参院選 憲法改正問題の見方・読み方

参議院選挙が公示された後の最初の週末、テレビ局では各党幹部が出演して討論が行われた。週明け27日から首都圏では政見放送も始まったが、新興勢力の党派やユーチューバーの候補者も目に付き、ネット時代の選挙を感じる。

与野党の論戦では、ウクライナ情勢などによる物価高騰・経済政策と、日本の防衛力整備のあり方を含む外交・安全保障の2つのテーマに議論が集中している。

一方、参議院選挙の結果によっては、選挙後、憲法改正問題の議論が加速する可能性がある。そこで、今回はこの憲法改正問題をどのように考えたらいいのか、取り上げる。

 改憲勢力「3分の2」82議席が焦点

岸田政権が初めて臨む今回の参議院選挙は、自民、公明両党が改選議席の過半数を獲得できるかどうかが焦点になるが、今の選挙情勢から予想すると達成の可能性は高いとみている。

もう1つの焦点が、憲法改正に前向きな勢力が、参議院の「3分の2」を占めることになるのかどうかだ。この「3分の2」は、憲法改正を国会で発議、提案するために必要な勢力だ。

具体的には、自民党と公明党、日本維新の会、国民民主党の4党が衆議院に続いて、参議院でも3分の2の議席を確保すれば、数の上では憲法改正を発議することが可能になる。

参議院の定数の「3分の2」は166人。憲法改正に前向きな4党の非改選議員と近く自民党に復党する無所属議員1人を加えると84人。その差「82」議席を改憲勢力が獲得すると「3分の2」を確保することになる。

 自民、憲法改正原案早期に提出の意向

6月26日に放送されたNHK日曜討論で、自民党の茂木幹事長は「時代の転換点にあって、新しい時代にふさわしい憲法のあり方を示すのは国の役割だ。この選挙後、できるだけ早いタイミングで、憲法改正原案の国会での可決、発議をめざしたい」と憲法改正を早期に実現したいとの考えを表明した。

これに対し、野党の立憲民主、共産、れいわ、社民の各党の幹事長や書記局長からは強く反対する意見が出される一方、維新や、国民民主からは議論に応じていきたいとの意見が出され、対応が分かれた。

憲法改正をめぐって、安倍政権時代も参議院で3分の2を確保したことはあったが、当時は安倍首相に対する野党の警戒感が強く、憲法改正への動きは進まなかった。

これに対して、岸田政権に代わった先の通常国会では、衆参の憲法審査会が頻繁に開かれ、憲法論議が活発化した。

去年の衆院選で野党第1党の立憲民主党が敗北、憲法改正に積極的な維新や国民民主党が積極的に議論に応じたことが背景にある。

一方、岸田首相は宏池会出身で、ハト派のイメージが強いが、憲法改正には強い意欲を示している。政権運営にあたって最大派閥の安倍派の協力が必要で、選挙後も憲法改正に積極的な姿勢で臨むことが予想される。

このため、今回の選挙結果次第では、憲法改正をめぐる議論が選挙後に加速することがありうる。これを国民の側からみると、今回の参院選がターニング・ポイントになることもありうるので、投票に当たっては、こうした点も念頭に置いておく必要がある。

 憲法のどこを変えるか、各党に温度差

ここまでみてきたように憲法改正をめぐる議論は加速することはありうるが、直ちに改正へと大きく動くかと言えば、そうとも言えない。

というのは、今の憲法をどのように評価するか。また、具体的にどこを変えるのかといった中身の問題になると各党の考え方の違い、温度差が大きいからだ。

例えば、自民党は憲法改正に向けて、自衛隊の明記、緊急事態対応など4項目を提示して、丁寧に説明すると選挙公約で打ち出している。

ところが、同じ与党でも公明党は今の憲法を高く評価しており、自衛隊の明記については「引き続き検討を進める」という表現にとどめている。

この自衛隊の明記をめぐっては、野党側のうち、立憲民主や共産、れいわの各党は反対している一方、維新は賛成、国民民主は議論するとして、対応に違いがある。

このため、国会でこうした違いを調整して改正案をまとめることができるかどうか。そのうえで、国民投票の実施にこぎつけ、多数の賛成を得られるのかどうか、なかなかの難問だ。

 国民が重視する課題、優先順位は

さらに国民は、憲法改正問題をどのように受け止めているか、この点も重要だ。NHKが今月24日から26日に行った世論調査で「選挙で、最も重視する政治課題」を聞いている。

結果は、◇経済政策が最も多く43%。次いで◇社会保障が16%、◇外交安全保障が15%と並び、その後、◇新型コロナ対策、◇憲法改正、◇エネルギー・環境がいずれも5%だった。

つまり、国民が重視する政治課題の中で、憲法改正問題は低い順位に止まっている。政党の側は熱心だが、国民の側には、届いていない。この点を政党、政治家は重く受け止める必要がある。

私事になるが、現役時代の2000年に憲法調査会が国会に設置された当時から憲法問題を取材してきたが、憲法は国民のものであり、絶えず、見直していく必要がある。

そして、憲法改正を行う場合、最終的には国民投票で、国民の多数の賛成を得なければならない。政治の側は、国民が必要としている暮らしや社会が抱える大きな課題を解決できているか、課題の処理能力や優先順位が大きな問題になる。

今回の参院選は、ウクライナ情勢や外交・安全保障のあり方をはじめ、物価高騰や経済政策、人口急減社会への対応、さらには憲法改正問題など大きなテーマを数多く抱えている。

特に政権与党の自民党は、選挙後、早いタイミングで憲法改正原案を提出する考えであるならば、選挙期間中に改正案の内容を掘り下げて説明し、国民に判断材料を提供するよう注文しておきたい。(了)

 

 

 

参院選 波乱要因は物価高騰問題

第26回参議院選挙が22日公示され、7月10日の投開票日に向けて18日間の選挙戦が始まった。

政権与党の自民党は堅調な滑り出しをみせているが、「物価高騰とエネルギー対策を含む経済政策」が選挙の波乱要因として浮上してきたように見える。

今回は選挙の構図をはじめ、選挙情勢、今後の焦点を報告する。

 選挙の構図一変、野党共闘から競合へ

まず、「立候補状況」を確認しておくと◇選挙区選挙には75の定員に対して367人、◇定員50の比例代表選挙には178人の合わせて545人が、それぞれ立候補した。

前回・3年前の立候補者は、合わせて370人だったので、前回に比べて175人も増えた。これは、選挙区で1人を選ぶ「1人区」で、野党候補の1本化が進まなかったことと、”ミニ政党”が多数の候補者を擁立したためだ。

また、女性候補者が181人で、候補者全体の33%、人数と割合はいずれも過去最高となった。衆院選挙を含めた戦後の国政選挙で初めて3割を超えたが、「候補者男女均等法」の目標には届いていない。

次に「選挙の構図」は、過去2回の選挙と比べると様変わりしたのが特徴だ。特に全国に32ある「1人区」で、与野党の勝敗を左右する選挙区の様相は大きく変化した。

1人区は、自民党が長年議席を維持してきた選挙区が多く、野党側は共闘体制を組んで対抗しようとしてきたが、今回、1本化できたのは、11の選挙区に止まった。

前回、前々回はすべての1人区で候補者を1本化してきた。今回は全体の3分の1に止まったので、野党同士が競合する選挙区が増えたことになる。

 自民堅調、波乱要因は物価高騰対策

それでは、与野党の選挙情勢や、勝敗を分けるポイントは何かをみていきたい。

自民党の幹部に聞くと「新型コロナ感染は落ち着いているし、ウクライナ情勢も岸田内閣はG7と連携して対応しており、選挙準備も順調に進んでいる。自民党にとって、不安材料があるとすれば、物価の高騰や円安など経済問題への対応だ」と公示前の時点で語っていた。

その後、党首討論や、公示日の党首第一声などを聞いてみると、この幹部の不安が的中した形になっている。別の幹部も「この30年、国民は物価の高騰を経験したことがなく、対応を誤ると思わぬリスクになる」と神経をとがらせている。

報道機関の世論調査でも◆共同通信が6月11日~13日に行った調査では、岸田内閣の支持率は56.9%と高い水準を保っているが、前回調査から5ポイント近く下落した。岸田首相の物価高対応についても「評価する」は28.1%に対し、「評価しない」が64.1%と大幅に上回った。

◆NHKが6月10日以降1週間ごとに実施しているトレンド調査では、岸田内閣の支持率は59%から、55%へ4ポイント下落した。政府の物価高騰対策についても「評価する」が35%に対し、「評価しない」が56%と上回った。

今回の参院選の論点としては、ウクライナ情勢と外交・安全保障、コロナ対策、憲法改正問題など数多くのテーマを抱えているが、世論や選挙情勢に最も大きな影響を及ぼしているのは「物価高騰対策」であることが浮かび上がってきた。

次に、こうした物価高騰問題は、参院選挙では具体的にどのような形で影響が出てくるのかを探ってみよう。まず、全国が対象の比例代表選挙に比べて、選挙区選挙への影響が大きい。特に1人区のうち、接戦の選挙区だ。

例えば、青森、岩手、宮城、福島の東北各県をはじめ、新潟、山梨、大分、沖縄などの各県は大激戦になりそうだ。こうした激戦区は10余りあり、風向きが変わると勝敗が入れ替わることになる。

与野党の選挙関係者の話を基に判断すると、自民党は「前回・2019年に獲得した57以上の議席の獲得は可能で、60台に届くのではないか」との見方をしている。

これに対して、野党関係者は「1人区では、野党候補の1本化で前回は10議席、前々回は11議席を確保してきた。今回、野党共闘は縮小したが、激戦区では1議席でも競り勝ちたい」と最後の追い込みにかける構えだ。

自民、公明の与党側は、非改選を含めて与党で過半数の確保には、自信を持っている。但し、どこまで議席を上積みできるかは、読み切れていない。1人区の激戦区がカギを握っており、特に10か所近い激戦区の情勢はまだ、流動的だ。

 物価・防衛、岸田首相の政治決断は

最後に7月10日の投開票日に向けて、どんな動き、展開が予想されるか。

1つは、週末は各テレビ局で党首レベルの討論が行われるが、これまでと同じ主張をダラダラと繰り返す展開が1つ。選挙の争点が明確にならないのが問題だ。

岸田首相は、26日からドイツで始まるG7の首脳会合、続いて29日からスペインで開かれるNATO首脳会議に初めて出席する。選挙期間中に異例の1週間近くも国内を留守にすることになる。

2つ目は、例えば円安がさらに加速したり、報道各社の世論調査で、岸田内閣の支持率が続落したりして、岸田政権が新たな対策に追い込まれたりするケースも予想される。

3つ目は、岸田首相が打って出る形で、物価高騰や防衛費問題などをめぐって、新たな対策や構想を打ち出すこともありうるのではないか。野党党首もこれに応じて、活発な論戦が戦わされるケースも考えられる。

現実の政治はどうか。1つ目の先送りケースに落ち着く可能性が大きいと思うが、私個人は、3つ目のケースもありうるのではないかと期待している。

というのは、このまま推移すると世論は「岸田政権は、物価高騰などに思い切った手を打てないのか」と落胆や批判が強まり、内閣支持率などが下がる可能性もあるからだ。

また、平時であれば先送りもありうるかもしれないが、今はウクライナ情勢に伴う激動、有事が続いている。大胆でスピーディーな対策が必要だ。

さらに世論は、小手先の給付金や補助金のバラマキを期待しているのではなく、資源高対策としてエネルギー確保にどう取り組むのか。日本の金融政策は、欧米諸国とは正反対の方向で、大胆な金融緩和策を続けて大丈夫なのかといった点を知りたいと考えているのではないか。

端的に言えば、岸田政権としてどんな経済・金融政策を取るのか、明確でわかりやすい説明を世論は催促していると思う。

今回は物価高を中心に取り上げたが、防衛力整備のあり方についても同じ問題を含んでいる。

岸田首相は、防衛力を抜本的に強化する考えを表明する一方、重点的に整備する分野や、予算規模、財源は選挙の後に先送りする方針だ。

しかし、国政選挙のさ中に、防衛力整備の基本的な考え方を明らかにしないのはどう考えても無責任だと言わざるを得ない。

選挙の時に「負担」の話はしないというのは、昔流の政治手法だ。国民の安全にかかわる問題は選挙の時に説明し、国民を説得することは、政治的なリスクを伴うが、民主主義国のリーダーの責務であり、強さでもある。

岸田首相が政治決断をして、踏み込んだ構想を示し、野党党首も受けて立って、中身のある充実した論戦を行えないものか。国民の多くは、政治が変わり、前進することに大きな関心と期待を抱いているのではないか。(了)

 

 

参院選 何が問われる選挙か

ウクライナ情勢で世界が大きく揺れ動く中で、第26回参議院選挙が今週22日に公示され、7月10日の投開票日に向けて選挙戦が始まる。

今度の参議院選挙で、岸田政権は去年秋の衆院選に続いて勝利し、安定した政権基盤の下で、内外の懸案に取り組みたい考えだ。

これに対して、野党側は改選議席の過半数を獲得して反転攻勢の足掛かりを得たいとしており、激しい戦いが予想される。

一方、私たち有権者は今度の参議院選挙をどのように観たらいいのか。判断すべきことが多く、選択が意外に難しいとの声も聞く。そこで、「何が問われる選挙か」。有権者の側から、政治の対応や政策のポイントを考えてみたい。

 ”大きな問題、低い投票率”の懸念

今度の参議院選挙について、個人的に最も気になっている点から取り上げてみたい。何かと言えば、投票率が低くなるのではないかという懸念だ。

というのは、選挙関係者の何人かを取材したところ、かなりの人が、選挙は盛り上がっていないし、有権者の関心も低く、投票率が下がるのではないかと心配しているからだ。

前回・2019年の参院選の投票率は48.80%で、戦後2番目に低い結果に終わった。今回は前回並みか、さらに下がるのではないか、つまり、50%割れの可能性が強いということになる。

他方で、ロシアによるウクライナ侵攻は、日本国民にも大きな衝撃を与え、日本の平和や安全の問題を考えるきっかけになっている。加えて石油高騰、物価高も進み、政治・外交、選挙への関心が高まるという見方もできる。

ところが、有権者の関心が低いとみられるのはなぜか。選挙関係者は、立候補予定者のポスター類が例年に比べて少ないこと。野党共闘が崩れ、野党支持層の関心が薄れていること。さらにメディアの取り上げ方が、ウクライナ問題に集中し、日本の政治に関心が向かっていないからではないかと指摘する。

こうした点に加えて私は、国会の論戦が低調で、これからの選択肢も示されない状況も重なって、政治への関心が低下しているのではないか。「政治の責任」が極めて大きいとの見方をしている。

したがって「参院選で何が問われているか」と言えば、まずは「政治の力量と質」が問われている。具体的には、政党・候補者が選挙の争点を明確にし、有権者を引き付けることができるかどうかが問われていると考える。

 暮らし・経済 重点政策の明示を

そこで、選挙の争点となる政治課題・政策をみていきたい。各党の選挙公約を読むと、ウクライナ情勢を受けて、重視している政策は2つに絞られつつある。1つは、外交・安全保障政策、もう1つは物価の高騰、暮らし・経済政策だ。

暮らし・経済政策から取り上げたい。物価の高騰は去年秋から始まり、ロシアによるウクライナ侵攻で石油高、資源高に拍車がかかった。日本では、さらに円安が加速し、物価高騰対策が参院選の争点に浮上してきている。

野党側は「岸田インフレ」と批判し、家計の負担を軽減するため、消費税の減税や廃止をそろって打ち出しているのが特徴だ。

これに対して、政府・与党は、ロシアによる「有事の物価高騰」が主たる要因だが、物価高は欧米の4分の1程度に収まっているとかわす一方、1兆円の地方創生臨時交付金を活用して、生活者や事業者への支援を強化していくと強調している。

この問題は、岸田政権の旗色が悪いように見える。今後、ボディーブローのように効いて、選挙の波乱要因になるのかどうか、注意深くみていく必要がある。

もう1つは、日本経済の根本問題は、この30年近く、賃金が上がらず、経済成長も目立った成果を上げることができなかった問題をどうするのかということに尽きる。

岸田首相や自民党は、看板政策として「新しい資本主義」を掲げ、「25年ぶりの本格的な賃金増時代を創る」と強調しているが、どのように実現していくのか、骨太の方針や選挙公約を読んでも、よくわからない。

要は、与野党ともに「暮らし・経済分野の重点目標と、実現のための具体策、期限を含めた道筋」を明確に打ち出すことが問われている。

特にメディアは、各党党首を招いての討論では、論点を明示して、かみ合った議論を展開するよう求めることが必要だ。

 防衛力整備のあり方と外交構想を

外交・安全保障に話を移したい。この分野は多くの論点あるが、日本に引きつけて考えると、日本の防衛力整備をどう考えるかが、最大のポイントだ。各党の選挙公約を読むと、対応の方針は3つ程度に分類できる。

1つは、「防衛力の抜本的強化路線」。例えば自民党の方針で、NATOのGDP比2%を念頭に5年間で整備をする考え方。日本維新の会も基本的に同じ路線だ。

2つ目は、先の路線とは対極にある考え方で、「軍拡反対・外交重視路線」。共産党、れいわ、社民党などの考え方。

3つ目が、2つの路線の中間に位置する考え方で、「漸進的な防衛力整備路線」。防衛費を増やす立場だが、整備する分野を検討し、着実に整備を進めるなどとしている。与党の公明党、立憲民主党、国民民主党などがこの路線だ。

以上は私の個人的な分類だが、有権者としてどの路線が望ましいと考えるか、追加の判断材料が必要だ。

例えば、第1の路線「防衛費を5年間でGDP2%まで増やすケース」では、今のおよそ5兆円の予算から、さらに5兆円の予算の上積みが必要で、年平均で1兆円程度ずつ増やしていく必要がある。

岸田首相は「防衛力のどこを強化し、そのための予算の規模、財源の3つを一体で考える」として、具体的な内容に踏み込むことを避けている。

しかし、これでは論戦は深まらないし、国民も理解し選択するのも困難だ。詳細は別にして、基本的な考え方を説明して議論を深めるべきだ。

例えば、防衛力を優先的に整備する分野として、国民の避難・保護をはじめ、武器弾薬の備蓄、正面装備、自衛隊員の生活環境など多くの課題の中で、どこを重視するのか、財源は国債で賄うのか、一定の考えを示すのは可能だと考える。

もう1つ、重要なことは「日本外交のあり方・構想・ビジョン」論争だ。これが余りにも弱い。防衛力の整備は必要だが、国家レベルの意見の対立を武力紛争に拡大させないことが重要だ。そのための外交努力、国のトップリーダーの役割や取り組みが極めて重要だ。

日本を含む東アジア地域の平和と安定については、日米同盟が基軸であることはほとんどの政党で一致している。そのうえで、関係悪化が続いている韓国との関係や、軍事力増強が続いている中国とどのように向き合うのか議論が必要だ。

日米同盟を基軸にしたうえで、中国とも対話を模索するなど「したたかな外交」を探るべきだ。日本外交の役割、平和と安定を追求していく構想・ビジョン論争も必要だと考える。

ここまで「参議院選挙で問われる点」をみてきた。暮らしと経済、外交・安全保障分野では、重点目標と実現への道筋をめぐる議論が不可欠だ。

また、国際社会の激動が続く中で、国民の多数が参加して進路を定めていく参院選挙にできるのかどうか。特に選ばれる側の政党、候補者の対応が問われている。(了)

参院選 岸田首相 異例の首脳外交

長丁場の通常国会が15日で閉会し、いよいよ夏の参議院選挙が始まる。今回の選挙期間中、岸田首相はドイツで開かれるG7=主要7か国首脳会議などに出席し、海外で首脳外交を展開する。

日程は1週間程度になる可能性があり、政権与党のトップが国政選挙の期間中、長期にわたり国内を留守にするのは異例だ。参院選挙への影響はどうか、与党優位と言われる中で、参院選の風向きを変える要素は何か、探ってみた。

 岸田首相 G7とNATO出席も検討

まず、これからの政治日程をみておきたい。最終盤の国会は13日、参議院決算委員会に岸田首相が出席して質疑が行われた後、会期末の15日に重要法案の「子ども家庭庁」設置法案が参院本会議で可決・成立し、閉会する運びだ。

翌週の22日には、第26回参議院選挙が公示され、7月10日の投開票日に向けて選挙戦が始まる見通しだ。

選挙期間中の26日から28日には、G7=主要7か国首脳会議がドイツで開かれ、岸田首相が出席する。長期化するロシアによるウクライナ侵攻への対応策や、核・ミサイル開発を進める北朝鮮問題が主要な議題になる見通しだ。

また、29、30両日、スペインでNATO=北大西洋条約機構の首脳会議が開かれる。岸田首相は最終的な態度を決めていないが、出席の方向で調整を進めている。

欧米の30か国で構成される軍事同盟NATOの首脳会議に日本の首相が出席すれば、初めてのことになる。

自民党内からも「NATO首脳会議に出席すれば、日本としてもウクライナ危機を欧米諸国と共有することになる。将来、台湾問題などで日本が危機に陥った場合、ヨーロッパ諸国の支援が期待できる」として、出席を支持する意見も出されている。

また、首相周辺には、外相経験者として岸田首相が得意の外交力を内外にアピールでき、参院選挙にも有利に働くとの判断がある。このため、岸田首相は、最終的にはNATO首脳会議にも出席する決断をするのではないかとみられている。

問題は、G7に続いて、NATOの首脳会議にも出席するとほぼ1週間かかる。参院選挙の運動期間18日間の3分の1以上にわたって、総理・総裁が国内を留守にする、異例の日程になる。

 首脳外交、選挙の得票・議席増効果は

さて、国政選挙の期間中、首相がほぼ1週間国内を留守にすることをどうみるか。地方の選挙関係者からは「最後の追い込みに、やはり総理・総裁の応援は欲しい」と海外訪問期間の短縮を求める声が出されることが予想される。

これに対して「地方の応援に回るよりも、国際舞台で活躍する首相の姿を報道してもらう方が効果がある」と反論する意見も出されそうだ。

自民党の長老に聞いてみた。「これまでの経験から言えば、外交は票にならない。ウクライナ情勢の影響はわからないが、有権者の身の回りや国内問題の方が選挙結果に結びつく。但し、今度の参院選挙は野党に勢いがなく、激戦区は少ない。首相が外遊しても大した問題にはならないのではないか」と語る。

この発言からすると選挙へのマイナスの影響はそれほどない。一方、首脳外交が華々しく取り上げられたとしても選挙に大きな効果もないだろうということになる。

 波乱要因は、不祥事、物価高騰

今回の参院選挙は与党優位との予想が多いが、波乱要因があるとすれば何か、この長老に聞いてみた。

「気になるのは2点。1つはスキャンダルや不祥事などに鈍感すぎると、思わぬしっぺ返しを受ける。もう1つは、有権者の関心は低いので、投票率が5割を切るかもしれない。この影響がどう表れるかだ」と語る。

通常国会では、政府提出法案の61本はすべて成立する見通しだが、国会議員に毎月100万円支給される「文通費」(「調査研究広報滞在費」に改称)の使途を公開するなどの宿題は、先送りになる見通しだ。

一方、細田衆議院議長のセクハラ疑惑報道に続いて、今度は自民党岸田派に所属する吉川赳衆院議員が18歳の女性と飲酒したなどと週刊誌に報じられ、離党した。吉川氏に対しては、自民党内からも議員辞職を求める意見が出されている。

有権者が、こうした不祥事への対応が甘すぎると判断すると参院選の風向きがガラリと変わる可能性がある。

このほか、与党にとっての不安材料は、物価高や経済運営のかじ取りの問題もある。円安や物価高がさらに急激に進んだり、政府の経済運営に問題ありと判断されたりすると苦戦を強いられる。投票日まで1か月ある。

一方、参院選の投票率については、前回2019年は48.80%で、戦後2番目に低い水準だった。選挙関係者の中には、今回、投票率が5割を割り込むのではないかとの見方もある。

その根拠としては、街頭のポスター類が少ないこと。ウクライナ情勢や、コロナ感染対策など大きな問題を抱えているのに、日本の問題に引き寄せて争点化ができていないこと。さらに野党がバラバラで、選挙に緊張感がないためだ。

選挙は、投票箱が閉まるまで何が起きるかわからないといわれる。ウクライナ情勢と日本の防衛力整備のあり方、新型コロナ感染の総括と備え、物価高騰と経済対策などについて、有権者がどんな判断を示すか、投票日までの動きをじっくり見極める必要がある。(了)

 

 

衆院議長、内閣 不信任決議案の読み方

通常国会の会期末が15日に迫る中で、野党第1党の立憲民主党は今週、細田衆議院議長に対する不信任決議案と、岸田内閣に対する不信任決議案を相次いで提出する構えだ。

これに対して、自民、公明の与党側は直ちに否決する方針で、与野党の攻防が激しさを増す見通しだ。今回の不信任決議案の意味をどのようにみたらいいのか、夏の参院選挙を控えた与野党の事情、背景を探ってみた。

 衆院議長の説明責任と政治の質

細田衆議院議長をめぐっては、週刊文春が複数のメディアの女性記者に対して、深夜に自分のマンションに来ないかなどの電話をたびたびかけていたと報道し、衆参の予算委員会などでも取り上げられた。

立憲民主党は、細田議長が衆議院の小選挙区の「10増10減案」に繰り返し懸念を示したことや、女性記者などへのセクハラ疑惑の週刊誌報道について、国会で説明していないことは、議長としての資質に欠けるとして、7日にも細田議長に対する不信任決議案を提出する方針だ。

国会の議事運営などをめぐって、野党が衆院議長に不信任決議案を出すことはあるが、セクハラ疑惑の報道をめぐって不信任案が出されるのは極めて異例だ。

与党側は「事実関係が確認されていない段階で不信任案を提出するのは、極めて無責任だ」として、提出されれば直ちに否決する方針だ。

但し、与党関係者の中にも「細田氏の言動には、かねてから問題があった」との発言が聞かれるほか、「録音がとられていたらアウトではないか」との声もささやかれている。

衆院議長は、参院議長とともに立法府をつかさどる三権の長で、手厚い処遇と強い権限が与えられている。例えば、国会法で、議院の秩序保持権、衛視や派出された警察官を指示・執行できる。

政界では、権力をめざさない「上がりポスト」との見方もあるが、重厚さや権威、信頼感などが求められるポストだ。昭和の前尾繁三郎、保利茂、灘尾広吉などが知られるほか、最近では、伊吹文明氏、大島理森氏らが就任していた。

こうした衆院議長の重みを考えると今回のような疑惑が生じた場合は、国会のしかるべき場所で、議長が説明責任を果たすことが最低限必要ではないか。そのうえで、責任などをどう考えるか、議長が与野党の意見も聞いて最終的に判断するのが基本ではないかと考える。

今回のケースは、「政治の質」に関わる問題でもある。細田氏は現在は党籍を離れているが、自民党に所属し、最大派閥の会長を務めてきた。重要なポストにふさわしい人物が就任しているかどうか。問題が生じたときに国会は、政治の信頼を維持できる取り組みができているかどうかも問われている。

一方、国民の側も「政治の質」をどのように判断するか、問題があるとすれば、次の選挙で一定の判断をして改善を求めるというのが、議会制民主主義のルールだ。回りくどい対応だが、粘り強く進めるしか他に方法はない。

 政権与党、野党の対立軸を鮮明に

もう1つは、岸田内閣に対する不信任決議案の問題だ。今のところ、9日に提出される見通しだ。

内閣不信任決議案の意味をめぐっては、個人的には、2つに分類できるとの見方をしている。1つは、政治の行方を大きく左右する「政局緊迫型」。2つ目は、野党が自らの存在感を訴える効果を狙った「アピール型」だ。

前者は、不信任決議案が可決される可能性があるようなケースで、政治は一気に緊迫する。可決されれば、内閣総辞職か、衆院解散・総選挙のいずれかになる。

今回、自民、公明両党は、提出されれば、直ちに否決する方針で、与党内で反乱が起きるような要素はない。

そうすると今回の不信任決議案は、後者の「アピール型」となる。参院選を控えて、野党第1党が存在感の発揮を狙ったとみられる。

衆院では与党が圧倒的多数なので、不信任案が提出される場合、否決される見通しだ。この不信任案提出の意味を見出すとすれば、提案理由の説明や賛否の討論を通じて、岸田政権の評価や各党の立ち位置などを確認できるということではないか。

というのは、ウクライナ情勢やコロナ感染問題など極めて大きな問題を抱えながら、与野党の今後の対応策の違いはどこにあるのか、国民の側には、十分に伝わっていないのではないか。参院選でもどの政党に投票するか迷ってしまうとの声を聞く。

先週の補正予算案の審議と集中審議でも岸田首相は、焦点の物価高対策や、今後の経済・金融政策をめぐって、曖昧な答弁が相次いだ。これまでの政策を変える点、変えない点はどこか、肝心な点がさっぱりわからなかった。

防衛力の整備についても、抜本的な防衛力の整備を強調するが、整備する重点分野や、予算規模の目安、その財源のいずれも、年末の予算編成まで差し控えるという答弁で、これでは議論が深まるはずがない。

一方、野党の側も、政府の対応を批判するのは当然なのだが、自らの党はどんな考え方で臨むのか、政府とどこが違うのか、はっきりしない党が多い。

通常国会も会期末まで残りわずかだ。政権与党と、野党側はそれぞれ何を最重点に取り組んでいくのか「与野党の違い・対立軸」を明確にして、この国会を締めくくってもらいたい。

★追記(6月9日23時)立憲民主党が提出した岸田内閣に対する不信任決議案は9日午後、衆議院本会議で採決が行われ、自民、公明両党に加え、日本維新の会、国民民主党などの反対多数で否決された。また、細田衆議院議長に対する不信任決議案も自民、公明両党などの反対多数で否決された。野党側は、立憲民主党や共産党などは賛成し、日本維新の会、国民民主党、れいわ新選組などは採決を棄権した。(了)