ウクライナ危機の教訓と”日本問題”

ロシアによるウクライナへの侵攻から、24日で3か月になる。侵攻当初は、短期間で終結かとの見方もあったが、東部戦線では一進一退の状態が続いており、攻防は長期化する見通しだ。

内外のメディアを通じて、ロシア軍の攻撃で廃墟と化した市街地の映像や、現地の人たちの悲痛な声を聞くたびに、何とか早期停戦に持ち込めないのかという思いを強くする。

同時に、現実の世界は、こうした惨状を打開できないことにいら立ちや無力感を感じることも多いが、問題点などを整理できないまま、現在に至っている。

そこで、今回はウクライナ危機から、日本としては何を教訓として学ぶのか。

また、国内では、米中対立や東アジアでは台湾問題にどう対応するかといった議論を聞くが、実は、日本の外交・安全保障の対応と方針、「日本問題」が問われているのではないかと考える。

そこで、ウクライナ危機の教訓を踏まえて、この「日本問題」を考えてみたい。

 日本から見たウクライナ危機の教訓

ロシアによるウクライナ侵攻は、旧ソ連・大国ロシアの復活をめざすというプーチン大統領の世界観に基づく独断がもたらしたものだとみているが、国連憲章違反であり、冷戦後の国際秩序も覆すもので、決して容認することはできない。

そのうえで、ウクライナ危機から、日本は教訓として何を学ぶか、私の個人的な考えを以下、のべさせてもらいたい。

1つは、ウクライナ国民の国防・防衛意識の強さを感じる。ロシアからあれほどの猛攻を受けながら、ロシアに屈せず、独立と尊厳を守り抜こうとする姿勢に心から敬意を表したい。

ロシアや旧ソ連との長年の抗争の歴史をはじめ、90年代に実施された国民投票で旧ソ連からの独立に90%以上の賛成があったこと、今後はヨーロッパ諸国との連携を選択したいという国民の強い思いが底流にあるのではないかと感じる。

2つ目は、防衛の備えだ。攻撃から地下鉄の構内に逃れて生活を続ける姿をはじめ、地下の大きなシェルターで1か月から2か月の生活をしていた親子、さらには、個人の住宅でも小さな避難部屋を作って備えていたことを知った。

こうした国家・社会、個人レベルで国民を守る備え、軍事面での近代化や継戦能力の向上に向けた取り組みに日本との違いを感じた。

3つ目は、政治リーダーの力量だ。ゼレンスキー大統領については、様々な見方があるようだが、国民を結束させ、大国ロシアに一歩も引かない戦いを継続していることは、相当な能力の持ち主だ。

また、国際社会へ支援を呼び掛けるメッセージの発信力には、卓越したものがある。リーダーを支える側近にも優れた人材を起用しているのだろう。

 日本の対応、ロシア制裁は評価

それでは、日本の対応については、どのように自己評価したらいいのか。まず、岸田政権の対応からみていくと、ロシアに対する経済制裁はG7の欧米諸国と連携して進めているのが特徴だ。

また、ウクライナからの避難民は、空路の座席を用意したりして、既に1000人が来日している。全国各地の自治体や企業、個人の協力を得ながら、受け入れと支援・交流が続いている。

日本政府の対応については、こうした自治体、企業、国民の協力を含めて、これまでの対応は、合格点をつけていいのではないか。

 防衛力の整備 ”何から手を付けるか”

問題は、これからの取り組み方だで、さまざまな提案や考え方が出されている。例えば、安倍前首相から核共有論や、防衛費の6兆円への拡大のほか、自民党からは防衛費のGDP2%への拡大や、敵基地攻撃能力の名称を「反撃能力」に変えて保有していく考え方や提言が出されている。

さて、こうした提言などを踏まえて日本の防衛力整備に「何から手を付けるか」課題が多すぎて、対応が難しい。核兵器への備えもあれば、防衛費の増額、サイバー、電磁波攻撃への対応、陸海空の装備の更新も必要になってくる。

日本の防衛費の総額は、今年度予算で約6兆3000億円。国際軍事組織の評価で規模は世界9位で、最新鋭の戦闘機なども装備している。

国の防衛は、国民の命や財産、生活を守るのが基本だ。冒頭に触れたウクライナ危機の教訓も参考に考えると「防衛の基盤」の再構築という視点が大事ではないかと考える。

具体的には、1つは、国民の防衛意識の問題がある。ウクライナに比べ、日本国民の防衛意識は高いとは言えないのではないか。世界最新鋭の武器を備えても国民の多くの支持がなければ、戦いを持続していくのは困難だ。

国民の多くから、日本の外交・防衛政策に関心を持ってもらうことが必要で、政府の説明と説得が重要だ。

2つ目は、防衛面の備え。ウクライナをはじめ海外では、国民を保護するため、有事の際のシェルターを整備している。シェルターは、単なる地下施設ではない。食料、水、トイレ、換気口、簡易ベッドなどを備える必要がある。

専門家に聞くと、フィンランドの整備率は80%以上、アメリカでも50%、ソウルでは300%、市民の3倍にも達している。日本は、ほとんど整備が進んでいない。ミサイル攻撃に備えて、国民の避難訓練も中止されたままだ。

このほか、自衛隊の制服組に聞くと有事の際には、武器、弾薬の備蓄がカギを握るが、備蓄は乏しく継戦能力は極めて脆弱だという。つまり「防衛力の基盤の整備」が十分でない。この点は、防衛相の経験者も認めている。

3つ目に、防衛予算の問題もある。岸田首相は、防衛力の抜本的強化を図る考えで、バイデン大統領との首脳会談で防衛費の増額について言及する見通しだ。

この防衛費、自民党の提言であるGDP2%を5年間で達成する場合、今の予算が5兆3000億円余りで、GDP1%に相当する。2%に増額すると約11兆円となり、これを達成するには、毎年1兆円ずつ増やさなければならない。

使い道についても陸海空3自衛隊から要望を出してもらい、ホッチキスで止めて決着とはいかない。防衛の目標を明確にして、部隊の配置、統合運用も必要で、何よりも国民の理解と支持が不可欠だ。

このように防衛力の整備といっても何を最重点に、優先順位をどうするか、財源をどのようにして確保するのか、たいへんな難問が控えている。

 外交・防衛の構想、国会で徹底論争を

アメリカのバイデン大統領が韓国に続いて、日本を訪問した。23日に日米首脳会談、24日にクアッド=日米豪印4か国首脳会合が開かれる。大きな動きなので、最後にこの点も触れておきたい。

アメリカは、ロシアのウクライナ侵攻があっても最大の競争相手は、中国という位置づけは変えていない。今回の訪問は、中国に対抗する枠組みを強化することが最も大きな狙いだとみられる。

これに対して、岸田首相も日米同盟の強化と防衛費増額の方針を伝える公算が大きい。その場合、防衛費増額の方針は、国際的な公約として受け止められる。

その結果、日本は東アジアの安定に向けてどんな役割を果たすのか。そのためには、岸田政権が、安全保障と防衛力整備の基本構想と政策の内容をきちんと示して、国民を説得できるかどうかがカギになると思う。

また、与野党とも国会で外交・安全保障論争を徹底して行う責任がある。与党の中には、夏の参議院選挙後のテーマになるとの考え方もあるが、国会に続いて、参議院選挙でも主要な論点として逃げずに議論をしてもらいたい。(了)

★参考情報:事実関係の追加(23日20時)23日の日米首脳の共同記者会見   ◆岸田首相「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費を相当増額する決意を表明し、バイデン大統領から強い支持をいただいた」と発言。  ◆バイデン大統領は記者の質問に答えて、中国が武力で台湾統一を図ろうとした場合、台湾防衛のために軍事的に関与する考えを示した。アメリカの従来の曖昧戦略から踏み込んだ発言と受け止められたが、米当局は「アメリカの政策は変わっていない」との声明を出して軌道修正した。

カテゴリーBlog

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です