通常国会前半の焦点になっている新年度予算案は、22日の衆院本会議で賛成多数で可決され、参議院に送られた。この採決では、与党の自民、公明両党に加えて、野党の国民民主党が初めて賛成に回った。
新年度予算案の衆院通過の時期は、1月召集になって以降では、1999年小渕内閣当時に次いで2番目に早いケースになった。憲法の規定で、参議院に送られた後、採決されなくても30日後の3月23日に自然成立する。
今回、予算案が衆院をスピード通過した背景や、野党の国民民主党が異例の賛成に回った事情を探ってみたい。
バラバラ野党と戦略なき第1党
さっそく、政府予算案が早期に衆院通過したのはなぜか。結論から先にいえば、野党陣営がバラバラ、政権与党ペースを突き崩せなかったということになる。
もちろん、今年は去年のように国会冒頭、補正予算案が提出されなかったため、新年度予算審議が例年より早く始まった事情がある。
また、かつてのような予算案の通過を遅らせる”日程闘争”に大きな意味はない。だから日程よりも、国民が期待していた掘り下げた質疑に至らなかった中身の方が大きな問題だったといえる。
予算審議はちょうど、オミクロン株の急拡大が続く中で進んだ。高齢者の3回目のワクチン接種の遅れ、抗原検査キットの不足など対策の目詰まりはどこに問題があるのか。
自宅療養者の健康管理、懸案だった政府と自治体などの連携・調整の問題をどのように改善して出口戦略につなげるのか。さらには、社会・経済を立て直す具体策と道筋を示して欲しいというのが、国民の多くの期待ではなかったか。
ところが、野党第1党である立憲民主党の追及は迫力を欠いた。長妻昭・元厚労相や江田憲司氏らは、岸田首相らに鋭く切り込む場面もあったが、その後に続く論客は少なく、追及は散発的に終わった。
岸田首相ら政府側の答弁は、去年11月に対策の全体像をまとめ、水際対策もいち早く断行したと同じ説明を繰り返し、反省や対策の見直しなどにも踏み込まなかったことも議論が深まらなかった要因でもある。
岸田首相は、野党の追及に柔軟な姿勢を見せながら、実質ゼロ回答、”暖簾に腕押し”答弁は、事前にある程度予想されていたはずだ。それを上回る追及、そのための戦略や戦術、論客の陣立てなどが十分でなかったところに弱点があった。
一方、野党内では、先の衆院選で躍進した日本維新の会は第3極を意識した構えで、国民民主党は独自路線。共産党は野党共闘再確認に重点を置くなどバラバラで、攻めの体制になっていなかったことも影響したと思う。
国民民主党 ”独自性と焦り”
それでは、次に野党の国民民主党が、政府の当初予算に対して異例の賛成に回ったことをどのようにみたらいいのだろうか。
玉木代表は22日の衆院本会議で賛成討論に立ち「トリガー条項凍結解除によるガソリン価格の値下げを岸田首相が検討すると明言したからだ」とのべるとともに「従来型の古い国会対応でなく、国民生活に何が重要かを判断した」と訴えた。
これに対し、泉立憲民主党代表は「野党とは言えない選択だ。これまでの国会で主張してきたことと整合性がとれるのか」と反発した。維新の藤田幹事長も「与党入りや閣外協力であれば、根本的に違う」と突き放し、共産党の小池書記局長は「事実上の与党入り宣言だ」と批判した。
野党関係者に聞くと「国民民主党の支持率が上がらず、参院選前に独自性をアピールしようとする焦りがあるのではないか」。「党内には、与党との連携・協力を志向する動きがあり、その布石ではないか」といった見方もある。
ガソリン価格の抑制策は最終的に実現するか、まだ決まっていない。仮に実現した場合も個別課題で、野党の立ち位置を大きく変えることに支持者の理解は得られるのか。党内でも前原代表代行は、玉木代表の方針に反対意見をのべたといわれ、党の結束も見ていく必要がありそうだ。
私事で恐縮だが、昔、駆け出し記者のころ、派閥の幹部から「国会議員は、予算案が採決される衆院本会議は、何がなんでも出席しないといけない」と聞かされた。田中角栄元首相は裁判中でも本会議場に姿を現していたことを思いだす。
政権の主要政策を凝縮して編成した当初予算の賛否は、首相指名選挙などと並んで政治家個人、政党にとっても重い決断、選択だ。その選択の是非は、国民の支持と共感、信頼を得られるかによるが、慎重に判断した方がいいと個人的には考える。つまり、支持者は、野党から与党へ転じるのを期待しているかだ。
ここまで国民民主党の動きをみてきたが、野党各党にとっても夏の参院選にどのような政治姿勢、主要政策で臨むのかが問われる。また、参院1人区について、候補者調整をどのような枠組みで進めるのか、国民民主党の扱いを含めて、早急に結論を出す必要があるだろう。
岸田首相は歓迎、公明には慎重論も
最後に岸田政権と与党の受け止め方を見ておきたい。岸田首相は、玉木代表との間で水面下で調整を進めてきたようだ。21日の党の役員会で、これまでの経過を説明したうえで「与党として歓迎したい」との考えを表明した。
一方、連立を組む公明党からは、国民民主党との間で将来的な協力関係につながるか慎重に見極める必要があるとの意見が出ているという。山口代表も記者会見で「自公の連立の枠組みには影響を与えないことを岸田首相と確認している」とのべている。
岸田首相は、今後、政策面での連携を国民民主党との間で強めていくものとみられる。
岸田政権にとって当面の焦点は、来月6日に31都道府県で期限を迎える「まん延防止等重点措置」を予定通り解除できるかどうかが大きなカギになる。また、気になるのは、2月に入って岸田内閣の支持率に陰りが出ている点だ。
2月上旬の読売新聞、中旬のNHK、下旬に近い時点で行われた朝日新聞の世論調査で、いずれも下落傾向が続いている。政府のコロナ対応について「評価しない」との受け止め方がいずれの調査でも増えている。(※文末に内閣支持率のデータ)
このため、まん延防止等重点措置の解除、第6波の感染の抑え込みが進展するのかどうか、岸田政権の支持率や政権運営に影響が出てくるので、注視していく大きなポイントだとみている。(了)
※参考:岸田内閣支持率 ◇2月4~6日 読売調査:支持58%(-8P)-不支持28%(+6P) ◇2月11~13日 NHK調査:支持54%(-3P)-不支持27%(+7P) ◇2月19・20日 朝日調査:支持45%(-4P)ー不支持30%(+9P)