政府は2日、所得税の減税や低所得世帯への給付などを盛り込んだ新たな経済対策を決定した。経済対策の規模は、17兆円台前半になる見通しだ。
経済対策の決定を受けて、岸田首相は記者会見で「最優先はデフレからの完全脱却だ。来年夏の段階で、賃上げと減税を合わせた国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に作りたい」と強調した。
経済対策をめぐっては、野党側は「物価高への対応にスピード感が無く、対策の効果も期待できない」と厳しく批判しているほか、自民党内にも岸田首相が強い意欲を示す所得税減税に疑問や不満がくすぶる。
国民は、新たな経済対策の内容をどのようにみたらいいのか。また、岸田政権の政権運営はどのような展開になるのか、探ってみたい。
所得税減税の評価は?与党内にも異論
さっそく、新たな経済対策からみていきたい。ポイントは、岸田首相が強い意欲を示し、政権の目玉政策と位置づける所得税減税をどのように評価するかだ。
政府方針では、所得税と住民税を合わせて1人当たり4万円を差し引く定額減税を実施するとともに、住民税が非課税となっている低所得世帯に7万円を給付するのが主な内容だ。両方でおよそ5兆円程度の規模になる見通しだ。
政府が所得税減税を打ち出したは98年の橋本政権の定額減税と、その後継の小渕政権の定率減税以来だが、減税措置は結局、2007年まで9年間続いた。
この減税政策の評価だが、野党側は「税制改正に時間がかかり、実際に減税されるのは来年6月、遅すぎる」と批判し、「それよりも即効性のある給付で行うべきだ」と主張している。
自民党内にも「減税は一度実施すると止めるのが難しい。景気対策としての効果も給付の方が大きい」と異論も多い。また、「橋下政権時代は山一証券などが破綻した不況の時期で、コロナから回復した今は状況が違う」などの不満もくすぶる。
また、今回は減税と給付が混在することに加えて、支給額が減税の場合は1人当たり4万円で、家族数に応じて増える一方、給付は1世帯当たり7万円と異なり、公平さが担保できないといった問題点が指摘されている。
さらに、岸田首相をはじめ政府側は、減税は一回だけに止める一方、幅広い減税にするため、所得制限は避けたい考えだ。
これに対して、自民党内からは、バラマキ批判を避けるため、年収2千万円以上の高額所得者は対象から外す案や、減税は一回限りとすべきではないといった意見もあり、党の税制調査会で制度設計を急ぐことにしている。
政権の政策決定に批判、世論も厳しい視線
こうした所得税などの減税をめぐっては、与党内には、政権の政策決定のあり方を問題視する声も出ている。
具体的には、岸田首相が「税収増の国民への還元」を図るとして、新たな経済対策のとりまとめを与党に指示したのは9月26日だ。
その後、岸田首相から、唐突に所得税減税検討の指示が出されたのが10月20日で、苦戦が伝えられていた衆参補欠選挙の投票日の直前だった。
このため、「減税策は補欠選挙へのテコ入れではないか」、あるいは「低迷する政権の浮揚や、年内解散・総選挙をねらったものではないか」といった憶測も飛び交い、政権の対応のまずさを指摘する声は党のベテラン議員からも聞かれる。
一方、国民の岸田政権の経済対策に対する視線も厳しい。報道各社の10月の世論調査では、政府の新たな経済対策について「期待する」は4割程度に止まり、「期待しない」が6割程度でほぼ共通している。
直近の日経新聞の世論調査(10月27~29日実施)によると政府の経済対策について「期待する」は37%、「期待しない」は58%だった。物価対策としての所得税減税については「適切とは思わない」が65%で、「適切だと思う」の24%を大きく上回った。
岸田内閣の支持率は33%で、前回調査から9ポイント低下し政権発足以来、最低の水準だ。不支持率は8ポイント増えて59%だった。政権の対応を厳しい視線でみていることがうかがえる。
補正予算審議と中期の将来展望がカギ
さて、岸田政権の今後の政権運営はどのようになるか。まず、新たな経済対策を受けて、政府は裏付けとなる補正予算案の編成を進めており、今月下旬に国会へ提出する見通しだ。一般会計の規模は13兆1000億円で、財源の多くは借金・国債に頼ることになる。
国会は与党が圧倒的に多数なので、原案通り可決・成立する見通しだが、予算審議を通じて、世論の反応が注目される。先の日経の調査と同じような結果になると減税が評価されず、内閣支持率を引き下げることになり、政権にとっては思わぬ展開となる可能性もある。
また、今の国会は、旧統一教会の財産保全のための法案や、11月末が期限のマイナンバーカードの総点検と健康保険証廃止の扱いをどうするかという問題も抱えている。
さらに、年末の予算編成や税制改正を控えて、先送りになっている防衛増税の実施時期や、少子化対策の具体的な財源が焦点になる。岸田首相は、減税や児童手当の拡充など国民受けする政策には積極的だが、増税や国民負担増の問題は避けようとする姿勢がうかがえる。
岸田政権の減税に対して、世論の評価が低い背景としては「減税の後には、増税と負担増が待ち受けているのではないか」といった将来への不安や、政治不信があるのではないか。
したがって、岸田政権は当面の対策だけでなく、向こう3年から5年程度の日本経済や金融政策のかじ取りをどうするのか、中期の将来展望を明らかにしないと政権への不信感はぬぐえないのではないかと思う。
自民党の長老も「岸田首相に必要なことは、政権の目標をわかりやすく、はっきり示すこと。将来の展望を国民に率直に語りかけることが必要ではないか」と指摘する。
岸田首相にとっては、今月下旬に予定される衆参の予算委員会の質疑などを通じて、政府の経済対策について世論の支持が広がるかどうか、今後の政権運営の分水嶺になる。そして、来年夏の減税の実施時点で、日本経済がデフレ脱却の軌道に乗せられるのかどうか、険しい道が続くことになりそうだ。
最後に衆院解散・総選挙について触れておきたい。これまでのブログで触れてきたように経済対策のとりまとめが迷走し、内閣支持率も低迷している今の状況では、年内解散の可能性はほぼなくなったと言えるのではないか。
岸田首相も12月の政治日程として◆今月末からドバイで開かれるCOP28=国連の気候変動枠組み条約会議への出席、◆8日から長崎で開かれる国際賢人会議、◆16日から3日間、東京で開催されるASEAN特別首脳会議などの日程調整を進めている。
岸田首相にとって、懸案の解決で「政権の実績」を上げることができるかどうか、衆院解散の前提条件になる。(了)
岸田政権が新たに打ち出す政策がことごとく、その狙いとは
ことなり、「着実」に内閣支持率を下げていくのは、何とも
皮肉な結果と言えます。
これはひとえに、「人気どり」のために周囲のとりまとめは
おろか、はっきりとした見通しをも見極めないまま全くの
「思いつき」でブチあげているだけの故と思います。
そのようなふがいない岸田政権の置かれている状況や
今後どのように進めていくべきであるかについて、各種
データや有力な情報源に基づいて、わかり易く且つ論理的に
説明が展開されており、大変よく理解できました。
日程的にも政情的にも、年内の解散・総選挙はないだろうとの
貴殿の見通しに、ある意味安堵いたします。
喫緊の重要課題が山積の今、国政選挙などしている場合では
ありません!
与野党含めて、解決すべき各課題に対し、きっちりと結論が
得られるよう有意義な国会論議を期待しています。
文章について
①最初から7行目
物価高にスピード感がなく
→物価高に対しスピード感がなく
(物価はものすごいスピードで上がり続けています)
②「所得税減税の評価は?与党内にも異論」の項
最後から15~16行目
それよりも即効性のある給付で行うべきだ
「それよりも即効性のある給付で行うべきだ」
その前の文章で「」をつけているので、この部分も
「」をつけた方が良いと思います。
11月4日 妹尾 博史