新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言が5月31日まで延長されることになった。当初の5月6日までの期限内に、感染拡大を押さえ込むのは困難な情勢になったためで、緊急事態は2か月目の延長戦に突入した。
今回は5月31日までの延長戦で、何を最優先に取り組むべきか考えてみたい。結論を先に言えば、3つの点を注文したい。
◆1つは、検査・医療体制の点検・整備を最優先に取り組むこと。緊急事態宣言の解除や今後の経済対策の前提条件になるからだ。
◆2つ目は、緊急事態宣言の解除の条件と、出口戦略の基本構想を示すこと。緊急事態宣言を終わらせる条件・目安は何か。その上で、その後の感染拡大の防止と、経済回復への取り組みをどのように実施していくのか。
◆3つ目は、安倍首相の記者会見のあり方。プロンプターの使用は止めて、国民に語りかける説明に変えた方がいいのではないか。
以上の3点について、それぞれの理由、内容を説明していきたい。
感染症との戦い、根本は検査・医療
緊急事態の延長戦では、何を最重点に取り組むべきか。安倍首相が4日に行った記者会見を聞いても、現状の分析と評価、延長後の解除の条件、それに出口戦略をどうするのか、さっぱり分からないというのが率直な印象だ。
次の節目は、14日に専門家会議が予定されているので、安倍首相の記者会見も行われる見通しだ。それまでに最優先に行ってもらいたいのが「検査・医療現場の総点検」。その点検結果に基づいて、政府の対応策を打ち出してもらいたい。
今回の危機は、戦後日本が事実上、初めて遭遇する新型感染症との戦いだ。地震、台風、大津波といった自然災害、原発災害とは全く異なる対応策が必要だ。その根本は「検査・医療提供体制」の現状。どこまで整備されているのか、弱点はどこにあるかを明確にしておかないと、ウイルスとの戦いには勝てない。
ところが、国会での質疑、首相の記者会見などでもこの肝心な点について、体系だった説明を聞くことができない。
検査・医療整備、予算投入計画を
そこで、政府に具体的に注文したいのは、次の点だ。◇PCR検査体制について、実際の検査件数が増えない原因とその後の改善状況、今後の見通しと予算額。◇感染者の受け入れ体制と重症者の入院・治療体制の状況。国・地方の予算額。◇緊急事態宣言解除後、感染の再拡大時に向けての備え・水準をどのように考えているか。
医療体制は、政府だけでなく、各都道府県などの自治体も大きな責任を負っている。国と都道府県との連携・協力体制をどのように強化するのか。
さらに先の補正予算に盛り込まれた政府の医療関係予算は、総額6,695億円。過去最大の補正予算、歳出25兆円と胸を張るが、肝心の医療関係予算の規模は少なすぎるのではないか。
このうち、地域の医療整備などにあてる緊急包括支援交付金も1,490億円に止まる。予備費の活用に言及するよりも、総理大臣が予算投入のメドについて言及する方が、国民に安心感を与え危機管理としても望ましいのではないか。
緊急宣言解除の条件 提示を
2つ目は「緊急事態宣言解除の条件」について、政府の考え方を提示してもらいたい。4日の記者会見で安倍首相は、1人の感染者が何人にうつすか「実効再生産数が1を下回っている現状」や「1日あたりの退院者より、新規感染者を減らす」ことなどについて言及したが、条件とするのかはっきりしなかった。
これに対して、大阪府の吉村知事は5日、休業と外出自粛要請の解除について、独自の基準を決めた。①感染経路が不明な新規感染者が10人未満。②検査を受けた人に占める陽性者の割合・陽性率が7%未満。③重症病床の使用率が6割未満。①と②は日々の変動が大きいため、過去7日間の平均をみる。
感染状況と医療受け入れ体制が、客観的データに基づいて判断できるので、評価している。政府は、自治体の休業解除と、政府の緊急事態宣言解除とは違うとの立ち場のようだが、要は政府の考え方を明らかにしてもらいたい。
(追記7日13時:西村大臣の発言で「休業の要請と解除は、知事の裁量で行うもの。国は、緊急事態宣言の対象地域や解除を、どういう基準で判断するかということだ。具体的な数値の目安について近く示したい」。法律上、休業の解除は知事の責任、緊急事態宣言の解除は国の責任。西村大臣の説明で個人的には納得)
出口戦略 ”二兎を追う難しさ”
次に、「出口戦略」をどう描くか。具体的には、感染抑制と、経済活動再開との二つのバランスをどうするのかの問題だ。
安倍政権は”二兎を追う戦略”と見ているが、緊急事態宣言の期限を迎える5月末までに「基本構想」を示してもらいたい。
緊急事態宣言も2か月に入ると感染抑制重視派と、経済活動重視派との対立、綱引きが予想される。国民の側がどのように受け止めるか焦点の1つになる。
安倍首相は記者会見で「長期戦を覚悟する必要がある。しかし、経済社会活動を厳しく制限する今のような状態を続けていくと、私たちの暮らし自体が成り立たなくなる。緊急事態のその先の出口に向かって前進していきたい」とのべている。
”二兎を追う”立ち場だが、安倍首相はV字型経済論者なので、経済重視路線に傾斜していくのではないかと個人的には予想している。
自民、公明の与党内、あるいは野党の中でも大きな論点になる見通しだ。そこで、注文しておきたいのは、抽象的にどちらを重視するか議論しても余り意味がない。◇感染抑止の対策の柱は何か、◇経済・社会活動と政府支援のあり方。◇その上で、双方のバランスをどう考えるかの考え方を明らかにして欲しい。
私個人は「感染抑止対策優先」。地域医療体制の緊急整備を優先して行い、一定のメドをつけた上で、経済・社会活動の本格的な再開をめざす考え方がいいのではないかと考えている。
そうしないと、経済を再開しても再び第2波・感染拡大が襲う可能性をアメリカの大学研究グループなどが警告している。感染対策は、景気対策の基盤・前提だ。政治の側も「新型感染症時代への備え」を大きな課題として位置づけて対応していく必要があると考える。
脱プロンプター、国民に語りかけを
3つ目は、首相の記者会見について、触れておきたい。危機の時には、最高責任者の発信は極めて重要だ。安倍首相も多忙な中でも、記者会見のリハーサルもしていると推測するが、今のプロンプター(文字表示装置、”カンニング”装置)方式は止めた方がいいのではないか。
個人的な話で恐縮だが、現役時代の体験で、プロンプターを使う同僚もいて、よどみない語りに感心したこともあった。但し、政治のような事態が時々刻々、変化して、新たな情報が入ってくる時には使いにくい。このため、個人的には使わなかった。
また、技術論になるが、使うと本人の視線が流れ、訴える力が弱まることが多い。つまり、相当なプロが使いこなす場合は効果があるが、素人には逆効果になるということ。
安倍首相は、はっきり言って、滑舌のいい方ではない。語りで勝負するよりも、やり取りの方が持ち味が出るタイプだ。生き生きしたやり取り、閣僚席からのヤジで実証済みだ。党の社会保障関係の部会長も経験し、医療にも詳しい。記者を相手に、その向こうの国民に語りかける会見に変えた方がいいと思う。
もう一つ昔話、後藤田元官房長官から聞いた話。「危機管理は難しく考える必要はない。情報を可能な限り集め分析する。現状を正確に把握する。その上で、対応策を考える。海外などに成功例があっても、国内の法律、装備、人材などの面を考えて、できないものはできない。後は、総理官邸が総合調整をしながら実行に移すことだ」。
要は、緊急事態には、事態を正確にとらえて、政権が対応策を打ち出して、国民に理解を求め説得すること。これが危機管理の要諦で、国民も期待している点ではないかと考える。