菅首相とアメリカのバイデン大統領は、16日の日米首脳会談で、日米同盟を深化させるとともに、覇権主義的な動きを強める中国に対して、共同で対抗していく姿勢を打ち出した。
これに対し、中国側は「強烈な不満と断固たる反対」を表明する談話を発表した。米中対立が激化する中で、日本は難しいかじ取りを迫られることになりそうだ。
今回の日米首脳会談は、日本の政治や外交、安全保障にどのような影響を及ぼすのか探ってみたい。
日本外交・安全保障に重い責任
今回の日米首脳会談は対中戦略が大きな焦点になり、会談を受けての共同声明は、中国を強くけん制する内容を打ち出した。その象徴が、中国が「核心的利益」と位置づける台湾問題で、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と明記した。
共同声明で台湾に言及したのは、日中国交正常化前の1969年の佐藤首相とニクソン大統領の会談以来52年ぶりだ。
また、菅首相は会談後の共同記者会見で、「防衛力の強化を図る決意」を表明した。尖閣諸島の防衛をはじめ、日本の防衛力の整備、台湾有事を想定したアメリカ艦船への補給など後方支援などの検討も課題になるとみられる。
これに対して、中国側は今後さまざまな形で、対日圧力をかけてくるものとみられる。米中対立の激化が予想される中で、中国とどのように向き合うか、日本は外交・安全保障などの分野で重い責任を担うことになる。
中国は、日本の最大の貿易相手国だ。経済面でどのような影響が出てくるのか、検討も迫られる。中国に対する外交、安全保障、経済、先端技術など総合的な対策・戦略が必要になる。コロナ対策では後手の批判を浴びたが、総理官邸が中心になって対中戦略づくりが進むのかどうか、菅首相の指導力が問われる。
”政権運営の支え役” 日米首脳会談
次に国内政治への影響はどうか。日米合意内容は重い課題だが、菅政権にとっては、短期的には”政権運営の支え役”になる。政権に対する批判を浴びても、日米合意の実現を図る責任があるとして、批判を封じることもできる。
例えば、4月下旬の衆議院北海道2区、参議院の長野、広島のトリプル選挙で、仮に与党系候補が敗れた場合。あるいは、7月の東京都議会議員選挙が不振に終わり、”菅降ろし”などの動きが出た場合、外交の責任を持ち出して批判をかわすことも可能になるとみられる。
東京五輪・パラリンピックについても首脳会談で、菅首相は開催に強い決意を表明し、バイデン大統領は支持したとされる。今後の感染状況にもよるが、菅首相は、開催を推進する方針は変えないとみられる。
菅政権の今後の政権運営は、4月下旬の気候変動サミット、6月中旬のG7サミットなどの外交案件をこなしながら、7月から9月はじめにかけての東京五輪・パラリンピックへとつなぎ、秋の政治決戦に打って出る戦略だとみられる。
秋の解散・総選挙の公算大か
菅首相は、訪米中に同行記者団から衆院解散・総選挙について質されたのに対し、「まずは新型コロナ対策をしっかりやりたい。同時に10月に衆議院議員の任期が来るので、秋までの間で時間の制約はあるが、よく考えていきたい」とのべた。
この発言と先の政治日程とを合わせて考えると、◆7月の東京都議選に合わせた解散・総選挙の可能性は小さい。◆基本はコロナ対策を進めたうえで、秋の解散・総選挙の公算が大きい。◆その際、9月解散・総選挙を断行し、その後、自民党総裁選を行う方針を模索しているのではないかとみている。
但し、以上は菅内閣の支持率が高く、政権が求心力を保っていることが前提だ。求心力低下となれば、首相の交代論が出てくることも予想される。
カギは、感染状況とワクチン接種
それでは、これからの政治を動かすカギは何か。結論を先に言えば、コロナ感染状況と、ワクチン接種が順調に進むかどうかにかかっている。
ワクチン接種については、河野担当相が、訪米中の菅首相とアメリカ製薬大手ファイザー社との間で、ワクチンの追加供給を受けることで実質合意したと明らかにした。そのうえで、国内のすべての対象者に必要な数量を9月中に供給できるとの見通しを示した。
今月12日から始まった高齢者の優先接種に必要な数量は、既に6月末までに確保できるとの見通しが示されている。問題は、ワクチン接種が高齢者に続いて、基礎疾患のある人、さらに一般の人に打ち終わるまでに、感染拡大を抑えられるかどうかだ。
全国の感染状況は18日の時点で、大阪府では新規感染者が1220人で過去最多を更新。まん延防止等重点措置を適用して2週間が経つが、効果が現れていない。東京都も543人で、500人を超えるのは6日連続。全国の新規感染者数は4000人に増加。感染力の強い変異株に置き換わりつつあることも影響しているものとみられる。
菅政権の先行きは、こうしたコロナ感染を抑え込めるのか。今のような飲食店の時間短縮重点では限界があり、より強い新たな対策に踏み込む必要があるのではないか。
一方、外交面では、中国とどのように向き合うのか。外交、安全保障、経済を含めた対応策を国民に説明、理解を得ながら取り組む必要がある。内政、外交の大きなハードルを乗り越えられるのか、菅政権の実行力が問われている。