臨時国会は、前半戦の山場となる予算委員会の基本的質疑が、岸田首相とすべての閣僚が出席して、17日から20日まで4日連続で衆参両院で行われた。
焦点の旧統一教会問題をめぐっては、野党側の攻勢が目立ち、岸田首相は答弁内容を一晩で修正に追い込まれるなど守りの場面が目立った。
旧統一教会をめぐる論点や与野党の構図がわかりにくいといった声も聞くので、岸田政権の対応や思惑などを含めて、臨時国会の攻防の背景を探ってみたい。
首相答弁異例の修正、与野党協議会も
この臨時国会は、異例の出来事や対応が相次ぎ、驚くことが多い。まず、衆議院予算委員会初日の17日、岸田首相は冒頭、旧統一教会問題について、宗教法人法に基づく「質問権」を行使し、調査を実施するよう永岡文科相に指示したことを明らかにした。
質問権の行使は初めてのケースになり、政権内でも「信教の自由」の関係で慎重論が強かったが、岸田首相は野党の機先を制する形で、新たな動きをみせた。内閣支持率の下落が続く中で、首相の指導力をアピールする狙いがあったものとみられる。
続く18日、岸田首相は旧統一教会の被害者救済に向けて、消費者契約法の改正案などを今の国会に提出できるよう準備を進めると踏み込んだ。
一方、野党側から、宗教法人に対する解散命令の要件を緩めるよう強く迫られたが、この点は、従来の方針を譲らなかった。
ところが、翌19日午前の委員会冒頭で、岸田首相は、宗教法人に対する解散命令を請求する要件について「民法の不法行為も入りうる」との考えを打ち出した。
前日は「民法の不法行為は、要件には含まれない」と譲らなかったが、一晩で一転、従来の答弁を修正した。これには、野党の質問者も「解釈を良い方向に変えるのはいいことだが、朝令暮改にもほどがある」と唖然としていた。
この問題に詳しい専門家は「従来の政府の見解は、要件を狭く解釈しすぎていたので、これを修正することはありうる。但し、政府の対応ぶりは前夜、関係省庁の担当者や首相側近が集まって決定するなど場当たり過ぎではないか」と指摘する。
一方、旧統一教会の被害者を救済するため、自民党、立憲民主党、日本維新の会は19日、公明党も含めた4党で、与野党協議会を設置することで合意した。
被害者救済の法整備は、野党第1党の立憲民主党と第2党の維新が連携して水面下で、自民党に働きかけてきた。こうした野党共闘が、実質的に国会運営をリードし、久しぶりに一定の成果を生み出す形になった。
第2次安倍政権以降、国会運営面で自民党が圧倒的な強みを発揮し続けてきたが、この国会では攻守ところを変えて、野党が攻勢に転じているのが大きな特徴だ。
乏しい即応力、政権与党の機能低下も
それでは、こうした与野党の攻守逆転は、なぜ起きたのか。1つは、岸田内閣の支持率が急落し、政権発足以来最低の水準にまで落ち込んでいることがある。
岸田首相としては、旧統一教会問題で野党側の追及に対して、後ろ向きの姿勢を示すと、さらに世論の支持離れに拍車がかかる恐れがあり、局面打開のために従来の方針を転換した事情がある。
自民党の長老に聞くと「岸田政権の問題は、対応が遅すぎることと、即応力が乏しい点ではないか」と指摘する。コロナ感染第7波が急拡大した際にもメッセージが出されない。旧統一教会の実態調査、物価高騰対策の打ち出しの遅さなどを挙げる。
さらに、この国会では、山場の予算委員会の設定自体が大幅に遅れた。岸田首相の所信表明演説と各党代表質問が終われば、通常は直ちに予算委員会が始まる。
ところが、国会は1週間以上、異例の”開店休業状態”が続いた。鈴木財務相の国際会議出席の日程が自民党側と共有できていなかったためだ。
こうした問題の背景には、首相官邸と自民党幹事長室、それに国会対策の政府・与党の連携が十分できていないことが浮き彫りになったと言える。
さらには、自民党の石井・参議院議運委員長らが17日夜、岸田首相との会食の後、記者団に対し「衆議院予算委員会が午後5時1分に終わるなど野党側に緊張感がない。それで『瀬戸際大臣』の首を取れるのか」などと発言したことが明らかになり、野党理事が予算委員会の席で抗議する一幕もあった。
政権の命運にも影響する予算委員会の初日の夜、首相と与党幹部が食事をともにしながら懇談すること自体、ありえないことで、一昔前なら”切腹モノ”だ。政権中枢と与党に危機感が乏しく、統治機能の低下が進行しているのではないか。
国会後半 経済対策と旧統一教会問題
最後に国会後半はどう展開するだろうか。岸田首相は、物価高騰対策などを盛り込んだ総合経済対策を月内にとりまとめ、11月に補正予算案を提出、政権運営の主導権を取り戻す方針とみられる。
問題は、大幅な値上がりが続いている電気料金やガス料金の価格引き下げ幅と仕組みがどうなるのか、対策の中身で評価が大きく分かれる。
もう1つは、この国会の焦点である旧統一教会問題にケジメをつけられるかどうかだ。
この点に関連して、旧統一教会の関連団体が、国政選挙の際に自民党の国会議員と、憲法改正や家庭教育支援法の制定に取り組むよう記した「推薦確認書」を取り交わしていたことが明らかになった。朝日新聞のスクープだ。
この確認書の問題は、自民党が先に所属国会議員に対して行った点検調査には、含まれていなかったとされる。世論の信頼を回復するためには、事実関係の実態調査が引き続き求められることになるのではないか。
また、被害者救済の法案がこの国会で成立するかどうか。政府は、消費者契約法の改正案の提出を検討しているほか、自民、立民、維新の3党は今国会で必要な法案の成立をめざすとしている。
政府・与党と野党側が、法案の扱いで最終的に合意できるのか、まだはっきりしない。岸田首相がこうした一連の問題で、リーダーシップを発揮できるかどうか。
野党側も、立民と維新の足並みが最後までそろうのか。政権与党、野党がともにどのように対応するのか、会期末まで目が離せない状態が続くことになる。(了)