“コロナ危機音痴” 秋の解散・総選挙説

若い現役記者時代、「あの政治家は政策通だが、”政局音痴”だ」とか、「博学、無能な人」など失礼な政治談義を同僚と交わしていた時期があった。

当時は”切った張ったの権力抗争”に関心が集中し、内外の情勢や国民生活の動向に思いが至らず、ついつい”鈍感な思考”に陥っていたことに後に気づかされた。

政界では秋の解散説、具体的には9月解散・10月下旬選挙説が盛んに流されている。

新型コロナ感染拡大が続く中で、秋の解散をどう見るか。端的に言えば、感染危機への”音痴”、鈍感な政局観というのが、私個人の率直な見方だ。その理由、背景を以下、ご説明したい。

 秋の早期解散説、消去法の発想

秋の衆院解散・総選挙説は、安倍首相が9月に内閣改造・自民党役員人事を行った後、衆院を解散、10月総選挙を断行するのではないかとの見方だ。

幾つかのねらいがあるが、一番の根拠は、今後の政治日程を考えるとこの時期しかないという「消去法」に基づく。つまり、今の衆議院議員は来年10月に任期満了だが、与党は追い込まれ解散を避けたい。来年に持ち越すと7月に東京都議会議員の任期が満了になり、公明党が嫌がる。だから、今年の秋解散しかない。

別の思惑を指摘する声もある。「自民党総裁選びを有利に運びたい思惑」。関係者によると今の情勢のままだと次の総裁は、安倍首相と麻生総理が最も嫌がる候補者が勝利する可能性がある。それを阻止するためには、早期解散を断行、後継選びの主導権を確保したいとの説も聞こえてくる。

さらに今の野党が相手なら、議席をかなり減らしても与党過半数は維持できるとの判断。政権交代の恐れはまったく眼中にない。

 コロナ戦略、五輪対応が欠落

では、こうした早期の解散説をどう見るか。今は、コロナ感染症の拡大が続く危機の時代、世界も日本もどのように感染拡大を防ぐか。また、コロナ対応に伴う大変革を迫られる時代だ。

秋の解散・総選挙説の一番の問題は、こうした「コロナ危機への対応・戦略」の視点が欠落している点だ。むしろ、冬場のコロナ感染が深刻化する前に解散した方が有利といった「党利党略」、現職議員の「個利個略」が透けて見えるから嘆かわしい。

また、延期された「東京五輪・パラリンピックの開催」への視点もみられない。世界の感染状況が最終的なカギを握るが、それ以前に日本国内の感染を収束させておく必要がある。

そして来年の開催は本当に可能か。IOCなどの調整が、秋以降に本格化する。その時期に1か月程度の政治空白が生じるが、その点の考慮はみられない。

さらに、安倍首相は解散断行の意思を固めたのか、その前提として来年秋の総裁4選、続投の意思を固めたのか、確認したのとの情報は聞かれない。

政界では、早期解散論は根強いが、根本問題である「コロナ危機」と「東京五輪」への対応、ハードルを乗り越えていく戦略・発想がない。

こうした中で、7月29日には全国の1日あたりの新たな感染者数が、初めて1000人を超えた。唯一感染者ゼロが続いていた岩手県でも感染者が確認された。

仮に衆議院が解散された後、感染の第2波、第3波が広がれば選挙を直撃、劇的な結果を招く可能性もある。このため、現実論者の安倍首相は、早期解散に踏み切る確率は低いのではないかと個人的にはみている。

 コロナ大変革時代、構想と政策を

それでは、国民の側は、衆議院の解散・総選挙をいつ行うべきだと考えているのだろうか。今の衆議院議員の任期は来年10月までなので、向こう1年3か月以内には確実に衆議院選挙が行われる。

NHKの7月の世論調査では、◆年内が19%、◆来年前半が18%、◆来年10月の任期満了かそれに近い時期が50%となっている。

このデータから読み取れることは、早期解散・年内選挙を望む意見は2割にも達していないこと。多くの国民は、来年の任期満了かそれに近い時期に行うべきだと考えていることがわかる。

こうした背景としては、政権与党、野党双方に対して、最大の関心事である新型コロナ感染対策と、国民生活・日本経済をどのように立て直していくのか、政権構想と具体的な政策をとりまとめ、その上で、解散・総選挙を行うべきだと考えていることがうかがえる。

例えば、全国の感染者の情報、具体的には、PCR検査、陽性者の比率、入院状況などの正確な情報を一元的に管理できる仕組みは未だにできあがっていない。厚生労働省が自治体、保健所、病院などを結んでネットで集計するシステムの整備を進めているが、本格的な運用に至っていない。

特別措置法に基づく国と地方自治体の役割と権限の分担、さらに保健所や地域医療の体制整備も遅れている。

また、年末に向けて中小企業や個人事業主などの経営悪化や倒産、失業者の増加、生活保護世帯の大幅増加などが懸念されている。

さらに感染防止と経済活動再開のバランス、今後の日本社会・経済の立て直しに向けた中長期的な構想も示されていない。先に政府がまとめた骨太方針でも新味のある政策はほとんど盛り込まれていない。

こうした現状を考えると、国民にとっては、秋の早期解散は何の意義もない。政権与党、野党とも、ここは腰を落ち着けて、コロナ大激変時代をどのように乗り切っていくのか、それぞれの政権構想、政策の中身を磨き、国民に信を問うことを考えるのが政治の王道だと思う。

万一、早期解散、党利党略の解散・総選挙になった場合は、有権者が主役、「鉄槌」を下せるチャンスととらえ、判断すればいいと考える。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です