首相のヤジと ”危うい政治”

新型コロナウイルスの感染が新たな広がりを見せつつある中で、国会では安倍首相がヤジを飛ばした問題をめぐって、野党側が強く反発、13日午前に予定されていた衆院予算委員会が流会になった。17日に集中審議をセット、安倍首相が釈明することで審議が再開される見通しだ。

今回の問題は、安倍政権の強気の政治姿勢の現れと同時に、国会が政権をチェックできているのかどうか、”危うい政治”状況を浮き彫りにしているのではないか。

新型ウイルス危機を乗り切るためにも政権や国会のあり方を今一度、考えておく必要があるのではないか。首相のヤジが持つ意味と政治のあり方を考えてみる。

 ”意味のない質問” 首相のヤジ

首相のヤジは、12日の衆議院予算委員会の集中審議で飛び出した。手短に説明すると、立憲民主党の辻元清美議員が質問の最後に「タイは頭から腐る。社会、国、企業などの上層部が腐敗していると残りも腐っていく。頭を代えるしかない」と首相批判で質問を終えて退席しようとした際、安倍首相が「意味のない質問だ」とヤジを浴びせた。

 罵詈雑言、反論の機会なし

このヤジをどう見るか。さまざまな見方、反応が考えられる。
公平を期すために安倍首相の言い分も紹介しておくと、その後の答弁で「最後の部分は質問ではなく、罵詈雑言。私に反論する機会がない。だから、意味のない質疑だ」と反論していた。

やや専門的・技術的な話になるが、国会での質疑では持ち時間のルールがある。参議院では「片道方式、質問時間の片方」で計算する。衆議院では「往復方式、質問と答弁の両方を合わせた往復」で計算。今回は、衆議院の往復方式だ。

首相の答弁が長くなると質問時間が減っていく。また、質問時間が多少、残った場合、質問者は自らの意見をのべた上で、締めくくるのが、一般的なやり方だ。

安倍首相は、こうした点は十分、承知の上で、ヤジを飛ばしたのではないかと思われる。

辻元議員のアクの強い質問、表現はどうかという気もするが、首相が「意味のない質問だ」と切って捨てるのは論外ではないか、私の見方。

 質問者の後ろに多数の有権者

この問題を考える際の大事な点は、”首相と野党の質問者”という図式だけでなく、野党の質問者の後ろには、多数の支持する有権者が存在している点だ。

首相にとっては罵詈雑言、不快な質問であっても、有権者の中には別の意見もありうる。どちらに理があるかは、最終的には視聴する有権者の判断に委ねるのが議会制民主主義のルールだ。

このため、国会では自由で活発な議論が最大限尊重されなければならない。これまでは曲がりなりにも守られてきている。それを覆すような態度は傲慢で、許されないことは、最初にはっきりさせておきたい。

 首相の政治姿勢、”強気一辺倒”

安倍首相の閣僚席からのヤジは、今回が初めてではない。自らの答弁中に、議場からのヤジに対しては制止するよう求める一方、閣僚席からヤジを飛ばす光景はこれまで何度も目撃した。

私は40年近く政治取材を続けているが、安倍首相は歴代自民党政権の中でも珍しくヤジを飛ばす数少ない首相だ。首相経験者の何人かから「政権にとって予算は命、成立までは隠忍自重する」との趣旨の話を聞いてきたが、異なるタイプだ。

ある野党議員に聞くと「首相のヤジは、板についてきた。問題になった際の弁解ぶりも堂々としてきた」と意図的なヤジではないかとの見方をしている。

安倍首相の国会答弁は、端的言えば、”強気一辺倒。相手の野党議員に対して、弱気を見せるな。強気で行け”という路線が特徴だ。
この路線は、総理をはじめ、閣僚、一部の官僚まで浸透しており、”ONE・TEAM”とも言える徹底ぶりだ。

但し、この路線で終始すると、討論で相手を説得したり、逆に譲歩して修正案をまとめ上げたりする余地がなくなる。政権運営が順調な場合は問題は少ないが、行き詰まったりした場合、柔軟なかじ取りが難しく、”政権運営上の落とし穴、危さ”が潜んでいると言えるのではないか。

国会・与野党の政権チェック機能

今回の安倍首相のヤジは、行政権と国会との関係の観点からも問題を引き起こす。行政の最高責任者である首相が、国会議員の質問内容について、意味がないと判定しているわけだから、国会としては、野党議員だけでなく、与党議員も政権に対して、”モノ申す、苦言を呈す姿勢”が必要ではないか。

国民の側からすると「政高党低」、安倍首相に対して、党の側から意見をのべることができる議員はほとんどいなくなっているのではないかと疑念を持つ。

国会に対しても、変質・機能の低下を来しているのではないか。憲政史上、最長となった安倍政権に対して、国会はチェック機能を果たしているのかどうか、与野党のあり方を含め、今の政治に危うさを感じる点だ。

知りたい点に応える審議を

国会がやるべき点は、はっきりしている。国民が知りたい点を真正面から議論すること。新年度予算案もまもなく衆議院を通過する可能性が大きい。それまでに懸案・宿題については、議論を整理して到着点をはっきりさせて欲しい。

◇新型コロナウイルスの政府対応の評価、予算は適当か。◇桜を見る会と公文書の取り扱い、◇IR整備の是非、◇閣僚辞任、IR汚職事件、政治とカネの国会での取り組み方、◇東京高検検事長の異例の定年延長など知りたい点は多い。

いずれも点についても政府、並びに与野党の考え方の違いがわかる論戦にしてもらいたい。一連の懸案・宿題の区切りの付け方を工夫して、国民が、今後に関心と期待を持てる国会にする役割・責任が問われている。

 

 

 

 

 

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