自民党派閥の裏金事件を受けて、自民党が提出した政治資金規正法の改正案が6日、衆議院本会議で自民、公明、維新3党などの賛成多数で可決され、参議院へ送られた。これによって、この法案の今国会での成立が確実な情勢になった。
この法案の内容を見ると、政治資金の透明度や、抜け穴などと批判を浴びた現行制度がどこまで改善されるのか、はっきりしない。また、法案をめぐる自民党と岸田政権の対応には迷走が目立ち、政治改革をやり遂げる覚悟や意欲があるのか疑問に感じる場面も多かった。
今回の法案の衆議院通過という節目に、法案の中身の評価と、岸田政権それに与野党の対応や今後の注目点などを探ってみたい。
自民法案 透明性など低い改革度
さっそく、衆議院で可決された法案の内容からみていきたいが、その前にこの法案がどのような経緯を経て提出されたのか説明しておきたい。
この法案は自民党が単独で提出した法案について、公明党や日本維新の会との協議や党首会談を経て、法案の一部を修正し、3党の賛成で可決したものだ。
主な内容は◇議員の政治責任を強化する「連座制」導入のため、収支報告書の作成を議員に義務づけること。◇パーテイー券購入者を公開する基準について、現行の「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げること。◇党から支給される「政策活動費」については、項目ごとの使い途や支出した年月を開示し、10年後に領収書などを公開するなどとなっている。
国民にとって関心があるのは、こうした対策で、政治資金の透明性が徹底され、裏金や政治資金スキャンダルが止められるかどうかにある。結論から先に言えば、改善点は多少あるが、再発防止に実効性があるかどうかは不透明だ。
というのは、特別委員会の質疑でも指摘されたように「政策活動費」の領収書などの開示は10年後になる。その間、領収書の保存をどうするのか。政治とカネに関する法律の時効は5年で、10年後となれば罪に問えない公算が大きい。監視する第三者機関もいつ設置されるのか、これから検討するとしている。
自民党の修正案要綱には、具体的な改善内容が幾つも列挙されているが、いずれも「検討」項目だ。政治資金の基本である透明性が徹底されていない。
また、30年余り前のリクルート事件の時から宿題になっている企業・団体献金の扱いや、「政策活動費」の廃止といった点も取り上げられておらず、「改革の志向や度合いも低い」のが大きな問題点だ。
自民党が平成元年にとりまとめた「政治改革大綱」には「日本の政治は大きな岐路に立たされている。国民の政治に対する不信感は頂点に達し、深刻な事態を迎えている」「今こそ、自らの出血と犠牲を覚悟して、国民に政治家の良心と責任感を示すときである」と記されている。この指摘は今も通用する。
今回の法案審議でも提案者からは、こうした現状認識や改革の決意は全くと言っていいほど伝わって来なかった。国民の間では「期待外れ」「失望と落胆」などの受け止めが広がったのではないか。
政権迷走、場当たり対応が根本原因
次に、今回の法案作りと国会での各党の対応などについて、みていきたい。自民党は、当初から連立政権を組む公明党との間で「与党案」をまとめ、成立させることをめざしていた。
このため、大型連休明けの5月7日から両党の実務者レベルの協議を本格化させ、調整を進めたが、双方の溝は埋まらなかった。自民党は与党案を断念し、5月17日に単独で法案を提出した。連立政権を組む与党が、後半国会の最重要法案で合意できなかったのは極めて異例の事態だ。
その後、特別委員会の採決を控えた5月下旬になって、自民党は公明党の賛同を得るため、再び修正案を提示して関係修復を図った。公明党もこの修正案に賛成するものとみられていた。
ところが、公明支持者などの反発は強く、岸田首相は山口代表との党首会談に持ち込み、パーテイー券購入者の公開基準は「公明案を丸飲み」する形でようやく決着をつけた。
一方、日本維新の会と間では、岸田首相と馬場代表との党首会談で、政策活動費は「10年後に領収書などを公開する」との維新案を修正案に盛り込むことで合意した。
ところが、公開の内容をめぐって双方の食い違いが表面化し、与野党が決定していた特別委員会の審議と法案の採決日程が、土壇場で取り止めとなる前代未聞の事態が起きた。その後、自民党側が維新の要求を認め、再修正の合意にこぎ着けた。
このように自民党と岸田政権の対応は、当初から二転三転、法案修正の提示が3度も繰り返されるなどの迷走が続いた。こうした事態を起こす原因はどこにあったのだろうか。
自民党は、再発防止策の検討に当たっては、不記載の問題に絞り込んだため、口座を通じた資金管理や、議員の政治団体に対する監査の強化といった細々とした対策作りに重点が置かれた。
その結果、政治資金制度や政治改革全体に及ぶ党内議論は乏しく、党の幹部も「改革の熱が乏しい」と認めざるを得なかった。党の基本方針も示されなかった。
他の党は、いずれも1月から2月の段階で、政治改革方針をとりまとめ公表したが、自民党だけが大幅に出遅れた。報道各社の世論調査でも、岸田政権の取り組みを「評価しない」という声が多数を占めた。
さらに、自民党は独自案を示さず公明党との協議を続けたため、法案化や修正案づくりの面でも対応が後手に回った。
こうした結果、自民党は十分な準備が整わないまま、岸田首相が党首会談などでその都度、あわただしく方針を決める「場当たり対応」を重ねた。これが、一連の迷走が続いている根本的な原因だとみている。
岸田首相と自民 問われる統治能力
こうした岸田首相の迷走は、今回の政治資金規正法改正案の対応だけに止まらない。去年11月中旬に裏金事件が表面化して以降、年末の安倍派4閣僚の更迭をはじめ、年明けの派閥解散宣言、政倫審への自らの出席など“サプライズの対応”が続いている。
もちろん、岸田首相の対応に中には、動かぬ自民党を動かすにはトップリーダー自らが動かざるを得ない事情もあった。
一方で、党全体で議論して問題意識を共有し、そのうえで、政権が問題解決に向けた方針を打ち出し、様々な意見を取り入れながら、実行していく組織的な政権運営が必要だ。
ところが、岸田政権にはこうした組織的政権運営がほとんどみられず、首相が党の限られた政権幹部の協議を経て、大きな方針が突如と決まる事態が続いている。
今回もパーテイー購入者の公開基準の引き下げをめぐって、麻生副総裁と茂木幹事長は引き下げに反対、岸田首相が押し切ったとされる。党内は「パーテイー券購入者の公開基準は譲歩しすぎ」との不満が渦巻いているとされる。
岸田首相、自民党執行部ともに問われているのは、裏金事件を起こした当事者として、明確な方針を打ち出し、国民に説明を尽くす対応ができているか「統治能力」が問われているのだと思う。そして、世論の支持を得られているのかどうかが問題だ。
自民党は、衆院3補選で全敗したのをはじめ、静岡県知事選でも推薦候補が敗退、都内の区長選や議員補選でも負けが続いている。その要因としては、裏金問題の逆風が依然として大きく影響しており、岸田政権が有効に対応できていないことの証明でもある。
政治資金規正法の改正問題は、7日から参議院で審議が始まり、野党側は法案の再修正を求め、与野党の攻防が続く見通しだ。野党側は、維新が自民党の修正案賛成に回り、野党が分断される形になった。立民、維新どちらが野党内の主導権を確保し、党勢を増していくのかをみていく必要がある。
一方、岸田政権と自民党については、まずは、世論が自民党の修正案をどのように評価をするかが、大きなカギになる。仮にこれまでの自民単独案と同じように評価が低い場合は、次の段階として、自民党の統治能力や政権担当能力の評価にも影響を及ぼすことになりそうだ。
以上、みてきたように世論が今回の法改正をどのように評価するのか、極めて興味深い。9月末に自民党総裁としての任期満了を迎える岸田首相の進退問題や、次の衆院選挙のゆくえを占ううえでも、大きな判断材料として世論の動向を注目している。(了)