緊急事態宣言と”菅首相の本気度”

新型コロナ対策として、菅首相は7日、東京など1都3県を対象に「緊急事態宣言」を出した。期間は8日から2月7日までのほぼ1か月。宣言発出直後の記者会見では「1か月後には、必ず事態を改善させるため、ありとあらゆる方策を講じていく」と決意を表明した。果たして感染急拡大を抑え込めるのだろうか。

緊急事態宣言は、危機に当たって国民や組織をまとめ上げる”強力な武器”になる反面、個人の自由や経済活動を制約するので、扱いを間違えると激しい反発を招く”劇薬”にもなる。

それだけに宣言発出の唯一の権限を持つトップリーダーの覚悟や、国民に対する訴える力が問われる。今回、菅首相がどこまで本気で緊急事態宣言の効果を上げようとしているのか、菅首相の”本気度”と今回の対策の効果を探ってみたい。

 ”追い込まれ型” の緊急宣言

菅首相は、安倍政権の官房長官時代から、「緊急事態宣言は経済活動を制約するため、慎重な姿勢だった」と言われる。安倍前首相による最初の緊急事態発出の際もそうだったし、緊急宣言解除後、観光需要喚起の「GoToトラベル」再開の旗を振ったのも菅氏だった。

去年の年末25日の記者会見でも、記者から緊急事態宣言を出す可能性を質問された際、「尾身会長からも、今は緊急事態宣言を出すような状況ではないとの発言があったことを私は承知しています」と政府分科会の尾身会長の発言を引いて緊急事態宣言は想定していない”慎重な考え方”を明らかにしていた。

ところが、10日しか経っていない1月4日の年頭記者会見で「緊急事態宣言の検討開始表明」に追い込まれた。大晦日に新たな感染者が、東京で1337人、全国で4520人に急拡大したからだ。

また、正月2日には、小池東京都知事と近隣3県の知事からそろって「緊急事態宣言の発出検討」を迫られたため、不本意ながら応ぜざるを得なかった。今回の緊急事態宣言は、端的に言えば「追い込まれ型の緊急宣言」というのが実態だ。

 国会事前説明 首相の出席見送り

菅首相は年頭の記者会見では、感染対策、水際対策、医療体制、ワクチンの早期接種の4点にわたって政権の方針を説明した。実は、菅首相が記者会見で政権のコロナ対策を総合的に取りあげ説明したのは、この時が初めてだった。

また、新型コロナウイルス対策の特別措置法についても、遅ればせながらも休業要請などの給付金と罰則をセットにした改正案を、通常国会に提出する考えも表明した。この時は、普段のような語り口で持ち味も出て、菅首相にしては珍しく意欲とわかりやすさが前面に出た記者会見だった。

こうした中で、緊急事態宣言を出す7日に、衆参両院の議院運営委員会で、政府が発令を事前報告する委員会に、菅首相の出席は見送りになることが決まった。代わって西村担当相が出席し、与野党の委員と質疑を行うことになった。

これは、自民党と野党第1党・立憲民主党の国対委員長会談で決まったものだ。野党側は首相の出席を求めたが、自民党は拒否し出席は見送られた。「昨年、初めての宣言を出す時は首相が出席したが、今回はその延長線上の対応でいい」という理由だ。事前に自民党が菅首相の意向を確認した上での対応だとみられる。

議院運営委員会は各党代表の委員で構成され、議院の運営を協議する機関だ。首相が出席することは珍しいが、去年の4月7日最初の宣言が出された時は、安倍首相が出席した。昭和50年・1975年、当時の三木首相以来45年ぶりだったが、緊急事態宣言の重みを国民に伝える上でも大きな意味があった。

今回の宣言は2回目だが、菅首相は感染危機乗り切りの決意を示す上でも出席すべきではなかったか。欠席では、首相の”本気度”は伝わらない。

 緊急宣言効果 飲食店重視の評価?

さて、今回の緊急事態宣言の効果をどうみるか。政府の対策は「効果のある対象にしっかりした対策を講じる」として、飲食店の営業時間短縮に感染防止の重点を置いている。このため、この飲食店重視の評価で、効果の見方も変わる。

菅首相が強調するように感染経路不明な要因として、大半が飲食店が関係しているのは、専門家の指摘通りなのだろう。その意味で飲食店対策は必要だ。

一方で、分科会の尾身会長や、数理モデル分析が専門の西浦博教授によると、東京都の感染者数を十分に減少させるためには、昨年の緊急事態宣言と同等レベルの効果を想定しても2月末までかかるとみられている。

また、飲食店対策とともに、不要不急の外出自粛や、出勤者の7割削減など幅広い対策の組み合わせが欠かせないとの見通しも示す。ということは、今回の宣言期間である2月7日までに大きな効果が上がるのはかなり難しいと覚悟していた方が良さそうだ。

 首相の本気度? 早急に緊急対応を

緊急事態宣言を出した後、菅首相が臨んだ7日の記者会見をどう受け止めるか。菅首相は「1か月後には、必ず事態を改善させるため、ありとあらゆる方策を講じていく」と決意を表明した。

ところが、この日明らかになった新たな感染数は、東京は2400人余り、2000人を超えるのは初めてだ。埼玉、千葉、神奈川各県も過去最多を更新した。全国でも初めて7000人を超え、過去最多となった。こうした現実を前にすると、菅首相の決意も、事態改善にどこまで根拠と展望を持っているのか、”本気度”が残念ながら伝わって来なかった。

また、国民の側には、なぜ、ここまで政府の対応は後手に回ってしまったのか、その反省の弁もなく、国民の協力を求める首相の姿勢に違和感を感じた国民も多かったのではないか。国民と危機感を共有するところまで至らなかったのではないか。

一方、全国の感染状況は大阪、京都、兵庫の関西3府県や、愛知県でも感染拡大が続き、緊急事態宣言の発出を政府に要請する動きも出ている。感染抑制どころか、非常事態宣言地域が広がる可能性もある。

さらに、首都圏では入院や重症患者が増えて病床がひっ迫、看護師などの医療従事者が不足するなど提供体制が維持できるか深刻さを増している。こうした点についても菅首相から説得力のある対応策や見通しは示されなかった。

コロナ感染危機をどのように乗り切っていくか。政府に望みたいのは、総理官邸を中心に司令塔としての体制を整えること。そして各自治体と連携して、早急に感染抑止と医療提供体制の確保に向けた取り組みを強めることだ。

その上で、まもなく始まる通常国会では、政府がコロナ危機の現状と今後の対応策を報告し、与野党間で法改正や予算措置などを協議して、対応策を迅速に実行してもらいたい。

同時に私たち国民の側も基本的な感染防止対策を徹底するなどに協力して、危機乗り切りにメドをつけていきたい。

危機を乗り切るためには、政権、与野党など政治の対応がカギを握っている。

 

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