菅新政権発足後、最初の臨時国会は、衆参両院の予算委員会での総括質疑が6日、終わった。焦点の1つである日本学術会議の問題は、菅首相の答弁がクルクル変わり、論点がほとんど噛み合わなかった。
これまで長年、国会論戦を取材してきたが、今回ほど首相の答弁内容そのものがわかりにくく、迷走が続く質疑はほとんど記憶にない。
やはり、学術会議の新しい会員候補6人の任命を拒否した判断に問題があるのではないか。また、本来、コロナ感染対策に全力投球する時期に、新政権がこの問題にこだわりエネルギーを費やす意味があるのかどうかも疑問に感じる。
総括質疑が一区切りついたのを機会に、今回の問題をどのように見たらいいのか、考えてみる。
”クルクル変わる論点、矛盾と迷走”
最初に菅首相のこれまでの発言のポイントを整理しておく。
◆「個別人事に関するコメントは控えたいが、”総合的俯瞰的活動”を確保する観点から判断した」と説明。(10月5日の内閣記者会とのインタビュー)
◆(抽象的でわかりにくいとの指摘を受け)「民間出身者や若手が少なく、出身や大学にも偏りがあり、”多様性が大事だ”ということも念頭に判断した」
◆(任命拒否の対象者に若手や少数大学関係者が含まれており、答弁が矛盾していると批判され)「個々人の任命の判断と、”多様性は直結しない”」
◆「以前は、学術会議が正式の推薦名簿を出す前に、内閣府の事務局などと学術会議会長との間で、”一定の調整”が行われていた」。(野党から、任命前の選考・推薦段階での人事介入だと追及され)「考え方のすり合わせだ」と釈明。
このように発言内容が一貫せず、矛盾、論点が次々に変わり、答弁の迷走が続いた。与党などに首相答弁は「ぶれない」「安全運転に徹した」などの評価があるとの声も聞くが、論点が噛み合う答弁になっていないのが実態ではないか。
6人除外、杉田副長官が関与
一方、学術会議6人の任命拒否の経緯の一端は、明らかになった。菅首相は質疑の中で、官僚トップの杉田和博官房副長官と相談しながら6人の除外を決めた経緯を説明した。
それによると菅首相は、学術会議の人事について「懸念」を、安倍政権の官房長官時代から杉田氏に伝えていたこと。今回は、9月16日の首相就任後に改めて懸念を伝え、杉田副長官からその後、相談があり、99人の任命の判断をしたこと。杉田副長官から報告を受けた時期は、内閣府が決裁文書を起案した9月24日直前の「9月22日か23日」などの点を明らかにした。
以上の経緯、杉田官房副長官が任命に当たってのキーパーソンとみられる。このため、野党側は杉田氏の国会招致を要求しているが、自民党は応じない姿勢をとっている。
但し、菅首相や加藤官房長官が6人をなぜ任命しなかったのか説明ができない場合は、今後、杉田副長官を招致し、事実関係などの説明を求める必要があるのではないか。この問題を早期に決着させるためには、菅首相や自民党の判断が問われる。
菅新政権の政治姿勢にも関係
以上のような国会の論戦、菅首相の答弁などを、どのように評価するか。学術会議の根本の問題は、「6人の任命をなぜ、拒否したのか」、「学術会議法では、学術会議の推薦に基づいて首相が任命する規定」に違反していないかどうかをはっきりさせることにある。ところが、この点の解明は未だに進んでいない。
また、これに関連して、菅首相や自民党が、学術会議の役割や構成などに問題があると考えるのであれば、任命問題を解明した上で、議論し是正するのが筋だ。
さらに、今回の問題は、政権と学者・学術団体との関係に止まらず、「菅新政権の基本姿勢」を判断する上で注目している。
というのは、安倍政権では、森友、加計問題、桜を見る会、黒川・元東京高検検事長の定年延長など不透明な疑惑・問題が相次いだ。後継の菅政権は、公正で透明な政治・行政を進めるのかどうか、国民の側は見定めようとしているのではないか。
報道機関の世論調査で菅内閣の支持率が大幅に低下しているが、その「支持しない」理由として「首相の人柄が信用できない」が急増し、1位になっていることからもわかる。
学術会議早期決着、重要課題論戦を!
今の臨時国会は来月5日まで、会期末まで1か月を切った。コロナウイルスのワクチン接種や、日英貿易協定の承認案件の審議はこれから始まる。冬場に入って、コロナ対策と、暮らしや経済の備えは急務だ。さらにアメリカ大統領選の開票が続いているが、国際社会への対応も待ったなしの状況だ。
学術会議の問題は、問題の所在はこれまで見たように明らかだ。政府・与党側と野党側の双方が批判し合っているだけでは、何の解決につながらない。
ここは、任命権のある菅首相がこれまでの議論を踏まえて、論点を整理し、最終方針を明らかにして、早期決着を図る必要があるのではないか。その際、集中審議や、杉田官房長官の招致など柔軟な対応が求められる。野党側も歩み寄るべき点は、柔軟に対応すべきだ。
菅政権は、内閣支持率はなお、高い水準にあり、こうした貴重な政治的資源は、学術会議の人事問題ではなく、政権がめざすデジタル化や、コロナ対策、経済再生対策などに投入した方がはるかに意味がある。
”コロナ激変時代”、政府、与野党が学術会議問題に早期に決着をつけ、日本社会・経済の立て直しに向けた本格的な議論と競い合いを見せてもらいたい。