不祥事でも内閣支持率が上がる訳は?

東京など1都3県に出されているコロナ対策の緊急事態宣言は2週間の延長戦に入ったが、報道機関の3月の世論調査で菅内閣の支持率が上昇に転じた。

複数の知人から「コロナ対策で目立った成果がないのに、どうして内閣支持率は上がるのか」。「菅首相の長男が接待事件を起こし、役人が処分される不祥事が続いているのに内閣支持率が上がる理由は何か」。「長期政権で世の中は、倫理に不感症になってしまったのか」といった質問やご意見をいただいた。

そこで、今回は”不祥事でも内閣支持率が上がる訳はどうしてか”を取り上げる。なお、私は世論調査や統計学の専門家ではない。40年余り政治取材を続けているジャーナリストの分析・見方であることを最初にお断りしておきたい。

 ”支持が不支持を上回る” 3か月ぶり

読売新聞とNHKが8日にそれぞれ3月の世論調査結果を報道した。菅内閣の支持率は、◆読売新聞が「支持」が前月より9ポイント上昇して48%、「不支持」が2ポイント下がって42%。◆NHKは「支持」が2ポイント上がって40%、「不支持」が7ポイント下がり37%。いずれも支持が不支持を上回っており、去年12月以来3か月ぶりのことになる。

NHKの支持率は40%に対し、読売新聞の支持率は48%と高い。これは、読売新聞の調査は「重ね聞き」。つまり、支持か不支持かわかりにくい場合、重ねて聞く方式を採用しているため、支持率が高くなるとみられている。なお、データは、3月8日読売新聞朝刊、NHKNEWSWEBから引用している。

 支持率は「政府対応の評価」に比例

最初に菅内閣の支持率が上昇したのはなぜかという問題。結論を先に言えば、菅内閣の支持率は、コロナ対策の「政府対応の評価」に比例しており、この評価が改善しているからだということになる。

具体的にどういうことか。以下、NHKのデータで説明していきたい。「内閣支持率」と「政府対応の評価」は次のようになっている。

◆支持率 =9月62%→11月56%→12月42%→1月40%→2月38%→3月40%

◆対応評価=9月52%→11月60%→12月41%→1月38%→2月44%→3月48%

このように政府対応の評価が12月以降、大幅に下がると支持率も急落。2月以降、政府対応の指標が改善すると支持率も次第に上昇していることがわかる。

政府の対応策で具体的な成果が上がったというよりも、感染者数が減少し感染状況が落ち着いてきたことが、国民の安心感につながったという面が大きい。

また、ワクチンの医療従事者への先行接種が始まり、国民の間でも「接種したい」という希望者が67%へと増えていることも政府対応の評価につながったものとみられる。要は、政府対応の評価が改善してきたことが、内閣支持率の上昇につながった主要な要因とみることができる。

首相長男らの不祥事に厳しい視線

一方、菅首相の長男が勤める放送関連会社が、総務省の幹部を接待していた問題が明るみになるなど菅政権では、不祥事が相次いでいる。

このうち、総務審議官時代に1回7万円の高額接待を受けていた山田真貴子・内閣広報官が辞職した問題について「菅首相の説明は十分か」を質問で取り上げている。「十分だ」という答えはわずか15%、「不十分」が65%と圧倒的多数だ。

また、総務省や農林水産省の幹部職員が接待を受けていた問題で「行政はゆがめられたと思うか」については「ゆがめられたと思う」が56%、「思わない」の24%を大幅に上回っている。

世論は、菅首相の長男らによる高額接待と官僚の倫理違反、菅首相の説明責任を厳しい視線でみていることが読み取れる。

 世論の関心事項と調査のタイミング

それでは、なぜ、不祥事が相次ぐ中で、内閣支持率が上昇するのか。この理由を説明できる決定的な判断材料があるわけではないが、幾つかの要因が考えられる。

1つは世論の関心事項だ。菅内閣発足の際に「政権に最も期待すること」については、最も多かったのがコロナ対応がだった。また、毎月の世論調査でも「感染の不安」を感じる人の割合は80%と高い水準が続いている。世論の最優先の関心事項は、不祥事よりもコロナ対応だとみられる。

次に調査のタイミングの問題がある。今回の調査を実施した3月第1週は、期限が来る1都3県の緊急事態宣言の扱いと、総務省の接待問題が同時平行的に進んでいた。

ところが、宣言解除に強い意欲を示してきた菅首相が週の半ばに、宣言延長へと方針転換を記者団に表明し、大騒ぎになった。小池都知事の機先を制するねらいもあったと思われるが、政治決断を印象づけた。

そして週末に緊急事態宣言の延長を正式決定、メデイアは大きく取り上げた。世論の多数も延長支持が多かったように思われるが、世論の関心事項と調査のタイミングが相まって支持率上昇につながったとみている。

このほかの要因、例えば、コロナ感染拡大という危機の中での国民の意識。例えば、危機を乗り切るまで、国民の側は首相の交代や政治の大きな変動は避けようとするのではないかといった見方。

あるいは、自民党内に次の有力なリーダー候補が見当たらないこと。野党の政権交代も難しく、国民にとって別の選択肢がないことが、政権の維持を助けているといったことも考えられるが、今回どこまで影響を与えたかは不明である。

要は、これまでみてきたように感染の落ち着きに伴う政府対応の評価の改善が、主な要因で、それに加えて、世論の関心と調査のタイミングが重なった結果という見方をしている。

 支持率低下も、政権先行き不透明

そこで、菅内閣の支持率は今後どうなるのかという問題が残る。NHKの調査では支持と不支持の差は、わずか3%だ。「支持と不支持が拮抗」というのが実態ではないか。

その支持の内容も「自民支持層の内閣支持の比率」は60%台半ば、前の月とほぼ同じ水準。政権発足当初は85%あったのに比べると大幅に落ち込んだままだ。

今回、改善したのは、最も多い無党派層で支持の割合が20%台から6ポイント増えたためだが、無党派層なので支持離れに転じる可能性は大きい。支持基盤は、引き続き不安定な状態にあることに変わりはない。

菅政権にとって安定した政権運営を行うためには、最大の課題であるコロナ感染を抑え込めるかどうか、そのためには、決め手となるワクチン接種が順調に進むかどうかにかかっている。但し、高齢者の本格的な接種は当初の4月から、本格的な接種は、5月以降にずれ込む見通しだ。

一方、総務省の接待問題では、総務官僚No2の谷脇総務審議官がNTTからも高額な接待を受けていたことが確認され、更迭された。菅政権の看板政策である携帯電話料金政策などの推進役を失うことになった。

また、週刊文春が、新たに総務大臣を務めた野田聖子幹事長代行や、高市早苗元政調会長らが在任当時、NTTの社長らと会食していたなどと報じた。さらに、菅首相の長男が勤める「東北新社」が放送法の外資規制に違反していたにもかかわらず、衛星放送の事業認定が取り消されなかった問題も明らかになった。

自民党の閣僚経験者に政権への影響を聞くと「政府のコロナ対応や、不祥事に対する国民の不信感は強い。他に選択肢がないから”仕方なく支持”といった雰囲気を感じる」と警戒を強めている。

当面の政治は、2つのファクターがカギを握る。1つはワクチン接種を軸にしたコロナ対応が軌道に乗るか。もう1つが一連の不祥事乗り切りができるかどうか。菅内閣の支持率、政権のさき行きも不透明だ。

 

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