政権の調整力低下を懸念、緊急宣言1週間

新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するため、安倍首相が東京都など7都府県を対象に5月6日まで、「緊急事態宣言」を行ってから14日で1週間が経過した。

緊急事態宣言の効果はあるのだろうか。国と地方の関係、特に安倍政権の危機管理能力をどのように見たらいいのか考えてみたい。

最初に結論を明らかにしておいた方が、わかりやすい。緊急事態宣言をめぐる安倍政権の対応で最も気になるのは、「政権の制度設計能力、調整能力が低下」しているのではないかという点だ。

なぜ、こうした見方をするのか。そして、今後どのような対応が求められているのか考えてみたい。

 緊急事態宣言 ”中間評価”

今回の緊急事態宣言の評価は、最終的には、感染拡大を押さえ込めるかどうかにかかっている。14日朝の時点で、1日あたりの新たな感染者数は東京で91人、全国で294人と引き続き高い水準が続いている。全国の感染者数の累計では、3月1日が256人だったのが、4月1日は2497人、4月13日で7691人へ急増している。

専門家によると、今の感染者数は潜伏期間と検査に時間がかかるため、2週間ほど前の状況で、今回の緊急宣言の効果が評価できるのは「今月20日前後」になるとの見方を示している。

このため、安倍政権の対応、危機管理などの評価も最終的には、感染者の状況を見極める必要がある。また、今回の宣言は5月6日が期限になっており、その時点の状況も判断する必要がある。

このため、今の時点は、これまでの政権の対応の分析に基づく「中間的な評価」であることを最初にお断りしておきたい。

 遅れた 緊急事態宣言

まず、今回の緊急宣言が出されたタイミングについては、「遅すぎる」という受け止め方が圧倒的に多い。報道機関の世論調査でも8割程度に達している。

確かにタイミングとしては遅い。特別措置法が成立したのが3月13日。4月に入って都市部を中心に感染者が急増、小池東京都知事、吉村大阪府知事などの声に押されて宣言に踏み切った形になった。

安倍首相としては、夏の東京オリンピック・パラリンピックをどうするか。コロナ感染が世界規模で拡大すると最悪の場合は、中止に追い込まれる。その前に五輪の延期・開催に道筋をつけておきたい。また、経済面への影響も考慮しながら、発令のタイミングを探っていたものと見られる。

 宣言後の対応に問題、遅れと乱れ

私個人は一番の問題は、宣言が遅いという点よりも、宣言が出された後、国と都府県側との調整ができず、実施体制が遅れた点に問題の本質があると思う。

東京都の場合は、7日の安倍首相の宣言後、休業要請の対象施設の範囲などをめぐって意見が対立し、10日夜に西村担当大臣と小池知事が会談、ようやく翌11日の実施にこぎつけた。

その他の府県の実施日を見ても、神奈川県は東京都と同じ11日だが、千葉県、埼玉県は13日、大阪府は14日、兵庫県は15日とバラバラだ。宣言から1週間経って、ようやく休業要請などを行える実施体制が整ったことになる。これでは、とても、緊急事態、危機への対応とは言えないのではないか。

 政権の制度設計、調整能力低下

国と地方自治体との間では、知事の事業者への休業要請が行えるようになっても、休業の補償とその財源をどうするかという問題が残っている。財源の余裕がある東京都は独自に協力金を支払うことにしているが、残りの府県は財源確保の見通しがついていない。

ある県の関係者は「国が新たに設ける『地方創生臨時交付金』を使えるようにしてもらいたいが、国が応じるのかどうか、政権幹部に聞いてもはっきりしない」と戸惑っていた。

つまり、従来の総理官邸、霞が関の対応から推測すると、首相が宣言を出すまでに、財源などの制度設計、地方自治体などに対する根回し、段取りなど全て終えているはずなのに、今回の場合、調整がついていなかった。

同じような問題は、「緊急経済対策」でも見られる。例えば、収入が大幅に減少した世帯向けの現金30万円給付制度。支給対象や基準が分からないとの批判が強く出され、結局、総務省が全国統一の新たな目安を打ち出す事態になった。

このほか、政府が感染防止の基本方針を打ち出した直後に、安倍首相が方針に盛り込まれていない大規模イベントの自粛要請や、学校の全国一斉臨時休校を打ち出すなどの混乱が見られた。

さらには、今回の感染拡大について、専門家は早い段階から、感染拡大期の医療崩壊を防止するために、検査体制の拡充と重症者の入院・治療体制の整備を強調してきた。ところが、両方とも対策が思うように進んでいなかったことが最近の動きの中で明らかになりつつあるのではないか。

以上のように、これまでの安倍政権の危機管理の対応を点検してみると「政権内の制度設計能力、調整能力の低下」が浮き彫りになってくる。

今回のコロナ危機は、日本にとって事実上、初の大規模感染症で難しさはある。しかし、政権が抱えている問題点を認識し、改善していかないと、迷走が続き、これから待ち受けるハードルは越えられないのではないかと懸念する。

 危機の宰相の行動は?

最後に今月に入っての出来事についても、一言、触れておきたい。
安倍首相が表明した全世帯へのマスク2枚配付、466億円の費用がかかる。

また、安倍首相が作曲家の星野源さんの楽曲とともに自宅で過ごす様子を撮影したコラボ動画の投稿。賛否両論あるだろうが、危機の宰相としてやるべき行動だろうか、個人的には疑問に思う。

国民の多くは、コロナ危機の出口はどうなるのか大きな不安を感じている。危機のリーダーは、どっしり構えて、現状を正確に把握。その上で、どんな方針・対策で難問を乗り切っていくのか、明確な指針を打ち出して、国民に説明、説得することだと思う。憲政史上最長の政権であれば、こうしたリーダーの姿を、是非、見せていただきたい。

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