岸田政権が打ち出した防衛力の抜本強化や異次元の少子化対策などの政策転換は、国会論戦を通じて世論にどのように受け止められているのか?NHKと共同通信の2月の世論調査結果がまとまったので、その結果を基に分析してみたい。
結論を先に言えば、焦点の防衛費の大幅増額は賛否が分かれ、防衛増税は反対多数の状況は変わっていない。少子化対策も児童手当の所得制限撤廃には慎重論が強く、そもそも政府の具体策がはっきりしない問題を抱えている。
さらに、岸田内閣の支持率は、支持と不支持の逆転状態が5か月連続の低水準で、政治の先行きは不透明だ。
こうした背景には国会論戦が低調で、政権や国会が政策転換にふさわしい判断材料や多角的な議論を提供できていない点に大きな問題があるのではないか。
防衛政策転換、国民の支持広がらず
まず、国会の焦点の1つになっている防衛政策からみていきたい。NHKの世論調査(10日から12日実施)によると、政府が2023年度から5年間に防衛費の総額を43兆円に大幅に増額する方針については、賛成、反対がそれぞれ40%ずつで、二分されている。
設問の表現が一部異なるが、政府がこの方針を打ち出した12月調査では、賛成が51%で、反対の36%を上回っていた。その後、岸田首相の施政方針演説や衆院予算委員会で与野党の論戦を経て、2月の調査では賛成が11ポイント減り、反対が4ポイント増えたことになる。
また、防衛費の財源の一部を確保するため、増税を実施する方針については、賛成が23%に対し、反対は64%と多数を占めている。この設問も一部表現が異なるが、1月の調査では賛成が28%、反対が61%だった。引き続き、反対多数という傾向は変わっていない。
政府は、防衛増税の実施時期を来年以降に決めるとしているので、新年度予算案に直ちに影響することはない。しかし、岸田政権が戦後の安全保障政策の大きな転換と位置づけている防衛力強化の予算と財源について、国民の支持が広がっていない事実は重く受け止め、対応を考える必要がある。
児童手当の所得制限撤廃は反対多数
次に岸田政権が「次元の異なる少子化対策」と位置づけている「子ども・子育て政策」はどうか。世論調査では、政府が打ち出した「子ども予算の倍増方針」について、賛成は69%で、反対は17%だった。
自民党の茂木幹事長が代表質問で打ち出し、政府・与党が検討している児童手当の所得制限の撤廃については、賛成が34%に対し、反対が48%で上回った。
共同通信の世論調査(11日から13日実施)でも賛成が44%に対し、反対が52%と多かった。今の制度で導入されている所得制限を撤廃すると限られた財源が、所得の高い世帯に支給されるとして、反対や慎重論があるためとみられる。
NHK世論調査では、子ども予算を増やすために国民の負担が増えることについても聞いている。「負担が増えるのはやむを得ない」が55%に対し、「負担を増やすべきではない」は35%だった。
但し、「負担が増える」具体的な内容を示さずに聞いているので、今後、例えば社会保険料からの拠出といった内容が決まると、評価が変わる可能性がある。いずれにしても政府は最重要課題と位置づけるものの、政策の重点や具体策を明らかにしていないので、国民の評価も定まらない。
このほか、岸田首相の元首相秘書官が、同性婚をめぐる差別発言をして更迭されたことから、同性婚の賛否についても聞いている。同性婚を法律を認めることについて、賛成は54%に対し、反対は29%に止まっている。自民党の支持層でも賛成が半数に達している。
岸田政権 支持率低迷の長期化
さて、岸田政権の支持率だが、NHKの調査によると◇支持率は36%に対し、◇不支持率は41%だった。
先月との比較では、◇支持が3ポイント上がり、◇不支持が4ポイント下がった。このところ、数ポイント差で上下を繰り返しているので、事実上、横ばいとみていいだろう。
共同通信の世論調査も◇支持率は33.6%で、前回調査から0.2ポイント増の横ばい。不支持率は2.2ポイント減の47.7%だった。
内閣支持率は傾向・流れをみるのが大事だ。NHKの調査で岸田内閣の支持率は、去年10月に3割台に落ち込んで以降、不支持が支持を上回る逆転状態が5か月続いている。「支持率低迷の長期化」がウイークポイントになりつつある。
こうした原因だが、岸田政権の場合、防衛力の抜本強化などを打ち出したが、国会論戦の段階になっても具体的な内容を掘り下げて説明したり、野党側と丁々発止議論したりする場面がみられない。
子ども対策も施政方針演説で「次元の異なる少子化対策」として大々的に打ち出したが、中身は担当閣僚の下で検討し、その後、財源問題は総理官邸が引き取って調整し、6月の骨太方針で決める段取りだ。防衛増税の時とは変わって、今度は長い検討時間が予想され、国民の心に響かない。
新年度予算の審議であれば、国民は40年ぶりの物価高騰や経済・金融対策の議論を期待するが、政権から新たなメッセージは未だに発信されない。これでは、内閣支持率が好転し、反転攻勢へとはつながらないのではないか。
政界やメデイアの一部では、岸田首相による早期解散説も取り沙汰されるが、政権の支持率が低迷していては難しい。安倍首相は奇襲解散を仕掛けたが、支持・不支持が逆転しても2か月程度で回復、復元力を備えていたからできたことだ。
優先課題の設定、論戦の活性化を
一方、野党側についても政党支持率をみると、支持率を大きく伸ばしている政党はなく、自民党に大差をつけられ低迷している。
衆院の予算委員会は、かつては野党の最大の出番だったが、この国会で国民の多くが納得するような政権を問いただす場面があっただろうか。
また、衆議院の予算委員会としても多くの政治課題の中から、国政として最優先に議論すべきテーマを絞り込んで議論すべきではなかったか。そして、政府が具体的な方針を踏み込んで説明し、野党が問題点や対案を提示して議論を戦わせる取り組みが余りにも弱かったのではないか。
その結果、今回の世論調査にみられるように国民の疑問や不満が、内閣の支持率や、野党の支持率の低迷に凝縮して現れているのではないかと思う。
国会は14日に、日銀の新しい総裁・副総裁の人事案が示され、同意の手続きが進められる。論戦の主要な舞台となった衆院予算委員会は16日に公聴会が決まっており、これが終われば新年度予算案の採決に向けた動きが本格化する。
こうした審議日程を考えると新年度予算案の採決の前に、各党の党首クラスが質問に立って、岸田首相と締めくくりの論戦を戦わせるなど論戦を充実させる取り組みを考えるべきではないか。政策転換にふさわしい国会審議の質と、政治の立て直しが問われている。(了)
大見出しについて
「政策転換、支持率低迷続く岸田政権」より
「政策転換も支持率低迷続く岸田政権」の方が
よくないですか?
いつもながら、政権の取り組みと国会議論の
問題点を論理的・且つ分りやすく論理展開
されており、極めて良く理解できました。
岸田政権は重要な事象の全てについて、少しも
具体的に説明しないですね。
そのうえ、あいかわらず重大案件を独断で突如発表し、
即ちに結論すべき事項は遅々として決断をくださない
「ちぐはぐ」な対応にあけくれているばかりです。
支持率が改善するわけがないと思います。
野党の追及力もなんら「鋭さ」が感じられません。
今日の国会で石破氏の防衛に関する質疑応答を
少し聞きましたが、岸田首相の回答は「とんちんかん」
で本質に迫るものは何もなかったように感じました。
今後とも良識ある国民の判断で「岸田政権」に鉄槌を
加え、支持率に反映していくしかありませんね!
文章について
「防衛政策転換、国民の支持ひろがらず」の項
2~3行目
2023年度から5年間の防衛費の総額を43兆円に
→5年間に防衛費の総額を
(5年間の→5年間に では)
確か5年間かけて総額43兆円にまでもっていく
ということだったと思いますが。
2月15日 妹尾 博史