自民党総裁選挙をめぐる動きが、あわただしくなってきた。菅首相が再選に意欲を示しているのに対し、岸田・前政務調査会長や高市早苗・前総務相が立候補の考えを明らかにした。
こうした中で、菅首相は、二階幹事長を含む自民党役員人事を行う意向を固め、党内の根回しを始めた。総裁選直前に幹事長を交代させるのは、極めて異例だ。
総裁選をめぐる自民党内の動きや二階幹事長交代の舞台裏、さらに衆院選挙の実施時期はどうなるのか、探ってみたい。
二階幹事長交代の舞台裏
菅首相は8月30日午後、総理官邸で二階幹事長とおよそ30分間会談した。菅首相は追加の経済対策の検討を指示する一方、幹事長交代を検討していることを伝えた。これに対し、二階幹事長は「遠慮せずに人事を行ってもらいたい」と述べ、受け入れる考えを示したという。
自民党役員の任期は党則80条で「総裁は3年とし、その他はすべて1年」と規定されているので、今回の人事も党則上は問題はない。しかし、3週間もしないうちに自民党総裁選が告示される時に「党の要」を交代させるのは異例だ。
自民党関係者に、このねらいをきくと「岸田氏が立候補の際、打ち出した党改革の『争点外し』のねらいが大きいのではないか」と指摘する。
岸田氏は総裁選立候補にあたって「党役員は任期1年連続3期までという党改革」を打ち出した。これは、具体的には安倍・菅政権下で5年以上も幹事長を続けている二階幹事長に焦点を当て、総裁選の争点にするねらいがあると受け止められていた。
このため、菅首相としては、二階氏を交代させることで、総裁選の争点から外すねらいがあるのではないかというわけだ。
また、この党関係者は「二階派の中で、二階さんに近い人の中からも『晩節を汚さない方がいい』との声が出ていた」と語り、二階派内が一枚岩ではないことを把握したうえで、菅首相が交代論を持ち出したとみる。合わせて、党刷新のイメージと自らの求心力も高めたいというねらいがあるとの見方をしている。
党役員人事は6日にも行われる見通しだが、新たな幹事長はたいへんだ。自民党総裁選は目前で、衆議院選挙も迫っている。幹事長として手腕を発揮するには、あまりにも時間が短すぎる。
本来は、通常国会が終わった後の6月頃にも人事を行い、幹事長人事をはじめとする体制を整えて衆院決戦に臨めばよかったのだが、急遽のリリーフ登板で、衆院決戦で勝利できるか、不安を抱えて選挙戦のかじ取りとなる。どこまで、政権浮揚に効果があるかも疑問だ。
総裁選 石破氏の動向も焦点
総裁選挙への立候補者については、下村博文・政務調査会長が意欲を示していたが、党三役は立候補を自重すべきだとの猛烈な批判を浴びて断念に追い込まれた。高市早苗・前総務相も意欲を示しているが、推薦人を集めることができるかどうかはっきりしない。
一番の焦点は、石破元幹事長が立候補するかどうかだ。石破氏は自らの派閥の退会者が相次ぎ、推薦人20人の確保のメドがつかないため、立候補に慎重とみられていたが、「全くの白紙だ」とのべるなど、これまでの姿勢に変化がみられる。
政界では「地方の党員などから、久しぶりに石破待望論が出ており、最終的には立候補に踏み切るのではないか」との見方も出ている。
一方で、石破氏が立候補すれば、岸田氏との間で地方票が分散し、菅首相にとって有利に働くとの見方もあり、立候補した場合の影響などを見極めようとしているのではないかといった見方も聞かれる。
このほか、菅首相は国会議員票では優勢とみられているが、今回は二階派を含めて派閥の締め付けがきかず、若手を中心に「菅離れ」が強まり、苦戦を強いられるのではないかとの見方も聞く。
このように総裁選の情勢は流動的で、候補者の顔ぶれがはっきりしてきた段階で、改めて取り上げたい。
衆院選の時期 10月から11月か
それでは、私たち有権者が1票を投じることができる衆院選挙はいつになるのか、できるだけわかりやすく説明したい。基本は、次のような2つの日程・考え方に整理できる。多少ややこしいが、お付き合い願いたい。
◆1つは「10月5日公示、17日投票」の日程。公職選挙法31条では、任期満了選挙は「任期満了の日から前30日以内に行う」規定されている。
任期満了日は10月21日。その前30日の期間の中で、最も遅い日曜日で、17日投票となる。衆議院の解散ではなく、任期内なので、閣議で選挙期日を決めることができる。
但し、問題はその直前に自民党総裁選があり、菅首相ではなく、別の新総裁が選ばれた場合は、国会で首相指名選挙を行う必要があり、数日かかるので、この日程では物理的に無理がある。
菅首相は自らが選出されるので問題ないとの判断かもしれないが、ほかの候補者が当選することもありうるので、問題の多い判断だと言わざるを得ない。
◆2つ目は、臨時国会を10月上旬か、それ以降に召集、任期満了をまたぐが、「10月末から、11月下旬までの間に投票を行う日程」。具体的には、投票日は最も早い場合で10月31日。最も遅い場合は11月28日。その間の日曜日も設定できる。
このケースは、衆院を解散する方法(解散日から40日以内に実施)、あるいは任期満了で、解散せずに国会閉会後、一定の期間で選挙期日が決まる方法のいずれかを選択できる。
但し、これらの日程はいずれも、10月21日の任期満了日をまたいで投票する日程になる。公職選挙法上は可能とされるが、基本から外れる特例で問題は多いとの指摘もある。
2つのケースとも問題を抱え、その原因は自民党総裁選の設定の仕方に問題があると考えるが、今の政治日程のままで進むと、衆議院選挙は「10月から11月にかけての選挙」になる公算が大きいとみている。
コロナ対応評価 一番のカギか
最後に、次の衆院選挙で、国民は何を重視するだろうか。自民党の総裁選びの駆け引きや党内抗争は、有権者にとっては所詮、途中経過の話に過ぎない。
◆選挙で最も重視する点と言えば、第1は、コロナ感染の抑え込みと医療提供体制をどうするかということになるのではないか。
また、生活支援や事業者支援、経済活動再開への取り組みも論点になる。その際、政府のコロナ対応の評価はどうか「政権の実績評価」が判断のベースになる。
◆2つ目は、衆議院選挙は政権選択選挙だ。どんな政治家、政治集団に政権担当を委ねるのか。特に政党のリーダーの資質や能力、「党首の顔・力量」が大きな判断材料になる。
◆3つ目は、コロナ激変時代の政治のあり方をどう考えるか。国際社会との関係、外交・安全保障のあり方、人口減少社会への対応など中長期の課題を含め、自らの判断でしっかりした政治家、政治集団を選びたい。そのための判断材料を集め、何とかコロナ激変時代を乗り越えていきたいと考える。