通常国会が17日召集され、岸田首相の施政方針演説に続いて、各党代表質問が行われて論戦が始まる。
岸田首相にとっては就任後初めての通常国会だが、新型コロナのオミクロン株の感染が加速度的に拡大している。このため、国会冒頭の論戦は、岸田政権のオミクロン株対策が焦点になる見通しだ。
オミクロン株対策では何が問われているのか、対策の具体的な内容に焦点を当てて考えてみたい。
”オミクロン株国会”の様相か
最初に日程をみておくと通常国会は17日に召集され、その日のうちに岸田首相の施政方針など政府4演説が行われる。これを受けて、19日から衆参両院の本会議で各党代表質問のあと、24日から衆院予算委員会に舞台を移して、新年度予算案の審議が始まる見通しだ。
夏に参議院選挙を控えているため、その前哨戦と位置づけられる今年の通常国会は、与野党の対決色の濃い国会になりそうだ。
特に予算案成立のメドがつく3月末までの前半戦では、オミクロン株対策をめぐって激しい論戦が戦わされる見通しだ。端的にいえば”オミクロン国会”の様相になるのではないか。
岸田政権の新対策と感染見通し
そのオミクロン株対策について、岸田首相は所信表明演説で、オミクロン株の特性を踏まえて、メリハリのある対策を講じるとして、医療提供体制を強化するとともに3回目のワクチン接種を前倒しする方針を打ち出したい考えだ。
ところが、ここにきてオミクロン株の感染が驚異的な速さで拡大してきた。東京では13日、1週間前の5倍近い3100人余りに急増した。都の専門家会議では、今のペースでいけば1月中に1万人を超えるという推計も示された。
全国の感染状況も「まん延防止等重点措置」が沖縄、山口、広島3県に出されているほか、全国の感染者数は13日に1万8600人余りに達し、オミクロン株への置き換わりは暫定値で84%を占めている。
岸田政権は、去年11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたの続いて、今月11日には、オミクロン株の新たな対策を打ち出した。果たして感染拡大を抑え込むことができるのかどうか、試されることになる。
ワクチン、医療、水際対策の論戦を
岸田政権のオミクロン対策は、具体的にどんな点が問われることになるのか、論戦のポイントをみていきたい。
▲第1は「医療提供体制の備え」がどこまで進んでいるかだ。政府は、オミクロン株の感染力は強いが、今のところ重症リスクは小さいなどの特性を踏まえて、感染者や濃厚接触者を一律に入院させるのではなく、地域の医療機関などと連携して、自宅療養も認める方針を打ち出した。
そして、各都道府県で体制を整備した結果、自宅療養中の患者の健康観察や、飲み薬の速やかな供給などを行うための体制が整ったとしている。具体的には、自宅療養を始めた場合には、翌日までにパルスオキシメーターを配布する体制も整い、患者の健康観察などを行う医療機関の数は、全国で計画を3割上回る1万6000確保できたとしている。
問題は、今後、感染が急拡大した場合、入院・治療、宿泊所での待機療養、自宅療養などの仕分けや転院などが実際に機能するかどうかだ。
また、感染や濃厚接触で、医療従事者やエッセンシャルワーカーの仕事が制限され、要員が不足する社会機能の低下といった新たな問題も懸念される。
▲第2は「ワクチン接種の前倒し」の問題だ。政府は13日、ワクチンの2回目と3回目の接種間隔について、◆高齢者施設などに入っていない一般の高齢者も現在の7か月から6か月に短縮する方針を決めた。
◆64歳以下は、8か月から7か月に前倒して、今年3月から実施する方針だ。こうした対応は、オミクロン株の急拡大を踏まえ、3回目の接種を急ぐ必要があると判断したためだ。
問題は、ワクチンの確保と自治体への配分が順調に進むかどうかだ。12日に開かれた全国知事会では、前倒しの方針を歓迎しながらも「ワクチンは3月までのスケジュールしか示されておらず、4月以降の配分が見通せないと予約を受け付けられない」「現場の自治体が大混乱しかねないので、接種の対象や時期、ワクチン供給量などについて行程を示してほしい」といった要望が相次いだ。
こうした自治体の声を受け止めて、具体的な実施計画をまとめ、迅速に追加接種を行えるのかどうかが問われている。
▲第3に「水際対策や検疫の問題」がある。在日アメリカ軍基地がある沖縄、山口県・岩国市、隣接する広島県西部などの地域で、感染が拡大した。基地内の感染流行が、基地の外に広がったものとみられる。米軍関係者がアメリカなどから基地に直接、入国する場合、検疫が免除されていたことも明らかになった。
日米両政府は今月9日、対策を強化することでようやく合意した。この問題が沖縄県で表面化したのが、去年12月だったことを考えると政府の対応はいかにも遅い。日米地位協定を見直すべきだとの意見もある。
▲このほか、首相官邸の司令塔機能のあり方、具体的には、政府と自治体、医療機関などとの連携・調整のあり方の課題もある。政府は6月まで先送りしているが、危機管理体制の見直しは早急に行うべきだという意見もある。
このようにコロナ対策は、数多くの課題・問題がある。野党側は、全国各地の実態を踏まえて、政府の対策に問題がある場合は厳しく指摘したり、別の対策があれば積極的に提案したりするのが本来の役割だ。
これに対し、政府、与党側は対策に問題があれば真摯に受け止めて是正するなど与野党双方が建設的な取り組みを見せてもらいたい。国民の側も、政府、与野党の議論、対応をしっかり評価していくことが重要だ。
経済立て直し、外交・安保論争も
今年は、通常国会が6月に閉会すると直後に参議院選挙が控えている。国民にとって、参議院選挙の主な判断材料は、国会の与野党の議論ということになる。このため、コロナ対策以外の議論も必要不可欠だ。
具体的には、まずは、経済の立て直しだ。コロナ感染が収束したあと、国民生活や経済の立て直しに向けて、何を最重点に取り組むのか、各党とも構想と政策を明らかにしてもらいたい。
また、米中の対立や北朝鮮の弾道ミサイルの相次ぐ発射などを受けて、日本の外交・安全保障、防衛力整備のあり方などの議論を深めていく必要がある。
通常国会冒頭は、オミクロン株対策に議論が集中するのはやむを得ないが、感染が落ち着けば、経済、外交・安全保障論争にも力を入れてもらいたい。(了)
※(追記14日21時半。◆濃厚接触者の自宅などでの待機期間、政府は現在の14日間→10日に短縮する方針。◆新規感染者数、東京14日4051人、全国2万⑳45人)