新型コロナウイルスの感染は、感染力の強いオミクロン株によって急拡大が続いており、全国の新規感染者数は2日、9万人を超えて過去最多となった。
東京都内では新規感染者数が初めて2万人を超え、コロナ感染患者用の病床使用率は51.4%に達した。都は、緊急事態宣言の発出を要請する目安を50%に置いてきたが、その目安を上回ったことになる。
政府や東京都は、いずれも緊急事態宣言の取り扱いには慎重な姿勢を示している。この宣言の扱いをどのように考えたらいいのか。岸田政権のコロナ対策では何が問われているのか、衆院予算委員会のコロナ対策の集中審議も含めて考えてみたい。
政府、東京都も緊急宣言に慎重姿勢
まず、オミクロン株の感染急拡大に伴う緊急事態宣言について、東京都と政府の対応から見ていきたい。
東京都の小池知事は「命と暮らしを守るという観点からも、病床の使用率の中でも重症や中等症を見ていく必要がある。専門家の声なども聞きながら考えていきたい」とのべ、症状の重い人たちの状況も見ながら慎重に判断したいとの考えを示している。
岸田首相は、2日の衆院予算委員会の集中審議で「去年8月の感染者数がピークだった時、病床も満杯だった。今の感染者数は当時の3倍と多いが、病床使用率は国の基準で37%程度に収まっている。今の時点では、緊急事態宣言を出すことは検討していない」として、慎重な姿勢を示した。
緊急宣言、今後の方向性・選択肢は
それでは、今後、重症者数などがさらに増加した場合、緊急事態宣言の扱いをどう考えるかという点が問題になる。
この点に関連して、前のコロナ担当相で、自民党の西村康稔議員が2日の衆院予算委員会集中審議で、次のような方向性と選択肢を示しながら質問に立った。今後の対応を考えるうえで参考になるので、個人的な解釈を交えて紹介したい。
1つは「より強い強制力」を伴った感染抑制対策。日本は海外のようなロックダウンは難しいので、今の緊急事態宣言に比べて、より強い措置、例えば夜10時以降の外出制限などが考えられる。
2つ目は「緩やかな対応策」。具体的なイメージとしては、今の緊急事態宣言や、まん延防止等重点措置がベースとして考えられる。感染対策と経済社会活動との両立をめざしながら、穏健な対策を基本に考える。
西村氏は、国民の理解が得られるかなどを考えると1つ目は、当面は困難と判断している模様だ。2つ目が、現実的な案だが、さまざまな工夫や改善を行うことが可能だとして、次のような取り組みを挙げていた。
オミクロン株感染で重要なのは、高齢者と子ども。高齢者対策では、ワクチン接種の加速。子ども対策では、学校・教育のオンライン化。それに親たちの企業のテレワークの推進を強力に推進することを提案した。
これに対して、岸田首相は「感染防止と、社会経済活動維持のバランスの中で、今後の対策を考えたい。強制力を伴う対策に踏み出すかどうかは、6月にまとめる中長期の対策の中で考えたい」と今後の方向や対応には踏み込まなかった。
以上の質疑も踏まえて、緊急事態宣言の扱いだが、岸田首相や小池知事が今の時点で慎重に判断したいとの姿勢は妥当なように思える。
但し、問題は、特に医療に大きな影響を及ぼす重症者の状況がどうなるか。それに感染拡大の抑え込みと、社会経済活動の維持の3つの要素をどう考えるか。専門家の意見も聞くにしても最後は、政権トップが政治判断で決めることになる。
その決断に当たって、仮に緊急事態宣言を出す場合も、重要なことは従来の対策の踏襲ではなく、ワクチン接種の一層の加速や人流抑制のオンライン化促進など新たな対策を打ち出せるかだ。
また、国や自治体の権限強化といった問題も先送りせずに、今の国会で議論し、法案を提出して成立させることこそ、緊急時の国会の役割ではないか。
日本の弱点、ワクチン、検査の強化
岸田政権の今後のコロナ対策の進め方について、民主党政権の厚労相経験者で、立憲民主党の長妻昭議員の指摘も参考になったので、紹介しておきたい。
長妻氏もコロナ感染防止と経済・社会活動の両立をめざす立場だ。そのうえで、オミクロン株対策としては、端的に言えば、ワクチン接種とPCR検査の2つの柱を強化することを提案した。
具体的には、日本の3回目のワクチン接種率は3.5%に止まり、世界の先進36か国の中でも最低の水準だ。政府の接種間隔8か月の見直しが遅れたためではないか。1日当たりの接種も直近で40万回だが、菅政権の100万回など目標を設定してはどうか。
一方、PCR検査についても日本の能力は国際的にも低い。日本のコロナ対策の弱点は、検査体制が未だに改善・強化されていないことで、岸田政権が掲げる抗原検査キット1日80万確保はいつ実現するのかと質した。
これに対して、岸田首相は「ワクチン接種の対象者は、今後、増えていくので、一律の目標は適切かどうか」と消極的な姿勢を示したほか、検査キット確保の具体的な時期に言及することは避けた。
このようにみてくると既に4回も出してきた緊急事態宣言をいつ出すか自体には、あまり大きな意味がない。緊急事態宣言を出して、どんな対策が強化されるのか、中身がより重要だ。
岸田政権は去年、水際対策をいち早く打ち出した点は評価する。ところが、年明け以降、急拡大したオミクロン株対応では、対応に遅れが目立つ。3回目のワクチン接種が目標を大幅に下回ったり、自衛隊による大規模接種も対象の人員が少しずつ増えるなど小出しの対応に見える。
オミクロン株感染は、感染状況や医療・病床のひっ迫がどうなるか。東京など13都県のまん延防止等重点措置の期限が13日に近づいている。
岸田政権は、オミクロン危機をどのように乗り切っていくのか。まん延防止等重点措置や緊急事態宣言などの手続きではなく、具体的な対応策を打ち出して、強力に推進・実行できるかどうかが問われている。(了)
〇追記(2月3日20時)東京都 緊急事態宣言要請の新たな指標設定 ①重症者用の病床使用率、酸素投与が必要な人の割合 →いずれか30%~40% ②新規感染者数 2万4000人(7日平均) ※現状→①重症者用の病床使用率15.1%、酸素投与割合8%、 ②1万7058人