コロナ禍の東京オリンピックが8日夜、17日間の幕を閉じ、政界はお盆明けから秋の政局に向けた動きが本格的に始まる。
最大の焦点は衆院解散・総選挙がいつ、どのような形でおこなわれるかだが、ここにきて、菅内閣の支持率が急落している。報道各社の世論調査の中では、菅内閣の支持率が3割を切るところも出てきた。
また、不支持が支持を上回る”逆転状態”も4か月連続で、深刻なのは政権の浮揚材料が見当たらないことだ。
今月末には、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の期限を迎える。新型コロナウイルスの新規感染者数は、全国で連日1万人を上回る状態が続いている。
感染爆発の勢いを止めることができなければ、菅政権に対する世論の風当たりは一段と激しさを増し、秋の政局にも大きな影響を及ぼすことになる。こうした菅政権の支持率続落危機の背景や政権への影響を探ってみる。
菅内閣発足以降最低 3割の壁崩れる
さっそく、報道各社の世論調査のデータから見ていきたい。朝日新聞が7、8の両日、読売新聞とNHKがそれぞれ7日から9日の日程で実施し、その結果がまとまった。
まず、菅内閣の支持率は、朝日が支持28%-不支持53%、読売が支持35%-不支持54%、NHKが支持29%-不支持52%となっている。
各社の数値に多少の幅はあるが、支持率はいずれも去年9月以降最低の水準を更新、不支持は5割以上という点で共通している。世論の潮流がはっきりしてきた。
中でも衝撃的なのは、朝日新聞とNHKの内閣支持率が30%を下回ったことだ。NHKの世論調査では、第2次安倍政権が発足した2012年以降、最も低かったのは、安倍前首相が退陣を表明した去年8月の34%だった。
第2次安倍政権時代は、森友学園や加計学園問題をめぐって国会が紛糾した際も支持率3割を割り込むことはなく、復元力も強かった。
これに対して、菅政権ではこの3割の壁が崩れたことになる。衆院議員の任期満了が2か月後に迫り、支持率続落に歯止めがかかるのかどうか、反転攻勢の材料は見当たらない。
政府のコロナ対応 不信感と嫌悪感
それでは、支持率急落の原因は何か。菅内閣の支持率については、これまで何度か指摘したように「新型コロナウイルスを巡る政府の対応」と連動している。
NHKの調査では「評価する」が35%に対し、「評価しない」が51%で、依然として、国民の厳しい評価は変わっていない。
これに加えて、政府の不手際が相次いだ。飲食店の種類提供を停止させるため、酒の販売事業者や金融機関へ働きかけを要請をした後、批判を浴びて撤回に追い込まれた。
自宅療養者に対する医療提供方針をめぐっても対応が混乱した。こうした混乱について、説明もきちんとなされないので、政府の対策や対応には付き合いきれないという不信感や嫌悪感が広がっていること影響しているものとみられる。
一方、政権与党内には、五輪開催による政権浮揚効果を期待する意見があったが、この点はどうか。読売の調査でみると東京五輪が開催されてよかったと「思う」が64%に対し、「思わない」は28%だった。
菅首相が掲げた「安全安心な大会」になったかについては、「思う」は38%に対し、「思わない」が55%だった。
東京五輪について、世論の多くは、コロナ禍の試練に耐えて技や能力を磨いてきた選手の躍動に共鳴し、「開催してよかった」と感じているのだと思われる。
それに引き換え、政府や自治体トップには覚悟や国民に訴える内容も持ち合わせておらず、「五輪は五輪、政治とは別の次元」と割り切っているようにみえる。
このように五輪の評価は高いが、菅内閣の支持率には結びついておらず、政権浮揚効果は全く見られないことがはっきりした。
政党支持率 ”自民低下現象”
今回の報道各社のデータの中で、特に注目したのは読売の調査で、政党支持率と投票予定政党に変化が現れている点だ。結論を先に言えば、内閣支持率の低下が、自民党の支持率の低下という形で現れ始めたとみられる点だ。
自民党の支持率は7月の39%から36%へ低下しているほか、無党派層の投票先でも自民党17%に対し、立憲民主党は13%で4ポイント差まで詰め寄られている。無党派層は今や自民党を抜いて”第1党”で、無党派層の獲得率が選挙結果を大きく左右する。
自民党長老に聞くと「菅首相と自民党は丁寧な政権運営を心掛けないと、国民の信頼を失い、選挙で大敗する恐れがある。コロナ対策、政治とカネ、オリンピック・パラリンピック対応、総理の説明不足などで、国民との距離がどんどん広がりつつある」と選挙への深刻な影響を懸念する。
感染抑え込み 宣言解除できるか
さて、これから政治の展開はどうなるか。東京オリンピックに続いて、今月24日からパラリンピックが予定されており、この大会をどのような形で開催するか、組織委員会や東京都、政府などの間で調整する。今のところ、オリンピックと同様、無観客で開催するとの見方が強い。
次に最も大きな問題は、今月31日に期限を迎える緊急事態宣言と、まん延防止等重点措置の扱いだ。緊急事態宣言は東京、大阪など6都府県、重点措置は13道府県にまで拡大している。
東京に今の4度目の緊急事態宣言が出された7月12日、東京の新規感染者数は502人、全国でも1504人だった。ところが、その後急増し、今月5日東京では5000人を突破、全国では7日に1万5700人を上回った。専門家は「ピークが見えない」語るとともに重症者や、入院に伴う病床のひっ迫を警戒している。
これに対し、菅首相はワクチン接種に期待をかける。但し、2回目接種の割合は10日時点で、高齢者は81%と高いが、64歳以下はわずか8%に止まる。ワクチンの供給不足で急ブレーキがかかっていたが、ようやく段階的に再開され始めた。
変異株への置き換わりが急速に進んでおり、仮に8月末に感染収束のメドがつかなければ、菅政権の対応や政治責任を問う声が強まることが予想される。8月末までに感染抑え込みができるのか、大きな節目になる。
問題の核心 衆院選の顔と選び方
自民党の総裁選については、今月26日に総裁選の選挙管理委員会が開かれ、日程が決まる見通しだ。党の執行部や派閥の実力者は、今のところ菅首相の下で衆院選を戦い抜く考えで、衆院選や総裁選の日程を調整する方針だ。
これに対して、中堅・若手議員を中心に「菅首相で選挙に勝てるのか」との不安感が広がりつつあり、総選挙の前に自民党総裁選を行い、国民の関心を自民党に引きつけた後、衆院選に臨むべきだとの声も聞く。
また、執行部は総裁選は、無投票で菅首相を選出したいとの考えが強いが、高市早苗・元総務相が月刊誌で立候補の考えを表明した。任期満了に伴う総裁選は、議員投票とともに党員投票を行って新総裁を選出すべきだという声も若手議員の間では強い。
今後、自民党内からさまざまな動きが出てくることが予想されるが、問題の核心は、次の衆院選の顔を誰にするのか。現職の菅首相に1本化するのか、菅首相を含め候補者が立候補して決めるのか、その方法を早く決める必要がある。
執行部が強引に政治日程を決めると、党員や有権者の反発を招き、本番の衆院選でしっぺ返しを受ける。菅政権の足元が揺らぎ始めた中で、感染抑え込みはできるのか、それに与野党、世論が絡み、変動の激しい秋になりそうだ。