”裏金”実態解明めぐる攻防激化へ

自民党の派閥の政治資金裏金事件を受けて、異例の幕開けとなった通常国会は、2日までに冒頭部分の与野党の論戦を終えた。

これまでは召集日に首相の施政方針演説を行うのが通例だったが、今回は「政治とカネ」の問題で、野党側の要求を受け入れて衆参両院で集中審議を行った後、岸田首相の施政方針演説と、これに対する各党の代表質問が行われた。

その異例の幕開けとなった論戦だが、焦点の裏金問題で、岸田首相の答弁に新味があったのは、キックバックを受けた議員から聴き取り調査を行うことを自民党執行部に指示した程度で、踏み込んだ発言はほとんどみられなかった。

岸田首相は施政方針演説では、今回の事件を陳謝したうえで「自民党の派閥、政策集団が、お金と人事から完全に決別することを決めた」とのべ、政治への信頼回復をめざしていく考えを強調した。

但し、政治資金の透明化や、連座制の導入、政策活動費の使途の公開などの各論になると「各党との協議に真摯に参加する」などとして、具体案には踏み込まなかった。

このように岸田首相の答弁は、事件の実態解明や、政治改革の内容ともに慎重な姿勢が目立った。国民の政治不信を払拭していくため、自ら強いリーダーシップを発揮していく強い覚悟や熱意は、残念ながら伝わって来なかった。

政治改革が大きなテーマになっているこの国会で、与野党の攻防はどうなるのか、どこがポイントになるのか探ってみたい。

 予算委の論戦・攻防、実態解明が焦点

国会は週明けの5日からは、衆議院予算委員会に舞台を移して、新年度予算案の審議を始めることで与野党が一致している。

野党側は、裏金事件を最重点に攻勢に出る構えで、自民党所属の全ての議員を対象に調査を行い、派閥からキックバックを受けていた議員の人数などを5日までに明らかにするよう求めている。

これに対して、自民党は2日から、森山総務会長ら党執行部の役員6人が、3つのチームに分かれて、政治資金収支報告書に不記載があった議員への聴き取り調査を始めた。安倍派と二階派、岸田派の議員ら80人余りを対象に行い、来週中のとりまとめをめざしている。

また、自民党は、来週、党所属の全ての議員を対象に裏金受領の有無を確認するアンケートも実施する方針だ。

さらに、安倍派幹部などについては、キックバックが始まった経緯や、収支報告書に記載しなかった理由などについても説明を求める方針だ。党執行部としては、こうした調査結果を踏まえて、党の処分も検討するものとみられる。

これに対して、野党側は、全ての議員を対象に十分な調査が行われたのかどうかを質すとともに「調査内容が不十分な場合には、予算審議にも影響が出てくる」とけん制している。

また、野党側は、事件の全容を解明するため、安倍派や二階派の幹部を参考人として、委員会に招致するよう求める構えだ。このように国会は、予算委員会を舞台に裏金事件の実態の解明や、そのための取り組み方をめぐって、与野党の駆け引きが激しくなる見通しだ。

 安倍派活動停止、裏金経緯の説明なし

こうした中で、自民党内で最大勢力を誇ってきた安倍派は1日、最後となる議員総会を開き、派閥としての活動を停止し、解散への手続きを進めることを決めた。

これに先立って、安倍派は31日、2018年から22年までの5年間で、国会議員の関係団体に支出した総額6億7千万円余りが、政治資金収支報告書に不記載だったと発表した。

このうち、公開している2020年から22年までの3年分については、不記載のパーテイー収入4億3千万円余りがあったとして、訂正を総務省に届け出た。

安倍派をめぐっては、東京地検特捜部の捜査で、高額なキックバックを受けていた議員3人と、派閥の会計責任者が立件されたものの、派閥の幹部議員は刑事責任を免れた。

一方、裏金作りがいつ頃から始められ、派閥幹部がどのように関与していたのかといった経緯や実態などについては、これまで説明されてこなかった。

さらに最後の議員総会でも、派閥としての政治責任については全く、明らかにしないまま、解散する公算が大きくなっている。自民党としても今回の裏金事件の政治責任をどのように明確にするのか、予算員会の論戦で問われることになる。

国会は、こうした裏金事件の実態解明と政治責任の問題とともに、政治資金規正法の改正など政治改革の内容も大きな焦点になる。また、予算委員会とは別に与野党が、政治改革をめぐる協議の場を設けることも話し合われる見通しだ。

政治改革の内容については、既に与党の公明党や、野党各党はそれぞれ具体的な方針を決めているのに対して、自民党はとりまとめが遅れている。

具体的には、◆パーテイー券の購入者の公開基準の引き下げ、◆政治資金をめぐる国会議員の責任を明確にするため連座制の導入、◆政策活動費の使途の公開などについて、早急に具体案のとりまとめが求められている。

以上、みてきたように自民党は、派閥の解散・活動停止の動きが広がる中で、事件の実態解明と、政治改革に踏み込んだ対応策を打ち出せるかが問われている。

一方、野党側は、立憲民主党と維新の会などが足並みをそろえて、自民党の譲歩を迫ることができるのかどうか。与野党ともに、この国会で最初の大きな節目を迎えている。(了)

 

“”裏金”実態解明めぐる攻防激化へ” への1件の返信

  1. 「裏金問題」に関する国会における与野党の攻防および
    それに回答する岸田首相の回答姿勢について、分かり易く
    解説されており、大変よく理解できました。
    岸田首相の回答は「言葉の上では対処する」と言っている
    ものの、何一つその取り組み方に期限や具体性が、さらには
    結論ある方針はなく、国民の声を「無視」し続けています。
    裏金を手にした議員の責任について、あろうことか秘書が
    故意に議員を貶める策略があった場合を免れるために
    「連座制」はふさわしくないとその導入を阻止せんとして
    います。
    「バカなことを言いなさんな!」そんなありもしないケース
    を口実に本末転倒もはなはだしい。万が一そのような策略に
    遭遇したら、それこそ自らが招いた自業自得であり、そんな
    ことまで法律で自分を守ろうとするのは許されないです。
    マスコミもこの点を「はっきり」と訴え続けてもらいたい
    です!
    自民党が、全議員に個別に事情徴収するというのも
    「まやかし」に過ぎません。
    各自が「報告」し、それを「集計」するだけで事足ります!
    このように記載していると、あれもこれもみな「まやかし」
    だらけで、腹が立って仕方がありません。
    野党議員の実のある追及を期待したい!
    文章について
    最初の項
    13行目
     政治の信頼回復
     →政治への信頼回復 (とすべきではないでしょうか)
     2月3日  妹尾 博史

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