23日に召集された通常国会は、岸田首相の施政方針演説を受けて、25日から各党の代表質問が始まった。
今回の国会は、岸田政権が年末に安全保障や原発政策を大きく転換したあとだけに政策転換の是非などをめぐって、政府と与野党が一大論戦を行ってもらいたいと前号のコラムで取り上げた。
ところが、国会冒頭の論戦を聞く限り、岸田首相の答弁は従来の考え方や結論の繰り返しがほとんどで「期待外れの首相答弁」と言わざるを得ない。焦点の防衛問題を中心にこれまでの論戦の問題点や、今後のあり方を考えてみたい。
防衛が焦点、原発、少子化など多い論点
通常国会冒頭の各党代表質問で、最初に質問に立った立憲民主党の泉代表は、防衛費の問題を取り上げ「まさに額ありき、増税ありき、そして国会での議論なしの乱暴な決定だ」として、増税を強行するなら衆議院の解散・総選挙で信を問うべきだと質した。
これに対し、岸田首相は「防衛力の抜本的強化や維持を図るためには、これを安定的に支えるための財源が不可欠だ。国民の信を問うかどうか、時の総理大臣の専権事項として適切に判断していく」と強調した。
また、政府が保有の方針を打ち出した「反撃能力」について、泉代表が「専守防衛の原則を逸脱する恐れがある」と追及したのに対し、岸田首相は「必要最小限の措置で、抑止力として不可欠な能力だ」と反論した。
日本維新の会の馬場代表、国民民主党の玉木代表、共産党の志位委員長らは、防衛力整備の考え方に違いはあるものの、防衛増税にはそろって反対を表明し政府の対応を質した。
このうち、維新の馬場代表は「防衛力の財源としては、景気回復に伴う税収増、コロナ感染の収束に伴うコロナ対策予算の活用、国債の償還期間の延長による新たな財源の確保ができるのに、なぜ、最初から増税を選択するのか」と増税案の撤回を求めた。
これに対し、岸田首相は「政府としても国民の負担を抑えるため、新たに必要となる財源の4分の3を行財政改革でまかない、残り4分の1を税制でお願いすることにした」と理解を求めた。
このほか、各党の代表質問では、政府が新増設の方針を打ち出した原発政策、少子化対策、物価高騰と賃金引き上げ、新型コロナの感染症法上の扱いの変更などを取り上げた。
このように論戦のテーマとしては、防衛問題をはじめ、議論すべき重要政策が極めて多いことが改めて浮き彫りになった。
但し、岸田首相の答弁は、従来の答弁や施政方針演説の繰り返しがほとんどで、残念ながら、議論が深まったとは言えないのが実態だ。
防衛増税、全野党が反対、論戦激化へ
それでは、今後、どのような論戦が必要か。国民からすると、防衛予算の総額を向こう5年間で1.6倍の43兆円に拡大する計画や、不足財源を賄うために増税する方針は、この国会で初めて政府の説明を受けることになる。
それだけに◆なぜ、防衛予算を43兆円にまで拡大する必要があるのか。日本を取り巻く安全保障の変化を含めて、説明が欲しいところだ。
◆また、防衛のどのような分野を強化するのか。正面装備をはじめ、武器・弾薬の備蓄などの継戦能力、シェルターなど国民の避難・保護に充てる予算はどの程度なのか、詳しい知識を持っている人は多くはないのではないか。
◆さらに、防衛財源は、歳出削減でどの程度確保できたのか。施政方針演説で岸田首相は「増税」という言葉を一度も使わず、「今を生きる我々の責任」などと表現するのはどうしてか。たばこ税を引き上げるが、酒税を対象にしないのはなぜかといった点に疑問を感じる人は多いのではないか。
報道各社の世論調査のうち、最も新しい朝日新聞のデータ(21、22日実施)によると◆防衛費を増やす計画については、賛成44%、反対49%に分かれる。◆防衛増税については、賛成24%に対し、反対が71%と多数を占めている。
このデータから読み取れることは、政府の方針は依然として、国民の理解と支持が得られていないということだ。
国会論戦はこれから衆議院予算委員会に舞台を移して、本格的な質疑が行われる。まずは、岸田首相をはじめとする政府側が、従来の説明に止まらず、踏み込んだ説明ができるかどうかが問われる。
また、大きな政策転換を行った防衛政策と原発政策、それに少子化対策などについても政策転換に踏み切った理由、背景について、国民の納得がいくような説明が不可欠だ。できなければ、岸田内閣の支持率は低迷が続く可能性が大きい。
一方、野党側は政府方針の問題点を指摘したり、批判したりすることは野党の役割だが、政府方針を明確にするためにも自らの防衛力整備の考え方や財源の具体策を対案として示して、議論を深めてもらいたい。
岸田政治とは何か?首相の政治姿勢
最後に代表質問でメデイアでは余り取り上げられないかもしれないが、参議院の立憲民主党の水岡俊一議員会長が興味深い質問をしていたので、触れておきたい。
水岡議員は「岸田首相は、安全保障政策や原発政策などの大きな政策転換を選挙で訴えず、国会でも十分な議論をしないで、次々に決定している。これは、内閣は連帯して、国民の代表である国会に責任を負う内閣法や憲法の基本原則から逸脱しているのではないか」と質した。
これは、政界の関係者の間で話題になっている「岸田政治とは何か?」とも共通する。安倍元首相でもできなかった「敵基地攻撃能力」の保有や、GDP2%へ倍増する方針を次々に決定できたのはなぜかという疑問だ。
岸田首相は「国家安全保障戦略など安保関連3文書は、国会においても丁寧な説明を心がけてきた。進め方に問題があったとは考えていない」「議院内閣制では政権与党が国政を預かっており、まずは、政府与党で1年以上の丁寧なプロセスを経て方針を決定した」と反論した。
岸田首相は国会で「防衛の内容、財源、予算を三位一体で決める」と繰り返し答弁したが、その中身について具体的に説明することはなかった。
また、与党の役割を強調・優先する考え方をしているが、昭和、平成の自民党のリーダーは、国会での議論、野党との論戦を重視する考え方が主流だったと思う。
この点でも、岸田首相は保守のリーダー像を大きく転換させている。国会論戦では、政策論争とともに重要政策の決定の仕方、国会との関係、リーダーの政治姿勢のあり方などについても議論をしてもらいたい。
30日から始まる予定の予算委員会の論戦では、岸田政権が打ち出した一連の政策転換をめぐる質疑がどのように展開するか。世論の受け止め方はどうか、さらに岸田政権の行方にどのような影響を及ぼすか、注目点が多い。(了)
通常国会が始まり岸田首相の所信表明演説と
それに対する各野党党首の代表質問が行われましたが、
岸田首相の答弁はこれまでの説明から「一歩」も
踏み出していません!
以前にも主張しましたが岸田は「何様」だと
思っているのか、全く理解しがたい暴走の数々に
危機感すら覚えます。
立憲民主党の水岡議員の質問は当然だと思いますが、
それに対する岸田首相の「答弁」がこれまた
「ひどすぎ」ます。この質疑応答を見ていないのですが
この答弁で引き下がっては絶対「ダメ」です。
政権与党は何をしても、何を決めても、何を変えても
良いということを言っているのですから!
「国会」をないがしろにする考え方です。
今後各野党は「死に物狂い」で厳しく論戦を行って
頂きたい!
文章について
①「 防衛増税、全野党が反対、論戦激化へ」の項
12~13行目
「今を生きる我々の責任」などと表現するのどうしてか。
→表現するのは(は の脱字では)
②同じ項
13~14行目
酒税を対象にしないのはなぜかといった点に疑問に
感じる。
→疑問を感じる。
もしくは
→いった点を疑問に感じる。
1月27日 妹尾 博史