新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づいて、安倍首相が東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」を行って、21日で2週間になる。これまでの安倍政権の対応をどのように見るか。
安倍首相は、感染対策については「当面2週間、様子を見る」考えを示していたが、それを待たずに対象地域を全国に拡大した。
一方、緊急経済対策の目玉政策である「1世帯30万円の現金給付」を取り下げ、「1人10万円一律給付」に転換、異例の補正予算案の組み替えに踏み切った。既に方針や政策の変更が相次いでいるが、今回の対応も異例で、”政権のダッチロール”、迷走状態に陥りつつあるようにも見える。
緊急事態宣言の期限は5月6日。残り2週間、何を最重点に取り組むべきか。そのためにも、この間の安倍政権の対応、危機管理を点検しておきたい。
指導者と危機管理の要件
具体論に入る前に、今回のような社会全体に大きな影響を及ぼす事態・問題が起きた時に政権はどのように対応すべきか。歴代政権の中でも5年の長期政権となった中曽根政権の対応や考え方が参考になるので、見ておきたい。中曽根元総理の著書(「大地有情」)から一部を紹介する。
「指導者の要件というのは三つあるんですよ。(中略)1つは目測力、もう一つは結合力、そしてもう一つは説得力を持っていないとダメなんですね。目測力というのは、この問題はどういうふうに展開して行き着くところはどこなのか、それをしっかり把握できる能力ですね。結合力というのは、良い政策と情報と、良い人材と、良い資金を結合させる力です。説得力というのは、内外に対するコミュニケーションの力。この三つが現代の日本のリーダーに求められる要件なんです。そして、とりもなおさず、総理大臣自身がそういう力を持つことが危機管理なんですよ」
中曽根政権では、1983年ソ連の戦闘機が引き起こした大韓航空機撃墜事件への対応が大きな問題になった。危機管理では何が重要かが理解できる。また、私たちが政権の対応を評価する際の基準にもなる、含蓄のある言葉だ。後ほど再度、触れたい。
最大の問題、医療危機への対応
さて、本論に入って「緊急事態宣言の効果」をどう見るか。宣言の対象地域が全国に拡大された後、休日の都市部では、感染拡大前に比べて8割以上減少した地域があった一方で、5割程度に止まる地域もあり、地域差がある。感染者数は、東京などでは横ばい状態だが、減少に転じるまでの効果は出ていない。こうした点の見方は、専門家の分析を待ちたい。
次に宣言後の一番の問題は何か「医療の提供体制が危機的な状況」にあることが浮き彫りになった点だと思う。
医療関係者によると◇東京都や大阪府などでは、入院患者の数が、準備している病床数の8割を超え、ひっ迫した状況にある。◇新型コロナウイルスの感染を確認するPCR検査がなかなか受けられない。実際に検査を受けるまで時間がかかる。◇医療現場では、医療用マスク、防護服、人工呼吸器など医療資材の不足が一段と深刻さを増しつつある。
問われる政権の危機管理能力
こうした問題、いずれも「政府の基本方針」の中で、医療提供体制の整備として打ち出されていた内容だ。この基本方針が決まったのは、2月25日。2か月近く前に打ち出されながら、未だに実現されていないことに驚かされる。
前例のない感染症対策で、政府の対応に難しさがあるだろう。しかし、医療崩壊を防ぐことは、コロナ危機を乗り切るための政権の最優先課題だ。そのためには、政権の危機管理。具体的には、総理官邸が司令塔となり、厚生労働省をはじめとする中央省庁を動かし、医師会や地方自治体、さらには、地域の大学や病院、保健所などの医療機関と連携・調整、機能させていく取り組みが重要だ。医療現場の事態が深刻化していることは、政権の危機管理が後手に回り、機能していないのではないかと考えざるをえない。(参照ブログ:2月21日「新型肺炎 問われる政権の危機管理」、2月28日「全国臨時休校と危機管理の本質」)
安倍首相をはじめ政府は、外出の自粛などを盛んに要請するが、政権の責務、医療提供体制が機能していることが大前提だ。緊急事態宣言の後半では、医療体制の維持・整備を政権の最優先課題として取り組むことを強く注文しておきたい。
10万円一律給付転換の見方
政府の緊急経済対策として当初、打ち出された「1世帯30万円現金給付」から、「1人10万円一律給付」への転換をどう見るか。
前号のブログで取り上げたように当初案に対する世論の批判は極めて強かった。また、連立を組む公明党や、自民党内の不満もこれまでにないほど強く、安倍首相が軌道修正を図ったものと見ている。
国民生活の面から見ると、当初案のままでは、世論や野党の反対も根強く、思うような効果を上げられず混乱を生む可能性も大きかったのではないか。このため、当面の国民生活を安定させる上で「10万円一律給付」の方が、”よりましな政策”と言えるかもしれない。巨額な赤字国債を発行することになるのをはじめ、追加の経済対策との関係・整合性などの面で問題を抱えているのも事実だ。
さらに政治的には、安倍政権の今後の政権運営、与党の自民、公明両党との関係、さらには追加の対策を巡る与野党の攻防などの面でさまざまな影響が出てくることも予想される。
問われる安倍政権「結合力」
これまで見てきたように今回の感染危機は、国民生活や日本社会、政治、経済など大きな影響を及ぼすのは間違いない。その際、最大の問題は、感染拡大を抑制できるか、そのための危機管理が機能するかにかかっている。
冒頭、中曽根元総理の危機管理の要諦に触れたが、今回の事態では、特に2つ目の「結合力」、安倍首相が政権の足元を固めた上で、政策と情報、人材と予算を結合させて、危機を乗り切ることができるかどうか。緊急宣言の期限となる来月6日に向けて、政権が何を最重点に取り組むか、正念場が続くことになる。