自民大勝も”想定の範囲内”

ウクライナ危機など激動が続く中で行われた参議院選挙は、自民党が単独で改選議席の過半数を獲得し大勝した。与党の公明党と合わせて、改選議席を大きく上回り、安定多数を確保した。

選挙の最終盤には、選挙応援演説中の安倍元首相が銃で撃たれて亡くなるという衝撃的な事件も起きた。

今回の選挙結果をめぐっては「ウクライナ情勢などを受けて、世論は保守の側にシフトしているのではないか」「岸田政権は防衛力の強化や、憲法改正への動きを加速するのではないか」といった声も一部で聞かれる。

今回の選挙をどのように評価するか、あるいは、有権者はどのような受け止め方をしているのか。こうした点を明らかにするために、自民大勝の結果をさまざまな角度から分析してみたい。

自民大勝、”想定の範囲内”の声も

自民党の長老に今回の選挙結果の受け止め方を聞いてみた。「マスコミは、自民大勝と強調するが、”想定の範囲内”ではないか」と話す。

この長老によると、自民党は63議席を獲得し、単独で改選議席125の過半数を獲得したが、こうした結果は事前に想定できたことだというわけだ。

具体的には、全体の勝敗を左右する1人区で、野党側の共闘体制が崩れたことで、勝利できるチャンスが広がった。過去2回の選挙では、32ある1人区の全てで、野党側は候補者を1本化したが、今回は11選挙区に限定された。

結果は、自民党が28勝4敗と大きく勝ち越した。前回は10敗、前々回は11敗だったが、前回との比較でいえば、負けを6つ減らしたことが、60台に乗せ勝利につながったとの見方だ。

私も同じような見方で、選挙は前回、前々回との比較をよくするが、実は、その前の3回前の選挙の戦い方が重要だ。「2013年の参院選」に似た戦いになるのではないかとみていた。

この時は、安倍元首相が政権復帰した直後の勢いのある時期で、自民党史上最多の65議席を獲得した。今回、岸田内閣の支持率と自民党支持率は、いずれも3年前を上回った一方で、2013年の水準までには達していなかった。

このため、自民党の獲得議席は3年前の選挙を上回り、2013年選挙時との間に落ち着くのではないかとみていた。

自民党の長老の言うように「想定の範囲内」で、自民党の勝因は、野党を分断し「野党共闘の崩壊」が大きかったとみている。

但し、岸田自民党が獲得した63議席は、安倍政権の65議席に迫る水準だ。また、小泉政権が躍進するきっかけになった2001年の参院選が64議席だったので、それに次ぐ歴代3位の議席数で、評価されていい。

また、選挙の内訳をみると、◇比例代表選挙は小泉政権の20議席、安倍政権の18議席とほぼ同じだった。◇もう一つの選挙区選挙の方で、1人区を中心に議席を着実に増やしていったことが勝利につながったと言える。

自民支持層拡大より、無党派層の獲得

次に有権者の投票行動から分析するとどうなるか。新聞、通信社などが行っている出口調査=実際に投票した有権者を対象にした調査結果を基に考えてみたい。

各社の出口調査とも「ふだん支持する政党」について、過去の調査と大きく違っているとの説明はない。そうすると、特に支持する政党がない「無党派層」の投票行動が、勝敗のゆくえを左右することが多い。

読売新聞の出口調査(11日朝刊)によると「ふだん支持している政党」は自民が37%、立民9%、維新9%などと続き、「無党派層」は18%で、3年前の参院選、去年の衆院選とほぼ同じ水準で大きな変化はなかったという。

この無党派層の投票先としては、◇自民が22%でトップ、◇維新が17%、◇立民が16%だった。自民や維新が上位を占めたのに対し、従来は上位にあった立民や共産は伸び悩んだことがことがわかる。

以上のことから、今回の選挙では、自民党は、自民支持層が拡大し支持基盤を強化して勝利したというよりも、「無党派層の支持を獲得し受け皿」になったことが大きな要因になったことが読み取れる。

もちろん、従来の自民支持層の支持や、連立を組む公明支持層の支援も支えになったとみられるが、「無党派層の獲得」が競り勝つうえで、大きな効果を発揮したとみている。

安倍元首相事件、選挙への影響は?

ところで、安倍元首相が亡くなった事件が世論の同情を誘い、自民党の勝利に影響したのではないかといった声も聞くが、本当だろうか。

いわゆる”同情票”を確認する方法がないので、論評は難しいが、メディア関係者の中には、期日前投票者を対象にした出口調査で、自民党への投票割合が事件の翌日に増えたとの指摘を聞く。

また、投票率が上昇したことも、今回有権者の関心を高めたとの説も聞く。

しかし、期日前投票で自民党への投票が増えたのであれば、政党を選ぶ比例代表の得票数がもっと増えるはずだが、議席数が増えるほど得票数は増えていない。

投票率についても、3年前は”亥年選挙”。統一地方選挙に続いて参院選も行われる年で、投票率が下がる傾向があった。その年と比べて、今回数ポイント投票率が上がったので、影響したのではと関連付けるのは無理がある。

自民党の選挙関係者にも聞いてみたが、「日本人は、亡くなった方には丁寧に弔意を示す人が多いが、選挙と関連づけて考える人は少ない」との見方だ。

私も「日本の有権者はリアルで、冷静かつ慎重、賢明な選択をしている」という見方をしており、直接的な影響は少なかったのではないか。

成果を出せるか、失望すれば離反も

選挙結果を受けて、岸田首相は11日午後、記者会見し、今後の政権運営の方針などを明らかにした。

この中で、岸田首相は「多数の議席は、国民からの叱咤激励だ。今の日本は戦後最大級の難局にある」との認識を示したうえで、再拡大しているコロナ対策をはじめ、物価高騰対策、防衛力の整備や、憲法改正、拉致問題などの難題に取り組んでいく考えを強調した。

問題は、岸田政権が難題の解決に向けて、果断に実行できるのか。具体的な対策や目に見える成果を早期に出せないと、民意が失望し離反する恐れもある。

それだけに内外の難問にどのような優先順位をつけて取り組んでいくのか、明確に打ち出す必要がある。

また、最大派閥を率いてきた安倍元首相が死去した後、岸田首相は、政権与党内の意見調整に強い指導力を発揮できるか、険しい道が続く見通しだ。(了)

 

 

 

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