通常国会の会期末を21日に控えて、岸田首相は6月解散・7月総選挙に踏み切るのかどうか、与野党ともに緊張感が増してきている。
前回の衆院選挙から1年8か月も経っていない中で、本当に解散に踏み切るのかどうか。今回の解散をめぐる構図と可能性、それに解散の是非をどのようにみたらいいのか多角的に分析し、考えてみたい。
早期解散、首相サイドと自民幹部との溝
今回の衆院解散・総選挙をめぐる動きは、既に詳しく報道されているので省略して、ここでは、解散をめぐる「与党内の構図」を中心に整理しておきたい。
まず、岸田首相の今年の政権運営は、G7サミットを地元・広島で開催して成功させた後、その勢いに乗って通常国会の会期末に衆院解散・総選挙に踏み切るというのが、首相のベスト・シナリオだと自民党内では受け止められてきた。
そのG7サミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領の参加効果が大きく、政治的には成功裏に終わり、直後のメデイアの世論調査で支持率は上昇した。
ところが、首相の政務秘書官を務めていた長男の行動などが週刊誌で取り上げられ、更迭したことが批判を浴び、支持率が下落するなどの動きが続いている。
こうした中で、岸田首相に近い遠藤総務会長は「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」などと盛んに解散風を吹かしてきた。
また、10増10減に伴う候補者調整などに当たっている森山選対委員長は、調整が最終段階にあるとして、選挙態勢が整ってきたことを明らかにした。
自民党執行部の動きとしては5日、役員会の前に岸田首相と麻生副総裁、茂木幹事長3者会談が行われた後、麻生、茂木の両氏は夜、長時間にわたって会食した。党関係者によると「早期解散には大義名分が必要」などとして、早期解散に慎重な意見が出されたという。
翌6日、二階元幹事長は記者団のインタビューに応じ「解散はいつあっても結構だが、何もせずに解散風をふかせるのはけしからん」と最近の動きをけん制した。
このように自民党内では、岸田首相と近い立場の幹部は、早期解散を有力な選択肢として模索しているのに対し、ほかの幹部は異論は唱えないものの「半身の構え」で、慎重な立場をとっているのが特徴だ。
こうした背景としては、早期解散論の幹部は「サミットは成功、支持率も上昇、株価は3万円台の高値で、これ以上のタイミングはない」と強調する。そのうえで「野党はバラバラ、特に維新の選挙態勢ができていない今、選挙をやるべきで、必ず勝てる」と力説する。
これに対して、慎重な幹部は「支持率は高いといっても自民支持層で、岸田内閣を支持する割合が回復していない。また、公明党との選挙協力がギクシャクしたまま選挙になると公明票が見込めず、思わぬ結果を招く」とけん制する。
早期解散に慎重な意見は、閣僚経験者などベテラン議員に多い。今年4月の衆参5補選で自民党は4勝したが、野党の乱立に救われたと楽観論を戒める。
また、自民、公明両党間の候補者調整をめぐって、両党の関係に亀裂が生じたことの影響を懸念する声が根強いのも特徴だ。
前回の衆院選挙で、自民党の小選挙区での当選者189人のうち、次点との差が2万票以内は57人、1万票以内は30人にも達した。公明党・創価学会票は1選挙区2万票程度とされるので、この票のゆくえ次第で議席の大幅な減少も予想される。
公明党が解消の方針を決めた東京の選挙協力については、関係修復の糸口を見いだせておらず、時間がかかる見通しだ。その公明党は、早期解散には反対だ。
このように自民党内、公明党を含めた与党内も早期解散論でまとまっているわけではない。自民党の関係者によると、党内はかなり慎重論が強いという。
そうした中で、主導権発揮に自信を深めているとされる岸田首相が独自の判断で「6月解散」へ踏み込むのか。それとも「秋口以降」の解散を選択するのか、その最終決断を見守っているのが今の状況だ。
大義名分、主要政策の具体策の提示は
もう1つの焦点は、衆議院の解散・総選挙の大義名分は何か、国民との関係の問題がある。「大義名分など後で考えればいい」と語る幹部もいる。しかし、そうした考えは昭和の時代は通用しても、今の時期は受け入れられないだろう。
自民党の伊吹元衆議院議長は1日、所属していた二階派の会合で、早期解散の観測について「支持率が上がって自民党に有利だとか、党の総裁選挙をうまく運ぶためといった私利私欲で解散したら、国民はみんな見ていて簡単に勝てない」と今の永田町の動きに苦言を呈した。
自民党内には「野党が内閣不信任決議案を提出すれば、解散の大義名分になる」といった意見がある。しかし、国民はそのような政争レベルの理由を聞いているのではない。内外で激動が続く中で、岸田首相は国民生活を安定させていく覚悟と、具体的な政策と道筋を準備しているのかを問うているのだ。
岸田政権は、昨年末に防衛力の抜本強化や、年明けに異次元の少子化対策を相次いで打ち出した。但し、肝心の裏付けとなる財源については、未だに具体策を打ち出せていない。
その防衛財源確保のための増税の実施時期について、政府は当初の「来年以降」の方針から、「再来年・2025年以降」へさらに先送りもできるよう骨太方針に盛り込むことを検討している。
少子化対策、防衛財源についても、具体策は年末の予算編成まで先送りする方針が固まりつつある。
こうした対応は、岸田首相の解散戦略と関係している。要は、国民に不人気な負担の問題は年末まで先送りしたうえで、「6月解散」か、「秋の解散」で乗り切ることをねらっていると政界では受け止められている。
岸田首相は今年1月の施政方針演説で「先送りできない課題に正面から愚直に向き合い、一つ一つ答えを出していく」「(新たな安定財源確保に)今を生きる我々が将来世代への責任として対応して参ります」と決意を表明した。
こうした決意や覚悟はどこへ行ったか。政権が懸案解決に向けた具体策を打ち出したうえで、国会で野党と論戦を戦わせ、論点を明確にして、選挙で国民に信を問うのが、政治の王道だ。
6月解散論は、大義名分が見当たらず、懸案解決の具体策も示さないまま、今が有利と選挙に勝つことを目標に突き進んでいるようにみえる。
仮に実現した場合も、伊吹元議長の指摘する総裁再選を目標にした「私利私欲解散」、あるいは「負担増・増税隠し解散」などの厳しい批判の声が予想される。
6月解散は?論点・争点設定が重要
最後に直近の問題として、6月解散の可能性はどの程度あるのかという問題に触れておきたい。難しい質問だが、私個人は、6月解散の可能性は低いのではないかとの見方をしている。
但し、不確定要素として最後まで残るのは、岸田首相がどのように決断するかだ。これまで触れたように自民党内のかなりの幹部は早期解散には慎重だ。それでも岸田首相が解散を決断すれば従うとみられるので、解散の可能性が残る。
一方、仮に解散に踏み切るのであれば、その前にやるべきことをやったうえで、決断することを求めたい。それは、岸田政権が懸案から逃げずに将来の解決策と展望を示すことだ。
それに対して、野党も自らの主張や対案を示しながら、論戦を挑んでもらいたい。与野党が論点・争点を明確にして、選挙に臨むのが政治の責任だ。
そうした論戦を踏まえて、解散・総選挙となるのであれば、国民としても納得するのではないか。国民にとっては、解散に至るプロセスが重要だという点を強調しておきたい。
国会の会期末が21日に迫る中で、岸田首相は13日夜、少子化対策で記者会見を行った。この中で、今の国会で解散する考えがあるかと問われたのに対し、岸田首相は「情勢をよく見極めたい」とのべるに止めた。
NHKの今月の世論調査によると岸田内閣の支持率は、今年1月を底に4か月連続で上昇していたが、6月は43%で3ポイント下落した。不支持は37%で6ポイント増え、その差は縮まった。
G7サミットの評価は高かったが、長男の前首相秘書官を更迭した問題やマイナンバーの誤登録問題が直撃したものとみられる。自民党の支持率も34.7%と相対的には高い水準にあるが、下降傾向が続いており、今月は岸田政権発足以来、最も低い水準となっている。
最終盤の国会は、最重要法案の防衛財源確保法案の扱いと、野党側が内閣不信任決議案を提出するかどうか。その上で、岸田首相が6月解散について、どのような最終判断を示すかが最大の焦点だ。じっくり、見極めたい。(了)
★(追記16日、21時30分)岸田首相は15日夜、記者団の取材に応じ「今の国会での解散は考えていない」とのべ、野党側から内閣不信任決議案が出された場合は否決し、衆議院を解散しない考えを明らかにした。
★国会は16日の衆議院本会議で、立憲民主党が提出した岸田内閣に対する不信任決議案について、自民、公明両党と日本維新の会、国民民主党などの反対多数で否決した。
解散・総選挙の動向やその背景となる政治情勢、さらには
自民党幹部のそれぞれがどのように受け止め判断している
のかも含め、わかりやすく論理が展開されており、岸田
政権が自らの政権維持のため、いかに腐心しているのか
大変よく理解できました。
我々国民は、「解散権」を政争の道具にすることを決して
許してはなりません。
ましてや、防衛費大幅増強や少子化対策に関し、
財源の根拠を一切示さず、ただただ「選挙対策」のため
だけとしか思えない「政策のブチアゲ」に、与野党とも
国会議員は真剣にそれらの政策の実現に向けて真摯に
議論を行ってもらいたい!
文章について
①「早期解散、首相サイドと自民幹部との溝」の項
下から20行目
がギクシャクしたまま選挙になると票の見込めず、
思わぬ結果を招く」とけん制する。
→選挙になると公明票が見込めず、思わぬ結果を招く」
(票の見込めず (公明)票が見込めず では)
②「大義名分、主要政策の具体策の提示は」の項
下から2行目
「負担増、増税隠し解散」などの厳しい批判が声が
→「負担増、増税隠し解散」などの厳しい批判の声が
もしくは 厳しい批判が、声が
③最後から21行目
野党も自らの主張や対案を示しながら、論戦を戦わせる。
→示しながら論戦を挑んで欲しい。
(文章として 主語・述語関係に違和感を感じます)
④最後から17行目
政治のもの申す機会を得る
→政治にもの申す機会を得る 政治のではなく政治にでは)
6月16日 妹尾 博史