首相の出身派閥で最大派閥の細田派も支持を表明。さらに無派閥の議員グループの支持も合わせ、菅氏が圧倒的な優位に立っている。

 菅氏浮上の背景 派閥の調整力低下

そこで、菅官房長官が浮上した背景には、どういった事情があるのか、見ていきたい。

第1に「安倍首相の出身派閥や側近の調整機能」が働かなかったことが、逆に菅氏に有利に働いた。具体的にはどういうことか。

現職首相の病気退陣としては、池田勇人元総理の例が知られている。出身派閥・宏池会の幹部の前尾繁三郎、大平正芳両氏が中心になって、医師に頼んで病名の発表の仕方から、副総裁・幹事長などへの根回し、後継指名の段取りまで進めたと言われる。

今回とは時代も違うが、安倍首相の場合、周辺には一切相談せず1人で決断したとされる。仮に相談しようとしても、今の派閥にはかつてのような力はなく、調整役を任せられる信頼できる人材はいなかったのではないか。調整役が存在していれば、逆に派閥優先、菅氏への後継は回ってこなかったかもしれない。

また、菅氏自身も官房長官を7年8か月も務めてきたが、安倍首相の出身派閥には属しておらず、無派閥だ。派閥継承も含めた調整役を依頼されるような立ち場になく、フリーな立ち場にいたことが、立候補する場合は制約が少なく判断しやすい状況にあった。

 「令和」発表、政権担当にも意欲か

第2に菅官房長官が、将来の政権担当を意識したのは、いつ頃だろうか。

菅氏自身は「ポスト安倍は全く考えていません」と繰り返してきた。これは私個人の見方だが、菅官房長官は「平成」から「令和」への改元を発表し、知名度を急激に上げた。これが、その後の政治行動に大きな影響を及ぼしたのではないかとみている。

また、改元を発表した直後、去年5月の連休には、総理官邸の留守番役である官房長官が異例のアメリカ訪問、沖縄基地問題や北朝鮮の拉致問題について米側と協議した。政界関係者の一部には「安倍首相の専門領域の外交にも踏み込み、将来の政権担当に意欲をのぞかせた」と驚きの受け止め方があった。

 安倍・麻生連合vs二階・菅連合

第3に菅官房長官が政権内で力を増したのはいつか。去年秋の内閣改造・自民党役員人事がきっかけになったのではないか。幹事長人事をめぐって、安倍首相が岸田氏を起用しようとしたのに対し、菅氏が二階幹事長の再任を進言。結局、二階氏が続投、「二階・菅連合」ともいえる深い関係が結ばれた。

安倍政権は、安倍首相を麻生副総理が支える構造になっているのに対して、二階・菅連合は、政権中枢とは一線を画して、硬軟両様でポスト安倍に備える構えを着々と進めることになったとみることができる。

底流には、安倍・麻生の有力政治家の家系に対して、二階・菅両氏は地方出身、秘書出身の”たたき上げ”という共通項で結ばれた強固な関係とも言える。

 ”行司と力士役” あうんの呼吸

第4に、今回の総裁選びでは、この強い連携が有効に機能した。二階幹事長は総裁選の日程づくりなどの一任を受けた”行司役”。党員・党友投票を行うかどうかも判断し、日程案をとりまとめる。

一方、菅氏は官房長官を務めながら、候補者として土俵に上がり力士になる可能性もある。その両者が、安倍首相の辞任表明翌日の夜に会談、菅氏は立候補の意向を伝えたといわれる。

党と政府の責任者の日程調整とみることもできるが、”行司役が特定の力士”と会うこと自体、異例だ。この評価はいったん横に置いて、両者があうんの呼吸で会談したことが党内に広がり、菅支持を他の派閥に急速に広げた。

 ”石破封じ込め、本命乗り換え”説

外観すると、政界で取り沙汰されてきた”政局シナリオ”の再現との印象を持つ。安倍首相の総裁任期切れが近づく中で、どのような政局が予想できるか。

①任期満了まで続投、②衆院解散の断行、③任期途中のサプライズ辞任と後継指名で影響力の確保。今回は、3番目のケースの変形とみることもできる。

今回は◆安倍首相の突然の辞任表明のサプライズ。◆政治空白を生まないとの大義名分に党員投票なし。その心は、国会議員中心の選挙に持ち込み。”石破封じ込め”の思惑。◆さらに安倍後継の本命は、当初は岸田政調会長。世論の支持が高まらない中、衆院解散時期も近づく。不本意ながら、別の選択肢・菅官房長官への乗り換えとみることもできる。

 党員投票なしは、政権短命リスクも

さて、総裁選挙のゆくえを左右する選挙方式については、9月1日の総務会で、党員投票は行わず、両院議員総会で選出することを決めた。国会議員票394票と、47都道府県連に3票ずつ割り振られた141票の合計535票で争われることになった。

党内の若手議員や地方の県連からは、党員の意見を聞く開かれた総裁選にすべきだとの要請が相次いだが、執行部は早急に新体制を確立する必要があるとして、両院議員総会方式で押し切った。

今回と同じように現職首相が任期途中で辞任したケースは、第1次安倍政権の後継の福田首相が選ばれたとき。その後の麻生首相を選んだ際も、両院議員総会方式だった。しかし、どちらも1年で退陣・交代に追い込まれた。

国民に近い党員・党友の意見を聞いたり、国民に向けて本格的な政策論争を展開したりしないと、新政権の求心力は高まらない。選出を急いだ結果、後で大きな代償を払う結果になった。「危機の際のリーダー選び」が問われているのに、そうした発想で対応できないのが、今の自民党の大きな問題だ。

 コロナ激変時代、政策論争は?

以上、総裁選の勝敗面に焦点を当てて、選挙情勢を分析してきた。但し、立候補の表明は始まったばかりで、本命の菅氏の立候補表明は2日夕方になる。さらに告示は8日、投開票は14日とまだ先が長い。

国民の多くは、政権与党・自民党の総裁選挙、各候補者はどんな政治をめざしているのか、政策論争をきちんとやってもらいたいと期待している。

コロナ激変時代、感染拡大防止と、戦後最悪の落ち込みになっている日本経済の立て直し、家計の収入や雇用の不安定な中で、国民生活を守り抜くための具体的な対策や構想をどのように考えているのか。特に、安倍政権の継承を掲げる本命の菅氏は、継承と同時に、問題点の見直しや方針転換まで踏み込めるのか。

一方、米中対立が激化する中で、外交・安全保障の整備をどう進めていくのか。党員・国民が知りたい点に応える論戦は掘り下げて行ってもらいたい。

(9月1日までの動き・情報に基づいて執筆。新たな展開などありましたら、随時、このブログでご報告します)

突然の辞任表明の衝撃 安倍首相

安倍首相が28日、首相を辞任する意向を表明した。持病の潰瘍性大腸炎が再発し、職務の遂行に自信を持って対応できないと判断したためだ。

政界の一部には、安倍首相の連続在職期間が歴代最長になる24日以降、辞任を表明するのではないかとの見方が出されていたのも事実だ。私は、安倍首相が進退を判断するのは、もう少し先になるのではないかと見ていたので、今回の突然の辞任表明には正直、驚いた。

安倍政権は第1次と第2次合わせて8年8か月の長期政権であり、今、コロナウイルスとの戦いの真っ最中だけに、今回の突然の辞任表明の影響は極めて大きい。

一方、政治の世界はいったん動き出すと、変化のスピードは速い。後継の総理・総裁選びに早くも焦点が移っている。そこで、後継選びでは、どんな問題を抱えているのかみておきたい。

 突然の幕引きをどう評価するか

本論に入る前に、今回の安倍首相の突然の幕引きをどう見るか。1つは、第1次安倍政権に続いて、今回も持病の悪化で退陣することになり、政権投げ出しの繰り返しだと厳しい批判が出ている。

これに対して、別の見方は、第1次政権の辞任は秋の臨時国会が召集された直後、しかも首相の所信表明演説に対する代表質問当日の辞意表明だった。今回は、秋以降の政治日程が幕を開ける前の辞意表明で、第1次政権の時とは明らかに異なるとの見方もある。

安倍首相は記者会見で◇今年6月の定期検診で持病の潰瘍性大腸炎の再発の兆候が見られるとの指摘を受けた。◇先月中頃から体調に異変が生じ、今月上旬に再発が確認された。◇体力が万全でない中では、政治判断を誤る。国民の負託に、自信を持って応えられる状況でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきでないと判断したと説明した。

総理大臣として悩みに悩んだ末の判断であり、重い決断として、国民も受け入れていいのではないかと私は考える。安倍政権は、政権運営の期間では憲政史上最長を記録したが、コロナパンデミックの直撃を受け、有効な対応策を打ち出せなかったことが退陣に大きく影響したとみている。

 危機のリーダー選びの考え方

本論に入って、今回の後継の総理・総裁選びは、コロナ危機の中でのリーダー選びになる。自民党は28日の臨時役員会で、安倍首相の後任を選ぶ総裁選挙のあり方や日程について、二階幹事長に一任することを確認した。そして、来月1日に開く総務会で正式に決定する方向で調整を進めることになった。

危機の時のリーダー選びは難しい。1980年に現職の大平正芳首相が急死した時は衆参同時選挙の最中だったため、官房長官の伊東正義氏が首相臨時代理を務め乗り切った。

2000年、現職の小渕恵三首相が突然の入院後、死去した際には、自民党5役が中心になって後継選びが進められ、後継に森喜朗幹事長の流れが固まった。そして総裁選挙は実施されず、両院議員総会で自民党総裁に選出されたが、森首相は、後に密室で「5人組」に選ばれたとの批判を浴びた。

危機の際には、政治日程は確保しにくいが、党則などのルールに基づいて公正に選ばないと、後に党員や国民の不信を招き、大きな代償を支払うことになる。

 開かれた論争ができる総裁選びを

今回はどうなるか。自民党の総裁選びは「国会議員による投票」と全国の党員などによる「党員投票」の合計で選ぶのが基本だ。国会議員だけでなく、本格的な党員投票を行う仕組みだ。

もう1つが、任期途中で総理大臣が辞任するなど緊急の場合は、両院議員総会で、国会議員と、都道府県連の代表各3人ずつが投票を行って選出する方法がある。

この2つの方法をめぐっては「党員投票」が行われる場合には、ある候補が有利になるといった見方や、逆に「国会議員投票」中心の場合は、多くの派閥の支援が見込まれる別の候補が有利になるといったことが、既に取り沙汰されている。

それだけに、どちらの方式を採用するのか慎重な検討が必要だ。コロナ危機の中で短期間で終えるためには、国会議員中心の方がいいという意見が予想される。

これに対して、今回は安倍首相が後継総裁が決まるまで継続できるので、一定の選挙期間が確保できる。危機の時ほど党員の声を反映させることが重要だとして、期間を短縮するなど工夫をしながら、党員投票を行った方がいいとの意見も出されそうだ。

いずれにしても、開かれた総裁選にするためには、可能な限り党員の声を反映させること。また、各候補がどんな政策・政治をめざすのか活発な議論を行ってもらいたい。まずは、どちらの方式で総裁選びが行われるのか、大きな注目点だ。

このほか、誰が名乗りを挙げるのか。石破元幹事長や岸田政務調査会長が意欲をにじませているほか、菅官房長官を推す声もある。さらには、中堅・若手議員も立候補に意欲を持っており、総裁選びは活発になりそうだ。

今回のポスト安倍の後継総裁選びが、どこまで国民の関心や支持を集めるのか。次の衆院解散・総選挙の時期などにも大きな影響を及ぼすことになる。

最長政権と健康不安説のゆくえ

安倍首相の連続在職期間が8月24日で2799日を迎え、佐藤栄作元首相を抜いて、歴代最長を記録した。

同じ24日、安倍首相は17日に続いて、都内の慶応大学病院を訪れ、追加の健康検診を受けた。政界では、持病が悪化しているのではないかとの健康不安説が一気に広がり、一部には退陣説も取り沙汰される状況だ。

7年8か月に及ぶ長期政権と首相の健康不安説、それに難問のコロナ感染拡大という危機を抱えて、これからの政権・政治はどう動くのか。どこがポイントになるのか探ってみたい。

 “早期の劇的政変なし”の公算

安倍首相は24日午前、慶応大学病院を訪れた後、総理大臣官邸に入る前、記者団のぶら下がり取材に応じた。「きょうは先週の検査結果を詳しく伺い、追加的な検査を行った。健康管理に万全を期して、これから仕事を頑張りたい」。

検査結果の詳細は明らかにしなかったが、これによって、一部で取り沙汰されていたような早期の辞職・退陣などは全く考えていないことを表明。このため、早期の劇的な政変の可能性は低いとみられる。

 今後の政局展開、3つのケース

それでは、安倍政権のゆくえ、どんな展開になるのか。3つのケースを頭に入れておくとわかりやすい。

◆1つは、先に触れた「早期退陣」のケース。但し、この可能性は低いとみる。

◆2つ目は、「来年9月の自民党総裁任期満了まで」のケース。安倍首相はこれまで総裁任期一杯、全力投球する考えを強調してきた。

◆3つ目が、この中間で「今年秋以降、来年前半頃までの退陣」。健康問題の他、内外の政治課題の対応によっては、政権が行き詰まり途中退陣もありうる。

具体的には、◇健康問題で気力・体力が持つかどうか。あるいは◇東京五輪・パラリンピックの来年開催ができないような場合は、その政治責任を取る形で退陣もありうるとの見方も出ている。

 支持率低下 後継選び”カオス状態”

今の安倍政権を見ていると歴代最長政権だが、コロナ感染拡大の直撃を受けて、内閣支持率は34%と第2次政権発足以来、最低水準まで下落。不支持は47%で、不支持が支持を上回る「逆転状態」が4か月連続と危機的な状況に陥っている。(データはNHK世論調査)

自民党の閣僚経験者に聞くと懸念しているのは、安倍首相の自民党総裁任期と、衆議院議員の任期満了が1年余りに迫っているのに、根本問題である「ポスト安倍の後継総裁選び」や「衆院解散・総選挙の時期」が固まらないことだという。

そのポスト安倍の後継選びについては、自民党内では有力候補として、石破元幹事長、岸田政調会長に加えて、菅官房長官の名前も急浮上。さらに安倍首相の出身派閥やその他の派閥からも意欲的な候補者が取り沙汰され、カオス・混沌状態になっている。

これに加えて「安倍首相の健康問題」が重なる。以前は、政権が危機的な場合、派閥の領袖や党役員の実力者が水面下で、事態打開に動いて収拾を図る局面が見られた。今の安倍政権ではそのような調整役は見当たらないのが、逆に大きな問題点だと指摘する声も聞かれる。

 安倍首相 国民に所信表明を

さて、私たち国民はどう考えるか。国民の多くは、政権・政治に期待する最大の問題は、コロナウイルス感染拡大に歯止めをかけるとともに、年末に向けて雇用や事業倒産などへの備えを急いでもらいたいということではないか。また、アメリカ大統領選挙や米中対立の激化など外交面の課題も待ったなしだ。

そうした点を考えると、まずは、政権を担当している安倍首相が当面の諸問題について、早急に所信を表明してはどうか。国民も心配をしている健康問題をはじめ、コロナ対策、今後の政権運営などについての考えを明らかにするところから始めてもらいたいと考える。

「合流新党」をどう見るか?野党第1党の役割

国民民主党が19日、党を解党した上で立憲民主党との合流新党を結成する方針を決めた。これによって、衆参両院で150人前後の「合流新党」が来月結成される見通しだ。

新党の評価は、立ち場によって大きく異なるが、ここでは選ぶ側・有権者側からどう見たらいいのか考えてみたい。

最初に私の基本的な立ち場を説明させてもらうと政治が機能するためには、政権与党とともに「しっかりした野党」が必要だと考える。

また、特にコロナ激変時代は「政権与党と野党側との緊張感のある議論と競い合い」の中から、日本の進路を見いだしていく粘り強い作業が必要だと考える。

 合流新党の意味「100人の壁」突破

その上で、新党合流をどうみるか。新党の規模から見ておくと、国民新党からの合流組と残留組との調整が続いているため、最終的に固まっていないが、合流組が勢いがあり、多数を占める見通しだ。

また、野田元首相や岡田元副総理ら衆議院の無所属議員およそ20人も参加するので、新党の規模は無所属議員を含めて衆参両院で150人前後になると見られている。これは4年前に結成された「民進党」、民主党の流れを汲む政党の規模に匹敵する。

つまり、政権から下野した後、バラバラになった旧民主党勢力を再結集する形になる。また、政権への再挑戦という観点では、衆院選挙に向けて100人台の勢力を結集、「100人の壁」を突破するという意味を持っている。民主党が政権を獲得した2009年衆院選での公示前勢力は115議席。自民党が政権復帰を果たした2018年の勢力も118議席だった。

このため、合流新党の評価としては、巨大与党の自民・公明両党に対して、100人台の野党第1党が誕生、基盤整備にこぎつけたという意味が大きいと言える。

 国民の期待感は乏しいのでは?

一方、合流新党の課題・問題としては、有権者・選ぶ側の期待感が乏しいという点にあるのではないかと見ている。

今回の立憲民主党と国民民主党との合流は、さかのぼると去年秋の臨時国会で両党を中心にした国会内の統一会派結成から進められてきた。ところが、去年暮れ、両党代表のトップ会談を繰り返したが合意に至らず、破談。この夏、再び復縁協議に入り、ようやく分党の形にすることで、なんとか合流にこぎつけた。

国民の側からすれば、新党の理念や政策などに触れる機会はほとんどなく、端的に言えば、「政党レベルの業界内再編」と受け止められているのではないか。

4年前・2016年3月、当時の民主党と維新の党が合流して結成された「民進党」の評価が参考になる。NHK世論調査では、◆「期待する」25%、◆「期待しない」70%。保守層も含むので、高い水準は予想されないが、それでも本来は、支持を得る必要がある無党派層でも「評価しない」は72%、ほぼ同じ比率だった。今回もおそらく、同様の傾向になるのではないかと見ている。

 何を目指す政党か? 新党の旗は

さて、今回の合流新党に関連して、知人から、野党の復活は可能か。国民の支持を得られる新党の必要条件は何かといった質問を受けた。

新党と世論の関係は、古くから共通の流れがあり、最大勢力の無党派層の反応は「魅力ある新党ができれば、支持する」との答えが多い。今も無党派層が多いということは、魅力ある新党ができていないとも言える。

立憲民主党、国民民主党の政党支持率を8月の世論調査で見ると次のようになっている。◆立憲民主党4.2%。◆国民民主党0.7%。最も支持が高かった時の支持率は立憲民主党が10.2%。国民民主党が1.5%。両党とも半分以上、支持率を減らしている。また、◆自民党の35.5%、◆無党派層の43.3%に比べると大幅に低い。(データは、NHK世論調査)

両党とも結党時に比べて、明らかに魅力度は低下している。合流をめぐって、両党は角突き合わせるよりも、魅力度を高めるにはどうするかという発想が必要。また、小異にこだわらず、合意を拡大する対応ができれば道は開けたと思うが、当事者に聞くと、どうしても過去の経緯や怨念などは拭いがたいものがあるという。

結論を急げば、合流新党に必要な条件は「何をめざす新党か」、政党の旗印を打ち出すことではないか。その中には、政党の理念や、政治路線、主要政策、リーダーの魅力なども含む。ところが、今回の合流では、こうした点の議論やアピールは決定的に不足しており、今後の大きな課題・問題として残されている。

 難しい新党の評価、最後は選挙!

ここで話が少し脱線するが、新党の評価、実は「難しい」と感じることが多い。というのは、新党が結成されても長続きしないケースが多かったからだ。新党が政治の表舞台に盛んに登場するようになったのは、1993年に自民党が分裂、自民1党優位時代が崩れ、細川連立政権が誕生した頃からだ。

その後、巨大野党・新進党の結成と解党、民主党への合流から政権交代実現まで新党の結成、離合集散が相次いだ。およそ30の新党が誕生しては消滅した。現役の解説委員時代、”きょうは〇〇党、あすは△△党の解党大会。来週は新党の結成大会”といった日々が続いたことを思い出す。

さらに数年前には、結成時に人気急上昇、直後の選挙は大敗となった新党もあった。解説、講演などでも取り上げたが、振り返ってみると、的確な評価ができていなかったと反省するケースも多かった。

新党の評価は、最終的には、選挙で有権者からどのような評価を受けるか。「選挙で最終的に決まる」。逆に言えば、選挙結果が出るまで、じっくり見極める必要があるというのが結論だ。

 合流新党、選挙の備えと結集力

本論に戻って、野党第1党の合流新党は、どんな役割が問われているのか。これまで見てきたように「何をする新党かの旗印」を明確にすることがある。

それに加えて、野党第1党として「野党全体をとりまとめる力」が問われる。安倍政権は国政選挙で連戦連勝、6連勝中だ。不意打ちのような衆院解散があったのも事実だが、政治の世界、野党側に選挙準備ができていないのも問題とも言える。特に衆議院の小選挙区では、事前に選挙の勝敗予測、選挙結果が予測できるところが多く、野党の選挙準備不足、その責任は大きいと考える。

任期満了まで1年2か月に迫った次の衆議院選挙に、与野党はどのように臨むのか。巨大与党の自民、公明両党の対応は現職議員が多数を占めているので、わかりやすい。

これに対して、野党陣営は見通せないところも多い。例えば、合流新党と、玉木氏らが結成する新党との関係はどうなるのか。

両党の関係が順調なケース。逆に対立が深まり、玉木氏らの新党と維新の会の連携、あるいは、れいわ新選組と組むことも予想される。新勢力の登場で野党陣営が分裂、共倒れ。政治用語で「スポイラー・エフェクト」、いわゆる”票割れ効果”といった事態も起こりうる。

このため、野党第1党は、自らの党の勢力だけでなく、今の選挙制度の下では、野党全体の連携・結集、候補者擁立の調整を行える力があるかどうか。具体的には、立憲民主党の枝野代表の力量、柔軟性、他党を包み込む度量が問われるのではないか。合流新党と他の野党との関係を見極めていく必要がある。

次の衆議院選挙は、コロナ激変時代の最初の国政選挙になる。政権与党と野党側の双方とも、これからの国民生活のあり方や日本社会の将来目標を打ち出して、有権者が選択する選挙にしていくことができるかどうか、大きな責任を負っている。

手詰まり 安倍政権のコロナ対策

お盆休みの期間に入ったが、新型コロナウイルスの感染拡大が収まらない。7日の全国の感染者数は1600人を超え、過去最多を更新している。感染急増の地方では危機感を強め、愛知、岐阜、三重、沖縄の各県などでは独自の緊急事態や警戒宣言を出すなどの対応に追われている。

政府の分科会は7日、感染状況を判断するため、新たに6つの指標を示した。医療のひっ迫状況などの具体的な指標を示すことで、国や都道府県に感染の深刻度を判断する目安にしてもらうのがねらいだ。

そこで、この指標を活用してどのような対策が打ち出されるのかだが、政府は指標に縛られて、再び緊急事態宣言を出すような事態は避けたいのが本音だ。それでは、政府の感染防止対策は順調に進んでいるかといえば、そのようには見えない。

今の安倍政権の対応を見ていると感染拡大を前に”打つ手なし、思考停止、手詰まり状態”に陥っているようにみえる。安倍政権のコロナ対策はどこに問題があり、どんな対策が必要なのか探ってみる。

 安倍政権 実態把握に弱点

安倍政権のコロナ対策をみていると問題点の1つは「実態把握に弱点」があることだ。

具体的な例を挙げると「感染者情報の収集・分析」。全国の感染者数をはじめ、PCR検査の実施件数、陽性者の割合、入退院者、死亡者などの情報を正確に収集・把握できなければ、効果的な対策は打てない。

東京をはじめ全国各地の感染者数が毎日発表されるが、日によって大きな違いがある。これは、なぜか。PCR検査で陽性とされた人の情報は、保健所に集められ、都道府県、厚生労働省へ報告・集計される。このうち、PCR検査の結果判明には数日かかる。加えて、報告はFAXや電話などを使ったアナログ対応だ。報告漏れや重複計上などミスも多い。東京都の場合、これまで123人分を訂正しているという。はっきり言えば、これまでのデータは必ずしも正確ではないということだ。

このため、厚生労働省は感染者の情報を一元的に管理するシステムづくりを始め、ようやく8月に入って運用を開始した。「ハーシス・HER-SYS」という新しいシステムで、厚生労働省と、保健所が設置されている全国155の自治体や医療機関などをインターネットで結び、感染者情報を共有する仕組みだ。

多忙な保健所のデータの入力体制や個人情報の取り扱いなどの問題を抱えているが、ともかく、ようやく基本情報の収集体制は整ったことになる。

国内で最初の感染者が確認されたのが1月16日。政府の対策本部の設置が1月30日、基本情報の収集体制づくりに半年もかかったことになる。政府は骨太方針に「デジタル社会の加速」を打ち出したが、足下では情報の収集態勢すらできていないのが実状だ。コロナ情報の収集・管理システムの整備を急ぐ必要がある。

 PCR検査 目標設定し加速を

次に、各地の知事や市長などの話を聞くと、困っているのが、PCR検査の問題だ。当初、日本は医療従事者や試薬などの準備が十分でなかったこともあり、PCR検査の対象を絞ってきた。しかし、その後、感染者数が急増しているのに、検査の拡充が遅れ、検査能力に比べて実際の検査件数が増えないと批判は強い。

これに対して、厚生労働省は7日、PCR検査能力は1日あたり5万200件まで可能になったと説明。4月時点では1万件、5月2万200件、7月3万1000件だったので、かなり改善されている。9月末までには、最大7万2000件余りを確保できるという見通しだという。

知事や有識者の側は、こうした取り組みは評価しながらも、自粛や休業要請の繰り返しや国民の不安が強く残ったままでは、経済の本格的な回復は見込めないとして、政府は「積極的な感染防止戦略」を明確に打ち出すように求めている。

具体的には、PCR検査は「9月末までに1日10万件」、インフルエンザの流行にも備えるため「11月末までに20万件」の検査能力を確保することなどを求めている。政府は検査能力の整備も進んでいるので、こうした数値目標を採用してはどうか。その際、簡便な抗原検査などを含めて検査体制の拡充計画を示してもらいたい。

 対策の全体像と工程表、説明が必要

政府のコロナ対応をみていると、7月末から感染者が全国で1000人を突破するようになり、地方の側は危機感を募らせ、独自の緊急事態宣言や警戒宣言などを出しているのに対して、政府側の取り組みは極めて鈍い。

菅官房長官や西村担当相も連日、記者会見を行っているが、「感染防止と経済活動の両立をめざす」「Go Toトラベルは予定通り」「緊急事態宣言を再び出す状況にはない」などと規定方針の繰り返しが続く。

国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動の両立を目指す方針は理解するが、それなら、感染防止と経済活動再開に向けて具体的に何をするのか、それぞれ「対策の中身と全体像」を明らかにして欲しいということだ。

また、冬場のインフルエンザの流行期まで残された時間はあまりない。PCR検査の拡充をどのようなペースで進めるのか。医療提供機関の準備や経営悪化にどう対応するのか。中小事業者の事業継続や、休業中の労働者の雇用対策をどのように進めるのか。時期のメドと合わせた「工程表」の形で打ち出すべきではないか。

さらに、安倍政権の対応、国民への説明が極めて不十分だ。安倍首相がまとまった記者会見を行ったのは6月18日、それ以降は行っていない。8月6日、広島原爆の日に現地で記者会見を行ったが、15分という限られた会見だった。

国会は既に6月から夏休み状態、霞が関もお盆休みに入る。野党は臨時国会を早期に召集するよう求めているが、与党側は10月まで応じない構えだ。

国民の側は、お盆の帰省や旅行を取り止めたり、子どもの短い夏休みが終わった後の新学期の準備などにも思いをめぐらせている。

新型コロナウイルスの感染状況や医療・検査現場の態勢も日々変化している。安倍政権はこの夏以降、コロナ危機をどのように乗り切る考えなのか。できるだけ早く国民に向けた記者会見を行い、対策を明らかにする責任があると考える。

“コロナ危機音痴” 秋の解散・総選挙説

若い現役記者時代、「あの政治家は政策通だが、”政局音痴”だ」とか、「博学、無能な人」など失礼な政治談義を同僚と交わしていた時期があった。

当時は”切った張ったの権力抗争”に関心が集中し、内外の情勢や国民生活の動向に思いが至らず、ついつい”鈍感な思考”に陥っていたことに後に気づかされた。

政界では秋の解散説、具体的には9月解散・10月下旬選挙説が盛んに流されている。

新型コロナ感染拡大が続く中で、秋の解散をどう見るか。端的に言えば、感染危機への”音痴”、鈍感な政局観というのが、私個人の率直な見方だ。その理由、背景を以下、ご説明したい。

 秋の早期解散説、消去法の発想

秋の衆院解散・総選挙説は、安倍首相が9月に内閣改造・自民党役員人事を行った後、衆院を解散、10月総選挙を断行するのではないかとの見方だ。

幾つかのねらいがあるが、一番の根拠は、今後の政治日程を考えるとこの時期しかないという「消去法」に基づく。つまり、今の衆議院議員は来年10月に任期満了だが、与党は追い込まれ解散を避けたい。来年に持ち越すと7月に東京都議会議員の任期が満了になり、公明党が嫌がる。だから、今年の秋解散しかない。

別の思惑を指摘する声もある。「自民党総裁選びを有利に運びたい思惑」。関係者によると今の情勢のままだと次の総裁は、安倍首相と麻生総理が最も嫌がる候補者が勝利する可能性がある。それを阻止するためには、早期解散を断行、後継選びの主導権を確保したいとの説も聞こえてくる。

さらに今の野党が相手なら、議席をかなり減らしても与党過半数は維持できるとの判断。政権交代の恐れはまったく眼中にない。

 コロナ戦略、五輪対応が欠落

では、こうした早期の解散説をどう見るか。今は、コロナ感染症の拡大が続く危機の時代、世界も日本もどのように感染拡大を防ぐか。また、コロナ対応に伴う大変革を迫られる時代だ。

秋の解散・総選挙説の一番の問題は、こうした「コロナ危機への対応・戦略」の視点が欠落している点だ。むしろ、冬場のコロナ感染が深刻化する前に解散した方が有利といった「党利党略」、現職議員の「個利個略」が透けて見えるから嘆かわしい。

また、延期された「東京五輪・パラリンピックの開催」への視点もみられない。世界の感染状況が最終的なカギを握るが、それ以前に日本国内の感染を収束させておく必要がある。

そして来年の開催は本当に可能か。IOCなどの調整が、秋以降に本格化する。その時期に1か月程度の政治空白が生じるが、その点の考慮はみられない。

さらに、安倍首相は解散断行の意思を固めたのか、その前提として来年秋の総裁4選、続投の意思を固めたのか、確認したのとの情報は聞かれない。

政界では、早期解散論は根強いが、根本問題である「コロナ危機」と「東京五輪」への対応、ハードルを乗り越えていく戦略・発想がない。

こうした中で、7月29日には全国の1日あたりの新たな感染者数が、初めて1000人を超えた。唯一感染者ゼロが続いていた岩手県でも感染者が確認された。

仮に衆議院が解散された後、感染の第2波、第3波が広がれば選挙を直撃、劇的な結果を招く可能性もある。このため、現実論者の安倍首相は、早期解散に踏み切る確率は低いのではないかと個人的にはみている。

 コロナ大変革時代、構想と政策を

それでは、国民の側は、衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきだと考えているのだろうか。今の衆議院議員の任期は来年10月までなので、向こう1年3か月以内には確実に衆議院選挙が行われる。

NHKの7月の世論調査では、◆年内が19%、◆来年前半が18%、◆来年10月の任期満了かそれに近い時期が50%となっている。

このデータから読み取れることは、早期解散・年内選挙を望む意見は2割にも達していないこと。多くの国民は、来年の任期満了かそれに近い時期に行うべきだと考えていることがわかる。

こうした背景としては、政権与党、野党双方に対して、最大の関心事である新型コロナ感染対策と、国民生活・日本経済をどのように立て直していくのか、政権構想と具体的な政策をとりまとめ、その上で、解散・総選挙を行うべきだと考えていることがうかがえる。

例えば、全国の感染者の情報、具体的には、PCR検査、陽性者の比率、入院状況などの正確な情報を一元的に管理できる仕組みは未だにできあがっていない。厚生労働省が自治体、保健所、病院などを結んでネットで集計するシステムの整備を進めているが、本格的な運用に至っていない。

特別措置法に基づく国と地方自治体の役割と権限の分担、さらに保健所や地域医療の体制整備も遅れている。

また、年末に向けて中小企業や個人事業主などの経営悪化や倒産、失業者の増加、生活保護世帯の大幅増加などが懸念されている。

さらに感染防止と経済活動再開のバランス、今後の日本社会・経済の立て直しに向けた中長期的な構想も示されていない。先に政府がまとめた骨太方針でも新味のある政策はほとんど盛り込まれていない。

こうした現状を考えると、国民にとっては、秋の早期解散は何の意義もない。政権与党、野党とも、ここは腰を落ち着けて、コロナ大激変時代をどのように乗り切っていくのか、それぞれの政権構想、政策の中身を磨き、国民に信を問うことを考えるのが政治の王道だと思う。

万一、早期解散、党利党略の解散・総選挙になった場合は、有権者が主役、「鉄槌」を下せるチャンスととらえ、判断すればいいと考える。

 

 

迷走再び 安倍政権のコロナ対応

来年に延期された東京五輪の開幕まで1年を切った。一方、安倍首相の自民党総裁としての任期や、今の衆院議員の任期満了も来年秋までと近づきつつある。

しかし、東京五輪は本当に開催できるのか。衆院解散・総選挙の時期はどうなるのか。主要な政治日程がまったく見通せない。新型コロナ感染がいつ収束できるのか見通しがつかないからだ。

そのコロナ問題、安倍政権の対応が再び迷走を始めたようにみえる。

◆1つは、感染の再拡大防止に有効な具体策を打ち出せていないのではないか。

◆もう1つは、感染防止と経済活動再開の両立をめざしているが、両者のバランスがとれず、主要な政策や対応にブレが目立つこと。

◆さらに、政権の危機管理の前提となる感染状況の実態把握。そのための情報収集の仕組みづくりにも遅れが目立っている。

こうした状況で、果たして第2波、第3波へ対応できるのだろうか。最近の世論調査では「感染拡大に不安を感じている」と答えた人の割合が9割に達している。そこで、国民生活だけでなく、今後の政局にも大きな影響を及ぼすコロナ感染問題と政権の対応のあり方について考えてみる。

 感染再拡大の兆し 対応策は?

まず、新型コロナの感染状況について、東京を例にみておきたい。6月19日に全国都道府県の移動が解禁になった頃は、1日当たり30人台から60人台に収まっていた。ところが、7月に入ると100人台まで急増したのに続いて、7月9日には200人台、16日以降は200人台後半、23日に366人と初めて300人台へと急上昇した。

一方、全国でも7月下旬には、神奈川、埼玉、愛知、大阪、福岡などの各地で感染者が急増、23日には全国の感染者数が930人と過去最多、1000人に迫る勢いを示した。

これに対して、東京都は、感染者の増加は夜の街関係者を中心にPCR検査を積極的に増やしている影響が大きいと説明してきた。また、政府は、経済への打撃を考慮して、緊急事態宣言を再び出す考えはないと強調してきた。

これに対して、政府や東京都の専門家組織の関係者からは、積極的PCR検査の影響はあるが、若い世代や感染経路の不明者も増えており、市中感染のおそれもあると指摘している。

また、東京都の場合、PCR検査の内訳、夜の街関係者などの実施件数や陽性率など1日ごとの詳しいデータが明らかにされていない。このため、正確なデータに基づいて感染状況が把握されているのかどうか疑問という指摘もなされている。

さらに、東京都が強調するように、夜の街関係者の感染が増えているのであれば、そうした地域や職種などに重点を置いた検査や対策、例えば、休業要請や夜の営業時間短縮などの要請はできないのか。その際、政府と東京都が協議の上、一定の休業補償を行うなどの対策を打ち出す必要があるのではないか。

 安倍政権 主要政策・対応にブレ

2つ目は、安倍政権の主要政策や対応にブレが目立つ。例えば、7月22日から始まった観光支援キャンペーン、Go Toトラベルの対応だ。

当初は、8月初めから実施すると説明してきたが、7月10日になって連休前からの実施に前倒しする方針を打ち出した。ところが、東京などで感染者が急増したため、全国一斉から「東京除外」へ方針転換。さらにキャンセル料も国が負担する方針に変えるなど対応にブレが目立ち、波乱のスタートになった。

このGo Toトラベル、観光産業の大きな影響を考えると支援の必要性は十分、理解できる。但し、問題は税金を使った大型イベントであり、経済効果をあげるためにはタイミングが重要だ。また、感染拡大が収まった後に実施するのが、基本ではないか。

全国知事会などからは、県内観光や近隣地域の観光からスタートし、段階的に全国規模に拡大する案が提案されていた。あるいは、お土産や飲食を支援するクーポン券発行が始まる9月実施案。さらには、予定通り実施する場合は、東京だけでなく埼玉、神奈川、千葉も加えた1都3県を除外する案も出されていた。

1都3県案でなく、東京だけの除外案で決着したのはなぜか。関係者によると「因縁の菅官房長官と小池知事との対立が影響している」との見方を示すが、国の事業であり、”双方の怨念”は横に置いて公平・公正に対応してもらわないと困る。

この問題は「感染拡大防止と、経済活動再開の両立のバランス」をどうとるかがポイントなる。政府の対応は、感染防止の具体策が乏しいので、経済優先の形になる。このバランス・基本方針を修正しないと、政権と世論の距離はさらに広がっていくのではないか。

未知のウイルスとの戦いなので、政府が一旦決めた方針を変更するのは、やむを得ない。重要なのは、政策決定の過程をできるだけ明らかにすること。また、方針を変更する場合、国民に率直に説明し国民に理解を求める姿勢が、特に危機対応の場合に必要だ。安倍首相は、6月の国会閉会時に記者会見を行って以降は1か月余り経つが、記者会見を行っていない。

 危機管理 実態把握能力に弱さ

最後に安倍政権の感染症対策、危機管理の対応をみていると「実態把握に問題」があるのではないかと思う。

具体的な例をあげると、PCR検査を受けた人の名前や、検査結果、陽性になった割合など感染症の情報を把握するシステムが、未だに確立していない点だ。このシステムは厚生労働省が進めている「HER-SYS ハーシス」と呼ばれており、国と自治体、医療機関が感染者などの情報を共有する仕組みだ。

5月末から運用を開始したが、7月22日の時点で、保健所が設置されている全国155自治体のうち、東京と大阪のおよそ30の自治体で利用されていないという。この背景には、東京都と区との関係、個人情報の取り扱いについての考え方の違いが影響しているといわれる。

PCR検査の実施件数や、陽性者数などのとりまとめにあたっては、保健所などから、未だにFAXや電話で報告するケースもあるという。公表される数値が後で、修正されることも起きている。

国内で最初に感染者が確認されたのが1月16日、政府の対策本部が設置されたのが1月30日。既に半年も経っているのに、感染情報がリアルタイムで把握できる仕組みができあがっていない点に驚かされる。

政府が先に決定した今年の「骨太方針」の目玉の政策は、ウイズコロナ時代の「デジタル化への集中投資」。デジタル政府構想などを打ち出している。ところが、足下では喫緊の感染症データの収集・管理が十分できていないのが実態だ。

PCR検査の実際の件数が増えず、安倍首相が「目詰まり」が生じていると嘆いたのも、現場の体制や運用が十分、機能していないためだ。問題点が明らかになっているのに改善が中々、進まない状況が続いている。

 第2波への備え、記者会見で説明を

安倍首相は24日夜、記者団に対し、感染拡大への対応について、再び緊急事態宣言を出す状況にはないとした上で、検査能力を強化することで万全を期す考えを示した。

これに対して、世論調査でみると国民の側は、今後の感染拡大の不安を感じていると受け止めている人が9割にも達している。

国民の側が知りたいのは、感染防止と経済活動再開のバランスをどのようにとっていくのか。国民生活や経済の立て直しに向けて、何を重点に取り組んでいくのかといった点だと思われる。

政府の対応は、端的に言えば”思考停止状態”にもみえる。安倍首相は、早急に記者会見を開いて、政府の考え方を説明する必要があると考える。

揺らぐ政権の看板政策 Go Toトラベル

政府は観光需要を喚起するための「Go Toトラベル」の事業について、全国一律実施から、東京発着を除く方針に転換し、7月22日から実施する見通しだ。

こうした方針をどう見るか。東京は過去最多の感染者数、「東京除外は、仕方がない」との受け止め方。あるいは「感染拡大が収まった後にすべき」との受け止め方に分かれるのではないか。刻々と状況が変わるコロナ感染症の下で、重要な政策を決定しなければならない難しさがある。

私個人の見方は、東京を除外した結果、この事業の「制度設計の複雑さ」が一段と増し、感染拡大防止と需要喚起の両面で、効果が減少するのではないかと心配している。

もう1つは、政策論とは別に、菅官房長官と小池東京都知事との対立が大きく影響したのではないか、舞台裏事情と双方の問題意識に関心がある。

安倍政権の看板政策である「Go Toトラベル」事業、大きく揺らいでいるように見えるが、この事業の問題点と背景、今後のあり方を考えてみたい。

 「東京除外」制度設計が複雑化

今回のGo Toトラベル事業で、東京発着の旅行と東京都民1400万人を除いた意味からみておくと、除外理由は、東京での感染拡大を全国に広げないためということになる。それなりの理由ではある。

その上で、次の問題は、東京に続いて、神奈川県や埼玉県でも感染者が拡大しており、神奈川県では独自のアラート警戒宣言を発する段階にまで至っている。東京に限定せず、隣接県を含めた「首都圏」として対象にした方が適切という考え方も成り立つのではないか。

また、大阪など関西圏も拡大した場合、どうするのかといった問題もある。要は「除外の線引きとその基準」をスタートまでにはっきりさせる必要がある。

次に、東京除外の場合、一番の問題は「制度設計が複雑化」することがある。地方から、東京の羽田空港を利用して、千葉県のデイズニーランドに行くのは対象になるが、途中で東京観光の日程が入っていてはダメなどクイズのようなやりとりが話題になると、制度の先行きは危うい。

また、旅行現場では、事業を見越して予約をしていた利用客のキャンセルが相次いでいるという。こうしたキャンセルについては、政府はキャンセル料の補償はしない方針だ。また、宿泊先では、東京以外の宿泊客であることを確認するため、運転免許証や健康保険証による本人確認も必要になる。

さらに感染拡大を防止するため、高齢者や若者の団体は旅行を控えてもらうよう呼びかける方針だ。制度が複雑になり、制約が多くなる。

 感染防止と経済活動のバランス

この問題、突き詰めると感染防止と、経済活動再開とのバランスをどうとるかの問題になる。感染防止を重視すれば、実施時期を遅らせ、クーポン券が利用できる9月実施にした方がいいという案も聞いた。一方、それでは、観光事業関係者は経営や生活が成り立たないとの反論も出てくる。

こうした難しさを抱えているが、個人的には、今回のコロナ感染症の特性を考えると「感染防止により比重」を置いて考えざるをえないのではないか。1兆3500億円の巨額な税金を使う事業は、タイミングを慎重に考える必要がある。観光事業者などの救済策は別の方法で対策を実施するのが妥当ではないかと考える。

そこで、今回の政府案、国民の理解と支持が得られるかどうか。コロナ感染が収まらない中での政策の決定は、想定外のことが起こりうる。方針変更、軌道修正はやむを得ない。その場合、問題点などを率直で、正直に説明することが重要だ。今回の政府案は、どうも小手先の対応、説明も十分とは言えないのではないか。

コロナ対策では、世帯向け現金30万円給付案が制度が複雑でわかりにくく、1人10万円給付案に転換した例もある。制度設計の中身をもう一度、総点検し、改善すべき点は思い切って大幅に改善した方が、混乱が小さく抑えられると考える。

 菅 小池両氏の対立と論点

最後に、もう1つの関心事項。菅官房長官と、東京都の小池知事との関係。菅官房長官は今月13日、訪問先の北海道で、東京でコロナ感染者が急増している問題をとらえて「この問題は、圧倒的に『東京問題』」と鋭く指摘。

小池知事は直ちに反応、「政府はGo Toキャンペーンとの整合性をどうとっていくのか『むしろ国の問題だ』」と反撃、消費喚起策と感染防止策との整合性をどのようにとるのか国が示すべきだとの認識を示した。

この両氏の関係は、4年前の東京都知事選の候補者選びや、東京の税収問題などで対立が続いてきた。今回の問題でも、両氏の対立が影響したとみるのが自然だろう。

問題は、政府と東京都とが対立しているばかりでは、問題の解決・前進につながらない。両者の対立点を覆い隠して繕うより、問題点・論点をはっきりさせて調整した方が生産的だ。

具体的には、東京の感染症対策で、兼ねてから感染者数、PCR検査数、ベッドの確保数など検査・医療情報が正確・迅速に把握されていないのではないかとの指摘が出されていた。また、夜の街の対策については、地域を限定して具体策に踏み込むべきではないかなどの考え方も出されている。

おそらく菅官房長官は、こうした点を踏まえて、東京都は有効な対策を打ち出していないと言いたかったのではないかと推察する。対する小池知事は、それなら知事が休業要請した場合の休業補償など財政的な支援を検討してもらいたいと言いたいのではないか。

これからのコロナ対策、法律の不備な点など論点は多数あるが、まずは、現実の問題、国と地方自治体がお互いの主張をぶつけ合い、調整していくことが最も必要だ。今回のGo Toキャンペーンの制度設計、コロナ対策をめぐる国と地方自治体の権限と財源のあり方について、両氏が激しくやり合った上で、一定の合意点を明らかにしてもらいたい。

 感染防止、経済の体系的な説明を

安倍政権のこのところの対応をみると、緊急事態宣言解除後、感染拡大と、Go Toトラベルを含む経済活動再開の基本方針をどうするのか、問題点の整理と方針が明らかになっていないと感じる。

安倍首相の記者会見も、通常国会閉会時以降、1か月になるが、行われていない。ここは、安倍首相が記者会見を開いて、感染拡大防止と経済活動再開について、総合的体系的な政権の考え方を明らかにすることを要望したい。

 

 

安倍首相の任命・説明責任! 河井前法相夫妻 買収事件 

去年夏の参議院選挙をめぐり、河井克行前法相と妻の案里参議院議員が選挙違反の買収の罪で、8日起訴された。河井夫妻は、地元議員などおよそ100人に票の取りまとめを依頼し、現金およそ2900万円余りを配ったと検察当局はみている。

法務大臣経験者が、大規模な買収事件で逮捕・起訴されるのは前代未聞。国会議員の夫婦がそろって逮捕・起訴されるのも初めてだ。さらには、これほど大量の現金が、100人もの地元有力者などにばらまかれていたことにも驚かされる。

河井夫妻が関係する政党支部には、自民党本部から破格の1億5000万円もの資金が提供されていた。この資金提供の方針を誰が決定したのか、買収の資金はどこから調達されたのかなどは、はっきりしていない。

一方、この事件は、新型コロナ対策で迷走が続いている安倍政権を直撃、国民の政治不信を招き、内閣支持率急落の要因の1つにもなっている。

今回の事件の意味や背景、それに政治のあり方を考えてみたい。次の衆議院選挙は1年3か月以内には行われる。

 買収 ”最も悪質な選挙犯罪”

選挙の買収は、選挙違反の中でも最も悪質な選挙犯罪だ。物品の提供で、本来、自由で公正であるべき選挙、民主主義の基本ルールを歪め、侵害するからだ。

また、自民党には党則に基づいて「自民党規律規約」が規定されている。「党員が汚職、選挙違反事犯により起訴されたときは、党員資格の停止の処分」を行う。そして、禁固以上の有罪判決が確定したときは、除名処分を行うと規定されている。

河井夫婦は、逮捕直前に離党したので、対象から外れたが、党員のままであれば、最も重い「除名」の重い処分の可能性があったことになる。

 政治改革に逆行、政治劣化現象

次に今回の事件の意味はどうか。昭和、平成を通じて、政治とカネの問題、政治改革を積み重ねてきたが、今回の事件は、こうした政治改革に逆行、台無しにしたと言える。

私ごとで恐縮だが、昭和のロッキード事件、リクルート事件、平成の金丸副総裁事件などを政治の側から40年余り取材を続けてきた。不十分との批判もあるが、政治腐敗の根絶をめざして、選挙制度の改革、政党助成金の導入などの改革を積み重ねてきたのも事実だ。これらの改革では、主に政治家や政党へのカネの入り口の改善をめざしてきた。

というのは、選挙の買収などは、明るい選挙などの国民運動で改善が浸透してきたこともあったからだ。

ところが、今回の事件は一昔前にタイムスリップした観がある。参議院選挙の選挙違反事件の推移をみてみると◆昭和25年・1950年と、昭和37年・1962年は、1万2000件台もあったが、◆昭和49年・74年は5200件、その後は急減し、最近は100件台までに減っている。

つまり、選挙買収は、”一昔前の古典的違反”とみられていたのが、今回、醜悪な姿をよみがえらせたとの印象を受ける。このところの”政治劣化現象”とも言えるのではないか。

 政権与党との関係・責任問題

さて、今回の事件をみていると政権与党の責任は、極めて大きいと考える。まず、政治資金の提供の問題。自民党本部から、河井前法相と案里議員の支部宛てに、参議院選挙前に1億5000万円が振り込まれている。別の候補者の10倍にあたる破格の資金提供が行われていた。

買収資金の原資の詳しい内訳は明らかではないが、党本部からの資金の一部が買収資金に回った可能性もある。また、この資金提供は、誰の判断で決定したのか執行部の1人に聞いてみてもわからないと話している。

現職と新人の保守分裂になった選挙で、案里氏の陣営は、自民党本部とのパイプの太さを強調し、選挙期間中、安倍首相や菅官房長官、二階幹事長らが応援にかけつけた。また、安倍首相の事務所の秘書も応援にたびたびかけつけ、地元議員や有力企業回りをしていた。このように、政権与党の関係と責任は大きい。

 安倍首相、政権与党の説明責任

河井克行前法相自身については、2012年に安倍首相が総裁選挙に再挑戦した際に推薦人になったのをはじめ、当選同期の菅官房長官を支える無派閥議員のグループを立ち上げたことでも知られる。自民党内では、こうした安倍首相や菅官房長官との深い関係が、去年秋の内閣改造での初入閣につながったとの見方が強い。

このようにみてくると、政権与党として、河井前法相夫妻への破格の資金提供を誰がどのような目的で決定したのか。また、この資金が選挙買収に回されたことはないのかどうかなど事実関係を明確にする必要がある。

また、河井氏を法相に起用したことの任命責任をどう考えるかなどについても国民に説明することが求められている。

安倍首相は8日夜、「かつて法相に任命した者として責任を痛感する。国民におわび申し上げる」と記者団にのべた。また、党が提供した1億5000万円について「裁判が予定される個別事件についてコメントは差し控えたい」とのべた。

国民の側が、こうした説明に納得するかどうか。報道各社の世論調査では、河井前法相夫妻は「議員辞職すべき」という意見が8割に達している。選挙買収、政治とカネの問題について、最低限、事実関係について明確な説明ができないと政権与党に対する信頼感は取り戻すのは難しいのではないか。

新型コロナ対策や今後の政権運営、さらには来年秋までには確実に行われる衆院解散・総選挙に向けても、大規模買収事件は政権にとって、大きな重荷になりそうだ。

 

小池知事”圧勝と重責” 東京都知事選

東京都知事選挙は、小池百合子知事が366万票を獲得して圧勝した。今回の知事選挙の勝敗のゆくえは、当初から小池氏優勢との見方が強かったが、新型コロナ感染を抱える中での大型選挙であることや、衆院解散・総選挙など今後の政局にどんな影響を及ぼすのかといった点なども注目された。

そこで、今回の選挙結果について、多角的に分析してみたい。最初に結論を明らかにしておくと、次のような点が指摘できる。

◆第1は、小池知事の勝因は「圧倒的な知名度」と「危機対応にあたる現職の強み」の発揮、それに主要政党が有力候補者を擁立できなかったことが大きい。

◆第2は、東京都民は選挙結果をどうみるか。小池知事に対しては、派手なパフォーマンスではなく、「問題解決能力」を強く求めることになるのではないか。具体的には、コロナ感染防止に効果のある対策を打ち出せるのかどうか、厳しくチェックしていく姿勢が強まるのではないか。

◆第3は、政局への影響。政権与党内では、危機の際には現職に有利に働くとして、早期解散を断行すべきとの「我田引水」の力学が強まることが予想される。一方、都政と国政とは異なるとの「スジ論」もあり、双方の綱引きが激しくなるのではないか。

◆第4は、「コロナ時代の選挙のあり方と改善策」の検討を進める必要がある。具体的には、”リモート選挙”は不可避だが、「選挙前の日常の政治情報の充実」を図る必要がある。

以上が私の個人的な見解だが、その理由・背景などを明らかにしていきたい。

 メデイア露出、危機の現職の強み

今回の首都決戦では、当初から現職の小池知事優勢との見方が出され、問題は「勝ち方」に注目が集まった。結果は、366万票余りで、得票率は59.7%。

前回・2016年の得票数は291万票、得票率は44.5%、いずれも上回った。歴代知事の最多得票数は、猪瀬直樹知事の433万票(2012年12月、投票率62.60%)。次いで、美濃部亮吉知事361万票(1971年4月、投票率72.36%)。石原慎太郎知事308万票(2003年4月、投票率44.94%)。小池氏は歴代2位、圧勝といっていい。

この勝因だが、元々、現職の2期目は知名度もあり強いと言われる。今回は特に3月は東京オリンピック・パラリンピックの開催延期問題で、安倍首相と連携しながら調整に参画し注目を集めた。

また、コロナ感染の拡大では、国に先駆けて休業要請や独自の協力金支給を打ち上げ、「危機対応にあたる知事の存在感」を強くアピールした。

さらに選挙期間中も公務の記者会見に臨むなどメデイアの露出度は、他の候補者を圧倒した。

このほか、都議会で対立している自民党東京都連は対立候補を擁立できず、自主投票になった。野党第1党の立憲民主党も独自の対立候補や、野党統一候補も擁立できず、有力候補不在も小池知事圧勝の要因になった。

 野党第1党、辛くも主導権維持

その野党陣営だが、2位争いは◆立憲、共産、社民各党が支援する宇都宮健児氏が84万票(得票率13.8%)。◆れいわ新選組代表の山本太郎氏65万(10.7%)。◆日本維新の会推薦の小野泰輔氏61万票(10.0%)の順番となった。

野党第1党の立憲民主党が、辛くも野党内の調整の主導権を維持する形になった。但し、立憲民主党の支持層の投票行動は、報道各社の出口調査でみると、宇都宮氏に4割、小池氏に3割、山本氏に1割と支持が分散した。

一方、次の衆院解散・総選挙に向けての取り組みについても、野党の候補者の1本化が進むかどうか、野党結集の見通しはついていないのが実状だ。

 小池知事 問われる問題解決能力

さて、圧勝した小池知事だが、都民からの期待と同時に大きな責任を担うことになった。小池知事に対しては、端的に言えば「問題解決能力」を求める声が強まることが予想される。

具体的には、新型コロナウイルスの感染拡大を本当に抑制できるかどうか。これまでは、国に先駆けての休業要請や、協力金の支払いなどで存在感を発揮できた。但し、東京都の財政調整基金という9000億円以上もあった貯金も残り800億円程度まで激減した。今後、都の税収の落ち込みも避けられない。

こうした中で、選挙戦の最終盤には、東京都の新たな感染者数が1日当たり100人を超える状態が続き、第2波への備えは大丈夫なのかという声もあがっている。PCR検査を積極的に実施する方針転換で、感染者が増えたとの説明も聞くが、詳しい実施件数や分析の説明がない。

また、「東京アラート」に代わって打ち出された「新たな指標」はどのように運用され、都民への注意喚起や、対策はどうなるのかはっきりしない。

こうしたコロナ対策をはじめ、東京オリンピックの追加負担の問題、さらには東京都の経済活動の再開への取り組み、失業や暮らしの支援策など「さまざまな問題の解決能力」が問われることになる。また、現状と解決までの道筋などについての「説明責任」を果たせるかも問われることになる。

 早期解散論めぐる綱引き激化へ

政局への影響については、直接的な影響は小さいのではないかと見ている。というのは、自民党も、野党第1党の立憲民主党も都知事選では、存在感が乏しかったからだ。

一方、政権与党内では「我田引水」、衆院の早期解散を求める勢力からは、「危機の際に現職都知事が優勢だったように、衆院でも現職が優位に立てる」として早期解散の流れを作ろうとする動きが強まることが予想される。

これに対して、与党内でも「慎重論・スジ論」も聞かれる。例えば、小池知事は今度の選挙で無党派層の5割の支持を得た。これに対して、世論調査だが、安倍内閣を支持する人は、無党派層では2割程度に止まり、6割は支持しないと正反対の傾向を示している。

当面、衆院の解散時期をめぐって、双方の綱引きが激化しそうだ。但し、知事と首相、都知事選と衆院選も異なる。衆院解散・総選挙は国の舵取り、国民に何の判断を求めるのか、党利党略ではなく「大義名分のある解散・総選挙」にしてもらいたい。

 リモート選挙のあり方に工夫を

今回の都知事選は、新型コロナ時代の初めての大型選挙だった。4月からの緊急事態宣言が出された期間、全国の市長や区長の選挙では、過去最低の投票率が相次いだ。このため、都知事選の投票率も心配されたが、結果は「55%」。前回4年前より4.7ポイント下回ったが、過去最低の43%といった事態は免れた。

一方、今回の選挙は、「3密」を避けるため、規模の大きな集会や街頭演説などは少なく、「リモート選挙」が目立った。当面、こうした選挙運動・選挙戦は避けられないが、一方で、候補者の生の姿や訴え、候補者同士の討論などは行ってもらいたいとの声も根強い。

このため、「リモート選挙のあり方」を具体的に検討していく必要がある。「リモートでの候補者・党首の討論会」なども工夫する必要がある。一方、リモート方式では、情報が届きにくい高齢者などへの情報提供の仕方も考える必要がある。

さらに選挙期間中だけでなく、その前、「日常の段階から、国会やメデイアなどでの議論の充実」が重要だ。与野党双方が党利党略を離れて、取り組む必要がある。次の衆院選などに間に合うよう取り組みを進めてもらいたい。

東京都知事選挙に続く大型の選挙は、来年10月に任期満了となる衆院選挙になる。コロナ激変時代の日本の進路を選択できる選挙にできるかどうか。党利党略ではなく、国民に正々堂々訴える選挙、そのためには、与野党の責任と対応が極めて大きいと考える。

年内解散説は本物か? 高いハードル

通常国会が閉会した後、政府・自民党内では、新型コロナウイルスの感染拡大で自粛していた夜の会合が再開され、内閣改造や自民党役員人事、衆議院の解散時期などをめぐる発言や動きが活発になっている。

気になるのは、このところ「年内解散がありうるのではないか」との発言や容認論が相次いでいること。「年内解散説は本物なのかどうか」、内閣支持率など世論調査のデータなども使いながら分析してみたい。また、これからの政治の動き、何がポイントになるのか探って見たい。

 早期解散説、麻生氏が震源地か

衆議院の解散・総選挙をめぐっては、6月20日、自民党の森山国対委員長が「今年はひょっとしたら衆院選挙があるかもしれない。しっかり備えていかなければならない」と発言し、波紋が広がった。

また、世耕参議院自民党幹事長も「解散は、総理大臣が適切なタイミングで判断することだ。ただ、衆議院議員の任期満了は1年数か月後に迫っており、いつあってもおかしくない」とのべている。

こうした早期解散説について、自民党の関係者に聞くと「麻生副総理が安倍首相に進言しているのではないか」と指摘する。麻生氏は自らの経験を踏まえて、総裁任期をある程度残す中で、解散を断行した方が政権の求心力を高める。

また、”ポスト安倍が混沌状態”になるのは好ましくないので、解散を早期に断行し、安倍首相が総裁を続けた方がいいとの考え方を進言しているのではないかとの見方をしている。

 安倍首相 最終判断決め手は?

安倍首相に近い議員によると、麻生氏の早期解散論に対して、安倍首相は「言質を与えていない」という。安倍首相は18日の記者会見では、「頭の片隅にもないが、さまざまな課題に真正面から取り組んでいく中で、国民に信を問うべき時がくれば、躊躇なく解散を断行する考えに変わりはない」とのべている。

前回、2017年安倍首相が解散・総選挙に踏み切った時は、「党の独自調査で現状維持が可能との報告を確認して決断した」と関係者は解説していた。最終的には、安倍首相が選挙情勢をどのように読むか。”理念の人”というよりも”リアリスト”で、選挙で勝てるかどうかが、解散に踏み切るか否かの決め手になるのではないかとみている。

 世論の風向きは、”最悪水準”

そこで、選挙のゆくえを大きく左右する「世論の風向き」はどうか。22日にまとまったNHK世論調査でみてみたい。(データはNHK NEWS WEB参照)

まず、安倍内閣の支持率6月は「支持する」が36%。「支持しない」が49%。不支持が支持を上回る「逆転状態」が2か月続いている。

安倍内閣の支持率が最低だったのは2017年7月の35%、その時の不支持は48%で最多。今回は、支持率で1ポイント上回るが、不支持も1ポイント高く過去最多。つまり、2017年とほぼ同じ水準、第2次安倍内閣発足以来、”最悪の水準”にあるとみていい。

2017年は、森友学園、加計学園問題が表面化した年で、国会閉会直後の東京都議選で自民党は大惨敗したことをご記憶の方も多いと思う。今回は、去年の秋以降、新入閣の2閣僚の辞任をはじめ、桜を見る会問題、さらに新型コロナウイルス感染拡大の直撃を受けたことが大きい。緊急事態宣言の発令や解除のタイミング、給付金や事業資金給付の遅れや政策変更などで、世論の厳しい批判を浴びたことが大きい。

また、内容面でも安倍政権にとって厳しい材料が多い。◆自民支持層のうち、安倍内閣を支持すると答えた割合は69%で、7割を割り込む。◆与党支持層でも66%、両方とも第2次政権以降の最低に落ち込んでいる。◆女性の支持は3割に対し、不支持が5割近い。◆最も多い無党派層では、支持が19%に対し不支持が62%に上っている。

つまり、従来の与党支持層に加えて、女性、18歳から30代までの若者層、無党派層でいずれも支持離れが進行中。短期間で、支持率回復は極めて難しい情勢だ。選挙では支持・不支持逆転状態が解消されないと議席を大幅に減らす可能性が大きい。

 2017年との違い

ところで、2017年は7月、8月に支持率が下落したが、9月に急上昇。10月に衆院解散・総選挙に踏み切り大勝した。今回も同じことが起きうるのではないかとの質問があるかもしれない。

2017年は、それまでの間、内閣支持率は50%台後半が長く続いたこと。また、北朝鮮のミサイル発射問題で、トランプ大統領と電話会談を頻繁に行うなど外交力を強くアピールできたことが支持率回復につながった。

これに対して、今回は去年8月以来、内閣支持率は一貫して下落傾向が続いており、復元力が弱くなっている。このため、野党側の足並みに大きな乱れなどがない限り、安倍首相は早期解散は選択しないのではないかと個人的にみている。

 年内解散、高いハードル

別の視点で、年内解散の可能性を考える場合、自民党にとっては、連立与党の公明党との選挙協力が重要な条件になる。安倍政権が国政選挙6連勝を飾ることができたのも、自民支持層に加え、公明支持層が上乗せできたことが、野党と競り勝つ上で大きい。

その公明党は、今回、早期解散には慎重な立ち場をとっている。公明党の山口代表は24日、安倍首相と会談し「今はコロナウイルスへの対応が大切だ」と伝え、早期解散に慎重な立ち場を伝えている。この点も2017年と異なる点だ。

さらに、自民党の年内解散のねらいは、新型コロナ第2波の襲来前に選挙をした方が有利との計算なので、事実上10月、11月頃の秋口解散だ。日本経済は、4月-6月のGDP速報が8月中旬に公表されるが、記録的な落ち込みが予想される。その水準から、短期間に急激なV字回復は予想しにくい。このため、早期解散に有利な追い風が吹くとは考えにくく、年内解散のハードルは極めて高いとみている。

 これからの政局のポイント

それでは、これからの政局は何がポイントになるか。◆第1は、新型コロナの収束。◆第2が社会・経済活動の回復。◆第3が国家的事業の東京オリンピック・パラリンピックが開催できるかどうか。◆第4が9月にも予想される内閣改造・自民党役員人事で、ポスト安倍などの絞り込み行われるか。

一方、衆議院議員の任期満了は来年10月21日。それまでの1年4か月の間に、衆院解散・総選挙をどこにセットするか。◆今年秋の臨時国会での解散、◆来年1月通常国会冒頭解散、◆来年秋の任期満了かそれに近い時期の選挙に絞られる。

安倍首相は自民党総裁4選を目指さないと繰り返しているが、側近ほど本音だとみている。そうであれば、総裁選で新しいリーダーを選んだ後、衆院解散・総選挙の道へと進む公算が大きいのではないか。任期満了選挙は与党は避けたいが、物理的な時間が限られている。

但し、オリンピックが開催されない場合は、安倍首相は任期満了を待たずに退陣という別の選択肢も出てくる可能性はあるのではないか。

最後に国民の側から今後の政治の動きをみると、一番の関心は「コロナ時代の激変時代の政治」。具体的には、次のリーダーや政党はどんな社会をめざし、何を最重点に取り組もうとしているのか。自民党の総裁選びや、次の衆院選では、激変時代を乗り切るリーダーの資質を備えているか、政権構想の中身に説得力があるかどうか、これまで以上に問われることになるのではないか。

首都決戦の注目点、小池知事の勝ち方は?

東京都知事選挙が18日告示され、7月5日の投票日に向けて選挙戦に入った。今回の都知事選挙、有権者の関心・反応はどうだろうか。「勝敗がわかっているから、余り関心はない」という声が返ってきそうだが、その勝敗はともかく、注目すべき点はいくつもあるというのが私の見立てだ。そこで、首都決戦の注目点として、4点を取り上げてみたい。

① 小池知事の勝ち方は?

注目点の第1は、やはり「選挙の勝敗」だ。選挙戦は◆再選をめざす現職の小池百合子知事が政党の推薦を受けずに立候補。

これに対して、◆元日弁連会長の宇都宮健児氏、◆前熊本県副知事の小野泰輔氏、◆れいわ新選組の代表、山本太郎氏。◆NHKから国民を守る党の党首、立花孝志氏、◆無所属、諸派の候補者を合わせて、過去最多の22人が立候補、選挙戦がスタートした。

政党との関係を整理しておくと◆自民党は、都連が小池氏に対して、独自候補の擁立を目指したが、断念。事実上の自主投票になったが、二階幹事長は小池氏を支援したいという考えを表明。公明党は推薦・支持はしないが、小池氏を実質的に支援する方針だ。

一方、野党陣営は、野党第1党の立憲民主党が野党統一候補の擁立をめざしたが、不調に終わった。最終的には◆立憲、共産、社民の各党が宇都宮氏を支援、◆日本維新の会が小野氏を推薦、◆れいわ新選組は山本氏と3陣営に分かれ、競合する構図になっている。

このように与党第1党、野党第1党ともに独自候補の擁立ができなかったことと、圧倒的な高い知名度などから、選挙情勢は、現職の小池氏優勢とみている。

但し、問題は「勝ち方」。小池氏は前回291万票を獲得、次点の自民推薦候補に111万票の大差をつけて圧勝した。今回も独走・圧勝となるのか。それとも意外に他の候補が善戦、批判票が大量に出ることになるのかを注目している。

また、野党系候補の中では、誰がトップになるのかの順位争いもある。このうち、宇都宮氏と山本太郎氏は、共に”弱者”重視の政策を掲げており、共通する支持層の”票の食い合い”に終わるのか。それとも多数の無党派層の支持を掘り起こし、小池氏を脅かすことになるのかどうか。野党系候補の順位は、野党各党間の主導権や、次の衆院選で野党共闘が可能なのかどうかを占う材料になる。

さらに今回は、都議会議員の補欠選挙が4選挙区で行われる。小池知事が立ち上げた都民ファーストの会や与野党の勝敗がどうなるかも注目される。

 ②選挙の争点、コロナ、五輪か

第2の注目点は「選挙の争点」。現職知事が再選をめざす選挙なので、まず、「実績評価」が争点になる。

▲小池知事は築地市場の移転延期を主張、安全性が問題になったが、結局、豊洲移転で決着した。また、選挙公約「7つのゼロ」の評価。待機児童ゼロ、満員電車ゼロなどは、いずれも達成できていないと他の候補は批判しているが、どんな論戦になるか。

▲最も大きな関心は「新型コロナ対策の総括と今後の取り組み方」だ。小池都政が国に先んじる形で独自の協力金支給を打ち出したことなどを高く評価する声を聞く。

一方で、オリンピック開催に気をとられ、コロナ対応が遅れたのではないか。生活困窮者の支援をはじめ、PCR検査の拡充、医療現場の支援など東京都政は大きな力を持ちながら発揮できていないとの批判も強い。

さらに、新型コロナ収束後、首都東京の将来像や、重点政策として何を打ち出すのか。各候補の基本構想と具体的な政策を聞きたいところだ。

▲来年夏に延期された「東京五輪・パラリンピック」をどうするか。コロナ感染が世界的にどのような状況になっているか。また、開催する場合、3000億円ともみられる追加経費の負担問題もある。候補者の中には、大会は中止してコロナ対策に当てた方がよいとの考え方もある。大会開催の意義や賛否、負担問題についても議論を深めてもらいたい。

 ③有権者の関心度、投票率のゆくえ

第3の注目点は「有権者の関心の度合いと投票率のゆくえ」だ。新型コロナ感染拡大を受けて、これまで全国各地の選挙戦では”3密”を避けるため、街頭演説や大規模な集会、握手戦術などを取り止めるなど選挙運動は大きく様変わりしている。今回の都知事選はどうなるか。

小池知事はコロナ対応のため、街頭演説などは行わずに”オンライン選挙のモデル”づくりに挑戦したいと意欲を示している。一方、SNS選挙で先頭を走る山本太郎氏は”デイスタンスなどに気を配りながら、ライブな街頭演説などをやっていく”と強調している。コロナ時代の選挙運動はどのような形になるかも注目している。

一番の問題は、有権者の関心度と投票率がどうなるか。去年は、春の統一地方選の投票率が過去最低を更新、夏の参院選も50%を下回り過去2番目の低投票率。今年に入って緊急事態宣言の期間に行われた全国の市区長選挙では、過去最低の投票率となった選挙が相次いだ。

都知事選の過去7回の投票率をみると、最も高かったのは◆2012年、石原慎太郎知事後継の猪瀬直樹氏が当選した時、62.60%。最も低かったのは◆2003年、石原慎太郎知事の2期目の選挙、44.94%。◆小池知事当選の前回は59.73%、比較的高かった。

今回はどうか。盛り上がりに欠ける気もするが、他方でコロナ後初の大型選挙、危機感が投票アップにつながるかもしれない。過去の最低ラインより多少上がって50%前後とみるが、どうだろうか?

 ④政局への影響、全国の先行指標

第4は「政局への影響」だ。「東京は全国の先行指標」。特に東京の有権者の投票行動が、全国の都市部の先行指標になる。

また、都知事選挙と同時に行われる都議会議員の補欠選挙もある。報道各社は、世論調査や出口調査を行う。安倍政権の評価をはじめ、与野党の支持率、コロナ対策や東京五輪・パラリンピック開催の反応もわかる。次の衆議院選挙を予測する上で貴重なデータが得られる。

さらに、政界の一部には、小池知事の選挙後の政治行動について、東京五輪後、次の衆院選で国政復帰をめざすのではないかとの見方もある。前回、衆院選で立ち上げた「希望の党」敗北のリベンジ、そして初の女性総理の座をめざすのではないかとの見方だ。小池氏は否定しているが、どうなるか。

今回の首都決戦は、与党第1党の自民党、野党第1党の立憲民主党も独自の候補者を擁立できず、政党の存在感が薄らいでいる。代わって、小池知事や山本太郎氏など個性の強い候補者が前面に登場している。

また、コロナ激変時代の最初の大型選挙だ。有権者は、感染症を抑制しながら日本社会・経済の再生に向けて、どんな政策、リーダーを重視して選択するのか。一方、政党の側は、実質的には選挙にどこまで関わるのか、それとも最後まで存在感を発揮できない形で終わるのか。

衆議院議員の任期も来年10月の任期満了まで1年4か月。今回の首都決戦は、次の衆議院選挙のゆくえを探る上でも、大きな意味を持つ選挙になる。

 

 

失速 安倍政権 国会最終盤

通常国会は、会期末まで残りわずか。6月12日には、新型コロナウイルス対策を盛り込んだ第2次補正予算が、参議院本会議で成立した。一般会計の総額で31兆円、過去最大の巨額補正予算だ。収入が大幅に減った事業主に対する家賃支援や休業中の手当の上限引き上げなどの緊急対策がようやく実施されることになる。

一方、報道各社の世論調査では、安倍内閣の支持率が急落している。国会最終盤での支持率急落の理由・背景をどう見るか。安倍政権の対応、何が問われているのか、分析・展望してみたい。

 支持率急落、”森友・加計”水準

さっそく安倍内閣の支持率から見ていきたい。最近の報道各社の世論調査を整理すると次のようになっている。社名、調査実施日、()は前回調査との比較。

  • NHK 5/15~17 支持37%(- 2)<不支持45%( + 7)
  • 毎日 5/23   支持27%(-13)<不支持64%(+19)
  • 朝日 5/23・24   支持29%(- 4)<不支持52%(+  5)
  • 読売 6/5~7  支持40%(- 2)<不支持50% (+  2)
  • 日経 6/5~7  支持38%(-11)<不支持51%(+  9)

内閣支持率は、最も低いデータで27%、高いところで40%などの違いがあるが、支持を不支持が上回る”逆転状態”である点では、共通している。

また、多くの調査結果は、”2018年の3月から7月時並みの水準”という点でも共通している。森友・加計問題が国会の大きな焦点になった時期にあたる。2012年末に発足した第2次安倍政権は、比較的高い支持率を維持してきたが、およそ2年ぶりの低い水準にまで支持が落ち込んでいる。

 支持離れ、与党、男性、若年層

それでは、具体的にどんな人たちの支持が離れているのか。安倍内閣の支持構造を分析してみる。データは、NHKの世論調査。

安倍内閣の支持率を牽引してきたのは「与党の支持層」、「男性」、「若年層」の高さだったが、こうした層で「支持する」と答えている割合が、いずれも第2次政権発足以来の低い水準に陥っているのが大きな特徴だ。

◆「自民党の支持層」で「安倍内閣を支持する」と答えてきた人は、これまで85%から78%と高い水準にあったが、5月は71%まで減少。公明党なども含めた「与党支持層」でも69%と過去最低の水準だ。

◆「男性」の支持も40%で最低。◆「18歳~20代の若い層」の支持率も5割近い高い水準だったのが、41%まで低下している。

安倍内閣の支持率は、最も多い「無党派層」で不支持の割合が高く、今回も6割に達している。「女性」も不支持が44%と多く、この点も変わっていない。これに加えて、従来の支持基盤である「与党支持層」「男性」「若い層」の支持離れが重なっており、状況は深刻だ。

支持離れをどう見るか

こうした支持率低下の理由は何か。世論調査では、◆新型コロナ感染に対する政府の対応について、「評価しない」が53%、「評価する」44%を上回っている。◆黒川前検事長の定年延長に関連して、検察庁法改正については「反対」が62%に達し、「賛成」の17%を大幅に上回っている。

つまり、10万円の現金給付の遅れ、中小企業に最大200万円を配る持続化給付金が遅れていることの不満。それに安倍政権の検察人事問題が影響しているものと見られる。

それでは、現金給付などが行き渡れば、世論の支持が再び戻るのか。政権の関係者の中には、国会が閉会になれば、国民は政権の問題などは忘れて、支持率も回復するとの見方もあるが、今回はそのようにはならないのではないか。

というのは、国民はコロナ問題を一過性の問題と見ておらず、長期化すると見ていること。

また、経済情勢については、これまでの景気拡大から景気後退へと変わり、失業、倒産が増えるのではないかと警戒。国民の安倍政権に対する見方は、より厳しくなる。短期間で回復することは難しいとの見方をしている。

 実態把握、危機管理体制に問題

さて、政府のコロナ対策に対する国民の見方はどうだろうか。端的に言えば、安倍政権は、方針・対策を華々しく打ち出すが、とにかく実現に時間がかかる、遅すぎるという見方をしていると感じる。その原因としては、現場の「実態把握」に弱点があるのではないか。

例えば、◆感染者の日々の正確な発生状況、空き病床、軽症者の宿泊施設の確保などに遅れが目立った。◆PCRの検査を増やすと打ち上げるが、実施件数は増えない。◆緊急事態宣言を出すタイミング、解除の条件・基準の検討も後手に回ったのではないか。◆政府の対応に遅れがあると指摘された場合、実態の把握と原因の究明が遅く、どこまで改善されたかの説明もないとの指摘が多い。実態把握と説明面に弱点がある。

もう1つ、大きな問題は「政府の危機管理の体制」の問題。司令塔である「首相官邸が一枚岩の体制」になっているのかどうか。

例えば、安倍首相が2月末に打ち出した小中高校の一斉休校。政府の基本方針とは別の方針が突如、打ち出される。担当の萩生田文科相、加藤厚労相、菅官房長官らも事前に知らされていなかったという。

また、国民への現金給付も「1世帯30万円給付」が閣議決定されながら、与党の公明党や自民党の要求で「1人一律10万円給付」に転換される。結果として方針が混乱し、支給が遅れる事態を招いた。

こうした背景には、安倍首相最側近の今井総理補佐官と菅官房長官との確執が影響していると見ている。つまり、一枚岩の体制になっていない。また、現場の関係者や官僚を説得し、動かす力が弱いのではないか。「首相官邸の総合調整機能」を発揮できる体制になっていないという問題がある。

 求心力低下、1強体制の終焉

以上、見てきたように安倍政権は支持率が急落、政権の求心力は低下している。また、1人10万円給付への方針転換をはじめ、検察庁法改正案の先送り、さらに9月入学の見送りなどの政策・方針変更が相次いでいる。首相官邸と与党の関係では党側の力が増し、安倍1強体制は揺らぎの段階から、終焉へと変わりつつある。

安倍政権は、これまでの衆院の解散・総選挙などで、政権の危機的状況を打開してきたが、こうした中央突破路線は難しい。これからは、感染抑制と経済再生の両立、そのための具体的な社会・経済政策、それに実現への道筋を打ち出せるかどうか、険しい道が続くことになる。

新型コロナ激変時代 政治リーダーの論戦を!

通常国会ははやくも最終盤、6月17日の会期末まで2週間となった。新型コロナ対策の第2次補正予算案がまもなく国会に提出されることになっており、会期内に可決・成立する見通しだ。そして、政府・与党は、会期を延長せずに閉会する構えだ。

ところが、私たちのもう1つの関心事項、深刻な打撃を受けている日本社会や経済の立て直しをどうするのか。安倍首相の記者会見や、国会での野党の追及を聞いていてさっぱりわからない。この問題の論戦は事実上、放置されたままだ。

新型コロナ感染の襲来で、日本社会も激変の時代に突入する。その日本社会や経済の立て直しの目標や方向性、主要な政策をどう考えているのか。安倍首相や与野党のトップが登場して議論するところぐらいまでやらないと、国会、政権、与野党ともに、政治の最低限の役割を果たしたことにはならないのではないか。

本格的な議論なしで国会閉会とはならないと思うが、会期末が近づいてきているので、激変時代の政治の対応について、以下、一言申し上げたい。

 巨大補正、第2次補正予算案の意味

政府が5月27日に閣議決定し、近く国会に提出する第2次補正予算案は、売り上げが減った店舗の賃料の3分の2を半年分給付する制度をはじめ、休業手当の一部を助成する雇用調整助成金の1日あたりの上限額の引き上げ、さらには生活費にも困っている大学生などへの支援も盛り込まれている。

この結果、第2次補正予算案の歳出は、一般会計で31.9兆円余り過去最大。第1次補正予算と合わせると歳出は57兆円、事業規模では233兆円、GDPに占める割合は4割と過去に例のない規模になる。

これによって、ようやく遅ればせながら、緊急支援の枠組は整えられることになる。政府・与党は、提出後直ちに審議に入り、早期に成立させたい考えだ。

これに対して、野党側は東京高検の黒川前検事長の処分問題について集中審議を求め追及することにしているが、補正予算案は野党側の要求も盛り込まれているため協力する方針で、会期内には成立する見通しだ。

こうした第1次、第2次の巨額な補正予算の成立で、個人や事業主に対する緊急支援の枠組は整えられる段階まで進むことになる。

 社会経済立て直し、乏しい議論

そこで、次の問題は、第2波・第3波の感染拡大のパンデミックを防ぎながら、「日本社会、経済の立て直し」をどのように進めていくのかが焦点になる。この点は、国民が知りたい、もう1つの論点だが、安倍首相の記者会見、野党の国会での追及をを聞いてみても、さっぱりわからない。

もちろん、これまで緊急に取り組むべき課題は、生活に困っている人たちへの生活支援であり、さまざまな事業を持続していくための対策が最優先課題である。但し、緊急支援としては一定の対策を整える段階までは来たということだ。

国民の側には、これからの日本社会・経済をどのように立て直していくのか、政治は方向性を示してもらいたいという指摘や期待も強い。政権を担当する安倍首相の役割と責任が問われることになる。

安倍首相が前回・5月25日に行った記者会見では「経済再生こそが、安倍政権の1丁目1番地」「(コロナ感染を収束させた後)次なるステージに全力を尽くす」などと強調するが、何を最重点に取り組むのか。直撃を受けたアベノミクス・経済政策をどうするのかといった方向性についても、ほとんど触れられていない。

 激変時代こそ政治の出番

これからの日本社会・経済は、大きな構造変化は避けられない。IMFが指摘するように世界経済は「リーマン超え、1929年の大恐慌以来の景気後退」局面だ。

日本でも厚生労働省のデータで解雇や雇い止めが1万人を超えている。収入減で生活保護の申請が増加。企業は収益の大幅減、倒産などが増える見通しだ。

こうした危機的状況をどのように克服していくのか。日本社会、経済運営の方向性や目標、そのためたの主要政策、さらには道筋などを示すのが政治の役割であり、政治の出番だ。

今年は、9月末に安倍首相の自民党総裁としての任期が残り1年になる。10月には今の衆議院議員の任期も後1年。自民党の次総裁をめざすリーダーは、それぞれの立ち場で、これからの日本は何をめざすべきか、自らの考えを打ち出してはどうか。いつまでも安倍首相の顔色をうかがうばかりでは、党員や国民の支持も広がらない。

野党側も政権交代をめざすのであれば、安倍政治とは異なる政権構想を早く示して、国民に訴えるべきだ。

安倍首相、与野党ともに日本社会・経済の目標、重点政策を明らかにして、活発な論争する時期が今だと考える。

 本格論戦こそ国会・政治の責務

政府・自民党は、会期延長せずにこの国会を閉会する方針だという。表向きの理由は、当初東京オリンピック・パラリンピックが予定され、提出法案の数を絞り、その成立のメドもついたので、延長しないのだという。

本音は、報道各社の世論調査で安倍内閣の支持率が急落。このため、野党の追及を受ける国会は早く閉会したいという損得勘定が透けて見える。

小細工的対応は、憲政史上最長の政権や大自民党はとるべきではない。世論の総反発を食うのではないか。というのは、国会議員・閣僚は6月に夏のボーナスを受けた後、早くも17日から国会閉会、休みに入るとなると、日々の暮らしや事業に四苦八苦している国民はどう見るか。子どもたちも夏休みも削って勉強に励む時期だ。次の選挙を控えた人たちの取るべき対応ではないと思う。政権と国民との間に大きなズレが生じているのだろうか。

安倍首相は、先に感染症の克服と経済活性化の両立を図っていく必要があるとして、今年の骨太方針に「日本がめざすべき経済社会の基本的な方向性」を盛り込みたいというを示している。

野党第1党の枝野代表も「政府の対応は、司令塔が不明確で不信感も募っている」として「機能する政府への転換をめざす」政権構想を示す考えを示している。

そうであるならば、昔、中曽根首相と石橋・社会党委員長とが直接論戦を戦わせたように、安倍首相と枝野代表とが党首討論を行ってはどうか。あるいは、野党第1党に限らず、野党各党の党首も登壇して、国民を前に安倍首相との間で大論争をしたらどうか。実現可能性のある提案だと思う。

新型コロナ激変時代、日本の政治リーダーの見識、存在感を、是非、見せて欲しい。

 

 

緊急事態脱出”成功要因”と今後のハードル

”長い巣ごもり、自粛のトンネル”をなんとか抜け出すところまでこぎ着けた。政府は25日夜、東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県、それに北海道の緊急事態宣言を解除することを決定、宣言はようやく全面解除されることになった。

国内で最初の感染者が確認されたのが1月16日。初めての緊急事態宣言が出されたのが4月7日。全面解除まで49日、およそ1か月半、正直なところ長かった。

この間、亡くなられた方は800人を超え、感染者は1万6000人余り、未だに重症で治療中の方もいる。飲食店などでは営業ができず店をたたんだり、仕事を失った人たちも多く、日本社会に深い傷跡を残している。

新型コロナウイルス感染は今も続いており、気を緩められないが、緊急事態脱出までは到達できた。率直に喜ぶと同時に、この”成功要因”は何か。また、今後どのようなハードルが控えているのか考えてみたい。

なお、今回は日本社会の対応を取り上げ、政治や政権の対応、経済・社会の課題については、今後、随時とり上げていきたい。

 ”成功要因” 国民の自粛・規律が奏功

今回の緊急事態脱出をどうみるか、成功要因は何か。私個人の見方は、政府の危機管理は後手の対応、機能不全が目立ったという評価だ。水際作戦、国内感染対策の遅れ、さらに生活支援対策面でも迷走が相次いだからだ。

これに対して、”見えない感染”に対して、国民の側は、外出・休業の自粛、別の表現をすれば、自律の意識・行動が功を奏したと言っていいのではないか。

一時は医療崩壊に陥るのではないかと危惧した局面もあったが、医療従事者の方々の献身的な努力で回避できた。同時に”見えない感染源”に対して、国民が外出・休業などの自粛要請に応じて協力したことが大きかった。

中国のような情報隠し監視・強制型ではなく、欧米のロックダウン=都市封鎖型でもない。緩やかな法規制で国民が自主的に協力していく第3の道、日本型。幸運が重なった面もあるので、日本モデルと誇るつもりはないが、民主主義国で第3の道があることを示した意味は大きいと考える。

新型感染症に対する国民の対応。safety=自分で自らの安全を守る。smart =賢く情報にアクセス 。 kind=他人に思いやり。WHOのキャンペーンだが、このSSKモデルを日本国民が実践したことが成功の要因と考えている。

 高い公衆衛生意識、医療整備

成功要因について、さらに付け加えるとすれば、日本人の高い公衆衛生の意識がある。手洗い、うがいの励行。ハグなどの生活習慣がないことも幸いした。

また、医療保険制度の効果。健康保険証1枚あれば、貧富など関係なく医療機関の診療にアクセスできる。先人たちの取り組みに感謝したい。

一方、課題・問題も多い。新型感染症は世界的に大きな問題になりながらも、日本は備えができていなかった。病院での医療用マスク、防護服、消毒液不足などには正直、驚いた。

また、保健所などの人員・業務、医学の基礎研究・予算措置も十分ではなかった。経済政策に比べると、保健・医療分野の体制は劣化していた。

知人に聞くと韓国は感染者は1万1200人余り、死者267人。日本は感染者1万6600人余り、死者839人(5/25現在)。日本の死者の多さが目立つ。感染症に対する経験違い、PCRなどの検査の少なさ、マスク・防護服不足など医療体制の遅れがあるという。こうした指摘を重く受け止め、今後に生かす必要がある。

 医療現場の実態把握と、説明がカギ

さて、これから、どんな取り組みが必要か。1つは、新型感染症は第2波、第3波の発生のおそれがあるので、「監視・検査・医療体制」の整備は最優先課題だ。

最近になって、政府の対応もようやく整ってきた。◇入院患者を受け入れる病床は、全国で1万7200床を確保。現在、入院患者は3400人余り(5/15時点)。厚労省は「ひっ迫状況ではなく、余裕が出てきた」と説明している。

◇批判を受けていた検査体制ももPCR検査、抗原検査、抗体検査を組み合わせて実施する方向だ。

◇治療薬、ワクチン開発も支援すると強調している。遅ればせながら一歩前進、安心材料ではある。

但し、気になる点も多い。今回振り返って見ると感染者数の人数や陽性者が正確に把握できなかった。PCR検査の相談電話がつながらないとの苦情も多かった。

つまり、医療現場の実態が把握ができず、原因の究明や対策が進まなかった。国や自治体は、医療現場の実態の把握と必要な対策、その結果、改善が進んだのかどうかを住民に説明できる体制・仕組みづくりこそ重要だ。

保健・医療については、都道府県の知事が第一義的な責任者になって、国と連携・協議しながら、地域医療を整備、住民に説明していく仕組みを整えてもらいたい。病院経営の安定など地域医療の問題は多い。

メデイアの役割も問われる。地域の保健・医療の実態、国や都道府県の対応・問題点を含めて、多角的に掘り下げて報道してもらいたい。

 ”鎖”の論理、困窮者重視の対策を

もう1つ、大きな問題は、「社会・経済活動の再開」に向けた取り組みだ。IMF=国際通貨基金の経済見通しによると新型コロナパンデミックで、2020年の世界経済の成長率はマイナス3%。リーマンショックを超え、大恐慌1929年以来の景気後退と予測。日本経済もマイナス5.2%という大幅な景気後退だ。

トヨタの営業利益も来年3月期は、80%近い減収見通し。豊田章男社長も「リーマンショックよりインパクトは大きい」とのべている。

厚生労働省によると新型コロナの影響で、経営が悪化して解雇や雇い止めにあった人は見込も含め全国で1万人を超えた。5月15日時点の数字だが、5月に入って急増。今後、企業の倒産、失業、自殺者の増加が懸念されている。

どのような姿勢で臨むか。5月22日衆参両院で行われた参考人質疑で、慶応大学の竹森俊平教授の提言が印象に残った。竹森教授は、スコットランドの哲学者、トマス・リードの言葉を紹介しながら次のような趣旨の発言をした。

「鎖の強さは、1番もろい箇所の強さに等しい。なぜなら、鎖の1番もろい箇所が崩れたら、鎖全体がバラバラになって崩れ落ちるからだ」。

今回は「困っている労働者、家主、中小企業、フリーランスなど困っている人、脆弱な部分を救って、社会をバラバラにしないことが重要だ。景気刺激策は間違っている」。つまり、景気刺激策よりも、弱者・困窮者に重点を置いた対策を進めるべきだと提言している。

”鎖の論理”、困窮者対策を本当に用意できるのか、第2次補正予算案で問われる。また、中長期の出口戦略・構想も政治の大きな焦点になる。

 安倍政権 経済再開の原則と重点は?

安倍首相は25日夜、記者会見を行い、緊急事態宣言解除を正式に表明し、段階的に社会経済活動を再開する方針を示した。

また、第2次補正予算案を27日に閣議決定し、事業規模が第1次補正予算案と合わせて200兆円を超えることを明らかにした。そして、「GDPの4割にのぼる空前絶後の規模、世界最大の対策で、100年に1度の危機から日本経済を守り抜くと」と強調した。

国民にはどう響いたか。事業規模は大事だが、知りたいのは、社会経済活動の再開にあたっての原則、政権は何を重点に取り組むのかではないか。先に竹森教授が提言していた政策の目標・重点だ。その点が弱い、伝わる哲学がない。

最近実施された毎日、朝日の新聞社の世論調査で、安倍内閣の支持率が急落した。黒川検事長の定年延長と辞職問題が影響したものと見られ、支持率は20%台後半まで下落している。こうした中で、最大の政治課題である、コロナ危機乗り切りの対策と展望を打ち出せるかどうか、安倍政権は厳しい局面を迎えている。

(了)

 

 

 

 

黒川検事長辞職 安倍政権に深刻な打撃 

東京高検の黒川弘務検事長の定年延長に端を発した問題は、検察庁法改正案の見送りに続いて、今度は黒川氏自身が緊急事態宣言の最中に、賭け麻雀をしていたスキャンダルが明るみになり、辞職に追い込まれた。

今回の定年延長問題、個人的には”長期政権のおごりと惰性”を感じ、見過ごせない問題だと考えていた。

というのは、一つは歴代自民党政権が慎重に対応してきた政治と検察との関係。異例の検察官の定年延長という人事にまで、安倍政権が踏み込むようになり、そこに長期政権のおごりを感じたこと。

もう一つは、新型コロナ危機を受けて、定年延長法案はいち早く先送りし、緊急事態対応に専念すべきだった。できなかったのは、”対決法案強行の成功体験の惰性”が働き、柔軟対応ができなかったためではないか。

新型コロナの危機対応がしばらく続くので、直ちに”政局”につながる公算は低いと見ている。但し、安倍政権には深刻な打撃で、ボデイーブローのように効いてくる可能性もある。

検事長の定年延長問題はブログで何回も取り上げてきたが、節目の時期なので、以下、締め括りに幾つかの論点を整理しておきたい。

 事実関係・責任問題 乏しい説明

今回の問題、検察No2の東京高検検事長が、新聞記者と賭け麻雀に興じていたことが週刊誌にすっぱ抜かれた。個人的には、検事を”聖人君子”と見ているわけではないが、緊急事態宣言。しかも、自身が当事者の法案審議がヤマ場の時期だけに、とるべき行動ではなかった。

政府は、黒川検事長が賭け麻雀の責任をとって21日に辞表を提出したのを受けて、22日の閣議で辞任を了承した。

森雅子法相は、訓告処分にしたことを明らかにするとともに、黒川氏の定年延長については「閣議で決定するよう求めたのは私であり、責任を痛感している。ただし、適切なプロセスで行った」との認識を示した。

しかし、まず、処分について、事実関係をどのように認定したのか、よくわからない。◇賭け麻雀の賭博行為、◇麻雀相手の新聞記者が提供したハイヤー利用・便宜供与、◇緊急事態宣言の最中に麻雀を行っていた国家公務員としての倫理や職務上の行為が問題なのか、よくわからない。

また、訓告は国家公務員法の懲戒処分とは違って、法律上の処分とはならない、比較的軽い処分の一つだ。このため、退職金7000万円程度かと言われているが、満額払われることになる。

一方、政治責任の問題については、森雅子法相は「国民に憤りと不安を与えたことをお詫び申しあげる」と陳謝した。その上で、自らの進退伺いを提出したが、「安倍総理から強く慰留された」として、職責を果たしていく考えを示した。

安倍首相は、記者団のぶら下がり取材で「総理大臣として当然、責任はある。批判は真摯に受け止めたい」とのべたが、記者会見は行わなかった。

一方、検察トップの稲田伸夫検事総長は「検察の基盤である国民の信頼を揺るがしかねない深刻な事態であり、国民の皆さまにお詫び申し上げる」というコメントを発表したが、こちらは伝統的に記者会見には応じない。

このように政府も、検察当局もお詫びは口にするが、国民に対する事実関係の説明、それに責任問題をどのように考えているのか、肝心の説明が極めて乏しい。検察と政治の双方と、国民との距離は開いたままなのが実態だ。

 検察と権力のあり方から再検討を

今回の問題、発端は1月31日の閣議で、黒川検事長の定年延長を決めたことから始まった。検察官の定年延長は初めてで、異例の人事だ。これをきっかけに検事の定年延長問題について、政府は検察庁法に基づかず、国家公務員法の規定を採用するように解釈を変更したことも明らかになった。

さらには、検察幹部が役職定年に達した場合、内閣の判断によっては、3年まで特例として延長が認められる制度設計も追加された。政府が無理に無理を重ねて、特定人物の定年延長をごり押ししているように見えた。

ところで、戦後間もない昭和29年、自由党の吉田茂・第5次政権当時、犬養法相が指揮権を発動し、検察から出された逮捕許諾請求を阻止する造船疑獄事件が起きた。その後、自民党政権は検察との激しい軋轢も続いたが、検察の人事に介入するようなことはなく、慎重な対応を取ってきた。ところが、安倍政権は、今回、歴代政権とは異なる対応をとるようになったのである。

多少、固い話になるが、検察官は行政の一部で内閣に属する。他方、起訴などの権限を持ち、時には総理大臣を逮捕することもできる特殊な組織だ。それだけに政治権力からの独立、公正な対応が求められる。同時に検察当局もが独善、いわゆる検察ファッショに陥らないように民主的な統制を図る仕組みも必要になる。端的に言えば、政権と検察は微妙なバランスの上に成り立っている。

このため、検察官の定年延長に踏み切る場合には、政治権力と検察との関係、民主主義の下でどのような仕組みにするのが適切なのか、根本から検討しておく必要があったと考える。この点の熟慮が足りなかったのではないか。もう一度、制度設計の根本から法案を再検討した方がいいと考える。

 相次ぐ失態、政権運営に打撃

最後に、今後の安倍政権の政権運営に及ぼす影響はどうだろうか。このところ、重要な政策課題や方針の変更が目立っている。

主な問題だけでも◇大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期。◇コロナ対策で、閣議決定していた1世帯30万円給付から一律10万円給付への方針転換。◇さらには、検察庁法改正案の今国会での成立見送りなど失態が相次いでいる。

NHKの5月の世論調査では、新型コロナ対策や、検察官の定年延長問題では、政府の対応を「評価しない意見」が多数を占めている。内閣支持率についても「支持する」が37%、「支持しない」が45%で、およそ2年ぶりに不支持が支持を上回った。森友・加計問題が焦点になった一昨年6月以来の水準にまで落ち込んでいる。

それだけに今回の検事長辞任は、窮地に陥っている政権に打撃を与える形になった。当面、コロナ対策が緊急の課題になっているので、直接、退陣につながるような可能性は低い。但し、政権と検察との関係、政権の信頼度に関係してくる問題なので、今後、ボデイーブローのように効いてくる可能性がある。

安倍政権としては、緊急事態宣言が続いている東京など首都圏と北海道の緊急事態宣言の解除にこぎつけ、何とか反転攻勢へ持ち込みたい考えだ。

新型コロナ感染の拡大を押さえ込むことができるかどうか。第2次補正予算案の編成などで、生活困窮者や経済活動の再開への動きを軌道に乗せることができるかどうか、安倍政権にとっては厳しい政権運営が続くことになる。

 

 

迷走続く安倍政権 検察庁法案見送りの事情

検察官の定年を延長する検察庁法改正案について、政府・与党は18日、今国会での成立を見送る方針を決めた。世論や野党の反発が強い中で、法案の採決に踏み切っても「世論の理解を得られない」と判断したためだ。

安倍政権は、このところ当初の方針を覆す事態が相次ぎ、迷走状態が続いている。今回の法案見送りの理由や背景、政権への影響などを探ってみた。

 世論の”ダブル・パンチ”

安倍首相は18日午後、自民党の二階幹事長を首相官邸に呼び、「国民の理解なしに国会審議を進めることは難しい」として、検察庁法改正案先送りの方針を伝えた。

安倍首相としては、採決に踏み切った場合、世論や野党の一層の反発を招き、新型コロナウイルスの追加対策を盛り込む第2次補正予算案の早期成立にも影響すると判断したものと見られる。

その世論の反応だが、法案の委員会採決が近づくとTwitterで俳優や歌手などの著名人が法案反対を呼びかけ、ネット上で大きな反響を巻き起こした。また、検察OBも法案に反対する意見を表明するなど異例の行動を起こした。

NHKが5月15日から3日間行った世論調査では、安倍内閣の支持率は「支持する」が前月調査より2ポイント下がって37%、「支持しない」が7ポイント上がって45%だった。支持と不支持が逆転したのは、およそ2年ぶり。森友・加計問題が焦点になった一昨年・2018年6月とほぼ同じ水準にまで落ち込んでいる。

その要因としては、◆1つは「新型コロナウイルス対策など政府の対応」。「評価する」が44%に対し、「評価しない」方が53%で多い。

◆もう1つは「検察庁法の改正案」。「賛成」は17%に止まり、「反対」が62%で多数を占めている。

つまり、「新型コロナ対応」と「検察庁法改正案」の両方で、「世論の強い反発」を受けていることが読み取れる。

迷走の発端は、官邸発の異例人事

今回の法案先送りに至るまでの紆余曲折、さまざまな要素が絡み合っているが、迷走の発端は、政府が1月に東京高検の黒川弘務検事長の定年を、半年間延長する閣議決定をしたことに遡る。

黒川氏は本来なら、2月7日に退官予定だったのが、その直前の1月31日に定年延長が決まった。検察官の定年延長は過去に例のない人事で、黒川氏を次の検察トップに就任させるためではないかとの憶測も広がった。

2月のブログでも触れたが、現行の検察庁法には検察官の定年延長の規定がないので、政府は従来の法解釈を変更して、国家公務員法の規定を適用していたことが国会審議で明らかになった。

さらに新たな改正案では、役職定年に達した検察幹部について、内閣が認めれば最長で3年まで定年を延長できる特例も設けていることが明らかになった。野党側は、政権に都合のよい幹部だけを定年延長するのではないかと批判している。

このように今回は個別の検事長人事の問題と、検察官の位置づけや定年延長のあり方、そのための制度設計の問題が混在したままで、政府側が十分説明できていない点に大きな問題がある。政府は、秋の臨時国会に再度、この法案の提出をめざす方針だが、問題点を整理し直さないと世論の理解は得られないと思う。

 安倍政権・政局への影響は?

次に、安倍政権への影響はどうだろうか。まず、これまで重要法案で採決直前まで進んだ法案を先送りしたケースは、ほとんどないのではないか。特定秘密保護法をはじめ、安全保障法制、カジノを含むIR法、外国人労働者受け入れ拡大など国論が割れる法案についても官邸主導・与党ペースで押し切ってきた。

ところが、今年にはいっては、大学入学共通テストで導入が予定されていた英語の民間試験が中止に追い込まれたり、新型コロナ対策で政府が閣議決定した現金給付の方針の転換を迫られたりするケースが相次いでいる。

さらに先に見たように内閣支持率が下落、支持と不支持が逆転していることから、既に政権の求心力は低下しており、政権への影響は現れている。

気になるのは、今回の法案見送りは誰が主導して決まったのかという点だ。ある与党関係者によると黒川氏と関係が強いのは菅官房長官なので、安倍首相と側近が菅官房長官を押し切る形で先送りの方針を決めたのではないかという。

つまり、去年の秋以降、安倍首相側と菅官房長官との足並みに乱れが出ているのではないかとの見方も示されている。

コロナ感染拡大後の政治については、感染拡大の収束がいつ、どのような形になるのかがはっきりしないと明確な見通しをつけられない。安倍政権についても、まずは緊急事態宣言が継続中の東京など8都道府県について、宣言解除を5月末までに終了できるかどうか。感染収束時点の政権の状況を見極める必要がある。

また、追加の経済対策を盛り込む第2次補正予算案の早期成立をはじめ、経済・社会活動の本格的な再開と、感染抑制とを軌道に乗せることができるかどうか、安倍政権にとって険しい道のりが続くことになる。

 

緊急事態宣言 解除で 問われる点

新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言について、政府は14日夜、対策本部を開き、39の県で解除することを決めた。東京など残る8つの都道府県については、1週間後の21日に解除するかどうか判断する見通しだ。

長く続いた外出自粛要請などの区切り.。当初の5月6日の期限からは遅れたが、ここまで感染爆発に至らず、宣言解除にこぎ着けたことは素直に喜びたい。しかし、油断は禁物、引き続き警戒を続ける必要がある。また、これからは経済・社会活動の本格的な再開に向けた準備も始めなければならない。

宣言解除の第1段階を迎えたのを機会に、政府や自治体、それに私たち国民の対応、何が問われているのか考えてみたい。

 感染状況・医療 実態把握に弱点

政府は、今回の宣言解除にあたって、①感染状況、②医療提供体制、③PCR検査などの監視体制を基準に判断した。

こうした解除の基準について異論はないが、問題は、その前提となる感染状況や医療現場の実態を把握できているのか。政府や都道府県など行政の対応には「実態の把握と国民に対する説明が乏しいのではないか」。国民の側から見ると、この点が1番の問題点だと考える。

具体的にどういうことか。政府と地方自治体の対応について、最近の出来事の中から幾つか見ておきたい。

まず、関心の高い検査の問題。東京都は毎日、PCR検査で陽性の感染者数などを発表しているが、正確な1日ごとの検査データが明らかにされるようになったのは、実は5月中旬からだ。検査の実施日や結果判明の日時の違い、保健所の多忙な業務も重なり、基準を統一する作業が遅れてきたためではないかと見られる。

一方、東京都内の病院の入院状況については、厚労省のホームページで全国のデータとともに見ることはできるが、古いデータが更新されず、実態とのズレが生じている。また、都の受け入れ体制は2000床、ピーク時の3300床は確保などとも聞くが、感染者の症状の違いなどで受け入れ体制がどうなっているのか、よくわからないのが実態だ。

国会の質疑で政府側の答弁を聞いていても同じようなことが言える。例えば、◇全国の病院での重症者受け入れ状況は、10日前のデータ。◇軽症者などを収容する宿泊施設の状況も、7日前のデータといった具合だ。

さらに国民の関心が高いPCRの検査。安倍首相は、検査能力を1日あたり2万件まで増やすと強調する。ところが、実際の検査件数は1万人に満たない状態が続いている。

14日の記者会見で安倍首相は、新たに承認された「抗原検査」についても触れ、6月には1日あたり2万人から3万人分の検査キットを供給する考えを示した。しかし、PCR検査と合わせて検査がどうなるのか説明はなく、記者団からの質問もないので、検査体制がどの程度改善されるのかわからないままだ。

このように宣言解除の基準となった検査や医療現場の説明は乏しい。だから、解除して大丈夫なのか、納得感が得られない。感染症対策は長期戦になるので、政府と自治体は、協力してデータベースを整備すること。その上で、リアルタイムで正確な情報を収集・分析、国民に十分説明することが基本中の基本ではないかと考える。

 地域医療の整備、長期戦の基本

2つ目の課題は、地域医療の整備。新型コロナウイルスは手強い相手で、専門家に聞くと、短期で完全に封じ込めるのは困難だという。一旦、押さえ込んでも第2波、第3波の感染が起こりうる。但し、地域の医療体制が整っていれば、十分に対抗できる。だから、地域医療体制の整備は、長期戦の基本となる取り組みだ。

既に各地域で参考になる取り組みが行われている。
◇東京の杉並区では、感染患者を受け入れた病院では、病床の整備などに伴う減収が見込まれるため、22億円の予算を確保して病院経営を補助している。区独自のPCR検査場も設置する方針で、7月下旬にも開始する計画を進めている。

◇千葉県松戸市では、医療現場を支援しようと医師や看護師に民泊施設を無料で提供する取り組みを進めている。医師や看護師などから「万一、感染した場合に同居する家族に感染を広げないか不安」との声が上がっている。そうした不安や負担を少しでも軽減できるようサポートするのがねらいだという。

◇東京の武蔵野市や調布市など6つの市では、地元の医師会などとPCRの検査センターを設置するとともに、軽症者を受け入れる宿泊療養施設を確保する取り組みを進めている。

自分の住んでいる地域の医療体制はどのようになっているのか調べておくことも重要だ。また、政府の対応だけでなく、地域の医療体制づくりに責任がある都道府県の取り組み方も注視していく必要がある。

 第2次補正、出口戦略を描けるか

39県の緊急事態宣言が解除されたことで、政府にとっては、残りの8都道府県の宣言解除や経済活動再開に向けた出口戦略の取り組みが大きな課題になる。

その際、政府の司令塔、総理官邸の役割・対応が問われる。これまでの総理官邸の対応は「後手に回っている」という受け止め方が強い。総理官邸、安倍政権の体制の立て直し、再構築ができるかどうかカギになる。

これまで2月の一斉休校を巡っては、関係閣僚との調整が十分、行われていなかった。国民への現金給付を巡っては、与党の公明党や自民党からの不満が強まり、閣議決定していた当初案を撤回するといった迷走も見られた。

安倍首相は14日夜の政府の対策本部で、今年度の第2次補正予算案の編成に着手し、雇用調整助成金の上限を1日あたり1万5000円まで特例的に引き上げる考えを明らかにした。補正予算案の編成を通じて、政権の態勢を立て直し、政権運営の主導権を取り戻すねらいもありそうだ。

一方、これからの政治の焦点は、5月末までに東京などの緊急事態宣言が解除できるかどうか。第2次補正予算案の編成で中小事業者の家賃や、大学生の支援策の取りまとめが順調に進むかどうか。さらには本格的な出口戦略、経済活動再開へと動き出すことができるかどうか綱渡りの政権運営が続くことになりそうだ。

 

 

 

 

 

安倍政権 ”コロナ延長戦”で問われる点

新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が5月31日まで延長されることになった。当初の5月6日までの期限内に、感染拡大を押さえ込むのは困難な情勢になったためで、緊急事態は2か月目の延長戦に突入した。

今回は5月31日までの延長戦で、何を最優先に取り組むべきか考えてみたい。結論を先に言えば、3つの点を注文したい。
◆1つは、検査・医療体制の点検・整備を最優先に取り組むこと。緊急事態宣言の解除や今後の経済対策の前提条件になるからだ。

◆2つ目は、緊急事態宣言の解除の条件と、出口戦略の基本構想を示すこと。緊急事態宣言を終わらせる条件・目安は何か。その上で、その後の感染拡大の防止と、経済回復への取り組みをどのように実施していくのか。

◆3つ目は、安倍首相の記者会見のあり方。プロンプターの使用は止めて、国民に語りかける説明に変えた方がいいのではないか。
以上の3点について、それぞれの理由、内容を説明していきたい。

 感染症との戦い、根本は検査・医療

緊急事態の延長戦では、何を最重点に取り組むべきか。安倍首相が4日に行った記者会見を聞いても、現状の分析と評価、延長後の解除の条件、それに出口戦略をどうするのか、さっぱり分からないというのが率直な印象だ。

次の節目は、14日に専門家会議が予定されているので、安倍首相の記者会見も行われる見通しだ。それまでに最優先に行ってもらいたいのが「検査・医療現場の総点検」。その点検結果に基づいて、政府の対応策を打ち出してもらいたい。

今回の危機は、戦後日本が事実上、初めて遭遇する新型感染症との戦いだ。地震、台風、大津波といった自然災害、原発災害とは全く異なる対応策が必要だ。その根本は「検査・医療提供体制」の現状。どこまで整備されているのか、弱点はどこにあるかを明確にしておかないと、ウイルスとの戦いには勝てない。

ところが、国会での質疑、首相の記者会見などでもこの肝心な点について、体系だった説明を聞くことができない。

 検査・医療整備、予算投入計画を

そこで、政府に具体的に注文したいのは、次の点だ。◇PCR検査体制について、実際の検査件数が増えない原因とその後の改善状況、今後の見通しと予算額。◇感染者の受け入れ体制と重症者の入院・治療体制の状況。国・地方の予算額。◇緊急事態宣言解除後、感染の再拡大時に向けての備え・水準をどのように考えているか。

医療体制は、政府だけでなく、各都道府県などの自治体も大きな責任を負っている。国と都道府県との連携・協力体制をどのように強化するのか。

さらに先の補正予算に盛り込まれた政府の医療関係予算は、総額6,695億円。過去最大の補正予算、歳出25兆円と胸を張るが、肝心の医療関係予算の規模は少なすぎるのではないか。

このうち、地域の医療整備などにあてる緊急包括支援交付金も1,490億円に止まる。予備費の活用に言及するよりも、総理大臣が予算投入のメドについて言及する方が、国民に安心感を与え危機管理としても望ましいのではないか。

 緊急宣言解除の条件 提示を

2つ目は「緊急事態宣言解除の条件」について、政府の考え方を提示してもらいたい。4日の記者会見で安倍首相は、1人の感染者が何人にうつすか「実効再生産数が1を下回っている現状」や「1日あたりの退院者より、新規感染者を減らす」ことなどについて言及したが、条件とするのかはっきりしなかった。

これに対して、大阪府の吉村知事は5日、休業と外出自粛要請の解除について、独自の基準を決めた。①感染経路が不明な新規感染者が10人未満。②検査を受けた人に占める陽性者の割合・陽性率が7%未満。③重症病床の使用率が6割未満。①と②は日々の変動が大きいため、過去7日間の平均をみる。

感染状況と医療受け入れ体制が、客観的データに基づいて判断できるので、評価している。政府は、自治体の休業解除と、政府の緊急事態宣言解除とは違うとの立ち場のようだが、要は政府の考え方を明らかにしてもらいたい。
(追記7日13時:西村大臣の発言で「休業の要請と解除は、知事の裁量で行うもの。国は、緊急事態宣言の対象地域や解除を、どういう基準で判断するかということだ。具体的な数値の目安について近く示したい」。法律上、休業の解除は知事の責任、緊急事態宣言の解除は国の責任。西村大臣の説明で個人的には納得)

 出口戦略 ”二兎を追う難しさ”

次に、「出口戦略」をどう描くか。具体的には、感染抑制と、経済活動再開との二つのバランスをどうするのかの問題だ。

安倍政権は”二兎を追う戦略”と見ているが、緊急事態宣言の期限を迎える5月末までに「基本構想」を示してもらいたい。

緊急事態宣言も2か月に入ると感染抑制重視派と、経済活動重視派との対立、綱引きが予想される。国民の側がどのように受け止めるか焦点の1つになる。

安倍首相は記者会見で「長期戦を覚悟する必要がある。しかし、経済社会活動を厳しく制限する今のような状態を続けていくと、私たちの暮らし自体が成り立たなくなる。緊急事態のその先の出口に向かって前進していきたい」とのべている。

”二兎を追う”立ち場だが、安倍首相はV字型経済論者なので、経済重視路線に傾斜していくのではないかと個人的には予想している。

自民、公明の与党内、あるいは野党の中でも大きな論点になる見通しだ。そこで、注文しておきたいのは、抽象的にどちらを重視するか議論しても余り意味がない。◇感染抑止の対策の柱は何か、◇経済・社会活動と政府支援のあり方。◇その上で、双方のバランスをどう考えるかの考え方を明らかにして欲しい。

私個人は「感染抑止対策優先」。地域医療体制の緊急整備を優先して行い、一定のメドをつけた上で、経済・社会活動の本格的な再開をめざす考え方がいいのではないかと考えている。

そうしないと、経済を再開しても再び第2波・感染拡大が襲う可能性をアメリカの大学研究グループなどが警告している。感染対策は、景気対策の基盤・前提だ。政治の側も「新型感染症時代への備え」を大きな課題として位置づけて対応していく必要があると考える。

 脱プロンプター、国民に語りかけを

3つ目は、首相の記者会見について、触れておきたい。危機の時には、最高責任者の発信は極めて重要だ。安倍首相も多忙な中でも、記者会見のリハーサルもしていると推測するが、今のプロンプター(文字表示装置、”カンニング”装置)方式は止めた方がいいのではないか。

個人的な話で恐縮だが、現役時代の体験で、プロンプターを使う同僚もいて、よどみない語りに感心したこともあった。但し、政治のような事態が時々刻々、変化して、新たな情報が入ってくる時には使いにくい。このため、個人的には使わなかった。

また、技術論になるが、使うと本人の視線が流れ、訴える力が弱まることが多い。つまり、相当なプロが使いこなす場合は効果があるが、素人には逆効果になるということ。

安倍首相は、はっきり言って、滑舌のいい方ではない。語りで勝負するよりも、やり取りの方が持ち味が出るタイプだ。生き生きしたやり取り、閣僚席からのヤジで実証済みだ。党の社会保障関係の部会長も経験し、医療にも詳しい。記者を相手に、その向こうの国民に語りかける会見に変えた方がいいと思う。

もう一つ昔話、後藤田元官房長官から聞いた話。「危機管理は難しく考える必要はない。情報を可能な限り集め分析する。現状を正確に把握する。その上で、対応策を考える。海外などに成功例があっても、国内の法律、装備、人材などの面を考えて、できないものはできない。後は、総理官邸が総合調整をしながら実行に移すことだ」。

要は、緊急事態には、事態を正確にとらえて、政権が対応策を打ち出して、国民に理解を求め説得すること。これが危機管理の要諦で、国民も期待している点ではないかと考える。

 

 

安倍政権3つのハードル 新型コロナ危機

新型コロナウイルスのパンデミックが、世界を震撼させている。日本もこの危機をどのように乗り切っていくか正念場を迎えている。

緊急経済対策を実施していくための補正予算が、ようやく4月30日に成立にこぎつけた。事業規模は117兆円で過去最大、歳出は25兆円という大規模な経済対策、国民1人に10万円一律給付という異例の対応策も盛り込まれている。

但し、安倍首相が緊急経済対策のとりまとめを表明したのが3月28日、迷走のすえ、1か月もかかってしまった。迅速果敢な対応とはいかなかった。

一方、緊急事態宣言の期限が5月6日に期限を迎えるが、全国一律に1か月程度延長される見通しだ。

本予算に続いて、4月に補正予算も成立という異例の展開。これからの安倍政権、日本の政治は何が問われているのか、課題と対応策を考えてみたい。

 3つのハードル 補正予算成立後

最初に結論を明らかにしておいた方がわかりやすい。安倍政権としては、当面「3つのハードル」が待ち構えている。

▲1つは「感染収束のメド」をつけること。そのためには、緊急事態宣言を延長する場合、延長期間に何を最重点に取り組むのか、「重点目標と、安心・納得のいく政策とメッセージ」を国民に打ち出す必要があるのではないか。

▲2つ目は「学校再開のメド」をつけること。9月入学制の導入を含めて、子どもたちの教育、家庭や地域の安定のためにも、できるだけ早く方向性を出す必要がある。

▲3つ目は「暮らしと経済の追加対策と将来社会の構想」の議論を深めること。新型感染症の拡大は事実上、戦後初めての経験で、事態の変化に即して追加の対策を随時、打ち出してもらいたい。

同時に、大恐慌以来の経済危機との指摘もある。危機の位置づけや、日本の将来社会の構想を関係づけて、今後の全体の方向・道筋を示してもらいたい。

なぜ、こうした結論になるのか、その理由と今後のあり方を以下、説明したい。

 感染収束へ医療の点検・整備を

さっそく、第1のハードル、今回の危機の根本「感染の収束」にメドをつけられるか。特別措置法に基づく緊急事態宣言が5月6日に期限を迎える。政府は、感染拡大は依然、厳しい状況が続いているとして、全国を対象に1か月程度、延長する方針だ。

今の時点で、解除できる状況にはないことは理解できるが、延長の理由、今後の見通しなどについては、専門家の意見を含めて、丁寧に説明してもらいたい。

同時に政府のこれまでの対応は、”外出自粛などの要請ばかり”という印象を受ける。政府や都道府県知事はどんな取り組みを行い、効果はあったのか分析、説明をする必要があるが、説明はほとんどない。家庭用マスク、消毒液、医療現場の防護器材の不足、PCR検査の実施件数の少なさなどを見れば明らかだ。

今回、政府がやるべきことは何か。宣言を延長する場合、「延長期間の具体的な目標と、安心・納得のいく政策・メッセージ」を打ち出してもらいたい。

具体的な目標とは「医療提供体制の点検・整備と財政投入」。国民が中々、安心、納得感が得られないのは、政府・自治体は医療崩壊にどこまで本気で取り組もうとしているのか伝わって来ない点にある。

国会での審議を聞くと、民間病院が感染者受け入れると特別な病床の確保などで月に億単位の費用がかかり、減収になるという。補正予算での医療関係の交付金が1500億円では足りないことは、私のような素人でもわかる。

例えば、田中角栄元総理だったら「医療整備に1兆円の予算を投入する」とか、国民に安心感を与える政策を打ち出したのではないか。危機の時こそ、政治主導が必要だ。安倍政権は事業規模は大きく見せるが、肝心の所への財政投入が弱く、不十分と言わざるを得ない。

医療提供体制を確保できていれば、感染が長期化した場合、収束後に第2波が襲ってきた場合も、感染症との戦いを継続できる。生命線なのである。

学校の再開と9月入学問題

第2のハードルとして「学校の再開」問題がある。これに合わせて、都道府県の一部の知事や野党などから、入学や新学期の開始の時期を9月に変更する「9月入学制」を求める意見が出ている。安倍首相も「前広にさまざまな検討をしたい」との考えを示している。

学校再開の問題は、基本は地方自治体の教育委員会に最終的な決定権がある。感染の収束の時期がどうなるか、地域によっても違いがある。子どもたちの学ぶ機会の保障、健康面への影響の両面から検討してもらいたい。

早い時期の再開をめざすか、思い切って夏休みまで休校して秋の再開をめざすのか、具体的な方法などに知恵を絞ってもらいたい。「地域の実状に合わせた自主的な取り組み」に委ねるのがいいのではないか。

次に9月入学制は、休校に伴う学習の遅れを取り戻せることが期待できるほか、秋の入学が多い海外への留学がしやすくなるなどの利点が考えられる。

一方、幼稚園の入園や学校の入学までの期間が5か月延びることになる。家庭の経済的な負担増といった意見のほか、今年からの導入は拙速すぎるといった声も聞く。

この問題、入学試験、企業の採用時期など社会全体に幅広く影響を及ぼす。まずは、論点整理から始めてはどうか。また、日本の将来社会のあり方とも関係してくる。文部科学省と全国の教育関係者が中心になって、今後の選択肢をできるだけ早く示してもらい、社会全体で議論を深めていきたい。

 追加対策と将来社会構想

第3のハードルは「追加対策と将来構想」の論議だ。政治は、現実の問題を解決するのが仕事だ。感染症の影響は見極めが難しい。追加対策は事態の変化に即して随時、打ち出していくことが必要だ。例えば、家賃の支払いが困難な事業者への支援、アルバイト収入が減って生活が困難な大学生に対する授業料の減免なども与野党が協力して、実現してもらいたい。

その上で、国会でもっと議論を深めてもらいたいのが、「感染症の危機の認識」と「将来社会の構想」をめぐる議論だ。

IMF=国際通貨基金は「今年の世界経済は、マイナス成長だったリーマンショックを下回り、1929年に発生した大恐慌以来、最悪の景気後退」になる見通しを示している。日本は、今年・2020年はマイナス5.2%、2009年のマイナス5.4%に迫る低い水準を予測している。

安倍首相は補正予算案審議の中で「今回は、リーマンショックや、大恐慌より厳しい」との認識を示すとともに、第1のフェーズは感染を抑え、雇用と事業を継続する。第2のフェーズで経済のV字回復をめざす構想を示している。

これに対し、立憲民主党の枝野代表は「危機の時代は、弱者にしわ寄せがいかないみんなで支え合う社会、負担能力に応じた分かち合いの社会」を訴えている。

国民が知りたいのは「感染危機収束後の日本社会の将来像と柱となる政策」だ。政権を担当している安倍首相、”ポスト安倍”をめざす候補者、さらには野党各党のリーダーを中心に国会で活発な論戦を戦わせてもらいたい。

合わせて、今の国会議員の任期も残り1年半となった。しかし、党利党略の解散・総選挙の時期をめぐる駆け引きを行う時間的余裕はない。

与野党双方とも、この1年は、日本経済・社会の立て直しと将来社会の構想づくりに専念してはどうか。その上で、来年、時期を見て国民の審判を仰ぐのが、政治の王道ではないか。

私たち国民の側も政権、政党の対応をじっくり見極め、次の選挙で日本の将来構想とリーダーを選ぶのがいいのではないか。その前提、いずれにしても、まずは、感染危機の収束に全力を挙げたい。

 

 

迷走 安倍政権 緊急事態宣言2週間

新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づいて、安倍首相が東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」を行って、21日で2週間になる。これまでの安倍政権の対応をどのように見るか。

安倍首相は、感染対策については「当面2週間、様子を見る」考えを示していたが、それを待たずに対象地域を全国に拡大した。

一方、緊急経済対策の目玉政策である「1世帯30万円の現金給付」を取り下げ、「1人10万円一律給付」に転換、異例の補正予算案の組み替えに踏み切った。既に方針や政策の変更が相次いでいるが、今回の対応も異例で、”政権のダッチロール”、迷走状態に陥りつつあるようにも見える。

緊急事態宣言の期限は5月6日。残り2週間、何を最重点に取り組むべきか。そのためにも、この間の安倍政権の対応、危機管理を点検しておきたい。

 指導者と危機管理の要件

具体論に入る前に、今回のような社会全体に大きな影響を及ぼす事態・問題が起きた時に政権はどのように対応すべきか。歴代政権の中でも5年の長期政権となった中曽根政権の対応や考え方が参考になるので、見ておきたい。中曽根元総理の著書(「大地有情」)から一部を紹介する。

「指導者の要件というのは三つあるんですよ。(中略)1つは目測力、もう一つは結合力、そしてもう一つは説得力を持っていないとダメなんですね。目測力というのは、この問題はどういうふうに展開して行き着くところはどこなのか、それをしっかり把握できる能力ですね。結合力というのは、良い政策と情報と、良い人材と、良い資金を結合させる力です。説得力というのは、内外に対するコミュニケーションの力。この三つが現代の日本のリーダーに求められる要件なんです。そして、とりもなおさず、総理大臣自身がそういう力を持つことが危機管理なんですよ」

中曽根政権では、1983年ソ連の戦闘機が引き起こした大韓航空機撃墜事件への対応が大きな問題になった。危機管理では何が重要かが理解できる。また、私たちが政権の対応を評価する際の基準にもなる、含蓄のある言葉だ。後ほど再度、触れたい。

 最大の問題、医療危機への対応

さて、本論に入って「緊急事態宣言の効果」をどう見るか。宣言の対象地域が全国に拡大された後、休日の都市部では、感染拡大前に比べて8割以上減少した地域があった一方で、5割程度に止まる地域もあり、地域差がある。感染者数は、東京などでは横ばい状態だが、減少に転じるまでの効果は出ていない。こうした点の見方は、専門家の分析を待ちたい。

次に宣言後の一番の問題は何か「医療の提供体制が危機的な状況」にあることが浮き彫りになった点だと思う。

医療関係者によると◇東京都や大阪府などでは、入院患者の数が、準備している病床数の8割を超え、ひっ迫した状況にある。◇新型コロナウイルスの感染を確認するPCR検査がなかなか受けられない。実際に検査を受けるまで時間がかかる。◇医療現場では、医療用マスク、防護服、人工呼吸器など医療資材の不足が一段と深刻さを増しつつある。

 問われる政権の危機管理能力

こうした問題、いずれも「政府の基本方針」の中で、医療提供体制の整備として打ち出されていた内容だ。この基本方針が決まったのは、2月25日。2か月近く前に打ち出されながら、未だに実現されていないことに驚かされる。

前例のない感染症対策で、政府の対応に難しさがあるだろう。しかし、医療崩壊を防ぐことは、コロナ危機を乗り切るための政権の最優先課題だ。そのためには、政権の危機管理。具体的には、総理官邸が司令塔となり、厚生労働省をはじめとする中央省庁を動かし、医師会や地方自治体、さらには、地域の大学や病院、保健所などの医療機関と連携・調整、機能させていく取り組みが重要だ。医療現場の事態が深刻化していることは、政権の危機管理が後手に回り、機能していないのではないかと考えざるをえない。(参照ブログ:2月21日「新型肺炎 問われる政権の危機管理」、2月28日「全国臨時休校と危機管理の本質」)

安倍首相をはじめ政府は、外出の自粛などを盛んに要請するが、政権の責務、医療提供体制が機能していることが大前提だ。緊急事態宣言の後半では、医療体制の維持・整備を政権の最優先課題として取り組むことを強く注文しておきたい。

 10万円一律給付転換の見方

政府の緊急経済対策として当初、打ち出された「1世帯30万円現金給付」から、「1人10万円一律給付」への転換をどう見るか。

前号のブログで取り上げたように当初案に対する世論の批判は極めて強かった。また、連立を組む公明党や、自民党内の不満もこれまでにないほど強く、安倍首相が軌道修正を図ったものと見ている。

国民生活の面から見ると、当初案のままでは、世論や野党の反対も根強く、思うような効果を上げられず混乱を生む可能性も大きかったのではないか。このため、当面の国民生活を安定させる上で「10万円一律給付」の方が、”よりましな政策”と言えるかもしれない。巨額な赤字国債を発行することになるのをはじめ、追加の経済対策との関係・整合性などの面で問題を抱えているのも事実だ。

さらに政治的には、安倍政権の今後の政権運営、与党の自民、公明両党との関係、さらには追加の対策を巡る与野党の攻防などの面でさまざまな影響が出てくることも予想される。

 問われる安倍政権「結合力」

これまで見てきたように今回の感染危機は、国民生活や日本社会、政治、経済など大きな影響を及ぼすのは間違いない。その際、最大の問題は、感染拡大を抑制できるか、そのための危機管理が機能するかにかかっている。

冒頭、中曽根元総理の危機管理の要諦に触れたが、今回の事態では、特に2つ目の「結合力」、安倍首相が政権の足元を固めた上で、政策と情報、人材と予算を結合させて、危機を乗り切ることができるかどうか。緊急宣言の期限となる来月6日に向けて、政権が何を最重点に取り組むか、正念場が続くことになる。

10万円一律給付へ転換「世論の不評に危機感」 

安倍首相は、コロナウイルス対策として打ち出してきた「1世帯30万円の現金給付」の方針を転換し、「1人10万円を所得制限なしで一律給付する考え」を与党・公明党の山口代表に伝えた。

政権与党の公明党からの強い要請と、自民党内の要望を受けて実現へ踏み切ったものだが、既に閣議決定していた緊急経済対策を変更し、補正予算案を組み替えて国会に提出するのは、極めて異例だ。

こうした背景には、政権が目玉政策として打ち出した世帯向け現金給付に対して「世論の評価が極めて厳しいこと」に加えて、「安倍内閣の支持率低下への危機感」が働いているものと見ている。

そこで、今回の安倍政権のコロナ対応と世論の評価を詳しく分析してみたい。

 内閣支持率 軒並み低下

まず、「安倍内閣の支持率」から見ていく。コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍首相が7日、東京や大阪など7都府県を対象に緊急事態宣言を行った後、報道各社の世論調査が10日から12日にかけて実施された。

◆NHKの調査では、支持率は前回より4ポイン減の39%、不支持も3ポイント減の38%で拮抗。支持率が30%台に割り込んだのは、2018年6月以来のことだ。
◆読売新聞の調査では、支持が6ポイント減の42%、不支持が7ポイント増の47%。◆産経新聞は、支持が2.3ポイント減の39.0%、不支持が3.2ポイント増の44.3%。◆共同通信は、支持が5.1ポイント減の40.4%、不支持が4.2ポイント増の43.0%。3社の調査では、いずれも不支持が支持を上回る「逆転状態」へ悪化した。(NHKはニュースWEB、新聞・通信社は各社紙面のデータを使用)

こうした支持率低下の大きな要因と見られるのが、「緊急事態宣言を出したタイミング」の問題だ。「遅すぎた」との評価がNHK調査で75%。共同、読売、産経の調査でも80%~83%に達している。

 世帯30万円給付「不評」目立つ

次に政府が、緊急経済対策の目玉政策として打ち出した「1世帯あたり30万円の現金給付」。世帯主の月収が一定の水準まで落ち込んだ世帯に限って、現金を給付する制度。「非課税や収入半減などの給付条件がわかりにくい」「対象世帯が限られるのではないか」などの不満が聞かれた。

◆NHK「評価する」43%<「評価しない」50%。
◆読売「適切だ」26%<「不十分だ」58%。
◆産経「大幅に減った世帯に給付」39%<「すべての国民に給付」51%。
◆共同「妥当だ」20%<「一律給付」61%。

調査の設問や回答が異なるが、政府案を「評価しない」との意見が多数。国民に一律給付を求める意見が多い。公明党は元々、「1人10万円一律給付」を求めていた。自民党の若手議員からも同様の意見が出されていた。

NHK調査データで、政府案に対する世論の反応を分析すると◇「評価しない」が多いのは40代、50代の働き盛りの世代で、6割を上回る。◇支持層別で「評価しない」は、野党支持層で6割、無党派層でも6割近く、与党支持層でも4割を占めた。◇職業別で「評価しない」は自営業、サラリーマンともに6割程度にのぼった。端的に言えば、全体として「不評」。

 自粛に伴う損失 国が補償が多数

また、感染防止のためにイベントや活動を自粛した事業者の損失に対して、国が補償するかどうかの賛否。NHK調査では「賛成」76%、「反対」11%。政府は補償できないとの立ち場だが、世論は補償を求める意見が多い。

 マスク配付「評価しない」7割

さらに、政府が全ての世帯に布製マスクを2枚配付することについては「評価する」23%、「評価しない」71%。466億円の予算が必要で、”愚策”との厳しい声も聞かれた。

 政府対応、世論とのズレ浮き彫り

コロナ感染防止への対応をめぐっては、「政府対応と世論のズレ」の大きさが浮き彫りになっている。

「現金給付」の仕組みが変わることになるが、必要とする人たちへの支援は十分か。現金が届く時期は、早くなるのかどうかなどの制度設計が問題になる。
また、安倍政権の相次ぐ方針・政策変更と、政権運営のあり方。
さらには、財源確保のための赤字国債発行と借金の返済、財政規律など議論すべき論点・課題は多い。

 コロナ危機、政治の構造にも影響

最後にやや専門的になるが、今回のコロナ危機は、内閣支持率や政党支持率など「政治の構造」にも影響を及ぼしつつあるので、触れておきたい。

◆内閣支持率。与党支持層で安倍内閣の支持割合は73%で大きな変化はない。
◇無党派層では、安倍内閣の支持が減少(3月24%→4月19%)。◇年代別では、これまで高かった「18歳以上20代・30代の若者」の支持が減少(3月48%→4月40%)。◇地域では、緊急宣言の「7都府県」(大都市部)で支持が減少(3月45%→4月37%)などの変化が見られる。◇男女では「女性」は変わらず、元々、低い(4月女性35%<男性43%)。

◆内閣支持率のトレンド。◇去年夏の参院選後8月、内閣支持率は49%でピーク。それ以降、ほぼ一貫して低下。4月は39%、4割を割り込んだ。◇不支持は、去年8月が31%、増え続け40%前後まで増加。◇コロナ対策が大きな成果を上げないと、5月以降、支持・不支持が逆転の可能性がある。

◆政党支持率。◇自民党は低下(3月36.5%→4月33.3%)。特に「18歳以上・20代・30代の若者」の自民支持が急減(3月37%→4月25%)。◇野党第1党の立憲民主党も低下(3月6.3%→4月4.0%)。男女、40代、70歳以上で減少顕著。
◇無党派層は増加が目立つ(3月41.5%→4月45.3%)。70歳以上でも増加。

コロナ危機は、安倍長期政権、自民・立憲の政党支持率にも影響、変化を及ぼしつつある。当面、安倍政権が感染拡大を押さえ込めるか。国民生活、経済対策で一定の成果を上げることができるかが最大のポイント。年後半に衆院選挙を行えるような状況は、今の時点では想定しにくい。(了)

 

政権の調整力低下を懸念、緊急宣言1週間

新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、安倍首相が東京都など7都府県を対象に5月6日まで、「緊急事態宣言」を行ってから14日で1週間が経過した。

緊急事態宣言の効果はあるのだろうか。国と地方の関係、特に安倍政権の危機管理能力をどのように見たらいいのか考えてみたい。

最初に結論を明らかにしておいた方が、わかりやすい。緊急事態宣言をめぐる安倍政権の対応で最も気になるのは、「政権の制度設計能力、調整能力が低下」しているのではないかという点だ。

なぜ、こうした見方をするのか。そして、今後どのような対応が求められているのか考えてみたい。

 緊急事態宣言 ”中間評価”

今回の緊急事態宣言の評価は、最終的には、感染拡大を押さえ込めるかどうかにかかっている。14日朝の時点で、1日あたりの新たな感染者数は東京で91人、全国で294人と引き続き高い水準が続いている。全国の感染者数の累計では、3月1日が256人だったのが、4月1日は2497人、4月13日で7691人へ急増している。

専門家によると、今の感染者数は潜伏期間と検査に時間がかかるため、2週間ほど前の状況で、今回の緊急宣言の効果が評価できるのは「今月20日前後」になるとの見方を示している。

このため、安倍政権の対応、危機管理などの評価も最終的には、感染者の状況を見極める必要がある。また、今回の宣言は5月6日が期限になっており、その時点の状況も判断する必要がある。

このため、今の時点は、これまでの政権の対応の分析に基づく「中間的な評価」であることを最初にお断りしておきたい。

 遅れた 緊急事態宣言

まず、今回の緊急宣言が出されたタイミングについては、「遅すぎる」という受け止め方が圧倒的に多い。報道機関の世論調査でも8割程度に達している。

確かにタイミングとしては遅い。特別措置法が成立したのが3月13日。4月に入って都市部を中心に感染者が急増、小池東京都知事、吉村大阪府知事などの声に押されて宣言に踏み切った形になった。

安倍首相としては、夏の東京オリンピック・パラリンピックをどうするか。コロナ感染が世界規模で拡大すると最悪の場合は、中止に追い込まれる。その前に五輪の延期・開催に道筋をつけておきたい。また、経済面への影響も考慮しながら、発令のタイミングを探っていたものと見られる。

 宣言後の対応に問題、遅れと乱れ

私個人は一番の問題は、宣言が遅いという点よりも、宣言が出された後、国と都府県側との調整ができず、実施体制が遅れた点に問題の本質があると思う。

東京都の場合は、7日の安倍首相の宣言後、休業要請の対象施設の範囲などをめぐって意見が対立し、10日夜に西村担当大臣と小池知事が会談、ようやく翌11日の実施にこぎつけた。

その他の府県の実施日を見ても、神奈川県は東京都と同じ11日だが、千葉県、埼玉県は13日、大阪府は14日、兵庫県は15日とバラバラだ。宣言から1週間経って、ようやく休業要請などを行える実施体制が整ったことになる。これでは、とても、緊急事態、危機への対応とは言えないのではないか。

 政権の制度設計、調整能力低下

国と地方自治体との間では、知事の事業者への休業要請が行えるようになっても、休業の補償とその財源をどうするかという問題が残っている。財源の余裕がある東京都は独自に協力金を支払うことにしているが、残りの府県は財源確保の見通しがついていない。

ある県の関係者は「国が新たに設ける『地方創生臨時交付金』を使えるようにしてもらいたいが、国が応じるのかどうか、政権幹部に聞いてもはっきりしない」と戸惑っていた。

つまり、従来の総理官邸、霞が関の対応から推測すると、首相が宣言を出すまでに、財源などの制度設計、地方自治体などに対する根回し、段取りなど全て終えているはずなのに、今回の場合、調整がついていなかった。

同じような問題は、「緊急経済対策」でも見られる。例えば、収入が大幅に減少した世帯向けの現金30万円給付制度。支給対象や基準が分からないとの批判が強く出され、結局、総務省が全国統一の新たな目安を打ち出す事態になった。

このほか、政府が感染防止の基本方針を打ち出した直後に、安倍首相が方針に盛り込まれていない大規模イベントの自粛要請や、学校の全国一斉臨時休校を打ち出すなどの混乱が見られた。

さらには、今回の感染拡大について、専門家は早い段階から、感染拡大期の医療崩壊を防止するために、検査体制の拡充と重症者の入院・治療体制の整備を強調してきた。ところが、両方とも対策が思うように進んでいなかったことが最近の動きの中で明らかになりつつあるのではないか。

以上のように、これまでの安倍政権の危機管理の対応を点検してみると「政権内の制度設計能力、調整能力の低下」が浮き彫りになってくる。

今回のコロナ危機は、日本にとって事実上、初の大規模感染症で難しさはある。しかし、政権が抱えている問題点を認識し、改善していかないと、迷走が続き、これから待ち受けるハードルは越えられないのではないかと懸念する。

 危機の宰相の行動は?

最後に今月に入っての出来事についても、一言、触れておきたい。
安倍首相が表明した全世帯へのマスク2枚配付、466億円の費用がかかる。

また、安倍首相が作曲家の星野源さんの楽曲とともに自宅で過ごす様子を撮影したコラボ動画の投稿。賛否両論あるだろうが、危機の宰相としてやるべき行動だろうか、個人的には疑問に思う。

国民の多くは、コロナ危機の出口はどうなるのか大きな不安を感じている。危機のリーダーは、どっしり構えて、現状を正確に把握。その上で、どんな方針・対策で難問を乗り切っていくのか、明確な指針を打ち出して、国民に説明、説得することだと思う。憲政史上最長の政権であれば、こうしたリーダーの姿を、是非、見せていただきたい。

現金給付30万円、仕組みの見直しを!

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府が緊急経済対策の目玉として打ち出した「1世帯30万円の現金給付制度」については、条件が厳しすぎるといった指摘や批判が相次いでいる。この制度、どう見たらいいのか考えてみたい。

結論を先に言えば、この制度の仕組みや条件については大幅に見直し、改善すべき点は、大胆に改善する必要があるのではないか。

その際、別の選択肢や方法があるかどうかが問題になる。個人的には「マイナンバーを活用した大規模な融資・給付制度」に変えてはどうかと考える。この案は、経済の専門家が提言している考え方で、今後、国会審議の場などでも検討してもらいたい。以下、現金給付制度や問題点、改善方法などを見ていきたい。

 複雑な現金給付制度

政府は7日の臨時閣議で、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、事業規模の総額で108兆円、リーマンショック時を上回る、過去最大規模の緊急経済対策を決定した。

この中では、収入が大幅に減少している世帯や中小企業などに対して、新たな現金給付制度を打ち出したのが、大きな特徴だ。感染拡大で収入が減り、生活が困難な世帯に対して、1世帯あたり30万円の現金を給付する。一方、中小企業や小規模事業者に対して最大200万円、フリーランスを含む個人事業主には最大100万円を給付する。

このうち、特に世帯に対する給付金については、対象者や支給条件が複雑でわかりにくいなどの批判が相次いでいる。この制度を中心に見ていきたい。

まず、現金給付の対象から見ていくと、今年2月から6月の間のいずれかの月で、世帯主の収入が、感染が発生する前に比べて減少している世帯が対象になる。
条件としては、①住民税が非課税となる水準になるまで落ち込んだ世帯。
②月収が半分以上減少し、住民税が非課税となる水準の2倍を下回る世帯。

この条件を読んで、自分が対象になるか判断できる人は、極めて少ないだろう。住民税の非課税額は自治体によって違う。細かい説明になって恐縮だが、お付き合い願いたい。東京23区では、次のようになっている。

◇単身世帯は、年収100万円で、月収に換算すると8万3000円、◇夫婦と子どもの4人世帯では、年収255万円で、月収換算で21万円になる。

例えば、4人世帯で年収900万円のサラリーマンが、600万円の水準まで減収になった場合は、どうか。収入が半減ではないので、対象にならない。450万円の水準まで減収になった場合は、非課税額2倍の510万円以下という条件も満たし、給付を受けられる。つまり、収入の減少幅の違いで、受け取れる世帯とそうでない世帯に分かれ、不公平感が残ることが予想される。

一方、世帯主の収入が基準になるので、例えば、夫婦共働き世帯で、片方が解雇されても世帯主でなければ対象外になる。
(※総務省は、現金給付の基準がわかりにくいとの指摘を受けて、10日全国一律の基準を公表しました。ご参考までに文末に内容を書いておきます。この場合でも月収半減などの基準、世帯主か否かなどの問題点は変わらないと考えます)

 野党は批判、与党内に不満も

この制度について、野党側は、国民1人1人の生活保障のため、世帯単位でなく、「1人10万円を一律で給付すべきだ」と主張し、政府案は「条件が厳しすぎ、対象者も限られる」と批判している。

与党の自民、公明両党は既に政府案を了承しているが、党内では「給付の条件がわかりにくい」、「もらえる人と、そうでない人に分かれて不公平」といった不満もくすぶっている。

これに対して、安倍首相は「世帯の現金給付に加えて、児童手当を1人1万円上乗せしている」と強調。支給の仕方も、リーマンショックの時は、1人1万2000円の定額給付にしたが、配るまで3か月もかかった。今回は対象者を絞り、早く給付することが大事だと訴えている。

 マイナンバー活用の大規模な融資制度

それでは、政府案とは別に、どのような仕組み、方法が考えられるだろうか。

私は経済の専門家ではないが、これまでの取材で最も納得した案は、小林慶一郎さん(東京財団研究主幹・慶応大学客員教授)と佐藤主光さん(一橋大学教授)の共同提言だ。私の理解の範囲で、ご紹介したい(参照:3月25日、日本記者クラブの研究会で行われた小林教授の会見、HPから動画の視聴が可能)。

提言では◇今回は、急激な所得の減少であり、迅速に生活資金を届ける必要がある。1回だけの資金提供では不十分で、一定期間、提供する必要。◇個人向け緊急融資制度で、自己申告、無差別、無条件、大規模に生活資金を融資する制度が必要だ。資金の貸付は、マイナンバーの確認だけで可能にする。
◇基本は、月15万円✕12か月✕1000万人(対象者)=18兆円を想定。
◇融資のため、3年後から返済が基本だが、収入が増えず、返済が難しい場合は、返済なし・実質給付もありうる。

つまり、毎月15万円程度の生活資金を12か月、計180万円の融資が可能とする。事業の立て直しができた場合は、その後の納税に合わせて返済する。マイナンバーによる管理とする。事後の所得の多寡に合わせて、返済の減免もある。事実上、給付となることもあり得る。

以上が、小林先生の提言。その上で、私の個人的な考えだが、融資ではなく、最初から、給付制度とすることも考えられる。その際、財源の関係で、月15万円を減額、期間の縮小もありうる。端的に言えば「マイナンバー活用の新たな生活資金制度」として、規模の大きな資金提供を考えてはどうか。

 危機に見合った生活保障政策を!

政府の個人向け現金給付に必要な予算は4兆円余り、事業者向け給付は2兆7000億円余り、合計で6兆7000億円余りだ。この総額をどのように見るか。

安倍首相は「甚大なマグニチュードに見合う必要かつ十分な経済対策を実施していく」と繰り返し強調。事業規模108兆円、財政支出で39兆5000億円の大規模な経済対策を打ち出した。

しかし、現金給付の総額は7兆円、必ずしもマグニチュードに見合う規模とは言えないのではないか。

参考までに◇イギリスは生活必需品を販売する店以外は全て閉店とする措置が取られているが、政府が雇用を維持するため、働く人の賃金の80%を肩代わりする。フリーランスを含め自営業の人に対しても、平均所得の80%を支払う。いずれも上限は、月2500ポンド(約34万円)で、少なくとも3か月は続けるという。

◇フランスでは、営業停止で仕事がなくなったレストランやカフェ、商店などの従業員に対し、政府が原則として賃金の70%までを補償するという。
このように欧米の主な国では、感染防止策とともに、働く人の休業補償に手厚い措置を打ち出している。

日本の場合は、現金給付を急がなければならないが、今後、追加の現金給付の事態も予想される。
また、半年から1年程度の長期戦も視野に入れた生活保障を考えていく必要がある。

さらに、将来の人口急減時代の社会保障として、個人に対する現金給付の仕組みが必要になるのではないか。そのためにもマイナンバーを活用した給付制度を検討しておく意味があるのではないか。

景気の回復だけでなく、将来社会の設計にも役立つような予算の使い方を検討していく必要があると考える。

※1世帯30万円の現金給付について総務省が示した給付条件。世帯主と扶養家族を合わせた人数。
◆単身世帯=◇月収が10万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
20万円以下となった場合
◆2人世帯=◇月収が15万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
30万円以下となった場合
◆3人世帯=◇月収が20万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
40万円以下となった場合
◆4人世帯=◇月収が25万円以下に減収するか、◇月収が50%以上減少し、
50万円以下となった場合

 

緊急事態宣言の見方・読み方は?

新型コロナウイルスの感染が急速に拡大している事態を受けて、安倍首相は7日夕方、政府の対策本部で、東京など7都府県を対象に、法律に基づく「緊急事態宣言」を行った。宣言の効力は5月6日までで、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡が対象になる。

そこで、この「緊急事態宣言」の見方・読み方。私たち国民はどのように受け止め、評価、対応していけばいいのか考えてみたい。

結論を先に言えば、「過剰な警戒は不要、過大な期待も禁物」、冷静に新型感染症を抑制していく。「目標の設定」を明確にして、国民の合意を広げながら取り組みを進めていくことが大事だ。

具体的には、◇不要な外出の自粛徹底で「新たな感染者を減らすこと」。
◇「医療崩壊を防ぐこと」。そのために「検査体制の拡充」と「重症者の入院・診療体制の整備」。
◇それに「社会活動・経済活動の継続と、自由な議論ができる日本方式」。

この3つの目標を国民が共有しながら、危機を克服していきたいと考える。

過剰な警戒は不要、過大な期待も禁物

今回の「緊急事態宣言」は、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づいて出される。物々しい印象を受けるが、日本の場合は欧米諸国などに見られるような外出禁止、多額な罰金、ロックダウン・都市封鎖といった強い権限を与える法律ではない。国民の心理面に影響を及ぼす効果は予想されるが、強制力は弱い。

このため、端的に言えば「過剰な警戒は不要、他方、過大な期待も禁物」という見方をしている。独断専行に陥る仕組みにはなっていない。他方、一刀両断、一挙に問題解決といった期待もできない。

これまで首相や知事が要請したことと似たような内容も多くなる見通しだ。「要請、お願い」レベルから、「法律に基づく要請、指示、公表」に一歩踏み込んだ措置といったところではないかと見ている。

 目標の設定と国民の協力

さて、緊急事態宣言は、総理大臣が期間や地域を指定して宣言を出し、これを受けて、各知事がそれぞれの都民・県民に対して、感染防止に必要な「緊急事態措置」を決定、要請する仕組みになっている。

そこで、重要なことは、この緊急事態宣言・措置で具体的に何をめざすのか。何を最重点に取り組むのか、「目標の設定」を明確にして、国民に説明、協力を得ながら実行していけるかがカギになる。

 外出自粛の一層の徹底

今回は新型ウイルスとの戦いでは、”集団感染”を防ぎ、”感染爆発”につながらないようにすることが重要だ。効果があるのは、まずは「不要不急の外出の自粛を一層徹底すること」。これによって「新たな感染者数を減らすこと」。地味な取り組みだが、最も効果的であり、第1の目標だ。

 医療崩壊を防ぐこと

第2は、「医療崩壊を防ぐこと」。そのためには、これまで何度も強調してきたように「PCR検査の拡充」。検査能力は高まったが、実際の検査件数が増えない。感染の疑いがある人が増えてくると、検査件数を増やして感染者を早期に発見、対応していかないと感染拡大を押さえ込むのは難しくなる。

もう1つが、重症者を早期に発見、隔離・入院させていく「重症者の診療体制の整備」。専門家が、感染拡大に備えて、受け入れ病床の確保を繰り返し強調してきたが、病床の不足が指摘されている。

このため、軽症者などは借り上げの宿舎・ホテルなどに移ってもらい、重症者の病床確保が必要になるが、こうした対応の遅れが懸念されている。今回、緊急事態宣言に踏み切ることになった背景にも、こうした診療体制の整備の遅れと医療崩壊を避けたいねらいがあるとみられる。

政府は、こうした検査体制の拡充と、重症者の診療体制の整備について、緊急経済対策の中で、医療機材の整備、人材の手当などに思い切った予算の投入をできるかが問われている。

 社会、経済、自由な議論の日本方式

第3は、緊急経済対策が出された後も、社会活動や経済活動への影響を最小限に止めるともに、自由な議論、国民の権利の尊重といった日本型の危機管理方式で乗り切っていきたい。

今回の特措法の一部には、医療施設を開設するため、所有者の同意がなくても土地などを使用できる強い権限の規定もある。あるいは、緊急事態宣言をきっかけに基本的人権などが侵害されるおそれがあると警戒する意見があるのも事実だ。

この特措法には、基本的人権の尊重の規定も盛り込まれている。感染症の危機乗り切りに徹していくことを確認し、新たな取り組みをスタートさせていきたい。

日本で感染者が初めて確認されたのが1月16日。政府の対策本部が設置されたのが1月30日。2か月余り経って、今回の緊急事態宣言の発令となる。この間、安倍政権の対応・危機管理はどうだったのか、今後、しっかり検証していく必要がある。(なお、4月7日17時30分から開かれた政府の対策本部で、安倍首相は緊急事態宣言を行いましたので、冒頭部分の表現を一部、修正しました)

コロナ危機 新局面、医療崩壊を防げるか

新型コロナウイルスの急増に歯止めがかからない。東京や大阪などの都市部では、感染ルートが分からない人が増えている。また、新学期も高校、小中学校で休校が続く地域も出ている。

一方、政府の専門家会議は、集団感染への対応で「医療崩壊」が起こりうると懸念を表明するなど、新型コロナ危機は新たな局面を迎えつつある。

政府は来週、これまでに例を見ない大型の緊急経済対策を打ち出す方針だが、根源の感染拡大を押さえ込み、国民の不安感を払拭できないと景気対策も思ったほどの効果を発揮できないこともありうる。

政界では、大規模な経済対策や緊急事態宣言に関心が集まっているが、今、最優先で取り組まないといけないのは、感染拡大の抑制だ。具体的には「検査や治療などの医療体制の整備に予算と人材を大胆に集中投入」することだ。

コロナ危機が新局面を迎えている中で、医療崩壊を防ぐためにどんな取り組みが求められているのか考えてみたい。

 ”医療崩壊” に強い危機感

新しい年度がスタートした4月1日、政府の新型コロナウイルス対策を検討する専門家会議は、海外のような感染拡大の爆発的な急増は見られないものの、現状を考えると、今後、医療現場が機能不全に陥ることが予想されるとして、「医療崩壊を防ぐための対策」を早急に求める提言を発表した。

提言の中では、東京と大阪は感染者数の増加状況などから、最も厳しい対策が必要となる「感染拡大警戒地域」にあたるという認識が示された。専門家会議の強い危機感が読み取れる。

 乏しい政治の側の危機感

こうした専門家会議の強い危機感に対して、政治の側の受け止め方はどうか。
政府は、緊急の経済対策を取りまとめることにしており、与党の自民党や公明党はそれぞれ独自の提言や対策をとりまとめ、政府に申し入れを行った。

自民、公明の与党の提言を読むと、「リーマンショック時を上回る財政措置20兆円、事業規模60兆円規模の対策」、「1人あたり10万円の給付」などの大盤振る舞いを求める政策が並んでいる。

一方、感染症を抑制するため、治療薬やワクチンの開発、PCR検査体制の確保、感染者を隔離する施設の確保などの対策も掲げてはいるが、他の経済対策のような具体的な予算規模には言及していない。景気優先で、医療現場は持ちこたえられるのかといった危機感は伝わってこない。

 医療崩壊防止へ予算・人材集中投入

それでは、政府が問われている点は何か。端的に言えば、感染拡大を抑制することであり、そのために医療分野に予算・人材を集中的に投入することだ。

具体的には、PCR検査の拡充。重症者を隔離・入院させ、死亡者を可能な限り減らす治療体制を早急に整備すること。

コロナウイルスに対する検査能力は、1日あたり7500件と当初の2倍以上に増えたが、実際に行われた検査件数は2000件にも満たず、思ったほど増えていない。今後、感染者がさらに増えることを想定すると検査件数の拡充は欠かせない。

一方、感染抑制には重症者を早期に発見、入院・治療、死亡者を最小限に止める重要性が指摘してされてきた。ところが、入院ベッドをどのように整備していくのか、政府や自治体側から、整備の進み具合や予算投入額などの説明は極めて少なかったのが実状だ。

東京都の場合、700床を確保したとされるが、入院患者が増え既にひっ迫していると言われる。最終的には4,000床を確保する目標にしているが、患者が急増した場合、対応できるのか難しいとの見方は根強い。

このため、重症者と軽症者の振り分け、軽症者は自宅療養だけでなく、ホテルや旅館を借りあげ入ってもらうことなどが検討されているが、実現までこぎつけられるかどうか。

また、国民個人や企業などが、国や自治体の外出自粛などの要請を受け入れ、協力するとともに、企業や社会活動も続けていきながら集団感染を抑えていく日本方式が通用するかも大きなカギを握っている。

 感染抑制、政治の最優先課題!

政府は、来週、緊急の経済対策を取りまとめることにしている。国民に安心感を与えるために大きな予算規模。収入の大幅な減少に見舞われた個人や中小事業者に対する生活保障措置は、必要だ。

同時に必要不可欠なのは、感染拡大の抑制を政治の最優先課題に位置づけること。具体的には、医療提供体制の整備と予算がどこまで盛り込まれているか、政府の緊急対策を評価する上での大きなポイントになる。

また、日本は、1970年代以降、エボラ出血熱や鳥インフルエンザなど地球規模の感染症の当事者にならなかったこともあって、ウイルスとの戦いに無防備状態だった。それだけに感染症にどのように備えるのか。総理官邸内部の体制、各省庁や、地方自治体、感染症や衛生研究所などとの連携、危機管理の体制づくりも大きな課題として残されている。

来年”五輪後 解散”か 新型コロナ政局

新型コロナウイルス感染が世界規模で拡大する中で、新年度予算が27日に成立した。例年だと通常国会前半の大きなヤマ場を越えたことになるが、今年はコロナウイルスのパンデミックの影響で、東京オリンピック・パラリンピックが来年夏まで1年程度延期されることになり、政治日程は一変した。

そこで、日本政治は今後、どう動くのか。国民の関心も高い衆院解散・総選挙は、どうなるのか探ってみた。結論から先に言えば、次のようになる。

◆メイン・シナリオは来年夏の東京五輪パラ後「五輪後解散」の公算が大きい。◆リスク・シナリオAとしては、今年秋以降「年内解散」もありうる。
◆リスク・シナリオBとして、「五輪再延期、中止の最悪ケース」も念頭に置いておく必要がある。なぜ、こういう結論になるのか、以下、説明したい。

 政治日程一変

本論に入る前に、前提となる今年の主な政治日程を確認しておきたい。
今年の政治日程は当初、夏のオリンピック・パラリンピック開催を前提に組み立ててきたが、1年程度の延期が決まったことで、政治日程は一変した。

新年度予算案は成立したが、新型コロナ対策が盛り込まれていないため、◇直ちに追加の経済対策をまとめ、新年度補正予算案を編成、大型連休前の4月下旬の成立をめざす。◇6月17日が通常国会の会期末。◇7月5日が首都・東京の都知事選の投開票と続く。

来年は、◇夏に東京五輪・パラ開催予定。◇7月22日東京都議会議員の任期満了。◇9月30日自民党総裁の任期満了。◇10月21日には、衆議院議員の任期が満了。

つまり、今年はパンデミック終息と世界経済回復という難しい舵取りが続くが、日本の政治日程は、今のところ夏以降は空白状態だ。逆に来年は夏から秋にかけて、主要な政治日程が集中していることがわかる。

 五輪最優先、来年秋解散説

そこで、本論に入って衆院解散・総選挙の時期はどうなるか。個人的に信頼している与党幹部に聞いてみた。

「オリンピックの延期で、今年の夏以降、政治日程に大きな空白ができるのは事実だ。政治がやらないといけない点は、コロナの終息、日本と世界の両方で押さえ込む。それに日本経済の立て直し。いずれも今年秋までにメドをつけるのは、たいへんなことだ。政権に年内解散をやる余裕があるか、ない。そうすると結論は決まってくる。オリンピックを安倍総理がやりとげ、その後、自民党の後継者選び、さらに任期満了前の解散・総選挙。腹を決めてやるしかないだろう」。

安倍首相4選の可能性、任期満了選挙は自民党内は嫌がるなど問題は多い。一方で、新型コロナ感染の流行は欧米で続いており、新たにアフリカや南米などに拡大していく勢いだ。世界経済への影響はリーマンショック以上とも言われている。日本としては、当面、延期した東京五輪開催にこぎ着けることが至上命題になっていると言える状態だ。

そうすると、まずは来年夏のオリンピック・パラリンピックを開催。その後、任期満了・ゴールが決まっている自民党総裁選挙、続いて衆院解散・総選挙を行っていくのが、オーソドックスな対応であり道筋。メイン・シナリオだとみる。

 景気V字回復、年内解散論

これに対して、安倍総理の総裁4選を推進する人たちは、別の見方をしている。元々、今年夏に東京五輪が開催されていた場合は、オリンピック・パラリンピックの成功させた後、新たな国づくりを訴え、年内に衆院解散・総選挙、勝利をめざすのを基本戦略にしていた。来年に持ち越すと自民党にとって不利とされる任期満了選挙に追い込まれるおそれがあるので、回避したいとの事情もあった。

そのオリンピック・パラリンピックが来年に延期されたが、基本戦略は変わらない。今年7月の東京都知事選は、小池百合子現知事を担いで野党に対して圧勝をめざす。その上で、超大型経済対策で日本経済のV字回復をはかり、年内に衆議院解散・総選挙を断行。来年夏の五輪開催・成功を経て、安倍総理の総裁4選、または自らに近い後継者へのバトンタッチを図る道筋を探るものとみられる。

麻生副総理や二階幹事長らを中心に自民党内では、安倍総裁4選論は根強い。問題は、安倍総理が4選論を受け入れるかどうかは横において、年内に新型コロナを封じ込めることができるのか。また、経済再生のメドを国民に示して、解散・総選挙で勝てる経済・社会環境を整えられるのかどうかが最大の問題だ。

つまり、永田町の勝敗、日本国内の事情を軸に解散・総選挙の流れが決まってきたこれまでとは、今回は、大きく異なるのではないか。V字型の急速な景気回復といった不確定要素を前提に解散・総選挙に踏み込んでいくことは不安定で、リスクは大きいのではないか。国民にとっては、リスク・シナリオであり、確率的にも実現可能性は低いのではないかという見方している。

 五輪中止の最悪ケースも

このほか、あまり考えたくはないが、延期したオリンピック・パラリンピックは、本当に来年夏までに開催できるのかどうか。新型コロナウイルスの終息、世界経済再生のいずれもメドがついているわけでない。最悪の場合、五輪の再延期、あるいは、中止の事態も頭の片隅に置いておく必要があるのではないか。

その場合、アスリートの挫折はもちろん、国民にとっても経済的な損失、さらには精神的なダメージは計り知れないほど大きいだろう。個人的な推測だが、その際には、安倍首相は政治責任をとって退陣表明、大きな混乱も予想される。

 安倍総理、レガシー意識も

振り返ってみると、安倍総理は政権復帰まもない2013年5月、ロシアでのG20サミットに出席した後、そのまま南米アルゼンチンのIOC総会に乗り込み、総理スピーチなどを行い、東京招致を射止めた。

この五輪招致が長期政権の原動力になった。そして今回、初のオリンピック延期となったが、来年開催にこぎつければ、安倍総理が強調するように”人類が新型感染症に打ち勝った証の五輪大会”になる。

安倍政権は憲政史上最長の政権になったが、レガシー・政治遺産と言われる功績は見当たらない。今回、五輪開催を実現すれば、オリンピック招致と開催の両方に関わった初めての総理大臣になる。同時に、新型感染症のパンデミックを克服したリーダーと位置づけることも可能になる。

このようにみてくると”リスクを取る、決断”を信条にしているように見える安倍総理は、年内の衆院解散よりも、世界が注目している五輪開催にができるかどうかのリスクへの挑戦を選択するのではないか。端的に言えば、五輪開催優先、感染症克服、世界経済回復をめざすのではないかというのが、私の読み方だ。

 メイン・シナリオ、五輪後解散

以上を整理すると、◇メイン・シナリオは「来年夏の五輪後解散」。◇リスク・シナリオは「今年秋以降、景気急回復後の年内解散」。◇ワースト・シナリオは「五輪中止、政局混乱」ということになる。

衆議院の解散・総選挙については、さまざまな見方・読み方がある。個人的には、今回は、5つの要素があると考える。
①東京五輪パラの開催時期、②新型コロナウイルスの感染状況、③経済・生活再建状況、④政権、与野党の思惑・対応、⑤世論の反応。

今回は、以上5つの要素を分析した上で、3つのシナリオに整理した。まだまだ、流動的な部分も多いので、新たな動きや見方が出てくれば修正しながら取り上げていく。

また、今後は、安倍首相の4選論、政治課題・選挙の争点、野党の戦略、世論の反応などについて、順次、取り上げていきたい。

安倍総理、本当の出番ですよ!コロナ危機

新型コロナウイルス感染の問題は、先週3月19日の専門家会議の提言を受けて、大型イベントの自粛要請は続くものの、政府が要請した一斉休校は終了、地域によって学校が再開、追加の経済対策づくりも急ピッチで進められる見通しだ。

一方、今回のコロナウイルス感染が日本社会や経済へ与えた影響は極めて大きく、安倍政権は乗り切ることができるのかどうか。ここ数か月の政権の取り組みが大きなカギを握っている。端的に言えば、”安倍総理、これからが、本当の出番ですよ!”と言えるのではないかと思う。

新たな局面を迎えつつあるコロナ危機。安倍政権の対応、どんな取り組みが必要なのか探ってみたい。

 ”感染制御のメッセージ” が必要

新型コロナウイルスの感染が中国の武漢で確認されたのが去年12月上旬、日本国内で初めて感染者が出たのが今年1月16日、中国武漢市から帰国した中国国籍の男性だった。それから2か月余り経過したが、国内での感染者は1000人を上回っている状況だ(3月22日18時半時点、1078人。クルーズ船712人除く)。

これまでの政府の対応は、指定感染症の指定・公布、クルーズ船の集団感染、専門家会議の設置時期などを見ると”後手に回っている”と言わざるを得ない。

一方、安倍総理が2月27日に突然、発表した小中高など全国一斉休校の要請は、決め方などに批判を浴びたものの、国民全体に危機感を共有するなど一定の効果はあったと言えるのではないか。

さて、問題はこれからだ。文部科学省は一斉休校措置は終了、地域によって新学期から学校再開の方針を決める見通しになっている。
また、政府は経済対策の取りまとめに向けて、さまざまな業界・団体などからのヒアリングを行っており、経済対策の中身の大胆さや、規模の大きさに関心が集まりつつある。

ところが、経済対策でいくら巨額な予算を積み上げても、感染症を押さえ込む根本対策が十分でないと、国民は安心できない。経済対策も効果を上げるのは難しいのではないか。

そこで、3月27日には新年度予算案が国会で成立する見通しで、大きな節目を迎える。つまり、経済対策をまとめる前に安倍総理は、「コロナウイルスの制御・コントロール」について、どんな見通しを持っているのか、どんな対策に重点を置いて取り組もうとしているのか、国民に明らかにしてもらいたい。

東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、日本の受け入れ体制の整備に関係してくる問題でもある。

 検査と治療体制への疑問

政府の対応策について、安倍総理をはじめ、加藤厚生労働大臣、西村経済再生担当大臣らの記者会見などを聞いて、納得のいかない疑問点が2つある。

1つは、検査体制、具体的には、新型コロナウイルスの感染の有無を調べるPCR検査。日本はどうして検査件数が少ないのかという点だ。
1日に可能な検査は、2月18日には約3800件だったが、3月16日には7500件、およそ2倍に増えた。
一方、実際に行われた検査件数は、1日あたりの平均で、2月18日からの1週間で901件だったのが、3月9日からの1週間では1364件と増えている。

但し、検査が可能な件数は1か月で2倍に増えたのに、実際に行われた検査は、検査能力の2割程度に止まっている。

また、3月6日からは公的医療保険が適用されるので、検査件数は増えると強調されてきたが、公的保険が利用された件数は、全体のわずか2%に止まっている。

政策に詳しい国会議員に聞いても私と同じように、なぜ、日本では件数が増えないのか、役所の側から納得のいく説明はないと話している。

2つ目は、治療体制の拡充だ。専門家会議は、重症者を隔離して治療を行えるようにすることが重要だと指摘した上で、保健所などが対応できるように思い切った予算や人員の投入が必要だと要望している。

ところが、厚生労働省は、都道府県別の重症者の受け入れ見通しの数字は発表するが、体制は十分と言えるのか、十分な声明は聞かれない。
こうした根源部分の対策について、安倍総理などから納得のいく説明が欲しいところだ。

 政権内の対立・確執を危惧

新型コロナ感染に対する対応に関連して、危惧されているのが、政権内の対立、確執だ。

例えば、安倍首相が先に突如、要請した一斉休校。内容もさることながら、一斉休校案について、菅官房長官をはじめ、萩生田文部科学大臣、加藤厚生労働大臣ら側近と言われる閣僚も当日まで知らされていなかったことに驚かされた。

関係者によると端的に言えば、今井総理補佐官の進言を安倍総理が採用し、関係閣僚は外されていたという構図になる。背景として政権運営をめぐって、今井総理補佐官と、菅官房長官との対立、確執が影響しているとの見方がされている。第2次政権発足から8年目に入る異例の長期政権、政権内部が常に一枚岩とはいかないのはある程度、想像できる。

但し、政権発足まもなく東京オリンピック・パラリンピックの招致に成功したころを思い起こすと、大きな様変わりだ。
当時、政権関係者は「政権運営が順調なのは、安倍総理、麻生副総理、甘利大臣、菅官房長官の4人が話し合い、それを官房長官を通じて閣内に徹底してきたこと。総理と官房長官の関係がいいことが大きい。それに政務の総理秘書官・今井さんら各省秘書官グループらが支えていることだ」と話していた。長期政権で、政権中枢の人間関係も変質してきたと言えるのではないか。

しかし、今回は、国民の命と健康、暮らしに関わる問題だ。当面の危機を乗り切るメドがつくまでは、政権内の利害・打算などは横に置いて、危機管理に徹する必要がある。コロナ危機を乗り切ることができるかどうか、これから本当のヤマ場を迎える。”覆水盆に戻らず”とのことわざがある。政権中枢の一体感を取り戻すことができるのか、その点でも安倍総理の本当の力量が問われていると見ている。

揺れる東京五輪と日本政治 コロナ危機

中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの勢いは止まらず、WHO=世界保健機関は12日、「新型コロナウイルスは、パンデミックと言える」と世界的な大流行になっているとの認識を表明した。

日本国内では、異例の小中高校の一斉休校、大相撲は無観客で開催、春の選抜は中止に追い込まれた。13日、株価はバブル崩壊以来の大幅下落。国会では、首相の非常事態宣言が可能になる特別措置法が成立と急展開が続いている。

さて、気になるのは、東京オリンピック・パラリンピックのゆくえだ。アメリカのトランプ大統領は1年延期の可能性に言及。安倍、トランプ電話会談で、安倍首相は「開催に向け、全力で頑張っている」と巻き返し。

万一、中止、延期になると日本政治はたいへんだ。安倍政権のダメージはもちろんのこと、来年秋にタイムリミットの衆議院の解散・総選挙はいつやるのか。

今回の新型コロナウイルス危機は、東京五輪をはじめ、日本政治にどんな影響をもたらすのか探ってみる。

 五輪の開催判断は、IOCにあり

最初に話の前提して、確認しておきたいのは、オリンピックの開催、中止などの判断は誰にあるのかという点。残念ながら、日本政府にはない。IOC=国際オリンピック委員会にある。

2020年のオリンピック・パラリンピック大会の開催都市を決定した際に、東京都、JOC=日本オリンピック委員会、IOC=国際オリンピック委員会の3者で契約を締結している。それによると大会中止の権限は、日本政府や東京都にあるのではなく、IOCが単独の裁量で、中止する権利を有すると書いてある。

マラソンの開催場所が、東京から札幌に変更になった時と同じようにIOCに権限がある。このことを頭に入れておいていただきたい。

 米大統領「1年延期発言」の波紋

さて、驚いたのは、アメリカのトランプ大統領が12日、ホワイトハウスで記者団の質問に答えた発言だ。東京五輪について「無観客など想像できない。あくまでも私の意見だが、1年間延長した方がよいかもしれない」。

さっそく、翌13日に行われた日米首脳の電話会談。安倍首相は「オリンピック開催に向けて、日本として全力で頑張っている」とアピール。トランプ大統領は「日本が透明性のある努力を示していることを評価する」と応えたとされる。

トランプ大統領から、開催延期やむなし発言に関連した言及はなかったというが、延期発言の重さと波紋の大きさを個人的には感じる。

 与党幹部 ”4月中旬押さえ込み”論

安倍総理大臣や、橋本五輪担当大臣ら政府関係者は、いずれも大会の延期や中止は一切検討してないとして、予定通りの開催を強調。東京オリンピックの聖火の採火式が12日ギリシアで行われ、20日には日本に到着する予定だ。

一方、与党幹部に見通しを聞くと「予定通り開催するためには、4月中旬には国内の感染押さえ込みができないといけない。IOCの一部委員が、5月末に判断すると言っているようだが、遅すぎる。また、”風評被害”もなくすることが重要だ。”風評被害”とは、海外の著名選手が、感染の広がりを理由に日本行きを拒否するような発言をする事態だ」。

別の医療分野に精通している自民党議員も「3月下旬から4月上旬にかけて、ウイルスを押さえ込み、4月中旬には、出口戦略を打ち出す必要がある」と同じような考えを示している。

今後の注目点は、専門家会議が3月19日に国内の感染状況や、今後の対応の仕方などについてどんな方向性を打ち出すか。また、4月中旬から5月末にかけて、感染押さえ込みが成功するのか、出口戦略を打ち出せるのかが焦点だ。

 今後の政治シナリオへの影響

それでは、今回のコロナウイルス危機は、今後の日本政治どんな影響を及ぼすのだろうか?

今回のウイルス危機の震源地は中国は、世界のGDPの19%も占めている。武漢はチャイナ7の一つで、イノベーションの中核都市だ。サプライチェーンの混乱、訪日観光客の大幅減少も避けられないので、日本経済への打撃は深刻だ。

つまり、景気と雇用に影響が出ると、アベノミクス、安倍政権へのダメージも予想以上に大きくなることが想定される。

政治への影響はどうか。今年1月のブログで、政治シナリオを3つ予測した。
①東京オリパラ後の年内解散断行。②”オリンピック花道論”。安倍首相が影響力を残して退陣。③ポスト安倍、衆院解散・総選挙とも来年へ持ち越し。

コロナウイルス危機は、一旦、収まってもぶり返しあるということで、専門家は半年から1年程度警戒が必要と指摘。また、日本経済立て直しへ大胆な取り組みが必要になる。

そうすると、最長政権といえども、シナリオ①、②のような余裕はとてもない。③の可能性が大きくなるのではないか。つまり、総裁選び、解散・総選挙といった重要政治日程は「後ろへずれ込む」というのが、私の今の時点での見立てだ。

 WHOからの求めで開催断念も

IOCのバッハ会長は12日、ドイツのテレビ局のインタビューの中で、東京オリンピックの予定通りの開催をめざしていると強調した。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、WHOから大会の中止を求められた場合は、開催を断念せざるをえないという考えを示した。

冒頭に申し上げたようにオリンピック開催の是非の判断は、東京都、日本政府にはない。IOCが権限を持っている。そのIOCの会長が、WHOの判断に従わざるを得ないと語っているのである。

そうすると日本が大会を予定通り開催するためには、まずは、国内の感染を押さえ込むことは、最低限の条件だ。
次に、日本は押さえ込みに成功したとしても、海外諸国での感染が収まらないことも十分ありうる。WHOが開催に難色を示し、開催の条件が整わないこともありうる。ハードルはかなり高い印象を受ける。

日本としては、やるべきことをやるしかない。まずは、3月19日の専門家会議がどんな方向性を打ち出すか。4月中旬以降の日本の感染押さえ込み状況がどうなるか。日本の危機管理能力、取り組み方が問われている。

首相官邸の意思決定は?一斉休校の舞台裏

安倍首相の一斉休校の要請を受けて、全国各地の小学校、中学、高校、特別支援学校では、3月2日から臨時休校が始まった。突然の要請で、学校現場をはじめ、子どもを抱える家庭、休暇申請の社員を抱える企業などは、てんやわんやの対応に追われた。”そこのけ、そこのけ、政権が通る”といった風情に見える。

気になるのは、こうした異例の要請、安倍政権内でどのような意思決定で決まったのか、よく分からない点だ。加えて、これからは、緊急事態宣言の実施もできる特別措置法制定をめざす動きも始まる。

そこで、これまでの安倍政権の対応、いい・悪いの評価は一旦、横に置いて、どんな経緯をたどって決まったのか、整理しておきたい。事実関係はどうなのか、3月2日、3日の両日、安倍首相も出席して行われた参議院予算委員会の与野党の質疑をベースに整理した。

 ▲①安倍首相 政治判断の根拠

第1のポイントは、安倍首相が踏み切った一斉休校要請の考え、その判断の理由・根拠は何かという点。安倍首相は、次のように答弁している。

「専門家から、感染の拡大を防ぐことができるかどうかは、この1,2週間が瀬戸際だとの見解が出された。感染ルートが確定されていない感染者が出てくる中で、判断に時間をかける、いとまがない。私の責任で判断した。専門家に直接うかがったものではない」。つまり、判断にあたっては、専門家の意見は求めず、自らの政治判断で決断したことを明らかにした。

感染・医療の専門家に聞くと、特に今回のような未知のウイルス対策については、政権が方針決定をする前に、医療分野に詳しい専門家や官僚が技術的・専門的な分析・検討を行い、その意見を踏まえて、政治が判断することが望ましいと指摘している。

▲②関係閣僚との調整は

第2は、安倍首相と関係閣僚との調整。具体的には、2月27日に安倍首相が全国一斉に臨時休校をするよう要請する方針を表明した。感染拡大防止を担当する厚労大臣、文教行政を担当する文部科学大臣との調整はどうだったか。

加藤厚労相は、休校要請方針を聞いた時期については「27日午前の衆議院予算委員会の後だと思う」とのべた。

萩生田文部科学大臣は「一斉休校が必要かということは当初、私は問題意識が低かった。文部科学省としては、早い段階から幾つかのシミュレーションをしていた。全国一斉というより、感染状況が違うので、地域によって、休校措置などを検討していた」とのべている。全国一斉休校には慎重な姿勢だ。

2人の閣僚発言からもわかるように首相と担当大臣との間では、事前に十分な検討、意見調整が行われていたとは言えない。27日に急展開したと言えそうだ。

このような事前の調整不足は、子どもを抱える共稼ぎ世帯はどうするのか。学童保育施設の運営、休業に対する保障はどうなるのか、国民の側に、混乱と負担の形で跳ね返る。

2017年、衆院選で突然打ち出された幼児教育などの無償化方針。その後、無認可保育所の扱いなどが詰められておらず、混乱したことが思い出される。

▲③内閣の要、官房長官との関係

第3は、内閣の要、総合調整に当たる官房長官との関係。今回の休校問題では、菅官房長官の影は薄い。予算委員会の質疑でも質問が向けられることは少ない。

第2次安倍政権の発足以降、菅官房長官は政策の総合調整、東日本大震災の復興・復旧、数々の不祥事などの危機管理に当たってきた。

また、菅官房長官が中心になって、政務と事務の官房副長官、総理秘書官などと活発な意見交換、濃密なコミュニケーションが長期政権を支える原動力の1つと見られてきた。

ところが、このところ、桜を見る会への対応、今回の新型ウイルス感染対応などでは、菅官房長官の存在感があまり感じられない。首相との距離の広がり、官邸内の不協和音、”外されているのではないか”との見方まで伝わってくる。

(※菅官房長官は、5日の参院予算委員会で、安倍首相が小中高校などに一斉の臨時休校を要請することを知ったのは、2月27日午後だったことを明らかにした。「その日の午後だ。首相と4,5日間ずっと議論し、その日の午後、首相が判断したと聞いた」と答弁。加藤厚労相、萩生田文科相も27日、当日に知らされたことを明らかにしている)

 ▲④最側近の補佐官の存在

第4は、最側近の今井秘書官の存在・役割。これまで見てきたように今回の休校問題では、安倍首相と近いと言われる加藤厚労相、萩生田文科相、それに菅官房長官も、方針決定に深く関わっているようには見えない。

政界関係者に聞くと、今回の対応については、総理大臣の政務秘書で首相補佐官も兼ねる今井秘書官の存在感が増しているという。

確かに今井秘書官は、これまでの苦境の安倍首相を支える役割を果たしてきた。内政、外交、政局対応でも事態の打開に当たってきた。

今回の問題は、野党から「クルーズ船対策で、安倍政権は後手後手の対応」と追及され、内閣支持率も急落する中で、反転攻勢、政権運営の主導権を取り戻すねらいがあったのではないか。そのために安倍首相が、今井秘書官の進言を採用することを決断したのではないかと見ている。

 ▲⑤正念場の政権運営

それでは、これからは、どんな展開になるのだろうか。
ここまでの流れは、24日に専門家会議が「今後1、2週間が瀬戸際」との見解をとりまとめ、25日に政府が感染拡大防止をめざす基本方針を決定した。

ところが、26日に安倍首相は大規模イベントの自粛を要請、27日には小中高の一斉臨時休校の要請に踏み込む考えを表明、政権の対応にブレが目立ち始めた。

こうした背景には、強い政権イメージにこだわる姿勢と政権運営の焦り、首相官邸内の足並みの乱れがあるのではないか。

一方、新型コロナウイルス感染押さえ込みのメドはついていない。
感染拡大が続く中で、相変わらずマスクや消毒液の不足が続く。検査体制や重症者の受け入れ体制の整備も大きな課題。さらには、非常事態宣言などができる特別措置法の制定に向けての野党の協力の取り付けたい。

こうした中で、去年夏の参議院選挙で当選した河井案里参議院議員と、夫の河井克行前法務大臣の公設秘書ら3人が、公選法違反容疑で3日、検察当局に逮捕された。河井案里議員には、安倍首相、菅官房長官が積極的なてこ入れをしたほか、自民党が異例の1億5000万円もの資金を投入・支援をした。

今後、懸念されるのは、東京オリンピック・パラリンピック開催は大丈夫なのか。それに日本経済の先行きだ。

安倍政権は現在、憲政史上、最長の記録を更新中だが、緊急課題は、感染危機の乗り切りだ。合わせて、不祥事への対応と国民の信頼回復、経済運営のかじ取りも必要不可欠で、正念場を迎えている。

”危機感伝わらない”首相会見 新型肺炎

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍首相が29日午後6時から記者会見し、全国の小中高校を臨時休校するよう要請する考えを打ち出した経緯などについて、説明した。

この中で、安倍首相は、異例の休校を要請について「断腸の思いだ」と理解を求めるとともに、保護者が休業に伴って所得が減少した場合、新たな助成金制度を設ける考えを表明した。

この記者会見をどう見るか。休校措置を打ち出した理由や、今後の対応策などについて、具体的で新たな内容は乏しく、危機感が伝わってこない。”説得力は今一つ”と言わざるを得ない。

 新型肺炎後、初の記者会見

今回の安倍首相の記者会見は、新型コロナウイルス感染が広がって以降、初めてだ。
また、小中高校の極めて異例の臨時休校を要請した直後だけに、こうした決断に踏み切った理由や、今後の取り組み方などについて、学校関係者、保護者、国民に向けてどんなメッセージを発信するのか、大きな関心を持って、記者会見を聞いた。

 具体策、新味の乏しい記者会見

安倍首相の発言内容のポイントを整理すると、次のような点だ。
△政府の専門家会議を踏まえると、今後2週間程度、国内の感染拡大を防止するためにあらゆる手段を尽くすべきだと判断した。

△全国の小中高の臨時休校を要請したことについて「断腸の思いだ。何よりも、子どもたちの健康・安全を第1に感染リスクに備えなければならない」と判断した。

△保護者の負担軽減に向けて、学童保育は春休みと同様、午前中から開所するなど自治体の取り組みを支援するとともに、新しい助成金制度を創設することで、正規、非正規を問わず、休職に伴う所得の減少に対する手当の支援に取り組む。

△感染拡大の防止に向け、第2弾となる緊急対策を今後10日程度のうちにとりまとめる。

以上のような点を中心に説明したが、例えば、休業に伴う助成はどういう制度にになるのかなど具体的で、新味のある説明は乏しかった。このため、安倍首相が「断腸の思い」と語っても、危機感が伝わってこない。”説得力は今一つの記者会見”と言わざるを得ない。

 問われる政権の危機管理

それでは、安倍政権の対応としては、今、何が最も問われているのか。
新型ウイルス感染を防いでいくためには、幅広い分野で、全国規模で対策を実施していく必要がある。

具体的には、総理官邸が、中央省庁や地方自治体と連携・協力を強めるとともに、医療機関や大学、企業、国民がそれぞれの役割を果たしながら、連携していく体制をつくることが重要だ。政権が「総合的な調整を行い、危機管理の中枢」としての役割を果たしていく考えを表明すべきではなかったか。

あるいは、今後、感染危機に対応するため、新たな法律を制定するため、野党に協力を求める。これまでの行き掛かりは一旦、横に置いて、党首会談を呼びかけるなど大胆な取り組みを提起すべきではなかったか。

 実行プロセスに専門家の意見を

今後、対策を実行していくのあたっては、専門家と官僚の意見、協力がカギを握ってくる。政治主導、安倍1強政権といっても、今回の感染症の分野では、所詮、素人だ。疫学・医療の専門家・プロ、官僚の意見を踏まえて、対策をまとめ、実行に移していく必要がある。
政府は専門家会議を設置しているが、この専門家会議のメンバーは、今回の全国一斉の休校措置について意見を求められたことはなく、「政治判断」だと受け止めている。

野党などから「政府の対応は、後手後手」などと批判されても、政策決定と対策実行に当たっては、まずは、専門家や官僚に技術的・専門的議論を行ってもらう。その上で、そうした意見・助言を踏まえて、政治が決断・実行していく。こうしたプロセスを取ることが、本来の危機管理ではないか。

これに対して、こうしたプロセスなき政権運営は危うい。安倍政権がどんな対応、政権運営をしていくのか、正念場を迎えている。

 

全国臨時休校と危機管理の本質

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、全国すべての小中高校を、来月2日から臨時休校するよう要請するとの驚くニュースが、27日夕方飛び込んできた。

政府の対策本部で安倍首相が表明したもので、感染拡大を抑制し、国民生活や経済に及ぼす影響を最小にするために必要な法案も準備するよう指示したという。

今回の臨時休校は、踏み込んだ対応策で賛否両論あると思うが、結論から先に言えばありうる措置だと考える。

問題は、政権の危機管理のあり方。何を最優先に取り組むかという問題を考える必要があるということ。
今、最優先でなすべきことは、感染源の正確な把握。そのための検査体制を早急に整えること。もう1つは、感染拡大期に備えて診察・治療体制の整備だ。

問題の本質は、学校の休校措置ではなく、感染源の検査と対策。ここを最重点に対応していくことが重要だと考える。みなさんはどのようにお考えでしょうか。

全国臨時休校、どう評価?

この臨時休校、安倍総理大臣は、北海道などで小中学校などの臨時休校の措置が取られていることに触れた上で、次のように表明した。

「ここ1,2週間が極めて重要な時期だ。何よりも、子どもたちの健康第1に考え、日常的に長時間集まることによる大規模な感染リスクににあらかじめ備える必要がある」とのべ、来月2日から全国全ての小学校、中学校それに高校と特別支援学校について、春休みに入るまで臨時休校するよう要請する考えを示した。

こうした対応をどう評価するか? 2009年の新型インフルエンザの際の対応が思い出される。世界的な流行になったが、日本は他の国に比べて圧倒的に死亡者数を押さえ込むことに成功した。

この時は、関西、大阪や兵庫で大流行したが、学校の臨時休校・閉鎖措置を実施したことがウイルスの駆逐に成功した要因だったという。こうした例を考えると、臨時休校の措置も1つの選択肢だと考える。

 本質は、感染源対策にあり!

そこで、問題の本質はどこにあるか?それは、コロナウイルスの感染拡大をどう防ぐか、感染源対策にある。

今回は、政府が本格的な対策を打ち出す前に、既に中国などから大勢が入国しており、水際対策だけで完全に封じ込めることはできない。このため、水際対策は続けながらも「国内対策にシフト」する必要があるというのが専門家の意見だ。

つまり、コロナウイルスの感染感染源をどう防ぐことができるかにある。そのためには、感染源の検査、検査で重症者や接触者を突き止め、死亡者などを最小限にし、最終的に感染源を押さえ込むことにある。

学校への新型ウイルスの侵入を防ぐことは大事だが、感染源は学校以外にある。その感染源を検査で突き止め、防止していくことが基本だ。

 政権の危機管理、検査と治療体制

政府のこれからの新型感染対策では、政権の危機管理能力が問われる。幅広い分野での対策を、全国規模で行う必要がある。そのためには、政府、中でも対策・実行の司令塔として「総理官邸、政権の総合的な調整力」がカギを握っている。

その危機管理では「最悪の事態」に備えるのが鉄則だ。最悪の事態への対応として、感染拡大防止に学校の臨時休校もありうる。

但し、問題の本質は、休校ではなく、感染源の抑制だ。具体的にはウイルスの検査体制をどうするのか。政府は、1日に全国で3800件まで検査能力を拡大できたと強調してきた。ところが、実際は900件に止まっているという。医師が保健所に検査を依頼しても、人手不足などを理由に断られるケースもあるという。

また、重症者を入院させ、治療を行い、死亡者を最少化することが感染症の押さえ込みにつながる。感染拡大期に全国で、入院・治療の受け入れ体制を整備することが最も問われる点だ。

安倍政権としては、こうした検査、治療体制の整備に予算、人材をどのように投入するのか、大胆で説得力のある対策を提起することが最も問われる点だと考える

 問題の本質、見極めが大事!

最後に繰り返しになるが、危機の際には、問題の本質・核心は何か。ここを立ち止まって見極めることが大事だ。

学校の全国規模の臨時休校、前例のない取り組みで、子ども達の暮らし、家庭の受け入れ体制など多くの問題を抱えており、大きな議論を巻き起こすだろう。

但し、問題は繰り返しになって恐縮だが、感染源を突き止め、抑制することだ。
そのための検査、診察・治療体制をどうするのか。そのために政権はどんな対策を考え、実行しようとしているのか。この点についての政府の方針と説明を求めていくことが最も必要なことだ。問題の解決の順番を間違えないことが肝要だと考えます。

 

新型肺炎 問われる政権の危機管理

新型コロナウイルスの感染問題は、クルーズ船の乗客で、感染が確認され医療機関に入院・治療を受けていた80代の男女2人が死亡したほか、全国各地で国内感染の拡大が続いている。

一方、中国などからの観光客が激減、自動車業界ではサプライチェーン・部品供給網の混乱など経済面への影響が深刻になっている。

さらには、大勢の人が参加するイベントや会合の中止など社会の活動面の影響も広がっている。

このように新型ウイルスの感染問題は、当面の政治の最重要課題に浮上しており、特に安倍政権の危機管理が問われている。今回の感染拡大の危機を乗り切ることができるのか、具体的にどんな対応が問われているのか探ってみる。

 新型感染症 政府が取るべき対応

今回のような新型ウイルスの感染に対して、政府・政権はどんな対応をとるべきなのか。感染症・医療の専門家は、次のような対応が重要だと指摘している。

1つは「初期の対応」、水際対策は迅速、強めに行うこと。多少の過剰な対応はやむを得ない。

2つ目は、今回のような潜伏期間が長く、軽症な例も多い疾患では、完全な封じ込めは難しく「国内の感染対策」へシフトする必要がある。

3つ目は、感染拡大の程度、つまり「発生の早期」と「拡大期」に応じて対応策を打ち出していくことの重要性を挙げている。

政府のこれまでの対応に対しては、さまざまな意見や批判が出ている。
一方、当初、新型ウイルスの感染力などはわからず、国内の感染検査も1日300件程度に止まる中で、緊急の対応を迫られたのも事実だ。

以上3点の指摘は、政府対応を評価する際の基準になる。また、一定の区切りがついた段階で、一連の対応について、検証する必要がある。

 危機管理、具体的な対応策

さて、それでは危機管理、具体的にどんな対応が必要なのか。再び、先の感染症・医療の専門家の意見を聞くと次のような対応策を提言している。

1つは、今の状況は「感染の発生早期」の段階。海外からの感染症の完全な封じ込めは難しく、既に国内で感染が進行している。感染早期の段階では、重症者を早期に発見、死亡者を最小限に止めることが重要になる。

2つ目は、次の「感染拡大期」に備えて、一般病院も診療できる体制を準備する。そして、重症者の早期発見、治療を行う。軽症者は、開業医を含めた医療機関で対応する。軽度の人は自宅待機などもありうる。

3つ目は、検査や診療などの全体の体制づくりと運用。政府が中心になって、地方自治体、大学や医療機関、企業、国民がそれぞれ総力を挙げて感染防止を徹底する取り組みができるように総合的な調整を行うこと。

また、政府が方針を決定するのにあたっては、医療関係の専門家、官僚などが技術的・専門的な議論を行い、その結果を踏まえて、政治が判断する仕組みづくりが重要だと指摘している。

こうした取り組みを進め、国内での感染を抑え、事態の収束に導くことができるかどうか。安倍政権はこれまで政治主導を標榜し、政権が看板政策を打ち上げて政策を実行してきた。今回は、医療・保健などプロの意見を聞きながら、国民の命と健康を守っていく、手探りの対応を迫られることになる。

 外交、東京オリパラ、政治日程

今回の新型ウイルス感染の問題は、4月上旬にも予定されている中国の習近平国家主席の来日が予定通り実現するのかどうか。

また、7月24日から半世紀ぶりに開催が予定されている国家的な事業、東京オリンピック・パラリンピックが予定通り実施できるのかどうかにも影響を及ぼすことになる。

さらに、今年の秋以降にも予想される衆議院の解散・総選挙、ポスト安倍の後継総裁選びなどの政治日程も左右することになる見通しだ。

政権の危機管理は、これまでも阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件が起きた村山政権。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の激震に見舞われた民主党の菅政権の時のように、政権の求心力にも大きな影響を与えることになりそうだ。

安倍政権にとっては、最長政権の総仕上げの段階、正念場が続くことになる。

 

 

 

首相のヤジと ”危うい政治”

新型コロナウイルスの感染が新たな広がりを見せつつある中で、国会では安倍首相がヤジを飛ばした問題をめぐって、野党側が強く反発、13日午前に予定されていた衆院予算委員会が流会になった。17日に集中審議をセット、安倍首相が釈明することで審議が再開される見通しだ。

今回の問題は、安倍政権の強気の政治姿勢の現れと同時に、国会が政権をチェックできているのかどうか、”危うい政治”状況を浮き彫りにしているのではないか。

新型ウイルス危機を乗り切るためにも政権や国会のあり方を今一度、考えておく必要があるのではないか。首相のヤジが持つ意味と政治のあり方を考えてみる。

 ”意味のない質問” 首相のヤジ

首相のヤジは、12日の衆議院予算委員会の集中審議で飛び出した。手短に説明すると、立憲民主党の辻元清美議員が質問の最後に「タイは頭から腐る。社会、国、企業などの上層部が腐敗していると残りも腐っていく。頭を代えるしかない」と首相批判で質問を終えて退席しようとした際、安倍首相が「意味のない質問だ」とヤジを浴びせた。

 罵詈雑言、反論の機会なし

このヤジをどう見るか。さまざまな見方、反応が考えられる。
公平を期すために安倍首相の言い分も紹介しておくと、その後の答弁で「最後の部分は質問ではなく、罵詈雑言。私に反論する機会がない。だから、意味のない質疑だ」と反論していた。

やや専門的・技術的な話になるが、国会での質疑では持ち時間のルールがある。参議院では「片道方式、質問時間の片方」で計算する。衆議院では「往復方式、質問と答弁の両方を合わせた往復」で計算。今回は、衆議院の往復方式だ。

首相の答弁が長くなると質問時間が減っていく。また、質問時間が多少、残った場合、質問者は自らの意見をのべた上で、締めくくるのが、一般的なやり方だ。

安倍首相は、こうした点は十分、承知の上で、ヤジを飛ばしたのではないかと思われる。

辻元議員のアクの強い質問、表現はどうかという気もするが、首相が「意味のない質問だ」と切って捨てるのは論外ではないか、私の見方。

 質問者の後ろに多数の有権者

この問題を考える際の大事な点は、”首相と野党の質問者”という図式だけでなく、野党の質問者の後ろには、多数の支持する有権者が存在している点だ。

首相にとっては罵詈雑言、不快な質問であっても、有権者の中には別の意見もありうる。どちらに理があるかは、最終的には視聴する有権者の判断に委ねるのが議会制民主主義のルールだ。

このため、国会では自由で活発な議論が最大限尊重されなければならない。これまでは曲がりなりにも守られてきている。それを覆すような態度は傲慢で、許されないことは、最初にはっきりさせておきたい。

 首相の政治姿勢、”強気一辺倒”

安倍首相の閣僚席からのヤジは、今回が初めてではない。自らの答弁中に、議場からのヤジに対しては制止するよう求める一方、閣僚席からヤジを飛ばす光景はこれまで何度も目撃した。

私は40年近く政治取材を続けているが、安倍首相は歴代自民党政権の中でも珍しくヤジを飛ばす数少ない首相だ。首相経験者の何人かから「政権にとって予算は命、成立までは隠忍自重する」との趣旨の話を聞いてきたが、異なるタイプだ。

ある野党議員に聞くと「首相のヤジは、板についてきた。問題になった際の弁解ぶりも堂々としてきた」と意図的なヤジではないかとの見方をしている。

安倍首相の国会答弁は、端的言えば、”強気一辺倒。相手の野党議員に対して、弱気を見せるな。強気で行け”という路線が特徴だ。
この路線は、総理をはじめ、閣僚、一部の官僚まで浸透しており、”ONE・TEAM”とも言える徹底ぶりだ。

但し、この路線で終始すると、討論で相手を説得したり、逆に譲歩して修正案をまとめ上げたりする余地がなくなる。政権運営が順調な場合は問題は少ないが、行き詰まったりした場合、柔軟なかじ取りが難しく、”政権運営上の落とし穴、危さ”が潜んでいると言えるのではないか。

国会・与野党の政権チェック機能

今回の安倍首相のヤジは、行政権と国会との関係の観点からも問題を引き起こす。行政の最高責任者である首相が、国会議員の質問内容について、意味がないと判定しているわけだから、国会としては、野党議員だけでなく、与党議員も政権に対して、”モノ申す、苦言を呈す姿勢”が必要ではないか。

国民の側からすると「政高党低」、安倍首相に対して、党の側から意見をのべることができる議員はほとんどいなくなっているのではないかと疑念を持つ。

国会に対しても、変質・機能の低下を来しているのではないか。憲政史上、最長となった安倍政権に対して、国会はチェック機能を果たしているのかどうか、与野党のあり方を含め、今の政治に危うさを感じる点だ。

知りたい点に応える審議を

国会がやるべき点は、はっきりしている。国民が知りたい点を真正面から議論すること。新年度予算案もまもなく衆議院を通過する可能性が大きい。それまでに懸案・宿題については、議論を整理して到着点をはっきりさせて欲しい。

◇新型コロナウイルスの政府対応の評価、予算は適当か。◇桜を見る会と公文書の取り扱い、◇IR整備の是非、◇閣僚辞任、IR汚職事件、政治とカネの国会での取り組み方、◇東京高検検事長の異例の定年延長など知りたい点は多い。

いずれも点についても政府、並びに与野党の考え方の違いがわかる論戦にしてもらいたい。一連の懸案・宿題の区切りの付け方を工夫して、国民が、今後に関心と期待を持てる国会にする役割・責任が問われている。

 

 

 

 

 

過去の政府答弁と矛盾、検事長定年延長問題

東京高検検事長の異例の定年延長問題で、政府が延長の根拠にしていた国家公務員法の定年制の規定について、過去の政府答弁では「検察官に国家公務員法の定年制は適用されない」と答弁していたことが明らかになった。

これは、2月10日の衆議院予算委員会での質疑の中で取り上げられたもので、政権の対応と、過去の政府答弁との矛盾が明らかになった。新たな指摘なので、前号のブログに続いて、この問題を取り上げる。

 異例の定年延長

最初にこの問題、手短におさらいをしておくと東京高検の黒川弘務検事長は、2月に63歳の定年に達し退職するものと見られていたが、政府は直前の1月31日の閣議で、黒川検事長の勤務を半年間延長する人事を決定した。

検察官の定年は、検察庁法で検事総長は65歳、それ以外は63歳と定められている。但し、検察庁法には定年延長の規定がないとして、政府は国家公務員法を適用して、今回の定年延長を決めた。

こうした政権の対応は、これまでにない異例な対応で、次の検事総長に起用するための措置ではないかとの見方も出されている。

 1981年の政府答弁と矛盾

10日の衆議院予算委員会で、立憲民主党の山尾志桜里衆議院議員が、この問題を取り上げた。

山尾氏は、国家公務員法の改正案を審議した1981年4月の衆議院内閣委員会の議事録を基に、当時の政府委員で人事院幹部が「検察官に今回の国家公務員法の定年制は適用されない」と答弁したと指摘。当時も、国家公務員法で検察官の定年を延長させることは想定しておらず、「政府の今回の人事は、法的根拠がないのではないか」と追及した。

 森法相「詳細は知らず」

これに対して、森法相は「議事録の詳細は知らない」とのべた上で、「検察官も一般職の国家公務員であり、国家公務員に勤務の延長を認める制度の趣旨は検察官にも及ぶ」と従来の答弁を繰り返した。

 政権対応と政府答弁の違い

以上の質疑を聴くと、安倍政権の今回の対応・説明と、過去の政府答弁との間には違い、矛盾があると判断するのが自然だ。

もちろん、新たな解釈を打ち出すこともありうると思うが、従来の政府答弁を踏襲しているのか、それとも新たな判断に転換することにしたのか、事実関係をはっきりさせておく必要がある。

現役記者時代の委員会取材でも、政府答弁は新たな判断か否かを関係者に確認し、原稿にするかどうかの判断基準にしていたからだ。

それだけに、こうした事実関係を明確にした上で、今回の人事をどのように評価・判断するか、国会で国民にわかりやすい議論を続けてもらいたい。

検察の独立性は大丈夫か?検事長の異例人事

国会は、衆議院予算委員会で、新年度予算案の基本的質疑が2月3日から3日間にわたって行われた。新型肺炎と桜を見る会の問題が質疑の中心になったが、私個人が最も気になったのは、東京高等検察庁の検事長の定年延長問題だった。

今回の人事は極めて異例で、次の検事総長、検察トップに起用するための布石ではないかとの見方も出ている。検察の独立性は大丈夫なのか?危惧せざるを得ない。国民の1人として、この人事をしっかり記憶し、今後の検察庁と政権との関係などを注意深く見ていきたいと考えている。

東京高検検事長 異例の定年延長

検察官の定年は、検察庁法で検事総長は65歳、それ以外は63歳となっている。東京高検の黒川弘務検事長は2月8日に63歳となり、定年退官するものと見られていた。ところが、政府は1月31日の閣議で、国家公務員法の規定に基づいて、黒川検事長の勤務を8月7日まで延長することを決めた。

検察という組織は政治権力からの独立が大原則で、そのために定年退官の規定が設けられており、検察官の定年延長は過去に例がないとされる。

政府は国家公務員法の規定を使って、定年延長に持ち込んだ。そして,稲田伸夫検事総長が、慣例通りおよそ2年の任期で8月に勇退すれば、黒川氏が後任の検察トップに就く可能性があると言われる。

 野党「不自然で信頼損なう人事」

この異例の人事は、3日と4日の衆院予算委員会でも取り上げられた。
野党側は「誕生日の1週間前に駆け込みで定年延長する必要性や緊急性はあるのか。官邸に意の通じた人物を検事総長にすえるための不自然で、検察の信頼性を損なう人事ではないか」などと追及した。

これに対して、森法相は「重大かつ複雑、困難な事件の捜査や公判に対応するために不可欠な人材」などと意味不明な答弁。
安倍首相も「この人事は法務省の中で人事を決定し、法務大臣の考えを了とした」とのべるに止まり、納得のいく答弁は聴かれなかった。

 安倍政権の人事

ところで、安倍政権の人事を巡っては、2013年の内閣法制局長官人事が思い出される。それまでの慣例、法制局内からの内部昇格ではなく、憲法解釈の変更に積極的な姿勢を示してきた外務省幹部を起用する異例の人事に踏み切った。

抜擢された新法制局長官は、憲法9条は集団的自衛権の行使を禁止するものではないと従来の法制局見解とは異なる解釈を表明、安全保障関連法成立の流れをつくった。人事は、政策決定に重大な影響を及ぼす。

今回の黒川検事長は、法務省の官房長や事務次官を務め、捜査畑よりも法務官僚としての職務が長い。政界では、官邸に極めて近い人物との見方が強い。

 検察 ”巨悪”摘発の役割も

政治と検察との関係は、古くて新しい問題だ。私個人も、ロッキード事件で田中角栄元総理の逮捕と一審有罪判決まで、リクルート事件での有力政治家の相次ぐ失脚、金丸信副総理の事件などを政治の側から取材してきた。

その当時でも、検察に対する不満や批判はしばしば聞いたが、検察人事などに介入するような動きはなかったと記憶する。

政治と検察は、相互に独立、けん制しあう緊張関係にある。政治に不正がある場合、法と証拠に基づいて、”巨悪”を摘発することが、検察に求められる役割だ。

それだけに検察は、政治的な中立性、独立性を保っていく厳格な自己規律が求められる。同時に政治の側も、そうした検察の役割を認めて尊重してきたのが、これまでの歴代政権・保守政治の流れだ。

 検事総長人事、国民が注視を!

安倍政権は憲政史上最長の記録を更新中だ。
一方で、このところ、菅原前経産相や河井前法相が政治とカネを巡る問題で辞任に追い込まれた。カジノを含むIR汚職事件で、IR担当の副大臣が収賄で起訴されるなど不祥事が相次いでいる。これから、検察の判断が求められる他、裁判で事実関係などが争われる。

このため、政権としても、検察・司法の独立や信頼性に疑念が生じるような対応を避けるのは当然のことだ。

また、政権として人事に対する疑問や疑念に対しては、逃げずに説明することが大切だ。

その上で、次の検事総長人事を最終的にどうするのか、長期政権の評価にも直結する問題だ。国民の1人として、しっかり注視していきたい。特に直接の担当大臣である森法相の責任は極めて大きいと考える。

新型肺炎、経済、社会保障 徹底論戦を!

国会は補正予算が成立、いよいよ新年度予算案の審議が2月3日から始まる。安倍首相と各党の議員が1問1答形式で質疑を行い、国会前半の山場の審議が続くことになる。

先の補正予算の審議では、安倍首相出席の委員会審議が去年の11月8日以来ということもあって、政治とカネなど疑惑・不祥事の問題に集中したが、安倍首相と野党側の主張は平行線をたどった。

新年度予算案の審議では、予算案の中身の審議に加えて、中国・武漢から各国へ感染が拡大している新型肺炎の問題をはじめ、国民生活に直結する消費増税後の日本経済、社会保障制度、さらには外交・安全保障など多くの重要課題について徹底した論戦を繰り広げてもらいたい。
どこが論戦のポイントになるのか、どんな取り組みが必要なのか見ていきたい。

「桜」疑惑 平行線、逃げの姿勢

まず、先の補正予算の審議では、一連の不祥事の中で、首相主催の「桜を見る会」疑惑に質問が集中した。野党側は「首相の地元支持者を多数招くなど公私混同、政府行事の私物化で、公選法の疑いがある」などと追及した。

これに対して、安倍首相は「歴代内閣とも招待基準が曖昧で、招待者数や予算が増えたことは反省する」としながらも、公選法などの法令違反はないと反論、従来の答弁を繰り返した。

「桜を見る会」をめぐる安倍首相の説明については、報道各社の世論調査でも「首相の説明は納得できない」との評価が7割以上を占めている。こうした国民の側の政権不信を払拭するような答弁は見られなかった。招待者名簿の再調査などにも消極的で、”後ろ向きの姿勢”が目立った。

 新型肺炎、政府対応の評価は

さて、新年度予算案の審議では、疑惑・不祥事問題だけでなく、国民の暮らしに関わる、日本経済や社会保障など主要な政治課題についても、真正面から掘り下げた議論を徹底して行ってもらいたい。

当面、国民の最大の関心事は、中国の湖北省・武漢を中心に拡大が続いている新型のコロナウイルスによる感染への対応だ。武漢などに在住していた日本人をチャーター機で帰国させる取り組みが続いている。

政府は、水際対策の実効性を高めるため、入国申請前の14日以内に中国・湖北省に滞在歴がある外国人などの入国を拒否する異例の措置に踏み切った。
また、今回の感染症を「指定感染症」とする政令の施行を、当初の予定から2月1日に前倒しして、強制的に入院させる措置などがとれるようにした。

これに対して、野党側は、「政府の対応は後手に回っている」などと批判しており、今後の対策の進め方などを巡って議論が戦わされる見通しだ。

 国民巻き込んだ議論・対応策を

今回は、新たなウイルス感染が、中国から世界へ拡大するという未知の問題だ。人から人への感染がどの程度拡大し続けるのかどうかなどわからない点も多い。また、感染防止へのさまざまな取り組みを進めるためには、国民の理解と協力が不可欠で、国民を巻き込んだ議論と対応策づくりが重要だ。

このため、当面の緊急対策が一段落ついた後、国会では、この問題にテーマを絞っての議論、あるいは集中審議などを検討してはどうかと考える。水際対策の有効性をはじめ、ウイルスの感染力や変異の可能性、国内の医療体制などの整備の進め方、さらには、観光や経済への影響など幅広い問題が出てくる見通しだ。

国会の関係する委員会が合同で、各界の専門家や関係者を参考人として招いて意見を聞く。その上で、政府の対応策の報告を求め、各党の提案などを含めて議論し、国民に向けて発信する新たな取り組みを行ってはどうか。国民の命と暮らしに関わる問題なので、与野党の党派を超えた取り組みを求めておきたい。

今年夏に半世紀ぶりに再び開催される東京オリンピック・パラリンピックも視野に入れた対応が必要だと思う。

 消費増税後の日本経済は?

次に論戦で聞きたいのは、去年10月の「消費増税後の日本経済」をどう見るかだ。安倍首相は施政方針演説で「日本経済は、この7年間で13%成長し、新年度の税収は過去最高になった」とアベノミクスの成果を強調した。

これに対して、野党側は、この7年間の実質成長率は、OECD加盟国の平均が2%に対し、安倍政権下では1.2%、先進国の中で低い水準に止まっていると批判している。

2月17日には、消費増税を実施した去年10月から12月のGDP速報値も公表される予定だ。経済の現状をどのように認識し、具体的に、どんな政策を打ち出すべきなのか議論を注目して見ていきたい。

 社会保障の制度設計は?

さらに論戦では、最大の懸案「人口急減社会への対応策」も待ったなしだ。
政府は、この国会に中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案を提出する。
また、企業に70歳まで就業機会を確保するよう努力義務を課す「70歳定年法」も提出する予定だ。

こうした法案はいずれも大きな意味のある法案だが、政府の対応策は、果たして、急速に進む人口急減社会を乗り切るために十分なのかどうか。
75歳以上の後期高齢者の医療費の負担をどこまで求めるか。あるいは、今後、急増する1人暮らしのお年寄りのうち、低所得層の最低生活をどのように支えていくのか。

一方で、幼児教育の無償化などが始まったが、子育て世代に対する支援策の充実など大きな課題を抱えている。

 次の衆院選の判断材料に

このほか、外交面では、中東への自衛隊の派遣問題をはじめ、アメリカのトランプ政権が要求を強めている、在日米軍の駐留経費の日本側負担の問題、さらには、北朝鮮の非核化と日本の安全保障体制のあり方なども大きな課題だ。

このように内外に数多くの難問を抱えており、与野党とも難問から逃げずに真正面から議論してもらいたい。

私たち国民の側も”政治離れ、選挙離れ”をどのように克服するのか問われている。与野党の主張、論戦に耳を傾け、どの党の主張・提案が妥当なのか、判断していただきたい。そして来年10月までに確実に行われる次の衆院選に向けて、今から判断材料集めをしていただきたいと考える。

疑惑・不祥事 首相の政治姿勢は?

国会は、安倍首相の施政方針演説に対する各党の代表質問に続いて、27日からは衆議院予算委員会に舞台を移して、補正予算案の審議が始まった。予算委員会の質疑は1問1答方式で、安倍首相と各党との論戦が本格的にスタートした。予算委委員会の論戦、国民の側から見ると、どこを見ておくとわかりやすいのか探って見たい。

本論に入る前、中国で猛威をふるっている新型のコロナウイルスによる肺炎。中国在住の日本人の帰国問題をはじめ、訪日する中国人などの水際対策、国内病院での検査・診療体制などの危機管理に、政府は全力で取り組むことを要望しておきたい。

 問われる首相の政治姿勢

さて、予算委員会での論戦の注目点の第1は、政権に関連した疑惑・不祥事について、安倍首相がどのように受け止め、対応しようとしているのか、政治姿勢の問題だ。

安倍政権を巡っては、去年10月下旬の閣僚2人の連続辞任をはじめ、首相主催の「桜を見る会」の私物化、公私混同ではないかとの疑惑・問題、かんぽ生命をめぐる総務省事務次官の更迭、さらには、カジノを含むIR汚職事件で元IR担当の内閣府副大臣が逮捕されるなどの不祥事が、相次いでいる。

安倍首相の施政方針演説では、こうした不祥事については全く言及しなかった。各党の代表質問に対する答弁でも「桜を見る会」の問題については、従来の答弁を繰り返し、野党側が要求している招待者名簿の記録の調査や、都内のホテルで開かれた前夜祭の費用の明細書などの提示にも応じない考えだ。

報道各社の世論調査では、「桜を見る会」問題の安倍首相の説明は、「納得できない」と受け止め方が7割にのぼっている。また、不祥事については、長期政権による緩みやおごりの現れではないかとの受け止め方も示されている。

それだけに安倍首相が、こうした政権に対する不信感や、首相の説明責任を求める世論の声に対して、どのような認識を示すのか。また、信頼回復へどんな対応を打ち出していくのか、答弁を注目して見ていきたい

 驚きの1億5000万円資金問題

政治とカネの問題では、河井前法相と妻の案里参議院議員をめぐって、去年夏の参議院選挙で、自民党本部が1億5000万円の資金を政党支部に提供していたとされる問題・疑惑が新たに浮上している。

自民党関係者を取材すると「選挙支援の資金としては、1人当たり1500万円程度が一般的だ。これだけ巨額な資金提供は、信じられず驚いている。安倍総裁や二階幹事長といった了解がなければ、提供できないのではないか」と語っている。

去年夏の参議院広島選挙区で、自民党は現職議員に加えて、異例の2人目の候補者として案里氏を擁立し、現職が落選、案里氏が当選する結果になった。この案里氏が当選できたのは、安倍首相や菅官房長官が強烈に支援した影響が大きいと選挙関係者の間では見られてきた。

河井前法相と案里参議院議員の当事者の説明と同時に、安倍首相が総裁としての事実関係の説明と、この問題のケジメをどのようにつけるのかが問われている。

 政権運営、制度の改善も

こうした一連の不祥事については、政権批判だけに終わるのではなく、問題の背景を踏まえて、政権運営や制度の改善などにもつなげてもらいたい。

具体的には「桜を見る会」については、招待者の範囲や予算の使われ方などの事実関係の問題だけでなく、公文書管理の問題がある。官僚が招待者名簿を廃棄したり、文書を加工したりと、これまでさんざん問題になってきた公文書の不適切な取り扱いが今も続いていることが浮き彫りになった。

また、公文書の問題で処分されるのは、いつも官僚だけ。閣僚など政務三役、政治家の責任はどうするのか明確にすべきだと考える。

また、総理官邸は、公文書の改ざん、廃棄などをなくすよう各省庁に強く指示するとともに、公文書は電子化して全て保存するのを原則にするなど抜本的な改革を実行すべきだと考える。

 聞きたい政治課題も山積み

ここまで不祥事の問題を見てきたが、政治の信頼に関わる根本問題なので、予算委員会で一定の時間をかけて、質疑を交わすのは必要だ。

その上で、国民が知りたい政治課題が数多くあることを忘れないでもらいたい。
まず、暮らしに関わる経済。消費増税後の日本経済、低調な個人消費の要因をどのように見ているのか。東京オリンピック・パラリンピック後の経済運営をどうするのか。

また、全世代型社会保障制度改革。政府は、中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案などを今の国会に提出することにしている。一方、急速に進む少子高齢化に対して、こうした法案の対応で十分なのか。社会保障制度改革の内容と道筋について、各党が具体案を示して議論を深めてもらいたい。

さらに外交・安全保障については、中東への自衛隊の派遣の是非。今回の派遣の目的、法的根拠、自衛隊の安全確保は大丈夫なのか掘り下げた議論を聞きたい。
外交問題では、米中の覇権争いが長期化する中で、日本がめざす外交・安全保障政策についても議論を深めるべきだ。
このほか、憲法改正問題や国民投票法案の取り扱いも残されており、国民が知りたい政治課題は山積み状態にあることを忘れないでもらいたい。

したがって、この国会、まずは不祥事にケジメをつけ、政治の信頼回復を図ること。続いて、政策論争でも政府、与野党が大いに意見を戦わせ、「国民が知りたい点に応える国会論戦」を是非、見せてもらいたい。

 

”不祥事山積 国会” 開幕 政局を左右! 

通常国会が1月20日に幕を開け、本格的な論戦が始まる。

今年は、半世紀ぶりに再び開かれる 東京オリンピック  パラリンピック・イヤー。本来は、日本の将来社会をどのように築いていくのか、国会での建設的な議論が期待されていた。

ところが、昨年秋以降、政治とカネをめぐる不祥事や疑惑が相次ぎ、止まるところを知らない。通常国会を前に不祥事がこれだけ続くのは、極めて異例、異常な事態だ。端的に言えば、”不祥事山積 国会”と言わざるを得ない。

このため、一連の不祥事・疑惑をできるだけ早く総ざらいし、激動する内外情勢に対応できるよう政策論議を深めていく必要がある。

この”不祥事山積国会”、安倍政権、与野党双方がどのように対応していくのか、2020年の政局のゆくえを左右する大きな意味を持っている。

 今国会の特徴と与野党の戦略

最初に今年の通常国会の特徴から見ておきたい。
召集日が1月20日で、会期は150日間、6月17日が会期末となる。首都東京の知事選挙の告示が翌18日で選挙戦がスタート、投票日が7月5日。続いて、7月24日から、いよいよ東京オリンピック開会へと重要日程が立て込んでいる。

このため、国会の会期延長は難しい。政府・与党は、事業規模26兆円の大型補正予算案を早期に成立させるとともに、過去最大規模の新年度予算案を年度内に成立させることを一番の目標にしている。

これに対して、野党側は、去年秋の臨時国会で取り上げた「桜を見る会」問題を引き続き追及するのをはじめ、カジノを含むIR汚職事件で、元内閣府の副大臣を務めた現職国会議員が逮捕された問題、さらには自衛隊を中東に派遣する問題を3点セットにして、徹底追及する構えだ。

 予算案と 不祥事をめぐる攻防

そこで、私たち国民の側は、この国会、どこを見ていくとわかりやすいのか。
まず、補正予算案は台風19号や大雨被害の復旧対策が盛り込まれており、野党側も強く反対しづらい。
新年度予算案も与党が圧倒的多数を占めていることを考えると、年度内の成立がずれ込む事態は想定しにくい。年度内成立は、予定通りと見てよさそうだ。

そうすると次の焦点は、一連の不祥事にどうケジメをつけるかが問題になる。このところ、安倍政権をめぐる不祥事の多さには、驚かされる。
発端になった去年10月、新閣僚2人の連続辞任以降を整理してみると次のようになる。

 不祥事 短期間に多発、説明なし

◇去年10月下旬 初入閣の菅原前経産相と河井前法相が連続辞任
◇10月 萩生田文科相「身の丈発言」大学共通テスト制度改革見送り
◇11月「桜を見る会」疑惑、国会で問題、公的行事を私物化批判など
◇12月 かんぽ生命問題、現職の総務省事務次官が情報漏らし更迭
◇12月 IR汚職事件、元内閣府副大臣の秋葉司衆院議員逮捕
◇今年1月 河井案里参院議員と夫の河井前法相の事務所 捜索

安倍政権では、これまでも森友問題と財務省の決裁文書の改ざん、自衛隊の日報問題、加計問題などが表面化したが、それぞれ個別、単発型だったと言える。
ところが、今回は去年10月下旬から2か月余りの短期間に、現職閣僚、首相、官僚トップ、元副大臣など政権関係者が関わる問題が、噴き出す形で起きている。

また、政権の看板政策のIR事業をめぐる汚職事件、大学入試制度改革の柱が先送りされるといった政策面にも影響が及んでいる。

さらに不祥事に対する説明が十分なされていない。例えば、発端の2閣僚の辞任でも当事者が姿を消したままで、説明責任を果たしていないと与党内からも批判が出ている。そして、ケジメがつかないうちに別の新たな問題が起きるといった悪循環が続いている。

 不祥事の総ざらい、本質論も

国会論戦では、当面、こうした不祥事に対する安倍政権の対応が、焦点になる。但し、一部からは例えば「桜を見る会」について、“予算額”は1億円にも達していない。たかが桜の問題。国会は大きな問題を議論をすべきだ”といった政権擁護論も聞かれる。今後も同じような意見が出されることが予想される。

しかし、仮に小さな問題としても、放置していれば大きな問題に発展する恐れがある。特にこれからは社会保障制度改革で、国民に負担増・痛みを求める時代を迎える。スキャンダルには厳しいケジメ、公正な行政が必要不可欠だ。

まずは、安倍首相が相次ぐ不祥事に真正面から向きあい、事実関係をきちんと説明し、今後の対応策を打ち出すなど不祥事の総ざらいと信頼回復が急務だ。
施政方針演説などの国会冒頭から、率直に自らの考えを表明した方がいい。

一方、与野党双方とも不祥事の本質に踏み込んだ議論を行ってもらいたい。
例えば「桜を見る会」で、あきれるのは、なぜ、いつまでも公文書の廃棄が続くのか。森友問題で改善のガイドラインを打ち出したのに効果が全くない。官僚にどのように文書を残させるのかを具体的に示す必要がある。

「カジノを含むIR汚職事件」では、カジノ・IRは観光先進国にふさわしいのか。地域振興・地方創生に役立つのか国民の疑問に答える議論を注文しておきたい。

 将来社会の姿、徹底論争を

通常国会の論戦では、当面、不祥事の問題に議論が集中するのはわかるが、それだけに終始しては困る。国民としても他に聞きたい課題、問題が多いからだ。幾つか、具体的な課題を挙げておきたい。

まず、自衛隊の中東派遣問題。わが国の原油輸入の重要な海域であることは理解するが、今回の派遣目的、法的な根拠、自衛隊員の安全確保は大丈夫なのか。
アメリカのトランプ政権の外交や北朝鮮の非核化問題も抱えており、国会で安全保障論争をもっと活発に行う必要がある。

次に、大学入学の共通テストのあり方。今回、民間英語試験や、数学と国語に記述式問題の導入が見送りになったが、なぜ、直前まで見直しができなかったのか。検証結果と今後の入学試験制度改革について、受験生や関係者の納得が得られる取り組みを強く求めておきたい。

さらに、この通常国会には、中小企業で働くパート労働者に厚生年金への加入を義務づける年金改革法案などが提出される。国民の側には、将来の社会保障制度は維持できるのか、将来不安は根強い。安倍政権が掲げる全世代型の社会保障制度改革の是非を含めて、議論を深めてもらいたい。

 オリパラ後の政局を左右

ここまで通常国会が抱える課題を見てきたが、焦点は、安倍政権が「不祥事山積 国会」を乗り切ることができるかどうかだ。安倍政権の求心力・政権の体力、あるいは、東京オリパラ後の政局のゆくえを左右することになる。

具体的には、安倍政権が不祥事山積国会を乗り切り、求心力を高めることができれば、今年、衆議院解散・総選挙へ打って出る道が開けることになる。

逆に、求心力が低下してくると、いわゆる”オリンピック花道論”のような早期退陣論、そこまでいかなくても”政権末期のレーム・ダック”=死に体状態へつながっていく可能性が出てくることになる。

通常国会の与野党の論戦は、次の衆議院解散・総選挙をにらんだ攻防という意味合いを持っており、激しい駆け引きが展開される見通しだ。

また、通常国会が終わる頃、安倍内閣の支持率がどんな状態になっているのか。現状は、下降局面が続いており、今後、どんな推移をたどるのか。

まずは、”不祥事山積国会”、安倍政権の対応、それに与野党の攻防が、どのような展開になっていくのか、じっくり見ていきたい。

 

 

 

 

 

”最長政権に陰り” 支持率低下 進行中

新しい年・2020年が明けて2週間余り、1月20日からは長丁場の通常国会が、いよいよ始まる。安倍政権は自民党総裁の残り任期が2年を切り、今年、衆議院の解散・総選挙に打って出るのかどうかが、大きな焦点になっている。

そこで、新年、世論の風向きはどうなっているのか。NHKの1月世論調査の結果が公表されたので、そのデータを基に分析してみる。

結論から先に言えば、安倍内閣の支持率は、昨年夏以降、ジリジリと下がり続けており、”最長政権に陰り”が読み取れる。

支持率は政権担当8年目に入っても40%台半ばを維持しているが、中身を詳しく分析してみると”政権に勢い”が見られない。

このため、今年前半の解散・総選挙の確率は低いのではないかとうのが、私・個人の見方だ。以下、その理由、見通しなどを見ていきたい。

 安倍内閣支持率  5か月連続低下

NHKの世論調査は、1月11日から13日までの3日間行われ、14日にまとまった。「NHK NEWS WEB」に掲載されているので、そのデータを基に見ていく。

安倍内閣の支持率は「支持する」が44%で前月より1ポイント減、「支持しない」が38%で1ポイント増、ほぼ横ばいで変化がないように見える。
但し、内閣支持率は数字そのものも重要だが、「トレンド=傾向」をどう読み取るかが大きな意味を持つ。

そのトレンド、去年夏の参議院選挙が終わった翌月・2019年8月、安倍内閣の支持率は49%、5割近くにも達した。しかし、その後、ジリジリと下がり続けており、新年1月まで5か月連続、減少中というのが大きな特徴だ。(去年10月は台風19号の影響で調査自体が中止になっている)

 不祥事直撃、外交努力も吹き飛ぶ

支持率低下は、相次ぐ不祥事が大きな原因だ。9月11日に内閣改造を行ったところまでは比較的順調だったが、10月下旬に菅原経産相、河井法相の連続辞任に始まって、萩生田文科相の「身の丈発言」と大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期など看板政策の取り止めにも追い込まれた。

さらに首相主催の「桜を見る会」についても、安倍首相の地元支持者を招くなど公私混同が明るみになり、防戦に追われた。こうしたことが影響していると見られる。

11月には、安倍首相の通算在任期間が戦前・戦後を通じて憲政史上最長を記録。年末には日米韓の首脳会談など得意の外交も展開したが、相次ぐ不祥事で、外交努力も吹き飛ぶ形になっている。

 ”最長政権に陰り”

そこで、安倍内閣の支持率の中身を分析するとどうなるか。
▲◇去年8月が支持49%、不支持31%。◇今年1月は支持44%、不支持38%。この5か月で、支持が5ポイント下がり、不支持が7ポイント増えたことになる。

政権発足から8年目で支持率40%台半ばを維持しているのは、異例、驚異的だ。
但し、支持と不支持の差は6ポイントまで縮まり、4ポイント変動すると不支持が支持と逆転する可能性もある。”最長政権に陰り”が生じ、”黄色信号”が点滅し始めたと見ている。

 首相不信、浮き彫りに

▲支持する理由としては、「他の内閣より良さそうだから」が51%、次いで「実行力がある」が19%、消極的な支持が多数を占めているのが実態だ。

一方、不支持の理由としては、「首相の人柄が信頼できない」が46%、「政策に期待が持てない」28%などと続く。このうち、「首相の人柄が信頼できない」は8月段階では35%だったので、11ポイントも急増したことになる。

「桜を見る会」の安倍首相の説明に対して、「納得できない」との受け止め方が実に7割に達しており(12月調査)、首相に対する不信感が強いことが浮き彫りになっている。

無党派層 不支持が過半数

▲支持する政党がない、無党派層は全体の4割近くを占める大きな集団だ。この無党派層を見てみると、内閣の支持は21%に止まり、不支持が53%と過半数に達しているのも大きな特徴だ。選挙の際には、大きな不安材料になっている。

以上見てきたように、安倍政権に対する有権者の視線は、厳しさを増していることが読み取れる。

野党も低迷続く

こうした一方で、安倍政権と対峙する野党はどうか。
1月の政党支持率は、野党第1党の立憲民主党の支持率は5.4%。国民民主党は0.9%と低迷状態が続いている。

自民党の支持率は40.0%なので、大差をつけられている。
また、立憲民主党と国民民主党の連携・合流に向けた話し合いも行われているが、有権者の期待感は高まっているとは言えない。

こうした野党の存在感の乏しさ、安倍政権に代わる別の選択肢がないことが、最近の政治に緊張感や魅力を感じられない要因になっている。

衆院解散への影響は?

最後に今後の見通しだが、安倍政権にとっては、年末には、カジノを含むIR汚職事件で、現職の衆議院議員が逮捕された。

今週は、自民党の河井案里参議院議員の陣営が、去年夏の参議院選挙での公職選挙法違反の疑いで事務所の捜索を受けた。昨年秋以来、これほど不祥事、問題が相次ぐのは、これまでにない異常事態だ。

通常国会が始まると野党側は、桜を見る会問題をはじめ、IR汚職事件、総務省の事務次官の更迭問題などを巡って、集中砲火を浴びせる構えを取りつつある。

一方、内閣支持率の低下や、無党派層の支持離れに見られるように、政権に対する世論の風向きは厳しさを増しつつある。

このため、衆議院の解散時期については、今年前半、東京オリンピック・パラリンピックが終わるまでは、可能性は低いと言っていのではないか。これが現時点での個人的な見通しだ。

但し、政治は”生き物”、”小休止なし”、どのような展開をたどるのか?
まずは、今月20日、幕を開ける通常国会の与野党の論戦、攻防をじっくり見ていく必要がある。随時、リポートとして取り上げていきたい。

IR汚職事件、疑惑の徹底解明を!

カジノを含むIR・統合型リゾート施設の事業をめぐって、元内閣府副大臣で自民党に所属していた秋元司衆議院議員が逮捕された事件に関連して、今度は日本維新の会に所属していた下地幹郎衆議院議員が、贈賄側の中国企業の元顧問から現金100万円を受け取っていたことが明らかになった。

贈賄の中国企業側は、秋元議員とは別に「5人の衆議院議員に100万円ずつ資金提供した」などと供述しているとされ、東京地検特捜部が捜査を続けている。

こうした汚職事件の捜査が進む中で、政府はIRの整備を予定通り進める方針で、7日に、事業者の審査にあたる「カジノ管理委員会」を設置した。

これに対して、野党側はIR整備法の廃止法案を通常国会に提出する方針で、今月召集される通常国会では、IRの整備の是非をめぐって、激しい論戦が交わされる見通しだ。

今回の汚職事件の背景や、IR法成立までの問題点などを考えてみる。

IR推進法、整備法とは

最初に基本的なことだが、カジノを含むIR法とは何か手短に整理しておきたい。
IR推進法は、カジノを中心にホテルなどの宿泊施設、テーマパーク、国際会議場、商業施設などを一体的に整備する統合型リゾート(IR=Integrated Resort)の設立を推進する基本法だ。

カジノは本来、刑法の賭博罪にあたり禁止されているが、政府は観光や地域経済の振興につながる公益性があるなどとして、例外的に合法化するものだ。このため、「カジノ解禁法」、「カジノ推進法」とも呼ばれる。2016年に議員立法として成立した。

この法律を受けて、IRの整備・運営の基本ルールを定めたものがIR整備法。全国に最大3か所設置することなどが定められている。IR整備法は、ギャンブル依存症対策基本法とともに2018年7月の国会で成立した。

 秋元議員、IRと深いつながり

今回の事件で逮捕された秋元議員は、内閣府のIR担当副大臣を務めていた2017年9月、衆議院が解散された際に中国企業の顧問から「選挙の陣中見舞い」として、現金300万円を受け取ったのが直接の容疑だ。

秋元議員とIRとの関わりは深い。2016年12月、カジノ解禁を含むIR推進法案を審議した際の衆議院内閣委員長が秋元氏だった。審議はわずか2日間のおよそ6時間で打ち切られ、委員長職権で採決に踏み切った。

その半年後の2017年8月に秋元議員は、内閣府と国土交通省のIR担当の副大臣に就任。その年の12月に自民党の衆議院議員らを誘って、中国の深圳にある中国企業本社を訪問するなど関係を深めていった。

 下地氏認め、自民4人は否定

中国企業の顧問は、秋元議員とは別に「衆議院議員5人に100万ずつ資金を提供した」と供述しているとされる。このうち、日本維新の会の下地幹郎衆議院議員が6日に記者会見し、3年前の衆議院選挙の期間中、事務所の職員が、現金100万円を受け取っていたことを認めた。
一方、残る4人の自民党衆議院議員は、いずれも受け取りを否定している。

下地議員が現金の受領を認めたことについて、日本維新の会の松井代表は「政治資金規正法違反にあたり、議員辞職すべきだ」との考えを示した。

こうした中で、下地議員は7日夜、離党届けを提出したことを明らかにした。議員辞職については、通常国会が召集される20日までに後援会のメンバーの意見を聞いた上で、判断する考えを示した。

これに対して、日本維新の会は8日、離党届けは受理せず最も重い除名処分とする方針を決めた。また、この問題は重大だとして、党として議員辞職の勧告を行うことも決めた。

今回の汚職事件、東京地検特捜部が捜査を続けているが、疑惑の解明を徹底して進めてもらいたい。また、国会も自浄能力が厳しく問われることになる。

 政府 IR整備進める方針

このように汚職事件の捜査が進められているが、政府はIRの整備を予定通り進める方針だ。7日付けで施設を運営する事業者の審査などにあたる「カジノ管理委員会」を設置した。カジノ委員会は、カジノの運営を申請した事業者を審査して免許を交付するとともに、事業運営の監視などにあたることになっている。

政府は、今月中にも整備区域の選定に向けた基本方針を決定する。これを受けて誘致を希望する自治体は、事業者とともに具体的な整備計画を作ることになっている。自治体から整備計画の申請を受け付ける期間は、来年・2021年1月4日から7月30日となる見通しだ。

政府は自治体から出された計画について、来年夏以降、有識者委員会を開くなどして審査し、場所を決定する。施設の建設に数年程度かかるため、政府は2020年代半ばの開業を見込んでいる。場所は最大3か所となっている。

 野党 廃止法案で対決姿勢

これに対して、野党側は、秋元議員が法律の成立にどのように関わったかなど実態の解明を進めるとともに、IR法は「バクチを解禁し、民間企業にやらせること自体に大きな問題がある」として政府の対応を厳しく追及する方針だ。

そして、立憲民主党などの野党4党は、今月召集される通常国会にIR整備法の廃止法案を共同で提出して政府と対決していく方針で、与野党の激しい論戦が交わされる見通しだ。

 重要法案多く、審議十分といえず

次に、IR整備法が整備されるまでの経緯と問題点について、触れておきたい。
IR整備法が与野党の争点になったのは、2018年の通常国会。森友問題で、財務省の決裁文書が改ざんされていたことが明るみになり、大きく揺れた時の国会だ。この時は、最終盤で、働き方改革法案、参議院の議員定数を6増やす法案、それにカジノを含むIR法案が、与党の圧倒的多数の力で相次いで成立した。

IR法案の審議では、カジノを合法化する要件をはじめ、入場回数の制限の根拠、ギャンブル依存症対策の実効性などについて、疑問点が浮上した。
また、条文が251条に及ぶ大型の新規立法だったが、衆参両院の審議時間は20時間前後で、十分な審議が尽くされたとは言えない状況だった。

 汚職事件で住民視線に厳しさも

一方、今回の汚職事件で、地域住民がカジノを軸とするIRに厳しい見方を強めることも予想される。ギャンブル依存症が増加するのではないかという懸念をはじめ、外国人の増加と治安の悪化、マネーロンダリング=不正なオカネを処理する温床になるのではないかいった問題に対する懸念が強まることも予想される。

政府は、IRを成長戦略として位置づけ、「観光先進国」の中核として巨額な投資をはじめ、雇用の拡大、観光客の増加といった経済効果をアピールしている。

これに対し、住民側からは、地域に根付いた伝統文化や、地域の自然、暮らしの体験などに軸足を置いた観光事業を求める意見が強まることも予想される。

通常国会では、こうしたIR事業そのものの評価をはじめ、成長戦略、地域社会の再生のあり方なども含めて議論を深めてもらいたい。

 

 

 

衆院解散はいつか? 秋以降の公算

新年・2020年の政治の焦点は、衆議院の解散・総選挙がいつ、行われるかだ。
政界の情報を総合して判断すると東京オリンピック・パラリンピックが幕を閉じた後、「2020年秋以降」の公算が大きいと見ている。

その理由は、端的に言えば、次のようになる。
まず、「年明け解散」があるかどうかがポイントになっていたが、台風などの災害復旧に加えて、「桜を見る会」問題など一連の不祥事で、安倍内閣の支持率が大幅に低下、解散に打って出る状況にはなくなっている。

その後は東京オリンピック・パラリンピックという大きな行事があるため、結局、オリンピック・パラリンピックが幕を閉じた後「秋以降の公算」が大きい。

但し、オリンピック後の経済情勢が悪化したり、安倍政権の体力が低下したりした場合は、翌年へ持ち越される可能性もある。

さらに、安倍首相の総裁4選論や後継選びの調整が難航したりした場合は、ズルズルとずれ込み、来年秋の「追い込まれ解散」に近いケースもありうる。

このため、解散時期は「秋有力」とまでは限定できず、「秋以降の公算」という見方をしている。
それでは、こうした衆院解散・総選挙の見方・読み方を詳しく見ていきたい。

 新年の政治日程

最初に新年・2020年の主な政治日程について、確認しておきたい。
◆2020年
◇1月20日  通常国会召集
◇4月19日  立皇嗣の礼
◇4月26日     統一補欠選挙(衆院静岡4)
◇春    習近平国家主席が国賓として来日(調整中)
◇6月17日  通常国会会期末
◇7月  5日  東京都知事選挙(6月18日告示)
◇7月 24日 東京オリンピック開会式(~8月9日)
◇8月 24日 安倍首相 連続在職日数歴代1位へ
◇8月 25日 東京パラリンピック開幕(~9月6日)
◇12月     新年度予算編成

◆2021年
◇ 1月       通常国会召集
◇ 7月22日  東京都議会議員 任期満了
◇ 9月30日  安倍首相 自民党総裁任期満了
◇ 10月21日   衆議院議員 任期満了

駆け足で見ていくと次のようになる。
◇新年の1月20日に通常国会が召集され、安倍首相の施政方針などが行われる。その後、補正予算案や新年度予算案の審議が続き、国会会期は6月17日まで。

◇4月19日には、秋篠宮さまが皇位継承順位1位を意味する「皇嗣」になられたことを内外に伝える「立皇嗣の礼」。

◇半世紀ぶりの開催となる東京オリンピックは7月24日に開会式、パラリンピックは8月25日開幕、9月6日に幕を閉じる。

 衆院 解散の時期

予想される衆議院の解散・総選挙の時期としては、
(1)今年1月、通常国会冒頭。
(2)新年度予算案など成立後、7月東京都知事選とのダブル選挙。
(3)東京五輪・パラリンピック閉幕後、秋の臨時国会での解散。
(4)来年2021年1月 通常国会冒頭。
(5)来年秋の任期満了に近い秋の解散になる。

 ”年明け解散” 遠のく

以上5つのケースのうち、今年1月の通常国会冒頭解散。野党第1党の枝野代表など野党関係者や自民党の一部にある見方。安倍首相に近い自民党幹部は「台風19号や大雨の被害が大きく、とても年明けの選挙はできない」と否定的だ。

また、首相主催の「桜を見る会」の公私混同批判をはじめ、大学共通テストの記述式問題の導入取り消し、総務省の現職事務次官の更迭など相次ぐ不祥事、看板政策の取り止めなどで、内閣支持率大幅に低下している。

さらに年末、カジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕され、年明け解散は遠のいたとの見方が強い。

このほか、新年度予算案が成立した後も考えられるが、4月は秋篠宮様の立皇嗣の礼、中国の習近平国家主席の国賓としての来日が調整中で、難しい。
さらに7月5日の東京都知事選とのダブル選も想定されるが、オリンピック直前で実現可能性は低いとみられる。

 ”五輪・パラ後”の秋以降

結局、東京オリンピック・パラリンピックが幕を閉じる9月6日以降、秋の臨時国会が召集され、衆院解散の可能性が大きい。与党の主要幹部もこの見方が強い。

また、来年に持ち越した場合、来年夏は与党・公明党が重視する東京都議会議員選挙が控えている。この時期を避けると今度は、衆議院議員の任期満了に近づき「追い込まれ解散」の恐れが出てくる。このため、年内に総選挙を実施すべきだという圧力が増すのではないか。

 解散から解散 平均3年

ところで、衆議院の解散から、次の解散までの期間はどの程度か?
今の衆議院の選挙制度に変わった1996年の橋本政権以降から、2017年安倍政権の解散までの期間を計算すると「平均3年」だ。
安倍政権に限ってみると、政界の常識より早めに解散に打って出るケースが多く「2年5か月」とさらに短くなる。

平均3年とすると、今年10月、東京オリンピック・パラリンピックが閉幕した後にあたる。今年秋の解散は、過去のケースから見ても確率的に高いということが言える。

 誰の手で解散?五輪花道論も

ところが、今回の解散には、「難問」が残されている。何かと言えば、衆院の解散・総選挙、誰の手で解散するのか。安倍首相か、それともポスト安倍の新しいリーダーかという問題だ。この点は意外に難しい。

安倍首相の自民党総裁としての任期は、来年9月30日まで、2年を切っている。自民党内には党則を再び変えて、安倍首相の4選を求める意見がある。
これに対して、安倍首相は「その考えはない」と完全に否定しており、調整が残されている。

次に衆議院議員の任期は来年10月21日、自民党の総裁任期とほぼ同じ時期に任期が切れる。追い込まれ解散を避けようとすると、任期満了1年前くらいには解散時期の腹を固めておく必要がある。

このため、安倍首相は東京オリンピック・パラリンピック閉幕頃には、総裁4選論と、次の解散・総選挙は自ら断行するのか、それとも次のリーダーに委ねるのか、この「2つの根本問題」に結論を打す必要がある。

4選の考えがない場合、次の総理・総理が追い込まれ解散を避けるためにオリンピック終了を花道に退陣し、後継総裁選びを早めるのではないかとの見方もある。この「オリンピック花道論」も含めて、秋は政局の大きな山場になる。

 解散のタイミングずれ込みも

今年秋の政治の焦点になると見られる2つの問題、総裁4選論を含めた自民党の総裁選び、衆院解散・総選挙の時期の問題について、調整や決断が遅れる場合、あるいはオリンピック閉幕以降、経済情勢や海外情勢が大きく変動したりする場合、解散・総選挙が先送りになるケースも予想される。

来年に持ち越された場合、既に見たように公明党が重視する都議選がある。その時期を避けると解散時期がさらにずれ込むことになり、解散のタイミングは中々、難しい。

以上、見てきたように衆院解散の時期は、今年秋の可能性が大きいが、不確定要素が多く、したがって、有力とまでは言い切れない。ズルズルと調整、決断がすれ込み、来年秋の任期満了に近い時期の解散・総選挙もありうるのではないか。
そこで、今の段階では、「秋以降の公算」というやや幅の広い見方をしている。

 選挙で政治の歯車を回す

最後に次の衆院選挙は、いずれにしても2年以内には、確実に行われる。私たち国民の側にとって、政治に対する見方や心構えを整理しておくことが大事だ。

私たちが知りたいのは、端的に言えば次のような点ではないか。人口急減時代に入り、政治の側は、日本社会の将来設計をどのように考えているのか。そのために独自の重点政策は用意しているのか。国際社会との関係では、米中の覇権争いが激化している中で、日本の外交・安全保障をどう考えるのか。

要は、政権与党、野党側の双方が、日本の将来像の構想を打ち出し「競い合いの政治」を見せてもらいたい。国民の側は、こうした希望、注文を主張し続けると同時に、選挙の際に投票の基準にすることが大事ではないか。

また、技術革新が超スピードで進む時代、国民の側も、個人の力だけでは限界があり、協力・共生の社会を整える必要がある。特に子育て、教育、雇用、親の介護などの社会保障は、社会全体での取り組みが不可欠だ。そのためには、選挙を中心にした政治参加。選挙で政策を最終決定し、整備していく「政治の歯車を回すこと」が問われているのではないかと考える。

 

2020政局 ”激動型” 衆院解散、総裁選び

新しい年、令和2年・2020年が幕を開けた。東京オリンピック・パラリンピックが半世紀ぶりに開催されるが、政治はどのように動いていくのか探ってみたい。

結論を先に言えば、2020年は「激動型の政局の年」になるのではないか。
秋以降、衆議院の解散・総選挙と、ポスト安倍の自民党総裁選びに向けて、激しい動きが展開する年になると見ている。

なぜ、こうした見方をするのか、その理由、背景を以下、明らかにしたい。
併せて2020年の日本政治は、何が問われているのか考えてみたい。

 ” 年明け解散なし”の見通し

野党側や自民党の一部には、年が明けて通常国会冒頭、大型の補正予算案を成立させた後、安倍首相は衆議院の解散・総選挙に打って出るのではないかという観測もあるが、年明けの解散はなしと見ている。

年明け解散説は「桜を見る会」問題で窮地に追い込まれている安倍首相が、局面打開に解散を決断するのではないかという見方だ。

これに対して、自民党幹部は台風19号などの被害が大きく、選挙を行えるような状況ではないとの判断だ。
また、去年秋の閣僚2人の辞任以降、首相主催の「桜を見る会」の規模や予算が増え続けている問題。大学入学共通テストの柱である記述式問題が取り消しになるなどの不祥事が相次いでおり、解散・総選挙どころではないというのが本音だ。

 ”五輪終わると政治の季節”

それでは、どのような展開になるのか。1月20日召集の通常国会で、与党側は、補正予算案と新年度予算案の早期成立をめざす方針だ。

これに対し、野党側は去年の臨時国会に続いて「桜を見る会」の問題を追及する方針だ。
また、年末にはかんぽ生命問題で、総務省の現職事務次官が情報漏洩で更迭されるといった前代未聞の事件も明るみになった。

さらに、安倍政権が成長戦略の柱と位置づけているカジノを含むIR=統合型リゾート担当の元内閣府副大臣、秋元司衆院議員が収賄容疑で逮捕された事件などを取り上げる方針で、与野党の激しい攻防が繰り広げられる見通しだ。

その通常国会の会期末は6月16日。翌17日は東京都知事選挙が告示され、7月4日に投票が行われるため、国会の会期延長は難しい見通しだ。候補者の顔ぶれは決まっていないが、与野党双方とも、首都決戦に場所を移し激しく争う見通しだ。

この後、7月24日に東京オリンピックが開幕、8月25日からはパラリンピックも始まり、9月6日閉幕する運びだ。このオリンピック、パラリンピックが閉幕すると、秋以降は再び政治の季節を迎え、激しい動きが予想される。

 政局激動型、2つの根本問題

秋到来とともに政治は、次第に張り詰めた空気に包まれていくのではないか。

1つは9月30日、安倍首相の自民党総裁任期が任期満了となる1年前。もう1つは3週間後の10月21日、今の衆議院議員の任期満了となる1年前だ。自民党総裁と衆院議員の任期切れが、いずれも1年後に迫り、待ったなしの状況になる。

政権与党は任期満了選挙を嫌がる。期限の設定で、追い込まれ解散の恐れがあるためだ。それを避けるために普通は1年ほど前には解散時期などの腹を固める。

自民党の総裁任期については、ポスト安倍の有力候補が不在との見方から安倍首相の総裁4選論もある。これに対して、安倍首相は今の党則で認められているのは3選までであり、「4選は考えていない」と全否定している。安倍首相の側近を取材しても首相の意思は固いという。

安倍首相は、衆院解散・総選挙と、総裁4選論の”2つの根本問題””に結論を出す必要がある。その時期は、ちょうど東京オリンピック・パラリンピック終了頃に当たる。「新年の政局は激動型」と見る根拠は、この2つの問題に結論を出す時期にちょうど当たるからだ。

  激動政局 4つのケース

それでは新年の政治は、具体的にどんな展開になるだろうか。現実に起きる可能性が高いケースを考えると、次の4つのケースが想定される。

▲第1は、東京オリンピック・パラリンピックの閉幕を受けて、安倍首相が新たな時代へスタートを切る時だとして、年内に「衆院解散・総選挙」に打って出るケース。
総裁4選については、事実上4選を前提とするケースや、選挙結果によるとして直接言及しないケース、さらには選挙後、後任に道を譲るケースがありうる。

▲第2は、後継総裁の調整が難航したり、野党の激しい攻勢などで、衆院解散のタイミングを見いだせずに「解散・総裁4選のいずれも先送り」するケース。

▲第3は、安倍首相が東京オリンピック・パラリンピック閉幕を受けて、後進に道を譲りたいとして退陣を表明、いわゆる「オリンピック花道論」。そして直ちに「後継の総裁選び」が行われるケース。

▲第4は、新総裁を選んだ後、その新総裁が衆院の解散・総選挙に打って出るケース。「首相退陣から、総裁選び、衆院解散・総選挙」へと大激動型の政局展開ケースになる。

 ”オリンピック花道論”の意味

皆さんの中には”安倍1強と言われる時代、途中退陣はありえない”との見方をされる方もいると思う。これに対して、実は”政界のプロ”と目される人たちの中には”オリンピック花道論”は十分ありうるとの見方があるのも事実だ。

半世紀余り前、昭和39年・1964年10月の東京オリンピックの際、当時の池田勇人首相は大会閉幕の翌日に退陣表明、後任に佐藤栄作氏が選ばれた。池田首相の病気が理由で極めて無念だったと思われるが、今回は、安倍首相が自身の影響力を残すことをねらいにしている。

どういうことか。安倍首相としては早期の退陣表明で、総裁選で意中の後継者が優勢な流れを作った上で、衆院解散・総選挙の時期についても、選択肢を広げることができる。さらに退陣後も自身の影響力を残せると見られるからだ。

但し、このねらい通り運ぶかどうか。安倍首相の求心力が維持しているのが前提で、シナリオ通りの展開になるかどうか不確定な要素も多い。

この他、野党が新党を結成し、次の衆院選で政権交代というケースもあり得る。但し、当面、次の衆院選までは自民・公明政権が継続する可能性が高いと見ているので、今回は想定から外している。

 花道論と4選論の確率は?

さて、皆さんから予想される次の質問は、オリンピック花道論や安倍首相の総裁4選論の可能性はどの程度あるのかという点だ。

まず、オリンピック花道論は、総裁選の有力候補者の顔ぶれや構図、それに選挙情勢などと関係してくるので、今の段階で実現可能性に言及できる状況にはない。但し、次の衆院選と、総裁選びとの間を空ける大きな意味を持っている。

一方、安倍首相の総裁4選論については、首相の側近を取材すると「総理は考えていない」と否定的な見方を示す。総理・総裁は、大きな重圧を抱えながら孤独な決断を迫られるポストだ。7年余りも続けていることを考えると、4選は考えないというのは本音ではないかと個人的には見ている。

但し、アメリカ大統領選で安倍首相と相性がいいトランプ氏が再選になった場合、あるいは、後継総裁選びが思うような展開にならなかった場合は、4選論が急浮上するのではないかとの見通しもあり、流動的と言えそうだ。

 衆院解散の確率は?

衆院解散・総選挙の方は、どうだろうか。安倍首相の側近の幹部に聞いてみると「次の衆院選を誰の手で断行するか、安倍首相と次の新しいリーダーの2つのケースが考えられるし、いずれもありうる。新年にならないとわからない」との見方だ。要は、来年前半の国内情勢や海外情勢を見極める必要があるということだと思う。

衆院解散・総選挙については、今の選挙制度になった1996年橋本政権以降、解散から解散までの期間を計算すると「3年」だ。この期間を当てはめると今年10月で、丸3年になる。安倍政権下の解散の期間は、2年5か月とさらに短くなる。

もう1つ、頭に置く必要があるのは、来年7月、与党の一翼を担う公明党が重視する東京都議選が行われることだ。この都議選と、その年の秋の任期満了を外すとなると来年ではなく「今年秋以降」、今年秋か年明けの確率が高くなると見る。
この解散・総選挙については、さまざまな要素が絡むので、次回のブログで取り上げたい。

 新年 日本政治が問われる点

以上、見てきたように新年・2020年の政治は、自民党総裁選びと衆院解散・総選挙が同時並行で進む形になり、激動型の政局の年になる可能性が高い。しかも、史上最長政権、あるいはその後継政権はどんな展開になるのか未知の領域だ。

そこで、私たち国民の側から見て、今の日本政治は何が問われているのか。
▲1つは、向こう2年以内には確実に衆院選挙が行われる。国民が投票所に足を運びたくなるような「国民を引きつける政治」を見せてもらいたい。

安倍首相は国政選挙6連勝中だが、選挙の勝敗は別にして、投票率がいずれも低く「選挙離れ社会が進行中」という深刻な問題を抱えている。

政権与党、特に自民党はポスト安倍の総裁選びで、各候補は「どんな社会をめざすのか」目標・構想を掲げ党内論争を活発に展開すべきだ。最近の党内は、”黙して語らず”、党内論争がなさ過ぎる。

▲2つ目は、野党への注文。野党の合流・新党結成の動きが続いているが、野党各党は「何をめざす政党か、旗印」を明確に打ち出してもらいたい。

また、国民が不満に感じるのは、衆院選挙の小選挙区の場合、選挙の前に勝敗の予想がつく選挙区が多いことだ。これでは投票率は上がらない。候補者の擁立、調整、態勢づくりが必要だ。

▲3つ目は、日本の政治は、人口急減社会への対応という難問に直面しながら、「将来社会をどのように設計するのか」、いまだに答えを出し得ていない。

また、米中の覇権争いが長期化する中で、日本の外交・安全保障のあり方を真正面から検討・再構築していく時期を迎えている。

端的に言えば、「日本社会の将来像と外交・安全保障の構想」の競い合い、選挙で決定する取り組み方が、最も問われていると考える。

政局が激動する年になるのであれば、私たち国民の側は「日本が抱える課題・難問の前進につながるような政治の動きに対する見方や、評価、選挙での投票」を考える必要があるのではないかと思う。

年の瀬 ”逆風強まる安倍政権”

平成から令和に代わった今年もいよいよ、残りわずかになった。
政治の世界では、これまで高い支持率を維持してきた安倍政権だが、このところ世論の風向きが変化し、逆風が強まりつつある。

最大の要因は、首相主催の「桜を見る会」について、世論の側が、安倍首相や政府側が説明責任を果たしていないのではないかと受けて止めていることだ。

それに加えて、カジノを含むIR=統合型リゾートを巡る汚職事件で、秋元司衆院議員が逮捕されるなど新たな不祥事が重なり、歯止めがかからない状況だ。

報道各社の世論調査のほとんどで、安倍内閣の支持率が大幅に下落し、不支持が支持を上回る調査結果も出始めている。

こうした内閣支持率の下落は、新年の政治の動向にも影響を及ぼすので、2019年の締め括りとして、この1年間の内閣支持率などの推移を含めて詳しく分析してみる。

 内閣支持率、年終盤に失速

最初に安倍内閣の支持率の推移について、NHKの世論調査を基に整理しておく。
2019年の1月は支持率が43%、不支持率が35%でスタートした。4月から6月かけて支持率は40%台後半に上昇。7月の参院選も40%台半ばを維持、与党が勝利を収めた。

参院選後の8月は支持率が今年最高の49%まで上昇、不支持は31%まで下がった。その後は、支持率は徐々に下降線をたどり、12月上旬の調査では支持率が45%まで下がり、不支持は37%まで上昇。その差は8ポイントまで縮まった。

報道各社の調査でも11月中旬の調査から、ほとんどの調査で支持率が5ポイントから7ポイントと大幅に下落した。(共同、産経、読売、日経各11月調査)

さらに最も新しい12月の調査で見ると◇共同通信の調査(14、15日)で支持42.7%、不支持43.0%。◇朝日新聞の調査(21、22日)で支持34%、不支持42%で、不支持が支持を上回った。支持・不支持の水準は各社によって異なるが、支持率が大幅に下落する傾向では一致している。

 「桜を見る会」が最大要因

こうした支持率低下の原因は何か。安倍政権を巡る動きとしては、9月11日に内閣改造が行われたが、早くも10月25日に菅原経産相、31日に河井法相が相次いで辞任に追い込まれた。また、萩生田文科相が大学入学共通テストの英語民間試験を巡る「身の丈発言」で謝罪、その後、民間試験の導入延期に追い込まれた。

11月上旬段階の調査では内閣支持率に大きな変化は見られなかったが、11月中旬の調査を境に内閣支持率の大幅な低下が目立つようになった。

この原因は11月8日の参議院予算委員会で、首相主催の「桜を見る会」が取り上げられたことが影響している。野党側は、安倍首相が自らの後援会員を公式行事に招待するなど公私混同、私物化だと厳しく追及し、安倍首相や政府側の答弁内容が変わり、その後の国会論戦の焦点に浮上していった。

報道各社の調査では「桜を見る会」の安倍首相の説明については、「納得できない」「十分でない」などの受け止め方が、いまだに7割前後にも達している。
また、不支持の理由として「首相が信頼できない」との割合が増加している。
つまり安倍首相は説明責任を果たそうとしていないという不信感・不満が読み取れる。

 不祥事の連鎖、政権運営に変調

安倍政権は、これまでは失言や不祥事が起きた場合、早期に閣僚の交代に踏み切ったり、衆院解散・総選挙で局面を打開したりするなど巧みな政権運営で危機を乗り切ってきた。

ところが、今回は最初の2閣僚の更迭は早かったが、その後の相次ぐ閣僚の失言、不祥事、さらには看板政策の変更・取り消しなどにも追い込まれ、「失態の長期化」に陥っている。
また、世論の批判が集中すると看板政策を中止・取り消しており、内閣支持率を気にしすぎではないかと感じるほどだ。その一方で、肝心の政策変更の理由や今後の対応策の説明が乏しく、以前のようなリスク管理能力が見られない。

具体的には、既に触れた2閣僚の更迭、大学入学共通テストの柱である英語民間試験の導入延期、記述式問題の見送り、「桜を見る会」の来年開催の中止、内閣府がこの行事への招待者名簿を廃棄した措置も批判を招いている。

これに加えて、かんぽ生命の不適切販売に関連して、監督官庁の総務省の現職事務次官が、郵政グループに天下りしている先輩の元事務次官に情報を漏洩、更迭されるという前代未聞の失態も明るみなった。
さらには、元内閣府副大臣でカジノを含むIR担当を務めた秋元司衆院議員が、収賄事件で逮捕されるといった事件も大きな衝撃を与えている。

ここまで不祥事の連鎖が続くと、”この歴代最長政権、どこか変だ”と受け止められ、内閣支持率の大幅低下は避けられない。

 安倍政権の反転攻勢は

こうした世論の逆風に対して、安倍政権の反転攻勢は可能だろうか。
年の瀬の12月26日は第2次安倍内閣が発足してから丸7年、8年目に入った節目の日だ。政権関係者は、IR汚職事件に対しても「秋元議員個人の問題で、政権とは関係ない」と強気な姿勢を崩していない。

野党側や与党の一部には、「桜を見る会」などの追い込まれの事態を打開するため、安倍首相は年明けの通常国会冒頭、大型補正予算案を成立させた後、衆院解散・総選挙に踏み切るのではないかという見方もある。

しかし、内閣支持率がここまで下落している状態では、解散を打てる状況にはないとみるのが普通の感覚だ。ましてや、台風19号や大雨などで大きな被害を受けている人たちが全国各地にいる中で、選挙に打って出られる状況ではない。年明け解散・総選挙は、極めて可能性が低いと見る。

そうすると、政権与党としては、外交面での取り組みを進めるとともに、大型の補正・新年度予算案の早期成立で局面の転換を図る以外、有効な手は限られていると見る。

 野党の支持率上がらず

これに対して、野党側は、先の臨時国会では一連の不祥事の追及で、久しぶりに主導権を発揮し一定の存在感を示したと言えそうだ。さらにその後もIR汚職事件などで、通常国会での追及材料には事欠かない見通しだ。

こうした一方で、野党の政党支持率は、横ばい状態で一向に上昇する気配がない。国民の多くは、野党の追及に一定の理解を認めながらも、追及だけでは野党を支持する気にはならないのではないか。

やはり、野党としての対案を打ち出したり、格差の是正、個人消費の拡大といった国民の共感を得られるような取り組みを進めないと、国民の支持は広がらない。次の通常国会では、政権批判だけでなく、野党としての対案、対立軸を打ち出し国民を引きつけられるかどうか。

また、野党第1党の立憲民主党と第2党の国民民主党とが合流して、新党結成までこぎ着けられるかどうかも問われることになる。

 内閣支持率、低下傾向続くか

それでは、今後、安倍内閣の支持率はどうなるのかという質問があると思う。
内閣支持率にはさまざま要素が絡んでくるので、予測は難しいが、海外情勢の要素を除くと次のような点がポイントになる。

◇仕事納めの12月27日、政府は中東地域への自衛艦などの派遣を閣議決定したが、派遣目的や法的根拠は妥当なのかどうか、数多くの論点を抱えている。
◇金融庁と総務省は、かんぽ保険の不適切な販売問題で郵政グループ各社に対する行政処分を決定、郵政グループ3社の社長が責任を取って辞任した。
但し、総務省の前事務次官の情報漏洩の動機なども明らかにする必要がある。
◇さらに秋元司衆院議員の汚職事件については、中国企業からの資金提供が300万円以外にもあったのかどうかなど全容解明はこれからだ。

このようにこれまでの不祥事に加えて、新たな問題・事態の展開が続いており、通常国会では、野党側の厳しい追及が予想される。このため、内閣支持率はさらに低下する可能性が大きいのではないか。

国民の側からすると、国会では、こうした不祥事に対する真相の究明とともに、新年度予算案の中身の点検、社会保障制度の将来像といった難問への対応、それに国際情勢・外交問題などを巡る論争を徹底して行ってもらいたい。
要は、国民が知りたい点に応える論戦、バランスの取れた政策論争をきちんと行うことを政権与党、野党側の双方に注文しておきたい。

 

◆お知らせ

年内のブログはこれで一区切りとし、新年1月1日に新たなブログを投稿できるよう、これから準備に入ります。
ご多忙な中、当ブログをご覧いただき感謝しています。新年もどうぞ、よろしくお願いします。

”この頃都に流行るもの”「政と官の乱れ」

”この頃、都に流行るもの。閣僚辞任に、役人更迭。試験取り止め、桜も見送り”。令和元年もまもなく暮れようとしているが、”このところの政治や霞が関は、ちょっと変だ”と感じる方は多いのではないか。

特に総務省の事務レベルのトップが検討中の情報を漏洩していたとして、更迭された不祥事には驚かされた。

官僚、政治の規律の乱れが深刻化しているのではないか。前回に続いて、政治と官僚の問題について取り上げる。

 事務方トップの更迭

今月20日の夕方、総務省事務次官を更迭との速報が流れた。かんぽ生命の保険の不適切な販売をめぐる問題で、高市総務大臣が緊急に記者会見し、総務省の鈴木茂樹・事務次官が行政処分の検討状況を会社側に漏らしたとして、更迭したことを明らかにした。

その情報の漏洩先が、日本郵政の鈴木康雄・上級副社長で、旧郵政省の先輩・後輩の関係という。鈴木副社長は、2009年に総務省の事務次官を務めており、政界との繋がりが強い人物と見られていた。かんぽ生命の問題を報じたNHKの番組、「クローズアップ現代プラス」の放送に抗議を行った人物としても知られる。

 前代未聞の不祥事

今回の問題は、郵政グループのかんぽ生命の保険をめぐって、顧客が保険料を二重に支払わされるといった不適切な販売が多数明らかになり、会社側が18日に、法令や社内ルールに違反する疑いのある販売が1万2800件あまり確認されたことを公表したばかりだった。

これについて、金融庁は、内部の管理体制に重大な問題があったと見て、かんぽ生命と日本郵便に対して一部の業務停止命令を出す方向で検討を進めている。

総務省も、日本郵政と日本郵便に対して、23日までに原因分析や改善案などの報告を出すよう求めているほか、企業統治に問題があったと見て業務改善命令を出す方向で検討している。

こうした中で、鈴木事務次官は、鈴木副社長に情報漏らしていたことになるが、漏洩の動機などは明らかにしていないという。日本郵政は国が現在も57%の株式を保有し、取締役の選任や解任は総務省が権限を持っている。

つまり、監督官庁である総務省の事務方トップが、同じ役所から天下りした先輩OBに現在進行中の処分情報を伝えていたという前代未聞の不祥事と言える。事実関係を明らかにして、責任を明確にすることを強く求めておきたい。

 官僚の矜恃と規律の緩み

最近気になるのは、官僚の矜恃と規律が緩んでいるのではないかと感じさせられる点だ。私は1970年代後半から40年近く霞が関でも取材をしているが、取材対象となった事務次官は能力、見識とも優れていたし、特に退職後も誤解を生むような再就職、天下り先は慎重に避けていた。

ところが、最近の事務次官経験者の中には、現役時代の利害関係があるのではないかと見られる企業、団体に再就職しているケースも散見される。官僚の矜恃と規律が緩んでいるのではないかと感じさせられる。

一方、霞が関の中には、所管法人の主要ポストを公募方式として、外部有識者の選考委員会で選考を進めるなど透明度の高い仕組みを実践している役所もある。利害関係や行政処分の権限を持つ団体や企業への再就職については、改めて点検、見直しが必要ではないか。

 政権の支持率を気にしすぎ?

政権との関係について言えば、この数か月を振り返ってみても不祥事や重要政策の取り止めが相次いでいる。◇主要閣僚2人の辞任にはじまり、◇大学入学共通テストへの英語民間試験の導入延期、◇記述式問題の導入見送り・白紙撤回、◇首相主催「桜を見る会」の来年開催の見送り、◇「桜を見る会」の招待者などの公文書の廃棄、◇今回の事務次官の情報漏洩と更迭。

安倍政権は11月に憲政史上最長を記録し、外交・安全保障の面では、イラン大統領の来日、12月の日中韓の首脳会談などで存在感を発揮している。

一方で、内政面では不祥事や問題が起きると事実関係など十分な説明がないまま、直ちに人事の更迭、取り止め打ち出される。

このため、政界関係者からは「最近は、世論の批判が集中すると直ぐに方針転換となる。人事や主要政策の取りやめが多すぎる。しかも、取り止めの説明が十分ではない。内閣支持率の低下を気にしているというか、気にしすぎているのではないか」との苦言が聞かれる。

 公文書の廃棄と説明責任

さらに問題が大きくなると本来、存在するはずの公文書が廃棄されて事実関係の確認が進まないという問題が目立つ。政府に対しては、公文書の保存と説明責任をきちんと尽くすことを強く求めておきたい。

公文書の問題は、去年・2018年春、森友問題で財務省の決裁文書が改ざんされていたことがわかり、大きな問題になった。また、ないとされていたイラク派遣の自衛隊の日報が見つかったり、加計学園問題で新たな文書の存在が問題になったりした。公文書管理の重要性が徹底されたはずなのだが、「文書は廃棄され、わからない」といった状態が今年も続いている。

公文書管理法が成立したのが10年前・2009年6月、2011年4月から施行された。その第1条で、公文書は健全な民主主義の根幹を支える「国民共有の知的資源」と位置づけられている。

同時に「国民が主体的に利用できるもの」で、政治家でも官僚の所有物でもない。

さらに「説明責任」は、現在の国民だけでなく「将来の国民」にも説明する責務が明記されている。

 「政と官」の関係見直し

官僚の問題については、大学を卒業して国家公務員の志望者が一時に比べて減少しているとの話を聞く。また、若手・中堅の官僚諸氏は、大臣や政治家に対する進言などがめっきり減っているとの声も聞く。

こうした背景には、官僚主導から政治主導への転換の影響もあるが、政権や政治家側の対応にも問題があると思われる。

日本がこれから内外の難問に挑戦していくためには、官僚の政策能力の活用は不可欠だ。そのためにも「政と官の関係」、政権・政治の側は、官僚が政治と適切な距離を保ちながら、力を発揮できるような体制づくりを考えていく必要があるのではないか。

私たち国民の側も、政治と官僚の関係、バランスをどのように取るのがいいのか、意識しながら政治のこれからの動きを見ていきたい。

取り止め相次ぐ ” 政権の看板政策”

大学入学共通テストに導入される予定だった国語と数学の「記述式問題」について、萩生田文科相は17日、再来年1月からの導入を見送ることを発表した。
「英語の民間試験」についても先月、導入の延期が発表された。これによって、大学入試改革の2つの柱が実施されないことになった。

「英語の民間試験」と「記述式問題」の導入は、安倍政権の教育再生実行会議がきっかけになって打ち出された政権の看板政策だが、相次いで導入延期や取り止めが決まったことになる。

このほか、この秋以降では、内閣改造で主要閣僚の2人が更迭されたのをはじめ、首相主催の「桜を見る会」の来年春の開催が中止になっており、人事や政策面での更迭・取り止めが目立つ。

今回の入試制度改革の問題をどのように見たらいいのか、政権や政治の対応に焦点を当てながら探ってみたい。

 制度設計に大きな問題

大学教育や高校教育を改革していくために、大学入試制度を改善したいというねらいは理解できる。しかし、実際に実施していく上で、受験機会や経費負担の面で数多くの問題が指摘され、公正・公平な入学試験としては、実施面で問題がありすぎるというのが率直な印象だった。

このため、当ブログでも、今回の入試制度改革の問題点を指摘するとともに「制度設計から出直しを!」と提案してきた。したがって、今回の見送りは、やむを得ない措置だと受け止めている。

 文科省の会議で検討へ

問題は、これからどうするかだ。文科省は萩生田文科相の下に設置する会議で、英語の4技能を評価する仕組みや記述試験の充実策などを検討し、今後1年をメドに結論を出す方針だ。

また、萩生田文科相は17日の記者会見で、「誰か特定の人の責任でこうした事態が生じたわけではない。現時点で私が責任者なので、私の責任でしっかり立て直しをしたい」と発言している。

気になる点は、今回の問題は、文科省の所管であり、第一義的な責任があるが、今回の見送りになった経緯の検証にあたっては、文科省の担当部局の対応などに矮小化されることはないかという点だ。問題の背景、特に具体的な問題が指摘されながら、なぜ、早い段階で見直しや中止ができななかったのか、問題の核心部分を明らかにしてもらいたい。

そのためには、歴代の文科相の対応、総理官邸との関係、民間試験の採点などを請け負っていた受験産業と官僚の天下りといった事実関係などについて、正確な調査・検証が必要だ。

その上で、受験生の不安が払拭できる新しい入試制度を打ち出してもらいたい。
受験生や学校関係者、保護者の信頼に応える重い責任がある。

 政権全体の検証・検討が必要

以上のような文科省の検討も必要だが、私個人は、安倍政権全体として、これまでの経緯の検証と今後の取り組み方が必要だと考えている。

というのは、これまで入試制度改革推進派の教育研究者を取材すると「今回指摘されているような問題点は、文科省が設置した検討会議の中で指摘してきた。
但し、文科省側から具体的な対応は見られなかった」と証言している。

一方、慎重派の教育研修者も「文科省も、総理官邸の肝いりの教育政策には、問題点などを表明できなかったのではないか。大学側は、運営交付金を受ける文科省の顔色をうかがい、文科省は強い立場にある政権を忖度する雰囲気があったのではないか」と疑念を示していたからだ。

今回の大学入学共通テストへの英語民間試験の導入は2013年に安倍首相が設置した教育再生実行会議に遡る。その再生会議の提言を受けて導入への動きが始まった。その後、2014年12月に文科相の諮問機関である中央教育審議会の答申、2017年7月に文科省が民間試験の実施方針を決定した。

つまり、安倍政権が6年余りをかけて推進してきた問題なので、安倍政権として、今回の問題をどのように受け止め、どのような方針で対処するのか明確にする責任があるのではないか。そのためには、文科省任せにせずに、安倍首相自ら、歴代文科相や文科省幹部に指示して、事実関係を明らかにして、責任問題と今後の対応策を打ち出すことが必要ではないかと考える。

 相次ぐ更迭・取り止め、説明なし

今回の問題だけでなく、安倍政権の出来事をこの秋以降、振り返ってみると、内閣改造で初入閣した菅原前経産相と河井前法相の連続辞任・更迭にはじまって、萩生田文科相の「身の丈発言」と英語民間試験の導入延期、首相主催の「桜を見る会」の来年の開催取り止め、さらには、今回の記述式問題の導入見送り・白紙撤回など中止や取り止めが相次いでいる。

政権の迅速な対応は、世論の政権に対する批判・影響を最小限に食い止める危機管理の発想もあるのかもしれないが、今回の入試制度改革は6年間もかけて積み重ねきた問題だ。批判があると”直ぐ取り止め”といった対応も如何なものか。

一方、高校生や保護者にしてみれば人生を左右する問題だ。文科省の対応はあまりにも遅い。なぜ、ここまで時間がかかったのか。文科省の官僚は、有識者で構成する会議で問題点を指摘されながら、なぜ止められなかったのか、昨日の萩生田文科相の記者会見でも納得のいく説明は聞かれない。こうした説明のなさ、けじめのなさに対する不信感が、国民の側に膨らみつつあるのではないか。

プロと現場の声を聞く姿勢を

安倍政権は11月に戦前戦後を通じて歴代最長政権を記録した。外交・防衛などの分野では、国民の評価は高いと言える。一方で、国内の政治課題については、政治主導の名の下、看板政策が次々に打ち出されるが、中身や成果がよくわからないとして、世論の評価も分かれている。

例えば、政権の最大の挑戦と位置づける全世代型社会保障制度、「幼児教育の無償化」などを衆院選の目玉政策として打ち出したが、無償化の対象にする幼児の範囲・対象、財源など具体策が詰められないまま看板政策として打ち上げられ、選挙後に具体策の調整に追われ、与党内からも批判された。

今回の入試制度改革問題にしても、役所の側が、総理官邸に遠慮して、問題点などについての声をあげられなかった面はなかったのかどうか。

歴代の政権に比べて、安倍政権は「官僚や有識者などプロの意見、現場の高校の先生や保護者の声を聞く姿勢」が乏しいのではないか。問題に気づいた時に、軌道修正していく仕組みが必要ではないかと考える。

内閣支持率 支持と不支持逆転も

気になる点の最後は、安倍内閣の支持率がこのところ下がり続け、支持と不支持が逆転する調査結果が出ていることだ。

◇時事通信が12月6~9日に実施した調査では「支持」が7.9ポイント減40.6%、不支持が5.9ポイント増の35.3%。支持と不支持の差は6ポイント。「桜を見る会」は廃止すべきが6割に達し、この問題が影響しているものと見られる。

◇読売新聞の12月13~15日調査では「支持」が1ポイント減の48%、「不支持」が4ポイント増の40%。支持・不支持の差は8ポイント。「桜を見る会」の説明に「納得していない」が75%に上っている。

◇産経新聞の14、15日調査では「支持」が43.2%で1.9ポイント減、「不支持」が40.3%で2.6ポイント増。不支持が40%を超えたのは9か月ぶり。支持と不支持の差は、3ポイントに縮まっている。

◇共同通信の14、15日調査では「支持」が6ポイント減の42.7%、「不支持」が4.9ポイント増の43.0%。支持と不支持が1年ぶりに逆転した。
「桜を見る会」疑惑に関し「十分に説明していない」が83.5%にも上った。

各社に共通しているのは「桜を見る会」の「首相に説明」に納得しておらず、「不支持率が上昇」。支持と不支持が接近、調査によっては逆転していること。

 長期政権に、国民の厳しい視線

安倍政権は、臨時国会が閉会「桜を見る会」の批判が沈静化するのを待つ一方、新年度の政府予算案を編成、年末にはイラン大統領の来日、中国での日中韓首脳会談など得意の外交を展開すれば再び支持率は回復、政権の浮揚は可能という強気の意見も聞かれる。

これに対して、世論の側は、歴代最長になった安倍政権に対して「緩みがある」と思うが7割近くにも達している。首相の自民党総裁4選論に対しても、賛成は3割にも達しないなど国民の視線に厳しさが増している。(共同通信調査結果)

このため、今回の記述式問題をはじめとする政権の看板政策の取り止め・撤回については、説明を尽くさないと、人心は一気に離れる恐れがある。

これから年末にかけての安倍外交がどんな結果になるのか、それによって安倍政権の支持率・求心力はどうなっていくのか、さらには野党の合流問題のゆくえの3点を注目して見ていきたい。

備考:大学入試制度改革は、当ブログでは、次の日付で投稿しています。
◇11月  8日 「制度設計から出直しを! 英語民間試験」
◇11月24日 「民間任せ 現場の声 生かして再設計を! 英語民間試験」

 

野党合流 問題 ”選挙で勝てる野党は必要か?”

野党第1党の立憲民主党と第2党の国民民主党を軸にした合流問題が大きな山場を迎えている。この野党合流問題について、私たち国民の側から見るとどんな意味を持っているのか考えてみたい。

今回の野党の合流問題は、突き詰めていけば「選挙で勝てる野党は必要か?」ということになるのではないか。つまり、国民の側から見て、合流が「いいと思うか」、逆に「必要ない」と考えるかの評価の分かれ目になるからだ。

今の野党は「国政選挙で6連敗中」。今のままだと有権者は投票する前から選挙結果は明らかだとなりかねない。選挙に関心を持ち、投票所に足を運ぶ人を増やすためにも私は「選挙で勝てる野党」、「しっかりした野党」が必要と考える。
そこで、選挙で勝てる野党はなぜ必要なのか。果たして、そうした野党はできるのか、そのためにはどんな取り組みが必要なのか考えてみたい。

 共同会派から、政党の合流へ

最初に、これまでの野党の動きについて、手短に整理しておきたい。
10月4日に召集された臨時国会では、野党の立憲民主党、国民民主党、社民党、それに衆院の無所属議員でつくる「社会保障を立て直す国民会議」の4党派は「共同会派」を結成した。共同会派の規模は衆院で120人、参院で61人、第2次安倍政権発足以降、野党の会派としては最大になった。

当初、共同会派は足並みが乱れるのではないかといった冷ややかな見方もあったが、野党側は、2閣僚の連続辞任をはじめ、英語共通試験の延期、「桜を見る会」の公私混同といった問題を追及、一定の成果を上げたと言える。

こうした流れを受けて、立憲民主党の枝野代表は12月6日に国民民主党、社民党の党首らと会談し、野党勢力を結集し政権の奪取につなげたいとして、立憲民主党への合流に向けた協議を呼びかけた。

これに対して、国民民主党の玉木代表は、合流した場合の政策や党名などについて対等な立場で協議することなどを求めており、12月17日に枝野代表と党首会談を行う方向で調整が進められている。合流問題は山場を迎えつつある。

 基本的立ち場の違い、ハードルも

今後の見通しだが、両党の関係者を取材すると、双方とも「野党としての大きな塊をめざす」という方向では一致しているが、いざ、合流へ前に踏み出せるか、ハードルが多いのも事実だ。

第1は、「合流に向けた基本的な立ち場の違い」だ。立憲民主党側は、自らの野党第1党へ他の党派が合流してくることを基本にしている。これに対して、国民民主党側は対等な立場で協議して決定する考え方で、党名、政策、人事などを協議することを求めている。

また、両党とも衆議院側は次の衆院選を控えていることもあり、合流に前向きだ。一方、参院側は夏の参議院選挙で選挙区によっては、両党の候補者が”ガチンコ勝負”を繰り広げたこともあり、後遺症、遺恨が未だに強く残っている。このため、合同会派といっても参議院側では、先の国会では議員総会も別々に開いていた有様だ。

第2は、「理念・基本政策の違い」もある。具体的には原発問題の扱いだ。立憲民主党が原発ゼロの徹底をめざしているのに対し、国民民主党は電力関係労組を抱えていることもあり、原発ゼロは受け入れられない立ち場だ。憲法改正問題への対応や、国会運営の考え方についても違いがある。

第3は、「個別問題」もある。立憲民主党は、国民民主党に比べて支持率は高い。一方、国民民主党は民進党から引き継いだ、およそ90億円の政治資金を保有しているのが強みだ。こうした強みと弱みが双方で憶測を呼び、合流論議に影を落としている面もある。

 年末までに合流はできるか?

当面の注目点は、年末までに合流ができるかどうか。年末が1つの目標になっているのは、政党交付金の一定部分が1月1日時点での所属議員数で決まるという事情がある。大きな政党になれば、政党交付金も増えることになる。

また、年明けの通常国会で安倍政権と対峙していくためには、早期に合流を実現し、新体制で通常国会に臨みたいというねらいもある。

立憲民主党の幹部を取材すると「枝野代表は従来の独自路線から、野党共闘・合流路線へカジを切っており、次の衆院選は新体制で臨む腹を固めている」と早期合流は可能だとの見方を示す。

これに対して、国民民主党の幹部は「枝野代表が国民民主党への配慮を示すことが必要で、今の段階では、その点がはっきりしない。筋書きのないドラマのようなものだ」とけん制する。

このため、年内合流が実現するかどうか具体的な道筋はまだ描けていないと見ている。

 連戦連敗から脱却の責任

このように合流へのハードルは高いが、野党第1党の党首が合流を呼びかけた以上、結論が出ないままズルズルと先延ばしにしていては、合流の勢いが失われるのは明らかだ。

また、野党第1党としては、野党全体をとりまとめ政権交代につなげていく構想を打ち出していく役割も求められる。

こうした点の取り組みは弱かった。安倍政権は国政選挙6連勝中だが、野党の非力さがこうした結果を招いているとも言える。今の野党の状況が続けば、次の衆院選の結果も、戦う前から明らかだとなりかねない。野党第1党の責任は、少なくともこうした連戦連敗状態から脱却することが必要だ。

 選挙で勝てる野党づくり

野党の合流問題に決着をつける上でも「選挙で勝てる野党づくり」を目標に掲げないと、野党間の求心力は高まらず、合流までこぎ着けるのは難しいのではないかと考える。

これからの日本の将来は難問が多い。少子高齢化に伴う人口急減社会と社会保障制度をはじめ、子育て、教育、雇用の整備などについての取り組みが急務だ。そのためには、政治の側の対応も与野党がそれぞれ選択肢を準備し、議論を戦わせながら難問を解決していくことが必要だ。

野党側の対応を取材して感じるのは、”理念なき野合”などと批判されるのを恐れてか、選挙体制づくりが遅れ選挙の敗北を繰り返している。選挙で国民の選択肢を準備することを大義に掲げるとともに、特に次の衆院選挙での小選挙区について、野党側が候補者1本化に踏み込めるかどうかが大きなカギになるのではないかと見ている。

 立民、国民両党トップの決断は?

以上のような「選挙に勝てる野党の選挙体制づくり」を目標に設定し、当面の合流問題に決着をつけることができるかどうか。

また、「何を最重点にやる政党なのか」旗印を明確に打ち出すことができるかどうか。最終的には、両党の代表の決断が、合流問題を左右することになる。

この合流問題がどのような形で決着が着くか、次の衆議院解散・総選挙など新年の政治のゆくえにも影響を及ぼすことになる。

 

 

 

 

内閣支持率低下、首相不信急増の読み方

臨時国会が閉会した。歴代最長になった安倍政権や臨時国会での野党の追及ぶりなどについて、世論はどのように判断しているか。

報道各社の世論調査のデータを分析してみると、安倍内閣の支持率は低下傾向が表れ、安倍首相の人柄に対する不信も急増していることが浮き彫りになった。

一方で、「桜を見る会」を追及してきた野党の支持率も増えていない。
政権・与党、野党側の双方とも世論の支持を得ることができていない。これからの政権運営、政局にどんな影響を及ぼすか、分析をした。

 内閣支持率低下、鮮明に

報道各社の世論調査のうち、最新のNHK世論調査を見ると安倍内閣の支持率は45%で前回調査から2ポイント減、不支持は37%で2ポイント増加となった。
支持と不支持の差は、8ポイント差に縮まった。

夏の参議院選挙が終わった後の8月以降の支持率は49%だったので、トレンドは連続して下がり続けており、12月の45%となった。逆に不支持は、8月は31%だったのが、37%まで6ポイント増えたことになる。
(調査は12月6日から8日、詳細なデータはNHKWebニュースに掲載)

主な新聞・通信社の11月の世論調査で見ると、内閣支持率の下落幅が最も大きかったのは◇日経で7ポイント減、◇読売と産経は6ポイント減。◇共同通信は5ポイント減など。下落幅は異なるが、共通しているのは、支持率は40%台半ばから後半、不支持率は30%半ばから後半。つまり、支持、不支持は接近しつつある。

 首相に対する不信急増

問題は、内閣支持率の中身だ、NHKの世論調査データを基に分析してみる。
◆支持する理由は、「他の内閣から良さそう」が49%、「支持する政党の内閣」が17%で、消極的支持が多い。政策や実行力などを評価する意見は少ない。

◆不支持の理由については、「人柄が信頼できない」47%で圧倒的、「政策に期待が持てない」は26%。安倍首相に人柄に対する不信は、11月調査では35%だったので、12ポイントも急増したことになる。

「桜見る会」説明 納得できない7割

世論調査の質問の中で、首相主催の「桜を見る会」の問題について、安倍首相の説明に納得できるかどうか聞いている。◇「納得できる」は18%に止まり、◇「納得できない」は71%、7割にも達している。
安倍首相に対する不信感の理由は、この「桜を見る会」の問題が大きく影響していることが読み取れる。

政権運営への影響は?

それでは、安倍首相の政権運営への影響はどうだろうか。
NHKの世論調査で12月の支持率45%だった。今年1年・2019年の支持率の平均を計算すると◇支持率は46%、◇不支持34%。(今年は、10月調査が台風の影響で調査を中止したので、11か月の平均になる)

第2次安倍内閣の支持率の年間の平均では、2013年が61%、2014年51%に低下、2015年は46%、2017年47%に持ち直し、2018年は42%に低下した。政権発足から7年が経過したが、支持率は4割をキープし、支持と不支持の逆転を7年間も防いできたのは異例で、巧みな政権運営を続けてきたと言える。

この理由としては、経済・雇用情勢が安定していること。自民党内でのライバル不在。さらには弱い野党、政権が看板政策を次々に打ち出し、国政選挙で連戦連勝を続けていることが挙げることができる。

以上のことから、今回の支持率低下で直ちに政権運営に支障が出てくるとは言えないというのが、私個人の見方だ。問題は、超長期政権のこれからどうなるか。

 野党の政党支持率、伸びず

野党各党に対する世論の評価はどうだろうか。
政党支持率を見ると◇自民36.1%、◇公明2.7%。野党側は、◇立憲民主5.5%、◇国民民主0.9%、◇共産3.0%、◇社民0.7%。◇維新1.6%、◇れいわ0.6%、◇N国党0.1%。◇”第1党”は無党派で41.4%、有権者の4割にも膨らんでいる。

野党側は、先の国会で2閣僚辞任、英語民間試験の導入問題、「桜を見る会」を軸に追及を強めた。野党は、「桜を見る会」追及ばかりと批判する声も聞くが、
野党が政権を追及するのは野党の仕事で、税金の使われ方を厳しくチェックするのは、ある意味、当然とも言える。問題は、それだけに止まっていることに限界があり、世論の支持は広がらないことではないか。

具体的には「桜を見る会」について言えば、公文書の廃棄の問題。官僚がなぜ、記録を残さないのか、残させるためにどうするのか欧米並みのルールづくりを徹底させることはできないものかどうか。政権与党もあまりにも鈍感だ。

今の公文書管理のずさんさは目に余るものがある。自民党政権でも、これまでは歴史の検証に耐えられる政権運営をめざす心意気があった。今の政権は、余りに後ろ向きの姿勢ではないか。

野党側は、不祥事・スキャンダル追及するのはいいが、それだけに止まらず、事態を改善する提案・取り組みを世論は求めている。年明けの通常国会での対応を見守りたい。

 衆院解散・総選挙への影響は?

永田町の一部には、年明け解散。事業規模26兆円の大型補正予算案を成立させた後、衆院解散・総選挙があるのではないかとの声も聞く。
また、これから政権に好材料は乏しいので、与党としては早期解散が有利だ。
さらには、安倍首相は政界の常識より、早めの解散に打って出て、勝利してきたので、年明け解散もあり得るのではないかとの声も聞く。果たしてどうか?

衆院解散・総選挙の時期について、断定的に言えるだけの材料・根拠はない。
但し、世論の側から見ると「早期解散への期待」はほとんどないのではないか。今年は大型台風、大雨の被害が相次ぎ、生活・生業の立て直しに迫られている人たちは全国各地に多い。そうした中で、国民に信を問う大義名分は見いだしにくい。

内閣支持率も、支持と不支持の差は10ポイント程度まで縮まっている。つまり、5ポイント以上変化すると、支持と不支持が逆転する。

さらに、安倍首相に対する不信感が急増していることなどを冷静考えると、正直な所、選挙戦術上も早期解散の理由は見いだしにくい。敢えて解散・総選挙に踏み切ると、世論の反発を招き、混迷の道に陥るのではないかと危惧している。

それよりも、政権、与野党とも、日本が直面している難問、人口急減社会、技術革命時代への対応をどうするのかなど「今後の進路・構想」をとりまとめ、国民に信を問う正攻法の取り組み方を見せてもらいたいと切望している。

 

国会閉会 ”桜” 幕引き、年明け持ち越しへ

臨時国会は12月9日、閉幕する運びだが、皆さんはこの国会、どのようにご覧になっているでしょうか?

焦点の日米貿易協定の承認案件など内閣提出の主要法案はすべて成立した。
一方で、この国会は閣僚2人の連続辞任をはじめ、大学入学共通テストへの英語試験の導入延期、さらには首相主催の”桜を見る会”を巡る問題に報道が集中したが、肝心な事実関係はあいまいなままだ。

政府・与党は会期延長せずに幕引きを図るが、野党は来年の通常国会で引き続き追及する方針で、年明けの国会へ持ち越される見通しだ。
政府・与党と野党側、それぞれ何が問われているのか、国会対応を中心に総括しておきたい。

 不祥事・スキャンダル、説明不足

問題の第1は、この国会での会期中、菅原前経産相と河井前法相の主要閣僚2人が相次いで辞任に追い込まれた。しかし、当事者である2人は、未だに指摘された問題に対する説明を行っていない。また、衆議院本会議での法案の採決にも出席をしておらず、自民党内でも問題になっている。

国の予算・税金が使われている「桜を見る会」についても、どんな人たちが招待されていたのか、予算が年々膨れあがった理由は何かといった基本的な事実関係についても、招待者名簿が廃棄されたとして、十分な説明がなされていない。

野党側は、桜を見る会の前日、安倍首相夫妻が出席して開かれていた「前夜祭」について公私混同、会費も安すぎ買収などの公職選挙法違反の疑いがあると追及したのに対し、安倍首相は会費の補填などはないと否定している。

野党側は一問一答方式の予算委員会での集中審議を要求したが、与党側は応じなかった。結局、参議院本会議での質疑はあったが、予算委員会での安倍首相の説明は行われないまま幕を閉じることになった。

このように不祥事に対する政権側の説明は乏しい、説明不足と言わざるをえない。国会は国権の最高機関と位置づけられており、疑惑・不祥事については、国会の場で真正面から説明責任を果たすのが、首相をはじめとする政権の責務だと考える。

 ”大問題ではない。されど…….”

国会を総括する際には、さまざまな考え方、立ち場があり、評価の基準も1つではない。「桜を見る会」の問題についても、いろいろな見方があると思う。

よく聞く意見の1つに「桜を見る会、大きな問題ではないではないか。予算も国の行事にしては多額すぎるとも言えない。政治家が地元の支持者を呼ぶこともありうる。それよりも野党は、日米貿易協定など重要な問題を審議すべきだ」といった意見だ。

後半の日米貿易協定など重要な問題を審議すべきだというのは、その通りだ。
問題は、国の予算・税金が公正に使われているか、選挙も公平・公正、法律の規定通りに行われているかチェックするのは、国会の本来の役割だ。

私も率直に言えば、大問題であり、何が何でも徹底追及すべきだとまで論じるつもりはないが、”されど、問題なしとは言えない”というのが基本的な立ち場だ。

安倍政権は、会期中に戦前戦後を通じて歴代最長政権となった。長期政権の緩みやおごり批判に対する身の処し方も重要だ。そして、大きな問題でないというのであれば、首相が半日か1日、委員会で説明する。
その代わり、野党に対して、憲法などの審議に応じてもらう”ことも可能ではないか。少なくとも、以前の与野党の国会対応は双方とも柔軟な対応をして、世論の納得を得る工夫があったように思う。国会の運営のあり方については、与野党双方、反省すべき点は多いのではないか。

 ”更迭、取り止め、説明なし”

この国会、安倍政権の対応で、もう1つ、気になる点があるので、触れておきたい。それは、閣僚の不祥事があると即交代、閣僚を辞任させると短時間のうちに後任閣僚を発表。危機管理対策としては、政権に及ぼすダメージを最小限に食い止めるという対応はありうる。但し、更迭の事実関係の説明はない。

萩生田文科相の「身の丈発言」の問題。こちらも厳しい批判がわき上がると早々に英語試験の導入延期を発表。この問題、さかのぼれば、第2次安倍政権が発足、教育再生実行会議の提言を受けて打ち出した看板政策の1つだ。強い批判が出されたのでは事実だが、簡単に方針転換を打ち出したことには、正直、驚かされた。

「桜を見る会」の問題について、安倍首相や菅官房長官の説明もクルクル変わるとともに、来年度の開催取りやめを発表した。昭和27年からという伝統の政府行事の見送りである。但し、その理由、実態は先ほど触れたようにあいまい、よくわからないのが実状だ。

 内閣支持率優先の現れ?

こうした政権の対応、十分な説明がないまま、更迭、取り止め、方針転換が相次いでいるが、どうして行うのか。その理由・背景として、安倍1強と言われ、自民党、官僚も押さえている中で、唯一対応が難しい世論を気にしすぎているのではないか。具体的には、内閣支持率優先の現れではないかといった見方を政界関係者から聞く。

私なり見方は、長期政権で最も難しいのは、国民にどう向きあうか。世論の側からの長期政権に対する批判、”飽き”を防ぐことができるのか。これまで安倍政権は、世論への働きかけを比較的、うまく対応していたと見ている。

但し、この国会での対応ぶりは、説明が不十分で、政権への評価を気にしすぎて逆に不信感を持たれることになるのではないか。長期政権で心がけることは、まずは、事実関係をきちんと説明すること。その上で、間違いがあれば、是正することが王道ではないか。今後の安倍首相、政権のかじ取りを引き続き注視していきたい。

 

 

「桜を見る会」”証拠”の保全と規律が核心!

令和元年も後わずかになったが、国会は首相主催の「桜を見る会」問題一色だ。厳しい財政難にもかかわらず、招待客や予算は膨張し、参加者も政治家の後援会員が多数招かれたりしていたことなどが次々に報じられている。

世論の批判を気にしてか、首相官邸は早々と来年の開催取り止めを発表したが、どこに問題があり、どのように改めていくのか明確ではない。

政権与党側は会期末とともに幕引きをはかり、野党は引き続き追及と叫ぶだけで終わってしまうのではないか。

長年、国会取材を続けてきた1人として言わせてもらうと今回の問題の核心は、証拠=公文書の管理と、ケジメ=官僚、政治家の規律が根本の問題ではないか。同じことを繰り返さないためには、地味だが、こうした取り組みが欠かせないと考える。

 次々に問題、疑惑、事実は不明・説明不足

今回の「桜を見る会」は、先月8日に参議院予算委員会で取り上げられたのが、直接のきっかけで1か月以上経った今も、新聞、テレビで報道が続いている。

昭和27年からの政府行事だが、様々な問題、疑惑が吹き出し、話が具体的でわかりやすいことが、世論の関心を集めているのだと思う。

具体的な問題として、安倍政権の下で招待客が年々増え、開催経費も2014年の3000万円から、19年には5500万円にも膨らんでいる。招待者1万5000人のうち、安倍首相の招待枠は昭恵夫人分をふくめ1000人、自民党関係者枠は6000人にも上っている。本来の「功労者」、各省庁の推薦枠は6000人程度で、全体の半数にも達っしていなかったことなどが明らかになった。

また、野党側は、首相の後援会が前夜祭を都心の有名ホテルで開催し「桜を見る会」とセットで勧誘していたのではないか。前夜祭の会費が1人当たり5000円は安すぎ、公私混同、公職選挙違反の疑いもあると追及してきた。

これに対して、安倍首相は、安倍事務所が後援会員に会費の補填をしたことなどはないとした上で、当初はこの問題に関与していないと述べながら、後に自らの意見を述べたことはある旨の答弁に修正したりしている。
一方、菅官房長官は、桜を見る会については来年の開催を取り止めることを早々に発表したが、どこに問題があり、どのように見直していくのか説明は十分でない。

但し、この問題、政府・与党側はこれまで以上の説明をする考えはなく、今月9日の会期末で、事実上の幕引きを図る方針だ。これに対して、野党側は、引き続き閉会中審査や、来年の通常国会で追及する構えだ。

こうした与野党の攻防だけでいいのか、与野党と別の視点、取り組みも必要ではないかと個人的には考える。

 ずさんな文書管理、”証拠保全”が大事

今回の問題、与野党の議論がかみ合わない原因は「事実関係」がきちんと把握されていない点にある。そもそも今回の問題については、首相や自民党の推薦枠を管理する内閣府は、招待された人たちの名簿は、保存期間が1年未満で廃棄処分にしたので、詳細はわからないと釈明している。

一方で、各省庁側は、招待者名簿を保存してあり、プライバシーの観点から黒塗りにされながらも国会の資料要求に応じて提出されている。
また、国会図書館などには、昭和30年代の「桜を見る会」の詳細な開催資料なども保存されている。

平たく言えば、招待者名簿という「証拠資料」が内閣府分だけが、廃棄処分にされており、なぜ、このような判断をしたのかをはっきりさせることがポイントだ。

 繰り返される”愚行”、公文書のずさん管理

こうした公文書のずさん管理、つい最近2018年にも大きな問題になったばかりだ。自衛隊の日報問題、森友学園、加計学園の問題。森友問題では、国有地が安値で売却されていた経緯を記した文書は当初はないとされ、その後、存在が明らかになり、さらに決済文書が改ざんされていたことも判明した。

国会は、与野党ともにウソの資料に基づいて延々、議論をしてきたわけで、こうしたことがきっかけで、公文書管理のガイドラインも見直され、是正されたと個人的には理解していた。それだけに、繰り返される”愚行”に唖然とさせられた。

こうした廃棄処分の対応、首相、官房長官は「公文書の管理・保全」に万全を尽くすよう改めて指示すべきだ。一方、国会は与野党双方ともに党派を超えて、政府に対して是正を強く要求すべきだ。

 公文書管理の実態は?

こうした公文書の管理の問題・あり方は、今回の問題だけに止まらない。公文書に詳しい関係者に話を聞くと、特に最近の首相官邸で開催される会議については、議事録が公開されず、出席者もはっきりしないなどの問題が多いという。

政府の会議については、重要な政策決定のプロセスであり、どのような議論がなされたのか議事録などを通じて公開するのは当然だ。特に政府・与党の責任者は国民に対する説明責任と具体的な対応を果たしてもらいたい。

 事実解明型の国会審議に改善を!

最後に国会審議のあり方についても触れておきたい。これまで、政治とカネの問題をはじめ、様々な不祥事・スキャンダルが国会で取り上げられてきたが、実態はどうだったのか、最後まで曖昧なまま幕引きとなるケースが多かった。

この理由として、日本の国会は「事実解明型の審議」になっていないことが大きな要因ではないか。つまり、欧米のように事実関係について、各省庁、国会事務局なども動員して調べ上げ、そのデータを基に追及する事実解明型になっていない。
日本の国会審議では、多くは各委員会で各党の委員が個別に質問に立ち、疑問点を質し、追及ぶりを世論に訴える「アピール型の審議」が主流だと言わざるをえない。これを「事実解明型の審議・追及」に変えていく時期ではないかと考える。

そのためにも、まずは、国会審議の材料にもなる「公文書の管理と保全」を徹底すべきだ。その上で、国政調査権に基づく強制力のある調査も検討すべきだ。

一方、首相、閣僚は高い見識に基づく指導力の発揮。官僚は公正な行政の執行・運用をめざし、後世の評価・検証に絶えられる国政の運営を期待したい。国会、行政のトップ、官僚が相互にチェック機能を発揮しながら、公正な政治・行政に少しでも近づけてもらいたい。また、国民の側も関心を持って、きちんと評価・判断していく地道な取り組みが重要だ。

 

 

戦後政治の先駆者的宰相 中曽根元首相死去

「戦後政治の総決算」を掲げ、国鉄の分割・民営化などを成し遂げた中曽根康弘元首相が29日亡くなった。個人的には現役記者時代の首相で、「戦後政治の先駆者的宰相」として位置づけることができる。さまざまな面で今の政治の原型、先取りをしてきた首相・宰相と言える。

中曽根元首相の歩みを振り返ると、内外に多くの足跡・功績を残していることがわかる。同時に今の政治、政治家との違いが浮き彫りになり、「今の政治、政治家のあり方」を考えさせられる。

 「政治家として生涯全う」

中曽根元首相死去のニュースの中で印象に残ったのは、長男、弘文元外相が「息を引き取る直前まで国家の行く末を考え続け、政治家として生涯を全うしました」との感想だ。

101歳で逝去されるまで、毎年5月になると中曽根氏の誕生を祝う会と健在ぶりが、記者仲間を通じて伝わってきた。政界引退後も生涯一政治家として、安全保障や憲法改正問題で発信し続けてきた。

最初にお断りしておくと、私は現役記者時代、中曽根派の取材を担当したことはなく、中曽根元首相を知悉しているわけではない。

田中派担当で、中曽根氏を自民党総裁選で応援するかどうかを巡り、後に幹事長に就任する金丸信氏が「ぼろ神輿を担げるか」と難色を示したり、後藤田正晴氏が「ぼろ神輿は修繕して担げばいい」と収めたりしていた。

また、取材していた後藤田氏が、中曽根内閣発足時の官房長官として就任するまでの経緯。あるいは二階堂進副総裁が、中曽根氏と対峙し最後は副総裁を解任されるまでの時期。
ある時は中曽根氏側から、ある時は対局側から、取材していた当時の記憶をたどりながら、中曽根政権時代を振り返ってみる。

 戦後政治の先駆者

中曽根元首相の経歴や功績については、既にテレビニュースや新聞で報じられているので、省略させていただく。中曽根元首相は、一言でいえば「戦後政治の先駆者的宰相」、「昭和の時代、田中角栄氏と並ぶ保守政治家」と言えるのではないか。ここでは、中曽根政権時代の特徴で、その後の日本政治に影響を及ぼした点について、幾つか触れたい。

▲「首相のリーダーシップ・大統領的首相」

中曽根政権の特徴としては、第1に「首相のリーダーシップ、大統領的首相」を意識して実践していたことが挙げられる。

政権の目標として、行政改革を打ち出し、電電、専売、国鉄の3公社の民営化を実現した。その際、土光敏夫氏が会長を務める臨調・臨時行政調査会を活用して改革案を取りまとめ、自民党や官僚の頭越しに実行するトップダウン方式を多用した。

総理大臣のリーダーシップを発揮、大統領的首相をめざしたと言えるのではないか。その後、官邸機能の強化、政治主導などの取り組みにもつながる。

▲「首脳外交、ロン・ヤス関係」

中曽根政権の第2の特徴は、外交面では、首脳外交を展開した。
就任直後、最初の訪問先に選らんだのがアメリカではなく、韓国。歴代首相として初めて韓国を公式訪問、全斗煥大統領と会談した。当時、総理官邸で取材していて驚かされたことを鮮明に覚えている。

日米関係では、東西冷戦の1980年時代「日米同盟の重要性」を明確に打ち出した。レーガン大統領との間で、親密なロン・ヤス関係を築いた。

中国との間でも、胡耀邦総書記との間で日中友好関係を強めた。

▲「戦後政治の総決算」

中曽根元首相は「戦後政治の総決算」を打ち出し、吉田茂元首相以来の「軽武装、経済優先」の保守本流路線とは一線を画した。
靖国神社への公式参拝や戦後の米軍占領下で制定された憲法改正に意欲を燃やした。
但し、現職首相として初めて靖国神社に参拝したが、中国側が強く反発、胡耀邦総書記が苦境に立たされたことに配慮してその後、参拝を見送った。

一方、憲法改正問題は「現内閣では政治日程に載せることはしない」と封印するなど現実重視の姿勢を取った。

▲”政界風見鶏” ”ベンチャーの創業者”

中曽根元首相に対しては、”政界風見鶏”と揶揄する見方があるのも事実だ。
確かに佐藤政権時代、鋭い批判者の立ち場から一転入閣したり、角福戦争の際には地元出身の福田赳夫氏ではなく、田中角栄氏の陣営に加わったりしたケースをとらえられ批判を受けた。

他方、中曽根派は中小派閥で、そこから総理・総裁の座を射止めるためには、様々な苦難を乗り越える必要も理解できる。今風に言えば、ベンチャー企業の創業者的存在といったところではないか。
首相就任後は、”死んだふり解散”で、総選挙で圧勝、独特の政治的な勘の持ち主でもあった。

一方で、政治とカネ、リクルート事件などでも関係が取り沙汰された。
経済政策では、首相時代のプラザ合意と円高、その後の経済政策がバブルにつながったのではないかいった指摘があるのも事実だ。

▲「テレビ政治時代の先駆け」

1970年代、自民党が”三角大福中”の派閥全盛時代、中曽根氏は派閥領袖の中で、いち早く、テレビ時代の到来を意識していた有力政治家だった。

ネクタイの色や柄まで、テレビ映りを意識していた。対米貿易黒字対策の市場開放策についての記者会見では、自らカラーのグラフなどを使って説明するなどの演出面にも気を配っていた。

”テレビ政治時代”を意識しており、細川元首相や、小泉純一郎元首相など先駆けとも言える。

さらに感心するのは、中曽根氏は著書が多い点だ。”50年の戦後政治を語る”として出版された「大地有情」、「リーダーの条件」などの著書で、最高権力者がどのような発想・考え方で国家の舵取りをしてきたのか、政治記者としてたいへん勉強になった。首相経験者が著書で政治を語る先駆けとしての存在でもある。

 問われる今の政治家・政治の質

中曽根政治を見てくると「首相のリーダーシップ」は、「今の政治主導、官邸主導」につながる。
「中曽根氏の首脳外交、日米同盟」路線は、今の安倍首相の「地球儀を俯瞰する外交、日米基軸外交」に引き継がれている。
さらには「憲法改正」重視なども安倍政治と類似する。

一方、政治家・政治の質という面では、中曽根政治には、政権の目標設定や実現のための工程が明確だったと言える。
また、理念・哲学と同時に、問題が起きれば軌道修正を図る柔軟性も兼ね備えていたのではないか。

端的に言えば、今の政治家・政治との落差を痛感する。中曽根元首相の時代以上に、日本を取り巻く情勢は厳しさを増している。それだけに政治家と政治の質の改善、そのための具体的な方策を考えていく必要がある。

 

安倍最長政権 ”支持率下落” 「桜を見る会」影響

安倍首相の在任期間が11月20日、戦前の桂太郎元首相を抜いて通算で、歴代最長になった。一方で、報道各社の世論調査で見ると、安倍政権の支持率は、2閣僚辞任までは影響は限定的だったが、首相主催の「桜を見る会」問題などで、内閣支持率が下落している。世論は安倍最長政権をどのよう見ているのか、報道各社の世論調査データを基に分析する。

 ”閣僚辞任・失言・疑惑3点セット”

9月の内閣改造で初入閣した菅原前経産相と河井前法相が相次いで辞任したのを受けて、当コラムでは、11月上旬に行われたNHK世論調査を基に政権への影響を分析した。その結論は「安倍内閣の支持率は横ばい状態で、政権への影響は限定的だと言えそうだ」と報告した。
その後、萩生田文科相の「身の丈発言」をきっかけに大学共通テストへの英語民間試験の導入が延期された問題。さらに、首相主催の「桜を見る会」問題も焦点に浮上してきた。安倍政権は、”閣僚連続辞任、失言、公私混同疑惑の3点セット”の問題”の火消しに追われる形になっている。

 報道各社:世論調査データ

そこで、まず、報道各社の世論調査データから、時系列的に見てみよう。
▲11月上旬に行われたNHK世論調査(8~10日)では、安倍内閣の支持率は、
◇支持が47%、◇不支持が35%。支持率は、前回調査に比べて1%の減少。
閣僚2人の相次ぐ辞任が、安倍政権へ及ぼす影響については、「影響がある」48%、「影響がない」44%と見方が分かれた。

▲11月中旬には、読売、朝日、産経3紙が調査。(読売15~17日、朝日、産経16・17日)
安倍内閣の支持率は、◇読売は49%で、6ポイント減、◇朝日は44%で、1ポイント減、◇産経は45%で、6ポイント減。

▲11月下旬には、日経、共同通信2社が調査。(日経22~24日、共同22・23日)安倍内閣支持率は、◇日経が50%、7ポイント減、◇共同は49%、5ポイント減(小数点以下、四捨五入)となっている。

 支持率下降、下落幅も大きい共通項

いずれのデータも調査を行ったメデイアや設問などが違うので、数字を詳細に比較しても意味はない。「傾向」を読み取ることの方が重要だ。
いずれの社のデータも支持率は前回調査に比べて「下降傾向」にあることが共通している。「下落幅」も多くのデータが「5ポイントから7ポイント」と大きく、「下落の有意差」が見られる点も特徴だ。

 支持率下落の要因

内閣支持率下落の要因については、閣僚連続辞任、英語試験問題の影響も考えられるが、設問内容から判断すると「桜を見る会」の影響が大きい。
安倍首相のこれまでの説明について「納得できない」「信頼できない」といった首相不信が、7割近くを占めている。(朝日「納得できない」68%、日経「納得できない」69%、共同「信頼できない」69%)。

「桜を見る会」は、今国会で取り上げられ注目を集めたのが11月8日、参議院予算委員会で共産党・田村氏が追及。それ以降、15日には安倍首相が異例の記者説明を2回も行っている。20日には参議院内閣委員会で、安倍首相と夫人の招待の推薦枠が約1000人だったことが明らかにされるなど野党の追及が続いている。

安倍政権は、閣僚辞任や英語民間試験問題については短期間で結論を出したが、「桜を見る会」については事実関係などの説明が後手に回り、しかも手間取っていることも支持率下落に影響している。

  ”政権に陰り” 一連の不祥事

このように9月の内閣改造・自民党役員人事で新たにスタートした安倍政権は、これまでの国会とは異なり、一連の不祥事で守勢に立たされている。
また、内閣支持率が下落、世論に支持離れの傾向が見られる。
さらに、第2次政権発足当時のアベノミクスのような新たな政策を推進しようという勢いが見られず、”政権に陰り”が感じられる。

  政権への影響、一時的か復元か、見極め必要

こうした一方で、政権そのものへの影響が出てくるのかどうか、見極めが必要だ。というのは、安倍政権は、これまでも内閣支持率の大幅な支持率低下で「支持・不支持の逆転」も見られたが、短期間で支持を取り戻す「強い復元力」を発揮してきたからだ。現在も、支持率は40%台半ば、あるいはそれ以上で、堅調な水準を維持している。

NHKの世論調査で見ると◇2014年秋に当時の小渕優子経産相、松島みどり法相の女性閣僚がそろって辞任した際には、支持率が8ポイント大幅下落した。◇2015年の安全保障関連法、2017年の森友学園問題、2018年の加計問題が焦点になった時は「支持と不支持の逆転状態」に3回、追い込まれた。但し、この際には、長くて3か月、2か月で元の水準を取り戻している。

今回は、支持が不支持を上回っている状態だ。今後の推移を今しばらく、見極める必要がある。

 国会の攻防、長期政権の評価がカギ

安倍政権の今後の求心力、政権への影響については、焦点の「桜を見る会」を巡って、地元支援者を数多く招くなど公私混同ではないかといった様々な疑念に、どこまで説得力のある説明ができるのかどうか。

また、国民が長期政権の是非をどう考えるのか。自民党内にある安倍首相の総裁4選論を容認する方向へ動くのか。それとも、あたらしいリーダーに将来に委ねるのか、世論の評価が大きなカギを握っている。

安倍政権と世論の関係については、今後も節目節目で取り上げていきたい。