衆院選”自民勝利、立民敗北”の背景

コロナ禍の短期決戦となった第49回衆議院選挙は、自民党が選挙前からの議席を減らしたものの、単独過半数を大きく上回る261の絶対安定多数の議席を獲得して、事実上の”勝利”を収めた。

これに対して、野党第1党の立憲民主党は、選挙前を下回る96議席にとどまり、”敗北”した。一方、日本維新の会は、選挙前の4倍近い議席を獲得し、第3党に躍進するなど国会の新しい勢力分野が確定した。

メディア各社の情勢調査や投開票当日の予測報道でも、自民党の獲得議席は単独で過半数ギリギリか、下回るのではないかとの見方が多かった。これに対し、朝日新聞は、単独で過半数を大きく上回る見通しを示し、選挙結果に最も近い予測をした。

当ブログも自民党は単独過半数をやや上回る「236議席をベースに上下20程度の幅」になるのではないかと予測した。結果は「絶対安定多数」の261議席となり、上限を上回り、予測が外れたことになる。

個別選挙区の積み上げの検証はまだ行えていないが、予測が外れた理由や背景にどういった事情があるのか、与野党の関係者の取材を基に報告しておきたい。

(メディアの予測については、前号・10月27日「衆院決戦 勝敗予測のカギは?」。関心のある方は、この号の後に掲載しています。ご覧ください)

 野党共闘 無党派層へ広がりの限界

自民党が過半数を大きく上回る議席を獲得できた理由は何か、選挙に詳しい自民党幹部に聞いてみた。

この幹部は「自民党の若手議員は危機感を強め、後援会を中心に必死で支持固めに動いたこともあるが、野党共闘が、野党候補の支持拡大につながらなかったことに助けられた側面が大きかった」と指摘する。

具体的にどういうことか。「野党共闘と言っても例えば、立憲民主党の候補者に1本化された場合、立憲民主党と共産党の支持層に限られていたのが実態だった。無党派層への支持拡大につながらなかったので、自民党候補が競り勝つ選挙区が多かった」と分析している。

立憲民主党関係者に聞いても「野党共闘は、野党陣営の分裂を防ぎ、自民党と競り合う構図にまで持ち込めた効果は大きい」と強調したうえで、「有権者の反応を見ると、共産党との共闘に抵抗感を持ち、無党派層の中から支持離れが出たことも事実だ」と認める。

読売新聞の出口調査で、比例代表の投票先のデータをみると、立民24%、自民21%、維新19%などに分かれている。前回の選挙では、立民30%、維新が9%だったという。前回と比較すると立民は最多だが支持の比率が下がり、維新は大幅に伸ばしている。

今回、立憲民主党は、共産党などの野党と213の選挙区で候補者を1本化し、激戦や接戦に持ち込んだが、勝利したのは59選挙区で、勝率は3割に達しなかった。

これに対し、与党側はおよそ65%にあたる138の選挙区で議席を獲得した。今回の野党共闘には限界がみられ、自民・公明の与党側の地力が勝ったと言えそうだ。

 コロナ感染収束 首相交代効果も

以上は、選挙の戦い方の面から分析したものだが、自民党が議席を増やした背景としては、選挙を取り巻く状況なども影響した。

1つは、「コロナ収束効果」。選挙戦が進むにつれて、新型コロナの新規感染者が急速に減少した。その結果、これまでの政府のコロナ対策の失敗よりも、これからの感染抑制や暮らし・経済の立て直しに有権者の関心が移ったことも、政権与党側に有利に働いた。

もう1つは、「首相交代、政権のイメージチェンジ効果」も大きかったのではないか。安倍・菅政権では、野党をいわば敵方に設定して対決していく手法が目立った。

これに対して、岸田首相は「聞く力」を強調し、安倍政権や菅政権とは異なる政権運営を強調し、与党内の疑似政権交代を印象付けようとするねらいがあったものとみられる。こうした政治姿勢が、一定の期待感を持たせる効果を生んでいる。

さらに、冒頭に触れた「野党共闘の限界」を加えた3つの要因が、今回の自民議席増をもたらしたとみている。メディアの側の情勢調査や世論調査、議席予測の改善点などについては、今後材料を集め、改めて報告したいと考えている。

 問われる与野党 新しい政治・国会を

今回の選挙を受けて、政界にさまざまな動きが続いている。自民党では、甘利幹事長が小選挙区で敗れた責任をとって辞任し、後任に茂木外相が就任することが1日固まった。岸田政権にとって、政権発足からわずか1か月で、党の要の交代は痛手だ。

一方、立憲民主党は、政権交代を訴えたが、結果は選挙前の109議席を下回る96議席に止まり、党内から執行部の責任を問う声が出ている。枝野代表は、2日の党役員会までには何らかの考え方を示したいとしており、党の態勢の立て直しを迫られることになりそうだ。

このほか、立憲民主党などの野党側と距離を置く日本維新の会は、選挙前議席の11から41議席を獲得し第3党へ躍進した。第3極をめざして、国会で独自色を強めていくものとみられる。

国民の側は、与野党双方に対して、コロナ対策をはじめ、暮らしと経済の立て直し、さらに外交・安全保障をどのように進めていくのか、明らかにして欲しいという期待が強い。与野党が議論を深め、新しい政治・国会論戦の姿を示すことが問われている。

来年夏には、参議院選挙が控えている。次の国政選挙にどう備えるのか、今回の衆院選挙の結果を分析して、それぞれの政策や政権構想の打ち出し方や、政党間の選挙協力のあり方などについても検討を行い、政治の信頼回復に取り組んでもらいたい。

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