菅首相は9日夜の記者会見で、自民党の総裁選挙に立候補せずに退任することになったことについて「12日の緊急事態宣言の解除が難しく、コロナ対策に専念すべきだと判断した」とのべるとともに「最後の日まで全身全霊を傾けて取り組んでいく」と強調した。
菅首相が実際に総理・総裁を退任するのは10月上旬の見通しで、およそ1か月先になる。コロナ危機が続く中で、事実上の退陣が決まっている首相が、政権運営を続けることは「権力の空白」を招かないのかどうか。また、「退任までに為すべきこと」は何かを考えてみたい。
衆院選投票ずれ込み11月か
最初にこれまでの経緯と、今後の政治への影響などを整理しておきたい。
菅首相は自民党総裁選挙について、時期が来れば再選に向けて立候補する考えを繰り返して表明してきた。党役員人事の刷新や、衆院解散・総選挙の断行も検討されたというが、今月3日、一転して立候補しない考えを自民党の臨時役員会で表明し、内外に大きな衝撃を与えた。
歴代首相は退陣の意向を表明した際には、その日のうちに記者会見をして、理由や背景などを説明してきたが、菅首相は3日に記者団のぶら下がりに2分間程度応じただけで、記者会見は行わなかった。
今回、緊急事態宣言延長の方針が決まったのを受け、その説明の記者会見の中で、退任にも触れる形を取った。
菅首相は9月末の総裁任期満了まで退任しないため、実際に総理・総裁を辞めるのは、10月上旬になる見通しだ。総裁選と次の新総裁が国会で首相指名を受ける手続きが必要なためだ。およそ1か月総理・総裁を続け、今月下旬には首脳会合に出席するため訪米も検討されている。
さらに次の衆院選挙の投票日は、衆院議員の任期満了日を越えて11月上旬以降にずれ込む異例の日程になる見通しだ。
「12日の宣言解除難しい、心に残る」
さて、菅首相は9日の記者会見で、総裁選への立候補を取りやめたことについて「12日の宣言解除が難しく、やはりコロナ対策に専念すべきだと思い、総裁選に出馬しないと判断した」と退任の理由を説明した。
また、記者団から「自民党役員人事や、衆議院解散・総選挙の戦略が行き詰ったことが影響したのか」などと質問が相次いだ。
これに対し、菅首相は「党役員人事は総裁の専権事項だ。解散時期のシミュレーションは行った。ただ、12日の宣言解除が常に頭の中にあり、心の中に残っていた」とのべ、緊急事態宣言の解除が困難になったことが、退任の決断に大きく影響したという考えを繰り返した。
「退陣までに為すべきこと」菅首相
以上のような菅首相の対応をどうみるか。まず、国政の最高責任者が自らの進退の決断をした場合は、国民、国家に大きく影響するだけに、歴代の首相のように直ちに緊急の記者会見を行って、退任の理由を説明すべきだった。
また、次の新総裁・新首相が決まるまで、時間がかかりすぎるのではないか。自民党の総裁選挙の日程が入っており、難しいとの答えが予想されるが、身内の代表を選ぶ政党の選挙であり、選挙日程を早めたり、短縮したりすることはあり得たのではないか。
特に今回は、衆議院議員の任期満了が迫っており、国民の権利そのものを制約する。また、政権の事実上の空白期間はできるだけ短くした方がいいと考える。
次に、今の政治日程を変えないというのであれば、「退陣までに為すべきこと」を明確にして実行してもらいたい。具体的には、「コロナ対策の総括」をきちんと行ってほしい。うまくいった点や、問題点・反省点を率直に整理することは、次の政権に引き継ぐうえでも必要だ。
菅政権のコロナ対策については、当ブログで何度も「政権としての総括」をすべきだと指摘してきた。菅首相は緊急事態宣言を出したり、解除したりするたびに記者会見を行ってきたが、自らの政策をどのように評価しているのか、まとまった総括は、残念ながら一度も行ってこなかった。
去年9月16日に政権を担当して以来、1年になる。◆政権発足当初は、コロナ対策を優先事項に位置づけながら、実際には携帯料金の値下げなどの独自色にこだわった。
◆GOTOトラベルを優先、コロナ感染の抑え込みが遅れたのではないか。◆飲食店の営業時間短縮を中心にした1本足打法にこだわった。感染抑制、ワクチン接種、医療提供体制整備の3本柱対策をもっと早く取り組むべきではなかったか。
◆最近、ようやく感染者数は減少傾向が表れているが、重症者は多く、入院できない入院待機者は全国で13万人にも上っている。国と自治体は連携して臨時医療施設の増設などに取り組んでいると強調するが、医療従事者の確保を含め、どこまで対策が進んでいるのか詳しい状況の説明がない。
菅首相は、「最後の日まで職務に全力で取り組んでいく」と表明した。そうであるならば、この1年間のコロナ対策について、政治・行政の立場で総括を行い、国会に報告、与野党が論戦を交わし議論を深めるべきだ。
特に国民の関心が強い、医療提供体制の改善はどこまで進んだのか、国と地方自治体の今後の計画の見通しも明らかにして、今後に生かすべきだ。
自民党の総裁選挙が17日から始まるが、国民のほとんどは投票権を持っていない。次の衆院選挙が本番で、どんな政治家、どの政党に政権担当を委ねるかを選択することになる。
内閣は連帯して国会に責任を負うのが、憲政の本来の姿だ。党利党略でなく、菅政権の取り組みをはじめ、与野党の意見を国会で戦わせ、国民への判断材料を提供してもらいたい。菅首相の最後の大きな責任であり、「退任への身の処し方」だと考える。