先の衆院選挙後、初めて本格的な論戦の舞台になった臨時国会は、35兆円を上回る過去最大規模の補正予算を成立させ、21日閉会した。
国会閉会を受けて、岸田首相は21日夜記者会見し、年内に10万円の現金給付を容認する方針を打ち出したことについて「国民の思いを受け止め、思い切ってかじを切った」と方針転換の判断を説明した。
そのうえで、岸田首相は「大型経済対策を年内に国民に届けるとともに、変異株対策も先手、先手を打つ」とのべ、オミクロン株対策を強化する考えを表明した。
さて、こうした岸田政権の対応や今度の臨時国会をどのようにみたらいいのか。大型の補正予算は暮らしや経済の立て直しにどの程度、効果があるのか、掘り下げた議論は乏しかったのではないか。
国土交通省の基幹データの書き換えなど新たな問題も明らかになったが、経緯や原因はわからないまま、通常国会に先送りになった。
衆院選挙を踏まえて向こう4年間の外交・安全保障のかじ取りをどうするのかといった議論もほとんど聞かれず、残念ながら”期待外れの臨時国会”といわざるをえない。
なぜ、こうした結論になるのか、年明けの通常国会の論戦を充実させるためにも、今度の臨時国会の問題点をしっかり点検しておきたい。
現金給付方針転換 制度設計に甘さ
まず、今度の国会で与野党の最も大きな焦点になったのは、18歳以下の子どもを対象に10万円相当を給付する問題だった。政府案では、年内に5万円を現金で支給し、残り5万円は来年春にクーポンで支給する方針だった。
ところが、政府案では、クーポンの発行に1000億円近い事務費がかかることに加えて、コロナワクチン接種などで多忙を極める自治体からは、さらに労務の負担が増すと強い反発を受けた。
これを受けて、岸田首相は予算審議の中で「自治体の判断で、年内に現金10万円を一括給付することも容認する方針」に転換する考えを表明した。
具体的には、現金5万円とクーポン5万円の併用と、現金5万円を年内と来年の2回に分けて支給、さらに全額現金で一括支給の3案から選択する仕組みに変えた。
この方針転換をどうみるか。首都圏の市や区の大半は17日現在で、年内全額現金一括給付を予定しており、クーポンを採用するところはないという。岸田首相が土壇場で方針転換したこと自体は、歓迎されるという皮肉な結果になっている。
但し、こうした現金給付をめぐる混乱は一昨年、安倍政権当時に続いて2回目だ。再度の現金給付は必至とみられていたが、備えは進んでいなかった。
今回の原案は、11月上旬に自民、公明両党の幹事長が急ピッチでまとめ上げた案がベースになっているが、スピードを重視した結果、制度の問題点や詰めの甘さが露呈した。
また、この問題に補正予算審議の多くの時間が費やされたため、予算案に盛り込まれていた、コロナ対策や経済対策の中身の審議は十分できなかった。
さらに、35兆円もの巨額予算は、経済の立て直しにどの程度役に立つのかといった経済効果の議論も深まらなかった。方針転換は、貴重な審議時間を奪い、国会のチェック機能を弱めた点で政権与党の責任は大きい。
統計データ書き換え 失う信頼性
国土交通省が、建設業の受注実態を表す基幹統計データを書き換え、二重に計上するなど不適切な取扱いを続けていたことが明らかにされた。朝日新聞のスクープだった。
データの二重計上は2013年4月に始まったとみられている。GDP=国内総生産を推計する際の要素になるとも言われ、統計の信頼性を失う行為だ。
3年前、厚生労働省が所管する「毎月勤労統計」をめぐる問題で不適切な扱いが明らかになり、予算審議が紛糾したことも思い出す。同じような不祥事が繰り返される。
岸田首相は「経緯や原因を究明するため、検事経験者などによる第三者委員会を設置し、1か月以内に報告する」考えを表明した。この問題も年明けの通常国会に持ち越されることになった。
文書改ざん 問われる裁判終結の判断
森友学園をめぐる問題で、財務省の決裁文書の改ざんに関与させられ自殺した赤木俊夫さんの妻が訴えていた裁判は15日、国側がこれまでの主張を一転し、全面的に受け入れる手続きを取り、裁判を終わらせた。
裁判を通じて「夫の死の真実を知りたい」と訴えてきた妻の雅子さんは「不意打ちで卑怯だ」と批判している。
国の対応は、改ざんの具体的な経緯を明らかにしないまま、賠償責任を認めて幕引きを図ろうとするようにみえる。国民の多くの納得も得られないのではないか。
鈴木財務相や岸田首相はどのような判断で、裁判を終わらせることにしたのか、雅子さんの訴えに真摯に向き合い、事実関係を明らかにする責任があるのではないか。この問題も年明けの通常国会で改めて問われることになる見通しだ。
このほか、国会議員に毎月100万円が支払われる「文書通信交通滞在費」についても初当選した議員がわずか1日で全額受け取るのはおかしいと問題提起し、国民の関心を集めた。
与野党とも日割りに変えることでは一致したが、野党側が未使用分の返納と使いみちの公開を求めたのに対し、与党側が難色を示して合意ができなかった。使途の公開など是非は明らかだと思われるので、次の通常国会では早期に是正を図るべきではないか。
問われるコロナ、立て直し構想
ここまでみてきたように今度の臨時国会は、過去最大の補正予算を成立させたが、肝心の中身を評価・点検する議論は乏しかった。また、先送りされた懸案・課題も多く、課題解決という面でも”期待外れの国会”に終わったというのが正直な印象だ。
それだけに年明けに召集される通常国会の役割と責任は大きい。夏には参議院選挙が行われるので、通常国会の会期延長は難しい。先送りになった懸案については、早急に是正を図ることを強く求めておきたい。
また、新しい年は、取り組むべき課題が多い。コロナ感染は3年目に入り、特に感染力の強いオミクロン株を抑え込めるのか当面、最大の問題だ。
岸田首相は21日の記者会見で、オミクロン株対策として濃厚接触者は、自宅待機ではなく、宿泊施設で待機を要請する方針や、いわゆるアベノマスクを廃棄するなどさまざまな方針やアイデアを明らかにした。
せっかくの方針であり、国会論戦の中で明らかにすれば論戦は盛り上がるし、国民の理解も進むと思うのだが、独り舞台でのアピールは残念だ。
いずれにしても感染をコントロールしながら、暮らしと経済の立て直しに向けた構想と道筋をどのように描くのか。与野党双方とも年明けの国会で、それぞれ建設的な提案を行い、提案の中身を競い合う緊張感のある政治を見せてもらいたい。(了)