新型コロナウイルス、オミクロン株による感染急拡大が続いている。海外の感染状況から予想はしていたが、国民生活への影響も目立ち、感染危機が現実のものになってきた。
政府は27日から「まん延防止等重点措置」の対象地域に北海道、大阪、福岡など18道府県を追加し、適用地域は合わせて34都道府県、全国の7割以上に拡大した。新規感染者数は7万人を超えて過去最多、さらに拡大は続く見通しだ。
感染危機を抑え込むためには、政権の対応、特に首相の指導力が大きく影響する。岸田首相は、感染対応を比較的順調に進めてきたが、ここにきて対策の決定などに遅れがみられるようになった。
岸田政権のオミクロン株対応は何が問われているのか、岸田首相の指導力をどうみるか、通常国会の論戦も含めて考えてみたい。
オミクロン、新たな対策とりまとめを
岸田政権は、去年11月にコロナ対策の全体像を取りまとめたのに続いて、今月11日には、オミクロン株の急拡大を受けて新たな対策を打ち出した。そして、水際対策で時間を稼ぎながら、予防、検査、医療提供体制の整備を進めながら、感染の抑え込みをめざしてきた。
ところが、年明けとともにオミクロン株の感染力はすさまじく、あっという間に第5波を乗り越えた。全国の新規感染者数は26日、7万1000人余りに達し、過去最多を更新した。
今回は濃厚接触者も多く、保健所は、感染経路を調べる積極的疫学調査を断念したところが多い。病院の外来診療もひっ迫が目立ち、保育園の休園、小学校の臨時休校もみられ、国民生活への影響は大きくなっている。
国会では新年度予算案の実質審議が始まり、オミクロン対策が最大の焦点になっている。野党側は「政府の対応は後手に回っている」と追及したのに対し、岸田首相は「感染防止と社会活動の両立をめざしている」と防戦に追われている。
それでは、岸田政権としては、何が最も問われているか。結論を先にいえば、これまでの対策を見直し、オミクロン感染に対応できる新たな対策を早急に取りまとめ、実行に移せるかだ。
オミクロン株の特性は、感染力は強いが、重症化リスクは今のところ低いといわれている。濃厚接触者が多いので、陰性が証明されれば、待機期間を短縮してエッセンシャルワーカーは仕事ができるようにして、社会機能を維持していく必要がある。
また、政府は、医療がひっ迫する可能性がある場合、自治体の判断で、軽症者は自分で検査を行い、自宅療養も認める新たな方針を打ち出した。
ところが、こうした対策も肝心の抗原検査キットが不足する事態が起きている。また、自ら検査をして自宅療養するにしても、薬や食料などのバックアップ体制などもはっきりしていない。
このように政府のオミクロン対策は、場当たりで断片的な対応が目立ち、国民の不安をなくしていく対応ができていないようにみえる。
したがって、政権がなすべきことは何か。1つは、感染防止対策と医療提供体制が本当に機能しているのか、早急に点検・確認したうえで、問題点があれば、是正して新たな対策として明らかにすること。
2つ目は、新たな問題、社会的機能を維持していくための取り組みも必要だ。具体的には、待機期間の扱いと考え方。そのうえで、保育や学校、交通機関、ごみ収集などの事業を維持していくため、政府、地方自治体、民間企業の役割分担や支援策などもとりまとめる必要がある。
ワクチン追加接種、強力な推進を
次にワクチンの3回目接種が遅れている問題がある。政府は、3回目接種について、1月末までにおよそ1470万人に打つ目標を立てていたが、25日までに接種を終えた人は289万人、目標のわずか20%に止まっている。
この問題は、衆院予算員会でも取り上げられ、野党側は「最近の1日当たりの接種状況は、昨年夏のピーク時の1割以下と少ない。人口に占める接種率もわずか2.1%、先進国で最下位だ」と対応の遅れを厳しく批判した。
これに対し、岸田首相は「1,2回目の接種が遅れたため、3回目は間隔を空けて行わなければならなかった。2月末までには8割の自治体が高齢者の接種を終えられる見通しだ」と理解を求めた。
政府は当初、3回目の接種の間隔について「原則8か月以上」としていたが、オミクロン株の感染が拡大したのを受けて、65歳以上の高齢者などは6か月に、一般の人は7か月に短縮するという方針変更を迫られた。
また、ワクチンの安定的な確保の難しさや、自治体の接種体制の準備の問題。さらに、3回目はワクチンの「交互接種」が可能だが、予約希望がモデルナ社製より、ファイザー社製に集中する問題も抱えている。
但し、切り札の3回目のワクチン接種が遅れているのは事実だ。接種をさらに強力に推進しないと感染の急拡大に間に合わない恐れもあり、時間との闘いとも言える厳しい状況にある。
首相の指導力、現状把握と実行力
感染危機を抑え込むことができるかどうかは、岸田政権の求心力を大きく左右する。岸田首相は当初の対策が有効に機能しているかどうか、現状の把握と問題点があれば、直ちに是正していく実行力が、問われている。
一方、政権与党、野党の双方とも感染対策に問題があれば、鋭く指摘したり、批判したりすることは当然だが、些細なことで足を引っ張るような行動を取ると国民の支持を失う。野党側も建設的な対応を続けているようにみえる。
岸田首相については、代表質問に対する答弁や、衆院予算委員会の論戦をみているといわゆる”安全運転”、既存の方針の説明を繰り返す”守りの姿勢”が目立つ。
オミクロン危機を回避するためには、科学的な知見、データを集めたうえで、国民生活を守るために、どこまで踏み込んだ対応策を実行できるかが試される。
岸田首相並びに総理官邸が、司令塔機能を発揮して新たな対応策を打ち出し、危機乗り切りに成功するかどうか。トップリーダーの政治決断が問われる局面が近づきつつあるように思う。(了)