派閥の裏金問題を受けて、自民党が政治資金規正法の改正案を単独で国会に提出したのに続いて、立憲民主党と国民民主党が共同の法案、さらに日本維新の会も独自の法案を提出し、各党の法案が出そろった。
これを受けて、衆議院の政治改革特別委員会は22日に各党提出の法案の趣旨説明を行って審議入りした後、23日から法案の質疑と与野党の協議が本格的に始まる。
長丁場の通常国会も会期末まで残り1か月となった。政治資金規正法の改正案は成立にこぎ着けることができるのか、それとも与野党協議が決裂して見送りになるのか、最終段階に入った与野党攻防のゆくえを探ってみたい。
自民は単独で法案提出、深まる孤立
終盤国会最大の焦点になっている政治資金規正法改正案は、政権与党の自民、公明両党が共同で「与党案」を提出するとみられていたが、土壇場で両党の調整が不調に終わり、自民党が17日に単独で法案を提出した。
連立政権を組む自民、公明両党が重要法案で意見が折り合わず、自民党が単独で法案を提出するのは極めて異例だ。この背景には、自民党の裏金問題に対する世論の逆風が収まらず、公明党が自民党と距離を置くねらいがあるものとみられる。
こうした結果、自民党は元々、大きな隔たりがある野党側だけでなく、連立を組む公明党からも距離を置かれて、孤立を深める立場に追い込まれている。
自民党は、参議院では単独で過半数を確保していないので、法案を成立させるためには、公明党か、野党の一部の協力が必要になる。
このため、自民党は自らの法案の修正に応じるなど一定の譲歩が必要で、会期末に向けた法案の扱いは、不透明で複雑の展開をたどる可能性が大きい。
野党攻勢も 実現へ共同歩調を保てるか
野党側の対応はどうだろうか。野党各党は、ここまで裏金問題を厳しく追及し、世論の自民批判の受け皿となることをねらってきた。これからの政治資金規正法改正をめぐる議論でも、自民党に対する攻勢を強める方針だ。
野党各党とも企業団体献金の禁止をはじめ、政治資金の透明化、政治資金パーテイー券の公開基準の引き下げなどの基本的な方向では一致するが、具体的な方法などになると、党によって考え方や重点の置き方に違いがあるのも事実だ。
例えば立憲民主党は、国民民主党との間で「共同案」をとりまとめたことをアピールするとともに、政治資金パーテイーを全面的に禁止するための法案を単独で提出することなどで独自性の発揮をねらっている。
日本維新の会は、今の「政策活動費」を見直し、党勢の拡大や政策立案などの支出に限定したうえで、10年後に使い途を公開する新たな制度を盛り込んだ法案を国会に提出した。また、旧文通費の見直しも強く求めていく方針だ。
これに対して、自民党は公明党との協力を取り戻すとともに、維新の協力も取りつけて野党の分断を計り、主導権を確保したい考えだ。
但し、協力を求められる維新の側も、自民党に対する世論の逆風が強いことから、自民との連携には慎重な姿勢をとっており、両党が協力までこぎ着けられるかどうか見通しがついているわけではない。
こうした状況から野党側は、今の国会で各党共通の目標を絞りこみ、最後まで共同歩調をとれるかどうかが試されることになる。
法改正 公開の徹底と実効性がカギ
次に法案の内容については、どこを注目してみていく必要があるか。先にみたように法改正では、企業団体献金の見直しなど多くの論点があるが、自民案の特徴は、今回の派閥による裏金問題の再発防止に重点を置いているのが特徴だ。
具体的には、政策集団に対する監査の強化や、政治資金パーテイー収入は現金ではなく、金融機関の口座を使うなど細かい改善点が多い。
また、パーテイー券の公開基準についても現行の「20万円を超える」から「10万円を超える」に引き下げているが、公明党の「5万円を超える」とも開きがある。自民案はパーテイー1回当たりの金額なので、開催回数を倍に増やせば、これまでと変わらず、相変わらず抜け道が多いとの指摘を聞く。
また、政党が幹部議員に年間10億円もの資金を渡す「政策活動費」についても、自民案では具体的にどのような支出に使われたのか明確になっていないほか、領収書の添付が義務づけられていないので、確認のしようがないといった批判が強い。
政治資金制度の基本は、資金の流れを公開し、国民の監視と批判の下に置くことにある。今の制度は兼ねてから「抜け穴」が数多く指摘されてきたので、「公開」を徹底することが必要だ。
また、今回の裏金事件のように、違法行為を行った議員に対する罰則の強化が必要だ。このため、各党とも「連座制」を導入することでは、基本的に一致している。しかし、具体的な方法となると自民案と野党案では違いがあり、どちらが効果があるのか「実効性」を判断基準に議論をさらに深める必要がある。
法案成立か見送りか 最終攻防へ
それでは、政治資金規正法の改正はどのような形で決着がつくのだろうか。自民党は、参議院で過半数を確保していないので、今の自民案がそのまま成立する可能性はほとんどない。与野党が歩み寄り、法案の修正の合意ができるかどうかがカギを握る。3つのパターンが想定される。
◆1つは、自民案をベースに公明党や、維新など野党の一部の意見を取り入れて修正案をまとめ、成立させるケース。
◆2つ目が、与野党が合意して修正案をまとめ、法案成立にこぎ着けるケース。この場合、今の国会で成立させる部分と、継続協議の部分との仕分けが問題になる。
◆3つ目が、与野党の協議が決裂し、法案の成立は見送りとなるケースが想定される。
こうした点に加えて、通常国会の会期末なので、◆野党側が内閣不信任決議案を提出することが予想される。その場合、与党が否決するケースが1つ。もう1つは、◆岸田首相が衆議院の解散・総選挙に踏み切る可能性もある。
国民の側もどのような展開が望ましいのか考えておく必要がある。個人的な考えを言わせてもらうと、裏金事件はこの半年間、日本の政治を大きく揺るがせ、国民の政治不信を増幅させてきた。
与野党の協議が決裂して何の結果も残さないよりも、これまでの議論を踏まえて、一定の対応策を法改正の形で示すことは必要で、与野党の責任ではないかと考える。
そのためには、政権を担当する岸田首相や自民党が、野党や国民の意見などを真正面から受け止め、法案の修正合意に大胆に応じることが必要ではないか。一方、野党側も自らの主張に固執するのではなく、大局的な判断を行うべきだと考える。
このほか、裏金事件の実態解明は全くと言っていいほど進んでいない。国民の政治不信を払拭するためにも、森元首相の参考人招致や、裏金の関係議員のほとんどが国会で弁明すら行っていないことについても、最低でも弁明書を出させるなどケジメをつける必要がある。
衆院解散・総選挙をいつ行うのが望ましいのか、世論調査でもかなり時期が分かれている。まずは、終盤国会で法案の成立や裏金事件のケジメをつけたうえで、判断すればいいのではないか。
裏金問題がどのような形で決着がつくのか。岸田政権の行方や、今後の政局の展開を大きく左右するのは間違いない。与野党の動きをしっかり注視していきたい。(了) ◆追記(22日21時):日本維新の会が22日、政治資金規正法の改正案を国会に提出した。これを受けて、各党の法案の提出状況の表現を一部、修正した。
政治資金規正法の改正案の各党の取り組み姿勢と、本改正案が
どのようにその決着がなされるのかの見通しについて、与野党
の各政党の取り組み姿勢を基軸にわかり易く論理が展開されて
おり、大変よく理解できました。
我々国民が一番恐れることは、与野党の意見がまとまらず、
改正案が今国会で成立できないことです。
といっても、問題を起こした自民党の「裏金つくり」事件
に対する経過の追及も反省も、二度と問題を起こさないと
言う姿勢も全くもって感じられないままの自民党案では
再発防止にはつながらないです。
要は岸田某の問題意識の欠如です。
それゆえに、国民が期待するような自民党総裁としての
「指導力」の発揮はあり得ないのです。
立憲民主党の前向きな取り組みにより、実効性のある改正案
の成立を期待したい。
文章について
「野党攻勢も 実現へ共同歩調を保てるか」の項
最後の文章
「こうした状況から野党側は、今の国会で各党共通で実現を迫る目標を実現を絞りこみ、最後まで共同歩調をとれるかどうかが試されることになる。」は少し意味不明となっています。
5月22日 妹尾 博史