今年も残り1か月、内閣支持率の下落が続く岸田政権は、最終盤に入った臨時国会を乗り切ることができるかどうか、ヤマ場にさしかかっている。
物価高騰対策を盛り込んだ第2次補正予算案は、ようやく今月2日に成立する運びだ。一方、旧統一教会の被害者救済法案をめぐっては、与野党が歩み寄ることができるかどうか、ギリギリの調整が続いている。
さらに最大の焦点になっているのが防衛費の問題だ。岸田首相は28日、防衛費と関連経費の合計をGDP比で2%にするための財源確保措置を決める方針を打ち上げたが、財源の扱いをめぐって自民党との意見の違いが表面化している。
”師走政局”は、救済新法をめぐる与野党の最終決着の仕方と、防衛費の政府・与党内の調整が大きな焦点になりそうだ。その結果によっては、岸田政権の求心力はさらに低下する事態も起こりうるのではないか。
辞任ドミノ、秋葉復興相は続投か
今月10日に会期末が迫った臨時国会からみていくと、岸田政権が最優先に位置づけている総額28兆9000億円の補正予算案は、寺田前総務相の更迭の影響を受けて当初の予定より遅れ、2日の参議院本会議でようやく成立にこぎつける見通しだ。
補正予算案の審議の中で野党側は、秋葉復興相に照準を合わせて追及した。事務所家賃の不明朗な支払いをはじめ、旧統一教会との新たな関係、さらには昨年の衆院選挙で自らの秘書2人が車上運動員として報酬を受け取っていた問題などを取り上げ、集中砲火を浴びせた。
これに対し、岸田首相は「秋葉大臣は、国会でさまざまな指摘を受け、それにしっかり説明責任を果たせるよう努力している」として、野党側の更迭要求には応じない考えを示した。
岸田首相としては会期末を控えて、4人目となる閣僚の辞任は何としても避けながら、この国会を乗り切りたい考えだ。
旧統一教会救済新法 ギリギリの攻防
臨時国会で最後に残っている案件が、旧統一教会の被害者救済の新法の扱いだ。岸田首相が途中、積極姿勢に転じたことで与野党の協議が続けられ、政府が新たな条文案を提示する段階まで進んだ。
政府・与党と野党側双方とも、この国会で新たな法案を成立させたいという方向では一致しているものの、被害者の救済に実効性があるかどうかという点で、与野党の間には、なお、意見の隔たりがある。
具体的には、野党側が、マインドコントロールによる悪質な献金を禁止する、より強い条文を求めている。これに対し、政府・与党側は、マインドコントロール状態を法律で明確に定義するのは困難だとして、対立している。
政府は、既に国会に提出している消費者契約法案改正案と新法を近く閣議決定して、10日までの会期内に成立させたい方針だ。
この新法については、自民、公明両党と国民民主党は賛成なのに対し、立憲民主党と日本維新の会は「修正が必要だ」という立場だ。
このため、与野党が法案の修正で歩み寄り、成立にこぎ着けるのか。それとも、話し合いが決裂して見送りになるのか。さらには、野党内の対応が分かれて、与党と野党の一部の合意で成立するのか見通しは立っていない。
この法案の最終的な決まり方によって、岸田首相の対応の評価や、立民と維新の野党共闘が最後まで続くのか、崩れるのか、今後の政局に大きな影響を及ぼすことになる。
防衛費GDP2%と財源 調整は難航か
年末の政治の動きの中で最大の焦点は、防衛費とその財源をめぐる政府・与党の調整になるのでないか。
岸田首相は28日、来年度から向こう5年間の防衛費と関連経費について、GDP・国内総生産の2%に達する予算措置を講じるよう浜田防衛相と鈴木財務相に指示した。
また、岸田首相は、防衛力強化に向けて、財源を確保する措置を年内に決める考えを示し、両閣僚に対し、与党との協議に入るよう求めた。
こうした政府の動きに対し、29日開かれた自民党の安全保障関連の合同会議で「増税を念頭に置いた議論は唐突だ」「税収の上振れ分を活用すべきだ」などといった批判的な意見が相次いだ。
また、萩生田政務調査会長は30日の講演で「将来的には、税で負担して安定財源を確保した方がいいが、当面は、国債や税収の上振れ分で対応すべきだ」として、現時点で増税の議論を行うことに慎重な姿勢を示した。
このように岸田首相は、先に政府の有識者会議の提言に沿って、増税を含めた国民負担が必要だという立場を取っているのに対し、萩生田政調会長は増税慎重論を唱え、双方の立場は大きな開きがある。
自民党の閣僚経験者に聞くと「自民党内の空気は、増税などとんでもない。つなぎ国債発行論が圧倒的に多いのが現状だ。歳入、歳出両面から安定財源をどのように確保していくかの正論がどこまで通用するかわからない」と調整の難航を予想する。
これから年末に向けて、国家安全保障戦略など防衛3文書の改訂をはじめ、防衛力整備の内容、そのための財源、必要な予算の確保などの調整をわずか1か月間で仕上げなければならない。
戦後防衛政策の大転換といわれる今回の防衛力整備をやり遂げることができるかどうか、岸田首相はまもなく胸突き八丁にさしかかる。(了)
※(追記12月1日21時45分:政府は1日、旧統一教会の被害者救済に向け、悪質な寄付を禁止する新たな法案を閣議決定し、国会に提出した。政府・与党は10日までの会期内の成立をめざしている。これに対し、野党側は、まだ不十分な点があるとして、与野党の調整が続く見通しだ。)
現況の政治情勢について理路整然とわかりやすく
論理が展開されており、大変よく理解できました。
防衛費増額の件、いつの間にかGDPの2%にまで
増やすことが前提のように語られだしましたが、
本件について国民の理解は得られていないことを
各メデイアははっきりと警鐘を鳴らす必要があると
思います。財源の問題にすりかえてはならないと
強く懸念します。
次に旧統一教会等宗教被害者救済の新法に
ついては、なぜ与野党で合意できないのか理解に
苦しみます。
自民党としては、今後とも旧統一教会との関係を
維持していきたいのか、それともこれまでの
”恩義”に報いたいとしているのか疑念を覚えます。
メデイアもこの観点から追及するところはないですね。
最後に岸田首相は、秋葉復興相をかばい続けていますが
これまでの対応となんら変わらず、ただただ”決断の
できないやつ”と上書きされるだけで、更迭するより
もっと求心力は下がると思いますが……。
文章については、今回気づいた点はありませんでした。
12月1日 妹尾 博史