衆参5つの補欠選挙が終わったのを受けて、政界は大型連休明けからG7広島サミットを経て、6月の通常国会会期末に向けて、与野党の激しい駆け引きが予想される。
最も注目されるのは、国会会期末に野党が岸田政権に対する内閣不信任決議案を提出するか。岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切るかどうかが、最大の焦点になる見通しだ。
岸田政権や自民党内では衆参補選が4勝1敗と勝ち越したことから、会期末に衆議院の解散・総選挙に打って出るべきだという早期解散論が聞かれるほか、野党側にも早期解散を警戒する受け止め方がある。
さて、こうした早期解散論はどんな思惑があるのか、実現可能性はどの程度なのか。大型連休の最中だが、平穏な時期に解散・総選挙のあり方をさまざまな角度から考えてみたい。
早期解散 争点隠しとの見方も
衆議院の解散・総選挙をめぐっては、先の補欠選挙の結果をどのようにみるかで、考え方に違いがある。自民党は4勝1敗、選挙前より1議席増えたことで、内容はともかく、”勝ちは勝ち”だとして早期解散はありうるとの見方がある。
これに対して、勝ち方の中身をみると和歌山1区で、日本維新の会に議席を奪われたのをはじめ、そのほかの選挙区でも野党側に接戦に持ち込まれ、世論の支持が十分得られていないとして慎重論も聞かれる。
そうした中で、岸田首相はウクライナを電撃訪問したのに続いて、異次元の少子化対策の内容のとりまとめを急いでいる。G7広島サミットを終えて支持率がさらに上がれば、衆院解散・総選挙に踏み切る可能性は大きいとの見方が、政権与党内に根強くあるのも事実だ。
早期解散の理由としては、岸田内閣の支持率が低迷から抜けだし、回復傾向にあること。G7広島サミットの開催でさらに上昇することが期待できるとして、政権に勢いがあるチャンスを生かすべきだという声も聞く。
一方、岸田政権が最重要課題と位置づける「異次元の少子化対策」の財源確保については、社会保険料の引き上げなど国民負担が避けられない。また、防衛増税の実施時期についても年末までには決定する必要がある。
世界経済はアメリカの金利引き上げなどの影響で下り坂に向かう可能性がある。つまり、早期解散論の背景には、岸田政権はこの先、好材料が見当たらないので、支持率が高いうちに解散に打って出るべきだという判断がある。
このほか、野党側は、日本維新の会は躍進したものの、野党第1党の立憲民主党には勢いがなく、野党低迷の時が有利だとの思惑も働いている。
こうした早期解散論を国民は、どうみるか。少子化対策の財源や防衛増税の決定前の選挙が有利だとする姿勢に見えるので、端的に言えば”争点隠し”、党利党略の色彩が濃い解散と批判的に受け止めるのではないかとみている。
解散の条件、時期をどう考えるか
さて、衆院解散・総選挙は、最終的には岸田首相が判断するので、与野党の攻防や駆け引きによって、今後、どのように展開するかわからない。そこで、解散の条件や時期について、さまざまな角度からさらに分析してみたい。
まず、解散・総選挙の決断に当たっては、勝てる見通しがあるのかどうかが最大のポイントになる。具体的には、自民、公明両党の選挙協力が機能することが不可欠の条件だ。
ところが、公明党は先の統一地方選挙では、目標の全員当選どころか、地方議員の12人が落選した。1998年の公明党再結成以来初めてという激震に見舞われている。地方組織の高齢化や運動量の低下、各候補への票割りの判断ミスなどが指摘されている。
また、「10増10減」に伴い定数が増える首都圏や愛知県で、公明党は候補者を擁立する小選挙区を増やすよう求めているが、自民党は難色を示し、調整が進んでいない。自公の選挙協力体制が機能しないと早期解散は難しいのではないか。
さらに岸田首相の政権戦略とも関係がある。岸田首相にとって、来年9月の自民党の総裁選で再選を果たすことが、大きな目標だ。そのためには、いつ解散に踏み切るのが有利かという問題でもある。
自民党内では、最大派閥の安倍派の後継会長選びの見通しがついておらず、岸田首相の有力な対立候補が見当たらないとの見方が強い。そうすると衆議院で安定多数を確保しているのに、解散を急ぐ必要はないのではないかといった見方も聞かれる。
一方、野党が低迷している状況で、解散に踏み切るのは、政権与党にとって有利であることは事実だ。しかし、選挙は将来展望を語って国民の支持を得るのが基本で、そうした本来の姿から大きく外れる。
国民の見方はどうか。朝日新聞の4月の世論調査をみると◇「できるだけ早く解散すべき」は22%に対し、◇「急ぐ必要はない」が67%と圧倒的多数を占める。
以上、さまざまな要素を総合して考えると、私は早期解散の確率は低いとみる。しかし、岸田首相自身は政権運営は極めて順調で、国民に信を問いたいと考えるかもしれない。岸田首相の意欲の問題と、解散に踏み切る条件は整っているか、2段階でみていく必要があると考える。
停滞日本の立て直し、終盤国会で論戦を
衆議院の解散・総選挙の是非、あり方はどのように考えたらいいのだろうか。安倍政権当時「不意打ち解散」と呼ばれたように野党の備えがない時をねらって解散を断行、政権与党が勝利したケースも頭に浮かぶ。
解散・総選挙の基本は、政権が取り組むべき課題と対策を明らかにして、野党側と徹底して議論を交わし、国民の判断を仰ぐのが基本だ。国民自身もそのように願っていると思われる。
今の日本が抱える問題、例えば、この20年間の実質経済成長率は0.6%に止まり、賃金も上昇しない状態が続いてきた。科学技術力も論文引用数でみると22年前は世界4位だったのが、今や12位に後退している。生産年齢人口は今後、50年間で約3000万人も減少するとの予測が先日、公表された。
停滞日本をどのように立て直すのか、かねてから政治が問われている大きな課題だ。岸田政権も焦点の異次元の少子化対策の財源をどうするのか、具体策が中々、決まらない。去年決まった防衛増税の実施時期も年末までかかりそうだ。
衆議院議員の任期は、まだ1年半しか経過していない。この1点からして、早期解散にはかなり無理があると感じる。
国民の多くは、早期解散より、停滞が続く日本経済・社会の立て直しにどのように取り組むのか、そのために政治は何をやるのか、政権の明確な方針と与野党の論争を期待している。連休明けの国会では、政争・駆け引きではなく、日本再生に向けて熱のこもった真剣な論戦をみせてもらいたい。(了)
衆議院の解散・総選挙についての考え方は、貴殿の
最後の文章で主張されていることに尽きると思います。
解散権を政争の道具にしてはならないと強く思います。
さらに総選挙は莫大な費用(国民の税金)がかかるので
前回の総選挙から1年半しか経過していない今、決して
やるべきではないと訴えたいです。
そもそも、首相に与えられた「解散権」が必要な
ものかどうかの議論がなされてもよいのでは
ないでしょうか。「解散権」はしょせんは時の権力の
「政争」の「道具」でしかないと強く思います。
残すところ、国民の意見を反映できる手段は「世論調査」
での意思表示あるいは直接的な抗議活動しかありません。
国民は調査の回答に当たっては、十分に問題点を押さえ
考えたうえで、行って欲しいものです。
文章について
「解散の条件、時期をどうかんがえるか」の項
13行目
小選挙区増やすよう求めているが、
→小選挙区を増やすよう求めているが、(を の脱字では)
5月1日 妹尾 博史